この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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お待たせしました。色々忙しかったと言えば言い訳になりますが、忙しかったです。もう少し先まで書きたかったんですが、キリのいいところになったのでここで切りました!


第五十六話

 ヒデオを文字通り一蹴したシルビアは、悠々とこちらに歩を進める。

 

 

「……さて、誰から殺してあげようかしらね。ムカつく青髪のプリーストに、色んなスキルを使うボウヤに、やけに硬いクルセイダー。そっちの紅魔のお嬢ちゃんは何が出来るのかしら?」

 

 

 シルビアはまるで値踏みするように、じろりじろりと仲間達に目を向けていく。

 

 

「私の仲間に手は出させんぞ!」

 

 

 シルビアの前に立ちはだかり、剣の切っ先を向ける。

 私の剣の腕では確実にかすりすらしないが、少しでも武器として。意識を割いてくれれば儲けものだ。

 

 

「どうするつもりかしら? 貴方に私と渡り合えるだけの力量が有るとは思えないけど」

 

「……渡り合えなくとも、立ち塞がること位は出来るさ。『デコイ』!」

 

 

 このスキルは知性のある標的には効きにくいが、それでも何も無いよりはマシだ。

 

 

「……なるほどね。そうして自分に狙いを集めれば、仲間は守れると。確かに有効な手だわ。……けどね?」

 

 

 にこにこと不敵な笑みを浮かべ、シルビアは臆することなく剣を掴む。

 

 

「なにを――ッ!?」

 

 

 突き付けた剣を掴まれた途端、天地がひっくり返った。

 誇れることではないが、鎧も含め私の体重はかなりのものだ。それを片腕、しかも指先だけで吊り上げるなど、ヒデオ程の怪力でもない限り不可能だ。

 つまり、シルビアはヒデオ並の怪力を有している可能性が高い。

 

 

「ふぅん、なかなかいい剣使ってるじゃない」

 

 

 シルビアはそう言いながら奪い取った剣を横薙ぎに構えると、地面が砕ける程強く踏み込んだ。

 

 

「まずは一人! 死になさい!」

 

 

 視界から剣が消えると、少し遅れて重い衝撃が右横腹から響く。

 

 

「ぐぅっ……!!」

 

 

 あまりの膂力に危うく吹き飛ばされそうになるが、思いっきり踏ん張りなんとかこらえた。

 流石は魔王軍幹部と言うべきか、使い慣れていない武器でも私の鎧が凹むくらい気持ちい……芯まで響いてくる。

 

 ……まずいぞ。

 

 

「あら、胴を切り離すつもりで振ったのに、案外頑丈なのね! これならどうかしら!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

 

 鋭く皮を削ぐ様な剣戟。

 ところどころ肌が顕になり、周りの視線が突き刺さる。

 

 まずい。本当にまずい。

 

 

 我慢が出来なくなる……!

 

 

「はぁ、はぁ……まだまだ!」

 

「流石に硬すぎない?」

 

 

 私がここまで硬いとは思っていなかったのか、驚いた顔で距離を取る。

 

 

「私はかのベルディアの剣戟をも耐えた女。生半可な攻撃は効かんぞ!」

 

 

 実際は少し危ないところでヒデオに助けられたのだが、耐えたのは事実だ。

 

 

「ふぅん。効いてない割には息が上がっているように見えるけど?」

 

「こ、これはしかたない。あまりにも気持ちよ……激しい攻撃だったのでな。ダメージが無いとはいえ疲労はたまるのだ。うん。そういうものだ」

 

 

 痛い所を突かれ、慌てて早口で取り繕う。

 

 

「何はともあれ、ベルディアの剣戟を耐えたっていうのなら、もっと本気で斬らなくちゃね。覚悟なさい?」

 

 

 そう言うと、再びニコリと笑顔を見せるシルビア。しかし、表情は同じだが空気が変わった。

 どうやら今までのはほんの戯れだったらしい。気が肌にビリビリと来るのがわかる。

 

 正面から受けるとこうも勝手が違うとは。これを感じてワクワクするヒデオは私と同じ様に変態では無いのだろうか。まぁ仮にそうだとしても大分ベクトルが違うが。

 私的にヒデオには攻めでいて欲しい。むしろ私に責めてきて欲しい。

 

 緩みかけていた気持ちを引き締め、シルビアを睨めつけ。

 

 

「臨むところだ。さぁ来い!」

 

 

 ヒデオは必ず戻ってくる。それまで私がシルビアを足止めし、仲間達を守らなければならない。幸いまだヒデオの気のおかげでステータスが飛躍的に向上しているのでかなり食い下がれるだろう。

 

 

「フフフ、お嬢さん。飛ぶ斬撃は見たことあるかしら?」

 

「ある」

 

 

 ヒデオがよく使う気円斬とやらの事だろうか。曰く『強すぎて怖い』そうだ。確かにそこらの剣より圧倒的に斬れ味は良いし、かつ飛ばせると来たものだ。恐れもするだろう。

 ちなみに受けてみたいと懇願した事があるが、その時は本気で止められたし怒られた。

 

 

「そ、そうなの? ……まぁいいわ」

 

 

 少し驚いた様子を見せながらも、シルビアは剣を袈裟に構えた。どうやら剣に気を溜めて放つタイプの技らしい。

 

 しかし、一歩踏み込めば届く距離なのに飛ぶ斬撃とやらを使うのか? なにかしてきそうだ。

 

 

「――今、こんな距離で飛ばしても意味が無いと思ったでしょ。飛ばさなくても、用途はいくらでもあるのよ?」

 

 

 私が警戒していると悟ったらしいシルビアは、よりいっそう不敵な笑みを浮かべて一歩を踏み出す。

 

 すると、肌を裂くような風が吹き荒れた。

 

 

「くっ……! お前達、しっかりと私の後ろに居るんだぞ!」

 

 

 あまりの鋭さに、カズマたちでは耐えられないだろうと警戒を促す。

 脅威的な殺気だが、これはシルビアから発せられているのではない。その証拠に、シルビアが訝しげな表情を浮かべていた。

 

 この感じを、私は知っている。

 

 

「……あなた達のお仲間、とんでもないバケモノね」

 

 

 シルビアはさらに顔を歪めて。

 

 

「来るなら来なさい! 今度こそ息の根を止めてやるわ!」

 

 

 私に背を向けて気配の方へ振り向く。気も先程より大きくなっており、シルビア本気度が伺える。

 

 目を開けるのもままならないほど強い風に抗いながら、それでもシルビアからは目を離さずにいると。

 

 ずばぁんと何かを思いっきり叩きつけたような、そんな音が聞こえ、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――ッ!?」

 

 

 欠損箇所を抑え、シルビアはその場から大きく跳んだ。

 その恨みのこもった視線はもはや私など眼中に無く、元凶がいるであろう所に向けられていた。

 

 

「――ちっ、右腕かよ。頭狙ったんだけどな。瞬間移動使えてりゃあなぁ」

 

 

 蹴り飛ばされたにしてはピンピンしていて、言葉とは裏腹に楽しそうな表情のヒデオが、何故かこめっこの隣に立っていた。

 

 

 ……私の剣を掴んだままのシルビアの右腕を持って。

 

 

「ただいまこめっこ。いい子にしてたか?」

 

「あ、ヒデオ兄ちゃんおかえり! あのね、金髪のお姉ちゃんがかっこよかったよ!」

 

 

 こめっこはブンブンと手を振って元気よく返事をすると、照れ臭いことを言ってくれた。ヒデオはそんなこめっこに見えないよう、持っていたシルビアの腕を背に隠しつつ。

 

 

「知ってるぜ。ダクネスは頼りになるからな。怖いだろうに目を逸らさず偉いなこめっこは。だけど今からちょっとだけあっち向いて耳塞いでな?」

 

「わかった!」

 

 

 こめっこは素直にヒデオの言うことを聞くと、きゅと小さな手で耳を塞いで言われた通りの方向を向いた。

 

 そんなこめっこを優しい顔で眺めていたかと思うと、ヒデオは途端にキリッとした顔でシルビアへ顔を向ける。

 

 

「さぁてシルビア。うちのクルセイダーが随分と世話んなったな」

 

 

 どこか荒々しいオーラを漂わせているヒデオは、ニヒルな笑みを浮かべてそう言った。

 

 先程までとは迸っている気の感じが全く違う。目に見える大きさも段違いで、肌にビリビリ来ている。私としては物足りないくらいだが、カズマ達はそうではないようでちゃっかり再び私の背後に隠れていた。

 

 

「もう少しのんびりしててもよかったと思うわよ。あのクルセイダーもまだ余裕はあったみたいだし。それよりも、早く腕を返して貰えるかしら?」

 

 

 ちぎられたハズの箇所は何故か血が出ていない。腕がなくなったことで見た目はかなり痛々しいが、シルビアの顔はケロッとしていてダメージがないように見える。

 

 

「おう。そらよ」

 

 

 掴んでいた剣を外すと、ヒデオはポイッと腕を投げる。この男にしては随分と潔く返すなと思ったりもしたが、そういう時もあるのだろう。

 

 

「あら、素直ね。ありがと」

 

「礼を言われる筋合いはねぇ。ばっ!!」

 

 

 なんてことを思っていると、シルビアの腕(だったもの)は一瞬で消し炭になった。

 

 …………。

 

 

「……酷いことするじゃない。これから隻腕であなたと戦えと?」

 

 

 シルビアに同情するわけじゃないが、確かにこれはひどい。やり口が完全に悪のそれだ。

 責めるような視線をヒデオに送るが、まったく気にしていない様子だ。図太い神経をしているなと思ったが、どうやらヒデオには考えがあったようで。

 

 

「どうせ生やせるんだろ。さっき俺にやった時みたいにな」

 

「あら、気付いてたのね」

 

 

 ヒデオが言うには、シルビアは攻撃の際どうにかして腕を生やし、それで攻撃を当てていたらしい。

 仔細はわからないが、グロウキメラのスキルだろうか。

 たった数度交えただけで攻撃を見破るヒデオも凄いが、紙一重で避けまくるヒデオに対しそんな対処法を敢行するシルビアも凄まじい。

 

 

「生えるまで待っててやるから見せてみろ」

 

「優しいのね。――フッ! ……これでどうかしら?」

 

 

 なにやら肩口がうぞうぞ動いたかと思うと、あっという間に腕が形成された。

 なるほど、ヒデオがこめっこにあちらを向かせた理由がわかった。子供に見せるにはグロテスクが過ぎる。

 

 

「へぇ、早いもんだな。あ、誰かこめっこにもういいぞって伝えてくれ」

 

「前は結構かかったし体力も使ったんだけど、貴方のお陰でレベルが上がったせいかしら。オークの回復力とスタミナも一因にあると思うわ。今一度お礼を言っておくわ。ありがとうね」

 

「そりゃどうも。……じゃあ、そろそろやるか?」

 

 

 前置きが長いと感じたのか、ヒデオはうずうずした様子でシルビアにそう持ちかけた。

 

 

「そうね。殺るわ」

 

「あ、待て。言い忘れたが――」

 

 

 ヒデオが何かを言おうとするのを無視し、シルビアはその場から消え失せた。

 あぁ、このパターンはヒデオでもう何度も見た。体勢が整っていない内に叩くゲス技だ。シルビア相手にも使っていたので、真似をされたのだろう。

 

 しかし、一つ解せない。ヒデオならばこの技の対処法や弱点なども知っているだろうし、シルビアもそれも分かっているはず。何故ヒデオに――

 

 

「油断したわね! まずはこのクルセイダーからよ! 後悔なさい!」

 

「あ」

 

 

 しまった、ヒデオが来たから完全に安心して油断しきっていた。

 仲間が来たことによる安堵を敵に突かれてしまうとは、我ながら情けない。この疾さでは避ける事も防ぐ事も叶わないだろう。

 

 だが、諦めてはいない。それどころか死ぬ気など毛頭ない。耐える自信はあるが、私にシルビアの攻撃が届くことは無いと知っている。

 

なぜなら、既にヒデオの姿が()()()()()から。

 

 

「――うちのララティーナに手ぇ出してんじゃねぇよ!!」

 

「ごばッ!?」

 

 

 突然背後に現れたヒデオは、怒号と共にシルビア蹴り飛ばし、何事も無かったかのようにスタイリッシュな着地を決めた。

 

 

「ララティーナと呼ぶなと何度言えば……」

 

「その愚痴は後で聞くぜお嬢様――ッと!!」

 

「ちぃっ! なんて反応と膂力なのよ……! この化け物!」

 

 

 遥か遠くまで飛んで行く勢いで飛ばされた筈だと言うのに、シルビアはもう戻ってきた。ヒデオの蹴りもあまり効いていないようだ。

 

 

「腕トバされて俺の蹴り喰らってもピンピンしてるお前だって化け物だ。同じ穴の狢同士、仲良くしようぜッ!!」

 

 

 仲良くしようぜと言う割には、全力で首を刈りに行ってるように見えるのだが。

 

 

「人の首狙いながら言うセリフじゃないわね!」

 

「人じゃねぇからセーフ」

 

「……フフフ! これは一本取られたわ! クッションの代わりにこれでもどうぞ!」

 

 

 若干苛立ちのこもった笑みを浮かべると、シルビアはどこからともなく三本目の腕を生やし、そこから円状の気を放った。恐らく気円斬だろう。

 

 

「気円斬を座布団の代わりと言い張るのは流石に無理があるんじゃねぇか?」

 

 

 ヒデオは何事も無かったかのようにひらりと気円斬を避け、自分の気弾をぶつけて離散させた。

 あの華麗な動きの一端でも私にあれば少しは役に立てると思うのだが……今度ヒデオに修行をつけてもらうべきか?

 

 

「なんでこの距離で、しかも隠し腕から放ったやつを避けられるのよ! きっちり後始末までしてるし! 理不尽すぎるわ!」

 

「あのなぁ、お前が使ってる技は俺が使えるんだぞ? 対処法も知り尽くしてるに決まってんだろ」

 

 

 修行プランをどう立てるかと思考を巡らせ、まだ見ぬ折檻への期待で涎を垂らしている間も両者の口論を交えた死闘は続いていたが、終わりのない戦いなどなく、やがて均衡が崩れた。

 

 

「ぐぬぬ……かくなる上は!」

 

 

 均衡を崩したのはシルビアだった。

 このままでは埒が明かないと思ったのか、ヒデオから大きく距離を取った。

 

 が。

 

 

「逃がすか! オラァ!」

 

「ぐっ……! しつこい男は嫌われるわよ!」

 

「途中で投げ出す男も嫌われるからセーフだ!」

 

 

 逃げるシルビアに容赦のない追撃。

 それにしても先程から気になっていたが、いったい何がセーフなのだろう。

 

 

「ぐっ……! このままじゃ……!」

 

「死に晒せぇ!!」

 

「待っ――」

 

 

 慈悲のかけらも無い一撃が、シルビアを彼方へと吹き飛ばした。

 ふむ。久しぶりにまともな肉弾戦をするヒデオを見た気がするが、相変わらず強いな。

 

 

「時にヒデオ、シルビアを吹き飛ばしたのはいいが、里の人達の避難は済んでいるのか?」

 

「あぁ、さっき吹っ飛ばされた時に族長に伝えたし、気がぞろぞろとこっちに……あっ」

 

「どうした? なにかあったのか?」

 

「……ゆんゆんとあるえのとこにシルビアぶっ飛ばしちまった」

 

 

 ……マズくないか?

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

『今すぐに彼の言っていた場所へ! 年寄りも子供もだ! 手分けしてなるべく早く! そしてシルビア討伐を手伝うんだ! 本当にこの里が更地になってしまうぞ!ゆんゆんにあるえも、準備が出来たらスグ来るんだぞ! お父さん達は先に行ってるから!』

 

 

 お父さんはその場にいた私とあるえ以外の皆を連れ、外へ繰り出していった。つい三分前の事だ。

 

 私も早く行かねばと装備を整えていたが、なぜかぼーっとしていたあるえがようやく口を開いたので、手を止めてそれに耳を傾けることにした。

 

 

「……ねぇゆんゆん。ヒデオさんが更地にしてもいいかって聞いていたけど、本当に出来るのかい?」

 

 

 やたらと真剣な顔をしてそんなことを聞いてきた。どうやらヒデオさんの発言がただの紅魔的カッコつけの一部だと思っていたらしい。

 

 

「うーん、ヒデオさんは優しいからそんな事にならないよう出来るだけ気は遣ってくれると思うけど、その気になれば出来るんじゃないかな」

 

 

 やり方は多々あれど、ヒデオさんなら出来るだろう。タイミングが悪いのか未だ本気のヒデオさんは見た事ないけれど、何故かあの人なら出来るだろうという確信がある。

 

 

「なるほど……それを聞いて主人公にするにはいささか強すぎる気もしてきたよ。ラスボスとか師匠ポジにジョブチェンジがいいかな? ゆんゆんはどう思う?」

 

 

 私の話を聞くやいなや、何故かペンを片手に原稿を書き始めるあるえ。

 

 …………。

 

 

「……ねぇ、ヒデオさんとお父さんの言ったこと聞いてた? ペン持って書き連ねてないであんたも早く準備しなさいよ」

 

 

 ぼーっとしているだけならまだしも、この緊急時に何をしているんだろう。

 ヒデオさんに怒られても庇ってあげないでおこう。

 

 

「後で行くからゆんゆんは先行ってて。感動が新鮮なうちに書いておきたいんだ」

 

「さっきまで戦いを見に行きたいとか言ってたじゃない! ほら、早く行くわよ!」

 

 

 立ち上がるどころか床に伏しているあるえを引っぱりあげようとするが、あるえは吸盤のように張り付いて離れない。

 小説ばかり書いていて力は弱いと踏んでいたけど、意外なパワーだ。

 

 

「あぁっ! やめて、やめてゆんゆん! 書きにくいから腕を引っ張らないで!」

 

「書くのをやめ――あるえ、伏せて!」

 

「!」

 

 

 引っペがそうと近付けた手であるえの背を反射的に押さえ付け、そのまま腹這いになる。

 すると、私達の頭があった場所を、とてつもない速さでなにかが通り過ぎた。

 

 まさか、またヒデオさんが――一瞬そう思ったが、それは杞憂に終わった。

 

 

「いたたたた……何なのよあのボウヤの理不尽な強さ。本当に人間なのかし……あら? いいところに人質が二人も居るじゃない。さっきと違って女の子だし、効きそうね。お嬢ちゃん達、手荒な真似はしたくないから、武器を置いて私のそばに来なさい?」

 

 

 ヒデオさんの件は杞憂に終わったけれど、今度は別の心配事が出来てしまった。

 

 口振りから察するに、ヒデオさんにやられたのだろう。

 どうやら人質を取って優位に立とうという魂胆らしい。

 もし捕まってもヒデオさんなら助けてくれそうではあるけど、出来るだけ迷惑はかけたくない。

 

 

「ゆんゆん、せめて君だけでも先に逃げてくれ。私が駄々をこねたのが原因だろう?」

 

「大丈夫。こういう場合は大抵なんとかなるから」

 

 

 ヒデオさんと冒険を重ねるうちに、あの人は大抵の事をやってのける事が身に染みた。

 

 ……だから、今回だって、何も怖くない。

 

 

「……勇気を振り絞った君に免じて、そういうことにしてあげる」

 

「な、何のことかしら!? 私はこういう状況慣れてて、こ、今回だって……!」

 

「わかった、わかったよ。私が悪かった。悪かったからその筋力で揺さぶらないでくれ」

 

「何をゴチャゴチャ言ってるのかしら! 早く来なさい! 早くしないと――」

 

 

 痺れを切らしたシルビアが詰め寄ろうとしたその時。

 

 

「――早くしないと、どうなるんだ?」

 

 

 安心感のある、聞きなれた声が聞こえた。

 その声に若干気が緩んだが、シルビアは反対に顔を引き攣らせて。

 

 

「こうなるのよッ!!」

 

 

 鋭い回し蹴りを、彼に見舞う。

 

 私には蹴りに行くまでの過程が見えないくらい速かったけれど、声の主は特に慌てる素振りを見せず。

 

 

「あぶねっ」

 

 

 そんな呑気な声を出しながら、声の主――ヒデオさんは軽く躱してみせた。

 

 

「余裕たっぷりの癖して! この、この!」

 

「不意打ちでなければ当たらんよ!」

 

 

 シルビアの鋭い連撃をひょいひょいぬるぬると躱しつつ、さり気なく私とあるえを庇うように立ち回ってくれるヒデオさん。

 

 

「……あ! さっきのおチビちゃんが!」

 

 

 シルビアは突然彼方を指差すと、そんな事を大声で言い放った。

 まさかそんな雑な作戦でヒデオさんの意識が逸れるわけが――

 

 

「なにィ! こめっこがどうした!」

 

 

 思いっ切り引っかかった。

 

 切羽詰まっている状況だというのに、何故かめぐみんの妹のこめっこちゃんの名前を叫びながら、あろう事かシルビアに背を向けた。

 それにしても、ヒデオさんがここまで過剰に反応するなんて珍しい。いったい何があったのだろう。

 

 

「スキあり!」

 

 

 シルビアはがら空きの背中に鋭い一撃を放つが。

 

 

「あぶねっ」

 

 

 またもそんな呑気な声を出しながら、背後からの攻撃を難なく避けた。

 

 

「不意打ちでも当たらないじゃない!!」

 

「不意打ちすれば当たるとは言ってないのでセーフ」

 

 

 一々煽るのはわかるけど、いったい何がセーフなんだろう。

 

 

「減らず口を……! こうなったら……!」

 

 

 埒が明かないと思ったのか、シルビアはヒデオさんから大きく離れた。なんだか浮いているように見えるけれど、気のせいだろうか。

 

 

「次はなんだ? かめはめ波か? 太陽拳か? 何をしようと構わねぇぜ」

 

 

 ……? まるでシルビアがヒデオさんの技を使えるような言い方だけど、何があったんだろう。

 よく見るとヒデオさんから尻尾が生えてないし、シルビアからは尻尾が生えている。

 

 …………?

 

 

「――瞬間移動ッ!」

 

「てめぇそれは卑怯だぞこの野郎!」

 

 

 なんと、シルビアがヒデオさんの使う『瞬間移動』らしき技でこの場から消えた。尻尾が生えていたことが関係してるのかな……?

 

 

「ちっ、もう紅魔族が大勢いるから大丈夫だとは思うが、急がねぇと! ――ゆんゆん、あるえ! 緊急時だからセクハラとか言うなよ!」

 

「えっ、きゃあ!」

 

 

 ヒデオさんは返事を待たず、私とあるえを軽々とそれぞれ小脇に抱え……て……。

 

 

「ま、待ってヒデオさん! あと数行書かせて! 今筆が乗りに乗ってるから!」

 

「向こうで書け! ここに居られると本気で戦えねぇんだよ! いいから行くぞ! あとゆんゆんも、危ねぇからモゾモゾ動くな!」

 

「そ、その……む、胸が……」

 

 

 急いで担がれたせいか、ちょうど胸を押し付ける形になってしまっている。

 しかし、顔が熱くなっている私とは裏腹に、ヒデオさんは特に気にする様子もなく。

 

 

「ご馳走様ですとだけ言っとくぜ。二人とも、口は塞いでろよ――ふッ!!」

 

 

 私達を抱えたまま、全速力で飛び出した――!

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ヒデオがゆんゆんの胸を大胆に、あるえの胸をさりげなく堪能していた頃。

 

 

「待ちなさい! プリーストのくせにすばしっこいわね!」

 

「わぁぁぁぁ! カズマさーん! たすけてぇぇぇ!」

 

 

 2度目の追いかけっこが始まっていた。

 

 

「またこれかよ! うちのサイヤ人は何やってんだ!」

 

 

 またもや上手いことシルビアをアクアに押し付けることに成功したカズマは、ヒデオの職務怠慢に憤慨していた。

 

 

「大人しくしてたら痛くはしないから!」

 

 

 ヒデオ戦に向けて体力を温存する為か、無闇矢鱈に舞空術で飛び回ったりはせず、律儀に走ってアクアを追いかける。

 

 しかし、それでもかなりの速度なので、捕まりそうになるアクアだが。

 

 

「嫌よ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」

 

「きゃあっ!!」

 

 

 凄まじい練度の退魔魔法でシルビアの足を止め、そのスキに距離を保つ事でなんとか逃げ延びていた。

 

 そもそも、何故またこうなっているのか。

 

 答えは単純。シルビアが瞬間移動でやってきたのが一番気が大きいアクアの所だっただけなのだ。

 

 まぁ、敵感知でいち早くそれを察知し、容赦なくアクアを見捨ててめぐみん達を引き連れて紅魔族の傍に逃げ込んだというのも原因の一つではあるが。

 

 なんの葛藤もなくアクアを見捨てたカズマだが、やはり少しの罪悪感はあるようで。

 

 

「『狙撃』!」

 

「痛っ! この細いビームはあのボウヤね! 無視!」

 

 

 足を止めてカズマを睨め付けるシルビアだったが、優先順位はやはりプリーストであるアクアの方が高く、一瞥しただけでそれ以上は何もしなかった。

 

 そんなシルビアの様子に。

 

 

「……へっ、案外当たんじゃねぇか。なんて声出しやがる……アクアぁ……! そのまま走り続けろ……! お前が止まんねぇ限り、その先に希望はあるぞ……! だからよ……止まるんじゃねぇぞ……!」

 

 

「変な事言ってないでもっとちゃんと助けてよ! もぎゃあぁぁ! 『エクソシズム』! 『エクソシズム』!」

 

「くっ、ちょこまかと……! なんかこの里来てから追いかけて追いかけられてばっかなんだけど!?」

 

 

 もはや何のために危険を冒して紅魔の里に潜入してきたのか覚束無くなってきたシルビアはそう叫ぶ。

 すると、そんな声に呼応するように。

 

 

「そりゃ悪かったな! けど安心しろ。もう逃がさねぇ!」

 

 

 どこからともなくやってきたヒデオは、シルビアの脳天にカカト落としを放つ。

 

 

「もうその手はくわないわよ! 小細工なんてしないで、かかって来なさい!」

 

 

 シルビアはいい加減奇襲に慣れたのか、滑らかな動きでカカト落としをいなすと、そのまま距離を取り、ついでに煽る。

 

 

「よし、なら死ね! 10倍不死王拳!! 喰らえ、見様見真似――」

 

 

 一撃の重さは要らない。

 

 早く、速く、迅く、疾く。

 

 

108(ワンオーエイト)マシンガンッ!!!」

 

 

 サイヤ人の身体能力により、連射速度と精密さは最早本家の比ではない。

 

 

「がはッ……!?」

 

 

 避ける暇を与えず、連撃をシルビアに叩き込む。

 

 

「――ぶっ飛べオラァ!!!」

 

 

 最後の一撃で容赦なくシルビアを蹴り飛ばす。さらに高速で追い、休む暇を与えない。

 

 

「ぐっ……! 瞬間移動ッ!」

 

 

 シルビアが瞬間移動でヒデオの前から消え失せた。

 

 

「ちっ! どこ行きやがった!」

 

 

 急ブレーキと共に気を探るヒデオだが、移動と同時に気を消したのか、シルビアの気が感じられない。

 

 カズマたちの元へ行ったのならば、紅魔族の魔法の音が聞こえるだろうし、カズマが気を解放して合図を送ってくるはずだ。

 

 つまり、シルビアは近くにいる。

 

 

「お返しよっ!!」

 

 

 背後から蹴りを放ってくるシルビア。

 上手く気を消していたせいか、少し反応が遅れた。

 

 

「要らねぇよ!」

 

 

 咄嗟に後ろ上段廻し蹴りを繰り出すが、シルビアが数コンマ速い。

 ガードは間に合わない。無理に避けるのは首を痛める。ならば。

 

 

「ぺっ」

 

 

 嫌がらせくらいはしてやろう。

 

 

「ちょっ、汚いわね!」

 

 

 吐き出された唾に、シルビアは反射的に足を引っ込めた。

 

 

「スキあり」

 

 

 一瞬怯んだ好機を逃がすはずも無い。躊躇なく急所を刈る。

 

 

「ない……速っ!? 危なっ!」

 

「ちっ」

 

「この……! 勝てれば何してもいいって言うの!? 卑怯者!」

 

 

 ヒデオのダーティな手法に異議を唱えるシルビア。本来ならば立場は逆の筈なのだが、何故か人類側のヒデオの方が汚い。

 

 

「あ? お前が勝手に怯んだだけじゃねぇか。そもそも、勝つ為に手を尽くす事のどこが悪いんだ? 文句あるならお前の言う卑怯じゃない手で、正面からねじ伏せてみろ」

 

 

 こう言ってはいるが、卑怯なのは卑怯だし、唾は物理的に汚い。

 

 

「ええい、まま――」

 

 

 半ばやけくそになったシルビアは、最大速でヒデオに切迫した。

 迫る凶拳、唸る肉体。怒りをエネルギーに変えた、サイヤ人の片鱗を見せる一撃だ。

 

 

「よッ!!」

 

 

 が、まんまとカウンターを喰らい、彼方へと飛ばされた。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 謎施設と呼ばれている建物の屋根の上。

 

 ひととおりシルビアをボコボコにし、やがてこの場所に叩き落とした。

 結構なダメージを与えたはずなのだが、存外シルビアはピンピンしている。これには流石の俺もうんざりしてきた。

 

 

「お前しぶとすぎ。ゴキブリか?」

 

「あら、失礼ね。そういうあなたこそ、速さはゴキブリ並よ?」

 

「笑えん冗談はよせ」

 

 

 自慢とも言える速さをゴキブリと形容されてはたまったものではない。

 虫だけに虫唾が走る。虫だけに。

 

 

「そうね。ヤツらは音速を越えるものね」

 

 

 至って真面目な顔でそう呟くシルビア。

 

 ……あっ。

 

 

「……何でもありか、この世界」

 

 

 とんでもない世界に来てしまったと、驚きを通り越して若干呆れていると、それを好機と取ったシルビアが。

 

 

「スキあり!」

 

 

 屋根に伏せたまま、俺の足を払いにかかる。

 少々変形した猪〇アリ状態だ。

 それをサイヤ人の身体能力でやるのだから、喰らえば痛いどころでは済まされない。

 

 まぁ、喰らえばの話だが。

 

 

「ねぇよ」

 

「あ、やっぱり? ――ぐえっ!」

 

 

 もちろん隙など無く、ひらりと躱し足の裏をシルビアの土手っ腹にめり込ませる。

 

 

「更にもう一ぱ――ッ!?」

 

 

 なんの躊躇もなく追撃を加えようとしたところ、突然屋根が崩れた。

 

 シルビアの仕業だ。

 

 

「おいおい、こんな重要そうな建物壊して大丈夫か? 修理費やばそうだぞ。まぁ、コチラとしても好都合ではあるな」

 

「なんで私達が負担するみたいになってるのかは疑問だけど、まんまと着いてきてくれてありがとうね」

 

「俺はお前から目を離す訳にはいかないからな。その先が天国でも地獄でも行かなくちゃならん」

 

「ふぅん、なら敢えて先に降りて落ちてきた私を受け止めるとかないのかしら? 地獄まで着いてきてくれるんでしょう?」

 

 

 しおらしくそんな事を言ってくるが、俺には響かない。だってこいつオカマじゃん。

 

 

「俺が受け止めるのは現実と女の子だけだし、片道切符はお前だけだ。オカマは勝手に死ね」

 

「ちなみに、メスのオークを取り込んだ事で七割くらいはメスになってるわよ? もう少しレディとして扱ってくれてもいいんじゃないかしら?」

 

 

 こいつは根本から勘違いしている。

 

 

「じゃあ聞くが、お前は汚水が入った酒を飲むのか?」

 

「ふふふ、ぐうの音も出ないとはこの事ね」

 

 

 俺とは距離を置きたいのか、シルビアは乾いた笑みを浮かべながら後ずさりしていく。

 少しくらい後ろに下がったところで間合いに入っていることに変わりはないのだが、少しでも時間を稼ぎ、体力の回復と状況の打開策をするにはなりふり構っていられないんだろう。

 

 

「……そういえば、あなたはアクセルから来たんだったかしら?」

 

「そうだが、お前に言ったっけか?」

 

「どうかは忘れたけど、さっきあなたの所のクルセイダーが誇らしげにベルディアと戦ったと言ってたわ」

 

「なるほど。確かに俺達はベルディアと戦って勝った。あの時はマジで死ぬかと思ったぜ。まぁ今やったら勝てるがな」

 

 

 あの時から何度も死にかけ、実際死んだ。

 純粋な戦闘力もさる事ながら、戦闘能力だってあの頃とは比べ物にならない。

 

 

「でしょうね。あなたに真っ向勝負で勝てるのなんて、魔王様か……それこそ公爵クラスの大悪魔レベルの猛者達くらいじゃないかしら?」

 

「魔王か。いずれ倒すつもりなんだが、いつになるやら」

 

 

 俺としては一人で行ってもいいという心持ちなのだが、まずめぐみんがそんなカッコイイ真似はさせないとキレるだろうし、ダクネスが仲間はずれにされたと拗ねるだろう。アクアやカズマは逆に行きたがらないだろうが。

 いっそパーティをやめた方がいいのだろうか。まぁ、問題児を押し付けることによるカズマへの罪悪感と、なんやかんやで居心地が良いから、そんな事をするつもりは毛頭ないのだが。

 

 

「あら、まるでここから生きて帰れるような言い草ね」

 

「そう言ってるんだが?」

 

「ふぅん? 私は全然そのつもりは無いんだけど?」

 

「紅魔の里に骨を埋めるのか? 観光地になるのがオチだぞ」

 

 

 魔王の幹部と激戦を繰り広げた場やらなんやらとして扱われそうだ。

 

 

「ふふふ、そんな余裕をこいてられるのもこれまでよ。なんの為に私がわざわざこんな所に入ったと思ってるの?」

 

「ん? なにか逆転の目があるからじゃねぇのか? そうだな……『魔術師殺し』って奴がここにあるってとこか?」

 

 

 恐らくあそこで俺に出会わなければ最初からここに来るつもりだった。

 更に、あのライフルが魔法だけでなく気功術を吸収した。その結果も鑑みて、改めてここに来たんだろう。

 

 

「……そこまでわかってるのね。なら、何故まんまと着いてきたのかしら?」

 

「最初に言ったろ。俺としても好都合だと。ここなら誰にも見られずに済む」

 

 

 こう言ってはいるが、実際そんな事が目的ではない。

 まぁ、見られずに済むというのは合っているが。

 

 

「覚悟しろよ。周りの目がなくなった俺は、容赦しねぇぞ」

 

「さっきまでも容赦なんてなかったわよ」

 

 

 そう言ってシルビアは殺気を飛ばし、これ以上近付いたら仕掛けるぞと脅しをかけてくる。

 

 

「まぁそういうのは解釈の違いだからな。仕方ない」

 

 

 しかし、躊躇なくシルビアの間合いに入り、淡々と歩を進める。

 

 

「……あなたはもう少し、慎重に動こうとは思わないのかしら?」

 

「これでも充分慎重だ。その証拠に、まだ誰も死んでない」

 

 

 俺がもっと大雑把に、ド派手に、無神経に動いていれば、おそらくシルビアは倒せているだろうが、巻き込みによる犠牲者も相当数に登るだろう。いくらアクアがリザレクションを持っているとは言え、自分以外の命を蔑ろに扱うわけにはいかない。

 

 

「そう、随分と自信家なのね。知ってたけど。……さて、私は既に『魔術師殺し』の在り処を掴んでいるわ。あなたはそれに対し、どうするのかしら?」

 

「どうもしねぇよ。レベルを上げて物理で殴るだけだ」

 

 

 魔術師殺しの効能がどんなものかは知らないが、()()()と対象を限定している事から、攻撃面ではなく防御面に重点を置いてそうだ。恐らく、魔法に対する耐性が上がったりするのだろう。さっきのライフルと同じように副産物的に気功術への耐性が上がるかもしれないが、効果がスキルの吸収や解除ではない限り、特に問題は無い。

 

 

「――で、そのやけにでかいのが……なんだそれ?」

 

「……さぁ? 銀色の蛇……かしら? そもそもどう使うのかしらこれ」

 

 

 いつの間にやら魔術師殺しと思われる銀に輝く巨大な蛇(?)のような物体を傍らに置いていたシルビアだが、用途がわからずにはてなと首を傾げていた。

 

 

「なるほどなるほど。つまり、死か?」

 

 

 無様に隙を晒すシルビアに一歩近付く。

 

 

「い、いや、ちょっとくらい待ちなさい!」

 

「なるほどなるほど。つまり、死か?」

 

 

 慌てふためくシルビアに一歩近付く。

 

 

「だから待ちなさいってば!」

 

「なるほどなるほど。つまり、死か?」

 

 

 憤るシルビアの前で構える。

 

 

「……物理!」

 

「あぶねっ」

 

 

 使い方がわからない上に俺が容赦をしないので、シルビアはやけくそに魔術師殺しを振り回す。

 

 

「それ絶対使い方間違ってるぞ」

 

「うるさいわね! なにやっても動かないから仕方ないじゃない!」

 

「そうか。じゃああばよ」

 

「え」

 

 

 瞬間、シルビアの両足が飛ぶ。

 

 

「手法としては残酷だが、痛みは思ったよりないだろ。一瞬だからな。じゃあ、死ね」

 

 

 発動させ、傍らに複数枚停滞させていた気円斬を一斉掃射。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 迫る刃を舞空術で回避し、足を再生しながら距離を取る。魔術師殺しから離れてしまったが、背に腹は変えられないのだろう。

 

 ……それにしても、まずいなこれは。

 

 オークのタフさやその他諸々が合わさってか、()()()()()()()()()()()()

 

 

 この再生速度にサイヤ人の超回復が加わるとなると、いよいよまずい。

 死力を尽くしてボコボコにしても、息があれば必ず再生し、さらに強くなるだろう。

 オークとサイヤ人のタフさで、生半可な攻撃はおろか割と強めの攻撃でも耐えられるようになっている。現に数度は殺してるはずなのにピンピンしてやがる。

 だから下手に大技を使ってしまうとヤバいし、もちろん爆裂魔法だって例外じゃない。

 気を渡せばワンチャンあるかもしれんが、一気に二人ダウンするアレはこの状況ではリスクが高すぎる。

 確実に仕留めるにはシルビアが完全に隙だらけになるその時を狙いたいが、尻尾を掴もうにも、恐らく掴めるのは俺しか居ないし、大技を溜めながら尻尾を掴むなんて器用な技は出来ん。

 それに、シルビアは身体を弄れるから自分で尻尾を切り離せるはずだ。尻尾を掴むのはダメだ。

 

 

「んー……埒があかねぇ。よし、戻るか」

 

 

 カズマの知恵を借りるべく、広場に戻る事にした。

 

 

「何呑気に後ろを向いてんのよ! 死になさい!」

 

 

 シルビアはまた魔術師殺しを振りかぶり、脳天めがけて振り下ろす。当たったらやばそうだ。

 

 

「丁度いい、お前も行く――ぞッ!!」

 

「えっ」

 

 

 振り下ろされた勢いをそのままに、魔術師殺しを掴んで思いっきりシルビアごとぶん投げた。案外飛ぶじゃねぇか。

 

 壁を突き破り、目指すは例の広場。桃白白の要領で、シルビアにRide on。

 

 

「ひゃあァァァ!!」

 

 

 なんて声出してんだ。

 

 

「止まるんじゃねぇぞ……!!」

 

 

 

 

 

 

 




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