Side 篠ノ之 箒
非常に・・・不味い状況だ。
3日後には専用機持ちのタッグマッチトーナメントだと言うのに、私はパートナーが決まっていなかった。
一夏と組めなかったショックで3日ほどボンヤリしていたら、周りの連中はすでにペアを組んでいた。
鈴はセシリアと組んでいたし、シャルロットはラウラと組んでいた。
・・・良く良く考えてみれば、身近な相手に声をかけるのは当たり前のことだと気付いた。
楓には格好をつけて一夏と組むと言ってしまった手前、声をかけにくいし・・・何より、簪とすでにペアを組んでいるようだったしな。
・・・そして私には、他に専用機持ちの知り合いがいない。
「ち、違うぞ。私に友人が少ないのでは無く、そもそも専用機持ちが少ないのだ・・・」
誰に対する言い訳か、そんなことを呟きながら悩む私。
いや、別に当日になれば適当なペア相手が抽選で決まるわけだが。
それでも、連携練習などをしたペアに比べれば不利なのは間違いない。
前のトーナメントでは、ラウラと組んで散々だったし・・・今なら、そうでもないだろうが。
一夏と組めなかった以上、今度こそ優勝してアピールを・・・。
「こ・・・困ったな・・・」
廊下の真ん中で悶々と悩む私の横を、不思議そうな顔で何人かの女生徒が通り過ぎて行く。
普段ならこんなことは絶対にしないのだが、何しろ本気で困っているからな。
どうしたものか・・・。
「箒ちゃん、げーっと♪」
「ひゃあっ!?」
いきなり後ろから飛びつかれて、素っ頓狂な声をあげてしまう。
何事かと思い、後ろを振り向いてみれば・・・。
「え、あ? ちょ、どこ触って・・・って、た、楯無先輩? ひゃっ、あっ、ふぁっ!?」
「う~ん・・・箒ちゃん、私よりスタイル良いわね」
「な、何を言っているんですか!?」
すったもんだのあげく、楯無先輩が私から離れたのはたっぷり5分が経ってからだった。
うう、さっきとは別の意味で周りの視線が痛い・・・。
「そ、それで・・・何か用ですか?」
「うん、箒ちゃんって剣道部よね?」
「え・・・え、ええ、まぁ」
「そっか、じゃあ箒ちゃんは私と組みましょうか!」
「はぁ!?」
前後の文脈に関連性がなさ過ぎる!
「私、組んでくれる人がいなくて困ってるの。だから、ね? お願い」
「は、はぁ・・・」
「仕事が立て込んでてさ、気が付いたら他の子達みんなペア組み終わってて・・・」
弱り切った表情で手を合わせる楯無先輩、先程までの調子が嘘のようだった。
私も最初は戸惑ったが、パートナーがいなくて困っていたのは私も同じ。
「えーと・・・では、よろしくお願いします」
「うんうん、不束者だけど末永くよろしくね」
「タッグマッチのパートナーとしてですよね!?」
「うふふふ・・・」
意味深な笑みを浮かべて扇子をヒラヒラさせる楯無先輩、さっきの困り顔が嘘のようだ。
・・・その時々で、本当に態度と表情が変わる人だ。
まるで、あの人みたいな・・・。
「さぁさぁ、今の箒ちゃんの状態が知りたいから、まずは検査室でフィジカル・データ取りにいきましょうか」
「は、はぁ・・・」
そのまま手を引かれて、検査室に連れて行かれる。
・・・そう言えば、昔。
ずっと幼い頃には、こんな風にあの人に手を引かれていたな・・・。
Side シャルロット・D・コルデ
上空220メートルからのダイヴ、生身では耐えられない程のGが僕の身体を押し潰そうとする。
でもそれも、ISの機能が相殺してくれる。
舞台は海の上、急速に海面が近付いて来る。
そして僕と海面の間には、無数の攻撃対象・・・つまり、「敵」がいる。
それは、合計7機の『打鉄(うちがね)』―――――。
「・・・!」
両手に五九口径の重機関銃を
その中で引き金を引き、周囲の『打鉄(うちがね)』に攻撃を加える。
でも相手は量産機とはいえ第2世代型IS、エネルギーシールドを巧みに利用してダメージを最小化する。
流石に、ISが相手だと思うようにダメージを通せないね・・・!
「ひゅう―――――」
深く息を吸った直後、『リヴァイヴ』の脚部ブースターを使って姿勢制御。
海面スレスレで一旦止まると、今度はアサルトカノンと連装ショットガンをそれぞれ構える。
7機の『打鉄(うちがね)』は近接装備、当然、僕を追ってくる・・・そして。
「チェックメイトだ」
海中に潜んでいた僕のパートナーが、片手を上げた体勢のまま海上に出てくる。
黒いIS・・・『シュヴァルツェア・レーゲン』のラウラが、AICの力で7機の『打鉄(うちがね)』の動きを止める。
とは言え相手は7機、いくらラウラでも・・・。
「手早く頼む、5秒と保たない」
「了解!」
自信満々に「5秒しか保たない」って言うラウラに苦笑したい気分になりながら、僕は両手の重火器の銃口を上の7機に向ける。
そして―――――。
<YOU WIN!>
・・・360度全てをカバーした円形のスクリーン、そのスクリーンの僕の正面に表示されたその文字に、僕は深々と息を吐いた。
続けて出て来た戦闘時間や被弾率、損傷率とかのデータを確認して、僕は『リヴァイヴ』のコアと「それ」の接続を切った。
僕の機体データを他の人に盗まれないよう、網膜と指紋、フィジカル・データで保存(セーブ)してから、僕は外に出る。
少し狭い出入り口から外に出て、後ろを振り向けば・・・そこには、鈍い銀色の筐体があった。
ISシミュレーター、「Brunhild Trace System」が。
「シャルロット」
「ああ、ラウラ。お疲れ様」
「うむ」
別のシミュレーターから出て来たラウラと一緒に、僕らの次の番を待ってた3年生の人と交代する。
このシミュレーターはまだ3機しか無いから、割と一般生徒の順番待ちが多いんだよね。
「専用機持ちも僕らが使うのは、ちょっと気が引けるけどね」
「仕方無い、アリーナで人目につきながら連携訓練はしたくないからな」
「まぁ、手の内は見せないに限るしね・・・それにしても、楓は凄いなぁ」
ここまで精巧なシミュレーターは、ちょっと初めて見た。
あらゆる状況をVR空間で再現できるし、その気になれば今みたいに他のシミュレーターとデータを繋いでタッグプレイもできる。
学園のスパコンを使ってるとは言っても、かなり複雑なハードとソフトが必要なはずだけど・・・。
『ゲームソフトで出来るんだから、シミュレーターで出来ないはずが無いじゃん』
・・・楓は、そう言ってたけど。
でもコレ、普通に軍で使えるレベルなんだよね。
「ドイツ軍が購入を希望している」
「そうなの!?」
「冗談だ」
表情も変えずに、「冗談」を言うラウラ。
・・・うん、まぁ、良い傾向だと思うけどね。
「・・・・・・今の所はな」
そしてぽつりと付け加えた言葉が、ラウラの「本音」だと思う。
それは本当に、「今の所は」と言う話で。
楓って、作った後のことは考えてくれないからね。
「・・・まぁ、それはそれとしてだ、シャルロット。タッグマッチでは基本的にさっきの戦術で・・・」
「あ、うん。そうだね、僕もそれが良いと思う。追い込む自信もあるし・・・」
・・・楓のそう言う所って。
やっぱり、お姉さんの影響なのかなぁ。
Side 凰 鈴音
まぁ、一夏とパートナーになれなかったのは確かに残念だけど。
それはそれで、優勝して他の娘達を倒して手に入れれば良いってことよね。
とりあえず、私はそう結論付けた。
欲しいモノは、力尽くでも手に入れる。
それが中国式・・・と言うより、私流ってわけよ。
所有権は主張してナンボ、常識よね。
「と言うわけで、絶対に負けられない戦いなわけだけど」
「はぁ・・・」
「何よー、私に協力してくれるんでしょ?」
「それは、まぁ・・・そうなのですけど」
ふぅ・・・と溜息を吐くのは、私のパートナーのセシリア。
凄く物憂げな感じで、手元の紅茶のカップの縁を指先で撫でたりしてる。
何か、この間から様子が変なのよね。
前と違って、悩んでるって風ではないみたいだけど。
「あーもう、悪かったわよ。ふざけないでちゃんとタッグマッチの話するからさー」
「そうして頂けると、有難いですわね」
「あ、何それ、高飛車でムカつくわねー」
「ふふん、当然ですわ」
会話の軽さの割に、セシリアの纏う雰囲気は重いまま。
重いと言うか・・・何なのかしらね。
悩んでるわけじゃないけど、何かを抱えてる感じ。
・・・まぁ、何を考えてるかは知らないけど。
今はとりあえず、3日後のタッグマッチについての話し合いよね。
私としても、今度こそ結果を残して本国の評価上げとかないと。
私達候補生は、普通に学園生活を送るだけじゃいけないからね。
「やっぱり、一番の難関はラウラとシャルロットよねー。最強と器用、性能と物量のペア、厄介にも程があるわよ」
「私としては、情報不足のペアの方が怖いのですけど・・・」
タッグマッチの話に話題を転換すると、セシリアも重い空気を払って乗ってくる。
ちなみに情報不足のペアって言うのは、一夏と組んでる3年生の先輩と・・・あとたぶん、生徒会長のことよね。
正直、あのあたりは私も良く知らない。
3年生の先輩に至っては、機体だってまともに見たこと無いしね。
「3年生は確かに怖いけど・・・一夏狙いで行けば、何とかなるんじゃない?」
「更識会長はまだペアが確定していませんから、対策の取りようがありませんわね」
「機体の能力もイマイチわかんないしねー・・・」
見たことはあるんだけど、ちゃんと戦ってる所は見たこと無いから。
後は3組のペアだけど・・・ラウラ程に怖い相手だとは思わない。
まぁ、面倒な能力だなーとは思うけど。
けどそれは、専用機ならどれでも言えること。
箒の『紅椿』なんて、性能だけならたぶん最強だと思うしね。
「・・・ま、基本的な対策はこんな感じかしらね。後は試合の中で対応って所?」
「そうですわね、臨機応変に参りましょう」
「んー・・・後は」
実はもう一組、気になるペアがいると言えばいるんだけど・・・。
「簪さんと・・・」
「・・・楓のペアよね」
パートナーの簪はまぁ、普通に強いと思う。
でもやっぱり、ラウラ以上に強いとは思わない。
その意味では、そこまで怖く無い。
あの多重ロックオンには、注意が必要だけど。
問題は、楓の方。
基礎戦闘力はてんでダメダメだけど、何と言っても楓の『黒叡(こくえい)』にはあの能力がある。
IS封じのあの能力を使われたら、それこそ手も足も出せなくなる。
自在にあの能力を出せるようになったかどうか、でも変わるけど・・・まぁ、とりあえず。
「序盤から楓さんを集中的に狙いましょう」
「そうね、最初から全力で潰しに行きましょうか、楓を」
楓さえ潰してしまえば、ISを止められる心配も無い。
それに簪も楓を庇って無理するだろうし、倒しやすい。
楓を倒して、その後に楓を庇ってボロボロになった簪を私とセシリアの2人がかりでボコる。
・・・悪く思わないでね、楓、あと簪。
勝負の世界には、遠慮とか友情とか無いから―――――。
Side 織斑 一夏
結局の所、何で俺が3年生とペアになっているのかの会長からの具体的な説明は無いままだった。
でも虚先輩の説明してくれた所では、「男の子が1人だとバランスが悪いから、1人しかいない3年生の先輩と組ませたかった」からだそうだ。
そう言われれば、確かにそれでバランスは・・・取れる、のか?
自慢じゃ無いけど、俺は3年生の先輩と組める実力じゃ無いと思うんだよな。
まぁ、それでも組む以上は足を引っ張らないように頑張らないと。
「それに、学園第2位の実力って言うのも興味あるし・・・」
楯無さんは生徒の中で唯一の正式な「国家代表」だから別格としても、楯無さんを除けば文句無しの第1位の実力者。
何せあの虚先輩がベタ褒めしてた程の人だから、かなり凄いに違いない。
俺にとって「強い」って言うのは千冬姉のイメージが入るけど、ダリル・ケイシー先輩もそんな感じの人なんだろうか。
地図を片手に校舎を進んで、慣れない3年生の教室が並ぶ廊下を歩く。
何だか忙しい人らしくて、実は今日初めて会うんだよな。
楓によると機体も凄いらしいし、ドキドキするな・・・!
「ねぇ、あの子・・・」
「え・・・ホントだ、男の子」
「織斑一夏って子・・・?」
・・・?
何か、遠巻きに見られてるような気がする。
まぁ、ある意味で慣れた状況だけど。
やっぱ、男って珍しいのかな。
えーと、それよりも、確か3年生の廊下の一番隅の空き教室にいるんだったな。
「し、失礼しまーす!」
心無し緊張しながら、空き教室に入る。
空き教室と言っても、他の教室と同じように机が並べられている。
そしてその空き教室の真ん中の座席に、その人はいた。
IS学園第2位、あの虚先輩がベタ褒めする3年生唯一の専用機持ち。
褐色の肌の女生徒・・・ダリル・ケイシー先輩が、そこにいた。
「・・・・・・あれ?」
いた・・・んだけど・・・何だろう。
アレ、どう見ても机に突っ伏して寝てるよな・・・。
・・・い、いやいや、虚先輩がベタ褒めする先輩だぞ?
楯無会長ならともかく、虚先輩だぞ?
ここはもう少し、様子を見るんだ・・・!
「んー・・・?」
頬にかかった自分の髪が鬱陶しかったのか、ダリル先輩|(らしき人)がむずかるように唸った。
不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったが、それよりもダリル先輩がゆっくりと身体を起こしてくれたことの方に注意が向かった。
ダリル先輩は、妙に粗野な仕草でガシガシと頭を掻きながら顔を巡らせて・・・俺と、目が合った。
「あー・・・?」
「あ、えと。は、初めまして、織斑一夏です。タッグマッチの件で・・・」
「・・・・・・あー、あったな、そんなの」
あったな、そんなの!?
え、いや、そんな認識!?
・・・い、いやいや、まだきっと寝ボケてるんだ、そうに違いない・・・!
「はぁ~・・・」
「ど、どうしたんですか?」
「タッグマッチとかマジでダリィ・・・フォルテと組んで1回戦負けする予定だったってのによ~・・・」
「ふぉ、ふぉるて?」
「まぁ、でもやらねーと終わらねーし、布仏の頼みだしなー・・・しかたねーか・・・」
もう、今にも寝そうな勢いで何かブツブツ言ってるダリル先輩。
こ、これは・・・これは俺、大丈夫なのか・・・!?
『大丈夫、織斑くんならできるわ、男の子だもの』
何故か、優しい笑顔の虚先輩が空に浮かんで見えた。
もちろん、気のせいだけどな!
Side 篠ノ之 楓
他人の大事な部分に触れるのって、ドキドキするよね。
とても大事な所であればこそ、こっちも気持ちを込めて触らないといけない。
それが、心を込めるってことだと思うから。
「・・・っ、くぅ~・・・!」
ビリビリと頭の中を焼かれるかのような錯覚、脳髄を鈍く痺れさせるそれはまさに快感。
未知のモノへと触れる好奇心、そして少しの恐怖感。
指先から伝わってくる熱の感触に、私の唇からは同じように熱を孕んだ吐息が漏れる。
胸の奥がゾクゾクして、ドキドキして、たまらない気持ちになる。
もっと触れたい、理解したい、繋がりたい。
そんな気持ちが止まらない、だって・・・!
「アメリカの、第3世代型IS・・・!」
「・・・他人に見せるなよ、コノヤロウ」
「うん! 誰にも見せない! これは私の!」
「お前のじゃない、この機体はアワー・アルレート社の所有だ」
今、私は整備室でエリスさんの機体『タイニー・ウィッチ』を見せて貰ってる。
もちろん、タッグマッチのための整備。
後で立道さんのも見せてもらう、ひゃっほう。
「うわー・・・何コレ何コレ、こんなスラスター構造を思い付いたの誰? 独特過ぎて逆にイカす。大型スラスター捨てて小型で攻めるって普通の開発思想じゃ出てこないよねー」
「声がでけーよ。軍事機密だぞ」
「大丈夫大丈夫、それならIS関係無いから」
ISは兵器じゃないから、軍事機密の対象外だから。
でも企業秘密ではあるかもしれないね、それでも技術を公開しない意味はわからないけど。
勝手に一夏さんの機体に積んだら怒られるよね、たぶん。
「そんなんだから、お前はノーテンキだってんだよ・・・バカヤロウが」
「思うんだけど、語尾で相手を罵倒するのって癖か何かなの?」
「違う・・・少しは真面目に頼む、私はこれで飯を食ってるんだから」
「あー・・・お金のためにISに乗ってるんだっけ」
まぁ、細かい事情は知らないけど。
何と言うか、聞くのが怖いし。
・・・何で怖いのかは、わからないけど。
「ちょっと、良いかしら?」
「ほえ?」
「・・・ぶちっとな」
「うわっ、ちょ、接続中にコード抜かないでよ!」
不意に声をかけられて、エリスさんが私の端末のコードを自分のISのコアから抜いた。
周囲に浮かんでたディスプレイが閉じて、情報を自己保存する。
まったく、一昔前の端末だったらデータ飛んでたよ・・・。
私が頬を膨らませて不満を表明してもエリスさんはどこ吹く風、ISを素早く片付けちゃった。
うーん、これも機密保持のための行動なのかな。
・・・あ、ところで誰が声かけてきたのかな?
「あ、会長さんだ」
「はーい、楓ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかしら?」
振り向くと、何やらカルテ的な物を手に持った会長さんが、いつものように笑顔で立ってた。
いきなり現れる所も、いつも通りだね。
Side 更識 楯無
気になることがあって、ISの調整のためって名目で―――実際、整備に使うから名目では無いかもしれないけど―――箒ちゃんのフィジカル・データを取らせて貰った。
そこで得られたデータは、もちろん箒ちゃんの『紅椿(あかつばき)』に転送して渡した。
唯一、IS適性値の部分にだけは細工をして。
箒ちゃんに渡したデータでは、箒ちゃんのIS適正値は「B」と言うことになってる。
入学時のデータが「C」だから、これは努力の賜物と言うレベル。
でも、それは嘘。
「実はね、箒ちゃんのパーソナル・データなんだけど・・・」
「え~・・・? わわっ、箒姉さん凄い!」
「でしょう? 箒ちゃんっておっぱい大きいわよね?」
「・・・・・・・・・」
「そう、ISランクが凄いのよね」
・・・あまりの殺気に、私としたことがつい話題を戻してしまったわ。
「IS適正値(ランク)・・・燦然と輝く、「S」!! さぁっすが箒姉さん、才能に溢れてるね!」
無邪気に喜ぶ楓ちゃん、でもその言葉の中に聞き捨てならない部分がある。
そう、ISランク「S」。
織斑先生を含む世界最強の5人しか持ち得るはずのない、最高ランク。
適正値は努力とかである程度伸びることもあるけど、基本は生まれ持った才能。
入学時「C」だった箒ちゃんが、たった半年程度で「S」になるなんてあり得ない。
考えられる可能性は一つ、入学時に「誰かが何かをした」。
誰が、何を、いつ、どこで、どうして、どうやったのか。
こと箒ちゃんに関する限り、考えられるのは・・・。
「ん、終わったわよ、楓ちゃん」
「ほいほーい」
ぴょんっ、と楓ちゃんが飛び下りたのは、検査室のスキャナーの台。
そう、今度は楓ちゃんのフィジカル・データを取らせて貰ってるの。
箒ちゃんの結果がああだから、もしかしたらと思って。
そして、結果は。
「楓ちゃん、入学時より胸のサイズが下が・・・」
「・・・・・・え?」
などと言いながら、私は楓ちゃんのパーソナル・データを凝視する。
そこには、機械らしく嘘も誤魔化しも無い結果だけが刻まれている。
篠ノ之 楓のIS適正値(ランク)は―――――「S」。
姉の箒ちゃんだけでなく、妹の楓ちゃんも「S」。
つまり2人とも、才能だけなら世界最高位。
織斑先生と、同じ領域。
こうなると・・・一夏くんのランクも確認したくなってくる。
「えー、私のランクはっと・・・やった、箒姉さんとお揃い♪」
「お、お揃いって・・・楓ちゃん、わかってる? 「S」ランクと言うのは・・・学園では、織斑先生しかいない、希少なランクなのよ?」
「んー・・・あー、でも千冬姉様や箒姉さんや私の適正値が高くなるのは、むしろ当たり前と言うか・・・」
・・・当たり、前?
「だってISは元々、束お姉ちゃんが私達のために作ってくれたんだもの」
屈託のない笑顔で、楓ちゃんは言う。
あまりに邪気が無さ過ぎて、幸せそうで、溜息を吐いてしまう程に。
呆れ果てて、溜息を吐いてしまう。
世間知らずにも・・・認識不足にも、程がある。
ISの整備にしても、シミュレーターにしても、ランクにしても。
無頓着すぎて・・・ここまで来ると、異常なくらいに。
異常、それはある意味で篠ノ之の三姉妹を最も的確に表現した言葉かもしれない。
「・・・? 会長さん? 私もう行っても良い?」
「・・・うん、そうね・・・そう。・・・あ、待って、楓ちゃん」
「ほえ?」
きょとん、とした顔を浮かべる楓ちゃん。
真面目な箒ちゃんとは、正反対の性格だとして周囲に認識されてる楓ちゃん。
でも実は、周りが見えていないと言う意味ではそっくりな姉妹・・・。
「・・・ISの練習、ちゃんとしてるかしら?」
何とか、しないと。
学園のためにも、皆のためにも・・・簪ちゃんの、ためにも。
例えこの身が、あの稀代の天才に・・・あの堕天使(アクマ)に。
どのような目に、合わされようとも。
私はそのように、振る舞うだけ―――――。
Side 布仏 虚
ゴチンッ。
鈍い音が生徒会室に響く、それはもちろん私が妹の頭を叩いた音。
両親が傍にいない分、本音を叱るのは私の役目だから。
「うう~・・・いたぁ~」
「しゃんとしなさい、来年からは貴女がする仕事なんだから」
「うぅ~」
本音が唸りながらやっているのは、生徒会の簡単な書類仕事。
簡単と言っても、1年生の本音には難しいこともあるかもしれないけれど・・・。
でも私は3月には卒業する、生徒会で楯無お嬢様を支えるのは本音しかいなくなる。
だからその前に、せめて事務仕事くらいはちゃんと覚えさせないと。
・・・なのだけど、昔から本音は面倒くさがりだから。
寒いから集中できないだの、お腹が空いたから集中できないだの、面白く無いから集中できないだの・・・特に最後の理由は、単純にやる気が無いだけじゃない。
「はぁ・・・本音?」
「うぅ~・・・こんなの難しくてわかんないよ~」
「ISの内部構造理論の半分も難しく無いわよ、こんなの」
「書類仕事とか、苦手~」
ごろんっ、と机の上でゴロゴロしながら唇を尖らせる妹に、溜息を吐く。
可愛いのだけど、姉の情だけではどうにもできない。
手はかかるし時間もかかるけど、ちゃんと教えてあげないと・・・。
「だって~・・・私がお姉ちゃんみたいに出来るはずが無いもん~」
「そんなことは無いわ、貴女は優秀だもの」
「できないもん!」
「・・・はぁ」
ゴチンッ。
・・・別に私も、叩きたいわけでは無いのよ?
でも本音の場合、言うだけじゃ何もしないから・・・。
「いったぁ~・・・」
「本音、まだ叩かれたい? ・・・そう、なら仕方が無いわね」
「言ってない~、何も言ってないよ~」
頭を押さえて涙目で睨んでくる本音、心が痛いけど仕方が無いのよ。
だってこれは、結局の所は本音のためなんだもの。
心を鬼にしても、やらないと。
「・・・」
「・・・本音?」
「・・・だ・・・」
「え、何?」
「お姉ちゃんは、本当は私のことが嫌いなんだ~・・・」
頭をトンカチで殴られたかのような衝撃が、私を襲った。
え、え、・・・ええ?
「そ、そんなことは無いわよ」
「違うもん、嫌いだから私が嫌なことをさせようとするんだもん~・・・」
涙を浮かべながら私を睨む本音に、心が折れそうになる。
と言うかもう、折れてる。
「あ・・・待ちなさい! 本音!!」
私が衝撃を受けてヨロめいてる間に、本音が席を立って逃げ出した。
それはもう、脱兎のごとく。
私はいろいろとショックを受けたまま、本音を追いかけた・・・。
Side 篠ノ之 箒
「・・・・・・あ」
「む・・・おお」
「は、はい・・・」
「・・・うむ」
・・・と言う会話(会話になっているのか?)を廊下で交わす、相手は珍しいことに簪だった。
楯無先輩との検査室での検査を終えてから、特にすることも無く整備室にでも行こうかと思っていたのだが・・・途中で同じように整備室に行こうとしていたらしい簪に出会った。
・・・そう言えば、簪とこうして2人きりで話すと機会と言うのはなかなか無いかもしれないな。
「えーと・・・妹がいつも世話になってると思うが・・・」
「い、いえ、私の方こそ、楓には・・・いろいろと・・・」
気を付けて欲しいのだが、簪と私は同学年だ。
同学年でするような会話では無いかもしれないが、楓が私の妹と言う関係上、仕方が無いのかもしれない。
「「あの」」
「・・・い、いや、何だ?」
「い、いえ・・・箒さんの方から・・・」
「いや、別に大したことでは無いんだ」
「わ、私も・・・その・・・」
・・・な、何だ、この息が詰まるような緊張感は。
やはりアレだろうか、簪が以前楓が好きだと言っていたことが影響しているのだろうか。
アレはそういう意味では無いとは、わかっているのだが・・・うん。
「・・・・・・楓は」
「え・・・?」
「楓は、お前と出会ってから毎日が楽しそうだ。昔は身体が弱くて・・・今は、本当に楽しそうだ。簪のおかげだと思う、本当にありがとう」
「そ、そんな・・・わ、私の・・・方こそ。楓のおかげで・・・」
実際、楓は簪達と一緒にいる時が一番楽しそうだ。
正直、少し嫉妬しているかもしれない。
だがこうして照れて顔を紅くしている簪を見ていると、楓が簪と仲良くする気持ちがわかる気がする。
どことなく、昔の楓に似ている所があって・・・。
「何があろうとも、私は練習なんてしませんから――っ!」
その時、楓の声が聞こえた。
それからドタドタとスローに駆けてくるような音が響いて、廊下の向こうから私と同じ顔の妹が走ってくるのが見えた。
擦れ違う女生徒達が、何だ何だと振り向いている。
・・・相変わらず、足、遅いな・・・。
「か、楓・・・? 何してるの?」
「あ、簪ちゃん! それに箒姉さんも! 助けて~」
妹に助けを求められれば、それはもちろん助けるの一択ではあるが。
しかしいかんせん、状況が・・・。
「それがねぇ、楓ちゃんってばISの訓練が嫌だって聞かないの」
「はぁ・・・まぁそれは楓ですからって、いつの間に!?」
本当にいつの間に現れていたのか、楯無先輩が後ろから私にしなだれかかっていた。
ほ、本当に気が付いたら登場してる人だな・・・!
Side 更識 簪
楯無姉さんが、楓を追いかけてた・・・の?
たぶん、楓にISの訓練をさせようとしてたんだと思うん、だけど・・・。
・・・無理だと、思う。
「い、いろいろな意味で、無理だと思う・・・」
「いやぁ、照れるなぁ」
「褒めては・・・いない」
私の後ろに隠れて照れる楓に、とりあえずそう言っておく。
それより、も・・・。
「・・・」
「・・・」
・・・楯無、姉さん。
楯無姉さんが、箒さんの首に腕を巻いたままこちらをじっと見ていた。
その圧力に―――実際には、そんなものは無くとも―――私は、下がりそうになる。
一歩、下がりそうになる。
現実にそうしないのは、後ろに楓がいるから。
「・・・」
「・・・」
「・・・箒姉さん。何でか私、緊張してきたんだけど」
「う、うむ・・・」
完成された美、優れた頭脳、ズバ抜けた身体能力、人を惹き付ける魅力。
私が持っていない全てのモノを持った、私にとっての超えられない壁。
この人に比べれば、私なんて・・・路上の石にも劣る、惨めな存在に過ぎない。
「・・・簪ちゃん」
「・・・」
「ねぇ、簪ちゃんはどう思うのかしら? 楓ちゃんは、ちゃんと訓練した方が良いと思わない?」
「・・・それは」
場違いかもしれないけど、私は楯無姉さんが私に声をかけてきたことの方に驚いた。
こうして向かい合って・・・声を聞いたのは、本当に久しぶりな気がする。
最後に声を聞いたのは、いつだったろう・・・?
そして、楓がちゃんと訓練した方が良いかどうか。
それは・・・それは、もちろん、楓はちゃんと自分の身を守れるようになった方が良いと思う。
けど、でも・・・。
「でも・・・無理強いは、良く無い・・・」
「そうね、でも世界はいつだって私達に無理強いをするものよ」
「・・・」
「自分の意思をそのまま貫ける人間なんて少ないし、貫き続ける人間なんてもっと少ない。そうでしょう?」
・・・それは、正しい、と思う。
楯無姉さんは、いつだって正しい。
正し過ぎて・・・何も言えなくなってしまうくらいに。
楯無姉さんにくっつかれてる箒さんは、思う所があるのか難しい顔で何も言わない。
日本政府の意向で、強制入学させられた・・・箒さんなら、楯無姉さんの言葉に一理あると思うのかもしれない。
でも・・・だけど、それでも。
「それでも・・・勝手に、決めないで・・・」
「勝手じゃないわ、現実よ」
「現実でも・・・楓のことは、自分のことは・・・自分で、決める・・・」
「決められないからって決めるまで待っていたら、それこそ何もできないでしょう? だから言ってあげるのよ、やりなさいって」
わかってる、それが結局は楓のためになるんだって。
今の楓がその気になれば、学園中のISやシステムを10分で全部落とせる。
そのリスクを考慮してもなお、楯無姉さんが楓や、箒さんや、織斑くんを構うのもわかる。
私だって、更識なんだから。
でも、それでも・・・それでも、勝手に決めないで。
決められてしまったら、それが正しければ正しい程に・・・。
・・・決められない自分が、凄く、惨めになるから・・・!
「だから私が・・・私達は、言ってあげるの。やるべきことから逃げないで、と。そのために必要な全てはやってあげるからって」
「それは、自分でやる・・・!」
「貴女は何もしなくて良いの、全て私がやってあげるから・・・貴女がやるべきこと、それ以外は」
今、私は誰の話をしているのだろう・・・?
楓の話?
違う。
自分の、話・・・だ。
「勝手に、決めないでよ・・・!」
お願いだから。
「じゃあ、どうするの? 楓ちゃんのことも・・・」
自分のことも。
「楓は・・・楓と、約束した。私・・・私が、守るって」
「守れるの? 貴女に」
「わ・・・私、私っ、だって・・・っ」
「守れなかったじゃ無い、つい2ヵ月前も」
「・・・っ」
ぎゅうっ・・・と、胸の前で拳を握りしめて、俯く。
悔しい、苦しい、辛い、逃げたい、嫌だ、でも。
それでも・・・私。
お友達くらい、守れるようになりたい。
私にだって出来るんだって、証明したい。
当たり前のように全部が出来てしまう楯無姉さんには、わからないんだ。
私の気持ちなんて。
自分以外の・・・出来ない人達のこと、なんて。
「・・・ぃ・・・」
自分の凄さを自覚しない、楯無姉さんが。
頑張れば誰でも自分の位置に来れると本気で思ってる、楯無姉さんが。
圧倒的なまでに正しい、正し過ぎて眩しくて見ていられない、そんな楯無姉さんが。
私は。
「・・・大、嫌い・・・っ!!」
Side 篠ノ之 楓
・・・あれ?
えっと、途中までは私のお話だったと思うんだけど。
どうして、こんなことになったのかな・・・?
「え、えーと・・・か、簪ちゃん? 私、訓練しても良いかな~・・・なんて」
「・・・しなくて、良い・・・」
「え、いやぁ、でも私もちょっとくらい」
「しなくて良い!」
「う、うぃ!」
いつになく押しが強い簪ちゃんの剣幕に、つい私も「YES」と答えちゃう。
え、コレどうすればいいの? ねぇ、どうすれば良いの?
助けを求めるように箒姉さんを見れば、会長さんにくっつけれてる箒姉さんも大変そうだった。
何か、引き攣った顔で隣の会長さんの方を横目に見てるんだけども。
いや・・・でもコレ、本当に嫌なんだけど。
(たぶん)私のせいで簪ちゃんがお姉さんである会長さんと喧嘩、してるんだよね?
それは凄く、嫌だ。
姉妹は・・・家族は、仲良くしないと、いけないんだから。
「本音! 待ちなさい!」
「い~やぁ~!」
私がどうやって簪ちゃんを宥めようかと思っていると、私が走って来たのとは反対側からもう一組、姉妹がやってきた。
誰かと言うと、本音ちゃんとそのお姉さん、虚先輩だった。
気のせいで無ければ、本音ちゃん泣いてない・・・?
「・・・本音」
「かんちゃん~、楓ちん~、お姉ちゃんってば、酷いんだよ~」
「わわっ、本音ちゃん?」
本音ちゃんは私達を見つけると、簪ちゃんの後ろにいる私のさらに後ろに隠れた。
それでもって、背中から顔だけ覗かせて「んべ~」ってする。
虚先輩はと言えば、箒姉さんと会長さんの隣のあたりで立ち止まって。
「本音?」
「うひぃっ」
や、やらなきゃ良いのに・・・って言うか何、こっちも喧嘩?
何と言うか、こっちは簪ちゃんとはまた違う感じだけども。
「わ、私は~、かんちゃんと楓ちんのピット・クルーの仕事があるから、忙しいの~」
「ピット・クルー・・・?」
「そうそう、そうだよ~。だから書類仕事なんてしませ~んっ」
うん、今のやりとりで全てがわかったような気がするよ。
ちなみにピット・クルーって言うのは・・・タッグマッチの時に、1ペアにつき1人、整備科(ないし整備科志望)の生徒を自チームのピット・ルームに置いておけるルール。
専用機使うし、サポートはあった方が良いってことで。
・・・うん、私は別に良いんだけどね?
「そう・・・そう言うこと。なら、私にも考えがあるわよ」
虚先輩はそう言うと、より会長さんと箒姉さんに近付いて・・・3歩後ろに、そっと立った。
えーと・・・何、この構図。
何か良い感じに、拮抗状態になっちゃってる感じがするんだけど。
「え、えーと、簪ちゃん、本音ちゃん、ちょっと落ち着かない・・・?」
「そ、そうですよ楯無先輩、えーと・・・虚先輩も」
そして届かない、私と箒姉さんの声。
赤コーナー、箒姉さん、楯無会長さん、虚先輩。
青コーナー、私、簪ちゃん、本音ちゃん。
・・・これは、また・・・綺麗に別れたよね・・・。
◆ ◆ ◆
―――――全校生徒、及び関係各位に通達。
内容:全学年対抗、専用機持ちタッグマッチ・トーナメント組み合わせ発表。
1回戦、第1試合:
1年1組、セシリア・オルコット・1年2組、凰 鈴音 組
対
1年1組、ラウラ・ボーデヴィッヒ・1年1組、シャルロット・D・コルデ 組
1回戦、第2試合:
2年1組、更識 楯無・1年1組、篠ノ之 箒 組
対
1年1組、篠ノ之 楓・1年4組、更識 簪 組
1回戦、第3試合:
3年1組、ダリル・ケイシー・1年1組、織斑 一夏 組
対
1年3組、立道 雪音・1年3組、エリス・シール 組
1回戦、第4試合:
1回戦第3試合の勝者と、2年2組フォルテ・サファイヤ組
*フォルテ・サファイヤのパートナーは敗北チームのメンバーから抽選で決定。
―――――以上
篠ノ之 箒:
せ、先輩方、落ち着きましょう。
冷静になって、ここは事態の収拾を図るべきで・・・先輩方?
更識 楯無:
簪ちゃんに嫌われた簪ちゃんに嫌われた簪ちゃんに嫌われた・・・。
布仏 虚:
どうしましょうどうしましょうどうしましょう・・・。
篠ノ之 箒:
(ぜ、全力で落ち込んでいる・・・!)
更識 楯無:
うふふ、簪ちゃんもね、昔はね、お姉ちゃんお姉ちゃんって私の行く所にどこでもついてきてくれてね・・・。
篠ノ之 箒:
楯無先輩! 戻ってきてください!
布仏 虚:
ああ、本音ったら。またほっぺにクリームをつけて・・・。
篠ノ之 箒:
虚先輩! それは写真です! 本人じゃないですよ!
楯無&虚:
はぁ~~~・・・。
篠ノ之 箒:
ああっ、もう・・・どうすればいいんだ!?
(た、助けてくれ、楓~・・・!)。