Side 五反田 蘭
『それでは、続いて1年生専用機持ち組のレースを行います』
観客席の自分に座席に大人しく座りながら、私は会場のアナウンスを聞いてた。
でも無の奥は、ずっとドキドキしてる。
箒さんにチケットを貰って、一夏さんのレースを見に来たんだけど・・・。
ISって、凄い!
さっきのレースは、2年生の訓練機組のレースだったけど・・・性能が平均的って言う量産型の機体でも、あんなに凄いなんて。
高速で動く機体、飛び交う火線、瞬間の駆け引き。
元々、私は来年にIS学園に入学するつもりだった。
けどそれは、一夏さんを追いかけてって言うのが理由だったけど・・・。
「私、本気でここ目指したい!」
「いやぁ、やめた方が良いと思うんだけどなぁ」
私の横の席でモソモソとポップコーンを食べているのは、五反田弾ことバカ兄だ。
何でここにいるかと言うと、このバカ兄、一夏さんにチケットを貰ったらしい。
学園祭の時の反省も無く・・・しかも、偶然なのか隣の席だった。
「・・・? 何だよ」
ついでに言うと、バカ兄が食べてるポップコーンは私のだ。
「うっさい、バカ兄!」
「いって!? 何で殴るんだよ!」
「うっさい、死ね!」
「お前、本当に口悪いな!? 一夏に言い付け・・・無いです、すみません」
バカ兄はいつも通りバカだから良いとしても・・・本当に、ISって凄い。
私、IS適性値Aだし・・・本気で目指してみようかな。
鈴さんだって、1年で国家代表候補生になれたって言うし・・・。
それだけ、適性値Aって言うのは重い。
素質があるなら、使わないと損だしね。
「いや、でもなぁ・・・候補生って、良いことばかりじゃないだろ?」
「うっさいなー、お兄は黙っててよ」
「聞けよ、頼むから」
良いもん、お祖父ちゃんだって好きにしろって言ったもん。
私、来年は絶対にIS学園を受験する。
『それでは、1年生の専用機持ち組レースを開催します』
その時、アナウンズが流れて・・・アリーナの巨大掲示板に10人10機の名前が表示される。
今度は専用機、それも最大の参加人数10人。
しかも一夏さんもいる、私の胸は嫌でも期待に高鳴る。
「いやぁ・・・絶対やめた方が・・・でも蘭が・・・うーん・・・」
バカ兄がうるさい、でも今は一夏さんのレースの方が大事。
スクリーンがスタートポイントを映すと、そこには「唯一の男性操縦者」一夏さんがアップで映る。
はぁ~・・・やっぱり、カッコ良いなぁ。
『―――――レース、スタートッ!!』
数秒後、シグナルが青になって・・・レースが開始した。
そして訓練機とは比べ物にならない加速をして、10機のISが飛び出した・・・。
Side 篠ノ之 楓
超音速飛行下でのレース、ISと高速機動用補助バイザーの性能が無ければ不可能なイベント。
スタートと同時に『黒叡(こくえい)』の増設スラスター2基から爆発的なエネルギーが放出されて、視界が光の膜に一瞬、覆われる。
「昔の私だったら、絶対に酔ってるよね~」
視界の中を高速で流れて行く景色、その気になれば観客席の1人1人を識別することもできる。
音速でのレースだから、衝突なんてしたら目も当てられない。
死にはしないだろうけど、かなり痛いのは間違いないよね。
ISの保護フィールドに守られてるから、実際には感じられないけど・・・。
PICの浮遊感と増設スラスターの疾走感で、頬に風が当たってるみたいに気持ち良い。
ISで飛ぶのは、整備するのと同じくらいに好き。
ただ残念なことに、今は飛ぶだけじゃ無くて・・・。
「うわっ!?」
前の方から、たぶんセシリアさんのだと思うけど、いくつかの青いビームが飛んでくる。
映像を拡大して見る限り前の方で戦闘が始まったみたい・・・今のビームは流れ弾。
一夏さんか箒姉さんあたりを狙ったんだと思う、他にも鈴さんの『衝撃砲』らしき爆発が巻き起こってるし。
危ない危ない、やっぱり私はコースの外縁をゆっくり飛んでチマチマ最後尾をついて行こう。
<右後方、登録機体名『雷刃(ライジン)』接近、接触まで0.5>
「ほえ?」
『黒叡(こくえい)』の警告(アラート)に、私は驚く。
まさか私より遅い人がいるとは思わなかったから、本気で驚いた。
第一コーナー曲がりきって無いの、私だけだと思ってた。
まぁ、こんなトロトロ飛んでる私なんて無視して、先に行って・・・って。
「う、うわあああぁっ!?」
身体を捻るように回避行動、ほとんど『黒叡(こくえい)』が自動(オート)で回避したんだけど。
いや、それ以前に・・・何故か知らないけど、白いISスーツの上に無骨な機体を纏った女の子が、後ろから斬りかかってきたよ!?
「え、ちょ・・・何で!?」
「・・・妨害はアリ、のはずですが」
いや、それはもちろん、ルール上はそうなんだけども。
私の声に淡々と答えつつ並走してくるのは、日本の代表候補生で・・・学園祭で花札占いをしてくれた立道さん。
簪ちゃんのお友達だったと思うんだけど・・・って、わわわっ。
腰部からソード・ビット展開、円環状に並べて不可視の盾を広げる。
刹那、横から急速に接近してきた立道さんが日本刀とぶつかり合って火花が散る。
もちろん一撃では終わらない、二撃三撃と続いて行く。
正面から破るのは面倒と判断したのか、緩急をつけつつ加速、立道さんが私の上に出る。
「た、立道さん、やめてよー!」
「申し訳ありませんが・・・これもレースと思って、諦めなさい」
「大丈夫! 私、今すぐ棄権するから!」
「認められません」
即答って、ちょ、本気?
近接ブレードの刀身に紫電が走り、高圧電流を乗せた一撃が私を襲う。
ソード・ビットが私の上に急速展開、盾を作った・・・と思った、次の瞬間。
「秘剣・・・」
視界を紫色の雷が疾る、音速飛行状態でのさらなる加速。
『黒叡(こくえい)』の自動回避も間に合わない、私は反射的に背部のコンデンサーを開く。
そしてそこから、黒いナノマシンの粒子が溢れようとした刹那・・・。
「・・・『紫電』!」
切り上げの形で放たれた斬撃が、鈍い音を立てて私の機体の増設スラスターの1基に直撃。
推進力を半分失った『黒叡(こくえい)』が、急激に速度とバランスを失う。
私は思わず目を閉じながら、落下時特有の衝撃に悲鳴を上げた―――――。
Side 篠ノ之 箒
「・・・楓!?」
開始早々、セシリアに背後を取られて―――位置関係的には、私の上―――後ろから連射されるビームを左右に機体を振りながらかわしていた時、後方の楓に異変が起こったことを悟った。
一応、楓の状況を常に視覚映像(ディスプレイ)の端に表示しておくようにしたから、すぐにわかった。
楓はスタートと同時に出遅れ、そのまま最後尾にいると思っていた。
私は全力で勝ちに行っていたので―――1位になったら、い、一夏に告白しようと―――楓からは、離れていた。
まぁ、それはレースなのだから当然と言えば当然だが・・・。
「ほぉ――――きぃ―――――ッ!!」
「なっ・・・くぁっ!?」
後方に気を取られた瞬間を、狙われた。
相手は真下から急上昇して来た鈴、連結青竜刀「双天牙月」を2本の刀「空裂」と「雨月」で受け止める。
青竜刀の切っ先と刀の刀身がぶつかり合い、火花を散らす。
「くっ・・・このっ!!」
腕部の展開装甲を開き、そこから放出された赤いレーザーが鈴を焼く。
・・・はずだったが、鈴は私から瞬時に離れ、大きく距離を取る。
拡散仕様となっているらしい『衝撃砲』が赤い衝撃波を撃ち出し、赤いレーザーを薙ぎ払う。
爆発。
そしてその爆発の中から、瞬時に鈴と『甲龍(シェンロン)』が飛び出してくる。
速い、臨海学校の時とは比べ物にならない。
これが、鈴の換装装備(パッケージ)『風(フェン)』の力か。
4基の増設スラスターと追加装甲が陽光を反射し、美しく輝く。
「はぁ―――――あっ!!」
「ぐ―――!?」
鈍い音共に、パワータイプの真骨頂発揮とばかりに・・・重い一撃が私を襲う。
それは、投擲された『双天牙月』だった。
飛来したそれは私の刀で上空へと弾かれるが、途中で2本の青竜刀に分離する。
鈴は私の頭上でそれらをキャッチすると、そのまま私に向かってきた。
ぐ・・・ええいっ、ここで鈴に構っていてはトップ集団に置いて行かれる!
そう思い、背部の展開装甲を開いて急加速しようとした私の前に・・・青いビームの束が降り注ぐ。
『紅椿(あかつばき)』の警告を聞くまでも無く、それは遥か上空を飛翔する
音速戦闘下でここまで正確な射撃を出来る機体を、私は他に知らない。
とにかく、私は加速できないままに・・・。
「・・・『衝撃砲』!!」
「くっ・・・て、展開装甲!」
展開装甲を全て防御に回して、鈴の火力から身を守る。
爆煙の中から飛び出して来た鈴と視線を交わす、真剣その物の目。
だが、何故だろう・・・違和感を感じる。
鈴にしろセシリアにしろ、何故だ、レースに勝ちに来ているようには見えない。
むしろ、私を倒すことに主眼を置いているような戦い方をしているような。
・・・まさか、な。
Side セシリア・オルコット
・・・この『キャノンボール・ファスト』には様々な国の関係者がやってきます。
そこには当然、欧州連合・・・イギリスの人間も。
基本的には、学園に送り込んだ生徒の完成度や機体のデータ取り、その他諸々の交渉などを行いに来るのですが・・・。
今回に限り、別の目的を帯びておりますの。
それは同時に、私達代表候補生に与えられた特別な任務でもあります。
すなわち。
<『白式(びゃくしき)』・『紅椿(あかつばき)』・『黒叡(こくえい)』の能力開示>
今回の『キャノンボール・ファスト』での私達の目的は・・・勝利にあらず。
ただただ、篠ノ之博士の第4世代機の能力を特別席の政府高官や高級技術者、軍関係者に見せること。
自分達の、機体でもって。
「はあああああああああああっ!!」
「こんっ・・・のおおおおぉっ!!」
機体の速度を合わせながら・・・下で近接戦闘を繰り広げる鈴さんと箒さんをライフルのスコープ越しに見つめています。
時に離脱しかける箒さんの行く手を遮り、時に動きを止める紅の機体に直接射撃を加えます。
一見、停止しながらの戦闘に見えますが・・・それはISのハイパーセンサーがあればこそであって、実際には超高速下での戦闘です。
本来『甲龍(シェンロン)』では『紅椿(あかつばき)』の機動性にはついていけないのですが・・・換装装備(パッケージ)によってスペック上の不利をギリギリまで抑えています。
かく言う私も、『ストライク・ガンナー』と言う換装装備(パッケージ)で補っているのですが。
「・・・右足、頂きますわっ!」
鈴さんの一撃を貰って揺らいだ『紅椿(あかつばき)』に、容赦無く射撃を加えます。
紅の機体の右足を撃ち抜・・・いたかと思えば、効果がありません。
それは、脚部展開装甲によって瞬間的に防御したからで・・・・・・はっ!?
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
「しま・・・!」
次の瞬間、箒さんは脚部の展開装甲を全開、超音速での急上昇を仕掛けてきます。
その速度は、射撃体勢にあった私の予測を遥かに上回って。
「篠ノ之流―――― 一刀、一閃!!」
瞬間的に後退した私の眼前を、赤い衝撃が駆け抜けて行きました。
先程まで私がいた位置には、今はライフルがあり・・・それが、真っ二つに切断されていて。
「・・・『インターセプター』!」
破壊されたライフルを捨て、即座に右手に近接用のショートブレードを呼び出します。
くるんっ・・・一回転させて頭上に構えると、そこへ再び赤い衝撃。
比喩で無く機体が軋み、凄まじい衝撃が伝わって来ます。
これが・・・これが、第4世代機の攻撃の重み!
「堕とさせて貰うぞ・・・セシリア!」
「うふふ、できもしないことを・・・言う物では、ありませんわ!」
火花を散らしながら箒さんの一撃をいなし、蹴りを加えて高速離脱。
その際、赤いレーザーが追撃してきますが・・・予備のロングライフルを呼び出し、連続射撃。
それらを全て撃ち落とした直後、『ブルー・ティアーズ』の警告音。
展開装甲で不規則な高速移動を果たした箒さんが、横から斬りかかって来ます。
「逃がさん!!」
「誰が!」
斬撃をかわし、いなして射撃。
箒さんは展開装甲の万能性を全面に押し出しながら回避、防御、攻撃を繰り返してきます。
機体性能は、明らかに向こうの方が上。
そこは認めます、ですが・・・操縦者としては、私が!
刀の一撃を右手のショートブレードで受け止め、短く持ったライフルで即座に射撃。
箒さんは機体を大きく逸らすようにして回避、回転するように下から斬り上げて来ます。
私はそれを後退しつつかわし、距離を作るために牽制射撃を・・・。
「私を無視してんじゃ無いわよ!!」
横から突撃しつつ『衝撃砲』を放ってくる鈴さん、私と箒さんがそれぞれ回避。
3機のISが入れ替わり立ち替わり攻撃し、守り、飛翔する。
正直な所、私はそれに集中し過ぎておりましたわ。
夢中になっていたと、言ってもいいくらいに。
そして、だからこそ・・・後方への注意を怠りましたの。
狙われているとも、気付かずに。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
後方の篠ノ之姉妹は置いておくとして、私は集団から頭一つ抜け出す形になった一夏を追う。
右眼にターゲット・スコープを展開し、右肩のレールカノンを水平展開する。
数秒もしない内に照準を合わせ、迷うことなく撃つ。
「どぉわっ!?」
流石にロックされていることに気付いていたのか、一夏は左に大きく機体をロールさせてかわす。
しかしそのせいで失速し、私が距離を詰めることに成功する。
その後、第2コーナーからS字及び逆バンクコーナーを経る間に、私は一夏に追いつくことができた。
その間、レールカノンを連射して一夏の速度を落とすことにも成功。
それは逆に、私好みの距離に一夏を追い込めたことを意味する。
両手を目の前で交差させると、独特の音と共に両手のプラズマ手刀が起動する。
「さて、どこから切り刻んでやろうか・・・」
「怖いこと言うなよ!?」
そう言うな一夏、これも任務なのでな。
一夏の悲鳴のような声を無視しつつ、私は背部の増設スラスターを噴かせて急加速。
『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』に入り、一気に一夏の懐に入り込む。
一夏は第二形態の証でもある武装『雪羅(せつら)』にビームクローを展開し、迎撃してくる。
その一撃を、私は機体を大きく逸らすことでかわす。
胸部スレスレの位置を白い爪が掠め、通過すると同時に私はさらに踏み込む。
両手のプラズマ手刀を振るい、展開装甲に守られていない脚部やウイングスラスターを狙う。
「くっそ・・・このっ!」
「ふん・・・」
ぎゃりんっ、と無理矢理に身体を回転させて―――負荷の大きい行動だ―――一夏は私の攻撃から逃れる。
そしてあえて速度を落とすことで私の後ろに周り、『雪羅』を射撃モードへ移行させる。
なかなかやるな、だが・・・。
「・・・そこは、私の領域だ」
「何・・・げっ、しまった!」
眼帯の下で左眼が疼く、私はAICの慣性停止結界の中に一夏を取り込んだ。
これでもう、動けまい。
やはり動きが単調過ぎる、機体の性能を操縦者が殺している。
もし、一夏が私と同程度の実力を持っていたのなら。
いや、私の半分でも力を持っていたのならば・・・私など、手も足も出ない程の性能差。
急速に速度を失い、一夏は落下していく。
もちろん、私と距離が開けば結界の外に出れるが・・・体勢を立て直す一瞬が致命的だ。
私は、右肩のレールカノンで照準を・・・。
「一夏!!」
その時、私に無数の弾丸が襲いかかった。
全て実弾、機体を左右に振ってかわそうとするが・・・それでも弾丸の雨は確実に私を追ってくる。
音速で移動する私に、実弾射撃で・・・!
「・・・シャルロットか」
「悪いけど・・・邪魔をさせてもらうよ!」
両手にアサルトライフルを構えたオレンジのISが、私に向かって突撃してくる。
以前と形状が変わったそれは、しかし私と同程度の実力を持つ操縦者が駆っている。
自然、私は唇の端が吊り上がるのを感じた・・・。
Side シャルロット・D・コルデ
「はっ・・・いつかの再現だな!」
どこか楽しそうなラウラの声が聞こえる、僕は一瞬ラウラが何のことを言っているのかわからなかった。
でも、すぐに合点がいった。
構図的には、確かにあの時の再現だね。
ただ、一つだけ言うことがあるとすれば・・・。
「別に、一夏を助けに来たわけじゃないよ!」
「ええっ、そうなのかよ!?」
「当然だよ、これはレースだよ?」
ショックを受けたみたいな一夏の声に苦笑しながら、僕は『リヴァイヴ』をさらに加速させる。
そりゃ、もちろん一夏が困ってたら迷わずに助けるけどさ。
でも今はレース、一夏だって僕のライバルだ。
特に僕とラウラ、一夏がトップグループを形成してるんだから、なおさらね。
「と言うわけで、2人ともごめんね!」
僕はもう代表候補生じゃないし、特に会長から指示があるわけじゃない。
でもそれはそれ、だからって負けて悔しく無いわけじゃない。
むしろ、フランスと言う枠組みから抜け出てしまった分・・・純粋に、勝ちたいと言う気持ちもある。
背部の増設スラスターの出力を上げて、一気に加速。
一夏を抜いてラウラに迫る・・・その際、右手に
一夏が大きくコーナーで膨らんでそれを回避するのを確認しつつ、僕は正面のラウラに集中する。
ラウラは代表候補生の中では最強に近いからね、集中しないとすぐに負けちゃう。
「ふ・・・私に1人で挑むか」
「まぁね!」
ラウラの声に応えつつ、アサルトカノンを捨てて両手にアサルトライフルを
そこから左右に大きく機体を振りつつ、少し迂回する形でロール射撃。
ラウラは舌打ちしつつ、右肩のレールカノンにエネルギーを充填し始める。
ラウラのAICの範囲は前の戦いで大体わかってる―――拡大する可能性もあるけど―――から、その中には入らない。
ラウラの間合いに入る時は、決める時だよ。
まぁ、別に倒しきる必要は無いけどね。
これは、レースだから・・・って。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「一夏!?」
ラウラが僕に集中し始めたのを隙と見たのかどうなのか、一夏が通常モードの『雪片(ゆきひら)』を両手持ちで振りかぶりながら『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。
あまりにいきなりな行動だったから、逆に読めなかった。
だからか、ラウラも一瞬だけ驚愕したような表情を浮かべる。
「・・・まぁ、チャンスではあるね!」
ラウラの標的が分散した今、攻撃と離脱のチャンスだね。
一夏はそう言うのは考えていないんだろうけど・・・僕としては、最大限に利用させて貰おうかな。
ごめんね、一夏。
僕が心の中で一夏に謝って、次の行動に入ろうとした時・・・。
<警告、直上より登録機体名『タイニー・ウィッチ』。照準(ロック)されています>
「・・・!」
警告音(アラート)と同時に、僕とラウラが円状制御飛翔(サークル・ロンド)に入る。
超音速下でのマニュアル機体制御と射撃準備、それらを同時に行って警戒し、かつ反撃の体勢を整える。
一夏は、どうもまだマスターしてなかったみたいで・・・ラウラに回避された勢いのまま、直線的に飛行してる。
・・・っと、一夏に気を取られてると・・・!
「・・・『エージェンツ』!」
上で声を上げて両手を振り上げている薄青の髪のアメリカ代表候補生、エリスさんの攻撃に晒されることになる。
背部に小型六基、腰部に細長い二枚の板を平行に並べた物を四基、独特のスラスターを持つIS。
そのIS『タイニー・ウィッチ』から飛び出したミサイルポッドのような物が、おそらくは『エージェンツ』と言う武装・・・。
エリスさんの手には同時にライフルのような武装、『リヴァイヴ』の警告音(アラート)がさらに大きくなる―――。
「イっちまいなぁっ!!」
どこか嗜虐的な声と共に、射撃とミサイルの一斉射撃。
僕とラウラはやや後退するような形で円環運動を続け、それぞれワイヤーブレードと実弾射撃で迎撃。
でも、一夏は・・・。
「いっ・・・てぇな、畜生!」
「あはははっ、遊ぼうよ、『おにぃちゃん』!」
「その呼び方何だよ!?」
・・・普通に直撃してたよ、無茶するなぁ。
それはそれとして、僕もラウラも次の行動へ・・・。
<警告、照準(ロック)されています―――――>
『リヴァイヴ』のその声に、僕は意識を別の方向へ向ける。
何・・・? 後方から―――――?
Side 更識 簪
篠ノ之博士製のIS『黒叡(こくえい)』の機体性能の、調査。
それが、このイベントにおける日本の代表候補生の任務。
レースに勝つことは、二の次。
会場に来ている各国の政府高官・高級軍人に『黒叡(こくえい)』の能力を、見せる。
それが、各国から圧力をかけられた外務省・防衛省及びIS特務機関の判断。
ISを制する技術を、日本が独占しないと証明するために・・・。
同時に、『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』についても同じような命令を・・・。
「・・・楓・・・」
私は、楓と立道のすぐ上を飛んでる。
本当は私も、楓を・・・攻撃しないと、いけないん・・・だけど。
楓のソードビットの防御を特殊な移動法―――エネルギーの1割を圧縮して脚部に回し、瞬間的に移動する『紫電』―――でかわした立道が、近接ブレードで楓の増設スラスターを破壊した。
増設スラスターを壊された楓は、バランスを崩して急激に失速する。
それでも瞬時にディスプレイを開いて調整、残った一つのスラスターで機体を整えるのが見えた。
流石、楓・・・でも、立道が・・・。
「・・・立道?」
『く、機体が・・・』
楓のすぐ後ろを飛んでいた立道が、何かを払うように腕を払うのが見えた。
その周囲に、黒い粒子みたいなのが取り巻いていて・・・楓が、ナノマシンを使ったのがわかる。
相手のISの動きを阻害し、自分の装備を調整する・・・。
『何をしているんですか、更識。貴女も加わりなさい」
「で、でも、もうナノマシン使った・・・し・・・」
『あの程度では足りません。例の能力を使って貰わないと・・・』
・・・私は、日本の代表候補生。
なら、特務機関の命令には、従わないと・・・いけ、ない。
だか、ら。
「『春雷(しゅんらい)』・・・」
荷電粒子砲を、
右眼に、標的照準のスコープが展開されて・・・標的、標的は、楓。
1基の増設スラスターの出力調整に四苦八苦しながら、立道から逃げる楓。
私はそれを、少し遅れながら追い掛ける。
<照準(ロック)>
『打鉄弐式(うちがねにしき)』の音声が、狙いを定めたことを告げる。
ほんの数秒でエネルギー充填が終わり、後は引き金を引くだけ・・・。
ほんの、少し・・・引くだけで、撃てる。
楓を・・・撃てる。
呼吸が、乱れる。
凄く、気分が悪い。
どうして私は、楓と一緒に作った『打鉄弐式(うちがねにしき)』で楓を撃とうとしているんだろう。
どうして、私・・・友達を、撃たなくちゃいけないんだろう。
こんな時・・・あの人なら、きっと、もっと。
『何をしているのです、更識?』
「え、ぅ・・・」
プライベート・チャネルから聞こえる立道の声が、苛立ってる。
私が撃たないと、立道が楓に近付けないから。
でも、私・・・私、撃て・・・。
気持ち、悪い。
視界が歪んで、薄れて行く。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
こんな時、きっとあの人なら・・・楯無、姉さんなら。
友達を撃つことなく、事態をまとめて見せるはずなのに―――――。
『・・・もう、良いです。私が1人でやりましょう』
「あ・・・」
『更識は、そこで見ていなさい・・・全て、私がやります』
「・・・う」
全て、私がやる・・・全て、全部。
それは、でも、でも、でも・・・でも。
でも、だって、私・・・。
撃てない。
私、撃てない、撃てないよぉ・・・!
だって・・・だって、楓はお友達だもん。
本音・・・幼馴染で従者(メイド)の親友以外で、初めて。
家も何も関係無い場所で、初めて出来た、お友達。
『簪』
耳元で甦るのは、幻の声。
だけど、私にとっては本当の声。
『貴女は何もしなくて良いの。私が全部、やってあげるから―――――』
それは、甘い絶望の声。
図らずも、立道が言った言葉と同じ。
楯無姉さんの・・・あの、何よりも恐ろしい人の・・・。
結局、私はここまでなんだ。
卑怯で、ズルくて、どっちも選べない・・・迷ってる間に、やらなくちゃいけないことはやられてて。
自分がとても、惨めで。
『秘剣・・・』
はっ、として、下を見る。
私の目の前で、立道が楓のソードビットをかわして、あの移動法を。
それを見て、私は。
『・・・『紫電』!』
立道の姿が、消える、その刹那。
後ろの立道を振り返ったんだと、思うけど。
楓が、後ろを見て。
私を、見た気がした。
そんなの、きっと気のせい。
気にし過ぎ、だと、思う。
自意識、過剰。
けど、でも、それでも、私・・・。
「う、あ・・・あ、あああぁぁああぁぁっっ!!」
私・・・私、は!!
増設スラスターとウイングスカートの通常スラスターの出力を、別個調整。
その調整を視線操作(アイ・タッチ)で終わらせた私は、次の瞬間。
―――『個別連続瞬時移動(リボルバー・イグニッション・ブースト)』―――。
Side 篠ノ之 楓
やっぱり、やめとけば良かった。
負けるだけならまだしも、痛い思いとか怖い思いとかするのは嫌だ。
『
「秘剣・・・」
うひゃあ、また来た!
背部のコンデンサーを開いてナノマシンを散布しながら飛んでるんだけど、まだ広がりきって無い。
と言うか、良く考えてみれば音速飛行状態で散布するのは初めて。
通常、『黒叡(こくえい)』は止まってる機体だから。
それに、1基しか無い増設スラスターの出力調整をしながらだから。
実は山田先生のデータ流用して、ロケット燃料のスラスターを使わせて貰ってる。
まぁ、さっき1つ壊された時も燃料爆破して目眩ましにしたんだけど。
でもコレ、調整が難しくて・・・。
「・・・『紫電』!」
ぞわり、背中に嫌な感触。
空中投影のキーボードから指を離さないまま、後ろを見る。
そこには・・・そこには、『雷刃(ライジン)』を駆る立道さん。
そして、横からその近接ブレードを薙刀で止めた簪ちゃんがいた。
・・・はえ!? 簪ちゃん、どこから出た来たの!?
簪ちゃんは対複合装甲用の薙刀「夢現(ゆめうつつ)」を振動させて、高電圧の備わった立道さんの近接ブレードの刃を削っていってる。
金属が削れる独特の音が響いて、私のすぐ後ろで火花が散る。
「・・・更識!? 何を」
「・・・!」
ギャリンッ、と嫌な音を立てながら簪ちゃんがその場で横に回転して近接ブレードを弾き上げる。
そのまま私と立道さんの間に割り込んで、後ろ回し蹴りみたいな感じで立道さんを蹴る。
立道さんは胸を蹴られた形になって、顔を顰めながら少し離れる。
速度に差が出るけど・・・それもすぐに戻す、凄い腕だ。
「更識、貴女は・・・!」
「・・・楓の機体の能力を使わせることと、楓を倒すことは・・・同義、じゃない」
「そんな詭弁が!」
でも簪ちゃんはそれを読んでたのか薙刀を一旦しまって、両手に小さな刃がついた両刃ナイフみたいな装備を
腕を交差させるようにして、刃の振動が始まったそれらを投げる。
有り体に言えば、それはブーメラン・ソード・・・刃の微細な振動による不規則な機動で相手に迫る武装。
「こんな物・・・!」
それを2本とも、時間差をつけて近接ブレードで叩き落とす。
ちなみに、今も高速機動で移動中だから・・・あの2人、どうやって武装の照準合わせてるんだろ。
「・・・な!?」
立道さんがブーメランを弾き飛ばした時には、すでに簪ちゃんの荷電粒子砲が展開されてる。
ブーメランをかわすために地表近くに降りていた立道さんを・・・撃った。
狙いは立道さんじゃなく、その目の前の地面。
それを3連射、結果として巻き上げられた土砂に高速で突っ込むことになる立道さん。
・・・うわー、簪ちゃん、えげつないよ。
「・・・楓!」
「へ? わっ・・・?」
がしっ、と簪ちゃんに手を掴まれた。
そこから簪ちゃんの増設スラスターの出力が上がって、私を牽引する形になる。
お、おお、おー・・・?
「・・・行こう!」
笑顔で言う簪ちゃんに、目を奪われる。
それは、どこか誇らしげで、どこか恥ずかしそうで、困ってて・・・でも。
どこか、楽しそうだった。
それが何だか嬉しくなって、私も簪ちゃんの手を握り返す。
そしたら、簪ちゃんもぎゅってしてくれて。
えへへと笑い合って、2人で前を向く。
残ったスラスターを、『打鉄弐式(うちがねにしき)』のそれにリンクさせる。
「・・・!」
「わぁっ!?」
不意に上から青いビームが振ってきて、簪ちゃんが私の手を引いたまま急旋回した。
と言うか、これはセシリアさんの狙撃だよね・・・あ、流れ弾か。
上で、箒姉さんとドンパチやってるのが見える。
あっちにいるのは、一夏さん達かな・・・?
「楓、私の後ろに!」
「え、うん!」
地表に背を向けた簪ちゃんの後ろに隠れるように移動、その間に簪ちゃんは『打鉄弐式(うちがねにしき)』は最大武装を展開させる。
つまり6発8門、合計48発のミサイルを備えたミサイルポッド・・・『山嵐(やまあらし)』。
マルチロックオン・システム。
開かれる8枚のディスプレイ、凄まじいまでの数値の変動。
ターゲットは・・・後方で復活した立道さんを含めて8機。
つまり私達以外の全員・・・あ、箒姉さんは外してほしいんだけど。
でも、実際に使うのはこれが初めて・・・。
「この『山嵐(やまあらし)』から、逃れられる・・・?」
簪ちゃんの前面に展開された8枚のディスプレイそれぞれが、ロックオン・サインを出す。
48発のミサイルが、それぞれの標的を「捕まえた」。
ピッ、ピピッ・・・電子音がする度にロックが終わる様は、壮観だった。
「力を貸して・・・『打鉄弐式(うちがねにしき)』!」
グオンッ!
簪ちゃんの声に応えたのかは知らないけど、『打鉄弐式(うちがねにしき)』が唸り声のような音を立てた。
直後、48発のミサイルがそれぞれのターゲット目がけて発射された。
種類も違う、起爆のタイミングも若干ズレているミサイル。
それは、複雑な軌道を描きながら突き進んで・・・。
空一面が、一瞬、火の海になった。
立道さんも、一夏さんも、あと箒姉さんも・・・突然のミサイル襲来に、対応できなかった。
ミサイルの群れの爆発に巻き込まれて、致命的では無いにしてもダメージを受ける。
そして、速度も奪って・・・私達が、一番、前に出る。
トップに・・・出た、凄い!
「す・・・凄いよ! 簪ちゃん!!」
私の声に、簪ちゃんがはにかむように笑うのが見えた。
それから、後ろを気にしながら私に速度を合わせて近付いて・・・。
手を、差し伸べてくれた。
私は・・・さっきみたいに笑って、その手を取ろうと手を伸ばす。
簪ちゃんと、照れたみたいに笑顔を交わして。
そして、指先が触れ・・・。
紅色の閃光が、簪ちゃんを撃ち抜いた。
時間が、止まった。
笑顔が崩れるよりも早く、私の目は簪ちゃんの肩を撃ち抜いた赤色を見る。
『打鉄弐式(うちがねにしき)』の装甲が爆ぜて、急速に失速を始める簪ちゃん。
「あ・・・」
さっきまで、あんなにもカッコ良かったのに。
あんなに、楽しそうにしてたのに。
ちょっと困ったみたいな顔で、まるで。
まるで、お姉さんみたいに。
触れかけた指先が、離れて行く。
無理矢理に機体に制動をかけて、手を伸ばす。
顔を歪めながら、簪ちゃんも手を伸ばそうとしたけど・・・・・・届かなかった。
掴み損ねて、ぐっ・・・と拳を作る。
落下して行く簪ちゃん、視界が熱い液体で歪むのがわかる・・・そして。
「・・・ふふ」
聞こえた。
確かに聞こえた。
誰かが、笑う声が。
笑う? 誰を? 誰が?
空を仰ぐと、そこには空よりも濃い青のISがいた。
セシリアさんみたいな優しい色じゃ無い、ただ他を染める意思を持った・・・濃紺の色。
ナンダ、オマエハ。
何かを叩くような、妙な音が耳に嫌に響く。
視界が、白くなったり赤くなったりして、良く分からない。
・・・ああ、私の目がおかしいんじゃなくて、『黒叡(こくえい)』のディスプレイが開いただけか。
両手が、キーボードを叩く音が聞こえてただけか。
何だ。
「う」
何だ、それだけのことか。
それだけの・・・それだけ・・・それ、だけ・・・。
・・・お前。
お前、お前、お前お前お前お前お前お前お前、オマエ―――――。
「―――――――――――――――ッッ!!」
――――――『サイレント・ゼフィルス』。
―――――『 Trismegistus System Standby 』―――――
篠ノ之 束:
もすもすひねもす~?
はーい、束お姉ちゃんから読者の皆に問題だよ~。
ずばり!
『 Trismegistus System 』はどうやって発動するのでしょーか?
うふふ、これがわかったら凄いねぇ。
わかってもわかっていなくとも、束お姉ちゃんは気にしないけどね!
答えはウェブで!(次話で! 的な意味で・・・まさにウェブ!)
じゃあね~また来週!