インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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ISコアに関する独自設定の可能性があります。ご注意ください。
では、どうぞ。


第15話:「臨海学校・七夕の夜に・後編」

Side 織斑 千冬

 

暴走した軍用ISを、専用機持ちが・・・一夏と篠ノ之姉妹が、倒した。

普通は、あり得ない。

勝たせて貰ったのだと・・・私の中の冷静な部分がそう告げる。

 

 

先日の無人機騒動と、同じように。

勝たせて貰ったわけだ・・・誰に?

決まっている、「あいつ」だ。

 

 

「作戦完了・・・と、言いたい所だが、お前達は独自行動による重大な違反を犯した。学園に戻り次第始末書提出と懲罰メニューを課してやるから、そのつもりでいろ」

「「「は、はーい・・・」」」

 

 

疲労の極致にある一夏達に対して、私はそう言った。

言わざるを得ない、たとえそれが欺瞞だとしても。

IS学園の教師と言う表の顔を立てる限りにおいて、私には他に言うべきことが無い。

 

 

たとえ一夏達の行動が、上層部の意思に叶う物だったとしても。

ラウラ達がそれぞれの本国の命令に従っただけだとしても。

それは裏の話で、表向き、建前とは別の種類の物なのだから。

 

 

「ま、まぁまぁ、織斑先生。そのへんで・・・け、怪我人もいますし、ね?」

「・・・ふん」

 

 

山田先生とのやりとりも、どこか芝居じみている。

私の目の前で、大広間の畳の上で正座をさせられている一夏達7人を一瞥すると、一様に居住まいを正した。

・・・ふん。

 

 

「・・・まぁ、よく無事に帰ってきたな、全員・・・良く、やった」

 

 

・・・何だ、その顔は。

私がこんなことを言うと、おかしいのか?

私は同じような顔で私を見ている山田先生に気付くと、小さく咳払いした。

すると山田先生は、弾かれたように動きを再開させる。

 

 

「じ、じゃあ、一旦休憩してから診察をします。ちゃんと衣服を脱いで全身を見せてくださいね・・・あっ、男女別ですからね!? わかってますか、織斑君、シャルル君?」

「一夏、アンタ・・・?」

「いや、わかってるから! と言うか鈴、その目は何だよ!」

「あ、あのー・・・僕は大丈夫なので・・・」

「ダメですよ、シャルル君、ちゃんと診察を受けてくださいね」

「え、いや、あの、そのー・・・!」

 

 

・・・山田先生は、わざとやっているのだろうか。

とはいえ、いつまでもそのまま、と言うわけにもな。

 

 

「何だデュノア、身体を見られて困ることでもあるのか」

「え、いや、その・・・何というか、そのぉ・・・は、恥ずかしい?」

「・・・何故、疑問形なんだ?」

「うぐっ・・・」

「ま、待ってくれ千冬ね・・・いたぁっ!?」

 

 

一夏の頭を出席簿ではたく、今は織斑先生と呼べ。

・・・埒があかんな。

 

 

「織斑、お前は何か事情を知ってそうだな。ああ、そう言えば同室だな・・・」

「い、いやその、シャルルは・・・そう、服を脱いだら凄いんだ!」

「一夏!? な、何を言ってるの!?」

「す、すまん。とにかく・・・!」

「織斑」

「・・・はい」

「話せ」

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 

一夏はみっともなく周囲を見渡して、シャルルが首を振るのを確認して、私の方を見て。

・・・がっくりと、うなだれた。

気のせいで無ければ、他の面々も表情を緊張させている。

 

 

自分で言うのもアレではあるが・・・。

あまり、気分の良い話では無いな。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

・・・専用機持ち組が、やけに疲れた様子で夕食に来てる。

何と言うか・・・良く言えばボロボロ、悪く言えばズタボロ。

私の隣に座ってる楓も、ほっぺに絆創膏を張ってたりする。

 

 

「ねぇねぇ、特殊任務行動って結局、何だったの?」

「さぁ・・・」

「ねぇねぇ、教えてよ~」

「はて・・・」

 

 

私の反対側に座ってる子が、楓に何があったのか聞き出そうとしてる。

一般生徒は今日一日ずっと部屋に閉じ込められてたから、気になるのも仕方ない。

でも楓自身が上の空で何かを考えていて、明瞭な答えを返さない。

 

 

私は・・・知ってる。

代表候補生で・・・機体は無いけど、専用機持ちだから。

・・・何も、しなかったけど・・・エネルギー、渡しただけで・・・。

たぶん、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』と・・・だよ、ね・・・。

 

 

「・・・あ、そうだ。ねぇ、簪ちゃん」

「・・・何・・・?」

 

 

ふいっ、と私の方に顔を向けてくる楓に、少しだけドキッ、とする。

楓はお箸をくるんっ、と回して―――お行儀、悪い―――聞いてきた。

 

 

「束お姉ちゃん、どこ行ったか知らない?」

「・・・さ、さぁ・・・知らない・・・」

「ふーん・・・そっか。聞きたいことがあったんだけどなー・・・」

 

 

少しだけしょんぼりした風にそう言って、楓はお箸を持ち直してお刺身を食べ始めた。

カワハギ・・・贅沢・・・わさびは本わさ。

 

 

えと・・・篠ノ之博士がどこに行ったかは、知らない。

と言うか、いついなくなったのかも、わからない。

いきなり来て、いきなり消えて・・・不思議な、人だったな・・・。

楓の、お姉さん・・・ISの、開発者。

楓はどうして・・・その・・・凄く、気になった。

 

 

「・・・あの、楓・・・」

「なぁに、簪ちゃん?」

「う・・・その、どうして、楓は・・・」

「・・・?」

 

 

どうして、お姉さんが好きなの?

そう聞きたかったけど・・・でも、答えを聞くのが怖くて。

結局・・・。

 

 

「・・・な、何でも・・・無い」

「・・・? 変な簪ちゃん」

 

 

転がるように笑う楓に、胸がチクリと痛む。

まるで自分が、凄く嫌なモノみたいに感じてしまって。

私・・・。

 

 

「どーんっ」

 

 

その時、いきなり私と楓の間に身体を入れてきた子がいた。

私と楓の肩に捕まるように身体を間にいれてるのは・・・本音。

いつもと同じホワホワした眠そうな雰囲気で、ニヘラ、と笑う。

 

 

「ねぇねぇ、食べさし合いっこしようよ~」

「え・・・嫌・・・」

「お刺身? お刺身が狙い?」

「えー、違うよー」

 

 

本音が笑うと、こっちまでホワホワする。

正直、苦手だけど・・・嫌、じゃない、と思う。

・・・お友達。

 

 

「かんちゃん、あーん♪」

「わ、ズルい。じゃあ私もー・・・」

「え、え、え・・・」

 

 

・・・でも、距離感が近すぎるのは直してほしい。

あ、あ・・・ダメ、わさびは少な目で・・・!

か、楓まで、や、んぐっ・・・!?

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

夕食の後、私は夜の砂浜にいた。

旅館の中でISのデータ分析をするわけにもいかないので、少し抜け出して砂浜に座り込んでる。

目の前に浮かぶ青白いディスプレイには、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』との戦闘データが映し出されてる。

 

 

「うーん・・・」

 

 

『黒叡(こくえい)』の『Trismegistus System』。

トリスメギストス・システム・・・何、偉大なる3乗?

良く分からないけど、『黒叡(こくえい)』のブラックボックスの中に入ってたシステム。

私はこんなの作った覚え無いから、100%束お姉ちゃんだと思うんだけど。

 

 

でも束お姉ちゃんがいなくなっちゃったから、自分で調べるしか無いわけで。

しかもこのシステムは・・・『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』専用、みたい。

ある条件―――その条件がさっぱりだけど―――が揃った時、私のナノマシンに触れた2機のコア稼働率、機体と操縦者の同調率その他が急激に上昇する仕掛け。

それ以外のコアは、何故か例外無く稼働率5%以下まで強制的にダウンするけど・・・理屈が不明。

まぁ、そもそもコア稼働率の増減の原理は束お姉ちゃんしか知らないけど・・・。

 

 

「うーん・・・ばたり」

 

 

首を傾げ過ぎて、砂浜に横に倒れる。

ダメ、全然わかんない。

わかってることは、このシステムの支援を受けた2機の稼働率が100%を越えるってことくらい。

・・・そう言えば、『白式(びゃくしき)』はどうして第二形態になったんだろ?

 

 

そもそも『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走した原因、外部からの不正アクセス・・・アレの正体もわかんない。

私の『黒叡(こくえい)』の解析能力を使ってもエラーだし。

わかんないことだらけだ、今回の事件は。

・・・ま、いっか。今考えても仕方無いし。

 

 

「そ、そこにいるのは・・・楓か?」

「お?」

 

 

がばっと身を起こすと、箒姉さんがこっちに来るのが見えた。

ちょうど雲が晴れて、月明かりが箒姉さんの姿を照らす。

どう言う心境なのか・・・水着だった。

 

 

「な、何だ・・・ジロジロ見るな、恥ずかしいだろ・・・」

「・・・大きい」

「だ、だから、そう言うことをだなっ・・・!」

 

 

ぺしり、箒姉さんに頭を叩かれた。

でも、今までに比べてやけに優しい叩き方。

 

 

「・・・け、怪我は、大丈夫か?」

「え、うん。元々『黒叡(こくえい)』のおかげでほとんど怪我してないし」

「そ、そうか・・・」

 

 

ぺたり、どうしてか箒姉さんは私の横に座る。

ふん? 私はディスプレイを消して、静かに横にいる。

しばらく、波の音だけが聞こえてた・・・そんな沈黙。

 

 

「・・・・・・そ、そのっ」

「む?」

「その、だな・・・何と言えば良いのか・・・あー、うー・・・」

「なぁに、箒姉さん?」

「いや、だから・・・その、ええいっ! 楓!」

「はい!」

「スマン!!」

 

 

身構えた所に、いきなりの謝罪!

・・・箒姉さん、意味がわからないよ。

 

 

「いや、その・・・4月からこっち、あまり良い態度で接せられなかったと言うか・・・無視とか、したし・・・何だ、その・・・」

「・・・?」

「専用機を持っていたり、一夏のISを整備できたり・・・他にもいろいろ、私の中でごちゃごちゃしてしまっていて・・・う、上手く言えない・・・な」

「ふむふむ」

「その・・・姉として失格と言うか、何だ・・・とにかく、いろいろとすまなかった、な」

 

 

・・・水着姿で深々と座ったまま頭を下げられるって、凄くシュールだよ箒姉さん。

えーと、正直、箒姉さんに謝られる理由がイマイチわかんないんだけど・・・。

 

 

「えっと・・・い、良いよ、別に。よくわかんないけど・・・箒姉さんは私の大切な姉さんだもん」

「楓・・・」

「それにほら、箒姉さんって昔から不器用だったし」

「楓?」

「ご、ごごごごめっ・・・!」

「い、いや、今は私が謝っている所だったな・・・重ねて、スマン」

 

 

また謝られた・・・え、何が箒姉さんをそうさせるの?

 

 

「えっと、とにかく・・・な、仲直り?」

「い、良いのか・・・?」

「良いも悪いも・・・私は箒姉さんが大好きだもん、昔から。だからこれでこのお話は終わり、ね?」

「・・・ありがとう」

 

 

月明かりの下で、しっとりと微笑む箒姉さんは、本当に綺麗。

何と言うか、大和撫子だよね。

昔からだけど・・・世界で一番、美人さん。

・・・あ、そだ。

 

 

「姉さん姉さん」

「な、何だ?」

「お誕生日、おめでとー」

 

 

ごそごそと取り出したのは、シルバーアクセサリー。

安物だけど、リングを通したネックレス・リング。

箒姉さんもお洒落しなきゃ。

 

 

「あ、ああ・・・」

「あれ? 気に入らなかった?」

「い、いや・・・ありがとう、嬉しい。だけど、その・・・・・・スマン、私は用意してなくて。帰ったら・・・」

「・・・貰ったよ?」

「え?」

「姉さんと、ほら、仲直り」

 

 

にっこり笑ってそう言うと、箒姉さんはちょっとぽかんとしてた。

でも私にとっては、一番の贈り物。

箒姉さんと、仲良しでいられることは。

 

 

「・・・楓」

「・・・えへ」

「ふふ・・・」

 

 

はにかむと、箒姉さんもおかしそうに笑った。

これで、本当に仲直り。

2人で笑い合って、それで終わり。

・・・そう言えば。

 

 

「・・・ところで、何で水着?」

「え・・・あ、ああ、これはその。向こうの岩場で一夏が泳いでいると聞いて、その・・・へ、変じゃないか?」

「う、うん! もちろんだよ、変じゃないよ! むしろバッチリだよ!」

 

 

恥ずかしそうにモジモジする箒姉さんに、胸がズキューンと撃ち抜かれる。

何この可愛いイキモノ、何この可愛いイキモノ!

私はキュピーンッ、と目を輝かせると、箒姉さんの手を引いて立たせて、背中をグイグイ押す。

グイグイ!

 

 

「お、おい楓、押すな・・・!」

「行ってらっしゃい、箒姉さん! 私は全力で応援するよ!」

「応え・・・い、いや別に私は・・・い、一夏に怪我をさせた責任がだな!」

「うんうん、わかってるわかってる」

「なら何で押す!?」

 

 

はい、どーん!

・・・と言うような感じで、私は箒姉さんを送り出した。

これまでの箒姉さんとは少し違う反応だったから・・・何だか嬉しい。

これからは、もっと仲良くできるのかな。

 

 

・・・あ、束お姉ちゃんのこと聞くの忘れた。

ま、まぁ・・・良いかな、うん、それは後で。

またそのうち、ひょっこり出て来るよね・・・束お姉ちゃん。

 

 

「あれ、楓じゃん? 何でこんな所にいんの?」

「あの、鈴さん? どうして私まで連れ出されているのでしょう・・・?」

 

 

キュピーンッ。

私は再び目を輝かせると、カッコ良く手を振りながら後ろを振り向いた。

そこには・・・!

箒姉さんのために、私、頑張るよ・・・!

 

 

 

 

 

Side シャルル・デュノア

 

ふぅ・・・バレちゃった、か。

山田先生と同じ部屋で過ごしてた時も、頑張って隠してたけど。

まぁ、そもそも無茶だったんだよね。

 

 

女の子が、男の子のフリをするなんて。

ここまで隠し通しただけでも、かなりの奇跡で・・・。

・・・僕、どうなるのかな。

 

 

「良くて強制送還で、牢屋行きかなぁ・・・」

 

 

『リヴァイヴ』は・・・まぁ、コアを初期化するだけかな。

デュノア社は潰れるかな、まぁ、それは最初から決まってたことなのかもしれない。

その意味だと、僕ってかなり微妙な立場だよね。

 

 

『事は高度に政治的要素を含む、口外は許さない。デュノアは今夜は別室で謹慎していろ』

 

 

織斑先生にそう言われてしまえば、もう仕方が無いよ。

一夏には大丈夫って言っちゃったけど、実の所・・・。

 

 

・・・少しだけ、怖い、かな。

 

 

一夏に会う前なら、もう少し違った気持ちで受け入れられたんだろうけど。

皆と出会う前なら、もう少し早くに諦めがついたんだろうけど。

さぁ・・・どうしよう、かな。

実の所、手段が無いわけでも無いんだけど・・・どれもリスクが高いんだよね。

せめて、デュノア社クラスの後ろ盾があれば別なんだけどな・・・。

 

 

「・・・ん?」

 

 

僕は旅館の一室―――今日の作戦の指令室、もう機材は片付けられてるけど―――どっちにしても、他の生徒は外を歩けないはず。

なのに・・・。

 

 

トンッ、ゴソゴソ・・・。

 

 

どこかから、何かを引き摺るような音がする。

な、何だろう、電気をつけてないから怖いんだけど。

するとそれは、天井からのようで・・・篠ノ之博士が開けたままになってる天井の穴の方に、視線を向ける。

身構えながら、気持ちを引き締めていると・・・。

 

 

「おお~、本当だー、繋がってたよお嬢様~」

「へ・・・って、布仏さん?」

 

 

ひょこっ、と顔を出したのは布仏さん。

え・・・いや、外に出たら不味いんじゃ!?

とか思ってたら、天井から降りれなくてジタバタ足を・・・って、わわわっ。

とにかく降ろそうと、足と腰を掴んで降りるのを手伝う。

 

 

「あ、ありがと~」

「い、いや、でも何で、部屋にいろって言われてたんじゃ」

「んっとね~」

『私が頼んだのよ、私の権限でね』

 

 

不意に、通信機から響くようなくぐもった声が響く。

見れば、布仏さんは携帯端末を持っている。

頼んだって・・・貴女は。

布仏さんの開いた端末の画面の、向こうで。

 

 

『緊急事態』と描かれた扇を開いて笑う、1人の女生徒。

 

 

どこか涼やかな雰囲気を持った、余裕のある態度。

誰かに似た紅の瞳が、悪戯っぽく細まっている。

確か、前に・・・どこかで。

 

 

『おねーさんが、助けてあげる』

 

 

え・・・。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

何となく1人になりたくて、旅館から抜け出して夜の海に繰り出した。

冷たい水に浮かびながら考えるのは、シャルルのこと。

秘密、バレちゃったなぁ・・・。

 

 

「千冬姉、シャルルのこと、どうすんのかな・・・」

 

 

海から上がって耳の中の水を抜きながら、溜息を吐く。

結局、俺はシャルルのために何もできなかった・・・のか、な。

仲間を助けたい、そう思ったのは俺自身なのに。

 

 

つっても、夕方に見た夢の内容はほとんど忘れたけど。

ただ・・・仲間を守りたかったってのは、本当。

・・・まぁ、ここで悩んでも仕方ねぇか。

明日また、千冬姉に・・・うん、そうしよう。

 

 

「い、一夏・・・?」

「お? ・・・おお、箒?」

 

 

岩場でぼ~っと座り込んでいると、何でか箒がやってきた。

月明かりに照らされた箒は・・・縁に黒のラインが入った白のビキニ、つまり水着姿だった。

箒にしては珍しく、肌の露出面積が大きめの水着で。

俺の視線が気になったのか、箒は居心地が悪そうに「あんまり見るな」と言った。

 

 

す、すまん・・・とりあえず、背中を向け合って座る。

ただ箒の水着姿はやけに鮮烈に脳裏に残って、何だか落ちつかなかった。

い、いやいや、とにかく沈黙は不味い、何故かいたたまれない。

えーと・・・話題話題・・・。

 

 

「そ、その水着・・・似合ってるな、うん。良いと思うぞ」

 

 

・・・激しく、話題の選択を間違った気がする!

 

 

「こ、これは、その・・・勢いで買ってしまったと言うか・・・。か、楓が、選んでくれて・・・でも恥ずかしくて、だな。海には出れなくて・・・」

「あ、ああ、初日の自由時間、いなかったもんな」

「う、うむ・・・」

 

 

センス良いな楓、心の中でそう呟く。

気のせいか、夜空に楓の笑顔が浮かんで見えた。

・・・死亡フラグみたいだな、コレ。

 

 

「い、一夏」

「ん?」

「あの、その・・・け、怪我は、大丈夫か・・・?」

「怪我? あ、ああー・・・」

 

 

最初の戦いで、やられた奴な。

箒を守ろうとして背中とかいろいろとやられたはず、なんだけどな。

起きたら、治ってた。

 

 

・・・そう言えば、変な夢を見た気がする。

起きた時は覚えていたはずだけど、もうあんまり覚えて無い。

ただ・・・女の子が1人と、女の・・・白い騎士が、1人。

あれは、誰だったんだろう・・・?

 

 

「いや、それが見ての通りでさ、目が覚めてIS起動させたら治っててさ」

「ば、馬鹿者! そんな冗談を言ってる場合・・・・・・本当だ」

「だろ? アレかな、ISの操縦者保護機能」

「アレは怪我まで治さないだろう・・・しかしこれは、いやでも」

 

 

ぺたぺた、ぺたぺた・・・と、俺の身体に触って確認する箒。

でも怪我が治ってるのは本当なので、首を傾げながらも納得せざるを得ない様子だった。

それから、妙に居住まいを正して俺の方を向いて・・・。

 

 

「ま、まぁ・・・怪我が治ったと言っても、私に責任であることは変わらないわけで・・・」

「まぁ、治ったんだし良いじゃん」

「よ、良くは無い! それにだ、その・・・いつも・・・」

「はい?」

「と、とにかく! そんな簡単に許されると・・・その、困ると言うか。な、何でも聞くから、言ってみろ・・・いや、言って、ください」

 

 

箒が敬語!?

反射的に身構えた俺は、悪くないはず。

と言うか、年頃の女の子が男に「何でもする」とか言っちゃダメだろ。

 

 

ええと、つまり箒は俺の怪我に責任を感じてるんだけど、簡単に許されると気持ちの整理がつかないと。

む、難しい奴だな・・・いや、昔からこんな奴か。

要領が悪くて、不器用で。

まったく・・・困った幼馴染だなぁ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

一夏に目を閉じろと言われたので、目を閉じた。

何をされるかと身構えてみれば・・・。

 

 

「・・・あうっ」

 

 

ぺしんっ、額に軽い痛み。

額を押さえながら目を開けると、困ったように笑う一夏の顔。

片手が、いわゆる「でこぴん」の形になっていて・・・って、でこぴん!?

 

 

「ちょっ・・・馬鹿にしてるのか!?」

 

 

がばっ・・・と一夏の腕を掴んで、私は一夏に詰め寄る。

よ、よりにもよって、でこぴんだと!?

 

 

「ま、まぁまぁ、落ちつけよ箒。ほらこれでチャラ、これからはもう少し気をつけろよ? 的な」

「だ、だ、黙れ! 私は剣士として潔くあろうとだな!」

「い、いやいや、落ち着こう、そのー・・・・・・目のやり場に、困るから」

「目? ・・・・・・っ!?」

 

 

一夏が視線を彷徨わせている理由に気付いた私は、心無し胸を庇いながら後退、元の位置に座った。

・・・や、やっぱり、制服で来れば良かった。

海に出たと聞いたから、制服だと濡れるかなと思ったわけだが。

 

 

そ、そもそもだな、人が真面目に話している時にだな・・・!

ふ、不埒だぞ!

まぁ、だが、その・・・何だ。

・・・少しは、異性として意識されていると言うことだろうか。

 

 

「・・・あ、ああ、そうだ」

「・・・?」

 

 

ふと、一夏が岩場の陰に置いていたリュックの中に手を入れてごそごそ始めた。

何だ・・・?

しばらくして、一夏が私に手渡してきた物は・・・。

 

 

「・・・リボン?」

「ああ、昼間の戦いで焼けちゃったろ・・・髪、大丈夫か?」

「あ、ああ・・・大事無い。だが、どうして・・・?」

「いや、だって誕生日だろ、7月7日」

「あ・・・」

 

 

忘れて、いた。

いや、覚えてはいたが―――さっき、楓に思い出させられた―――それどころでは、無いと思っていた。

・・・一夏は、ちゃんと。

嬉しい・・・な、うん。

 

 

「あー、楓にも渡さないと」

「か、楓のもあるのか?」

「そりゃあるさ、同じ誕生日だろ・・・おい、何で目を逸らした?」

 

 

い、いやその・・・何だ、姉失格と言うか何と言うか・・・。

 

 

「はぁ、しょーがねーな。じゃ、学園に戻ったら一緒に買いに行くか?」

「え・・・ほ、本当か!?」

「お、おう」

「そ、そうか・・・そうか」

 

 

私が小さく笑うと、一夏も笑みを浮かべてくれた。

その笑みは、何だか・・・月明かりに照らされて神秘的に、見えて。

何となく、見惚れてしまった。

 

 

不意に沈黙が続いて、ただ見つめ合う時間。

だんだん、胸の鼓動の音が大きくなってくるのを感じる。

な、何だ・・・目を、逸らせない。

逸らしたく・・・無い。

 

 

「・・・箒」

「・・・いち、か」

 

 

な、何だ、これは何だ?

近くで聞こえるはずの波の音が、やけに遠く感じる。

ただ、目の前の一夏だけが視界にあって・・・。

 

 

肩に一夏の手が触れて、私は身体を震わせる。

反射的に閉じた目を、開くことができない。

こ、これは、これは・・・不味い、気が、する。

けど、けど・・・でも。

いち・・・。

 

 

「・・・・・・きゃんっ!?」

 

 

その時いきなり、背中に誰かがぶつかってきた。

せ、せっかく・・・せっかく―――!

一夏から離れて、振り向いてみれば。

 

 

「きゅう~」

「か・・・楓!?」

 

 

そこには、目を回している楓がいた。

気のせいか、戦闘でもしたかのようにボロボロになっている・・・って、な、な!?

何があった!?

 

 

「ご、ごめん、箒姉さん・・・防ぎきれなか・・・った」

「楓!? く、だ、誰にやられた!?」

「・・・がくり」

「楓――――――!?」

 

 

力尽きた楓を抱き締めて、私は慟哭する。

つい先刻、和解したばかりだと言うのに・・・!

 

 

「おーい、箒? 楓はたぶん死んだふりだぞ? がくりって口で言ってたし」

「く・・・おのれ、どこのどいつだ! 私の妹を・・・!」

「聞いてねぇし。と言うか、何かシスコンぽいぞ、箒」

 

 

楓がふって来たと思わしき方向を見れば、そこには2つの人影。

相手は見知った顔・・・機体も、見慣れた物。

昼間、戦友として戦った面々だった。

 

 

「一夏、いったい、何をしてるのかしら~?」

「げ、鈴・・・!」

 

 

笑顔の中に殺気を漂わせている鈴、その横にはセシリアがいる。

 

 

「・・・セシリア、お前までも・・・!」

「ち、違いますわ! 私は巻き込まれただけです!」

「ええい、黙れ! 貴様ら、よくも私の妹を・・・!」

「お待ちになって!?」

 

 

私が楓を抱いたまま睨みつけると、鼻で笑ったのは鈴だった。

 

 

「健気だったわよその子、『ここから先には通さない!』だっけ? 泣かせる姉妹愛よね」

「おーい鈴、台詞が悪役だぞー」

「おのれ・・・許さんぞ、貴様ら!」

「あれ? 箒もキレんのかよ!?」

「ちなみに・・・楓には中国に伝わる足ツボマッサージで拷問したわ! 泣き叫んでたわね・・・運動不足なんじゃない?」

「何だよそのノリ・・・」

 

 

・・・なお。

この後、騒ぎを聞き付けた千冬さんによって、朝まで浜辺で正座させられたのは別の話だ。

報告者はラウラ、曰く「私には教官への報告義務がある」だそうだ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 束

 

『紅椿(あかつばき)』、単独稼働率42%・・・トリスメギトスで最大瞬間稼働率107%に到達。

『白式(びゃくしき)第二形態』、同50%・・・同条件で最大瞬間稼働率110%に到達。

『黒叡(こくえい)』、同51%・・・最大瞬間稼働率は100%ジャスト。

 

 

んー・・・まぁ、最初はこんな物だよね。

『白式(びゃくしき)』が『白騎士』みたいに治癒能力を使ったのは、驚いたけど。

岬の柵に座ったまま―――30メートル下に海が見える場所―――足をぶらぶらさせながら、うふふと笑う。

本当は箒ちゃん達だけでやってほしかったんだけど・・・。

 

 

「・・・ま、お友達と一緒にやれた方が楽しかったろうからねぇ」

「ああ、そうだな。そのお友達(オルコットたち)への本国からの命令は、正式な記録はあるのに担当官はそんな命令を出した覚えは無いと回答してきているわけだが」

「書類上のミスかなぁ、金髪は無能で困るよね」

「・・・そうか」

 

 

いつの間にやら傍に立っていたちーちゃんの言葉に、私は嗤う。

ちーちゃんも、本当は全部わかってるくせに。

優しいよねぇ、ちーちゃんは。

ああ・・・『白式(びゃくしき)』が『白騎士』みたいなのは、ある意味当たり前かな。

『白騎士』のコアが、『白式(びゃくしき)』のコアになってるんだから。

 

 

『紅椿(あかつばき)』のコアは、468番目の新しいコア。

そして『黒叡(こくえい)』には・・・うふふ・・・。

・・・ゾクゾク、しちゃうよねぇ。

 

 

「ねぇ、ちーちゃん・・・ISコアの稼働率を上げる方法って知ってる?」

「・・・さぁ、な」

「うふふ、簡単だよね。仲良くなれば良いんだよ、ISは・・・生きてるんだから」

 

 

人間と一緒だよね、赤の他人より仲の良い子の助けになってあげようって思うでしょ?

他人よりも友達、友達よりも家族、家族よりも・・・恋人とか。

でも世の中のおバカさん達は、機体名(コアのなまえ)さえ知ってれば良いと思ってるんだよねぇ。

不思議だよねぇ・・・。

 

 

名前しか知らない相手と、どうやって協力するつもりなんだろうね?

 

 

だから、『白騎士』や『暮桜(くれざくら)』と通じ合ったちーちゃんが世界最強なのは当たり前。

その弟のいっくんも、私の妹の箒ちゃんや楓ちゃんの稼働率が高いのも。

だって、「私達」の弟妹なんだから・・・ISは家族みたいなものだもの。

私達は、他の人達とは・・・「違う」んだから。

 

 

「・・・ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「そうなんだ」

 

 

私は、――――――よ。

私がそう言うと、ちーちゃんは静かになった。

あはは、変なの。

・・・あ、そうだ。

 

 

「ねぇ、ちーちゃん。学園の人達に伝えといてよ」

「・・・・・・何だ?」

「箒ちゃんと楓ちゃんといっくんに、何かしたら―――」

 

 

 

束さん(おねーちゃん)、IS学園を壊しちゃうかも。

 

 

 

「・・・やり過ぎるなと、いつも言っているだろう」

「うふふ・・・ちーちゃんは優しいねぇ」

 

 

・・・あはは、冗談だよ。

いやだなぁ、そんな顔しないでよ、ちーちゃん。

ちーちゃんは安心して、いっくんを守ってれば良いんだから・・・。

 

 

白騎士事件の時と、同じようにね。

 

 

・・・ばいばい。

次に会う時は、もっと世界が楽しくなってると良いね・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

太陽が、眩しいね・・・帰りのバスの中に乗り込んだ午前10時、窓際の席で私はグロッキー・・・。

・・・でも、無かった。

束お姉ちゃんに付き合って1週間徹夜とかザラだった私にとって、一晩寝れないくらいは許容範囲。

 

 

「あ~・・・」

 

 

でも私の隣の座席の一夏さんはそうじゃなかったみたいで―――流石は健康優良児―――何と言うか、ボロボロだった。

そもそも何故、箒姉さんでは無く私がバスにおいて一夏さんの隣に座しているかと言うと、箒姉さんと鈴さんが牽制し合ってる間に千冬姉様がそう指示したから。

・・・本音さんの隣に座るはずだったんだけどなー。

 

 

「い、一夏、大丈夫・・・?」

「あ、ああ、シャルルこそ大丈夫だったか・・・」

「う、うん・・・まぁ、いろいろ、ね」

 

 

このバスの中には、昨夜何やら千冬姉様と「お話」をしていたらしきシャルルさんもいる。

詳しいお話は聞いて無いけど、一夏さんとの同室状況は解消らしい。

そりゃそうだよねー・・・この機に乗じて、箒姉さんを一夏さんのお部屋に戻せない物か。

 

 

くぴくぴ、オレンジジュースのペットボトルを飲みながら窓の外を見る。

そこには他のクラスのバスが見える・・・4組はどれかなー。

2年になったら簪ちゃんと同じクラスになれるかな、整備科に進むだろうし。

そんな私の膝の上には、この旅館限定の旅の飴玉袋。

簪ちゃんと本音さんからの、私へのお誕生日プレゼント・・・お友達から貰うのは初めて、えへへ。

あと、鈴さん達もそれぞれのお国の飴缶をくれた・・・あれ? 飴しか無いよ?

 

 

「あー・・・すまん、楓。飲み物を分けてくれないか・・・?」

「はいー?」

「・・・一夏? 私の妹の飲みさしを飲みたいとはどう言う了見だ・・・?」

「ご、誤解だ!?」

 

 

後ろの座席から伸びて来る竹刀は、箒姉さんの。

ほ、箒姉さん? 一夏さん、死んじゃうよー・・・?

 

 

「ねぇ、織斑一夏君っているかしら?」

「え・・・あ、はい、俺ですけど・・・」

 

 

その時、ブルーのカジュアルスーツをお洒落に着こなした大人の女の人がバスに乗り込んできた。

金髪の美人さんで、年は千冬姉様と同じくらい?

その人の自己紹介によると、名前はナターシャ・ファイルス、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者・・・お?

 

 

ちゅっ。

 

 

その人は、いきなり一夏さんの頬に軽く口付けた。

おお、欧米的・・・?

 

 

「助けてくれてありがとう、白いナイトさん?」

「え、あ、う?」

 

 

いや、私達は? いなかった認定ですかお姉さん。

・・・と聞く前に、ナターシャさんはバスから出て行った。

何となく窓越しに背中を追うと、千冬姉様と何かを話してる様子。

ふむー・・・?

 

 

「浮気者め・・・」

「一夏・・・?」

「一夏って・・・モテるねぇ」

「女性の敵ですわね、これだから男は・・・」

「いや、俺は何も・・・と言うか、シャルルとセシリアまでかよ!」

 

 

私が隣なんで、スプラッタだけは勘弁してねー。

まったりしようよ、まったり。

飴でも食べてさ。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

「私は許さない。あの子の・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を狂わせた元凶を」

 

 

・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のパイロット、ナターシャ・ファイルスはそう言って去って行った。

彼女はこのまま米軍に引き渡されて本国に帰還、査問を受けることになっている。

そこは米軍の都合で、私が感知する所では無い。

 

 

それに、私が会話していたわけでも無い。

ナターシャと言う米軍パイロットと話していたのは織斑教官であって、私は無関係だ。

モンド・グロッソの話をしていたから、もしかしたら教官の知己なのかもしれんが。

 

 

「・・・ラウラ、バスに乗れと言っておいたはずだが?」

「申し訳ありません、教官」

「先生だ」

「・・・はい、織斑先生」

 

 

織斑教官に近付いて、敬礼する。

教官は私を面白くも無さそうに見ると、1組のバスの方を見た。

バスの窓越しに、一夏達が騒いでいるのが見える。

 

 

「軍には報告したのか?」

 

 

不意に、教官が私に声をかけてきた。

ドイツ軍・・・本国に、報告したのかと。

 

 

「はい、教官」

 

 

そして私はそれに、是と答える。

私は確かに、昨夜の内に一部始終を本国に報告した。

とは言え、本国は軍事衛星を用いてすでに大方の情報を知っていたが。

米国・イスラエルの軍用ISのことや、現行ISを遥かに凌駕する性能を持つ第4世代型ISのこと、私のISの損害状況まで。

 

 

だが、アレをこの身で体感したのはドイツ軍では私だけだ。

あの、自分のISから力が失われる感覚。

『黒叡(こくえい)』・・・篠ノ之 楓の機体の特殊能力。

ISの保有数が即座にその国の軍事力に直結する世界だ、そのISを無力化するISがどれほど脅威か。

そしてそれを手に入れることが、どのような意味を持つのかを。

 

 

「・・・そうか」

 

 

溜息のような声音で、教官は言外に了承を与えた。

それに私は、小さな満足を覚える。

私はドイツの軍人だ、である以上はドイツが最大の利益を得れるように行動する。

篠ノ之 束と言う巨大なリスクはあるが、しかし価値はある。

すなわち・・・。

 

 

「それは許さない」

 

 

ぎしり、と空気が軋んだような気がした。

教官は私に背を向けたままだが、まるで射すくめられたかのように身体が動かない。

それだけの圧力が、あった。

その圧力は数秒で消えたが、自分の額に汗が滲んでいることがわかった。

 

 

「・・・ですが教官。私・・・我々(ドイツ)以外の連中も、すでに気付きました。イギリスもフランスも、中国も、米国も・・・世界の全てが、一晩でアレを知りました」

 

 

バスの中で仲良くしているように見えるが、セシリア・オルコットや凰 鈴音は代表候補生として自分達の国に報告しているはずだ。

第4世代型の存在、そしてそれ以上に対IS用ISの存在を。

世界は知ってしまった、『黒叡(こくえい)』と篠ノ之 楓と言う存在を。

知ってしまった以上、動かずにはいられない。

 

 

「・・・どう、するのですか?」

「どうもしないさ、だがもし・・・」

 

 

・・・教官の言葉は、風に吹かれて消える。

私はそれを耳にした後、目を閉じて・・・。

織斑教官に、敬礼した。

 

 

・・・そう、世界は動く。

篠ノ之 束の時がそうだったように、必ず。

どこかで、今まさに・・・生き物のように。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――日本国・京都、政府IS特務機関宿舎。

表には明らかにされていないその場所には、日本製ISの開発研究所が存在する。

自衛隊以上に憲法上の扱いが難しいISは、こうして秘密裏に開発されているのである。

民間企業が開発するISは、その一部に過ぎない・・・。

 

 

<目標全機破壊、訓練終了>

 

 

電子音が響くのは、地下深くの広い空間。

政府・自衛隊関係者の一部しか知らないこの空間において、日本製ISの稼働実験が行われている。

訓練ステージの中央に立つのは、長い黒髪の日本人の少女。

身に纏うのは、白を基調としながらも黒と灰色のラインが入ったIS。

パリッ・・・手に持っている日本刀を模した近接ブレードの刀身に、かすかに紫電が走っている。

 

 

『・・・ご苦労だった、立道候補生。と言いたい所だが、すぐに上に上がれ』

「・・・了解」

『久しぶりの実戦任務だ・・・立道(たつみち) 雪音(ゆきね)候補生。機体と共にこれからIS特務機関の実戦部隊指揮官の指揮下に入って貰う』

「・・・了解、『雷刃(らいじん)』帰投します」

 

 

日本国・IS特務機関・・・そして日本の純国産第3世代試験機、『雷刃(らいじん)』。

搭乗者、立道 雪音。

政府特務命令により、IS学園へ―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――オーストラリア連邦北部、ダーウィン空軍基地。

滑走路に隣接した白銀に輝くIS実験用のアリーナが、陽光を照り返している。

もちろん、軍事衛星対策も施された特殊なアリーナである。

 

 

『アイシャ・ブライト中佐、ソフィー・アーノルド中佐! 本部から緊急通信です!!』

 

 

アリーナでは2機のISが高速で移動していたが、コントロールルームから響いた声に動きを止める。

操縦者はどちらも20代半ば程の容姿で、駆っているISと同じようにタイプの異なる美貌を持つ女性達だ。

 

 

「・・・どうやら勝負はお預けのようね、アイシャ?」

「ちぇっ・・・今日こそソフィーと決着をつけられると思ったのに」

 

 

穏やかに微笑む女性は、ソフィーと呼ばれている。

ソフィー・アーノルド・・・豪州代表で空軍中佐。

ウェーブのかかった長い金髪に澄み切った蒼の瞳が特徴的で、バランスの取れた肢体をISスーツが包んでいる。

マリッジブルーにカラーリングされた機体はオーストラリア第三世代試作機『ヴィクトリア』、片手に持った大鎌が特徴的である。

 

 

一方のどこか華やかさを感じる女性は、同じく豪州代表・空軍中佐のアイシャ・ブライト。

薄い緑色の不揃いなショートカットが特徴的で、豊満な身体をISスーツが窮屈そうに抑え込んでいる。

乗っている機体はオーストラリア第3世代試作機『スカイ・ガーディアン・アイシャカスタム』、古代のランスを彷彿とさせる突撃槍が陽光を反射している。

『ヴィクトリア』と『スカイ・ガーディアン』は共に豪州軍の次期主力機の地位を争う機体であり、2人はテストパイロットであり・・・いわばライバルである。

 

 

「・・・あら?」

「おお?」

 

 

ほぼ同時に2人のISに、コントロールルーム経由で総司令部の命令内容が届く。

その内容を見て・・・2人は笑った。

ソフィーは口元だけを綻ばせて、アイシャは八重歯を見せるように。

 

 

「・・・日本、IS学園」

「となると・・・チフユ・オリムラがいるな!」

「またその話? アイシャはいつもそうなんだから・・・」

「うるさいな、ソフィーは。待ってろよチフユ、今度こそ負け星を取り返してやるからな・・・!」

 

 

オーストラリア代表、軍所属。

アイシャ・ブライト、及びソフィー・アーノルド。

北へ飛び、日本国・IS学園へ―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――アメリカ合衆国北西部、第16国防戦略拠点。

昼の陽光が射し込むそこは、地図上には無い米国のIS秘密基地である。

太平洋側に面したこの基地は、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の所属基地でもある。

そしてこの基地の一部に、衝撃が走っていた。

 

 

「ナタルが、ヤられただと・・・!?」

 

 

基地のアリーナでまさに今ISの稼働実験を行っていたパイロットは、軍専用チャネルでの報告に戦慄した。

パイロットの名はイーリス・コーリング・・・身に纏っている機体はアメリカ第3世代型IS、『ファング・クェイク』。

4基のスラスターが特徴的なその機体は、実験機とは言え強力な格闘戦機である。

 

 

「・・・誰だ!? 誰がナタルをヤりやがった!?」

 

 

戦友であり親友でもあるナタル・・・ナターシャ・ファイルスの不名誉な事態―――実験機の暴走と、他国のISによる撃墜―――に、激昂するイーリス。

しかもその相手が・・・。

 

 

「ナタルが・・・トーシロの学生にヤられた? そんなバカな・・・・・・ああ、ああ・・・わかったよ、畜生!」

 

 

叩き付けるような声音で通信を切って、イーリスは忌々しげに唇を噛み締める。

それ程に不愉快な話だったし、認められない・・・認めてはならない話だった。

それはまるで、10年前に現代兵器が否定された時のような感情だった。

 

 

「・・・ジーナの姐さん! 小娘(エリス)! 呼んでるぜ・・・お偉い(せいじか)さんがよ!」

『・・・その旨を良しとする。エリス、装備の実験は延期だ』

『勝手にしろ、私は知らない』

 

 

イーリスが声をかけたのは、上空である企業が開発した新装備の稼働実験を行っていた2人の女性だ。

プライベート・チャネルから思い思いの言葉を交わしながら、アリーナ上空から2機のISが降りて来る。

 

 

「お偉いさんからの命令だとよ、ナタル・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』をヤった奴を見て来い。畜生、私が行きたかったぜ・・・」

 

 

1人は、ジーナ・・・ジーナ・ワトソン。

腰まで伸びた金髪と、深緑色のスーツが特徴的で・・・機体は第3世代型『金の福音(ゴールド・ゴスペル)』。撃墜された『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の姉妹機である。

 

 

もう1人は、エリス・シール。

小柄な体躯の少女で、青灰色の瞳と手入れが雑なのか所々がハネている薄青混じりの白髪。

総合兵器開発会社「アワー・アルレート社」所属の軍属で、搭乗ISは第3世代型「タイニー・ウィッチ」。

 

 

「―――――日本へ」

 

 

世界最大のIS超大国アメリカ、その威信を懸けて。

アメリカ軍所属ジーナ・ワトソン、及び米国企業所属エリス・シール。

日本国、IS学園へ―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――イタリア共和国北東部、アヴィアーノ空軍基地。

日付が変わったばかりの時間、軍事基地と言えども一部を残して沈黙する深夜。

そしてその稼働している一部である司令官専用の執務室に、1人の女性が呼びだされていた。

 

 

「良く来た、レディア・アルミス君。こんな遅くにすまないね」

「問題ありません、司令官閣下」

 

 

イタリア空軍の軍服をきっちりと纏ったその女性は、デスクに腰掛ける初老の男性に敬礼して見せる。

その様子にかすかな笑みをたたえて、基地司令官である男性は引き出しから一枚の書類を取り出した。

上質な封筒には政府の印が押されており、定められた人間以外は開封できないようになっている。

 

 

「日本の大使館からの情報で、太平洋方面で変事があったそうだ。そこで政府はキミに特命を与えることを決定した・・・すぐにローマに飛んで貰いたい」

「ローマ・・・特命、でありますか」

「そうだ。詳しい内容は私も知らない・・・赴任地が日本であると言う以外は」

 

 

レディアと呼ばれた20代後半の女性は、デスクの上に置かれた封筒を静かに見つめる。

灰色がかった髪に琥珀色の瞳、姿勢よく立つその姿からはシャープなイメージを相手に与える。

司令官は立ち上がると、その場で正式な敬礼を行う。

 

 

「レディア・アルミナ国家代表、機体と共に次の赴任地へ赴きたまえ。今までご苦労だった」

「了解、お世話になりました、司令官。レディア・アルミナ・・・『テンペスタⅡ・オメガ』と共にローマへ。そして・・・日本へ」

 

 

欧州連合、次期イグニッション・プラン最後の一角・・・イタリア。

国産第3世代型IS『テンペスタⅡ・オメガ』、搭乗者はレディア・アルミナ。

日本国、IS学園へ―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――スペイン王国西部、タラベラ・ラ・レアル空軍基地近郊の都市バダホス。

ほとんどの家が灯かりを消して寝静まっている住宅街において、突然一件の民家の一室が騒がしくなった。

 

 

「リタ・・・リタ! アデリタ! 起きてくれ、緊急事態なんだ!」

 

 

深夜にも関わらずドタドタと慌てて服を着ているのは、20代の若い男性だった。

寝室では一部の時間を除いて静かな男なのだが、今はやたらに慌てている。

着ようとしているのは軍服らしいが、所々つっかけているのでそうは見えない。

 

 

「リタ! 司令部から緊急呼び出しだ・・・それもレベル4だぞ! 1でも2でも無い、4なんだ!」

「・・・んぅ・・・何、あなた・・・?」

「起きてくれ! 緊急事態なんだ!」

 

 

もぞ・・・と傍のダブルベッドで身じろぎしたのは、スタイルの良い身体をシーツで覆った美しい女性だった。

片方の目が隠れてしまうくらい長い茶色の髪に、モデルのような高い身長。

20代前半と思われるその肢体は、瑞々しい魅力を放っている。

 

 

「リタ! 起きてくれってば! キミも呼ばれてるんだぞ、むしろメインはキミなんだから・・・」

「・・・あなた、あなた、落ち着いて」

「僕は落ち着いてるよ! ああ、落ち着いているともさ!」

 

 

まったく落ち着いていない夫の様子に苦笑しながら、アデリタと呼ばれた女性はベッドの上で身を起こす。

それから近くをバタバタしている夫の手を取ると、迷うことなく唇に口付ける。

・・・挨拶と言うには多少情熱的なキスを終えた後、アデリタは悪戯っぽく笑う。

 

 

「・・・落ち着いた?」

「あ、ああ・・・」

 

 

毒気を抜かれたような夫に優しい笑みを返して、アデリタは乱れた髪をかきあげる。

剥き出しの首元に、銀のチェーン・ネックレスが煌めく。

 

 

「SS、基地までの所要時間は?」

<・・・およそ1時間です>

「わかったわ、30分で行きましょう」

 

 

自分の機体、SS・・・『ラファール・リヴァイヴ・カスタムSS』との短いやり取りの後、アデリタはシーツを身体に巻いて立ち上がった。

そして夫を伴って向かった軍司令部において・・・日本への赴任を命令されることになる。

 

 

スペイン王国代表、アデリタ・ポルティージョ・ラザロ。

機体は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムSS』・・・ライセンス生産の第2世代機のカスタム。

夫と離れて単身赴任、日本国・IS学園へ―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「・・・面白いわね」

 

 

豪奢に飾り立てたその部屋で、ガウン一枚だけを羽織った白人女性がそう呟いている。

窓が無い部屋のために場所はどこかわからないが、豪奢な飾りが溢れかえっている部屋だった。

サイドテーブルにはシャープなデザインのサングラスと、小さな携帯端末。

 

 

そこに映っているのは・・・どこかの海で行われた戦闘。

何ヵ国もの機体が入り乱れているそれは、彼女が直接見て来た光景でもあった。

船を一つ失ったが、それを差し引いてもお釣りが来る・・・それは、そんな情報。

そして別の端末には、各国のISの移動状態について。

そちらも、ここ数年は無かったレベルで激しく変化しているのがわかる。

 

 

「オータムだけを行かせるつもりだったけれど・・・」

「・・・なんだよ、すこーる・・・」

「何でも無いわ、ゆっくり休んでいなさいな」

 

 

傍のベッドから聞こえた声に優しい声音を帰しつつも、スコールと呼ばれた女性は端末から目を離さない。

映像は・・・漆黒のISが輝きを放つ場面だった。

 

 

「面白いわね・・・久しぶりに」

 

 

つつ・・・映像の中の黒髪の少女の顔を撫でて、女は陶然と笑んだ。

薄暗い部屋の中で、女の耳元のゴールド・イヤリングが光を放っていた―――――。

 




今回の登場オリキャラ・機体は以下の通りです。
<アメリカ>
ジーナ・ワトソン「金の福音」(楽毅様提案)。
エリス・シール「タイニー・ウィッチ」(まーながるむ様提案)。
<日本>
立道雪音「雷刃」(相宮心様提案)。
<スペイン>
アデリタ・ポルティージョ・ラザロ「ラファール・リヴァイヴ・カスタムSS」(FULCRUM様提案)。
<イタリア>
レディア・アルミス「テンペスタⅡ・オメガ」(スコーピオン様提案)。
<豪州>
ソフィー・アーノルド「ヴィクトリア」(剣の舞姫様提案)。
アイシャ・ブライト「スカイ・ガーディアン・アイシャカスタム」(グニル様)。


(バスの中で・・・)

篠ノ之 楓:
遠足は帰るまでが遠足だよねー。

凰 鈴音:
そーね。でも帰っても学校だけどね、寮だから。

シャルル・デュノア:
あはは・・・まぁ、帰れる場所があるのは良い事だよ。

セシリア・オルコット:
早くベッドで眠りたいですわ、日本風はどうも・・・。

ラウラ・ボーデヴィッヒ:
あの程度、ジャングルに比べれば大したことは無い。

篠ノ之 箒:
日本の布団とジャングルを一緒にしないで貰えるか?

織斑 一夏:
・・・(撃沈中)。
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