Side 篠ノ之 箒
「はい、お疲れ様。今日は本当にありがとうね、お礼のディナー券はデータで送るからね!」
「は、はぁ・・・どうも・・・」
日曜日、『インフィニット・ストライプス』と言う雑誌の写真撮影―――黛先輩のお姉さんを相手に―――を終えた私は、げんなりと相手の言葉に応じることしかできなかった。
私の手を握ってお礼を言ってきているのは、黛渚子・・・ツートンチェックのスーツの似合う大人の女性だ。
き、今日は朝から撮影で、疲れた・・・こんな経験は初めてだ。
と言うか、あの写真は雑誌に載るのだろうか・・・み、ミニスカートのとか・・・。
ちなみにディナー券と言うのは、ある一流ホテルのレストランでディナーが楽しめると言う物で。
「お、お待たせ~・・・」
「おっ、彼氏も来たわね!」
「かっ・・・彼氏では無いです!」
「はいはい、頑張れ女の子!」
カラカラと笑う渚子さん・・・その人懐っこい笑顔は、確かに黛先輩に似ている。
あえて言うなら、黛先輩をさらに進化させた感じだ。
そのまま渚子さんに出版社の出口まで見送られて、帰路につく。
「み、未知の体験だったな・・・」
「そ、そうだな・・・」
地下鉄までの距離はそんなに無いはずだが、何となく一夏から距離を取って歩く。
疲れ以上に、気恥かしさが勝っていたからだ。
何せ、さ、撮影のためとは言え腰とか・・・抱かれて・・・しまって・・・ぶつぶつ。
だが隣を歩く一夏を見ると、別に気にした様子も無い。
そのことに、溜息を吐いた。
・・・まったく、この朴念仁はわかっているのだろうか。
どんな理由があっても、私が一夏以外の男には絶対に腰など抱かせないと言うことに。
「それにしても、意外だったな」
「ん?」
地下鉄に乗り込んだ後、列車に揺られながら会話を続ける。
そう言えば最近は、一夏と2人きりになる機会が多いな・・・楓のおかげかもしれない。
「いや、箒は写真撮影とかインタビューとか、そう言うの嫌いだと思ってたからさ」
「まぁ・・・そうだな。正直、あまり好かんな」
「じゃあ、どうしてOKしたんだよ?」
「ん・・・まぁ、一夏なら良いか。だが、私が言ったとは言うなよ」
「ああ・・・でも、誰に?」
楓にだ。
「・・・楓が、少しだけ興味を持っていたようだったから」
だから今日は、少しだけ懐かしい気持ちになれた。
昔、身体が弱かった楓は・・・私が剣道の鍛錬をしている所を見るのが好きだった。
それはたぶん、自分が動けない分、私が動いているのを見ることで少しでも満足を得ようとしていたのだと思う。
幼いながらも、私もそれは理解していた。
「だからかな。楓が興味を持っていてもできないことは、代わりにやってやりたいと思うんだ」
楓は昔と違って、元気になった。
それでも今は、別の理由で動けずにいる。
だから、私が代わりに。
「・・・まぁ、自己満足なんだがな」
そう言って、軽く微笑む。
我ながら情けない笑いだったと思うが・・・一夏は。
一夏はそんな私を少しの間見つめて・・・照れたように、はにかんだ。
「まったく、箒はシスコンだな」
「お前にだけは言われたくない、一夏」
少しだけ恥ずかしくて、でも心地良い。
そんな、時間だった。
「・・・あら」
「あ・・・」
「こ、こんにちは」
列車が途中の駅で止まった時、少しだけ知っている顔が同じ車両に乗り込んできた。
灰色がかった髪に、琥珀色の瞳の・・・瞳は、サングラスで見えないが。
確か・・・イタリア代表の。
「レディア・アルミスよ。こんな所で奇遇ね」
「は、はぁ・・・」
おっとりとした笑顔を浮かべる大人の女性に、私と一夏は曖昧な顔で会釈をした・・・。
Side 篠ノ之 楓
部屋にいると監視カメラの多さに気持ちが萎えてくるから、整備室にいるのが良い。
まぁ、カメラハックして偽の映像を流しても良いんだけど。
それを普段からやると、千冬姉様あたりに即バレしそうだからやらない。
「んー・・・『打鉄(うちがね)』と『リヴァイヴ』のデータは問題無いけど、他の専用機のデータはどうしようかなぁ・・・」
私のデータだとどうしても主観入るし、推定数値も多いしね。
そんなことを考えながら、私は『黒叡(こくえい)』のコアを繋げた「それ」をポンポンと叩く。
んー・・・ゲームソフトのデータ入れた方が速かったりするかな。
カタカタカタ・・・と空中投影のキーボードを叩くのを再開しながら、思う。
本音ちゃんと一夏さんの模擬戦の時から、ずっと考えてる。
・・・「悔しい」、その気持ちの意味を。
「・・・」
・・・ISを戦いに使うのは、好きじゃない。
もっと優しい事に使いたい、宇宙に行って宇宙ごみを片付けるとか。
ISは、束お姉ちゃんの優しい気持ちが生み出したモノなんだから。
だから、一夏さんが模擬戦に負けたって特に困らない。
そもそも、そんな強さはいらないんだから。
でも・・・でも、一夏さんには負けてほしくない。
だって・・・一夏さんは。
「・・・そう言えば、皆、何でISに乗ってるんだろ・・・?」
私は束お姉ちゃん達と宇宙に行くためだけど。
他の皆は、どんなことを考えながらISに乗ってるのかな・・・?
皆、戦争とかのためなのかな・・・でも、鈴さんとか見てるとそうでも無い気がする。
それだけじゃ無い、気がする。
じゃあ、何だろう・・・?
「あら、楓さん・・・ちょっとよろしくて?」
不意に、聞き覚えのある声に呼ばれた。
半分無意識にキーボードを叩き続けていた指先を止めて、振り向く。
するとそこには、長い金色の髪を青いヘアバンドで留めたセシリアさんがいた。
いつものように、優雅に横髪に手をかけながら立ってる。
「ほえ、セシリアさん?」
「ごきげんよう、楓さん。何をしているんですの?」
「んー、ちょっとねー」
キーボードを一端閉じて、セシリアさんとちゃんと向き合う。
・・・あ、そうだ。
「ねぇねぇ、セシリアさん」
「なんですの?」
「セシリアさんは・・・どうしてISに乗ってるの?」
セシリアさんは、不思議そうな顔で私を見た・・・。
Side セシリア・オルコット
「へぇ・・・BT兵器ってこう言う理屈で動いてたんだ」
「ええ、本来光速で放たれるレーザーを微量なナノマシンでコーティングして・・・」
第2整備室、私と『ブルー・ティアーズ』のために用意された専用スペースで、私は楓さんに『ブルー・ティアーズ』のデータを公開しております。
もちろん、守秘義務を守って頂いた上で。
以前のように楓さんから個人的に「見ても良い?」と声をかけられる段階では、『ブルー・ティアーズ』のデータを外国人の人間である楓さんには見せられませんでした。
しかし現在は国際IS委員会の保障の下、楓さんは全ての国のISを自由に見ることができます。
その代わり、学園の外に出ることができなくなったわけですが・・・。
「・・・それで、先程の質問はどう言う意味ですの?」
「うん? そのままの意味だよ、セシリアさんはどうしてISに乗ってるの?」
「はぁ・・・何故ISに、ですか」
Whatでは無く、Whyですか。
・・・そう、ですわね。
隠すことでも無いですし、友人である楓さんになら話しても問題は無いでしょう。
本国では、割と知られている話ですし・・・。
「家を守るためですわ」
「家?」
「ええ、オルコット家の・・・両親の遺してくれたモノを、守るために」
目を閉じれば、昨日のことのように思い出すことができます。
強かった母と、卑屈だった父。
それまで離れていたのに、何故か・・・最期の時だけ一緒だった。
・・・両親が亡くなった列車事故については、諸説あって原因が未だわかっていませんけれど・・・。
家にはまだ、多くの者がおります。
幼馴染を筆頭に、多くの使用人の生活を守るためにも。
両親のように確固たる社会的地位を築き、家を邪な大人に奪られないように。
「そして、私と『ブルー・ティアーズ』と・・・祖国(イギリス)の
「・・・守る、ために」
そのためにも、今はBT兵器のサンプリングに集中しなければ。
偏向射撃(フレキシブル)を諦めたわけでは、けして無いのですから。
私は空中投影のキーボードを叩く手を止めた楓さんを見て、軽く微笑みを見せます。
「何か、参考になりまして?」
「・・・うん、ありがと。いつかセシリアさんが守ってる家に、行ってみたいな」
「いつでもどうぞ、友人として歓待いたしますわ」
楓さんがコードを引き抜いて、私も『ブルー・ティアーズ』を待機状態に戻します。
楓さんが何を考えているのかはわかりませんが・・・私の話が参考になったなら、幸いですわ。
それに私も、イギリスに彼女や箒さん達を勧誘するように言われておりますし・・・ね。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
慣性停止結界―――――AICは、我が国の最重要国家機密の一つだ。
ドイツに実戦配備されているISは全て高性能万能機だが、中でも我が「
我が部隊のもう一つの特徴・・・『越界の瞳《ヴォーダン・オージュ》』と並んで、我が部隊をドイツ最強たらしめている要因だ。
故に、原則として外には漏らさない。
「そこをもう少し理解してくれると、私としては有難いのだがな」
「それでも見せてくれるラウラさんって、優しいよね」
「命令だからな、仕方が無い」
昼食の後に機体整備のために整備室を訪れた際、セシリアと話している楓を見つけた。
一夏もいないことだし、声をかけると・・・「機体みーせてー」だそうだ。
本国からも、楓にはなるべき便宜を図るようにと命令されている。
なので、私が拒否すべき理由は何も無い。
しかし以前、篠ノ之束に私の機体の情報が漏れていた件もある。
ここで得た私の機体情報を他国・他者にけして渡さないように釘を指す必要はあるだろう。
具体的には、情報漏洩が認められた場合無条件で我が国に来て貰う。
「ドイツかぁ・・・」
「美味い菓子も多い、良い所だぞ」
「セシリアさんとかもそうだけど、欧州の人って本当に自分の国好きだよね」
「日本人は違うのか?」
「うーん・・・」
他愛の無い会話をしている間にも、『シュヴァルツェア・レーゲン』と『黒叡(こくえい)』をコードで繋げた楓の指は高速で空中投影のキーボードを叩いている。
6枚展開のディスプレイには無数の文字や数値が並び、『シュヴァルツェア・レーゲン』のシステムや内部機関の細かなデータが映し出されている。
「・・・ところでさー」
「何だ」
「そのー・・・ラウラさんって、どうしてISに乗ってるの?」
「祖国のためだ」
即答する、軍人にそれ以外の理由は必要ない。
祖国の同胞を外敵やテロから守り、その利益を最大化する。
軍事はそのための手段の一つであり、兵士とはそれを実現する駒だ。
それ以上でも、それ以下でも無い。
まして私はドイツの遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)・・・同胞の血税によって造られた兵士。
ならばこそ、祖国のために存在しなければ意味が無い。
そして何よりも・・・教官が私を一人前の兵士にしてくれたのだから。
私が兵士として失格になれば、それは教官の顔に泥を塗ることになる・・・。
「同胞を守り、祖国の未来を切り開く。そのために私はISと言う『兵器』に乗っている」
「またそんなこと言って・・・」
ISを兵器呼ばわりされたからか、楓が唇を尖らせる。
・・・不意に、興味が湧いた。
ISを兵器扱いしたがらない楓からすれば。
ISが兵器で無ければ存在価値が無い「私」のような存在は、どんな風に見えているのだろうかと。
おそらく、許し難い存在に映っていることだろうな。
「・・・ん、ありがと。データ洗って何か考えてみるね」
「よろしく頼む、くれぐれも外部には漏らすなよ」
「はいはい、わかってるよ」
ISコア同士を繋いでいたコードを引き抜いて、整備が終わる。
改めてチェックすると、データ上のみではあるが『シュヴァルツェア・レーゲン』の各部の基礎数値がわずかな上昇を見せていることに気付く。
・・・これが、篠ノ之束直伝のシステムプログラミングか・・・。
「・・・ん?」
ISコア周辺のデータを確認していると、妙なことに気付いた。
『シュヴァルツェア・レーゲン』のコアが、わずかだが外部と情報面で繋がっている。
これは・・・。
「・・・『非限定情報共有(シェアリング)』・・・?」
『非限定情報共有(シェアリング)』。
ISコア同士が操縦者や技術者の意思とは関係無く他のコアと情報を共有・交換することで独自に進化しようとする機能。
篠ノ之博士がコアの発展経路に制限を加えなかったからだとも言われているが、詳細は不明だ。
いずれにせよ・・・この『非限定情報共有(シェアリング)』。
いったい、どのISコアと・・・?
Side 凰 鈴音
今日は一夏と箒はいない、2人して雑誌の撮影に行ってる。
確か『インフィニット・ストライプス』だったわね・・・そこそこ大きな出版社じゃない。
やっぱりツーショット写真とか載るのかしら、日本はそう言うの進んでるわよね・・・。
「あ~・・・何かムカついてきた」
私だって、中国ではモデルとかしてるんだから。
結構、評判だって良い訳で・・・でも一夏が褒めてくれないと、意味が無いのよね。
正直に言って、箒が羨ましい。
悔しいから、死んでも認めないけどね。
まぁ、それは私が暇だからって言うのもあるんだろうけど。
楓のIS学園「軟禁」以降、どーもいろいろとキナ臭くて息が詰まるし。
厳正中立、外の諍いは中に持ち込まないってウリのIS学園でも、どうしたって国同士の関係が人間関係に影響を与えたりするから・・・。
本国の楊(ヤン)管理官からも、今は大人しくしてるようにって言われてるしね・・・はぁ。
「中国(ウチ)って肩身狭いから・・・って、楓じゃない」
食堂にスイーツでも食べに行こうかと思った矢先、廊下の先に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
珍しく、1人でトボトボ歩いてる。
ディスプレイ見ながら歩くと、ぶつかるわよ・・・って。
「あだっ!?」
案の定、角を曲がり損ねて壁に正面衝突した。
ああ、ほら、言わんこっちゃ無いわねー。
何か、箒があの子のことをほっとけない気持ちがわかる気がするわ・・・。
・・・同い年のはずなのに、何故か年下に見える時があるのよね。
「かーえーで、大丈夫?」
「い、意外とダメかもしれない・・・」
「何でよ」
おでこを押さえて蹲る楓、そこまで強くぶつけたわけでもないでしょうに・・・。
仕方が無いから、手を貸して助け起こしてあげる。
まったく、ISのこと以外はスカポンタンなんだから。
「あ、あー・・・でもちょうど良かったかも、鈴さん探してたんだよ」
「私? 何か用なわけ? 『甲龍(シェンロン)』なら前に見せたじゃない」
「うん、それに関しては全力でありがとうだよ」
実は本国から楓への情報公開解禁が伝えられてすぐ、楓に『甲龍(シェンロン)』を見せたのよね。
何か、『衝撃砲』の内部構造にえらく興奮してたけど・・・。
「それで、何?」
「うん、えーとね・・・鈴さんは、どうしてISに乗ってるの?」
「ISに乗る理由・・・?」
そりゃまぁ、国のためって言うのもあるけど。
私としては、離婚した両親から逃げられれば何でも良かったってのはあるわね。
あと、代表候補生になれば国に生活保障して貰えるし・・・。
いくら女性優遇って言っても、母子家庭がいろいろキツいってことは変わらないし。
手のかからない子に、なりたかったからね。
「お母さんのためなの?」
「んー・・・まぁ、いろいろ家庭の事情ってもんがあんのよ」
あー・・・思い出したら鬱になってきたわ。
まぁ、何と言うかアレよね。
「私もまだISに乗り始めて1年か2年だけど、そうね・・・強いて言えば、自分を表現するための手段、かしらね」
「表現・・・?」
「そ、まぁ、私が一番、私らしくいられたのがISだったのよね・・・」
両親が離婚するってなって、いろいろ落ち込んでた時に出会った。
だから私にとってISは・・・自分らしくあるための手段で、同時に逃げ道でもあったって言うか・・・。
・・・あー、もうっ、こっぱずかしいわね!
と言うかこの子、何でいきなりそんなこと聞いて来たのかしら・・・。
Side シャルロット・D・コルデ
僕とデュノアは、もう完全に縁が切れてる。
お父さんがお母さんとの関係を公にしない限りにおいて、僕はもう「シャルロット・デュノア」には戻らない。
元々、養子って形だったし・・・実子なのにね。
いずれにせよ、本妻が公表なんて許すわけ無いから・・・本当の本当に縁切り。
そして僕と縁を切ったデュノア社は、吹っ切れたようにイタリア企業に買収されちゃって。
量産ラインの一部でイタリアのテンペスタを作ったりしちゃって。
僕がやってたことって、結局なんだったのかな・・・。
「隣、良いですかー?」
「え・・・あ、はい」
休日の午後3時、席はいくらでも空いてるのに、僕の隣に座りたいなんて変なの・・・。
まぁ、別に良いけどね。
「どう、ぞ・・・って、楓に鈴?」
「お邪魔するね」
「やっほ、シャルロット。どうしたのよ、辛気臭い顔してさ」
「え、えぇ? そんな顔してた?」
は、恥ずかしいな・・・両手で頬を押さえて、誤魔化すように笑う。
4人がけのテーブル席、鈴と楓が僕の向かい側に座る。
ちなみに僕は紅茶とケーキ、鈴はウーロン茶とゴマ団子、楓は・・・。
「・・・うん? 食べる?」
「い、いや、良いよ・・・」
が、学食最大の大きさを誇るスカイツリ○パフェ・・・何でそれを。
普通のパフェを一人前とすると、僕の目の前に「ででん!」とそそり立ってるそれは明らかに5人前はあるんだけど・・・。
学食で4ケタの金額とられる商品って、結構珍しいよ?
「お、お腹壊すよ?」
「子供の頃はアイスを一口食べただけでお腹壊してたから、つい憧れに負けちゃって・・・」
「と言うか、太るわよ? ゴマ団子も結構キツいけどさ」
「そうだよ楓、気をつけないと」
鈴は小柄でスレンダーだからわからないけど、僕なんかケーキ食べたら夕飯抜くくらいの覚悟なんだから。
はぁ・・・訓練増やせば、増えた分減らせるかなぁ。
最近、ちょっと増えちゃったんだよね・・・。
「ああ、大丈夫だよ」
僕と鈴の心配(?)をよそに、楓はバニラアイスを口に含んで「くぅ~」ってしてから。
「私、太りにくい体質だから」
「「・・・・・・ふーん」」
「え、あれ? どうしたの2人とも、目のハイライトがおかし・・・って鈴さん、シャルロットさん、いくらなんでもゴマ団子とケーキ一度には無りぃみゃあああぁ・・・っ!!」
鈴が・・・鈴が、ゴマ団子を食べきるのを待って、会話を再開する。
あはは、鈴はいやしんぼだなぁ、あっという間にゴマ団子がなくなっちゃったよ。
あれ、僕のケーキもいつの間にかなくなってるや。
僕もいやしんぼだね、うふふ。
「じ、人生が終わるかと思った・・・」
「楓、ほっぺがクリームだらけになってるわよ」
「誰のせい!?」
「あはは、ごめんごめん」
楓の顔をナプキンで拭ってあげながら、謝る。
でも、楓だって悪いよ? あんなこと言うんだもん。
「ふぅ・・・あ、ところでシャルロットさん」
「何?」
「シャルロットさんって、どうしてISに乗ってるの?」
「へ?」
「何か今日は変なのよその子、そればっか聞いて回ってんの」
「そ、そうなんだ・・・」
え、えーと・・・何でISに乗ってるのか・・・か。
まぁ、最初はそもそも選択の余地が無かったからなんだけど。
お母さんが亡くなって、お父さんに引き取られて・・・適性がわかって。
でも今は、デュアノもフランスも関係無く・・・会長の所で、専用機パイロットをやらせてもらってる。
そう言えば自分から能動的にISに乗る理由を探したことって、無かった気がする・・・。
「僕は・・・そうだなぁ、誰かの役に立ちたいから・・・かな」
「ふーん・・・?」
わかったようなわかってないような顔をする楓に、苦笑する。
確かに、曖昧な返事だよね。
でも、今は・・・例え不本意に身に着けた物でも、僕の操縦技術が何かの役に立てば良いなとは思ってるよ。
将来的にどうしたいかって言うのは、まだ何とも言えないね・・・。
「ま、人それぞれよ」
上手くまとめてくれてありがとう、鈴。
何気に、鈴って場をまとめるのが上手いよね。
Side 篠ノ之 楓
セシリアさんとラウラさんのは実感湧かないけど、鈴さんとシャルロットさんのは割と近い気がする。
それにしても、ISに乗る理由っていろいろあるんだね。
てっきり皆、戦争がしたいんだと思ってた。
いや、でも兵器は兵器って言う認識は共有してるんだよね。
そこのところ、どうにかしたいよね。
「・・・お?」
食堂でパフェを食べて・・・結局、鈴さんとシャルロットさんに大分手伝って貰ったけど。
鈴さん、「三日後の体重計次第では殺す」って言ってたけど・・・アレはマジだね。
な、何か貢物を作っておかないと私の命がリアルに・・・!
まぁ、それはともかく。
カロリー消費で走り込んで来るって言ってた鈴さん達と別れて、とぼとぼと廊下を歩いていると。
・・・食堂から教員宿舎の方向に続く廊下の途中で、ぬいぐるみの山に出くわした。
しかもそのぬいぐるみの山は宙に浮いていて、しかも動いてると来た・・・!
「そこをどけ、バカヤロウ」
「そ、その罵倒は・・・まさか!」
顔は見えないけど、この語尾に罵倒をつける喋り方は・・・エリスさん?
良く見ると、浮いてると思ってたぬいぐるみの山の向こう側に所々穴の開いたパンクなのかシンフォニックなのか良く分からないダメージ制服(?)のスカート部分が見える。
「な、何やってるの、エリスさん・・・?」
「平日に溜めこんでいたクラスメイトからの贈り物を、休日にまとめて寮に持ち帰っているのですよ」
「ほえ?」
エリスさんの方からエリスさんじゃない声がしたかと思うと、エリスさんの後ろから膝まで伸びた黒髪を艶やかに流している立道さんが出て来た。
あ、そう言えば同じクラスだったよね・・・。
「そのぬいぐるみ、プレゼントなの・・・?」
「ええ、私達のクラスにある玩具メーカーの令嬢がいますので・・・その方がサンプル商品を」
「こ、こんなにたくさん?」
「他にもお菓子とかあるぞ。3組の連中は何故か毎日、毎日、毎日・・・」
か、顔が見えないから何を考えてるのか読めないけど、えーと。
毎日毎日、クラスメイトから・・・それをちゃんと、とってあるってことは。
「す、好かれてるんだね?」
「ち、ちげーよっ、クソヤロウ!」
「褒めたら酷い罵倒を受けた!?」
「いえ、彼女のコレは照れなのです」
「そうなの!?」
「ちげーっつってんだろ!? ぶっ殺すぞクソヤロウ!」
「違うの!?」
「いえ、照れです」
・・・えんどれす!
「え、えーと、2人は仲良いの?」
「「まさか、そんなわけが無い。私はアメリカ(日本)の人間だぞ(ですよ)」」
「まさかのハモり・・・!」
・・・仲、良さそうだね。
何か、だんだんと3組に興味が湧いて来たんだけど・・・。
意外と、1組に負けないくらいアットホームなのかもしれない。
「日本に来る気になったら、簪に言いなさい。すぐに上と繋がれますから」
「ウチの会社に来たい場合は、こないだ渡した名刺んとこに連絡しろよ」
「は、はぁ・・・」
形だけの勧誘をした後、2人は擦れ違うように別れる・・・って、ああ、そうだ。
「ねぇ、エリスさんと立道さんはどうしてISに乗ってるの?」
私の声に、2人は足を止めて振り向く。
擦れ違って初めて、エリスさんの顔が見えた。
2人は不思議そうに首を傾げた後、お互いに見つめ合って。
「金のためだよ、バカヤロウ」
「ある人の代わりになるためですが、何か」
―――――「ま、人それぞれよ」。
一瞬、さっきの鈴さんの声が耳元で再生された。
Side 織斑 千冬
山田先生が、上機嫌だった。
普段なら仕事終わりが近付いて来る夕方、それも事実上の休日出勤になっている今日のような日には疲れた顔をしている物だが、今日に限ってやたらと上機嫌だった。
何故かと言うと、ある生徒から生活(?)相談を受けたからだ。
教師になってからと言うもの、「やまや」「山ちゃん」「山P」と生徒に親しまれることはあっても生活や進路や思春期特有の悩み事を相談されることは、ほぼ無かったからな。
私? 私に付きまとうのはラウラくらいだよ。
「なるほどー、何のためにISに乗るのか、ですかー、ふむふむ」
大きな胸の前で腕を組み、ふむふむと何度も頷いて見せる山田先生。
雰囲気を出すために生活指導室を使ってはいるが、机の上のチョコ菓子の山が全てを台無しにしている。
ちなみに、相談に来た生徒と言うのは・・・。
「お前がそんなことを気にするようになるとは意外だな、篠ノ之妹」
一夏も篠ノ之姉もいなくて暇を持て余しでもしたのか、篠ノ之妹だった。
更識妹や布仏妹はどうした、そっちに行けば良い物を。
「ダメですよ織斑先生、この年頃の子はデリケートなんですから・・・あ、チョコ○山食べますか?」
「ど、どうも・・・」
上機嫌だからか、山田先生の押しが強かった。
それほど、相談されたことが嬉しかったのだろうか・・・。
ちなみに山田先生、その「デリケートな子」とやらは現在IS委員会から軟禁命令を喰らってるわけだが。
「えっと・・・山田先生は代表候補で、千冬姉様は代表だったから・・・」
「織斑先生と呼べ」
「そうですね、確かに日本の代表候補生をしていた時期もあります」
山田先生、いつに無く強いな。
そんなに先生らしくできることが嬉しいのだろうか・・・。
「ただ私の場合は、そうですね・・・尊敬できる先輩に憧れて、と言うのが大きかったですね」
私を見ながら、山田先生が自分がISに乗った理由を告げる。
そんな昔の話をされてもな・・・私としては、対応に困る。
そして少しだけ、懐かしくもある。
束と離れて日本代表をやっていた時は・・・まぁ、中学時代に気性が逆行していた気もするが。
山田先生・・・真耶と言う後輩を得てからは、少しは丸くなったかもしれないな。
何せ真耶は束と違って、株式市場を暴落させたり軍需産業の工場を焼き払ったりしないからな。
・・・いや、比較対象が間違っているな・・・。
「千冬姉様は、どうしてISに乗って・・・た、の?」
「織斑先生だと・・・まぁ良いが。どうしても過去形になるが・・・」
それにしても、どう言う心境の変化・・・と言うよりは、「気の迷い」だな、篠ノ之妹。
まぁ、悪い変化では無いと思うが。
束と言う絶対基準の傍を離れて、学園でISに乗る様々な連中と触れ合って。
とどのつまりは・・・世界が広がってきたと言うことだろうから。
篠ノ之妹の中の、「世界」が。
束しかいなかった・・・2人の姉以外は誰もいなかった、「世界」が。
それが、広がる時期に来たのだと。
・・・それでも、普通の奴に比べれば遅いがな。
「・・・・・・家族(いちか)のため、だな」
一方で私がISに乗っていた理由は、至極単純なモノだ。
束に巻き込まれたから、他に選択肢が無かったとも言えるが。
しかし同時に、たかが中学生、高校生に過ぎなかった私が・・・一夏を養うには。
他に、方法が無かった。
家族さえ・・・一夏さえ健やかに、平穏に生きていてくれるなら。
それも良いかと、思ったんだ。
・・・・・・「あの時」は。
Side 更識 簪
―――――第2整備室。
「楓さんですか? 先程までは一緒だったのですけど・・・今はラウラさんといると思いますわ」
「楓だと? それならとっくに出て行ったぞ。しかし、この『非限定情報共有(シェアリング)』は・・・」
証言者・・・オルコットさんと、ボーデヴィッヒ、さん・・・怖かった・・・。
―――――第3アリーナ。
「はぁ、楓? 食堂にいなかった? パフェに塗れて溺死してるかもしれないけど」
「楓なら・・・アリーナとかにはいないと思うよ。寮に戻ってるんじゃないかな?」
証言者・・・凰(ファン)さんと、コルデさん・・・。
―――――学生寮。
「おや、更識・・・篠ノ之楓さんなら、寮には戻ってませんよ」
「うお、カンザシ・・・あのノーテンキなら、職員室の方に行ったぞ・・・コノヤロー」
証言者、ぬいぐる・・・・・・シールさんと、立道。
―――――私の、隣。
「えへへ~、全然当たらないね~」
「だから、勘に頼るなんて嫌だって、言ったのに・・・」
証言者・・・ですらない、本音・・・。
隣で袖がダボダボな着ぐるみみたいな服を着た本音が、ほのぼの笑ってる、けど。
き、今日は、虚さんから良いお茶の葉を貰ったから・・・。
せっかくだから、楓も・・・って、思ったんだけど・・・。
探してみると、意外と見つけられない・・・。
IS学園、広いから。
「普通に携帯で呼び出せば、良かった・・・」
「ダメだよ、かんちゃんってタイミング悪いんだから~」
「本音ほどじゃない・・・」
手に抱えたお茶の葉の紙袋を抱き締めて、溜息を吐く。
はぁ・・・。
『無理にとは言わないけど・・・たまには、楯無お嬢様に顔を見せてあげてね』
・・・虚さんの言葉が、頭の片隅で響く。
虚さんは、楯無姉さんと仲良いから・・・。
でも・・・。
姉さんは・・・私に、会いたいの・・・?
会っても・・・傷付くだけじゃ、無いの・・・?
「しつれーしましたー」
「はい、またいつでも来てくださいねー」
「あ・・・」
職員室までもう少しって言う所で、声がした。
心無し足を速めて・・・角を曲がると・・・。
「おお~、発見!」
「ほえ?」
生活、指導室・・・何でそんな所に・・・?
良く、分からないけど。
本音の声に、指導室の扉を閉めたばかりだったらしい楓が振り向く。
目が合うと、楓が微笑んでくれた。
それだけで、私は、それまで感じてた嫌なこととか考えてたこととかが、消えてしまって。
自然と、笑うことができた。
「うお~、これまた眩しい~」
「どしたの? 2人揃って」
「か、楓、その・・・これ・・・」
「ほえ? おお、お茶っ葉だね、ひょっとして本音ちゃん家の?」
「そうだよ~、世界一のお茶だよ~?」
虚さんのお茶は、凄く美味しいから。
だから、その・・・。
「い、一緒に・・・楓もって、思って」
「わぁ、良いの?」
「う、うん・・・」
「ありがとー、簪ちゃん」
おひさまみたいに笑う楓が、凄く眩しくて。
私は、目を逸らしてしまうけど・・・恥ずかしくて。
でも、嫌じゃ無い、むしろ嬉しい。
本音が傍にいてくれると、心が軽くなる。
楓が傍にいてくれると・・・嬉しくなる。
お友達・・・私の、親友・・・。
「じゃ、まー・・・今日は寮の本音ちゃんの部屋にする? そろそろ片付けないとヤバくない?」
「大丈夫だよ~、ベッドの上は空いてるから~」
「むしろ、本音の部屋はそこしか空いて無い・・・」
それから、楓を中心に3人で手を繋いで歩く。
子供の頃、本音と手を繋いでたことはあるけど・・・今は、ちょっと恥ずかしいな・・・。
指先に感じる楓の手の温もりに、何だか凄く安心する・・・。
「そ、そう言えば、楓は今日、何してたの・・・?」
「今日? んっとね・・・あ、そうだ、2人にも聞いて良い?」
「な、何・・・?」
何を聞かれるのかと思えば・・・それは、「どうしてISに乗るのか」と言う物で。
ど、どうして・・・って、言われても。
「最初はね、私もかんちゃんも家の方針で仕方無かったんだ~」
「へぇ~」
「まぁ、面白かったけどね~」
「面白くは、無かった・・・」
それに・・・私は、楯無姉さんにできたなら・・・って、思ってた、かも、しれない。
あの人に勝てるなんて、全然、思わないけど。
勝てるはずなんて、無いけど。
せめて・・・せめて、少しでも。
少しだけでも・・・あの人に。
あの人に、私を―――――。
Side 篠ノ之 箒
あの後、結局レディアさんに学園の前まで送られてしまった。
どうもオフだったらしいのだが、心配だからと言われて。
恐縮ではあったが、いろいろと外国の話を聞けて楽しかった、が・・・。
「いやぁ、レディアさんって美人だよな!」
「そうだな・・・」
一夏がレディアさんをベタ褒めするのは、どう言うことなんだ・・・!?
正門から寮までの道を並んで・・・「2人きりで」! 並んで歩いているのだが、まったく心が晴れない。
大体、一夏は私にはそんなこと一度だって・・・。
「あら、一夏くんと箒ちゃんじゃない」
「あ、楯無さんじゃないですか。怪我はもう良いんですか?」
「うふ、おねーさんが心配?」
「そりゃしますよ」
寮の前で、「奇遇」と書かれた楯無先輩に出くわした。
何故だろう、この人が言うと全く奇遇に思えなくなるのだが・・・。
「なーに? おねーさんの訓練をサボって箒ちゃんとデート?」
「でっ・・・!」
「あはは、まさか。黛先輩に頼まれてた雑誌のバイトですよ」
「・・・・・・」
楯無先輩の言葉に動揺しかけるが、直後の一夏の言葉で急速に冷めた。
い、一夏め・・・何もそんなあっさり否定することは無いではないか。
そもそも何だ、レディアさんと良い楯無先輩と言い、年上の女子ばかりに良い顔をしおって・・・!
わ、私にもその半分で良いから、気遣いをだな・・・。
と考えていると、扇子で顔の下半分を隠した楯無先輩と目が合った。
気のせいで無ければ、目がニヤついている。
う・・・こ、心を読まれた・・・か・・・?
「楯無さんは仕事ですか?」
「うん、まぁね。おねーさんは忙しいのよ」
扇子をクルリと裏返すと、今度は「一途一心」と書かれていた。
り、両面で違う柄・・・だと・・・!?
「ほら、最近イベントが中止続きでしょう? おかげで生徒全体・・・特に1年生の一般生徒の経験値が絶対的に不足してるから、何か代替措置が必要なのよ」
「はぁ・・・」
「はぁ・・・って、あのね、一夏くんも無関係じゃないの、わかる? んー?」
「いや、頬プニするのやめてくださいよ・・・いやマジで、箒が凄い目で睨んで来るんで!」
人聞きの悪いことを言うな。
「まぁ、とにかく一般生徒達の技術向上策を考えなくちゃいけないんだけど、アリーナの使用時間や訓練機の数にも限界があるし、普通の授業だけじゃ質が上がらないしで、困っちゃうのよ」
「な、なるほど」
「皆が一夏くん達みたいに、自分のISを持って練習できれば良いんだけどね」
学園には、警備の先生達が使っている機体も含めて量産機が20~30機しか無い。
それに対して、300名以上の生徒・・・割り当ては単純計算でも10人に1機だ。
それでは、とてもでは無いが1人1人の錬度は上がらない。
そしてだからこそ、誰もが専用機持ちに憧れる。
・・・あの人がコアの製造をやめないか、あるいは誰にでもコアを作れるようにしておけば起こらなかった問題だが・・・と言って、誰でも気軽に作れるようにされても問題だが。
まったく、あの人の作るモノ、は・・・?
「・・・?」
・・・何だ、今、引っかかる何かを感じた。
と言うより、少し考えればこの疑問にぶつかるはずなんだが・・・。
例の・・・学園を襲撃した機体。
あの機体のコアは、どこかの国から奪われたモノなのだろうか。
だとすれば、アレも亡国機業(ファントム・タスク)とか言う連中の仕業・・・?
「まぁ、無い物ねだりをしても仕方無いし、どうにかするしか無いわね」
「・・・お困りのようですね」
「うん?」
聞き覚えはあるが、聞いたことが無い気取った声が聞こえた。
その声のした方向を振り向いてみると・・・。
腕を組んで顎に手を添えて、横向きに立っている楓。
どこから取り出したのか、桃色の花弁が詰まった籠を持って花弁の雨を振らせている本音。
和風の傘を楓に差している簪、1人だけ物凄く恥ずかしそうにしている。
・・・どこから出した、そのセット。
それ以前に、どこから出て来たんだお前達。
「・・・何やってんだ、お前ら」
「わぁ~、おりむーだ~」
「のほほんさん、何やってるんだ?」
・・・先日、本音に模擬戦でこっぴどく負けた一夏だが、だからと言って特に態度は変わらない。
そう言う所は、流石と言うか何と言うか・・・。
「ふふふのふ、お困りのようですね?」
「楓? お前、口調変だぞ」
「お困りのようですね!」
「何で二回言うんだよ・・・」
「大事なことだからだよ!」
「・・・わー、こまったわー」
あ、あの楯無会長が棒読みで。
だが楓はそれで気を良くしたのか、うんうんと頷いていた。
本音の撒く花弁も大増量・・・簪、無理して付き合わなくても良いんだぞ。
「こんなこともあろうかと・・・・・・こんなこともあろうかと!」
「だから何で二回言うんだよ・・・」
大事なことだからだろう。
Side 更識 楯無
・・・珍しく。
と言うよりも、奇跡的な確率で。
簪ちゃんの―――起きてると言う意味で―――顔を、見た気がする。
まぁ、あの後すぐに寮の部屋に引っ込んじゃったけど。
お友達の部屋を掃除しないといけないとか言ってたけど・・・私の傍にいたく無かったんでしょうね。
私、嫌われちゃってるから。
まぁ、わかってたことだけどね・・・・・・泣きたいわ。
「それじゃ、簪ちゃんと本音ちゃんがお茶の準備してくれてる間に説明するよ!」
ババーンッ、と背後に擬音を背負いそうな勢いの楓ちゃんは、「それ」の上で胸を張ってたわ。
第2整備室の隅の方に鎮座していたそれは、縦横3m~5mくらいの円柱状の物体。
何と言うか、ゲームセンターにありそうな大型筺体ゲーム機に見えなくも無い。
「これぞ名付けて、『Brunhild Trace System』!」
「ぶ、ブリュンヒルデ、トレースシステム・・・?」
「最初は『Valkyrie Trace System』にしようと思ったんだけど、流石に不味いかと思って・・・あ、詳細は3人のISに直接送るねー」
名前を繰り返す箒ちゃんに、楓ちゃんが何度も頷きながら説明する。
そうね、そこで良心を発揮してくれたのは助かるわ。
このタイミングでそのネーミングは、不躾を通り越して喧嘩売ってるとしか思えないから。
「まぁ、有り体に言ってISの練習用シミュレーターなんだけどねー」
「それ、楓が作ったのか?」
「うん、元々は一夏さんの練習用にーって思ってたんだけど、会長さんがお困りの・・・お困りのようでしたから!」
「3度目!?」
・・・このIS学園には、実はIS用のシミュレーターが無い。
例えば航空機パイロットの養成所に航空機シミュレーターがあるように、あるのが普通だと思うでしょう?
実際、学園の過去のデータベースには、作ろうとした痕跡とデータがいくつかあるわ。
その派生品が、市販されてるISの格闘ゲームだったりするのだけど・・・実用化は出来なかった。
単純に、技術的な問題で。
実際のIS戦闘に限りなく近いシミュレーターを、作れなかったから。
だからゲームみたいな、自分は止まって映像だけが動く製品しか作れなかった。
だけど・・・『ミステリアス・レイディ』に送られてきたこのデータは・・・。
「とりあえずISの動きはVR空間で再現してー、学園のスパコンを借りて繋げてあるから、処理速度もある程度はイケるはずだよ。データはまだ『打鉄(うちがね)』と『リヴァイヴ』だけだけど、コアさえ繋げば他の機体も再現できると思うよ。急ごしらえだから、振動とかGの再現方法がまだ模索中だけど、ハード加えて油圧とかでそれなりに再現できると思うんだけど・・・」
そしてシミュレーション体験者は、ISスーツに似た特殊なスーツを着て筐体の中に入る。
システムとしては、そのスーツに仕込まれたセンサー類―――イメージとしては、モーションキャプチャーみたいな―――から体験者の動きをトレースして、VR空間の中で再現する。
こんな方法を、考え付くなんて・・・。
「すげーなー・・・これ、楓が考えたのか?」
「えへへ・・・実は基礎理論の70%は、束お姉ちゃんの所のをそのまま持って来たんだよね」
「姉さ・・・いや、あの人の?」
「うん、似たようなのがいくつもあるんだよ、束お姉ちゃんのラボに」
「へぇ・・・流石は束さんだな」
・・・その言葉に。
楓ちゃんのその言葉に、私は表情に出すこと無く懸念を覚える。
これと同じようなシミュレーターが、篠ノ之博士の所にいくつもある・・・?
・・・何のために?
と言うより、誰のために・・・?
「束お姉ちゃんが、私がISの動かし方を覚えるためにって作ってくれたんだー」
「そう・・・良いお姉さんね」
「でしょでしょ? 会長さん、これ使える?」
「ええ、そうね・・・」
・・・そう、楓ちゃんのために。
それなら、まぁ、妹を贔屓してるだけってことかしら。
でも何故かしら、とても嫌な予感がするの。
更識としての私の勘が、警告を発しているの。
「うふふ、一夏さん。これでアリーナの外でもISの特訓ができるよ!」
「おお、それはマジですげぇな!」
「でしょでしょ!? これで頑張って強くなって・・・箒姉さんを守れるようになってね!」
「おう、サンキューな楓・・・箒は俺が守る!」
「ばっ、なっ・・・!?」
これも、学園のデータベースへの自由接続権を得た結果・・・と言う所かしら。
本当、楓ちゃんはIS操縦よりもIS関連の開発の方が得意なのね。
けど・・・。
「・・・あ、そうだ会長さん」
「何かしら、楓ちゃん?」
「会長さんって、どうしてISに乗ってるの?」
「あら、そんなの決まってるじゃない。世界平和のためよ」
「ふーん、そっかー」
あら信じちゃった、ピュアな子ねぇ。
・・・一夏くん、その「うそだー」と言いたげな目つきについて後で小一時間ほど問い詰めるからね。
でも・・・。
ちょっと、困ったわね。
このタイミングでこう言う物を作られると・・・それが有意義であればある程に。
世界が・・・委員会が、ある判断をしてしまうかもしれないから。
つまり・・・。
―――――篠ノ之束の代わりが出来た、と。
◆ ◆ ◆
―――ぴちゃん、ぴちゃん・・・。
天井から滴り落ちる水滴が水面を打つ音だけが、その部屋に響いている。
明かりは無く、窓も無く、ただただ湿度だけが高い。
『・・・・・・起きなさい、エム』
光も音も何も無かったはずのその空間に、不意に女の声が響く。
嫌に澄んで聞こえるその声に、部屋の中心―――と思われる―――に立っていた少女が、閉じていた目を開ける。
何も見えない部屋だが・・・エムと呼ばれた少女の瞳は、不思議なことにかすかに輝いているようだった。
両目の虹彩が放つ光が、闇の中で唯一の光を放っている・・・。
ぢゃら・・・。
闇の中で見えないが、この時点のエムの姿は異常だった。
鉄製の首輪と手枷を嵌められ、石造りの部屋の壁や天井から伸びた幾重もの鎖が細い体躯を拘束している。
膝よりも下には水が溜まっているが、足にも枷が嵌められ鎖で繋がれているのがわかる。
服は無く、ボロボロのISスーツのみの姿で・・・張りの良い肌を、幾筋もの水滴が伝っている。
児童虐待を通り越して、もはや非人道的という言葉でも生温い状態だった。
『一応、72時間の懲罰時間は終了だけれど・・・少しは反省してくれたかしら?』
「・・・」
『・・・・・・はぁ、エム?』
ズキリ、と・・・エムの頭が痛む。
今さらそれに表情を変えたりはしないが、それはエムの脳に仕込まれたナノマシンが放つ軋みだった。
少女の命を数秒で奪う、ナノマシンの。
『水じゃ無くて、スラムの男でも入れた方が良かったかしら?』
「・・・」
『言っておくけど、そうしなかったのは貴女を想ってのことでは無いわよ。処女の方がISの適合率が高いと言う研究成果が無ければ、迷わずそうしていたわ』
本気かどうか疑わしいことを言いながら、声のみの女性はそう言う。
エムはそれに答えない、ただ闇の中で大人しく鎖に繋がれている。
独断でのIS学園『キャノンボール・ファスト』への介入―――回収されて以後、ずっとここに収容されているが。
エムにとっては、それは大した意味を持っていなかった。
『・・・悪かったの一言さえあれば、昨日にも出してあげたんだけどね・・・』
溜息混じりの声にも、エムは反応しない。
むしろ、瞳を閉じて寝る体勢に入ろうとしていた。
『・・・まぁ、その図太さは買ってあげるけどね』
「・・・」
『でもねエム、仕事よ。言っておくけど日本じゃ無いわ・・・貴女は当面、日本にはやらない。アメリカに言って『
「・・・・・・・・・そうか」
やっとエムの唇から声が漏れる。
それは流石に掠れていて、とても小さな声だったが・・・。
ガコンッ、と何かが引き抜かれる音が響く。
足元の水が抜かれ、しかし枷は外れない少女の前で・・・それまで壁でしかなかった正面のそれが、重い石が擦れ合うような音を立てて開いて行く。
久しぶりに見る光に、エムが目を細めていると・・・。
「忘れないで、エム」
真っ赤なスーツを着こなしたスタイルの良い金髪の女・・・スコールが、そこにいた。
先程まで響いていた声の主は、どこか哀しそうに目を伏せているように見えた。
それを見たエムは・・・。
「・・・私達の、目的を」
「・・・・・・ふん」
初めて、どこか申し訳なさそうに・・・目を伏せたのだった。
◆ ◆ ◆
そして時間は進んで10月下旬―――――東京・迎賓館。
そこは今まさに、世界の中心となっていた。
約200平方mもの広さを誇る一室に、21名の人間を筆頭とした数十名の人間が集まっている。
それだけでなく部屋の外、迎賓館の外―――反IS運動団体の抗議デモ参加者を含め―――にまで、数百数千の人間がひしめき合っている。
彼らは、ある一つの行事に注目していると言う点で共通している。
国際IS委員会理事国首脳会議―――――。
国家のIS保有数や動きなどを監視する国際機関、IS委員会。
先進7ヵ国(G7)に中堅国・新興国13ヵ国及び欧州連合(EU)を加えた21ヵ国・地域で構成される。
21ヵ国・地域のIS保有数を合計すると実に全ISコア総数の9割を占める。また世界のGDP・軍事費の9割を占め、人口でも70%を占める。
ただしここで行われている理事国首脳会議は「IS問題に関する首脳会議(ISサミット)」などと呼ばれ、「常設機関である国際IS委員会」とは区別されている。
古典主義的な装飾が施された部屋の中央の円形のテーブルに、儀礼に則った席順に各国首脳が並ぶ。
すなわち、アメリカ・カナダ・ブラジル・アルゼンチン・ドイツ・イタリア・フランス・イギリス・ロシア・スペイン・スイス・欧州連合(EU)・中国(台湾含む)・オーストラリア(NZと共同議席)・インド・インドネシア・南アフリカ・サウジアラビア・イスラエル・トルコ・・・そして日本。
以上、21ヵ国・地域。
「それでは、これより国際IS委員会理事国首脳会議を開催させて頂きます」
世界の「表」側の意思を決定する会議が、始まった。
ISシミュレーター:伸様提案。
ありがとうございます。