インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第13話:「臨海学校・リベンジ」

Side 凰 鈴音

 

作戦は失敗、貴重な第4世代型IS『白式(びゃくしき)』は大破。

そんでもって一夏は意識不明の重症、ISの操縦者生命保護装置が無ければ死んでたって、びっくりね。

・・・全っ然、笑えないわね。

 

 

私が立ってるのは、医務室代わりに使ってる旅館の部屋の前。

この中で大怪我した一夏が寝てる・・・で、一夏の傍には箒がいる。

リボンを無くしたのか髪は下ろしてて、こっちは怪我ひとつ無い。

でも全身で落ち込んでて・・・うなだれたまま、動かない。

たぶん、今も。

 

 

「・・・あーあ、わっかりやすいわねぇ・・・」

「箒姉さん、真面目だから・・・」

 

 

・・・でも、私は箒を責める気は無いのよ、実はね。

だって、一夏がこうなったのは一夏のせいだから。

箒を守ったのはともかくとしても、密漁船を庇って任務に失敗とかあり得ないもの。

一夏らしいし、私はそんな一夏が好きだけど。

 

 

でも、ISの操縦者としては・・・「専用機持ち」としては、間違ったことをした。

任務を放棄して、自分の考えを優先させたんだから。

だから・・・一夏がこうなったのは、一夏のせい。

 

 

「箒姉さん、もうISに乗らないつもりなのかな・・・」

「それこそ、ふざけんじゃないわよ。それじゃ、一夏があの子を庇った意味が無いじゃない」

 

 

隣で部屋の襖を心配そうに見てる楓に、そう答える。

そう・・・ふざけんじゃ無いわよ。

そんなこと、私が認めない。

 

 

・・・あの子が貰ったIS、私が欲しかった。

 

 

一夏と一緒に戦いたかった、私が守ってあげたかった・・・私が、一夏を助けたかった!

畜生、でも私達は自分のISしか使わない・・・使っちゃいけない。

それが専用機持ち、それが代表候補生。

国の皆が作ってくれたIS、「好きな男の隣にいたいから」なんて理由で捨てられるわけが無い。

私は自分のISが・・・『甲龍(シェンロン)』が、大好きだから。

 

 

「・・・アンタ、箒の傍にいてあげなくて良いわけ? 真っ先にベッタリくっつくもんだとばかり思ってたけど」

「・・・・・・そうしたいよ、でもできない」

「どうして?」

「それは、箒姉さんが一番嫌がることだから」

 

 

・・・そうね、今の箒には楓みたいな子は、一番合わないかもね。

罰を望んでる箒に、ひたすら許しを与える楓みたいな子は。

姉に罰を与えるなんて、考えもしないだろうしね。

楓がそう言う子だってことは、この数カ月でわかってる。

でも意外ね、そう言うの気にしない子だと思ってたけど。

 

 

「・・・迷惑をかけた時に優しくされるのは、凄く辛いから」

「・・・・・・そう。アンタが良いなら、良いけどね」

「鈴さんは・・・優しいね」

「バカ言ってんじゃないわよ」

 

 

別に私は、優しくなんて無い。

ただ・・・一夏が起きた時、箒があんなんじゃ悲しむでしょ。

それだけよ。

 

 

「大丈夫、箒姉さんは来るよ」

「どうして、そう言えるの?」

「それが、私の知ってる箒姉さんだから」

 

 

そう言って・・・最後にもう一度だけ部屋の方を見て。

それから、どこかへと歩いて行った。

どこへ行くつもりなのか、何となくわかる気がした。

だから、止めない。

どうせ・・・後で会うもの。

 

 

「あーあ、本当に柄じゃ無い・・・・・・うん? 何よ」

 

 

1人になって溜息を吐く私、そこへ『甲龍(シェンロン)』に通信文が入る。

・・・秘匿通信、そして秘密コード。

それは、代表候補生のみに与えられる・・・。

 

 

軍事作戦用の、特別通信だった。

そして、そこには・・・。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

あ、楓・・・。

代表候補生の私は、一応、織斑先生の「謹慎命令」の対象外。

だからこうして、砂浜に出れる・・・けど。

 

 

「・・・楓・・・」

 

 

一般の生徒が誰もいない、作戦の跡すら残って無い・・・。

そんな場所に、楓はいる。

声をかけそこねて、ここまでついてきちゃったけど・・・。

 

 

「おいで、『黒叡(こくえい)』・・・」

 

 

漆黒のISに身を包んだ楓は、無数のディスプレイを展開する。

展開して・・・高速で空中投影型のキーボードを叩き始める。

何を・・・してるんだろう・・・?

 

 

「楓・・・楓、何をしてる、の・・・?」

「・・・」

「・・・楓?」

「・・・・・・箒姉さん、来るから」

「え・・・」

 

 

箒さん・・・お姉さんが、来る・・・の?

でも、あの人は今・・・。

 

 

「来るよ、絶対」

「・・・楓」

「来るんだよ」

「・・・ぁ・・・」

 

 

・・・楓は、凄く、必死そう・・・だった。

必死で・・・お姉さんを、信じようとしてる。

絶対、戻ってくるって・・・。

 

 

「だから、私が・・・今の内に、準備しないといけないの」

「・・・お姉さん、の・・・ため?」

「うん、じゃないと私・・・いる意味無いから」

「そんなこと・・・」

 

 

ねぇ、楓。

どうして、そんなに必死になってるの?

どうしてそんな・・・お姉さんの役に立とうとするの?

私には、本当にわからない・・・。

 

 

・・・嘘。

 

 

本当は、わかってる。

好きだから。

好きだから、必死になるんだ。

必死になって・・・役に立ちたくて、助けになりたくて。

そして、褒められたくて。

 

 

「・・・」

 

 

・・・そしてそれが、無理だとわかった時。

自分が、お姉さんに届かない、どうしようも無い醜いナニカになってしまった時。

 

 

心が、死ぬんだ、きっと。

 

 

幼い頃は、誇りに想っていた何かが。

子供の頃は、頼もしかった何かが。

崩れ落ちて・・・そして、きっと。

 

 

「・・・おいで、『打鉄弐式(うちがねにしき)』・・・」

 

 

右手の中指に嵌めてたクリスタルの指輪が輝いて・・・光の粒子になる。

でもそれは私の身体に装着されない、砂浜に鎮座する形で出現する。

私のIS・・・未完成だけど、見た目はできてるようにも見える。

 

 

「・・・簪ちゃん?」

 

 

そこで初めて、楓は手を止めて私の方を見る。

私は『打鉄弐式(うちがねにしき)』の胸部装甲を器具で開くと、コア周りの部分を外に晒す。

青白く輝くそれは、優しい力に満ちている。

コア・バイパスにケーブルを繋いで・・・それを。

それを、楓にそっと差し出す。

 

 

「・・・エネルギー、もう無い・・・でしょ?」

 

 

私の機体は動かないから、エネルギーは余ってる。

「ありがとう」・・・そうお礼を言ってくれる楓に、私は恥ずかしくなる。

私がはにかむと、楓もやっと笑ってくれた。

 

 

守りたい、そう・・・思った。

楓の心が、死んでしまわないように。

どうしてか・・・そう、思ったの。

私にみたいに、なってほしく無いって・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

何時間経ったのか・・・ずっと、後悔している。

私にとって、剣術とは己を律する物であるはずだった。

暴力への、抑止力。

だがそれは結局、いつも私をラインの向こうへと誘う。

 

 

幼少時の剣道、そして今のIS。

力を手にした途端、それを振るう、流される。

ならもう、それに触れない方が・・・そう、思った時。

 

 

「ざっけんじゃ無いわよっ!?」

 

 

部屋に入って来た鈴に、殴られた。

痛み、だけど。

一夏のそれに比べれば、大したことは無い。

 

 

「戦わせるわよ、嫌でもアンタを。一夏のしたことを無駄にしたくないから」

「い、一夏は、私に・・・」

「らしくないって、言うんじゃないの?」

 

 

らしくない、その言葉は・・・一夏に言われた言葉。

鈴の目は、まるで燃えているようで。

今の私には、それがとても眩しく見えて。

 

 

「鈴さんって、意外と良い人だったのですわね」

「凰さんは、元から優しい子だよ」

「ありがとうシャルル、それでセシリア? 意外とってどう言う意味?」

 

 

気が付くと、部屋の扉の所にセシリアとシャルルが立っていた。

鈴は私から離れると、腰に手を当てて溜息を吐いた。

 

 

「『甲龍(シェンロン)』のパッケージ・インストール、もう終わったわよ」

「僕の方も、防御パッケージのインストール完了だよ」

 

 

換装装備(パッケージ)のインストール・・・すると、3人は最初から戦う気だったのか。

だが、私達への命令は・・・。

千冬さんは、待機しろと。

 

 

「忘れた? 私達は代表候補生よ」

「国の方から例の機体の調査命令が出たんだ・・・これは委員会の命令とは別系統の命令でね」

「なので、織斑先生の指示ばかりに従うわけには参りませんの・・・エリートの辛い所ですわ」

 

 

3人は、それぞれ困ったような顔をしている。

その時、ラウラ・・・ドイツの代表候補生が、IS学園の制服では無く黒い軍服を着て現れた。

おそらく、ドイツ軍の軍服なのだろう。

 

 

「私の機体もインストールが済んだ、いつでも出れる」

「そ、で・・・アンタは、どうするの?」

「わ、私は・・・」

 

 

怖い。

また、力の使い方を誤るのが怖い。

正しい使い方が、できなかったら。

いや、よしんば誤らなかったとしても。

 

 

「敵の居場所も、わからない・・・!」

「場所ならわかるさ、私達の中で、最も高い索敵能力を持つ機体の操縦者が探している」

「え・・・」

「この場にいない、誰かだ」

 

 

この場にはいない、専用機持ち。

ここにいない専用機持ちで、ラウラが示す人間は1人しかいないだろう。

それに気付いた私は、駆け出す。

 

 

どうやって走ったのかは、わからない。

旅館を飛び出して、浜辺まで駆けて行く。

いつのまにか、太陽が水平線に随分と近くなっている。

そして誰にも会うこと無く、私はそこに辿り着く。

 

 

「・・・あ・・・」

 

 

肩で息をしながら、見つける。

それはまるで、光の玉のように見えた。

10枚以上の青白い空間投影ディスプレイに囲まれる中で、何かが動いている。

 

 

それは、翼のようなコンデンサを持つ黒いISだった。

良く見れば、足元に2つ3つ携帯用のチューブ食料が空の状態で落ちているのが見える。

アレが昼食だったのだろうか・・・だとすれば、アレからずっと?

 

 

「・・・楓」

 

 

名前を呼ぶと、青白い光の中で私と同じ顔の少女が私の方を向いた。

指先は止めず、キーボードを叩いたりディスプレイに触れたりしている。

飴でも舐めているのか、口から細い白い棒が突き出てる。

飴を舐める度に揺れるそれに、私は少しだけおかしな気分になった。

 

 

私を見る不思議そうな瞳・・・だけど、どうしてか少しだけ不安そうにも見える。

それは昔、母親に隠れて病気の妹を見舞いに行った時に、良く見たことのある・・・。

・・・そうか。

お前は、私が来ると信じていたのか。

 

 

「楓・・・」

 

 

信じ続けてくれて、いたのか。

はは・・・そうか、なら・・・。

 

 

「楓」

「・・・む?」

「・・・私の」

 

 

私は、昔・・・良く寝込んだ楓にそうしたように。

姉さんと3人、布団を並べて眠っていた時のように・・・。

ただ、笑いかけた。

 

 

「私の・・・私達の敵は、どこにいる?」

 

 

私がそう聞くと、楓は最初きょとん、とした表情を浮かべた。

それから、花の開くような笑みを浮かべて見せてくれた。

私はそれを、可愛いと・・・素直に、思うことができたように思う。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

軍用ISなんて嫌い、人を殺すしかできない木偶の坊だもの。

しかも箒姉さんと一夏さんを撃墜した、箒姉さんが泣かされた。

絶対に許さない、大嫌い。

 

 

「目標確認、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は30キロ沖合の上空200メートル地点に停止中。ステルス・モードだけど光学迷彩じゃ無くて、各国の監視衛星から丸見え」

 

 

アメリカ・イスラエルのISが暴走したことはすでに公然の秘密、ロシアやEU、中国の軍用衛星が24時間体制で監視してる。

私はそこにちょっとだけお邪魔して、画像を得てるだけ。

 

 

30キロ先となると、私のナノマシン散布領域の外。

周辺に散布したナノマシンを『黒叡(こくえい)』の中に回収しつつ、他の運用方法を考える。

たとえ領域内でも、離れれば離れる程に運用にタイム・ラグが生じる。

それを無くすためには、近付かないといけない・・・。

 

 

「そう言えば、私の時もやってたわね。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』相手でもできるの?」

「箒姉さんが接触した時点から、『黒叡(こくえい)』のナノマシンは対象IS内部に留まってるから」

 

 

鈴さんの言葉にそう返すと、私は30キロ先で運動停止状態にあるだろうナノマシンの状態を予測、シミュレーション・プログラムを構築する。

それを箒姉さん達のISに転送しながら、同時に『黒叡(こくえい)』の各種計器を確認する。

もう何時間も稼働してるから・・・エネルギーは外付け機材で充填するしかない。

 

 

「では、今度の作戦は楓の機体能力を軸に役割を分担するとしよう」

「そーね・・・で? アンタは大丈夫なわけ?」

 

 

ラウラさんの言葉に頷きつつ、鈴さんが箒姉さんを試すように問う。

シミュレーション・プログラムに目を通していた箒姉さんは、静かな目つきで頷きを返す。

良かった・・・戻って来た時は、どうしようかと思ったけど。

やっぱり、箒姉さんは強いね。

昔から、何も変わらない・・・真っ直ぐで生真面目、私の自慢の姉さん。

 

 

「・・・戦う。そして、今度こそ・・・勝つ」

「そ、じゃあ・・・勝つわよ」

 

 

鈴さんが微笑んで、皆が頷く。

まぁ、正直・・・委員会とか命令とかは、どうでも良い。

私は箒姉さんを手伝う、ただそれだけ。

 

 

「・・・皆、ちょっと良いかな?」

 

 

その時、シャルルさんが挙手しながら皆に声をかけた。

どこか悩んでいるような、そんな表情で。

 

 

「作戦の前に、皆に話しておきたいことがあるんだけど・・・」

 

 

・・・何?

そんなに改まって、話すこと・・・?

 

 

 

 

 

Side シャルル・デュノア

 

アメリカ・イスラエル共同開発の『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の強襲調査、これは欧州連合と中国の共同作戦と言う形になる。

特にセシリア、ラウラとは「同盟国」の代表候補生同士と言うわけで・・・。

 

 

しかも第4世代型を2機とも撃退した相手との戦闘になる、そうなるとどうしても信頼関係が必要。

だから・・・嘘を吐いたまま戦うわけには、いかない。

何より、僕が嫌だった。

 

 

「実は・・・僕は、男の子じゃ無いんだ」

「な・・・何だと!?」

 

 

箒さんの驚愕する声に、身体が震えるのを感じる。

一夏が一生懸命に隠してくれていた秘密を、僕は今、皆に話してる。

作戦の最中に何かの拍子でバレたら皆が動揺する、それは不味いと思ったから。

それに・・・これ以上は、辛いから。

 

 

僕は皆に、一夏に話したのと同じことを話した。

僕のこと、デュノア社のこと、そして今までのこと。

タイミングが良いとは言えなかいと思うけど、他にどのタイミングで話せば良いかわからない。

 

 

「僕、皆に酷い嘘を吐いてた・・・ごめん」

「い、いや、だがお前が悪いわけでは無い・・・だろう?」

「気持ちは嬉しいけど・・・でも、これは僕のせいだから」

 

 

箒さんは、優しいね・・・一夏と同じことを言う。

そう言う所、お似合いかもしれないね。

・・・ちょっと、胸が痛いや。

 

 

それで・・・ちょっと、身構える。

何を言われても良いように、気持ちを引き締める。

そうしたら・・・意外な反応が、返って来た。

 

 

「あー・・・やっぱそうなんだ」

「・・・え?」

「何と言うか、疑問が氷解したような気分ですわね」

「え?」

「デュノア社の苦境については、すでに政府・軍関係者の間では公然の秘密ではあったがな」

「へ・・・?」

 

 

ど、どうしてかはわからないけど、皆、何か納得したみたいな顔になってた。

え、え・・・何で?

 

 

「いや、だってそう考えたら、変な所で付き合い悪くなるのも納得だし・・・それに、アンタが2番目の男の操縦者って聞いた時から不思議だったのよねぇ」

「男性操縦者は一夏さんが世界初、となるとシャルルさんはここ数カ月間でISについて学んだことになりますもの・・・でも現実には、もう何年も訓練したかのような強さ。もし才能だけでこれなら・・・と内心、危惧しておりましたわ」

「だが女だと言うなら疑問も氷解する。大体、プライドの高いフランス政府が『世界初の男性操縦者』の称号を日本人にやすやすと渡していること自体、疑問ではあったしな」

 

 

鈴、セシリア、ラウラがそれぞれ頷きながらそう言う。

・・・あ、改めて言われてみると確かに、おかしな所だらけだもんね。

実際、僕はもう500時間くらいISに乗っているけど・・・一夏と比べると、異常だよね。

正直、いろいろ諦めてたから深く考えて無かったけど。

 

 

「でも良いの? その情報を私達が母国に伝えたら・・・IS学園にいるアンタはともかく、フランス政府とデュノア社、世界から吊るし上げられるわよ?」

「・・・うん。それはもう、仕方無いよ」

 

 

仕方無い・・・と言うより、僕が僕として生きて行くための選択肢の一つではあったから。

フランスはともかく・・・会社が無くなってしまえば、僕の任務も意味がなくなる。

機体とコアを持っている僕は、どこかに亡命するかどうなるか・・・微妙だけどね。

いずれにしても、デュノア社自体に未練は無いよ。

・・・そこで働いてる人達については、少しだけ何かを感じる所はあるけれど。

 

 

「・・・あれ? でも・・・」

 

 

その時、それまでずっと静かだった楓さんが口を開いた。

頭の上に「?」を浮かべながら、ふとした疑問を口にしてくる。

 

 

「ずっと同室だった一夏さんが知らないはずが無いわけでー・・・あれ、つまり?」

「「「・・・」」」

「まぁ、同棲と言うことですの?」

「え」

 

 

・・・ごめん、一夏。

こっち方面に関しては、本当に何も考えて無かったよ・・・。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

・・・また随分と、騒がしい出撃だったな。

浜辺からそれぞれ上空に飛翔する6つのISを岩陰から見送りながら、私はそんなことを考える。

それは自分でもくだらないと思える考えで、溜息を吐く。

 

 

「良かったんですか、止めなくて」

「良いも悪いも、そう言う命令だ」

 

 

6人が飛び去った空を不安そうに見上げる山田先生に、私は冷たく答える。

どう言う意思が働いているのかは知らないが、国際IS委員会の命令に変化は無い。

専用機持ちに全てを任せろ、ただそれだけだ。

 

 

私達教員は現在、先の密漁船事件の捜査にも人員を割かなくてはならない。

それが無かったとしても、私達は今回の件に対して介入する権限を持たない。

自分が体制側に使われる人間であることは、承知しているつもりだ。

その代わりに、できることもある。

だが・・・。

 

 

「・・・時として、それを煩わしく思う時があるのは事実だがな」

「織斑先生・・・」

「・・・そんな顔をするな、真耶」

 

 

小さく笑って山田先生の・・・真耶の頬を軽く撫でる。

年齢の割に幼く見える顔からは、心配と不信の色が消えない。

確かに、委員会の思惑は不気味ではあるが・・・。

 

 

「だが、私達にできることが何も無くなったわけじゃない、そうだろう?」

「・・・はい。はい、そうですね!」

 

 

笑顔を浮かべる山田先生に笑みを私も笑みを返して、岩から背中を離す。

もうすぐ夕暮れ、太陽の沈みかけた空の向こうには、もう何も見えない。

 

 

・・・死ぬなよ、と思う。

そのために必要なことは、授業の中でいくつか教えたはずだった。

だが・・・どこまで実践できるかは、アイツら次第だ。

 

 

「・・・そう言えば、束はどこに消えた? さっきまで私に張り付いていたはずだが」

「え、し、篠ノ之博士ですか? さ、さぁ・・・?」

 

 

一夏を見舞った後に部屋に戻った時は、やけに上機嫌だったが。

それと山田先生は、束が苦手な様子だった。

まぁ、出会い頭に「この胸でちーちゃんをたぶらかしたのか!」と胸を揉まれまくれば苦手にもなるだろうが。

と言うか、得意な奴がいるのか・・・?

 

 

「・・・」

 

 

表には出さないが、内心で首を傾げる。

束なら妹達の出撃にちょっかいをかけないはずが無いと思って、ここで張っていたんだが。

どこに消えた・・・?

 

 

感覚的に、そして直感的に・・・束の居場所は、何となくだがわかるつもりだ。

束は、今・・・。

・・・まさか。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

目標まで距離5000、微風あり、しかしISの射撃支援システムが照準のズレを修正する。

右眼部分に展開したターゲット・ロック・システムの向こう側には、海上で蹲ったまま静止している銀のISが見える。

ハワイ沖から超音速飛行を続けていたはずの敵ISが、何故このポイントに留まっているのかは不明だ。

 

 

「・・・一七〇〇、作戦開始(ミッション・スタート)」

 

 

呟いて、私のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の両肩に装備されたレールカノンにエネルギーを充填する。

これぞ砲戦用換装装備(パッケージ)「パンツァー・カノニーア」、八〇口径レールカノン「ブリッツ」を両肩に2門装備し、さらに遠距離からの砲撃・狙撃対策として4枚の物理シールドを持つ。

 

 

2門のレールカノンから超音速で射出された初弾は、海上の『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に直撃した。

 

 

ISの視覚補足拡大映像(ズーム・ビュー)の中で、銀の機体が黒煙に包まれるのを確認する。

わずかながらダメージを与えただろうが、これで撃墜できるほど甘くは無いだろう。

初弾命中、砲撃を続行する。

 

 

「・・・敵機、健在を確認」

 

 

右眼のターゲット・サイトの数値が変動する、それは対象が高速でこちらに接近していることを示している。

事実、敵機は5000の距離を急速に縮めて来ていた。

爆煙の中から飛び出した銀のISが、4000、3000・・・と距離が詰まる。

その間も砲撃を続けているが、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は急加速と急停止を繰り返しながら回避、砲撃の成果は初撃以外は無いに等しい。

 

 

「・・・!」

 

 

次の瞬間には、5000の距離を突破して来た銀のISと肉薄する。

銀色の翼が光を放ち、正面の物理シールドを破壊する。

シールドの破片が散り、銀のISと私が顔を合わせた次の瞬間・・・。

 

 

ガイィンッ!

 

 

甲高い金属音が響き、直上から青いビームが銀のISの背を打ち据えた。

上空からの射撃、それはセシリアと『ブルーティアーズ』による物だ。

強襲用高機動換装装備(パッケージ)「ストライク・ガンナー」、ビットの射撃機能を封印して推力に回し、全長2メートルのレーザーライフルと超高感度ハイパーセンサーによって最高速度での高速射撃を可能にしている。

 

 

『敵機Bを確認、排除行動』

「遅いな」

「だね」

 

 

私の背後から、福音に対してショットガンによる射撃。

それは正確に敵機の頭部を撃ち抜き、銀のISが身体のバランスを崩す。

そこに私が至近距離から砲撃を撃ち込み、距離を空ける。

 

 

ショットガンを撃ったのはシャルル、オレンジ色の機体がステルスモードを解除して姿を現す。

その刹那、3機目の敵を認識した『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が翼から全方位に対して一斉射撃を行う。

上空のセシリアは高速機動でそれをかわすが、砲戦装備の私はかわしきれない。

そこで、防御装備を持つシャルルが間に立つ。

 

 

「ここから先は・・・通さないよ」

 

 

防御用換装装備(パッケージ)「ガーデン・カーテン」、実体シールドとエネルギーシールドが合計4枚装備されている。

とはいえ、いつまでも直撃はできない。

そう判断したシャルルはショットガンを捨ててアサルトライフルへ装備変更、銃口を敵に向ける。

 

 

近距離からシャルルが牽制・防御、中距離上空からセシリアが射撃、さらに私がその外側から砲撃。

敵の機体性能はこちらを上回るが、流石に欧州3国の新鋭機を同時に相手にしては楽では無いだろう。

とは言えアメリカ・イスラエル・・・IS大国の最新鋭機、それも軍用仕様。

このまま消耗戦に持ち込めれば、と思うが。

 

 

「・・・逃げる気ですわ!」

「わかっている!」

 

 

私達の攻撃に嫌気がさしたのか、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が再度全方位一斉射撃を行った後、最大速度での離脱を図ろうとしたが・・・。

次の瞬間、眼下の海面が大きく爆ぜた。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

『紅椿(あかつばき)』の背中に今度は一夏では無く鈴と『甲龍(シェンロン)』を乗せて、潜んでいた海中から一気に飛び出す。

セシリア達の包囲の輪から逃れようとした『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の前に出て、その進路を塞ぐ。

 

 

鈴が私の背中から飛び下りるのとほぼ同時に、私は腰から「空裂」を抜いて両手持ちで斬りかかる。

衝撃と火花、赤い斬撃が銀のISの装甲を焼く。

離脱しようとした『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の動きが、止まる。

 

 

「箒!」

「応!!」

 

 

脚部展開装甲を開き、エネルギーを放出する。

ただし自動では無い、私の意思で開放する。

前回と同じ轍を踏まないよう、エネルギー消費を考えてオートでの開放はできないよう調整した。

・・・楓が。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

ぼっ・・・私が『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の眼前から直上へと消えた次の瞬間、赤い炎で出来た雨が銀の機体の装甲を打つ。

その攻撃は鈴による物で、2基から4基に増えた『衝撃砲』による物だ。

ただし今までの不可視の砲弾では無く、エネルギーを拡散させた熱殻拡散衝撃砲。

機能増幅換装装備(パッケージ)「崩山(ほうざん)」、それは銀のISの機体に明らかにダメージを与える。

 

 

「まだですわ!」

「わかってる!」

 

 

上空から射撃を繰り返すセシリアの声に応じ、もう一本の刀も抜く。

鈴も2本の青竜刀を抜き、それを連結させて構える。

それに対して、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は銀の翼を左右に大きく広げて・・・射撃!

 

 

「そうは・・・させない!」

 

 

私の前にオレンジ色の機体が躍り出て、4枚のシールドで私と鈴へと向かってきた光弾を防ぐ。

セシリアとシャルルがいる限り、牽制と防御を心配する必要は無い。

そう言うのは・・・何と言うか、不思議な感覚だった。

 

 

その時、シャルルの実体シールドの1枚が『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の光弾の爆発力に耐えきれずに吹き飛んだ。

シャルルが表情を歪めるが、その『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』も横から吹き飛ばされる。

ラウラの砲撃によって。

ガクン、と揺らぐ銀の機体・・・鈴と共に、シャルルの左右を抜ける形で斬り込む!

 

 

「「はああああっっ!!」」

 

 

私の斬撃は、大振りだったために回避される。

しかし『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が回避した先には、鈴の青竜刀。

斬撃と言うよりは欧撃と言った方が良いような衝撃が、銀の機体を打つ。

 

 

・・・しかし『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は、左腕の装甲で鈴の一撃を受け止める。

その左腕の装甲が砕け、初めて目に見えるダメージが入る。

だがそれに喜ぶ間も無く、右腕が鈴の胴を殴る。

衝撃に動きを止めた鈴を、今度は縦に回転して踵落としの要領で蹴りを叩き込む。

き、近接格闘でもこの性能・・・!

 

 

「ぐ、ぁ・・・っ!」

「鈴!!」

 

 

一直線に海に叩き込まれる鈴―――――私の声に、視線だけで応えて来た。

ここまでは、予定通り。

だがそれでも、仲間を堕とされた怒りが芽生えないわけでは無い。

 

 

「よくも・・・!」

 

 

苛立たしげなセシリアの声と同時に上空から浴びせられる青のビーム射撃、しかし銀の機体は高速で回転しながらそれを回避、今度は急上昇する。

・・・行かせるか! 『紅椿(あかつばき)』!

 

 

「ラウラ!」

「言われるまでも無い!」

 

 

ドンッ・・・ラウラが左右のレールカノンの交互連射で『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を牽制、セシリアはその間に敵から離れながら急降下。

セシリアと入れ替わるように、私が下から『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に肉薄する。

 

 

―――篠ノ之流二刀型・盾刃の構え。

突きから連続しての斬撃に移る型、それに『紅椿(あかつばき)』の機動性能を組み合わせる。

あの人の作ってくれた機体は、私の「思った以上の」動きを見せる―――!

 

 

「左足、頂きますわ!」

 

 

私の斬撃よりも一瞬速く、青いビームが『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の左足を撃ち抜く。

バランスを崩した銀の機体の頭部に、私は刀の柄を叩きつけた。

ビシッ・・・装甲に罅が入り、銀の機体がグラリ・・・と、下がる。

そこにすかさず、蹴りを叩き込む!

 

 

重い金属の打ち合う音が響き、銀のISが海に向かって堕ちる・・・直前で、体勢を整えるのが見えた。

そこは、さっき鈴が堕ちた場所だ。

鈴・・・そして。

 

 

「楓!!」

 

 

私が妹の名前を呼んだ次の瞬間、再び海面が爆ぜた。

そこから飛び出して来たのは赤みがかった黒のISと、漆黒の影のようなIS。

鈴と・・・その背中にしがみ付いた、楓だった。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

自慢じゃないけど、私は高速戦闘なんて出来ない。

模擬戦をやれば、IS学園最弱だと言う自信があるよ。

だからこうして、鈴さんに運んで貰わなくちゃいけない・・・!

 

 

「もらったあああああぁっっ!!」

 

 

耳元で響く鈴さんの声、私を乗せたままで『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』に入る。

海上5メートルくらいの所でたたらを踏んでいた『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に、鈴さんが自分のISごと突撃する。

次の瞬間には、銀の機体に抱きつくみたいな形でぶつかる。

『甲龍(シェンロン)』の両腕が銀の機体の腕と翼を押さえ込んで、2機のパワーが拮抗する。

 

 

鈴さんが抑えられていないもう片方の腕と翼が、砲門をこちらに向けようとするのが見える。

でも次の瞬間、青い衝撃が銀のISを襲った。

強襲用の換装装備(パッケージ)で速度と機動性を格段に高めた『ブルー・ティアーズ』が反対側から突撃を敢行、銀の機体に取り付く。

セシリアさんが、残った腕と翼を抑え込んでくれる。

 

 

「こ、の・・・大人しく、なさいな!」

「ぐ、ぐっ・・・・・・楓ぇっ!!」

「了解(ログ)!!」

 

 

箒姉さんが・・・否、皆がそれを望むなら。

私は『黒叡(こくえい)』の腕部装甲を解除、両手を自由にする。

背部のタンクから黒いナノマシンが溢れ出て、銀の機体の表面を覆い始める。

私はISのPICで鈴さんの身体から離れ、自力で浮遊。

鈴さんの肩部の衝撃砲を乗り越えるような形で、銀の機体に手を伸ばす。

 

 

私の指先には、メンテナンス用のレーザー・カッター。

 

 

操縦者の生命をあらゆる危険から守る、ISの「絶対防御」。

でもそれは、操縦者の生命が危機に陥らない限り発動しないと言う奇妙な欠陥を持つ。

ブゥンッ・・・両目を『黒叡(こくえい)』のセンサー・ゴーグルが覆う。

周囲を青白いディスプレイが囲んで、千冬姉様から貰った『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のスペックデータ・・・整備記録が映し出される。

 

 

「接合面、ロック・・・コード接続、ナノマシン、呼び出し(コール)・・・」

 

 

銀の機体の胸部、アーマーの接合面をレーザー・カッターで切り、器具でロック。

『紅椿(あかつばき)』よりも接合が粗い、これくらいなら私でも通せる。

同時に『黒叡(こくえい)』の腰部から細いコードを引き抜いて、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』にそれを指し込む。

同調開始・・・普通ならこの段階で、接続権限の無い私は拒絶される。

でも・・・前の戦いで内部に侵入したナノマシンが、銀の機体を誤認させる。

 

 

「このまま・・・機体制御を奪う!」

「しゃあっ! 大人しくしてなさいよ・・・!」

「スマートではありませんけど・・・!」

 

 

2機の専用機に抑え込まれて、銀の機体は動けない。

でも暴走の原因がわからないから、システムを強制終了させるしか無い。

初めて触れる軍用IS、整備とはわけが違う。

出来る? ううん、やるんだ・・・だって。

私は、束お姉ちゃんの一番弟子なんだから・・・!

 

 

「・・・深く、もっと・・・」

「ち、ちょっと気味が悪いかも・・・」

 

 

ザワザワザワ・・・と、銀の装甲が微細な黒いナノマシンに覆われる。

それが何か怖かったのか、鈴さんが表情を少し引き攣らせてた。

でも私は、空中のキーボードを叩く以外のことは意識から排除してるから・・・。

 

 

教えて『黒叡(こくえい)』、どうしてこの子は暴走を・・・?

コア・ナンバー・・・メインデータ破損? ネットワークと遮断されて・・・ISの認識システムに誰かが侵入した跡が・・・誰? 軍じゃ無い・・・?

外部からの、不正アクセス・・・?

枝を張って、追跡・・・同時に強制終了プログラム・・・。

 

 

「・・・」

 

 

この子は・・・何? 保護モード・・・誰を?

保護対象は・・・ナター・・・警告音(アラート)。

ナノマシンが『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のコアに触れた途端、それは起こる。

まるでそれが、何かのトリガーだったかのように。

 

 

黒く染まりかけていた銀の機体から、猛烈な光が溢れだした。

 

 

ばんっ・・・装甲に張り付いていた黒いナノマシンは青白い雷に打たれて剥がれ落ちる。

全てのディスプレイが、真っ赤に染まって警告音(アラート)を発し続ける。

ISコア・・・そして、不正アクセスした外部の誰かの追跡を始めた瞬間。

逆に、私の接続が解除された・・・そ、そんなバカな!

 

 

「「「きゃああああああっ!?」」」

 

 

銀のISに密着していた私達3人の機体は、青白い雷に弾かれて離される。

鈴さんと離れていたから、私は孤立した形で空中で制動をかけざるを得ない。

再び黒い装甲で身体全体を覆って、顔を上げると・・・。

 

 

「な、何だ、どうなっている!?」

「これは・・・不味い、これは――――『第二形態移行(セカンドシフト)』だ!!」

 

 

セカンドシフト・・・その言葉に、全員に衝撃が走る。

それは全てのIS操縦者の目標の一つであり、そして。

そして、ISの全能力を格段に高める・・・!

 

 

『キアアアアアアア・・・!!』

 

 

甲高い機械音、それはまるで叫び声のようでもあった。

銀色の機体・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の全身の至る所―――頭部、腹部、背部―――から、白い・・・エネルギーで出来た白い翼が、無数に生えた。

それは不気味な光景だけど・・・どこか、神々しさすら感じた。

だからそれに・・・私は、目を奪われて。

 

 

「楓っ!!」

「あ・・・」

 

 

気が付けば、私はその白い翼に抱かれていて・・・白くて、美しい羽根の中。

敵意を持ったエネルギーの存在に、『黒叡(こくえい)』が警告音(アラート)を鳴らす。

内容は・・・全方位からの標的確定宣告(ターゲット・ロック)。

 

 

刹那、数十の光弾をゼロ距離で浴びた。

 

 

腰部のソード・ビットの防御も間に合わずに・・・衝撃と爆発と痛みが、私の意識を同時に襲う。

意識が、遠ざかる・・・視界が暗い。

だ・・・。

 

 

「か・・・」

 

 

ダメ、私が・・・起きて無いと、ナノマシン・・・。

動かな・・・。

 

 

「楓ええええええええええっっ!!」

「・・・な・・・」

 

 

なぁに、箒姉さん。

そう答えようとした時・・・冷たい水に、全身が包まれる。

水面に打ちつけられて・・・意識が。

私・・・お、姉・・・ちゃ・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「あ~あ、惜しかったねぇ・・・楓ちゃん」

 

 

薄暗い部屋、機器の放つ光に包まれる中で・・・その女性は、小さく笑う。

それはまるで、幼い子供の失敗を見守る母のような笑み。

「1人不思議の国アリス」の服装をしたその女性の前には、ベッドの上で眠る黒髪の少年・・・。

 

 

その女性は鼻歌を歌いながら少年の右手を手に取ると、ブレスレットにコードを突き刺す。

そして空中のキーボードに何かを打ち込むと・・・白いブレスレットが、淡く輝きを始める。

女性はそれを見て満足気に頷くと、コードを引き抜いて姿を消す。

忽然と・・・突然と。

 

 

少年の名は、織斑一夏。

女性の名は、篠ノ之束と言う。

この行為の意図と結果は・・・まだ、誰も知らない。

 




篠ノ之 束:
うふふ・・・あははははっ。
あぁーあ・・・箒ちゃんと楓ちゃんは、本当に。

可愛いなぁ・・・(クスリ)。
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