Side 篠ノ之 楓
臨海学校2日目の朝、早起きと言うには少し早い5時。
ふわぁぁ・・・と欠伸しながら、私はお布団の中からむくりと起き上がった。
寝癖でハネてる髪を片手で抑えながら、まだ薄暗い部屋を見渡す。
両隣りに本音さんと簪ちゃん、頭を向け合う形で箒姉さんとセシリアさん。
簪ちゃんは姿勢良く寝てるけど、本音さんが凄い事に・・・浴衣、ほとんど解けてるし。
セシリアさんは「床で寝る・・・だと・・・?」的なことを言ってた気がするけど、まぁ何とか。
箒姉さんはー・・・いない。まさか臨海学校でも朝練してるのかな・・・。
「・・・ふむ」
皆を起こさないように気をつけながら、襖を開いて廊下に出る。
むー・・・お手洗いお手洗い・・・っと。
夏とは言っても、海辺で早朝だと寒いねー・・・。
他の部屋も流石に静まり返ってる、皆、寝てるからね。
寝てる時は、本当に静か・・・普段もこの3分の1くらい静かだったら、千冬姉様の出席簿が傷まずに済んだのにね。
とか何とか、考えてみたりしながら・・・。
「・・・お?」
お手洗いに向かって歩いていたら誰かが立ってることに気付いて、ふと立ち止まる。
誰かって言うか、あの小柄な銀色の髪はラウラさんだよね。
朝早いんだね、流石は軍じ・・・。
「・・・」
・・・ん、さん。
あれ? 気のせいか滅茶苦茶こっち見てる気がするんだけども。
見てるって言うか、睨んでるって言うか。
「お・・・おはよー・・・ございまーす・・・?」
「・・・・・・」
「・・・じゃ、無いですよね、はい・・・」
ラウラさんが、薄暗い廊下で滅茶苦茶こっちを見てる。
・・・怖っ!? 目つき怖っ!?
え、何故? 昨日まで普通だったのに、どうして朝になったらそんな冷たい目に?
えーと、何かしたっけ、私。
「・・・お前」
「は、はいっ!」
声をかけられたので反射的に直立不動、でもラウラさんの反応は変化無し。
「学園に提出されたデータの外部の第三者への無断提供は、禁止されている」
「・・・ああ、うん。知ってるけど・・・」
「・・・」
・・・あれ? 何故か視線の圧力が増したような。
いや、そんなこと本当に普通に知ってるし。
学園に提出されたISのスペックデータとかは、学生なら誰でも基本的に閲覧できる。
もちろん、制限はあるけど・・・どっちにしろ、外の人には見せちゃいけない決まり。
「・・・では何故、篠ノ之 束が私のISを知っている」
「へ? お姉ちゃん?」
何故にラウラさんの口から束お姉ちゃんの名前が出るのか、わかんないけど。
まぁ、束お姉ちゃんはラウラさんの機体のことを知ってると思うけど。
だって・・・。
『シュヴァルツェア・レーゲン』のデータ、送ったの私だし。
学園のスペックデータじゃないよ? アレ嘘しか書いてないもん。
素材から構造から出力から武装から、全部。
自分で調べて、まとめて、メール添付で送信しただけで。
「・・・何をしてるんだ?」
私がラウラさんに睨まれてオロオロしていると、救いの手が差し伸べられた。
と言うのは大げさにしても、助かったのは本当。
やってきたのは箒姉さん、お手洗いから出て来たらしくて、びっくりした顔をしてる。
ラウラさんは箒姉さんをちらっとだけ見て、それから身を翻した。
サラリと銀髪が靡いて、綺麗だったけど・・・。
「・・・何をしていたんだ?」
「さぁ・・・わかんない」
怪訝そうな顔で聞いて来る箒姉さんに、私も困ったように首を傾げる。
ラウラさん、何しに来たんだろ。
私とお姉ちゃんのメール、見られたはずは無いし。
大体、データ送ったの『シュヴァルツェア・レーゲン』だけじゃないし。
・・・他の機体も、軒並み大方、全部。
変なラウラさん。
Side 織斑 千冬
臨海学校・・・合宿の2日目、今日は自由時間では無く訓練の時間だ。
主題は「ISの非限定空間における稼働試験」、ISに使用される様々な装備の実習訓練を行う。
部外者の立ち入りは禁止、専用機持ちに揚陸艇で新装備が輸送される以外は外部との接触も無い。
・・・はず、なのだがな。
「・・・篠ノ之妹には手を出すなと言ったはずだぞ、ラウラ」
「・・・・・・それは、命令ですか」
「そうだ」
「・・・了解(ヤー)」
IS試験用の専用ビーチで、私はラウラとそんな会話をした。
ラウラ自身が納得しているかは知らないが、命令と言った以上はこれ以上のことはしない。
その点、私はラウラを信用している。
何故、私にそれほど懐いているのかは知らんが。
いずれにせよ、篠ノ之に・・・いや、アイツに関わる必要は無い。
顔を上げれば、そこにはズラリと並んだ1年生達。
このビーチは四方を切り立った断崖に覆われた天然のアリーナで、外の海上に出るにはISで水中トンネルを潜る必要がある。
毎年、ISの訓練で使用している場所だ。
「良し、ではこれより各種装備の試験運用とデータ取りを始める。訓練機組は振り分けられたIS装備の試験運用。専用機持ちは海上でそれぞれの専用装備のデータ取りだ・・・かかれ!」
「「「はい!!」」」
生徒達の声が響き、生徒達が広いビーチに散る。
ビーチは訓練機組、海上は専用機持ちだ。
専用機持ちは一夏、凰、ラウラ、オルコット、デュノア、篠ノ之妹に更識・・・まぁ、後半の2人は武装無しと機体無しなので、少し扱いが変わるが。
だが今日から、このメンバーにもう1人加わることになる・・・。
「篠ノ之姉、ちょっとこっちに来い」
「はい・・・何でしょうか?」
「ああ、いや、お前は今日から・・・」
訓練機組の中から駆けて来た篠ノ之姉を、私は複雑な気分で見つめる。
いや、別にコイツ自身に何かあるわけでは無い、無いのだが・・・とても、言いにくい。
何しろ・・・。
「ち―――ちゃ~~~~~んっっ!!」
突然、私を「ちーちゃん」を呼ぶ声が聞こえた。
振り向けば、断崖の上から煙を上げて誰かが駆け降りて来るのが見える。
誰か? 私を「ちーちゃん」と言うふざけた呼称で呼ぶのは世界広しと言えども1人しかいない。
「・・・束(たばね)」
私の声が聞こえたわけではないだろうが、その人物・・・篠ノ之 束は、満面の笑みを浮かべて跳躍してきた。
昨夜ラウラの報告を受けてから、いつ来るかと身構えてはいたが。
人間には不可能な勢いで飛び込んでくるそれを見て、私は深い溜息を吐いた・・・。
Side 織斑 一夏
篠ノ之 束・・・ISの開発者にして稀代の大天才、天才の中の天才。
世界を変えた存在、今の世界を作った存在、実在する伝説。
現在、世界で最も有名な科学者・・・否、「天才」科学者。
それが、篠ノ之 束に対する世間一般の認識だ。
俺の『白式(びゃくしき)』や他のISに使用されているISコアは、全部束さんが作った。
箒と楓の実姉で、それはもう本当に凄い人なんだけど。
「やぁやぁ! 会いたかったよぅちーちゃん! さぁ、ハグハグしよう! 愛を確かめ合おう!!」
「う・る・さ・い・ぞ、束」
そして今現在、千冬姉によってアイアンクローされているのがその篠ノ之 束さんだ。
ISを開発した天才科学者で、昨日現れたのと同じくらい唐突に登場したこの人は本当に凄い人なんだ。
・・・本当に、凄い人なんだ。
「ぐぬぬぬぬ・・・っ、相変わらず容赦無いアイアンクローだねっ!!」
束さんは千冬姉のアイアンクローから素早く逃れると―――地味に凄ぇ―――何故か岩陰に隠れている箒の方へと高速で移動、しゃがみ込む箒の顔を覗きこんだ。
「じゃじゃーん♪ やぁ!」
「ど、どうも・・・」
「えっへへ~、久しぶりだねぇ。こうやって会うのは何年ぶりかなぁ、大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱいが・・・ぐふぅっ!?」
次の瞬間、箒が束さんを竹刀で殴った。
お、おいおい箒・・・と思ったが、束さんはまったく効いていない風だった。
俺だからわかるんだと思うけど、箒、今かなり本気で突きを放ってたよな・・・?
「・・・殴りますよ」
「殴ってから言ったぁ! 箒ちゃんひどーい! ねぇいっくん、酷いよねぇ?」
「え、えーっと・・・」
お、俺に話を振らないでくださいよ、箒がすげー睨んでくるんですって。
と言うかそんな平然としてたら、誰も心配しないんじゃ・・・。
「た、たた、束お姉ちゃん!?」
・・・1人だけ、いた。
ぴゅうっ、と一陣の風が吹き抜けたかと思った次の瞬間、もう1人の「篠ノ之」・・・楓が束さんに飛びついていた。
「だ、大丈夫? 痛い?」
「おお~、もう楓ちゃんだけだよ、束さんを心配してくれるのは。お姉ちゃん嬉しい!」
「お、お姉ちゃん、くる、苦しい・・・!」
飛びついて来た楓を束さんは軽く受け止めると、むぎゅううっ、と抱き締めた。
豊満な胸に楓が顔を埋めていて・・・アレ、息できて無いんじゃないか?
束さんの胸に抱きしめられながら、楓がモガモガともがいている。
・・・束さん、わざとやってんじゃないかな。
「むぅ? むむむむぅ? むーん、楓ちゃんはあんまりおっぱい成長して無ぶへっ!?」
「・・・殴りますよ」
「また殴ってから言ったぁ! 箒ちゃん酷いっ!」
「もが、もががが・・・っ」
「楓! こんな人は庇わなくて良い!!」
そして始まる姉妹によるホームドラマ・・・って、何だこりゃ?
えーっと、束さんはいったい何しに出て来たんだ。
千冬姉もそう思ったのか、溜息を吐きながら束さんの首根っこを掴んだ。
「やめろ馬鹿、胸ならお前が姉妹で1番あるだろ」
「えへへ、ちーちゃんのえっち」
「死ね」
束さんに蹴りを入れて地面にめり込ませる千冬姉、昔から束さんに対しては凄ぇドSだ。
それに対して楓がまた悲鳴を上げるが、当の束さんは平然と復活。
ああ、何か懐かしいなぁ・・・千冬姉の学生時代を見てるみたいだ。
そう言えば中学時代から束さんとつるむようになって、千冬姉も丸くなった気がする・・・あれでも。
「織斑」
「は、はいっ!」
俺の考えが読まれたのか、千冬姉がいきなり声をかけてきた。
一方で、束さんは楓を抱き締めてモフモフしていた。
束さんに頬擦りされてる楓は控え目に見ても幸せそうで、本当に束さんが好きなんだなぁとわかる。
箒は、そんな2人を複雑な表情で見ている。
箒も、楓の半分でも素直になれば良いのになぁ・・・。
「・・・それで・・・?」
「む? ああ、大丈夫だよ箒ちゃん、ちゃあんと用意してあるからね」
「束お姉ちゃん?」
「さぁ・・・大空をご覧あれ!!」
楓を片腕で抱き締めたまま、束さんが大きく空を指差した。
自然、束さんに注目していた皆が空を見上げる。
そして、次の瞬間・・・。
「のわぁっ!?」
ズ、ズン・・・ッ、と大きな音を立てて、空から何かが落ちて来た。
ちょ、これ昨日もやりましたよ束さん・・・!
Side 篠ノ之 楓
束お姉ちゃんにハグされて夢見心地になってたら、空から何か振って来た。
空から現れたのは、真紅の装甲に包まれた真新しいIS。
四角い格納モードになっていたそれは、すぐに変形して人型になる。
真紅の装甲が、新品であるかのように太陽の光を反射してる・・・。
「じゃじゃじゃーんっ! これぞ箒ちゃんの専用IS『紅椿(あかつばき)』!! 全スペックが現行ISを上回る束さんのお手製ISだよ!」
『紅椿(あかつばき)』・・・箒姉さんの、専用IS!
箒姉さん、束お姉ちゃんに連絡したんだ・・・そうじゃなきゃ、束お姉ちゃんがISを持ってくるはずが無いもの!
束お姉ちゃんに抱き締められたまま箒姉さんの方を向く、箒姉さんはもう『紅椿(あかつばき)』に完全に目を奪われていた。
き、来た・・・! これできっと、箒姉さんも束お姉ちゃんと仲直り・・・!
その時、束お姉ちゃんが指を鳴らして私の目の前に無数のディスプレイを展開した。
そこには『紅椿(あかつばき)』の詳細なスペックデータが映し出されていて・・・少し見ただけで、この『紅椿(あかつばき)』が束お姉ちゃんの言う通りの機体だとわかる。
この機体は、まさに最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)。
だって推進力とか、『黒叡(こくえい)』の3倍はあるよ・・・?
「さぁ! 箒ちゃん、さっそくフィッティングとパーソナライズを始めようか!」
「・・・それでは、頼みます」
「堅い! 堅いよ、箒ちゃん。姉妹なんだから、もっとこうキャッチーな呼び方でさぁ」
「そうだよ箒姉さん、もっとくだけようよ、ハグしようよ」
「・・・早く、終わらせよう」
箒姉さん、めちゃくちゃ堅いよ!
ほら、束お姉ちゃんも唇を尖らせて不満そうだよ?
ああ、そんなまた束お姉ちゃんを無視して機体に乗って・・・。
「箒ちゃんの基本データはもう入力してあるからね、後は最新データに更新するだけだよ。ほら、楓ちゃんも手伝って」
「う、うん!」
束お姉ちゃんが空中投影型のディスプレイとキーボードを6枚ずつ、計12枚
その内の2枚を私の方に押しやって、束お姉ちゃんは10枚のディスプレイとキーボードに指と目を走らせる。
それは物凄く速くて、数秒単位でどんどんシステムの更新を行っていってしまう。
私の担当は推進ユニット・コントロール・システムとシールド・エネルギーの出力調整システム。
自前のディスプレイとキーボードも2枚ずつ展開して、私は束お姉ちゃんに置いて行かれないように箒姉さんへのシステムのフィッティングを始める。
「近接戦闘を主眼にした万能機だから、箒ちゃんに馴染むと思うよ。後は自動支援装備もつけておいたからね、箒ちゃんのために・・・お姉ちゃんが!」
「・・・」
「ん~? おお、箒ちゃんってばまた剣の腕が上がったかな? 筋肉のつき方でわかるよ、うふ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」
「・・・」
「えへへ、無視されちった。楓ちゃん、お姉ちゃんは寂しいです」
「・・・」
「・・・あらら、楓ちゃんにも無視されちった。うふふ、困ったねぇ」
喋りながらも、束お姉ちゃんの手は止まらない。
対して私にはお喋りしてる暇が無い、仕事の割り当ては1対9くらいなのに、9のお姉ちゃんの方が作業の進行が速いんだもの。
「・・・凄い」
ぽつりと呟いたのは誰だろう、聞き覚えのある声なんだけど。
でも私はそれには意識を避けない、ただ目の前の作業に没頭する。
意識の中にあるのは、2人の姉だけ。
それで良い・・・それだけで良い。
私は、束お姉ちゃんと箒姉さんのために生きてるんだから。
Side 更識 簪
本当は、臨海学校も休むつもりだった。
でも、本音と楓がどうしても一緒に海で遊びたいっていうから・・・。
本音・・・はともかく、楓には『打鉄弐式』の製作を手伝って貰ってるし・・・。
・・・私なんかと一緒にいても、得なことなんて何も無いと思うけど。
でも、楓や本音と一緒にいるのは楽しい・・・。
皆、優秀な姉の妹、だから・・・かも・・・。
「はいっ、楓ちゃんおつかれー。後は自動で終わるよん♪ さてさて・・・いっくん、『白式(びゃくしき)』みーせてー」
「うえ?」
篠ノ之博士・・・楓のお姉さんは、篠ノ之・・・ええと、箒さんの機体のフィッティングとパーソナライズを3分で終えた。
異常な速さ、本当に天才なんだ・・・箒さんが機体の具合を確かめている横で、楓はぐったりとしてる。
・・・楓も、凄いと思う・・・けど。
・・・どうして、楓は・・・お姉さんのことが好き、なんだろう・・・?
辛く、無いのかな・・・。
怖く、無いのかな・・・?
「うん? 変なフラグメントマップだねぇ。いっくんが男の子だからかな?」
「はぁ・・・そう言えば束さん、何で男の俺がIS動かせるんですかね?」
「さぁ? ナノ単位まで分解して良いなら調べてあげるよ?」
「いえ、遠慮します」
「ざーんねん♪」
織斑君のISのフラグメントマップ―――ISの進化経路のことで、人間の遺伝子みたいな物―――を見ていた篠ノ之博士、織斑君と知り合いみたい・・・。
織斑君、本当に女の人の知り合いが多いんだ・・・噂通り・・・。
「それと、『白式(びゃくしき)』が『雪片(ゆきひら)』しか装備できないのは・・・」
「ああ、私がそう設定したからね・・・って、あれ? 言って無かったっけ、いっくんのISも私が作ったんだよ、倉持技研って所が放棄したのを私がちょちょいっとね」
「ええっ、本当ですか!?」
「束さんじゃなきゃ、一次移行(ファーストシフト)から単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)使える機体にはできないよ~」
ズキン、胸が痛む。
私の『打鉄弐式』の開発が中断・・・打ち切られた理由が、目の前にある。
機体が無いのに、臨海学校に来てる・・・そのことを、今さらながらに思い出す。
・・・ダメ、暗くなっちゃ・・・。
専用機の無い、代表候補生。
でもそれは、私だけじゃ無い・・・私だけが、そう言うわけじゃ無い・・・。
専用機を持って無い候補生は他にもいる、大丈夫・・・。
「・・・ねぇ、あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの? 身内ってだけで」
「だよねぇ・・・何かズルよねぇ」
びくっ・・・私が震えたのは、それが自分の心の声に聞こえたから。
実際は、訓練機組の中からの声、だけど。
でも・・・もしかしたら、私も思ってるかも、しれ・・・なくて・・・。
「おやおや、歴史の勉強をしたことが無いのかな・・・有史以来、世界が平等であったことなど一度も無いよ」
冷たく言い放ったのは、篠ノ之博士。
私はそれに、また震える・・・。
ぎゅ、胸の前で握り締めた右手に、左手の爪を立てる。
「お? おー、3分経ったね、箒ちゃんパーソナライズ終了~。さっそく飛んでみようか」
「・・・はい」
篠ノ之博士の声の直後、箒さんが新型ISで空を飛ぶ。
現行ISを上回るスペック・・・と言うのは、本当みたいで・・・。
機動力、急加速に急停止、加速・・・武装の強力さと多彩さ、その一つ一つが、凄い。
篠ノ之博士が箒さんと通信しながら、一つ一つを懇切丁寧に説明する。
それは、オルコットさんを拒絶したのと同じ人とは思えないくらいで・・・。
「どうかな、箒ちゃんが思っている以上に動くでしょ? んじゃ、これを撃ち落として見て~」
次の瞬間、篠ノ之博士の頭上に16連装のミサイルポッドが出現する。
あ、ISでも持ってる・・・の? じゃなきゃ、あんな風に武装が出るなんてあり得ない。
・・・でも、この人が全てのISの産みの親、なら・・・。
上空では、箒さんが自分の機体に装備されてる2本の刀でミサイルを全て撃ち落としているのが見えた。
この場にいる全員が・・・呆然としていて、例外は・・・。
満足そうに頷いている篠ノ之博士と、厳しい顔の織斑先生、それに・・・。
凄く嬉しそうな、楓。
「た、た、大変ですっ、織斑先生!!」
その時、山田先生が訓練機組の生徒達の間から駆けて来るのが見えた。
その手には小型端末を持っていて、いつもよりずっと、慌てていて・・・。
・・・何、か・・・あったの・・・?
◆ ◆ ◆
それは、『
この世界においては珍しく無い、軍用専用機。
世界最先端の技術を詰め込まれたそれは・・・良くある、最新鋭機。
しかしそれが、変質する。
操縦者の、そして軍の支配から「解放」されたその機体のコアは、思考する。
学ぶ、感じる、まるで人のように。
そして呼ばれるままに、請われるままに・・・飛翔する。
・・・「母親」の、下に。
◆ ◆ ◆
Side 篠ノ之 楓
正直な所、学園の任務とか興味が無い、関係が無いもん。
私や簪ちゃんを含めた候補生と専用機持ち―――今日からは箒姉さんも―――を旅館の一番奥の部屋に集めて、他の一般生徒はそれぞれの部屋に押し込めて。
何の話かと思えば・・・軍用IS『
具体的には、アメリカ・イスラエル共同開発の第3世代試験機『
これは国際IS委員会の決定で一切の異議申し立てができない・・・ほら、つまんない。
「想像以上に、つまんない話・・・」
「・・・楓、不真面目・・・」
簪ちゃんに怒られちゃった。
いやぁ、でもさぁ・・・。
当たり前だけど発言権の無い私、話はどんどん進む進む。
公開された対象ISのデータもデータで、広域殲滅能力と、音速機動戦用の特殊武装のこと以外は未知数って言ういい加減なのだし。
興味、そそられないなぁ・・・。
ちなみに、周辺海域・空域の封鎖は、教員が訓練機で行うらしい。
で、専用機持ちが対象を捕縛かもしくは破壊・・・あのー。
ここで言う「専用機持ち」って、私も含まれてるんでしょーかー・・・?
と言うか、普通は逆じゃないですかねー・・・?
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。何で俺達が軍用ISの暴走なんて止めるんだ?」
そうだそうだ、生徒にこんな危ないことをやらせて良いのかー!
一夏さんが、凄く常識的なことを言った。
何でも超音速移動状態の対象ISを堕とすのに一夏さんの『零落白夜』がいるって話になったんで、流石に慌てたみたい。
・・・代表候補生組は、いろいろあるんだろうけど。
でも私とか箒姉さんには、関係無いもん。
もし仮に関係があったとしても、興味が無い。
「織斑、これは訓練じゃ無い。自信が無いなら、無理強いはしない」
でも姉の千冬姉様にそう言われると、一夏さんは「やります」ってカッコ良く言いきった。
気持ちはわかるよ、お姉ちゃんの言うことは聞くよね普通。
弟や妹は、姉のために死ぬものだから。
次の問題は、一夏さんを対象ISに肉薄させる手段。
それは、セシリアさんが『ブルー・ティアーズ』に強襲用高機動パッケージを使ってやるらしい。
パッケージは、ISに汎用性を持たせるための換装装備のこと。
追加武装とか増設ブースターとか種類があって、あらゆる状況に対応できるようになってる。
あ、やっぱり私はあんまり関係なさそうな・・・。
「では・・・各自、作戦の準備に入」
「ちょっと待――――った!」
れ、と千冬姉様が言い切ろうとした刹那、「それ」はやってきた。
部屋のど真ん中の天井をブチ抜いて、首だけを逆さに出すと言う姿で。
その人の顔を見た時、私の胸がときめく。
「待った待――った! その作戦はちょっと待ったなんだよ~~っ!!」
「・・・また、出たよ・・・」
・・・今回も今回で、私には関係無いかな~と、私は千冬姉様の話を半分以上聞き流してたんだけど。
それで、同じく手持無沙汰な感じだった簪ちゃんとしりとりでもしようかなぁと思っていた時に、束お姉ちゃんがやってきて場の空気が変わった、つまり・・・。
「ねぇねぇちーちゃん! もっと良い作戦が私の頭の中でナウ・プリンティング~!」
「出て行け・・・」
「聞いて聞いて、ここは断・然! 『紅椿(あかつばき)』と『黒叡(こくえい)』の出番なんだよ!!」
「え・・・」
「へ?」
誰よりも驚いたのは箒姉さんと私、え、私凄く関係無いかなぁって思ってたんだけど。
むしろ、「ほら軍用ISなんて作るからぁ」とか、考えてたんだけど。
「まず『紅椿(あかつばき)』はね、パッケージなんて無くても超音速飛行が可能なんだよ! おまけに『黒叡(こくえい)』の遠距離ナノマシン操作技術を使えば『白式(びゃくしき)』のエネルギー効率も上昇、しかも敵の動きも阻害できたりするんだよ!」
メインディスプレイも乗っ取って、束お姉ちゃんが大きな胸を張って自慢そうに説明する。
まず『紅椿』、この機体には「展開装甲」と言う第4世代装備が採用されている。
実は『白式(びゃくしき)』の『雪片弐型』のシールド無視攻撃にも採用されている装備で―――これにも驚いたけど―――つまり、『紅椿(あかつばき)』は全身がシールド無視装甲、まさに最強。
しかも攻撃・防御・機動と用途に応じて自在に切り替え可能と言う規格外仕様(オーバースペック)。
それに『黒叡(こくえい)』を加えれば、束お姉ちゃん曰く「絶対無敵」。
『黒叡(こくえい)』の他ISへの調整干渉能力と超広範囲でのナノマシン散布能力は、敵ISの阻害以上に・・・2機の稼働率を高めて機体運動能力を格段に上昇させることができる。
操縦者とISコアの相性を示すISの稼働率は、そのまま「強さ」に変換することができる。
そもそも単一特殊技能(ワン・オフ・アビリティ)も最高稼働状態の時に発現する物と考えれば、稼働率の高さの重要性はわかるってものだよね。
「あー・・・そう言えば、前に『白式(びゃくしき)』を補助した時、やけに稼働率が高いなと思えば・・・」
そう言うわけ・・・あ、じゃあもしかして、束お姉ちゃんは最初から3機とも一緒にするつもりで・・・?
もしかしたら、千冬姉様の機体とかもあったり?
「『黒叡(こくえい)』は第3世代の最終形で、『紅椿(あかつばき)』と『白式(びゃくしき)』は第4世代! 今回の作戦はこの3機で決まりだよ~・・・あれ? 何で皆そんなに静かなのかな? お通夜? 誰か死んだ? 変なの~」
ふと気が付くと、一夏さんを始めとして、皆が静かになっていた。
千冬姉様だけは額に指を当てて溜息を吐いているけど・・・わ、簪ちゃんも呆然としてる感じ。
じーっと見つめると、簪ちゃんが私の視線に気付いて・・・私は、にっこり笑って見せた。
本当、今さら何を驚く必要があるんだろう。
束お姉ちゃんが世界で一番凄いなんて、わかりきってたことじゃない。
本当、変なのー。
Side 凰 鈴音
第4世代を2機・・・第3世代の最終形?
そりゃ、一夏や楓の機体の性能に首を傾げたことは一度や二度じゃ無いけど。
本当に、冗談じゃ無い・・・冗談じゃ、無いわよ。
「およ? むむむ? いっくんがわかって無いみたいだから、心優しい束さんが解説してあげよ~。ふふ、嬉しいかい? じゃあ、ISの世代について~」
篠ノ之博士が一夏に説明しているのは、ISの世代についての基礎知識。
まず兵器としてのISの完成を目指した第1世代機、これはもう退役してる世代。
次に第2世代、後付武装(イコライザ)によって用途の多様化を目指した世代で、今の主力。
そしてビットやAICとかの操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした第3世代機、私の『甲龍(シェンロン)』の『龍砲』とかがここで・・・まだ、どの国も試験運用段階。
「な、なるほど・・・え? じゃあ何で3を飛ばして4・・・?」
「ふふん、そこは天才の束さんだもんね。机上の空論の物でも簡単にサクッと作れちゃうのさ♪」
「は、はぁ・・・」
「特に『紅椿(あかつばき)』はまさに、攻撃・防御・機動何でもありの万能機だからね。第4世代の即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)って奴だね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよん、ぶぃぶぃ~。楓ちゃん楓ちゃん、お姉ちゃんを褒・め・て♪」
「束お姉ちゃん、すごーい!」
「にゃはは~、照れるな~」
楓が凄く嬉しそうに篠ノ之博士にモフモフされてるけど、私はそれを見て微笑ましくなんてなれない。
私だけじゃ無い、たぶんセシリアもラウラも、シャルルだって、同じ。
簡単にサクッと・・・簡単に、第4世代型ISを、作るって、それ。
「何、それ・・・」
どれだけの研究者が何日も徹夜して頑張って、家庭も犠牲にして研究して、必死に第3世代型の理論を完成させようとしているか。
どれだけの操縦者が血反吐を吐きながら訓練して、ISのために時間と人生を割いているか。
何人もの民衆が餓えて死のうと資金を投入して、膨大な時間と優秀な人材の全てを投入して。
国全体で、必死に、必死に・・・ようやく、第3世代型の機体が作れるまでになったのに。
この人は、「簡単にサクッと」それを飛び越えて・・・第4世代の機体を軽々と用意して。
それじゃ・・・それじゃ、私の母国の人達は何のために、あんなに頑張ってるのよ。
これじゃ、それが全部・・・意味が無いって、言われたようなもんじゃ無いのよ。
こんな、バカな話が・・・。
「束、やり過ぎるなと言ったはずだぞ・・・」
「ふん? まぁ、束さんはどうでも良いんだけどね~、世代とか機体とか。と言うか・・・何で皆、そんな「お古」を作ってんのかなぁ、レトロブーム?」
「束・・・」
千冬さんが、私達のことを少し気にした風に篠ノ之博士を咎める。
お古・・・レトロ、私達の国の機体が・・・。
Side シャルル・デュノア
・・・正直、どこから驚けば良いのかわからないね。
本国から「招聘(らち)」命令が出てる篠ノ之博士の存在に驚けば良いのか、それとも本国の努力を無視する形であっさり出て来た第4世代型に驚けば良いのか・・・。
それとも・・・僕は、篠ノ之博士の傍で嬉しそうにニコニコ笑ってる楓さんを見る。
さっき・・・彼女は篠ノ之博士と一緒に『紅椿(あかつばき)』の調整をしていた。
それは、篠ノ之博士しか持たないはずの技術と知識を知っていないとできない行為。
でも楓さんは、篠ノ之博士ほどじゃないにしてもやってみせた。
つまり彼女は、篠ノ之博士の技術を手と頭で覚えてるってことになる。
ラウラのAICを見破った時から、気になってはいたけれど・・・。
「でもアレだよね、海でIS暴走って言うと10年前の『白騎士』を思い出すよね」
・・・不意に篠ノ之博士が口にした『白騎士』の名前に、皆が沈黙した。
『白騎士』事件、IS関係者なら皆が知ってる有名な話。
篠ノ之博士が最初に作ったISで、10年前の事件の主役。
その時点では誰にも認められなかったIS、「現行兵器を凌駕する」って言う博士の言葉を誰も信じて無かった―――信じたくなかった―――時に起こった、事件。
10年前、『白騎士』と言うISが日本に向けて放たれた2341発のミサイルを全部撃墜した事件。
原因は、不明・・・日本に到達可能なミサイル2341発が何者かのハッキングを受けて発射された。
でもそのミサイルは、篠ノ之博士の『白騎士』が全部、落とした。
その時は、ある事情でフランスの艦艇もそこにいたけど・・・。
「ぶった斬ったんだよねぇ、1221発を。それこそ必死にさぁ・・・残りは荷電粒子砲をぶっ放してやったんだよね、面白かったねぇ」
2000発以上のミサイルを1機で、それを脅威とみなした各国軍―――事実上の多国籍軍―――が、その『白騎士』を捕縛あるいは破壊しようと勝負を挑んだ。
そして・・・叩き潰された。
ISのシールドエネルギーの前には、銃も艦砲も核兵器も・・・効果が無い、から。
超音速の自在格闘性能、ビーム兵器の実用化、物質の粒子化と実体化、高度なステルス機能。
その時はSFの世界にしか存在しなかった兵装の全てが、そこにあった。
多国籍軍はミサイル2341発、戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、衛星8基を失った。
たった、一晩で・・・でも誰も死ななかった、それだけ圧倒的だった・・・。
・・・それ以来、10年前の事件は「白騎士事件」と呼ばれるようになった。
同時に、ISの開発・獲得競争が激化して・・・。
「そして私のらぶりぃISは、世界に広がったんだよねぇ。それにしても本当、世界があんなに馬鹿だとは思わなかったよ。いもしない神様を信じて束さんを信じないんだから、偶像崇拝も良い所だよね」
・・・そして今、今までの競争を無視する形で第4世代型の機体が目の前にある。
正直、どうしたら良いかわからなくなるね・・・。
Side 篠ノ之 箒
何と言うか・・・空気、最悪だな。
私もそれほど読めるわけでは無いが、今の空気が最悪だと言うことはわかる。
まぁ・・・
あのシャルルでさえ、表情が固い。
ラウラに至っては、何故か今にも襲いかかりかねない視線で姉さんを見ている。
「ま、世界とかどうでも良いんだけどね。あ、でも隙あらば誘拐・暗殺☆ みたいな生活はなかなかエキゾチックだったなー」
「いや、それはたぶんエキゾチックの使い方を間違えてると思うよ、束お姉ちゃん!」
「あれ、そうだっけ? じゃ良いや、全然まったくこれっぽっちもエキゾチックじゃ無かったよ。あー退屈な毎日だった」
「何を言っている、この馬鹿共・・・」
千冬さんが頭痛を堪えるような表情を浮かべていたが、気持ちはわかる。
・・・この人はいったい、どう言う生活を送っていたのか。
そして何故・・・楓を連れて行ったのだろう。
最後のコアを作った数年前、姉さんは消えた。
政府系の病院に収監されていた楓を、周囲の警備を擦り抜けて。
どうして、楓だけを連れて行ったのだろう。
どうして・・・・・・なのだろう。
楓も、知らないと言っていた。
もしかしたなら、この人は何も考えていないだけなのかもしれない。
「うふふ、それにしても『白騎士』の操縦者って誰だったんだろうね、ちーちゃん」
「知るか、馬鹿」
「うふん、私の予測ではバスト88センチの・・・がふぅっ!?」
千冬さんが、出席簿の角で姉さんの頭を殴っていた。
『白騎士』の、正体か・・・。
誰も知らない、歴史の闇の一つ。
「・・・な、何だ?」
「いや、別に・・・」
一夏が微妙な表情を浮かべていたが、特に何を言うわけでもなかった。
ま、まぁ、良いが・・・うん。
「・・・で、束。『紅椿(あかつばき)』と『黒叡(こくえい)』の調整はどれくらいで終わる?」
「ちょ、織斑先生!? 私に任せてくださると―――」
「2機合計で、7分かな」
「―――言う・・・え、な、7・・・?」
作戦から外されそうになって慌て始めたセシリアも、姉さんの言葉に押し黙る。
その顔は、信じられないものを見る時の目で。
どこか、畏怖を感じている目だった。
姉さんに会った人が、必ずする目だ。
幼い頃はそれが、とても誇らしかった。
そして今は、楓だけがそれを誇りに思っている。
瞳を輝かせて、抱きつく程に。
それが何故か、とても・・・嫌、だった。
「さぁて、『紅椿(あかつばき)』をいじろっかなーっと。ほい、楓ちゃんも手伝ってー」
「任せて、お姉ちゃん!」
「うんうん、楓ちゃんは可愛くて良い子だねぇ。箒ちゃんももう少し笑ってくんないかなぁ、作戦メンバーにも選ばれてハッピーでしょ? 生まれた時はもう少しこう可愛くてさ・・・泣いてたでしょ?」
・・・生まれたての時は、誰だってそうだろう。
千冬さんが30分後の作戦決行を決めてから、姉さんと楓が『紅椿(あかつばき)』の調整をする。
私が『紅椿(あかつばき)』を装着したままでの作業なので、何だかくすぐったい気分だ・・・。
「任せて、箒姉さん・・・すぐに世界が、変わるから」
「あ、ああ・・・頼む・・・」
楓の声に応じると、整備が始まった。
姉さんの周囲にレーザーやらマニュピュレータやらドライバーやらがついたロボットアームが浮かび、姉さんは専用機材を何も使わずに『紅椿(あかつばき)』の整備を始める。
表面を切って内部の機械部品を弄り、時に片手で空中投影のディスプレイを操作する。
「・・・凄い・・・」
ぽつりとした声は、部屋の隅に佇む楓の友人が漏らした物だ。
他の者も、概ね似たような感想を持っているだろう。
千冬さん以外。
「楓ちゃん、遅いよー」
「・・・ん」
一方で自分のISのハイパーセンサーを両目に展開させているらしい楓が、姉さんと同じようにいろいろな器具を使いながら私のISの右足の部品を弄っている。
姉さんが背中と左足と両腕部分を1人で(+ロボットアームで)やっているから、楓があまり出来ていないように見えるが・・・。
「はーい、脚部展開装甲の展開試験行くよ~、ほらほら、3、2、1~きゅー」
「・・・」
「おお、良くできました。じゃあ次は20秒後に誤差を修正して腕部との連続運用仮想試験ねー。頑張ってね楓ちゃん、お姉ちゃんは優秀な子が大好きです」
「・・・ん」
「これが終わったら、楓ちゃんの方もやったげるからねー・・・お姉ちゃんが!」
そんなことは、無い。
ピピピピッ・・・と高速で変動する数値の調整と機体の整備を同時にやれる楓は、十分に凄いと思う。
私には、絶対にできない。
「・・・っ」
そして少しずつ調整が進み、さらに深く繋がる感覚が強まって・・・。
深く、息を吐いた。
目の前に浮かび上がったディスプレイ、そこに映る『紅椿(あかつばき)』のスペックデータ。
そして先程、海で動かした時の生々しい記憶・・・。
・・・ふふふ・・・。
『紅椿(あかつばき)』。
私の、力・・・。
篠ノ之 束:
ついに、ついに・・・お姉ちゃんの出番だよっ、楓ちゃん!
篠ノ之 楓:
お姉ちゃーん!(スリスリ)
篠ノ之 楓&束:
((じー・・・))
篠ノ之 箒:
・・・・・・何だ。
(う、鬱陶しい・・・)