インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第23話:「その学園、世界」

Side 篠ノ之 箒

 

・・・生徒会の出し物は、「観客参加型演劇」。

ルールは単純だ、演劇に参加する女子は『灰被り姫(シンデレラ)』となって王子の王冠を奪い合う。

王冠を持つ王子役は・・・一夏。

 

 

場所は第4アリーナに設営された舞台上、周囲には全校生徒がいるんじゃないかと言うくらい女子がいる。

最初から『灰被り姫(シンデレラ)』として舞台に上がるのは私と鈴のみ、共に白地に銀糸のあしらいのシンデレラ・ドレスを纏っている。

普段であれば、もう少し喜んでいたかもしれないが・・・今は。

 

 

『さぁ! 王子の王冠に隠された隣国の軍事機密を手に入れて・・・・・・織斑一夏くんと同居する権利を手に入れましょう!!』

「ちょっと待てえええええええええええぇぇぇぇっっ!!」

 

 

一夏が悲鳴を上げるが、その声は誰にも届かない。

景品は、一夏と同室になる権利。

楯無先輩の声と共に会場がどよめく、そして今からが観客参加の開始と言うことになる。

私は、刀を両手で持ったまま舌打ちした。

 

 

「く・・・仕留めきれなかったか」

「そうね、残念だわ」

「お前らな・・・」

 

 

一夏を挟んで対峙する鈴と私に、腰が抜けたような体勢で舞台の床に座り込んでいる一夏が非難めいた視線を向けて来る。

だが当然のように、私も鈴も意に介さない。

重要なのは・・・ここで、決着をつけることだからだ。

 

 

「やるな、鈴」

「当然・・・負けないわよ、アンタにだけは」

「いや、だからお前らは何の勝負を」

「「一夏は黙っていろ(て)!!」

「は、はいっ!」

 

 

鈴は私に対するように、中国の手裏剣・・・飛刀を両手に構えている。

すでに何合か打ち合ったが、流石に代表候補生。

専門の訓練を受けているんだろう、その構えには一分の隙も無い。

 

 

ジリジリと互いの距離を詰めつつ、間合いを図る。

刀と飛刀、互いの獲物を握り締めて・・・共通のものを巡って、向かい合う。

張りつめる空気、私達の口元にはいつしか笑みが浮かんでいた。

 

 

「・・・いや、だから何でそんな少年漫画みたいな意思疎通の図り方してんの!?」

 

 

一夏がどこか呆れたような声を出した、次の瞬間。

会場に集まっている女子達が、まるで地響きでも起こしかねない勢いで動き始めた。

ちぃ・・・ここに来て、これ程ライバルが多いとは・・・。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

・・・極東の女学生は、良くわからない行動をするな。

眼下の事態を見やりながら、私はそんなことを考える。

私の観察対象たる織斑一夏が、数百人の女生徒から逃げまどっていた。

 

 

「・・・まぁ、それだけ隣国の軍事機密が欲しいと言うことだろうな」

「いや、それは違うんじゃ無いかなぁ・・・」

 

 

第4アリーナの観客席の最上部に立ちながら、私はゆっくりと状況を確認している。

生徒会主催のイベントに参加しているのは、クラスの出し物の割り当てが無く自由に行動できる女子生徒のほとんど全員。

そしてその全員が、織斑一夏との同居の権利を求めていると言う。

・・・理解できんな。

 

 

辛うじて、「隣国の軍事機密の記された王冠を奪う」と言う任務内容だけは理解できる。

だがどうも、隣に立つシャルロットによればそれは違うらしい。

 

 

「では何だ、シャルロット」

「う、うーんとね、ラウラ。皆、一夏と一緒の部屋になりたいんだよ」

「・・・何故だ?」

「え、えーと・・・一夏のことが好きだから、かな?」

 

 

・・・理解できんな。

小さく首を振ると、シャルロットは指で頬を掻きながら苦笑を作ってみせた。

 

 

「ほ、ほら、ラウラだって織斑先生のことが好きでしょ?」

「・・・さぁな」

「え、違うの?」

 

 

好き・・・と言う感情は良く分からない。

織斑教官は私の尊敬の対象であり理想でもあるが、それが好意と結びついているかはわからない。

極端な話、軍上層部が教官を殺せと命じてくれば私はそうするだろう(無理だと思うが)。

・・・好意、それは兵器には必要の無い感情だ。

 

 

「・・・まぁ、そんなことは良い。それよりもシャルロット、生徒会長経由だと言うその情報は確かなのだろうな」

「うん、それは間違いないよ。・・・情報の出所は、僕も知らないけどね」

「まぁ、末端の兵が知る必要の無い情報と言うのもあるからな」

 

 

私はすでに、自分のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開している。

ハイパーセンサー越しに第4アリーナの舞台を見下ろせば、そこは混乱のるつぼだった。

『シュヴァルツェア・レーゲン』のセンサーは、常に3人の人間の動きを追尾している。

織斑一夏と、篠ノ之姉妹。

 

 

一方でシャルロットも、すでに自身のISを身に着けている。

第2世代型フランス機をベースに日本とロシアの技術を組み込んだカスタム機、機体カラーはほぼ同じだが形状が変わっている。

整備責任者は篠ノ之楓、以前自慢げに「ロシアの技術を転用して、新システムを組み込んでみたよ!」とか言っていたな。

何を組み込んだ物やら、恐ろしいやら楽しみやら・・・。

 

 

「・・・ラウラ」

 

 

不意に、シャルロットの声が緊張を孕む。

そして言われるまでも無く、私も異変に気付いている。

今の会話の間に、織斑一夏と・・・篠ノ之姉妹がISの視覚内から消えた。

 

 

「シャルロット、二手に別れるぞ」

「うん、僕は一夏の方に」

「好きにしろ」

 

 

シャルロットと役割を分担している間にも、周囲で私達以外の人間が動いているのを感じる。

鈴とセシリアも、それぞれのカバーに行ったようだ。

いずれにせよ・・・。

 

 

・・・私に与えられた命令は、ただ一つ。

織斑一夏と篠ノ之姉妹を、ドイツ以外のどこにも渡さないこと。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「ああー・・・死ぬかと思った」

 

 

第4アリーナの裏口から出た所に、ちょっとした空き地みたいなスペースがある。

まぁ、資材置き場みたいな場所で・・・私は木材に囲まれてちょっと一息ついてる。

さっきまでは、アリーナの中で箒姉さんの舞台を見てたんだけど・・・。

 

 

・・・一夏さん、モテ過ぎだよ。

いったい、何をどうすればあんな空前絶後なモテかたが出来るんだろう。

モテ期? モテ期が来てるの? 一夏さんに今まさにモテ期が来ているの?

あれだけモテても一夏さんは、それに気付かないんだよね。

あれはもう、一種の奇跡だよね・・・。

 

 

「おかげで、簪ちゃん達とはぐれちゃうし・・・」

 

 

大人気アーティストのコンサート会場でも、ここまでじゃないと思うよ。

何と言っても、女の子の達が凄くて・・・酔いそうだった、フローラルな香りに。

女の子って、凄いパワーだから・・・久々に具合が悪くなるかと思った・・・。

 

 

「・・・大丈夫、お嬢さん?」

「ほえ?」

 

 

このままここでイベントが終わるまでぼんやりしてようかなーとか思ってた時、不意に声をかけられた。

何かと思って顔を上げると、座りこむ私を見下ろすように目の前に女の人が立っていた。

それも、物凄い美人さん。

 

 

「・・・あ、お昼の人?」

「ええ、お久しぶりね」

 

 

そこにいたのは、お昼に廊下でぶつかった女の人だった。

赤いスーツの、長い金髪の美人さん。

スタイル抜群の大人の女の人・・・金色のイヤリングが、太陽の光を跳ね返して輝いてる。

 

 

「え、えーと・・・こんにちは?」

「ええ、こんにちは」

 

 

にこっ・・・と微笑むお姉さん。

私もつられてニッコリ、笑顔で見つめ合う私とお姉さん。

えーと、どうしてここに・・・。

 

 

 

次の瞬間、目の前に火花が散ったような気がした。

 

 

 

そして気が付いたら、身体が横に倒れてた。

へ・・・へ?

こめかみのあたりがジンジンと熱くなって、急に痛みが・・・。

 

 

「いっ・・・!?」

「ごめんなさいね、私もこんなことはしたく無いのだけど」

「・・・っっ!?」

 

 

右のこめかみの痛みで、ようやく自分がヒールの先で「蹴られた」ことを自覚する。

地面に転がって悶える私を見る女の人の目は、とても冷たい。

え、な、何、何・・・っ?

 

 

「な、何す・・・・・・ひぐっ!?」

 

 

鈍い音がして、口から悲鳴が漏れる。

脇腹を踏まれて、ヒールの先が肋骨の間にねじ込まれるかのような感覚。

ぐりぐりと踏み躙られて、熱が広がるように痛みが・・・っ。

 

 

「可哀想ね・・・痛むのかしら」

「・・・っ!?」

 

 

本当に心配そうな声で喋りながら、さらにヒールの踵を私の脇腹に押し込んでくる女の人。

あまりに深く刺さって(比喩では無くて)、私は声が出せない。

でも吐く息は悲鳴その物・・・って、痛い痛い痛いっ!?

 

 

え、何、何なのこの人、どうして私を苛めるの?

しかも明らかにドSだし・・・ド、S、だし・・・っ!?

や、やめ、やめぇ・・・っ!

 

 

「本当はこんなことをしたく無いのだけど・・・この目で直接、見ないことにはね」

 

 

な、何の話? 何でこんなことされるの?

痛い・・・怖い。

怖い、怖い・・・助けて、誰か。

でも、声が出ない。

 

 

「・・・ぇ・・・」

 

 

助けて、姉さん・・・!

私がそう願った、次の瞬間・・・脇腹に刺さってた重みが、離れた。

同時に響いたのは、何かが鬩ぎ合うような金属音。

 

 

「・・・えほっ、けほっ・・・ぅ・・・!」

 

 

肺が収縮して、咳き込む。

気付かなかったけど、肺を圧迫されてたみたい。

どうりで、苦しいと思った。

 

 

「・・・楓!」

「ね・・・」

 

 

姉さん、と言いかけた口が止まる。

そこにいたのは、私を助けてくれたのは私の姉さんじゃ無くて。

・・・それは。

 

 

「か・・・簪ちゃん?」

「・・・助けに・・・来た」

 

 

何かに吹き飛ばされたのか、木材の破片が舞い散る中で。

身体に『打鉄弐式(うちがねにしき)』を身に纏った簪ちゃんは、どこか誇らしそうにそう言った。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

第4アリーナのイベントに巻き込まれて、楓とはぐれた。

少し焦る、まさかとは思うけど・・・政府からの通達が脳裏を掠めて。

本音も心配・・・でも、楓はもっと心配。

 

 

「どこ・・・」

 

 

楓はISをステルスモードにしていないから、すぐに場所はわかった。

人の波をかき分けて、人通りの少ない裏口へ。

資材置き場・・・木材や土袋なんかが置かれてて。

 

 

「な、何す・・・・・・ひぐっ!?」

「・・・楓?」

 

 

楓の声がした。

ISの反応を頼りに視界を巡らせると、資材の隙間から。

 

 

「可哀想ね・・・痛むのかしら」

 

 

赤いスーツの女の人に踏まれる、楓。

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

反射って、こう言うことを言うんだと思う。

『打鉄弐式(うちがねにしき)』を瞬時展開、装甲が完全に展開される前に腕部だけで資材の壁を殴る。

爆発みたいな音が響いて、楓を踏みつけてた女の人ごと・・・!

 

 

「・・・簪、ちゃん?」

 

 

軽く咳き込みながら私を見上げて来る楓の顔を見た時・・・何だろう。

凄く、嬉しかった。

まるで・・・私が好きな、アニメのヒーローになれたみたいで。

 

 

どうせ・・・楯無姉さんには、敵わない、けど・・・でもっ。

私、だって・・・って、思いたい、から。

 

 

「楓は・・・私が、守る」

 

 

政府の命令だからじゃない、自分の、意思で。

お友達を・・・守る。

対複合装甲用の超振動薙刀「夢現(ゆめうつつ)」を呼び出し(コール)、完全装着した『打鉄弐式(うちがねにしき)』で楓の前に立つ。

 

 

「良いのかしら、確か許可区域外のIS展開は条約違反なのでは無くて?」

 

 

赤いスーツの、女。

金髪を薄く輝かせて、楓を踏みつけていた女が私を興味深そうに見る。

資材を吹き飛ばした私の攻撃を受け止めたことを証明するかのように、その片腕には金色のISが部分展開されてる・・・。

 

 

・・・『打鉄弐式(うちがねにしき)』のデータベースに、存在し無い機体。

この人、いったい何者・・・。

 

 

「緊急時には・・・許可、されている・・・」

「あらそう・・・なら、貴女は正式な救援では無いのね」

 

 

・・・私の言葉から、情報を抜き取られた?

私の顔色が変わったのがバレたのか、赤いスーツの女が刃の振動する不思議なナイフを展開、投げて来る。

後ろに生身の楓がいる・・・撃ち、落とす・・・!

 

 

「・・・楓、『黒叡(こくえい)』展開・・・!」

「あ、うんっ」

 

 

呆けていた楓が待機状態の指輪を振る間に、私は投擲されたナイフを薙刀で払い落す。

後ろでIS展開の光が漏れるのを確認しながら、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。

薙刀を、下から斬り上げる・・・!

 

 

「・・・なっ!?」

 

 

薙刀の刃は、相手に届かなかった。

相手と薙刀の間に、金色の繭みたいな物が展開されていて・・・有り体に言えば、エネルギーシールド。

ぎぃんっ、そのまま払い上げてから振り下ろす。

金属か削れるような、嫌な音・・・でも届かない、斬れない。

これは・・・。

 

 

「やめましょう?」

「・・・っ」

「貴女のISでは、これは突破できない・・・わからないでしょうけどね」

 

 

さっきまで感じていた高揚感が、急激に冷めて行くのを感じる。

胸の奥の嫌な部分が刺激されて・・・全部、ダメになっていく。

私、でも・・・まだ!

私は日本の代表候補生・・・そして更識の次女・・・楓の、お友達。

なら、そう・・・振る舞う、だけ!

 

 

「簪ちゃん!」

 

 

背後から響く楓の声に、はっとなる。

後ろから漏れてくるのは、黒い粒子のナノマシン・・・!

反射的に、薙刀を捨てる。

 

 

「なるほど・・・これが」

 

 

ザザッ・・・と砂が風に飛ばされるように、金色の繭が波打つ。

それを眺めながら、赤いスーツの女が感心したように頷く。

そして私は、荷電粒子砲「春雷(しゅんらい)」を呼び出し(コール)・・・撃

 

 

 

顔の横を、何かが通り過ぎる。

 

 

 

視線だけを後ろにやると、ディスプレイの展開を始めたばかりの楓に・・・何かが。

1秒もしない内に、それがエネルギー・ワイヤーだとわかる。

まるで網みたいに広がって、楓を包む・・・・・・ダメ!!

 

 

「か・・・」

 

 

私の唇が楓の名前を呼ぶ前に、それは楓の身体にかかって。

電流を・・・発する、直前。

ワイヤー・ネットが、楓の身体に触れそうになった、次の瞬間だった。

 

 

ISの警告音が鳴り響く、同時に青い光がワイヤー・ネットを撃ち抜いた。

な、何・・・? ハイパーセンサーの片隅には、それが何か映し出されてる・・・それは。

青い・・・IS。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

楓さんとその機体を力尽くで欲しがるような輩は、候補を挙げれば両手の指の数を軽く超えますわ。

そもそもにおいて、ISを欲しがる組織はいくらでもあります。

ISの機能を停止させるISとなれば、もっと多くの組織が狙うのは当然。

 

 

故にIS学園に派遣されている代表・代表候補生には現在、同じ命令が出されているはずですわ。

すなわち、「対象をどこにも渡すな」。

当然、イギリス代表候補生たる私も例外ではありません。

本国政府の命令により、箒さん達とその機体を他の国家・組織に渡さないよう気を配る義務があるのです。

 

 

「・・・そして友人としても、一夏さんや楓さん達を守るのは当然ですわ」

 

 

呟きながら覗くのは、『ブルー・ティアーズ』の主力武装「スターライトmkIII」のスコープ。

超々遠距離での狙撃も可能なこのレーザーライフルで狙うのは、楓さんを狙う不届きな輩。

今も、奇妙なワイヤー・ネットを撃ち落とした所ですわ。

第4アリーナの屋上に身を潜めつつ、敵・・・と思わしき赤いスーツの女性に照準を合わせます。

 

 

「・・・離れた。頂きますわ!」

 

 

エネルギー充填が済み次第、次を撃ちます。

今度は直接、赤いスーツの女性を。

楓さんのご友人である4組の代表候補生が女性から離れると同時に、射撃します。

 

 

しかし赤いスーツの女性は私の弾道を完全に読んでいたのか、少し後ろに動くだけでかわしてしまいましたわ・・・何ですって!?

舌打ちしつつ照準を修正、続けて撃ち続けます。

そしてその全てを、赤いスーツの女性はかわし続けます。

テンポ良く、私の狙撃に合わせて後退するその様は・・・逃げられますわ!

 

 

「く・・・!」

 

 

私と『ブルー・ティアーズ』の狙撃を、ここまで鮮やかに避けて見せるとは。

しかも、ほとんどこれといった動きも見せずに。

私の狙撃が直線的なビームである以上、狙撃点さえ見切っていれば計算上は可能ですが・・・!

 

 

「とは言え、ここまでとは・・・っ!」

 

 

スコープ越しに、金色のISを部分展開した標的が私を見たような気がします。

・・・場所を知られましたわ、移動しないと。

私がそう思い、一旦ライフルを下げて移動しようとした時・・・。

 

 

「・・・IS反応!?」

 

 

突然、周囲にISの反応が―――おそらく、ステルスモードで隠れていたのでしょうが―――第4アリーナ周辺に発生しました。

中には知っているものもありますが・・・しかし、ほとんどは新参者。

こ、これは・・・他の国の。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

「ちぃっ・・・後から後から湧いて出やがって」

 

 

巻紙とか言う女の声が、一夏を支えて立つ私の耳を打つ。

私はすでにISを展開しているが、一夏は生身だ。

IS・・・『白式(びゃくしき)』を展開しないんじゃない、できないんだ。

 

 

一夏に肩を貸しながら顔を上げれば、そこにはスーツ姿のロングヘアの女。

黄色と黒のカラーリングを施された8本足のIS『アラクネ』を駆るその姿は、どこか醜悪さを感じる。

だからだろうか、顔の造形の割に美人には見えない。

第4アリーナのピットを荒らして、しかも一夏を倒した女。

その手に握られている菱形立体のクリスタルは・・・『白式(びゃくしき)』のコアクリスタル。

 

 

「返しなさいよ・・・アンタっ!!」

 

 

私と一夏の前に立って吠えるのは鈴、もちろん『甲龍(シェンロン)』を展開済みだ。

イベントが滅茶苦茶になって、2人で戦いを続けながら一夏を追って・・・。

見つけた時には、どう言う理屈かはわからないが、一夏はすでにISを「剥ぎ取られて」いた。

そこから、私と鈴で一夏を助けて・・・今度は、一夏の『白式(びゃくしき)』を取り戻す所だ。

 

 

「はっ・・・そんなに怒るなよ、まさかそのガキに惚れてんのかぁ?」

「なっ・・・!」

 

 

急に指摘されて驚く私と異なり、鈴の行動はもっと過激だった。

片手の青竜刀を回転させながら『アラクネ』に肉薄し、近接戦闘を仕掛ける。

だが『アラクネ』は8本の足を複雑に動かしながら回避運動を行い、さらに一部の足の先に備え付けられた銃口から実弾射撃まで行う。

 

 

鈴は大きく息を吸いながらわずかに後退し、自分を追って来た足の一本を掴む。

そこから私達に被害を与えないように角度を調整しながら、『衝撃砲』を発射。

千切り取るように、その足を粉砕した。

 

 

「ちぃっ・・・このガキッ!!」

「・・・っ!」

 

 

これは最近になって気付いたことだが、鈴はIS戦闘中にはあまり喋らない。

通信などをかければ別だが、余計なことは喋らずに・・・戦う。

それは、普段のイメージからは想像もできない程に。

 

 

『―――――箒、一夏、しゃがんで!!』

 

 

プライベート・チャネルで響いた声に反応して、しゃがむ。

直後、見覚えのある弾丸が頭上を掠めた。

アレは、連発ショットガン「レイン・オブ・サタディ」・・・!

後ろを見れば、そこにはオレンジ色のISを展開したシャルロットの姿。

 

 

「どぉわっ!?」

 

 

そしてそれは『アラクネ』の胴体に直撃し、巻紙とか言う女の表情を歪めることに成功する。

その隙を逃さずに鈴が青竜刀を振り下ろし、巻紙はまるで蜘蛛のように跳んで後退した。

連続して放たれるショットガンの弾丸を奇妙な動きでかわしながら、女は嗤う。

 

 

「へ・・・へへへっ、バカが! コイツさえ頂いちまやぁ、こんな所に用はねーんだよ!!」

「くっ・・・待て!」

「おおっと、私にばかり構ってて良いのかぁ?」

 

 

一夏のISを取り戻そうと動きかけた私に、女は嗤う。

それは、とても不快な笑みだった。

 

 

「今頃、もう1人の方も首尾良く頂いちまってるだろうぜ、ギャハハハッ!」

「もう1人・・・?」

「何だよ、わからねーのか? 意外とつめてー奴だなぁ」

「・・・箒、聞いちゃダメだ!」

 

 

シャルロットの声がやけに遠い、しかしすでに私は動いていた。

気が付いた時には刀を抜いていて、一夏をシャルロットに任せて飛び出している。

―――――展開装甲ッ!

 

 

「てめぇの、妹のことなのになぁ!」

「・・・楓に」

 

 

私の妹に。

 

 

「何を、したあああああああああぁぁぁぁっっ!!」

 

 

大上段から、刀を振り下ろす。

それは自分でも単調な動きで、『アラクネ』は平然とそれをかわす。

だがその代わり、腕部の展開装甲から出た赤いレーザーが『アラクネ』の足を焼く。

 

 

「ぐあっ!? ・・・てめぇっ!」

 

 

巻紙はそれにすぐに反応を返す、それは私の予想よりも速い。

私から一気に離れて、私が刀を返すまでに残りの5本の足・・・脚部の砲門が向けてきていて。

それはどうやら、実弾では無く・・・っ。

 

 

「・・・箒ッ!!」

 

 

鈴の声に反応して展開装甲を前面に集中させるが、私の動きが遅くて間に合わない。

次の瞬間・・・私の目の前で、光が弾けた。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

砲撃のエネルギーが、散った。

それは発射されたわけでは無くて、エネルギー砲に変わった『アラクネ』の脚部砲塔からエネルギーが放たれた直後、それが箒に届く前に四散したんだ。

エネルギーをこんな風に散らすには、いろいろと条件とかあるんだけど・・・。

 

 

「くそ、『白式(びゃくしき)』・・・!」

「一夏・・・」

 

 

僕の腕の中で悔しげな声を漏らす一夏、その視線の先には女の人に奪われたISのコア・クリスタル。

一夏の機体を、このまま奪われるわけにはいかない。

でも鈴も箒も、複数のPICで独立制御する蜘蛛の足を警戒して近付けない。

 

 

「まるで珍獣だね、『おにぃちゃん』?」

 

 

その時、僕の傍に1人の女の子が立っていることに気付いた。

僕は座ってて、その子は立ってるんだけど・・・背が小さいからか、そんなに見下ろされてる気にはならない。

青灰色の眼をした女の子で・・・どこか、被虐的でもあり嗜虐的でもあるような、不思議な雰囲気を纏った女の子だった。

 

 

「ちょっ・・・キミ、ここに来ちゃダメだ!」

「はっ・・・おせぇよっ!!」

「一夏!」

 

 

一夏の必死な声に何かをそそられたのか、『アラクネ』のパイロットが脚の一本を使ってエネルギー砲を撃って来た。

それを見た箒が悲痛な声を上げるけど、どうにもできない。

一夏は機体が無いから無理、なら僕が・・・と思った、その時。

その女の子の身体を、光の粒子が包む。

 

 

同時に僕のISに情報が表示される、それはその子と・・・機体のデータ。

アメリカ代表候補生、エリス・シール・・・機体は『タイニー・ウィッチ』!

・・・ISの、操縦者!

 

 

「『クラウニック・ウィッチズ』・・・!」

 

 

囁くようにその子・・・エリスさんが言葉を放つと、キラキラと輝く何かが視界に散った。

それは僕達の前面に展開されて、徐々にエネルギー砲の威力を削いで・・・最終的に消してしまう。

この散らし方は、さっきの箒を守った奴と一緒の・・・。

 

 

「・・・電波欺瞞紙(チャフ)、だと!?」

「電波欺瞞金属(クラウニック・ウィッチズ)だ、バカヤロウ」

 

 

相手の言葉を訂正しながら、エリスさんが笑う。

それが気に入らなかったのか、『アラクネ』の動きが加速する。

 

 

「このガキッ・・・ぶっ殺してやる!」

五月蠅い(シャラップ)。お前はすでに囲まれてるぞ、バカヤロウ」

「はぁん・・・ガキだけじゃねぇか。お前ら全員皆殺しにして・・・」

「そうかい、なら・・・アメリカ人生徒保護の権限(めいもく)で、お前を殺す」

 

 

最後の言葉は、この場にいた誰の物でも無い。

巻紙の背後に突然、別のISを纏った女性が現れて・・・その人の言葉だ。

その人は、アメリカ「代表」・・・。

 

 

「て、てめぇは・・・!」

「ジーナ・ワトソン・・・冥土の土産だ、覚えておきな!」

 

 

ISの拳を握りしめた金髪の女性(ジーナ・ワトソン)が、至近距離から『アラクネ』の胴体部を殴った。

鈍い音と悲鳴・・・そして。

煌めくコア・クリスタルが、宙を舞った。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

えーと・・・これはいったい、どう言う状況なんだろう。

赤いスーツの女の人のISにナノマシンを付着させようとしたら、変な物を投げられて。

でもそれはセシリアさんが狙撃で落としてくれて、それから・・・。

 

 

「無事か、楓」

「ら、ラウラさん・・・?」

 

 

そして今、私の目の前にはラウラさんがいる。

片手をスーツの女の人に向けていて・・・AICで女の人を捕まえてる。

でもそのAICの力も、金の繭みたいなフィールドに邪魔されて本体は捉えられてない。

そのフィールドの中で、赤いスーツの女の人が片目を閉じながら周りを見る。

 

 

そこには、私とラウラさんと・・・簪ちゃんと、そしてそれ以外のISが並んでる。

そしてその全てが、IS学園にスペック・データが提出されている機体。

 

 

「申し訳ありませんが・・・その方の機体を国外に持ち出されると、困りますので」

 

 

崩れた資材の陰にそっと立っているのは、日本の第3世代機『雷刃(らいじん)』。

搭乗者は・・・1年3組の代表候補生、「立道 雪音」・・・さん?

何でここに・・・?

 

 

「手癖の悪い女性は、殿方に嫌われますよ?」

「・・・」

 

 

赤いスーツの女の人の背後に立っているのは、豪州の第3世代機。

機体名『ヴィクトリア』・・・搭乗者、国家代表「ソフィー・アーノルド」さん。

その隣で目をギラつかえながら立っているのは、同じ豪州代表の「アイシャ・ブライト」さん。

ISは第3世代機、『スカイ・ガーディアン・アイシャカスタム』。

・・・あれ? あの人達、さっき会ったような・・・。

 

 

「・・・降伏しろ」

「あら、どうしてかしら?」

 

 

そうこうしてる内に、ラウラさんがAICで捕まえたまま降伏勧告してた。

まぁ、凄く囲んでる感があるもんね。

でも、相手はまだ余裕を残してるみたいな表情。

対するラウラさんも、表情を変えずに続ける。

 

 

「何故と聞くか・・・ならばこう言おう、侵入者」

「聞きましょう、ドイツのお嬢さん」

「・・・お前は今、『世界』を相手にしているのだからな」

 

 

世界・・・日本、ドイツ、そして豪州と英国。

確かに、これだけの国のISが同時に1人を相手にするって聞いたことが無い。

・・・ああ、一個だけあったっけ。

ISじゃないけど、世界を相手にしたことのある人・・・。

 

 

でもこの人は、その人じゃない。

これだけのISに囲まれれば、いくらなんでも。

 

 

「・・・さぁ、どうかしらね」

 

 

それでも、悠然とした構えを崩さない。

それどころか、挑発するみたいに手を振って・・・金の繭のフィールドが、ラウラさんのAICごと弾け飛んだ。

ラウラさんが驚いたような顔をしたけれど、次の瞬間には。

 

 

「・・・ならば喰らえ、南洋の嵐。『デッド・ウォール』!!」

 

 

次の瞬間には、空色のISを纏ったアイシャさんが背後から赤いスーツの女の人の正面に回り込んでいた。

速い! 『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を2回同時にやって・・・!

敵の目前でアイシャさんが炸裂させたのは、50mmの銃身が5つもあるクラスターショットガン。

細かな弾丸が一度に炸裂して、装甲を削り取る。

 

 

「・・・何だと?」

 

 

でもその衝撃は、全て防がれた。

しかも今度は金の繭じゃなくて、無骨な形をした・・・シールド・ビット。

私のソード・ビットと違って、実体シールドを浮遊させるタイプの・・・!

 

 

『・・・もう1機、おりますわ! 注意を・・・いえ、ですがこの機体は・・・!』

 

 

プライベート・チャネルでのセシリアさんの声は、どこか動揺してるように聞こえる。

でも、もう遅かった。

何故なら、赤いスーツの女の人を守ったシールド・ビットが・・・自爆したから。

それも、高性能爆薬らしき反応を『黒叡(こくえい)』は感知して・・・ちょ、威力が。

 

 

「楓!」

 

 

資材置き場がシールド・ビットの自爆で吹き飛ぶのと同時に、私は誰かに抱き締められるのを感じた。

それは、束お姉ちゃんや箒姉さんが与えてくれる頼もしさとは、違う物だけど・・・。

・・・どうしてか、凄く安心できる気がした。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

シールド・ビットの自爆によって周囲の目を欺いた赤いスーツの女・・・スコールは、素早く「回収」されていた。

より正確には、自分を「回収」させていた。

 

 

ISを部分展開させた片腕が、誰かの手に掴まれている。

それはブルーの鮮やかな装甲に包まれた少女であって、年齢は15歳ほどだろうか。

顔はバイザーに包まれていて見えないが、艶やかな黒髪が印象的な少女だった。

身に着けているISは『サイレント・ゼフィルス』・・・先日、英国から失われた機体である。

 

 

「ご苦労だったわね、エム」

「・・・・・・」

「・・・エム?」

「・・・オータムが負けている、早くしないと捕らわれるぞ」

 

 

エムと言う少女の言葉に、スコールは目を細める。

高速で空を飛びながらも、エムもスコールもまるで地上にいるかのように普通に会話している。

だがこの間にも、2人は複雑な軌道を描きながら後続の追跡を振り切ろうとしていた。

国家代表クラスが複数名相手では、流石に逃げの一手しか無いらしい。

 

 

「・・・そう。そう言うことはもっと早く言って欲しいのだけれど?」

「・・・はっ」

 

 

鼻で笑うエム、スコールは目を細めるが特に何も言わなかった。

それよりも、オータムの事態の方が重要で・・・。

 

 

 

「ねぇ、今日って湿度、高くない?」

 

 

 

不意に、涼やかな声が響く。

いつの間にか2人に並走していたそれは、水の羽衣を纏ったかのような独特なIS。

装甲は少ないが、それを補うように水のヴェールが操縦者の身体を覆っている。

そして水のヴェールを制御している一対のアクア・クリスタルが太陽に煌めいて、輝きを放つ。

 

 

「あら、貴女・・・しつこい女は、嫌われるわよ?」

「ご忠告ありがとう、『亡国機業(ファントム・タスク)』。お礼に良いことを教えて上げるわ」

 

 

そのISの名は、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』。

操縦者の名は、更識 楯無。

―――――彼女は。

 

 

「・・・この学園の生徒会長と言うのは、最強の称号だと言うことを」

 

 

3人の女がそれぞれに口元に笑みを浮かべた、次の瞬間。

IS学園の空で、今日何度目かの爆発が巻き起こされた。

学園祭の花火に紛れたそれは、一際大きな物だったと言う。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

「・・・楓っ!!」

「わぷっ!?」

 

 

第4アリーナの更衣室で、楓と再会した。

再会と言うほど離れていたわけでは無いが、ただ心配だった。

一夏を襲った奇妙な女が―――その後、仲間らしき女が来て攫って行ったが―――楓のことを言っていたから、本当に心配だった。

 

 

「どこか怪我をしていないか? 気分は? 何か妙なことをされなかったか?」

「ち、ちょ・・・っと、落ち着いて姉さ・・・」

「すまない、まさかこんなことになるなんて・・・不用意に離れるべきでは無かった、許し」

「あーもーっ、だーいじょーぶーだかーらー!!」

 

 

出会い頭の勢いのそのままに抱き締めながら心配すると、逃げられてしまった。

腕の中からしゅるりと抜けだされて、一抹の寂しさを感じる・・・って。

 

 

「な、何故逃げる!?」

「いや、別に逃げたわけじゃ・・・と言うか箒姉さん、極端すぎるよ!?」

 

 

わ、私が極端だと・・・馬鹿を言うな、私はいつでも軸がブレない。

そもそも剣士と言うものは、どんな時でも冷静にだな。

 

 

「はいはい、さっさと着替えなさいよーっと」

 

 

その時、スタスタと鈴が私達の横を通り過ぎて行った。

一夏は医務室に運ばれて検査中だが、私達はシャワーと着替えを先にするように千冬さんに言われている。

詳細はわからないが、今も追跡と調査が行われているらしい。

 

 

「り、鈴。さっきは助かった・・・私一人ではどうにもならなかった」

「んー? 別に、私もあの女が気に入らなかっただけだし」

 

 

どこか照れたように言う鈴、頭の後ろで腕を組んで私に背中を見せている。

 

 

「それでも・・・ありがとう」

「ちょ、やめてよね気持ち悪い・・・あ、でもじゃあ、私が一夏と2人きりで看病するってことで」

「な、それはダメだ!」

「何でよ!?」

 

 

何でも何も、それはダメだ、むしろ私が一夏を看病したい。

と言うか、結局、一夏の王冠は取れなかったし。

まぁ、救いは誰の手にも渡らなかったことか。

 

 

その代わり、どうやら生徒会の出し物が投票で一位になる公算だと言う。

結果として、「生徒会が協力的な部活に一夏を貸し出す」と言う結果になりそうだとか。

・・・いや、それは余りに一夏が。

 

 

「・・・楓、大丈夫・・・?」

「あ、簪ちゃん・・・さっきはありがとう、背中大丈夫?」

「シールドで防御したから・・・」

 

 

私が鈴と話していると、楓も1人の少女と話し始めた。

どこか楯無会長に似たその少女は、簪と言う名の・・・楓の友達だ。

今回、楓を守ってくれたのだと言う。

私は、その簪の傍に寄って行った。

 

 

「話の最中にすまない、簪・・・だったか、ちゃんと話すのは初めてか。臨海学校でも会っているから知っていると思うが、私は箒、その子の姉だ」

「あ、はぃ・・・その、楓にはいつもお世話に・・・」

「いや、お礼を言うのは私の方だ」

「へ・・・?」

 

 

簪の両手を掴んで、握り締める。

彼女は少し驚いたのか、身を竦めたが・・・構わずに、言葉を続ける。

 

 

「・・・ありがとう」

「え・・・」

「おかげで、楓が・・・妹が無事だった。本当にありがとう、感謝している」

「あ、えと・・・その・・・わ、私、なんて・・・」

 

 

何故か顔を紅くして俯かれてしまったが、私の感謝の気持ちは変わらない。

簪のおかげで、楓が無傷だったのは変わらないのだから。

 

 

「・・・アレは、狙ってやってんのかしらね」

「えっと・・・箒姉さん、真面目だから」

 

 

楓と鈴が意味のわからないことを言っているが・・・そうだ、ラウラやセシリア達にもお礼を言わなければ。

今回は、本当に助かった・・・。

 

 

「ちょっと良いかな?」

 

 

ちょうどその時、シャルロットが更衣室の扉を開けて顔を出した。

そうだ、シャルロットにもお礼を・・・と思ったら、シャルロットの後ろから山田先生が出て来た。

その手にはファイルを持っていて、どこか疲れた表情をしている。

 

 

「や、山田先生・・・お疲れ様です」

「い、いえ、先生ですから・・・それよりも、皆さんには取り調べを受けて貰わ無いといけなくて・・・」

「げ~・・・長いのよねぇ・・・」

「そ、そんなこと言わないでくださいよぅ・・・」

 

 

鈴の言葉に、山田先生が傷付いた表情をする。

とは言え確かに、これから取り調べと言うのも・・・。

 

 

 

「その取り調べってさぁ・・・私らも必要なわけ?」

 

 

 

そしてシャワールームから響いたその声に、場の空気が緊張した。

1人では無い、何人かの気配。

それは・・・外国の代表・代表候補生達だった。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「いやー、お嬢ちゃんが無事で良かったよ。てーか小さいなぁ、日本人。飯、食ってるかぁ?」

 

 

カラカラと笑いながら、アイシャさんがグシグシと私の頭を撫でてる。

助けて貰った立場だし、別に嫌ってわけじゃないから良いけど・・・。

でも、頭がカクカクするくらい揺さぶるのはやめてほしい。

 

 

箒姉さんはと言うと、ソフィーさんにペコペコと頭を下げてる。

アイシャさんとソフィーさん、オーストラリアの国家代表なんだって。

まぁ、何をしにオーストラリアから日本に来たのかは知らないけど・・・。

まさか、きんぴらを食べに来たわけでも無いだろうし。

 

 

「どうだい、一度オーストラリアに来ないか? 景色は綺麗だし飯は美味いし、良い所だぜ?」

「・・・勝手に勧誘されては困ります」

「はい? 勧誘?」

 

 

ロッカーの陰から出て来たのは3組の立道さん、剣道部の所で会った3組の子。

勧誘って、何に? 新興宗教?

と言うか、ここに来て急激に私の周りに人が。

いきなりだから、実はちょっと混乱している私。

何で私、人に囲まれてるんだろう?

 

 

「織斑 一夏を含む3名及びその機体は、協定内容に変更が無い限りIS学園所在地である日本国の外に出てはならないと定められているはず」

「おいおい、誤解だよ誤解。私は単に観光に誘ってるだけだって」

「・・・豪州代表」

「何だよ、日本の候補生(ヒヨコ)ちゃん」

「え、えーと・・・?」

 

 

な、何故に私を挟んで視線の火花を散らしているのか。

IS展開寸前の粒子が舞い踊ってるのは、私の見間違いなのだろうか。

・・・口調がちょっと変になるくらい、混乱してる。

 

 

助けを求める意味を込めて、簪ちゃんを見る。

すると、簪ちゃんは凄く困った顔になって。

 

 

「え、えと・・・その、ね・・・楓」

「う、うん?」

「今、ね・・・楓と、あとお姉さんと・・・織斑くん、どこの所属でも無い、でしょ?」

「まぁ、そうだね」

 

 

あえて言うなら、束お姉ちゃん所属だけど。

それ以外は特に、国家とか企業とか興味無いしね。

 

 

「い、今・・・それが、ちょっと・・・問題になってて・・・」

「・・・何で?」

 

 

小首を傾げながら聞き返すと、簪ちゃんが物凄く困った顔になった。

え、ええぇー・・・? 私、そんな困らせるようなこと言った?

国家所属とかになったら、いろいろ制約ついて面倒だし・・・。

ISは誓約と制約があったって別に強くならないしね。

 

 

「今の所、私も妹も・・・おそらく一夏も、どこかの候補生になったりするつもりはありません」

「箒姉さん」

 

 

戻ってきていたらしい箒姉さんが、私を引き寄せながらそう言った。

私を取られた形になったアイシャさんは、片手をヒラヒラしながら興味深そうな目で私達を見てる。

 

 

「ふーん・・・選べる立場の内に選んどいた方が、いろいろと楽だぜ?」

「そうそう、だからアメリカにしとけ。ウチは待遇良いぞー」

 

 

アイシャさんの声に被せるようにそう言ったのは、入り口の所に腕を組んで立ってた長い金髪の人。

い、いつの間に・・・と言うか、誰?

 

 

「わ、ワトソンさん、取り調べまで待っててくださいと・・・」

「待たせ過ぎなんだよ、ミス・ヤマダ」

「うぅ・・・」

「や、山田先生、しっかり!」

 

 

ああ、何か知らないけど、山田先生が心労の余り灰になってるような気がする。

山田先生を慰めてるシャルロットさんが、その灰を集めて固めてるみたいなイメージが頭に浮かんだ。

うーん・・・国家所属かぁ。

 

 

「鈴さん鈴さん、代表候補生になると何か良いことあるの?」

「へ? そうね、最新の設備と機体で訓練できるし・・・エリート扱いだから特権も多いわね。中国(ウチ)の場合、強盗以下の犯罪に対する逮捕猶予とか・・・」

「ふーん・・・」

 

 

ツラツラと代表候補生について教えてくれる鈴さん、でも申し訳ないけど、あんまり魅力を感じないなぁ。

と言うか勝手にどこかに入ったら、きっと束お姉ちゃんに怒られる。

お友達は選ばないとダメだよって、良く言われてたし。

 

 

お友達ならもう、たくさんいるし・・・それに。

箒姉さんが抱き締めてくれる今、他に何か欲しい物なんて無いもの。

それで十分、後のことは割とどうでも良いや。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

『亡国機業(ファントム・タスク)』。

組織の目的・規模一切が不明、わかっていることは50年以上前に誕生した組織だと言うこと。

そして、最近はISの強奪に手を染めていること。

国家に寄らず、思想を持たず、信仰は無く、民族にも還らない。

 

 

さらに個人的な縁で言わせて貰えば、第2回モンド・グロッソの時に私の弟を誘拐した輩だ。

おかげで私は決勝戦を棄権したわけだが・・・その点で後悔したことは無い。

ジーナやアイシャのようなモンド・グロッソ出場組は憤慨したろうが、仕方が無いだろう。

私にとって、一夏(おとうと)の存在は世界最強の称号より何倍も重いのだから。

 

 

「・・・『サイレント・ゼフィルス』。イギリスの第3世代型か・・・」

「はい、BT兵器の2号機・・・有り体に言って、『ブルー・ティアーズ』の後継機ですわ」

 

 

静寂を取り戻した第4アリーナのコントロール・ルームで、私はラウラとオルコットから一連の件について報告を受けている。

3度目の侵入、しかも相手は世界規模のテロ組織か・・・そろそろ、お偉方(いいんかい)も我慢の限界かな。

 

 

「イギリスが機体を失っていたことを、我が国は聞いていないが・・・」

「・・・察して欲しいですわ」

「私は、別にそれでも構わないがな」

 

 

ドイツの人間であるラウラは、イギリスの人間であるオルコットに意味深な視線を向けている。

ドイツ、フランスに続いてイギリス・・・今年はEUにとって厄年だな。

これだけ不祥事が続くと、各々の国家がどうこうの前にEUの信用が地に堕ちるだろうな。

 

 

そして私達の目の前のモニターには、3人の侵入者の映像が映し出されている。

全員、取り逃がした・・・特に『サイレント・ゼフィリス』の働きは目覚ましい物があったな。

敵ながら、あっぱれだ。

特に、『アラクネ』のパイロットを救援した際に見せた・・・。

 

 

「偏向制御射撃(フレキシブル)・・・」

 

 

オルコットが親の仇でも見るかのような目で、その映像を見つめる。

世界で初めて、ビームを「曲げた」操縦者とそのISを・・・おっと。

モニターが切り替わり、市街地にまで追撃していた更識―――いわゆる、更識姉―――からの通信が繋がれた。

映し出された表情は涼やかだが・・・どこか憂いを帯びているようにも見える。

 

 

『申し訳ありません、先生』

「逃げられたか?」

『はい、全力で逃げに入られると・・・流石に』

「そうか・・・ご苦労だった。戻ってきてくれ、相談したいこともある」

 

 

更識姉との通信が切れた後、私はラウラとオルコットの方を向いて山田先生の所に行くように告げた。

一応、形だけでも取り調べをしないと不味いからな。

そして2人を見送った後、私は・・・。

 

 

「・・・一つ聞きたいことがあるのだけれど、良いかしら?」

「いきなり現れるのをやめろ、レディア」

 

 

いったい、いつからそこにいたのか知らないが・・・コントロール・ルームの革の椅子に腰かけて爪を磨いていた琥珀色の瞳の女に、溜息を吐く。

これだから、モンド・グロッソ組の連中は嫌なんだ・・・。

一方でかつてイタリア代表として欧州に君臨していた女は、世間話でもするかのような調子で。

 

 

「あの子達・・・特に『黒叡(こくえい)』の操縦者、どんな子なの?」

「さぁな、私も良くは知らん」

「ふぅん・・・そうなの、残念ね」

 

 

実際、篠ノ之姉妹とはしばらく離れていたしな。

良くは知らない、むしろ一夏の方が詳しいだろう。

束なら・・・どうかな。

 

 

だが、私にしてみれば・・・ただのガキだ。

世界の広さを知らない、箱庭の・・・な。

 




篠ノ之 楓:
いやー、本当に酷い目にあったよー。
まぁ、いろいろな国の機体のデータ取れたのは不幸中の幸いと言うか何と言うか・・・。

篠ノ之 箒:
・・・楓?

篠ノ之 楓:
ぎくぅっ!
ほ、箒姉さん? え、えーとね、違うんだよ別に。
べ、別にデータ取れるなら蹴られるのもアリかななんてドMなこと考えて無いよー?

篠ノ之 箒:
そうか、そんなことを考えていたのか。

篠ノ之 楓:
か、考えて無いよー?

篠ノ之 箒:
そうか・・・なら楓、私の目を見ろ。

篠ノ之 楓:
(ささっ)

篠ノ之 箒:
私の目を・・・見ろ(がしっ)。

篠ノ之 楓:
・・・。

篠ノ之 箒:
(じ~~~~~~)。

篠ノ之 楓:
(こ、怖い・・・)。
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