Side 更識 簪
・・・IS学園、学園祭。
各国軍事関係者や政府機関、企業の研究員・・・とか、も来るイベント。
一般客の入場はダメ・・・でも生徒1人につきチケットが1枚配られて、それを使えば入れる。
クラスの女子とかは、それで彼氏を呼ぶのが憧れ・・・らしい・・・。
私は、そう言うのはわからないし・・・外に友達もいないから、チケットは使って無い・・・。
そもそも、私はクラスの輪にも入れて無いし・・・。
「1組であの織斑君の接客が受けられるの!?」
「しかも神主さんの格好してるって!」
「ゲームに勝ったら一緒に写真も撮れるんだって・・・!」
廊下を歩いていると、そこかしこから1組の・・・と言うか、織斑君の噂が聞こえる。
確か、1組は巫女さんするって言ってたけど・・・男の子は、神主なんだ・・・。
・・・正直、織斑君の名前を聞くと胸が痛い。
やっぱり、機体のこととか・・・あるし・・・。
織斑君は悪く無いって、わかってる、けど・・・でも・・・。
・・・大丈夫、もう大丈夫・・・だって『打鉄弐式(うちがねにしき)』も完成した・・・。
指に嵌めたクリスタルの指輪を、きゅっ・・・と握り締める。
1人で全部を作った、楯無姉さんには・・・敵わない、けど。
でも・・・でも、ちゃんと・・・。
「はぁーい、こちら2時間待ちでーすっ」
「学園祭の終わりまで営業してますからー!」
いつの間にか、1組についてた。
でもそこは、始まったばかりだと言うのに凄い人で・・・。
・・・と言うか、学園の女子生徒ばっかり・・・。
それに、他のクラスは並んで無い、から・・・お客、独占?
「ど、どうしよう・・・」
楓と本音に誘われてた・・・んだけど。
これじゃ、いつ入れるかわからない・・・。
ど、どうしよう・・・並んだら何時間かかるかわからない・・・よね。
でも、約束、だし・・・。
私がどうしようか悩んでると、トントン、と後ろから肩を叩かれた。
少しびっくりしたけど、何となく誰かわかった気がして・・・振り向く。
すると、そこに、看板を持った巫女さんが2人・・・。
「いらっしゃ・・・じゃなかった。えーと・・・お帰りなさいませ、女神様♪」
「おかえりなさいませ~」
ぱちくり・・・びっくりした・・・。
そんな私に、2人の巫女さんはパチッ、とウインクしてきた。
可愛い・・・けど、と言うか・・・女神様って、なに・・・?
Side 篠ノ之 楓
お帰りなさいませ、女神様(男性の場合は「神様」)♪
今日も下界の人間達の願いを叶えてこられたとか、お疲れ様です。
さぁ、今はその疲れた身体と心を癒すことだけを考えてください―――。
「それでは女神様、本日のお供え物をお選びくださいませ」
「お、お供え物・・・? あ、メニュー・・・?」
「そうだよ~、下界の人間共からの貢物をご提供~」
1年1組の教室は、ここ数日で神社な感じの調度品で飾られてる。
テーブルが賽銭箱っぽかったり、御神体が鎮座するような木製の椅子だったり。
ちなみにBGMに雅楽が流れていたりして、全体的にまったりな空気。
メニューはお団子だったり緑茶だったり・・・洋風なのもあるから、そっちは適当みたい。
東西問わず、下界の人間が神様にお供えした物を食べるって設定だから。
でも料金は「お支払いください」じゃなくて、「お納めください」って受け取る。
下界の人間共の欲望に振り回された神様を、誠心誠意癒すのが巫女さんの仕事。
・・・実家が神社の身としては、いろいろと複雑だけど。
「あ、あの・・・」
「はい、何でしょうか女神様」
「・・・あ、頭についてるのは・・・?」
「うさみみだよ、女神様~」
簪ちゃんの指摘したように、私と本音ちゃん・・・と言うか、巫女さんの頭にはウサミミがついてる。
ちなみに種類が違って、私はロップイヤーの垂れウサミミ。
本音ちゃんはミニレッキスの薄桃のウサミミ、服装は白小袖に緋袴の巫女装束。
お望みなら、語尾も変えますピョン?
「簪ちゃん、何かゲームする? 神経衰弱とダーツと・・・あと、神○ゲーム」
「か、神様ゲ○ム・・・何、するの?」
「かくれんぼとか~、○×ゲームとか~、すごろくとか~・・・あと、王様ゲームの神様版~」
「な、何で・・・かくれんぼ・・・?」
深いことは追求したらダメだよ、女神様。
満員の教室を見渡してみれば、誰も不思議に思って無いでしょ?
まぁ、流石にかくれんぼをする人はいないだろうけど。
「ささ、女神様、お供え物をお選びください」
「え、えーと・・・こ、この『巫女さんのご奉仕セット』って、何・・・?」
「は~い、『巫女さんのご奉仕セット』入りました~」
「「「かしこまりました、女神様ー!」」」
「ちょっ、待っ・・・!」
本音ちゃんのオーダーを伝える声に、手の開いてる巫女さんが唱和する。
ちなみに私はと言うと、簪ちゃんのお隣に座ってぴっとりくっつく。
簪ちゃんは照れて少し離れるけど、反対側には本音ちゃんが座ってるから限界がある。
現在、本音ちゃん → 簪ちゃん ← 私な構図。
「な、何で座るの・・・?」
「まぁまぁ、女神様。どうかリラックスなさってください」
「そうだよ~、かんちゃんは神様なんだよ~、巫女さん侍らせて良いんだよ~」
「ふ、2人の神様像は、何か違う・・・」
「待たせたな、『巫女さんのご奉仕セット』だ」
ちょうどその時、ネザーランドドワーフなウサミミの巫女さん・・・箒姉さんがやってきた。
本職の巫女としては複雑なんだろうけど、それでもちゃんとお盆から注文品をテーブルに置く。
箒姉さん、真面目だから・・・。
ちなみに注文内容は、アイスハーブティーと冷やしたポッキー。
明らかに神社じゃないけど、そこは適当に。
で、私と本音ちゃんはポッキーを一本ずつ取って・・・簪ちゃんに擦り寄りながら。
「はい、女神様・・・あーん・・・?」
「ふぇっ・・・!?」
「あーん~?」
「ちょっ・・・!?」
『巫女さんのご奉仕セット』・・・内容は、巫女さんにお菓子を食べさせて貰えます。
神様のお望みであれば、ポッキーゲーム風にすることも可能。
でも、それは流石に恥ずかしいよねー・・・まぁ、簪ちゃんなら別に良いけど。
・・・やって、みる?
Side 篠ノ之 箒
・・・前々から思っていたが、楓はノリが良いと言うか何と言うか。
場の雰囲気に合わせて楽しめることができると言うのは、それはそれで長所なのかもしれない。
まぁ、同性なら多少ふざけても問題は無い・・・よな?
「じゃ、じゃあ、その・・・あーん、しなさいよ・・・」
「う、うむ」
だが異性となれば、話は別だ。
私は隣のクラスから遊びに来たチャイナドレス姿の鈴と『神主様にご褒美セット』で遊んでいる一夏に、キツい視線を向ける。
まったく、一夏はまたしても女子に・・・!
面白くないので、私は廊下の様子を見に行くことにした。
そこには、変わらず長蛇の列が・・・。
「箒ちゃんは、やきもち焼きさんねぇ」
「な・・・違います! 私はただ、惰弱な男が嫌いな・・・って、会長!?」
「やん、楯無で良いのに」
ふと気付くと、当然の顔でそこにいる。
楯無・・・先輩は、そんな人だった。
現に今も、何故か巫女装束+ウサミミで私の隣に立っていた。
い、いつの間に・・・と言うか、何故に廊下で・・・?
「うん? 会長として見周りに来たのだよ。あと・・・」
「やっほー、新聞部でーす。たっちーについて来ましたよん」
「ま、黛先輩?」
楯無先輩の後ろからひょこっと顔を出したのは、これまた何故か巫女装束+ウサミミな黛先輩。
だ、だから何故・・・?
黛先輩は私の困惑をよそに、教室に入って店の中を写真に収め始めた。
それはもちろん、楓達の方にも行くわけだが・・・。
客の女生徒を膝枕するウサミミ巫女―――略して「ウサミコ」―――と言うのは、被写体としてどうなのか。
楓は楓で、友人と「いえーい♪」と言って写真を撮られているし・・・。
「・・・楯無先輩は、中に入らないのですか?」
「うん? 入らないよ?」
「な、何故?」
「そりゃあ・・・営業の邪魔するわけにはいかないでしょ?」
「は、はぁ・・・」
にこやかにそう返されては、私としては納得するしか無いのだが。
でも、何と言うか違和感を感じる。
楯無先輩なら、普通に中に入っているようなイメージがあったから・・・。
「箒ちゃーんっ、織斑くんとツーショット撮らせてくれないー?」
「ぶっ・・・い、いきなり何を言ってるんですか!?」
私がふと感じた楯無先輩への疑問は、黛先輩の突然の提案で吹き飛んでしまった。
と言うか、い、一夏とツーショットだと・・・!?
Side 更識 楯無
「よろしかったのですか?」
「ん~? 何が?」
「・・・いえ、何でもありません」
一夏くんのクラスの出し物にちょっかいをかけた後、私は1年生の廊下を闊歩する。
私の後ろには虚ちゃんがいて、足音も立てずに静々とついてきてくれる。
いつものように、いくつかのファイルを片手に持って。
たまに声をかけてくる後輩もいるけど、そう言う子には手を振って応えてあげる。
うんうん、皆、青春してるわね。
生徒会長として、喜ばしいことだわ。
「虚ちゃんも着てみれば良かったのに、巫女服。あとウサミミ」
「遠慮しておきます」
「もう、付き合い悪いんだから」
「性分ですので」
空いた方の片手で眼鏡を押し上げながら、厳格に答える虚ちゃん。
昔と変わらないわねぇ、お固くて。
まぁ、それが虚ちゃんの良い所でもあるんだけど。
・・・お互い妹には苦労するわね、と言うことで。
でも本音ちゃんと違って、簪ちゃんは何と言うか・・・。
・・・でも、お友達と一緒の時は楽しそうにしてたわね。
私が教室の中にまで入ると、テンション下げちゃうから。
「おや、一夏くんじゃない」
「そのようですね」
ふと窓の外を見ると、いくつもの出店で賑わう正面ゲートまでの道を駆ける神主姿の男の子。
休憩でも貰ったのか、どこかに用事があるのか・・・。
うーん・・・どっちにしても目立つわね。
窓枠に肘をついて、その一夏くんの後ろ姿を見つめる。
直後、一夏くんにスーツ姿の女性が近付いて行くのが見えた。
ふわふわのロングヘアーの美人、一夏くんと何か話してる。
何を話しているかは知らないけど・・・内容に意味が無いことはわかってる。
一夏くんに接触できそうな企業や政府の関係者は、
それを抜けて、一夏くんに接触してくると言うことは・・・。
「・・・虚ちゃん、もう片方をお願いね。私は一夏くんの傍を離れないようにしてるから」
「畏まりました」
静かに答えて、虚ちゃんが私から足早に離れる。
眼下では、一夏くんがスーツの女を振り切って駆け出す所だった。
あら、意外。てっきりついて行くと思ってたけど・・・流石にそれは無いか。
さて、情報によると1人じゃ無いはずだけど・・・。
「・・・招待状の無いお客様は、早めにご退場願わないとね」
閉じた扇子の先を窓の外に向けながら、笑う。
私はIS学園生徒会長、ならばそのように振る舞うだけ・・・。
Side 篠ノ之 楓
簪ちゃんのことは先に休憩時間貰った本音ちゃんに任せて、私はもうちょいお仕事。
シャルロットさんと一緒に、学祭で賑わう外の道をトボトボ歩いて食材の調達。
・・・と言っても、普通に倉庫から持ってくるだけだけどね。
「楓、大丈夫? 重かったら、無理しなくて良いよ?」
「大丈夫大丈夫、超音波検査機に比べると軽いから」
「それは、比較対象を間違えてると思うよ・・・」
私の言葉に苦笑するシャルロットさん、確かに私が持ってるのはポッキーの箱だけどね。
ちなみにシャルロットさんが持ってるのは緑茶の茶葉、茶道部のルートに乗せて貰うのが難しかった。
何せ頼んだら「織斑くん提供して!」だからね・・・一夏さん、何であんなに人気あるんだろ。
私の独自の調査によると、食堂のおばちゃんにも人気あるんだよ?
「ねぇ、シャルロットさん。どうして一夏さんはあんなにモテるのかなぁ?」
「え、ええ!? いや、僕は別に・・・」
「いや、シャルロットさんの話では無くて」
と言うか、その反応は何だか怪しいよシャルロットさん。
「う、うーん・・・僕も良くはわからないけど、優しいからじゃないかな」
「優しい・・・うーん、優しいだけの男の子がモテる時代は終わったはずなんだけど」
「そ、そうなの?」
「・・・ごめん、ノリで言った」
「そ、そか」
まぁ、確かに優しいよね、一夏さんは。
子供の頃からずっと、女の子に優しくて・・・それだけ聞くとチャラ男に聞こえるけど、一夏さんはただの天然朴念仁だからなぁ。
うーん・・・どうにかして箒姉さんだけを特別扱いさせることはできない物か。
「うむぅ・・・どうしてくれようか、一夏さんめ」
「俺がどうかしたのか?」
「ひゃわぁっ!?」
突然背後から声をかけられて、私は3mほど前にダッシュしてから振り向いた。
そこには、噂をすれば何とやらで・・・。
「あ、一夏だ」
「よっ、シャル。あと楓、変なリアクションだなぁ」
「一夏さんにだけは言われたくない」
「何でだよ!」
トボトボと道を戻りつつ、急に声をかけてきた一夏さんに文句を言おうと・・・。
・・・うん?
良く見ると、どこかで会ったことのある男の子が一夏さんの隣にいた。
バンダナを頭に巻いたその男の子は、確か・・・えーと。
「五反田さん・・・でしたっけ?」
「どうもです! 篠ノ之さん!」
「ん? 何だよ、知り合いだったのか?」
「えーと、前の夏祭りの時に・・・」
夏祭りの時に会った、蘭さんのお兄さん。
でも何で・・・ああ、一夏さんがチケットで呼んだのかな。
「一夏、その人は?」
「うおっ・・・おい一夏、誰だよこの金髪美人! と言うか・・・巫女さん!? ウサミミ!?」
「えーと、コイツは五反田って言って、俺の友達。で・・・弾! 騒ぐなって! この子はシャルロットって言って・・・」
あー・・・お客様?
だとしたらこのままじゃアレかな、とりあえず一夏さんにポッキー箱を渡して・・・。
片手を腰に当てて、さらにもう片方の手を顔の前に持って行ってポーズ。
パチンッ、ウインクつきでウサミミもアピール。
「お帰りなさいませ、神様♪」
「かふっ・・・!?」
「ああっ、弾!?」
「楓、それはここでやっても意味無いんじゃ・・・」
「あ、そっか」
でも、五反田さんは何故か吐血して倒れたけど。
まぁ、じゃあ・・・とりあえずクラスに戻るのが先かな。
「それじゃ、一名様ご案内~」
「あ、楓、そんな急に動いたら・・・」
「大丈夫大丈夫・・・わっ」
ぐりんっ、と回転すると同時に走り出した物だから、普通に誰かにぶつかった。
何だか柔らかい感触と、ふわっと靡く香水の香り。
顔を上げると・・・。
「・・・っとと。ごめんなさい、不注意でした」
「いえ、良いのよ。気にしないで、お嬢さん」
金髪の美人さんが、そこにいた。
Side シャルロット・D・コルデ
「ケガは無い? お嬢さん」
「あー、はい。大丈夫です、すみません」
楓がペコペコと謝っているのは、何と言うか・・・異様な存在感の女性だった。
年齢はたぶん20代後半、シャープなサングラスと真っ赤なスーツ。
異性でも見惚れる抜群のスタイルに、耳元に煌めくゴールド・イヤリング。
綺麗な金髪を靡かせるその女性は、明らかに素人じゃ無い。
無造作に立っているように見えて、その実まったく隙が無い。
「そう、気をつけてね。今日は来客が多いから」
「あ、はい」
小さく手を振って、女性は楓の横を通り過ぎる。
それはとても自然な動作だけど、何故か僕の警戒心を呼んだ。
何と言うか・・・不自然さが無さ過ぎて、逆に不自然と言うか・・・。
「・・・ふふ」
「・・・!」
僕の横を通り過ぎる時、その人が小さく笑みを浮かべた。
それは見惚れる程に綺麗な笑みで、邪気の欠片も感じられない。
でも・・・どうしてだろう、胸の奥がザワザワする、そんな笑みだった。
僕は何とも言えない気持ちのまま、その人の背中が雑踏に紛れて見えなくなるまで見つめていた。
・・・考え、過ぎかな。
今日は政府関係者や軍属だって来るイベントだし、ひょっとしたらそれ関係の人かもしれない。
どうも、候補生だった頃の気分が抜けないみたい。
「す、すげー美人だったな・・・」
「俺はむしろ、威圧感を感じたんだが・・・弾、お前すげーな」
男の子達の会話をよそに、僕は楓の所に行く。
楓はまだぼんやりとしてたけど、僕を見ると恥ずかしそうに笑った。
「あー、びっくりした」
「もう、気をつけないと・・・大丈夫?」
「うん・・・あ、虚先輩だ」
「え?」
ふと顔を上げると、女性が去ったのとは反対方向から見覚えのある先輩が歩いて来るのが見えた。
雑踏の中から出て来たのは、眼鏡をかけてファイルを持った布仏先輩。
いつも通り厳格そうな雰囲気だけど、どこかいつもより緊張感があるような・・・。
「貴方達、何をしているの?」
「教室に戻る所です」
「・・・・・・そう」
楓の返答に、先輩は少しだけ頬を緩める。
それはまるで、何か安心した、みたいな雰囲気で。
「こ、今度は眼鏡美人・・・ってか、可愛い!? おい一夏、紹介してくれよ・・・!」
「引っ張んなよ、バカ・・・!」
僕達の後ろで騒いでる男の子達を少しの間見つめてから、布仏先輩は僕の方を向いて。
「ちょっと良いかしら、そろそろ生徒会の出し物が始まるから・・・」
「あ、はい」
ああ、そうか・・・もうそんな時間か。
でも、あの・・・あのイベント、本当にやるの・・・?
楯無会長が言うなら、本当にやるんだろうけど・・・はぁ。
ごめんね、一夏・・・今から謝っておくよ。
Side 篠ノ之 箒
随分と時間がかかったが、ようやく一夏と楓が戻って来た。
一夏に至っては、何故か見慣れない男友達を連れてきていた。
さっきから「織斑君がいない!」との客のクレーム対応に追われていた私は、思わず怒鳴ってしまった。
「遅い!!」
「うおっ、いきなり怒られた!?」
「ご、ごめん、箒姉さん・・・」
「い、いや、楓は良いんだ」
楓は悪く無い、きっと一夏が悪いに決まっている。
「それは流石に酷くないか・・・?」
「ふん!」
まったく、どの女子も織斑君織斑君と・・・。
一夏め、いったいどこでこれだけの女子を出会うと言うのか。
誰に対しても良い顔をしているから、こう言うことになるんだ。
ま、まぁ、そこが一夏の良い所でもあるわけだが・・・。
「そ、そう言えば、シャルロットはどうした?」
「ああ、何か生徒会の方の用事があるって」
「そうか・・・そう言えば、楯無先輩もいつの間にかいなくなっていたしな」
「あ、あの人らしいな・・・」
改めて一夏を見ると、当然だが神主の格好をしていた。
神主の衣装に身を包んだ一夏は、何と言うかいつもより落ち着いていて穏やかに見える。
何と言うか・・・。
「・・・お父さんに似てるよね」
「そう・・・じゃない! ば、バカ、私達の父は一夏と違って・・・!」
「何か俺、さっきから酷いことしか言われて無い気がするんだが・・・」
楓の言葉を、慌てて否定する。
私達の父は、何があっても動じない強い人だった。
一夏などとは、比べ物にならない。
確かに昔に比べれば一夏は大人っぽくなって、私も女を磨かねばならないなと常々・・・いやいやいや!
「ああっ、こんな所で何をしているんですの!?」
「お、セシリア。巫女装束も似合うなー」
「そんな呑気なことを言っている場合ではありませんわ! ラウラさんを見習って、働いてくださいまし!!」
セシリアに背中を蹴られるようにして、私達は仕事を再開した。
意外と言うか何と言うか、セシリアとラウラは真面目に巫女をしていた。
いや、私からすればこんな巫女はあり得ないのだが・・・。
その後もひっきり無しにゲームに呼ばれ、オーダーを取り、渡し・・・の繰り返しだ。
一夏は大人気だし、楓も一夏の男友達に呼ばれたりしていたようだ。
私の指名頻度は、2人の中間くらいだろうか。
そのまま一時間ほど働いた後、なんとか客足も一段落して・・・。
「ふぅ・・・何とか回りましたわね」
「セシリア・・・お前、やる気あるな」
「当然ですわ、中途半端は趣味じゃありませんの」
厨房に引っ込んだ私達の前で、セシリアが腕を組んでそう言い放つ。
意外と、凝るタイプなのかもしれない。
「それはそれとして・・・一夏さんも一時間ほどお昼休憩をとると良いですわ。せっかくですし・・・箒さんと一緒に学祭を回ってはいかが?」
「そうだなぁ・・・」
セシリアの言葉に、私の心臓が跳ね上がる。
まさかセシリアからそんな言葉が聞こえるとは思わなかったので、驚いてセシリアを凝視するが・・・。
こほん、と咳払いをして視線を逸らされた。
ふと教室の方を見る・・・鈴はいない、流石にクラスの方が忙しいのか。
こ、これは・・・いわゆるチャンス、と言う奴なのでは・・・!
「そうだ、楓も一緒に行こうぜ」
・・・だが、相手は一夏だった。
急速に気持ちが沈むが、まぁ、一夏だし深い意味は無いだろう。
楓が一緒なら、楽しいだろうし・・・。
「いや、私はお友達と約束があるんで。箒姉さんと2人きりで行って来てよ」
「そうか? 友達と約束があるなら仕方無いな」
2人きりで、と言う所にアクセントを置いて、楓が言った。
がばっ・・・と顔を上げると、一夏に見えないように楓が親指を立ててウインクしていた。
それに、私は自分の顔が輝くのを感じた。
そうだった・・・この件に関して、楓は私の最大の味方だった。
ありがとう楓、持つべきものは理解ある妹だな。
「じゃあ、箒。2人で回るか」
「う、うむ。まぁ、どうしてもと言うなら仕方が無いな」
そして私は、一夏の手をとったのだった。
Side 篠ノ之 楓
①中華喫茶
たったったっ・・・軽やかに廊下を駆けて、待ち合わせ場所へ。
箒姉さんの邪魔をしたくないって気持ちも、もちろんあるけど・・・お友達と待ち合わせって言うのも本当。
具体的に言えば、簪ちゃんと本音ちゃん。
「おまたせー!」
「いらっしゃいませアル~」
「アル言うな! 中国人ナメんな!!」
お隣の2組の中華喫茶―――一夏さん効果か、お客さんは少ないけど―――語尾に「アル」をつけて返事をした本音ちゃんを、鈴さんが怒鳴ってた。
そ、そこまで怒ることなの!?
「ひぃっ、リンリン怖いよ~」
「それもやめて! 嫌な思い出が甦るから!」
びしっ、とツッコム鈴さん・・・むぅ、意外と仲が良いのかもしれない。
まぁ、とりあえずウーロン茶一つ、えっちじゃない奴で。
「ウーロン茶は関係無い・・・」
「おお、流石アニメ好き」
「常識・・・」
簪ちゃんとそんな会話をしつつ、隣の席に座る。
鈴さんが厨房の方に注文を飛ばすのを横目に見ながら、私は簪ちゃんと本音ちゃんがテーブルの上に広げてる校内マップを覗きこんだ。
学園祭、実は初めて・・・準備も楽しかったけど、お友達と回るのも凄く楽しそう。
「じゃあ、どこ回る?」
「甘いもの食べたい~」
「・・・アニメ・・・」
うんうん、どこも楽しそうだよね。
むふふ・・・学園祭は、まだまだ始まったばかりだよ!
とは言え休憩時間も無限じゃないから、少し急がないとね。
と言うわけで、鈴さんから貰ったウーロン茶は一気飲み。
「もっと味わいなさいよ!」
「だが断る!」
私が最も好きなことの一つは・・・って、あいた!?
はたかれた!? 鈴さん酷い・・・え? 足つぼ? ご、ごめんなさい、調子に乗ってました鈴様・・・。
だ、だから、それだけはどうかご勘弁を・・・はい、私は卑しい犬です鈴様・・・うう。
「・・・と言うわけで、行ってみよ~」
「うう、酷い目にあった・・・」
「・・・楓が悪い・・・」
そんなわけで、廊下に出た私達。
2組では足つぼの脅威に晒されたけど、まぁ、この後は足つぼの予定は無いし。
ふぅ、ここからは平和な学園祭ライフを満喫・・・。
「よってけ、バカヤロウ」
しようとした時、声をかけられた。
いや、そりゃ学園祭なんだから客引きぐらいあるよね。
振り向いてみると、そこにはちっちゃな女の子。
130センチくらいかなぁ、でもたぶん同い年だよね。
何か、ゴスロリだかパンクだかシンフォニックメタルバンドだかわからない衣装で。
髪は薄青が混じった白のストレート、外国人だ。
・・・うん? と言うか、いつかどこかで見覚えが・・・。
「1年3組、マッサージ屋だ。よってけ、カエデ・シノノノ」
「え、えぇ・・・? 何のマッサージ?」
「足つぼだ、コノヤロウ」
さようならっ・・・!
少しだけ罪悪感を感じながら、私は簪ちゃんと本音ちゃんの手を取って駆け出した。
でも3組、何を思って足つぼマッサージを取り入れたし・・・!
・・・あれ?
そう言えばさっきの子、何で私の名前を知ってたんだろ。
◆ ◆ ◆
②料理部
「束お姉ちゃんが言ってたんだけど、女の子は料理の一つも覚えないといけないんだって」
「・・・カップケーキ、なら・・・」
「お茶漬け~」
本音ちゃんのお茶漬けは、お茶漬けじゃないよ。
と言うわけで私達は、料理部でご飯食べてる。
料理部はお惣菜屋さんみたいな感じで、和え物とか煮物とかが置いてある。
ちなみに私は、お料理なんてできないよ。
束お姉ちゃんの所にいた頃は、くーちゃんさんと一緒に良く魔女の大鍋的な何かを量産してたよ。
学園に来てからは、三食美味しい物が食べれて嬉しい。
「うーん・・・ご飯が欲しい」
「何でお惣菜オンリーなんだろうね~」
肉じゃがなんて食べた日には、白ご飯が欲しくてたまらなくなるよ。
それにしても美味しいねこの肉じゃが、圧力鍋で作ってるらしいけど・・・。
「あ、おかわりに行ってくるよ」
「ういうい~」
うーん、リアルに美味しいよこの肉じゃが、おかわりおかわり。
と思って、お惣菜の並んでるコーナーに行くと・・・。
「うーん・・・」
腕を組んで唸ってる、大人の女の人を発見。
不揃いな薄緑色の髪に、スタイルの良い身体をラフな服装で包んでる。
外部の人かな、見たこと無い・・・って、最近多いねコレ。
「・・・お? ああ、ちょうど良いや、お嬢ちゃん」
「はい?」
「きんぴらってのはどれだ? あたしゃ日本に来たら一度食べてみたいと思ってたんだよ」
「きんぴら?」
「そう、きんぴらだ」
が、外国人の口からきんぴらと聞くと、何だか変な感じだけど。
まぁ、日本人としてきんぴらくらい知ってるよ、もちろん。
「えーと・・・これです」
「おお・・・何かイメージと違うな」
きんぴらにどんなイメージを持っていたのか、凄く気になった。
「・・・アイシャ、まだ・・・あら」
「お、ソフィー。見てくれよ、ようやく・・・『見つけた』ぜ」
「そう、思ったより時間がかかったわね」
はぁ、アイシャさんと言うらしい。
それでもって、あっちの金髪碧眼な美人さんがソフィーさんと。
・・・何、きんぴらって外国でそんなにブームなの?
「ありがとうな、『篠ノ之』。またどこかで会おうぜ~」
「・・・ごきげんよう」
「あ、はい・・・」
ヒラヒラと手を振りながら去って行くアイシャさんと、ソフィーさん。
・・・ふぅ、じゃ、私も早く肉じゃがを・・・って。
「・・・?」
・・・私、名前言ったっけ・・・?
◆ ◆ ◆
③剣道部
箒姉さん繋がりと言うことで、剣道部にも行ってみる。
でも、剣道部なのに何故か占いの館だった・・・な、何で剣道部なのに占い。
「・・・それじゃ、票が取れないから・・・だって」
「へぇ~」
「どっちにしろお客さんいなもがもが~」
簪ちゃんと両側から手を出して、本音ちゃんの口を塞ぐ。
それ以上は、言わせないよ。
「・・・いらっしゃい」
剣道場は暗幕で仕切られていて、その内の一つに3人で入る。
すると、剣道着を着た女の子が正座で待ってた。
・・・これ、ずっと待ってるのかな。
「・・・おや、更識」
しかも、簪ちゃんの知り合いだった!
簪ちゃんは何故か微妙な表情だったけど、知り合いと言う所は否定しなかった。
「・・・立道雪音・・・日本の代表候補生・・・」
「・・・よろしく」
「おおー、代表候補生!」
まぁ、そりゃ簪ちゃんの他にもいるよね。
しかも聞く所によると、3組の転校生だとか。
ああ、あの足つ・・・思い出さないでおこう。
「じゃあ、占いますね・・・篠ノ之、楓さん?」
「あ、はいはーい・・・む?」
まただ、また知り合ったばかりの人に名前を呼ばれた。
まぁ、別に良いと言えば良いんだけど・・・なんだろう。
凄く、変な気分。
ちなみに、占い方法は花札占いだった(初めて聞いたよ!)。
結果は・・・3人同じ。
「お姉さんに、注意」
・・・・・・いや、意味がわからないよ。
◆ ◆ ◆
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
学園祭と言うイベントは、賑やかな物だな。
クリスマスマーケットのような物かと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。
いずれにせよ、騒々しいのは得意では無い。
しかし所属クラスの総意である以上、規律に従って巫女はする。
ウサミミも許可しよう、だが今は休憩時間だ。
少ない休憩時間を利用して私が向かった先は、茶道部だ。
ドイツ菓子も素晴らしいが、日本の和菓子も良い。
「あ、ラウラさんだ」
「ほんとだ~」
「・・・(ぺこり)・・・」
茶道部に行った所、篠ノ之楓とその友人がいた。
何でも4人一組でお茶を頂くのだが、最後の1人が私だったらしい。
・・・偶然にしては、面白くも無いな。
「・・・ラウラさん」
「何だ」
「これ、いわゆる共食いなんじゃ・・・」
「うるさい、黙れ」
何が共食いかと言うと、茶道部の部員に出されたお茶菓子がウサギの形をしていたからだ。
今、確かに私と楓はウサミミをしているが、そこまで考えてどうする。
・・・これは、どうやって食べれば良いんだ?
「・・・ねぇ、ラウラさん」
「何だ」
茶道部の部員が茶を点てるのを見ながら、隣で正座している楓と会話する。
本国からも命令されていることだし、共に『
「私って、意外と有名人だったりするのかな?」
「・・・何だ、いきなり」
「いやぁ、今日に入って、知らない人に名前を呼ばれることが急に増えてさー」
「・・・」
・・・接触があったか。
本国からは特に強く勧誘しろとは命令されていない、本国も対応を決めかねているからだ。
他国も似たような物だろう、だが接触はしている。
欧州の動きはそれでもある程度は伝わってくるが、米州とアジアの動きはわかりにくい。
アメリカは在アジア太平洋の米軍基地の人員を増員し、ISの配備数を2割増やすと言う計画を一部の上院議員が口にしたとの報道があった程度だ。
アジアでは中国がアフガン・パキスタンを誘って、インドがロシアを誘ってISの共同開発・生産事業を立ち上げつつあると聞くが・・・。
「・・・お前が、篠ノ之博士の妹だからだろう」
「ふーん・・・」
わかっていないような表情で、楓が茶道部の部員から受け取った抹茶を飲む。
私はそれを見つめながら、目を閉じる。
・・・さて、どうするか。
楓とその機体は、是非とも我が国に欲しい。
だが篠ノ之博士と言うリスクがある限り、力尽くで奪うと言う可能性は低い。
だが、皆無では無い。
そうなってからでは遅い、他国に渡すわけにはいかない、ではどうするか。
私個人の判断を越えているが・・・最優先事項は。
「何か最近、周りの視線が痛い気がする・・・」
ぽつり、と聞こえたその呟き。
私は目を閉じたまま、自分に渡された抹茶に口をつける。
私からの返事を特に期待していなかったのか、楓は反対側の友人の方を向いた。
「次、どこ行くー?」
「・・・えっと・・・」
「生徒会のね~」
・・・私にとっての、最優先事項は。
「シンデレラ~」
織斑一夏、篠ノ之箒、そして篠ノ之楓。
この3人及び3機を、「他国に渡さない」ことだ。
◆ ◆ ◆
―――――某所、通信記録―――――
『・・・そっちはどうだった、オータム・・・?』
『何てことねぇよ、ただの坊やだ。・・・でもよスコール、まだ私、ニコニコ営業スマイルでいねーといけねーのか? 顔が戻らなくなるぜ・・・』
『あら、可愛くて良いじゃない』
『ば、バカお前・・・て、照れるだろ・・・』
『うふふ・・・まぁ、こっちも本人はただの小娘だけど』
『けど?』
『・・・・・・いえ、何でも無いわ。エム、聞いてる?』
『・・・・・・・・・』
『てめこのガキッ、無視してんじゃねぇぞ!?』
『オータム、良いから・・・エム?』
『・・・聞こえている』
『なら良いわ、貴女は遊撃として残ってなさい・・・間違っても、向こうに行かないように』
『・・・・・・・・・』
『・・・エム?』
『・・・わかった』
『けっ・・・ガキが』
『オータム。・・・はぁ、とにかく、後はプラン通りに―――』
―――――通信終了―――――
アイデア提供・・・
ウサミミ(黒鷹様)。
篠ノ之 楓:
どうも~、ウサミミ巫女・・・略してウサミコ楓です!
篠ノ之 箒:
く・・・巫女と言って良いのか、神社の娘として・・・。
篠ノ之 楓:
箒姉さん、今は神社も生き残りのために差別化を図らないと・・・。
篠ノ之 箒:
そうかもしれんが、コレは何か違うだろ!? 何でウサミミなんだ! 大体、この袴、ただのスカートみたいな構造になって・・・!
篠ノ之 楓:
大丈夫だよ姉さん、これで一夏さんもイチコロだよ。
篠ノ之 箒:
・・・・・・本当にそう思うか?
篠ノ之 楓:
・・・ゴメン、私、嘘吐いたかも
篠ノ之 箒:
良いんだ、わかってくれれば。
織斑 一夏:
何でだろう、凄くけなされてる気分なんだが・・・。