俺達一行は今、町外れにある墓地の近くでキャンプをしていた。墓地にゾンビーメーカーとその取り巻きが出るのでどうにかして欲しい、といった内容のクエストだ。
このクエストを受けた理由はお金以外にも一つある。
クエストを受けるならレベル上げのしにくいプリースト職であるアクアのレベル上げが出来るクエストにしないかと、ダクネスから提案があったのだ。
そう提案された俺だったが、最初はこの駄女神のレベルを上げても…と思っていた。
しかしレベルが上がり知性のステータスも上がれば、バカが原因で未だに活躍していないこのアホが役に立つのでは?と思い直し、クエストを受けることにした。
後で知ったことだが、アクアのステータスは既にカンストしている。
そんな俺たちは今。
「ちょっとヒデオ!それは私が育てた肉よ!食べるならこっちのよく焼けてるキャベツを食べなさい!」
「よく焼けてるってか焦げてるじゃねぇか!」
墓場の近くの場所でバーベキューをしながら夜を待っている。
「ふぅ…」
まだガツガツと肉を食べ続けているヒデオとアクアの言い争いを放置し、既に満腹になっていた俺は魔法で水と火を出しコーヒーを淹れて飲む。
この魔法はキャベツ狩りで仲良くなった魔法使いに教えてもらった。人気がないようだが、使い勝手が良くて俺は好きだ。
コーヒーを啜っているとめぐみんが。
「カズマ、私にもお水をください。しかし、カズマの使いっぷりを見ていると、初級魔法って便利そうですね。というか、アークウィザードの私より魔法を使いこなしてませんか?」
若干悔しそうにそう言うめぐみん。そう思うなら爆裂魔法以外も覚えてくれ。
めぐみんに水を渡し、ふと思いついたことを聞いてみる。
「燃費とか考えると元々こんな使い方するもんじゃねーのか?あ、そうだ。『クリエイト・アース』!これって何に使うんだ?」
呪文を唱えると、サラサラした質の良さそうな土が出てきた。数ある初級魔法の中でも一番用途がわからない代物だ。
「えっと、その魔法で作った土で育てた作物は、質の良いものが取れるそうです。それだけです」
めぐみんが説明すると、説明を聞いていたらしいアクアが。
「え、何々?カズマさんったら、畑でも作るんですか!農家に転職ですか!土も作れるし水もまける!天職じゃないですかやだー!プークスクス!」
などと言い、煽ってくる。いい度胸だ駄女神。
土が乗っている方の手をアクアに向け、もう片方の手を構え。
「ウィンドブレス!」
風の初級魔法でアクアの顔面めがけて土を吹き飛ばした。
「っぎゃぁぁあ!目がぁぁ!目がぁぁぁ!」
土を顔面にくらい両目にも大量の土が入ったアクアは、自称天空の王の様なセリフを吐き地面を転げ回った。
フハハ!ゴミのようだ!
「なるほど、こういう用途か」
「間違っていると思うのだが…。それよりも、カズマ、私にも今の技を食らわせてくれないか?」
「嫌だ」
ダクネスの要求に即答で拒否すると、ダクネスは身をよじり出す。
はぁ。この変態は無視するに限る。
「おいカズマ急にやめろよなー。危うく肉にかかる所だったじゃねーか」
身を挺して肉を守ったヒデオはそう言うと、再び食事に戻った。
「つーがお前どんだけ食うんだよ」
今後の食費の心配をしつつ、コーヒーを飲む。そんなこんなで、夜は更けていく。
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夜は更け、時間帯は深夜、日本で言うところの丑三つ時になる。この世界でもこの時間帯は霊的なものが出てきやすくなるそうだ。
「冷えて来たわね…。ねぇ、受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな雑魚よりもっと大物が出そうな予感がするんですけど…」
アクアが不安になることを口走る。
「おい、そんなフラグビンビンなことを言うな。いいか、今日はゾンビメーカーの討伐、そして取り巻きのゾンビもちゃんと土に還す。んで帰って寝る。もしイレギュラーが起きたらすぐにトンズラする。わかったな?」
そう言うと、皆こくりと頷いた。
敵感知がある俺と、気功術のレベルを上げ気の感知を覚えたヒデオを前後に配置し、墓地へと歩いていく。
更に墓地へと進んでいくと、何かが敵感知に引っかかる。
「皆ストップ。ピリピリ感じるぞ。数は…一体、二体、三体、四体…?多くないか?取り巻きって多くても三体程度って聞いたんだが…。誤差か?」
俺の言葉に皆が足を止め、指示を待つ。
すると何かがヒデオの気の察知にも引っかったらしく。
「おいカズマ、でかい気の奴が居る。ゾンビメーカーって雑魚なんだろ?こいつ、今まで見てきた奴の中で一、二を争うレベルの気だぞ」
ヒデオがそう告げた途端、墓場の中央で青白い光が走る。
その怪しくも幻想的な光を発しているのは、墓場に描かれた魔法陣だった。
その隣には、黒いローブの人影が見えた。
「あれ?ゾンビメーカー…ではない気が…するのですが…」
めぐみんが自信なさげにそう呟く。
黒いローブの周りには、ユラユラと蠢く人影が数体見える。
「突っ込むか?ゾンビメーカーではないにしろ、こんな時間にこんな所に居るのだからアンデッドだろう。ならばアクアがいれば問題ないはずだ」
ダクネスがそう言うが、ヒデオが制止した。
「いや、無闇に突撃するのはやめといた方がいい。多分今の俺達が敵う相手じゃない」
ヒデオの言葉に皆が息を飲んだかと思うと、1人、その言葉を無視し飛び出る者が居た。
「あーーーっ!!!!」
アクアである。
「お、おい!待てアクア!」
そう叫び、ヒデオが止めに行こうとするがもう遅い。
何やってんだアホ女神!
「リッチーがこんな所にノコノコ出てくるとは不届きな!成敗してくれるっ!」
リッチー。それは、ヴァンパイアと並ぶ、アンデッドの最高峰。魔法を極めた偉大な魔法使いが、魔道の奥義により人間を辞めた姿。通称ノーライフキング。簡潔にいうとアンデッドの王のような存在…らしい。
「や、やめやめ、やめてぇぇぇぇ!誰なの!?急に現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとしてるの!?や、やめてください!」
「黙りなさい!アンデッド!どうせこの怪しげな魔法陣でろくでもない事をたくらんでいるんでしょ!この、この!こんなもの!」
超大物モンスターであるリッチーが、グリグリと魔法陣を踏みにじるアクアの腰に泣きながらしがみついている。
取り巻きのアンデッドは、何をするでもなくぼーっとしていた。
「やめてー!やめてー!!この魔法陣は、成仏できていない迷える魂を天に還しているんです!見てください!たくさんの魂が空に昇って行っているでしょう!?」
「あ、本当ですね」
めぐみんがそう言うと、アクアは余計に逆上した。
「リッチーの癖に生意気よ!そんな善行はアークプリーストの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい!見てなさい!こんなチンタラチンタラやってないで、私がこの墓地ごと浄化してあげるわ!」
「えぇっ!?ちょ、待ってぇぇ!」
リッチーは必死に止めようとするが、アクアは構わず。
「ターンアンデッド!!」
アクアが白い光を放つと、周りにいたゾンビ、魂達はもちろん、リッチーも浄化されていく。すげぇ。
「ちょ、あぁぁ!!身体が消えちゃう!成仏しちゃうぅぅぅ!!」
「あはははは!愚かなるリッチーよ!私の力で欠片も残さず消滅するがいいわ!」
どっちが悪者かわかんねぇなこれ。
とりあえず可哀想なので止めに入る。
「やめんか」
「やめてやれ」
ゴスッ。そんな音が響く。俺とヒデオはアクアにチョップを食らわせた。
俺はともかく、ヒデオの筋力はかなりの物なので、アクアは涙目になり、たんこぶも出来た。
「っ!?い、痛い!何すんのよ!あんたら!」
頭を強打され集中が途絶えたのか、白い光は消え、リッチーの身体が消えるのも収まった。アクアは頭を抑えながら抗議してくる。
そんなアクアを放置し、うずくまって震えているリッチーの方へ声をかける。
「お、おい、大丈夫か?リッチー…で、いいのか?あんた」
リッチーは浄化魔法が原因で、下半身が消えかかっていたが、徐々に元に戻っていき、フラフラとしながらも立ち上がる。
うわ、すげー美人。
「は、はい。お陰様でなんとか大丈夫です。助けていただき、ありがとうございました。えっと、仰る通り、リッチーです。名前はウィズと申します」
ウィズと名乗った美女は、ヒデオにも礼を言い、若干アクアから離れたところに立った。
落ち着いた所で質問タイムだ。
「えっと、ウィズ?あんた、こんな夜中にこんな所で何やってたんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、そう言うのはプリーストとかの仕事じゃないのか?」
「ちょっとカズマ!そんなのと話したらあんたまでアンデッドになっちゃうわよ!ちょっとそいつに、ターンアンデッドをかけさせなさい!ちょ、ヒデオ、何すんのよ!離しなさい!女神の私にこんなことしていいと思ってんの!?」
アクアがまた魔法をかけようとしたので、ヒデオはアクアを羽交い締めにし身動きをとれなくした。
ナイス。
「これでいいか?カズマ」
「サンキュー。さ、ウィズ。話を続けてくれ」
「え、えっと、私は仰る通りリッチーです。アンデッドの王とか呼ばれてるくらいなので、私には迷える魂たちの話が聴けるんです。ここにはお金がなく葬式すらしてもらえず天に還ること無く墓場を彷徨う魂が多いんです。それで、定期的にここに訪れ、魂を天に還しているのです」
ウィズの説明を聞いた俺とヒデオはほろりと来た。いい人!
「あんたが優しくていい人なのはわかった。しかしさっきも言ったが、そう言うのはプリーストとかの仕事じゃないのか?そいつらに任せておけばいいんじゃ…」
俺の疑問に、ウィズは答えづらそうにアクアをチラチラ気にしながら言う。
「ええと…。この街のプリーストさんは、拝金主義…いえ、その…。お金が無い方は後回し、と言いますか…」
ウィズがそう言うと。
「なるほど。要するに、この街のプリーストは金がない奴は基本的に見て見ぬ振りをするってことか?」
「え、えと…。そうです…」
「まぁ、心当たりはあるな」
ヒデオがそう言う。
するとその場にいる全員が羽交い締めから開放されたアクアの方へ自然と視線を向け、当の本人はバツが悪そうに目を逸らした。
あー。納得。
「それなら仕方ないな。けど、ゾンビを呼ぶのはどうにかならないか?俺達、ゾンビメーカーの討伐ってことでここに来たんだが」
「あ…そうでしたか…。その、呼んでいる訳じゃなく、私の魔力に反応して勝手に起きてきちゃうんです。私としてはここの魂が迷わず還ってくれればここに来る必要も無いんですが…」
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墓場からの帰り道。
「納得いかないわ!」
「仕方ないだろ。害も無さそうだし、それに、あんないい人を浄化するのは却下だ」
「美人だしな。それに、多分本気で抵抗されたら例えアクアが居てもやばかったと思うぜ」
俺達は、ウィズを見逃すことに決めた。人は襲った事はないと言っていたし、放っておいても害は無いだろう。
肝心の魂の件はどうするかと言うと、普段暇してるアークプリーストのアクアが定期的に行くということで解決した。
モンスターを見逃すことに抵抗のあったダクネスとめぐみんも、ウィズが人を襲った事がないと知り、同意した。
「そうですよ。ヒデオの言う通り、本気で抵抗されてたら私達今頃あの魔法陣で天に還ってる所でしたよ」
「げ、そんなやばいのか。リッチーって」
「やばいなんてもんじゃないだろう。リッチーは色んなスキル、耐性を持った伝説級モンスター。なぜアクアの浄化魔法が効いたのか不思議なくらいだ」
ダクネスがそう答える。お、おそろしや…。
「ま、いい人って分かったし、いいじゃねーか。今度店にも遊びに来てくれって言ってたな。何が置いてんのかな〜」
「カズマ、その名刺貸しなさい。そこに行って入口周りに神聖な結界を張って涙目にしてくるわ」
「やめてやれよ…」
そんなやり取りをしていると、ダクネスがある事を言った。
「そう言えば、ゾンビメーカー討伐の件はどうなるんだ?」
「「「「あ」」」」
初パーティでのクエスト、失敗。
いつもこのくらい書きたい…