インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第35話:「その悪意、忍ぶ」

Side 篠ノ之 楓

 

簪ちゃんと本音ちゃんは、とっても大切な親友。

基本的に一緒にいることの方が多いし、最近はお揃いの小物とか買ったりしてる。

喧嘩とかしないし、いつも仲良しで一緒にいると嬉しい。

 

 

まぁ、それも時と場合と状況によるってことも最近わかってきたけど。

例えば、今とか。

 

 

「だーからさぁ、マルチロックオン・システムは個々のミサイルの発射にタイムロスを持たせることで成り立ってるんだから、それを同時にやろうとしたらソフトに過剰負担が出て来ちゃうんだって!」

「違う・・・プリエンティブ・マルチタスクを併用して各ミサイルを独立稼働させられれば、そもそものコンセプトを達成できる・・・」

「面制圧ができれば良いわけでしょ? 第一、簪ちゃんの考えを実行しようと思ったら電子回路のユニット構成から変えてかなくちゃいけないでしょ、どれだけ時間かかると思ってるのさ」

「できないからってコンセプトそのものを諦めたら、技術革新なんて起きない・・・」

「ああっ、もう! 簪ちゃんの頑固者!」

「楓の・・・わからず屋・・・!」

 

 

むきーって立ち上がったら、簪ちゃんはうどんのおつゆにかき揚げを沈めながら可愛い目で睨んできた。

ぶくぶくと泡立つかき揚げが、何だか簪ちゃんの怒り度数を表してるようにも見えるから不思議。

と言うか、かき揚げはいい加減サクサク食べてよ。

 

 

「本音ちゃん! 本音ちゃんはどう思う!? 私の方が正しいよね!」

「本音・・・本当のことを言ってあげたら良い・・・」

「んん~?」

 

 

すっかりおなじみ、食堂のいつものテーブルで『打鉄弐式(うちがねにしき)』の今後について話し合う私達。

周りの人も慣れたもので、特に何も言ってこないけど。

とにかく本音ちゃんは、ずるずるとすすってたかき揚げうどんを一旦テーブルに置いて。

 

 

「私は、もう少しハードの素材とか構造とかを考えるべきだと思うな~。稼働時間少ないし、エネルギー循環効率も各部でバラつきあるし~」

「いやそこはソフトから決めてかないと、外装の素材とか配線とかも決めらんないじゃん!」

「エネルギー効率のバラつきは・・・そもそもミサイル兵装で時間差をつけるから出て来る・・・」

「えぇ~、2人とももっと数値を見るべきだよ~」

 

 

・・・とまぁ、ISの整備・開発に関しては意見が割れることもあるわけで。

相手がお友達だからって自分の意見をひっこめてたら、その人はもうエンジニアじゃないんだよ。

束お姉ちゃんくらい突き進むと、それはそれでアレかもしれないけど。

良い物って言うのは、こういう意見のぶつかり合いの中で生まれる物だと思うしね。

 

 

こういうのは、束お姉ちゃんの所では無かったなぁ。

それこそ、私なんかが束お姉ちゃんに意見なんて言えないし。

と言うかそもそも、必要が無いしねー・・・。

 

 

「・・・それはそれとして、簪ちゃん」

「何・・・?」

「月末のタッグマッチ、パートナー決めた?」

「まだ・・・だけど・・・」

 

 

何故かモジモジする簪ちゃん、ちなみにタッグマッチって言うのは学園のイベント。

期末の前にはイベントは本当は無かったんだけど、今年はイベントがほぼ全て中止だったから。

会長さんの発案で、11月末に急遽専用機持ちのタッグマッチトーナメントが行われることになった。

1年生と2年生は専用機持ちだけだけど、どうしてか3年生だけは訓練機部門もあるんだって。

 

 

「そっか、じゃあ私と組もうよ」

「わ、私で・・・い、良い、の?」

「簪ちゃん以外に、誰がいるの?」

 

 

いや、本当はそもそも出たくないんだけど。

でもどうせ、前みたいに千冬姉様に無理矢理やらされるんだし・・・だったらパートナーくらい自分で決めたいし。

・・・何か、簪ちゃんはモジモジしてるけど。

照れてる・・・のかな? 可愛い。

 

 

「うふふ~、かんちゃんはね、どうやって楓ちんを誘おうかと悩んで「本音、唐辛子足りる?」ええええええぇぇっ!? な、なんてことを~」

 

 

・・・何故か、簪ちゃんが本音ちゃんのうどんに一味唐辛子の瓶の中身をぶちまけてた。

本音ちゃんが涙目になってたけど、簪ちゃんはそれを無視して私を見た。

唐辛子の瓶を持ちながらモジモジする、シュール・・・。

 

 

「お、お姉さん・・・とかは?」

「私は、簪ちゃんが良いな」

 

 

箒姉さんはほら、一夏さんと組むはずだしね・・・!

 

 

「・・・ダメ?」

「う、ううん・・・よ、よろしく・・・」

「おお~、ペア完成~」

 

 

何とか復活した本音ちゃんが私と簪ちゃんの手を取って、ぶんぶん振ってくれる。

と言うわけで、月末のタッグマッチトーナメントのペアが一組できた。

お手柔らかに、よろしく~。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

11月中旬の休日、第3アリーナ。

私は『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏い、一夏の訓練に付き合っていた。

機体と一体化した脚部をマニュアル制御で地面にしがみつかせつつ、レールカノンで射撃を行う。

 

 

「うおっ・・・とぉ!」

 

 

一夏はそれを急減速することで回避する、当てるつもりも無かったから楽な物だろう。

そのまま、一夏は私と同じように脚部をマニュアル制御しつつ円状にアリーナを移動する。

円状制御飛翔(サークル・ロンド)、瞬時加速(イグニッション・ブースト)よりも複雑な機動予測と機体制御が必要になる中級者向けの技術だ。

 

 

本来はこれに射撃を加えて『シューター・フロー』と言う上級者向けの技術が完成するわけだが、一夏は連射式の武装を持っていないので、そもそも機体特性としてできない。

私のレールカノンは連射が可能なので、一夏は先程から回避に専念している。

とは言え、第二形態で生まれた新武装『雪羅(せつら)』が遠距離モードになっている所を見ると・・・。

 

 

「・・・良し、ここだ!」

「ほぉ・・・」

 

 

突如、一夏が円状制御飛翔(サークル・ロンド)を中止し、瞬時加速(イグニッション・ブースト)に入った。

円軌道からの直線機動へのシフト、射撃しない間にエネルギーのチャージを終えていたと見える。

これは、1ヵ月前の一夏には見られなかった実戦的な動きだ。

・・・が。

 

 

「まだまだ、甘いな」

 

 

私の目前にまで迫り、零距離で『雪羅(せつら)』の荷電粒子砲を放つ一夏。

しかし私は円状制御飛翔(サークル・ロンド)を中断し、PICの力で上に浮遊してそれを回避する。

ISには前後左右だけでなく、上下の移動もあると言うことを忘れてはならないな、一夏。

 

 

とんっ・・・と一夏の肩に手を置き、そのまま柔らかく一夏の背後に着地する。

同時に両腕にプラズマ手刀を展開させ、振り向き様に2つとも繰り出す。

それぞれの切っ先は、『雪羅(せつら)』と振り向いた一夏の首筋に向けて突き付けられていた。

 

 

「ま・・・参った」

「ん」

 

 

両手を上げて降参の意を示す一夏から、手刀を外す。

お互いにISの展開を切った後、講評に入る。

 

 

「また負けた・・・」

「当然だ、制御も動きも私には遠く及ばん。だが、最後の円軌道から直線機動へのシフトは良かったぞ」

 

 

悔しそうな顔をする一夏に苦笑しながらも、私は褒めるべき所は褒める。

逆に言うと、そこしか褒めるべき点が無いわけだが。

だがそれにしても、ここ1ヵ月程の技術の向上には目を見張るモノがあるな。

 

 

「ああ、アレはラウラの動きを真似してみたんだよ」

「私の?」

「ラウラの動きってこう、品があると言うか、綺麗だからさ」

 

 

一夏の言葉に一旦目を閉じ、意味を噛み砕いて理解した後に目を開く。

こう言うことが、誰かにモノを「教える」と言うことなのだろうか。

・・・まぁ、悪い気はしないな。

 

 

「はーい、お疲れ様~。じゃあ、とりあえず今の模擬戦の反省会から始めましょうか」

「あ、楯無さん、どうでした?」

「んー・・・まだまだ全然ダメダメだね」

「うぐ・・・」

 

 

その時、パチパチと力の無い拍手をしながら近付いて来たのは、この学園の生徒会長だ。

楯無とか言うその女は、何故か勘に障る笑みを顔に貼り付けている。

心の底から笑っているのかどうか、判然としない。

何とも、不可思議で奇妙な感覚を生む女だった。

 

 

ここの所、一夏を鍛えているようだが。

何のためにそうしているのか、意図はわからない。

だが、とりあえずは・・・。

 

 

「あれあれ? どうしたのラウラちゃん、表情硬いよ~?」

「・・・」

 

 

・・・私の頬に指を押し付けるのを、やめて貰おうか。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

「一夏くん、張り切ってますねぇ」

「張り切り過ぎだ、アイツは昔から上手くいきそうになると失敗する」

「またまたぁ、一夏くんのことが心配なのはわかりますけど」

 

 

・・・とりあえず、山田先生はヘッドロックして静かにさせるとして。

観客席から第3アリーナで行われている一夏の自主練の様子を見ながら、私はアリーナの視察へと集中することにする。

元々、私はアリーナに実装された新しい警備システムの様子を見に来たんだ。

別に、一夏の様子を見に来たわけじゃない。

 

 

「それで、山田先生。何ヶ月か前に申請したシステム変更の件だが」

「は、はい・・・っ、織斑先生に頼まれた通り、アリーナ外部からの電波介入を遮断する特べっ・・・特別なシステムを~・・・!」

「そうですか、ありがとうございます」

「い、いえ・・・っ、あのっ、も、もう言いませんから、離してくださ~い・・・首っ、首がっ」

 

 

アリーナに無人機が乱入してきた事件から早数ヵ月、ようやく予算が執行されて警備システムを更新することができた。

特に学園の敷地外からの電波を遮断するシステムの増強に力を入れている、まぁ、アレ相手にどこまで効果があるかは微妙ではあるがな。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・うう、ギブって言ったのに・・・それにしても織斑先生、どうして警備の増員では無くこんな特定分野にしか効果の無いシステムを?」

「まぁ、保険のような物だ」

「はぁ、保険ですか・・・」

「ええ」

 

 

保険・・・そう、所詮は保険だ。

それ以上でも、それ以外でも無い。

効果があることを祈るしかないが・・・それにしても。

 

 

「それにしても、今年は侵入者絡みの騒動だが多いな」

「ですね・・・3年生の就職対策と専用機持ちの経験値稼ぎのために、トーナメントまで臨時開催されちゃうくらいですからね」

「・・・そうだな」

 

 

そう、そこは確かに重要ではある。

しかしそれ以上に、「何故あれだけ立て続けに侵入を許したのか」の方が重要だろう。

警備の手を抜いたわけでは無い、後半にはジーナ達国家代表もゴロゴロいた。

まぁ、奴らは自国生徒の保護を名目にしているわけだが・・・。

 

 

だがそれにしても、異常だ。

 

 

ジーナ達は無能では無い、侵入者を捕縛できないまでもただ逃がすはずも無い。

しかし、現実には侵入者は無人機以外は誰も捕縛できていない。

追跡も、途中で放棄されてしまっている。

これは・・・何を意味するのか?

 

 

「・・・織斑先生?」

 

 

追うな、そう命令された可能性は・・・ある、か?

国家代表である彼女らに命令できる存在は、自国を除けば一つしかない。

どこか? 決まっている。

 

 

「・・・ジーナやアイシャのような手錬れがただ逃がすのもおかしいし、機業が順調に二度も侵入できたこともおかしい」

「え? え、ええ・・・」

「セオリー通りに考えるのであれば、内側からの手引きがあったと考えるべきだろう」

「え・・・?」

 

 

私の言葉に、山田先生が表情を強張らせる。

無理も無い、私が言っていることはそれ程のことだ。

頭がおかしいと思われても、仕方が無いだろう。

 

 

IS学園の内情・・・それも警備や人の出入りの情報に精通した人間が、『亡国機業(ファントムタスク)』を手引きしたなどと、普通の人間の言うことではない。

だが、私にはそうとしか考えられない。

 

 

「で・・・でも、学園の先生達は」

「いや、教師の中にはいないだろう・・・外部の人間を手引きできる程、この学園の情報を掌握しているような人間は教師の中にはいない」

 

 

例外は3人、私と、更識姉と、そして学園長だ。

そしておそらく、この中に手引きした人間はいない。

もちろん、私もしていない。

ならば、誰が?

 

 

考えられるべき可能性は、一つだけだ。

学園の運営に口を出すことができ、かつ各国のIS操縦者に超国家的に命令を下すことのできる機関。

・・・すなわち。

 

 

 

「・・・・・・国際、IS委員会」

 

 

 

私の言葉に、山田先生が顔色を変えた。

さっ・・・と青ざめて、周囲を気にするように視線を動かす。

 

 

「そ・・・そんな、そんなの、あり得ませんよ。だって・・・それって」

「・・・」

「それって、委員会が機業と・・・」

 

 

国際IS委員会が、『亡国機業(ファントムタスク)』と繋がっている。

その時、私の脳裏に浮かんだのは学園地下の気持ちの悪いデスマスクの群れだった。

束から隠れて腐臭を溜め込む輩共の、顔だった。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

専用機持ち、タッグマッチトーナメント。

前回のタッグマッチでは意地を張った結果、一夏と組めなかったが・・・今回こそは。

・・・一夏から誘ってくれると期待する程、私も夢見がちでは無くなったしな。

 

 

午前中は剣道部に顔を出していたので―――部長の笑顔が怖かった―――、昼食の際にでも誘おうと思う。

と言うわけで、一夏を探しているのだが・・・確か今日は第3アリーナで練習をすると言っていたか。

何とかして、鈴よりも先に声をかけなければ・・・いた!

 

 

「一夏!」

「お? ・・・おお、箒! 今日は剣道部だったのか?」

「まぁな・・・む、ラウラも一緒だったのか」

「ああ」

 

 

一夏の陰に隠れて見えなかったが、アリーナからここまでラウラと一緒だったらしい。

楯無先輩も一緒だったらしいのだが、ここに来るまでに別れたとか。

・・・それでも周囲を探してしまうのは、突然現れて来るのを警戒しているからだろうか。

 

 

「では一夏、私はここで失礼する」

「あれ? 一緒に昼飯食べないのか?」

「いや、遠慮しておこう」

 

 

一夏の誘いを、ラウラはあっさりと断った。

ふと、私と目が合う。

ま、まさか、私のために空気を読んで・・・。

 

 

「先程、アリーナに織斑教官が来ていた。今から追えば昼食に誘えるだろう、ではな」

 

 

かと思ったが、単に自分の願望を優先させた結果だったらしい。

と言うか、ラウラは本当に千冬さんに執心しているのだな。

だが、その行動力は見習いたいと思う。

 

 

そして気が付けば、私は一夏と2人きりだった。

こ、これは・・・これは、チャンス、と言う奴ではないか?

よ、良し、ここは一つ昼食に誘い、その場で・・・!

 

 

「んー・・・まぁ、とりあえず食堂に行くか」

「う、うむ」

 

 

い、一夏から誘ってくれた・・・!

その事実が、何とも言えない昂揚感を生む。

たとえ友人感覚だったとしても、嬉しい物は嬉しいのだから仕方が無い。

嫌われていれば、どんな状況でも食事に誘ったりはしないだろう。

 

 

一夏に食事に誘われたことに勇気づけられて、私はコホンと咳払いする。

並んで歩く一夏の横顔から目を背けて、まずは世間話から始めようと・・・。

 

 

「そ、そう言えば一夏、最近は随分と訓れ「『おにぃ~ちゃん』?」ん・・・?」

 

 

不意に、隣を歩いていたはずの一夏が遅れていることに気付いた。

私も足を止めて、すぐ後ろの一夏を見ると・・・。

背中かから飛びつく形で、見覚えのある女の子が一夏に抱きついているのが見えた。

・・・なぁっ!?

 

 

「わ、誰・・・って、エリスさん!? 何? 何で抱きつかれてんの俺!?」

「『おにぃちゃん』、私と組まない?」

「え、何の話?」

「タッグマッチの話だよ、コノヤロウ」

 

 

所々に傷の入ったダメージ制服を着た青灰色の髪のアメリカ代表候補生、エリスだった。

しかも、先を越された!

いや、それ以前に・・・!

 

 

「い、一夏から離れろ!」

「うん? 何だデカ女か」

「デッ・・・!?」

 

 

デカ女と言われて衝撃を受けている間にも、エリスは一夏に「ぎゅう」と抱きつく力を強める。

一夏が慌ててクルクル回るような格好になっているため、小柄なエリスの意外と大きな胸が背中に・・・こ、殺す! この娘、成敗してくれる・・・!

 

 

「待ちなさい!」

「え?」

「ぬ?」

「おぅ?」

 

 

その時、さらに誰かが乱入してきた。

それに一夏、私、エリスの順に驚きの声をあげ・・・見てみれば、そこには烏の濡羽色の髪の候補生、立道がいた。

 

 

「おー、ユキネ!」

「・・・」

 

 

立道はクラスメートのエリスの言葉には答えず、ツカツカと廊下を歩いて来た。

きっちりと休日でも制服を着ている姿はエリスとは対照的で、私としては好印象だった。

だがそれよりも気になるのが、顔が紅いことだろうか。

立道は(エリスが抱きついたままの)一夏の前に立つと、どこかこう、屈辱に耐えるような顔をして。

 

 

「わ・・・」

「わ・・・わ?」

「わ、私と・・・私と、組みな・・・んで、ください」

「へ?」

「・・・・・・私と、タッグマッチでパートナーを組んでくださいと言っているのです!」

「えぇっ、何で怒ってるんだ!?」

 

 

ほとんど怒鳴るような調子で、立道が言う。

何かに耐えるように肩を震わせ、顔を紅くしながら。

いや、そんなに無理をして誘わなくても・・・じゃない! 一夏は私と―――――!

 

 

「ちょぉっと待ったぁ!」

「ええい、今度は誰・・・って、鈴!」

「一夏! 私と組みなさいよ!!」

 

 

また先を越された! 何なんだいったい!

皆して寄ってたかって、私の邪魔をして・・・!

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

何だか嫌な予感がして来てみれば、何よこの状況は!

一夏の周りには女の子がいっぱいだけど・・・実質的には箒だけだと思ってたのに。

本当にもう、一夏は油断も隙も無いわね。

 

 

「俺のせいなのか!?」

「当たり前でしょ、他に何があんのよ!」

「そ・・・そうだ! これもそれも一夏がだらしないから!」

「そうよそうよ!」

「うおっ、何だこの女子の噂爆弾・・・!」

 

 

何か箒まで加わって、一夏を糾弾する。

最近は訓練でラウラとかとばっかり一緒だし、クラス違うから接点も少ないし、休みの時は誰かさんの策謀で箒に先を越されてばかりだし・・・今回こそは。

と、言うか・・・。

 

 

「おお、怖い怖い・・・『おにぃちゃん』、デカ女とリンネなんて放っておいて、私と組もう?」

「ひぃっ、エリスさん何て恐ろしいことを!?」

「デ・・・!?」

「リンネ・・・って、読み方が違うじゃないのよ!」

 

 

鈴音 → リンネ×

鈴音 → リンイン○

勝手に間違えるんじゃないわよ、リンリンよりタチが悪いじゃないのよ。

一夏も怯えてないで・・・と言うか、いつまでくっついてんのよ!

 

 

「とにかく、一夏! 私と組みなさいよ!」

「い、一夏! わ、わわわ、私とだな・・・!」

「『おにぃちゃん』、私と一緒の方が楽しいよ? ・・・いろいろと」

「待ちなさい、織斑さん。私と組みな・・・組んでくだ、ください・・・っ」

「いやいやいやいや、待て待て待てって!」

 

 

エリスを背中に貼り付かせたまま、一夏が怯えた表情で両手でブンブン振る。

女の子4人から言い寄られて(?)する顔と動作じゃないわね。

 

 

「何よ一夏、誰か決めたの?」

「いや、決めるとかじゃなくて・・・!」

「じゃあ、何よ!」

 

 

もう、はっきりしないわね。

私がプリプリしてると、一夏は何か引き攣ったような顔で。

 

 

「いや、その・・・俺、もう組む相手決まってて・・・」

 

 

・・・・・・・・・は?

 

 

「いや、そのな? 何か会長がな? 俺は3年生の人と組むことになってるからって・・・」

「・・・何、それ」

「俺だってわからないけど・・・そう言うことだから、皆ごめん!」

 

 

ぱんっ! ・・・って音を立てて両手を合わせて、一夏が謝る。

え・・・えぇ―――・・・何よそれ・・・。

じゃあ、今までのは何だったわけ・・・。

 

 

「・・・ユキネ、組めコノヤロウ」

「・・・・・・構いませんよ」

 

 

一夏の背中から降りたエリスは、次の瞬間には立道さんとペア組んでた。

一方で私と箒は、何も言えずに砂になってた・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「ちょっと見てよ、アレ」

「なぁに? また何か騒ぎ? これ以上は本当、勘弁してほしいんだけど・・・」

「ああ、1年生のグループでしょ。ほら、織斑くんの」

「良い気なもんよねー、こっちは就職先探すのに必死なのに・・・」

「まったく、もう1年早く3年生やってればなー」

「どうでも良いわよ、とにかく・・・」

 

 

「とにかくこれ以上、面倒事を持ち込まないで欲しいわ」

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「えええええぇぇぇっ!? 一夏さん、箒姉さんとペア組まなかったの!?」

「・・・す、すまん。だけどそこまで驚かれないといけないことか?」

「ああ、うん、一夏さんはそうだよね・・・」

 

 

てっきり、一夏さんは箒姉さんとペアを組む物だとばっかり思ってた。

だからこれは予想外だった、そっか、会長さんの方で先に手を・・・。

くぅ~、箒姉さんや鈴さんにバレないよう、一夏さんにお願いしようとした所で・・・!

・・・でも、何で?

 

 

「3年生の、ダリル・ケイシー先輩・・・聞いたこと無いね」

「あ、楓もか? いや俺も、基本情報は会長に貰ってるんだけど・・・えーと、専用機が『ヘル・・・何だっけ」

「ああ、『ヘル・ハウンドver2.5』のパイロットさんだね。それなら知ってるよ」

「人をISで判別するなよ・・・」

「む、失礼な。訓練機でも動きの違いで操縦者を判別できるよ」

「そう言う問題じゃねーよ」

 

 

私の頭の中には、学園に登録されてるISのスペックデータが全部入ってるもん。

同じISでも操縦者の腕次第で動きは全然違うから、性格とか錬度とかモロにでるしね。

 

 

「・・・それにしても、一夏さん。前に比べて随分と損傷が少なくなってきたよね」

「そうか? 自分では前と変わらないくらい攻撃喰らってる気がするんだけど」

「そうかもしれないけど・・・何と言うか、攻撃の受け方が上手になったのかな? 機体本体の損傷がちょっぴり減ってる気がする、良い事だね」

「ふーん・・・」

 

 

『白式(びゃくしき)』を装着したままの一夏さんが、訝しげに腕を動かして損傷レベルを確認する。

タッグマッチが近いから、最近は整備しなくちゃいけないISが増えて私も大変(しあわせ)だよ。

まぁ、それはいつものことだけどさ。

 

 

整備室には私達の他にも、何やら殺気だった3年生のグループとか整備科の人達がいる。

専用機もそうだけど、訓練機の整備とかも余念が無いみたい。

ふふふふん、コレは私も負けてられないよね。

 

 

「さて、じゃあ調整の続きをやろうか一夏さん。今日はちょっとスラスター構造を弄ろうと思ってるんだ、昨日の夜に夢の中でナイスな理論を考え付いた気がするんだよ」

「また出力だけ凄いとかじゃないよな・・・?」

「失礼な。理論って言うのはね、机の上では完璧な物なんだよ。何度も失敗して、ようやく実用化できる物なんだから」

 

 

とか何とか会話しつつ、レーザーアーマーを引き寄せて『白式(びゃくしき)』のウイングスラスターの装甲部分を削り始める。

まぁ、失敗したら「ごめんなさい」で良いって束お姉ちゃんも言ってたしね。

・・・束お姉ちゃんは、失敗なんてしたことないけど。

 

 

それにしても・・・本当、『白式(びゃくしき)』が一回の模擬戦で受ける傷が、最近格段に減って来た気がする。

毎回調整するのは私だから、良く分かる。

受け方が上手くなったって言うのもあるんだろうけど、一夏さんが相手の攻撃の避け方のパターンを覚えて来たってことなのかな。

 

 

「ありがとな、楓」

「うん?」

「さっき、俺が上手くなったって言ってくれたろ? それってやっぱ、楓が毎日整備してくれるからだと思う。俺じゃ、細かい整備とかはできないからさ」

「ひゃうっ」

 

 

まぁ、そりゃ私も整備するからには不具合なんて無いように全力だけどさ。

・・・取り合えず、『白式(びゃくしき)』の手で頭を撫でないでよ。

と言うか・・・。

 

 

「一夏さんってさ、わざとやってない?」

「え? 何が?」

「・・・うん、一夏さんだもんね」

 

 

一夏さんって、何と言うかそこそこのタイミングで女の子を褒めるよね。

褒めてほしい時には褒めてくれない癖に、女の子の不意を突く形で褒めるんだもん。

まぁ、私自身はそれでどうこうとかは無いんだけど・・・箒姉さんとか、ねぇ。

こう、一夏さんって母性をくすぐるタイプだと思うんだよね。

弟だからかな・・・?

 

 

「じゃ、やるよー」

「おう、頼む」

「んー」

 

 

んー、でもその計算で行くと、末っ子の私ってどう言う風に見えるんだろうね。

少なくとも、クールって感じじゃないと思うんだけど。

女の子女の子してるかと言えば、そうでもないしね。

 

 

・・・姉って言えば、束お姉ちゃん。

最近メール来ないけど、どうかしたのかな。

まぁ、束お姉ちゃんだからね・・・またどこかに移動してる最中なのかもしれないし。

どっちにしても、私が心配する必要なんて無いよね。

だって、束お姉ちゃんなんだから。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

良かった・・・楓と、ペアを組めて・・・他に、専用機持ちで仲の良い人、いないから・・・。

本音は、専用機は持ってないし・・・候補生にしか専用機は与えられないから・・・。

更識の影である布仏は、専用機を持たない・・・って、取り決めだし・・・。

 

 

楓は、お姉さんと組むものだと思ってたし・・・他の人とも仲良いから、私なんかをパートナーに選んでくれるなんて、思わなかった・・・。

嬉しい、嬉しい・・・こんな幸せな気持ち、更識の家では・・・。

 

 

「・・・・・・大丈夫、ここは、更識の家じゃ、無い・・・」

 

 

胸に手を当てて、心の底から湧き上がる「弱さ」から目を背ける。

更識の・・・あの檻の中の記憶に、蓋をする。

本音に支えられて、ようやく立っていられた、あの頃の・・・。

 

 

・・・私の本質は、もしかしたら何も変わっていないのかもしれない。

本音に支えて貰わなければ、立ってもいられない。

そして楓に手を引いて貰わなければ、歩くこともできない。

惨めで脆弱で、触れれば割れてしまう、ワタシ。

 

 

「だけど・・・そんな私で良いって、言ってくれる人がいる・・・」

 

 

可愛いって、頑固だって、一緒にいると・・・幸せだって。

そう言ってくれる人が、2人もいる。

こんな、ちっぽけな私でも、傍にいるだけで嬉しいって。

・・・だから。

 

 

「・・・楯無、姉さん・・・」

 

 

歩みを止めて、地面をしっかりと踏みしめて・・・目の前にそびえ立つ校舎を見上げる。

いくつか見える窓の一つは、生徒会室。

夕日の照り返しで、朱色に染まるその場所を。

楯無姉さんがいる、その場所を・・・見上げる。

 

 

・・・楯無、姉さん。

優しくて、優秀で、強くて、綺麗で、魅力的で・・・完璧で。

同じ名前を背負うことが、辛くて苦しくて、哀しくて・・・。

愛されていることはわかっているのに、怖くて、避けて。

あの人は私とは違う、何か別のイキモノなんだって思って・・・自分を守って。

私・・・私、私。

 

 

「・・・!」

 

 

生徒会室の窓際に誰かが立ったような気がして、私は慌てて背中を向けて駆け出した。

姉さんだったかもしれない、だけどまだ・・・まだ、ダメ。

まだ、向き合えない・・・けど、今度のトーナメントで・・・。

 

 

楯無姉さんと・・・今度こそ、自分と。

向き合いたい。

・・・胸に当てた手をぎゅうっ・・・と握り締めて、私はその場から逃げ出した・・・。

 

 

 

 

 

Side 布仏 虚

 

「んー? 虚ちゃん、外に誰かいるの?」

「・・・いえ、別に」

 

 

楯無お嬢様の声にそう応じながらも、私は窓の外に視線を向けたままだった。

私の視界には、生徒会室のある校舎から駆け足で離れて行く女生徒の姿が見える。

それが誰なのか、私にわからないはずが無いけれど・・・。

・・・やはり何も言わずに、私は窓のブラインドを下ろした。

 

 

そして振り向くと、そこはいつもの生徒会室。

本音はいないけれど―――あの子がいると、かえって仕事も増えるし―――私とお嬢様が、書類仕事に追われている光景。

昼間はお嬢様が織斑くんの訓練に時間を使ったから、その分この時間に仕事が集中することになる。

あまつさえ、臨時のタッグマッチ・トーナメントの開催・・・。

 

 

「3年生の子達の様子はどう?」

「そうですね、ピリピリしていますよ」

 

 

お嬢様の言葉にそう答えながら、私は3年生の各クラスの様子を思い出す。

例年以上に厳しい状況に身を置かれた、3年生の姿を。

もう11月末、来年の3月までには進路を確定しないと・・・と言う焦りが各所から伝わってくる。

 

 

焦りは、容易に他の負の感情に変化する。

苛立ち、嫉妬、不満・・・現状への反発。

そしていずれは、自分達をこの状況に追い込んだ原因を外に求めるようになっていく。

全イベント中止と言う、IS学園始まって以来の前代未聞の今年の惨状を作った原因に。

 

 

「・・・タッグマッチトーナメントに3年生に限り訓練機部門を追加したのは、そのガス抜きのためでしょうか?」

「まぁねぇ・・・今年の3年生が、一番とばっちりを喰ってるのは確かだものね」

 

 

元々、IS関連企業の就職口には限りがある。

IS開発は、そもそも儲かるような産業じゃない。

IS企業のトップを走る企業でも、他の民間企業と比較すれば利潤は驚くほど少ない。

そもそも軍隊と言う自己完結性の高い組織で使用され、しかも450機前後しかないIS。

需要自体が、極めて小さい。

 

 

それでもIS関連企業が多数存在するのは、ひとえに国家の安全保障のため。

逆に言えば・・・軍事転用以外に価値が無い。

ISはそう言う生産品、今の所はね。

 

 

「来年度の卒業生は127人、さてどうしたものかしらねー・・・」

 

 

ペンをこめかみに押しつけながら、楯無お嬢様は難しい顔をする。

それは生徒会長としての顔であって、生徒の長としての悩み。

それが楯無お嬢様の持つ顔の1つでしか無いことを、私は知っている。

 

 

もう1つは、私と同じ「姉」としての顔。

頭の片隅では、常に簪お嬢様のことを想っている楯無お嬢様。

・・・妙な策謀を巡らせずに、素直に向き合えば良いと思うのだけど。

 

 

「本当・・・どう立ち回ったものかしらね・・・」

 

 

ぽつりと呟くその声には、かすかに「更識当主」としての色が見える。

そちら方面の喫緊の課題は、先日のPSI実働訓練。

日本の自衛隊が参加していない「作戦」の、内容について・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――どこかの高層ビルの一室、豪奢なベッドと調度品が高級感を漂わせる寝室。

薄暗い寝室の中で、一枚のディスプレイの青白い画面だけが浮かび上がっている。

その画面には、短い黒髪の少女・・・。

 

 

「そう・・・流石にアメリカの地図にない基地(イレイズド)の防備は固い・・・か」

『ああ、無理をすれば突破できると思うが』

「・・・良いわ。今はまだ・・・一度戻ってきて頂戴、次の手を考えるから」

『・・・・・・わかった』

 

 

金髪の女・・・スコールと言う名を持つ美しい女は、細い指先でコンソールを叩いて通信を終了させる。

画面の向こう側にいた少女の顔も、それで消える。

 

 

「・・・従順ね。少しは反省してくれたのかしら・・・」

 

 

そんなことを呟いて、スコールはくすりと笑う。

そして剥き出しの肌をシーツで覆った姿のまま、スコールは前髪をかき上げて思案する。

世界は静かそのものだが・・・その実、裏では驚くほど早く動いているのだ。

その流れを読み、全体の計画をまとめることも彼女の重要な仕事だった。

 

 

第二形態移行(セカンドシフト)したのなら、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のコアの回収を急がないといけないのだけど・・・それはIS学園の『白式(びゃくしき)』も同じね。間違っても第三形態移行(サードシフト)をさせるわけにはいかないし・・・」

「・・・ん、ぅ・・・」

「・・・ああ、ごめんなさいね。まだ寝ていても大丈夫よ・・・」

 

 

スコールの隣で、シーツがごそごそと蠢く。

そこにはロングヘアの女がスコールと同じ格好で眠っていて・・・乱れた髪を、スコールが微笑みながら整えてやる。

そうしてやるだけでどこか安心したような顔を浮かべる同性の恋人に、スコールは嬉しいような面白いような、そんな感情を覚える。

 

 

「・・・そうね、第三次形態移行(サードシフト)だけはさせられない。そうなれば戻れない・・・」

 

 

どこか自分に言い聞かせるような声音で、スコールは耳元のゴールド・イヤリングを指先で撫でる。

そのイヤリングは、光源も無いのに淡い輝きを放っていた・・・。

 

 

ピピピッ、ピピピッ。

 

 

その時、不意に電子音が鳴り響いた。

スコールが繋ぎもしないのに勝手に繋がったそれは、映像無しの音声のみの通信。

相手の姿も見えないし、相手にも自分の姿が見えない・・・そう言う通信だった。

いわゆる、秘匿通信。

 

 

「・・・あら、こんな時間に何の御用でしょうか」

 

 

口元に笑みを貼り付けたまま、姿の見えない通信相手に言葉をかける。

通信相手は答えないが、構わずにスコールはそのまま続けた。

相手の、肩書きを。

 

 

 

 

 

「―――――国際IS委員会、常任委員長殿?」

 




今話から、本格的に原作最終巻の内容に踏み込みます。
もうこうなったら、完全オリジナル展開です。
設定その他、いろいろ独自設定になります。
・・・今さらかもですが。
それでは、次回も頑張ります。
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