Side 篠ノ之 箒
だ・・・大丈夫なはずだ、うん。
ちゃんと楓のアドバイス通り事前に連絡もしたし、今日は刀も持って来ていない。
だ、だから、その・・・。
「わ、私が一夏の実家に遊びに行っても、問題は無いはずだ・・・!」
半分は自分に言い聞かせる意味も込めて、私はそう呟いた。
呟き、と言う割には声が大きい気もするが。
と、とにかく・・・問題、無いはずだ。
そう意気込む私の前の前には、「織斑」と表札のかかった一軒家。
有り体に言うと、一夏の家だ。
今日は学園の寮では無く、一夏が元々過ごしていた方の家だ。
私は今日、先日楓と2人で読んだ雑誌の「彼氏の家に行って手料理」と言うのをやろうとしている。
・・・い、いや! 断じてまだ彼氏では無いが・・・!!
「・・・はっ!」
お、思わず挙動不審な態度を取ってしまった。
人に見られてはいないだろうな・・・?
居住まいを正して改めて表札と、それとインターホンを見つめる。
そろそろ約束の時間だ、決断せねばならない・・・のだが、どうにも踏ん切りが。
一夏の家に遊びに行く、と言う状況自体は経験があるが・・・子供の頃の話だ。
背も同じくらいで、2人の肩の高さも一緒で、顔もずっと子供で。
それに比べて今の一夏は、いっぱしの男の顔になっていて身長も私よりずっと高い・・・。
いやいや、だからそうでは無くてだな・・・!
「箒? 何をやってんだ、玄関先で・・・」
「うわぁっ!?」
急に声をかけられて、私は変な声を上げて飛びずさった。
顔を上げると、そこには今しがた想像したばかりの一夏の顔。
意識をしているわけでは無いのに、胸が高なるのを感じる。
ドキドキと、痛いくらいに・・・。
「い、一夏か・・・お、驚かすな」
「悪い悪い。でも時間過ぎても来ないから。迷子にでもなってんのかと」
「私は子供か!」
・・・別の理由で、時間を使っていたわけだが。
い、いや、今日はこれからがまさに本番・・・。
「あー、それでな箒。悪いんだけど・・・」
「む、何だ? まさか、急に都合が悪くなったとか言うわけではあるまいな」
「いや、そうじゃなくて。ついさっきな、ええと・・・」
「一夏ー? どうし・・・あ」
「あ」
一夏の背後から、ひょっこりと誰かが顔を出す。
一夏よりもずっと背が低いそれは、華奢で可愛らしい女子のものだ。
と言うか、長い髪をツインテールにしたその少女は・・・。
「げ・・・箒」
「り、鈴か・・・」
鈴だった。
まさか一夏が誘うわけが無いので(朴念仁だからな)、私と同じような理由で遊びに来たのだろう。
さ、先を越されて・・・い、いや、まだだ!
「えーと・・・まぁ、入れば?」
「・・・ああ」
「そーね」
困ったように笑う一夏を尻目に、私と鈴は睨み合う。
もしかしたなら、私達の背後には竜と虎が浮かんでいたかもしれない・・・。
Side セシリア・オルコット
・・・2機目のビットを撃ち落とされた時、思わず舌打ちしましたわ。
6機しか無いビットを3分の1にされれば、誰でも舌打ちくらいするでしょう。
第3アリーナの広い空間を高速で飛行しながら、私は『ブルー・ティアーズ』のライフルを撃ちます。
「・・・無駄だ」
黒い独特なフォルムのISに身を包んだラウラさんが、機体を前後に振りながら私の射撃をかわします。
そのまま円形移動しつつ距離を詰めて来て、6本のワイヤーブレードを射出。
まだAICの射程内では無いはずですが、有線の刃が前後左右から私を包むように動きます。
・・・ティアーズッ!
残った2機のビットを私の目前に配置、まず左右、そして上下に射撃。
正面はライフルで撃ち落として、ワイヤーブレードを破壊することに成功しますが・・・。
ギンッ・・・その間に近付いて来ていたラウラさんが、両腕のプラズマ手刀で私の目前で固定されていた2機のビットを両断します。
「これで、お前を守る物は無くなったな」
「お生憎ですわ、『ブルー・ティアーズ』に撃ち抜けない物は無いことになっておりますの」
スカート部のミサイルを展開しつつ、ラウラさんから距離を取ります。
ラウラさんは顔色一つ変えませんわ、当然でしょう・・・すでにバレている武装ですもの。
でも私も、ラウラさんのAICの射程内には入りません。
スペック上では私の方が若干、スピードは上。
コア稼働率はラウラさんの方が上なので、総合的に互角と言った所でしょうか。
正直、ラウラさん相手に1人と言うのは厳しいですけれども・・・私はセシリア・オルコット。
泣き事は、趣味では無くてよ。
「捕える」
「お断りしますわ!」
逃げる青と、追う黒。
2機きりの舞踏会は、試合終了の鐘が鳴るまで続きましたわ。
そして・・・。
「お疲れ様でしたわ」
「・・・ああ」
試合終了後、ISを装着したままアリーナの中央でラウラさんに声をかけます。
普段であればもう少し別の対応をするでしょうが、今は別です。
何しろ、英国とドイツの政府高官や技術者が同席しての公開の模擬戦なのですから。
視線を動かせば、アリーナの観客席に白人の集団がいるのがわかります。
ドイツは、条約違反のシステムを破棄したことをアピールするため。
そして英国は、次期イグニッション・プランのライバルであるイタリアへの牽制のために。
「・・・イタリアの第3世代が、量産段階に達したらしいな」
「らしいですわね。技術では英独、コストと汎用性ではフランスに劣っていたはずですが・・・ここに来て、盛り返すとは思いませんでしたわ」
「ISの開発は、どこの国も必死だからな」
ドイツのレーゲン型(モデル)は万能機なため、高コストと言う欠点があります。
そして我が国のティアーズ型(モデル)はと言えば、ビットと言う特殊兵装を扱える人間が少ないことが問題点としてあげられております。
それに対してイタリアは性能では英独に劣る物の、安価なコストと汎用性の高さが評価されているのですわ。
イギリスも、ドイツを責め過ぎて大陸欧州のパワーバランスを変えることは危険だと判断したのでしょう。
今では一転してドイツを擁護、むしろ協力してイタリアを抑え込みにかかっていますわ。
「・・・鈴さんも、戻っては来ましたが」
「海峡の方が怪しい、いつどうなるかわからん」
「そうですわね・・・」
近年、台湾で独立派の政権が誕生しました。
台湾のISは名目上中国の所有ですが、事実上は台湾当局が保有しているので・・・中国政府は神経を尖らせているようですわ。
先日も台湾本島を周回させる形で、IS部隊を動かしていたようですし。
それに対して、米国もオキナワ、グアム、ダーウィンのIS基地を増強しておりますの。
・・・今はまだ、それほど現実味はありませんが。
いつかこの学園で学んだ者同士が、敵味方に別れて戦場で出会うこともあるのかもしれませんわね。
できれば、あって欲しくは無い未来ですけれど・・・。
Side 織斑 千冬
ISは兵器だ、今の所はそうなっている。
表向きはスポーツと言うことになっているが、スポーツのためにアレだけの規模の金と人員は動かん。
第一、軍事転用の道が完全に閉ざされたわけでは無いのだから。
「でなければ、軍用ISなどと言う物が存在するわけが無いしな・・・」
「あ、織斑先生」
「お疲れ様です、山田先生」
差し入れのロイヤルミルクティーの缶を投げ渡しながら、私はその部屋の中に入る。
IS学園、地下特別区画。
一部の教師しか入れない、そもそも存在すら知らない、そんな場所だ。
「・・・どんな感じだ?」
「委員会に報告する内容は、大方・・・明日中には送れます」
「すまないな、任せきりで」
「いえ、私の仕事ですから」
ミルクティーに口をつけながら微笑む山田先生の表情は、流石に疲労の色が濃い。
何せ福音事件関連の関係者への取り調べからデータのまとめ、法務文書の作成までやっているんだ、疲れもするだろう。
・・・真耶には、昔から世話をかけるな。
ふと視線を上げれば、強化ガラスの向こう側に無骨な機体がいくつも並べられているのが見える。
コアを失ったそれは、もはやISでは無い。
ISとしては、すでに「死んで」いるからだ。
仮称・・・「ゴーレムⅠ」及び「ゴーレムⅡ」。
かつて・・・と言うほど昔でも無いが、この学園を襲撃した無人機だ。
「コアが回収されていないのが、救いですね・・・」
「・・・そうだな」
これでコアが回収されていれば、困ったことになっていただろうな。
何せ無所属のコアだ、世界中の国が争って手に入れようとするだろう。
ISは、どこの国や企業も1機でも多く欲しいからな。
無所属・・・と言う意味では、『白式(びゃくしき)』を始めとする3機もだがな。
しかも現行ISを凌駕する性能を持つ第4世代が2機に、対IS用装備を積んだISまで。
「欧州の方達は、どうでしたか?」
「思い通りのデータが取れたとかで上機嫌だった、とだけ言っておこうか」
オルコットやラウラも大変だな。
とは言え・・・あの派遣団の目的に、一夏達の調査が入っているのも確かだろうが。
いよいよこの学園も、外圧に晒されるようになったと言うわけだ。
具体的には・・・。
「世界各国から、国家代表クラスの人間が続々と送られてきている」
「そうですね、3組には専用機持ちが2人も入りますし・・・今年は異常です。1年生に専用機持ちが10人も来るなんて・・・他にもいろいろな名目で人が送られてくるようですし・・・」
そうだな、異常だな。
そしてそれだけ、今年の1年には人を送る価値があると言うわけだ。
一夏と・・・そしてそれ以上に、篠ノ之姉妹にな。
Side シャルロット・D・コルデ
「ようこそ、IS学園は貴女を歓迎するわ」
「は、はぁ・・・」
夏休みの最終週、今日付けで僕・・・「シャルロット・D・コルデ」の編入手続きは完了した。
国籍は日露二重国籍、機体は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』。
僕の専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を、日露の技術でチューンした機体。
機体の国籍自体は名目上フランスで、ややこしいことにフランスが日露両国に貸与する形式。
機体の取引自体は、アラスカ条約で禁じられてるから・・・。
と言っても、この機体は日本・ロシア・フランスのいずれも改良に関係して無い。
何故ならこれは、更識会長が僕が機体を預けた3日間で調整した機体だから。
前の機体のままだと、僕が「シャルル」だってバレちゃうかもしれないとは言っても・・・。
「一応、装甲とか武装の形状を弄って・・・私が前に使ってたISの装備とかシステムとか組み込んであるから。まぁ、おいおい慣れなさいな」
「・・・はい」
コトッ・・・と、少し形状の変わった十字架のペンダントを机に置きながら、更識会長は言った。
待機状態のペンダント、形が変わってブレスレットになってるけど。
それを受け取りながら、僕は緊張した面持ちで会長を見る。
「ん? どうしたの、おねーさんの顔に何かついてる?」
「い、いえ、別に・・・」
「てい」
むに、机越しに扇の先を頬に押し付けられた。
何と言うか、こう言う所が掴み所が無いと言うか・・・。
と言うか、どうしてこの人は僕を助けたのか。
そこの所、ついに今日まで聞き出せなかったけど。
でも何か、理由があるはずなんだ。
人は、理由も無しに何かをするはずが無いんだから。
「そんなの、決まってるでしょう?」
「え?」
「私はIS学園生徒会長・・・・・・故に、この学園の生徒を守る義務があるのよ」
ぱんっ、開かれた扇には『義務』と書かれて・・・いや、それは流石に・・・違うんじゃ。
でも更識会長は、相変わらずの余裕そうな笑みを浮かべていて。
「ああ、そうそう・・・貴女のISの整備とか調整とか、いろいろと思うけど」
「あ、はい」
「篠ノ之 楓さんに、頼んであるから」
「え・・・」
どうしてこの人は、「初耳なんですけど」みたいなことが何度もあるんだろう。
言われた時には全部の準備が整っていて、しかもそれが嫌にハマってたりするからタチが悪いよ。
でも、楓からは何も聞いて無いんだけど・・・。
・・・もしかして、まだ言って無いとか無いよね?
じー・・・と会長を見つめてみても、にっこり笑顔を返されるだけで。
僕は結局、疲れたように溜息を吐くばかり。
はぁ・・・。
「・・・あ、そうそう。一応、伝えておかないとね」
「はい・・・?」
「デュノア社、イタリアの企業に買収されることになったわ」
「・・・・・・そう、ですか」
特に・・・何か思うことは無かったけど。
でも、最後に一つだけ。
・・・お父さん、今、どうしてるかな。
Side 更識 楯無
家族って、上手くいかない物よね。
何となくさっきのシャルちゃんを思い出しながら、そんなことを思う。
私がそう思うのは、もちろん簪ちゃんのことがあるからだけど。
でも・・・家族、ね。
織斑先生にとっての、織斑一夏くん。
篠ノ之博士にとっての、箒ちゃんと楓ちゃん。
世界に2つしかない、強烈な個性の傍にいる子達。
「最初は、有名人の身内としか認識されていなかったけど」
けれど、少なくとも今は別の意味でも注目を浴びているわね。
世界最強のIS超大国、アメリカの第3世代型を倒したことで。
そして世界で他の誰も所有していない、できていない、第4世代型の所有者として。
織斑千冬と篠ノ之束、2つの太陽に隠れて見えなかった才能。
3つの月、織斑一夏と篠ノ之の双子姫。
すでに夏休みの1ヵ月間で、世界は激しく動いてしまった。
あの3人が、自分達の力でそれを跳ねのけられるかと言うと・・・。
「あ、会長、こんにちは!」
「こんにちは!」
「ええ、こんにちは。今日も良い天気ね」
途中、廊下で擦れ違った生徒達と挨拶を交わす。
私はIS学園生徒会長、この学園の生徒達の長。
そうである以上、私はそのように振る舞わなければならない。
織斑一夏くんと、篠ノ之箒ちゃんの方は、まぁ何とかなるとしても。
篠ノ之楓ちゃんの方は、意外と難しいのよね。
本音ちゃんと簪ちゃんの傍にいることが多いけど、でもいざという時は不安だし。
シャルちゃんをつけていれば、多少は大丈夫だと思うけど。
いずれにせよ、そろそろ直接的に・・・。
「失礼します」
しばらく歩き続けて、学園の最奥部・・・学園長室に到着する。
対外的には、ある女性がこのIS学園の学園長として公表されている。
でも、実際には・・・。
「やぁ、更識くん。良く来たね」
そこにいたのは、人の良さそうな初老の男性。
用務員の制服を着たその人は、豪華な調度品が並べられた学園長室には明らかに不似合い。
轡木十蔵・・・学園長の夫、でも実質的にこの学園の実務を取り仕切っているのはこの人。
この事実を知っているのは、私を含めて1人しか知らない。
対暗部用暗部・・・更識家の先代当主の盟友でもあった人。
今は、私の盟友。
・・・の割に、腹の底を見せてくれないけど。
「・・・では、各組織の動きについて」
「ええ、はい・・・お願いしますよ」
人の良さそうな笑みを浮かべるお爺ちゃんに、私も笑顔を浮かべる。
・・・簪ちゃんは、知らなくて良い世界だと思いながら。
Side 篠ノ之 楓
ふ、ふふふ、のふ・・・・・・意外と、何とかなるものだね。
最初はどこから手をつけて良いものやらって感じだったけど、どんなことでもいつかは終わる。
つまり、何が言いたいのかと言うと。
「き、基本部分は、何とか完成したかな・・・」
「システム構築・・・できてる・・・」
「ああ~キツかった~」
私と、簪ちゃんと、本音ちゃん。
3人とも作業着だらけで油まみれだけど、表情は緩んでる。
ぺたり、と第2整備室の床に座ったまま、目の前に屹立してるそのISを見上げる。
装甲が整備室の照明を反射して輝いて、とても綺麗・・・ピッカピッカに磨いたもんね。
更識簪専用IS、『打鉄弐式(うちがねにしき)』。
『打鉄(うちがね)』をベースにしつつ機動力を上げるために装甲の素材を変えてスリム化し、独立ウイングスカートを装備、運動性能は『打鉄(うちがね)』の2.2倍。
『白式(びゃくしき)』を参考に大型のウイングスラスターと補助ブースター2基を搭載、推進力と機動力は量産機なんてメじゃないね。
「武装にも凝り始めたら、止まらなかったね」
「・・・楓が普通のブレードじゃつまんないって、言うから・・・」
いや、でもそこはロマンだよ。
『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の
だから、いろいろと限界までチューンしてみた。
ちなみに『打鉄弐式(うちがねにしき)』の武装は、日本製の近接ブレード2本と米国製の51口径アサルトライフルを登録してある。
さらにオリジナルの速射荷電粒子砲「春雷(しゅんらい)」二門。そして私オススメ、対複合装甲用超振動薙刀「夢現(ゆめうつつ)」、薙刀って渋カッコ良いよね!
そしてさらに極め付けが・・・!
「マルチロックオン・システ―――ムッ!!」
「・・・テンション、高い・・・」
「3日くらい寝て無いから~」
同室の本音ちゃんの言うように、私と本音ちゃんの目の下には深い隈が出来てる。
だからかは知らないけど、物凄くテンションが上がる上がる。
だってマルチロックオン・システムだよ・・・ロマン過ぎるよ!
『打鉄弐式(うちがねにしき)』の最大武装、『山嵐(やまあらし)』。
第3世代技術のマルチロックオン・システムによって1門6発の高性能ミサイルポッドを8基装備、合計48発の誘導ミサイルが複数の標的を撃ち抜くってわけ!
全てを同時にしかも独立稼働って言うのが難しかったけど、時間差方式の導入とミサイルの種類を多少変更することで何とか。
「お? ついに完成したの?」
「あ、黛先輩だ」
「やほー・・・おお~、本当に3人だけでIS製作したんだ」
ひょっこりと顔を出して来たのは、整備科の先輩の黛さん。
新聞部の副部長さんで、悪戯好きそうな表情が印象的な2年生。
何度か友達の人と手伝ってくれようとしたけど、お断りした。
何でって、そりゃ・・・まぁ。
他の国の機体のデータとか、流用しまくりだし。
荷電粒子砲の運用方法は臨海学校で見たラウラさんの砲戦パッケージを参考にしてるし、アサルトカノンなんてシャルルさん(あ、もうシャルルさんじゃ無いのか)だし、マルチロックオン・システムに至っては・・・『
実稼働データサンプルは『黒叡(こくえい)』のだし・・・うん、他の人にはとても見せられないよ。
「これで、次のイベントには一緒に出れるね!」
「・・・う、うん・・・」
「良かった~、また巻き込まれたらどうしようかと~」
その意味で言うと、『打鉄弐式(うちがねにしき)』って束お姉ちゃんの技術も入ってるよね。
おお、自分で言うのも何だけど凄そうな気がしてきた・・・。
Side 更識 簪
「これで、次のイベントには一緒に出れるね!」
そう言って笑った楓は、凄く魅力的だった。
私みたいに沈んで無くて、根暗でも無くて・・・輝いていて。
全然、違う・・・そう思った。
「ちょっとデータ見せてよ」
「え」
「・・・何で固まんのよ」
「い、いいいいぃぃいいや、全然やましいことなんて無いですヨ?」
「・・・スクープな予感がするわ・・・」
黛先輩にまとわりつかれてる楓は、どこか楽しそうにも見える。
明るくて、人当たりが良くて、いつもニコニコしてて。
そして、お姉さん達が大好きで・・・。
お姉ちゃん・・・楯無姉さん。
手が届かない、高みにいる人・・・優しくて、完璧で、美人で、強くて・・・。
私なんかと、比べ物にもならない。
ISだって、楯無姉さんはほとんど1人で作ったって・・・。
だから私も、1人でって思った・・・んだけ、ど。
「うみゅ~」
もぞもぞ、と私の膝に頭を乗せて寝始めた本音が、目に入る。
幼馴染で、楯無姉さんの従者の虚さんの妹。
虚さんも、姉さんと同じくらい優秀で・・・本音は、昔から比べられてた。
それでも、本音も・・・ちゃんとしてる、私と違って。
顔を上げると、試験飛行がまだ残ってるけど・・・第2整備室にある他の専用機と比べても遜色ない完成度のIS『打鉄弐式(うちがねにしき)』が、私を見下ろすみたいに立ってる。
1人じゃ、できなかった・・・けど。
でも、やっと完成した私の機体。
・・・どうして。
「どうして、私なんかを手伝ってくれたんだろう・・・」
「むぅ~?」
「え・・・あ」
いつの間にか、声に出てた・・・?
膝の上の本音がパッチリと目を開けて・・・すぐに眠そうにしたけど、私を見上げてきた。
見てみたら、楓も。
・・・恥ずか、しぃ・・・。
頬が熱くなって、隠れるように俯く・・・でも本音はすぐ下にいるから・・・。
「何でって・・・ねぇ?」
「だね~」
「・・・?」
楓と本音が、視線を交わし合って笑う。
それがまた、恥ずかしくて・・・わた、し。
「「お友達だから」」
・・・とも、だち?
「簪ちゃんが好きだから、手伝いたかったんだよ」
「うんうん、かんちゃんは意外とわかってないよね~」
すき・・・わたしが?
私が、好き・・・?
そんなことを言われたのは、初めて。
初めて・・・だけど、凄く・・・優しい。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
それは、とても・・・嬉しい、気持ち。
「・・・あり、がと・・・」
私がそう言うと、楓も本音も笑ってくれた。
それが嬉しくて、私も笑顔になる。
そして・・・。
パシャッ。
・・・写真、撮られた。
黛先輩に。
「・・・ご、ごめん。シャッターチャンスだと思って身体が勝手に・・・」
私達に見つめられて、黛先輩がバツが悪そうに頬を掻いて・・・って。
け、消して、消してくださ・・・!
楓も笑って無いで助けて、本音は焼き増しとか頼まないで・・・っ。
Side 凰 鈴音
「ん・・・っしょ、ああ、もう! このジャガイモ、切りにくい・・・っ」
夕方5時、私は一夏の家で晩御飯を作ってる。
肉じゃがって言う日本の女の子が必ずできるらしい料理、でもジャガイモが切りにくい。
酢豚とかなら得意なんだけど・・・っ。
「お、おい・・・そんなに細かくしたら・・・」
「うっさいわね! アンタは自分の作りなさいよ!」
「む、無理をせず自分の得意分野で頑張れば良いのでは・・・」
「ご忠告ありがと!」
私はエプロン姿だけど、隣で一緒に夕飯を作ってる箒は割烹着姿。
作ってる料理も一夏の好きそうな和食・・・く、できるわね・・・。
私も中華料理にしようかと思ったんだけど、一夏は父さんの味を知ってるから・・・肥えてるのよね。
とは言え、千冬さんは今日は仕事でいないって言うし、絶好のチャンス!
箒がいるのが予想外だったけど、でも一騎討ちなら負けない。
私の方が、最近の一夏の味の好みってのを把握してるんだから。
「な、なぁ・・・本当に手伝わなくて良いのか・・・?」
「大丈夫よ、アンタはテレビでも見て待ってなさいよ」
「男子厨房に入らずだ、一夏」
「あ、ああ・・・」
たまに一夏が凄く心配そうに台所までやってくるけど、それは箒と一緒になって追い返す。
昼間は3人でゲームとかしてたけど、ここは女子の空間よ。
自分だけが楽してるって言う状況に慣れて無いからだろうけど・・・。
まったく、そう言う所は昔からちっとも変わらないんだから。
「・・・そう言えばさぁ」
「何だ」
「アンタ達・・・つまり箒と楓ってさ。あ、あと一夏もか・・・卒業したらどうするわけ?」
私やセシリア達は、IS学園を卒業したら本国に帰ることがもう決まってる。
まさか日本で就職なんてできないし、基本的に軍人か軍属・・・ラウラはもう軍人か。
シャルル・・・じゃない、シャルロットはわからないけど。
でも、箒や楓、一夏は・・・やっぱり、どこかの国か企業に押し込められるのかしら?
ただ3人の機体は凄く貴重で強力だし・・・。
べ、別に心配とかしてるわけじゃないわよ。
ただ、まぁ・・・気になるだけで。
友達だしね、一応。
「卒業したら・・・か。いや、進路については何も考えていないが・・・」
「・・・そっか。まぁ、そうよね」
「鈴はどうするんだ? 母国に帰るのか?」
「うーん、たぶんそうなると思うけど・・・」
たぶん・・・って言うか、まず間違いなく軍に入るわね。
今でも少尉相当の軍属扱いだし、候補生は大体、軍に入隊して出世するから。
たぶん中尉くらいからスタートして、2年くらいで佐官に上がると思うけど。
「そう言えば鈴は一度、帰省したのだったな。母国では何をしていたんだ?」
「ん? こことあんまり変わらないわよ。訓練とか・・・」
・・・訓練。
私は結局、2週間くらい中国で過ごしたけど。
その中で、実戦に近い訓練をやらされた。
台湾本島をぐるりと一周、もう軍隊に入ってる国家代表の操縦者達に混じって。
ここの所、海峡の情勢が不味いとかって理由で。
同じ時期にアメリカ軍と韓国軍が黄海で実弾訓練してたから、それに対抗する意味もあるとか。
セシリア達との交流制限は、もう解除されたけど・・・。
「・・・鈴?」
「・・・あ、うん。早く作っちゃいましょ、一夏がお腹すかせてるわよ」
「あ、ああ・・・」
訝しげな顔をする箒に笑顔を見せて、料理を続ける。
一夏のことを想うと、ささくれだってた心が温かくなるのを感じる。
・・・でも、卒業したら。
IS学園を卒業したら、私達、どうなっちゃうんだろうね。
この夏休みは、そんなことを思う日々だった。
ルームメイトのティナとも、今ちょっと微妙。
「・・・なぁ、やっぱり俺も」
「「しつこい!!」」
・・・一夏。
大好きだよ。
◆ ◆ ◆
―――――英国、スコットランド・・・ルーカース空軍基地。
日本では日が沈もうと言う時間、この地ではまだ日は昇ったばかりだ。
そしてここは、英国領空を守る実戦部隊が配備されているれっきとした軍事基地である。
だが、その強力な戦力を備えているはずの基地は、蹂躙されていた。
蹂躙、と言っても・・・もちろん、広大な基地の一部に過ぎない。
だがそこは、まさに戦場だった。
本来、あり得べからざることである。
世界有数の戦力を持つ英国軍が、侵入・侵略を許しているのだ。
しかも相手は・・・。
「・・・脆いな。まぁ、ただの人間ならこの程度か・・・」
相手は、1人の少女だった。
イギリス空軍の制服に細い体躯を包んではいるが、明らかに10代半ばの容姿。
短い黒髪と黒い瞳・・・アジア人。
少女の周囲には、研究所や倉庫だった物が散乱している。
まだ燃えている箇所もあり、致命傷では無いが血を流している人間もいる。
それら全てを無視して、少女は右手を掲げる。
そこには、小さなアクセサリーのような物体・・・待機状態のISがあった。
ここルーカース基地は空軍の基地であると同時に、ISの基地でもあったのである。
「・・・これで、ねぇさんに・・・」
鳴り響くアラート、数分もしない内に数十人の兵士達が銃を手に詰めかけて来た。
屈強な男達は、少女の姿に一瞬だけ戸惑うが・・・すぐに銃を構え、何事かを叫ぶ。
少女は、笑みを浮かべて・・・右手を、握り込んだ。
そこから、光が溢れて―――。
―――15分後、イギリス各地からIS部隊がルーカース基地に到着した。
しかしその時には、侵入者はすでにおらず・・・燃え盛る基地が残るばかりだった。
後書き(in 沖縄)
*と言うか、空港。
篠ノ之 楓:
(ずずー・・・)・・・ねぇ、箒姉さん。
篠ノ之 箒:
(ずずず・・・)・・・何だ。
篠ノ之 楓:
このお蕎麦さぁ、どっちかって言うとおうどんだよね、小麦粉だし。
篠ノ之 箒:
沖縄の蕎麦らしいが・・・これはこれで美味しいな。
篠ノ之 楓:
そだね(ずずー・・・ごくん)。
*2人の旅行は、極めて平和裏に終了した模様。