インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第28話:「たんじょうび」

Side 更識 楯無

 

結局の所、『キャノンボール・ファスト』は中止と言う扱いになった。

おかげで学園の関係者は『サイレント・ゼフィルス』・・・例の「亡国機業(ファントム・タスク)」の構成員の襲撃も含めた後始末で大忙しよ。

 

 

今回は各国から派遣されてきた代表・代表候補生組も関係してたから、余計に大事。

何せ、強化したはずの警備が―――それも、現状で考え得る最強の布陣の―――いともたやすく、抜かれたのだから。

だから、大慌て。

 

 

「そんなわけで、生徒会長の私もいろいろやらないといけないんだけど」

「傷の手当てが先です」

「大したこと無いのに」

「あります」

 

 

軽く笑いながら答えると、私の右手に包帯を巻き終えた虚ちゃんがきっぱりと言った。

もう、有無を言わさないって感じで。

いつもファイルを持っている手で、医療キットに包帯を直しながら。

 

 

場所は学園の無人の医務室、私の右手には白い包帯。

私と虚ちゃん、2人きり。

右手の怪我は・・・『サイレント・ゼフィルス』の攻撃を受け止めた時の怪我。

うふふ、『ミステリアス・レイディ』のナノマシンが上手く動かなかったから、やっちゃった。

楓ちゃんのせいだから、後で代価を貰いましょう。

 

 

「お願いですから・・・あまり、無茶をしないでください」

「・・・大丈夫よ、心配しないで」

「します」

 

 

強い。

強い口調で、虚ちゃんが言う。

いつもと同じ無表情で、それでもどこか泣きそうな顔で。

今にも泣き出しそうな声で、私に言う。

 

 

これも、いつもと同じ。

私が何かすると、いつも虚ちゃんが心配してくる。

溜息を吐いて、首を振って、「しょうがないなぁ」みたいな顔で。

そして包帯が巻かれた私の右手を握って、顔を押し付けて。

 

 

「もっと、ご自分を大切にしてください」

「・・・うん、わかった。もうしない、できるだけ」

「・・・信用できません」

 

 

うん、バレてるね。

そう思って笑うと、虚ちゃんが私の右手に顔を押し付けたまま溜息を吐く。

震えるような、吐息。

 

 

ごめんね、いつも心配ばかりかけて、怖い思いをさせて。

心から信じてる、信頼してる幼馴染(しんゆう)に、心の中で謝る。

でも、私はきっと何度でも同じことをする。

最強の称号を持つ者として、姉として、当主として。

大切な誰かを、守りたいから。

そのためにはいくらでも身体を張るし、いくらでも酷いことをするの。

 

 

「一夏くんの誕生日パーティーには、行き損ねちゃったわね」

「本音と・・・簪お嬢様は、行かれたようですが」

「そ」

 

 

簪ちゃんも大した怪我じゃ無かったし、重傷者は誰もいなかった。

敵は去ったし、今では各部署は平静を取り戻してる。

織斑先生もいろいろと各方面に説明してくれてるし、学園スタッフも優秀。

だから、めでたしめでたし。

 

 

「・・・って流れになれば、何も心配なんてしないで良いんだけどね・・・」

 

 

世の中、そうそう上手くはことが運ばない。

まぁ、だからこそ・・・足掻く価値があるんだけど。

でも、あの子達はどうなのかな・・・。

まぁ、織斑先生が頑張って・・・3時間って所かしらね。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「「「「お誕生日、おめでとーっっ!!」」」」

「お、おう、サンキュな、皆」

 

 

場所は一夏さんの家、時刻は午後5時。

私達が手に持っていたクラッカーを鳴らして「おめでとう」を言うと、一夏さんは照れたように頭を掻いた。

いやー、そう言えば今日は一夏さんの誕生日だったよね。

 

 

と言うか私、もしかするとお友達のお誕生会にお呼ばれしたのってこれが初めてかもしれない。

箒姉さんとか束お姉ちゃんとかは、この場合は除外だよね。

おお、ちょっとテンション上がって来たかもしれない。

良し、ここはもう一度クラッカーを鳴らして・・・。

 

 

「いやいや楓、それは最初の一回で良いから!」

「私は一夏さんに聞きたい。どうして止めるのかと、何故にベストを尽くさないのかと」

「いやいやいや、それは何か違うだろ!?」

 

 

織斑家のリビングの上座―――いわゆる「お誕生日席」―――に座る一夏さんが、困った顔で私を止める。

く・・・仕方が無い、お誕生日にはその人は神様だと思えって物の本で読んだことがある気がする。

つまり。

 

 

「とにかく一夏さん、お誕生日おめでとう。今日は私、一夏さんの言うことなら何でも聞いちゃうよ?」

「はは、ありが「一夏? 私の妹に何をさせるつもりだ・・・?」おぉう!?」

 

 

箒姉さん、今日くらいは刀をしまおうよ。

まぁ、とにかく今日の一夏さんのお誕生日会には私と箒姉さんの他に・・・。

 

 

「非紳士的ですわ」

「しかも情けないな」

「一夏・・・がっかりだよ」

「あれ? どうして俺の評価がいきなり急落してるんだ!?」

 

 

セシリアさんとラウラさん、それにシャルロットさんもいる。

セシリアさんは今日の騒動で怪我とかしてたんだけど、相手の機体の稼働率が下がってて大事には至らなかったんだって。

その意味では、『Trismegistus System』の発動って本当にギリギリだったんだよね・・・。

 

 

「うう、今日の主役は俺なのに・・・」

「あ、あああぁあの、一夏さん、げ、元「ざまーみろリア充め! 俺と代わ」きって、黙れバカ兄ぃっ!」

「げふぉっ!?」

「はは、弾と蘭は相変わらず仲良いなぁ」

 

 

そして、五反田兄妹も来てる。

弾さんと、蘭さん。

あの2人の修羅場、一夏さんの目にはどんな風に見えてるんだろうね・・・。

と言うか蘭さん、想い人の前で兄を殴打って・・・ああ、一夏さんは箒姉さんで慣れてるのか。

何その慣れ、怖すぎるんだけど。

 

 

「あはは~、おりむーおめでたぅ~」

「・・・何で・・・私まで・・・?」

 

 

そして、私の傍に簪ちゃんと本音ちゃん。

簪ちゃんが逃げないように、本音ちゃんががっちり簪ちゃんの手を握ってる。

簪ちゃんの怪我も大したこと無くて、本当に良かった・・・『打鉄弐式(うちがねにしき)』、壊れたけど。

 

 

「はいはい、とにかく食べるわよ! せっかく作った料理が冷めちゃうじゃない!」

 

 

鈴さんがパンパンッ、と手を叩いて皆をまとめて、ようやく静かになる。

それから、皆で手を合わせて「いただきます」。

昼間は本当に大変だったけど、今はこうして皆が無事。

 

 

取り調べとかあって、凄く疲れたけど・・・。

いわゆる、めでたしめでたしってわけで。

本当に、良かった。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

うーん、ちょっと作り過ぎたかもしれないわね。

リビングのテーブルの上に並べられた料理の数々を見て、ちょっと首を傾げる。

そこには私が作った中華とか箒の作った和食とか蘭が作ったケーキとかがこれでもか、ってくらい並んでる。

 

 

まぁ、一夏と弾もいるし、何とか片付けられるでしょ。

むしろこれ、中華と和食とケーキを一緒に食べることの方を問題にした方が良いのかもしれないわね。

 

 

「おお、コレ美味いな! 鈴も箒も蘭も料理上手だなぁ」

「ふん、当然でしょ?」

「ま、まぁ・・・好きに食べるが良い」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 

一夏が美味しそうに食べてるから、まぁいっか。

でも一夏、私の本格ラーメンと蘭のチョコケーキを一緒に食べるってどうかと思うわよ。

一夏って、何食べさせても「美味しい」しか言わないから、つまんないのよね。

不味いって言ったら、それはそれで殺すけど。

ま、まぁ、それはそれとして。

 

 

「「「一夏(さん)」」」

「お? 何だ、3人揃って」

「「「・・・」」」

「・・・いや、おい、マジで何だよ? 何で急に険悪なムードに!?」

 

 

一夏にご飯を食べさせてやろうかとか、取り分けてやろうかとか考えて声をかけたら、箒と蘭と見事にカブった。

結果、お互いに一夏を挟んで牽制状態になって、膠着する。

 

 

ふ・・・考えることは一緒ってわけね。

良いわ、この際はっきりさせてあげようじゃない。

一夏の世話を焼くのは、私だってことをね・・・!

 

 

「りーんさん」

「ん? 何よ、楓・・・」

「おかわり、お願い」

「・・・!」

 

 

その時・・・その時だった、楓が空になったラーメンの器を差し出して来た。

別にそんな難しいことを言われてるわけじゃなくて、単純な「ラーメンおかわり」。

でもこの場合、問題なのはタイミング。

つまり、これは・・・!

 

 

「ごめんね、でもラーメンは鈴さんにしかできないから・・・」

 

 

そうして、一夏に見えないようにニヤリと笑う楓。

・・・黒い!

腹黒いわこの子! 何この本気度、箒が絡むと物凄く腹黒いわ!

 

 

「おお、じゃあ俺の分も頼むよ鈴。このラーメン、マジで美味いな」

 

 

そしてそこに、一夏まで「おかわり」。

う、嬉しいんだけど・・・嬉しんだけどっ。

くぅ~・・・!

 

 

でも拒否する理由が無いから、私は器を受け取って台所に行く。

今日は一夏の誕生日だし、料理を褒められて嬉しくないわけが無い。

でも、何だか凄く負けた気がする・・・!

 

 

「あ、あはは、鈴、僕も手伝うよ」

「・・・ありがと、シャルロット」

 

 

良い娘よね、シャルロット。

私が言うのもなんだけど、苦労症よね・・・。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

僕自身は別に、苦労を背負い込んでるつもりは無いんだけどね。

ただ、皆が仲良くできれば良いのになって思ってはいるけど。

 

 

「・・・で? シャルロットは一夏への誕生日プレゼント、何にしたのよ?」

「ん? 僕は腕時計だよ。一夏って腕時計とかあまりしないから」

「あー、そう言えばそうよね」

 

 

鈴はラーメンの麺を茹でながら、僕は使った器を洗いながらの会話。

台所で鈴と2人並んで、背中でリビングからの喧騒を聞く。

楽しそうな会話が聞こえてきて、僕まで楽しくなっちゃうくらいだ。

お誕生会なんて・・・お母さんが亡くなって以来かな。

 

 

「それにつけても楓よ、楓。何なのあの子、めちゃくちゃ箒の味方するじゃない!」

「あはは、まぁ、楓だからね」

 

 

楓は箒が・・・お姉さんが、本当に好きだからね。

見ていて、とても羨ましくなるくらい。

最近は、箒も楓を凄く大事にしているんだなってわかるし。

ああ言うのも、相思相愛って言うのかな。

 

 

「知ってる? シャルロット、ああ言うのを日本語でシスコンって言うのよ」

「に、日本語は関係無いと思うけど・・・」

「それにしても、何だか姉とか妹とか多いわよね、ここ」

「あー・・・」

 

 

一夏は織斑先生と姉弟だし、楓と箒・・・と篠ノ之博士は姉妹だもんね。

それ以外でも、会長は楓のお友達の簪さんのお姉さんだし、布仏先輩も本音さんのお姉さんだ。

あの一夏の知り合いだって言う五反田さんも、兄妹。

むしろ、1人っ子の方が少ないよね。

 

 

かく言う僕も、直接じゃないけど姉妹がいないことも無いんだよね。

と言うのも、えーと・・・デュノアのね、正妻の方にね。

・・・まぁ、僕はもうデュノアじゃないけど。

 

 

「鈴は、1人っ子?」

「んー・・・まぁね」

「・・・?」

 

 

鈴の様子がちょっと変だったけど・・・何となく追求しちゃダメな気がして、それ以上は何も言わなかった。

しばらく、静かにラーメンを作る音だけが続いた。

 

 

「・・・そう言えばさ」

「うん」

「昼間の・・・アイツ、結局どうなったわけ?」

 

 

アイツって言うのは、『サイレント・ゼフィルス』のことだよね。

一般人もいるから、名前は出さないけど・・・それくらいは通じる。

 

 

「会長の話だと、逃げ切られたらしいよ」

「ふーん・・・面倒な奴ね」

「そうだよね」

 

 

1機だけで一国の軍事力を凌駕する可能性を秘めたISを、国際的テロリスト集団が保有してる。

それも、確認できてるだけでも3機。

正直に言って、かなり危険な状況だよ。

 

 

ISには量子変換容量の制限で装備が限定されてるから、とりあえずは安心だけど。

そのロックを解除されてしまえば、状況は一気に悪化することになる。

そして・・・。

 

 

「はい、一丁上がり。行きましょ、シャルロット」

「あ、うん」

 

 

そして僕達は、その容量制限のロックを解除できそうな人材を知ってる。

開発者の篠ノ之博士以外にそれができるのは・・・その可能性があるのは、たった1人。

・・・楓だけだ。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

なお、私の一夏への誕生日プレゼントは新品の軍用ナイフだ。

拳銃の方が良いかとも思ったが、それは流石に違法だからな。

せっかくなので、本国から取り寄せたばかりの物を包んだ。

 

 

誕生日にプレゼントを渡す習慣は無かったが、シャルロットに教えられた。

まだまだ新兵以下とは言え、最近はそれなりに努力の跡は伺えることだしな。

誕生日のプレゼントくらいは、用意してやろうと思ったのだが。

 

 

「え、えーと、こんばんは! 俺、五反田弾って言いま「そうか」うおっ、こわっ!? この子目付き超悪いぞ一夏!?」

「お前、ちょっと黙れよ弾」

 

 

思ったのだが、やけに人数が多いな。

私の知らない顔もいるし、とりたてて話題があるわけでも無い。

一夏の誕生日会となれば、教官もいるものと思って来たと言うのに・・・。

 

 

まぁ、テロリストの侵入を許したのであれば仕方が無いか。

しかも、各国代表がひしめく中の出来事。

さらに言えば・・・。

 

 

「り、鈴さん、ラーメンおかわり・・・」

「やめときなさいよ、顔真っ青よ!? どんだけ本気なのアンタ・・・!」

 

 

あそこで3杯目のラーメンを食べて限界に達している、楓だ。

楓の機体の能力で、今回・・・各国代表の機体が停止直前にまで追い込まれていたと聞く。

学園の実戦部隊の機体も、軒並みナノマシン・フィールドの影響下に置かれていたらしい。

 

 

そしてそれ故に、『キャノンボール・ファスト』のために来日していた各国の政府高官が臨時で国際会議をIS学園で開いている所だ。

私には具体的な情報は伝えられていないが・・・まぁ、議論は紛糾していることだろう。

 

 

「ラウラ、食べてるか?」

「ああ」

 

 

一夏の言葉にさらりと返しながら、私は黙々と食事を続ける。

そんな私の目の前では、一夏を取り合って牽制し合う鈴と箒達、楽しそうに何が話している楓と布仏や更識・・・五反田や、他の面々もいる。

場の雰囲気は温かで、争いなど全く無いように見える。

 

 

これは、私が今までの人生で感じたことが無い物だ。

教官からも、受けたことが無いものだった。

 

 

「ラウラ、ケーキ食べる?」

「ああ、頂こう」

 

 

シャルロットが、テーブルの上のケーキの一つを取り分けてくれる。

皿を渡す時に触れ合ったシャルロットの指先は、とても温かかった。

ここは、とても温かい場所だ。

 

 

賑やかで、姦しい。

そして、だからこそ。

ここは、私がいるべき場所では無いと思える。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

・・・冷静になって考えてみたら、私、凄いことしてた・・・。

今さらになって、どうしようとか思う。

た、立道、怒って・・・それ以前に、特務機関は・・・。

 

 

「楓ちん、ケーキうまうま?」

「うまうまだね」

「でしょ~、コレうちの御用達のお店ので~、もう、ちょうちょうちょう貴重なんだよ~」

 

 

私がちょっと昼間の行動を後悔して悶々としていると、隣で楓と本音がケーキの食べさし合いっこをしてた。

虚さんがいれば、きっと怒られてたと思う。

虚さんはいないから、本音もいつも以上にこう・・・うん、自由。

 

 

「はい、あーん」

「おお~・・・ケーキの苺をくれるとは、楓ちんてば美少女~」

「えー、褒めても何もあげないよ?」

「いちご~はもはも」

 

 

出てる・・・苺が増えてるよ楓。

楓のフォークに心なしか平べったくなりながらパクついてる本音は、あえて言うなら「タレ本音」。

・・・声に出さなくて良かった、変な子だって思われる。

 

 

そんなことを考えていると、部屋の一部が騒がしくなった。

何か、織斑くんに誰がケーキを食べさせるかで揉めてる・・・箒さんとか。

・・・と言うか私、どうして織斑くんの誕生日会になんて来てるんだろう・・・。

別にお祝いなんてしたくないのに・・・。

 

 

「あはは~、おりむーってば、モテるね~」

「だよねぇ、何であんなにモテるんだろ」

「なのましん?」

「そんなナノマシン、聞いたこと無いけど・・・」

 

 

ナノマシンで女の子にモテて、何か得なことがあるの・・・?

 

 

「でも、好きな男の子とかって憧れるよねー」

「おお~、ラブ?」

「うん、ラブ。箒姉さんとか見てると影響されちゃうよね」

 

 

か、楓も・・・恋愛とか、憧れたりするんだ。

私は、良く分からない。

男の人って、怖いし・・・。

 

 

「簪ちゃんは、好きな男の子とかいる?」

「え・・・う、ううん」

「そっか、と言うか男の子と関わることの方が少ないもんね」

「IS学園はほぼ女子高だからね~」

 

 

本音の言葉に、こくりと頷く私。

むしろ、織斑くんが特殊なケース。

で、でも、そういうこと聞いてくるってことは・・・。

 

 

も、もしかして・・・?

そう思うと、どうしてだろう。

どうしてか、胸がきゅっ・・・って、痛くなる。

苦しい、嫌だ。

そんな、気持ちに、なる・・・。

 

 

「か、楓は・・・好きな人、いるの?」

「え、いないよ?」

「そ・・・そっか」

 

 

ほっ・・・。

・・・あれ? どうして私、今、ほっとしたんだろ・・・?

 

 

「あー、でも男の子のことは良く考えてるかも」

「え・・・」

「おお~、ラブ?」

「うん、一夏さんのこととか良く考えてるよ」

「「「「え!?」」」」

「うわ、びっくりしたぁ!?」

 

 

わ、私もびっくりした・・・いきなりその場にいた全員が反応したから。

特に箒さんなんて、物凄く驚いた顔してる。

もう、「恐れていたことが・・・!」みたいな。

 

 

「ちょ・・・楓、どう言うことよ、それ!」

「え、いやぁ・・・」

 

 

凰さんに掴みかかられて、楓が頭を掻く。

 

 

「えーと・・・朝起きたら、最初に一夏さんのこと考えるよ」

「最初に!?」

「うん、こう・・・今、何してるのかなーとか、今日は何食べるのかなーとか、一緒にお喋りできるかなーとか、どうしたら喜んでくれるかなー・・・とか? もう、毎日寸暇を惜しんで一夏さんのことばっかり考えてる、ずっと」

「「「「「・・・」」」」」

 

 

場が沈黙する、皆、何だか顔が赤い。

織斑くんも、何だかびっくりした顔。

箒さんなんて、もう泣きそう・・・。

 

 

「あ、箒姉さんのためなんだけどね?」

「それを最初に言いなさいよ! 主語つけなさいよ! 日本人!!」

「あれ、超怒られた!?」

 

 

今度は、全員が胸を押さえて「ほ~っ」とした。

そっか、お姉さんの・・・箒さんのために考えてたんだ。

びっくりした・・・てっきり・・・。

 

 

「・・・え、どういうこと? 俺のことを楓が考えると箒のためになるのか?」

「気にするな、大した問題じゃない」

 

 

ただ1人、首を傾げてる織斑くんに箒さんが咳払いしながらそう告げる。

楓は、頭の上に「?」をつけて笑ってた・・・。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

一時は騒然となりましたが、勘違いで良かったですわね。

まぁ、私は直接的には関係ありませんけども。

それでも、友人の話ですものね。

 

 

正直、そう言う気持ちについては私もまだ良くはわかりませんが。

しかし、一夏さんの評価が私の中で最初の頃に比べれば随分と上がっているのも確か。

IS操縦の腕前はともかくとしても、ひたむきで努力家で継続力のある所は、好ましく思っておりますわ。

まぁ、男性の中では見所があるのではなくて?

 

 

「そう言えば怪我は大丈夫なのか、セシリア?」

「ええ、問題ありませんわ」

 

 

一夏さんの心配の声に、小さく微笑みながら答えます。

実際、私の怪我も『ブルー・ティアーズ』のダメージは大したことはありませんでしたわ。

『サイレント・ゼフィルス』の反撃の直前に楓さんのナノマシン・フィールドが展開されましたので、その分ダメージが減少したのですわ。

・・・まぁ、その代わり観客席にいた各国高官が楓さんの機体能力を目の当たりにしてしまったわけですが。

 

 

「まぁ、良かったんじゃないの」

「うふふ。ありがとうございます、鈴さん」

「ふ、ふんっ」

 

 

照れくさそうに私から視線を逸らす鈴さんに、私は胸の内が温かになるのを感じます。

それは・・・本国にいる従者兼幼馴染の彼女にも感じているのとは別の気持ち。

異国の友と言うのも、悪くは無いものですわね。

 

 

・・・今回、鈴さんがいなければ私は死んでいました。

肉体的にはともかく、精神的に死んでいました。

私を引き上げてくれたのは、鈴さんです。

 

 

「さて、ご飯も一段落したし・・・何かゲームでもする?」

「あ、鈴さん。私、ゲーム持って来ました・・・『IF』!」

「蘭、それ何のゲームだ・・・てか、ハード無いぞウチ」

 

 

ゲームソフト・・・日本のサブカルチャーですわね。

欧州でも有名ですが、生憎と私も詳しくはありませんの。

一夏さんも詳しくは無いようで、鈴さんや蘭さんがアレコレ教えてますわね。

そしてそれを、一夏さんと同じく詳しく無い箒さんがソワソワと見ております。

・・・加えて、そんな箒さんを助けたそうにしている楓さんも。

 

 

まぁ・・・箒さんにだけ楓さん(みかた)がついていると言うのも、不公平ですわよね。

ならば当然、鈴さんサイドの味方がいてしかるべきですわ。

それほど一夏さんのことに詳しいわけでも、恋愛経験があるわけでもありませんが・・・。

 

 

「そう言うわけで・・・よろしくお願いしますわ、楓さん?」

「へ? 何? 機体を見せてくれるの?」

「それはダメです」

 

 

不肖この私、セシリア・オルコットは。

今日この時を持って、鈴さん側の味方となることに致しましたわ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

食事の後、ゲームで盛り上がる(私はゲームはわからん)リビングからそっと抜け出す。

楓がリビングの扉を背中で閉めるのを確認しながら、私はそそくさと「それ」を抱えて・・・。

 

 

「お、箒、どうしたんだ?」

「うわっ」

 

 

お手洗いから戻って来た一夏と、廊下で鉢合わせる。

いや、この場合はタイミングを見計らっていたのだから「鉢合わせ」と言うのはおかしいが。

それでも胸の奥が大きく跳ねて、驚いてしまった。

 

 

「き、急に出てくるなっ、馬鹿者!」

「あ、ああ、悪い。そんな驚くとは思わなくて」

「い、いや、私も悪かった」

「良いけど・・・ん? 何を持ってるんだ?」

 

 

一夏の指差した先には、私が抱える細い長方形の箱がある。

こ、これは一夏への誕生日プレゼントでだな・・・2人きりで渡すタイミングを図っていたと言うか。

中身は落ち着いた柄の着物と帯だ、今日のために雪子叔母さんに実家から送ってもらった。

 

 

「た、たた・・・た、誕生日、おめでと・・・!」

「お、おお、そんな緊張して渡されると俺も緊張するなぁ」

「ふ、ふん・・・軟弱だな」

「お前も俺を褒めてくれない奴だよな・・・千冬姉とかもだけど」

 

 

ち、違うっ、私だって一夏にもっと・・・こう、優しくしようと努力はしているんだっ。

だ、だけどいざ2人きりになると、どうしても・・・夏祭りの時だって結局それで。

き、今日こそは楓のためにも、何か成果を・・・!

 

 

「おお、着物だ・・・良いのか?」

「う、うむ、良いからプレゼントするんだ、ありがたく受け取れ」

 

 

って、だから違うだろ私!

もっとこう、しおらしく言葉を返せないのか・・・!

 

 

「ああ、ありがとうな、箒」

「う・・・うむ」

 

 

笑いながら・・・本当に嬉しそうに礼を言ってくる一夏に、私はお腹の前で両手の指を合わせてもじもじする。

一夏の笑顔に、今度は何も言えなくなる。

何か話たいのに、何も話せなくなる。

 

 

わ・・・話題、何か話題は。

何とか、何とか会話の糸口を。

 

 

「それじゃ、俺ちょっとジュース買ってくるよ。近くの自販機とかで」

「な、何? 主役にそんなことをさせるわけには」

「いや、良いって。俺、今日何もしてないしな」

 

 

・・・誕生日会で主役に仕事があると言うのは、初めて聞いたが。

 

 

「・・・それに、ちょっと1人で考え事もしたいし、さ」

「・・・あ」

 

 

一夏の言葉に、昼間の出来事を思い出す。

『キャノンボール・ファスト』に乱入してきた『サイレント・ゼフィルス』の操縦者のことを、思い出す。

あの、異常なまでに千冬さんそっくりの、少女のことを。

 

 

・・・そう、だな。

一夏が、気にしないはずが無い・・・千冬さんのことだ。

一夏の唯一の肉親に瓜二つの少女のことを、無視できるはずが無い。

 

 

「じゃ、行ってくるわ。皆にも言っといてくれよ」

 

 

そう言って、私の頭に軽く手を乗せる一夏。

普段なら、絶対に許さない行為だ。

だが今は、それ以上に・・・胸が。

その時の一夏の表情に、どうしようも無く胸が締めつけられた。

 

 

傍に。

 

 

傍にいたい、隣にいたい、横にいたい。

ずっと一緒に、過ごしていたい。

一夏・・・一夏、一夏、一夏。

 

 

「・・・お?」

 

 

私の頭から手を離して通り過ぎようとした一夏の服の裾を、自然、指先でそっと掴んでいた。

離れたくない、そしてそれ以上に。

今は、一緒にいてあげたい。

恥ずかしくて言葉にできないが、強くそう想った。

だから。

 

 

「わ・・・私も、行く」

「へ? でも」

「お、お前だけを行かせて、変な飲み物を買われても困る。お前は変な所でセンスがおかしいからな、だから私が一緒に行ってやる・・・な、何だ、文句があるのか!?」

「いや、別に無いけど・・・」

 

 

さ、最終的にまた怒鳴ってしまった・・・わ、私と言う女はどうしてこう・・・。

でも一夏は、困ったように溜息を吐くと・・・私のその手を、取ってくれた。

 

 

「しょーがねーなぁ。じゃ、一緒に行くか」

「う、うむ、わかれば良いんだ」

 

 

もっと可愛げのある返事はできないのか、私・・・。

一夏も苦笑している・・・す、すまん・・・。

 

 

「じゃ、行くか」

「うむ」

 

 

そうやって、私と一夏が玄関に向かおうとした時だった。

キンコーンッ、と、呼び鈴が鳴る。

・・・これ以上の来客は、無いはずだが。

 

 

そう思って一夏を見ると、一夏も不審げに首を傾げている。

しばらくして、再びキンコーンッ、と鳴る呼び鈴。

放っておくわけにもいかない、私と一夏は玄関へ向かって。

 

 

扉を、開けた。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

人間には・・・戦わなくちゃいけない時がある。

それは例えば大切な人を守る時だったり、精魂かけた仕事を完成させる時だったり、人それぞれだけど。

私にとっては、今がまさにその時だったりする。

 

 

具体的には、箒姉さんと一夏さんの2人の時間を守る時。

 

 

しかし・・・しかし、敵は余りにも強大にして無比!

私1人で挑むには、無理無茶無駄無謀無慈悲にも程がある。

そう、わかっていても・・・。

 

 

「断じて、ここを通すわけにはいかない!」

 

 

リビングから廊下に通じるドアを背中で押さえながら、私はそう宣言する。

それは明らかな宣戦布告、明らかな敵対宣言。

そんな私の目の前には、竜と虎を背後に浮かび上がらせた鈴さんと蘭さん。

正直、超腰が引ける。

 

 

「往生際が悪いですよ、楓さん」

「そうね、その向こうに一夏と箒がいることはわかってるのよ」

 

 

ズモモモ・・・と竜と虎を背後に従わせる2人。

2人の向こうでは弾さんがシャルロットさんと「すみません、ウチの愚妹が・・・」「あはは、いえいえ・・・」的な会話をしてる。

 

 

「楓さん、どうしても私達を通さないつもりですか?」

「くどい!」

「ふぅ~ん、そう・・・そうなんだ。じゃあ、仕方が無いわね」

 

 

パチンッ、と鈴さんが指を鳴らすと、何故かセシリアさんがツカツカと近付いて来た。

かと思えば、私の腕を取って腕をぐいっと・・・あたたたたっ。

 

 

「え、何? セシリアさん何?」

「申し訳ありません、楓さん・・・鈴さんは私の友人なので」

「あれ、私は!?」

 

 

突然のセシリアさんの乱入に混乱していると、鈴さんが両手を「ゴキッ、ゴリッ・・・」とかいわせながらこっちに。

・・・あれ、なんでだろう、物凄く嫌な思い出が甦りそうと言うか。

 

 

「私もね、こんなことはしたくないんだけど・・・」

「じ、じゃあ、しなければ良いじゃなーい?」

「でも悲しいけどコレって、戦争なのよね」

 

 

何の? あ、恋のですか、なるほどなー。

よろしい、ならば戦争だ。

今この場には、私の親友が何と2人も・・・!

 

 

「あはは~、楓ちん頑張れ~」

「・・・すぅ」

 

 

・・・・・・簪ちゃん、寝てた。

本音ちゃんが嬉しそうに膝枕してるのが見える・・・そっか、簪ちゃん疲れてたもんね。

とか何とか考えてる内に、鈴さんが私の足元にしゃがみ込んで、足を。

 

 

「ちょ、ちょ・・・ま、まさか?」

「そう・・・その、まさかね」

「そ、そそそ、それだけは・・・!」

 

 

つつ・・・鈴さんの細い指先が足首から肌をなぞりながら上へ。

触れるか触れないかぐらいの絶妙な触り心地に、私は凄く奇妙な気分になる。

スカート下のオーバーハイの縁に指を添えられた時には、ぴくっ、と反応したりして。

ちろ・・・と唇を舐める鈴さんの顔が、やたらに妖艶に見えた。

 

 

「あら、良い反応ね」

「り、鈴さん、落ち着いて・・・話し合おう、人間はわかりあえるはずだよ・・・!」

「そうね、だからコミュニケーションが必要よね」

「でもそ「優秀な兵なら、生半可な拷問で情報は漏らさないモノだ」れ・・・ラウラさん? もしかしなくても焚きつけてる!?」

 

 

何故か、ラウラさんまで鈴さん側に?

わ、わ・・・ちょ、ま。

 

 

「ひゃっ・・・」

「・・・うーん、何度見ても綺麗な脚ねー」

 

 

スルリッ、とソックスを脱がされる。

鈴さんの細い小さな両手が、私の片足を解すように軽く揉んでくる。

ふくらはぎから足首、そして・・・足の、裏・・・!

すなわち。

 

 

「さて、久しぶりに足ツボしましょうか」

「いやああああああっ、やっぱりいいいいいいいいいいいいいいっっ!?」

 

 

だと思った、絶対にやると思った!

と言うかラウラさん、拷問とか言わないでくれる!?

実際に拷問レベルに痛いんだけどぉ!

 

 

「鬼っ、悪魔っ、鬼畜っ、ドSっ、ドSっ!」

「何でドSだけ2回言ったのよ」

「何となく!」

「実は割と余裕がありそうですわね・・・」

 

 

ぐっ、ぐっ・・・確かめるように私の足の裏に触れる鈴さん。

甦るのは、臨海学校で鈴さんに足腰立たなくなるまで攻められたあの夜の記憶。

どうしよう姉さん、冗談抜きで怖いんだけど。

姉がラブコメってる間に、足ツボ拷問される妹ってシュール過ぎるよ。

 

 

「さぁ、楓。どうするの? 箒を裏切るなら今の内よ?」

「く・・・卑怯なっ」

「卑怯? 最高の褒め言葉ね」

 

 

くっくっくっ・・・と喉を鳴らして邪悪に笑う鈴さん、明らかに暗黒面に支配されてる。

ああ、あの優しかった鈴さんはどこへ・・・。

 

 

「あのー、鈴さん。もう普通に廊下に出れますけど・・・」

「ちょっと待ってなさいよ蘭、これは女同士の尋常の勝負なのよ」

「目的見失いすぎですよ・・・」

「うっさいわね。さぁ、どうするの楓?」

 

 

鈴さんの再度の問いに、私は鈴さんを毅然と睨む。

例え・・・例えこの身が足ツボによって滅びようとも・・・!

箒姉さんを・・・姉さんを裏切ることなんて、できない。

 

 

「・・・」

「・・・交渉、決裂ね」

「・・・っ」

 

 

鈴さんの指が、私の足の裏のあるポイントに添えられる。

私は息を止めて、次の瞬間に来るだろう激痛に備える。

そして、鈴さんの指先に力が込められようとした、まさにその瞬間。

 

 

キンコーンッ。

 

 

・・・と、呼び鈴が鳴る音がした。

直後にもう一回、合計に二回鳴って。

そして・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

・・・織斑千冬。

織斑千冬が、そこにいた。

たった1人、黒いスーツを着こなして、そこにいた。

織斑家・・・自分の家の玄関に立ち、しかし「帰宅」と言う雰囲気を一切まとわずに。

 

 

「すまないな、3時間しか稼げなかった」

 

 

出迎えた一夏や箒に加え、リビングから出て来た面々に向かってそう言う。

3時間、それが・・・千冬に出来たせめてもの時間稼ぎ。

弟の誕生日パーティーのために捻りだした、なけなしの時間。

引き延ばしに引き延ばした・・・結果。

 

 

「篠ノ之妹」

 

 

だが口調はあくまで淡々と、千冬は告げる。

内心は外に漏らさず、淡々と・・・淡々と。

 

 

「お前を・・・」

 

 

淡々と、事実だけを告げる。

・・・砂時計の砂は。

 

 

「お前を、IS学園に軟禁する」

 

 

あと、どれほど残っているのだろうか。

 




*一応、注意です。
ラウラ「・・・軍用ナイフは日本では違法なので、真似をして友人に贈らないように」
竜「説得力が、無い・・・!」
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