インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

40 / 79
第37話:「その4人、円舞」

Side 篠ノ之 楓

 

11月末、専用機持ちタッグマッチトーナメントの当日。

アリーナでまさに第1試合が始まろうとしている時、第2試合な私とチームメイトの本音ちゃんと簪ちゃんは、アリーナのピット・ルームで待機してる。

 

 

午前9時開始で、試合時間は最大で45分。

15分の休憩を挟んで次の試合に・・・って言うのが基本的な流れ。

だから、1回戦は13時に終わる。

で、そこから1時間休憩して、準決勝と決勝戦。

・・・まぁ、私は正直、1回戦以降の心配はしてないんだけどね・・・。

 

 

「大丈夫だよ~、作戦通りにやればお姉ちゃん達なんてコテンパンだよ~」

「緩い口調でサラリと凄いことを!?」

 

 

本音ちゃんは凄いなぁ・・・私は、自分が箒姉さんや束お姉ちゃんに及ぶなんて考えたことも無いよ。

そこが、実は本音ちゃんの一番凄い所なのかもしれないね。

反骨心・・・的な?

 

 

『それでは・・・これより全学年対抗、タッグマッチトーナメントの専用機部門を開始します』

 

 

通信越しに響くのは、何故かナレーション(?)役の山田先生の声。

ピット・ルームのスクリーンには、超満員をアリーナの様子が映し出されてる。

ここは第3アリーナ、ちなみに第2アリーナでは3年生の訓練機部門が行われてる。

 

 

『それでは1回戦第1試合の参加者をご紹介致します。なお、順番はチーム申請順となります』

 

 

山田先生の言葉と共に、アリーナの地表から4機のISが飛び出してくる。

まず最初の1機は、陽光を反射して煌めく空と同じ色のIS・・・。

 

 

『1年1組所属、セシリア・オルコット。搭乗ISは「ブルー・ティアーズ」』

 

 

金髪を靡かせる蒼穹の射手は、その姿を衆目に晒すかのように胸を逸らしているように見える。

そしてその横に威風堂々と立つのは、赤みがかった黒の無骨なIS・・・。

 

 

『1年2組所属、凰 鈴音。搭乗ISは「甲龍(シェンロン)」』

 

 

細い体躯、そして風にはためくツインテールが躍動感を表しているかのよう。

英国と中国、異色のペア。

その2人が並んで見据える先には・・・別のペア。

 

 

『1年1組所属、ラウラ・ボーデヴィッヒ。搭乗ISは「シュヴァルツェア・レーゲン」』

 

 

まずは1年生最強と名高い、漆黒の万能機。

1対1ではまず勝てそうに無い、同世代型のISの中では他の追随を許さない性能を誇るIS。

黒い眼帯の操縦者は、紅い片目に怜悧な色を浮かべている。

 

 

『同じく1年1組所属、シャルロット・D・コルデ。搭乗ISは「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ」』

 

 

そして最後の1機、オレンジ色に輝く太陽のIS。

優しげな微笑みを浮かべる操縦者、でもその実、4機の中で最も多彩な武装を持つ。

フランスとドイツ・・・仏独のペア。

模擬戦は何度か見たことあるし、整備もしたけど・・・。

 

 

・・・ちらっ、と、隣の簪ちゃんを見る。

簪ちゃんは『打鉄弐式(うちがねにしき)』のデータの呼び出し画面をじっと見つめて、何か凄い真剣な顔で考え込んでるみたいだった。

うーん・・・本音ちゃんとは別の意味で、凄い気迫かも・・・。

 

 

『それでは、1回戦第1試合・・・』

 

 

おおっと、危なく見逃す所だった。

慌てて顔を上げると、スクリーンの中で・・・。

 

 

『・・・始め!!』

 

 

戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

開始と同時に、地表にまで後退するように降下する。

特に空中戦を嫌うわけではないが、あえてセシリアの得意な戦場に身を置く理由も無い。

それに私とシャルロットの機体特性上、地上戦の方が好都合だと判断した。

むしろ空中戦を望むのは、ビットによる全方位攻撃が可能な相手の方・・・。

 

 

「・・・何?」

 

 

私が地表に降下するのと同時に、鈴が急加速で追撃して来た。

途中でシャルロットの脇を抜き去り、そのまま突撃してくる。

しかも単騎で。

この私と『シュヴァルツェア・レーゲン』に単騎で突撃することがいかに愚かか、それを知らないわけでもないだろうに・・・!

 

 

「・・・はぁあああああああああっ!!」

「どう言うつもりか知らないが・・・!」

 

 

序盤で数を減らしたいと言うのなら、そうしてやろう。

グッ・・・右手を開き、前に掲げる。

AICの停止結界を発動し、鈴の身体を捉えようと・・・。

 

 

・・・捉えようとした瞬間、AICの射程ギリギリの所で鈴が止まる。

過去の戦闘データからAICの射程を割り出したのだろう、射程から数ミリ外で急停止する。

脚部ブースターが砂埃を撒き上げる程の急停止、そして同時に鈴の両肩の『衝撃砲』の砲門が赤く輝く。

・・・赤いだと?

 

 

「拡散型か!」

「ご明察!」

 

 

言葉と同時に、3連射。

しかも標的は私では無い、私の足元の地面だ。

赤い拡散衝撃砲が私の足元の地面を巻き上げ、煙幕のような形で土煙が・・・煙幕か。

 

 

「目晦ましなど・・・!」

 

 

左手を振るいながら、ISのハイパーセンサーで周囲を索敵する。

宇宙での活動を想定されているISだ、土埃程度で精度は下がらない。

しかしそれは鈴にもわかっているはず・・・なら何だ。

 

 

「ラウラ!!」

<照準(ロック)されています。反応4、4時、8時、9時、12時の方向>

「・・・ッ!」

 

 

上から響くシャルロットの声と、『シュヴァルツェア・レーゲン』の警告音で反応する。

まず下に屈む、直後に頭上を4条の青いビームが通過する。

ISが周囲の音を拾う、そこには「ヒュンヒュン」と言うような音が・・・。

身体を立て直し、右手を前にしてAICの停止結界を発動。

直後、鈴の連結青竜刀を停止させる。

 

 

しかし停止結界で止められるのは一度に一方向が限度、青竜刀を止める間に他への注意が薄れることになる。

すなわち、鈴の巻き上げた土埃に紛れているセシリアの射撃ビット・・・!

 

 

「ラウラッ、動かないでね!」

 

 

頭上からシャルロットの声が響き、同時に金属に金属を叩きつけるような音が何度も響く。

立て続けに発生する発砲音、実弾が金属製の何かに着弾する音。

次の瞬間、重厚な音を響かせながら私の目前にオレンジ色の機体が着地する。

 

 

両手にハンドガンを構え、土埃を払うかのようにブンッ、と上体を回転させる。

そして両手を器用に使い、右、左、斜め下と斜め上に立て続けに発砲する。

直後に金属音が響き、何かが弾かれる気配がする。

どうやら、シャルロットがセシリアの射撃ビットを弾き飛ばしたらしい。

相変わらず、器用なことだ。

 

 

「大丈夫、ラウラ?」

「ああ、すまない。助かった・・・さて」

「うん、基本戦術は変わらないよね?」

「当然だ」

 

 

1分と経たずに土煙は消える、晴れた視界の中で敵の2人はすぐに見つかる。

アリーナ上空で、私達と同じように2人で何かを話しているようだ。

見上げる我々と、見下ろす奴ら。

 

 

さて、序盤戦はこんなものか。

互いに相手の機体特性をおおまかに理解している分、手の内もわかる。

なかなか、楽しめそうではある・・・か。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

最初の作戦は、上手くいかなかったわね。

こっちの作戦は、基本的にはラウラの1人狙い。

シャルロットの器用さと物量も怖いけど、何よりラウラのAICを止めないと戦術の幅が広がらない。

 

 

「唯一の救いは、射程がわかってることかしらね」

「対応できる対象の数も予測できていますから・・・付き合いの長さに救われた形ですわね」

「そーね」

 

 

空中でセシリアと並んで浮遊しながら、そんな会話をする。

実際、ラウラの・・・ドイツのレーゲン型のAICの射程と対応限界数の予測は、ラウラとの戦闘データが無ければ集まらなかった。

・・・まぁ、こっちの機体特性のデータも相手に取られてるんだろうけど。

 

 

どっちにしろ、AICを突破できないとラウラに直接ダメージを通せない。

つまり、私の装備だとラウラにダメージを通せない。

私達のアドバンテージは、セシリアの射撃ビット。

オールレンジでの攻撃は、AICでも止められないから。

 

 

「・・・来ますわよ!」

「よぉし・・・おっけぇっ!!」

 

 

地面に置きっぱなしだった青竜刀を量子化して収納、同時に私の手元で再構成する。

計算が難しいんだけど、近接武装は貴重だし。

それに・・・。

 

 

「やあああぁぁっ!!」

「ふんっ!」

 

 

2本の近接ブレードを両手に持ったシャルロットが突っ込んでくる、それを迎撃する。

金属が削れるような音と火花が散って、細身のブレードと青竜刀が鍔迫り合う。

私がシャルロットと近接戦に入ると、セシリアが一気に私達から距離を開く。

私達の側を青いビームとビットが駆けて行く、シャルロットの後ろにいるラウラを牽制してるんだわ。

 

 

「こんっ・・・のぉっ!」

「・・・流石っ」

 

 

強引に青竜刀を横に振るって、近接ブレードを弾く。

シャルロットはその勢いを利用して身体を回転、そのまま2本のブレードを横薙ぎに振るってくる。

空中で3歩分だけ後退して、それをかわす。

 

 

次の瞬間、シャルロットが2本のブレードを投擲して来た。

 

 

―――――不味い!

別にブレードは不味く無いけど、この後の展開が読めるから・・・っ。

青竜刀を上下縦に振るって、ブレードを弾く。

そしてその時には・・・。

 

 

「・・・っ、高速切替(ラピットスイッチ)・・・!」

 

 

シャルロットの十八番(オハコ)にして真骨頂、戦闘と同時に行われる武装切替。

ブレードを弾いた時には、すでに2丁のアサルトライフルを両手に握ってた。

反射的に『衝撃砲』の砲口を向ける、これで弾幕ごと粉砕・・・ッ。

 

 

「休んでいる暇は無いぞ!」

 

 

シャルトットを囲むように、6本のワイヤーブレードが展開されていることに気付く。

ヤバッ・・・シャルロットの攻撃を凌ぐのに気を取られて・・・!

しかもそっちに気を取られると同時に、シャルロットも武器をショットガンに持ち変えて。

 

 

・・・まぁ、楽な相手だとは思ってなかったけど。

それでも結構、ハマってる2人よねコイツら。

でも、私達も捨てたもんじゃないわよ・・・!

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

ラウラの6本のワイヤーブレードは、僕を壁にする形で鈴の不意を突くことには成功した。

そして成功するだけじゃ無く、直撃しかけた。

でも6本のワイヤーブレードは、鈴の身体に届く前に全て青いビームで撃ち落とされる。

 

 

「ちっ・・・オールレンジとは面倒な!」

 

 

背後にラウラの声を聞きながらも、僕は鈴との近接戦を続ける。

鈴はパワータイプだから、正直に言ってキツい。

ハンドガンと短剣が一体化した短銃剣を両手に持ち、嵐のような斬撃を凌いでいく。

 

 

でも鈴の一撃は本当に重い、直接は受け止められない。

打ち合う面をズラして、滑らせるように凌ぐ。

身体を回転させて微妙に距離を止めながら、ハンドガンで実弾射撃をして反撃・牽制を繰り返す。

そしてそれが何度目かになった時、鈴が下から蹴り上げる形で僕のハンドガンを蹴り弾いた。

 

 

「く・・・っ!」

「貰ったぁっ!!」

 

 

ズォッ・・・と青竜刀を振り上げる鈴、だけど僕はさらに「2歩」、下がる。

ここは・・・。

 

 

「ここは・・・私の『距離』だ」

 

 

ラウラのAICが、僕を挟む形で鈴を捉える。

何かが軋む音、それはラウラが鈴を「掴んだ」音・・・。

これが僕達の基本戦術、僕を囮にラウラのAICの範囲まで相手を引き込む・・・!

 

 

「させませんわ!」

「ちぃ・・・っ」

 

 

セシリアのビットが四方八方から弾幕を張って、ラウラの集中を削いで鈴を助ける。

だけど、流石に鈴もセシリアもラウラのAICの欠陥を良く研究してる。

普通、わかっててもそこを的確につける物じゃないけど・・・流石は、鈴とセシリアだ。

こうなってくると・・・。

 

 

「シャルロット!」

「うん!」

 

 

・・・プランBだね!

僕は鈴から一気に離れると、両手に重機関銃を呼び出し(コール)

鈴の追撃をラウラのAICの圏内に入ることでかわし、ラウラのレールカノンと合わせて実弾と砲弾の弾幕を作る。

分間600発以上の実弾・砲弾が鈴とセシリアを襲う、ダメージと疲労を蓄積させる。

 

 

これがプランB、安全圏からの面制圧。

相手が消耗するのを待って、元のプランAに戻る。

まだまだこっちは、弾倉の貯蔵は十分だからね・・・!

 

 

「流石に、大人しく的にはなってくれんか・・・」

「でも、押してる!」

「このまま押し切る!」

「うん!」

 

 

ラウラと声をかけあって、射撃を続ける。

鈴もセシリアも見事な機動で回避行動を続けてるけど、ダメージは着実に積み上げて行ってるはず。

悪いけど、このまま・・・!

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

実弾、砲弾、追尾ミサイル・・・何でもアリですわね。

シャルロットさんの武装は20種類を超えます、その全てで弾幕を張られると近付くこともできません。

よしんば近付けたとしても、弾幕を避けながらAICの圏内に入るのは危険に過ぎます。

 

 

「といって、速射での射撃では相手の防御を抜けない・・・」

 

 

回避に専念するため、ビットは戻しています。

弾幕の薄い道を選んで回避しているのですが、そちらに避けるとラウラさんの精密な砲撃に晒されます。

といってそれを嫌って弾幕の厚い方に行けば、それはそれでダメージを増やします。

・・・思いの外、厄介な戦術ですわね。

 

 

「セシリア!」

「はい!」

 

 

鈴さんの声に反応して、下に急速移動します。

地表に到達すると同時に、鈴さんが最初にしたように衝撃砲を連射して土埃を撒き上げます。

目晦まし、しかし今度は攻撃ではなく防御のために。

 

 

無論、煙の向こうからでも射撃は続いています。

何しろ、ISに目晦ましは効果がありませんから・・・。

それでも、多少の時間稼ぎにはなります。

 

 

「・・・っ、どうする・・・?」

「そうですわね、何とも・・・とにかく相手に有効打を与えないことには」

「勝ち目が無いって? 私は負けるつもりは無いわよ」

 

 

腕を掲げて防御の姿勢を取りつつ、鈴さんと短い話し合いをします。

この間にも、私達のISはシャルロットさんの放つ実弾射撃を受け続けているのですから。

視界の隅のダメージゲージが徐々に下がっているのを確認しながらも、しかし心は冷静なままに。

 

 

「もちろん、私も敗北は趣味ではありませんわ・・・さて、どうやって防御を抜きましょうか」

「何言ってんのよ、アンタなら抜けるでしょ」

「はい?」

「BTレーザーの最大出力なら、弾幕もAICも貫通して相手に届かせられるんじゃない?」

 

 

・・・鈴さんの提案に、正直、考え込みます。

確かに私のBTレーザーなら、フルバースト状態でなら・・・ISの防御を抜いてダメージを届かせられるかもしれません。

しかし、それには・・・。

 

 

「何分いるの?」

「え?」

「何分あれば準備できるのよ。言ってみなさいよ、稼いであげるから」

 

 

稼いであげるから。

自分が買い物に行くついでに、何か買う物は無いかと聞くような気軽さで。

今もラウラさんとシャルロットさんの物量に押されている状況で、何でも無いことのように。

 

 

やはり、「強い」。

 

 

ならば私も、応えなければならないでしょう。

とは言え、しかし・・・。

 

 

「その間、ラウラさん達の攻撃に身を晒し続けると・・・1人で?」

「アンタの準備が整うまで私が戦うだけでしょ、簡単じゃない。で、何分?」

「・・・・・・1分、いえ、45秒、頂けるかしら?」

 

 

何分なんて言わない、1分以下で必ず仕留めて見せる。

ライフルを両手で持ち、モードを切り替える。

細長いライフルの先端が開き、銃口の先にターゲット・サイトのようなディスプレイが3重に連なります。

 

 

「45秒ね・・・おっけー。自信、あるんでしょうね?」

「無論ですわ、私を誰だと思っているんですの?」

「私の親友」

「その通りですわ」

 

 

鈴さんは必ず、私のための時間を稼いでくれる。

それは疑わない・・・私の親友を疑う気持ちを、私は持ち合わせておりません。

私は誇り高き、オルコットの娘なのだから。

 

 

「その言葉に・・・必ず応えて見せますわ」

「よっし、じゃあ・・・」

 

 

感覚を研ぎ澄ませていくと、周りの音が消えて行きます。

光も音も届かない、不思議と静かな・・・ここは、私の「世界」。

次に全ての光と音が戻って来た時こそ。

 

 

「・・・行くわよっ!!」

 

 

私の誇りにかけて、必ずや全てを撃ち抜いて見せる――――――。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

・・・何か、仕掛けてくるな。

ISで特定した位置に砲撃を続けながら、そう判断する。

根拠は無い、ただ私の戦士としての直感がそう告げているだけだ。

 

 

「シャルロット」

「うん、そろそろ次の段階に行こうか」

 

 

シャルロットも私と同じように何かを感じたのか、短い返答を返してくる。

このパートナーは、こちらがいちいち説明しなくとも理解してくれるから助かる。

残りの弾数とも相談しつつ、こちらからさらに攻勢に出るべき時だと判断―――――。

 

 

次の瞬間、下から急速に何かが接近してくることに気付いた。

 

 

AICの停止結界を発動し、それがシャルロットに届く前に止める。

それは鈴の連結青竜刀、「双天牙月」。

またコイツか、馬鹿の一つ覚えでもあるまいし。

 

 

「・・・来るよ!」

「む・・・」

「・・・・・・ぜぇやああああああああああぁぁぁっっ!!」

 

 

地表の土煙を全て吹き飛ばす勢いで、赤みがかった黒の機体が飛び出してくる。

各部のスラスター出力を微妙に調整し、スラスターごとに個別に『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を行うその機体の速度は、極めて短時間で音速に迫ってくる。

 

 

AICで止めた青竜刀を手で掴み、それをそのまま下から切り上げる形で振るってくる。

私はそれを、両手のプラズマ手刀で受け止める。

実体剣とプラズマの刀身が衝突し、耳をつんざくような音が響く。

 

 

「停止結界・・・!」

「させるかぁっ!!」

 

 

ギュンッ、と鈴の両肩の『衝撃砲』の砲口が私を向き、私の意識が一瞬、そちらに引かれる。

しかし次の瞬間、その砲口は私ではなく反対側・・・鈴の後ろを向いた。

直後、後ろに向けて拡散型の『衝撃砲』が火を噴いた。

その紅い衝撃は、鈴を背後から撃とうとしたシャルロットに直撃する。

 

 

「うわ・・・っ!」

「シャルロット! ・・・ぐっ!?」

 

 

シャルロットに気を取られた瞬間に蹴りを入れられ、機体を離される。

そこから『衝撃砲』の砲撃を受け、私は両手を目前で交差しながら衝撃に耐えた。

それを受け切った後、左眼の眼帯をむしり取る。

 

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』。

私の動体視力、視覚解像度などを数倍に引き上げるこの瞳は、いかに鈴が高速戦闘を行おうとそれを捉えることができる。

そして、鈴以外の動きも。

 

 

「本命は・・・セシリアか!」

 

 

右肩のレールカノンを起動し、数秒で照準を合わせる。

私の視線の先には、アリーナの地表に膝をついてライフルを構えるセシリアの姿が見える。

ライフルが見たことも無い形状に変化しているが、エネルギーを溜めていることは明白だった。

そして鈴のこの突貫・・・アレが本命、切り札と見て間違いないだろう。

ならばそれを潰せば、我々の勝利は確定するも同然。

 

 

「やば・・・っ!」

「おっと、行かせないよ!」

「くっ・・・このぉ!」

 

 

私の動きに気付いた鈴だが、シャルロットに行く手を遮られてどうすることもできない。

苦し紛れに横投げで投擲した連結青竜刀「双天牙月」も、シャルロットにあっさりとかわされてあらぬ方向へと飛んで行くばかりだ。

 

 

「・・・まず1機!」

 

 

数秒後、最大出力でレールカノンを発射。

電磁加速された砲弾は、一直線にセシリアへと向かう。

これでまずは1機撃墜、残るは消耗しきった鈴の『甲龍(シェンロン)』のみ・・・。

 

 

・・・?

顔を上げると、鈴と目が合う。

その顔は悲嘆にくれているわけでも緊張しているわけでも無く、不敵な笑みを浮かべている。

何だ、どう言う・・・まさか。

 

 

「・・・何ぃ・・・」

 

 

視線を戻す、先程までセシリアがいた場所、今まさに私が砲撃した場所へだ。

そこには当然、砲撃のダメージで倒れたセシリアが・・・。

・・・セシリアが、変わらぬ体勢で存在していた。

エネルギーの充填も、止まっていないだと・・・!?

 

 

「いったい、何故・・・」

 

 

視覚情報の伝達速度が上昇した左眼が、私の呟きへの答えを見つける。

それは、セシリアの周囲に散らばる金属片の存在。

特に地面に突き立った大きな破片は、先ほど鈴が投擲した連結青竜刀と同系色の・・・っ!

 

 

まさか、連結青竜刀を投擲して・・・ブーメランのように投げて、私の砲弾を撃ち落と・・・いや、盾のように間に割り込ませたのか!?

私の砲撃よりも数秒早く投擲することで、武装速度を補ったと・・・射線の予測さえ出来れば、不可能では無いとはいえ・・・。

・・・・・・やってくれる!

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

ぅあっぶなぁっ!?

ちょっとでも計算狂ってたら、セシリアに直撃してたわね・・・!

あれだけ啖呵切っといて直撃なんてさせたら、カッコ悪いことこの上無いわよ。

 

 

「やるね! 鈴!」

「そりゃどうも!」

 

 

かー・・・っ、でも近接武装が無くなったのはキツいわねぇ。

連結青竜刀はラウラの砲撃を止めるのでぶっ壊れちゃったし、コレはちょっと不味いかも。

シャルロットのショートブレードとアサルトライフルの連続攻撃を拡散衝撃砲と『甲龍(シェンロン)』の格闘能力だけで、何とか凌ぐ。

 

 

視界の隅には、常に時間とエネルギー残量が表示されてる。

セシリアの準備には、まだちょっと足りない。

具体的には、あと14秒・・・!

 

 

「ぐっ・・・!?」

 

 

背中が爆発する、もちろんスラスターが壊れたわけじゃない。

ラウラのレールカノンが直撃しただけよ、全然痛く無いわ。

エネルギー・ゲージ・・・ッ!

 

 

砲撃の衝撃でバランスを崩した所に、武装を持ち変えたシャルロットの連想ショットガンの弾丸が来る。

着弾と同時に重いパンチみたいな衝撃が走って、エネルギーと一緒に装甲を四散させる。

『甲龍(シェンロン)』が悲鳴みたいな警告音を上げる・・・ゴメン『甲龍(あいぼう)』、もう少しだけ頑張って・・・!

 

 

「墜とさせてもらうよ! 鈴!!」

 

 

左手のショットガンを投げ捨てながら、シャルロットが右手に近接ブレードを握るのが見える。

そこから急加速してくるのを目で捉えて、判断する前に身体が動く。

両手をパァンッ・・・と打ち合わせて、『甲龍(シェンロン)』の掌でブレードを止める。

いわゆる、白刃取り・・・勢いで出来るとは思わなかったけど。

 

 

でもそれだけに構ってられない、私はもう1人・・・ラウラの方を見て。

ラウラがもう一度、レールカノンでセシリアを狙ってるのを見て。

『衝撃砲』もスラスター代わりに使って、シャルロットから離れる。

全てのスラスターを段階的に吹かして・・・『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』!

 

 

「さぁっ、せぇっ、るぅっ、かぁあああああああああああああっっ!!」

 

 

瞬時に移動して、逆に一気に制動をかける。

耐えきれず、脚部の装甲に罅が入ることがわかる。

そして、覚悟の時間。

 

 

「くぁっ・・・きゃあああああっ!?」

 

 

ラウラのレールカノンの連射を、正面から受けるハメになる。

仕方が無い、他にセシリアの盾になれる物が無い。

約束は守る、自分の身を盾にしてでも。

 

 

後、8・・・7・・・6・・・5・・・!

レールカノンの射撃が唐突に終わる、気が付けば身体が動かない。

ダメージで動かないわけじゃない、ただ何かに掴まれたように動けないだけ。

つまり・・・。

 

 

「やっと捉えたぞ、AICの停止結界の中にな」

 

 

右手で何かを掴むような仕草をしてるラウラが、視界に入る。

掴まれる・・・そう、AICに捕まったのね。

気のせいで無ければ、データより射程が広いんだけど。

まぁ、アレだけ足を止められちゃね・・・。

 

 

・・・でも、私は笑う。

普通ならこれで負けだけど、負けじゃ無いから笑う。

笑う・・・だって、信じているから。

私の親友は、私との約束を破らないって信じているから。

 

 

「・・・・・・ゼロ」

 

 

私の親友を疑う気持ちを、私は持っていないの。

蒼穹の射手が・・・全てを撃ち抜いてくれるって。

そして私がそう信じた、信じ続けた刹那。

 

 

私のすぐ横を掠める形で、青い光が空間を引き裂くように疾走した。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

ひゅううぅ・・・。

自分が深く息を吐く音が、やけに大きく聞こえますわ。

外の音は何も聞こえない世界で、嫌に大きく響きます。

 

 

そしてBTレーザーの収束する音、私の目の前に展開された何重もの照準器(スコープ)が計算する音。

それから最大収束射撃の衝撃に備えて、『ブルー・ティアーズ』の脚部から金属製の杭がアリーナの地面に打ち出されます。

それが私と機体を地面に固定し、支えてくれます。

 

 

「・・・クロスヘア、合わせ」

 

 

ハイパーセンサーを併用した特殊な照準器(スコープ)が、照準線とレティクルを合わせます。

電子の十字架が、私の目の前で揃います。

エネルギー充足・・・。

 

 

何か、「世界」の外側で大きな振動があったような気がします。

 

 

砲弾が壁にぶつかったような、空気の震え方でした。

しかしそれも、今の私には関係ありません。

記憶も感情も全て後回しにして、ただただ集中するだけです。

それは・・・何のためだったのでしょう。

 

 

「ひゅう―――」

 

 

今度は息を吸う音。

そして、『ブルー・ティアーズ』が私に告げる。

照準確定(ターゲット・ロック)、BTエネルギー充填、収束・・・「完了」。

 

 

 

直後、全てが元に戻ります。

 

 

 

「世界」が一瞬で消え去り、全ての音と光が戻ってきます。

瞳には光景が、耳には音声が、肌には吹き荒ぶ風が。

そして心には・・・目的が。

そう、私は。

 

 

「鈴さん―――――」

 

 

親友(とも)が、約束を果たしてくれたことを知ります。

同時に状況を把握します、鈴さんがラウラさんのAICに捕まっていることに気付きます。

トリガーにかけた指先に、全身の力がかかるような錯覚を覚えます。

 

 

鈴さんは私に、BTレーザー収束のための時間をくれました。

ならば今度は、私が約束を果たす番です。

1秒以下のその刹那に、私はそれら全てを思い出します。

そして、トリガーにかけた指先に力を込めます。

迷わず、引き金を引きます。

 

 

「鈴さんが信じてくれたように・・・私と『ブルー・ティアーズ』が、全てを撃ち抜く―――――」

 

 

キュンッ・・・! と、耳に残る甲高い音を2度続けて立てて。

通常の物よりもより細く、通常の物よりもより速く、通常の物よりも・・・貫く。

今の私に可能なBTレーザー最大出力、最大収束。

 

 

・・・この一撃を。

私を信じてくれた、かけがえのない親友に捧げます。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボ-デヴィッヒ

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の封印を解いている私は、停止結界を通常よりも広い射程と精度、強度で発揮することができる。

しかしそうは言っても、欠陥を埋めることはできない。

 

 

「ぐ・・・!」

 

 

セシリアが高密度のBTレーザーを放ったことは、ISのハイパーセンサーがキャッチしている。

照準(ロック)された瞬間には反応していたし、瞳の封印を解いている今なら大抵の攻撃は止められる。

そう判断したのだが、どうやら見通しが甘かったようだ。

最大出力・最大収束のBTレーザーの貫通力が、まさかここまでとは・・・!

 

 

AICの薄い膜のような停止結界の網に、細く鋭い青いレーザーが突き刺さる。

停止結界を制御している私の脳に、まるで鋭いナイフで刺された時のような感覚が走る。

薄い膜を突き抜けるように、BTレーザーが高速で進む。

止められない、貫通力が高すぎる。

 

 

「・・・ッ!」

 

 

停止結界を最大出力で発動、レーザーを止めようと試みる。

常人では知覚することすらできない速度のそれを睨みつけ、力を行使する。

その甲斐あってか、レーザーの速度は徐々に落ちていく。

この本命の一撃さえ止めてしまえば、我々の・・・っ!?

 

 

「うらあああああああああぁっっ!!」

「鈴・・・!?」

 

 

私がレーザーに全神経を集中させていた結果、鈴の拘束が緩まったらしい。

衝撃砲を背後に撃って推進力の代わりとし、私に突撃を慣行した。

しかしその背後には、『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』を構えたシャルロットがいるのが見えた。

盾殺し(シールド・ピアース)を構え、鈴に背後からとどめの一撃を撃ち込もうとしている。

だから私は、安心してセシリアのレーザーを・・・。

 

 

キュンッ・・・甲高い音が、響いた。

 

 

それは私が止めかけているレーザーとは別の、2つ目のレーザー。

そしてそれが、シャルロットの『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』を正確に撃ち抜いた。

砕け散るオレンジ色の装甲に、愕然とする。

盾殺し(シールド・ピアース)の展開でシールドをパージしたのが、裏目に出たようだ。

 

 

「な、にぃ・・・っ!?」

 

 

そして、鈴が私の停止結界を突破してくる。

装甲の剥がれかけた腕が私に触れると、AICへの集中が途切れる。

結果、止めかけていたレーザーが私の身体を貫く。

それは凄まじい衝撃と共に、私の機体のエネルギーを大幅に削り取り・・・。

 

 

「が・・・っ!?」

 

 

そして私の視界で、鈴の衝撃砲の砲口が私の方を向いていることに気付く。

それは、鈴ごと私を狙うかのような―――――。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

「ラウラ!!」

 

 

セシリアのBTレーザーで武装ごと腕の装甲を飛ばされた、シャレになってないよ。

でも僕よりも、鈴と組み合った形になったラウラの方が大問題だ。

何しろあの直後、鈴が自分ごと『衝撃砲』を最大出力で7連射したから。

アリーナの上空には、その衝撃の余波で出来た煙の塊が浮かんでる。

 

 

そして不意に、その煙の中から何かが2つ落ちてきた。

アリーナの地表に大きな音を立てて墜落したそれは、2機のIS。

鈴と・・・ラウラ・・・!

 

 

「・・・ッ」

 

 

それを確認した直後、僕の周囲に青い射撃ビットが展開されていることに気付く。

瞬時に反応して、複雑に交差するビームの網の中を飛ぶ。

急加速と急減速を繰り返し、機体をブレさせるように飛んでビームを避ける。

 

 

避けるだけじゃダメだ、だから反撃する。

両手にアサルトライフルを呼び出し(コール)、引き金を引きながらアリーナの空を駆ける。

ビットの位置を予測し、ビームを避け、武装を切り替えながら撃つ。

これを繰り返して、ビットの数を減らしながらアリーナの地表から動かないセシリアに近付く・・・!

 

 

「つぅ・・・ぁっ!」

 

 

ビームの雨を何とか抜けて、空気の床でも蹴るかのように『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。

一気に上昇して、同時に武装の高速切替(ラピットスイッチ)を行う。

手にしたそれを掲げるように持った後、勢い良く前に構える。

 

 

今度手にしたのは、狙撃銃。

細身で銃床が大きく肉抜きされたタイプの、実弾のオートマティック式狙撃銃『ドラクロワ』。

銃床上部のスコープに片目を合わせるように構えて、ビットの向こう側のセシリアに向ける。

狙撃で勝てるかは微妙だけど、速さなら・・・!

 

 

「・・・セシリアッ!!」

「シャルロットさん・・・ッ!!」

 

 

スコープ越しに、セシリアと刹那の間に睨み合う。

『リヴァイヴ』が照準確定(ターゲット・ロック)を告げ、同時に相手に照準確定(ロック・オン)されたことを教えてくれる。

 

 

この期に及んで、回避なんてしない。

と言うより、この状況に追い込まれた時点で・・・。

・・・勝負!

 

 

「行くよ、『リヴァイヴ』!」

 

 

引き金にかけた指を引くと同時に、独特の射撃音と振動が伝わってくる。

同時に、セシリアも撃ってくるのがわかる。

実弾とレーザーが、一刹那だけ交差する。

 

 

時間が一瞬だけ、止まったかのような錯覚を覚える。

そして次の瞬間には、結果だけが僕達の前に表れる。

それは・・・・・・この試合の勝者を知らせることになった。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

『「シュヴァルツェア・レーゲン」、エネルギー残量0、戦闘続行不可能を確認』

『「甲龍(シェンロン)」、エネルギー残量0、戦闘続行不可能を確認』

『「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ」、エネルギー残量0、戦闘続行不可能を確認』

 

 

・・・アリーナの予備の中継室で椅子に座って、山田先生の声を聞いている。

ここにいるのは、私1人だ。

1人の方が、いろいろと落ち着いて考えることもできる。

 

 

『「ブルー・ティアーズ」、エネルギー残量20、戦闘続行可能を確認。よって・・・』

 

 

それに、こうして試合を落ち着いて見ることもできるしな。

 

 

『よって、一回戦第一試合の勝者は凰(ファン)・オルコット組となりました!』

 

 

わあぁ・・・と会場から響き渡る歓声。

国家候補生の激しい戦いに、会場の観衆は興奮冷めやらぬ、と言うような感じだった。

まぁ、私から見れば・・・。

 

 

「まだまだ詰めが甘いよなぁ」

「ふ・・・そうだな」

 

 

ギシ・・・ッ、と椅子を軋ませながら背もたれにもたれかかり、腕を組む。

そして、隣の席に座っているアイシャの言葉に頷く・・・って、オイ。

 

 

「・・・いつの間に、とは言わん。だから代わりに答えろ、何でここにいる?」

「え? そりゃチフユと積年の決着をつけに」

「良し、私が悪かった。質問を変更する。どうして今、ここで、フライドポテトを食べながらさも当然のように私の横に座っている?」

「え? そりゃチフユと一緒に観戦したかったからに決まってんじゃん。ポテト食う?」

「・・・・・・いらん」

「じゃ、私が貰うよ」

「あっ、てめ!」

 

 

・・・・・・はぁ。

溜息を吐きながら椅子に深く座り直すと、何故か私の隣でアイシャに加えてジーナがポテトの取り合いをしている。

と言うか、さっきまで私は確かに1人だったはずだが・・・。

 

 

「イギリスの候補生の射撃、なかなかでしたわね」

「あの収束レベルは、もしかすると代表クラスかもしれませんね・・・」

 

 

反対側では、何故か豪州のソフィーとスペインのアデリタが紅茶を飲んでるし。

何なんだコイツらは、最近見ないと思って油断していたら・・・。

・・・このタイミング、か。

 

 

「さて、次は例の機体の子の番ね」

 

 

・・・そして、イタリアのレディアまでいる。

と言うか、モンド・グロッソ級の国家代表がゾロゾロと。

例の機体・・・『黒叡(こくえい)』か。

 

 

『黒叡(こくえい)』の試合を見に、やってきたのか。

もちろん、ただ見に来ただけでは無かろうが・・・。

だが、下手に手を出すことも出来まい。

 

 

「・・・それで、何しに来たんだ」

「「「「「チフユに会いに」」」」」

「それはもう良い」

 

 

お前らに大人気だったとしても、嬉しくも無いぞ。

 

 

「んー・・・まぁ、何と言うか」

「若干、面倒な命令を受けていましてね」

「面倒な命令・・・?」

「そ、しかも本国からのな。あー・・・面倒くせーな」

 

 

アデリタとジーナの返答に、眉を顰める。

面倒な命令、しかも本国から・・・委員会からか?

 

 

「・・・さて、あの能力を封じるにはどこまでやれば良いのかな・・・」

 

 

誰かが呟いた言葉に、私は表情を変えない。

しかし、思う。

その言葉の意味を。

表面通りでは無く、その裏の意味を。

 

 

コイツらは、最終的には国の命令に従うだろうが。

しかし、同時に戦友(とも)を裏切らない矜持を持つ奴らでもある。

それは同時に併存し、そして無関係にもなれる。

つまり・・・。

 

 

―――――まさか。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

―――――IS学園、最下層。

地下数百m、深く昏いその場所には21のデスマスクが浮かんでいる。

人の顔をしたスクリーンの向こう側には、顔も性別も判別できない黒い影のような物が浮かんでいる。

 

 

『学園の代表共に、命令は出したのか』

『出した』

『では、もうすぐだな』

『確かに』

 

 

いくつもの顔が明滅し、機械的な音声が響き渡る。

彼らは国際IS委員会・・・ISの運用を司る21人。

彼らは常に、世界のISの動きについて目を光らせている。

 

 

今、広い空間の中央には欧州を中心とした世界地図が浮かんでいる。

電子的に投影された半透明な地図の上には、合計467個の赤い駒マークが浮かんでいる。

チェスの駒のように各国各都市に配置されたそれは、国際IS委員会が管理しているISのコアの所在地である。

 

 

『ポルトガルのコアを1つ失ったのは、惜しまれるが・・・』

『仕方あるまい、それで始末できたと考えればお釣りが来る』

『しかし、本当に始末できたのか・・・?』

『ISの反応が消失する程の爆発だ、生身で耐えようはずも無い』

『それよりも・・・』

 

 

ポゥッ・・・と、いくつかのコアを表す黄色の駒が地図の上に浮かぶ。

極東の島国に表示されたそれは、国際IS委員会の管轄外のコアである。

 

 

『・・・さて、これをどうするか』

『どこの所属にしても、皆が納得すまい』

『3つに分けるにしても、不満の出る陣営もあろう』

『特に欲しい一つは、重なっているのだからな』

 

 

そしてこれらのコアについては、まだ結論が出ていない。

結論を出そうとしても、出せないのである。

ある一点を除いては、委員会の利害は必ずしも一致していないのである。

 

 

今もまた、自分達の管轄外のコアの配分について話し合いを続けている。

議論が終わる気配は無く、とりあえず委員会の保有とする案まで出る始末だ。

それぞれの利害が絡み、議論は終わる気配は無く・・・。

 

 

『まったく、話にならんな』

『まぁ、とにかく確保することから始めるべきだろう』

『同意する』

『異論は無い』

 

 

それでも、不毛な議論が終わりかけた時。

 

 

『む・・・』

『どうした?』

『おかしい、接続が切れない』

『何、そんなバカな・・・何故だ』

 

 

―――――ヴ―――――

 

 

『システムの不具合か?』

『まったく、これだから遠隔同時通信は・・・』

 

 

―――――ヴ、ヴン・・・ッ―――――

 

 

『いや待て、こんなことは一度も・・・何かおかしい』

 

 

・・・そして、彼らはふと気付く。

これまで、21の顔の内20までしか話していないことを。

最後の1が、何も話していないことに。

 

 

―――――ヴヴンッ、ヴンッ―――――

 

 

不意に、世界地図を映していた投影装置が乱れる。

乱れて、映像が途切れ・・・そして、別のものを映し出す。

それは地図では無く・・・一人の女性だった。

それは・・・彼らにとっても「恐怖の対象」。

 

 

『き、貴様は・・・!』

『ま、まさか・・・何故ここに!?』

『ぉ、ぉおおおぉ・・・ぉ・・・!』

 

 

アリスと白ウサギが同居したような衣服を纏った女性・・・正確には、女性を象っている3次元映像。

乱れがちな映像、音声は無い、だがそれが恐怖をさらに煽る。

映像の乱れか、前髪のせいか・・・目が隠れて、見えない。

 

 

だが顔の下半分、具体的には唇がニィ・・・と笑みの形に変わる。

それはとてもゆっくりとした変化であり、見る者に生唾を飲み下させるには十分な時間だった。

そして、三日月形に歪んだ形の良い唇が何かの言葉を紡ぐ、音は無いが唇の形で何を言ったかはわかる。

それは・・・。

 

 

 

 

    ・・・・・・ミィ、ツケ、タ・・・・・・

 




篠ノ之 楓:
それでは、勝利者インタビューだよ。

セシリア・オルコット:
ふふ、まぁ、少しは付き合って差し上げても・・・。

篠ノ之 楓:
凄かったね、鈴さん!

セシリア・オルコット:
・・・!?

凰 鈴音:
まぁね、あー、キツかったー。

篠ノ之 楓:
途中、1人で戦ってたもんね!

セシリア・オルコット:
そ、それは作戦で・・・ちょっと楓さん!? 私の話を・・・!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。