インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第9話:「そのクラス、休日」

Side シャルル・デュノア

 

夢を見た気がする。

お母さんと、一緒に過ごしていた頃の夢。

お母さんがいて、お父さんに拾われる前の頃の夢。

 

 

小さいけれど温かな家、貧しいけどどこか満足感があった生活。

けれど、もう戻れない時間・・・。

だからこそ、懐かしいんだろうと思う。

 

 

「シャルル」

 

 

不意に、誰かが僕の名前を呼ぶ・・・僕じゃ無い、僕の名前を。

そう呼ばれるのは嫌いだった、だけどこの声に呼ばれるのは嫌じゃ無い。

この声は・・・誰の声だろう?

そう思って、私は・・・。

 

 

「・・・・・・ん」

 

 

・・・目を開くと、そこは見慣れた寮の部屋だった。

夢・・・だったんだ。

気のせいで無ければ、いるはずの無い誰かがいたような・・・。

 

 

「朝・・・」

 

 

もぞ・・・と、ベッドの中で寝返りを打つ。

すると、隣のベッドで眠る男の子のことが視界に入った。

最初の数日はびっくりしたけど、今はもう慣れたよ。

 

 

むしろ、こうやってこっそり寝顔を眺める余裕まで出てきちゃったりして。

一夏・・・僕の秘密を知っている唯一の人。

それでも僕のためにいろいろなことを我慢してくれている、男の子。

それでも優しく笑う、男の子・・・。

 

 

「・・・うん?」

 

 

すぅすぅと眠る一夏、それはいつもと変わらない。

でも何だろう、違和感を感じる。

一夏のお布団、いつもより盛り上がりが大きい気がする。

・・・何だろ?

 

 

ちょっと首を傾げながら、僕はベッドから下りる。

一夏を起こさないように近付いて、様子を窺う。

・・・ふふ、こうして見ると、一夏って可愛いよね・・・じゃなくて。

 

 

「ん・・・」

「・・・へ?」

 

 

い、今、何か・・・一夏のお布団の中から明らかに一夏の声じゃ無い声がしたよ!?

おっかなびっくり、一夏のお布団をめくる。

いつもならそんなこと、はしたなくてできないけど・・・え?

 

 

一夏のお布団の中に、銀髪の美少女がいた。

 

 

しかも、眼帯とレッグアーマー(ISの待機状態らしい)だけで・・・服、着て無い!?

その女の子は・・・ドイツの代表候補生、名前は。

 

 

「ら、ラウラ・・・!?」

「んがっ・・・んあ? 何だシャル、るううううぅぅぅっ!?」

 

 

一夏も起きた、そして大声。

その様子を見ると、その・・・い、一夏が連れ込んだわけじゃ・・・無い、よね?

信じて良いよね、一夏・・・?

 

 

「そんな目で見ても俺は無実だ!! と言うか、何でラウラがここにいるんだ!?」

「んぅ・・・何だ、朝か・・・」

「わ、わああぁぁっ!?」

 

 

ラウラも目を覚まして、しかもそのまま立ち上がろうとした物だから、僕は慌ててラウラの身体にお布団を被せた。

え、ええと、服、何か服・・・!

 

 

「し、シャルル! ヤバい!」

「え、え、何、何が・・・って、わわわ・・・!」

 

 

一夏に言われて気付く、僕って今、コルセットで胸締めて無い・・・!

お布団の中でモゴモゴしてるラウラを横目に、僕はコルセットを手にシャワールームに駆けこむ。

あ、危な、危なかった・・・!

僕がコルセットを着けている間にも、一夏とラウラが揉めている声が聞こえる。

 

 

「な・・・何でここに!?」

「言っただろう、お前を観察することにしたと。そうである以上、可能な限り至近で観察するべきと判断した」

「いや、意味わかんねぇよ!」

「何がだ?」

「いや、だってお前・・・」

 

 

・・・な、何だろう、ラウラの中で何が化学反応を起こしてこんなことに?

一夏の立場から言うと、ラウラって未だに友達を傷付けた悪者なんだよね。

謝罪みたいな物はあったけど、一言「許せ」だもんねぇ・・・。

と、とにかく、コルセットを締めてパジャマを着直して・・・良し。

 

 

「う、うわあああああっ!? 立つな! 隠せ!」

「大声を出すな、常識を疑われるぞ」

「お前が常識を語るな!! それに、シャルルだっているんだぞ!?」

「む? しかしアイツは・・・」

 

 

シャワールームから出た僕は、ラウラの不思議そうな視線に迎えられた。

それは、本当に不思議そうで・・・何と言うか、居心地の悪い雰囲気だった。

嫌な沈黙が、僕とラウラの間に・・・うん、ともかく服を着せよう。

一夏が凄く困ってるし、早く何とかしないと・・・。

 

 

「一夏、いるか? せっかくの休日だし朝食を一緒に・・・」

 

 

短いノックの後、部屋の扉が開く。

声の主は箒さん、そしてベッドの上には一夏とラウラ(服、無し)。

このタイミングで来るって、一夏ってツいて無いよね。

 

 

・・・ごめん、一夏。

僕はどうやら、キミを守れなかったようだよ・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

休日の朝、食堂に行くと首の角度が若干おかしい一夏さんに会った。

それを見て私は、箒姉さんと一夏さんが今日も仲が良い事を確認する。

うん、良かった。

 

 

「・・・本気で言ってるのか?」

「もちろん」

 

 

非難がましい一夏さんの声にさらりと返して、私は箒姉さんと同じ定食をカウンターから取ってくる。

煮魚とほうれん草のおひたし、ご飯とお味噌汁、日本人的。

束お姉ちゃんの所にいた時はこんな料理は食べられなかったので、凄く良い。

基本的に、携帯食糧(レーション)が1番のごちそうだったからね。

 

 

朝食の席には、私と箒姉さん、そして一夏さんとシャルルさん、ラウラさん(名前で呼べ、だそうで)がいる。

・・・いや、何でラウラさんがいるんだろう。

観察って、それつまりス(自粛)。

 

 

「おはよー、今日は何だか気温高くない?」

「皆さん、お揃いのようですわね」

 

 

そして今、鈴さんとセシリアさんが来た。

2人はラウラさんを見ると頬の筋肉を痙攣させたけど、あえて何も言わずに丸テーブルの端に座る。

位置的に言うと、鈴さん、私、箒姉さん、一夏さん、ラウラさん、シャルルさん、セシリアさん。

うーん、何だか揃い踏みって感じ。

 

 

「・・・で、今日は何をやらかしたのよ、一夏?」

「人を問題児みたいに言うなよ」

「どうかしらね」

「一夏さんは、すでに問題児ですわ」

 

 

懲罰部屋にも行ったしねー。

口にすると一夏さんが遠くを見るような目になるので、口にはしないけど。

あー、おひたしウマウマ。

 

 

「あー・・・そう言えば、ねぇねぇ、箒姉さん」

「・・・何だ」

「臨海学校の水着って、どうしてる?」

 

 

そう、もうすぐ臨海学校。

日曜日の今日の内にいろいろと準備をしておかないと不味いのだけど、水着が一番面倒。

校外学習とは言え、生徒の自由時間は割と長い。

海に出て遊ばないと死ぬ・・・とは、本音さんの談。

 

 

「まぁ、スクール水着で良いよねぇ、箒姉さ」

「「無い(です)わ!!」」

「うぉう」

 

 

何故か、鈴さんとセシリアさんが物凄く食いついて来た。

え、えぇー・・・何故に。

良いじゃない、スクール水着。

 

 

子供の頃に運動制限でプール授業受けれなかった身としては、憧れる。

学校指定(スクール)水着・・・良く無い?

 

 

「「良く無い(ですわ)!!」」

「アンタねぇ・・・年頃の女の子がそんなことで良いと思ってんの!?」

「そうですわ、もう少しご自分の身嗜みには気を付けて頂きませんと・・・」

「えぇ~・・・一夏さん、どう思います? スクール水着で臨海学校」

 

 

傾いた首をゴギッ、と整体のように直している一夏さんに、聞いてみる。

まぁ、ここは男性の意見を聞いてみよう。

 

 

「え? 良いんじゃないか別に、似合うと思うぞ」

「そうか、ではやはり私も学校指定の水着で良いな。アレは機能性に優れている」

 

 

おお、ラウラさんの賛同まで得られた。

7人中3人までもがスクール水着容認派となった今や、私の意見が通るのも時間の問題。

では、そう言うことで・・・煮魚の身をほぐすとしま。

 

 

「ダ・メ・よ! 買いに行くの! どいつもこいつも何にもわかって無いんだから!」

「えぇ~」

「行くのよ! 今日!!」

 

 

いや、むしろ何故に鈴さんがそんなに気合いが入っているのか。

しかもその視線は私では無く、一夏さんに注がれているわけで。

「?」と首を傾げた一夏さん、せっかく直したその首が逆方向に傾くまで数秒とかからなかった。

 

 

・・・と、言うわけで。

今日は皆でショッピング、と言うことになったらしい。

スクール水着、憧れてたんだけどな。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

何はともかく、校内にいたんじゃ埒が明かないわ。

そう言うわけで、今日は皆で水着を買いに行くことになったの。

と言うか主に箒と楓とラウラの水着、年頃の乙女がスクール水着って、悲し過ぎるわよ。

 

 

「しかし、あの水着は機能性が」

「ラウラ、うるさい」

「こう、憧れる物が」

「プール授業の時にでも着なさいよ」

 

 

楓とラウラ―――あれ、何で私ラウラと買い物なんかに行くことになってんのかしら―――がグチグチ言ってるけど、却下よ却下、年頃の乙女が海に行くのにスクール水着とか無いから。

えーと、この辺だとアレよね、駅前のショッピングモールかしらね。

 

 

とりあえず食堂で一旦別れて、学園のゲート前で最集合。

メンバーは私とセシリア(意外と付き合い良いのよね)、一夏に箒に楓、んでラウラ・・・あれ?

 

 

「シャルルはどうしたのよ?」

「え、あ、ああ、何か今日は用事があるらしくて」

「ふーん・・・まぁ、良いけどね」

 

 

10分後に一夏の部屋に迎えに・・・べ、別に他意は無いわよ、遅れるかもしれないから、来てあげただけよ。

ん、んんっ、とにかく、まず一夏と合流してから皆の所へ行くわ。

で、シャルルは来ないって言うんだけど・・・。

まぁ、楓達の水着を見に行くんだから、シャルルに付き合わさせるのは悪いわよね。

 

 

「・・・え、それ俺は?」

「うっさい、さっさと来なさいよ」

「そうですわ、レディをあまり待たせるものでは無くてよ」

 

 

一夏と一緒にゲート前に行くと、そこにはもう皆揃ってた。

一番プリプリしてるのはセシリア、日差しでも気にしてるのかもしれない。

ラウラは1人、少し離れた位置に立ってて・・・箒の傍には楓、何かディスプレイ出して眺めてる。

・・・人を待つ時でも、性格って出るもんよね。

 

 

まぁ、とにかくそれじゃあ、行きましょうか。

良く考えてみれば、このメンバーで買い物って言うのも楽しそうよね。

・・・あ、そだ。

 

 

「そう言えばさぁ、予算っていくらくらいあるわけ?」

「む、金か? 口座に2000万ユーロ程あったと思うが」

「あー・・・アンタ、代表候補生だもんね。にしても持ち過ぎだけど」

 

 

ラウラねぇ・・・本国からは特に何も言ってきて無いけど。

条約違反のシステム積んでた件は、表沙汰にはなって無いけど。

でも裏ではいろいろやってるらしくて、今まさに英仏伊でドイツを追及してる所らしいし。

ひょっとしたらドイツのIS保有数減るかもってことで、中国(ウチ)も・・・。

 

 

まぁ、それは私が考えることじゃないけど。

とにかく、国によるけど代表候補生は軍属みたいな物だからお給金も結構、出てんのよ。

私もそれなりに貯金、あるし。

問題は・・・。

 

 

「・・・お?」

 

 

飴でも食べてるのか、ほっぺが少し膨らんでる。

リスみたいで可愛い・・・じゃなくて。

箒と楓って、お金あんのかしら・・・いや、馬鹿にしてるわけじゃなくて。

 

 

「私は、自分の水着を買う金くらいはある」

「そう、えーと・・・」

「む、その目はもしや、私がお金を持っていないとでも?」

「いや、別にそう言うわけじゃ・・・」

 

 

ディスプレイを消した楓は、立ち上がると服のポケットの中から妙に薄いお財布を取り出した。

そこからゴソゴソと・・・。

 

 

「じゃじゃーん」

 

 

何か変なポーズ取りながら、楓が天に何かをかざした。

その手には太陽の光を浴びてキラリと輝く・・・黒いカードが握られていた。

・・・って、アレってもしかしてブラックカードとか言う・・・。

 

 

 

 

 

Side シャルル・デュノア

 

まぁ、普通に考えて僕が一緒に水着を買いにいけるわけが無いよね。

というかそれ以前に、臨海学校に行って大丈夫かな・・・まぁ、自由時間に海に出なければ大丈夫だよね。

仮病で休むわけにもいかないし・・・そんなことしたら、織斑先生が怖いし。

 

 

「皆、駅前のお店にもう着いたかなぁ」

 

 

ふぅ、と息を吐いて、僕は汗に濡れる顔を肩にかけたタオルで拭う。

髪先から汗の滴が落ちて、学園のトレーニングルームの床に落ちる。

トレッドミル・・・まぁ、トレーニングマシンで走り込みをやってる僕。

 

 

体力作りと身体作りは、ISの操縦者の義務みたいな物だから。

それに向こうでお父さんに拾われてからは、他にすることも無かったし。

僕にとってはもう、日課みたいな物かな。

最近は、一夏の寝る前の筋トレとかにも付き合ってるけど・・・。

 

 

「あ、あの、デュノア君!」

「え・・・あ、はい、何ですか、お嬢さん?」

「わ、わ・・・こ、これ!」

 

 

僕のことを遠巻きに見ていた女生徒―――たぶん同学年―――が、僕にスポーツドリンクを渡して来た。

その割に腰を直角に曲げてるから、顔が見えないけど。

たぶん、差し入れ・・・かな。

お礼を言って受け取ると、その子は顔を真っ赤にしたまま走り去って行っちゃった。

 

 

友達なのか、女の子のグループに戻ると「きゃーっ」と言い合いながらトレーニングルームから出て行く。

・・・まぁ、何と言うか、可愛らしいね。

でも同時に、少し申し訳ない気持ちになる。

 

 

「・・・気分の良い物じゃないよね」

 

 

・・・僕は、本当は女の子だから。

冷たいスポーツドリンク―――一夏は「ぬるめの方が健康的」って言ってたね―――を手の中で弄びながら、僕は何とも言えない気分になっている。

 

 

あの子達や他の皆は、僕が男の子だと思ってるからあんな反応をしてるんだと思う。

僕がちゃんと女の子としてここに来ていたら、別の反応をしたはずなのに。

・・・僕は、どうするべきなんだろう。

 

 

「・・・一夏は、優しいね」

 

 

そんな僕でも、気を遣って優しく接してくれる。

男の人に優しくされたのは初めてで、とても戸惑うことも多いけど。

でもそんな一夏の前でだけ「シャルロット(おんなのこ)」になるのも、卑怯だよね。

 

 

トレーニングルームの壁際に鏡、そこには「シャルル(おとこのこ)」が映ってる。

胸を特製のコルセットで締めて、オレンジ色のトレーニングウェア姿で。

胸元には、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の待機状態の十字のマークがついたネックレス・トップ。

・・・偽りの、僕。

 

 

「・・・まぁ、とにかく海には行けないね」

 

 

僕がここに居続けるための方法、そんなに選択肢は無い。

そしてそのどれを選んでも、ハッピーエンドにはなれない。

・・・切ないね。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

臨海学校・・・か。

自由時間には海に出れると言うから、水着は必須だな。

流石の私も、15にもなって学校指定水着と言うのもな・・・。

 

 

「姉さん、姉さん」

 

 

それに臨海学校中には、私の環境も変わっているかもしれない。

目を閉じれば、先日の夜の電話を思い出す。

・・・あの件に関しては、未だに自分の中で決着がつけられないままでいる。

 

 

私はいったい、どう言う価値基準で行動しているのだろうか。

いや、それ以前に・・・私は、どうしたいのだろうか。

あの人を断じたいのか許したいのか、愛したいのか嫌いたいのか・・・。

それとも、そのどちらもなのか、いずれも違うのかすら。

 

 

「箒姉さん、箒姉さんってば」

 

 

ただわかっているのは・・・一夏の隣にいたい。

それだけは、私の中で幼い頃から変わっていないことだった。

剣は揺らいでも・・・心だけは、揺らいでいない、はずだ。

 

 

「・・・・・・おい、楓」

「わ、やっと返事してくれた」

 

 

目を開ければ、そこは駅前ショッピングモールの水着売り場。

デザインや色など、様々な女性用水着が所狭しと並んでいる。

値段も手頃で、しかも女性は試着が自由と言う有難い店だ。

 

 

とは言え、私はその・・・そう言う物に対するセンスが無い。

何分、慣れていないから。

それを察してか、楓が甲斐甲斐しくいろいろと持ってきてくれるのは良い。

・・・が。

 

 

「ど、どうしてどれもこれも、派手なデザインのばかりなのだ!?」

「派手って言われても・・・普通のビキニだよ」

「し、しかしだな・・・そ、それでは下着のようでは無いか」

 

 

最後の方は一夏の聞こえないように小声だが、とにかくそうなのだ。

楓が持ってくる水着はどれも、布の面積が少ない。

もう少しこう、布の面積を控え目に・・・そう、ワンピース型(タイプ)・・・って。

 

 

「それ、お前のか?」

「え? うん、まぁ、適当に」

 

 

楓は楓で、自分の分らしき大人しめのデザインの水着を持っている。

わ、私にもそう言うので良いんだ!

と、言う物の・・・どうしてか楓は表情を暗くして。

 

 

「姉さんの身体のサイズだと、ワンピースは種類が・・・」

「わ、私が太っていると言うのか!?」

「スタイルが良過ぎて種類が無いの! 何? それを私に言わせて楽しいの!?」

「い、意味のわからないことを言うな!」

 

 

いや、確かに私は、その、胸のせいでサイズの合う下着や衣服が少ないが。

それに対して楓はスレンダーで、種類が豊富で楽そうと言うか・・・。

・・・どうした楓、泣きそうな顔で蹲って。

 

 

「お2人とも、お店ではお静かになさってくださいな。一緒にいる私まで同じ目で見られてしまいます」

「む、そ、それもそうだな。すまないセシリ・・・アって、な、何だその水着は!?」

「ああ、たまには庶民の店の物でと思いまして」

 

 

別の水着の列からやってきたセシリアは、やたらに布の面積の少ない水着を手にしていた。

そ、そんなに小さな・・・15歳の乙女が着て良い物ではないだろう。

お、欧州では普通なのか・・・?

 

 

「・・・鈴さんの所に行きたいな」

「鈴さんなら、あちらですけど・・・」

「・・・ばたり」

 

 

私が国と国の文化の違いに衝撃を受けていると、楓が何かセシリアに撃沈されていた。

よ、良く分からないが、大丈夫か。

私は私で、サイズの合う水着が少ないし・・・う、うーん・・・。

 

 

・・・い、一夏に見られるかもしれないのだから、下手な物は選べない。

でも自分では選べない、なら楓の・・・いや、だが、しかし・・・。

くっ・・・いったい、どうすれば良いんだ!

ああっ、もう! 一夏のせいだぞ!

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

・・・な、何か知らんが、凄く寒気がした。

何故だろうな、物凄く謝りたくなってきたぞ。

 

 

「ごめん」

「え? 何? 私ってば何で謝られてんの?」

「いや、別に鈴に謝ったわけじゃない」

「はぁ? 喧嘩売ってんの?」

 

 

ヤバい、今度は正面にいる鈴の機嫌が坂を転がるように悪くなってきたぞ。

だが大丈夫だ、俺には楓と言う経験がある。

俺はポケットから「それ」を取り出すと、そっと鈴に手渡した。

 

 

「・・・何、コレ」

「飴玉、オレンジ味」

「子供かっ!」

「あれ? 楓はこれで機嫌を直すんだけどなぁ」

「一緒にすんじゃ無いわよ! ・・・と言うか、あの子ってこんなので機嫌直るの?」

 

 

楓は普段はぼんやりしてるけど、箒やISのことが絡むと沸点が低い。

そういう時は、飴を渡すのと機嫌を直してくれる。

鈴はまだぶつくさ文句を言ってたけど、俺が渡した飴はちゃんと貰ってくれた。

そして俺は、飴の効果を再確認したわけで。

 

 

「・・・で、どっちの水着が良いのよ?」

「え、いや、どっちも似合うと思うぞ」

「・・・はぁ」

 

 

俺は今、どう言うわけか鈴と2人きりで鈴の水着を選んでる。

途中は鈴もふざけて際どい水着とか持ってきてたんだけど(本気で困った)、ここに来て行き詰ってるらしい。

今も俺に2つの水着のどっちが良いか聞いて来てるし、鈴も悩んでるみたいだ。

でも俺としては、本当にどれも似合うと思うんだ。

 

 

それを正直に言うと、どうしてか鈴は溜息を吐いて持っていた水着を両方とも戻すんだけど。

気に入らなかったのか、不機嫌そうに別の水着を物色してる。

俺? 俺は無難にネイビーカラーの普通の水着、男の水着なんてそんなもんだろ。

 

 

「・・・ったく、どうしようも無いわねコイツ」

「ん、何だって?」

「何でも無いわよ。私、向こうの見て来るから・・・そこにいなさいよ!」

「お、おう」

 

 

臨海学校が楽しみなのか、今日の鈴は嫌に気合いが入ってる様子だった。

少し離れた所には、箒と楓がセシリアと騒いでるのが見えるし・・・ラウラはどこ行ったんだ?

まぁ、女の子は大変だな。

 

 

女の子、の部分で学園に残っているシャルルのことを思い出す。

本当は、シャルルも一緒に来たかったろうな・・・。

俺の気分が少しマイナスに入ろうとした時。

 

 

「何を景気の悪い顔をしている、馬鹿者」

「へ?」

 

 

聞き覚えのある声に振り向いてみれば、見覚えのある顔がいた。

そこには、千冬姉が水着を片手に立っていた・・・。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

私は周囲を見渡す、そこには実に様々な種類の女性用水着が並んでいる。

駅前のショッピングモール「レゾナンス」、市内各所からアクセス可能なここは交通の中心でもある。

この世には、これ程の量の水着があったのか・・・。

 

 

正直な所、学校指定水着で良いのだが・・・まぁ、必要な物だと言うのであれば、用意するのが妥当だろう。

集団の意思がそうであるのなら、私個人の意思を優先させるわけにはいかんからな。

とは言え、私には判断基準がわからん。

そこで私は、私専用の特殊な通信機―――一般人が持つ携帯電話に酷似した物―――を取り出し、呼び出し(コール)

 

 

『―――受諾。クラリッサ・ハルフォーク大尉です』

『ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。クラリッサ、例のデータをすぐに送ってほしい。潜入監査用の緊急ファイルD-11だ』

『―――受諾。して用途は?』

 

 

通信相手は本国の私の部隊『黒ウサギ隊』の副隊長、つまり部下だ。

我が部隊は3機のISを備える精強な部隊であり、隊員全員が私と同じ特殊な瞳を持つ。

なお、かつて織斑教官が育てた兵で・・・全員が、教官に敬意を持っている。

 

 

「クラリッサ、私は近く臨海学校なる行事に参加する。しかし、どうやら水着を用意する必要があるらしい。私には判断基準がわからん、そちらの指示を仰ぎたいのだが」

『了解、我ら「黒ウサギ部隊」は常に隊長と共に・・・ちなみに、今の装備は?』

「学校指定水着が一着のみだ」

『了解、では通常の10代女性が着用するであろうタイプの物を指定させて頂きます・・・なお、その行事には織斑教官は参加されるのでしょうか?』

「無論だ」

『了解、ではその前提で』

 

 

ハキハキと返ってくる反応に、私は満足気に頷く。

・・・それから10分ほどクラリッサの「スクール水着と普通水着、それぞれを用いた異性間及び同性間交渉の成功確率の差異」について講義を受けた後・・・通信を切り、指定された水着のありそうな列へ移動する。

 

 

「一夏。水着、どっちが良い?」

「え、えーっと・・・白かな」

「嘘を吐くな、黒だろう? まったく、弟が余計な心配をするな。お前以下の男についていくつもりは無いさ」

「う・・・」

 

 

その際、織斑教官の姿を発見する。

どうやら教官も水着の用意に来ていたようで、一夏がそれを手伝っているらしい。

・・・なるほど、観察対象に選択させると言う手もあったか。

流石は教官・・・。

 

 

他の連中はどうしたかと思えば、少し離れた位置で山田先生と共に教官と一夏の様子を見ている。

・・・アレは、何をしているのだろうか。

まぁ、私が気にかける必要は無いだろう。

 

 

「千冬姉は、彼氏とか作らないのか?」

「手のかかる弟が自立したらな、考える・・・それに、私はまだ心配されるような年じゃ無いさ」

 

 

教官は一夏の頭を撫でた後・・・・・・良いな・・・いや、そうでは無く。

教官は黒の水着を持ってレジへ、それで一夏は1人になるわけだが。

 

 

「・・・うん?」

 

 

何故か、篠ノ之楓が一夏の傍に寄って行っていた。

何をやっているのかは知らんが、一夏に何かを要求しているようだ。

一方で一夏も、「おおっ」と手を打って納得している。

・・・何の話だ?

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

あー・・・今日は疲れた。

駅前での買い物を終えた後は、千冬姉様も含めて皆で学園へ帰宅。

・・・帰宅って、何か違う気もする。

 

 

まぁ、アレだね、一夏さんに箒姉さんのお誕生日プレゼントを用意するようお願いもしたし。

・・・健康器具を買おうとする一夏さんを箒姉さんに見つからないように止めるの、疲れた。

でも、これで当日は・・・。

 

 

「ただいま~」

「おお~、おっかえりー、楓ちんー」

 

 

寮の部屋に戻ると、ルームメイトの本音さんが出迎えてくれた。

いつものように、とてもゆっくりとした動作で寝転んでいたベッドから起きて、さらに輪をかけてゆっくりとした動作で私の方へトテトテと歩いて来る。

眠そうな顔は、デフォルト。

 

 

「おお~、水着買いに行ってたんだー」

「うん、何かスクール水着じゃダメだって言われて・・・」

「ああ~、そりゃダメだねー」

 

 

ここでもダメ出し、スクール水着。

そ、そんなにダメなのかな・・・個人的に、凄く憧れなんだけど。

皆は着飽きたかもしれないけど、私はあんまり着たことが無いから。

 

 

「本音さんは、どんなの用意してるの?」

「私はねー、うふふ、当日のお楽しみー」

「ええぇ・・・」

「一緒にお着替えしようねー」

 

 

そ、それは、ちょっと恥ずかしいかも・・・。

そう言えば、お友達と海とかも初めてだよね。

わ、何だか凄く楽しみになってきたかも。

 

 

・・・無意識。

そう、あくまでも無意識に、私は本音さんの身体を見つめる。

寮にいる時はいかなる時間帯でもダボダボのパジャマを着てる本音さん、だからわかりにくいけど・・・実は、かなりスタイルがよろしいことを私は知ってる。

具体的に言うと、私よりもレベルが2つも上。

 

 

「お? えっちぃ視線を感じる!」

「それは怖いね」

 

 

本音さんの冗談をさらりとかわして、私は箒姉さんの水着選びに時間の大半を費やした今日と言う休日を振り返る。

箒姉さんとたくさん遊べて嬉しかった、今日の束お姉ちゃんへのメールの内容は決まったね。

その時、部屋の扉がノックされて・・・簪ちゃんが入って来た。

 

 

「あの・・・カップケーキ焼いた・・・んだけど・・・」

「お~、ありがたき幸せですお嬢様~」

「・・・その言い方・・・嫌」

 

 

ふんわりとした甘い匂いに釣られるように、本音さんが簪ちゃんの所へ。

私も、簪ちゃんに近付いて胸元に抱えられたカップケーキを見る。

わぁ、とても美味しそうな・・・。

 

 

「およよ?」

「え、え・・・な、何で私、抱きつかれてるの・・・?」

 

 

・・・お友達。

 

 

「お友達だよね!」

「へ? え・・・」

「私達、お友達だよね!」

「え、う、うん・・・」

 

 

私の言葉に、簪ちゃんは戸惑いながらも頷く。

他意は無いよ、うん、ただ友情を確かめ合ってただけ。

私と簪ちゃんは、ずっと友達だって・・・。

 

 

臨海学校でも、一緒に遊ぼうね。

・・・え? 休む?

いやいや、そう言わずに・・・。

 

 

「・・・あれ、私はー?」

 

 

一人、本音さんが首を傾げていた・・・。

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

―――IS学園学生寮、某所。

 

「ねぇ、一夏さー」

「おお、鈴」

「一夏ってさぁ、私の時は水着選んでくれなかったくせに、千冬さんの時はしっかり選んでたわよね」

「え、いや、あれは・・・」

「選んでたわよね?」

「いや、だから・・・」

「選んでたわよね?」

「・・・えっと、はい」

「ふぅん、そっかー」

「・・・あの」

「なぁに?」

「・・・や、優しくお願いします」

「あはっ、できると思う?」

「・・・無理、ですよね」

「うん♪」

 

 

・・・以上、一部の会話を抜粋。

その後の出来ごとについて、目撃者であるシャルル・デュノアは固く口を閉ざしている。

理由は、「僕は空気を読んで席を外したからね」だそうである。

 




篠ノ之 楓:
仲間って・・・素敵ですよね。

凰 鈴音:
・・・何で、私を見るのよ。

篠ノ之 楓:
私は1人じゃないんだって思えれば・・・生きていけるんですよね。

凰 鈴音:
同意しないでも無いけど・・・何故か、ムカつくんだけど。

篠ノ之 楓:
一緒に戦える仲間がいれば、それだけで頑張れる!
ですよね、鈴さんっ。

凰 鈴音:
だから、何が言いたいのよアンタはあぁっ!!

*以下、見苦し・・・友人同士の微笑ましい会話が続きました。
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