インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第1話:「そのクラス、男女比率1:30」

Side 織斑千冬

 

・・・『IS学園』、それはIS操縦者育成のための特殊国立高等学校。

運営と資金提供は日本国、しかしそこで得た技術は世界に公開する義務がある。

学園内においては、いかなる国家も介入できないことに表向きにはなっている。

 

 

IS技術独占国である―――正確には、「だった」―――日本、そしてここIS学園には世界中からISを、技術を、人材を求めて多くの生徒が入学してくる。

私の役目は、そんな連中を使えるように鍛えてやることだ。

一応、教師だからな。

 

 

「まぁ、正直・・・どうかとも思うが」

 

 

コツ、コツ・・・そのIS学園の敷地内を歩きながら、私はそう声に出す。

だがその声は誰にも届かない、と言うか、教師も生徒も入学式だからだ。

もちろん、私も先程までは入学式に出席していた、教員として。

 

 

本来ならそのまま担当する1年1組の教室に向かう所だが・・・実は1人、迎えに行かねばならない小娘がいる。

ただの小娘なら捨てている所だが、ただの小娘では無いからそうもいかない。

 

 

「・・・束の奴・・・」

 

 

ここにはいない親友―――親友、か―――を罵りながら、私は思考を続ける。

ただでさえ今年は、「世界でISを使える唯一の男」と言う触れ込みで私の弟が入学してきているんだ。

1年1組、私が面倒を見る。

私のたった1人の弟、家族、織斑一夏。

 

 

それだけでも手がかかると言うのに、ここに来てまた1人、面倒な生徒が増える。

篠ノ之 楓、私の親友でIS開発者でもある束の妹。

妹と言うだけなら、すでに私のクラスには箒と言うもう1人の妹がいる。

問題は・・・今度の妹が、失踪中の束と行動を共にしていた可能性が高い、と言うことだ。

すでに政府の方からいろいろと言われている、私としても捨てておけない。

・・・個人的にも、だ。

 

 

「それを、メール1つで『よろしくサンキュ~』だと? 今度会ったら殺す」

 

 

もう数年間会っていない上に、殺しても死なないだろうが。

まぁ、奴の考えていることなど私もわからん。

メールには詳細な・・・そう、不必要なまでに詳細な情報が添付されていたが。

『飴ちゃんあげたらついてっちゃう子だから、気を付けてあげてね~』だとか、特にいらん。

後は何だ、方向音痴で都会に慣れて無いからどうだの・・・。

 

 

「がっ・・・学校――――――っ!!」

 

 

・・・はぁ。

顔を手で覆って、私は溜息を吐く。

一夏だけでも、大変だと言うのに・・・。

 

 

そんな私の目の前には、正門ゲートの前で奇声を上げる1人の女生徒。

せめて、次女(ほうき)に似ていてくれればと願った私が馬鹿だった。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

何年かぶりに再会した、束お姉ちゃんの親友。

それは何と、IS学園の先生だった・・・。

しかも、出会い頭に出席簿で頭を殴られた。

かなり、痛かったとだけ明言しておく。

 

 

「あぅ・・・私の脳が二つに割れるかと・・・千冬姉様、酷い・・・」

「ほぅ、良かったな、これからは左右の脳で別のことが考えられるぞ・・・後、学校では織斑先生と呼べ」

「学校・・・そう、学校だ――――っ!! ぶぐっ!?」

 

 

2撃目、しかも今度は角で・・・かなり痛い。

軽く泣きそう、あ、涙が。

 

 

「私に、同じことを2度言わせる気か・・・?」

「い、いえっ、大丈夫、静かにしマス!!」

 

 

びしっ、敬礼しもって元気よく返事。

何年かぶりに再会した千冬姉様は、子供の頃よりもずっと厳しい人になってた。

黒のスーツをビシッと着こなす、カッコ良い20代の女性。

 

 

名前は織斑千冬さん、束お姉ちゃんの親友さん。

子供の頃からの知り合い、今ではここ「IS学園」の先生・・・学園、「学校」。

そう、私は学校に来てるんだ・・・!

子供の頃は良くて保健室登校、束お姉ちゃんに拉・・・連れ出されてからは逃亡生活。

ちゃんと学校に通うのは、実はこれが初めて!

 

 

「もう、興奮するなって言うのが無理・・・!」

「・・・篠ノ之・・・?」

「す、すみませんデス!」

 

 

再び出席簿を掲げる千冬姉様に、私は頭をガードしながら返事をする。

あ、アレは・・・アレだけはどうかお許しを・・・!

 

 

・・・でも、学校に来れて嬉しいのは本当。

校門で興奮して叫んじゃって、千冬姉様に叱られたけど。

束お姉ちゃんに教えて貰った自己紹介も覚えたし、きっと大丈夫だよね。

お友達とか、できるかなぁ・・・。

 

 

「あ、あの、千・・・織斑先生、入学式に間に合わなくてごめんなさい・・・」

「それについては後で罰則を加える」

「あぅ・・・」

 

 

いや、だって束お姉ちゃんがいきなり言いだしたから準備が・・・。

は、初登校でいきなり罰則・・・あ、でも結構、憧れてたかも。

学校の罰則って、伝説のアレかな、トイレ掃除1週間?

 

 

「・・・束は」

「はい?」

「束は、どうしてる?」

 

 

私が学校の罰則について考えていると、千冬姉様が束お姉ちゃんのことを聞いて来た。

やっぱり親友、お姉ちゃんのことが気になるのかな。

お姉ちゃんが言ってた通り、本当はとても優しい人なのかも。

 

 

「えっと、ここに私を送り出した後、移動したと思うので・・・どこにいるかは。あ、でも凄く元気ですよ、千冬姉様のことも良くお話してくれました」

「ちっ」

 

 

何故か、舌打ちされた。

あ、あれー・・・?

 

 

その後は、お喋りはせずに廊下を歩く。

でもこう言う学校に来ること自体が初めてに近い私は、周囲をキョロキョロと見回す。

だって、何もかもが新鮮で、珍しいんだもの!

今日からここが、私の学校!

・・・っと、興奮するとまた叱られる、落ち着かなきゃ。

 

 

「・・・新学期早々、騒がしいな」

「え?」

 

 

不意に、立ち止まる。

そこは、「1年1組」のプレートがかけられた教室の前。

中からは、複数の声が聞こえて・・・。

 

 

「・・・大丈夫か?」

 

 

扉に手をかけた所で、千冬姉様が私に声をかける。

相変わらず厳しそうな声だけど、気のせいで無ければさっきまでは無かった柔らかさを感じる。

・・・束お姉ちゃんの、言ってた通りの人。

 

 

「はい、大丈夫です!」

 

 

ハッキリと答えると、少しだけ笑ってくれた気がする。

・・・初めての学校、初めてのクラス。

もちろん、凄く凄く緊張するけれど、でも。

 

 

それ以上に・・・楽しみ。

これから、どんな毎日を過ごすことになるんだろう。

 

 

「・・・では、入るぞ」

 

 

ガララッ・・・千冬姉様が、教室の扉を開ける。

見ててね、束お姉ちゃん。

楓は、お姉ちゃんのために頑張るよ・・・!

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

あの日、女にしか動かせないはずの『IS』を動かしちまった瞬間から、俺の人生は一変した。

変な黒服に『IS』操縦者のための特殊国立高校、「IS学園」に入学願書を押し付けられてから、選択肢も無いまま・・・ほとんど無理矢理、この学園に押し込められた。

 

 

「セシリア・オルコットですわ。ご存知でしょうが、イギリスから派遣されて日本へ・・・」

 

 

いや、「IS学園」と「藍越学園(学費の安さと就職率の高さが売りの私立高校)」の受験会場を間違えたり、勝手に置いてあった『IS』に触った俺にも悪い所はあったのかもしれないけど。

けどさ・・・これは罰にしては重すぎると思うんだ、神様。

 

 

「お、織斑君!」

「は、はい!?」

「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、後ろの方から始まって今『お』の織斑君なんだよね。オルコットさんの自己紹介も終わったからね、だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

 

いや、別にそこまで謝らなくても・・・と言いたくなるほどに俺の目の前でオドオドとペコペコしているのは、俺のクラスの副担任、山田真耶先生。

低い身長、だぼっとした服に大きめの眼鏡、短い緑色の髪の女教師。

・・・見た目的には、学生で通りそうな先生だな。

 

 

ここで状況を再確認、今日はIS学園の入学式で初めてのクラス、絶賛、自己紹介中。

ここまでは良くある話だ、つまり次は俺が自己紹介する番と言うだけで。

未だにペコペコ頭を下げる山田先生に「大丈夫、ちゃんとしますから」と答えて、最前列ど真ん中と言うある意味最悪の席で立ち上がる。

ここまでは良い、極めて普通だ、問題は・・・。

 

 

「織斑一夏です、えー・・・よろしくお願いします」

 

 

問題は、クラスメイトが・・・いや、全校生徒、教員から用務員に至るまで、ほぼ全員が女だと言うことだ!

実際、俺の他のクラスメイト29名は全員、女だ。

そりゃそうだよな、『IS』は女しか使えないんだから、その操縦者を養成する学校は女しかいないに決まってる、おかしいのは俺だよ悪かったな。

 

 

「えー・・・・・・以上です」

 

 

ガタタタンッ、と何人かの女生徒がズッコケた。

し、仕方無いだろ、他に女子相手にどんな自己紹介をしろと・・・あれ?

その時、俺は窓際に座る女子と目が合った。

と言うか、あの黒髪ポニーテールは、確か・・・。

 

 

「・・・箒?」

 

 

そう、篠ノ之箒だ。

小学校まで一緒だった、幼馴染と言う奴で・・・「凛とした」って雰囲気がピッタリ当てはまりそうな、典型的な大和撫子。

ただし、何と言うか目つきが鋭くて睨んでいるように見える・・・性格は、見た目通り「キツい」。

 

 

「・・・まともに自己紹介もできんのか、お前は?」

「は? ・・・いっ!?」

 

 

突然、何か固い物で頭をはたかれた。

こ、この速度、この容赦の無さ、そして声。

もしかしてと思って振り向いてみれば、そこには思った通りの人物がいた。

げぇっ、関○!? じゃなくて・・・。

 

 

「ち、千冬ね・・・」

「学校では織斑先生と呼べ、馬鹿者が」

 

 

千冬姉(ちふゆねぇ)・・・俺の実の姉が、そこにいた。

黒のスーツとタイトスカート、狼を思わせる眼差しとスラリとした体形。

箒とは別の意味の「鋭さ」を備えた、見るからに才色兼備な・・・と言うか、何でここに?

 

 

「あ、織斑先生、会議はもう終わられたんですか?」

「ああ、山田君、クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

 

・・・って、先生!?

先生って言ったか今!? そ、そんな話、聞いて無いぞ・・・と、俺が抗議するよりも先に。

クラスの女子達が、黄色い声を上げた。

 

 

「キャ―――ッ、本物の千冬様! 千冬様よ!」

「愛してます!」「美しすぎます!」「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れて北九州からこの学園に来たんです!」

「お姉様のためなら死ねます!」

 

 

・・・大人気、だった。

いや、まぁ・・・仕方無いけどさ、でも当の千冬姉は「馬鹿が多いな・・・」とか言ってるし。

それをクールと勘違いしたのか、女子達はさらにヒートアップ。

み、皆さん? あれはポーズじゃなくて本気で言ってるんですよ・・・?

いや、「もっと罵って」とか「躾けてください」とか言ってる場合じゃ無くてね?

 

 

「ほら、静かにしろガキ共・・・ちょっとした事情で入学式に間に合わなかった生徒を紹介する」

 

 

・・・あ、まだいるのか、どうせ女子だろうけど。

女の中に、男が1人、しかも3年間。

・・・いや、思ったよりキツいんだぜ・・・?

 

 

俺がそんな風にこれから先のことを思い悩んでいると、廊下から教室に入ってきて、千冬姉の隣に立ったのはやっぱり女子。

肩のあたりまで伸びた黒髪に、シャープで綺麗な顔立ちだけどキツさは感じない雰囲気。

むしろ、ほわほわと柔らかい感じ・・・制服はもちろんIS学園、1年用の青いリボンが胸元で揺れる。

太腿まで覆う黒い靴下・・・オーバーハイって奴か? 良く分からないけど。

・・・あれ? でも何だかどこかで会ったような・・・?

 

 

「えーっと、篠ノ之楓です。何年か行方不明になってましたけど、どうぞよろし・・・はぅっ!?」

 

 

すぱーんっ、自己紹介を始めた瞬間に千冬姉に頭をはたかれた。

あ、少し親近感・・・じゃなくて、篠ノ之、楓? 楓って言えば・・・。

・・・・・・箒の、妹の?

 

 

ゆ、行方不明だったって・・・俺は慌てて、窓際の箒の方を見た。

・・・箒は、まるでそっぽを向くように窓の外を見ていた。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット(イギリス代表候補生)

 

織斑千冬、元IS日本代表にしてISの世界大会である「モンド・グロッソ」の総合優勝及び格闘部門優勝者、わかりやすく言えば元「世界最強」。

現役を退いた後は、ここIS学園の一教師に甘んじている・・・とは言え、今でも彼女の崇拝者は多い。

 

 

『ブリュンヒルデ』・・・織斑千冬は、現役引退から数年経っても、敬意をもってそう呼ばれますの。

ISのイギリス代表の候補生、つまりエリートである(わたくし)も織斑千冬のことは認めざるを得ませんし、国からも「できれば仲良くするように」と言い含められておりますわ。

 

 

「・・・であるからして、ISの運用には・・・」

 

 

今は、山田先生がISに関する基本的な講義をしていますわ。

織斑千冬・・・織斑先生は、教室の後ろで腕を組んで授業の様子を見ています。

そちらももちろん、気になりますが・・・私が国から気にしろと言われているのは、別の人間。

 

 

織斑一夏、あの織斑先生の実の弟にして「世界で唯一ISを動かせる男」・・・。

・・・でも正直、拍子抜けですわ。

基礎の基礎の部分の再確認の授業に過ぎませんのに、彼はそれについていけていない様子なのですから。

山田先生が「どこがわからない」と聞けば、「全部わからない」と答える始末。

その上・・・。

 

 

「・・・織斑、入学前に渡した参考書は読んだか?」

「古い電話帳と間違えて捨てました!」

 

 

・・・と、バカ丸出しで答えて織斑先生に殴られています。

ISは現行の兵器を凌ぐ新時代の兵器、基礎知識も訓練も無しに動かせる物ではありませんのに。

本当にあの男がISを動かしたのでしょうか、どうにも信じられませんわ。

 

 

所詮、男なんてそんなもの。

 

 

このエリートの私がこんな極東の島国に来たのは、あの男の調査も1つの目的ですけど。

正直、男であると言う以外に取り立てて報告すべき点は見つかりませんわね。

大体、男がISに乗るだなどと生意気に過ぎますもの。

今は、物珍しさで優遇されて目立っているだけ・・・。

 

 

「はい、では2時間目は終了です。休憩時間ですよ~」

 

 

山田先生がそう言って、授業が終わりましたわ。

内容としては、代表候補生(エリート)である私にはつまりませんでしたけど。

まぁ、なかなかお上手な講義だったのでは無くて?

 

 

・・・本当は、男などに話しかけるなど、私のプライドが許しませんけれど。

1時間目の休み時間は、ポニーテールの女子に先を越されて話しかけられませんでしたから、今、仕掛けることにしますわ。

これも国のため、私のプライドは一時置いて、話を聞いてみることにしますわ。

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

 

・・・本当は、嫌で嫌でたまりませんけど。

ああ、代表候補生(エリート)も楽ではありませんわね。

私が声をかけると、その男は振り向いて・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

束お姉ちゃん、私は今、凄く興奮してるよ。

学校、しかも教室でちゃんと授業を受けられる日が来るなんて。

子供の頃は病弱で寝たきり、それからは束お姉ちゃんについて行ってたから・・・。

 

 

人がたくさんいるのは少し怖いけど、それでもやっぱり楽しい。

もう、ソワソワしちゃってもう、押さえきれないよね・・・!

おおっといけない、さっきも千冬姉様に叱られたし、平常心平常心・・・。

 

 

「ねぇねぇ、楓ちんって呼んでも良い?」

「おおっ!?」

「・・・? どうしたの~?」

「い、いえ、何でも無いです、何でも無いですよ!」

「そっか~、じゃあ良いや~」

 

 

早速、クラスの人に話しかけられた。

こ、これは、お友達になるチャンス・・・かも。

私に声をかけてきたのは、何だかおっとりした感じの女の子。

 

 

袖丈がやけに長い制服―――ある程度の制服改造は校則で許容―――を着た子で、ネズミさんの髪飾りをつけた長い髪に、とても眠そうな目が特徴的。

・・・心無し、束お姉ちゃんに似てる気がする。

 

 

「あ、えっと・・・」

「あ、私? 私はねー、布仏(のほとけ) 本音(ほんね)だよ~」

「布仏さん、布仏さん・・・はい、覚えました」

「ありがとー、でも本音で良いよ~」

「どういたしまして、本音さん」

 

 

おお、普通に会話できてる、できてるよ・・・!

このまま、お友達になれたりして・・・・・・あれ?

・・・お友達って、どうやってなるんだろう?

 

 

「でねでね、楓ちんはどうして入学式に来なかったのかな、かな?」

「え、えー・・・道に迷って?」

「おお~、楓ちんは方向音痴さんなのかな?」

「ちん・・・ああ、いや、そんなはずは・・・」

 

 

ただ学校と言う物に興奮してただけで、普段は・・・道に迷うなんて。

・・・ち、ちょっとだけしか。

それに千冬姉様にも会えたし、箒姉さんにだって・・・ああ、そう、箒姉さん!

慌てて振り向くと、窓際の座席で1人、窓の外を見ている箒姉さんを見つける。

最後に会った時と変わらない髪型と雰囲気、私のもう1人のお姉ちゃん。

 

 

私がここに来たのは、束お姉ちゃんの「お願い」のせいだけど・・・でも、箒姉さんにも会いたかった。

年に2、3回くらい、電話で話すくらいしかできなかったし、早速声を・・・。

 

 

「私を知らない!? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして入試主席のこの私を!? 私の華麗な自己紹介が胸に響かなかったと!?」

 

 

急に大きな声がして、教室が静まり返った。

何かと思えばこのクラス唯一の男子―――わ、そう言えば一夏さんとも同じクラスなんだよね、声かけなきゃ―――の前で、金髪の女の子が凄く怒ってた。

 

 

かすかにロールのかかった長い綺麗なプラチナブロンドと、透き通った青い瞳。

欧米人特有の肌の白さとスタイルの良い身体、全身から「私、優秀です」なオーラを放ってる女の子。

セシリア・オルコットって名前は知らないけど・・・イギリスの代表候補生なんだ。

代表候補生は読んで字のごとく、国家のIS代表の候補生のことだよ。

オルコットさんが、今まさに一夏さんに説明してる。

 

 

「つまり私は、エリートなのですわ! 泣いて頼むなら、優しくしてあげても良くてよ?」

 

 

・・・えっと、アレは学校で友達を作る時に言う台詞なのかな?

良し、じゃあ私も早速、えっと・・・な、泣いて頼むなら。

 

 

「何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから?」

「・・・入試ってアレか? ISを動かして戦うってやつ?」

「それ以外に入試などありませんわ」

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「は・・・?」

 

 

ざわっ・・・な、何だか教室の雰囲気が。

に、入試? 入試・・・私は何か、束お姉ちゃんがいろいろしてたことしかわからないけど。

えっと、どれのことかな・・・?

 

 

「あ、貴方も・・・教官を倒したって言うんですの!? 入試で!?」

「あ、ああ・・・たぶん」

「たぶんって何ですの、たぶんって――――」

 

 

あ、チャイムだ。

3時間目が始まる、オルコットさんは何か言いながら自分の座席に戻る。

 

 

「楓ちん、じゃあまた後でね~」

「あ、はい・・・また・・・」

 

 

そして当然、本音さんも座席に戻る。

くぅ、お友達になり損ねた!

まぁ、でもまた後でってことは話しかけて貰えるってことで・・・。

 

 

「・・・あ」

 

 

ふと、窓際の座席から箒姉さんが私のことを見ていることに気付いた。

笑顔で小さく手を振ったら、ぷいってそっぽを向かれた。

・・・あ、あれー・・・?

 

 

 

 

 

Side 千冬

 

3時間目は、ISで実際に使われる武装に関する講義・・・の前に、再来週のクラス対抗戦(もちろん、ISで、だ)のクラス代表(いいんちょう)を決めるつもりだった。

・・・が、何だこの状態は。

 

 

「納得できませんわっ!!」

 

 

どう言うわけか知らんが、オルコットが息を巻いている。

それはクラスのガキ共が私の弟・・・つまり一夏をクラス代表にしようと推薦を重ねた後のことだ。

・・・本人はやりたがっていないようだが、それはどうでも良い、推薦された者に拒否権など無い。

 

 

オルコット曰く、男がクラス代表など恥さらし以外の何者でも無い。

クラス代表はそのクラスの実力ナンバー1がなるべきで、それには代表候補生であり「専用機」持ちである自分こそが相応しい・・・と言うのが言い分だ。

まぁ、「実力ナンバー1がなるべき」と言う部分には首肯してやっても良いが。

 

 

「物珍しさで男をクラス代表にするなんて・・・サーカスじゃありませんのよ!? 大体、文化としても後進的な極東の島国で暮らさなければならないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛ですのに・・・!」

「イギリスだって島国だし、大したお国自慢無いだろ」

 

 

口を滑らせおったな、馬鹿者が。

聞き流せば良いだろうに、一夏がオルコットの祖国を「侮辱」―――先に日本を「侮辱」したのはオルコットだが―――したことに腹を立てたオルコットが、一夏に決闘を申し込んだ。

 

 

「・・・良いぜ、四の五の言うよりわかりやすい」

 

 

そして一夏も、それを受ける・・・何だこの流れは。

大体、一夏はまだ機体も無いと言うのにどう「決闘」するつもりだ、馬鹿が。

・・・まぁ、一夏には政府が「専用機」を用意するらしいから、そこは問題無いだろうが。

 

 

・・・「専用機」。

代表・代表候補生や企業に所属する人間に与えられる専用のIS。

特定の個人にしか使用できない、まさに「専用機」だ。

IS学園でも、「専用機」を持っているのは数える程しかいない。

このクラスで言えば、オルコットと・・・一夏、そして・・・。

 

 

「・・・」

 

 

私の視線の先には、まだ実技試験を受けていないのに入学が確定している生徒がいる。

篠ノ乃楓、後で日程は伝えるが・・・ISさえ動かせれば基本は合格だ。

第一、アレは束の下でISについて叩き込まれた馬鹿だ。

一夏も似たような状態で入試を受けたが、それは形式として受けたに過ぎない。

その意味では、無意味な通過儀礼に過ぎない、が・・・。

 

 

・・・脳裏に、束の送りつけて来たデータの内容を思い浮かべる。

束は、本当に何を考えているんだろうな。

妹に個人(たばね)所有の「専用機」を授けて、IS学園に送りつけてくるのだからな・・・。

 

 

 

 

 

SIde 一夏

 

はぁ・・・疲れた。

今日の授業が終わって、自分に割り振られた寮の部屋に向かいながら、俺は溜息を吐く。

今日は本当に疲れた、女子にはジロジロ見られるし、変な奴・・・セシリア・オルコットだっけ? には、突っかかられるし。

 

 

しかも、来週の月曜に第3アリーナとか言う場所で勝負しなくちゃいけなくなった。

勝負自体は良いとして、ISバトル(最近はそう言う名前の「スポーツ」として定着)なんてやったこと無いし・・・大体、教科書すら専門用語ばかりでさっぱりわからない。

 

 

「・・・まぁ、やるしかないな。男が一度決めたことを撤回するわけにゃいかねーし」

 

 

教室でのことを思い出す、「男が女に(特にISで)勝てるわけが無い」と言わんばかりのあの雰囲気を。

クラスの女子は皆、「セシリアに頼んでハンデつけて貰ったら?」とか言う始末だ。

しかもしれは、嫌味でも何でも無く・・・当然のこととして受け止められてる。

 

 

今の時代、男の立場は圧倒的に弱い、女尊男卑と言っても良いくらいに。

 

 

ISは現行兵器を鉄屑同然にした新時代の兵器、だからそれを扱える女性の立場が急上昇するのもわかる、IS(及び操縦者)の保有数が即軍事力・防衛力になる時代なんだから。

実際、ISを操縦できる可能性のある女性に対しては国も企業もこれでもかと言うくらいに優遇措置を取る、それもわかる。

だけど・・・国家の軍事力になるからIS操縦者、つまり女性は偉くて男性はいらない。

・・・それだけは、何か違うと思う。

 

 

「まぁ、男と女で戦争したら男陣営は3時間で負けるだろうけど」

 

 

悲しい現実を口にしつつも、俺は頬をぱんっと両手で叩いた。

いけないいけない、思考がマイナスになっちまってたな。

とにかく、この1週間で基礎だけでも・・・き、基礎・・・基礎か・・・。

 

 

「・・・はぁ、束さんも面倒な物を作ってくれたよなぁ」

 

 

別に束さんが悪いわけじゃ無いけど・・・千冬姉の親友の顔を思い出す。

記憶の中にあるのは、何を考えているんだかわからない人を喰ったような笑顔。

・・・あの人がISを開発したって言うの、わからなくも無いけど、イマイチ実感がわかない。

昔からやたらに天才だったのは覚えてるけど・・・そうだ、束さんだよ!

 

 

「箒と・・・あと、楓か」

 

 

今日、6年ぶりに再会した幼馴染2人のことを思い出す。

・・・って言っても、箒とはガキの頃に通ってた剣道の道場で良く一緒だったけど、楓とはあまり会ったこと無いんだよな。

確かアイツ、身体弱くて・・・今は、どうだかわかんねーけど。

 

 

と言うか、自己紹介の時の行方不明って、アレ何だろうな?

束さんは今も絶賛、失踪中だけど・・・。

小4の時に箒の家が引っ越してから全然連絡取って無かったから、今アイツらの家がどうなっているのかもわからないし・・・いやいや。

 

 

「はぁ・・・今日はもう良いや、とにかく寝よう」

 

 

とにかく、疲れた・・・もう寝たい。

えっと、千冬姉が用意してくれた寮の部屋「1025室」に向かう。

部屋に入った後、俺は真っすぐにベッドに向かった・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

・・・6年ぶりに、一夏に会った。

休み時間にほんの少しだが、話せた。

私だとすぐにわかったと言ってくれた、髪型が同じだったからと・・・。

 

 

「・・・良く、覚えていたものだ」

 

 

私の髪は、頭の後ろで結んでも腰まである程に長い。

それこそ、子供の頃から変えていない・・・もしかしたらと、思っていたから。

一夏と会えた時、すぐに気付いてくれるだろうかと・・・。

 

 

・・・はっ!?

 

 

いやいやいや、一夏は関係無いぞ、一夏は、うん。

私は単純に、この髪型が気に入っているだけだ、それだけだ、うん。

・・・ま、まぁ、覚えていてくれて、良かったと思わなくも無いが。

いやいや・・・軽く頭を振って、私はリボンを解く。

制服と下着を脱いで、タオルを手に寮の部屋のシャワールームへ。

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

熱い湯のシャワーを浴びると、小さく息を吐く。

ぼんやりと湯を浴びながら考えるのは・・・やはり、一夏のこと。

当たり前だが、6年前とは何もかも違う。

記憶にあるよりずっと大人で・・・そして、男らしくなっていた。

 

 

ニュースで見た時は、本当に驚いた。

忘れるはずも見間違えるはずも無い姿がテレビに映ったのだ、驚きもする。

世界で初めて、ISを動かした男として・・・。

 

 

「・・・だが」

 

 

キュッ・・・蛇口を捻って、湯を止める。

ポタポタと髪先から垂れる雫を見つめながら、私はもう1人のことを考えた。

そのもう1人とは・・・楓のこと。

 

 

この数年間、姉さん・・・「IS開発者」篠ノ乃 束と行動を共にしていただろう、双子の妹。

年に2回か3回、短い時間だが電話で話したことはある。

姉さんとは、1度も話したことが無いが・・・いや、それ自体はどうでも良い。

もっと、重要なのは・・・。

 

 

「・・・楓・・・」

 

 

・・・昔は、身体の弱かったあの子のためにと世話を焼いたこともある。

それなりに、姉妹仲は良かったと思う。

少なくとも、私と姉さんの関係よりはマシだったはずだ。

だけどあの日、姉さんが楓を連れ出して、どこかに消えて・・・それで。

 

 

・・・ボスンッ。

 

 

・・・?

今、シャワールームの外から、何か音がしたか?

 

 

「誰か、いるのか?」

 

 

シャワールームの外に声をかけながら、バスタオルを身に纏う。

・・・ああ、そう言えば今日から相室になるんだったか、元々2人部屋だしな。

となると、外にいるのは同室になる者か。

まぁ、1年間一緒に生活するんだ、それなりの関係を築いといた方が良いだろう。

 

 

「・・・こんな格好ですまないな、私は篠ノ之箒と・・・」

 

 

シャワールームの外に出て、部屋の中にいるだろう同居人に向けて挨拶する。

そして濡れた髪を払いながら顔を上げると、そこには・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

放課後、私はホクホク顔で寮の廊下を歩いていた。

と言うのも、本音さんが彼女のお友達に私を紹介してくれて、その子達とも仲良くなれたから。

これって、お友達になれたってことかな?

 

 

だとしたら嬉しいなぁ、同年代の女の子のお友達なんて初めてだから。

束お姉ちゃんはお友達とかいらない人だけど、私は普通に嬉しい。

明日は私の実技試験をやるって千冬姉様が言ってたけど、ISが動かせれば良いらしいから。

えっへへー、お友達げっと!

そして同時に、購買って所でドロップ缶もげっと!

 

 

「学校って楽しいなぁ、本当に本当に楽しいなぁ」

 

 

私のだって言う寮の部屋に戻ったら、束お姉ちゃんに秘匿通信で教えてあげないと。

まぁ、メールを送り合うだけで電話とかじゃ無いけど・・・でも、その前に。

箒姉さんに会いたいな、昼間は結局、話せなかったし。

 

 

電話で話せなかったこととか、近況報告とか・・・束お姉ちゃんのこととか、いろいろ。

たくさん、お話しすることがあるからね。

えーっと、千冬姉様によれば姉さんの部屋は「1025室」でー・・・。

 

 

「かりっとね・・・」

 

 

口の中に早速一粒、飴を放り込む。

普段は地図に弱い私も、飴(ドロップ)を舐めてる間は大丈夫。

糖分を摂取した脳が活性化して、断然OKな状態に・・・。

 

 

「・・・お?」

 

 

とぼとぼ歩いていると、廊下に人だかりができている場所を見つけた。

廊下のそれぞれの部屋から女生徒が顔を出して、一つの部屋を見ている。

その部屋からは、何かドタバタと言う音が・・・かりっと、飴を上下の歯の間に入れてカリカリする。

 

 

次の瞬間、激しい物音がしていた部屋から何かが転がり出て来た。

 

 

・・・ドアが物凄い勢いで開いて、何かがまさに「転がり出て」きたの。

それは反対側の壁に激突する「いってぇ!?」と、唸りながら身悶えてた。

と言うか、一夏さんだった。

かりっ・・・小さくなった飴玉を、噛み潰してから飲み込む。

 

 

「・・・あっ、もしかしてこれって、最近の学校で流行ってる何かのゲームで」

「んなわけ無いから! ・・・って、楓?」

「お久しぶりです、一夏さん。実に久しいのですが、ゲームで無いならいったい何を・・・と言うか、箒姉さんはどこにいるか知りません?」

「・・・まさに今、その箒に殴られた所なんだが・・・」

「お?」

 

 

一夏さんの指差した先には、何故か剣胴着姿の箒姉さん、手には木刀を持ってる。

もしかしてあの木刀で一夏さんを殴打したのかな、だとしたら凄く危ないよ箒姉さん。

長い髪に鋭い目、数年ぶりに会う私の双子の姉が、そこにいた。

 

 

「箒ね・・・」

 

 

声をかけようとすると、箒姉さんは即座にドアを閉めた。

私を一瞥して、驚いた顔・・・それからキツい顔になって、即座に。

・・・あ、あれ?

 

 

「・・・機嫌、悪かったのかな・・・?」

「まぁ、良くは無いだろうけど」

 

 

一夏さんは、箒姉さんに何をしたのか・・・でも、今の箒姉さんの態度は、あくまで私に向けられていた気がする。

その後聞いた話だと、箒姉さんと一夏さんはこれから同じ部屋なのだとか。

あー、私知ってるよ、同棲って言うんだよねそれ。

 

 

・・・結局。

その日は、箒姉さんと一言も話せなかった・・・。

 




篠ノ之 楓:
はい、どうも~楓です。
今日は、ウチの家と家族環境について説明したいと思いまーす。
束お姉ちゃん、箒姉さんの事以外はあんまり教えてくれないので、自分で調べてみました~。

篠ノ之家・・・
篠ノ之家は、神社の神主の家系です、つまり私達姉妹は巫女さんなんですね。
私と束お姉ちゃんは全然ですけど、箒姉さんはお神楽を舞ったりしてましたよ。ご近所ではお祭りとか・・・割と親しまれてた家みたいですね。あと、剣術道場もしてましたよ、篠ノ之の流派はもともと、女性のための古い剣術でして。神に捧げる舞と古武術がくっついて剣術に変わったらしいです、剣舞・・・と言うような意味で。だから私達姉妹の中では、箒姉さんだけが正統な篠ノ乃流の継承者たり得ると言うわけですね。

で、家族。
私は束お姉ちゃんと世界を巡ってましたが、箒姉さんはずっと日本に。政府の重要人物保護プログラムで両親と各地を転々としてたらしいですね。束お姉ちゃんがプログラムの実行機関に「何か」してからは、千冬姉様のいるIS学園に・・・と言う感じだそうです。
でも、何故か両親はそのまま政府の保護下に放置・・・まぁ、束お姉ちゃんにも何か考えがあるんだろうけど・・・。


篠ノ之 楓:
はい、今回はここまでです。
次回から、学園生活がスタートですね。
えーと、私は束お姉ちゃんにいろいろと教えて・・・。
あれ? データ消えてる・・・。

篠ノ之 束:
データは全部頂いたぜー! ばーい、束おねーちゃん。

篠ノ之 楓;
ええぇ・・・。
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