インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第14話:「臨海学校・七夕の夜に・前編」

―――行かなくちゃ。

そう思って、彼は目を開く。

 

 

<マスターの生体再生措置完了。意識の覚醒を確認>

 

 

白い腕輪・・・騎士は、「主人」にそう告げる。

眠る以前よりもずっと、確かな意思を持って。

彼は、告げる。

 

 

「・・・行こう、『白式(びゃくしき)』。皆が待ってる」

<受諾(イエス)、マスターが望む力を>

 

 

そして少年は・・・織斑一夏は、飛ぶ。

戦いの空へ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

楓が、堕ちた。

黒い装甲を撒き散らせて、海中に沈むのが視界に入る。

あまりに速くて・・・防御も回避も、救援も間に合わなかった。

 

 

水柱が立った海面は、すぐに静寂を取り戻す。

静かになって・・・元の穏やかな海面に。

楓は・・・上がって来ない。

 

 

「・・・楓?」

 

 

ISのオープン・チャネルも、繋がらない。

砂嵐のような音を立てるばかりで、応答が無い。

視界が一瞬、いびつに歪んだ気がした。

 

 

「・・・かえ、で?」

 

 

昔から身体が弱かったが・・・今も昔も、私を慕ってくれていたと思う。

私は素直な女じゃないから、突き放すような言動を取ったことも一度や二度じゃ無い。

だけど、変わらずに・・・今回だって、私のために危険な戦いに身を投じたはずだった。

かえで・・・楓を・・・・・・私の、妹を。

 

 

『箒姉さんっ』

 

 

視界が歪んで、銀の機体の姿がブレて見える。

でも私の手は、両手の刀を強く・・・本当に強く、握り締めて。

 

 

「・・・き・・・・・・っ!」

 

 

 

   よ  く  も

 

 

 

「貴様あああああああああああぁぁぁっっ!!」

 

 

瞬間的にエネルギーを全開放、爆発するような勢いで急加速する。

二本の刀を一度打ち鳴らして左右に離し、順繰りに斬り下ろす。

腕部展開装甲を開放、斬撃の度に赤いレーザーが多方向から銀のISを襲う。

 

 

上から、下から、右から左から・・・展開装甲を駆使する形で、銀の機体に斬撃の雨を降らせる。

太陽の光に鈍く煌めくのは、剥がれ落ちた銀色の装甲。

敵もただ斬られはしない、エネルギーの翼を広げて、光弾の束を至近距離で私に浴びせようとする。

 

 

「そこ、から・・・っ、離れろおおおおおぉぉっっ!!」

 

 

一部の展開装甲を開閉、これを繰り返して不規則かつ急速な回避を行う。

直角に、そして流れるように・・・直下に移動した次の瞬間には、今度は頭上に。

ISが守ってくれているとは言え、急激な移動に骨が軋むのを感じる。

だがそれもすぐに消える、腕を交差させるように二刀を構える。

 

 

一薙ぎ、翼を斬り落とす。二薙ぎ、両足の装甲を斬り払う。

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は急速に後退して私の三撃目をかわす・・・これで。

海面を斬り裂きながら放った三撃目が、海水を蒸発させて白い湯気となって消える。

一瞬だけ立ち上った海水の柱が消える頃には、銀の機体はすでに上空高くにいる。

これで、奴を引き離すことができた・・・!

 

 

「鈴っ! 頼む!!」

「・・・わかった!」

 

 

返答が聞こえた刹那、鈴が海中に飛び込む音が背後から聞こえた。

沈んだ楓を助けに行ってくれたのだろう・・・私は、楓の堕ちた場所を守るように構えを取る。

上空の『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は、ラウラの砲撃でさらに距離を空けられていた。

 

 

「てっきり、周りが見えなくなったかと思ったがな」

「同じ轍は踏まん・・・!」

 

 

ラウラの言葉に、そう返す。

ぎっ・・・奥歯を噛み締めながら、上空の銀の機体を睨む。

これは集団戦だ・・・私だけが飛び込んで良いわけじゃない、はずだ。

 

 

「セシリア!」

「承知しておりますわ!」

 

 

何も言わずとも伝わると言うのが、凄く心地良い。

私の仲間は、本当に優秀だと思う。

セシリアと左右に別れるように飛び出し、急速に接近する。

目標は、ラウラに肉薄しようとしてシャルルに防がれている『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』・・・!

 

 

「私の仲間に・・・何をする!!」

 

 

背後から斬撃、銀の機体は翼のスラスターを使って横に飛び出して回避。

私も展開装甲を開放、追撃する。

銀の機体が逃れた先で動きが止まる、理由は直上からのセシリアの射撃・・・!

 

 

「・・・いやあああぁぁっ!!」

 

 

ザンッ・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の翼の一つをさらに斬り落とす。

返す刀で逆袈裟がけ、腹部の装甲を斬り飛ばす。

反撃の光弾、私は下がり、代わってシャルルが残ったシールドで防いでくれる。

ラウラとセシリアが砲撃と射撃を繰り返し、銀の機体の動きを止める。

回避さえ防げば、攻撃力で押し切れる―――!

 

 

「これで―――――!」

 

 

「雨月」での打突から、「空裂」での斬撃。

その一連の流れのために銀の機体に肉薄、腕をかわして蹴りあげ、構えを取る。

そして・・・。

 

 

ガクン、と・・・機体が重くなるのを感じた。

 

 

トドメの一撃を放つ、まさに刹那。

『紅椿(あかつばき)』のエネルギーが、切れた。

ふと気がつくと、目の前に<エネルギー残量5%>の表示。

こんな・・・こんな、時に!?

 

 

「危ない、下がって!!」

「シャルル!?」

 

 

私が白いエネルギーの翼に覆われそうになった時、シャルルが私を突き飛ばして庇ってくれた。

だがそのせいで、シャルルは数十の光弾を浴びてしまう。

換装装備(パッケージ)のシールドごと装甲を砕かれ、切り揉み状に落下する。

 

 

叫び声をあげそうになるが、その前にシャルルは体勢を立て直した。

シャルルはISのPICの力で姿勢を制御し、上空から迫り来る『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を睨む。

だがシールドだけでなく胸部や腕部のオレンジ色の装甲が砕かれていて、これ以上の戦闘は危険だ。

それを察したのかセシリアが上空から連続射撃、ビームの盾を作ってシャルルを守る。

すると今度は、『銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》』は上空のセシリアの方へ向かった。

 

 

「セシ・・・」

 

 

注意を喚起する間も無く、強襲装備のセシリアと銀の機体がはるか上空で交錯する。

離れる青と、追う銀。

青と銀の軌跡が2度、3度と衝突し・・・次第に青の機体が一方的に攻撃され始める。

銀の機体の蹴りで全長2メートルの特殊ライフルが折られ、趨勢が決まる。

な、何だ・・・軍用ISとは言え、これ程・・・!?

 

 

「手当たり次第か・・・生意気な!」

 

 

離脱しようとするセシリアを援護するためか、ラウラが精密砲撃を行う。

両肩で砲撃、しかし『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は満身創痍なセシリアを放置して不規則な軌道を描きながら急速にラウラに接近する。

ラウラは舌打ちして、6本の連結刃を射出するが・・・。

・・・その悉くを、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は拳で弾く。

 

 

「何だ、あの化物は・・・」

 

 

あんな・・・あんな物を作って、何がしたいのかわからない。

楓は言っていた、ISは人を殺すために作られたわけじゃ無いと。

だが、あれは・・・あの機体は、何だ。

 

 

傷付きながらも、欧州の3機は戦闘を続けている。

一方で私は、エネルギーが底をついている。

戦う手段が無い・・・楓が堕ちた時から、ナノマシン補助による高稼働率状態も終わっている。

 

 

「・・・すまない・・・っ」

 

 

口の中で、謝る。

それは、今の私の不甲斐なさをか・・・それとも。

他の誰かに、対してだろうか。

自分でも、わからない。

 

 

ただ、口惜しさだけが胸の内に残る。

だが私が、ギリッ・・・と奥歯を噛み締めた次の瞬間。

純白の騎士が、戦場に戻って来た―――――。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

ああ、もう・・・しっかりしなさいよ・・・!

楓を背中に担いだまま―――ISの保護機能のおかげで、ほぼ無傷―――海上に出る。

海の中にいるわけにもいかないから、上に出る必要があったわけだけど・・・。

 

 

「福音は・・・?」

 

 

海面から上空を探ると、銀のISは健在だった。

でも戦ってるのは紅のISじゃなくて・・・白い騎士だった。

アレは・・・一夏!?

か、身体は・・・怪我は、大丈夫なわけ!?

 

 

でも私の心配をよそに、上空の一夏は銀の機体と切り結ぶ。

その動きからは、少なくとも怪我の影響は見えない。

 

 

「うおおおおおおぉっ!!」

 

 

一夏が『雪片』を振るう、銀のISはそれを上体を逸らしてかわす。

そのまま急速離脱しようとした銀の機体は、続けざまに放たれた一夏の左腕の爪(クロー)で・・・って、あんな装備あった!?

それに何となくだけど、『白式(びゃくしき)』の形状が変わってる気がする。

左腕の新武装と、翼みたいなスラスターが増設されてる・・・また、燃費悪そうな。

 

 

形状が変わって、新しい装備が生まれる。

その現象を、私は一つしか知らない。

それはさっき、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が見せた・・・。

 

 

「・・・第二形態移行(セカンド・シフト)・・・?」

「楓? 気が付いた・・・?」

「どうも・・・」

 

 

私の左肩に顎を乗せる形で、楓がモゴモゴと喋る。

・・・『第二形態移行(セカンド・シフト)』。

ISの戦闘経験値が一定量を越えた時に発現する自己進化。

だけどおかしい、一夏はまだ100時間も『白式(びゃくしき)』に乗っていないはずなのに。

なのにもう、形態変化なんて・・・?

 

 

福音が例の光弾を一夏に向けて放つ、一夏は左腕の装備を盾に変化させて防ぐ。

・・・あの装備、いくつか形態があるのね。

しかもあの盾、光弾のエネルギーを遮断してる。

エネルギー無効化、それはまるで『零落白夜』の盾バージョン。

 

 

「鈴! 楓は・・・妹は無事か!?」

「今さっき、気が付いた所よ」

「そ、そうか・・・良かった」

 

 

その時、上からゆっくりと紅の機体が降りて来た。

エネルギーが切れてるのか、動きは凄く鈍い。

箒は私が背負ってる楓を見て、ほっと胸を撫で下ろしてた。

と言うか今、名前じゃなくて「妹」って言って無かった?

 

 

同時に、ISが警告音(アラート)。

見れば翼で自分の身体を包んだ福音が、全方向に高密度の一斉射撃を行おうとしてる所で。

私達を庇うべきか迷ったらしい一夏が、動きを鈍らせるけど・・・。

 

 

「何やってんのよ! 余計な心配して無いで、集中しなさいよ!!」

「お・・・おう!」

 

 

私の声に背中を蹴られるようにして、両手からエネルギーの白い刃を放ちながら銀の機体に一夏が突撃する。

猛烈な射撃が一夏を迎え撃つ、一夏は近付けない・・・。

・・・あの機体、スペックおかしくない・・・!?

 

 

「く・・・せめて、援護ができれば」

「あそこまでの高速戦闘には、『甲龍(シェンロン)』の今の装備じゃ対応できないし・・・」

 

 

せめて、高機動パッケージがあれば・・・。

見た感じ、セシリア達も残存装備で効果の無い牽制しかできないみたいだし。

ああ、もう、もどかしいわね・・・!

 

 

「姉さん・・・」

「か、楓・・・どうした? 苦しいのか?」

「姉さん・・・どうしたい・・・?」

 

 

楓が伸ばした手を、箒が両手で握る。

それはこれまでに見せたことが無いくらい、本当に心配そうな顔で。

楓は私の肩に顎を乗せたまま、箒にしたいことを気にしてる。

この姉妹、少しは自分の状態を気にしたらどうなのよ。

 

 

「私は・・・」

 

 

ぎゅっ・・・と楓の手を握った箒は、上空の戦いを見つめる。

上空の、一夏を。

 

 

「一夏と・・・戦いたい、共に。あの背中を守りたい、そして・・・守られてみたい」

「・・・了解(ログ)、箒姉さんがそう望むなら。私、箒姉さんを一夏さんと一緒に・・・飛ばせて、あげたい」

「・・・楓・・・」

 

 

人の背中でホームドラマ展開するの、やめてくれない?

そう言おうか迷った時、箒と楓の身体が光った。

 

 

正確には・・・ISが、そのコアが。

見れば、上空でも一夏のISが・・・コアが、輝いてる。

一夏は驚いて、銀のISも何故か止まってる。

あれだけ高速で動いていた福音が、停止して・・・ただ、見てる。

その姿は、いつかの無人機を思い起こさせる・・・けど。

 

 

3つのコアが、輝く。

 

 

それは小さく明滅して・・・まるで、共鳴でもしてるみたい。

白と紅と・・・黒が、輝いて。

まず楓のISが再起動、私達の周囲を何十枚ものディスプレイが埋め尽くす。

そこには・・・。

 

 

<『Trismegistus System』>

 

 

そう、記されてる。

映し出されるのは、白と紅のスペック・データ。

2機の内部に残留したナノマシンが、コアの稼働率を急激に底上げする。

 

 

「こ、これは・・・!?」

 

 

振り向くと、箒のISが紅く輝いて・・・黄金色の粒子を、展開装甲の間から放出していた。

エネルギーは切れたはずなのに・・・!

だけど別のディスプレイに、その答えが出る。

 

 

<単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)・『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』・・・使用可能>

 

 

展開装甲とコア、直通のエネルギーバイパスを構築するそれは、ワンオフ・アビリティ。

ISと操縦者の相性・・・つまり稼働率が高まった時に発現する。

コアは心臓、エネルギーは血液、そして流れるのは・・・黒いナノマシン!

 

 

「さぁ、飛んで・・・箒姉さん。私、箒姉さんが一夏さんと飛ぶ所、見たい・・・」

「楓・・・・・・ああ、任せろ!」

 

 

紅と黄金、そして黒に彩られたISが、一気に上昇して行く。

良く分からないけど・・・勝ちなさいよ。

負けたら、承知しないんだからね・・・!

 

 

そう思った直後、私のISがおかしくなる。

急激に出力が落ちて、ガクンッ、とバランスを崩す。

な、何・・・!?

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

機体性能は、第二次移行(セカンドシフト)した『白式(びゃくしき)』と最新鋭の第4世代機『紅椿(あかつばき)』の方が、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』よりも上だと思う。

でも、その機体性能に箒姉さんと一夏さんがついていけてない・・・無理も無い、と思う。

 

 

箒姉さんは今日初めて乗る機体だし、一夏さんだって経験不足。

しかも第二次移行(セカンドシフト)したばかりで特性も掴めて無い・・・。

それが、データで、数値で、グラフで、わかる。

全ての情報が、あの2機の全てが、私の手の中にある気分。

操縦者が機体に追いつかないなら・・・機体の方を、操縦者に『合わせる』―――――。

 

 

『箒!? お前・・・エネルギー切れじゃ』

『細かいことは後で楓にでも聞け! 今はとにかく・・・受け取れ!』

 

 

鈴さんの背中の上で数十枚のディスプレイに囲まれる中、2機の通信音声が流れる。

ディスプレイの間から上空を見上げれば、箒姉さんが一夏さんと手を握ってる。

それを見て・・・私は、どうしようも無く嬉しくなる。

 

 

『紅椿(あかつばき)』の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)・『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』。

少ない残量のエネルギーを増幅しほぼ無尽蔵に供給する、あの2機の弱点を消すためだけのアビリティ。

20%を切っていた『白式(びゃくしき)』のエネルギー残量が、一気に回復する。

ここから先は、常に満タン状態で戦えるよ。

 

 

「え、エネルギーを回復させる・・・? 補給機でもないのに・・・?」

 

 

耳元の鈴さんの囁き、でも今は・・・今は、箒姉さん達を見ていたい。

ナノマシンが集まる、そして私の身体を漆黒の装甲が包み込む。

鈴さんから離れて、装甲の再構成・・・ナノマシンが凝縮されて、黒い装甲に変わる。

 

 

それまで4基だった腰部のコンデンサーは、背中のナノマシン・タンクと融合して12基にまで増設される。

そこから噴き出されるのは、ナノマシンの黒い羽根。

6対12枚の黒い羽根が、青白いディスプレイの海で羽ばたく。

 

 

「おいで、『黒叡(こくえい)』」

 

 

2機の展開装甲から噴き出す黄金色の粒子の中に、黒い粒子が混ざる。

一夏さんの『雪片(ゆきひら)』と『雪羅(せつら)』―――第二形態移行(セカンド・シフト)で生まれた新装備―――の展開装甲が全開状態になり、常に『零落白夜』の状態になる。

それを可能にしているのは・・・コアに直接干渉して制御してくれる、ナノマシン。

 

 

箒姉さん、綺麗・・・。

 

 

あの2機が飛べるようにサポートするのが、私に与えられた役目。

今は何故か、そう自然に考えることができた。

無駄なく、無理無く・・・効率的にエネルギーを循環させる。

3つのコアの固有リンク・・・特別なバイパス。

それが、「エネルギー切れを起こさない第4世代機」を可能にする・・・無敵過ぎるよ、束お姉ちゃん。

 

 

『すげぇ・・・携帯の充電器みてーだ』

『もっとマシな表現は無いのか! お、お前と言う奴は本当に・・・!』

 

 

携帯の充電器は、ちょっと酷いよ。

心の中で苦笑しながら、私は指先をつい、と動かす。

ナノマシンが散布されている領域内の全てが、数値で、グラフで、わかる。

 

 

今、この「世界」では私のバックアップの無い機体は満足に動けない。

何故なら全てのコアが、私の作るルールに従わなければならないから。

紅と白を除いて・・・ここはあの2機だけに用意された舞台。

誰の意思で? それはきっと・・・束お姉ちゃんの、意思。

 

 

『行くぜ、箒。俺達2人が揃えば、何でもできるんだろ?』

『当然だ。だが・・・今は、もう何人かを加えても良い気分だ』

『そう・・・だな!』

 

 

刹那、紅と白の機体が銀の機体に両側から斬りかかった。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

銀の機体に、紅と白の機体が踊りかかる。

展開装甲は常に全開状態、エネルギーはほぼ無尽蔵、しかもシールド無効化。

そうなれば、いかに化物のような機体性能を誇るとはいえ相手は第3世代機。

第4世代機とは、機体性能の面で大きな差がある。

 

 

<対象ISの行動を予測・推奨行動を提示>

 

 

しかもISのオープン・チャネルを通じて、常に『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の行動予測が入る。

自分のISでは無い、これは『黒叡(こくえい)』から送られてくる

攻撃方法、射撃地点、順番、威力・・・機体状態とその弱点。

これは1種の・・・早期警戒管制機(エーワックス)のような物か。

 

 

一撃ごとに、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の動きが鈍くなる。

それは、一撃ごとに胸部の穴からナノマシンが追加侵入するからだ。

篠ノ之楓の操る微細なナノマシンが、銀の機体を蝕んでいる。

そしてその影響は、もはや敵だけに限らない。

 

 

「ぐ・・・っ、どうした、『シュヴァルツェア・レーゲン』・・・!」

 

 

バランスを崩しがちな機体を、何とか立て直す。

武装と装甲の3割を破壊されたとはいえ、私の機体はまだ十分に動ける。

だと言うのに、先程から機体が安定しない。

コア・エネルギーが、安定的に機体各所に供給されない。

馬鹿な・・・あり得ない、こんなことは。

 

 

「な、何ですの・・・?」

「・・・っ、機体が・・・!」

 

 

見れば、イギリスやフランスの機体にも似たような障害が出ているようだ。

ISコアと、機体・・・外装の、強制的な接続不良。

それは、『黒叡(こくえい)』を中心に吹き荒れた目に見えない「黒い嵐」によって起きている現象。

装甲のかすかな隙間から、推進口から、武装から・・・それは侵入してくる。

それはいっそ、背筋が凍りつくような感覚を私に与える。

 

 

「ナノマシン・・・!」

 

 

あり得ない、何だあの機体は。

少し前まで『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル》』に対して抱いていた考えを、今度は別の機体に向ける。

いや、むしろ直接目に見えない分こちらの方が私にとって・・・我が軍にとって、脅威だ。

 

 

その機体は、『黒叡(こくえい)』。

今まではどちらかと言うと、電子支援機のような物だと考えていた。

他のISコアに干渉してコア稼働率を上げる、あるいは友軍以外の対象を発見、識別し、潜在的脅威ないし標的の位置を特定するための機体。

友軍の戦闘補助が、その役割だと・・・だが、これは。

 

 

「電子戦機、だと・・・!」

 

 

しかも、明らかに対IS用の調整が行われた機体・・・すなわち、対IS用IS!

コアの稼働率を上げられるなら、理論的には逆も可能である・・・と言うのはわかっているつもりだった。それは理解していた、可能性として考慮してもいた。

 

 

まさか、ISコアそのものに影響を与えるとは・・・コアの稼働率が低ければ、もちろん機体は満足に動かない。

そして「絶対防御」に代表されるISの特性は、そのほとんどがISコアの稼働率に依存している!

これは・・・あの機体の能力は、ISの天敵だ。

2機を除いて。

 

 

『『でやああああああぁぁぁっっ!!』』

 

 

そしてこの広範囲のナノマシン散布領域において唯二、スペック以上に動ける機体。

『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』。

もはや音速飛行もできない『|銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に肉薄する2機。

紅の機体が銀の機体の翼を斬り落とし、白の機体が光の剣を銀の機体に突き立てる。

 

 

火花を散らしながら、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のエネルギーバリアと『雪片(ゆきひら)』が拮抗する。

だが『零落白夜』のシールド無効化攻撃の前に、銀の機体のエネルギーは瞬く間に削られる。

そして銀の機体のコアを守っていたシールドが失われて・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

<対象IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のコア・バイパスを掌握・機能停止、強制終了>

 

 

銀の機体のコアが、『黒叡(こくえい)』の制御下に入る。

ナノマシンに覆われたコアが、機体へのエネルギー供給を止める。

エネルギーの供給が立たれれば、ISは動かない・・・外装自体は、動力を持たないからだ。

ほう・・・と、私が息を吐いたまさにその時。

 

 

<『Trismegistus System』・・・終了。再チャージまで6000>

 

 

空気の抜けるような音と共に、私達3機のISが輝きを失う。

展開装甲が全て閉まり、エネルギーの激しい放出が止まる。

そしてエネルギー残量は一気に「1」、身体に感じる機体が重くなる。

と言うか、もう強制解除直前の状態だな。

 

 

その一方で、落下していく銀の機体のIS展開が解除されて、中から操縦者が。

いかん・・・っ!

 

 

「ああ、もう・・・今回はこんなのばっかね」

 

 

海面スレスレを飛行していた鈴が、水面に平行に機体を倒して、自分の上に操縦者を受け止める。

どこか不満そうに唇を尖らせるその姿が、どうしてかおかしかった。

そして、セシリアやシャルル、ラウラもゆっくりとこちらに飛んでくるのが見える。

良かった・・・皆、無事か。

 

 

「・・・あ、あれ? あれ?」

「楓・・・!」

 

 

ところが機体の不調か何なのかはわからないが、急激にエネルギーを失った『黒叡(こくえい)』だけが飛べていないようだった。

それどころか、落ち・・・っ!

反射的に、動いた。

 

 

「か、楓!」

「わっ・・・?」

 

 

あまり速くは無いが、それでも急いで・・・楓の傍に。

ゆっくりと落ちかけていた『黒叡(こくえい)』の手を掴んで、引き寄せる。

楓の身体を両手で抱えて・・・背中と膝裏に腕を通して、持ち上げる。

だ・・・。

 

 

『大丈夫か?』

 

 

一瞬だけ、昔の記憶がダブる。

母親の目を盗んで、布団で眠る楓の頭を撫でていた頃の記憶だ。

思い出と言っても、良い。

楓は昔と違って、ずっと元気で・・・布団では無く、黒いISに乗っているが。

・・・だけど。

 

 

「だぃ・・・じょうぶ、か?」

「う、うん・・・」

 

 

私の腕の中で、楓が恥ずかしそうに微笑む。

恥ずかしいのか、少しだけ頬を染めて。

それを見ると、私は胸に温かい物が流れるのを感じた。

・・・そう、だけど。

 

 

・・・だけど、私はまだ妹を守れる。

 

 

ああ・・・そうか。

少しだけ目を伏せて、自分の愚かさを笑う。

こんな簡単なことにも、私は気付けなかったのか・・・。

ふふ、不器用にも程がある、な。

姉さんにばかり思考を向けていて・・・自分の下の妹のことを、考えていなかった。

 

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

 

顔を上げると、一夏達がこちらに寄ってきている所だった。

遠くには、学園の先生だろうか・・・緑色の機体が何機か姿を見せる。

どうやら・・・終わった、か。

 

 

腕の中の楓に目を向けると、楓はこつんっ、と頭を私の胸に預けていた。

少し恥ずかしそうに、でもどこかとても嬉しそうに。

そして私は・・・小さく、笑うことができた。

沈みかけた夕日が、とても美しかった・・・。

 




篠ノ之 楓:
1話ぶりですー、楓ですっ。
今日は箒姉さんと一緒ですっ。

篠ノ之 箒:
こ、こら、くっつくな・・・。

篠ノ之 楓:
えへへ~。
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