この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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大変お待たせしました。次はもっと早く上げます。


第五十七話

 前回までのあらすじ

 

 

 なんか静かですね。街の中にはギャラルホルンもいないし、本部とはえらい違いだ。

 

 ああ。火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな。

 

 まっ、そんなのもう関係ないですけどね!

 

 上機嫌だな。

 

 そりゃそうですよ! みんな助かるし、タカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと!

 

 ああ。

(俺達が積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺達が立ち止まらねぇ限り、道は続く――)

 

 

 

 ――――――――

 

 

「あらよっと」

 

「げぶっ!」

 

 

 皆のいる広場に戻ってきたので、跳躍ついでに足元のシルビアを地面に叩き落とす。これくらいなら大したダメージにはならないから大丈夫だろうと勝手に決めつけ、体力を回復するべくアクアの元へ。

 

 

「アクア、ヒール頼む」

 

「はいはーい。……うわっ、身体の中ボロボロじゃない。私のヒールも万能じゃ無いんだから、あんまり無茶しちゃダメよ?」

 

 

 アクアが言うには、どうやら今俺は死にかけらしい。

 自覚はないが、こいつが言うのだからそうなんだろう。まぁだからと言って無茶を辞める事はできないのだが。

 というかアクアで治せない傷とかもう諦めるしかないんじゃないか?

 

 

「無茶してる自覚はないんだがなぁ。まだいける。というかまだ無茶しなきゃいけねぇ」

 

「そうなの? 見た感じではヒデオの圧勝なんだけど」

 

 

 俺自身も圧倒しているとは思うが、どうにも上手くいかない。これだから回りくどい性能を持った奴は苦手なんだ。

 

 

「そう甘くねぇってこった……っと、もう充分だ。サンキューな。そして口を閉じろッ!」

 

「へ――わぶっ!」

 

 

 返事も聞かずにアクアを抱え、その場から飛び退く。

 奇襲を躱すのはもう何度目になるだろうか。

 

 

「復帰が早すぎるんじゃねぇか? もっと休めよ」

 

 

 タイミングを見計らってアクアを逃がしたいが、どうも隙がない。嫌になってくるぜ。

 

 

「上辺だけの気遣いは結構よ? どうせなら誠意を見せて腕の一本でもちぎって見せて欲しいわ」

 

 

 ……ん? こいつ今腕をちぎってほしいとか言ったか?

 ダクネス並にアタマ沸いてんじゃねぇか?

 

 

「……さっきやったのにまたやって欲しいのか。しゃーねぇ、そこを動くな?」

 

「わ、私じゃないわよ! あなたの腕よ!」

 

「何言ってんだそんなんやるわけねぇだろバカか?」

 

 

 常識でモノを考えて欲しい。

 

 

「……殺すっ!」

 

「だからやれるもんならやってみろって言ってんだろ!」

 

 

 アクアを気にしつつ、シルビアの攻撃を潰していく。さっきよりも鋭いがまだいける。

 

 

「おいアクア、わかってると思うがそこを動くなよ!」

 

「あわわわわ……!」

 

 

 シルビアは隙あらばアクアに狙いを変えるだろう。回復役さえ消してしまえば、後はゾンビアタックでどうにかなるからだ。

 アクアがそう簡単にやられるとは思えんが、万が一があってはいけない。

 

 というわけで、早いとこシルビアを退けたいので――

 

 

「片手太陽拳ッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 突きと同じ動作で左手を持っていき、ゆうべカズマにした時と同じ要領でシルビアの視界を潰す。

 ある程度距離があるならば普通のフォームで広範囲に輝かせる必要があるが、今みたいな近距離の場合は狭い範囲の閃光で充分だ。あまりに広いと巻き添えも出る。

 

 

 

「ばっ!」

 

「ぐ……なんのこれしき!」

 

 

 強めの気功波を浴びせたが、ムカつくことに耐えやがった。

 こいつ、やっぱり強くなってやがる。

 

 

「お、耐えるか。さらにもう一発」

 

 

 とは言ってもまだ俺の方が強い。容赦なく追撃を浴びせる。

 

 

「ぐぬ……!」

 

 

 二、三発の追撃でさらに後退させ、漸くたじろがせた。少し不安が残るが、逃がすには充分な隙だ。

 

 

「アクア、今のうちだ!」

 

「わ、わかったわ!」

 

 

 わたわたと駆け出し、カズマ達が待っている方へ逃げていく。

 ダクネスや紅魔族に守ってもらえるだろうと一瞬意識を逸らした隙に、シルビアが視界から消えていた。あっ。

 

 

「逃がさない!」

 

「嘘ぉ!? 助けてぇぇぇ!」

 

 

 そのすぐあとにアクアの悲鳴が聞こえた。

 

 

「ちっ、瞬間移動だけは厄介だな!」

 

 

 全速で接近し、ガードさせる間もなく腕を掴む。そして力任せにぶんまわし――

 

 

「――オラァ!!」

 

「がっ……!」

 

 

 内臓を破裂させるつもりで地面に叩きつける。

 

 

「うちのデンデに手を出した罰だ」

 

「デンデ!?」

 

 

 そう不服そうに睨んでくるが、本当にデンデ感があるから仕方ない。神だし回復できるし。なんならデンデの方がスペック高いまである。

 

 

「さて、怪我はないよな?」

 

「なんだか腑に落ちないんですけど……あっ!」

 

 

 ブツブツとぼやいていたかと思うと、急に青ざめて慌てた様子を見せるアクア。

 

 

「どうした? 漏らしたか?」

 

「漏らしてないわよ!! だから、シルビアを仰向けに寝かせちゃダメじゃない! 満月出てるのよ!」

 

 

 ……こいつは何を言ってるんだ?

 

 俺が満月が出ていたことやシルビアに尻尾がある事を失念しているわけがないだろう。さっきまでだってシルビアに満月を見られないように振舞っていたんだ。

 忘れていたとしたら一つだけ。

 

 

「――シルビアが満月を見たら、大猿になっちゃうじゃない!」

 

 

 こいつのこのアホさ加減だ。

 

 

「このアホ!! せっかく人が見せねぇように戦ってたのに……!」

 

「へ? ……痛い痛い痛い痛い!」

 

 

 都合よくシルビアの鼓膜が破裂していることを願いつつ、アクアにアイアンクローをかましながらシルビアの方へ目をやるが――

 

 

「……へぇ。いいこと聞いたわ。大猿が何かは知らないけれど、その慌てっぷりを見ると私が有利になることは間違いなさそうね!」

 

 

 そんな都合のいい展開が起きるはずも無い。

 最悪だ。この状況で何かを言っても言い訳にしかならないし、シルビアからすれば月を見て何も起きなくても損は無い。

 

 

 ……しゃーねぇ。

 

 

「カズマ! このアホをとっちめとけ!」

 

「えぇ!? なんでよ、なんでよー!」

 

 

 まだ自分のやらかしたことに気付いていないアクアをカズマの元へぶん投げ、ひとまずシルビアから離す。

 

 

「へぶっ」

 

「またやらかしやがって! 大猿の事なんてヒデオが気付いてない訳がねぇだろ!! バカ! ポンコツ! バカ!」

 

「あーー! バカって二回も言った! 二回も言った! だってしょうがないじゃない! 気付いてるって言われてないもの!!」

 

「言うまでもないからな!」

 

 

 ぎゃあぎゃあとうるさいが、じきにアクアが泣かされてマシになるだろう。そんなことよりも、俺は目の前のシルビアを何とかしなくちゃならない。今のところ何も変化がないから、このまま何事もなく杞憂に終わってくれれば一番だが……。

 

 

「……なんともないわね。さっきの様子からすると嘘では無いみたいだけど、純正なサイヤ人じゃないとなれないのかしら……っ!!」

 

 

 突然シルビアの気が唸る。どうやら運良く大猿にならないなんてことはないみたいだ。腹を括るしかないか。

 ともかく今のシルビアには、本能が引き出されるような、あの感覚が襲ってきているはずだ。あと1分も経たないうちに大猿になるだろう。

 

 

「うぐぐ……!」

 

「傍から見たらこんな感じなのか。なるほどなぁ」

 

 

 もう二度と見ることが無いだろうし、折角の機会だからしっかりと見ておく。何を呑気に見物してるんだとカズマに怒られそうだが、ここで体力を減らすわけにはいかないし、下手に攻撃して突然変異が起きてしまえば対処出来る確証がなくなる。

 だからここは黙って大猿にしちまう方が得策だ。

 

 

「ガァァァアア!!!」

 

「うるさっ」

 

 

 姿か大猿に近付くにつれ、声音にも獣らしさが増していく。前回カズマにうるさいと怒られたが、確かにこれはマジでうるさい。

 

 

「さて。とりあえず殴るか」

 

「ガギャァァァ!!!」

 

「だからうるせぇ――つってんだろ!!」

 

 

 大ジャンプの勢いをそのまま蹴りに込め、隙だらけの顎を貫く。

 

 

「ガッ……!」

 

「今ので頭吹っ飛ばねぇとかまじか」

 

 

 手加減無しの全力で殺しに言ったのだが、全く効いていないようだ。

 大猿化の影響で致命傷を追わせても回復に時間がかかると踏んだ上での攻撃だ。最早加減して勝てる相手でもねぇからな。

 

 

「……痛いわね。何すんのよ」

 

「そりゃ喋れるよな。理性ないよりはマシだが」

 

「力が漲ってるわ。今ならなんでも出来そうね」

 

 

 先程までと打って変わって、シルビアの気は大きくなったがとても落ち着いている。賢者タイムのようなものだろうか。

 

 

「……ほんとにそう思うか? 大猿はそんなに万能じゃねぇぞ」

 

「あら、試してみる?」

 

 

 もはや妖艶とはかけ離れたとても醜い笑みをこぼし、こちらを挑発してくるシルビア。この程度で激情したりはしないが、売られた喧嘩は買う。

 

 

「言われなくても――ふッ!」

 

 

 とりあえずもう一度アゴだ。今度は横から揺ら――

 

 

「見えてるわ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 突如、眼前に巨大な壁が現れた。

 まずい、このデカさのビンタをまともに食らったら――!!

 

 

「逃がさないわ! ふんっ!!」

 

「ぐっ!」

 

 

 全身に伝わる衝撃。地面に押し戻される感覚。マズイマズイマズイ。

 

 

「このまま地面に叩きつけてあげるッ!!」

 

 

 地面が迫ってくる。舞空術で無理に減衰すれば骨が死ぬ。かと言ってなにもしなければ全身お陀仏だ。

 

 ……しゃーねぇ。

 

 

「あぁぁぁぁッ!! 舐めんなオラァァァ!!」

 

 

 倍率を15倍にまで引き上げ、激痛に耐えながら全身から気を放――

 

 

 ズガァァァァァン!!

 

 

「……ぺっ」

 

 

 人の形に凹んだ地面からムクリと起き上がり、血の絡んだ唾を吐き捨てる。……うん。

 

 

「――舐めるなとか言ってなかっ」

 

「言うな。それ以上は言うな」

 

 

 内心転がりまくりたい気持ちを抑えてるんだ。これ以上突かないで。

 

 

「……まぁなんにせよ、この程度で死んでくれなくて良かったわ。死んじゃったら大猿がどのくらい強いかわからないもの」

 

「お気遣いどうも。お礼に太陽拳ッ!」

 

「ぎゃあっ!」

 

 

 視界を潰し、気を消してカズマ達の元へ。こんなん策なしでやってられっか。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 地面に叩きつけられたヒデオがすごすごと逃げ帰ってきた。こいつよくアレで生きてるな。

 

 

「どうだ? 勝てそうか?」

 

「流石に大きさに差がありすぎるな。どんだけ殴っても効いてねぇ。というかこっちが痛い」

 

「かめはめ波とかはどうだ?」

 

「あいつを殺れる程の気なんて溜める隙がねぇ。そもそもあいつも撃ってくるんだから、相殺されたり押し返されたりするのが関の山だ。それに撃つとしてもノーガードに撃ち込みてぇな」

 

 

 確かに下手に耐えられて回復されたら元も子もないし今度こそ勝てないかもしれない。まずはそこをどうにかしないといけない。

 

 

「なら私の超爆裂魔法で消し飛ばしてあげましょう!」

 

「お前に気をやる余裕なんてないし、そもそもあの反応速度に当てれんのか?」

 

 

 ヒデオはこう言っているが、気に関してはアテがある。

 

 

「なにおう! ……と言いたいところですが、自信はないです」

 

「正直でよろしい。じゃあ俺はアイツの気を引き付けに戻るから――の前に。カズマ、ダクネス。ちゅんちゅんと剣貸せ。どうせ使わねぇだろ」

 

「どうせって……まぁその通りだが。ほらよ。つーかちゅんちゅん言うな」

 

「騎士としての矜恃が……」

 

 

 俺はボヤきながら、ダクネスは渋々と言った感じで愛用の武器を渡す。というかこいつに騎士としての矜恃なんてものがあったのか。

 ヒデオも似たようなことを思っているようで、何言ってんだこいつと言いたげな顔で。

 

 

「んなもん既にねぇだろ」

 

 

 そう吐き捨てた。

 

 

「なっ!」

 

「おっと、めんどくさくなりそうだからもう行くぜ。カズマ、しっかり作戦考えとけよ!」

 

 

 ヒデオはわなわなと震えるダクネスを放置して、超速で大猿シルビアの元へすっ飛んでいった。

 アイツがシルビアの目の前でちょろちょろ飛ぶことによって、シルビアのヘイトを集めている……が、決定打は未だにない。

 紅魔族も魔法で援護してはいるが、魔術師殺しを吸収してしまったシルビアにはあまり効かず、焼け石に水だ。

 

 対策なんて本当に出来るのだろうか。

 大猿になっただけならまだしも、魔術師殺しで尻尾の根本を覆われてしまっている。

 魔法は効かないし弱点も硬い金属で覆われている。一体どうしろと言うのだろう。

 

 

「諦め……たらヒデオに今度こそぶっ殺されるよなぁ。さて、どうするか」

 

 

 こちらの使える駒は三十名ほどの紅魔族と、大猿シルビアの流れ弾に耐えられるダクネスと、走り回って皆に回復魔法をかけているアクア。そして一発限りの武器を持っているめぐみんと、現在戦闘中のヒデオ。

 かなりの戦力が揃っているが、如何せん相手が悪い。

 魔法は効かないし、物理攻撃も分厚い肉の壁には効果が薄い。

 唯一ダメージを与えられる可能性があると言えばヒデオの気功術とめぐみんの爆裂魔法だが、どちらも準備するまでに時間がかかる。それに爆裂魔法は一発限りだ。絶対に外すわけにはいかない。

 

 ……無理ゲー。

 

 半ば諦めて本当にどうしようと悩んでいると。

 

 

「悪い! そっちに行った!」

 

 

 交戦中のヒデオが大声で危険を伝えてきた。

 

 

「嘘だろおい! ……って流れ弾だけか。おいダクネス、出番だ!」

 

 

 シルビアがこっちに向かって来たのかと内心かなりビビったが、見ると流れ弾が飛んできていただけだった。これならうちのクルセイダーで事足りる。

 

 

「やっとか! わくわく、わくわく……!」

 

 

 必殺……!

 

 

「ダクネスシールド!」

 

 

 説明しよう。

 ダクネスシールドとは、防御とダクネスの性欲処理を出来る一石二鳥の技である。相手の攻撃を無力化し、尚且つこちらは労することなくド変態を満足させることが出来る最強の技である。さっき考えた。

 

 

「くうっ……! こ、これは中々……!!」

 

 

 やはりとてつもないエネルギーなのか、身悶えながら耐えるダクネス。耳まで赤くなってるのは気のせいだろう。

 

 

「『オーバードレイン』!!」

 

 

 体内にある気で『ドレインタッチ』を強化し、ダクネス経由でエネルギーを吸い取る。怪我をせず安全に気を集める事が出来て、尚且つド変態を満足させることが出来る最強の技だ(二回目)。

 

 

「ぬ、くぅ……! この挟まれている感じ! 堪らん!」

 

「あ、やばいこれ以上ははち切れそう。めぐみん、手を出せ!」

 

「えっ、は、はい! お、おぉおぉ!?」

 

 

 エネルギーが大きすぎて体がボン! となりそうな予感がしたので、慌てて近くにいためぐみんに気を流す。しばらくすると、気弾が小さくなっていき、ぽしゅっと消えた。ひとまず危機は去った……が。

 

 

「いくらダクネスが耐えられるといっても限度がある。さて、どうするか……」

 

「カズマ、私はまだまだ行けるぞ。むしろ限界でもこき使って欲しい」

 

「はいはい」

 

 

 めぐみんにもまだ余裕がありそうだが、それでも限度はある。それまでになんとかしないと。

 

 

「やっぱり尻尾を切るしかないのか? だけど気円斬は……弾かれるか。ライトオブセイバーだって多分――」

 

 

 そう言いかけて、止まる。

 確かにただのライトオブセイバーなら効かないだろく。しかし、気で強化すればどうだ? 初期スキルとも言えるスティールがあそこまでの進化を見せたんだ。上級魔法がとんでもない性能になってもおかしくない。

 一か八かだが、あの時もそうだった。やらずにダメと決めつけるよりやってダメとわかる方がよっぽどいい。

 

 

「となると、あとは人選か」

 

 

 流石に爆裂魔法程ではないにしろ、上級魔法を強化するにはかなりの気が必要だ。めぐみんの分も合わせて考えると、一人が限度だろう。

 

 

「俺達が信頼していて、俺達を信頼しているアークウィザード……」

 

 

 こんなもの、考えなくとも当てはまるのは一人しかいない。他の紅魔の人達が悪い訳ではないが、やはり出来ることなら信頼のおける人物に任せたい。

 

 

「ゆんゆん、話があるんだが――」

 

 

 

 ―――――――――――

 

 

 

「らちが明かねぇ」

 

 

 付着した血を払いながら、そうボヤく。

 ダクネスとカズマに剣を借りて立体機動ごっこで斬りつけてはいるものの、当然致命傷にはなり得ていない。まぁサイヤ人の特性を考えると致命傷にならないのはありがたいが――。

 

 

「はっ!!」

 

 

 俺の身体を容易く覆い尽くすデカさの気弾。奴からすれば、手のひらから軽く出したくらいだろう。

 食らえばひとたまりも無い。というか終わる。

 

 

「あぶ……ねぇっ! カズマ、もういっちょだ!」

 

 

 全身と大剣を巧みに使い、上手くカズマ達の元へ受け流す。

 

 

「いってー……。手がヤベェな――おっと」

 

 

 ハエたたきよろしく振り下ろされた腕をカウンター狙いの紙一重で避けるが、これがいけなかった。

 

 

「――っ!?」

 

 

 遅れてきた暴風に巻き込まれ、ぐるぐるとバランスを崩してしまう。大猿の大きさゆえの暴風だろうか。

 備えてさえいれば舞空術で踏ん張りも出来たのだが、そこまで考えが及んでいなかった。

 

 

「そらそらそらそら! さっきまでの! 威勢は! どこにいったのかしら!!」

 

 

 空中でバランスを崩すという隙を見逃して貰えるはずも無く、容赦ないラッシュが襲いかかってくる。

 

 

「うるせぇ黙れ! そして死ね! 繰気斬!!」

 

 

 しかしそこはサイヤ人のプライドが許さなかった。同じ轍は二度踏まない。

 直撃を避け、暴風に耐え、爆音に耳を塞ぎ、罵倒しながら反撃を繰り出す。

 

 狙うは尻尾。

 弧を描いて加速していくそれは、容赦なく大猿の尻尾に襲いかかった――が。

 

 

「ふぅん、その程度?」

 

 

 ギャリィィンと、およそ肉を抉ったとは思えない金属音が響いた。

 

 

「は?」

 

 

 角度やスピードは申し分なく、タイミングも完璧だったはずだ。実際直撃した。切れなかったのは別のイレギュラーが原因だ。

 

 

「……ちっ」

 

「ふふふ。尻尾が弱点なのはこの状態でも同じみたいね。魔術師殺しで覆って正解だったわ。それもこれも、アナタが見逃してくれたお陰よ? ありがとうね」

 

 

 銀に染まった尻尾をわざとらしくゆらめかせ、シルビアは大きくなった口をニタリと歪ませると、さらに言葉を続けた。

 

 

「で、今の攻撃が効かないって事はあなた達にはもう尻尾を斬る術はない。大人しく降伏するって言うなら、アナタは……そうねぇ、中隊の隊長くらいにしてあげようかしら。どう? 悪くない条件でしょ」

 

 

 ここで俺以外の処遇について話さないのはそこにも交渉の余地があると見ているからだろう。確かにそれは正解だが、そもそもの話、こめっこがいるのに俺が降伏なんてするわけが無い。

 

 

  「なに言ってんだ。今のはほんの挨拶だ。よって、俺がてめぇを直々にぶちのめす事には変わりねぇ。つーか幹部からランクダウンしてんじゃねぇか」

 

「だってアナタむかつくもの」

 

「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」

 

「そういうところ――よッ!!」

 

 

 俺を叩き落とさんばかりの勢いで巨腕を振り回す――が、三度目ともなれば避けるのは容易い。ひらりと躱し、そのまま少し距離を取る。今ので大体の攻撃範囲と反応速度は把握した。

 

 

「まずはその鬱陶しいスタミナだ。ガス欠にしてやる」

 

 

 通常時とは違い、大猿はスタミナの消費が激しく、回復もかなり遅い。そこを上手く突ければ、奴にトドメを刺すことも可能だろう。まぁ、かなりの無茶をしないといけないが。

 

 

「13……キリが悪いな。15倍」

 

 

 感覚が麻痺したのか、激痛が走っているはずなのにそれ程痛くない。いよいよアクアにブチ切れられそうだが、犬死よりはマシだ。さて。

 

 

 ――奴の反応速度を超えろ。

 

 

「ふッ!!!」

 

「また消えた。見えなくとも、音と気で――!?」

 

 

 あまりの速さにシルビアが面食らっているが、まだだ。

 もっと、もっとだ。もっと速く、疾く、迅く。

 

 

「――ッ!!!」

 

 

 音の壁を突き破り、大剣と小太刀で身を削いでゆく。一滴の返り血も許さない。

 

 

「音が後から……!? 気もあてにならない! ぎゃあっ! 目が……!」

 

 

 音も気も、痛みですらも追い付かせない。

 

 

「再生が遅い……!? そうか、体が大きいから――ぎっ!!」

 

 

 思考すら速さに溶けそうになるが、もう考える必要は無い。

 

 

「「うおおおおぉ!!」」

 

 

互いの咆哮が紅魔の里に轟く。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「はっぇぇぇ!! すごい、すごい! 全く目で追えない!」

 

「これが脳筋の底力か……!」

 

「ヒデオ兄ちゃんすっごーい!」

 

 

 ヒデオの超速立体機動に大興奮の紅魔族。無理もない。俺だって騒ぎたい。

 

 時折ソニックブームのような衝撃もするし、やはりというか、遂にというか、ヒデオは音速を超えたのだろう。

 

 あれ、なんだか目頭が熱い。

 

 なんだかよくわからない感動を味わっていると、チラチラとヒデオの方を気にしていたゆんゆんが。

 

 

「あの、カズマさん。さっき言ってた事ですが、本当に私でいいんですか? 他にもっといい人が……」

 

 

 おそるおそる尋ねてきた。

 きちんと説明したはずだけど、どうにも納得が行かないらしい。

 ヒデオがここにいれば楽なんだが……。

 

 

「ゆんゆんだからこんな事頼めるんだよ。ほら、俺達パーティと一番付き合いが長い友達だろ? それと、さっきは言うのを忘れたが多分ヒデオが選ぶとしてもゆんゆんを選ぶと思うぞ」

 

 

 言いたかないが、この子かなりめんどくさい。

 

 

「友達……わ、わかりました! 精一杯頑張るので見限らないで下さい!!!」

 

 

 なんだろう。ゆんゆんを見てると、この子の将来がすっごく不安になってくる。チャラ男に騙されてホイホイついて行ったりしそうなんだが。

 

 

「……めぐみん、お前ちゃんとこの子の友達なの? お前が近くにいたならこの歪みっぷりはおかしいと思うんだが」

 

「何を言いますか。ゆんゆんのぼっちは生来のものですよ。私が介入したとて、そう簡単に根っこは変わりませんよ」

 

「もうぼっちって言わないでよ! 私にだって、友達いるんだから!」

 

 

 どうやらぼっち呼ばわりされるのは気に食わないらしく、ぷんすことめぐみんに突っかかるゆんゆん。

 

 

「ほほう? ならその名を聞こうじゃないですか。ちなみに私達と紅魔の皆といつも入り浸っているウィズの店のメンバーとサボテンはなしですからね」

 

 

 流石にそれはゆんゆんを嘗め過ぎだろう。いくら変わり者とされる紅魔族で引っ込み思案のゆんゆんでも、流石に一年以上アクセルで過ごしているなら一人くらい――

 

 

「……う、うわぁぁぁん!」

 

 

 突然、ゆんゆんが泣きながら駆け出していった。

 

 …………。

 

 

 俺達以外に友達居ないのか……。

 というか、たまにダストとつるんでいるのを見かけるが、ダストは友達じゃないのだろうか。なんだか一瞬ダストが可哀想になった気もしたが、よくよく考えたらゆんゆんにだって友達を選ぶ権利くらいあるよな。うんうん。

 

 そんな事を考えていると、めぐみんが勝ち誇った顔で。

 

 

「今日も勝ち!」

 

「やめたげて」

 

 

 鬼かこいつは。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
つぎは大体の展開がまとまってるのでもう少し早いと思います! 気になる所がございましたら感想欄で!
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