Side 篠ノ之 楓
「あわわわっ・・・わ、忘れてた~」
「き、今日から、新学期だった・・・!」
両側から本音ちゃんと簪ちゃんの声を聞きながら、
今日も今日とて、早朝から3人で整備室に籠ってて・・・まだ夏休み気分だったよ!?
そしてまさに今、3人で先生に見つからないように廊下をダッシュ中。
し、新学期早々、遅刻なんかしたら千冬姉様に殺されるよ・・・!
4組の所で簪ちゃんと別れた後も、私と本音ちゃんはまだ後2クラス分走らないといけない。
でも、私は50メートル走で何と驚異の13秒フラット・・・!
「お・・・?」
いつもは3組とか素通りしかしない―――2組には鈴さんいるし―――んだけど、今日はちょっと珍しい光景が。
3組の扉の前に、2人の女の子が立ってたから。
1人は大人しそうな長い黒髪の女の子で、もう1人は何か粗野な感じの薄青色の混じった白髪の女の子。
初めて見る顔だ・・・同じ廊下に1年生は集まってるから、全然見覚えの無いって人は珍しいんだけど。
廊下に立って待ってるってことは、もしかして転校生とかかな・・・?
「・・・?」
気のせいかな、私をすっごく見てるような・・・?
でも知り合いじゃないし・・・はっ、もしかして私とお友達になりたいとか?
「楓ちん~」
「うひゃっ・・・ごめん!」
ふいっ・・・と女の子達から視線を逸らして、加速。
今は他のクラスの転校生よりも、千冬姉様の出席簿を避けないと・・・!
だ、ダッシュだ―――!!
「・・・はーい、皆さん。夏休みは楽しめましたか~?」
「「「は―――いっっ!!」」」
その甲斐あってか、山田先生とほぼ同時に教室に入ることに成功。
あ、危なかった~・・・って、千冬姉様、どうして舌打ちしながら出席簿をしまうの?
「気のせいだ」
そ、そう・・・気のせいなら、仕方が無いね・・・。
そんな私達が席につくのを待って、山田先生が改めて口を開く。
気のせいか、その表情は少し緊張してるみたい。
「えー・・・すでに知っている人もいるかもですが、デュノア君がお国の事情で夏休みの間にフランスに帰国しました」
「「「・・・はぁ~ぁ・・・」」」
その言葉に、クラスのテンションが急激に下がる。
シャルルさんはあらゆる意味で人気者だったから、仕方無いよね。
・・・まぁ、実際には帰って無いんだけど。
「そ、その代わり・・・と言うわけでは無いんですが、今日から新しいお友達が増えます」
「お友達・・・転校生ですか!? この時期に!?」
「私の情報網にかかってないわよ!?」
「男の子ですか!?」
「お、落ち着いてー! 転校生は女の子です! えー・・・とりあえず、入ってきてください!」
山田先生の声に、廊下から静かな声が返ってくる。
それは知っている声、意識的にそうしているのか少し声が高い。
そして・・・。
「シャルロット・D・コルデです。ロシアから来ました、よろしくお願いします」
流暢な日本語でそう挨拶したのは、編んでいた髪を解いて金髪を腰まで垂らした女子。
コルセットや補正スーツを脱いだからか、女性らしい曲線のある身体。
来ている服は・・・当然、女子の制服。
シャルル・デュノア改め・・・シャルロット・D・コルデ。
これが、「初対面」だった。
Side 織斑 千冬
やれやれ・・・夏休みが終わってもガキ共は元気だな。
元気が無いよりは良いが、あり過ぎるのも困った物だ・・・。
午前の授業で使う第3アリーナのチェックを行いながら、溜息を吐く。
私が今いるのは第3アリーナのピット・ルームだが・・・思えばここは、一学期に一夏がオルコットと戦った場所だな。
と言って、だから何だと言う話ではあるが・・・。
「・・・言いたいことがあるのなら、隠れていないで出て来たらどうだ?」
「別に隠れているわけじゃないさ」
ここに来た時から感じていた視線に対して声をかけると、思いのほか早く返事が返って来た。
ゆっくりと時間をかけて振り向いてみれば、そこにはカジュアルスーツを着こなした金髪の女がいる。
腕を組んで柱に寄りかかり・・・確かに、隠れているようには見えない。
「ここは関係者以外は立ち入り禁止だ、ジーナ」
「私はれっきとした関係者だよ、チフユ」
どこか相手を嘲弄するかのような笑みを浮かべるのは、ジーナ・ワトソン。
かつて、私とモンド・グロッソで戦ったことのある相手だ。
「戦って無いだろう、チフユ。少なくともお前が棄権した第二回大会では・・・あの時は本気で腹が立ったが、まぁ、今は良いさ」
「・・・そうか。それでジーナ、アメリカにいるはずのお前が何故ここにいる」
「言っただろう、関係者なんだよ・・・私『達』は」
そのジーナの言葉と共に、ピット・ルームの廊下側の扉が開く。
そちらに視線を向ければ、2人の女が立っている・・・どちらも私の知り合いで、どうでも良い情報だろうが美人だ。
1人は片方の目が髪で隠れている20代前半の女と、琥珀色の瞳の20代後半の女。
「・・・アデリタに、レディアか」
「久しぶりですね、『ブリュンヒルデ』」
「前の大会以来、でしょうか・・・?」
呻くように呼んだ私に対して、2人の女はおかしそうに笑う。
私をブリュンヒルデと呼ぶな、その呼び名は嫌いなんだ。
舌打ちしたいような心境になったその時、正面のジーナが何かのカードを投げてよこした。
ところがそれは、カードと言うよりただのネームプレートだった。
そこにはジーナの名前と・・・何?
「アメリカ人生徒管理官・・・?」
「候補生管理官ってあるだろ。それのまぁ・・・全生徒版だな。よーするにIS学園の警備が信用できないから、それぞれの国が学園にいる自国の生徒を守る番犬を派遣してきたってわけだよ」
ジーナの説明を聞きながら扉の方の2人を見ると、レディアは「イタリア人生徒管理官」、アデリタは「スペイン人生徒管理官」と書かれた自分達のプレートを見せて来る。
なるほど、そちらからか・・・確かに今年に入って、この学園は2度も謎の襲撃を許している。
学園に通う生徒の半数近くが外国からの留学生である以上、諸外国がその保護のために手を打つのは自然だ。
たとえそれが、名目だけだとしても。
「私達だけじゃない、今後各国から私達のような人間が続々と送られて来るでしょう」
「すでに豪州は人を送っているとか・・・」
「まぁ、そう言うわけで・・・」
だが、その真の目的は別にあるのだろう。
一夏・・・第4世代機・・・そして、対IS用IS。
これが、世界の反応か。
「よろしく頼むよ、警備責任者殿?」
いっそ朗らかな笑顔で、ジーナは言った。
・・・代表候補生の増加だけでも、大変だと言うのに。
頭が痛いな、まったく。
Side 更識 簪
『打鉄弐式(うちがねにしき)』、第2世代型IS『打鉄(うちがね)』の発展形。
最初は2・5世代くらいの性能だったけど、楓と本音のおかげでマルチロックオン・システムが実装できた・・・コレは、第3世代相当。
だから、私の機体は第3世代に足をかけてる・・・んだけど。
ギィンッ・・・激しい音を立てて、互いの近接用武器が打ち合う音が響く。
忘れられてるかもしれないけど・・・私、一応、日本の代表候補。
機体もある今、クラスの模擬戦にも参加できる・・・。
「・・・っ!」
対複合装甲用の薙刀をくるりと回して、相手の近接刀と鎬を削るようにしながら後退する。
相手も近接用の武器しか持っていないから、そのまま追撃してくる。
第2アリーナの模擬戦授業、新学期初日は3組と4組の合同授業・・・相手は、3組の「転校生」。
朝は、ちょっと遅刻しかけたけど・・・。
「・・・流石、更識」
「・・・立道も・・・相変わらず」
私と模擬戦してるのは・・・3組の転校生・・・立道 雪音、日本の代表候補生。
乗っているのはウイングスラスターを2基装備した、灰色と黒のラインが入った白のIS。
日本の第3世代試験機『雷刃(らいじん)』、装備してる近接刀は『雷切(らいきり)』。
・・・立道とは、中学の候補生訓練時代からの知り合い。
私と違ってIS学園に入らなくて、政府特務機関の施設で研究所にいたはずなんだけど・・・。
たぶん、政府の命令で来た。
何のために? それは・・・きっと。
「チンタラやってんじゃねーよ、コノヤロウ」
「「・・・!」」
立道から一旦、離れる。
片手で薙刀を回しながら後退、直後にさっきまでいた場所が爆発する。
中から土煙を払いながら出て来たのは、もう1人の「転校生」。
子供みたいな体格な女の子で、薄青色のISスーツには企業のロゴが入ってる。
『打鉄弐式(うちがねにしき)』のデータベースにある情報だと、登録機体名『タイニー・ウィッチ』。
アメリカの第3世代試験機、搭乗者は・・・エリス・シール。
立道と同じ、代表候補生・・・たぶん、同じ目的で日本に来た。
頭の片隅に浮かぶのは・・・夏休みの終わり頃に来た、日本政府からの秘匿メール。
「更識・・・模擬戦、続ける?」
「ああ? 無視してんじゃねーよ、コノヤロウ」
「け、喧嘩しないで・・・」
西洋のファルシオンを思わせる刃が幅広な実体剣を肩に担ぎながら、シールさんが言う。
・・・合計10基の小型スラスターを積んだ、「アワー・アルレート社」独自仕様。
楓が見たら、「分解して良い?」とか言いそう・・・と言うか、絶対に言う。
でも・・・楓・・・危ないよ。
新学期になってから新しく学園に来た人達は皆、楓が・・・『黒叡(こくえい)』が見たくて来てる。
日本政府からは・・・織斑くんと箒さんを含めて、そしてそれ以上に・・・。
『篠ノ之 楓とその機体を、国外に出すな』
・・・そう、言われてる。
立道が来たのは、監視・・・と言うか、増援・・・みたいな。
今はまだ、楓を守りたいって言う私の気持ちと、政府の方針は・・・ズレてない、けど。
もし、それがズレたら・・・私、どうしたら・・・。
・・・楓は、私の・・・。
Side 更識 楯無
こう言うの、板挟み・・・って言うのかしらね。
私はIS学園生徒会長でもあるけど、同時にロシアの代表操縦者でもあって、ついでに言えば対暗部用暗部の更識家当主って言う3つの顔を持ってるのよね。
「まぁ、後は花も恥じらう乙女って顔もあるけど」
「左様ですか、お嬢様」
「やん、お嬢様はやめてってば」
「失礼、つい癖で」
いつもの学園、いつもの生徒会室。
私はいつものように、虚(うつほ)ちゃんの給仕を受けつつアレコレ考えていた。
考えてることはもちろん、悪いこととか嫌なこととか汚れてることとか。
・・・あれ、私って乙女よね?
「・・・でも、3つの顔を持つ女って意味で言うとカッコ良いわよね」
「左様ですが、僭越ながら幼馴染としてもお顔もお持ちかと」
「嬉しいこと言ってくれるじゃ無い、虚ちゃん」
いやー、忙しいわね。
1年生と3年生に一気に候補生が増えたから、生徒会の書類仕事もその分増える。
学園祭も近いし、生徒が多国籍過ぎてまとめられなくて、自主性に任せる~なんて言葉で投げざるを得なかった学校だものね。
専用機持ちが増えれば、それだけ整備科の需要も高まるし。
本国からスタッフ連れて来るような子は、流石にいないしね。
おまけに、外国出身の生徒を「不測の事態から保護する」ためにモンド・グロッソ級の国家代表が続々と入ってくるし・・・。
これ程の外圧を受けたのは、学園始まって以来じゃないかしら? そんなに歴史無いけど。
「虚ちゃん、貴女の学年にも専用機持ちっているわよね?」
「ええ、一応は・・・酷く面倒くさがりだと聞いていますが」
「そーねー、でもできれば仲良くしといてね、その子とも」
「畏まりました」
一夏くんに、箒ちゃんか。どうしようかしらね。
世界最強の専用機を持ってるのに、操縦技術はジュニアスクール並と言う危な過ぎる2人。
もう本当、どうしようかって感じなんだけど・・・問題は。
「楓ちゃんよねぇ・・・」
本人にその気が無い分、一夏くんよりも厄介だわ。
簪ちゃんいるし、シャルロットちゃんもつけてるけど・・・うーん。
自覚、あるのかしらね・・・無いんでしょうね、きっと。
10年前の篠ノ之博士と、同じで。
自分が、世界中から注目されているってことに。
それは、一夏くんと箒ちゃんにも言えることだけど・・・。
・・・あの子達に「自分がどんなに凄い物を持ってるか」って言うのをわからせるには、どうすれば良いのか。
・・・織斑先生の苦労が、わかるわね。
Side 篠ノ之 楓
私は今、割と人生で初の事態に陥っているよ・・・。
いや、何と言うか・・・自分が日本人なんだなぁって思う瞬間って、割と無いと思うんだけど。
今、私は日本人としてのプライドを試されてるような気がする。
「うふふ~、楓ちんはお茶漬けは番茶派? 緑茶派? 紅茶派? ちなみに私はウーロン茶派~」
「お茶漬けに派閥があったなんて、初めて聞いたよ本音ちゃん・・・」
「なんとこれに~・・・卵を乗せます」
「しかも生卵!?」
「ぐりぐりぐーりぐーり~♪」
卵と紅鮭がグッチャグッチャになったお茶漬け(しかもウーロン茶!)は、凄まじいまでの粘り気を見せていた。
本音ちゃん、本音ちゃんはどうしてそれを鼻歌交じりでかき混ぜることができるの・・・?
お昼ご飯に食堂でお茶漬けを頼むのはアリだと思うけど、これはちょっと。
前に目玉焼きとかショートケーキとかうどんのかき揚げとかで喧嘩したことあるけど、コレは何と言うか、次元が違うよ。
物凄く「ずぞぞぞ~」って音立てて食べるし・・・箒姉さんがいたらキレられるよ?
「ねぇ、簪ちゃん」
「・・・え?」
「いや、本音ちゃんのお茶漬けがヤバいって話」
「あ、ああ・・・うん。昔からだから・・・」
む、昔からなんだ・・・幼馴染が言うだけに歴史を感じる。
ここの所、一日の食事の3分の2はこの3人で食べてるけど・・・お友達と一緒にご飯って、いろいろなことがわかって面白いよね。
ちなみに私は普通にざる蕎麦、まだまだ残暑厳しいよね。
「かんちゃん、どうしたの~?」
「うん、何かいつもよりぼんやりしてるよね」
「そ、そんなこと無い・・・けど・・・」
気が付けば、簪ちゃんはお昼ご飯の親子丼にほとんど手を付けて無かった。
ちゃんと食べないと、午後の授業でダウンしちゃうよ?
「午前の模擬戦で、疲れちゃって・・・」
「あー、簪ちゃんのクラスは実戦授業だったんだっけ。『打鉄弐式(うちがねにしき)』、大丈夫だった? 不具合とか」
「だ、大丈夫・・・でも、放課後に付き合ってほしい・・・」
「うん、良いよー」
まぁ、完成したとは言っても実稼働時間が短いからね、こまめに調整しないとね。
私と簪ちゃんの子供みたいなものだもんね、『打鉄弐式(うちがねにしき)』は。
「あれ、私は~?」
「もちろん、本音ちゃんも一緒だよ! あれ、でもこれって重婚・・・?」
「誰が誰のお嫁さんなの~?」
え、そ、そうだね・・・誰が誰のお嫁さんか・・・。
・・・じゃあ、簪ちゃんが私のお嫁さんで、本音ちゃんが簪ちゃんのお嫁さんで、私が本音ちゃんのお嫁さんってことでどうだろう?
「・・・馬鹿・・・」
「バカって言われた!」
「かんちゃん、ひどぅい!」
本音ちゃんと2人、簪ちゃんの容赦の無いツッコミにショックを受ける。
でも良かった、簪ちゃんがちょっと笑ってくれた。
お友達が沈んだ顔してると、私も悲しくなっちゃうから。
Side セシリア・オルコット
「・・・思ったよりも、元気なようですわね」
「自分の置かれている状況を理解できていないだけだろう、つまりただの馬鹿だ」
「て、手厳しいね、ラウラ・・・」
もしかしたら、自分の周囲の異常な空気に気付いて気に病んでいるかと思いましたが。
どうやら、それは考え過ぎだったようですわね。
まぁ、誰かに直接何かをされたわけではないでしょうし、仕方無いですわね。
いつもの食堂、楓さん達から少し離れた位置のテーブルで食後のお茶を楽しんでおります。
とは言えもちろん、偶然この距離感のテーブルを選んだわけではありません。
さらに少し離れた位置には一夏さん、箒さん、鈴さんが座っているテーブルもあります。
つまり、この位置に座りたかった、と言うわけですわ。
「それはそれとして、新生活はいかがですか? シャル・・・ロットさん?」
「うん、悪くないよ。ただ・・・やっぱり顔がシャルルだから、驚かれるけど」
「それは・・・そうでしょうね」
何と言っても、性別が変わったのですから。
フランスの方は、少々ゴタついてるようですけど。
しかし現在は、欧州も微妙にパワーバランスの変化が起きておりますので・・・。
「まぁ、とりあえずは無事と言うことで、良かったですわ」
「ありがとう、セシリア」
にっこりと笑顔を見せてくれるシャルロットさんに、私も口元を綻ばせます。
詳細まではわかりませんが、シャルロットさんは生徒会に出入りしているそうですけど・・・。
友人が不幸になるのは、あまり気分のいいお話ではありませんものね。
その意味では・・・。
「・・・一夏さん達には、同情を禁じ得ませんわ」
「意味の無い感傷だな、我々は本国の命令に従う。それだけで良い」
「・・・そう、ですわね」
と、言うよりも・・・それ以外の選択肢がありませんもの。
本国、そして・・・欧州連合。
私達に命令を下す、上位の存在。
それに従わなければ、私達が今の立場を失ってしまいますもの。
そしてそれは、結局は祖国の利益に繋がる。
もちろん、現場での判断と言うのもそれなりにはあるでしょうけれど。
最終的には、本国の判断ですわ。
「・・・見ない顔が、増えましたわね」
「そうだな」
「・・・うん」
食堂を見渡せば、一部にこれまで見なかった顔がいくつもありますわ。
そしてそれは、ここ最近で急に増えたこともわかっています。
さらに言えば・・・どうして、ここに集まっているのかも。
Side 山田 真耶
あうぅ・・・気が付いたら、もう放課後になってました・・・。
定められた授業をこなしていると、いつもすぐに時間が過ぎちゃいます。
それに最近は、いろいろな事務処理とかがあって・・・。
「ほぅ・・・」
お茶を飲んで、ほっこり一息つきます。
今日は新学期最初の日でしたから、特に大変でした。
デュノアく・・・じゃ無かった、コルデさんのこともそうですけど・・・。
「織斑くんに、箒さんに・・・楓さん、ですか」
特に、楓さん・・・ですね、この場合。
3人の個人票を指先でつつきながら、何度目かわからない溜息を吐きます。
代表候補生でも無いのに専用機持ち、しかも未だに無所属。
どの国もISは喉から手が出るほど欲しい、軍事力に直結するから。
私の代表候補生時代は、今よりもハードでしたし。
まだISが世に出て間も無くて、一応の秩序が完成したのは最近の話で・・・。
・・・それが今、また揺らいでる。
しかも原因はまたしても、あの篠ノ之博士。
でもだからこそ、各国も力尽くで奪うのだけはまだ避けてる。
「お疲れ様」
「あ・・・オニール先生、お疲れ様です」
その時、職員室の隣の先生がお手洗いから戻って来ました。
3組の副担任でもあって・・・私の同期です。
ミランダ・オニール先生、元カナダの代表候補生。
背中の途中まである赤毛が魅力的な、おっとりした美人さんです。
「正直、今まで他のクラスばっかり代表候補生抱えて羨ましいって思ってたこともあったんだけど・・・」
「ああ、今日から3組にも・・・」
「うん、2人も来た・・・大変なんだね、候補生の教え子って・・・」
どこか疲れた様子で、オニール先生がデスクに突っ伏した。
お、お疲れ様ですとしか、言えない・・・。
と言うか、今年は本当に異常事態ですよ。
1年生に、2桁も専用機持ちがいるなんて・・・。
「・・・私も、仲間ができて嬉しいです」
「薄情者~・・・」
いえ、この苦しみを分かち合える人が増えて嬉しいだけです。
今度、飲みに行きましょう。
「・・・で、山田先生は今なにを?」
「織斑先生に頼まれて、新しい警備システムの申請書類を・・・でも予算、下りるかな」
織斑先生とは最近、地下の隔離施設で例の無人機の解析を続けてる。
もちろん、整備のスタッフが実務は全部やっちゃうんだけど・・・。
でも外部からの電波をシャットダウンするシステムって、使い所が狭くて予算が下りるか・・・。
・・・はぁ、がんばろ。
Side 篠ノ之 楓
放課後、私は簪ちゃんと一緒に第6アリーナにいた。
中央タワーと繋がってて、学園のアリーナの中では唯一高速機動の練習ができる場所。
本音ちゃんがコントロール・ルームからサポートしてくれてるから、ハードを弄るのは私で、『打鉄弐式(うちがねにしき)』を装着してソフト面の調整をするのは簪ちゃん。
あーっと・・・今日の模擬戦では脚部ブースターの調子が悪かったらしいから、そこ見ようかな。
えー・・・レーザーカッターは、と。
「痛い所はありませんか~?」
「・・・無い」
「そこで真面目に答えられると、やるせなくなるんだけど・・・」
キリキリキリ・・・とロックした装甲の中に器具を入れて回す。
PIC干渉領域とか偏向重力推進角錐(グラビティー・ヘッド)の調整とかは簪ちゃんがコンソールでやるから、こっちは加速時のシールドバリアーの展開をー・・・。
・・・うん?
「楓は・・・IS触る時、楽しそうだね」
「ん、そう? 私にとっては呼吸するみたいに普通なことなんだけど」
何せ、束お姉ちゃんに病院から連れ出された後はIS漬けだったもんね。
IS工学の基礎理論から始まって、寝る間も惜しんで機械弄り。
最初は火傷したり指切ったり爆発したり、大変だったなー。
束お姉ちゃんは教科書とか使わないから、全部口頭とか直接の指導だったし。
むしろ、くーちゃんさんの方が丁寧だったんだけど・・・あ、終わった。
「それじゃ、簪ちゃん。試運転行ってみようか」
「うん・・・」
最後のシステムチェックを済ませて、簪ちゃんがピットの偏向重力カタパルトに乗る。
数秒後にゴーサインが出て、簪ちゃんがアリーナの空に上がる。
その後に私も『黒叡(てんかい)』を展開、すぐに後を追って空へ。
別に超高速機動でやるわけじゃないから、バイザーとかはいらないよね。
ふわり、身体にかかる一瞬の浮遊感とPICに「掴まれる」感覚。
滑るように飛びつつ加速、少し前を飛んでた簪ちゃんに追いつく。
隣を並走しながらディスプレイを開いてナノマシン散布、簪ちゃんの機体状態を常に把握できるようにする。
「それじゃ・・・行く・・・」
「うん!」
『あいあいさ~』
コントロール・ルームからの本音ちゃんの通信も常に画面の端に表示、3人で『打鉄弐式(うちがねにしき)』を各部位・各システムをチェックする。
スラスター出力も機体制御システムも問題無いね・・・良いことだ。
『打鉄弐式(うちがねにしき)』はスペック上はかなり速い機体だから・・・あっという間に、私を引き離して折り返し地点・・・タワー頂上へ。
「システムに問題は無い?」
『・・・大丈夫・・・』
『こっちでも問題は無いっぽい~』
通信で響く2人の声に、ふむふむと頷く。
じゃあ、とりあえずデータ取って調整かな。
私は『黒叡(こくえい)』を低速移動させつつ、折り返し地点から戻ってくるはずの簪ちゃんと合流するために地表に移動・・・。
そう言えば今日、簪ちゃんって日本とアメリカの試験機と模擬戦したんだよね、見たいなぁ。
そこにはきっと、私が知らない技術が詰まってるはずだもんね。
まぁ、どーせ国籍の関係で見れないだろうけど・・・。
仕方無いから、また細々とデータ解析するかな。
Side 更識 簪
緩やかに動いて行く景色の中で、私は『打鉄弐式(うちがねにしき)』の各種計器をチェックする。
PIC正常・・・姿勢制御システム正常・・・反重力制御正常、
ハード面での問題は無い、楓の整備は正確・・・。
視線を動かすと、ISのハイパーセンサーが地表に降りて行く楓を捉えてる。
それを見て、少し・・・心配に、なる。
楓はただ、ISに・・・触れてれば、満足、なんだろうけど・・・。
「・・・本音・・・」
『はいは~い、お嬢様~。何か問題~?』
「機体は、大丈夫・・・」
機体は、問題無い。
久しぶりに模擬戦をしたから・・・加減が、できなかっただけ。
相手、強かったし・・・。
でも、『打鉄弐式(うちがねにしき)』で授業に出れるようになったのは・・・嬉しい。
けど・・・。
「楓は、どうして・・・ISが、好きなのかな・・・」
『好きなモノは好きだから、しょうがないよ~』
「・・・本音に聞いたのが、間違い・・・」
『ひどぅいっ!?』
プライベート・チャネルでの本音との会話、楓には聞こえない。
でも、私も・・・何が聞きたかったのか、まとまって無い。
自分がどうしたいのか、わからない。
『う~~~ん・・・楓ちんはねぇー・・・』
「・・・」
『ISがね、やっぱり好きなんだと思う~。きっと、お姉さんが何かの目的で作った物だから』
何かの目的で、作った。
でもその目的は、誰も知らない・・・知ってるのは、たぶん篠ノ之博士だけ。
そして少なくとも楓にとって、それは「兵器」じゃない。
でも、じゃあ、どうして篠ノ之博士は・・・。
『現行兵器全てを凌駕する』なんて言って、ISを発表したんだろう。
10年前に篠ノ之博士は言った、ISの前には現行兵器なんて意味が無いって。
それが結局、「白騎士事件」を引き起こして・・・ISコアの奪い合いを誘発した。
楓が信じてるお姉さんと・・・私や、世間が思ってる篠ノ之博士との間には、ギャップがある。
『そして、割と人間嫌い? 世間嫌い? ん~・・・ISを兵器扱いすると、怒るんだよねぇ』
「・・・」
『たぶん、兵器を作るのはOKで~、兵器を使うのはNGな感じ?』
作るのは良いけど、使うのはダメ。
それは・・・。
『前に言ってたよ、楓ちん。ISを兵器にしたのは、兵器にしたがった他の人だって』
「・・・そう」
それは、ある意味では間違って無い、けど・・・でも。
そんなことを言って、何の意味があるのだろう?
それでいったい・・・今の状況の、何が変わるんだろう・・・。
現に楓は、世界から・・・見られてるのに。
「簪ちゃ~~んっ!」
アリーナの地表に降りて行くと、『黒叡(こくえい)』を身に着けた楓が手を振ってた。
私も小さく手を振り返して、少しだけ笑う。
・・・楓に、どう言ったら良いんだろう・・・わからない。
こんな時、姉さんなら・・・・・・。
・・・楯無、姉さん、なら・・・。
どうする、んだろう・・・。
今回初登場のキャラクター:
ミランダ・オニール(カナダ人・IS学園教師):グニル様。
篠ノ之 楓:
新学期だよー!! 今日も箒姉さんは美人さん!
でも何だか、夏休みの終わりあたりから四六時中誰かに見られてる気がするんだよね・・・何だろう?
篠ノ之 束:
お? バレちった?
篠ノ之 楓:
あ、なーんだ、束お姉ちゃんだったの~・・・って、何でここに!?