Side 篠ノ之 楓
その日の夜・・・私は、これまでの人生で最大の衝撃を味わっていた。
衝撃・・・そう、それはまさに衝撃。
想像すらできていなかった、想像の地平の彼方の光景がそこに広がっていた。
場所は、IS学園の一夏さんの部屋。
時刻は・・・6時を少し過ぎた頃。
部屋の真ん中にはもちろん、一夏さんがいる。
「なっ・・・な・・・な・・・?」
そして私の隣には箒姉さん、位置的には部屋の扉の所。
と言っても、部屋の扉は木っ端微塵になってるけど。
口を金魚みたいにパクパクさせてる箒姉さんの手には包みがあって、その中にはさっきまで私と一緒に作っていたお料理が入ってる。
お料理って言うか・・・いなり寿司。
子供の頃、お母さんが良く私達や一夏さんに作っていた物で・・・濃口醤油とさっぱり酢飯の篠ノ之家伝統の味、私は無理だけど箒姉さんが作り方を教わってたんだって。
一夏さんが喜ぶかと思って、一緒に作ったんだけど・・・。
・・・閑話、休題。
「・・・お・・・お、お?」
そして私、箒姉さんに負けないくらい混乱中。
混乱と言うか、困惑と言うか・・・とにかく、衝撃を受けてる。
ある意味、『
そんな私達を見て、一夏さんが慌てて。
「い、いや・・・誤解だ! 違う!」
そう言う一夏さんの隣には、女の子。
別にそのくらいなら、今さら驚かない。
隙あらば一夏さんは部屋に女の子を連れ込んでるから(鈴さんとか)、そこは別に。
た、ただ・・・えっとぉ・・・。
「やっほー♪」
ニコニコ笑いながら手を振るのは、生徒会長の更識 楯無さん。
涼やかな雰囲気と悪戯っぽい笑顔を併存させる不思議な人で、簪ちゃんのお姉さん。
でも今はむしろ、楯無さんの姿が私達の混乱に拍車をかけてるんだけど。
「え、えーと・・・」
・・・あ、ありのまま、今起こったことを話すよ?
私と箒姉さんが一夏さんの部屋に来た、そしてドアを(強制的に)開けた。
そしたら、一夏さんの横で生徒会長さんが裸エプロンしてた。
な、何を言ってるのかわからないと思うけど、私も何が起こってるのかわからない・・・。
ラッキースケベだとか偶発的(ラブコメ)イベントだとか、そんなチャチな物じゃ断じて無い。
もっと恐ろしい物の片鱗を、味わったよ・・・。
「・・・い・・・」
隣で驚愕から努気へと感情を変化させつつある箒姉さん、わなわなと震え始める。
私はすかざずいなり寿司の包みを受け取り、かつ床に姉さんが取り落としてた竹刀を拾って渡す。
ふぅ、これで私の役目は果たしたよ。
それにしてもと、私は思う。
何で、こんなことになってるのかと。
2学期開始早々、どうして血を見ることになりそうなのかと。
そもそもの原因は、そう・・・アレは確か今から8時間ほど前・・・・・・。
◆ ◆ ◆
・・・8時間前・・・
◆ ◆ ◆
Side 篠ノ之 箒
夏休みが明けて新学期に入り、何日かが過ぎた。
最初こそ久しぶりの授業に戸惑いを感じることもあったが、それもすっかり慣れた頃。
・・・のはずだが、ウチのクラスは相変わらず騒がしいな。
「でさー、『白式(びゃくしき)』の燃費が悪過ぎなんだけど・・・」
「そんなことを言われても、そこは機体特性と言うことで受け入れて貰わないと」
「いや、でもさぁ・・・模擬戦する度にエネルギー切れ起こすんだけど・・・」
「それは単純に・・・・・・うん、一夏さんは悪くないよ」
「やめろよ、その慰め! 何だか自分が凄く情けなくなってくるだろ!?」
かく言う私も、楓と一夏と机を寄せ合って朝のホームルームが始まるまでの「お喋り」に興じている。
1学期はこう言うことに参加しなかった私だが、楓と和解してからは少しずつ・・・な。
ちなみに今は、一夏のISに関する話だ。
基本的に、一夏のISの話は単純に燃費の話題であることが多い。
「大体、エネルギー問題ならもう解決してるじゃん」
「は? 何でだよ」
「・・・それ、本気で言ってる・・・んだよね、うん、一夏さんはそう言う人だったよね」
「お前、ISに関しては明らかに俺を下に見て来るよな・・・」
まぁ、確かに一夏のISの燃費の悪さは筋金入りだが。
あの人・・・姉さんの作る物だからな、手加減とか融通とかが効かない。
そんなことを考えていると、楓が私のことをじっと見つめてくる。
・・・さっきの会話から察するに、私が「一夏のエネルギー問題の解決策」なのだろう。
私の・・・『紅椿(あかつばき)』の
エネルギーを増幅させる上にそれを『白式(びゃくしき)』の供給できる、一対の2機。
そ、それにだな・・・。
「絵になる、よね!」
「う、うむ・・・」
「え? 何が?」
ぐっ、と親指を立ててウインクしてくる妹に、間抜けな顔で首を傾げる幼馴染。
顔ぶれは同じかもしれないが、懐かしさと新鮮さを感じさせる。
まぁ、当の一夏にまったく自覚が無いのは歯がゆくもあり何と言うか・・・。
「はーい皆さん、ホームルームの時間ですよー」
その時、山田先生が出席簿を片手に教室に入って来た。
教室中に散っていた生徒達も、三々五々、自分の席につく。
全く・・・一夏の奴めが。
Side シャルロット・D・コルデ
ここ数日は、大変だった。
そりゃ、「シャルル・デュノア」に瓜二つ―――と言うか、本人なんだけども―――な女の子が転校してくれば、大騒ぎになるよね。
幸いシャルルは男の子として最後まで通してたから、僕が正真正銘の女の子だってわかれば納得せざるを得ないだろうけど。
国籍がロシアって言うのも、多少は効果があったみたい。
まぁ、それにしたって似過ぎだって、噂が立つのは・・・これはもう、仕方が無いよね。
ちなみに何で僕が女の子だって証明できたかと言うと・・・実習のためにISスーツに着替えたから。
「うっかり、男子の方に行きかけたけどね」
「私もそう指摘しそうになりましたわ。習慣と言うか・・・慣れって、怖いですわね」
「だね」
隣のセシリアとそんなことを言い合って、クスリと笑い合う。
どことなく、共犯者めいてる。
シャルルの時のように、僕・・・シャルロットはセシリアに面倒を見て貰うように織斑先生に言われた。
ちなみに寮の部屋は、「変わらず」ラウラと同室。
「最初にシールドを使い過ぎたわねっ!」
「まだまだぁっ!」
そしてここ第3アリーナで実習授業をするのは、もう何回目だろう。
・・・いや、「シャルロット」は初めてなんだけどね。
とにかく、今日の授業は1組と2組の合同授業。
で、アリーナの上空では一夏と鈴が模擬戦中。
一夏の機体は第二形態移行(セカンドシフト)してより高性能になったけど、燃費がさらに悪くなった。
今もほぼエネルギー切れ状態、たぶんもうすぐ鈴に負けると思う。
『白式(びゃくしき)』単体だと、ああだけど・・・。
「うぅ・・・次は私が箒姉さんにボコボコにされるんだ・・・」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな! 模擬戦のローテーションなのだから、仕方無いだろう・・・」
横を見ると、箒に慰められてる楓さん・・・楓が、いれば。
楓の機体『黒叡(こくえい)』があれば、『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』の性能がフルに発揮できる。
エネルギー問題は解決するし、何より3機以外は事実上の活動停止状態に陥らせることができる。
ISを制する力を持った、IS。
しかも機体をまともに動かせるのが、篠ノ之博士の技術を持つ楓だけだとすると・・・。
・・・実際、ここの所の世界中でIS関係者が動いてる。
ここIS学園にも、急に代表・代表候補生クラスの人間が増えた。
しかも、これだけの短時間で。
「えっと・・・楓はどうしたの?」
「ああ、シャル・・・シャルロットか。いや、実は楓が模擬戦は嫌だとゴネて・・・」
「箒姉さんと模擬戦とか、それ私に死ねってことでしょ!?」
「人聞きの悪いことを言うな!」
「あはは・・・えっと、楓。ありがとう・・・その、僕の機体」
こそこそ、と小声で楓にお礼を言う。
お礼って言うのは、更識会長の頼みで楓が僕の機体の調整をしてくれること。
僕の機体は見た目こそ少し変わってるけど、基本的に前のままだから。
データを見られると、それだけでシャルルの機体だってバレちゃう。
「ああ・・・それ? 良いよ別に、シャルロットさんお友達だし。それに私もフランスとロシアと日本の技術データ見れるし」
一転、にへっ、と可愛らしく笑う楓。
お友達・・・って言ってくれたのは、素直に嬉しい。
けど、後半の台詞は・・・。
「・・・ああ、そうそう。楓、お昼休み空いてる?」
「む? 何で?」
「実は、楯無会長が・・・」
いったい、楓の中にはどれだけのISの情報が入ってるんだろう。
そしてこれは・・・もう。
僕だけが思ってるわけじゃ、無い。
僕をお友達と呼んでくれる楓・・・僕は。
僕は、楓と言うお友達のために何ができるのだろう。
Side 更識 簪
一応、『打鉄弐式』は完成した。
まだまだ実稼働データが不足してるけど、楓が『黒叡(こくえい)』のデータをくれたから・・・大分、マシな方。
おかげで、授業で使えるまでになった。
それ以来、『打鉄弐式』と『黒叡(こくえい)』のコアが『非限定情報共有(シェアリング)』してるみたいなのが、気になるけど・・・。
コア同士が独自に情報のやり取りをするコア・ネットワーク・・・『非限定情報共有(シェアリング)』。
「それでは、生徒会長から説明をさせて頂きます」
今はお昼休み前の一コマ、いわゆる4時間目。
この時間を使って、生徒会から今度の学園祭に関する説明がある・・・みたい。
実際、壇上で今・・・喋ったの、虚(うつほ)さん、だし・・・本音のお姉さん。
と言うか、本音は壇上の隅で立ったまま寝てるけど・・・虚さん、凄く睨んでる・・・。
「やぁ、皆。こんにちは」
そして・・・虚さんに代わって壇上の中心に進み出て来たのは・・・楯無、姉さん・・・。
自信満々で、でも嫌味じゃなくて、颯爽としてて、存在感があって・・・。
こんなに離れているのに、まるで目の前にいるみたい。
目の前で・・・見下ろされてる、みたい。
「さて、今年はいろいろと立て込んでて挨拶がまだだったわね。私は更識楯無、生徒会長、キミ達の長よ。学業・恋愛・家庭・労働・私生活に至るまで 悩みごとがあれば迷わず生徒会室の目安箱に投書しなさいな」
・・・楯無姉さんが言うと、本気で私生活の問題まで解決されそうで怖い・・・。
まぁ・・・それはそれとして、学園祭の話。
あと1週間くらいで、クラスの出し物とかも出揃うと思うけど。
私、どうしようかな・・・寮に引き籠ってアニメでも見てようかな・・・。
・・・でも何故か、楓と本音に引っ張り回される未来が見える。
そしてたぶん、現実になりそうな気がする。
そう思える自分が・・・恥ずかし、かった。
「・・・と、言うわけで」
「あ・・・」
楯無姉さんの話、聞いて無かった。
まぁ、たぶん聞いて無くても大丈夫・・・だと、思う・・・。
後で本音・・・は無理だと思うから、楓に聞こう・・・。
「学園祭で最も得票が多かった部活動に、織斑一夏を強制入部させます!!」
「・・・えええええぇぇぇぇっっ!? ちょ、何だよそ「「「きゃああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」」」れって、ええ!? 盛り上がるのかよ!?」
「会長――――――ッ!!」
「一生ついて行きます!!」
「素晴らしいですっ、流石です会長っ!!」
更識 楯無、支持率は98%。
・・・何故か、そんな言葉が私の頭に浮かんだ。
織斑君のことは、あまり・・・と言うか、かなり・・・好きじゃない、けど・・・。
でも、今日だけは可哀想だな・・・って、思った。
楯無姉さん、どう言うつもりなのか・・・。
Side 篠ノ之 箒
「コイツはいったい、どう言うことなんだ・・・!」
昼休み、食堂で一夏が頭を抱えて座っていた。
一夏と同じ丸テーブルに座っているのは、私、楓、セシリアと鈴。
鈴など、全校集会が終わると同時に一夏に「どう言うこと!?」と突っかかっていた。
・・・だが、一夏の方が混乱していたので、鈴もすぐに落ち着いたが。
「一夏さぁ・・・何かしたんじゃないの?」
「いや、何もして・・・して・・・して・・・無い、よな?」
「私に聞くんじゃ無いわよ・・・」
いかん、一夏が本気で落ち込んでいる。
ま、まぁ、周囲の女子が自分を巡って争っているのだから、気が滅入っても仕方ないか。
普段なら私も「軟弱な!」と怒る所だが、ここまで一夏がショックを受けていると怒るに怒れない。
「ま、まぁ、何だ。一夏、とりあえず食事にしよう、な?」
「そ、そうだよ一夏さん、お腹が一杯になれば気分も変わるよ」
「そうかな・・・そうだな、飯にするか!」
気を取り直すことにしたのか、一夏が声を上げる。
・・・周りで自分を取り巻いている女子の群れには、目を向けずに。
「そうだよ、俺、今日は鈴と箒に渡したい物があって・・・」
「え?」
「何?」
「・・・私は?」
「も、もちろん楓も」
一夏が取り出したのは、いくつかの包みだった。
何だ、弁当・・・?
「ほら、鈴と箒は1学期に弁当を作ってくれたことあったろ? 今日は俺が弁当を作って来たんだ」
「あ、アンタ・・・相変わらずマメなことするわねー」
呆れたような鈴、だがその手はしっかりと自分の分を掴んでいる。
私も、一夏から手渡された包みを大事に受け取る。
ま、まさか一夏に弁当を貰える日が来ようとは・・・。
「鈴のはもちろん、中華弁当だ!」
「もちろんって何よ」
一夏の宣言通り、鈴の弁当は酢豚やエビチリなどが入った中華弁当。
鈴は酢豚を一口食べて・・・一瞬、表情を輝かせた。
「・・・ん! ま、まぁ、これならお店でも開けるんじゃ無い・・・?」
「いや、その予定は無いから」
「そこは素直に礼でも言っときなさいよ!」
え、えーと・・・私と楓のは・・・。
「・・・わ、和食だ」
「おう、箒と楓は和食弁当だ!」
「ど、どれ・・・」
煮物を一口食べると、醤油と砂糖のバランスが取れた程良い味付けが・・・。
つまる所、う、美味い。
一夏は料理も上手いのだな・・・も、もし一夏とずっと過ごすことになれば・・・。
「い・・・一夏の妻になる者は、幸せだろうな・・・」
「え? 何だよ、いきなり」
「その・・・いつもは、わ・・・私が手をかけて作るが、記念日とか体調が悪い時でも作ってくれたら嬉しいだろうと・・・」
「そっか」
私の言葉に、一夏が重々しく頷く。
つ、伝わったか? 私の言いたいことが・・・?
楓が何かを期待する顔で、そして鈴が緊張したような顔で一夏を見て・・・。
「来年の箒の誕生日には、記念に弁当を作るぜ!」
・・・・・・・・・そうか。
爽やかな笑顔で親指を立てる一夏に、私は何かを諦めた。
どうすれば良いんだ、この男(バカ)。
気がつくと、鈴が私の肩を叩いてくれていて、エビチリを分けてくれた。
ありがとう・・・代わりにこの卵焼きをやろう。
「一夏さんさぁ・・・もう少しさぁ、女の子の言動の意味を深読みしてくれないかなぁ・・・」
「え、何が?」
「・・・どうすれば良いの、束お姉ちゃん・・・」
泣くな、楓・・・きっといつか、一夏にも人並の甲斐性が・・・備わると良いな。
それに、姉さんに助けを求めても何にもならない。
「あっ・・・いたいた! 一夏、楓!」
その時、シャルロットが少し慌てた様子でこちらへと駆けて来ていた・・・。
Side 篠ノ之 楓
ああ、そう言えば会長さんに呼ばれてたんだっけ・・・と言うような感じで、シャルロットさんに手を引かれてやってきました生徒会室。
ところが何故か、一夏さんも一緒で。
「これから2人を、私が鍛えてあげる」
・・・と言うようなお話を、いきなりされた。
良し、落ち着こう。
生徒会室の椅子に座り、出されたお茶―――本音ちゃんのお姉さんのお茶、凄く美味しい―――を一口。
良し。
「もう一度、お願いします」
「うん? 聞こえなかったのかな。これから私が2人のISコーチになってあげるよ」
「よろしい、ならば拒否します」
「えっと、俺も結構です・・・」
「あん、いけず」
いや、いけずって。
向かい側に座った会長さんは、可愛らしく唇を尖らせてる。
えーと・・・。
「と言うか、えーと・・・楯無さん」
「何かな、一夏くん」
「さっきの集会の話なんですけど・・・何で俺が景品になってるんです?」
「ああ、あれ? キミがどこの部活にも入らないのが悪いんだよ、おかげで苦情が山ほど。生徒会はキミをどこかに入れないと不味いって所まで追い詰められたんだよ」
うん、意味がわからない。
私だって帰宅部だよ、箒姉さんと同じ剣道部に入りたいけど練習についてけないから無理だし。
大体、放課後は基本的に本音ちゃんと簪ちゃんと一緒だし。
あ、そう言えば・・・。
「おまたせ~」
ふと気になって見れば、ひょこっと顔を出すはんにゃり笑顔。
その手には・・・って、相変わらず袖長っ。
「うふふー、楓ちん。ここのケーキはね~・・・もう、ちょうちょうちょう、おいしぃんだよ~」
「それはわかったけど、自分の分しか出さないんだね」
「うまうま~♪」
ケーキの入った箱を持ってきたは良い物の、自分の分だけ出して食べ始める本音ちゃん。
まぁ、いつものことかなーと思って、私は私で自分の分を出そ・・・。
ごちんっ。
「・・・ったぁ~~~いっ!」
「本音、まだ叩かれたい?」
「叩かれたくないよっ、もう~・・・っ」
涙目で頭を抑える本音ちゃん、おお・・・よ、よしよーし?
私が本音ちゃんの頭を撫でていると、何故か本音ちゃんのお姉さん・・・虚さんに睨まれた。
「楓さん、あまり本音を甘やかさないで頂戴ね」
「い、いやぁ・・・あはは・・・」
私の後ろに回った本音ちゃんが「んべ~」と舌を出すと、さらに目線が鋭く・・・こ、怖い。
「はいはい、お客様の前よ・・・それでね一夏くん、お詫びに私が鍛えてあげる」
「いや、コーチは一杯いるんで・・・大体、どうして鍛えてくれるんです?」
「弱いから」
グサッ・・・今、何か言葉の槍的な何かが一夏さんの胸を貫いたよ。
まぁ、模擬戦成績、未だに全敗だもんね。
がっくりと項垂れる一夏さんに、会長さんの横に立ってたシャルロットさんが。
「え、ええと、そこまでじゃないと・・・思うよ?」
「さ、さんきゅー・・・シャル」
「シャルちゃんは優しいわねぇ。でも一夏くんは弱いよ、もうめちゃくちゃ弱い。だから鍛えて少しはマシになって貰わないと」
再び襲いかかる言葉の槍。
「・・・シャルロットさんは、何で会長さんと仲良くなってるの?」
「え、ええと・・・それはね」
「シャルちゃんは、副会長なのよ。生徒会長は学園最強で無いとなれないけど、役員はいくらでも増やして良いから」
ふとした疑問を聞いてみると、そんな答えが。
へー・・・シャルロットさん、生徒会に入ったんだ。
とか何とか考えてると、会長さんが困ったような顔をして。
「楓ちゃん、貴女は一夏くんよりも弱くて危ないのよ?」
「IS学園最弱とは・・・・・・私のことだっ」
「カッコ良く言って誤魔化してもダメよ」
いやぁ・・・と言うか、弱くて何が悪いの?
別に私は戦闘巧者になりたいわけでも、学園都市最強を目指してるわけでも無いんで。
ただIS弄りが出来てたら・・・あ、訂正。
「本音ちゃん達と、ISの開発とか出来たらいいなぁ」
「えへ~」
本音ちゃんと一緒に、にぱー。
はんにゃりとした空気が流れるけど、でも何の解決にもならないのでした。
「とにかく、楓ちゃん。貴女には少し・・・と言うか、かなり、意識を変えて貰わないと困るの」
わかる? と困ったお姉さんの顔で私に言う会長さん。
会長さんには前に助けて貰ったこともあるし、だからシャルロットさんのIS整備の件も引き受けたって部分もあるんだけど。
でも・・・やだ、戦いとか嫌い。
痛いのヤダし、非生産的だし、何よりISは本来そんな殺伐とした物じゃないし。
束お姉ちゃんは、もっと優しいことのためにISを作ったんだもん。
と、言うわけで・・・。
Side 布仏 本音
おお~・・・眩しい~。
私がお姉ちゃんに隠れてケーキのフィルムについたクリームを舐めようと思ってたら、楓ちんの笑顔に目を奪われた。
いつにも増して、楓ちんは満面の笑み、それで~。
「絶対、いやです♪」
「まぁまぁ、そう言わずに」
「断固、拒否します♪」
笑顔で、拒否。
流石だよ楓ちん、周りに星が浮かぶくらい笑顔だよ~。
・・・えーと、それで何を嫌がってるんだっけ。
「戦闘訓練とかヤダ」
「なるほど~、私も嫌~」
「だよねー」
楓ちんと目を合わせて、にぱーっと笑顔。
だよねー、お嬢様の訓練すごくキツいしー。
と言うか、楓ちんはビーチバレーもできないんだから、訓練とか無理だよー。
「うーん、困ったわねぇ」
「私のことはお気になさらず」
「そうもいかないのよねぇ・・・ほら、一夏くんからも何か言ってやってよ」
「あ、はい・・・って、俺もまだ了承してないんですけど!?」
あー、おりむーも訓練するんだねー。
気をつけてねー、お嬢様はやると言ったらやる人だから。
それはうちのお姉ちゃんもだけど・・・。
「え、えーと、楓。どうして嫌なの・・・?」
ぐだぐだになって来たからか、シャルシャルが楓ちんに話しかけた。
楓ちんはケーキの苺を先に食べ・・・なんと!?
「ええぇ~! ケーキの苺を先に食べたぁっ!?」
「え、だって上にあったら邪魔だし・・・」
「邪魔じゃないよっ、最後に食べるんだよぉ~」
「え、えーと・・・ね? できたら理由を教えてほしいんだけど・・・」
もー、信じらんないよー。
ショートケーキの苺は最後に食べないといけないんだよー?
「楓は、どうしてISを戦いに使いたくないの?」
「んー・・・逆に聞くけど、どうしてシャルロットさんはISを戦いに使いたいの?」
「そ、それは・・・」
兵器だからじゃないのー?
「ISは兵器じゃない。仮に兵器だとしても、それは他の人が勝手に兵器にしたんであって、IS自体は兵器として作られたわけじゃないもん」
はも・・・ケーキを食べながら、楓ちんは唇を尖らせる。
気がつくと、皆が楓ちんのことを見てた。
シャルシャルは、困った感じで首を傾げてー・・・。
「でも、臨海学校の時とか・・・それに、箒や一夏のISを整備してるのは何で?」
「何でって、束お姉ちゃんと箒姉さんを助けたいって思うのは妹として当然でしょ? シャルロットさんは変なこと言うなぁ」
「そ、そう? ごめんね?」
「良いよ、お友達だもんね。とにかく、私は訓練とか戦いとか、嫌でーす。したい人は勝手にすれば良いよ。いこっ、本音ちゃん」
「ほえ?」
ケーキを食べ終えた楓ちんは、私の手を引いて・・・って、苺がまだなのに~。
ぱたぱたぱた・・・生徒会室の外へ。
かんちゃんの所にでも、行くのー?
「誰かに何かされた後じゃ、遅いのよ?」
直前、お嬢様が楓ちんにそんなことを聞いた。
楓ちんは扉の所で振り向いて、不思議そうな顔をお嬢様に向ける。
そして、笑顔ー。
「平気、束お姉ちゃんと箒姉さんが守ってくれるもん」
凄い幸せそうな笑顔・・・ま、眩しい~。
あー・・・それにしても眠いよ~。
昨日、夜遅くまで壁紙収拾してたから~・・・。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
放課後、我がクラス・・・すなわち1組では来たるべき学園祭の出し物についての話し合いをしていた。
話し合いと言っても合理的な物では無く、各人が自由に発言しているだけだ。
と言っても、主に「織斑一夏をどう使うか」と言う点に集中しているが。
「織斑一夏とツイスター、ポッキーゲーム・・・って、それ誰得だよ!?」
「「「私達が嬉しい!!」」」
「クラス全員で断言しただと!? もう嫌だこんなクラス!?」
織斑一夏は共有財産である・・・と言うのが、我がクラスの合意事項だ。
ただの学生の集団とは言え組織は組織、そこでの合意事項には履行義務が発生する。
「秩序に従え、織斑一夏」
「カッコ良く言ってるとこ悪いけど、コイツら欲望に忠実なだけだからなラウラ!?」
「織斑君には、女子を喜ばせる義務がある!」
「いや、他のクラスとか部活の先輩からとか、いろいろ圧力がかかっててさ~」
「・・・もうやだ、こんな生活」
教室の真ん中で床に手をついて項垂れる一夏、山田先生が女子共を宥めているが効果は無い。
ちなみに織斑教官はこの場にはいない、結果だけ報告するように言ってと出て行かれた。
織斑教官は多忙だ、このようなくだらない議論に時間を取られるべきでは無いだろう。
それはそれとして・・・私はクラスの女子共と不毛な言い争いを続けている一夏を観察する。
少なくとも、周囲に人が集まるようなカリスマ性のある人間には見えないのだが。
だが稀少(おとこ)だからと言う理由では、説明がつけにくいのも確か。
ISの技術にしても素人の域を未だに出ない、だと言うのに第二形態移行(セカンドシフト)を果たした。
・・・まだわからない、観察を継続する。
「くっ・・・おい楓、何とか言ってくれ!」
「一夏さんが執事喫茶でもやれば良いんじゃない?」
「やる気ゼロか!? 箒が関わって来ないと本気でやる気ゼロだな! だいたい執事俺1人じゃん!」
IS工学の本を読みながら返答する楓に、一夏は憤慨する。
・・・篠ノ之 楓。
第4世代機を持つ姉と共に、我が軍の重要監視対象となった女。
あの技術、是非とも我が国に欲しい。
他の国に渡すわけにはいかない・・・そう思うのは、我が国だけでは無い。
事実、1年3組を中心に新しい競合相手が増加している。
そちらへの警戒も怠れない、本国はとにかく「我が国で押さえたい」と言っているのだから。
「そ・・・そうだ! 箒と楓って巫女だよな!」
「そうだが・・・それがどうした」
「えーと・・・そう! 巫女の喫茶店とかどうだ!?」
「何だそれは・・・」
自分から矛先を逸らそうと、必死だな一夏。
「ミコ・・・とは、何ですの?」
「ああ、そうか。クラスの半分は外国人か・・・巫女ってのは、あー・・・シスター、的な」
「同じにするな、馬鹿者」
「全然違うよ、一夏さん」
セシリアが首を傾げているが、そう言えば私も厳密にはミコと言うものを知らんな。
シスターに近い、となると教会の関係者か何かか・・・?
「うーん・・・僕は興味あるな、日本のミコさん」
「シャルロット・・・!」
「ねぇ、箒。そのミコって制服とかあるの?」
「あ、ああ、あるぞ。アルバイト用の物も確か・・・実家にいくつか」
シャルロットが一夏を援護、すると外国人の生徒を中心にミコに関心が強まる。
とは言え、ただのミコではつまらないと言う日本人生徒の意見もある。
追い詰められた一夏は、ふと私と目を合わせる。
・・・何だ。
「そうだ・・・ウサギだ!」
・・・何故、私を見てウサギと叫ぶのかはわからないが。
どうやら、議論の大勢は決したらしい。
Side 篠ノ之 楓
あー・・・面倒な一日だった。
会長さんは何を考えて、私を鍛えるとか言いだしたのかなぁ。
一夏さんが千冬さん離れするくらい無理な話だよ、それ。
「・・・おーぅ・・・?」
そんな私の手元には、べちゃりとヘタれた油揚げと酢飯。
・・・ダメだ、上手く酢飯を油揚げの中に入れられないや。
昨日だしを使って味をつけて油抜きまでした油揚げは、どうしてか私の言うことを聞いてくれない。
な、何故に? ちゃんと本見て作ってるのに・・・。
「楓、これは・・・」
見かねた箒姉さんが、手に煮汁をつけながらすでに握ってある酢飯を手に取る。
それからお皿から味付けまで済ませてある油揚げを取って、素早く酢飯を詰める。
角まで、でもぎゅうぎゅう詰めにならない程度に。
「・・・こうするんだ。あまり力を入れると崩れるから、気をつけるんだぞ」
あっという間に一つ完成、私は自分のいなり寿司・・・と呼べない何かと見比べて、ちょっと落ち込む。
割烹着にほっかむりと言う和エプロン姿な箒姉さんは、テキパキといなり寿司を完成させていく。
それは、子供の頃に見た・・・お料理をするお母さんに、そっくりだった。
まぁ、ここは寮の部屋であって実家の台所じゃないけど。
このいなり寿司も、剣道の稽古が終わった後に箒姉さんが良く一夏さんと食べてたやつ。
お母さんがたくさん作っては、2人で全部食べてたよね。
・・・私? あんまり味が濃い物を食べると具合が・・・。
「良し、出来た。楓、味見をしてくれ」
「うん」
結果、ほとんど役に立てなかった私。
箒姉さんはお母さんからしっかりと味を伝えられてたみたいだけど、私はさっぱり。
まぁ、姉妹の仲で一番女の子らしいのって、実は箒姉さんだから。
昔は2つ食べると気分が悪くなってたいなり寿司、でも今は平気。
口に含むと、油揚げにしみ込んだ味が口の中でじんわりと広がる。
何だか、懐かしい・・・そんな味。
「・・・うん、美味しいよ。これなら一夏さんもきっと喜んでくれるよ、姉さん」
「そ、そうか」
恥ずかしそうにはにかむ箒姉さんは、本当に乙女(かわいい)。
もう、一夏さんってば何でこんなに可愛くて健気で綺麗な箒姉さんを好きにならないんだろ?
シャルロットさんがシャルルさんだった頃から思ってたけど、実は男の人の方に興味が・・・。
・・・冗談だよ。
「で、では、早速持って行ってやるかな」
「一夏さん、今日は散々だったもんね。差し入れしたら喜ぶよね」
「う、うむ・・・」
・・・でも、ねぇ、どうなんだろ。
クラスの出し物、結局、「ウサミミ巫女・喫茶店」・・・その名も「ウサ☆ミコ☆喫茶」になった。
わ、和洋折衷と、言えなくも・・・巫女的に大丈夫かなコレ、怒られないかな・・・。
とにかく、箒姉さんと一夏さんの部屋へ。
これで一夏さんの箒姉さんへの好感度は、さらに上がるはず・・・。
・・・だと、思ってたんだけど。
「やっほー♪」
そうしたら、一夏さんの部屋に裸エプロンの会長がいた。
・・・そして、今に至る。
Side 篠ノ之 箒
まさか、女子に破廉恥な格好をさせて部屋に連れ込むとは・・・。
・・・とは言え、どうやら誤解だったようだ。
よ、良かった・・・。
「せめて殴りかかる前に、気付いてほしかったんだが・・・」
「ふんっ」
いずれにせよ、一夏が部屋に女子を連れ込んでいたことには変わりない。
水着を着ていたとはいえ、破廉恥な格好をさせていた「俺の意思じゃない!」ことには違いないしな。
・・・それはそれとして。
「楓、どうして私の後ろに隠れるんだ?」
「気のせいだよ、箒姉さん」
「やん、おねーさんショックだわ。出て来てよー、楓ちゃん」
「気にしないでください、会長さん」
どうやら楓は、楯無会長から隠れているようだった。
今は制服姿の楯無会長は、ニコニコと人の良さそうな顔で笑っている。
しかしああ見えて、先程、一夏に殴りかかった私の竹刀を止めていた。
それも生身で、ISの部分展開で止めた鈴とは違う。
ちなみに何故ここに楯無会長がいるかと言うと、どうも一夏のコーチをするらしい。
放課後、私達がいなり寿司を作っている間に道場で一夏は楯無会長にボコボコにされたとか。
その結果、専属コーチ・・・いやいや、私達だっているだろう!?
いなり寿司も結局、一夏はあまり食べてくれなかったし・・・。
「そ、それで、どうして会長さんが一夏さんの部屋にいるんですかー?」
「うん? それはね、楓ちゃん。私がここで一夏くんとしばらく暮らすから、つまり同棲」
「なっ・・・!?」
「違いますよね!? そう言う話じゃ無かったですよね!?」
一夏が全力で否定するが・・・ど、同棲だと!?
そ、そんなのズル・・・では無く、破廉恥な!
年頃の男女が同じ部屋で過ごすなど、など・・・私もそうだったので、強く言えない。
「は、反対! 反対反対!」
そんな私の気持ちを察したのか、楓が私の背中から声を上げる。
どうでも良いが、隠れながら言うのはやめてくれ。
「あら、じゃあ楓ちゃんも私のコーチを受けてくれるの?」
「ごめん、箒姉さん・・・私は役に立てないバカな子だよ」
「おい。・・・と言うか、コーチとは・・・?」
楓をコーチ・・・とは、どう言う意味だろうか。
先程からの楓の態度も、それが原因なのだろうか。
私が目を向けると、楯無会長は人好きしそうなにこやかな笑顔を向けて来た。
う・・・?
「そう言えば、ちゃんとした挨拶がまだだったわね」
「は、はぁ・・・?」
楯無会長は急に居住まいを正すと、どこか気取った風に指をついて頭を軽く下げてきた。
そして・・・。
「更識 楯無です。いつも妹がお世話になっております」
「は、はぁ・・・これはご丁寧に、どうも・・・」
困惑しながらも、私も礼を返す。
な、何と言うか、すっかりペースを握られてしまったような。
一夏の方を見ると、ゆっくりと首を横に振られた。
「諦めろ」・・・その目が、口ほどに物を語っていた。
篠ノ之 楓:
学園祭か~・・・私、初めてかも!
布仏 本音:
おお~、楽しみだね~。
更識 簪:
(他に考えなくちゃいけないこと、あると思うんだけど・・・)
篠ノ之 楓:
どうしよどうする? ワクワクが止まらないよ~どこから回る!
布仏 本音:
ま、眩しい・・・眩しいよ楓ちん、笑顔が!
更識 簪:
(・・・私も、お友達と回るのは初めてかも・・・?)
篠ノ之 楓:
一緒に遊ぼうね、たくさん!(にぱー)
布仏 本音:
もちのロンだよ~(にぱー)
篠ノ之 楓&布仏 本音:
((じ~~~~))
更識 簪:
な、何・・・。
篠ノ之 楓&布仏 本音:
・・・にぱー、は?
更識 簪:
し、しない・・・。