「いらっしゃいませ!」
彼の目に映るのは雑貨と小太りの店主、店主は調子良く鼻歌を歌いながら商品をチェックしており、この店に入っていた客も皆楽しそうに雑貨を手に取っていた
「あの」
六護はまっさきに店主へと話しかける。見覚えのある店主にだ
「なんです?」
(どう言えば…正直に言って信じてもらえるとは思えないな。……なら)
「最近体の調子がおかしかったりしませんか?本の些細な事でいいんです、教えてください」
「ん~……俺は健康そのものですな、まあ歳のせいでたまに腰が折れそうなほど痛いんですがね」
言い終え、豪快に笑う店主。六護は普段ならつられて笑うのだが、この店主に何が起こるかを理解しているだけあってそんな気分にはなれなかったようだ。
あの血の球は店主が引き起こしたものだったのか、まだ見ぬ何者かがあの現象を引き起こしたのか、それすらまだ明らかになっていない、ゆえに六護は怪しみはしたものの「まだ」店主を犯人だとは思っていなかった
「……ありがとうございます」
「あんた顔色がひどいぞ?大丈夫なのか?」
「ええ、まぁ」
「ならいいんだがね……あっ、そういえば!」
手のひらを軽く叩いて店主は店の奥へと消えてゆく、しばらくドタドタと歩き回る音が一定の大きで聞こえていたが、三分もしないうちにその足音は近づいてきた
「よしおまたせ兄ちゃん」
再び顔を出した店主の手にはキューブが1つ握られている、しかし六護の持っているものとは細部が微妙に異なったもので、何より色がついていない、どれも透明だった
「今朝変な男がな?これをうちに置いてったんだよ」
「キューブを…?」
「うん、これをここに置いて売ってくれってな。そうしたいのは山々なんだがなにせコレの使い道や価値がわからん、店に置こうにも置けないんだわ」
「その男はどんな格好でした?」
「見たことない会社のマークが付いてるスーツを着てたなぁ、持ってアタッシュケースにもそのマークが付いてたよ、会社名は確か……」
店主がそこまで言ったその時だった、六護は店主の手からキューブが消えていることに気が付く
「……すまねぇ兄ちゃん、会社名思い出せねぇわ」
「あの、店主。キューブはどこへ」
「え?持ってるはず……ってああ!?無い!?」
慌てふためく店主を尻目に六護は無意識にこう思っている
(逃げられた!)
しかし何に逃げられたというのだろうか、キューブに足が生えているわけでもないのにその表現はかなり歪んでいる、それは彼自身も違和感を感じた言葉だった
「店主!この店の扉、俺が来るまで絶対開けないでください!客も帰らせないで!」
「あっちょっと!」
後ろで何かを叫ぶ店主も気にせず六護は雑貨屋を飛び出る、そして目に映るのは半透明の人影、ゆらゆらと火のように不規則な動きをするソレはおぼつかない脚でこちらへと向かっていた。
「な、なんだよこいつ……!」
脚の力が抜け、尻餅をつきそうになるもなんとか踏ん張る。
周囲に人はいない、しかし以前のように誰1人いない訳では無く周囲にいないだけでこちらを見れる範囲内にはチラホラと人影があるのだ。だからなのか、感じるのはいつもの既視感ではなくただの「巻き込みたくない」という不快感だった
ふと、一匹のネズミが路地から飛び出し半透明の人影の前を通る。
通れたはずだった。
しかし残ったのは半透明の人影に腕で1刺しされているネズミとその「血液」、アスファルトを染める赤い液体はネズミの体から絶えず溢れている
「なっ……」
血液がふるふると震えだしたと思ったら赤い液体は浮き上がり球体を完成させた。同時に脳裏によぎる赤い球体は大きさこそ違うものの六護の目の前にあるものと一致している
「こいつがあのときの奴か!」
ベルトを装着しキューブを手に取る六護、一瞬球体と半透明の人影、いや化け物の動きが止まる
「変身!」
<ERROR>
「え、エラー…って」
震えつつある足で体を支えながら、キューブを取り外しもう1度窪みにはめる、……やはり帰ってくるのは冷たい電子音声のみであった
<ERROR>
<ERROR>
<ERROR>
「さっきはいけたのになんでだ……!」
球体とともにふよふよと動く化け物はもう目前だ、実体があれば蹴ってスキを作るくらいはできたようだが、そもそも実体が有るのかどうかが分からない、六護は得体の知れない相手に積極的に攻めるほど勇敢ではなかったのだ。少なくともそうする「動機」が無ければ彼は臆病者のままだろう
「六護っ!」
死後の事を考え始めていた六護の耳に少女の声が届く
「な、なにそいつ!?」
「下がってろ!」
震えも気にせず走り出し化け物のその先にいる少女の元まで走り出す、少女の手を取って距離を化け物から離して確信する、おそらく雑貨屋で少女を捕食しようとした時に味を締めたのだろう、化け物は少女に異常な程の興味を示していた。
動きは素早くなり、半透明の体はだんだん黒い色を帯びてくる
「ここから離れるんだ」
「六護は!?こんなやつ相手にしちゃあぶないよ!」
「仮にも男なんだ、こんなベルトが無くたって女の子1人守るくらいはやってみせるさ」
<………Repair complete>
「へ?」
意気込んでいた六護の口から間抜けな声が漏れる
<Restart completion>
「エラーが直って、再起動したって事でいいのか……?」
<yes>
「……しゃべるのかよこれ」
<………>
唖然としている六護に少女の声が聞こえる
「六護!前!」
「っ!」
刃のように鋭く変形させた化け物の腕は六護を切り裂こうとするも間一髪で飛び退き回避する。
六護が臆病者でなくなる条件には少女の危険が伴う、このベルトを手にする前だってそうだ、彼女のためなら六護はどんなに底知れない勇気だって出すだろう、過ごした時間は少なくても少女は彼にとって唯一の家族のような者なのだから。
「だぁっ!」
化け物を殴る、よろめく化け物を見て六護はキューブを握った拳を前に突き出した、そして深呼吸と同時に胸の前へと拳をゆっくりと移動させる
「変身ッ!」
力を込めた拳を振り下ろす要領でベルトの前を通過させる。通過させた瞬間にキューブを窪みにはめ、少し前にも聞いた電子音声を再び耳に入れた
<CUBE ON Change Skinner>
装甲に覆われていゆく体、最初こそ重さがあったが、その装甲が体中を覆う頃にはそんなものは消えている。
「何者か知らないけどお前は危険だ、ここで動けなくしてやる!」
六護、もとい仮面ライダースキナーは化け物を蹴り飛ばす、次の瞬間光に包まれた化け物の体はボコボコと膨らみ、より禍々しい造形へと変化した。
蜘蛛のような六本の足とヨダレを垂らす口からのぞく牙、複眼は赤黒く光っており、獲物を見る目でスキナーを睨んでいる、形や大きさは人間の知るものではないが、こいつは間違いなく蜘蛛だ
<S.DAGGER READY>
ホルダーからダガーを引き抜き蜘蛛の化け物の脚を一本切断する、奇声を上げながら足先の爪で襲いかかってくるが、すぐさま銃弾を爪先に命中させ威力を相殺させた
<HEAT.GAUNTLET Lv.MAX READY>
「は?ヒートガントレット……?か、勝手に起動しないでくれよ!使い方がまだ分からないんだ!」
<………>
「だんまりかよ……」
スキナーの左腕をすっぽりと覆った装甲はそのほとんどが爆発音を立てて弾け飛び、装甲で隠されていた回路のようなものは露出し熱を帯びた赤に輝く、見れば誰でも分かるがスキナーの腕は今、高い熱を纏っておりとても危険な状態にある。
「あっつ……くない、この姿といいどう言う仕組みなんだ」
『ガァァァァァァァッ!』
「来た!どうすればいい!?」
<……>
「おい!」
銃を数発命中させるもひるまずにこちらへ向かってくる、とてもではないが、あの巨体からの突進攻撃なんて耐えられたものではないだろう
<empty>
「もう弾がない…!うわぁぁっ!」
蜘蛛との距離はあと数メートル、とっさに左腕を突き出して必死の抵抗をする──までもなかった、左腕に触れた蜘蛛の爪は蒸発し、蒸発した爪から胴体にまで火が広がる、出力が最大の「ヒートガントレット」はただ熱いだけだが、その熱さこそが最高の武器と言えるのだ
<HEAT.GAUNTLET Lv.2 READY>
「こいつまた勝手に!?」
弾け飛び、バラバラになった装甲が全て左腕に向け飛んでゆく。パズルのように左腕に装着されてゆく装甲はその場で苦しみ暴れている蜘蛛とは対照的に落ち着きながら一定のタイミングでカチカチとはまっていった、元の場所へと戻った装甲達は一部がスライドし、また一部が移動し、ちょうどヒジの部分にスラスターが完成する。
スラスターは準備運動と言わんばかりに火をボッボッと吹き、左腕を震わせた
「なるほどな、こっちの方がわかりやすくていい」
左腕を腹の横に持っていくとスラスターが大量の火を吹きながら冷めてしまった腕を再び熱くした。
体制はそのままにスキナーは落ち着きを取り戻してきた蜘蛛へ向かって走る、蜘蛛が距離を取ろうとするがもう遅い
「飛んでこい!」
蜘蛛にアッパーを放ち、空高くまで突き上げたスキナー、必然的に腕を突き上げた体制のスキナーの左腕装甲は擦れた金属音を響かせながら元の状態に戻り蒸気を吹き出した
<RELOAD S.KICK READY>
回転する右足のシリンダー、これを見てスキナーは次の行動を決定する
「よし……」
落下し、地面にへたりこむ蜘蛛。仰向けになった蜘蛛の腹に右足を振り落とす、所謂踵落としだろう
「風穴を開けてやるッ!」
蜘蛛の上に乗っている右足に体重を乗せるとカチッと音がする、次に響いた音は何かを打ち付けるような音だった
『ガ…ァァッ!』
蜘蛛の腹には巨大な銃弾のようなものがひとつ刺さっている、間違いなく右脚のシリンダーから発されたものだ。
シリンダー内に残された弾は残り5発、軋むシリンダーはそれでも回り、ふたたびカチッと音を鳴らした。
次に響いたのはまたもや打ち付ける音、しかし今度のものは限りなく銃撃音に近かった
『………』
蜘蛛は沈黙、脚を退けたスキナーの目にはいるのは計6本の銃弾が刺さった蜘蛛の姿であった
「終わった……」
<cube out>
キューブをベルトから外し変身を解除する六護、ハッとして周囲を見る。
少女心配そうな顔をしているがそこにいる、問題は周りの人で
「誰もいない……?」
店の姿はシャッターが隠してしまっている、大きな音を鳴らしてしまったので周囲の人が逃げてしまったのかもしれない
「ろ、六護…」
「どうしたんだ」
「警察呼んでる人いたよ……」
「えっ」
サイレンの音が近づいてきた。
彼の心は蜘蛛と戦っていた時よりも恐怖心が高まっており、動かない蜘蛛を尻目に状況打開の決断を下す
「……帰るか」
「うんっ」
2人は手を繋ぐ、その歩きはいつもより速かった
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