この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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シグルドとスカディを出しましたた(課金並感)


第五十九話

 

 

「フフフ……。あんな簡単に……フフフ……」

 

 

 まさか己の渾身の必殺技が簡単に天まで運ばれ汚い花火にされ、挙句の果てに冒険者カードの討伐欄には[グロウキメラ シルビア]の文字。まるでお情けのようなその事実は、めぐみんの心をついにへし折った。

 討伐から一日が経った今でもめぐみんは落ち込んでいて、虚ろな目で冒険者カードを眺めていた。

 

 

(……なぁヒデオ、なんとか言ってあげたらどうだ? お前が落ち込ませたようなものだろう)

 

(元凶がなにか言っても傷口に塩を塗るだけだ。ゆんゆんが居ればいいんだが……)

 

 

 ゆんゆんさえ居てくれれば、なんやかんやでめぐみんを元気づける事が出来るだろうと思ってそう言ってみるが。

 

 

(さっきアクアと出かけた時見かけたんだけど、【未来を切り拓く者】とか言われてちやほやされてたぞ)

 

 

 そう言われて気の感知で探ると、確かにゆんゆんは複数の紅魔族に囲まれている。応援は期待出来ない。

 外に出て行けばめぐみんも同じように呼ばれるかもしれないが、そのメンタルは今のめぐみんにはない。

 ちなみにアクアは謎に高い建築技術を買われ、紅魔族にお呼ばれしている。まぁアイツがいても邪魔にしかならないのが明白なのでちょうどいいだろう……と、考えていると。

 

 

「ねーヒデオ兄ちゃん。姉ちゃんはなんでずっとうつむいてるの? おなかいたいのかな?」

 

 

 こめっこが買ってきたお菓子をもきゅもきゅしながら、そう尋ねてきた。可愛いが、いつも自信満々のめぐみんが落ち込んでるのが珍しいようで、しきりにチラチラ見ている。

 

 

「んー、そうならいいんだがなぁ。ただちょっと昨日の出来事がショックで立ち直れないみたいだな」

 

「きのうは姉ちゃんもゆんゆんもヒデオ兄ちゃんもかっこよかったよ?」

 

「ありがとよ。それめぐみんに言ってきてくれねぇか?」

 

「わかった!」

 

 

 愛する妹の激励ならあるいは。

 

 と、思ったのだが。

 

 

「きのうの姉ちゃんはかっこよかったよ?」

 

「ありがとうございますこめっこ。……ちなみに、一番かっこよかったのは?」

 

「んーと、ヒデオ兄ちゃん!」

 

「ぐはっ」

 

 

 どうやら裏目に出たようだ。仕方ないな。かっこいいもんな超サイヤ人。

 

 

(余計に落ち込んだじゃねーか!)

 

(えぇ……これ以上どうしろと)

 

(もういい! 俺が行く……行くべきだった)

 

 

 カズマはそう言ってすくっと立ち上がり、めぐみんの元へ歩を進めた。

 

 

「よ、随分意気消沈してるな」

 

「……カズマ」

 

「そう落ち込むなって。あれはヒデオがおかしいだけだ。お前が弱いわけじゃ――」

 

「普段はアクセル一頭がおかしいと言われてるのに、そのおかしさですら負けた……」

 

 

 ダメだこりゃ。

 

 

(どうすりゃいいんだよ!)

 

 

 カズマが戻ってきてそんな文句を垂れてきた。

 

 

(どうしろってもなぁ。あの様子だといつもみたいに煽ったら逆効果だろ? じゃあもうお手上げだ)

 

(なんだこいつ役に立たねぐぁぁぁっ! 頭潰れる! 潰れちゃう!」

 

(なっ、羨ましいぞカズマ!)

 

 

 悔しがっているならまだしも、ずんと落ち込んでいては励ますしか方法は無い。そもそもなぜ落ち込んでるのかがちょっと理解できない。いつもなら悔しがりながらも奮起するはずだが……。もしかして、昨晩のあれが原因か? めぐみんなりに爆裂魔法を極めたと思っていて、そこにオークの一件でああ思い立ったんだろう。しかし俺が現実を見せつけて、極めたと思っていた自分が不甲斐なくて――って感じか? もしそうなら、やはりカズマに任せるしかない。

 

 

(おいカズマ、今から話すことを聞いたら、お前なりに考えて対処してくれ。いいな?)

 

(いてて……これ以上面倒事は増やすなよ)

 

(まぁそう気にするな。実は昨日の夜、お前が寝てる隣でめぐみんに爆裂魔法のことで相談をされたんだが――)

 

 

 カズマは終始黙って聞いていたが、やがてすくっと立ち上がり。

 

 

「めぐみん、デートしようぜ」

 

 

 落ち込むめぐみんに、そう言った。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 紅魔の里から少し離れた、とても大きな岩山が望める丘。

 

 

「……っと、この辺でいいか」

 

 

 大きめのシートを地面に敷き、その上にどかっと座る。めぐみんは少し離れてちょこんと座り、未だ元気はない。

 

 

「さて、なにか俺に言いたい事はないか?」

 

 

 ヒデオから聞いた話では、どうやらめぐみんはやはり爆裂魔法のことで悩んでいるそうだ。爆裂魔法に関係することが何かは教えてくれなかったが、どうも深刻らしい。

 

 

「……すみませんね、本来は私が自ずから言うべきことなのに」

 

「気にするなよ。俺達の仲じゃないか」

 

 

 カッコつけてそう言っているが、実際はほとんど知らない。……とは言え、もう付き合いも長い。こいつが何に悩んでいるのかは大方検討がついている。

 

 

「……カズマは優しいですね。ヒデオもそうでしたが。察しのいいカズマなら、私が何に悩んでるのかもうわかっていると思います。それでも一応ですが、聞いておきますね」

 

 

 そう言って二、三度深呼吸をすると、めぐみんは意を決した顔で。

 

 

「優秀な魔法使い、欲しいですか?」

 

 

 ――そんな、かつてのめぐみんからは信じられないセリフを発してきた。

 

 

「……優秀な魔法使い、か。それはゆんゆんとかこの里の人とかみたいなってことでいいんだな?」

 

「はい。欲しいですか?」

 

「欲しくないと言えば嘘になるが――」

 

 

 上級魔法を使える者が居れば戦略の幅はぐっと広がるし、ヒデオの負担も減らせるし、危険な目に遭う事も少なくなるだろう。

 

 そう言うと、めぐみんは少しだけ寂しそうな顔で。

 

 

「……やっぱりそうですよね。決めました。私、爆裂魔法を卒業します」

 

 

 今にも崩れそうな笑みを浮かべて、そう言ってきた。

 

 

「おいおい、卒業なんてのは言い過ぎだろ。冒険に行かない日とかはいつもみたく爆裂散歩に行ってもいいだろ」

 

「いえ、自戒のためにも爆裂魔法は封印します。それに、上級魔法の熟練度を上げるためにはそんな暇もないですし」

 

 

 めぐみんの覚悟は本物らしく、声を震わせながらもそう言い切ってみせた。

 

 

「……あの、カズマ。ひとつだけお願いがあるんですが」

 

「俺に出来ることなら任されよう」

 

「私の代わりに、私の冒険者カードで、上級魔法を習得してください」

 

 

 そう言っておずおずと冒険者カードを差し出してくるめぐみん。どうやら本人以外が弄ってもスキルの習得は可能らしい。なんだよ、それなら無理やり覚えさせたらよかったんじゃないか。今更遅いが。

 

 

「本当にいいんだな?」

 

「えぇ。揺らがないうちにどうぞ」

 

 

 余程未練を断ち切りたいのか、めぐみんは震えながらもうこちらを見ていない。

 ……めぐみんがここまでの覚悟をしたんだ。俺もそれに応えてやらないとな。

 

 

「よし、全部割り振った……が。最後に一発だけ、お前の爆裂魔法を見せてくれないか? 普通のでいい」

 

「……しっかりと目に焼き付けて下さいね。これが正真正銘最後の爆裂魔法です。……的はどうします?」

 

「そうだな、あそこのでかい岩でいい」

 

 

 ここから見えるとても大きな岩山にある、そこそこでかい岩を指さす。

 

 

「……了解です」

 

 

 めぐみんはその岩に狙いを定めると、ずずっと鼻をすすっていつもの聞きなれた詠唱を始めた。

 あたりに風が巻き起こり、大地が揺れる。小柄な体からは想像もつかないとてつもない魔力が一点に集められ――!!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 カズマ達を見送った後、俺とこめっことダクネスとちょむすけは、再びねりまきちゃんの実家の食事処に来ていた。

 金の力に任せこめっこと共に暴飲暴食していると、一通り食事を終えたらしいダクネスが。

 

 

「……ヒデオ、本当にカズマに任せっぱなしでいいのか? 確かにあいつはパーティのリーダーで、頼りになる時はなる。しかし、落ち込ませた原因はお前にも一因があるんだろう? お前も説得してもいいんじゃないか?」

 

 

 口元を上品に拭いながら、そんな事を言ってきた。

 

 

「普段のめぐみんなら煽ってキレさせて終いだ。けど、今は状況が違うんだよ。今のめぐみんは俺にだけは慰めて欲しくねぇはずだ。それに……めんどくせぇから終わってから察しろ」

 

「……お前はいつもそうやって大事な事をはぐらかすな。まぁ私も人のことは言えないが」

 

「あん? ララティーナ、お前でも悩み事あんのか?」

 

 

 常に煩悩と欲望をさらけ出しているダクネスに今更悩みなんてあるのだろうか。

 

 

「とりあえず人前でララティーナと呼ばれるのが目下の悩みだな」

 

「じゃあ二人きりの時にでも呼べってか? 急に彼女面すんのやめろよ。あまり思わせぶりな事を言うなよ。好きになるぞ」

 

「彼女づ……!? 好……!?」

 

 

 なにやら顔を赤らめて驚くダクネスだが、乙女かとツッコみたくなる。というかこれはこいつが悪い。童貞にそんな思わせぶりな事言ったら告られて振るまでがワンセットだぞ。

 未だ狼狽えるダクネスに若干の嗜虐心を覚えていると、こめっこが可愛らしく首をかしげて。

 

 

「ヒデオ兄ちゃんは金髪のおねぇちゃんが好きなの?」

 

 

 おそらく純粋に、そう尋ねてきた。

 

 ふむ、好きか嫌いかと聞かれれば好きと答えるくらいには好きだな。まぁこれが恋愛なのか友愛なのかは定かではないが。

 

 

「ん? まぁそうだな。愛してるぜララティーナ」

 

「ぶふっ!?」

 

「うわ汚ねっ」

 

「なおっ!?」

 

 

 ダクネスはあろう事か飲んでいたお茶を吹き出してきた。おかげでちょむすけごと顔面が濡れた。

 生憎ダクネスと違い俺はお茶をぶっかけられて悦ぶ変態ではない。というかちょむすけが驚きのあまり頭皮に爪を立ててきて痛い。

 

 

「あぁもうめちゃくちゃだよ。……ねりまきちゃん、お茶こぼしたからタオルくれる? ちょむすけのぶんも」

 

「はーい。少々お待ちを」

 

「げほっ、げほっ……お前が変な事を言うから……」

 

「普段これより変な事口走ってる奴が何を言ってんだ。というか貴族でお前くらいの年齢ならパーティとかで結婚を申し込まれるのも多いだろうに」

 

 

 ダクネスは性癖と若干割れすぎている腹筋を除けばかなりの美少女だ。おっぱいも大きいし、家柄の良さとおっぱいの大きさも相まって、公の場とかで縁談を持ちかけられたりすることも多いはずだ。

 

 

「それとこれとは話が別というか……。その、言い方は悪いが貴族連中は欲望が丸見えなくせにおべっかやらで隠してくる連中ばかりでな。お前達のように素直な気持ちをぶつけてくる者は中々に居ないのだ」

 

「つまりお前の性癖をさらけ出しているのはその弊害だと? 嘘こけ、あれがお前の本性だ」

 

「!?」

 

 

 なにやら顔を赤くして掴みかかってくるダクネスを軽くいなしながら食事を続けていると、見知った気がこの店にやってきた。

 めんどくさい予感しかしない。

 

 

「ねりまき、ここにヒデオさんがいると聞いて来たんだが――あ、居た!」

 

 

 予想通り、紅魔族随一の発育(本人談)のあるえがやって来た。

 

 

「ようおっぱ――あるえ。何の用だ?」

 

「おっぱ……。流石の私も名前と胸を言い間違えられるとは思いもしていなかったよ」

 

「気にするな。ちなみに今は食事中だしこの後はこめっこと遊ぶ予定だから小説の取材とかは無しな」

 

 

 先手を取られると断るのが難しいので速攻で無理だと突き付けておく。どうせ抗ってくるが。

 

 

「そんな! せっかく【未来を切り拓く者】ゆんゆんへの取材を早めに切り上げてきたのに! そこをどうか! 後生だよ! 私とヒデオさ……くんの仲じゃないか!」

 

「うるせーぞおっぱい」

 

「うるせーぞおっぱい!?」

 

 

 これ以上余計な事を喋らせるわけにはいかない。今だってダクネスが訝しげな視線を送って来てるしな。

 

 

「タオルお持ちしましたー……ってあるえ、なんで固まってるの?」

 

「気にしなくていいぞねりまきちゃん。タオルありがとう」

 

 

 ありがたくタオルを受け取り、ちょむすけを拭いてやっていると。

 

 

「!」

 

 

 気の感知にズンときた。かなりでかい。

 これは……。

 

 

「……とても大きい魔力だね。誰かが新魔法でも開発したのかな?」

 

「もしかして昨日のゆんゆんとめぐみんに感化されたのかもね」

 

 

 固まるのをやめたあるえとねりまきちゃんがそう言うが、そんなものでは無い。

 

 

「……ヒデオ兄ちゃん、なんだか嬉しそう?」

 

 

 そうか、俺は嬉しいのか。

 

 

「いや、なんでもないんだ。ただ――」

 

 

 俺達のリーダーは確かに弱い。すぐ逃げるし、弱音を吐くし、調子に乗りやがる。しかし、やる時はやる男なのだ。

 

 

「カズマに礼を言わなきゃな、と思ってな」

 

 

 そう呟いて、いずれ来る爆音に耳を傾けた――。

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 一通りあるえをあしらい食事を終えてめぐみんの実家に帰ってきてから数十分後。

 

 

「――というわけで、負けませんよヒデオ!」

 

「どういうわけだよ」

 

「ですから120点で爆裂魔法が進化したんです」

 

「???」

 

 

 カズマと共に帰ってきためぐみんが開口一番そんな事を言ってきた。めぐみんの気が大幅に増えているところとこの様子を見て大体察しはつくが、言っていることは全く理解できない。

 

 

「いずれあなたの力を借りずとも、超爆裂魔法を越えた、究極爆裂魔法を編み出してあなたに打ち勝ってやります!」

 

「その場合俺死なねぇか? まぁいいや。せいぜい精進しろよ」

 

 

 カズマがどう説得したかは知らないが、めぐみんは先程とは打って変わって元気な様子で殺害予告をかましてきた。

 

 

「ヒデオよ、俺に何か言うことはないか?」

 

「ありがとうとだけ言っておくぜリーダー」

 

「どいたま!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 めぐみんが爆裂道を歩む決意を固めてから二日後。

 

 

「ばっか、そっちじゃねぇって。あぁもう貸せ!」

 

「あー! 順番守りなさいよ!」

 

「お前が下手くそなのが悪い!」

 

 

 ピコピコと電子音を鳴らし、カズマとアクアはどこかから見つけたらしい携帯ゲームに興じていた。運良くその場所は俺による破壊が及ばなかった上に、そもそもその施設は紅魔族ですら開けられない構造とセキュリティだったので中身は無事だったらしい。

 それをどうして開けられたかと言うと、開けたカズマ曰く『日本人ならワンチャンわかる』と言っていた。意味わからん。

 

 

「帰りたくねぇ……」

 

 

 そうぼやき、ゲームをしている二人のそばで項垂れる。わかってはいたが、いざとなると辛い。

 

 

「もう、昨日決めたじゃないですか。今日アクセルに帰るって。起きてください」

 

「待てめぐみん。ヒデオはちょっとやそっとでは起きないぞ。逆に考えるんだ。私達が起こすんじゃなく、ヒデオが起きなければいけない状況を作ればいい、と」

 

「ふむ……いいかもしれません。その内容は?」

 

 

 何かをやらかせば俺がそれを咎めに来るだろうという考えがあるのだろう、めぐみんはダクネスに続きを促したのだが。

 

 

「まず私が」

 

「ダクネスに期待した私が馬鹿でした」

 

「まだ何も言っていないのだが!?」

 

 

 圧倒的な速さでダクネスの戯れ言を遮った。

 

 

「恐ろしく早い食い気味……俺でなきゃ見逃しちゃうね」

 

「あ、ヒデオ。もういいんですか?」

 

「おう。別れるのは惜しいが、よくよく考えたらすぐに来れるしな」

 

 

 そう、俺は舞空術も瞬間移動も使える。一人だけならば、最短距離ですぐに着く。

 

 

「そうですか。ならそろそろ行きましょうか。ほら二人とも、ゲームなら家でもできるでしょう。行きますよ!」

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 紅魔の里の入り口には、大勢の紅魔族が見送りに来ていた。

 

 

「ゆんゆんはまだ居るのか?」

 

「はい。もう少し英気を養ってから……あ、そうだ。紹介します。私の友達の、どどんこさんとふにふらさんです」

 

 

 ふむ、その名は聞いたことがあるぞ。確かめぐみん曰く、ゆんゆんに集ってたとかなんとか。けど、ゆんゆんがこんなにも嬉しそうに紹介してくるってことは本当に仲良くなったのかもな。流石は【未来を切り開く者】って二つ名を付けられただけあるな。

 

 

「どどんこです。ゆんゆんの友達始めました。ちなみに今特定の人はいません!」

 

「ふにふらです。ゆんゆんの友達やってます。好みのタイプは強い人です!」

 

「ヒデオだ。ゆんゆんとは……うーん、ただならぬ間柄の男だ」

 

「「!?」」

 

 

 なぜかギョッとしてゆんゆんと俺を交互に見比べ始める二人。説明がめんどくさいからこう言ったが、ちょっとまずったか。

 

 

「ヒデオさん。もっと言い方ってものが……」

 

「そうか? まぁいいだろ。じゃ、また今度な」

 

「はい!」

 

 

 自信に溢れた良い返事を背に受け、カズマ達の元へ向かうと、こめっこが俺の方に気付き、とてとてと駆け寄ってきた。可愛い。

 

 

「ヒデオ兄ちゃん! これ、お父さんから!」

 

「ん? なんだこれ」

 

 

 こめっこから謎の杖のような物体を渡され、はてなと首を傾げる。親父さんからと言っているが、なにかの魔道具だろうか。

 

 

「えっとね、じゅーりょくはっせーそーちっていうらしいよ! はいこれ、説明書!」

 

 

 なるほど、そーいやそんなんあるとか言ってたな。ありがてぇ。

 

 

「ありがとよ。なになに……」

 

 

 《魔力式重力発生装置。これを対象に突き刺し、重力を設定して魔力を込めると、周囲10メートルに重力が発生する。倍率は100倍が最大。なお、範囲内に術者が居ないと重力は発生しない為トラップには使えない》

 

 

「このデメリットも俺の使い方じゃ好都合だな……裏にもなにか書いてあるな」

 

 

 《追伸。こめっこはやらん》

 

 

「……」

 

 

 無言で説明書を丸め、投げ捨てて焼き尽くした。

 

 

「ヒデオ兄ちゃん、どうかしたの?」

 

「いや、なんでもねぇよ? ありがとなこめっこ。親父さんによろしく言っといてくれ」

 

「わかった!」

 

 

 その後もあるえやねりまきちゃんや肉屋のおっさん、そけっとさんやぶっころりーなどに挨拶をして周り、ついにその時は来た。

 

 

「こめっこ、私はまたしばらく家を空けますが、いい子にしてるんですよ?」

 

「うん! ヒデオ兄ちゃんもばいばい! また遊ぼーね!」

 

「くっそ可愛い。おう! またな!」

 

 

 紅魔族たちに見送られ、名残惜しくも紅魔の里を後にした――。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 帰りはテレポートでアルカンレティアまで送ってもらったので、割とすぐに帰って来れた。まぁアルカンレティアで余計疲れたのは言うまでもない。

 

 

「あー疲れた。なんか何年も帰ってきてない気分だ」

 

 

 ヒデオにしては珍しく、だらんと身体を投げ出して転がっている。ちなみに女性陣は三人とも風呂に入っている。

 

 

「俺も、もう当分はずっと家に居たい。シルビアの討伐賞金も貰えるし、当面は働かなくていいだろ。しかしなんだろうか、この大事なイベントを逃した感は」

 

 

 ヒデオは里を壊滅させたのは自分自身だと主張して賞金を紅魔族に譲り渡そうとしたが、なにやらプライドが許さないらしく受け取りを拒否された。それとは別になんだか物足りない感がある。なんだろうか。

 

 

「そうだなー。修行もやる気が出てからで……あ、そうだ。ウィズに土産やんねーと。よっこいしょ」

 

 

 おっさん臭いセリフを吐きながら起き上がると、そそくさと荷解きを始めるヒデオ。

 その時、ふともう一つの気になっていたことを聞いてみる。

 

 

「そう言えば、バニルが言ってた重大な選択ってのはなんだったんだ?」

 

「知らん。気付かねぇうちにやっちまったんだろかついでに何か買ってこようか?」

 

 

 ヒデオは解いた荷の中から怪しげなふろしきを取り出すと、瞬間移動すべく気を探り始めた。ついでにお使いもしてくれるそうなので、遠慮なく頼んでおこう。食料もほとんど無いしな。

 

 

「出掛ける前に食料はほとんど無くしてたから、出来れば明日の分までの食材買ってきてくれ」

 

「了解。……お、見つけた。じゃあ行ってきます」

 

「いってらー」

 

 

 ヒデオを見送ると、ふっと気が抜ける。ヒデオほど頑張った訳では無いが、それでもかなり疲れた。

 

 

「なーお」

 

「お、ちょむすけ。お前も疲れたか?」

 

 

 さらさらふわふわの毛玉を撫でて癒されていると、誰かが屋敷に来る気配がした。

 

 

「ごめんください、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

 

 直感でわかる。これ面倒事だ。この丁寧な口調と落ち着いた声からしてかしこまった職業に就いている人の可能性が高い。そういう人がわざわざ屋敷に来るってことは、それはつまりそういう事なのだ。

 

 

「……」

 

 

 居留守しよう。当分は面倒事なんていらねぇ。ずっといらないけど。

 

 

「あのう、どなたかいらっしゃいませんか? 私、ダスティネス卿の使いで来た執事のハーゲンと申します。ララティーナお嬢様に火急の用があり参りました」

 

 

 ダクネス関連……またお見合いか? いや、それはないか。親父さん説得して間もないもんな。なんにせよ早く帰ってくれるのを待つ……いや、ダクネスが風呂から上がるのが早いか? なら、ここで俺に出来ることは。

 

 

「……消すか」

 

 

 ダクネスや他のみんなにも知らせず、一人で処理すべきだろう。ドレインタッチで気絶させてその辺に捨ててこよう。

 潜伏スキルを駆使し、音もなく立ち上がろうと――。

 

 

「カズマー、上がりましたよー……ってどうしたんですか? そんな怖い顔して」

 

 

 したところでめぐみんがやってきた。

 まずいぞ。めぐみんが上がってきたということは、ほかの二人が来るまでそう時間もない。それに、めぐみんの事だ。頼られたら喜んで爆裂魔法をぶっ放すとか言い出すだろう。

 

 ……。

 

 

「悪いなめぐみん」

 

「か、カズマ? 急にどうしたのです――」

 

 

 めぐみんの肩に手を置き、そのままドレインタッチを――

 

 

「あのう、やはりどなたかいらっしゃいませんか?」

 

 

 使おうとしたところで、声の主がまたもドアをノックして呼び掛けてきた。

 

 

「ちっ」

 

「来客のようですね。舌打ちしました?」

 

「してない」

 

 

 めぐみんが気付いてしまった以上、招き入れる他ない。せめて来たのがアクアならアイツも共犯に出来たのに。

 

 

「ごめんくださーい」

 

「はーい。今開けまーす」

 

 

 扉を開けると、そこには執事服を来た老紳士が立っていた――。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「おっすウィズ」

 

 

 からんころんと心地よい音を鳴らし、なにやら作業中の店主に挨拶する。

 

 

「あ、ヒデオさん! 帰ってきたんですね!」

 

「おう。ついさっきな。で、これ土産だ」

 

「わざわざありがとうございます! お茶でも飲んで行きますか?」

 

「貰おう」

 

 

 椅子に腰掛け、お茶が出て来るのを待っていると、件のクソ仮面がどこからともなくにゅっと現れた。

 

 

「む、尻尾付きの小僧か。よく来た……おやおや、おやおや?」

 

「……なんだよ」

 

 

 やけに腹立つ顔でジロジロと俺の全身を舐めるように見てくるバニル。なんだか知らんがすごく腹立つ。

 

 

「いやはや、尻尾がないということは()()()を選んだか。ふむふむ、それも良し」

 

 

 どうやら俺は既に選んでいたらしい。はて、そんな記憶はないが。

 

 

「そんな記憶ねぇぞ?」

 

「覚えていないのも無理はない。結果が重大なだけで選択そのものは他愛ないものだからな。まぁ今更答えを言うつもりもないが」

 

「あ?」

 

「お、苛立ちの悪感情、美味である!」

 

 

 ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、屋内なので我慢した。

 

 

「お茶が入りましたよー……あ、バニルさんおかえりなさい。バニルさんもお茶飲みますか?」

 

「いや、我輩はよい。それよりその後ろにある嫌な予感しかしないふろしきはなんだ?」

 

「あ、これはヒデオさんからのお土産ですよ。まだ開けてないからわからないんですが、魔道具の類かと」

 

 

 ウィズがそう言うと、何故かバニルが口元を歪めた。そして、おそるおそる――

 

 

「……尻尾ロスの小僧、これを作ったのは誰だ?」

 

 

 そう尋ねてきた。

 

 

「めぐみんの親父さんのひょいざぶろーだ」

 

「……」

 

「あー!! バニルさんやめてください! 無言で壊そうとしないで!」

 

 

 どうやら余程ひょいざぶろー製の魔道具が憎いらしく、ふろしきを叩きつけようとしてウィズに止められていた。

 

 

「おいおい、折角の土産を壊そうとすんなよ。それはお前じゃなくてウィズへの土産だぞ」

 

「何を呑気に……! もしこのぽんこつ店主がこの碌でもない魔道具を気に入り、我輩のいないうちに大量発注したらどうしてくれる!」

 

「いいじゃねぇか。回してこうぜ経済」

 

 

 金は留まらせずに回らせるべきだ。その意識を一人一人が持つ事で景気が良くなるってじっちゃが言ってた。じいちゃん俺が産まれる前に死んでたけど。

 

 

「見通す大悪魔の名において予言してやろう。その経済はこの店で止まるとな」

 

「奇遇だな、俺もそう思う」

 

「そう思うなら――む。……ククク、フハハハハハハ!!」

 

 

 セリフを途中で止めると、バニルは何故か突然高笑いし始めた。

 ……嫌な予感しかしねぇ。

 

 

「ククク……小僧、中々に災難に巻き込まれるな。とは言っても今回のはそこまで過酷ではないが……フハハハハハハ!!」

 

「なんだよ、気になるじゃねぇか。最後まで教えろよ」

 

 

 紅魔の里に行く前もそうだが、いつも大事な所を端折りやがる。おかげで気になってしょうがねぇ。

 

 

「教えるわけがなかろう。その方がより悪感情を頂けるのでな」

 

「けっ、いいように言い逃れやがって。どーせ俺が強くなりすぎて未来が見にくいから言えねーんだろ」

 

「ぬかせ。なんの影響も出ておらんわ。ただちょっと気合がいるだけだ。自惚れるな小僧」

 

 

 影響出てんじゃねぇか。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ただまー……って、何やってんだお前ら」

 

 

 ウィズの店に行っていたらしいヒデオが、大きな買い物袋を抱えて帰ってきて、開口一番そう呆れた。

 

 

「あ、ヒデオも手伝って! このおじさんの記憶を抹消して面倒事を消し去るの!」

 

「いやヒデオ、こちらを手伝ってくれ! 私だけではこのバカふたりを抑えきれないのだ!」

 

 

 めぐみんは既に魔力をドレインされ尽くし、ピクピクと横たわってちょむすけにぺろぺろされている。今頼りになるのはヒデオしかいない。

 

 

「バカとはなんだ! いいか、冷静に考えろ。またもや魔王軍幹部を討伐した俺達には充分暮らしてける程の金がある。ただでさえ今回も死にかけたんだ。これ以上の厄介ごとは要らねぇんだよ!」

 

「この筋金入りのニートめ! 金があろうとなかろうと、困っている市民を助けるのは冒険者の務めだ! そのいち市民を暴力でねじ伏せようなどあってはならん! ヒデオ、やってしまえ!」

 

「今まさに暴力(ヒデオ)でねじ伏せようとしてる奴が言えるセリフか――あぁぁぁ!!!」

 

「そうよダクネス! あなたは優しい子よ! 筋肉ゴリラのヒデオに頼るなんて非道をするわけないわよ――きゃあぁぁあ!!!」

 

「話進まねぇからちょっと外でてろ」

 

 

 ヒデオはぎゃあぎゃあと喚く二人を軽々ハーゲンから引き剥がし、ぺいっと玄関に投げ捨てた。

 

 

「うちのアホどもがすまねぇな。後できつく言っておく」

 

「タナカヒデオ殿、ですね。私はハーゲンと申します。ララティーナお嬢様がいつもお世話になっております。お噂はかねがね」

 

「ご丁寧にどうも……で、ハーゲンさん。ダクネスに用があってきたんだろ?」

 

「はい。実は……」

 

 

 余程のことがなければ面倒な事になるからこの屋敷には来るなと言っておいたはずだが、それを破ってまで来るとはいったい何用だろうか?

 

 

「お嬢様の唯一の取り柄がなくなってしまうかもしれないのです!」

 

「なに、そいつは一大事だ! こいつからこのドスケベボディを奪ったら筋肉しか残らね痛えぇぇぇ!!!」

 

 

 失礼極まりない事を言ってきた愚か者のこめかみを優しく撫でてやると何故か暴れだした。はて?

 

 

「もっとこう……防御力とか不屈の心とかあるだろう! お前は私の防御力に全幅の信頼を置いてくれているんじゃなかったか!?」

 

「それでもお前の取り柄はそのいやらしい体つきだと断言出来る」

 

「ぶっ殺!!」

 

 

 顔をキリッとさせて言うセリフではない。




コメディは書きやすいなぁ

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