Side 織斑 一夏
入学式の翌日、つまりは俺が幼馴染の箒との同居(と言うか、同室?)になってから一晩。
あれ以来、箒が機嫌が直してくれない。
確かにシャワー上がりの姿を見てしまったのは俺が悪い・・・悪いのか? むしろ幼馴染とは言え年頃の男女を同室にする学園側に問題があるんじゃなかろうか。
まぁ、この学園はそもそも男が通うことを想定して無いからな・・・。
何せ、男性用トイレも無いってんだから・・・あと、大浴場も使えない。
どこを見ても女性、女子、女・・・。
ちなみに物心ついた頃から親がおらず、千冬姉と2人暮らしだった俺は女子に夢を見る程ウブじゃない。
なので、リアルに疲れるばかりで・・・。
「・・・と言うわけで、ISは宇宙での活動を想定して設計されてあるので、特殊なエネルギーバリアで身体を包んでいて・・・」
ちなみに今は授業中、セシリアとの決闘に向けて頑張ろうと意気込んでは見た物の。
・・・さっぱり、わからない。
千冬姉に貰った参考書で予習した分、単語がわかる程度で・・・根本的な所が、さっぱり。
だけど他の皆はうんうん頷いてるし、理解できてる様子だ。
つまり、俺だけがついていけてない。
窓際の幼馴染、箒を見ても・・・特段、困った様子は無い。
つまり、今やってるのはそれくらい基礎なわけで。
・・・結論、俺1人じゃどうにもならない。
「それからISにも意識のような物があって、対話・・・つまり、一緒に過ごした時間だけ、わかり合う・・・操縦者の特性を、把握しようとするわけなんですね。これがいわゆる『コア』に経験を積ませると言われることで・・・練習は裏切らないと言うことですね」
「先生、それって彼氏彼女みたいな関係ですかー?」
「え、えー・・・と、そうですね。でも私は経験が無いので、わかりませんけど・・・」
彼氏彼女・・・恋人とか恋愛とか、そう言う話になると空気が華やぐ。
と言うか、甘くなる・・・色で言うと黄色か桃色?
一言でいえば、「女子校」的な雰囲気。
まぁ、男って俺1人だしな・・・むしろ、俺が邪魔な感じだ。
その割に、周りから物珍し気にジロジロみられるもんだから・・・困る。
何と言うか、いたたまれない。
「んんっ、山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ」
教室の後ろに立っていた千冬姉が、咳払い一つで教室の空気を引き締める。
このあたりは流石だと思う、おかげで助かった。
俺は小さく息を吐くと、教科書に目を戻して・・・。
・・・やっぱり、わからない。
まぁ、ここに来て初めてISの勉強を始めたわけだから、仕方が無い、はず。
でもセシリアとの勝負は、来週なわけで。
困り果てた俺は、もう一度、箒の方を見る。
「・・・っ」
一瞬だけ目が合って・・・って、おい、目を逸らすなよ、傷付くだろ。
はぁ・・・とにかく、箒に教えてくれるよう頼んでみよう。
同じ部屋だし、教えて貰う分には不自由しない・・・と、思う。
千冬姉に頼んでも教えてくれるだろうけど、忙しいだろうし・・・贔屓だと思われるのもアレだし。
でも箒って、まだ機嫌直って無い、よな?
憂鬱な気分になりながら、教室を歩く山田先生の姿を追いながら少し後ろを見る。
すると、視界の隅の座席に見た顔がいた(いや、クラスメイトは全員見た顔だが)。
箒と似た顔だが雰囲気は真逆、むしろ束さんに近い幼馴染。
篠ノ之楓・・・何故か背筋を伸ばしてニコニコしながら両手で教科書を開いてる。
・・・何がそんなに楽しいんだ・・・?
「・・・はぁ」
溜息を吐いて前を向いて、教科書のページを開きながら、ふと昨夜のことを思い出す。
箒に会いに来たらしい楓と、少しだけ話した。
箒自身は、どうしてか楓と会おうとしなかったけど。
・・・後で聞いても、箒はその件については何も答えてはくれなかった。
まぁ、元々機嫌、悪かったしな。
で、楓からは束さんが元気だと言うことを聞いた。
あの人が元気で無い所が想像できないけど、元気だと聞いて悪い気はしない。
楓もすっかり身体も良くなったって言うし、良いことずくめだ。
何はともあれ健康が1番、だからな。
Side 篠ノ之 楓
はぁ―――――、「授業」って楽しいなぁ!
こう、本当に教科書に沿って進めて行くんだね。
学校にあんまり来たことが無いから、感無量だよ。
まぁ、でも・・・ぱらぱら、教科書をめくってみる。
・・・ISを完全に「兵器」扱いしてるのは、ちょっとだけ不満。
だって、束お姉ちゃんはそんなことのためにISを作ったわけじゃ無いもの。
「おお~、楓ちんがご機嫌だお~」
「うんっ、学校って面白いね!」
「はわ~、え、笑顔が眩しい~」
休み時間には、お友達とお喋り。
本音さんはお友達が多い人みたいで、おかげでたくさんのお友達に紹介して貰えた。
本音さんには感謝感激、ちなみに本人が私に声をかけてきたのは。
「生徒会長に聞いて、興味あったからだよ~」
とのこと。
ははぁ、生徒会長、私の入学資料でも見たのかな。
実技試験、まだだけど。
何でも本音さんは「生徒会」のメンバーで、しかも整備科志望なのだとか。
ちなみに、私も整備科志望。
2年生からは科が別れると言う話で・・・本音さんはお姉さんが整備科にいるとか。
私も束お姉ちゃんの影響でISは動かすより整備したりする方が好きで・・・親近感が湧く。
私がそう言うと。
「じゃあ今度、かんちゃんを紹介するよぉ~」
「かんちゃんさん?」
「うん、4組の子。きっと仲良くできると思うよ~」
本当に本音さんはお友達が多い、まだ学校が始まって2日目なのに。
うーむ、この間延びした独特な喋り方が人を引き寄せるのだろうか・・・。
私も、見習った方が良いかな・・・?
「えぇ――――っ、織斑君って専用機が貰えるんですか!?」
「1年の、しかもこんな時期に!?」
その時、一夏さんの周辺から大きな声が聞こえた。
そこには千冬姉様と山田先生もいて、前者はうるさそうに、後者はアワアワしながら一夏さんに話しかけてる。
「・・・で、だ。本来なら専用ISは国か企業に所属する人間しか与えられないが、お前は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」
「な、なんとなく・・・」
専用機、専用IS。
読んで字の如く、個人に与えられる専用のISのこと。
ISはコアの数(467個)しか作れないから、つまりはどう頑張っても世界で467人しかISを持てない。
束お姉ちゃんは、467個目を作ってからは国にも企業にも提供しなくなったから・・・。
世間的にはいろいろ言われてるけど、個人的には飽きただけだと思う。
「あ、あの、先生。篠ノ之さん達って、篠ノ之博士の関係者なんでしょうか・・・?」
「ああ、2人ともアイツの妹だ」
おおっと、いきなり個人情報漏洩・・・いや、別に隠してないけど。
束お姉ちゃんは、ISのコアが作れる唯一の人間。
そして、今も失踪中(今や私にも居場所がわからない)。
でもいろいろ言われるかと思ったけど、思ったほど私、何も聞かれなかったな・・・。
「す、すごいっ、このクラス。有名人の身内だらけじゃん!?」
「ねぇねぇ、篠ノ之博士ってどんな人? やっぱり天才!?」
「篠ノ之さん達も天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよ!」
そして、にわかに活気づく1年1組。
箒姉さんと、あと私の所にもたくさんの女生徒がやってくる。
おお、こんなにたくさんの人に囲まれると・・・緊張する。
子供の頃も束お姉ちゃんと一緒にいた時期も、人に囲まれた経験が無いから。
でも、束お姉ちゃんは本当に人気者なんだね。
それは嬉しい、だから私は話せる範囲で束お姉ちゃんのことを・・・。
「あの人は関係無い!!」
耳元で叫ばれたかと錯覚するような、大きな声。
声の主は、箒姉さん。
「・・・大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃ無い。教えられるようなことは何も無い」
静まり返る教室、箒姉さんは足早に歩き出して・・・どうしてか一旦、私の方へ。
お、お・・・?
何か話しかけられるのかと思えば、私の目の前を通り過ぎてそのまま廊下へ。
箒姉さんに押しのけられるような形で、私に寄ってきていた生徒が私から離れる。
・・・?
「ね、姉さ・・・」
声をかけようとしても、にべも無く教室の扉が閉められる。
うう・・・昨日もだけど、今日も箒姉さんと話せないかも・・・。
と言うか箒姉さん、授業だよー・・・?
「・・・ほら、不満そうにするなガキ共、授業だ授業」
後には、千冬姉様の手を打つ音が、虚しく響く・・・。
と言うか、不満って何?
不満そうにする箇所、どこかにあったかな?
Side セシリア・オルコット(イギリス代表候補生)
男が、生意気にも専用機!
専用機持ちと言う意味で、あんな男と私が同格に置かれたと言うことなのですもの・・・。
・・・まぁ、良いですわ。
専用機持ちにも、格の違いがあることを教えて差し上げますわ。
それに同じ条件で戦った方がフェア・・・そして嫌でも実力の違いを思い知るでしょうから。
男が女に勝てるなんて、あり得ないのだと言うことを。
「安心しましたわ、まさか訓練機で対戦するとは思っていなかったでしょうけど?」
授業が終わった頃を見計らって、あの男に声をかける。
織斑一夏、不愉快にも世界中が注目していると言う男に。
「私も専用機持ちですから? 訓練機を相手にするのもフェアではありませんからね」
「へー・・・」
「馬鹿にしてますの?」
「いや、すげーとは思うけど・・・どうすげーのかがわからないだけで」
それを一般的に、馬鹿にしていると言うのではなくて!?
・・・ふぅ、いけませんわ、庶民、それも男に感情を乱すなんて私らしくも無い。
ま・・・男ですから、知らないのも無理はありませんわね。
専用機は、極端に言えば世界人口60億の中で選ばれた467名にしか与えられない稀少な機体。
代表候補生の中でも、専用機を与えられるのは私を含めてほんの一握り。
すなわち、エリート中のエリートにしか与えられない特権。
女性優遇のこの時代、専用機持ちはある意味で国家首脳よりも強い権限を持っていますのよ?
それを、こんな男などに・・・本当に気に入りませんわ。
「・・・そう言えば貴女、篠ノ之博士の妹さんなんですってね?」
どう言うわけかこの男・・・織斑一夏の傍にいる篠ノ之箒と言う少女に、声をかける。
入学時に見た名簿と自己紹介の時にもしやと思っていましたが、先程の休憩時間の騒動で言質を取れましたもの。
何しろ、日本人の名前の特徴とか、まだ良くわかりませんの。
とにかく、この篠ノ之箒と言う少女はあの稀代の大天才、篠ノ之束博士の妹。
ISの開発者にして世界唯一のコア製造者、各国が血眼になって探している、あの篠ノ之博士の。
ISの保有数が軍事力の大きさに直結する現在、篠ノ之博士を味方に引き入れた国家が覇権を握るのは自明。
だからこそ、その妹である篠ノ之箒はイギリスの人間として放置できない・・・。
「妹と言うだけだ」
「・・・ま、まぁ、どちらにしてもこのクラスの代表に相応しいのは私、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」
とりあえず言いたいことは言いましたし、こんな男の近くからはとっとと離れるが吉ですわ。
・・・べ、別に篠ノ之箒の目つきに気圧されたわけではありませんでしてよ?
そこの所、誤解無きように。
・・・後で、もう1人の妹さんの方に声をかけましょう。
篠ノ之箒よりは、とっつきやすそうでしたもの。
・・・いえ、別に篠ノ之箒が怖いとかそう言うわけではけしてなくてですね・・・。
とにかく、誤解無きように!
Side 篠ノ之 箒
昼休みになると、一夏は私を昼食に誘ってきた。
私は良いと言うのに、無理矢理・・・他のクラスメイトも誘おうとした所を見るに、今日の休み時間での一件以来クラスで浮いていた私をフォローしてくれようとしたのだと思う。
好意は嬉しいが・・・クラスの女子は私では無くて一夏と食事に行きたかっただけだと思う。
だから良いと言ったのに、一夏は私の手を離してくれなかった。
結果、恥ずかしさの余りに、その・・・古武術で一夏を床に投げてしまった。
それを見たクラスの女子は散ってしまって・・・一夏は溜息を吐いていた。
わ、悪いことをしてしまったか、呆れられてしまったろうか・・・?
「良し箒、飯を食いに行くぞ」
「い、いや、私は良いと・・・」
「黙ってついてこい」
「・・・む」
そして最終的には、一夏と2人きりで食堂で昼食を取ることになった。
いや、別に2人きりになるのを狙ったわけでは無くて・・・そう、これは一夏が無理矢理、故に私は悪く無い。
「良いか? 頼まれたからって俺はこんなこと、普通はしないぞ? 箒だからしてるんだぞ? 幼馴染で同門なんだからな」
「べ、別に・・・頼んで無いだろ」
幼馴染で、同門だから。
一夏はそう言った。
私の家は、剣道の道場をやっていて・・・子供の頃、一夏とそこで一緒だった。
男の子にイジめられていた私を、助けてくれたりとか・・・まぁ、いろいろあった。
・・・懐かしい、な。
楽しかった、毎日がドキドキして・・・本当に。
・・・
そのせいで、一夏とも、父さんや母さん、それに楓・・・・・・離れ離れに、一家離散だ。
私の幼少時代は、そこで終わったんだから。
「そういやさぁ」
「・・・なんだ」
いけない、せっかく一夏が昼食に誘ってくれたのに。
私は慌てて定食の味噌汁に口をつける。
「ISのこと教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で何もできないまま終わっちまう」
かっ・・・と、身体が熱くなるのを感じた。
一夏が私に、ISのことを教えてほしいと頼んできた。
だけど私は。
「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」
違う、こんなことが言いたいわけじゃないのに。
・・・自分が嫌いになりそうで、ほうれん草のおひたしを箸でつつく。
「頼むよ、箒、なぁ・・・「ねぇ、キミ」・・・ヘ? 俺ですか?」
「キミって噂の子でしょ? 代表候補生と試合するって本当?」
「・・・?」
その時、先輩―――リボンの色からして、3年生―――が1人、話しかけて来た。
名前も知らない、たぶん、一夏も知らない。
良く分からないが、一夏の隣の椅子に図々しく座って・・・な、何なんだ?
「キミってさ、IS稼働時間いくつくらい?」
「え? えーっと、20分くらい?」
「それじゃあ無理よ、稼働時間=上達・強さだもの」
ISの稼働時間は、操縦者の熟練度に比例するのは確かだ。
昔でいえば戦闘機乗りの飛行時間、それはISでも変わらない。
代表候補生クラスになれば、300時間は最低でもISの稼働訓練を受けているだろうな。
「・・・で、さ? 私が教えてあげようか、ISのコト」
「・・・!」
突然、その先輩がまるでか、一夏に身体を擦り寄せるようにそんなことを言った。
さっきとは別の意味で、身体が熱くなる。
一夏自身は特に何も感じていないような顔をしているが、私は気が気じゃ無い。
「結構です。私が教えることになっていますので」
「あ、教えてくれるの?」
「あれ? でも貴女1年生でしょう? 私の方が上手く教えられると思うよ?」
先輩の言葉に、たじろぎそうになる。
確かに、1年生が教えるよりも3年生が教える方が良いと考えるのが普通だ。
それに私自身、そこまでISに乗った経験があるわけじゃない。
少なくとも、代表候補生クラスには及ばない。
だけど、このままだと一夏がとられる。
せっかく、一夏と話ができるのに・・・何か、何か無いか。
私が3年生よりもISについて詳しいと、わからせる何か・・・。
「・・・私は」
・・・どれだけ考えても、1つしか無かった。
でもそれは、とても身勝手で・・・本当に、嫌で。
だけどそれしか思いつけない自分が、とてつもなく・・・。
「私は、篠ノ之束の妹ですから」
さっき、クラスであれ程「関係無い」と啖呵を切っておきながら。
都合の良い時だけ、
「篠ノ之って・・・え、えぇ!?」
「・・・ですから、結構です」
「そ、そう・・・それなら、仕方無いわね」
先輩が、私の言葉に・・・
その背中を見つめながら、私はどうしようも無く嫌な気分になっていた。
「何だ・・・教えてくれるのか?」
「そう言っている」
一夏の言葉に叩きつけるようにそう返して、私は再び味噌汁を啜った。
・・・一夏の顔を、見れなかったから。
Side 一夏
放課後、箒に剣道場に来いと言われた。
いや、俺はISのことを・・・と言おうとしたら、「一度、腕が鈍っていないか見たい」と返された。
その後は「見てやる」の一点張りだったもんで、俺は了承するしか無かった。
千冬姉と言い箒と言い、俺の周りには強情な女しかいない。
そう言う運命なのかもしれない、やれやれだ。
「行くぞ」
「ああ」
放課後、剣道の道着やらタオルやらを取りに一旦、寮の部屋に戻った。
・・・まぁ、つまりは同じ部屋なのだけれども。
やっぱりこれ、問題あるよなぁ・・・。
箒だって嫌だろうし、早く個室を用意してくれない物か・・・。
いや、本当は個室が用意できるまでは自宅通いの予定だったんだよ。
でも家にいると日本政府とか各国大使館とか研究所から、「生体を調べさせてほしい」って人が押し掛けてくるんだよ、誰が頷くか馬鹿。
いくら「世界初の男性IS操縦者」だからって、人を実験材料みたいに言うなよ。
・・・で、千冬姉によって無理矢理、箒の部屋に押し込まれたわけで。
普通、女の子いれるだろ・・・妹の楓とか、でもそう言ったら。
「姉妹や血縁者を同じ部屋にしてはならない」
・・・と言う規則を示されて、そうですかーと引き下がらざるを得なかった俺である。
ああ、そうだ楓と言えば・・・。
「・・・なぁ、箒」
「なんだ」
「楓とは話したのか?」
「・・・」
「・・・おーい」
「・・・・・・」
・・・無視ですか、そうですか。
束さんのこともそうだけど、箒は楓のことが会話に上ると黙っちまうんだよな。
箒と2人、寮の廊下を歩きながら腕を組んで考える。
えーっと、確か束さんがISを作った小4の頃に転校してからのことを、俺は良く知らないんだよな。
日本政府の重要人物保護プログラム・・・だっけ? で、いろんな場所を転々としていたってことしか。
だから中3の時、新聞で箒が剣道で全国優勝した記事を見た時は驚いたぜ。
・・・いや、今はその話は良いな。
しかしアレだ、親に捨てられて千冬姉と2人暮らしだった俺に言わせると、姉妹仲が良くないって言うのは気になるんだよな。
どうにか、話だけでもさせられない物か・・・。
「なぁ、ほう・・・き?」
「・・・」
その時、箒が立ち止まった。
表情は強張っていて、その視線を追うと・・・そこには。
何人かの生徒に囲まれた、楓の姿があった。
何してんだ、アイツ・・・?
Side 楓
・・・どうしよう、束お姉ちゃん。
今日も、箒姉さんとちゃんとお話できなかったよ・・・!
数年ぶりの再会だから、もう少しこう、何かあると思ってたんだけど。
「束お姉ちゃんだったら、有無を言わさず抱きついて来るのに・・・」
そんなことをブツブツと呟きながら、寮の自分の部屋から箒姉さんの部屋に向かう。
まぁ、良く考えてみれば箒姉さんは束お姉ちゃんと違ってスキンシップとか好きじゃ無かったしね。
むしろ束お姉ちゃんが過剰だと思う。
あれ? じゃあ箒姉さんの反応が常識のある普通の行動なのかな・・・?
それはそれとして今日こそ、箒姉さんとちゃんとお話しないと・・・。
束お姉ちゃんから、箒姉さんにいろいろと言伝ても頼まれてるし。
何より、私が箒姉さんといろいろお話したいし。
「あ、あの子じゃない?」
「ホント? 噂になってる子?」
「・・・お?」
途中、寮の廊下で何人かの生徒に鉢合わせた。
私と色の違うリボンをつけてるから、上級生だね。
2年生か3年生かは、ちょっと自信が持てないけど。
「ねぇねぇ、ちょっと良い?」
「あ、はい、何でしょう?」
「貴女、篠ノ之博士の妹さんって本当?」
「えーっと・・・まぁ、はい、そうです」
噂とは何のことやらさっぱりだけど、束お姉ちゃんの妹って意味ならその通り。
隠す意味も無いし、と言うか調べれば一発だしね。
学校って噂が広まるの早いって聞いてたけど、本当なんだね。
ちょっと感激、生で見れるなんて。
私が頷くと、先輩方は黄色い声を上げる。
おおぅ、ちょっと耳に来た。
「ねぇねぇ、篠ノ之博士ってどんな人?」
「やっぱり天才? 頼んだら会わせてくれたりする?」
「と言うか、貴女も当然ISに詳しいのよね?」
矢継ぎ早の質問、どれもこれも答えにくい物ばかり。
まず、束お姉ちゃんがどんな人かって言われても困る。
私のお姉ちゃんで・・・そりゃあ天才なんだけど、でも私からしても変な人だし。
会いたいとか言われても、私も居場所知らないし。
と言うか、私もだけど束お姉ちゃん、出てきたら捕まるんじゃ無いかな。
この間なんて、どこかの国の戦闘機に撃墜されそうになってたし。
で、最後のは・・・私が束お姉ちゃんに及ばないのは私が1番良く知ってるし。
私が知ってることなんて、基本的には教科書に全部書いてるし。
・・・それ以外で、何を聞きたいのかさっぱりわからない。
うーん、でもちゃんと答えないと・・・。
「・・・何をしているんですか?」
その時、聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、そこには。
「・・・箒姉さん」
剣道の道具らしい荷物を持った箒姉さんと、一夏さんがいた。
一夏さんはのほほんとしてたけど、箒姉さんの目が凄く険しい。
「箒って・・・あ、もう1人の方じゃ無い? あと、男の子だ・・・」
「ホント? ねぇ、貴女も篠ノ之博士の妹さん・・・」
「妹と言うだけですが、何か?」
「あ、いや・・・」
ギロリ、そんな擬音が聞こえて来そうなくらいの目つきで先輩方を睨みつける箒姉さん。
隣で、一夏さんが溜息を吐いてる。
箒姉さんの剣呑な雰囲気に呑まれたのかどうなのか、先輩方はそそくさと去って行った。
「あ、えと、箒ね・・・」
「・・・」
スタ、スタ、スタ・・・箒姉さんは私の横をあっさり通り過ぎて行った。
・・・ま、またお話できなかった。
「あー、うん。元気出せよ楓」
「一夏さん・・・」
軽く落ち込んでいると、一夏さんがポンッと肩を叩いて慰めてくれた。
「俺達これから剣道場の方に行くんだけど、一緒に行くか?」
「あー・・・でも私、先生に呼ばれてまして。その前に箒姉さんとお話したかったのに・・・」
「そ、そっか・・・ま、まぁ、たぶん箒も照れてるだけだから、すぐに話せるようになるって、な?」
「はい・・・」
照れてる・・・照れてるのかなぁ・・・?
まぁ、もう少し頑張ってみようと思う。
それに・・・今の、たぶん・・・。
Side 織斑 千冬
第3アリーナ、来週の月曜日には一夏とオルコットが対戦することになる場所だ。
とは言え今日は、別の目的でここを使用させてもらう。
その目的とは、篠ノ之楓の実技試験だ。
本来ならあり得ない処置だが、政府の意向で許可が下りた。
おそらく、「篠ノ之束の妹」を掌中に収める好機だと思っているのだろう。
箒と楓、あの双子を入学させて何を企んでいるのかは知らんが・・・。
だが下手な手出しができないことも、わかっている。
「束が黙っているはずも無いからな・・・」
「・・・? 何か言いましたか?」
「ああ、いや、何でも無い」
・・・アレの姉、篠ノ之箒がIS学園に入ったのは、他に束が納得できる場所が無かったからだ。
政府や委員会による度重なる詰問と転居、それによってアレが受けた精神的な苦痛は相当な物だったろう。
そしてあるルートからそれを知った束は・・・。
篠ノ之箒の獲得に関係しようとした企業・組織を、1日で全て壊滅させた。
それも一滴の血も流さず、死者も出さず・・・ただ、物理的に壊滅させた。
その方法は、誰にもわからない。
それで失われたデータと機材は、金額にすると兆を軽く超える。
もちろん、ドル換算でな。
・・・私がいるIS学園だけが、確保できてしかも安全な場所だった。
「・・・山田先生、準備は?」
「あ、大丈夫です」
アリーナの中央に、1機のISがいる。
それに乗っているのは山田先生で、彼女は元々入試の教官だった。
加えて言えば日本の代表候補生だったわけだが・・・それは良いな。
乗っている機体は『ラファール・リヴァイヴ』・・・フランス製のISだ。
ネイビーカラーをした4枚の多方向加速推進翼が特徴的で、量産型ISの中では世界第3位のシェアを誇る機体、操縦のしやすさと汎用性の高さが売りの第2世代IS。
「専用機が相手だと、ちょっとキツいかもですけどね」
「冗談を、山田先生なら専用機持ちのガキに負けはしませんよ」
実際、山田先生は強い。
私だって油断すれば負ける・・・まぁ、ここ数年はISに乗っていない私が言うのも、おこがましいが。
その山田先生がこれから模擬戦・・・試験をするのは、篠ノ之楓とその専用機。
スペックや機体特性などは束の送りつけたデータで見ているし、コアも束所有の登録済の物。
書類申請上は、「試験機」として篠ノ乃楓に「貸与」と言う形になっている。
国籍をどこにするか、一夏の専用機と合わせて国際間で話し合われているが・・・。
・・・下手なことをすると束に制裁されかねないから、話し合いは進んでいないのが実情だが。
「お待たせしましたっ」
「遅い! 5分前行動が基本だと教えなかったか!」
「す、すみません!!」
指定した時間の少し前に、受験者・・・つまり、篠ノ乃楓がやって来た。
そのまま私達の前に来て、背筋を伸ばして立つ。
心無し、緊張しているようにも見える。
・・・当たり前だが、2人の姉のどちらとも違う反応だな。
「これより試験を行う。基本的にはISを動かせれば良いが・・・一応、こちらの山田先生と模擬戦をして貰う」
「よろしくお願いしますね」
「は、はいっ、お願いします!」
物凄い勢いで頭を下げる・・・その後、山田先生とペコペコし合って止まらなくなったが。
まぁ・・・とにかく、見せて貰おうか。
「では、ISを起動しろ・・・お前の姉には許可を取ってある、安心してやると良い」
「・・・はい」
私の言葉に、篠ノ之楓は左手の中指に嵌めていた黒い指輪を撫でた。
それが、待機状態らしい。
専用機として「最適化」したISは、量子化して形態を変える。
基本はアクセサリーの形になる・・・ああ言う、指輪とかにな。
「・・・おいで、『黒叡(こくえい)』」
小さな呟き、同時に操縦者の身体が光の粒子に包まれる。
現れるのは、インフィニット・ストラトス・・・IS。
それは・・・。
Side 篠ノ之 束
んー・・・暇だなぁ、楓ちゃんもいなくなっちゃったしなー。
引っ越しもとりあえず終わったし、箒ちゃんや楓ちゃんやいっくんにちょっかい出しそうな所も全部潰しちゃったしなー。
ちーちゃんが怒るから、死亡者はゼロ。
え、どうやったかって・・・・・・さぁ、覚えて無いや。
いーじゃん、どーでも。
「楓ちゃんは今頃、とっくのとっくにあそこについてるよねー、良いなぁ、箒ちゃんといっぱいお話できてるんだろうなー」
箒ちゃんはお姉ちゃんに冷たいって言うか、嫌ってるからね。
何せ、電話もかかってきたことも無いし、かけても無視だしね。
その時、束さんの携帯電話からゴッドファ○ザーのテーマが鳴り響く!
こ、この着信音は・・・ちーちゃん!
束さんはもう、それはそれは俊敏に携帯電話を取ったね!
「もすもす終日(ひねもす)ー、束さんだよーんっ!」
そして、出た瞬間に切られた、ぷちっと。
あーん、待って待って、ちーちゃん待って!
そう念じたら、再びゴッ○ファーザーのテーマ、ちーちゃん愛してるぅ♪
「やふー、この世一の天才、束・・・いやいや、切らないで切らないで・・・」
その後、ちーちゃんに5分くらい怒られた。
うふふ、ちーちゃんだけだよ、私を怒れるの。
他の人なら、明日には一文無しになってるんだから。
「それでそれで、何かなちーちゃ・・・え? 何だアレはって、何の話?」
はぁ、はぁはぁ~、なるほど、楓ちゃんのIS見たんだ?
ああ、うん、まぁ、アレは確かに半分くらい私が作ったんだけどね。
基本設計は楓ちゃんだよ、私はお姉ちゃんだから、ちょちょ~っと手伝っただけで。
「アレはねぇ、そうだねぇ、何と言うか・・・うん、他のISとはコンセプトがね、違うんだよ」
何と言っても、後から生まれる2機とセットのつもりでいろいろしたからさぁ。
アレ単体だと、いろいろと変なことになるんだよね、うん。
まぁ、天才の束さんが、弟子で助手で可愛い末の妹な楓ちゃんのために作ったからね、他のとは千味くらい違うよね。
「ああ、『白式(びゃくしき)』? モチロン大丈夫・・・」
クルッ、と座ってた椅子を反対側に回して、「それ」を見上げる。
そこには・・・「白」がある。
束さんがいっくんのために丹精込めて作ってあげたISが・・・。
「来週の月曜日には、ちゃ~んと届けてあげるからね、ちーちゃん♪」
束さんにお願い事ができるのは、この世で4人だけなんだから。
うーん、サービス精神旺盛だね、流石は天才の束さんだねっ。
篠ノ之 楓:
どうもです、どうにか学生生活も軌道に乗って来た・・・と思う、楓です。
そもそも学生生活って何をすれば良いのかさっぱりだけど、とりあえずお友達を作る所から初めて見ました。
今日は、この世界でのISの運用に関する国際的な取り決めなどについて説明させて貰いますね。束お姉ちゃんはバラまくばっかりで後は放置だから・・・。
ある事件を境に、ISは現行兵器を上回る機動兵器としてデビュー、各国はこの新たな脅威の扱いについて話し合うことになります。
まぁ、束お姉ちゃんが日本人だったんで、基本的に世界中から日本が叩かれていたようです。
長いようで短い話し合いの後に締結されたのが「アラスカ条約」。
アラスカ条約:
正式名称は「IS運用協定」、通称「IS条約」。467のISコアを主要国に「平等に」分配することや技術・情報開示、関連製品取引の規制などが取り決められてます。軍事転用の「禁止」も盛り込まれてますけど、誰も守ってません。IS学園の設置についてもここで明記されています。各国のIS保有数や動向を監視する機関としては国際IS委員会がありますけど、これも結局は主要国のクラブです。
モンド・グロッソ:
主要21ヵ国・地域が参加するISの対戦の世界大会。各部門の優勝者は「ヴァルキリー」、総合優勝者は「ブリュンヒルデ」と呼ばれて称えられます。千冬姉様はどちらも持ってます、凄いですよねー。
篠ノ之 楓:
・・・とまぁ、こんな感じです。
その他、いろいろ細かい規定とかありますけど・・・ほとんどあって無いような規定ですし、そもそもISはブラックボックスが大きいので。
・・・もしかしたら、束お姉ちゃんが面倒がって適当に組んだシステムかもしれないし。
篠ノ之 束:
むふ? そんなこと言うお口は~、こうだ~~♪
篠ノ之 楓:
あばばば・・・っ