インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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プロローグ:「お姉ちゃんのお願い」

―――――インフィニット・ストラトス、通称『IS』。

人間が宇宙に進出し、活動することを目的に開発されたマルチフォーム・スーツ。

核である「コア」とそれを守る装甲から成る、人類を次のステージへと押し上げることを可能とする鍵。

 

 

開発者の名は、篠ノ之 束。

 

 

しかし従来の機械を遥かに凌駕する性能を知った主要国は、これを宇宙開発では無く「兵器」として利用することを考える。

結果、『IS』は現行兵器を超える「機動兵器」として世界に認知されることになった。

 

 

しかしこの新たな「兵器」には、致命的な欠陥が2つ、存在した。

1つは『IS』の起動に不可欠な「コア」の存在、これは世界に467個しか存在しない。

開発できる唯一の人間である篠ノ之 束がそれ以上の数を製作しないためで、これにより『IS』の絶対数は467機と制限されることになった。

そしてもう1つ、むしろこちらの方が致命的かつ決定的な欠陥・・・。

 

 

 

『IS』は、女性にしか使用できない。

 

 

 

原因は不明、開発者である篠ノ之 束ですらわからないとされている。

しかし、いずれにせよ『IS』の絶対性と欠陥は、世界を変革した。

誰が望んだ変革かは別として・・・そう。

 

 

世界は、変わったのだから。

・・・「誰か」のために、「誰か」によって。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 篠ノ之(しののの) (かえで)

 

某国・某地域・某秘密ラボ・某部屋―――――。

正確な位置を教えられなくてごめんなさい、でも一応、私は潜伏中なので。

誰にともなく謝りながら、私は空中投影のディスプレイ3枚と睨めっこ中。

 

 

2枚の空中投影型のキーボードに指を踊らせつつ、12畳四方くらいある部屋の中央にある「モノ」に、時折視線を投げる。

そこは、ちょっと普通では無い部屋。

 

 

「・・・お?」

 

 

灰色の無機質な部屋には無数の大きな機材とケーブルの束があって、そこら中に小さなネジやボルトが散らばってる。

そして今、私と目が合ったのは・・・機械仕掛けのリス。

ドングリのようにネジを齧る姿は、何だか可愛い。

 

 

束お姉ちゃんが作ったリスだけど、用途は良く知らない。

でも束お姉ちゃんが作った物の中では比較的マトモな部類で、結構好き。

だって、可愛いし。

 

 

「何より、無害だし・・・無害なのは良いよね」

 

 

ここは、束お姉ちゃんの秘密ラボ。

場所は定期的に移動するから、何とも言えないけど・・・設備はたぶん、世界一。

かれこれ数年間、ここで束お姉ちゃんと「くーちゃん」さんと過ごしてる。

 

 

「・・・ぇーでーちゃ~んっ」

「・・・お?」

「かーえーでーちゃ~んっ!!」

 

 

声が、した。

次いで、ドタドタドタ・・・と言う誰かが駆けて来る音。

それに反応して、すぐに私は身構える。

 

 

過去の経験から、「あの人」は部屋のドアから突撃してくることはわかってる。

彼我の距離7メートルを物ともせず、まさに「飛びついて」来るのだ。

危ないからやめてって言ってるのに、全くもって聞いてくれない。

だから、私の方がちゃんと対応してあげないと―――――。

 

 

「だぁ~いニュースだよっ、楓ちゃんっ!!」

 

 

しかし、相手の方が上手だった。

何故なら相手は、ドアの方ばかりに気を取られていた私の虚をついて、上から来たから。

がぱっ、と天井の一部を外して、上から飛び下りると言う形で。

 

 

むぎゅうっ。

 

 

・・・人が潰される音をいくらコミカルに変換してみても、痛みは変わらないと言うことがわかった。

何と言うか、押し潰された。

首と腰とか足とか、諸々の骨が軋んで―――むしろ、何で折れ無かったんだろう―――潰された。

成人女性が身体の上に落ちてくれば、それなりの音と衝撃が駆け抜けるわけで・・・。

 

 

「・・・お、お姉ちゃん・・・お姉ちゃんが全力で飛びつくと私の命が危ないと何度お願いしたら・・・」

「あっははは~、楓ちゃんは今日もラブリーだねっ、お姉ちゃんは嬉しいよっ」

 

 

息も絶え絶えな私の言葉を軽くスルーするこの人は、私のお姉ちゃん。

天井から落ちて来たのは、20代の女性。

腰まで伸び放題になった髪に、どことなく「不思議の国のアリス」を思わせる青色のワンピース。

頭には何かの機械らしいウサミミカチューシャ、眠そうな目を目一杯笑みの形に歪めて、私を抱き潰そうとしている。

 

 

名前は、篠ノ之 (たばね)

私の実の姉で、『IS』を開発した本物の「天才」。

「天才」の名に恥じず・・・と言うか「天才」という言葉がバカらしくなるくらいの「天才」なのだけど、何だろう、身内(かぞく)に対する距離感がゼロ距離な人・・・。

 

 

「ねぇねぇねぇ、楓ちゃん楓ちゃん、大ニュースだよ大ニュース、もう大ニュース過ぎてお姉ちゃんは楓ちゃんに抱きつかざるを得なかったよー」

「・・・それは良いから、離してお姉ちゃん・・・」

「実はねぇ、いっくんがね―――あ、いっくんは知ってるよね? 知ってるに決まってるよね、楓ちゃんだもんね―――うん、いっくんがねぇ、どどーんっ、何と『IS』を動かしちゃいました~、ぱふぱふ~」

 

 

そして、人の話を聞いてくれない。

でも、まるで緊張感も何も無いような人だけど、絶賛世捨て人中。

先程も言ったように、私・・・と言うか束お姉ちゃんは世間的に言うと、失踪中だから。

どうして世間から身を隠そうとしたのかとか、それは良く知らない。

でも数年前のある日、何を思い立ったのか失踪した。

 

 

でも『IS』開発者である束お姉ちゃんの失踪は、他の人にとっては無視できない大事件。

何しろ、『IS』のコアを作れる唯一の人物の居場所を把握できないわけだから。

まぁ、束お姉ちゃんがどう感じているかは、わからないけど。

そしてどう言うわけか、束お姉ちゃんはあの日、私も一緒に連れ出した。

・・・何で私まで連れ出したのか、束お姉ちゃんはさっぱり教えてくれないけど。

 

 

「いっくん・・・・・・ああ、一夏さんですか、箒姉さんの幼馴染の」

 

 

(ほうき)姉さんは、日本にいる私の双子の姉さん。

織斑一夏(おりむらいちか)さんは、その箒姉さんの小さい頃のお友達。

私も、何度か会った覚えがある。

 

 

私は小さい頃は身体が弱くて、ずっと家にいたから・・・。

・・・だから同年代で会った子は少なくて、良く覚えてる。

・・・あれ、でも一夏さんって。

 

 

「・・・男の子、だよね?」

「うんうんっ、不思議だよねっ、ISは女の子専用なのにねぇ~」

「それは・・・うん、本当にびっくりだね・・・」

 

 

束お姉ちゃんの作った『IS』は、男性には使えない。

と言うか、唯一にして最大と言っても良い欠陥で・・・なのに、男性の一夏さんが動かした。

束お姉ちゃんでさえ、驚いている・・・みたい。

いつもニコニコしてるから、何を考えているかはわからないけど。

 

 

「本当はお姉ちゃんが行きたいんだけど、でもでも、お姉ちゃんにはやることが一杯なのでした~!」

「はぁ・・・」

「と言うわけで、そこで登場お姉ちゃんのエンジェルっ、楓ちゃんに見て来て貰おうと思いまーすっ」

「はぁ?」

 

 

ダメだ、脈絡が無さ過ぎてダメだ。

でもお姉ちゃんの笑顔は、花のエフェクトを飛ばしながら全力全開状態。

こうなると、私は嫌と言えないわけで・・・。

 

 

「いっくんはねぇ、何だかどうでも良い連中が勝手にちーちゃんと箒ちゃんのいる所に放りこんじゃったみたいなんだよねぇ~」

「ちーちゃ・・・千冬姉様と、箒姉さん?」

 

 

千冬(ちふゆ)姉様は、束お姉ちゃんの親友、ついでに言えば一夏さんのお姉さん。

その人と箒姉さんがいる所・・・って、まさか、「あそこ」!?

 

 

「む、無理無理無理っ! 束お姉ちゃんと一緒に失踪してた私が突然現れて良い場所じゃ無いでしょ!?」

「んん~・・・のーぷろぶれむっ!」

「そんなバカな!?」

 

 

親指を上に拳を握り込んでウインク、そんな束お姉ちゃんに私は悲鳴を上げる。

『IS』のコアを作れる束お姉ちゃん・・・にくっついて失踪してた私が、突然ひょっこり「あそこ」に出現したらどうなるか・・・考えただけで恐ろしい、と言うかリアルに怖い!

突然黒服に囲まれて拉致とかされたら、何とするっ!?

 

 

「あっはははは~、楓ちゃんは心配性だねぇ」

「いやいやいや、そう言う問題じゃ・・・」

「だーいじょーぶっ、これまでお姉ちゃんが大丈夫って言って大丈夫じゃ無かったことがあるかなぁ~?」

 

 

ある。

例えば、今。

 

 

「むぅ~、楓ちゃんお願いっ、お姉ちゃんのお願いを聞いてほしいなぁ~」

 

 

顔の前で手を重ねて「お願い」ポーズ、うぅ・・・そ、そんな風にされると。

ああっ、そんなウルウルした眼差しで見つめられたらぁ・・・!

う、うぅ・・・。

 

 

「しょ、しょうが無いな、今回だけだよ・・・?」

「ほんと? ありがとう~、楓ちゃん大好きっ!!」

「ろ、了解(ログ)・・・」

 

 

結局、私が折れて・・・むぎゅ~っと、束お姉ちゃんに強く抱き締められる。

豊満な胸に顔を埋められて凄く苦しいけど、でも私は引き剥がさない。

むしろこっそり、お姉ちゃんの背中に手を回してみたりして。

 

 

はぁ、私ってどうして束お姉ちゃんに甘いのかなぁ・・・。

・・・でも、お姉ちゃんってポカポカだよね。

 

 

「あ、ちなみに筆記試験って言うのが明日あるんだって。会場はイスタンブール」

「な、何でイスタンブール・・・?」

「あみだくじー」

「え、ええぇぇ・・・?」

 

 

はぁ・・・束お姉ちゃんから離れて、私は傍の『IS』の黒い装甲に触れた。

何か、物凄く不安だけど・・・でも、お姉ちゃんが大丈夫って言ってるし。

それに、箒姉さんにも久しぶりに会えるし・・・。

何より・・・「学校」に、行けるんだ。

 

 

・・・それじゃ、行こうか、『黒叡(こくえい)』

いつか、お姉ちゃん達と宇宙(ソラ)を飛ぶために。

 




篠ノ之 楓:
はい、ではここでは「IS」についての説明をしますねー。
お姉ちゃんの方がよく知ってるんですけど、説明とかしない人なので。
えーと・・・。

IS(アイエス):
正式名称「インフィニット・ストラトス」。宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。まぁ、ちょっと大きな機械仕掛けの鎧みたいな物だと思って頂ければ。

開発当初は認められませんでしたが、ある事件以降、世界にその性能が認められます。はい、でも宇宙開発には使用されずに軍事転用されました。現在では核兵器に替わる「抑止兵器」とも呼ばれていますね、数は500もありませんけど。
国際条約で、各国のIS保有台数は厳格に定められています。

ISはコアと腕や脚など装甲(アーマー)から形成されています。シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによって現行兵器(核兵器含む)ではISに乗ったパイロットを倒すことはできません、チートです、流石は束お姉ちゃんです。なお、物質の量子化と言うトンデモ機能もついています。

最大の特徴は「自己進化」。経験を積むとISのコアは学習して成長します。成長するとより性能が上がります、まるで人間みたいですよね。


篠ノ之 楓:
・・・はい、この世界で一般に知られているISの情報を説明しました。
もちろん、これで全てではありませんので、後は本編での説明をお待ちください・・・っと。

ふぅ・・・疲れた。
飴食べよ・・・って、あれ、ドロップ缶が空っぽ?


篠ノ之 束:
あっはっはっ、中身はお姉ちゃんがぜぇんぶ頂いたよ!
楓ちゃんの説明が長かったからね!

篠ノ之 楓:
え、ええぇぇぇ・・・。
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