更新が止まっている間も感想が届いてとても励みになりました! これからもどうぞ、龍玉をよろしくです!
「お母さーん! お父さーん! 姉ちゃん帰ってきたー!」
オッス、俺カズマ! 突然だけど、親友をぶっ殺したくなる時ってあるよな!
例えば冷蔵庫にとっといたプリンを食われたり、実際に殺されかけたり、保身の為に売られたり、今みたいに幼女を目の前で懐柔されたりするとマジでどんな手を使ってでも殺してやろうかって思えっぞ!
一言でまとめるなら、羨ましいんだよこんちくしょう!
「ヒデオ。いい加減その子とちょむすけを離したらどうだ。嫌がってるだろう」
そうダクネスは言うが、いつものように頭の上を陣取っているちょむすけはともかく、こめっこはヒデオに抱えられながらヒデオの尻尾を楽しそうに触っている。とても嫌がっているようには見えず、むしろ楽しそうだ。
「黙ってろドM。さっきも言ったろ? ちょむすけとこめっこだけでいいって。お前らと居るとしんどい。たまには癒しをだな」
「くぅっ……!!」
ヒデオの言う事も一理ある。戦闘面はアイツ自身が望んだ事なので置いといて、問題児達の対応に限界が来ていたところにこめっこという癒しの存在が現れたことにより、なにかが吹っ切れてしまったのだろう。その気持ちは良くわかるし、俺だってこいつらの世話を放棄して子どもとか小動物に癒されたい。
だが、そうは問屋が卸さない。問屋が卸しても俺が許さん。
一人だけ楽な方に逃げさせるわけにはいかない。逝く時は一緒だ。
「こめっこ。そのお兄ちゃんは悪い人なんですよ? アクセルじゃここにいるカズマと同じように鬼畜として名を馳せているんですよ? 早く離れてください」
「おい、俺の評価まで落とすことは無いだろ。それはともかくとしてもヒデオ。いくら仲間の妹とはいえ他所様のお子さんに勝手な事をするのは失礼だと思うんだ」
仲良きことは美しきかな。とも言うが例外もある。この仲の良さはダメだ。犯罪的すぎる。
ヒデオの顔を見れば癒されてるのはわかるし、こめっこも嫌がってはいないんだけど、絵面的にマズイ。ムキムキのお兄さんが自慢の長いブツを幼女に弄ばれるとか通報案件でしかない。
それに、アイツだけずるくない?
あっち側は猫と幼女で癒し感満載なのに、こっちはどうだ? 見た目は良くても中身がアレな連中しかいない。
メンバー構成間違えてませんかね? 変えてくれません?
だが、そんな俺の悲痛な願いが届くはずもない。
「大丈夫だ。こめっこに許可は得た。な? こめっこ」
「うん! 姉ちゃん、尻尾の兄ちゃんはお肉くれたから良い人だよ!」
「そう言われましても……その男の普段を知っている私からすれば可愛い妹にあまり近寄って欲しくないというのが本音なんですが……」
こちらをチラ見しながらこめっこに注意するめぐみん。
なんで今俺の方見たんだこいつ。あれか。俺にも近寄って欲しくないってか。
よし、あとで泣かす。
「お前がなんの心配をしてるのか知らんが、カズマじゃあるまいしそれは無いぞ。感覚としてはちょむすけと戯れるのと同じだ」
「おい、俺だったらどうなるのか詳しく」
「……こめっこの前じゃ言えないな」
「いい加減人をロリマさんだとかロリニートだとか不名誉なあだ名で呼ぶのはやめて欲しい。俺が何したってんだ! そんなロリコンだのクズだのゲスだのカスだの呼ばれる事なんて何もやって……やって……」
………。
色々やってたわ。何をとは言わないが色々やりまくってたわ。そりゃクズだのカスだの呼ばれるわ。
「……って違う! 今はヒデオを糾弾する時だろ!」
「それも違うと思うんだが」
いつの間にか矛先が俺に向いていたので慌てて軌道修正。矛先が向いてるどころか突き刺さっている勢いで既に手遅れな気もするが、それはそれだ。このままやられっぱなしで居られるか。タダでは死なんぞ。
「……カズマ、そんな目で小さい子を睨むな。余計評判が悪くなるぞ」
「お前を殺す」
「何言ってんだお前」
必ず道連れにしてやる。そう心に誓って殺気を込めた視線でヒデオを睨んでいると、玄関の奥からスタスタと音を立てて誰かがやって来た。
「こめっこ、めぐみんが帰ってきたの? ……あら、本当ね。おかえりなさいめぐみん。そして、後ろの方々は冒険者仲間の方かしら」
中から出てきたのはどことなくめぐみんの面影があって、すこし目尻や口元に小皺はあるが、顔立ちの整った女性だった。
この人がかねてから名前は聞いていためぐみんの母のゆいゆいさんだろう。
ゆいゆいさんは末の娘が見ず知らずの怪しい男にくっついて謎の尻尾を触っているのを不審に思ったのか、じっと見ながらヒデオに尋ねた。
「そちらの、こめっこに尻尾? を触られている方は……」
「タナカヒデオです。めぐみんさんには日頃からお世話になっています」
「……あぁ、ヒデオさんですか。貴方のことは娘からの手紙に書かれていてよく存じておりますよ。なんでも娘に匹敵する実力者だとか」
「匹敵……まぁそうですね。匹敵してる所はあると思います」
それはどっちから見ての『匹敵』だろうか。お互いがお互いの実力を下に見ているというかなんというか。
ふと、ゆいゆいさんは視線をこちらに向けた。
「えーと……こちらの方がヒデオさんということは、そちらの手紙に書かれていた通り冴えない方がカズマさんでよろしいですか?」
何書いてんだこのガキ。
確かに冴えてるとは言い難いけどさぁ……。
思わぬ不意打ちを喰らい項垂れる俺だったが、ヒデオがそんな俺を庇うように一歩前に出た。
お、弁解してくれるのか?
「………やめとけやめとけ! こいつは評判が悪いんだ!
『サトウカズマ』17歳独身。日頃は腑抜けで目も当てられんが、やる時はやる男……。
なんか鬼畜だのカスだのクズだのと悪評が立っているため女にはモテないが案外男の冒険者とかとは仲が良かったりするんだぜ。
………悪いやつじゃあないんだが、これと言って特徴のない、影の薄い男さ」
「喧嘩売ってんのか」
はい、いつものパターンですね。こいつ悪ノリするとバニル並にタチ悪いんだけど。
まぁいい。ヒデオには後で仕返しするとして、今は挨拶をするんだ。
「こほん。えー……サトウカズマです。めぐみんさんには日頃から強力な魔法や優れた頭脳で度々助けられていて、とても感謝しています」
誤魔化すように咳払いをして、前もって用意していたセリフを紡ぐ。月並みな言葉だが、断じて嘘は言ってない。
本当に助けられてはいるし、感謝だってしている。ただちょっと不満があるだけだ。
「これはご丁寧に。……カズマさんのこともよく存じておりますよ。手紙にはあなたがた二人の話題ばかりですから」
俺達の話題ばかり、か。冴えない男とか書かれてたらしいし、どうせろくな事書いてないんだろうな。
「……なんですかそのどうせろくなこと書いてないんだろうな、とでも言いたそうな顔は。本当に碌でもないんだから仕方ないじゃないですか」
「よし、後でとは言わん。今泣かす」
親の前だから自重するとでも思ったか? 既にこのクソガキとクソサイヤ人に評価を最底辺まで突き落とされたんだ。もう失うものは無い。親が見ていようが知ったことか。
幸いゆいゆいさんはニコニコしながら見守っているだけなので、このままやらせてもらおう。
「その手の動き……またスティールですか。……いいでしょう!」
俺がしようとしていることを読んだのか、めぐみんは地面の砂利を手のひらいっぱいにかき集めた。なるほど、対策は知っているか。
「カズマの運と私の運、どっちが強いか勝負です! 負けた方は……まぁそれは後で決めましょう」
「……俺の幸運値を知らないわけじゃないだろう。その心意気だけは買ってやる」
「ふっふっふっ。余裕をぶっこいていられるのも今だけですよ! ……アクア、お願いします!」
「りょーかい! 『ブレッシング』!」
アクアがめぐみんに使ったのは確か幸運が一時的に上がる支援魔法だったか。『支援を受けてはダメ』なんてルールを作ったわけでもないし、俺がここで文句を言うのはお門違いだろう。
いつの間に打ち合わせしていたのかは知らないが、なかなかどうしていい手だと思う。
相手が俺じゃなければな。
「幸運を上げて大事なものを盗られにくくしたのか。確かに俺の幸運に対抗するにはそれしかないもんな。加えて手に持った大量の砂利。確率はグッと下がったってわけだ」
「フフン。引き下がるなら今のうちですよ?」
勝ち誇った顔でめぐみんはそう言ってきた。
無知なこのクソガキに対してせめてもの救い情けとして、最後通告をしてやる。
「お前こそいいのか? 今なら謝れば許してやるが」
「それはこっちのセリフです」
「そうか。……覚悟しろよ? 容赦しねぇからな」
余程自信があるのか、通告には聞く耳を持たなかっためぐみん。
もう逃げられはしない。ならば、これからすることを明かしても大丈夫だろう。
「……俺のスティールはもう『窃盗』を超えた……これは『強奪』だ。
これからは『
「急に何を言い出すかと思えば……。呼び方を変えた程度で私に勝てるとでも?」
「勝てるさ」
そう吐き捨て、気を解放する。
俺を中心に少しの衝撃波と空気が流れ、段々と身体から力が湧き上がってくる。今ならなんでも出来る。そんな気がしてくるほど自信と気に満ち溢れた。
いきなり気を解放した俺に、めぐみんは少しだけ戸惑い始めた。
「か、カズマ。急に気を解放してどうしたのですか。まさか直接攻撃なんて馬鹿な真似はしませんよね?」
「あぁ。お前がさっき言ったとおりスティールでの勝負だろ。ルールは守るさ」
「………ならばなぜ気を解放……いや、まさか……!!」
どうやらめぐみんはなにかに気付いたらしい。アクア以外は目の当たりにしたんだし、気付いてもおかしくないか。現にヒデオはニヤニヤしながら俺の勝利を今か今かと待ちわびている。腹立つ顔してんなこいつ。あとでしばこう。
「おっと、もう遅い。言ったろ? 容赦しねぇって」
「ちょっと待っ――」
「お前の大事な物を奪ってやる! そら、パンツよこせ! 『スナッチ』!!」
めぐみんがなにかを言い終える前に、スティールに気を練り込んで昇華させた俺の新技スナッチが炸裂した。
簡潔に言えば、双方の幸運度に関係なく確定で指定したものを奪えるスティールと言ったところか。なにそれこわい。
とまぁ、新技の総評はさておき、当然めぐみんのパンツは俺の手の中に。
半日以上履いていたからかほんのり温かく、若干蒸れていた。そっち系の人に売れば良い値段になりそうだ。
「黒か。案外大人っぽいの着けてるんだな」
「ぐっ……!!」
「さーて、負けた方はどうなるかまだ決めてなかったな。うーん、どうしようか……。すぐには決められないし、じっくり考えることにするか。ほれ、パンツ返すわ」
真っ赤な顔で涙目のめぐみんに、すっとパンツを差し出す。
「なっ……!!」
そんな俺を見て、めぐみんは羞恥や驚き、屈辱が入り混じったような声を出す。
無理もない。
あんだけ大口叩いておいて完封されるなんて誰だって恥ずかしい。
盗ったものを俺がすぐ返すだなんて思ってなかっただろう。
自分のパンツは俺にとって返すのに抵抗もない程度のものという事を暗に示されては悔しくもなるだろう。
俺はそんな可哀想なめぐみんを――――
「………フッ」
鼻で笑ってやった。
「ーーーーっ!!!」
声にもならない声で悔しがりながらダクネスとアクアの陰に隠れてコソコソとパンツを履き直すめぐみん。
また勝ってしまった。
「こめっこ、こっちに……」
ヒデオとゆいゆいさんがこめっこを俺から遠ざけているが、勝てたので良しとしよう。
評価なんてもうどうでもいい。
ヒデオが尻尾でこめっこの視界を阻んでいたお陰か、こめっこは特に俺に変な視線を向けてきてはいない。
そう、こめっこは。
声を出すのも憚られるのか、皆は無言で俺から一歩二歩と離れていき、遂には俺を見ようとはしなくなった。
勝ったのにこの仕打ち。
まったく、ツワモノはつらいぜ……。
………ぐすん。
△▼△▼△▼△▼△▼
ひとり彼方を向いて小刻みにプルプルしてあるカズマはそっとしておくことにし、再び雑談と洒落込んでいると、いつまで経っても尻尾を触り続けているこめっこを特に咎めない俺に、みかねたゆいゆいさんが尋ねてきた。
「……先程から気になっていたんですが、ヒデオさんは何故こめっこに尻尾を触られたままなんですか?」
「まぁ、特に嫌でも無いですからね。小さい子が興味を示してるものを奪いたくありませんし、飽きるまで待つつもりです」
「お母さん、尻尾の兄ちゃんはいい人だよ! お肉もらった!」
「あら、なんて大きなグリフォン………ヒデオさん、わざわざありがとうございます」
どうやら食料を渡すという作戦は正しかったようだ。
しかし、カズマ曰く常識を外れた大食漢の俺がいるこの場合、グリフォン一匹では心許ないだろう。長期の旅に出る時は大体は自分の飯は自分で狩ってるし、今回も例に漏れない。食料を買って来てもいいんだが、まぁ多いに越したことはない。
「ちょっと熊狩って来ます」
「え?」
食料調達してくる事の旨を伝え、その場から瞬間移動で消え去る。向かう先は紅魔の里から少し離れた所の野性味溢れる感じの気。他にもチラホラ感じるし、探せば熊くらいいるだろう。
一瞬でのどかな町並みから、癒されそうな静かな森林へと景色が変わる。
やはりというか、瞬間移動の調子は宜しくなかった。途中で振り落とされた感覚があるが、無事目的の気の近くには来れたみたいだ。他にも色々と居るみたいだし、食料調達には困らないかな。
さて、どいつから狩ろうか。
「尻尾の兄ちゃん、ここどこ?」
「ん? 里の近くの森じゃないか?」
「ふーん。なにしにきたの?」
「ちょっと食料を狩りに来た……ん? こめっこ?」
「なに?」
「なんでいんの?」
「尻尾の兄ちゃんの尻尾触ってたら急に景色が変わったの!」
なんと。こめっこを連れてきてしまったらしい。確かにずっと尻尾をいじってたもんな。
一緒に瞬間移動してしまっても仕方ないか。
「なるほど、俺のせいか。……どうする? 送り返してやろうか?」
「二度手間になるからいいよ! 尻尾の兄ちゃんって姉ちゃんくらい強いんでしょ? なら安心!」
「こめっこはやさしいなぁ。よし、一緒にご飯探すか!」
「うん!」
こめっこのやさしさと笑顔に癒されつつ談笑を交えて森の中を散策すること数分。
前方に獲物を発見した。
「あ、尻尾の兄ちゃん。熊が居るよ」
「熊だな。この辺の熊って言うと、一撃熊か?」
ある日、森の中を歩いていると、クマさんに出会った。
一撃熊はアクセル近辺にも出るらしいが、戦ったことはない。名前の通り一撃で敵を倒すらしいので、めぐみんが闘志を燃やしていた記憶がある。
そのクエストを受けることはなかったが。
「多分そうじゃないかな。アレをご飯にするの?」
「そうするか。量的には充分だしな」
「やったぁ!」
なにこの子すっげぇかわいい。持ち帰って愛でまくりたい。
こめっこの柔らかそうなほっぺをうりうりしたい衝動をなんとか抑えていると、こめっこがぐいぐいと尻尾を引っ張ってきた。かわいい。
「ねーねー尻尾の兄ちゃん、熊こっち来てるよ?」
見ると、一撃熊が俺とこめっこに向かって一直線にダッシュしてきた。
さすが上級冒険者向けの一撃熊。くっそ速い。
「ホントだ、来てるな」
「戦うの?」
「おう。危ないから絶対に俺の前には出るなよ?」
「わかった!」
こめっこを背後にかばって、一撃熊と相対す。
一撃熊と呼ばれているだけあってか、その筋骨は隆々にして、なんかもう……すごく、大きいです……みたいな感じだった。
単純な力比べなら負けるかもしれない。
「グルルル……」
「悪いけど、お前には今日の飯になってもらう」
ロリコンサイヤ人のヒデオが勝負を仕掛けてきた!
いちげきぐまはどうする?
きりさく◀
かみつく
なきごえ
とっしん
にげる
「グガァ!」
いちげきぐまは、なきごえ→とっしん→きりさく→かみつくのデスコンボをせんたくした!
「体重差を考慮した上でのタックルか……悪くない選択だ……が」
全身から右腕へ。右腕から手のひらへ。手のひらから指先へと、気を送り、溜めていく。
練り込む気の性質は貫通と魔属性。
細微な調整は必要ない。ただ早く、速く、疾く、指先から放出するのみ。
かつての強敵、地球に来たふたり目のサイヤ人ラディッツを、弟のカカロットもろとも屠ったこの技の名は――――
「魔貫光殺砲ァーーッ!!」
「グガッ!?」
指先から放たれた光は、
「ガ………」
血しぶき森の中、クマさんは死んでった。
「……悲しい唄だ」
「尻尾の兄ちゃん、なに言ってんの?」
「……なんでもない。さ、この熊の血抜きして持って帰るか!」
「うん! お肉、お肉!」
ウキウキはしゃぐこめっこを見守りながら、持ってきていたロープで一撃熊の四肢をしっかり縛る。
そして、こめっこが見ていないうちに頭を切り落として、脚側からロープをしっかりと持ち、こめっこを肩車して――――
「これが、サイヤ人式血抜きだぁーー!」
「あはははは! すごいすごい! ぐるぐるー!」
ロープをピンと張り、力の限りくまさんを振り回す。辺りの木々が薙ぎ倒され、血だらけになってゆく。
環境破壊? 生態破壊? 知ったことか。
そんなもの、こめっこが腹を空かせていることに比べれば些細な事だ。
そんな小さい事をグチグチ言う奴はオークのナワバリに全裸で簀巻きにして投げ落としてやる。
△▼△▼△▼△▼△▼
「じゃ、後は任せた。肉屋行ってくる」
こめっこを無事舞空術で連れ帰って来たヒデオは、グリフォンと一撃熊を持って肉屋に行くと言って彼方に消えてった。
そして、こめっこは――――
「お母さん、聞いて聞いて! 尻尾の兄ちゃん凄いんだよ! 手からビーム撃ったり、空飛んだり、熊をぐるぐる振り回したり出来るんだよ!」
なにやら興奮冷めやらぬと言った状態で、ふんすふんすと鼻を鳴らしながらいかにヒデオがかっこよくて紅魔族の琴線に触れまくったかを語っている。
まぁ、実際かっこいいもんな。手からビーム撃ったり空飛んだりしたら。
俺も出来るんだけどなー……。
「こめっこ、そこにいるカズマもヒデオみたいにビームを撃てるんですよ。まぁ、ヘナチョコもいいとこですが」
「そーなの? すごいね! ……けどヘナチョコかぁ」
「ぐっ………」
最早めぐみんの罵倒なんてなんのダメージもないが、こめっこは違う。ナチュラルに上げて下げられたし、無邪気さゆえに加減を知らない。ロリドSは業が深すぎる……。
「……ささ、皆さんどうぞ中へ。何も無いですが、ようこそいらっしゃいました」
自業自得とはいえ、ずっと仲間達から不憫な扱いを受けている俺を見かねてか、ゆいゆいさんは話の腰を折って家の中に入るように勧めてきてくれた。
あぁ、優しさが傷心に沁みる……。
一番最後に家に入ろうと、皆が家の中に入るのを眺めていると、同じようにしていたダクネスがこしょこしょと耳元で囁いてきた。
「……ところでカズマ。先程のスティールの強化版だが、あれは屋敷で私に使ったものと同じか? 違うのか? もし違うのなら、効果の程を確かめるために私に使ってくれても……」
「残念ながら効果は殆ど同じだよバカめ。ちなみにお前とは絶対に実験しねぇからな」
「そんな!」
△▼△▼△▼△▼△▼
「我が名はかるびん! 上級魔法を操るものにして、紅魔族随一の肉屋の店主!」
「これはご丁寧にどうも。……我が名はヒデオ! 戦闘民族サイヤ人の血を継ぐものにして、やがて魔王を屠る者!」
「おぉ! 外の人なのに微妙な顔一つしない上に紅魔族風の返しをしてくれるとは! こんなの初めてだよ!」
やはり紅魔の里においても紅魔族特有の名乗りは万人受けしないようだ。こういう返しは初めてだと言ってるし、本当に微妙な顔をされる事が多いんだろう。
俺は割と好きなんだがなぁ。まだるっこしくなくてわかりやすいし、印象も付きやすい。それに、割とカッコいい。
「喜んでくれて何より。……で、おっちゃん。グリフォンと一撃熊の精肉をお願いしたい」
「お安い御用さ! ただ、量が多いから……三時間くらいしたらまた来て! お代はその時貰うよ」
「三時間後ね。了解」
「じゃ、工房の方にいくからもし時間までに何か用があったらそっちに来てくれると助かる!」
名乗りを受けてテンションが上がったのかウキウキで奥へと消えていく店主を見送っていると、背後から強い気配を感じた。
「……っ!」
当たり前のことだが、俺も背後を取られるのは怖い。尻尾の弱点がある分、特に背後には敏感になってしまう。強い奴相手だとなおさらだ。
なのでついバッと振り返ってしまう。
「……急に振り返ってどうしたの? あら、見ない顔。外の人かしら」
振り返った先には、やたらに顔の整った紅魔族の女性が立っていた。
……めぐみんの家族といいゆんゆんといい、紅魔族は顔立ちが整っている人ばかりだが、この人は紅魔族の中でも頭一つ抜けているレベルの美女だ。
「……強い気配を感じてつい。お察しの通り、外から来た人です」
「……あなた、中々私達に近い感性を持っているようね。強い気配を感じただなんて……」
このお姉さん、まさか俺が紅魔族みたいに厨二病で、感じ取れもしない気配を感じ取れる体を装っている男に見えてるのか? なにそれすっごいショックなんだが。
「……一応言っときますけど、これは俺のスキルですから。ちゃんと感じ取れてますから」
「……あら、そうだったの? てっきり中々見どころのある外の人かと思ってたわ。……まぁそのスキルも中々琴線に触れてるからいいわ」
いったい何がいいと言うのか。紅魔族の前で迂闊な行動とかは厳禁だな……。
「あ、そうだ。このお店の店主さんは? 見当たらないんだけど、あなた知らない?」
「精肉頼んだので、工房の方に行きました。用があったら直接呼びに来いって言ってましたね」
「あぁ、なるほど。……うーん、作業してる所押し掛けるのも悪いし、今はやめとこうかな。そんなに急ぎの用でもないし」
「食用の肉を買いに来たんじゃないんですか?」
「いや、私が欲しかったのは一撃熊のキモなの」
一撃熊のキモ……。確か前にめぐみんが秘薬になるとかどうのこうの言ってたな。アレは紅魔族レシピだったのか。
それにしても一撃熊か。タイミングがいいと言うかなんというか。
「一撃熊だったら、今解体をお願いしてますよ。頼めばくれるんじゃないですか?」
「そうなの? じゃあやっぱり行こうかな。ありがとね! えーと……」
「ヒデオです。えー……我が名はヒデオ! サイヤの血を引く者にして、いずれ最強となる者!」
「おぉ! ノリいいねヒデオ君。 じゃ、私も……我が名はそけっと! 紅魔族随一の占い師にして、あらゆる未来を見通す者! ……じゃあね!」
バサッとマントを翻し、俺の急な名乗りにノリノリで返すと工房の方へと消えていったそけっとさん。
……やべぇ。紅魔族楽しい。みんなノリいいし強い。
肉屋を後にし、紅魔の里を少し観光しながらめぐみん宅へ戻っていると、ふと見知った気の動きを感じた。
「……ん? なんかゆんゆんの気が猛ダッシュで誰かを追いかけてるな。……行ってみよ」
引っ込み思案で優しくて友達の少ないゆんゆんが猛ダッシュで追いかける相手はどんな奴か。すごく気になる。
そーれ、瞬間移動!
「ゆんゆん、何故無言で追いかけてくるんだ!? 普段の優しい君はどこに……わぶっ」
「おっとっと、大丈夫か? 悪い、調整ミスったみたいだな。怪我はないか?」
「だ、大丈夫……」
ぶつかって尻餅をつきそうになった少女の手をなんとか掴み、ぐいっと引っ張って体勢を立て直す。
どうやら瞬間移動の加減を間違えて追いかけられている相手の直前に出てしまったみたいだ。
「……やっと止まった。覚悟はいい? あるえ」
「あ、忘れてた……! どなたか存じませんが助けてください!」
見ると、興奮して紅い瞳を輝かせているゆんゆんがゆらゆらとこっちにやって来ていた。そんなゆんゆんを見て、あるえは俺の後ろに隠れた。
優しすぎて若干引くレベルのゆんゆんを怒らせるなんて、何をやったんだこのあるえって子。というかおっぱいデケェなこの子。ゆんゆんもデカイが、それよりもデカイ。
……ん? なんかあるえって名前に聞き覚えがあるえ。
……俺はもうダメかもしれない。無意識に親父ギャグが出るなんて、死期が近いか?
「あるえ……その人に迷惑がかかるから大人しく……あれ、ヒデオさん?」
「気付いてなかったのか。どうしたんだ? お前がそんなに怒ってるのなんて初めて見たぞ」
「こ、これには深い事情が……」
もごもごと言いづらそうにしているゆんゆんの答えを待っていると、あるえと呼ばれた少女が俺の腰あたりからひょこっと顔を出して反論し始めた。
「君を小説のネタにするなんて学校時代何度もあったじゃないか! そりゃあ興が乗って色々と書いたのは認めるけど……。早とちりして勘違いした君にも非があるんじゃないか!?」
「ついに開き直った! アレのせいでわたしがどんなに恥ずかしい思いをしたか……!!」
あ、思い出した。二枚目の手紙に書いてたアレの作者だ。このあるえって子。
だからゆんゆんは涙目で顔が真っ赤になってるのか……。
「まぁ落ち着けってゆんゆん。人間誰しも黒歴史を抱えて生きるもんだ。それに、お前の黒歴史なんて可愛いもんだぞ?」
世の中には存在しないものの存在を信じ切ったり、自分には特別な力があると思い込んで変な行動を犯して挙句の果てに死にたくなる奴なんてごまんといる。ちょっとえっちぃ誤解をしたからなんだと言うのだ。
「うぐぐ……。なんだかヒデオさんの言葉にはものすごい説得力を感じます……!!」
「おいやめろ。その言葉は俺に効く」
少しでも思い出させるような言葉はNGです。
……まぁ俺は違うけど? 白い歴史しかないけど?
俺がゆんゆんを上手く足止めして一安心したのか、あるえはとんでもない爆弾を投げ込んできた。
「……ゆんゆん。さっき君は恥ずかしい思いをしたと言ったが、サボテンを友達と呼ぶ方がよっぽど恥ずかしいと思うよ」
「……ッ! ……ッ! ヒデオさん、離して! あるえころせない!」
「落ち着け、落ち着け! 数少ない友達を殺そうとするんじゃない! あるえも、刺激するようなことを言うな!」
その後、ライトオブセイバーを詠唱し始めたゆんゆんを力づくで抑え込んだが、それでも抵抗を続けたので首トンして事なきを得た。
つぎはもっとはやくあげます!