この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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長期休みじゃない方が執筆捗る不思議。


第四十七話

 

 ゆんゆんが気絶してしまったので、このまま放置していく訳にもいかない。

 かと言ってこのままゆんゆんの家に行ってしまってはよからぬ勘違いを生んでめんどくさいことになりそうなので、ゆんゆんが起きるまであるえと待つ事に。

 

 近くにベンチなどもなく、地面に寝かせる訳にも行かず、仕方なくゆんゆんを背負っている。本当に仕方なくだ。仕方ない。おっぱいが当たっていても仕方ない。

 

 

「危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。……こほん。我が名はあるえ! 紅魔族随一の発育にして、作家を志す者!」

 

 

 あるえはばさっとマントを翻し、紅魔の里に来て幾度と見てきた自己紹介を披露してきた。身体の動きから一フレームほど遅れて、あるえの胸部がゆれた。おっぱいぷるーんぷるん。

 

 なるほど。

 

 流石紅魔族随一と自称するだけはある。

 身長も高いし出るとこ出てるしでかなりエロボディだ。仮に初対面でなおかつ年下じゃなければセクハラしていた事だろう。

 これでめぐみんと同い年なのか……。なんか色々とアイツが可哀想になってきたんだが。

 

 さて、そんなことは置いといて。

 

 

「じゃあ俺も改めて。……我が名はヒデオ! ゆんゆんの友人にして、はじまりの街に住む者!」

 

「おぉ……! さっきの手際のいい手刀といい、急に現れた謎の移動術といい、ダイレクトに私達の琴線に触れてきますね。……他に出来る事はありますか? 是非とも執筆のヒントにしたいです!」

 

 

 俺の自己紹介を聞くや否や、どこから取り出したのかメモ帳とペンを持って詰め寄ってくるあるえ。近い近いいい匂い乳デカイ。

 文学少女あるえか。なんか響きがいいな響きが。

 

 さて、興味を持ってくれた可愛い女の子を無下にするわけにもいかない。自分に出来る事を出来る限り適当に伝えよう。

 

 

「何が出来るって……空飛んだり」

 

「空を! ……他は!?」

 

「街を壊滅できたり」

 

「街を! ……次は!?」

 

「手からビーム出たり」

 

「ビーム! ……他には? 禁じられし力とか、己を制御出来なくなる禁断の技とかは無いんですか?」

 

 

 すごいグイグイ来るなこの子。というかその二つ殆ど同じじゃないのか。

 禁じてる力、というより気を付けていることと、使うとアクアが怒る技とかはある。

 

 細かく説明するのもめんどくさいし、見せろとか言われると厄介なので、適当にはぐらかそう。

 

 

「うーん、後は使いすぎたら身体が壊れるドーピング技とか、満月を見たら野生が爆発するとか………あ、これはまだ出来ないけど、限界を超えた怒りによって凄まじい力を手に入れるついでに金髪になったり……」

 

「………羨ましすぎます。 諸刃の剣みたいな技を持ってるとか、条件付きで本能が爆発するだとか、怒りで覚醒する上にわかりやすく見た目も変わるとか! あぁ、今すぐにでも書きたい! あなたみたいな能力を持った主人公を全四十二巻に渡って書き綴りたい! 名前は……カカロ」

 

「っと! それ以上いけない」

 

 

 咄嗟にあるえのペンを持つ手を抑え、書くのを止める。

 危ない危ない。盗作はダメだよ盗作は

 あるえに対しては見た感じクールな印象を受けてたんだが、案外騒がしい。

 熱くなりやすいタイプなのかもしれない。

 

 そんなあるえはなぜ止められたのかが理解できないようで、頑なにペンを動かそうとしている。だが、所詮は女の子だ。俺の筋力にかなうはずもない。

 

 

「なぜ止めるんですか! 書かせて! 書かせて!」

 

「落ち着け落ち着け! それやっちゃうと色々とあれだから!」

 

「創作の自由を! 表現の自由を! こ、この! 手を離してください! 上級魔法喰らいたいんですか!?」

 

 

 メモを持っている方の手をフリーにし、上級魔法を使うぞと脅してくるあるえ。

 だが、その程度で怖気付くわけがない。

 

 

「紙一重で避けるから無駄だぞ」

 

「くっ……! 本当に話を聞く限りの人なら出来そう……」

 

 

 遠距離攻撃を当てたいなら予知持ち、もしくはブレッシングカズマか、かなりのスピードを出せる魔法が必要だ。

 

 

「まぁ落ち着けってあるえ。その作品は書かせないけど、技とかを登場人物のヒントにしたいってならいつでも協力してやるから」

 

「……いいんですか? グイグイ聞きますよ? 引かないでくださいね」

 

「その点は大丈夫だ。俺の周りには色々とドン引きさせてくれる奴らが沢山いるからな。それに、普段修行とクエストしかやることないから暇つぶしが欲しかったところだ。金はあるし家もあるし、そこらの冒険者と違って切羽詰まってないからな……」

 

 

 あるえに対し、いかに暇人であるかを伝える。

 すると、背中からモゾモゾと動く気配を感じた。

 

 ゆんゆんが今の騒ぎで目覚めたみたいだ。

 

 

「うぅ……ん。あったかい……」

 

「起きたかゆんゆん。おはよう」

 

「ヒデオさん……? おはようございます……確か、私はあるえを追いかけて……それで……あれ、なんで追いかけてたんだっけ」

 

「大した事じゃないから思い出さなくていいぞ」

 

 

 せっかく起きたのにまた暴れられて気絶させてしまうのはめんどくさい。ここは事実を隠蔽しておくのが吉だろう。

 あるえも俺の考えを察したのか、余計なことを言う素振りは見せていない。

 

 

「……ゆんゆん、ちゃんとアクセルにも友達が居たんだね。私、安心したよ」

 

「俺もめぐみん以外にも紅魔族の友達が居るって知れて良かった。友達は大切にしろよ?」

 

 

 言いながら俺はゆんゆんを背中から降ろす。おっぱいの感触が若干手放すには惜しいが、年下だし欲張らない。

 年下のおっぱいかお姉さんのおっぱいかと聞かれれば断然後者だ。地力が違う(意味不明)。

 ちなみに、あるえのおっぱいかゆんゆんのおっぱいかめぐみんのおっぱいかと聞かれれば、めぐみんの貧乳を嘲笑いつつあるえの胸をもう……なんか……色々やりたい。ゆんゆんも捨て難いな。おっぱいが二つ、いや四つか。ツインドライヴも真っ青を通り越して顔面トランザムしそうだ。意味わからん。

 

 

「あ、ありがとうございます……? なんか釈然としないような……」

 

「仕方ないよゆんゆん。世の中には往々にしてそんな事が沢山あるんだよ。……それにしても、ふにふらとどどんこが見せてきた手紙に書いていたことは本当だったんだね。尻尾が生えていて、筋肉質で紅魔族より強いかもしれない黒髪黒目の冒険者仲間のお兄さんなんているわけないって思ってたから」

 

「そ、そそ、そうよあるえ。わ、私がそ、そんなくだらない嘘をつくはずがないじゃない」

 

 

 手紙を出す相手が親以外にも居たんだなゆんゆん。ふにふらとどどんこね。覚えた。

 

 にしても、ゆんゆんは冒険者仲間……なのか? 確かに一緒にクエスト行ったりしてるし、冒険者の仲間といえば仲間か。だが、犬みたいに懐いてくる後輩感が否めない。犬耳が似合いそうだ。忠犬ゆんゆん。

 

 

「ゆんゆん、呂律も回ってないし汗が吹き出てるよ?」

 

「だ、だだだ大丈夫よあるえ。私は大丈夫……」

 

 

 ゆんゆんに目を向けるとあるえの言うとおりに汗が吹き出ているし、ぐるぐると目が回っていて焦点が定まっていない。

 そんな状態のゆんゆんに大丈夫と言われたあるえは、よりいっそうゆんゆんを怪しんだ。

 

 

「なんかすごく怪しい……。ゆんゆんのコミュ力じゃあ一緒に冒険してくれる人を捕まえられそうに無いと思うんだけど……」

 

「うっ……!」

 

 

 ひでえ言われようだなゆんゆん。というか否定しないのかよ。……思いあたるところはあり過ぎて困るんだが。

 喋ってみればいい子すぎてなんかこっちが申し訳なくなってくるくらいのいい子なんだけど、なんで友達出来ないんだろうな。

 もしかして、俺とかカズマ達が近くに居たりするから近付きにくいのか? ダストとも知り合いだしな。周りが引いていてもおかしくない。

 

 

「……ゆんゆんとはあまり関わらない方がいいのか?」

 

「!? ひ、ヒデオさん、私なにか気に触ることしましたか!? あ、謝るし何でもするので友達やめるとか言わないでください!」

 

 

 ボソリと呟いたのが聞こえていたのか、半泣きになりながらどこぞの駄女神みたいにすがり付いてくるゆんゆん。

 しまった。ゆんゆんにこういうのは大ダメージなんだった。迂闊迂闊。

 いくら友達が数える程しか居ない上にその友達に絶交するとか言われたとしても、女の子が何でもするとか言っちゃダメだろ。

 

 

「落ち着け落ち着け。誰もそんな事言ってない。お前は何も悪くない。ただ、俺とかカズマみたいな碌でもない連中とばっかつるんでたらまともな奴が寄ってこなくなるんじゃないかと思ってな」

 

「な、なるほど……よかったぁ……」

 

 

 涙目ですがり付いているゆんゆんをそんな言い訳で宥める。アクアを泣かすのは最早何とも思わないが、めぐみんとかゆんゆんといった年下を泣かすのはなんか嫌だ。向こうが悪くても結局謝る結果になるし、誰も得しない。ちなみにダクネスを泣かせようとすると逆に悦ぶので絶対やらない。

 そんな感じでゆんゆんを宥めていると、あるえがとんでもない事を言い放った。

 

 

「……急にヒデオさんのサドが覚醒してゆんゆんを虐め始めたのかと思いましたよ」

 

「なんてことを言うんだ。俺は戦うのは好きだがいたぶる趣味はねぇ。それに、そんな片鱗を少しでも見せるとうちのクルセイダーが黙ってねぇからな」

 

「……なるほど。そのクルセイダーさんって正義感に溢れてるんですね」

 

「まぁそうだな」

 

 

 黙ってない理由としては正しくないが、正義感には満ち溢れてるよなダクネスは。あと身体もムチムチで満ち溢れてるよな。だが決してデブではない。むしろ程よく筋肉が付いていて引き締まっている。

 あるえやゆんゆんは押すと折れそうなくらい頼りない感じのウエストだが、ダクネスは本気で蹴ってもビクともしないくらいの大木だ。密度が違う。

 まぁどっちが好きかって言われると……。

 

 

 

 おっぱいだよな(乳房)。

 

 

「………ヒデオさんのえっち」

 

「おいその仕草とセリフはいったいどういう事だ詳しく説明してもらおうかそれと今のセリフを耳元でもう一回」

 

「うわあ……」

 

「おいこらゆんゆん。そこそこ長い付き合いで俺が今のセリフに反応するのはわかってただろ。だからそんなゲスマを見る時の顔であるえの後ろに隠れるな。かなり傷付く」

 

 

 

 基本的には年下にはセクハラしない主義だが、ゆんゆんやあるえレベルのボディなら致し方ない。エロいほうが悪い。

 これでもなるべく我慢はしている方なんだが。

 釈然としないので腹いせとばかりに無駄にエロいゆんゆんの胸元を凝視していると、あるえが不敵な笑みを浮かべながら。

 

 

「ところでヒデオさん。さっきの話、覚えてますよね?」

 

「あぁ。暇な時はお前の執筆に協力するってやつだろ。覚えてるぞ」

 

「それは良かったです。……ただで協力してもらうのも悪いと思いまして……。何か私にして欲しいこと、出来ることはありませんか?」

 

「そりゃあもちろん――」

 

 

 おっぱい。と言いそうになるが、一瞬止まる。

 待て、待つんだ俺。このままあるえの言葉を鵜呑みにしていいのか? これは罠だ。あるえは単にお礼をしたいから言っただけに過ぎない。深読みは死を呼ぶ。

 それに、あるえはゆんゆんのように『なんでもする』とは言っていない。試しているんじゃあないのか?

 紅魔族は知能が高い上に無駄にカッコつけたがる。これもそれの一貫としても充分ありえる。よくぞ試練を乗り越えた! 的な。

 あと、単にゆんゆんと仲良さそうに見えた俺をからかっているのかも知れない。

 

 ならば。ここで出来ることはなにか。

 

 

 一、泣かす。

 

 二、逃げる。

 

 三、揉む。

 

 

 この中だと、三か? いや、普通にセクハラ。揉んでみたいが、多分後で死にたくなる。

 

 どうしたものか。

 

 

 やがて、俺の苦悩を察したらしいあるえが、何故かにんまりと口角を上げながら問いかけてきた。

 

 

「……急に黙りこくるなんて、変ですね。……あ、そうだ。一つ言い忘れてました。私に出来ることならなんでもしてあげます。なんでもです」

 

 

 なん……だと!? この乳、なんてことを言いやがるんだ! 余計めんどくさくなったじゃないか! 一体何が目的なんだ! 悪ノリも大概にしろ!

 襲われてーのかこのむっちりは!

 

 

 ……と、理性ではなんとか抵抗しているが、視線があるえの身体から離せないのも事実だ。

 割とタイトめな服を着ている上に、ベースの色が黒で引き締まっている。

 出るとこ出てエロくて顔も良くてもうなんだこれ状態だ。鎧を着ていない時のダクネスレベルにエロい。

 ダクネスは性癖がアレだから見るだけでなんとか済むが、あるえは発言がちょっと残念なだけで他はノーマルっぽい。という事は。

 

 

 正直、たまりません。

 

 

 くそう、なんでめぐみんと同い年なのにこうも違うんだ……!! ええい、いっそ手を出してしまおうか!?

 

 落ち着け、落ち着くんだヒデオ。まずは落ち着いて素数を数えるんだ。

 1、2……あれ、2って素数だっけ? そもそも1が素数すらも怪しい。

 

 素数ってなんだっけ(数学)。

 

 

「あ、あるえ? 女の子が軽々しくそんなこと言わない方が……」

 

「ゆんゆんにだけは言われたくないよ。さっきの自分がやらかしかけたことを忘れたの?」

 

「あっ……! あ、あれはその……言葉の綾と言うか……! け、けどあるえが私の真似をする理由にはなってないでしょ!」

 

「真似をしちゃいけない理由にもなってないよね? ね? ヒデオさん」

 

 

 物凄く困っている俺に対し、あるえはとても楽しそうだ。

 

 ……このガキ。

 

 

「どうしたんですか? そんなに深刻な顔をして。悩むことなんてあります?」

 

 

 ニヤニヤしながらあるえは煽ってくる。その顔はとても整っていて、ムカつく顔をしていてもかなりの美少女だ。ムカつくけど。

 これで顔が整ってなければ困ることも無い。ただぶちのめすだけだからよォー!

 

 

「さぁ! どうぞ! 欲の赴くままに!」

 

 

 両手をばっと広げて胸を張ってバッチコイと言わんばかりのあるえ。ダクネスかこいつは。

 その表情はめちゃくちゃムカつくけど、顔は可愛い。

 

 

 ……よし。

 

 年頃の男子をからかうとどうなるか、この巨乳に教えてやる。

 

 

「……よし、決めたぞあるえ。先に言っておく。俺は今からお前に泣くほど恐ろしい事をするが、お前がどうなろうと俺が満足するまで絶対にやめない。なんでもするって言ったよな? 覚悟しろよ」

 

 

 そう言い放ち、一歩、また一歩と両腕を広げたままのあるえに近付いていく。

 全く怖気付く気配のない俺に、あるえの表情は段々険しいものになっていき、次第に手も下がっていった。

 そんなあるえを心配したのか、先程までからかわれていたにも関わらず、ゆんゆんはあるえにやさしく声をかけた。

 この子実はおっぱいとやさしさで出来てるんじゃないだろうか。いや、おっぱい=やさしさともとれる。つまりゆんゆんはやさしさそのものでありおっぱいである。

 

 おっぱい=母性。母性=母親。母親=ママ

 ゆんゆんはママだった……?

 

 

「……あるえ? 今なら謝れば許してもらえるかも……。ヒデオさん根は優しいし……」

 

「……だ、大丈夫。紅魔のアークウィザードともあろう者が、こんなことで怖気付く訳にはいかないし、私がからかったのが悪いんだ。身に染みたよ。……それと、ごめんねゆんゆん」

 

 

 ゆんゆんに謝罪するあるえの表情は先程のようににやけるでもなく、怯えるでもない。ただ、覚悟を決めたような顔で――。

 

 

「我が名はあるえ! 紅魔族随一の発育にして、今から獣欲に晒されるであろう者! は、初めてなので優しくお願いします!」

 

 

 ノリと勢いが強いすぎてもう後に引けなくなったあるえは自己紹介を決めてとんでもないことを口走る。間違いなく通報案件だ。

 

 

「あるえ!? ダメダメダメダメ! 落ち着いて! ヒデオさんも、じりじり近付いてこないで何か言ってあげてください! あるえがただからかってただけなのはわかってますよね!?」

 

「うん。だがおっぱいだ」

 

「ダメだこの人! 胸しか見てない!」

 

 

 失礼な。ちゃんと顔を見てから腰とか脇とかお尻とか脚とか見てるよ。断じておっぱい。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「……なんだこれ」

 

「ゆんゆんからの手紙に書いていたヒデオさんを限りなく再現して作った、『紅魔族英雄伝 外伝』です。送ったのと同じくらい傑作だと思うんですが、どうでしょう」

 

「ちょっと意味がわからないです」

 

 

 わからないと言うよりわかりたくない。なに? もしかしてゆんゆんって俺のことこんな風に思ってんの? 割とショックなんだけど。

 

 

「俺はこんなにおっぱいおっぱい言わねえよ。赤ん坊じゃあるまいし」

 

「けど、さっきからゆんゆんの体勢を直すふりして感触確かめてるのがわかりますし、私の胸をチラチラ見てるの知ってますよ?」

 

「べ、べべべ別に確かめてないし見てないし? 自意識過剰も大概にしろよ。いくらお前のおっぱいがでかいからと言ってそんな何回もチラチラ見るわけねーだろ。ほら、さっきから視点を動かしてないのがその証拠だ」

 

「チラチラ見るのをやめてガン見を正当化させようとしてくるとは……やりますね。で、評価の程は?」

 

 

 と、自信満々に尋ねてくるあるえ。

 

 ふむ。

 俺があるえに襲いかかるまでの展開に無理があるし、話が進むのが早すぎる。それと、割と俺の思考を再現できてるのが腹立つ。

 

 

「途中までしか読んでないが、二度と読みたくない。それに英雄伝とか言ってるけど殆ど英雄要素ないんだけど」

 

 

 こんな内容じゃなくても、自分が主人公の作品なんて小っ恥ずかしくて読んでられるか。

 

 

「そんな! 私に襲いかかろうとしたヒデオさんが突如背後に現れた魔王軍に不意打ちを食らうも私たちふたりを守るために復活して覚醒するのが目玉なのに!」

 

「残念だったなあるえ。俺に不意打ちはほぼ無意味だ。それにカズマじゃあるまいし、初対面の女の子にセクハラなんてしねぇよ。ましてや年下だ。余計ありえん」

 

 

 敵が近付いて来れば気の感知でわかる。

 そもそも年下の女の子を無理矢理襲うなんて絶対にしたくない。いくらおっぱいがでかくても、年下はなんか申し訳なくなる。年上もなんか怒られそうなので仲良くなるまでは出来るだけ控えるが、エリス様は別だ。

 実家のような安心感があるし、セクハラをしてしまうのは多少は仕方が無い。それこそ女神の慈悲で許して欲しい。それに、セクハラなんて聞こえは悪いが実際はペットと戯れるようなものだ。

 ということは、エリス様はペットだった……?

 

 このエリス様ペット論をどうやって世界に知らしめようか。アクシズ教徒なら手伝ってくれるかも。そう考えていると、あるえが何故かがっかりした顔でボヤき始めた。

 

 

「そうだったんですか……てっきり可愛い女の子ならとりあえず唾をつけようとする猿みたいな人かと思ってました」

 

「おらぁ!」

 

「あぁ! なにするんですか! 私の傑作がビームで消し炭に!」

 

 

 人を性欲の権化みたいに言いやがって。そんなのはうちのダクネスだけで充分なんだよ。

 とりあえずムカついたのであるえの傑作とやらを消し飛ばしたが、後でゆんゆんにも話を聞く必要がありそうだ。

 

 

「あ、あぁ……一週間徹夜の結晶が……あ、でも今のビームかっこいい……」

 

「そんな若いうちから夜更しはあんまり宜しくないぞ。うちのめぐみんでさえ日をまたぐ前に寝させてるのに」

 

 

 初めは子供扱いしないでほしいと憤慨されたものだが、成長ホルモン云々で胸と身長が大きくならないぞと脅したら素直に従った。

 ちょれぇ。

 

 

「なんかめぐみんのお兄ちゃんみたいですね」

 

「まぁ、手のかかるところとワガママばっかり言うところとかは妹感あるな。色々と心配になるところではゆんゆんも妹感あるなぁ。あるえも俺のこと遠慮なくお兄ちゃんって呼んでくれていいぞ」

 

「遠慮しときます。呼んでもせいぜいがお兄さん呼びですね。血の繋がってない他人に兄と呼ばせるなんて、業が深すぎません?」

 

「だよなぁ。知り合いに見られたら変な目で見られそうだ」

 

 

 そうは言うが、妹が欲しい欲求は確かにある。こう、お兄ちゃん! て呼ばれたい。

 こめっこに呼んでもらいたいなぁ。

 

 ……よし。

 

 

「よし、そうと決まれば早速行動だ。おいゆんゆん、起きろ! 朝だぞ!」

 

「ふえっ!? え、なに、なんですか!?」

 

「よし、起きたな。早速降りてくれ。俺は今からやることが出来た」

 

 

 なにやら状況がよく分かっていないゆんゆんは頭に疑問符を浮かべながら素直に俺の指示に従って地面に降り立った。

 そんな俺達を見て、あるえが。

 

 

「このまま私の所にゆんゆんを置いて行かれたらさっきの二の舞になるんですが」

 

「まぁそれも人生だ。あばよ二人共! 仲良くやれよ!」

 

「ちょ、待って! 待って! あぁっ!」

 

「捕まえたわよあるえ……!」

 

「ゆんゆん、許して……ぁぁぁー!!」

 

 

 あるえの絶叫を背に、俺は空へと飛び立った。少々あるえが可哀想だが、そんなことは最早どうでもいい。

 早くこめっこの元に向かわなくては!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 こめっこにお兄ちゃんと呼ばれるべく、舞空術をかっ飛ばしてめぐみんの家に辿り着く。

 遠慮なしにお邪魔しますと玄関を踏み越え、皆の気がある所に向かう。

 

 

「お邪魔します!」

 

「お、来たかロリオ。遅かったじゃないか」

 

 

 襖をサッと開けると、カズマが開口一番喧嘩を売ってきた。とりあえずカズマに殺気を送って部屋の中を確認すると、見覚えのない中年男性が居た。多分この人がひょいざぶろーさんだろう。

 

 

「殺すぞ。ちょっとあるえって子と話しててな」

 

「あるえ………あの忌々しい小説書いた奴だっけか。思い出したら腹立ってきた。おいヒデオ。今からそいつの所に送ってくれ」

 

「やだよめんどくさい。それに今あるえはゆんゆんとくんずほぐれつしてるから……。ちなみにあるえはかなり巨乳だった」

 

「その話、後で詳しく」

 

「はいはい」

 

 カズマは適当にあしらい、いつまでも挨拶しないのは失礼なのでめぐみんの親父さんのひょいざぶろーさんに向き直る。

 

 

「……ご挨拶が遅れました。我が名はタナカヒデオと申します。めぐみんさんには日頃お世話になってます」

 

「いえいえ。これはご丁寧に……。我が名はひょいざぶろー! 紅魔族随一の魔道具職人にして、上級魔法を操る者……! ささ、粗茶ですが。この度はわざわざ食料調達に赴いて頂き、ありがとうございました。めぐみんとカズマさんからお話は聞いてますが、あなたの冒険の武勇伝を是非!」

 

 

 おお、なんだ。見た感じ頑固親父って印象だったんだが、案外フランクに接してくるじゃあないか。

 ここは一つ、俺がこの世界に来てからの冒険譚を誇張を交えて話そうじゃないか。

 

 

「じゃあ、俺が初めて魔王軍幹部と戦った所から――――」

 

 

 

 

 暫くあと。

 

 

「――――そこで俺がめぐみんにありったけの気を渡し、見事爆裂魔法を超えた爆裂魔法を完成させる事が出来たんです。その後の展開はもう分かりますよね。一撃ですよ一撃。一撃で魔王軍幹部のハンスを文字通り跡形もなく消し飛ばしたんです。……で、これがつい一週間前の話ですね」

 

「すごいね、すごいね! 姉ちゃんも尻尾の兄ちゃんもすごいねっ!」

 

「キというものがいまいち分からないが、魔法を昇華させることの出来る魔力とは違うエネルギーか……。興味深い。それはそうとヒデオさん。さっきから気になっていたんだが、その両腕のリストバンドは……?」

 

 

 ひょいざぶろーが俺のリストバンドを指差し、話題を切り替えるように尋ねてきた。

 このリストバンドとの付き合いも長い。確かあれは霜降り赤ガニを食った日だったか……。

 あの時はフルセット着るとまともに戦えなかったが、今はもう何ともない。

 

 

「これは知り合いの魔道具店で買ったもので、こんな見た目してますがかなり重いんですよ。俺としてはもっと重くしたいんですけどね」

 

「重く!? それ、片方だけでも結構重いはずなんだが……」

 

「……? なんか知ったような口ぶりですね。同じもの持ってるんですか?」

 

「持ってるも何も、その無駄に重い服セットを作ったのはワシだ。買ってくれてありがとう」

 

 

 なんと。この無駄に重いだけで俺以外には売れないとウィズが嘆いていた服の製作者は意外も意外、仲間の父親だった。

 

 

「いえいえ。俺としてもこれ着て運動するだけでかなりの修行になるので助かってます」

 

「それをそんな使い方する人が居るとは思いもしなかったよ。背後から他人に着せて重さで驚かせ、さらに脱ごうとしても着せた本人が脱がさないと絶対に脱げないというジョークグッズだったんだが、その重さを頭上まで持ち上げられる人なんて殆どいないという欠点があってね。まさか修行用の重りとして使うとは……」

 

 

 ジョークグッズだったのかこれ。

 確かに洗濯する時めぐみんや支援無しカズマじゃ持ち上げられないくらい重いし、売れないのも無理もない。

 

 

「しかし、もっと重くか……。それ以上重くとなると、どうしても服の形に留められなくてな」

 

 

 そうなのか。残念だ。

 では今後の修行はどうしようか。そう考えていると、ひょいざぶろーが何かを思いついたようにぽん、と手を叩いた。

 

 

「あぁ、そうだ。服は重く出来ないが、重力を数十倍から数百倍にする魔道具はある」

 

「買います。幾らですか?」

 

「即答!? いや、買ってくれるのは嬉しいがヒデオさん。これには欠点があって、使用者の魔力を吸い取って使うんだが、重力の効果範囲と吸収範囲が同じというのがあってだな。……値段は五百万エリスほどするんだがそれでも」

 

「買います」

 

 

 有無を言わさず即買い。

 確かウィズの店に似たような効果の魔道具が置いていたような。あの時は金が無くて手が出せなかったが、今は割と金持ちだ。カズマの三億だってある。

 

 即断即決に戸惑うひょいざぶろーを見守っていたが、見かねたカズマが割って入ってきた。

 

 

「まぁ待てヒデオ。どうせ今はそんなに金持ってないんだし、屋敷に戻ってから送ってもらえばいいだろ」

 

「それもそうか。お騒がせしてすみません」

 

 

 重力発生装置を手に入れた。これで益々授業が捗る。

 精神と時の部屋的なトンデモ空間も欲しかったが、これでも充分過ぎるほど修行に使える。魔力を使うらしいので多用できそうにないところがネックだが、やり過ぎも体に毒だし丁度いいかもしれない。

 

 まだ見ぬ、いやまだ感じぬ超重力にワクワクしていると、ひょいざぶろーがなにやら申し訳そうな顔で。

 

 

「……ところでヒデオさん。さっき五百万エリスでもあなたは即決した。カズマさんがお金持ちなのはさっき聞いたが……その……なんだ。不躾なことを聞くようだが、ヒデオさんの個人的な資産はお幾らなんだ?」

 

 

 言っちゃあなんだが本当に不躾な質問だな。まぁ色々と気になるのはわかるが。

 

 

「うーん、ぶっちゃけて言うと……一億いくかいかないかくらいですね」

 

「「「一億!?」」」

 

 

 そう驚いたのはひょいざぶろーと奥さんと何故かアクア。

 

 

 修行を兼ねてゆんゆんと一緒にクエスト行ったりソロで高難易度のクエストを受けまくったり賞金首を倒したりしていたらいつの間にかそれ位貯まっていた。

 カズマ名義だけど持ち家もあるし、職業柄装備品とかも特に必要ないので手元に結構残る。食費はみんなより多めに出してるが、所詮食費だ。一か月の収入に比べれば微々たるものだ。

 

 

「お前貯め込んでると思ってたらそんなに持ってたのか」

 

「おう。なんかいつの間にか貯まってた。アクアみたいバカバカ高級酒飲んだりしねーし、ダクネスみたいに硬くて高い鎧も要らねーし、めぐみんみたいに継戦能力皆無でもないからな」

 

 

 浪費は少ない、経費もかからない、その上働き者と来たもんだ。

 あれ、これって殆ど社畜じゃない? 労働に歓びを覚えちゃったりするんじゃないか?

 やだなぁ。

 

 

「……ヒデオ? アクシズ教に入信する気は」

 

「ない」

 

「なんでよー!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 時刻も夕食時になったので、精肉を終えた肉達を引き取りに行き、ついでにほかの食料も色々と買って帰った。

 

 今日の献立はバーベキューだ。

 肉も人も多いので丁度いいと思うし、油汚れとかはアクアに任せればスグに終わるので案外後片付けも楽だったりする。

 

 

「お肉、お肉!」

 

「ほらこめっこ、焼けたぞー」

 

「わーい! ありがとうヒデオ兄ちゃん!」

 

 

 ヒデオはつい先程から尻尾の兄ちゃんではなく、ヒデオ兄ちゃんとこめっこに呼ばれるようになった。コソコソ話してると思ったらこれだったのか。

 こめっこにありがとうと言われた後、小声でヒデオが「クッソ可愛い」とか言ったのを俺は聞き逃さなかった。

 こいつ追い込まれてんなー。

 

 

「あらあなた。最近お腹がたるんできたとか言ってませんでしたっけ? ダイエットなさるなら野菜をどうぞ!」

 

「母さんこそ最近小じわが増えてきたんじゃないか? ほら、野菜を食っていつまでも若くいてくれ!」

 

 

 末の娘がロリコンに誑かされて、いや、ロリコンを誑かしている事など眼中にないのか、大人達は醜く争っていた。

 

 

 そんなに争わなくても肉なら大量に――

 

 

 ない。

 

 いや、まだ焼いていないのが家の冷蔵庫に沢山あるのだが、ついさっきまで焼いていたはずの肉に野菜、後で食べようと焼きおにぎりにしていたご飯までもが綺麗さっぱり消えていた。

 この一瞬でこんな馬鹿げた芸当が出来るのはパーティーには一人しかいない。

 

 鍋奉行ならぬ焼肉奉行……否。これはもはや独裁の域だ。

 絶対王政にして食欲旺盛。まさにヤキニクロード(Lord BBQ)

 

 

「どうしたカズマ。まるで、丹精込めて育てた肉が何者かにを盗られたみたいな顔をして」

 

 

 ヒデオが左手で支える皿には、綺麗につまれ山となった肉と野菜が。そして、そのてっぺんにはまるで頂点は自分のものだと主張するように、焼きおにぎりが陣取っていた。

 

 

「確信犯じゃねーか!」

 

 

 ヒデオめ、こめっこに与えつつちゃっかり自分もバカ食いしやがって!

 あいつがそうするなら、俺にだって考えがあるぞ!

 

 

「『スティール』」

 

 

 箸から箸へ。

 ヒデオの口に入る寸前だった肉を全て奪う。すると、予想外の重さが右手で構えた箸にのしかかる。

 まさかこの量を一口で食らうつもりだったのかと、軽く戦慄を覚えた。

 だが、皿から箸。箸から口のリレーを、肉という名のバトンを途切らせることなく、着実に繋いでいく。

 

 当然咀嚼中はスティールを使うことが出来ないので、その間にも奴は肉を食らう。

 

 

 もぐもぐもぐもぐ。

 

 ごくん。

 

 

「「……」」

 

 

 

 ヒデオはこめっこ、俺はダクネスに財産()を渡し、しばしの沈黙。

 

 

 そして。

 

 

「『クリエイト・アース』&『ウインドブレス』!」

 

「一点集中太陽拳!」

 

 

 ほぼ同時に互いの視界を潰しにかかる。

 不可避の速攻。

 

 

 科学(物理)魔術(スキル)が交錯する時。

 

 

「「目がぁ! 目がぁぁぁぁ!」」

 

 

 当然こうなる。

 

 

「このバカ二人はほっといて食べましょ」

 

「そうだな。めぐみん、そこのコップとってくれ」

 

「はい。あ、こめっこ。そのお肉ください」

 

「うん!」

 

 

 紅魔の人達は普通の人達から見ると頭がおかしい。普通の人達は紅魔の人達から見ると頭がおかしい。つまり、普通の人のおかしな行動は紅魔族にとっては取るに足らない日常なのではないかと、そう思いました。

 

 




アニメが面白すぎて……

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