インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第27話:「その学園、危険」

―――――「それ」を見た時、迷わずその場から駆けた少女がいる。

それに反応して幼馴染(うつほ)が廊下の逆方向に駆け出す、言葉はいらなかった。

学園最強の称号を背負うその少女は、2つの理由から走る。

 

 

一つは、学園生徒の長としての理由。

学園に入り込んだ侵入者を排除し、生徒達の平和と安全を取り戻すために。

少女は走る、己の職責のために。

 

 

そしてもう一つは、一人の「姉」としての理由。

妹に危害を加えた存在を排除し、肉親(かんざし)の安全と生命を守るために。

少女は走る、己の大切な何かのために。

 

 

「『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』、セットアップ!!」

 

 

纏っていた制服が粒子化して消え、一瞬の輝きの後に黒を基調としたISスーツへと変わる。

両肩に展開したアクア・クリスタルが、少女の身体をナノマシンの水で覆っていく。

数秒の後には、屋外へと飛び出した少女の身体は流水色の装甲で纏われている。

高い跳躍、少女の身体は虚空へと飛翔した。

 

 

「ならばそのように、振る舞うだけ・・・!」

 

 

生徒会長として、そして姉として。

彼女―――――更識 楯無は、飛翔する。

見据える先に、敵がいる限り。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

―――――『 Trismegistus System Standby 』―――――

背後からのミサイル攻撃を展開装甲で切り抜けた後、私の目前に突然、そんな言葉が記されたディスプレイが開かれた。

それに驚く間も無く、高速で飛翔する私の横を誰かが通り過ぎて行く。

 

 

否、それは前から「墜ちて」きたのだ。

視覚ではとても確認できないが、地表に叩きつけられ、何度もバウンドしながらアリーナの壁にぶつかって止まったそれを、『紅椿(あかつばき)』のセンサーは的確にそれを認識している。

 

 

「・・・簪!?」

 

 

それは、楓の友人だった。

拡大された映像で確認し、驚愕する・・・撃墜されたのか!?

簪の一撃で―――あれだけの標的をまとめて狙うとは、驚いた―――他の参加者は程度の差こそあれ足止めされたはずなのに。

ならば誰が、簪を・・・。

 

 

「・・・!」

 

 

そして、見る。

『紅椿(あかつばき)』の拡大映像で、上空のそれを見つける。

1つは、漆黒のISを身に纏う妹。

おそらく、私の機体にメッセージを表示しているのは楓―――。

 

 

そして、もう1つは。

その妹に銃剣のような武装を突き付け、今にも斬りかかろうとしている深い青の機体・・・!

・・・楓!

 

 

「う、おおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

展開装甲を全開にして、一気に音速飛行に入る。

そして直前で急減速、敵の・・・『サイレント・ゼフィルス』の攻撃が楓を捉える前に。

楓を抱き締めて、凶刃から妹を守る。

 

 

「ね・・・姉さん!?」

「楓、大丈夫か!?」

「う、うん・・・」

 

 

いきなりの私の登場に驚いたのか、楓はどこか呆けていた。

しかしすぐに、泣きそうな顔になって。

 

 

「箒姉さん・・・箒姉さん! 簪ちゃんが、簪ちゃんが!!」

「わかってる!」

「アイツ・・・絶対に許さない!!」

 

 

楓が泣きながら叫ぶと、漆黒の機体から黒い粒子のようなナノマシンが噴き出す。

それは臨海学校の時に体験した、『 Trismegistus System 』の再現。

しかしそれは、『 Standby 』の表示から動くことが無い。

楓は激しくキーボードを叩いているが・・・そこから動かない。

発動しない。

 

 

「何で・・・何で!?」

「落ち着け、楓!」

「だって・・・何で動いて、動いてよぉ!!」

 

 

ダメだ、楓は冷静さを欠いている。

そう判断した私は、楓を抱いたまま後退しようと・・・。

 

 

「ふふ・・・」

 

 

ぞくりとするような、笑い声。

同時に四方をビットに囲まれる、私は肩の展開装甲を開いて真下に移動した。

頭の上をビームが交差し、肝を冷やす。

セシリアのビットを見慣れていなければ、今のでやられていた・・・。

 

 

攻撃を回避して、ほっとした矢先。

がくん、と、もう感じ慣れた感覚が私を襲った。

『紅椿(あかつばき)』の機体が、重くなる。

エネルギー切れ。

先程からの激しい加減速で・・・そして、鈴達との戦いで使い過ぎたか!?

 

 

「しま・・・!」

 

 

楓を抱えたまま、機体のバランスを崩す。

そこへ、『サイレント・ゼフィルス』が襲いかかってくる・・・!

反射的に身体を回し、楓を庇おうとしたその時。

 

 

「下がりなさい!」

 

 

どこから飛んで来たのか、日本刀のような近接ブレードを持ったISが私達と『サイレント・ゼフィルス』の間に割り込んできた。

銃剣と近接ブレードがぶつかり合い、紫電を散らす。

 

 

「お前は・・・」

「た、立道・・・さん?」

 

 

簪の知り合い・・・だったか、日本の代表候補生。

その彼女が今、私達を守るように戦っている。

 

 

「第4世代機を・・・やらせるわけには・・・!」

 

 

小さな声で何事かを呟くと、一瞬だが姿が消える。

急速に脚部にエネルギーが集中し、瞬間的に加速、消えたように「視える」。

 

 

「秘剣・・・『紫電』!!」

 

 

静かな呟き、次に知覚した時には立道は『サイレント・ゼフィルス』の背後にいる。

それから、高電圧を帯びた近接ブレードを振り下ろして・・・。

 

 

指先で、受け止められた。

 

 

立道の顔が、驚愕の色に染まる。

高電圧を帯びているはずの刀身を、『サイレント・ゼフィルス』の操縦者は指先で挟んで止めている。

白刃取り、しかも指2本、片手で・・・!

 

 

「そん・・・」

「・・・その芸はもう『2回』視た。3回目にもなれば、流石に飽きる」

「・・・な、バ」

 

 

一刹那の後、4機のビットが立道を集中砲火。

ビームの束に撃ち抜かれた立道は、剥がれ落ちた装甲をばら撒きながら地表へと堕ちる。

 

 

「た・・・う」

 

 

名を呼んで追おうとした時、またぞくりとした感覚が背筋を通り抜けた。

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が、バイザー越しに私を見ている。

ちろ・・・と唇を舐める舌先が、恐怖感を誘う。

今の私には、対抗手段が無い。

しかも、楓も抱えたままだ・・・どうする、どうすれば・・・!

 

 

「箒さん!!」

「箒―――――!!」

 

 

声が聞こえた瞬間、大きく後ろに後退する。

私を追おうとした『サイレント・ゼフィルス』を青いビームの束が遮り、次いで『衝撃砲』の見えない砲弾と共に鈍い赤色の機体が私の横を駆け抜けて行く・・・。

 

 

「セシリア・・・鈴!」

「堕ちた子はシャルロットが拾いに行った! アンタ達は・・・」

「簪さんの方を、お願いしますわ!」

「その後は、さっさと逃げなさいよ・・・セシリア!」

「多角射撃、行きますわ!」

 

 

先程まで私と戦っていた2機が、戦線に復帰してきた。

私達を庇うように飛び、『サイレント・ゼフィルス』に迫って行く。

 

 

「どうして・・・なんで・・・」

「楓、下がるぞ」

「なんで・・・」

 

 

憔悴した様子の楓に胸を痛めながらも、私は後退する。

正直、鈴達と共に戦えないのは悔しい・・・ワンオフ・アビリティが使えれば・・・。

ぎり・・・下唇を噛み締めながら、私は簪が堕ちた場所へ向かった。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

突然の命令変更、「3機を守れ!」。

もちろん、異論などあるはずもありませんわ。

特に相手が『サイレント・ゼフィルス』となれば、喜んで戦いましょう・・・!

 

 

遠距離から私が、近距離から鈴さんが。

ラウラさんと戦った時から変わらない配置、でも今は・・・。

 

 

「待たせたな、セシ「一夏は下がっていろ、お前がいるとかえって邪魔だ」り・・・おい!」

 

 

今は、中距離にそのラウラさんが入ります。

ワイヤーブレードとAICを駆使して、私より近い位置で鈴さんを援護します。

一夏さんも援軍に来てくださいましたが、正直連携の相手としては計算に入れられません・・・。

一夏さんときっちりと連携が取れるのは、実はシャルロットさんくらいなモノです。

 

 

「ふん・・・」

「な・・・」

「・・・シールド・ビット!」

 

 

攻撃を防がれた鈴さんとラウラさんの声に、私は顔を顰めます。

『サイレント・ゼフィルス』・・・イギリスのBT兵器搭載型2号機には、ビーム状の盾を展開させる『エネルギー・アンブレラ』と言う兵器が積まれています。

射撃ビット数も『ブルー・ティアーズ』も多く、しかも他動作と同時にビット操作ができる。

そして、何よりも・・・。

 

 

「・・・堕ちろ」

 

 

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者がそう呟き、軽く手を振ります。

ビットから一斉にビーム射撃が行われ、ラウラさんと鈴さんが回避行動に入ります。

その瞬間、私は円状制御飛翔(サークル・ロンド)の体勢に入りながら全員に警告を飛ばします。

 

 

「ビームが『曲がり』ますわ! 全員、回避行動を・・・!!」

 

 

次の瞬間、かわしたはずのビームがラウラさんと鈴さんを貫きます。

間に合わなかった、事前に伝えておくべきでした!

『曲がった』ビーム・・・偏向制御射撃(フレキシブル)による攻撃を受けた鈴さんとラウラさんは、音速機動のための増設スラスターに致命的な損傷を受けました。

 

 

「・・・っ、こ・・・このぉっ!!」

 

 

ライフルを構えて、撃ちます。

鈴さん達は高速機動戦闘に対応できなくなりました、防御と牽制がやっと。

一夏さんは、戦力にならない。

ならば、強襲装備の私しか『サイレント・ゼフィルス』には対応できない。

 

 

「何だ、旧式か」

「・・・っ! 人の国から、盗んでおいてそのような!!」

 

 

指先を向けて、ビットで射撃してくる『サイレント・ゼフィルス』。

その射撃をかわしながら、同時に撃ち返す。

上空で高速で交差しながら、限定空間で互いに円状に動きながら射撃と回避を繰り返します。

機体をマニュアルで制御しつつ、『曲がって』来るビームを空間の歪み値の先行予測でかわします。

 

 

「ほう、やるな」

「当然・・・年季が違います!」

「そうか、だが・・・仲間はそうでも無いな」

「・・・!」

 

 

機体制御を続けながら、後ろを見ます。

いつの間に向かわせていたのか、ビットの半分が鈴さん達を攻撃していました。

ビームが『曲がる』と言う攻撃に、鈴さんは『衝撃砲』、ラウラさんはAICの全方位展開で対応するのがやっとです。

 

 

動けずにいる、私の仲間が・・・自分のことばかりで気付かなかった。

・・・一夏さんは? 一夏さんはど

 

 

「セシリアぁっ!!」

「・・・き」

 

 

一夏さんの声・・・そして悲鳴を上げる前に、衝撃。

私が鈴さん達の状況に気を取られた瞬間、腹部に『サイレント・ゼフィルス』の膝が叩き込まれました。

痛みはありません、ISが守ってくれましたから。

視線が絡むと、相手の口元に笑みが・・・こ、のっ!

ショートソード『インターセプター』を手に持ち、振るいます。

 

 

ひらり・・・簡単にかわされて、腕を撮られて今度は顔を蹴られ・・・っ。

蹴られた衝撃を利用して離れ、ライフルの引き金を引きます。

そしてそれすらも回避される、私のビームは曲がらない・・・!

 

 

「何だ、できないのか」

「・・・う、うるさい!」

 

 

事実を指摘されて、私は唇を噛み締める。

テロリストが・・・テロリストの、癖に!!

再び射撃、今度はより強く「曲がれ」と願います。

でも・・・曲がらない。

いったい、どうすれば・・・どうすれば!

 

 

一方で私から距離を取って射撃体勢に入った『サイレント・ゼフィルス』・・・その射撃は、回避。

でも、それは『曲がる』。

しかも今度は、より鋭い角度で・・・回避、できな・・・。

 

 

「危ないっ!!」

「あ・・・」

 

 

『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』でしょう・・・私の前に、一夏さんが突然現れました。

私を庇って、前に立ちます。

ビームの前に身を晒して・・・例のエネルギー無効化の盾の展開も間に合っていないのに。

 

 

この時、私の心のどこかに罅が入る音が聞こえました。

 

 

ビームも曲げられず、あまつさえ負けかけ、戦力外扱いしていた一夏さんに庇われる。

守るべき機体に守られ、任務にも反して。

私の中の何かに、罅が。

 

 

「・・・え?」

 

 

沈みかけた私の意識を引き戻したのは、一夏さんの呆けたような声。

私達に向かって来たビームが極端に威力を落としたかと思えば・・・私達の前にさらに割り込んだISによって、弾かれて消えます。

合計10基のスラスターを積んだ独特な機体、『タイニー・ウィッチ』によって。

 

 

「イギリス女はともかく、『おにぃちゃん』に手ぇ出すなよ・・・ぶっ殺すぞ」

「また、ゴミが増えた。せっかく・・・なのに、な」

「はぁん? 死ねよ、クソが」

 

 

アメリカ代表候補生、エリスさん。

庇われて、助けられて・・・私は。

ぎり・・・ライフルを持つ手が、震える。

 

 

私は、セシリア・オルコット。

イギリスの、代表候補生・・・!

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「簪ちゃん!」

 

 

地表に降りた瞬間、私は箒姉さんの手から離れて駆け出す。

ISも解除されて、アリーナの壁によりかかる簪ちゃんの傍に。

近付いてみると、簪ちゃんは目を閉じて眉を寄せていて・・・額からは、血が流れてる。

 

 

怪我もそうだけど、ISの生命保護機能が動きかけてるのは見ればわかった。

保護機能が働いてしまえば、簪ちゃんは回復するまで意識を失ってしまう。

私は『黒叡(こくえい)』の装甲部分を解除して、簪ちゃんの傍に膝をついて手を取る。

 

 

「簪ちゃん・・・!」

「・・・か、ぇで・・・?」

「簪ちゃん!」

 

 

瞼を震わせながら、簪ちゃんが私の方を見る。

その目は、今にも閉じそうで。

私は強く、簪ちゃんの手を握る。

その手は、びっくりするくらいに冷たかった。

 

 

それがまた、胸を痛ませる。

どうしよう、私のせいだ。

私を助けて、私が足手まといだから・・・簪ちゃん1人だったら、こんなことには。

私の、せいだ。

 

 

「ごめん・・・!」

 

 

そう思うと、胸が詰まって何もわからなくなってしまう。

それまで考えてたこととか、怒りとか、全部わからなくなってしまって。

私はただ、「ごめんなさい」と謝ることしかできない。

 

 

お友達なのに。

 

 

お友達なのに、お友達なのに、お友達なのに。

どうして私、何もできないんだろう。

束お姉ちゃんみたいに、箒姉さんみたいに、何で。

なん、で・・・ちゃんと、できないの!?

 

 

「・・・だぃ、じょ・・・ぶ」

「大丈夫じゃないよ、だって・・・だって、『黒叡(こくえい)』も動いてくれない! お姉ちゃんがくれたシステムも使えない! 箒姉さんのお手伝いもできない! じゃあ、じゃあ・・・!」

 

 

じゃあ、私なんている意味が無いじゃない!!

何でも1人で出来るお姉ちゃん達に比べて、私は何もできない。

病弱で、寝てばかりで、誰かの手を借りないと生きていけない弱い存在(ワタシ)。

 

 

でも、せめてお姉ちゃん達に必要とされたかった。

元気になって、たくさん勉強して、ISを作って。

それでも、何の役にも立てなかったら・・・何が残るの。

そこに、誰が残るの。

 

 

「楓・・・」

 

 

箒姉さん、ごめんなさい。

私、姉さんの助けになれない。

お友達にも、迷惑をかけて・・・凄く、惨めだ。

昔、お布団の中で感じてた・・・惨めで、悔しい、そんな気持ちで。

 

 

「・・・かえで・・・」

 

 

きゅっ・・・と、凄くか弱い力で、簪ちゃんが私の手を握る。

もう片方の手で、目元をグシグシと擦って・・・簪ちゃんの顔を見る。

簪ちゃんは・・・凄く、優しい顔で笑ってた。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

ああ―――――イライラするわ。

何にイライラしてるかって、まず自分よね。

死角からの射撃ビットの攻撃に気付かずに、4基ある『風(フェン)』の増設スラスターの半分を壊された。

今はマニュアルで入力して、残りの2基で何とか高機動戦に耐えられるように設定し直した所。

 

 

アリーナの外周を飛びながら、前後左右から襲ってくるビットの『曲がる』ビームを避ける。

『衝撃砲』が近距離用の拡散型になってるから、遠距離砲撃はできない。

本当、イライラするわ・・・ウザいのよ!

 

 

「・・・ラウラ!」

『了解している』

 

 

グンッ・・・機体を翻して、アリーナ外周を旋回する。

アリーナのシールドの向こう側には、まだ避難中の観客が見える。

政府のお偉方はもう逃げてるだろうけど・・・一般人の避難は進んで無い。

まぁ、学園よりも大きいアリーナだからね。

 

 

『接触まで3、外すなよ』

「わかってるわよ!」

 

 

プライベート・チャネルでの会話、その3秒後。

反対側から高速で飛んできたラウラと、擦れ違う。

そして私がラウラを、ラウラが私を追撃していたビットを撃墜する。

 

 

擦れ違いざま、プラズマ手刀と青竜刀が高速で飛翔するビットを捉える。

軽い金属が切れる手応えの直後、小さな爆発を後方に確認する。

直後、私は急上昇して・・・ラウラを追ってたもう1機が私に標的を変更、今度は私を追ってくる。

でもそのビットも、逆に下降して射撃体勢に入ったラウラのレールカノンで撃ち落とされる。

私は機体を翻して、カノン砲を回避・・・あっぶな!

 

 

『殲滅完了、次の行動を選択する』

「はいはい、了解!」

 

 

実際、ビットを3機墜としただけだからね。

本体の『サイレント・ゼフィルス』は・・・まだ一夏とセシリア、それに3組のエリスと戦闘中。

一夏の攻撃が当たらないのはいつものことだし、エリスはどうも一夏を守る以外のことはしないらしい。

それよりも・・・。

 

 

「セシリア! どうしたのよ!?」

 

 

たまらなくなって、叫ぶ。

でも向こうが通信を切ってるのか、私の声はセシリアには届かない。

・・・何、やってんのよ。

 

 

セシリアは、一夏の援護のつもりがあるのか無いのか・・・わざと『サイレント・ゼフィルス』から少し離れた位置を撃ってる。

どう言うつもりなのかは、何となくわかる。

ビームを、曲げるつもりなんだと思う。

 

 

『私はこれよりシャルロットと位置を代わり、支援砲撃に入る。私の機体はこれ以上の高速機動戦闘継続が困難な状態だ』

「・・・了解、ラウラ。私は一夏を・・・『白式(びゃくしき)』を守るわ」

『了解した』

 

 

ギリッ・・・と、拳を握る。

敵に右へ左へと翻弄される一夏、すぐに助けに行かないと危ない。

しかも、セシリアがあんなんじゃ・・・あんな。

 

 

あの子がここ最近、何かにずっと悩んでたのは知ってる。

 

 

でも私がそれに口出しなんて出来るわけないし、あの子のプライドを傷つけたくも無かった。

だから、ただ見てた。声をかけないのが、私なりの気遣いだった。

だけど。

 

 

「・・・!」

 

 

その時、セシリアの射撃が鬱陶しくなったのか・・・『サイレント・ゼフィルス』が3つ、ビットを射出するのが見えた。

セシリアは換装装備(パッケージ)でビットを封印してるから、ビットで対抗できない。

 

 

しかも・・・ビットからの射撃、『曲がる』ビームを避けなかった。

『ブルー・ティアーズ』が被弾して、よろめく。

そして『サイレント・ゼフィルス』が、一夏の攻撃をいなしながらライフルの先をセシリアに向ける。

それでもただバカみたいに足を止めてるセシリアを見て、私は。

 

 

「この・・・っ」

 

 

増設スラスターの2基を全開にして、最大出力で『瞬時移動(イグニッション・ブースト)』する。

フェイトも何も無い一直線な動きに、『サイレント・ゼフィルス』のビットが反応する。

腕部、腹部、そしてスラスターに被弾・・・衝撃に歯を食いしばる。

 

 

<ダメージ深刻、シールドエネルギー残量102>

 

 

『甲龍(シェンロン)』の警告を無視して、ダメージに構わず突っ込む。

飛び散る装甲の破片を後方に残しながら、『サイレント・ゼフィルス』本体の射撃からセシリアを守る。

こんの・・・!

 

 

「バカああああああぁぁっっ!!」

 

 

セシリアの機体の胴体部に衝突して、無理矢理に敵の射線から外す。

それから、『瞬時加速』の勢いのままに・・・。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

一瞬、何が起こったのかわからなかったですわ。

気が付いた時にはアリーナの地表に叩き付けられていて、凄まじい衝撃に襲われましたから。

散々アリーナの土を削った後、ようやく停止します。

 

 

「う・・・?」

 

 

あ、ISを纏っていなければ、確実に死んでいたような勢いでしたわ。

確か、『サイレント・ゼフィルス』のBTエネルギー・ライフルに撃たれかけた所までは覚えているのですが。

 

 

「・・・鈴さん!?」

 

 

私の上に覆いかぶさるような形で、鈴さんがおりました。

鈴さんはそのまま、横倒しになるようにして地面に横になります。

機体の損傷が激しく、これ以上の戦闘継続は非常に難しいでしょう。

そして鈴さん本人は、髪で顔が隠れて見えませんが・・・反応が。

 

 

「鈴さん?・・・鈴さん! ・・・よくも!」

 

 

よくも、私の友人を!

どうにか無事だったライフルを拾い、再び空へ飛ぼうとします。

すると・・・。

 

 

「は・・・?」

 

 

突然、鈴さんの手が伸びて来て・・・胸元を掴まれます。

それから、『甲龍(シェンロン)』の強い力で引き寄せられて・・・。

 

 

ガィンッ!!

 

 

・・・頭突きを、喰らわされました。

絶対防御のおかげで痛みはありませんが、それでも反射的に額を押さえます。

その段階になってようやく、私は何をされたのか理解しましたわ。

急激に、怒りが込み上がってきて。

 

 

「な、何をなさ「それはこっちの台詞よ、このバカッ!!」る、な・・・な!?」

 

 

ば、バカ・・・私が!?

いきなり人に頭突きをしておいて、その言い草は何ですの!?

 

 

「アンタ・・・何、やってんのよ!?」

「な、な・・・それは、こちらの台詞ですわ! 私に対して、いくら鈴さんでも許しませんわよ!?」

「何発だってやってやるわよ、このバカ!」

「に、二度も言いましたわね!? お母様以外に叱られたことなど無い私を!?」

「そんなん、知るか!」

 

 

グィッ・・・力任せに引き寄せられて、鈍い音を立てながらお互いの額をぶつけ合います。

今度は衝撃に弾かれること無く、ギリギリと睨み合うような形で。

 

 

「アンタ・・・何、やってんのよ」

「だから、何の話を」

「ビームを曲げることにこだわって、身体がガチガチじゃない! そんなんで、ISをまともに動かせるはず無いでしょ!?」

 

 

―――頭を。

 

 

「そんな状態で、あの蒼い奴に勝てるわけが無いじゃない!」

「な、く・・・しかし、でも、偏向射撃(フレキシブル)は・・・・・・我が国の悲願なのです!」

「テロリストに先を越されて悔しいって? はん、つまんない意地ね」

「・・・貴女に、何がわかるんですの!?」

 

 

―――バッドで。

 

 

「私が・・・私達が、どんな想いで!」

「知らないわよ、そんなこと! でもね、1個だけ私にもわかってることがあんのよ!」

「何ですの? 何がわかると言うんですの!?」

 

 

―――殴られたような。

 

 

「ああ、わかるわよ! 良い? アンタねぇ・・・!」

 

 

―――気が、しました。

 

 

 

「アンタはビームなんて曲げれなくたって、十分に強いのよ!!」

 

 

 

・・・強い?

私が?

 

 

「私が・・・強い?」

「・・・そーよ。ったく、ハズいこと言わせんじゃ無いわよ」

「ですが・・・私は、技量ですでに・・・」

「あー、もう。良い? 一回しか言わないわよ」

 

 

鈴さんの両手が、私の肩を掴みます。

強く・・・とても、強く。

この強さが・・・鈴さんの力の根源なのだと、そんなことを考えてしまうくらいに。

 

 

「アンタ、強いよ。訓練時間はラウラの方が多いかもしれないけど、遠距離に限定すれば1年最強のラウラでもアンタには敵わないくらいに」

「・・・」

「私と模擬戦して、何回勝った? 勝率とか気にしたことある? 他の娘とは? 最強のラウラにも、器用なシャルロットにも、万能な箒や一夏にだって・・・アンタ、負けて無いじゃない」

 

 

負けて、無い。

私が・・・。

 

 

「そんなアンタが、あんな奴に劣るわけが無い。もし劣るなら、私達全員がアイツに負けてることになる。私はそんなの認めない、それこそ国の皆に顔向けできない」

「国・・・祖国の、皆」

「思い出しなさいよ、アンタの強さは・・・どこから来てたのよ」

 

 

私の強さの・・・源。

それは・・・それ、は。

手を握り締めて、奥歯を噛み締めて、そして、それから。

それから・・・。

 

 

・・・屈辱、ですわ。

 

 

鈴さんに、友人にここまで言われて、奮い立たない自分が。

こうまでして言われなければ、気が付けない自分が。

許せないくらいに、屈辱・・・ですわ。

 

 

「・・・私(わたくし)は」

 

 

屈辱・・・それを許さない私の心は、誇り(プライド)

プライドこそが、私をより強く、より高く・・・!

BT兵器適性値A、BT兵器稼働率№1、国家代表候補生。

 

 

「私は、セシリア・オルコット!」

 

 

それ以上でもそれ以下でも無い、イギリス代表候補生のセシリア。

ならば私は・・・そのプライドを守らなければならない。

私のプライドは、祖国の誇りを守るための物でもあるのですから。

どうして・・・こんな初歩を、忘れていただなんて。

 

 

「・・・ったく。遅いのよ、親友(ばーか)」

「ふふん、そこで大人しく休んでいるが良いですわ・・・親友(おせっかい)」

 

 

見せてあげます、鈴さん。

セシリア・オルコットの・・・本当の戦いを。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

楯無姉さんが、怖かった。

完璧で、人望があって、1人で何でもできて・・・人間離れした才能と能力、努力。

誰にも真似できない、完全な造形美。

 

 

そんな姉さんが、私は怖くて仕方が無かった。

だって、それなら私は何なんだろうって、思うから。

無能で、他人が怖くて、1人じゃ何もできない・・・人並の力も無い、惨めな存在(ワタシ)。

できそこないの、私。

 

 

「こわ、ぃ・・・?」

「え・・・」

「楓も・・・怖い・・・?」

 

 

本音も、きっとそう。

いつもホワホワしてるけど・・・虚さんの前でだけは、怖がってる。

叩かれるからとか、言ってるけど・・・本当は、本音も怖いんだ。

お姉さんが、怖いんだ。

怖いから、いつも・・・。

 

 

「いつも、必死になる・・・」

 

 

いつも必死で、陰に隠れていないと生きていけない。

だって、姉さんが眩し過ぎるから。

私みたいな惨めなイキモノは、必死で頑張らないと。

いつか・・・いつか、本当にいらなくなってしまうんじゃないかって。

 

 

「ねぇ、楓は・・・お姉さんが、好き?」

「え、うん・・・」

「・・・そっか・・・」

 

 

はぁ・・・と、深く息を吐く。

何だか、とっても眠い。

血が流れたからか、ISの保護機能が働き始めているからかもしれない。

 

 

楓が、後ろのお姉さん・・・箒さんを見る。

箒さんは、困ったような顔で楓を見てる。

それが・・・どうしてか、とても羨ましかった。

羨ましい、それは・・・本音には感じたことが無い気持ち。

 

 

「なら、楓はきっと大丈夫だよ」

「・・・でも、私、何もできない・・・」

「うん・・・私も、何もできない」

「違うよ! 簪ちゃんは・・・私を守ってくれたよ!」

 

 

・・・ありがとう、楓。

でもね、本当は・・・私、楓を・・・だから。

本当は、私が謝らないといけないの。

 

 

でももしも、そんな私が、楓を守ることができていたのなら。

惨めで小さな私が・・・楓を、守れたのなら。

そう想って、くれるなら。

 

 

「楓は・・・きっと、大丈夫」

「簪ちゃん・・・」

「だって、楓は・・・とても、優しい・・・」

 

 

涙で濡れる、楓は・・・何か、嫌だ。

楓は、向日葵みたいに・・・笑ってて、ほしい。

ねぇ・・・ねぇ、楓は。

 

 

「楓は、どう、したい・・・?」

「私・・・?」

「うん・・・」

 

 

私・・・楓を、守りたかった。

お友達を守れれば・・・姉さんに、会えると思ったから。

だから・・・。

 

 

「楓は・・・どうしたい?」

「私・・・」

 

 

んっ・・・と唾を飲み込んで、私の手を両手で握る楓。

楓は・・・。

 

 

「私・・・姉さんを、助けたい。姉さんが・・・好きだから」

「・・・うん」

「でも・・・簪ちゃんも、大好きだから・・・だから」

 

 

そう、だから。

・・・私達は。

 

 

「大好きな皆を、守りたい」

 

 

・・・光。

楓を、光が取り囲む。

それは、周囲に広がる・・・優しい輝き。

 

 

<『 Trismegistus System 』>

 

 

響き渡る電子音声、起動したままのISが、楓の周りにディスプレイを展開する。

そこから広がるのは・・・漆黒の羽根。

 

 

「わ・・・?」

「楓、これは・・・!」

 

 

何かが起動する、独特の甲高い音。

そして、私達の前に現れたディスプレイには、同じ文字が浮かぶ。

それは・・・つまり、楓の機体のシステムの・・・。

・・・根源。

 

 

――――――<怒りで目覚め、愛で制御するプログラム>。

 

 

・・・どこの、アニメ?

私は薄れ行く意識の中で、そんなことを考えた・・・。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

立道さんをラウラに預けて―――戦闘継続は無理だけど、怪我は無かった―――代わりに、僕が前に出る。

とは言え僕には実弾武装しか無いから、致命打は与えられない。

となると、決定打としては一夏の『雪片(ゆきひら)』しかない。

 

 

「くっそ・・・何なんだよ、お前は!?」

「ふふふ・・・」

 

 

アリーナ上空では、一夏と『サイレント・ゼフィルス』が銃剣と『雪片(ゆきひら)』で切り結んでる。

エリスさんはつかず離れず、ビットを数機相手にしながら様子を見てる。

どうやら、積極的に介入するつもりは無いみたい。

つまり、今はほぼ一夏と敵の一騎打ち状態。

積極的に援護できるのは、僕だけだ。

 

 

僕は地表に背を向けるようにして飛翔、両手に呼びだ(コール)したアサルトライフルを斉射する。

『サイレント・ゼフィルス』は空中を綺麗にロールしながらそれをかわす、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で直線的に追撃する一夏。

 

 

「・・・抱き締めたいな」

 

 

オープン・チャネルと肉声の間くらいの音量で、『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が囁く。

それは、何故だろう。

背筋に寒気が走るような、およそ情動とはかけ離れた声音。

それに反応したのかは知らないけど、一夏が動く。

 

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

「・・・!」

 

 

突撃する一夏に合わせて、僕も加速に入る。

増設スラスターの残りエネルギーを全て使用して、曲線を描きながら。

一夏の攻撃に重ねるように。

 

 

一夏の攻撃でしか倒せない、そう思っている相手の・・・。

隙を、突くために。

 

 

「・・・っ!」

 

 

一夏が攻撃を外すと、『サイレント・ゼフィルス』はヒラリとかわす。

そしてその回避ポイントこそが・・・僕の攻撃地点!

『リヴァイヴ』のシールドが弾けて、中からリボルバー機構のパイルバンカーが露出する。

第2世代兵器最高威力、『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』・・・盾殺し(シールド・ピアース)

 

 

「はぁ―――――っ!!」

 

 

声を上げて、パイルバンカーを撃ち込む。

一夏の攻撃を避けて硬直する、『サイレント・ゼフィルス』は。

 

 

動けないはずの数秒に動いて、僕の攻撃を受け止めた。

 

 

目を、見開く。

パイルバンカーの先端部分に指先を添えて、威力を殺して受け止めた。

ダメージは、ほぼゼロ。

驚異的だね、でも目は閉じないよ。

 

 

「シャルロット!」

 

 

そして慌てないで一夏、僕は大丈夫だから。

『サイレント・ゼフィルス』の銃口が僕に向けられる直前、『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』をパージする。

軽くなった機体が、ふわりと上に浮いて・・・。

 

 

僕を壁にしたラウラの砲撃が、『サイレント・ゼフィルス』を襲う。

 

 

僕の機体が上に浮いたことで、射線が空いた。

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者のバイザーに覆われた顔が、レールカノンの衝撃に流石に歪む。

2撃目の砲撃は避ける、流石。

でも、遅い。

ここは・・・僕の距離だ。

 

 

「一夏、下がってて!」

 

 

一応、警告してから・・・連装ショットガン「レイン・オブ・サテディ」呼び出し(コール)

射撃、射撃、射撃。

弾丸を使い果たしてから、投げ捨てる。

 

 

アサルトカノン「ガルム」呼び出し(コール)、両手に構える。

射撃、射撃、射撃。

弾丸を使い果たしてから、投げ捨てる。

 

 

銃撃に耐えた『サイレント・ゼフィルス』が、僕に接近して銃剣を振るう。

後方に跳んで回避、そして重機関銃「デザート・フォックス」を呼び出し(コール)

射撃、射撃、射撃。

弾丸を使い果たしてから、投げ捨てる。

 

 

短距離ハンドガン「ファイブ・ナイン」を呼び出し(コール)

射撃、射撃、射撃。

弾丸を使い果たしてから、投げ捨てる。

近接ブレード「ブレッド・スライサー」、呼び出し(コール)・・・。

 

 

「えげつねーな・・・バカヤロウ」

「・・・シャルロットは怒らせないようにしよう」

「え?」

 

 

一夏とエリスさんの言葉に、ちょっとショックを受ける。

いや、だって倒せる時に倒しとかないといけないし。

容赦とか加減とか、できないんだよ?

それに。

 

 

「・・・それで、終わりか?」

 

 

それに、『サイレント・ゼフィルス』はまだ持ちこたえてるんだからね。

数十、数百、数千発は撃ってあげたのに、未だに余裕があるように見える。

とは言え、まだまだ僕にも蓄えはある。

両手の近接ブレードを握り締めて、今度は・・・っ!

 

 

「シャルロット!」

 

 

一夏の声に応える暇も無く、僕は急降下と急上昇、急旋回を繰り返す羽目になる。

『サイレント・ゼフィルス』のビットの全部が、僕に回って来たから。

しかも本体はシールド・ビットを展開して実弾ダメージを防いでる、これは不味いね。

 

 

「・・・なら、直接叩き込むしか無い、ね!」

 

 

『サイレント・ゼフィルス』がラウラの支援砲撃を潜り抜けながら接近してくる、僕はブレードを構える。

交錯は、一瞬。僕は迎撃する。

でもその直後、『サイレント・ゼフィルス』が視覚から消える。

 

 

そして、左側面に衝撃・・・蹴り!?

 

 

次いで、正面から銃剣の斬撃・・・この、動き!?

一瞬だけ動揺したせいか、僕のブレードが銃剣の先のビーム刃に切断される。

クルクルと回転するブレードの刃の向こうから、『サイレント・ゼフィルス』が。

 

 

「・・・っ!」

 

 

一撃を覚悟して、歯を食いしばる。

攻撃を受けると同時に新しい武器を呼び出(コール)して・・・と思った、次の瞬間。

 

 

青いビームが、『サイレント・ゼフィルス』を撃った。

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

「・・・?」

 

 

一瞬、何が起こったのか、私でも認識するのに数秒の時を擁した。

それは私の横で損傷した機体を庇いながら立つ日本の代表候補生(たつみち)も同じだったようで、目を細めてISのセンサーを睨み付けている。

 

 

そうと言うのも、上空の戦局だ。

『サイレント・ゼフィルス』が一夏やシャルロットを含む3機の専用機を相手に、完全に戦局を支配していた。

残念ながら、私の支援砲撃もそれほど意味を成してはいなかった。

だと言うのに・・・。

 

 

『シャルロット、大丈夫か!?』

『あ、ああ、うん・・・』

 

 

『サイレント・ゼフィルス』から距離を取ったシャルロットに、一夏が近寄って心配する。

『サイレント・ゼフィルス』はと言えば、それを追おうともしない。

今しがた撃ち抜かれた自身の肩を見やりながら、BTレーザーが飛来した方角を見ようとして。

 

 

逆方向から、再び青いレーザーが『サイレント・ゼフィルス』を貫いた。

 

 

今度は私の機体のセンサーが捉えた、目標を絞った効果だろう。

青いBTレーザーを放てる機体は、私の知る限りこの場所には1機しかいない。

すなわち、セシリアの『ブルー・ティアーズ』。

 

 

『・・・そこか!』

 

 

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が叫ぶ、そして同時にやはり別方向からの狙撃。

狙撃と移動(ショット・アンド・ムーブ)・・・基本に忠実な射撃だ。

しかしその移動は、音速を超えている。

強襲用高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」の加速力で一気に移動、アリーナの反対側へ。

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者がセシリアに気付く前に、ライフルを構え・・・。

 

 

撃つ。

 

 

命中、そして移動する、今度はアリーナの天頂部分へ。

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が完全に知覚する前に撃ち、移動し、そしてまた撃つ。

ただ、それだけをひたすらに繰り返す。

けして近付かずに、遠距離から嬲るように。

 

 

『さぁ・・・踊りなさい』

 

 

オープン・チャネルから響くセシリアの声は、私ですら寒気を感じる程に平坦だった。

まるで、刑を言い渡す裁判官のように。

 

 

『私、セシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』の奏でる円舞曲(ワルツ)で!!』

 

 

上から、右から、下から、左から・・・音速で移動し、射撃するセシリアと『ブルー・ティアーズ』。

『サイレント・ゼフィルス』のように曲がるわけでも、技術レベルが驚異的に高いわけでも無い。

だが、恐ろしい程に正確無比で、恐ろしい程の速度環境下で。

私と『シュヴァルツェア・レーゲン』ですら、追うのがやっとの動き。

 

 

その様は・・・まさしく、欧州主要国の代表候補生の一角。

蒼穹の射撃手、セシリア・オルコット。

認める、その力。

 

 

『き・・・っさま!!』

 

 

鬱陶しげに腕を払い、『サイレント・ゼフィルス』がセシリアを追う。

アリーナ外周を旋回しつつ、今度は中央へ。

いかに驚異的な射撃能力を有していても、セシリアの攻撃は「軽い」。

 

 

本体に先行して3機のビットが、次の射撃ポイントで停止したセシリアに襲いかかる。

しかし、セシリアは動じない。

それまでと同じように、ただライフルのスコープのみを見つめている。

青い装甲を纏ったその姿は、どこか神々しくすらあった・・・。

 

 

「・・・む」

 

 

不意に、センサーが何かを感知する。

黒い粒子のようにも見えるそれは・・・臨海学校の時の。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

偏向射撃(フレキシブル)へのこだわりは、もちろんありますわ。

アレは、私と『ブルー・ティアーズ』、そして祖国の皆で完成させるべき技術だったのですから。

・・・しかし。

 

 

それでもなお、今、私は偏向射撃(フレキシブル)へのこだわりを一時・・・。

一時的に、脇に置きます。

思考の隅に追いやって、そして。

 

 

「・・・充填(チャージ)」

 

 

切り替える。

ただ胸の内の誇り(プライド)のままに、恥知らずな盗人に。

罰を。

 

 

超高感度ハイパーセンサー「ブリリアント・クリアランス」が狙いを定め、ロングライフル「ブルー・ピアス」が敵を撃つ。

それだけに集中する、これだけに全てを賭ける。

こんな基礎の基礎を、鈴さんに言われるまで忘れていただなんて。

 

 

「・・・撃ちます(ショット)

 

 

『サイレント・ゼフィルス』のビットからの射撃が私の身体を襲うと同時に、3発。

2発は『サイレント・ゼフィルス』の両側に位置していたシールド・ビットを弾き、最後の一発が『サイレント・ゼフィルス』の胴体を撃ち抜く。

・・・命中(ヒット)。

 

 

「・・・うふふ」

 

 

ビットの射撃に晒されたおかげで、私の機体のエネルギー・ゲージは急減しましたわ。

BTレーザーに撃たれる独特の衝撃に、脳が揺れます。

それでも私は笑みを浮かべ、優雅に・・・こちらへと近付いて来る『サイレント・ゼフィルス』を見つめます。

 

 

・・・黒い粒子に包まれた、アリーナの中心で。

 

 

・・・身体が軽い、こんな気持ちで戦えたことなんで無かった。

仲間が私の強さを信じていてくれるだけで、こんなにも違うだなんて。

そして・・・仲間の強さを、信じられると言うことが。

・・・こんなにも。

 

 

「お前はもう、死ね」

 

 

静かな声と、鈍い衝撃。

『サイレント・ゼフィルス』の斬撃を正面から受けた私は、青い装甲を撒き散らせながら地表へ。

ゆっくりと・・・黒い粒子に包まれるように。

 

 

「どれほど足掻こうが、結果は変わらない」

「いいえ?」

 

 

掠れる意識の中で・・・シャルロットさんに抱き止められる中で、私は笑います。

 

 

「私の・・・私達の、勝ちですわ」

 

 

・・・勝利。

何と甘美で・・・他人と分け合える、魅力的な果実なのでしょうか。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

そして次の瞬間、『零落白夜』を振り上げた一夏さんが、直上から急降下してきました。

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者は当然、それに気付きますが・・・。

急激に機動性の落ちた機体に戸惑った後。

 

 

『零落白夜』の一撃を、浴びます。

顔を覆うバイザーが砕けて、そして。

そして・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

<姉妹機『黒叡(こくえい)』の『 Trismegistus System 』発動を確認。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の無制限使用を開始します>

 

 

「・・・良し!!」

 

 

グッ・・・目の前で拳を握ると、輝きを失っていた紅の装甲に力が戻る。

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』の発動により、漆黒の混ざった黄金の輝きと共に『紅椿(あかつばき)』のエネルギーゲージが急速に回復する。

 

 

行ける、これなら!

臨海学校の時以来の感覚に笑みを零して、私は後ろを見る。

そこには気を失った簪を抱きながら、『黒叡(こくえい)』の生み出す無数のディスプレイを見つめる楓がいる。

ディスプレイの生み出す淡い光に包まれる2人の少女の姿は、どこか神秘的ですらあった。

 

 

「・・・良い友達を持ったな、楓」

「・・・うん」

 

 

にっこりと微笑みを浮かべる楓に、私も笑みを浮かべる。

昔から病弱だった楓にとって、もしかしたら初めての親友かもしれない簪。

それはもしかしたなら、独りぼっちだった私が一夏に出会えた時の高揚に似ているかもしれない。

 

 

緩めた顔を引き締めて、私は2本の刀を握って上空を見る。

セシリアを抱えたシャルロットを確認するが、どうにも飛びにくそうにしているのが見て取れた。

楓のナノマシンに覆われたこのアリーナは・・・もはや、『白式(びゃくしき)』と『紅椿(あかつばき)』以外の機体はまともに動けない。

ここは、私と一夏だけの世界だ。

 

 

『お・・・お前・・・・・・?』

 

 

オープン・チャネルが開いているのか、一夏の声が通信で聞こえる。

アリーナの中央上空、そこに一夏はいる。

『 Trismegistus System 』の恩恵で漆黒の混ざった白い輝きを放つその機体の手には、全開状態の『雪片(ゆきひら)』がある。

そしてまさに今、それで『サイレント・ゼフィルス』を攻撃した所だ。

 

 

だがどう言うわけか、一夏が動かない。

一夏の目の前には『サイレント・ゼフィルス』がいる、操縦者が顔を押さえて俯いているのが見える。

どうやら、一夏の攻撃でバイザーを破壊されたらしいが・・・。

 

 

『その、顔・・・まさか』

『いいや・・・私はお前だ、織斑一夏。一度、会ってみたかった・・・』

 

 

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が、顔から手をどける。

唇を三日月の形に歪めて嗤う、その顔は。

・・・ちふゆ、さん?

 

 

『馬鹿者! ボサッとするな!!』

 

 

通信から響くラウラの怒声、気が付いた時には『サイレント・ゼフィルス』は一夏の脇を擦り抜けていた。

先程までの速度とは比較にならないほど遅いが、それでも十分に高速で突っ込んでくる。

狙いは、こちら・・・いや、楓か!

 

 

楓を倒せば、このナノマシン・フィールドは消える!

 

 

展開装甲を全部位全力開放、黄金の輝きと共に私は構える。

楓の前に立ち、『サイレント・ゼフィルス』のおそらくは最後の一矢を迎撃する。

妹を守るために、我が身を盾とする。

今はもう、姉とは妹を守る者だと知っているから。

 

 

「姉さん!!」

 

 

目前の画面に、3方向から迫るビットを確認する。

『黒叡(こくえい)』から送られてくる情報を基に、刀を振るう。

左右に広げるように振るった斬撃は赤いレーザーを伴って、左右から飛来したビットを排除する。

そして次の瞬間、眼前に3つ目・・・最後のビット。

 

 

胸部の展開装甲を開いて、不可視の盾を作る。

無制限のエネルギーで防御する、そして火花を散らして拮抗するそこに。

『サイレント・ゼフィルス』の銃剣が・・・・・・来る!

 

 

「死ね!!」

「ぬぅ・・・ぅぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 

千冬さんそっくりのその操縦者と、衝突する。

その時。

 

 

気のせいか、湿度が上がった気がした。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「本当に・・・良かった」

 

 

ISの能力を十全に発動できないはずのナノマシン・フィールド内で、それでもどこか涼やかな空気が流れる。

箒姉さんと『サイレント・ゼフィルス』の間に入ったのは・・・アクア・クリスタルの活動が停止した剥き出しの『ミステリアス・レイディ』。

とどのつまりは、生徒会長さん。

 

 

「簪ちゃんが気絶しててくれて、本当に良かった」

 

 

ギシッ・・・音を立てて軋むのは、エネルギー刃の切れた『サイレント・ゼフィルス』の銃剣。

その剣先は自機の射撃ビットを貫いて、箒姉さんの展開装甲の防御を部分的に突破しかけていた所で。

それは、稼働率5%とは思えないほど鋭い一撃だった。

 

 

そしてその銃剣の先を、水色の装甲に包まれた会長さんの右手が押さえ込んでる。

金属が軋んで細かく砕ける音が響いて、パラパラと装甲の小さな欠片が落ちる。

会長さんの掌の装甲を削るように進んだ銃剣の先には、ほんの少しだけど赤い液体。

 

 

「簪ちゃんは・・・私に助けられても、嬉しくないでしょうから」

 

 

会長さんの顔は、私の位置からは見えない。

でもその言葉で、会長さんが簪ちゃんを助けに来たんだってことはわかる。

妹を・・・守りに来たんだって、わかる。

 

 

だからかもしれない。

どこか・・・とても、寂しそうだった。

庇うように抱き締めた簪ちゃんの身体に、少しだけ力を込める。

 

 

「貴様は、あの時の・・・」

「・・・同じ名乗りは、二度しない主義なの」

 

 

『サイレント・ゼフィルス』の操縦者の言葉に、会長さんはそう返す。

その時の声音は、いつもの・・・悠然とした響きを放っていた。

寂しさなんて、欠片も感じない。

自信に満ちた、どこか超然とした空気さえ滲ませる声で。

 

 

「箒ちゃん・・・!」

「・・・はい!」

 

 

会長さんの声に応えて、箒姉さんが前に出る。

上空で止まってる一夏さんを除けば、この空間で100%の力が出せる唯一の機体『紅椿(あかつばき)』。

脚部展開装甲を開放して上へ、そこから腕部展開装甲を開放しつつ2本の刀を振り下ろす。

 

 

「が・・・っ!?」

 

 

銃剣から手を離して後退した『サイレント・ゼフィルス』は、それでも箒姉さんの斬撃を胸に受ける。

続けて紅いレーザーが蒼の機体の装甲を焼いて、シールド無視のダメージを与える。

シールド無視、エネルギー無制限、コア稼働率110%。

考え得る限り・・・「最強」のIS。

 

 

相手の操縦者―――本当に千冬さんそっくり―――は、たぶん物凄く強い人なんだと思う。

それでも・・・稼働率5%以下の機体は、重い鎧でしか無い。

 

 

「ちっ・・・」

 

 

損傷した胸部装甲を庇いながら、『サイレント・ゼフィルス』の操縦者は腰のあたりから何かを引き抜いた。

手榴弾みたいな形をしたそれのピンを、歯に引っ掛けるようにして引き抜く。

 

 

「伏せて!」

「楓!」

 

 

会長さんの声と同時に、私は簪ちゃんを抱き締める。

それから、紅の装甲の機体が私と簪ちゃんを包み込んで・・・。

眩い光が、アリーナを覆った。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

爆発の衝撃が過ぎ去ったアリーナとその周辺で、今度は別種の衝撃を受けていた者達がいた。

それはアリーナの中心でお互いの無事を確認し合う織斑一夏達のグループには、所属していない者達。

学園や友情で結ばれていない、ある意味において最もリアリストな者達。

 

 

「・・・これが、篠ノ之楓の能力・・・」

 

 

日本の代表候補生、立道雪音は直に体験した。

大きな損傷を受けたとは言え、まだ稼働している自分のIS『雷刃(らいじん)』の機能が急激に低下したことを。

 

 

「・・・ただのノーテンキかと、思ってたぜ」

 

 

アメリカの代表候補生、エリス・シールは直に体感した。

飛行することすらできない、過酷なIS制御を強いられる中で。

自身のIS『タイニー・ウィッチ』が致命的なまでに動かなくなったことを。

 

 

「バカな、この私が・・・!」

 

 

そしてアリーナに到達したアメリカ代表、ジーナ・ワトソンは直に体感した。

アリーナの出口から続々と出て来る避難民を見やりながら、余りの事態に震える。

国家代表たる自分が、IS『金の福音(ゴールド・ベル)』を動かせないと言う事態に。

 

 

「これだけの範囲に、ナノマシンを散布するなんて・・・」

 

 

空から舞い落ちて来る黒い粒子に手を添えながら、スペイン代表アデリタ・ポルティージョ・ラザロは直に体感した。

機体『ラファール・リヴァイヴ・カスタムSS』の稼働率が5%を下回る中で、冷静にアリーナ外縁にまで及ぶ『黒叡(こくえい)』のナノマシン散布領域を図りながら。

 

 

「あり得ねぇ・・・何なんだよ、コレ!」

「機体が、重い・・・」

 

 

布仏虚の救援要請を受けて動いていた豪州代表の2人は、直に体感した。

アリーナ上空に差し掛かると同時に地表に降りるが、それは望んでそうしたわけでは無く、単にそうせざるを得なかったのである。

ソフィー・アーノルドは『ヴィクトリア』の重くなった装甲に端正な顔を歪め、アイシャ・ブライトは『スカイ・ガーディアン アイシャカスタム』のかつてない無防備さに恐怖すら覚える。

 

 

「ISだけを、停止させる特殊技能・・・こんな力を、あんな子供が持つなんて・・・」

 

 

同じく布仏虚の救援要請を受けたイタリア代表レディア・アルミスは、直に体感した。

彼女の周囲にはミランダ・オニールなどの学園実戦部隊がおり、量産機が動かなくなったことに動揺していた。

そしてまた、彼女自身のIS『テンペスタⅡ・オメガ』も機能を急激に低下させていた。

 

 

―――――そして、「世界」は経験する。

 

 

世界・・・「世界」は、初めて直に体感した。

そして、それは後の決断の大きな原動力となる。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

一方で・・・アリーナから急速に離れ、人々の目前から消えた機体がある。

『サイレント・ゼフィルス』と言う名のその機体は、自爆気味のグレネードの爆発と・・・損傷を無視した音速移動によって、装甲が分解寸前と言う様相を呈していた。

 

 

『キャノンボール・ファスト』の特別アリーナから数十キロ離れた山中に、それは墜落する。

山周辺の土地すら揺らす勢いで墜落・・・着陸したその機体は、地面を十数メートル削って止まる。

削り取られた地面や薙ぎ倒された樹木には、深い蒼色の装甲の破片が撒き散らされている。

辛うじて残った装甲とスラスターは・・・どこか、堕ちた天使を思わせる。

 

 

「ぐ・・・お・・・っ!」

 

 

日が沈んだ空に少女・・・エムが手を伸ばすと、折れた木々の間から月が見える。

その月を掴もうとするかのように、掲げた拳を握り締める。

バイザーを失い露になったその顔は、想像以上に幼く見える。

 

 

「おっ・・・おおぉぉおおおおぉおぉおおおおぉっっ!!」

 

 

慟哭するように叫ぶ少女には・・・戻るべき「居場所」がなかった。

仲間に無断で出てきたアジトは、帰るべき「居場所」では無い。

今は戻るにしても・・・永遠では無い。

 

 

少女の叫びは、それほど長くは続かなかった。

糸の切れた人形のようにその場に倒れこみ、仰向けに寝転がる。

 

 

「うふ、うふふふ・・・」

 

 

しばらくして、薄暗い森の中でに少女の笑い声が響く。

両腕を重ねるようにして目を覆い・・・口元に歪んだ笑みを浮かべる。

唇の隙間から覗く紅い舌が、艶かしく荒れた唇を舐める。

 

 

「織斑・・・一夏」

 

 

自分の顔に一撃を与えた相手(ジブン)のことを思い出して、エムは哂う。

織斑一夏のことを考える。

織斑一夏を奪ってやったら、「姉」がどんな顔をするだろうかと考えて・・・。

 

 

エムは、幼い少女のように笑う。

その声と表情は、どこか傷んでいた―――――。

 




*今後について。
7巻に入る前にオリジナル展開に入ります。
7巻のイベントは発生・・・する、と思います、おそらく。
具体的には、次々回あたりから原作には無かったイベントが挿入されます。
オリジナル展開が苦手な方は、今後ご注意ください。


更識簪:
と、言うわけで・・・その、後書き・・・です・・・。

篠ノ之楓:
(むぎゅー、と首っ玉に抱きついている)。

更識簪:
あ、あの・・・これからも、頑張り、ます・・・。

篠ノ之楓:
・・・!(ぎゅう・・・)。

更識簪:
う、うぅ・・・。

布仏本音:
・・・付き合いたての恋人って、あんな感じなのかな~。
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