Side 篠ノ之 箒
午前11時30分、作戦開始。
私は一夏と砂浜に並んで立ち、ISを・・・私の「専用機」を展開する。
『紅椿(あかつばき)』、真紅の装甲のISを身に纏うとどうしようも無く気分が高揚する。
私の新しい力、PICによる浮遊感とパワーアシストによる充足感は訓練機とは比べ物にならない。
だが、私にとってはそれは要因の一つでしか無い。
もっと重要なのは・・・。
「じゃ、よろしく頼むな、箒」
「本当なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが・・・今回(おまえ)だけは特別だぞ」
私の隣に、一夏がいると言うことだ。
私が、『白式(びゃくしき)』を纏った一夏の隣にいられると言うことだ。
そのことが、私をどうしようも無く高揚させる。
一夏は『零落白夜』の一撃離脱に全てのエネルギーを使わねばならないから、移動は私の『紅椿(あかつばき)』の背中に乗って行うことになる。
男が上に乗るなど、不快極まるが・・・一夏だから、な、特別だぞ?
まぁ、確かにさっき手に入れたばかりの機体ではあるが・・・問題は無い。
「何、私と一夏が力を合わせればできないことなど何も無い。そうだろう、一夏?」
「ん? ああ、そうだな、俺達だからな」
「そうだろう、私達だからな」
私と、一夏。
2人が力を合わせれば、どんなことだって・・・。
昔も・・・そして、今だって。
「でも箒、千冬ね・・・織斑先生が言ってたように実戦だぜ、慎重に行こう。俺達はこれが初陣みたいなもんなんだし」
「無論、わかっているさ・・・ふふ、どうした、もしかして怖いのか?」
「別に怖いとかじゃなくて、あのな箒」
「まぁ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる、大船に乗ったつもりでいれば良いさ」
まったく、一夏は心配性だな。
昔はもう少し無鉄砲な奴だったが、今は少し大人になったのかもしれない。
でも、何も心配はいらない。
一夏も言った、私達2人が揃えば何も恐れることは無い・・・。
『織斑、篠ノ之姉、聞こえるか? これより作戦の最終確認に入る』
「「はい」」
ISのオープン・チャネルを通じて、千冬さんの声が響く。
今回の作戦の原則は一撃離脱(ワンアプローチ・ワンダウン)、短期決戦が絶対。
まぁ、私達の機体は燃費が悪いのが唯一の弱点である以上、そうならざるを得ない。
まったく、あの人の作る物はこれだから・・・。
『篠ノ之姉、特にお前は今日その機体に乗ったばかりだ、慎重に行け。急に何かの問題が出るとも限らん』
『それはあり得ないよー、だって私と楓ちゃんが整備したんだからね!』
『うるさいぞ束、向こうに行け』
「わ、わかりました。出来る範囲で一夏をサポートします」
ま、まったく、あの人は・・・。
・・・機体をくれたことや、整備してくれたことには、感謝しているが。
おかげで、一夏の隣にいられる。
『はい、それじゃあ一夏さんは箒姉さんに乗ってー』
その時、別のチャネルから楓の声が響いた。
私の機体のハイパーセンサーには、上空に浮かぶ黒のISがしっかりと映っている。
上空から私達の機体に降り注いでいるのは、黒い粒子のようなナノマシン。
それが私達の機体を包み込むと、不思議と身体が軽くなるような気がする。
IS各部・システム、感度良好・・・行ける。
ガションッ、と一夏が『紅椿(あかつばき)』の背中に乗るのを確認して、私は全身に力を込める。
そして・・・。
Side 篠ノ之 楓
作戦スタートの合図と共に、箒姉さんが一夏を背負ったまま一気に飛び出す。
私の目の前をまさに一瞬で通り過ぎたそれは、高度300メートルを超えたあたりで超音速飛行に入った。
まぁ、『黒叡(こくえい)』の超高感度ハイパーセンサーには2人の顔までしっかりと映ってるんだけどね。
空間投影型のキーボードを叩いて箒姉さんと一夏さんの機体内部に仕込んだナノマシンを制御しながらも、私は2人の・・・特に箒姉さんの顔を見る。
箒姉さん、凄く楽しそう・・・。
それだけで、私はどうしようも無く嬉しくなる。
「速いな・・・」
「・・・あれが、第4世代型の加速・・・ってことかな」
まぁ、何たって束お姉ちゃんお手製の第4世代型ISだからね。
本当、無理してIS開発なんてしなくても、束お姉ちゃんに全部任せちゃえば良いのにね。
国だか組織だか知らないけど、束お姉ちゃん以上のISを作れるわけが無いんだから。
私の隣に浮遊してるラウラさんとシャルルさんが、それぞれのISのハイパーセンサー越しに遠ざかる『紅椿(あかつばき)』の背中を見つめてる。
旅館には強襲用の換装装備(パッケージ)のインストールを済ませたセシリアさんがいるし、鈴さんも待機してる。
万が一の時には、セシリアさんが援護に入る段取りになってるけど・・・。
『篠ノ之妹、どうだ?』
「ナノマシン散布良好、15分間の散布で半径3キロ圏内は『黒叡(こくえい)』の勢力圏です。軍用衛星ともリンク、箒姉さん達の見ている光景をリアルタイムで作戦室へ」
『黒叡(こくえい)』の腰の後ろにコンデンサーが4基展開されてて、そこから黒いナノマシンが空気に溶け込むように放出され続けてる。
正面から見れば、羽根みたいに見えるかもね。
詳細データはまだ見て無いけど、束お姉ちゃんが『黒叡(こくえい)』にインストールしてくれた。
広範囲拡散用の、特殊なコンデンサー。
そして肝心の『紅椿(あかつばき)』と『白式(びゃくしき)』の稼働率は、2機とも80%を突破。
通常の操縦者が平均で40%~50%であることを考えれば、かなり高い。
ちなみに『紅椿(あかつばき)』が80.6%、『白式(びゃくしき)』が82.1%。
普通に考えて、40%の稼働率上昇効果が見られる・・・。
『『黒叡(こくえい)』のコアが生成するナノマシンはねぇ、箒ちゃんといっくんの機体のために作ったんだよ、元々。皆で宇宙に行った時のためにね、楓ちゃんにあげたんだよ――――』
作戦前、束お姉ちゃんがこっそりと教えてくれた。
嬉しい、箒姉さんのお手伝いができるなんて!
他の機体にも干渉は可能だけど、でも一番は、『紅椿(あかつばき)』と『白式(びゃくしき)』のための、箒姉さんと一夏さんのための・・・。
私は、あの2人のためのもの。
『目標を捕捉した! 接触まで約10秒!』
オープン・チャネルから箒姉さんの声が響いて、私は意識を現実に戻す。
・・・目の前に浮かぶ無数のディスプレイを見つめる。
半径3キロの散布領域、たぶん今の私が正確にナノマシンを制御できるギリギリの範囲。
束お姉ちゃんは、箒姉さんに成功してほしい。
箒姉さんは、一夏さんと一緒に勝ちたい。
『行くぞ!!』
『・・・うおおおおおおぉっっ!!』
・・・了解(ログ)、束お姉ちゃんと箒姉さんがそれを望むなら。
私は、そのために行動すれば良いだけ・・・!!
Side 織斑 千冬
身内贔屓との誹りをあえて覚悟して言わせてもらえれば、一夏の一撃は完璧だった。
もちろん完全では無いが、今のアイツに出せる最良の一撃だと言える。
初めての超音速飛行状態で、正確に対象ISに迫撃をかけて見せた。
だが、単純に対象ISのスペックが一夏の最良を上回った。
篠ノ之妹と監視衛星を経由して送られてくる『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』の視界情報―――つまり、一夏と篠ノ之姉が見ている映像―――を映すディスプレイを見ながら、私は唇を噛んだ。
一夏の『零落白夜』の一撃は、対象IS『
『くっ・・・あの翼が、急加速をしているのか!?』
画像からは、『
その名の通り銀の塗装が施された機体、広域射撃武器と多方向推進装置(マルチスラスター)を融合させた銀の翼のような武装が、まるで天使の羽根のように見える。
だが、今は・・・暴走した堕天使だ。
ぐりんっ、と機体を回転させて数ミリの差で一夏の攻撃から逃れた『
そこから覗くのは、無数の砲口・・・・・・不味い!
「織斑、篠ノ之姉! 一撃離脱(ワンアプローチ・ワンダウン)失敗だ! エネルギー残量のある内に超音速飛行で撤退しろ!!」
通信機に怒鳴りつけると同時に、『
それは羽根の形をした無数の光弾で、一夏と篠ノ之姉のISに突き刺さると、爆発した。
爆発する弾丸・・・しかも、連射と速度が生半可では無い。
『『白式(びゃくしき)』ダメージ68、『紅椿(あかつばき)』ダメージ41、ナノマシン残量89%。機体稼働率は84、82とそれぞれ上昇。なお両機の「展開装甲」開放持続時間は残り・・・』
別のチャネルからは、ナノマシンで2人をサポートしている篠ノ之妹の声が響く。
その声が響いている最中でも、『
撤退しろと命じたはずだが、それができないでいる・・・撤退のタイミングが、計れないからだ!
IS稼働時間が300時間も過ぎれば、自然と撤退のタイミングも掴めるようになるが・・・2人は、その半分もISに乗っていない。
経験不足が、最悪の形で露呈した。
『・・・箒! 左右から攻めるぞ!』
『わかった! 左は任せろ!』
白と紅の機体が銀の機体に踊りかかり、攻撃を加える。
一夏が『雪片』で斬りかかり、篠ノ之姉が機動力と展開装甲の全開使用による自動支援攻撃で、徐々に『
機体性能では、2人が勝っている・・・そしておそらくは、機体稼働率でも。
機体性能は束、機体稼働率は篠ノ之妹の助力で相手を上回っている。
そのどちらかが欠けていれば、2人はすでに撃墜されていただろう。
もしかしたなら、このまま時間をかければ『
だが・・・。
「織斑先生! 2人の機体のエネルギーが!」
旅館最奥の仮作戦室に備えられた端末の前で、山田先生が悲鳴を上げた。
2人は暴走した軍用ISを押している、だがそれはエネルギーをセーブせずに常に全力で攻撃しているからだ。
ディスプレイの一つに表示された2機のエネルギー残量が、すでに危険(イエロー)から警告(レッド)ゾーンへと移っていた。
「織斑先生! 空域・海域封鎖をしている先生達に・・・!」
「それはできん、上層部の命令だ」
「でも!」
「くどい!!」
特命任務レベルA・・・緊急事態に際して最優先されるべき学園上層部からの命令。
それは同時に、国際IS委員会からの命令でもある。
発令された瞬間から、臨海学校に参加しているIS学園全教員がこの命令に従う義務を負う。
委員会のお歴々曰く、ハワイ沖で試験稼働中だった軍用ISが暴走、対処せよ。
しかも「任務実行は専用機を持つ生徒にやらせろ」だと、委員会は何を考えている・・・。
・・・くそ、せめて私が・・・。
「むぅ? お探しの物は・・・アレかい、ちーちゃん?」
「・・・束」
「おやおや、箒ちゃんもいっくんもピンチだねぇ。んー、稼働率が80かぁ・・・おっかしいなぁ、もうちょいイくはずなんだけどなー」
まだいたのか、とはもうあえて言わん。
だが、勝手に計器を弄るのはやめろ。
妹が危機だと言うのに、束はどこか楽しそうにしている。
その姿が・・・嫌に、勘に障った。
まるで、大事に至らないことがわかっているかのような落ち着きようで・・・。
「お、織斑先生!!」
「・・・どうした?」
「海域封鎖担当の先生の1人から報告が・・・」
山田先生の顔は、蒼白を通り越して紙のように真っ白だった。
そんな顔色で、しかも泣きそうな顔をしている。
「ふ・・・船が1隻、こちらの警告を振り切って中に・・・」
「・・・バカな!!」
あり得ない、そんなはずが。
何かが崩れ落ちるような音の幻聴が、聞こえる。
それは、それだけの衝撃で・・・私は、心の中で神を呪った。
「・・・オルコット! 強襲用装備への換装は済んでいるな!?」
『もちろんですわ』
「あー、応援? だったら楓ちゃんも連れてっといてよ。たぶん使えると思うんだよね・・・」
「うるさいぞ、束」
「うひゃあ、ちーちゃんこわーい」
・・・使える?
意味はわからないが、明らかに危機的なこの状況で。
・・・束だけが、嬉しそうに笑っていた。
Side 篠ノ之 箒
何だ・・・この、化物は!
放たれる無数の光弾は一つ一つの威力が半端では無い、機動力もこちらより上だ。
人間離れした動きを、捉えきれない。
『箒姉さん! 今すぐそっちに救援が行くから!』
「・・・一夏! 私が動きを止める!」
「わ・・・わかった!」
耳元で楓の声が響くと同時に、展開装甲を全開にして突撃する。
救援など来なくとも、一夏の『零落白夜』が通れば勝てる。
「でえぇぇええいっ!!」
全身装甲の銀のISと交錯する刹那、『紅椿(あかつばき)』を縦に回転させるようにして「空裂」を振るう。
帯状に赤いレーザーが放出され、回避しきれなかった銀のISの胸部装甲を焼く。
明らかに・・・体勢を、崩した!
今!
今だ、今『零落白夜』で攻撃すれば・・・!
「・・・な!?」
だが、当の一夏は『
それどころか、まるで反対方向に急加速して・・・流れ弾の光弾を、太刀で弾いていた。
しかもそれでエネルギーを使い切ったのだろう、一夏の太刀から光が失われた。
つまり、もう『零落白夜』を撃てない。
「な・・・何をしている!? せっかくのチャンスに・・・!」
「船がいるんだ! 海上は先生達が封鎖してるはずなのに・・・!」
船・・・だと?
確認してみれば、確かに下方の海に小さな船が見える。
旗を立てず、『紅椿(あかつばき)』のセンサーにも登録されていないそれは・・・。
・・・密漁船か!?
そんな・・・そんな連中に、邪魔をされたなど・・・!
「馬鹿者! そんな・・・そんな奴らを、庇ったばかりに! 放っておけば・・・」
「箒・・・」
「・・・!」
な・・・何だ、どうしてそんな目で私を見る。
戦場で犯罪者を庇ったばかりに、失敗したんだぞ?
私は、間違ったことなんて、何も言っていないはずなのに。
どうしてそんな、寂しそうな目で私を見るんだ・・・。
「そんな・・・寂しいこと言うなよ。専用機を貰った途端、そんなこと言うなんて・・・寂し過ぎるだろ」
「な、な・・・何を・・・」
「箒らしく、無いぜ」
「わ、私は・・・ただ、お前と・・・」
一夏と、2人で勝ちたかっただけだ。
それの・・・それの、何がいけない?
専用機・・・力、私。
私、また・・・。
「箒!!」
「え・・・」
ふと顔を上げると、すでに『
翼を模した砲口が、至近距離で全て私に向けられて・・・。
「箒いいぃぃぃ――――――――ッッ!!」
次の瞬間、白い機体に抱かれる。
そして、爆発。
ぴしゃっ・・・私の頬にかかったのは、赤い液体。
「・・・え?」
ぐらり、機体が傾いて・・・下へ。
それから、私は自分でも不思議なくらいの緩慢な動きで自分を抱き締める存在を見上げる。
幼い頃よりも、ずっと広い胸の中で・・・。
光弾にISを砕かれ、背中を焼かれた一夏の姿を。
たまらない、気持ちになる。
それをどう表現したら良いかわからない、涙も出ないような強烈な感情。
私は、それを。
「い・・・一夏ああああああぁぁぁあああぁあぁぁぁっっ!!」
叫ぶことでしか、表現できない。
海に落ちる直前、一夏が私を守るように強く、私の頭を抱き締める。
それは・・・胸が張り裂けそうな程、悲しい行為だった。
「・・・っっ!!」
夢中で、機体を立て直す。
エネルギーが少ない、推進力が足りない。
顔を動かせば、銀の機体が翼を再びこちらに向けていて。
・・・死・・・。
次の瞬間、凄まじい衝撃が私達を襲った。
黒い、衝撃。
Side 篠ノ之 楓
密漁船庇って重症とか、本気で勘弁してよ一夏さん・・・!
せっかく束お姉ちゃんが、箒お姉ちゃんが・・・ああ、もうっ!
とにかく、今は。
「させない・・・っ!!」
超音速飛行に入った強襲装備のセシリアさんに投げられるような形で、急降下。
制動をかけながら減速、ほとんど衝突するような勢いで箒姉さんを抱いた一夏さんに接触する。
海面に落ちるスレスレ、そして同時に『白式(びゃくしき)』のエネルギーが限界を迎える直前の出来事。
ソード・ビットが急速展開、光弾の雨を六角形の盾が防御する。
「・・・っ・・・楓っ!?」
「くぅ・・・!」
結構な衝撃に、私の身体の方が悲鳴をあげそうになるけど。
でも私は、海面スレスレを飛びながら箒姉さんと一夏さんを抱えて飛ぶ。
特に一夏さんは、『白式(びゃくしき)』の装甲が白い光になって消えて・・・不味い、ISが操縦者の生命を守るために自動で解除された。
束お姉ちゃんは言った、箒姉さんと一夏さんを助けて来てって。
そうでなくても助ける、だって箒姉さんは・・・。
私の、姉さんなんだから。
「・・・追いつかれる・・・?」
とは言っても、私の機体は音速飛行とかできない。
と言うか、一夏さんがほぼ生身なので音速で飛んだら死んじゃう。
まぁ、それが無くても・・・・・・大怪我、してるけど。
箒姉さんが、泣いちゃうくらいには。
姉さんを、泣かせたな・・・オマエッ!!
海面に背中を向けながら飛ぶ私は、下・・・後方を睨む。
そこには超音速戦闘に特化した銀の軍用IS。
太陽の光を浴びて輝く銀色の天使、とても綺麗。
でもそれが・・・今は。
「・・・『
それが、今はどうしようも無く嫌いだ。
これ以上、箒姉さんを泣かせるのは許さない。
ゆる、さない・・・よくも。
・・・わたしの、ねぇさんに。
それ以上・・・。
「近・・・寄るなぁっ!!」
叫んだ瞬間、不思議なことが起こった。
目の前にディスプレイが展開、網膜認証用のセンサーが作動する。
何かのシステムが発動しかけて・・・『黒叡(こくえい)』の装甲が一瞬だけ輝いた気がする。
<出力不足です、再認証を推奨>
でも実際に起こった事象は、コアで生成されて腰部のコンデンサーから放出された新しいナノマシンが、一瞬だけ球形に広がりかけたこと。
『黒叡(こくえい)』は出力不足と言うけれど、何のための出力かがわからない。
だけど球形に広がりかけたナノマシンは、高速で近付く『
バリッ・・・。
銀の天使に紫電が走り、動きが軋んで失速する。
その刹那、私は機体ごと箒姉さん達と一緒に連れ去られる。
旋回して戻って来た、強襲用装備のセシリアさんに。
「このまま離脱しますわ!!」
シャルルさん達が待ってる空域まで、一気に離脱する。
一夏さんを気遣いながらだから、そこまで超高速の移動はできないけど。
『
何故かそれは、戸惑ってるみたいにも見えた・・・。
「・・・こんな、こんなはずじゃ・・・」
涙声の箒姉さんの声、それに胸が痛む。
本当・・・こんなはずじゃ、無かったのに。
束お姉ちゃん・・・。
Side 篠ノ之 束
大丈夫だよ箒ちゃん、楓ちゃん。
お姉ちゃんは天才だから、失敗なんてしないから。
もし失敗したのなら、それはお姉ちゃんが失敗させたかったからだよ。
だから、大丈夫。
安心して、お姉ちゃんがついてるから。
「・・・束、アレは何だ」
「んー? 何って・・・ただの電磁(エレクトロマグネティック)パルスの一種だよ、あんなの。まぁ、相手のISも仮にも第3世代なら、ちょっと回路が焼けたかどうかって所じゃないかなぁ」
「・・・能動的電子攻撃。電子戦か・・・?」
「ぴんぽーんっ、さぁっすがちーちゃん、賢いねぇ」
楓ちゃんのISにはソード・ビット以外に武装が無いしさぁ、他に何か敵を無効化できる良いシステム無いかなぁって、2秒ぐらい悩んだんだけどね。
電子レンジ見てたら、思い付いたんだけど。
まぁ・・・楓ちゃんには「ナノマシン拡散用コンデンサー」としか言って無いけど。
『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』のコンセプトが「万能機」だとするなら、楓ちゃんの『黒叡(こくえい)』のコンセプトは「『戦闘』支援機」。
第一がナノマシンによる味方のコアの稼働率の向上、これは楓ちゃんの好みの装備だよね。
で、第二がナノマシンによる電子戦闘、有り体に言えば対象のコアを沈黙させる装備。
・・・って言っても、『白式(びゃくしき)』が堕ちちゃったから完全発動はしなかったみたいだけど。
まさかいっくんが密漁船を庇うとは、束さんも意外だったよ。
「織斑先生! 一夏君が運びこまれました!」
「・・・わかりました山田先生、すぐに行きます。束、大人しくしていろよ」
「はいは~い」
パタパタと手を振って、束さんはちーちゃんを見送る。
・・・うふふ、ちーちゃんってば慌てちゃって、可愛いなぁもう。
本当なら私を問い正したいはずなのに、いっくんのことが心配なんだね。
うふふ、見事なツンデレ。束さんも恐れ入ったよ。
でも後でアレかなぁ、「目的は何だ」とか聞かれちゃうのかな。
うーん、目的、目的・・・・・・。
・・・明日までにメールするから、待ってくれない?
あ、無理? そっかぁ・・・じゃ、良いや。
「次はちゃんと、3機揃ってると良いなぁ・・・」
勝手に計器を弄ってさっきの戦闘映像を見ながら、指先を舌先でペロリと舐める。
一生懸命に頑張っちゃって、可愛いなぁ・・・。
頑張ってね、いっくん、箒ちゃん、楓ちゃん。
お姉ちゃんは、優秀な子が大好きです。
まぁ、でも・・・まずは。
・・・いらない駒の排除から、かな。
◆ ◆ ◆
「・・・あら、案外あっけなかったわね」
紅と白の機体が銀の天使によって堕とされる様を、その女は船の上から見ていた。
長身に豊かな金の髪、赤い豪奢なスーツに金のイヤリング。
しばらく2機が味方に連れ去られた方角を見ていた女は、軽く首を振るとサングラスをかけて船内に戻る。
「何だよ、福音を奪るんじゃ無いのかよ」
「今はやめておくわ、思ったよりも相手が多いし・・・火傷はしないに限るもの」
「何だよ、つまんねーな・・・」
金髪の女の後をついて歩いているのは、どこか野性的な印象を持つロングヘアの女。
つまらなそうに唇を尖らせる女を微笑ましそうに見て、金髪の女は口元を綻ばせた。
「行きましょう、オータム。長居すると追手がかかって面倒だもの」
「わかったよ、スコール」
船内に戻る直前、スコールと呼ばれた金髪の女はサングラスを少しズラして、後ろの海を見る。
そして・・・特に何を言うでもするでもなく、サングラスを直して呟く。
「・・・あの女も、いることだしね」
スコールの呟きは、風に吹かれて消える。
風に消される言葉を追うように視線を戻した時、「それ」はいた。
上空で身体を丸めて留まっていた銀の天使が、船の方を向いたのである。
それに対し、スコールは唇を歪めて見せた。
「ほら、ね・・・」
――――5分後、遠距離から監視していた学園の教員から旅館に報告が入った。
曰く、密漁船は『
生命反応の消失、つまり死者は確認されなかったと言う・・・。
篠ノ之 束:
うふふふ・・・・・・。
・・・うん?
今日は誰もいないよ、いやぁ、寂しいねぇ。
・・・うふふ・・・。
じゃ、まったね~。