……あっ…(察し)
ヒデオ達に先んじて紅魔の里観光をしていたカズマ、アクア、めぐみん。
三人が昼食を終え、次はどこに行こうかと相談しあいながらぶらりと歩く。
しばらく歩いていると、彼方から爆発音と、ざわ……ざわ……と騒ぐ声が聞こえてきた。
「……なんか向こうの方が騒がしいな」
音のする方を睨みながら、カズマは訝しげな顔で呟く。その心中は穏やかではなく、もしや、アイツらが何かやらかしたのでは。という考えが渦巻いていた。
そんなカズマの様子を見てめぐみんも同じ方向を見る。ふむ、と指を顎に当て考える仕草をし、やがて口を開いた。
「……向こうはたしかねりまきの実家の居酒屋があったはずです。酔っ払いが暴れてるか、魔法で実験でもしてるんじゃないですか?」
そう推理しためぐみんだが、惜しいことに半分間違いで正解だ。
事件が起きているのはねりまきの実家近くだが、暴れているのは酔っ払いでなく、カズマの懸念通りの人物だ。
「そうだといいんだけどな。口に出したくもないけど、もしやヒデオが暴れてるんじゃないだろうな」
騒動の中心が自分の友人ではないかと真っ先に疑う。友情と信用と信頼がまったく関係ないのが見て、聞いて取れる発言だ。
いやはや、その通りである。
魔王軍や紅魔族より先にその名前が出てくるあたり、ほかの三人同様ヒデオのことも問題児扱いしていて、信頼はしているが信用はしていないのがよくわかる。
しかし、そんなカズマの不安を打ち消すかのごとく、脳天気な女神様はないない、と手を振りながらカズマの意見を否定した。
「安静にするようダクネスを見張りにつけたし、そんなことあるわけないじゃない。最近のヒデオは頑張りすぎだから休ませないとだめよ?」
アクアはそんなふうにカズマの懸念を一蹴したが、実際はカズマの懸念通り。
そこそこ長い付き合いになるからか、仲間のやらかしそうな事はだいたい直感でわかるというカズマの悲しい特技である。ちなみに、この特技はアクア以外のパーティーメンバーにも備わっている。
ヒデオがリハビリとばかりにシルビアと戦闘しているのだ。こめっことのランチタイムを邪魔したなどとのたまい、魔王軍幹部相手に一人で突貫したのが事の始まり。
本来ならば周りが止めるべきなのだが、ヒデオ達の周りには複数の紅魔族がいる。
カッコいいものに目がない彼らが、サイヤ人式の戦いを見て興奮しないわけがない。やけに騒がしいのはそのためだ。
「なんにせよ、近寄らない方が良さそうだな。こんな前線に来ても、やっぱり厄介事には巻き込まれたくない」
疑り深く慎重な、というよりニート体質のカズマは、当然そんな危険な可能性のある場所になど行こうとは思わない。
酔っ払いが暴れてるにしろ、魔王軍が暴れてるにしろ、サイヤ人が暴れてるにしろ、むざむざ飛んで火には入りたくないのだ。
「今更何を。出発の前日はヒデオが居るから安心だーとか言ってたじゃないですか」
「そりゃ万全のアイツが負けるなんてまず無いと思ってるよ? だけどね? アクアが言うには出せて実力の半分って言うじゃないか! 安心なんて出来るか! ちくしょう、なんでこんな時に不調なんだよアイツは! 魔王軍がいるんだからコンディションくらい整えとけってんだ!」
カズマ、ここでまさかの逆ギレ……!
不調の仲間を心配するでもなく、逆ギレ……!
堕とす……! 自らの株……!
「ヒデオが役立たない分自分でなんとかしようとは思ったりしないの? まぁカズマだし、仕方ないけど……」
「おいおい。あいつの代わりが俺に務まると思うか?」
「「無理」」
カズマの自虐的な問いかけに、遠慮せず即答する二人。無理もない。
やりようによってはカズマはヒデオと互角の勝負が出来るはずなのだが、やはりヒデオの純然たる破壊が持つイメージは強い。
それに互角に戦えるからといって同じ働きが出来るわけではないし、そもそもカズマとヒデオでは業種が違うのだ。
カイジとアカギくらい違う。
「よくわかってるじゃないか。てことで、あの騒ぎには近付かないように里をまわろう。めぐみん、ガイド頼んだ」
「私としてはあの騒ぎが気になるのですが……まぁいいです。何かあるならそのうち警報なり何なりあるでしょう。実家の方に何かあったとしても、両親に加えてヒデオとダクネスがいるので、こめっこの守りは盤石です。では、行きましょう」
まともな紅魔族二人に加え(紅魔族にまともという言葉もおかしいが)幹部クラスと張り合えるサイヤ人に、そのサイヤ人の攻撃を受けて性的興奮を覚えるクルセイダー。
一体どこの城を攻め落としに行くのだと聞かれてもおかしくない布陣である。
「お前やっぱりシスコンだったんだな」
「何を言いますか。妹を心配するなんて普通のことです」
「それならヒデオを警護に回すのはこめっこに対して危険とは思わないのか? 見たことないくらいデレデレだったぞアイツ」
「こめっこが普通に懐いているので大丈夫です。そもそも、ヒデオはかわいいものが好きなだけだと思うのです。普段からちょむすけのこともかわいがっているでしょう? こめっこへのデレはその延長かと。カズマはともかく、ヒデオは年下には下卑た視線を送ることがないのです。そうじゃないダクネスやウィズには送っていますが……」
実際のところヒデオは年下でもスタイルがよければ、もといおっぱいがでかければ葛藤の末にセクハラする場合があるが、めぐみんはその事を知らず、カズマよりは常識のある人というイメージを持っていたりする。
「おい俺はともかくってどういう事だ」
「女性は色々な視線に鋭いんですよ」
「うんうん。わかるわめぐみん。私も最近ヒデオに何か変な目で見られてる気がするもの」
「お前が何をやらかすか気が気でないんだろうな」
「あははは。カズマさん、そんな事あるわけないじゃない。これはきっといつも体を治してくれる私に対して憧れを抱いてる視線ね」
「あははは。アクア、それこそあるわけないだろ。アイツ『飯食いに行ったら何故かアクアのツケまで払わされるんだが。いい加減泣かそうかな』って言ってたぞ? 憧れなんてこれっぽっちも抱いてないんじゃないか?」
本来ならばそんなものアクア本人に払わせろ、と突っぱねるヒデオなのだが、この時は事情が違った。
ヒデオとアクアが行っていたのは大食いチャレンジもしくは食べ放題サービスのある飲食店(アクアは食べ放題やチャレンジをせずに飲み食い、宴会、諸々あって結果ツケとなった)。
ヒデオは脅されたのだ。
『今払わないとアンタを出禁にする』と。
普通の飲食店はともかく、そういうサービスを実施している店にとってサイヤ人のヒデオは天敵以外の何者でもない。店側としても、毎度毎度元を取られてはたまったものではない。
ヒデオ一人が一回に取れる元は決して大きな額ではないが、塵も積もれば山となる。
それに加え、大金では無いとはいえ、塵の大きさは結構ある。そんな事が続けば赤字必至である。
普通に考えてそんな客はすぐ出禁にするか、食べ放題サービスをやめる等の措置を取ろうとする。しかし、ヒデオも自分の大食いを理解し、そういう可能性がある事を充分に知っている。
なので、そういう店に行く時は一人ではなく知り合いを複数人連れて行く事にしていた。冒険者の知り合いや、知り合いのチンピラや、たまにウィズ。
毎回結構な人数を連れてくるので、店側としても言い出しづらくなり、結果として通えている。
まぁ今回の件でわかったように、結構ギリギリである。
「最近ツケの催促がこなかったのはそのせいね。けどこれでヒデオが私に憧れてる可能性が高まったわね! その証拠に、私のことまったく尊敬してないカズマさんはツケなんてほとんど立て替えてくれないもの!」
「まさかツケなんてあると思ってなかったんだよ。まぁ知ってても払わんが。というかなんでまだツケに追われてんの? 借金は完済したし大金だって入ってきただろ? それはどうした」
カズマの個人資産である例の三億はともかくとしても、バニル討伐の報酬はヒデオの提案で分割することになった。
魔王軍幹部のバニルともなるとその賞金額は並ではなく、一人頭かなり貰っているのだが。
「馬鹿ねカズマは。ほとんど使っちゃったからに決まってるじゃない。お金は使うとなくなるのよ?」
どうやらこの女神、あろう事か討伐の賞金を酒代やら宴会芸の道具代に次々と消し、更には悪徳な商売に引っかかり手元の金は殆どない。
しかし、カズマはこうなる事を長い付き合いで感じ取っていたのか、アクアにだけは賞金を分割して渡すという措置を取っていた。アクアは当然ゴネたが、アクアが口論でカズマに勝てるわけもなく、結果こうなっている。
「馬鹿はお前だよこのアホ女神! ちょっとは考えてから金使え! 全部渡さなくて正解だったわ!」
「あー! 馬鹿って言った! アホって言った! 女神たる私に不敬だとは思わないの!? というかはやく全部渡してよ! 私のお金なんだから!」
「敬ってほしいなら相応の振る舞いを見せろこの駄女神が! 全部渡しててもどうせ同じ結果になってるわ! このまま浪費を続けるなら、今残ってるお前の分の賞金を全額エリス教団に寄付してやるからな!」
「それだけは! それだけはやめて! というかなんでエリスのとこなのよ! アクシズ教だっていいじゃない!」
「少しでもアクシズ教には関わりたくないんだよ! ただでさえ元締めの女神に普段から困らされてるってのに、その信者の相手なんて出来るか!」
「なによその言い方! まるでうちの子たちが関わりたくもない変人ばかりって言ってるみたいじゃない!」
「そう言ってるんだよ!」
わーわーぎゃあぎゃあと、件の騒ぎに負けないくらい騒がしく言い争う二人。
めぐみんは我関せずと言った顔で、二人を特に止めもせずに道行く人に帰郷の挨拶をしている。
この光景もパーティーメンバーのめぐみんにとっては最早日常茶飯事。今から数分後にアクアが泣かされるのは目に見えているので、そうなってから止めるつもりのようだ。
「もっと私を敬って! 褒めて持て囃して甘やかして! ちょっとくらいやらかしたっていいじゃない!」
「今でも充分過ぎるくらい許容してるわ! むしろお前は俺の寛容なる精神に感謝すべきなんだよ!」
「なによ! カズマのくせに生意気よ!」
「一体どこのスネ夫だお前! ともかく、反省の色を見せないと本当に寄付しちまうからな!」
「むぅ……! バーカバーカ!」
「アホ! ボケ! 宝の持ち腐れ! いい加減回復魔法教えろこのおたんこなす!」
先程までは辛うじて議論の域だったが、これはもはや議論ではない。ただの罵倒大会だ。
当然、アクアがカズマに勝てるわけもない。語彙が足りなくなって泣かされるまでそう時間はかからないだろう。
「めぐみん、止めないのかい? お仲間さんだろう?」
「もうすぐ青い髪の方が泣かされると思うので、そうなったら止めます」
「そうかい。じゃあ僕は用事があるから行くよ。また機会があれば店に寄ってくれると嬉しい」
「はい。明日にでも行きます」
「それはありがたい! じゃあね!」
めぐみんと話していた紅魔族の男性はどうやら何らかの店を営んでいるらしく、めぐみんの返答を聞き意気揚々とどこかに走って行った。
「……さっきから皆あの騒ぎの方向に行きますね。もしや本当に魔王軍が侵入してきてたりするんでしょうか」
「カズマのバーカ! アホー! クソニート!」
「魔王軍が居るとなると、ヒデオが騒ぎを聞きつけて行くかも知れませんね。ダクネスはきちんと引き止めてくれてるんでしょうか。アレでダクネスは結構ポンコツですから、結構心配です」
「お前だって最近はほぼニートだろうが! 女神の癖にニートとか恥ずかしくないんですか!」
「一応装備を取りに家に帰った方が良さそうですね。少し遠回りになりますが、あそこはカズマの言う通りに迂回しますか。丸腰で行くのは危ないですからね」
「私だって好きでこんな世界にきたわけじゃないのよ! 誰のせいでここに来るハメになったか忘れたの!?」
「半分、いや3分の2くらいは自業自得だろうが! お前が俺を煽らなかったら今頃チート無双してるわ!」
「ひどい!」
「それにしても、魔王軍だとしたらどうやって里の中に入ったんでしょうか。気になりますね……あ、アクア!」
二人のやり取りに完全スルーを決め込んでいためぐみんだったが、視界に入ったあるモノがアクアに迫っている事を察知し、咄嗟に名前を呼んだ。
が、時すでに遅し。
「ん? どうしたのめぐ――ぐぺっ!?」
「アクアが死んだ!?」
「死んでないわよ! 痛い……」
一瞬ヤムチャったアクアだったが、持ち前のカンストステータスのお陰で大した怪我を負わずに済んだようだ。腐っても女神。
それはそうとして、アクアを殺ったのはヒデオの気弾だ。しかし、辺りにヒデオの姿は無い。
それもそのはず。ヒデオは騒ぎの真っ只中に居る。ならば何故飛んできたのか?
事件は五分前に起きた。
△▼△▼△▼△▼△▼
ヒデオが店にやってきたシルビアの正体を看破し、戦闘を始めてしまった。初めは紅魔族の人々も加勢していたが、ヒデオの戦いに惹かれただの野次馬と化した。
アクアに絶対に止めるようにきつく言われていたし、騎士の私としても負傷した仲間を前線に立たせるのはしたくなかったので、アクアに胸を張って任せろと言ったのだが、家を出てものの数十分でこの始末。
全く、この戦闘バカには困ったものだ。
そんなに暴れ足りないのなら私を存分にサンドバッグにしろ、してくださいご主人様といつも言っているのだが、『頼むからやめて。マジやめて』と真面目な顔をして遠慮するのだ。私は一向に構わんと何度も言っているのに、頑なに拒む。
まったく、中途半端に人間が出来ているからこんなに優柔不断になるのだ。
こいつも男ならば、クズならクズで、ゲスならゲスで、カズマのようにダメ人間に振り切って、欲望のままに襲ってみろというものだ。
「さぁヒデオ! 彼方へと飛ぶ攻撃は全て私が受ける! 遠慮なくかめはめ波を撃て!」
「さっきからちょこまかしてると思ったらそれが目的か! どっか行け!」
猫や犬を追いやるようにシッシと手を振り、ヒデオは撤退を促してくる。ヒデオなりの気遣いなのか、本当に邪魔なのかは分からないが、私にも下がれない理由がある。
「騎士たる私が人類の敵である魔王軍を前にして退けるか! さぁ、遠慮なく!」
「筋が通ってるだけあってカズマよりタチ悪いぞお前!」
失礼な。いくら私でもカズマ以下と言われると普通に傷付く。
「あなた達、この私を前に随分と余裕……ねっ!」
間に挟んで主張をぶつけ合っている私達に痺れを切らしたのか、シルビアは自分と距離が近いヒデオに突進して行く。
丸腰なのでどう戦うのかと思っていたが、どうやら魔法と体術を織り交ぜて行くスタイルの様だ。
ヒデオと違って里への被害など気にしていないようで、放たれる攻撃は全く遠慮がない。
シルビアから放たれる鋭い蹴り、突き、フェイント、突き、蹴り。
その全てをヒデオはいなし、受け止め、引っかかり、見切り、避ける。
大したダメージを負っていないが、今まで徒手で戦う相手とはあまり戦ってこなかったからか、攻めあぐねているように見える。
しかし、シルビアも攻めてはいるが、ヒデオがことごとくを捌くせいで未だ決定打を与えられていない。このままだと長期戦になりそうだ。
「ちょこまかと……! この、この!」
「ほっほっほっ……ん、パンツ見えそうだぞ」
「あら、ご忠告ありがとう。よかったら見せてあげましょうか?……スキあり!」
「あぶねっ。確かにその提案は魅力的だが、生憎のところ俺はおっぱい派なんでね。それに、恥じらいのないパンツなんてツマミのない酒盛りみたいなもんだ。まぁそれはそれで好きだが」
戦っている最中だというのにこの男は何を言っているのだろう。邪な考えなど見せずにもっと戦いに集中して欲しい。
「ふぅん。ボウヤくらいの歳ならがっついて来るかと思ったけど……案外ウブなのかしら?」
「あんたの提案に乗ったら色々と負けな気がしてな。それに、なぜだか知らんがあんたには性的興味が湧いてこない」
「ええっ!?」
ヒデオの言葉に思わず驚いてしまう。まさかこいつともあろうものが、シルビアのような巨乳の美女に興味を示さないとは。
「なんでお前が驚くんだよ」
「いや、ヒデオが巨乳の美女に靡かないなんてアクア以外では初めてなのでな。頭でも打ったか?」
「喧嘩売ってんのか。泣か……無視……ダメだコイツ。何やっても悦ぶ」
「どうした? 気の向くままに乱暴をしてくれてもいいんだぞ? さぁ!」
「もうおまえきらい」
「ひどい! だが、それでいい!」
ここまでヒデオにちょっかいをかけるのには突発的な乱暴を引き出す以外にも理由がある。
ヒデオはごく稀に、本当にイラついた時や呆れた時だけ、普段の優しいヒデオからは想像も出来ないような本当のゴミを見る目をする事がある。
残念なことに私は直接向けられたことは無いが、横から見るだけでもかなりゾクゾクした。あんな目で冷たく罵倒され蹂躙されたらさぞ……おっとよだれが。
「……なんでヨダレたらしてんの?」
「たらしてない」
危ない危ない。危うく罵倒されてよだれをたらす変態のレッテルを貼られるところだった。
「あなた達本当に仲いいわね。なら、これはどうかしら!」
「あ、そっち行ったぞ」
「っ!?」
よだれをたらし油断していたところにシルビアが飛び掛ってきた。
咄嗟に飛び退けようとするが、私よりシルビアの方が圧倒的に素早く、呆気なく捕まってしまう。
抵抗はしているが、かなりのパワーだ。私でも振り解けない。
決して魔王軍に囚われた後の事を想像してわざと力を抜いている訳ではない。本当に力が強い。
「くっ……! 騎士ともあろう私がよもや捕えられてしまうとは……!」
「いくらボウヤがすばしっこくても、動きを止める方法はいくらでもあるのよ。このお嬢ちゃんの身が惜しければそこを動いちゃダメよ?」
「なんという夢のシチュエーションだ! いや、違った。クルセイダーともあろう私がこうも簡単に捕まってしまうとは! だが、これで勝ったと思うなよ! ヒデオ、私の事はいい! 遠慮なく攻撃しろ! 私ごとで構わん!」
「なっ、あなた正気!?」
「正気だとも! さぁヒデオ! あまり焦らすな! 色々と限界が近い!」
「まぁ待て。いくら相手がお前でも心の準備がいる。(もうこいつこのまま魔王軍に押し付けてやろうか。いや、それだと親父さんに殺される。やだなぁ)」
いくらヒデオでも仲間ごと攻撃するというのには些か抵抗があるようで、警戒しつつも一向に技を放つ気配がない。構わんと言っているのに全くコイツは……。
「自分の身もろとも攻撃しろだなんて、あの姉ちゃんなかなかやるな!」
「兄ちゃん、早まるなよ! 俺達が何とかしてやるからな!」
「なっ、それは困る! それだとかめはめ波が受けられ……ゴホン。あなた達にも被害が及ぶ! 犠牲になるのは私だけで充分だ!」
野次馬と化した紅魔族が事態を重く見たのか助けに来ようとしたが、それを声を張り上げて阻止。せっかく勝ち取ったチャンスをみすみす逃しはしない。
「やっぱりそれが目的かお前」
「あ、しまった! でもあの視線……イイ!」
例の視線とまではいかないが、ヒデオはかなり呆れた顔でこちらを見てくる。
あぁ! そんな目で私を見るな! 色々とヤバイ!
「はぁ……仕方ない。ダクネス、本気でいいのか?」
「もちろん! 手を抜いたら怒るぞ!」
やった! やったぞ! ついにヒデオが折れた!
「これで懲りてくれると嬉しいんだがな」
「え、ちょっと待ちなさい! あなた達、仲間よね!? なんでそんな簡単に……!」
ヒデオがかめはめ波の構えで気を溜めると、アレはやばいと思ったのかシルビアはあたふた慌て始めた。
慌てていても私を拘束する腕は緩めない所は流石と言ったところか。まぁ私もその腕を逃さないようにがっしり掴んでいるんだがな。
「俺にとって今のソイツは仲間であっても味方ではないからな」
「幾らなんでもひどくないかそれは!?」
「酷いのはお前の方だよ馬鹿。ダクネス、いいか良く聞け。例えばプレイの途中で第三者が乱入してきて攻め側の人間の邪魔をしたらどう思う?」
「新手の放置プレイか。ふむ。……やがて和解した二人が私を欲望のままに乱暴するまで想像した」
「お前に訊いた俺が馬鹿だった」
「!?」
自分から聞いておいてこの仕打ちはあんまり過ぎる。長い付き合いになるのだし、そろそろ私の性的嗜好に理解が深まってきていてもおかしくないのに困った奴だ。
「こ、この! 離しなさい! 力強い! なんで私が逃げるハメに……! 普通逆じゃない!? この、この! 外れない!」
「逃がさんぞシルビア! さぁヒデオ! 今のうちに早く!」
何とかして逃げようとするシルビアの腕を逃がすまいとがっしり掴み、ヒデオの狙いがブレないようにする。仮にシルビアが逃れてしまっては私には撃ってこないからな。放つまで捕らえておく必要がある。
「今回ばかりはシルビアに同情するぜ。かめはめ……!」
高密度のエネルギーが手のひらに溜まってゆき、青白い光が漏れ出す。ヒデオを中心に風が巻き起こり、世界が震え、肌にビリビリと強いエネルギーを感じる。
「波ぁーーー!!!」
待ちに待った念願の、それもヒデオの本気かめはめ波。例のドーピングは使っていないようだが、それでもかなりの威力だろう。
高速で迫り来る高密度のエネルギーは地面を抉り、空気を飲み込む。
「わくわく……あ、この! しまった! 逃げられた!」
「あ、危ない……! 早くここから離れないと……!」
かめはめ波に集中しすぎたせいで掴む力を緩めてしまい、シルビアの脱出を許してしまった。
だが、時は既に遅い。私が避けてしまえば民家に多大な被害が出るだろう。作戦が失敗に終わったからといって、私がここから退くわけにはいかない。
「私は絶対に避けんぞ! たとえそれが無駄になろうとも!」
「わかった。じゃあ絶対にそこから動くなよ!」
「勿論だ!」
そこらのものより圧倒的に強くて長いブツが私をめがけて一直線に飛んでくる。切り刻まれた一秒の中で、想いを馳せる。
今回のはどんな衝撃だろう。どんな痛みだろう。本当に私は耐えられるのだろうか。
様々な想いがめぐり、ヒデオじゃないがワクワクが止まらなかった。
しかし、かめはめ波が私に直撃することは無かった。それどころかカスリもしなかった。
間違いなく大質量の光は私に向かってきていた。一秒と待たずに直撃していたはずだった。
ならば何が起きたのか?
答えは単純。逸れたのだ。厳密に言うと逸れたと言うよりも曲がったという方が正しいが。
ともかく、かめはめ波は私に当たることなく上空高くに消えていった。
「なぜ曲げた! ことと次第によっては――――」
「こうするためだよ! フンッ!」
私の言葉を遮り、ヒデオは何かを引きずり落とすように腕を振る。
その瞬間、上空から光と共に爆風が起きる。
そして。
――無数の光の弾が降ってきた。
「お、おいヒデオ! 何をやってるんだお前! 民家は壊したくないんじゃなかったのか!」
「里の周りに撃ったから大丈夫だ。よほど運が悪くなけりゃ家にも人にも当たらん。里の周りをチラホラと魔王軍らしき気がうろちょろしてて鬱陶しかったんでな。あとシルビアに逃げられたからついでに当てようとした」
言われてみると確かに光は里の外に降り注いでいるように見える。
だが。
「……」
「なんだその目は。なんか文句あんのか」
「……こういうのは焦らしプレイじゃないぞ」
「誰がいつそんな――おい、拗ねるな! 地面にくるくる指で渦を書くな! 俺が悪いみたいになるだろうが!」
「だって……だって……うぅ」
「泣くなって! あぁ! まわりの人達の視線が痛くなってきた! わかった、俺が悪かった! 今度なんでも言うこと聞いてやるから許してくれ!」
「……なんでも? 本当に?」
「あぁ! なんでもだ!」
ヒデオがなんでも言うことを聞く。それ即ち私の
ゴネ得っ……! ゴネ得っ……!
「それなら仕方ない。許してやろう。さて、シルビアはどこだ? お前の様子を見る限りまだ仕留められていなさそうだが」
「あれ、切替早……」
「そんなことはいい。で、どこにいるんだ?」
「なんか釈然としないが……。えーと、あっちの方……」
「どうした? なにかあったのか?」
「シルビアの進行方向にカズマ達が居る。つーかもう遭遇してる」
「……マズイのか?」
「かなりマズイな。アイツら今丸腰だぞ」
そう言われ、居間に武器や鎧を置いていっていたのを思い出す。こんな日が出ているうちに魔王軍なんて来ないだろうとタカをくくっていたのが仇となった。
「どうするヒデオ! 早くしないとカズマ達が……!」
「まぁ落ち着け。こめっこを守る為にもやすやすと離れるわけにはいかねぇし、マズイとは言ったがカズマがいるなら少しくらいはなんとかなるだろ。シルビアは話が通じそうなタイプだったしな。……紅魔族の皆! シルビアは北西方向にまっすぐ進んだ地点に居る! それに加えて里の周りには魔王軍の残党がまだ残ってる! 非戦闘員の安全を確保しつつ、奴らに合流される前に処理してくれ!」
「「「了解!」」」
ヒデオが指示を出すと、紅魔族たちは何の迷いもなく方々に散っていく。
先程まではただの野次馬だったが、決してシルビアを嘗めている風では無かった。最大限警戒した上でああしていたのだ。
「流石だな紅魔族。有事には慣れてる」
「だな。じゃあ私達はこめっこを……」
「連れてきた。ねりまきちゃん。少しの間こめっこを守っておいてくれ」
早い。
「分かりました! こめっこちゃん、私から離れちゃダメよ」
「うん! ヒデオ兄ちゃん頑張ってね!」
「おう! 終わったらまたご馳走だ!」
「やったぁ!」
「くっそ可愛い。……よし、行くぞダクネス!」
「締まらないなお前は……まぁいいか」
ヒデオの肩に手を乗せ、準備は万端。待っていろ、アクア、めぐみん、カズマ。今行くぞ!
「……」
「……おい。どうした」
いつもならスグに景色が変わるのだが、十秒、二十秒経っても一向に移動する気配がなかった。
「……瞬間移動出来ん」
「なにィー!?」
なんと、戦闘と移動の両方に置いて重要な技の瞬間移動が使えなくなったらしい。
……マズくないか? これ。
いつも通りです