インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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別にクラスはモテてません。
では、どうぞ。


第24話:「そのクラス、モテ期」

Side 篠ノ之 楓

 

どんな人間であれ、人生に一度は来ると言う伝説の「モテ期」。

正直、雑誌でしか読んだことないから・・・存在を信じて無かった。

でも今は、少し信じても良いかなって思ってる。

 

 

やっぱり人間、人生で一度くらいは引く手数多の引っ張りだこ状態ってあると思うんだ。

問題は、それが早いか遅いかってだけで。

でも今は、そもそもそんなの無くて良いのにって思ってる。

何でかって? それはね・・・。

 

 

「「「はぁ~~~・・・」」」

 

 

深い溜息を吐いて、私は箒姉さんと一夏さんと一緒に食堂のテーブルに突っ伏す。

学園祭も終わった次の週、そろそろ件のキャノンボール・ファストに向けて頑張ろう・・・的な空気が学園を支配するはずのこの時期。

私達は、精神的にも肉体的にも疲れていた。

理由は・・・。

 

 

「・・・姉さん・・・何ヵ国目?」

「今日で、8ヵ国目だ・・・一夏は?」

「6・・・楓は?」

「よくぞ聞いてくれました、なんとびっくり、12ヵ国目!」

 

 

瞬間的に起き上がり、元気よく答えてみる。

・・・うん、ダメだね、誰も反応してくれ無いや。

今度は不貞腐れる意味も兼ねて、テーブルに突っ伏す。

 

 

いや、本当にもう勘弁してほしいって言うか・・・先週からこっち、私達3人に対する「勧誘」が激しい。

この1週間だけで、私なんか12の国と32の企業から「ウチにおいでよ!」的なメールとお手紙がガンガン来てるんだもん。

おかしいよねコレ、校則的にどうなの・・・?

 

 

「アメリカ、オーストラリア、イタリアにー・・・珍しい所だとルーマニアとか台湾とか・・・」

「と言うか、俺らの扱いってまだ国際IS委員会が審議中なんじゃ無かったっけか?」

「いや、その・・・どうだろうな、私は日本政府にここに押し込められた過去があるから」

 

 

ちなみに一夏さんは6ヵ国22の企業から勧誘されてて、箒姉さんは8ヵ国28の企業から勧誘され中。

勧誘されるだけなら別に良いんだけど・・・無視したらダメらしくて、返信しなきゃいけないんだよね。

しかも、自筆で・・・この通信技術が発達した現代に自筆!

勧誘する方は一回かもしれないけど、こっちは何十個もあるんだよ!?

 

 

「そこでちゃちゃっと開発! この『全自動お断りマシーン』があれば、筆跡も完璧に再現してお断りのお手紙を書けちゃう優れ物!」

「マジか! 楓お前、すげーな!」

「いやいやいや! 落ち着け2人とも! それは流石に失礼にあたるだろう・・・!」

 

 

片腕ロボットアームの産業機械みたいな『全自動お断りマシーン』(自作・開発費はブラックカード)を足元の紙袋から取り出した所、一夏さんが歓声を上げた。

ふふふ、そうでしょそうでしょ、コレ作るために2日徹夜したもんね。

 

 

「その間に手紙を出せば良いのに・・・」

 

 

箒姉さん、ここで冷静なツッコミは聞きたく無いんだよ。

と言うかそもそも、何でこんなに勧誘とか来るのかなぁ・・・。

 

 

「まぁ、適当な理由付けて断っちゃえば良いよね!」

「良いわけないでしょ」

「あだっ!?」

 

 

ごちんっ・・・背後から後頭部を強打された。

ちょっと涙目になって振り向いてみれば、そこには朝食を乗せたトレーを持った鈴さんがいた。

な、何か、物凄く呆れられてるような気がする・・・何故だ、解せぬ。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

何と言うか本当、こいつらの意識改革が必要よね。

何で3人も揃って、「何で勧誘なんてされるの?」みたいな対応になるのよ。

中国に来いとは言わないけど(来てほしいけど)、これちょっと、本気でヤバいわよね。

 

 

「・・・良い? あのね、あんた達は篠ノ之博士お手製の最新鋭機を持ってるわけ。ここまではOK?」

「はい・・・」

 

 

心無し、頭にたんこぶができた楓がやけに静かに頷いて来る。

他の2人も神妙にしてるから、私は酢豚定食を食べながら話を続ける。

まったく、たまの休日に何でこんなことを・・・。

 

 

・・・でもほっといたら、大変なことになりそうな気がする。

こいつら、実は国際的にISがどう言う位置にあるかとか知らなそうだし。

と言うか、気にして無さそうだし。

 

 

「・・・だから、アンタ達の機体が欲しいわけ。第4世代機に積んである技術が独占できれば、政治的にも経済的にも物凄く美味しいから。わかる?」

「ふーん・・・」

「いや、凄いことはわかるんだが・・・どう凄いのかがイマイチ」

「・・・アンタ達、バカ?」

 

 

一通り説明したら、一応、流石に一応、理屈の上では理解してくれたらしい。

でも実感は湧かない、そんな感じ。

まぁ、実感を持てって方が難しいのはわかるけど・・・。

自分の持ち物が世界に凄い影響を与えるって言われても、戸惑うだけよね。

でもね、アンタ達にはその「戸惑うだけ」じゃ許されないのよ。

 

 

「・・・あまり、気分の良い話では無いな」

「どうして? 箒姉さん」

「何故なら欲しいのは私達の「機体」であって、私達では無いと言う話だからだ」

「そうね、そう言う話ね」

 

 

一夏が絡みさえしなければ、この中で一番常識のある箒の言葉に頷く。

まぁ、言っちゃなんだけど・・・。

 

 

「アンタ達、IS操縦の技術自体は大したこと無いから」

「そこまでじゃ無いと思うんだが・・・」

「一夏、アンタ誰かに模擬戦で勝ったことあるの?」

「ぐ・・・」

 

 

ちょっとプライドを傷つけられたらしい一夏が、言葉に詰まる。

私が知る限り、一夏はまだ全戦全敗。

第二形態(セカンドシフト)した第4世代機を使う唯一の操縦者なのに、誰にも勝てない。

裏を返せば、機体性能を含めても一夏は一番弱いってこと。

 

 

「ふふふのふ、大丈夫だよ一夏さん。一夏さんは箒姉さんと組めば、絶対無敵だからさ!」

「ワンオフ・アビリティが自在に出せるようになればね」

「ぐ・・・」

 

 

そして今度は楓が言葉に詰まって・・・箒本人は、苦笑してる。

箒はまだ、臨海学校の時に出たあの補給機能を自在に使えないから。

そしてそれは、どうやら楓も同じみたいだけど・・・。

 

 

「・・・そう言うわけで、良く考えなさいな。じゃないと、後で泣きを見ることになるわよ」

「鈴・・・お前、実は優しい奴だよな」

「な、ばっ・・・バカなこと言ってんじゃないわよ!?」

 

 

ち、違うわよ? 私はただ、自分の恵まれた環境にも気付いて無いバカを見てるのがウザいだけで。

ほら楓とかトロいし、一夏なんて抜けてるし、箒は視野狭いし。

だから、その・・・それだけよ、深い意味は無いわよ」

 

 

「そ、そうなのか・・・ところでお前は、誰に言い訳してたんだ?」

「あれ!? 声に出てた、私!?」

 

 

慌てて口を押さえるけど、もう遅い。

だって一夏の両隣りに座ってる楓と箒が、若干目をツリ上げてるから。

 

 

「ちょ、鈴さん? トロいってどう言うこと!?」

「視野が狭いとは、聞き捨てならないな・・・そしてそれ以上に、私の妹を愚弄すると」

「あ、ああぁ――! そうだ、一夏、もうすぐ誕生日よね!?」

 

 

何だか剣呑な雰囲気になってきたんで、話題を逸らす。

でも一夏の誕生日がもうすぐなのは本当、9月27日。

キャノンボール・ファストの当日って言うのは、運が良いのか悪いのか。

 

 

「ああ、それな。俺は良いって言ってるんだけど、今日は休みだし・・・箒と楓が俺の誕生日プレゼントを買ってくれるって言うから街に」

「「一夏|(さん)!?」」

「・・・ふーん、じゃ、私も行くわ」

 

 

形勢逆転、今度は私が唇の端を吊り上げる。

すると箒は気まずそうに、楓は不満そうに視線を逸らして一夏を睨む。

ふふん、抜け駆けしようったってそうはいかないわよ。

でも一夏はその視線に気付かずに、そのまま話を続けた。

 

 

「・・・行こうって話だったんだけど、俺が行けなくて。そうか、鈴が行ってくれるのか」

「そうそう、私が・・・って、へ?」

「いや、俺は今日もISの実戦訓練だから」

「はぁ!? アンタの誕生日プレゼントを買いに行くのにアンタがいなくてどうすんのよ!?」

 

 

いや、もちろん内緒でもう一個用意するけど!

そんな私に、一夏は言う。

 

 

「いや、俺、早く強くなりたいんだ」

「はぁ?」

「鈴を・・・箒を、楓を、皆を、守れるようになりたいから」

「・・・っ」

 

 

わ・・・私を・・・って・・・な、何よ、一夏の癖に。

べ、別に、カッコ良いとか・・・思ってあげないんだからね!

ゆ、許してなんて・・・あげないんだから・・・。

 

 

・・・な、何か欲しい物があったら、言いなさいよ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

と言うわけで、今日は楓と鈴と一緒に街に出て来た。

今は駅前のモニュメント、待ち合わせなどによく利用される場所だ。

まぁ、私達は最初から一緒に来たわけだが。

 

 

「そう言えば、このメンバーで街に出るのは初めてだな」

「ああ、そう言えばそうね」

 

 

学園では割と一緒に行動することも多いのだが、こうして私服で街に出るのは久しぶりだ。

鈴とはそうだな、夏休み前に皆で水着を買いに行って以来か・・・?

 

 

「うーん・・・一夏さんも来れれば良かったのにね」

「知らないわよ、あんな練習バカ」

「・・・その割に、何か嬉しそうだな」

「うんうん、顔赤いよね」

「ち、違うわよ。これはそう、アレよ・・・暑いのよ、残暑が!」

 

 

などとバカなことを話しながら、街を歩く。

ここ数日は勧誘の件で気が滅入っていたからな・・・良い気晴らしになる。

それに一夏の誕生日プレゼントを選ぶためとなれば、沈んだ気分も上昇しようと言う物だった。

 

 

・・・とは言えこうして可愛らしい店が並んでいる通りを歩いていれば、寄り道してしまうのが人情と言うものだろう。

特に妹や女友達と一緒なのだから、いつもよりも長く店に留まったりすることもある。

 

 

「姉さーん・・・一夏さんへのプレゼントは~?」

「まぁ、待て。ちょうど乳液を切らしていた所で・・・」

「うーん、やっぱ日本のショップは質も量もあって良いわね。この無添加の奴とか・・・」

 

 

新しくできたらしい店で、少し商品を見る。

幼い頃から神楽で化粧をしていたからかもしれないが、私もそれなりに化粧はする。

まぁ、身嗜み程度にだが・・・10代からやり過ぎると、かえって肌を傷めることもあるし。

そのあたりは、雪子叔母さんに教えてもらった。

・・・ん? そう言えば・・・。

 

 

「そう言えば楓、お前は普段、どこの化粧水を使っているんだ? トリートメントは?」

「あー、そうね。スキンケアとかどうしてんの?」

「何も使って無いよー」

「そうか、何も・・・・・・何も?」

「うん」

「・・・はぁっ!?」

 

 

もう、余りにも自然に答えられてしまって、一瞬、何を言われたのかわからなかった。

だからだろうか、鈴の反応が一瞬遅かった。

 

 

「ねぇねぇ箒姉さん、私、向こうの工具店に行ってきても良いかなー?」

「ダメに決まってんでしょ!?」

「何故に!?」

 

 

まじまじと、楓の顔を見る。

ニキビ一つ無い、ツルツルでスベスベの若々しいキメ細かい肌。

てっきり、それなりにケアしてる物だと思っていた。

 

 

服装も今は白のスマートワンピースなどを着ているし、一時期に比べてちゃんとするようになった。

ちなみに鈴は今日はデニム系で揃えたらしく、カットジーンズのショートパンツに袖の短いショートワンピースを合わせている。

私はカットソーにカーディガンを合わせて、臨海学校で楓に貰ったペンダントを着けている。

ちなみにスカートでは無く、下はスラックスだ。

いや、そこは別にどうでも良くて・・・。

 

 

「アンタね、『黒叡(こくえい)』のこともそうだけど・・・もっと女の子の自覚持ちなさいよ!」

「えー・・・面倒~」

「アンタ、それでも女子高生!?」

 

 

・・・前々から、気になっていたことがある。

ふとした瞬間にもしやと思うのだが、いやまさかと自分を納得させてきた。

だが、いやしかし、これは・・・。

意を決して、私は確認した。

 

 

「ひゃんっ!?」

 

 

鈴と話していた楓の後ろに回って、背中のあたりを片手で掴んだ。

そして、確認する。

・・・ま、まさか、いやしかし、これは・・・!

 

 

「な、何? 姉さん何?」

「か、楓? まさかとは思うが、お前・・・す、スポーツブ「嘘でしょ!?」・・・か?」

「へ? そうだよ?」

 

 

鈴が憤慨する中、きょとんとした顔で答える楓。

その瞳には邪気が全く無く、とても可愛らしいのだが・・・。

・・・姉さん、ここ数年間、楓をどう育ててたんだ・・・?

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

どうしてだろう、あの後、箒姉さんと鈴さんに2人がかりで叱られた。

正直、意味がわからない。

一番外側の服だけちゃんとしてれば、後はどうでも良いじゃん。

 

 

・・・そう反論したら、1時間お説教がおかわりになった。

どうしてだろう・・・解せぬ。

服は束お姉ちゃんのお下がりくらいしか持って無いって言ったら、泣かれた。

何のためのブラックカ○ドかって言われた、何のためって・・・お洒落のためじゃないよ、少なくとも。

 

 

「あ~・・・疲れた~・・・」

 

 

と言うわけで、駅前のショッピングモール『レゾナンス』にてお買い物。

一夏さんの誕生日プレゼントそっちのけで、箒姉さんと鈴さんに着せ替え人形にされた。

もう、人間としての尊厳を奪われる勢いで上から下まで全部・・・。

 

 

「良し、服と下着はこのくらいか」

「そーね、基礎化粧品の使い方は夜に教えるとして・・・」

「「次はあの店に行くぞ(わよ)、楓」」

「えええええぇぇぇ~~~!?」

 

 

エスカレーター近くのベンチに座って魂が抜けかけてる私、でも箒姉さんと鈴さんはまだまだ元気。

いやいやいや、これ以上何を買うの?

服なんて、清楚系からセクシー系、果ては「どこで着るのコレ?」な奴まで。

お化粧品だってボディバターとか意味のわからない物をいろいろ・・・ばたー?

しかも何故か、今夜教えられるらしい!

 

 

「次は秋物、それから冬物もだ。6階5階と降りて行って、最後にブーツも少し見たいな・・・」

「アクセどうする? この子、IS待機状態の指輪しかしてないし」

「そうだな、それも見るか・・・楓、後で4階にも行くぞ。ちょうどセール中だ」

「いやいやいや!?」

 

 

どんだけ頑張るの!?

いや、本当にどれだけ頑張るの!?

大事なことだから、思わず2回言ったよ!?

 

 

「ね、姉さん? もう十分だからホラ、一夏さんの誕生日プレゼントをさ、見にね・・・」

「一夏のことはこの際、どうでも良い!」

「爆弾発言!?」

「と言うか、アンタがちゃんとしなさ過ぎなのよ!」

 

 

ツインテールを逆立てながら、鈴さんが言う。

ええぇ・・・何で、そこまで言われなきゃならないのか。

オシャレとか、正直面倒くさいよ。

それより、ISのシステム構築とかの方がセンス良いって言うか・・・『紅椿(あかつばき)』のエネルギー分配とかね?

 

 

「と言うか、逆に聞くけど・・・姉さんと鈴さんは、何でそんなに頑張ってお洒落してるの? お洒落ガンバリストなの?」

「意味のわかんないこと言ってんじゃないわよ。何でお洒落するかって、そんなの・・・ねぇ?」

「う、うむ・・・」

 

 

ちょっぴり頬を染めて咳払いする箒姉さんと鈴さん、何か2人で通じ合ってるっぽい。

 

 

「まぁ、楓にも大事な人ができればわかるわよ」

「いるよ? 箒姉さんとか」

「・・・家族以外で、異性で、大事な人ね。そしたら、アンタも少しはお洒落に気を遣うようになるでしょ」

 

 

家族以外、異性・・・あー、男の子?

でも私の周りって、男の子いないし。

一夏さんは、箒姉さんのでしょ?

 

 

「いや、アンタさぁ、箒のこと応援するのは良いけど・・・少しは自分の方も気にしなさいよ?」

「・・・???」

 

 

意味がわかんなくて首を傾げると、鈴さんに溜息を吐かれた。

な、何故・・・?

 

 

「ま、まぁ、楓には早いな、うん」

「はいはい、行くわよシスコン」

「おい待て、私は別にそう言うものでは無くてだな・・・」

 

 

・・・そして、置いて行かれる私。

はぁ・・・と溜息を吐いて、トボトボと歩いて追い掛ける。

結局、行くしか無いんだね・・・。

 

 

 

「ちょっと、やめてください!」

 

 

 

・・・ほえ?

そしてその時、どこかで聞いたことのある声が響いた。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

『サイレント・ゼフィルス』・・・我がイギリスの第3世代型試験機。

私の『ブルー・ティアーズ』がBT兵器搭載型の1号機であることはすでに周知されていますが、『サイレント・ゼフィルス』は2号機です。

 

 

『ブルー・ティアーズ』の稼働データも組み込んだ英国のまさに最新鋭機で、機体の基礎性能や武装に至るまで、『ブルー・ティアーズ』の一段上の物になっておりますの。

しかし先日、本国の基地から何者かがそれを強奪した。

まさか、日本で見ることになるとは・・・しかも。

 

 

「『偏向制御射撃(フレキシブル)』・・・!」

 

 

休日に開放されたアリーナで、私はビットを制御しながらビームを放ちます。

しかしビームは真っ直ぐ伸びるのみで、曲がること無くアリーナの遮蔽シールドに直撃、霧散します。

顎を伝う汗を片手で拭いながら、私は下唇を噛み締めます。

スマートで無い行動、普段は絶対にしませんのに。

 

 

私が・・・私と『ブルー・ティアーズ』が、本国の同胞と共に完成させるはずだった技術。

ISコアの最高稼働時に可能とされていた、『偏向制御射撃(フレキシブル)』。

直線にしか放たれないビームを、微細なナノマシン制御によって自在に操ると言う奥義。

それを、テロリストなどに先を越されて・・・!

 

 

「私にも・・・いえ、私だから、セシリア・オルコットだからこそ・・・プライドが、あるのですわ・・・!」

 

 

これまでは、そのプライドが私を高めてくれておりました。

BT兵器適性値A! BT兵器稼働率№1! 国家代表候補生、セシリア・オルコット!

今の私の地位も立場も待遇も、そして私と言う人間を構成する全てが、それに依っていたと言うのに。

テロリストなどに後れを取ったと言う事実は、現実的にも精神的にも私を傷付けました。

何よりも・・・私が、私を許せない・・・!

 

 

『お手伝い、しようか?』

 

 

いつか耳にした楓さんの言葉が、誘惑するように脳裏に甦ります。

小さく首を振って、その声を振り払います。

楓さんは友人、でもこれは・・・この件で彼女の手を借りれば、それはつまり。

 

 

「・・・・・・何ですの?」

 

 

不意に警告音(アラート)、『ブルー・ティアーズ』が上空から何かが落ちて来ることを教えてくれます。

何かと思って、見てみれば・・・。

 

 

「・・・うおおおぉあああぁぁ――――っっ!?」

「・・・一夏さん?」

 

 

見覚えのある白い騎士のようなISが、切り揉み状に落下してきました。

最近、強度が上げられたと言うアリーナの壁に激突して、跳ね返されるように地面にめり込みます。

鉄骨がビルの屋上から何度も落下したかのような轟音が鳴り響き、それがようやく収まったかと思えば・・・。

 

 

「・・・だ、大丈夫、ですの?」

「・・・」

「い、一夏さん? 一夏さ―――んっ!?」

 

 

身体の半分を地面に埋めたまま動かない一夏さん・・・って気絶しておりますわ!?

い、いったい、何が起こったんですの・・・?

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

「まったく・・・情けないぞ一夏、それでも教官の弟か? 進歩がまったく見られんでは無いか」

「い、いや、そもそも千冬姉と比べないでくれよ」

「そのような志の低いことで、強くなどなれるか」

 

 

休日の第3アリーナ、私はそこで一夏との模擬戦を終えた所だった。

最近は例の生徒会長にも鍛えられているから、それなりになったかと思えば・・・話にならんな。

『シュヴァルツェア・レーゲン』のPICの力で空中に浮遊しながら、私は白いISを纏ったまま地面に座る一夏を見下ろしている。

 

 

実際、教官が何故この男を評価しているのか、未だにわからない。

機体制御も甘い、操縦技術も甘い、知識も甘い、さらに言えば人に甘い。

だから、生徒会によって各部活に貸し出されるハメになるんだ。

戦場に出れば、2秒で戦死するのでは無いかと心配になる程だ。

あまりに心配になり過ぎて、こうして模擬戦に付き合ってしまうくらいだ。

 

 

「あの・・・」

「あ、ああ、セシリア、悪かった。その、邪魔して・・・」

「い、いえ、別に構いませんわ」

「ふん、さらに女にも甘いとは・・・」

「いや、ラウラも謝ろうぜ!?」

 

 

一夏にトドメの一撃を刺した際、一夏が落下した先にはセシリアがいた。

私が織斑教官に進言したためか、アリーナの外壁の強度は向上しているようだった。

それで無くても侵入者騒ぎが続いたから、セキュリティの強化は必須だろう。

国際IS委員会も、流石に重い腰を上げつつあるとも聞くしな。

 

 

「それで、セシリアは何してたんだ? もしかして『キャノンボール・ファスト』の特訓か?」

「まぁ、そんな所ですわ」

 

 

ふふんっ、と鼻で笑いながら、セシリアが腰に手を当てて胸を逸らす。

相も変わらず自信に満ちた女だが、『キャノンボール・ファスト』の特訓を第3アリーナで?

高速機動の訓練ならば、第6アリーナを使うと思うのだが・・・。

 

 

ちなみに『キャノンボール・ファスト』とは、今月末に市のISアリーナを使用して行われるISの高速バトルレースだ。

国際大会の一つと同じ名を刻んだそれにはIS学園の生徒も相当数参加し、企業や政府、軍関係者も視察に訪れる一大イベント。

とは言え、今年に入ってからこの学園のイベントは恙無く終わったことが無く、各国は安全性を疑問視して自粛モードに入るとも言われているが・・・な。

 

 

「そっか・・・セシリアも『キャノンボール・ファスト』に向けて頑張ってるんだな」

「当然ですわ、私はセシリア・オルコットですわよ?」

「あはは、わかってるって」

 

 

ゆっくりと立ち上がりながら、一夏はセシリアを見つめる。

その瞳には、真っ直ぐでひたむきな強い光があった。

 

 

「でも、俺も負けないからな! セシリア!」

「・・・ええ、楽しみにしておりますわ」

 

 

その光に当てられたように、セシリアは柔らかく微笑んで・・・私は、逆に視線を逸らす。

そこだけは・・・・・・あの人に似ていると、認めてしまいそうになったから。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

元気だなぁ・・・第3アリーナの観客席に座って、ぼんやりとそんなことを考える。

アリーナの片隅では、一夏がセシリアやラウラとISの訓練を続けてる。

本当なら僕も一夏の手伝いがしたかったんだけど、機体の調子が悪くてね。

 

 

『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅢ』・・・あり得べからざる、『ラファール・リヴァイブ』の第3世代仕様。

仏日露三国の技術を導入した、僕の専用機。

ただ、どうも・・・機体の動きが思ったよりも悪くて。

 

 

「・・・楓、まだかなぁ・・・」

 

 

楓に調整を頼もうと思ったんだけど、整備室にいなかった。

携帯でメール入れてみたら、箒や鈴と駅前でショッピングしてるんだって。

それは流石に邪魔しちゃ悪いと思って、こうして暇を潰してるんだけど。

何しろ、僕の機体って楓以外には触れないから・・・。

 

 

「うふふ、元気なものね」

「・・・あ、ラザロ代表・・・」

「アデリタで良いわよ、ここではただのスペイン人生徒の保護官だから」

 

 

軽やかに微笑みながら観客席の通路を歩いてきたのは、最近学園に来たIS関係者の1人。

スペイン代表、アデリタ・ポルティージョ・ラザロ。

僕のことはオープンにされてなかったから、たぶん僕のことは知らないだろうけど・・・。

でも、僕は・・・と言うか、欧州の関係者はよく知ってる。

僕と同じ『リヴァイヴ』の操縦者で、スペインの英雄。

 

 

「あら、あそこにいるのは・・・チフユの弟さんね。それにイギリスとドイツの候補生も・・・ふふ、何だかおかしな組み合わせね」

「そうですか? 僕は別に変だとは・・・」

「ああ、違うのよ。昔ね、あんな風にチフユや他の国の代表が話してるのを見たことがあって・・・第二回のモンド・グロッソの時、まだ私が新米だった頃ね・・・」

 

 

第二回モンド・グロッソ・・・織斑先生が決勝戦を棄権した、幻の世界大会。

第二世代型のISの開発がようやく始まった時代で・・・その頃は、僕はまだ代表候補生にすらなって無かったけど。

 

 

「懐かしいわね。チフユと、アメリカのジーナと・・・それとドイツの代表が絡んでるのを見るのが、私は一番好きだったわね」

「はぁ・・・」

 

 

・・・伝説の、時代。

どこか懐かしそうに語るラザロ代表は、とても柔らかな表情を浮かべていた。

その横顔は、どこまでも優しい。

とても、一夏や箒、楓を自陣営に引き込みに来たとは思えないくらいに。

 

 

「ああ、ごめんなさい、若い人には通じなかったわね」

 

 

ラザロ代表、まだ20代前半じゃ・・・。

失礼だと思うから、口にはしないけど。

 

 

「ごめんなさいね・・・ああ、そうだわ。おわびに良い物を見せてあげる」

「良い物・・・ですか?」

「ええ・・・特別よ?」

 

 

下唇の下で指を振って艶然と笑うラザロ代表は、同性の僕でもドキリとするほど綺麗だった。

それからお互いの『リヴァイヴ』をプライベート・チャネルで繋いで、過去の映像を見せて貰った。

それは、第二回モンド・グロッソでの試合の一つで・・・ラザロ代表の視点で見た、織斑先生とラザロ代表の試合だった。

 

 

「これ・・・」

「ああ、大丈夫よ。大会の公式記録にも残っていて、誰でも見れる映像だから」

 

 

格闘部門の試合だろうか、射撃武装で攻撃するラザロ代表に対して織斑先生は近接ブレードだけだった。

織斑先生は、どこか『紅椿(あかつばき)』を思わせる紅の機体を使っていて・・・。

 

 

「これが『暮桜(くれざくら)』。日本製第一世代型ISにして・・・伝説の機体よ」

 

 

画像の中から、織斑先生が消える。

と思った次の瞬間には、今よりも少し若い織斑先生が目の前にいた。

第一世代で、これだけの機動性能を・・・!

 

 

ラザロ代表も近接武装を出して応戦するけど、織斑先生はそれを2回の動きだけで無効化してしまう。

すなわち、側面からの蹴りと正面からの斬撃で。

バランスを崩したラザロ代表に、織斑先生は近接ブレード・・・『雪片(ゆきひら)』を振るう。

シールド無視、第一世代型のISには対応不可能の攻撃で、ラザロ代表が撃墜される・・・。

 

 

「・・・私達は、『真紅の衝撃』と呼んでいたわ」

「真紅の・・・衝撃」

「ええ、かなり・・・痛いわよ?」

 

 

絶対防御の壁を抜けて来るんだから、そりゃ痛いよね。

でも・・・そうか、これが一夏のお姉さんの、織斑先生の現役時代なんだね。

この直後、引退して・・・今に至る。

 

 

「そんな人間に教えを請えるのだから、貴女達はラッキーね」

「・・・はい」

「羨ましいわ、私達はチフユのことが大好きだったから」

 

 

はにかみながら肯定すると、ラザロ代表は優しく微笑んだ。

それは本当に優しそうな笑顔で・・・本当に。

裏表があるとは、思えないくらいに・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

シャルロットとの会話を終えた後、アデリタは観客席を後にした。

コッ、コッ・・・と、ヒールの音を立てながら歩く様は、カジュアルスーツと相まってモデルのようですらある。

 

 

ただ、その表情は・・・温かさや優しさとは程遠い、怜悧な色を浮かべていた。

長い髪に隠れた片目が、鋭く細められている。

 

 

「ええ・・・そうね。大好きだったわよ・・・」

 

 

かつて、自分を圧倒した相手。

名実共に世界最強、世界中のIS操縦者の憧れの的。

織斑、千冬。

 

 

「私達は、貴女のことが大好きだった」

 

 

第一世代・・・それは、まさに戦争の時代であった。

1人の天才の投げた波紋によって、世界が混乱と言う名の海に沈んでいた時代。

篠ノ之 束と言う名の暴風が、世界の全てを薙ぎ倒した時代だった。

 

 

「・・・チフユ」

 

 

そして今は、第三世代。

新しい時代を開こうと、あらゆる階層の人間が奮闘を続けている時代。

世界は未だ、天才の起こした混乱の中にあった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 五反田 蘭

 

久々に街に出てきたら、チャラチャラした男の人達にナンパされた。

このご時世、顔が良くて勘違いする男の人もいるから・・・でも自分がナンパされるとは思って無かったけど。

一夏さんのことを考えて頬が緩んだ先に男の人がいるあたり、私も運が無いよね。

いや、でも今月は一夏さんの誕生日だし・・・。

 

 

「落ち着いたか?」

「は、はい、もう大丈夫です」

 

 

今は、@クルーズって言う喫茶店にいる。

1人じゃ無くて、私をナンパ男から助けてくれた人達と一緒。

と言うか、夏祭りで会った人・・・箒さんが、助けてくれた。

 

 

黒髪の和美人って感じの人で、落ち着いた物腰のカッコ良い人。

さっきも「その手を離せ、下種が」とか言って、時代劇みたいに男の人をノしちゃうし。

い、一夏さんとも仲良さそうだったし・・・うぅ、つ、付き合ってたり、するのかな・・・?

気になるけど、答えが怖くて聞けない。

 

 

「うん、早く諦めたら良いと思うよ」

「あ、貴女にそんなことを言われたくありません!」

 

 

そのカッコ良い美人さん・・・箒さんの隣に座った楓さんが、私の思考を読んだのかそんなことを言う。

うぅ・・・た、確かに強力すぎるライバルだけど、まだ負けて無いもん!

私は、年下属性で攻めるから!

 

 

「一夏は年上が好きらしいわよ」

「うっ・・・!? じ、じゃあ、鈴さんだってダメじゃないですか!」

「ぬぐっ・・・い、良いのよ、これから身長も伸びるから!」

「でも年はどうしようも・・・って、あ」

 

 

鈴さんとは、まぁ、昔からの知り合いで。

でもお互いに一夏さんのことを・・・その、だからソリが合わなくて。

中国に帰ってからは、私だけ・・・とか思ってたけど、すぐに戻ってきて。

いつの間にか、一夏さんの周りには可愛い女の子がいっぱいで。

・・・リアルに、落ち込む。

 

 

「お、おい、どうした3人とも」

「な、何でもないです」

「何でもないよ、箒姉さん」

「何でもないわよ、箒」

 

 

箒さんは不思議そうに首を傾げてたけど、とりあえずはコーヒーを飲んで場を繋いだ。

4人でコーヒーを飲む図って言うのも、奇妙だったけど。

 

 

「そ、そう言えば、学園祭、あったんですよね!」

「ああ、先日な」

「アンタは一夏に誘って貰えなかったけどね」

「う・・・」

 

 

・・・そうなのだ、一夏さんは私を学園祭に誘ってくれなかった。

一枚しか無い招待チケットは・・・何と、よりにもよってバカ兄の手に!

後で聞いたら、一夏さんが神主姿で接客してたって・・・行きたかったよ―――!

だから、バカ兄は3回くらいボッコボコにしてやった。

でも、気持ちは晴れないわけで・・・。

 

 

「何だ、そうなのか?」

「は、はい・・・」

「一夏め、しょうの無い奴だな。・・・そうだ、確か」

 

 

何かを思い付いたように、箒さんがハンドバッグをごそごそ。

何だろうと思って見ていると、そこから一枚のチケットを取り出して。

 

 

「良かったら貰ってくれ、『キャノンボール・ファスト』の特別招待券だ。私は使わないからな」

「えっ・・・」

「「えええええええええええええええええっっ!?」」

 

 

反射的に受け取ったそれは、一夏さんが出る奴で。

あ、一夏さんの誕生日にあるんだ・・・。

一夏さんの、生のIS姿が見れるんだ・・・。

 

 

「ちょっ・・・箒アンタそれ、マジでやってんの!?」

「そうだよ箒姉さん、何を考えてるの!?」

「な、何だ2人とも。そんなに興奮して・・・」

「あっ・・・あのっ!」

 

 

楓さんと鈴さんに責められてる箒さんを見て、私はその場に立ち上がって。

 

 

「あ・・・ありがとうございます!!」

「あ、ああ、喜んで貰えたなら嬉しい。私は他に渡す相手もいなかったから・・・」

 

 

どうしよう・・・本当に嬉しい!

うちのバカ兄貴にも、これくらいの甲斐性があれば良いのに!

本当は、一夏さんに貰いたかったけど・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

「今日は、本当にありがとうございました!」

「ああ、気を付けてな」

 

 

夕方、駅の改札の向こう側に消えて行く蘭を、手を振って見送る。

蘭は何度も頭を下げながら、私達の視界から消えて行った。

聞く所によれば中学では生徒会長なのだそうだ、流石に礼儀正しいな。

 

 

「・・・箒、アンタね。人が良いにも程がわるわよ・・・」

「箒姉さん、真面目だから・・・」

 

 

後ろで鈴と楓が何か言いたげにしているが、何なんだ。

私はただ、一夏の友人の妹にチケットを渡しただけなのだが。

それで何故、そこまで非難がましい目で見られなくてはならないのか。

 

 

・・・まぁ、どうも蘭が一夏に懸想しているらしいと言うことはわかるが。

その意味で私の行動はどうなのかと言う意味なのだろうが、しかしどうも、私は妹と言う存在に甘いらしい。

楓がいるからかな、それに・・・一夏に近付くからと言う理由で一夏の周りから女を排除すると言うのも、不健全な話だろう。

何より、正々堂々では無い。

 

 

「いや、それで箒姉さんに自信があるなら、それもアリなんだけどね・・・」

「ただの天然でお人よしなだけでしょ」

「・・・それってつまり、一夏さんとそっくりってこと?」

「アレはただの朴念仁よ」

 

 

むぅ、何故かバカにされた気分だ。

そんなことを考えながら、両手に紙袋をたくさん抱えて(主に楓の衣服や小道具)道を歩く。

女の腕には少々重いが、それでも持てない程では無い。

 

 

今日は、楽しかったな。

妹の買い物ができたこともそうだが、鈴のような友人とショッピングと言うのも楽しい。

一夏がいないのは残念でもあるが、その分、女同士の買い物もできて・・・・・・。

 

 

「・・・あ!」

「何よ、どうしたの?」

「い、一夏の誕生日プレゼントを買うのを忘れた!」

「気付くの遅っ!? と言うか、自分でどうでも良いって言ったよ姉さん!」

「なに? いつだ?」

 

 

しまった、そもそもは一夏の誕生日プレゼントを買いに来たのだだった。

途中から楓の「女子用品」の買い物で、最後には蘭のことがあって忘れていた。

参ったな、今から買いに戻ると寮の門限が・・・。

 

 

「ま、しょーがないわね。またの機会にしましょ」

「まぁ、まだ時間あるしねー」

「そ、そうだな、そうするか・・・」

 

 

楓と鈴の言葉に頷く、幸い、一夏の誕生日までまだ少し時間があるからな。

まぁ、また楓と何かを考えて・・・。

 

 

「箒、それと楓」

「ん?」

「なぁに、鈴さん?」

 

立ち止まった鈴を見ると、鈴はどこか挑戦的な笑みを私達に向けていて。

 

 

「負けないわよ」

 

 

それに、私は楓と目を合わせる。

それから、やはり鈴と同じような笑みを浮かべて。

 

 

「ふふふのふ。最後に勝つのは箒姉さんだよ、鈴さん」

「ああ・・・負けるつもりは無い」

 

 

正々堂々、正面から勝って見せる。

篠ノ之の女の、名にかけて。

・・・まぁ、問題は。

 

 

「「「一夏|(さん)の朴念仁ぶりを、何とかしないと・・・」」」

 

 

相手が、相手だからな。

道のりは果てしなく遠そうだ、でも・・・。

それで諦めるくらいなら、子供の頃から想ってはいない。

 

 

・・・しかし、それにしても楓は本当に良く私を応援してくれるが。

実際の所、楓自身はどうなのだろう。

いや、まだ早いと思うが。

本当に本当に早いと思うが・・・って、同い年だったな。

と言うことは、好きな相手の一人くらい・・・いやいやいや・・・。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

「・・・って言うようなことがあってさー。もう何て言うの? 箒姉さんってお人好しだよね、そう言う所も私は好きなんだけどさー」

「そ、そうなんだ・・・」

 

 

夜、第二整備室で楓の「ノロケ話」を聞く。

楓はたまにスイッチが入ると、お姉さんと今日何があったのかを延々と話す癖がある。

基本的に返事を求めての会話じゃないから、大体は聞き流す、んだけど・・・。

 

 

「そ、それで・・・楓。勧誘は、どうしたの・・・?」

「それでさー・・・へ? 勧誘? 何の? 新興宗教?」

「ち、違う・・・」

 

 

楓には、今・・・いろいろな国とか企業から、勧誘が来てるはずなんだけど。

し、宗教の勧誘が来てるかは、知らないけど・・・。

 

 

「あの、ISの・・・」

「へ? あー・・・ああ、ああ! うん、全部お断りしたよ?」

「ぜ、全部?」

「うん、全部」

「・・・・・・そ、そう」

 

 

全部、断っちゃったんだ・・・保留して時間稼ぎとかも、全然しなかったんだ。

他の国の勧誘を受け入れなくてほっとする半面、少し不安になる。

だ、大丈夫かな・・・。

でも、まだ、そんなに切羽詰まってるわけじゃ・・・無い、と思うけど。

それでも、何の迷いも無く断り過ぎるのもどうかと・・・。

 

 

「あ、楓! ちょっと良いかな?」

「お? ああ、シャルロットさんだ。簪ちゃん、ちょっと抜けるね」

「あ、うん・・・」

 

 

シャルロットさんに呼ばれて、楓がてってこてってこと別の機体の方に歩いてく。

最近、いろいろな機体を見てるみたいけど・・・お姉さんのとか、織斑くんのとか。

もちろん、こうして私の『打鉄弐式(うちがねにしき)』の調整にも付き合ってくれるけど・・・。

 

 

「むふー? かんちゃん、ひょっとして・・・」

「うん・・・」

 

 

機体の下からもにょっと顔を出して来た本音に、頷いて見せる。

すると本音は何かを感じ取ったのか、妙にニヤニヤして・・・にやにや?

 

 

「・・・やきもち~?」

「え・・・?」

「だから~、楓ちんをとられて、やきもち~?」

 

 

楓を、とられ・・・てっ!?

 

 

「ち、違・・・っ!」

「うんうん、寂しいんだよね~?」

「違う、そうじゃない・・・待って、話を聞いて・・・!」

「やーい、かんちゃんのさびしんぼ~」

「本音・・・!」

 

 

ほ、本気で怒る・・・よ・・・?

本音はいつもいつも、どうしてそうやって・・・!

もうっ、知らない・・・!

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

んもー、箒姉さんは人が好いんだから・・・。

まぁ、そう言う所が箒姉さんの良い所だよね。

 

 

「と言うようなことが、今日あったんだよ」

「あはは、箒らしいね」

「でしょー?」

 

 

何か、シャルロットさんは私のことを待ってたみたいなんだよね。

何でも機体の調子が悪いと言うか、コアの稼働率が上がりきらないって。

と言うわけで、整備室でちょちょいと調整。

まぁ、稼働率の上がらない原因は別の所にあるんだけど・・・。

 

 

「と言うか、一夏って今月が誕生日だったんだね」

「ああ、うん。あんまり自分でそう言うこと言わない人だからね、一夏さん」

「その割に、人のことは気にしたりするよね」

「ああー、わかるわかる。朴念仁のくせにお人好しだもんね」

「いや、僕が言いたかったのはそう言うことじゃ無いんだけど・・・」

 

 

そんな会話をしつつ『黒叡(こくえい)』と『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』をコードで繋いで、コア周りのシステムをダウンさせつつ稼働率をリンクさせる。

空中投影型のキーボードに目を向けずに指を走らせながら、『リヴァイヴ』のソフトウェアの調整を行う。

 

 

稼働率が上がらない・・・それ自体は別に問題じゃない、機体を一旦離したから、馴染むのに時間がかかるってだけであって。

でも今回の場合、根本的な原因は私が組み込んだシステムにあるわけで。

 

 

「シャロットさんの機体はね、稼働率は通常40%以上にならないようにセーブしてあるんだ」

「40%・・・どうして?」

「それはそういう風に、私がコア周りのシステムに細工したからねだよ」

 

 

最近、『黒叡(こくえい)』のナノマシン精製装置の構造解析をやってね、それを模倣してシステムを組んでみたんだよね。

と言っても、『リヴァイヴ』の中にロシア製のナノマシン制御システムが追加されてたから出来たことなんだけど。

 

 

「本来ロシア製のナノマシン制御装置は、ナノマシン関連装備の制御のための物だけど・・・逆にコア稼働率を『貯金』するためのシステムに転用してみたんだよね」

「どういうこと?」

「例えば本来50%の稼働率の所を40%に押さえて、10%分のエネルギーをコアの中に常時プールしておく感じ」

 

 

で、それは消えること無く次回の起動時に持ちこされる。

つまり、ずっと稼働率が一定の代わりに・・・常に10%ずつ貯蓄されていく。

そしてそれのエネルギーがある一定量に達すると・・・。

 

 

「まぁ、実際の所、どうなるかはやってみないとわかんないんだけどね」

「え」

「だーいじょぶだいじょぶ、シャルロットさんってセンス良いから」

「ええぇ、僕のセンス任せなの?」

「・・・私のお姉ちゃんがね、言ってたよ」

 

 

とりあえず作ってみる、上手くいかなかったら「ごめんなさい」で良いんだよ・・・って。

何でも、束お姉ちゃんが千冬姉様との付き合いの中で見出した極意なんだって。

まぁ、束お姉ちゃんと千冬姉様の学生時代って想像つかないけどねー・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――IS学園、最下層。

そこには広く深く、そして昏い空間が広がっていた。

その空間の中央に伸びるようにして、一本の白石で造られた道だ。

 

 

薄い構造のその道の上を、漆黒のスーツを纏った女性が歩いている。

首の後ろで一度束ねた長い黒髪、スタイルの良い身体に狼を思わせる瞳。

かつては敵を睨み据えていたその瞳は、今は別の光をたたえている。

 

 

「・・・IS学園、織斑 千冬」

 

 

形の良い唇が言葉を紡ぐと、広い空間の一部にいくつも光が灯る。

まるで博物館で展示品にそうするかのように、壁面に光が当たる。

するとそこに、巨大な顔のような物が浮かび上がる。

 

 

しかしそれは顔では無く、人の顔の形をした巨大なスクリーンだった。

大小21の人面型スクリーンが、暗闇の中で不気味に輝く。

そしてそれぞれのスクリーンの向こう側に、年齢も性別も判別できない黒い人影が映る。

それを見る度に、千冬は声を上げて笑いたくなる衝動に駆られる。

 

 

(束が怖くて地下に潜っているような奴らが、この世界の運命を決めているとはな)

 

 

それは、今まさに目の前にいる連中。

幾重ものセキュリティを突破したその先で、学園の長を除けば千冬しか来れないこの空間で。

 

 

『それでは、これより国際IS委員会の定期会合を始める』

 

 

千冬は1人、「世界」と向き合っていた。

10年前から、ずっと―――――。

 




織斑 一夏:
部活への派遣に、白式の訓練に、千冬姉の世話に、楯無さんの訓練に、山田先生の授業の宿題に、勧誘のお断り・・・はぁ、俺、この年で過労死するんじゃ・・・。

篠ノ之 楓:
おおっ、疲れきっている一夏さん発見! 箒姉さん、疲れきってる殿方を癒すのも妻の役目だよ!

篠ノ之 箒:
つっ・・・!?
い、いや、しかし一夏も頑張っているようだしな。どれ、ここはひとつ差し入れでも・・・。

凰 鈴音:
あら、一夏じゃない。どしたの、そんな疲れ切った顔して・・・し、しょうがないわね、私が作ったごま団子でも食べて元気出しなさいよ。

篠ノ之姉妹:
((先を越された!?))

織斑 一夏:
おお、サンキュー・・・おおっ、美味いなこれ! 流石は鈴だな、これならいつでも嫁に行けるんじゃないか?

凰 鈴音:
ば、バカ言ってんじゃないわよ!?
(い、一夏のお嫁さん一夏のお嫁さん一夏の・・・)。

篠ノ之 箒:
・・・楓。

篠ノ之 楓:
うん、はい、竹刀。
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