インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第8話:「学年別トーナメント」

Side 篠ノ之 楓

 

あー・・・もう、本気でやってらんない。

何が悲しくて、私がトーナメントなんて出ないといけないんだろう。

何か作為的な物を感じる・・・あ、千冬姉様と言う作為か。

 

 

「まぁまぁ、なんとかなるよ~」

「本音さんの楽天家ぶりが、時に羨ましいよ・・・」

「アンタ達ね・・・」

 

 

そんな会話をしながら、私は本音さんや鈴さん達と一緒に更衣室のモニターで学年別トーナメント1回戦の第1試合を見てる。

つまりは、箒姉さんと一夏さんの試合を。

・・・いや、厳密には一夏さんチームと箒姉さんチームだけど。

 

 

試合開始と同時にボーデヴィッヒさんに斬りかかった一夏さん、だけどその攻撃は案の定ボーデヴィッヒさんのAICに捕まって止められた。

そのままボーデヴィッヒさんは肩のレールカノンで一夏さんの頭を(比喩でなく)吹き飛ばそうとしたけど、それはシャルルさんが射撃で援護して防ぐ。

特筆すべきはシャルルさんの武装切り替えの速度、アレはちょっと真似できない。

 

 

「『高速切替(ラピッド・スイッチ)』・・・」

「ふえ? 何それー?」

「・・・戦闘中のリアルタイム武装呼び出しのことだね」

「ほえ~、そうなんだ~」

 

 

セシリアさんの呟きに、私が追加で説明。

何か、最近こう言う役割が多いよね。

ちなみに普通、武装の切替―――例えば剣を捨てて銃とか―――は、普通の人なら5秒~10秒かかる。

私? 私は武装の切替とかしないから。

 

 

そうこうしている内に、試合はさらに進行する。

ペア相手への義理か一夏さんへの対抗心か、箒姉さんがボーデヴィッヒさんを守るうように前に出ていた。

・・・姉さん、真面目だから・・・。

 

 

「箒も頑張るわねー」

「箒姉さん、真面目だから」

 

 

鈴さんが呆れを通り越して感心してるけど、実際、箒姉さんは真面目。

たぶん、「今は自分のすべきことをしよう」とか考えてるんじゃ無いかな。

カリカリと口の中の飴玉を噛みながら、そんなことを考える。

 

 

ええと・・・試合試合。

まぁ、当たり前かもしれないけれど、箒姉さんとボーデヴィッヒさんはバラバラに戦ってる感じ。

むしろ、ボーデヴィッヒさんに歩み寄りの精神が見られない。

そうなると、世代・性能的に『打鉄(うちがね)』だとキツいわけで・・・。

そんなことを考えた、次の瞬間。

 

 

「・・・なっ!?」

 

 

ガリッ・・・私は思わず、歯の間で弄んでいた飴を噛み砕いた。

視界には、空中へと放り投げられる『打鉄』・・・つまりは、箒姉さん。

一夏さんやシャルルさんに、やられたわけじゃない。

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒが、やたらに邪魔そうに連結刃(ワイヤー・ブレード)で箒姉さんを、「投げた」。

ちょ・・・え、何それ?

・・・ケンカウッテンノ?

 

 

<警告、上空から熱源反応、急速接近中―――>

 

 

・・・はい?

私がちょっとキレかけた次の瞬間―――――。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

「な・・・何をする!?」

 

 

試合になったらなったで、私は私なりにペア相手に気を遣って戦っていたつもりだ。

一夏と切り結ぶと言うのも、思ったよりは楽しい物だった。

機体性能の差か、それとも単純に技量の違いかはともかく・・・私が押されていたのは、確かだ。

 

 

だがボーデヴィッヒはあろうことか、私を「投げた」。

 

 

それもデュノアの射撃から助けるとか一夏の斬撃の射程外に逃がすとか、そう言う意味では無く・・・まさに、投げ捨てられたのだ。

アリーナの床に叩き付けられた衝撃に身体が痺れるのを感じるが、それ以上に憤りが強かった。

 

 

「・・・ふ」

「・・・!」

 

 

見えた、見えてしまった。

ボーデヴィッヒの唇が、かすかに笑みの形に歪むのを。

私を一瞥した後は、ボーデヴィッヒは一夏に6つの連結刃で近接戦を仕掛ける。

 

 

そしてそのまま一夏と切り結びながら、私から離れて行く。

斬撃と突撃を織り交ぜた突進に、徐々に一夏が押されていく。

・・・ガンッ!

もはや何と言って気持ちを表現すれば良いのかわからなくて、『打鉄(うちがね)』の拳を床に叩きつける。

 

 

「大丈夫?」

「・・・デュノア」

 

 

不意に、オレンジ色の機体が傍に降り立った。

差し伸べられた手には、当然、武装が握られている。

近接ブレード「ブレッド・スライサー」・・・『打鉄(うちがね)』のディスプレイにその武装の名前とスペックが表示される。

 

 

次の瞬間には、斬り合っていた。

私とデュノアのブレードが打ち合う度に火花を散らし、ISが衝撃を相殺しているにも関わらず両の腕にズンッ・・・と重みが走る。

 

 

「相手が一夏じゃ無くて、ゴメンね!」

「・・・バカに、するなっ!!」

 

 

怒号、しかし自分でも力が入っていない声だと自覚している。

だからか、私の剣はあっさりとデュノアのブレードに止められる。

そして、デュノアのISの左手に銃器が握られていることに今さら気が付く。

 

 

・・・武装の高速切替!?

 

 

連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」――――ディスプレイにそう表示された瞬間、私は息を飲む。

凄まじい衝撃が、私の・・・『打鉄(うちがね)』の腹を貫いた。

それは断続的に撃ち込まれ続け、私のISのシールドエネルギーを急速に奪う。

 

 

「くっ・・・ああああぁぁっ・・・!!」

 

 

衝撃と静寂、それが数秒ごとに訪れる。

・・・この状況からでも、逃れようと思えばできたかもしれない。

だが、逃れたとして・・・それで、どうすると言うのか。

 

 

そんな思いが、私の動きを鈍らせる。

そして、私のISのシールドエネルギーは瞬く間に底をついた。

ガクンッ、とエネルギーを失ったISが重くなり、私はその場に膝をつく。

 

 

「・・・ゴメン、一夏が待ってるから」

「・・・」

 

 

俯いたまま顔を上げない私を置いて、デュノアが颯爽と駆けて行く。

ボーデヴィッヒを相手に1人で苦戦している、一夏の下に。

どうやら、最初からまず私を倒す作戦だったらしい・・・。

 

 

・・・つまり、私の方が早く倒せると思われていたと言うことか。

・・・何が。

何が、勝ったら一夏と・・・だ・・・!!

 

 

「・・・っ!」

 

 

重いISの腕を振り上げて、もう一度アリーナの床に叩きつける。

・・・噛み締めた唇からは、鉄の味がする液体が流れていた。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

シールドエネルギー残量が100を切った、これ以上は持たない。

ラウラにボコボコに殴られながら、俺は焦ってた。

何と言うか、想像以上に力の差が大きい。

 

 

箒を倒したシャルルが戻ってきてくれなかったら、あと3秒で負けてたな。

だけど、シャルルさえ戻ってきてくれれば・・・!

 

 

「頼む、シャルル!」

「任せて、一夏!」

 

 

両手で持った『雪片(ゆきひら)』、その刃が白いエネルギーに包まれる。

『零落白夜』、あらゆるエネルギーをぶち切る剣。

ただし、燃費が最悪・・・だからもう、本当に後が無いってわけだ。

 

 

縦に並んだ俺達をレールカノンで一掃する気なのだろう、ラウラが一旦距離を取る。

そしてそこで、俺達は逆に距離を詰める。

俺はAICで動きを止められるかもしれないが、それは構わない。

 

 

「は・・・特攻か? 学習しない奴め」

「それしか・・・できないからなぁ!!」

 

 

叫んで、それこそ文字通りに「特攻」する。

だけど直線的なそれは、あっさりとラウラのAICの網に捕まって停止させられてしまう。

この感触、何度味わっても嫌だぜ・・・!

 

 

「消えろ」

 

 

ガコンッ、とレールカノンの銃口が俺の方を向く。

直撃コース、当たれば確実にゲームオーバーだ。

・・・だけど。

 

 

ズガンッ!

 

 

さっきまで俺のISの陰に隠れていたはずのシャルルが、ラウラの背後にアリーナの床を踏み抜く勢いで着地していた。

一瞬で加速して接近する、奇襲攻撃。

この2週間、これの練習しかしていなかったくらいだ。

何せ、頭、良くないからさ、俺。

 

 

「『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』―――――!?」

 

 

ぎゅんっ、とラウラの目が後ろを向く。

その拍子に、レールカノンの照準がズレる。

磁力で加速された砲弾が、『白式(びゃくしき)』の左肩の装甲を吹き飛ばす。

だが俺から意識を逸らしたラウラ、AICの拘束が緩む。

 

 

「だらあああぁぁぁっ!!」

「なっ・・・この――――!?」

 

 

特攻、ラウラの機体に『白式(びゃくしき)』ごとぶつかる。

『零落白夜』はとっくに解けてる、さっきの一撃でシールドエネルギー残量は何と1!

つまり、体当たりしかできない。

 

 

格好悪いし、泥臭い。

だけど・・・負けるよりは良い!

 

 

「だろ? シャルル」

「そうだね、一夏」

 

 

シャルルに対処しようと6本の連結刃を射出しようとしたラウラ、だがISの体当たりに流石にバランスを崩す。

もちろん、PICを積んでるISは数秒で体勢を立て直す。

だけど、その一瞬で・・・。

 

 

「獲ったよ」

 

 

渇いた破裂音、シャルルの機体の盾装甲が弾け飛び、リボルバーと杭が融合したような武装が露出する。

それを見たラウラが、息を呑むのが聞こえた気がする。

シャルルの武装は、六九口径パイルバンカー「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」。

 

 

「『盾殺し(シールド・ピアース)』」

 

 

次の瞬間、それがラウラの機体の腹部に撃ち込まれた。

轟音と爆発、それが4回連続・・・リボルバー機構でひたすらに連射できるパイルバンカー、怖いよシャルルさん。

良し、このまま―――――!

 

 

<―――警告、上空から―――>

 

 

『白式(びゃくしき)』の警告音。

次の瞬間、何だか覚えのある振動が、アリーナを揺らした。

それも、今回は・・・2回。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

時を遡ること5分前。

一夏がシャルルと共にラウラと2体1での戦いを繰り広げていた頃・・・。

 

 

「毎年のことだけど、凄ぇ警備だなぁオイ」

「クラス対抗戦の事件もあったばかりだ・・・例年より厳重なくらいだろう」

 

 

IS学園の上空は、陸上海上問わずにIS学園教師陣によって封鎖されていた。

第2世代の機体を身に纏った教師達が、外部からの襲撃に備えて巡回しているのである。

今も、『ラファール・リヴァイヴ』2機での哨戒任務中である。

 

 

良く見れば、その内の1人はクラス対抗戦の際に最初に無人機にアサルトライフルでの射撃を行っていた人物である。

と言って、顔はバイザーで見えないが・・・20代後半であろうか、まだ若い。

 

 

「お・・・今やってんの、あの時の男子生徒の試合か?」

「らしいな」

 

 

所定の位置について振り向いて見れば、ISの望遠映像でアリーナの様子が見える。

そこでは、3機のIS―――3機とも専用機―――の戦いが繰り広げられている。

雰囲気的に、フィナーレが近いようである。

 

 

その時、不意に映像が乱れる。

 

 

ISにはあり得ない、砂嵐のような波が画像を乱す。

片手を耳に当てるようにしながら、2機の『リヴァイヴ』がよろめく。

次の瞬間、彼女らは「何か」に襲われる。

 

 

「て、てめぇは―――・・・!」

 

 

墜ちて行く中で、2人は自分達を撃墜した「それ」を見る。

ISのセンサーからすら完璧に姿を隠すステルス機能で、接近を知ることができなかった。

それは・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 織斑 千冬

 

外回りの教師2人と連絡が取れなくなった。

・・・という報告を受けた直後、アリーナ周辺に侵入者が出たとの報告が来た。

しかも、同時に2か所。

 

 

「・・・場所は?」

「だ、第3アリーナと・・・第3アリーナ、Aピットです!」

「そうか・・・」

 

 

第3アリーナ、つまりは一夏達の試合が行われている場所だな。

そしてそのピットの1つに、もう一つの反応。

こちらは・・・篠ノ之妹がいる方か、凰とオルコットも。

 

 

私達は今の今まで、第3アリーナ(だけではないが)の試合をモニターで見ていた。

だから、第3アリーナの侵入者は姿を確認できている。

一夏達の試合に乱入してきたそれは、以前の侵入者と似て非なる造形をしていた。

以前は木偶の坊のような造形だったが、今はどこか古代ギリシアの彫刻を彷彿とさせる造り。

石のように凹凸のある白い装甲、両腕は巨大な近接ブレード・・・。

 

 

「・・・2度連続で、侵入者を許すか・・・」

 

 

・・・失態だ。

各国から生徒を受け入れているこの学園の安全は、何があっても保障されていなければならない。

それが二度続けて侵入者を許すとなると・・・。

 

 

普通は、あり得ない。

ここは、最先端技術で封鎖されている施設だ。

そして仮にこれが、前回と同じ存在の手による物だとすれば・・・。

・・・思い当たる節は、1つしか無い。

 

 

「か、各方面から、指示を仰いで来ています!」

「・・・対象を仮称『ゴーレムⅡ』とし、現時点でもって敵性ISと断定。各教員は所定の規約に従って行動しろ、例の緊急マニュアル通りにだ」

「は、はい!」

 

 

山田先生が端末に飛びつき、私の言葉を各方面に伝える。

観客席や他のアリーナの人間達を避難させ、さらに救援部隊を編成して投入する。

やるべきことは、いつだって単純だ。

 

 

「・・・・・・お前か」

 

 

お前なのか、と。

名前は出さず、口の中だけで呟く。

私が誰を脳裏に思い浮かべているかは、実は誰でも思い付く存在だ。

何故なら・・・。

ISのコアは、アイツにしか作れないのだから。

 

 

「・・・山田先生、各システムは?」

「が、学園のはダウンしています・・・前と一緒です、掌握されました。でも教員に配布してる独立端末は無事です」

「そうか、では各員・・・」

 

 

せめてもの抵抗が功を奏したとわかり、私はさらなら指示を各方面に出す。

その私の目の前に画面では、一夏達が・・・。

それに、ピットの方にも誰かを向かわせないと。

 

 

「そっちは、私が行きましょう」

「・・・お前は」

 

 

壁際でずっと黙っていた女生徒が、扇子を開きながら声を上げる。

学内警備の相談に来たのだが、話が終わる前に侵入者騒ぎが起きたからな・・・。

涼やかな雰囲気を持つその女生徒は、この学園の生徒のリーダーでもある。

赤い瞳を細めつつ、そいつは言う。

 

 

「私はIS学園生徒会長、ならばそのように振舞いましょう―――それに」

 

 

真剣な表情を一旦崩して、そいつは言う。

 

 

「妹のお友達にも、興味ありますし」

 

 

・・・妹の友達?

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

何、だ・・・コイツは!?

フランス代表候補生の奇襲に対応しようとした次の瞬間、白い全身装甲のISが乱入してきた。

データが無いのでわからないが・・・イレギュラーか!

 

 

「私の、邪魔を・・・!」

 

 

両手に近接ブレードを備えたそれは、織斑一夏とフランスの代表候補生には目もくれずに、私に向かってきた。

初撃は回避しきれずにまともに喰らったが、大したことは無い。

問題は、常時加速状態で私から離れないこと。

 

 

AICの網に捕らえようとした時には、すでに別の場所にいる。

あの巨体で、織斑一夏の機体よりも速いだと・・・?

とっさに6本のワイヤー・ブレードで対処しようとするが・・・それは、できなかった。

 

 

「な・・・」

 

 

放たれたワイヤー・ブレードは、その全てがアリーナの床に縫いつけられる。

それはまるで、短刀のような形をしたビットにも見えて・・・。

ドンッ・・・足で踏みつけられるように、私はアリーナの壁に叩きつけられた。

振動と警告音、そして―――。

 

 

「ぐっ・・・ぁぁぁああああっ!?」

 

 

白い2本の近接ブレードが、『シュヴァルツェア・レーゲン』の胴体部に突き立てられる。

ダメージはISの防御機能が消すが、衝撃は伝わる。

目前にある敵の顔の顔面の装甲には、私の顔が映っている。

衝撃で眼帯の外れた、金の左眼を露出させた私が・・・。

ぐ・・・ま、不味い・・・!

 

 

「ぐ、敗北、する、わけ・・・ぐううぅっ!?」

 

 

もう1撃、敵ながら褒め称えたくなる容赦の無さだった。

敗北は許されない、私には他国のISと交戦しデータを採取すると言う任務がある。

そしてそれ以上に、戦うために生み出された私が・・・戦いで負けるわけにはいかない。

その瞬間から、私は「ラウラ・ボーデヴィッヒ」では無くなる。

 

 

織斑教官に与えられた意味を、喪失することになる。

 

 

人工合成された遺伝子と鉄の子宮から産まれた私の、おそらくは唯一の意味。

戦い、勝利し・・・そして教官のような、強さを。

それ以外の物など、何の価値も見出せない。

ならばそれだけを追及する、それだけが私の意味、私の証。

 

 

「ガ―――――!?」

 

 

嫌な音がして、『シュヴァルツェア・レーゲン』の内部機関が損傷する。

交互に繰り出される突きに、機体が悲鳴を上げるのがわかる。

ハイパーセンサーが失われ、急速に出力が下がる。

このままでは、コアに取り返しのつかない損傷を受ける可能性もある。

 

 

「・・・そいつを、離せ!!」

 

 

不意に、敵ISの背後に白のISが姿を現した。

織斑一夏、だがエネルギーが底を尽きかけている機体では何もできない。

敵ISが片腕で織斑一夏の剣撃をいなし、殴り飛ばす。

 

 

「助けなど・・・いらんっ!!」

 

 

反射的に叫び、顔を上げると・・・敵ISの能面のような顔に映る私と目が合う。

金の瞳、『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』。

肉眼に『ナノマシン』を移植した、大神オーディンの瞳。

 

 

IS適合性の向上のための処置、脳への視覚信号の伝達速度の飛躍的な高速化、超高速戦闘下での動体反射を向上させる『瞳』。

理論上、リスクはゼロ・・・だが私の眼は色を変え、制御ができなくなった。

だから私は失敗作、敗北すれば無能者となる、許されない。

 

 

『何、私が教えるんだ・・・お前はこの部隊で最強の名を欲しいままにできるさ』

 

 

織斑教官がいなければ、私は失敗作のままだった・・・部隊で最強の操縦者にはなれなかった。

凛々しさと強さ、威風堂々たる姿勢、美貌・・・完璧な、完全な存在。

だが織斑教官も、「弟」の話をする時だけは・・・完全では無くなる、完璧では無くなる。

 

 

だから、負けるわけにはいかない。

教官を教官で無い「何か」にしてしまう、あの男にだけは。

敗北など・・・。

 

 

「認め・・・られるかあぁっ!!」

 

 

叫ぶ、だが『シュヴァルツェア・レーゲン』の装甲はもう保たない。

これ以上攻撃が続けば、ISは強制解除されるだろう。

そして下手をすれば、命を落とす。

いや、命を落とそうとも・・・存在意義にかけて、敗北だけは・・・!

 

 

欲しい・・・強さが、力が。

どんな状況でも・・・全てを、跳ねのける力、強さ。

教官の、ように・・・!

 

 

<Damage Level ・・・D>

 

 

・・・何だ?

今、私の中で、何か・・・。

 

 

<Mind Condition ・・・ Uplift>

 

 

ぎしり、自分の中の何か・・・何か、大切なモノが。

・・・大切?

 

 

<Certification ・・・ Clear>

 

 

何かが、掴まれたような気がした。

 

 

<Valkyrie Trace System>・・・boot.

 

 

そこから先は、覚えていない。

ただ・・・「変わった」私が、敵ISの頭を斬り飛ばした所までは覚えている。

その後は・・・少し、曖昧だった。

織斑一夏に、何か言われたような気がするのだが・・・。

 

 

・・・記憶が無いとは、軍人にあるまじき失態だな。

そう、思った。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

突然ピットの方から爆発音がして、更衣室のある部屋まで揺れた。

直後、更衣室に警告音(アラート)が鳴り響いて、避難誘導灯に明かりが灯る。

何よ何よ、こう言うのデジャヴって言うんだっけ・・・!

 

 

「・・・皆! 出口方向に避難して!!」

 

 

周りには私達を含めて・・・ううん、専用機の無い一般生徒がほとんど。

IS無しじゃ、何かあった時にシャレにならない。

だから私は専用機持ちとして、行動しなくちゃいけない。

 

 

「私が先導しますわ!」

「お願い!」

 

 

セシリアもそれはわかってるから、一般生徒達を連れて出口方向へ誘導する。

と言っても、半分くらいの生徒はまだ戸惑ってるから・・・そう言う子達を動かすのは、割と大変。

千冬さんなら、一発で皆動いてくれるんだろうけど。

残念ながら、私やセシリアにはそこまでの威厳は無いわけよ。

と言うか、同い年だしね。

 

 

「・・・楓! 布仏さん! アンタ達も早く―――」

 

 

隅っこの方でモニターを見ていた楓達に声をかけると、やけにゆったりと―――有り体に言えばトロい―――こっちに歩いて来る。

・・・いや、走りなさいよ! と言おうとした矢先。

 

 

爆風。

 

 

更衣室のピット側出口が吹き飛んで、他の生徒達が悲鳴を上げる。

そこでようやく、皆が反対側の出口に向けて走ってくれるようになった。

そっちは、セシリアに任せるしか無いわね・・・それよりも。

私は私で、ロッカーをいくつか倒しながら『甲龍(シェンロン)』を緊急展開。

ああ、もう・・・狭い!

 

 

「こいつ・・・!」

 

 

彫刻のような胴体部、能面みたいな顔・・・造りがちょっと違うけど。

でも何となく、雰囲気がこの間の奴に似てる。

両腕は大砲じゃなくて、近接ブレード・・・格闘タイプ?

 

 

「いったぁ~・・・」

「だ、大丈夫、本音さん?」

「ち・・・!」

 

 

ちょ、そこのほんわかしてる2人!

爆風で転んだんだろうけど、もう少し危機感持ちなさいよ!

敵―――ってことで良いわよね―――ISが、その場から動かずに何故か2人を見下ろしたから、私は焦る。

即座に決断して『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』、青竜刀を1つだけ展開して突撃。

 

 

「ふやぁ~~~~っ」

 

 

楓と違って待機状態のISの保護が無い布仏さんが悲鳴を上げるけど、構ってられない。

こっちを抑えないと、悲鳴もあげられなくなる!

青竜刀で白い近接ブレードを弾いて、蹴りを入れて後ろに下がらせる。

それから、敵と楓達の間に入る・・・それにしても狭い、せめてピットに出れれば。

ここじゃ、衝撃砲が使えないし・・・。

 

 

「逃げ・・・」

 

 

なさい、と叫ぼうとした次の瞬間。

白い彫刻みたいな敵ISの背中から、何かが飛び出してきた。

何、ビッ―――!?

 

 

高速で三方向から飛来したそれは、私に容赦無く襲いかかって来る。

青竜刀に2つが直撃、弾かれて手から離れる。

すぐに後退して回避しようとするけど、空間が・・・!

逡巡した次の瞬間、『甲龍(シェンロン)』の胴体部と右腕、左足に衝撃が。

 

 

「ぐ、この・・・っ!」

 

 

ISの警告音を耳に、そして視界に飛び散るISの破片を入れながら。

私はそれでも、次の一撃に対処しようとして・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「・・・え?」

 

 

本音さんを助け起こす十数秒の間に、何度も鈍い音がすぐ後ろで響いた。

そして本音さんを支えながら振り向けば、頭上を何かが通り過ぎて。

そして、壁に何か重い物が激突する音。

 

 

でも、そっちを見ることはできない。

だって、私の後ろには・・・。

白い、大きなのっぺらぼうみたいなISが、近接ブレードを・・・って、ちょ!?

ズァッ・・・私が反応するよりも速く、『黒叡(こくえい)』が私の身体を覆う。

本音さんを潰さないように床に手をついた所で・・・。

 

 

「うあっ・・・!?」

「わ、わわわ、わ~?」

 

 

ゴギンッ、鈍い音を立てて火花が散る。

腰部から飛び出したソード・ビットが、円環状に並んで防いでくれる。

私の下で悲鳴を上げる本音さんを、庇うように抱き締める。

 

 

後ろでは、敵・・・だよね? 敵の背中のあたりから飛び出した何かに反応して、ソード・ビットの盾が崩れる。

飛び出したそれは3つ、私のソード・ビット6つの内3つが盾の列から離れてそれを迎撃する。

あれは・・・何? まるでソード・ビットだ。

更衣室(ロッカー・ルーム)の中を、合計6つの短剣が飛び交い、衝突し合う。

ロッカーを薙ぎ倒して、壁を削りながら。

 

 

「・・・っ!?」

 

 

けれどその分、ソード・ビットの盾が薄くなる。

3つで作る盾は円じゃ無くて三角形、近接ブレードを連続で叩きつけられると紫電を飛ばしながらビットが悲鳴を上げる。

 

 

「か、楓ちん・・・ヤバい?」

「だ、大丈夫・・・!」

 

 

大丈夫と言った次の瞬間、半分になったビットの盾が砕ける。

シールドエネルギーの欠片がまるで硝子みたいに飛び散って、衝撃が直に背中に。

 

 

「あぁう・・・っ!?」

 

 

初めて・・・初めて感じる類の衝撃に、悲鳴を上げる。

目の前に浮かんだ画面の中で、『黒叡(こくえい)』のエネルギーゲージが急激に減る。

と言うか、この減り方はヤバい。

ナ、ナノマシン使おうにも、データ入力ができない。

 

 

冗談抜きで、ヤバい。

し、死んじゃう、かも・・・。

何回も言うけど、『黒叡(こくえい)』には戦闘用の装備が・・・。

 

 

「・・・楓・・・!」

「え・・・」

 

 

衝撃に顔を顰めつつ顔を上げると、反対側の壁に3つの短剣で縫い付けられてる鈴さんがこっちを見てた。

その目は、私の側・・・さっき鈴さんが捨てたらしい、青竜刀。

ピピッ・・・目の前の画面に、『使用許諾(アンロック)完了』の文字が浮かぶ。

つまりこれで、あの青竜刀は私も使えるようになった。

 

 

・・・いや、私、使ったこと無いし!

それでどうにかしろって、ハードル高いから・・・!

とか考えてる間に、背後からの攻撃は激しさを増す。

どうしてか、背中・・・ナノマシンのタンクのあたりを集中して狙われる、けど。

 

 

「・・・う、ああぁぁ・・・っ!?」

「か、楓ちん!?」

「・・・っ!」

 

 

ぎゅうっ、と本音さんを抱き締める。

攻撃から守る意味もあるけど、顔を見られたくないって言うか・・・泣いてるかもだし。

『黒叡(こくえい)』のエネルギーが、もうすぐ底をつく。

そしたら「絶対防御」も消えて、私達を守る物は何も無くなる。

 

 

全力で逃げれば、もしかしたら・・・なんて、思わなくも無いけど。

だけどISをつけてない本音さんは逃げ切れないと思う、鈴さんだって。

だから逃げない、だって・・・。

だって。

 

 

 

「・・・お友達、だもん・・・!」

 

 

 

ボロボロと泣きながら、私は言う。

お友達を置いてなんていけない、だって、初めてのお友達なんだもの。

願い続けて憧れて、やっとできたお友達・・・無くしたくない。

でも、これ以上のことは私にはできない。

だから・・・助けて。

 

 

「・・・たすけて、ねぇさん・・・!!」

 

 

いつも真っ直ぐで、誰よりも強かったあの人が脳裏に浮かぶのと同時に。

『黒叡(こくえい)』のエネルギーが、底をついた。

・・・姉さん・・・!!

 

 

本音さんを抱き締めて、目をつぶる。

結局、私は武器を取れずに・・・蹲って、次の衝撃を待った。

けど・・・来なかった。

その代わり、どこか空気が爽やかになった気が・・・。

 

 

 

「・・・良いわね。その想い、大事にしなさいな」

 

 

 

・・・え?

恐る恐る、後ろを振り返る。

そこには・・・青い、ISがいた。

青いISを纏った女生徒が、白いISを前に私を見て、微笑んでいた。

その人が右手に持った大型の突撃槍(ランス)が、近接ブレードを受け止めてる。

 

 

全体的に面積の少ないアーマー、装甲は水色。

装甲の表面は透明な水のドレスみたいなフィールドで覆われていて、まるで水面を纏っているよう。

そしてその涼やかな機体を纏うのは、何だか誰かと容姿がそっくりな女生徒で・・・。

 

 

「わ、わー・・・お嬢様だー」

「おじょう・・・?」

「えっと、生徒会長だよ。でも、どうしてここにー・・・?」

「あら、そんなの決まってるじゃないの本音ちゃん・・・私はIS学園生徒会長、故にそのように振る舞うのよ」

 

 

悪戯好きそうな笑みを浮かべて、生徒会長さんは前を向く。

そしてランスを持っていない方の手を掲げると、何だか周囲の気温・・・と言うか、湿度が変化するのがわかる。

な、何・・・ナノマシン? あれ? と言うか、生徒会長さんって、確か・・・?

 

 

「・・・『清き熱情(クリア・パッション)』」

 

 

どう言う原理なのか、相手の白いISがいきなり爆発した。

い、一撃で・・・倒しちゃった。

そうか、これが・・・「凄い人」。

 

 

生徒会長・・・簪ちゃんの、お姉ちゃん。

・・・簪ちゃんに、どこか似てる気がした。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

・・・あの人の強さに、どうしようも無く憧れた。

だけど、その強さがどこから来るのかは・・・結局、わからなかった。

だから私は本当は、とても弱い・・・。

 

 

「・・・ぁ・・・?」

 

 

目を覚ますと、知らない天井がそこにあった。

白い天井、病室か研究室にあるようなそれが、目の前にあった。

・・・私、は?

 

 

「・・・気が付いたか」

「・・・教官・・・?」

「ここでは、織斑先生と呼べと言ったが?」

 

 

どうやら、私は医務室のベッドに寝かされているようだった。

筋肉の疲労と打撲、それらから来る痛みに顔を顰める。

何が、あった・・・?

 

 

「一応、機密事項で重要事項だ・・・誰にも口外するなよ」

「・・・」

「お前の機体に、国際条約違反のシステムが仕込まれていた。VTシステム・・・知っているな?」

 

 

教官の言葉に、小さく頷く。

VTシステム・・・ヴァルキリー・トレース・システム。

過去のモンド・グロッソの戦闘方法をデータ化し再現・実行するシステムで、あらゆる企業・国家での開発・研究・使用が禁止されている。

機体損傷度や操縦者の私の心理状態などの条件が重なれば、発動する仕掛けだったらしい。

 

 

「近くドイツ軍に委員会の強制捜査が入る。お前にもIS学園から監視がつけられる・・・まぁ、私だがな。お前はこれから当面は私の管理下だ、異論は無いな?」

「・・・了解」

 

 

トレース・システム・・・ああ、そうか、と納得する。

私は、教官になろうとしたのか・・・この人に。

それにすら失敗した私は、もう誰でも無い・・・。

 

 

「悩むが良いさ」

「・・・?」

「しばらくはここにいなければならん、人生はまだまだ続く、大いに悩めよ小娘」

 

 

もしかして、慰めてくれているのだろうか・・・?

そんなことを思うくらい、私は弱っているのだろうか。

だが、この人に言われるのならそれで良いと思える。

 

 

「・・・き・・・織斑、先生」

「何だ?」

「夢を・・・見た気がします。初めて・・・」

「ほう、興味深いな。どんな夢だ?」

「たぶん・・・あの男・・・織斑先生の弟、織斑一夏と会話を・・・していました」

 

 

憎くて、不要で・・・羨ましかった、男。

教官の「特別」な、あの男と。

どこか・・・不思議な空間で話した。

ISのコア同士の同調で起こると言う現象に、似ていた気がする。

 

 

「何と言っていた?」

「自分は強く無い・・・もし強く見えるのなら、それは強くなりたいと思っているからだ、と。それはつまり、そう在りたいと願っているのだと・・・」

 

 

自分がどうしたいか、それがわからなければ強い弱い以前に、歩き方がわからない。

だから、やりたいようにやる・・・後悔はたくさんだけど、と笑っていたような気がする。

あの夢の・・・空間の中では、奇妙なくらい素直でいられた気がする。

 

 

素直に・・・言葉を、噛み締めることができたと思う。

 

 

それは、生まれて初めてのことだった。

・・・織斑教官、以外では。

 

 

「そして・・・本当に強くなれたら、誰かを守ってみたい、そう言っていました・・・」

「・・・そうか、青いな」

「はい・・・でも」

 

 

それはまるで、貴女のようだった。

 

 

「・・・ふん、一つ忠告しておくぞ?」

「・・・? はい」

 

 

私の顔を興味深そうに見ていた教官が、ニヤリと笑いながら口を開いた。

その表情に、何故か私はモヤモヤした物を胸に感じる。

 

 

「心を強く持て、アレは未熟者だが妙に女を刺激する・・・油断すれば、惚れてしまうぞ?」

「惚れる・・・? 教官もですか?」

「姉が弟に惚れるか、馬鹿め・・・まぁ、お前はそこから始めても良いのではないか? ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

教官は立ち上がると、私に背を向けて出口目指して歩き出した。

 

 

「まぁ、今は休め・・・アイツはどの道、3日間は懲罰部屋から出て来れないしな」

 

 

それだけ言って、後はもう何も言わずに医務室から出て行った。

仕事に、戻るのだろう。

はぁ・・・と、大きく息を吐いた。

 

 

「・・・織斑一夏か」

 

 

本国から「第一級観察対象」に指定されている男、教官の弟。

正直、何故教官があのような男に入れ込むのかわからない。

・・・とは言え、どうやら私はあの男に助けられたらしい。

・・・・・・まだ、判断するには材料が足りないな。

で、あれば、今後しばらく、観察を続けることにしよう。

元々、そう言う命令で日本に来たのだから。

 

 

・・・む?

気のせいか、何だか隣の個室が騒がしいな・・・。

どこかで聞いたような声が聞こえるが。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

いやぁ、今回はリアルに死ぬかと思った。

『黒叡(こくえい)』もダメージレベルBまで行ったし、危なかった。

レベルCを越えるとデータ飛ぶかもしれなかいから、本気で危なかったよ・・・。

 

 

はぁ・・・怖かった。

生徒会長さんが来なかったら、今頃・・・。

・・・想像するだけで、寒気がするや。

 

 

「楓ちん、助けてくれてありがとう」

 

 

医務室で一応の診察を受けた後、着替えてたら本音さんにお礼を言われた。

私がぱちくりと目を瞬かせていると、にへへ、と笑って。

 

 

「私、あんまり動きとか早く無いからー・・・楓ちんがいてくれなかったら、ヤバかったよー」

「え、えー・・・でも、結局は生徒会長さんが助けてくれたわけだし・・・」

 

 

と言うか、そもそもあの場所にいたのだって私のせいみたいな物だし・・・。

生徒会長さんが来てくれなかったら、どの道、本音さんも私と一緒に酷いことになってたと思うし。

 

 

「でも、庇ってくれたのは楓ちんだよ。・・・だからっ、楓ちんにありがとう、だよ」

 

 

ぺかー・・・気のせいか、本音さんの周囲に光が溢れてるように見えた。

太陽みたいなほんわかな笑みを浮かべて、お礼を言ってくれる。

それはどこか照れくさそうにも見えて、本当に可愛かった。

 

 

そして私も、本音さんのほんわかさに当てられて・・・少し、嬉しくなった。

本当に怖かったけど、でも・・・良かったって思えるくらいに。

本音さんが無事で、本当に良かった。

 

 

「・・・およよ? 楓ちん照れてる? ねぇねぇ、照れてるのー?」

「そ、そんなこと無いよ?」

 

 

でもたまに鋭くなる所は、ズルいと思うよ。

その後、ペタペタひっついてくる本音さんから逃げ回っていると、今度は簪ちゃんが部屋に入って来た。

くっついてる私達を見て、眉を顰めて。

 

 

「・・・何・・・してるの・・・?」

「わ、わー・・・簪ちゃん、今日は本当にごめんね!?」

「別に・・・良い。楓のせいじゃない」

「おお~、ありがたきお言葉ですお嬢様~」

「・・・本音は、ダメ」

「ええ~っ」

 

 

簪ちゃんは本音さんからふいっと、顔を背けるけど、きっと本音さんのことも心配だったんだよね。

だって簪ちゃんが手に持ってる袋には、ちゃんとカップケーキが3つ入ってるもん。

・・・あ、そうだ。今日・・・。

 

 

『私のことは、簪ちゃんには黙っていてね?』

 

 

・・・口止め、されてたんだった。

でも、何で口止めする必要があるんだろう。

お姉ちゃんなのに・・・仲が悪い、のかな?

 

 

不思議そうに首を傾げる簪ちゃんに、私は曖昧な笑いを返す。

あんまり、深く聞いたこと無かったけど・・・。

簪ちゃんは、お姉ちゃんのことをどう思ってるんだろ・・・?

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

病室の中から聞こえて来る楽しげな声に、ドアノブに伸ばしかけた手を引っ込める。

楓と、その友達が・・・楽しそうに話しているのが聞こえる。

 

 

「・・・」

 

 

何となく気持ちが挫けて、私はそこから踵を返して立ち去る。

・・・楓の方にも例の侵入者が出たと聞いたが、この様子なら心配なさそうだな。

そう、思ったから。

 

 

「入んないの? 中」

「・・・友達もいるようだし、邪魔だろうから」

「別に、そんなことも無いと思うけどね」

 

 

途中、廊下の壁に寄りかかるようにして立つ鈴と擦れ違った。

聞けば、楓を守ろうとしてくれたらしい・・・礼を、言わなくてはな。

 

 

「良いわよ、別に。結局、あんまり役には・・・それよりもさ、あの子ってさぁ」

「・・・何だ」

「向いて無いんじゃないの? ・・・ああ、別にあの子がどうってわけじゃ無いわよ」

 

 

誰が何に、向いていないのか。

それは・・・。

 

 

「だってあの子、攻撃って選択肢が無いんだもの・・・あんな状況でもさ」

「・・・それは」

「勘違いしないでよ、別にそれが悪いってわけじゃないの。でもさ、ここには・・・向いて無いと思う」

 

 

向いていない。

そう言って鈴は、肩を竦めた。

それを何故、本人では無く私に言うのか。

 

 

決まっている、私が楓の・・・あの子の、姉だからだ。

優しいあの子の・・・姉さんだからだ。

結局その場では私は鈴に何も答えられなくて、そのまま別れたが。

 

 

「・・・楓、か」

 

 

箒姉さん・・・姉。

私を嬉しそうにそう呼ぶあの子は、私の双子の妹。

3年前までは、身体の弱い「守る」べき対象だった。

けど今では、私を守るまでになっている。

 

 

・・・ああ、これは嫉妬だ。

 

 

でもそれは、何に対する嫉妬なのかがわからなかった。

専用機を持っていることか、それとも他の何かなのか。

例えば・・・。

 

 

「・・・」

 

 

寮の部屋に戻ると、同室の者はシャワーを浴びている最中のようだった。

気を遣わせないよう静かに扉を閉めて、自分のベッドに向かう。

そこには当然、私の私物がある。

着替えや日用品、剣道の道具や教科書、一夏の訓練用に買ったIS関連の参考書。

 

 

「・・・一夏」

 

 

あの時、泥人形(暴走したラウラ)に捨て身で挑んだ一夏・・・怪我も無く無事で、本当に良かった。

だけど、どうしてか素直に喜べない。

どうしてか・・・? そんなの、本当はわかってる。

 

 

私だけが、蚊帳の外だった。

 

 

試合の最中も、それ以外も・・・私だけが。

剣士として、道具のせいにするのは卑怯だとわかってる。

けれど量産機では・・・専用機持ちで無い私では、力不足だ。

一夏の傍に、いられない・・・隣に、立て無い。

どうしてだろう、そう思うといつも他がどうでも良くなるのは。

 

 

「・・・」

 

 

ベッド脇の小物入れの引き出しを、開ける。

そこには、私が普段使っているのとは別の携帯電話が入っている。

3年前に貰って・・・それ以降、一度も使わなかった。

登録してあるアドレスは、1件だけ。

 

 

これは、絶対に使わないと誓っていた物。

だけど、捨てられなかった物・・・。

・・・躊躇しつつ、ボタンをプッシュする。

耳元に響く着信音、心無しか鼓動のようにも聞こえる。

 

 

 

『やぁやぁやぁ! 久しぶりだねぇ! ずっとずぅ―――っと待ってたよ!!』

 

 

 

ほどなく響いたのは、懐かしい声。

そして・・・一番、聞きたくない声だった。

喜びの色に染まった高い声が、私の耳朶を打つ。

私は服の裾を強く握りしめながら、息を深く吸って・・・。

 

 

 

「・・・・・・姉さん・・・・・・」

 

 

 

そう、言った。

それだけのことで、電話の向こうから響く声はさらに大きくなる。

嬉しそうに、喜びに満ちて。

 

 

 

『うんうん、用件はわかっているよ。欲しいんだよね? キミだけのオンリー・ワン、代用無きもの(オルタナティブ・ゼロ)、箒の専用機が。モチロン用意してあるよ。最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)。そして、黒に見守られて白と並び立つもの。その機体の名は――――』

 

 

 

姉さん・・・篠ノ之の長姉の告げた名前を、私は音を出さずに唇だけでなぞった。

シャワーの音が、やけに遠くに聞こえた・・・。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

俺が千冬姉によって「懲罰部屋」から出されたのは、実に3日後のことだったとさ。

・・・いや、ちょっとモノローグみたいな感じにして客観性を持たせないと心が保たなくて。

織斑式懲罰術、何アレ、受けたことは無いけど軍隊の拷問よりキツいんじゃ無いか?

 

 

あの千冬姉の真似をした偽物野郎に一撃を貰った時だって、こんなに効かなかったぜ。

楓が装甲全部出せるようにしてくれて無かったら、死んでたかもな・・・。

 

 

「次に勝手なことしたら10日間ブチ込む」

 

 

出される時、何故か超笑顔で言われた。

ああ、千冬姉はやっぱり美人だなぁ・・・涙が出そうなくらい震えが来るぜ。

いや、うん、俺のことは良いんだ、うん。

早く忘れよう、そうで無いと生きていけないから・・・。

 

 

「・・・あ」

「おう」

 

 

俺が(心無し)ヨレヨレしながら寮に戻ると、廊下でシャルルと出くわした。

シャルルはひとしきり俺の身体の心配(それ以外もあるかもしれんが)をした後、俺の「大丈夫」との言葉にほっとしたような笑顔を見せてくれた。

 

 

「シャルルは大丈夫だったか? 俺は懲罰部屋の外のことはイマイチ知らんのだが」

「あー・・・うん、大丈夫。大事なモノは何も失わなかったから」

「大事じゃ無いモノは失ったみたいに聞こえるんだが・・・」

 

 

何故か、シャルルに目を逸らされた。

激しく気になったが、精神衛生のために聞かない方が良い気がした。

まぁ、とりあえず・・・学年別トーナメントは普通に中止になったらしい。

箒も楓も、あとラウラも助かったらしいこともわかった。

 

 

・・・そっか、なら、まぁ、良いや。

俺がちょっと千冬姉によってこの世の地獄を見せられるくらい、何とも・・・何・・・。

 

 

「い、一夏? 泣いてるの・・・?」

「いや、大丈夫だシャルル、大事なモノは失わなかったから」

「・・・そ、そう」

 

 

それにアレだ、悪いことばかりじゃない。

何でも今日から男子も大浴場を使えるようになったのだ!(曜日制だけど)。

・・・あ、でもなぁ、シャルルがいるから・・・どうした物か。

 

 

この3日間、考える時間は山ほどあったけど、シャルルの問題の解決策はさっぱりだ。

本人は「もうしばらく、このままで良いよ」と笑ってるが、でもなぁ。

やっぱり男と同居なんて気を遣うだろうし、何より嫌だろうし。

シャルルのためにも、何とか部屋を分けてやりたいよなぁ・・・。

うーん・・・何とかならない物か。

 

 

 

「だーれだ?」

 

 

 

その時、俺の目の前が真っ暗になった。

誰かの手が、後ろから俺の目を覆っている・・・付属して、楽しさを滲ませた女子の声。

もちろん、シャルルじゃない。

さらさらして、しかもどこか冷たいその手は・・・って、誰?

慌てて振り向くと、見知らぬ女生徒が楽しそうに俺を見ていた。

 

 

IS学園の女子制服、リボンの色から2年生だとわかる。

癖毛が外にハネた短い青みがかった髪に、赤い瞳、白い肌。

余裕のありそうな大人びた笑み、だけどどこか悪戯好きそうな印象を受ける。

その手には、何故か扇子。

 

 

「え、誰・・・?」

 

 

俺の囁きに笑みを深くしたその女性とは、とんっ、と一歩だけ距離を詰める。

そうして、何をしたかと言うと・・・トンッ、と軽い音を立てて。

 

 

シャルルの胸に、軽く扇子の先を押し当てた。

 

 

きょとん、とした表情を浮かべた後、シャルルは慌てて身を引く。

かすかに頬を染めたその仕草は女の子的で、少し焦る。

特製コルセットで胸を隠しているから、大丈夫だとは思うけど・・・。

 

 

「うふふ・・・かーわい♪」

「え、えぇっ・・・?」

「い、いやいやいや、キミ誰!?」

 

 

困惑する俺達に、その女生徒は自分の口の前でぱんっ、と扇子を開く。

そこには、『看破』と書かれていた。

・・・はい?

 

 

「困ったら、生徒会室に来なさいな・・・助けてあげる」

「はい?」

「じゃーねー」

 

 

そしてそのまま、名前も言わずに颯爽と去って行く女生徒。

気のせいか、清流のような爽やかな空気を残して。

・・・って、そんなわけ無いだろ。

 

 

「な・・・何だったんだ? シャルル、大丈夫か?」

「う、うん・・・ありがとう一夏」

 

 

まだびっくりした表情を浮かべていたけど、シャルルは大丈夫だと言った。

それにしても、本当に誰だったんだ?

生徒会って・・・何で?

まぁ、よくわからんが、気にしないことにしよう

 

 

「どうした、珍妙なことをして」

「・・・この声は!」

 

 

千客万来とはこのことだろうか、さらに俺達に声をかけてくる奴がいた。

それは銀色の髪と黒の眼帯の少女で・・・ラウラ・ボーデヴィッヒと言う。

学園の制服を着ている点では同じだが、さっきの人とはことなり全身から威圧感を醸し出している。

 

 

「・・・まだ、やる気?」

 

 

俺と同じくシャルルも警戒態勢、そりゃ仲良く挨拶はできねぇよな。

あの時・・・試合中に乱入してきた敵は、ラウラが倒した。

でも変なシステムを使ったらしく、ラウラも暴走した。

 

 

乱入者を倒した後は大人しくなったから、『零落白夜』で切れたんだけど。

千冬姉の真似ごとされて俺がキレてたってのもあるけど、今思うと危なかったな。

そりゃ、懲罰部屋行きだわな。

そもそもシャルルがエネルギーを分けてくれなきゃ、できなかったしな・・・。

 

 

「・・・」

「・・・何だよ」

 

 

ラウラは俺の目の前まで歩いて来ると、下から睨み上げて来た。

気のせいで無ければ、どこか品定めされているような気がする。

 

 

「・・・ふむ。良く見れば教官に似て・・・」

「あ?」

「ああ、いや、こちらの話だ・・・何、今日は一言、宣告しにきただけだ。すぐに立ち去る」

 

 

何をブツブツ言ってるのかはわからないが、妙に殊勝な態度だった。

威圧感も、最初よりは柔らかい。

ラウラはこほんっ、と咳払いした後・・・俺をじっと赤い右眼で見つめて来る。

 

 

意味のわからない、沈黙。

数秒か数分か、しばらくしてラウラが動く。

それから無表情に・・・俺を、右手でビシィッ、と指差して。

 

 

「織斑一夏、私はお前を観察することにした」

 

 

・・・は?

・・・・・・はあああぁぁぁっっ!?

 




篠ノ之 束:
うふふふ・・・あっはははは!
あはははっ、うっふふふふ・・・っ!

篠ノ之 楓:
・・・ど、どうしたのお姉ちゃん、登場からご機嫌だね・・・。
と言うか、軽く危ないよ・・・?

篠ノ之 束:
うっふっふっふっ・・・箒ちゃんが私に電話!
これは喜ばずにはいられないよねっ!
あーはっはっはははは~!

篠ノ之 楓:
・・・ね、姉さん、束お姉ちゃんに何て言ったの・・・?

篠ノ之 箒:
い、いや、別に何も・・・と言うか私は「姉さん」としか言って無い・・・。

篠ノ之 束:
いやいやいやいやっ!
箒ちゃんの気持ちはずきゅううんっ、と伝わってきたよ!
もうね、任せといてよ、お姉ちゃんに!
うふふふ・・・あはははは~~~!

箒&楓:
こ、怖い・・・。

篠ノ之 束:
にゅほほほほ~♪
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