インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第38話:「その姉妹、舞踏」

Side 篠ノ之 楓

 

うん、鈴さん達の戦いは凄かったよね。

確かに、そこは認めざるを得ないよね。

まぁ、そんなことでIS壊さないでほしいわけだけど、そこはまぁ良いよ、うん。

 

 

でもね、私にそこまでを求められても困るわけで。

うん、だってほら、私って戦闘とかからきしだからさ。

・・・なんて言っても、もう無理だよねぇ・・・。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

第3アリーナの中央の空で、簪ちゃんの横に並ぶ。

もちろんそれぞれのISを展開した上で、しかも当然対戦相手も目の前にいるわけです。

しかもその対戦相手は、私達の「お姉ちゃん」なんだよね・・・テンション、下がるよ。

 

 

と言うか、簪ちゃんが「お姉ちゃん」である所の会長さんと物凄く睨み合ってるんだけど!

え、何、喧嘩継続中・・・!?

私は、助けを求めるように箒姉さんを見るけど・・・。

 

 

「・・・」

 

 

箒姉さんは無言で首を振って、言外に「諦めろ」って伝えてくる。

そ、そんなぁ・・・。

 

 

『それでは、1回戦第2試合を開始します!』

 

 

アリーナに響く山田先生の声、もう選手紹介も終わってるんだよねー。

と言うわけで、もうすぐ試合なわけで。

うーん・・・まぁ、簪ちゃんのためにも、とりあえずは頑張らないと。

でも、箒姉さんが相手だし・・・うん、勝てる気が・・・。

 

 

「・・・楓」

「は、はい?」

「本音」

『はいはい~』

 

 

ISの通信を通じて聞こえるのは、ピットルームで私達をバックアップする本音ちゃんの声。

私達の機体の調子とか、試合全体のこととかを見ててくれる役目。

まぁ、オペレーター・・・的な?

 

 

朝は作戦通りにすればイケるって言ってたけど、でも箒姉さんが向こうにいる以上は『 Trismegistus System 』はちょっと意味が無いんだよね。

会長さんには効くだろうけど・・・ナノマシンのチャージもしないといけないし。

結構、使い勝手が悪いんだよね、発動すれば強いんだけど。

 

 

「・・・頑張ろう」

『ほいほ~い、お姉ちゃん達をギャフンと言わすよ~』

「ぎゃ、ぎゃふん・・・まぁ、うん、なんとかなるよね」

『なるよなるよ~、なるなるよ~』

 

 

本音ちゃんの声を聞いてると、何だか気分が上向いてくる。

うん、まぁ、頑張ってみよう。

ぎゃふんと・・・言わせよう、うん。

私と、簪ちゃんと、本音ちゃん。

 

 

『それでは、1回戦第2試合・・・・・・』

 

 

3人揃えば、どんなことだって。

 

 

『・・・・・・始め!』

 

 

シスターズ3人揃い踏み、初めての共同作業だよ・・・!

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

試合開始と同時に、簪ちゃんが向かってきた。

それは予想していたことだったし、この間のやりとりからも自然な行動だと思う。

まぁ、思い出す度に虚ちゃんと落ち込みまくってたけど。

 

 

ところが、簪ちゃんは私の方に来なかった。

 

 

簪ちゃんが『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で突撃をかましたのは、箒ちゃんだった。

簪ちゃんの突き出した薙刀の切っ先を、箒ちゃんは驚きながらも交差した刀で受け止める。

さらに加速して、箒ちゃんを押し出す形で簪ちゃんは私から離れる。

自然、私の前に残ったのは・・・。

 

 

「・・・えへっ」

 

 

てへっ、みたいな感じで笑顔を浮かべる楓ちゃんだった。

それはそれで可愛らしいんだけど、何だか凄く意外だった。

まさか、楓ちゃんを私にぶつけてくるとは。

 

 

「・・・じゃあ、まぁ、やりましょうか」

「やだ!」

「・・・なら、簪ちゃんの方に行くわよ?」

「困る!」

「素直な娘は、おねーさん嫌いじゃ無いけどね」

 

 

とは言え、時間を置くと箒ちゃんが簪ちゃんにやられる可能性があるから。

ナノマシンで構成された水を右手のランス『蒼流旋(そうりゅうせん)』に纏わせて、武装を完成させる。

それは同時に、周囲をも私のナノマシンの影響下に置くことを意味する。

 

 

だけどその「水」が、乱れる。

ナノマシンで構成されたそれが乱れるのは、別のナノマシンの干渉によるもの。

そしてそのナノマシンは「水」のように透明では無く、「黒」い・・・。

 

 

「むっふっふっふっ・・・」

 

 

目の前の楓ちゃんが悪そうな笑みを浮かべるのを見て、察する。

『ミステリアス・レイディ』の装甲と装備の大半は、「水」のナノマシンを操作することで機能している。

それは逆に言えば、ナノマシンを操作できなければ大半の能力を封じられることを意味する。

両肩のアクア・クリスタルと言うナノマシンの精製装置が、動かなければ・・・。

 

 

「・・・簪ちゃんに聞いたのかしら?」

「違うよ、この作戦を思い付いたのは・・・なんとびっくり、本音ちゃんです!」

 

 

ふぅん、本音ちゃんなんだ。

まぁ、虚ちゃんから聞いたのかもしれないわね。

この機体の弱点と言うか、特性を。

 

 

『いえ、私は教えていません』

「ふぅん・・・まぁ、良いけどね」

 

 

ピット・ルームの虚ちゃんの声に、とりあえず頷く。

とん、とん・・・と、水が螺旋をやめたランスで肩を叩きながら目を閉じる。

そして、次に目を開いた時には。

 

 

私は、楓ちゃんの背後に回っていた。

 

 

ランスを振り下ろすと、楓ちゃんの機体のソード・ビットが盾を作る。

自動防御、そのエネルギーの表面とランスが衝突する。

振り向いた楓ちゃんと視線を合わせて、私は笑みを浮かべた・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

まさか、簪が私の方に来るとは思わなかった。

確かに私も、トーナメントとは言え楓と戦うことに気が引けてはいたが。

そしてそれは、楯無先輩も同じだと思っていたが。

 

 

「こ・・・のぉっ!」

 

 

2本の刀、雨月(あまづき)と空裂(からわれ)を交差させるように振るい、簪の薙刀を弾く。

簪はその勢いを利用して反転、叩きつけるように切っ先を向けてくる。

人馬を「薙ぐ刀」と書くだけあって、その威力は凄まじい。

 

 

特に小脇の構えからの連撃が厳しい、刃で薙ぎ、柄で私の斬撃を受け止め、くるりと回して石突きで突いてこちらの胴や喉元を狙ってくる。

これはいわゆる、車返しと言う奴か・・・車が回るように連撃を打ち込んでくる戦法。

しかも対複合素材用の振動薙刀、受け止める度に金属が削れる独特の音が響く。

 

 

「はあぁ・・・っ!」

「ぬんっ!」

 

 

火花が散り、金属が削れる音が響く。

ISの操縦はどうだか知らないが、武術で負けるわけにはしかない。

篠ノ之流は、戦国時代を生き抜いた流派なのだから・・・!

 

 

―――――篠ノ之流、盾刃の構え。

息を深く吸い、簪の突きに合わせて構えを変える。

刀身を受ける形で肩の軸を動かし、反撃に転じる。

 

 

「『雨月(あまづき)』ッ!」

 

 

私の反撃はかわされるが、雨月の刀身から放出された赤いレーザーが簪の機体を焼く。

流石の簪も機体を焼かれる感触に顔を歪め、私から大きく後退する。

逃がさな・・・ッ!?

 

 

<警告、敵性ISにロックされています>

 

 

気が付けば、私から離れた簪の機体の様子が変わっている。

ウイングスラスターから6枚の板がスライド、そこには8連装のミサイルポッドが見える。

アレは、『キャノンボール・ファスト』でも見た・・・!

 

 

「・・・『山嵐(やまあらし)』ッ!!」

 

 

48発のミサイルが放たれ、それぞれ3次元躍動の複雑な軌跡を描きながら迫ってくる。

私は素早くスラスターを噴かせて後退しながら、刀を構える。

様々な方向から殺到するミサイルの群れ、時間差もある、だが『紅椿(あかつばき)』には通じない。

何故なら・・・!

 

 

「『空裂(からわれ)』ッ!!」

 

 

対集団戦用の刀『空裂(からわれ)』は、斬撃と共に帯状の攻性エネルギーを放出することができる。

振るった範囲に自動で展開する、私はそれをそれぞれの方向に合計3度、振るった。

帯状に広がった赤いエネルギーが、コヨーテの群れのように群がって来たミサイルを一つ残らず撃墜する。

 

 

「良・・・何!?」

 

 

そのまま爆発する物と思っていたミサイルはしかし、爆発はしなかった。

その代わり、やけに濃い白い煙をそれぞれ吐き出して・・・煙幕か!

 

 

「く・・・小癪な真似を!」

 

 

大方、煙から出たら本物のミサイルで狙い撃ちにされるのだろう、あるいは煙に紛れて奇襲してくるかもしれない。

私はISのハイパーセンサーを頼りに、2本の刀を構えて身構えた・・・。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

はー・・・やるわね、あの子。

選手用の控室でスポーツドリンクを飲みながら、スクリーンの試合に見入る。

特に簪って子、思ったよりも活動的に動くタイプだったのね。

 

 

「そう言えば、『キャノンボール・ファスト』でも割と攻撃的だったわよね」

「頼りなさげな見た目に反して、なかなかアクティブですわ」

 

 

今、ミサイルに見せかけた煙幕弾で箒を捕まえた所。

たぶん箒はそのまま戦闘が続くと思ってるんだろうけど、そうじゃない。

簪は煙幕の中から箒が出てこないのを確認すると、別の戦場に向けて急速移動した。

つまり、楓を助けに行ったのね。

 

 

これもたぶんだけど、簪は遊撃役なんだと思う。

攻撃兵器の無い楓がパートナーなら仕方ないと思うけど、攻撃の全てを簪が担当してる。

正面の敵を足止めして、別の敵を叩く。

その間、楓はただ耐えていれば良い。

そして楓の機体特性上、楯無会長の機体の動きを阻害しながら動ける。

まだ、『 Trismegistus System 』は使って無いみたいだけど・・・使うと簪も止まるからね。

 

 

「てっきり『箒姉さんなんて大嫌い!』とか言って、箒を戦闘不能に追い込むのかと思ったんだけど」

「それは流石に・・・」

 

 

セシリアは苦笑してるけど、私は割と本気で言ってるわよ。

だって箒、昨日まで滅茶苦茶悩んでたもの。

 

 

「・・・にしても、簪だって戦場全体を見れるわけじゃない。それでも正確に相手を変えるタイミングを計れてるってことは・・・」

「そうですわね・・・おそらく、優秀なオペレーターがついているのでしょう」

「本音・・・か」

 

 

正直、あんまり警戒して無かったけど・・・なるほど、「シスターズ」、ね。

簪も流石に候補生だけあって強いし、楓も操縦はともかく機体のスキルは侮れない。

そして本音・・・一夏との模擬戦の様子も話には聞いてるし、割と凄いのかもしれない。

なかなか、油断できないグループかもね。

 

 

「・・・それで、鈴さん。『甲龍(シェンロン)』は大丈夫ですの? お身体は?」

「うん? あはっ、大丈夫だいじょーぶ! 私も『甲龍(シェンロン)』も問題無し、次の試合も全力でイケるわよ」

 

 

まぁ、流石にそこそこダメージ残ってるけどね。

ラウラの砲撃をまともに喰らった時は、今だから言うけどかなりヤバかったからね。

・・・と、まぁ、とりあえず。

 

 

「どっちにしても、この試合の勝った方と戦(ヤ)るわけだけど」

「そうですわね・・・」

 

 

セシリアと2人、スクリーンの試合を見上げる。

そこには、楯無会長との戦いで苦戦する楓の姿が映ってた。

・・・楓が戦闘で勝ってるイメージ、無いけどさ。

 

 

「・・・うん?」

「あら・・・?」

 

 

その時、ISに秘匿通信でメッセージが届いた。

どうやら、セシリアの方にも来てるみたいだけど・・・って、これ・・・。

その文面を見て、私は血の気が引いて行くのを感じた・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

『 Trismegistus System 』の発動条件は・・・と言うより、どうも単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)そのものの発動条件は操縦者の「感情」に拠る所が大きいらしい。

機械であるはずのISの能力を、どうして感情が左右するのかはわからない。

 

 

「・・・ねぇ、楓ちゃん?」

「はい?」

 

 

不意に声をかけられて、私は思考の海から浮上する。

今まさに、会長さんと戦ってると言う状況に。

ソード・ビットの盾と会長さんのランスが何度も打ち合う音が響く、6つで盾を作るんじゃ無く3つずつで盾を作るように設定してあるから、その分会長さんの速度に対応して防御できる。

 

 

そしてその間に、盾に隠れながら私はナノマシンを散布する。

目的は、『ミステリアス・レイディ』のデータ取りとシステムの妨害。

『 Trismegistus System 』程じゃないけど、今の『黒叡(こくえい)』にはそれだけの力がある。

これも、ISの自己進化って奴なのかな・・・!

 

 

「楓ちゃんはどうして、ISに乗ってるの?」

「お姉ちゃん達と宇宙に行くため!」

「即答しちゃうのね・・・じゃあ、どうして宇宙に行きたいの? 行って何をするの?」

「え?」

 

 

会長さんの言葉に、キーボードを叩いてた指が止まる。

その隙を突いて、会長さんがランスのガトリング砲を掃射してくる。

わわわっ、ズルいよ!

 

 

「そこがわからないのよね。宇宙に行くだけが目的なら、別にISなんて作らなくても良い。それこそ篠ノ之博士なら自家用のスペースシャトルでも何でも作れるはずなのに」

「う、うーん、まぁ、束お姉ちゃんの考えは私にもわからないし・・・」

「・・・そこで、思考を止めてしまって本当に良いの?」

「良いも何も・・・」

「そもそもどうして、篠ノ之博士はISなんて物を作れたのかしら」

 

 

・・・それは、束お姉ちゃんが天才だからだと思うけど。

 

 

「超音速の格闘能力、大質量物質の量子化、そしてエネルギー・シールド。これらの技術は、どうして10年前にいきなり、突然、前触れも何も無く登場したのかしら・・・?」

「だからそれは、束お姉ちゃんが天才だから・・・」

「どんな天才でも、新技術を作る前には前置きがある物よ。でも篠ノ之博士にはそれが無い。まるでどこかから持ってきたかのように、悪魔と契約でもしたかのように忽然と、突然と・・・」

 

 

・・・何だか、ちょっと苛々して来たよ。

もし仮に、悪魔と契約していたのだとしても。

それがいったい、何だって言うのさ。

何か問題があるの、何か迷惑をかけたの、問題や迷惑があったとして・・・それはそっちが勝手に、騒いだ結果じゃないの。

 

 

昔からそうだよ、束お姉ちゃんの周りは。

束お姉ちゃんは何も変わらないのに、束お姉ちゃんの周りが勝手に変わって。

だから、束お姉ちゃんは・・・。

 

 

『楓ちん、危ない~』

「え・・・わっ」

 

 

気が付いた時には、遅かった。

会長さんのランスに、水が螺旋状に渦巻いてる。

しまった、会話に気を取られてナノマシンの制御が・・・。

 

 

私が慌てて対処しようとすると、会長さんはソードビットの防御も軽々と凌いで。

ナノマシン制御で超高周波振動する水を螺旋状に纏ったランス、『蒼流旋(そうりゅうせん)』を私に突き立てようと―――――。

 

 

「させ、ない・・・っ!」

 

 

その時、私と会長さんの間に割り込んできた女の子がいた。

それは、会長さんととても良く似た女の子で・・・振動する薙刀でランスを受け止めて、弾く。

それから薙刀を大きく振るって、会長さんを私から引き離す。

まるで王子様みたいな登場をしてきたのは、簪ちゃんだった。

 

 

「簪ちゃん!」

「楓、大丈夫・・・?」

「うん、ばっちりだよ!」

 

 

ちょっとやられかけたけどね!

私の返事に笑みを浮かべた後、簪ちゃんは前を向いた。

厳しい顔で、会長さんを見る。

 

 

「楯無、姉さん・・・」

「・・・なぁに、簪ちゃん」

 

 

優しい声音で返すお姉さんに、簪ちゃんは薙刀の切っ先を向ける。

その刃が震えていたのは、どんな感情からか・・・。

 

 

「私は・・・私は、今日、ここで」

「何かしら?」

「ここで・・・」

 

 

声まで震わせて、でも、それでも簪ちゃんは。

簪ちゃんは、はっきりと言った。

まるで、神聖な宣言でもするかのように。

 

 

「・・・貴女を、超える・・・!!」

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

・・・怖い、凄く怖い、逃げ出したくなるくらいに怖い。

今すぐ逃げて、部屋に戻ってお布団にくるまって泣きたいくらい。

だって、私なんかが楯無姉さんに敵うはず、ないんだから。

 

 

それでも大きなことを言うのは、そうしないと震えが止まらないから。

そうでも言わないと、楓を置いて逃げてしまいそうだから。

逃げるのは良い、でもお友達を置いて逃げるのだけは、嫌・・・。

 

 

「・・・貴女には無理よ、簪ちゃん」

「・・・っ」

「私を超えようとしている時点で・・・私を超えることはできないもの」

 

 

そんな・・・禅問答みたいな話は、いらない。

私は薙刀を構えると、空気の壁を踏むように加速した。

 

 

「やあぁ・・・っ!」

 

 

薙刀を振り下ろす、楯無姉さんはランスを斜めに構えて受け流す。

振動する金属と水流が微妙に触れ合って、独特の音を立てる。

楯無姉さんが身体を回してランスを突き出してきて、私は逆にそれを薙刀の柄で受け流す。

 

 

・・・ほとんど、同じ動き。

それもそのはず、だって、同じ場所で育ってきたんだもの。

同じ場所で育って、同じ場所で訓練して、同じ場所で学んで。

そしてどう言うわけか、楯無姉さんばかりがどんどん先へ進んで。

いつからか、私は追うことすらやめてしまって・・・。

 

 

「・・・わかった」

「え・・・?」

「わかったから、簪ちゃん。もう、無理しないで良いの」

「・・・っ!」

 

 

ランスを受け流した体勢から手首を切り返して、薙刀を横薙ぎに振るう。

それは楯無姉さんのランスに受け止められて、簡単に止められてしまうけれど・・・。

 

 

「無理なんて・・・して、ない・・・っ」

「してるわよ」

「してない!」

 

 

叫ぶ、その刹那に楯無姉さんがランスを軽く動かす。

それだけで私の力点がズラされて、私はバランスを崩す。

その隙を突いて、楯無姉さんが踏み込んでくる。

 

 

「どうしたの、呼吸が乱れているわよ」

「・・・ぅ・・・っ」

「違わないわ、簪ちゃんは無理をしてる」

「違うっ!」

 

 

ぐるんっ、とランスの切っ先に翻弄される形で、薙刀が真上に飛ばされる。

離した、そんな、手を・・・っ。

両手を上に跳ね上げられた所に、ランスが撃ち込まれる。

後退してかわすけど、4門のガトリング砲が弾丸を吐き出す。

 

 

唇を噛み締めて耐えて、腕を振るいながら荷電粒子砲を構える。

構えた瞬間、その砲塔は半ばからヘシ折られた。

体勢を変えた楯無姉さんが、荷電粒子砲に膝を突き付けるみたいに蹴りを入れて砕いた。

そんな・・・っ。

 

 

「・・・?」

 

 

たたらを踏んで後退する私を、楯無姉さんは追ってこない。

ランスを下ろして、ただ私を見つめてる・・・。

・・・その目に、何だか見透かされているような気がして、私は俯く。

私の嫌な部分とか、弱い所とか、汚ない所とか・・・。

 

 

「・・・どうするの、簪ちゃん? 箒ちゃんも戦線復帰してきたみたいよ?」

「・・・っ」

 

 

振り向くと、煙が晴れていて・・・紅の機体が、はっきりと見て取れた。

楯無姉さんを捌いて、また箒さんと戦わないと・・・でも、姉さんを捌くなんて・・・。

・・・やっぱり、私なんて・・・ここまで、で・・・。

泣きそうになって、唇を噛み締めて。

変われない自分に、嫌になる。

 

 

「良いじゃない、それで。弱くて小さくて、汚なくて・・・人間なんだもの、仕方無いわ」

 

 

でも、楯無姉さんは違うじゃない。

私なんかと違って、弱くも小さくも、汚なくも無いじゃない。

仕方無く、無い人・・・なのに、私は。

 

 

「良いの、簪ちゃんの気持ちはわかったから。だからもう、良いのよ」

 

 

もう、良い。

頑張らなくて良い、無理しなくて良い、何もしなくて良い・・・そのままで、良い。

それは、猛毒の言葉。

私から全てを奪う、毒を孕んだ残酷な言葉。

 

 

「だからもう、やめましょう? 簪ちゃんは頑張ったわ、何かしたいことがあるのなら、お姉ちゃんが何とかしてあげるから」

 

 

・・・っ・・・。

 

 

「だからね、簪ちゃん」

 

 

・・・やめて・・・。

 

 

「貴女は無理をしないで・・・そのままで良いの。そのままで十分なのよ、だから」

 

 

・・・もう、やめてよぉ・・・っ。

 

 

「だから・・・無能なままで、いなさいな」

 

 

胸が痛くて、視界が歪む。

何かが崩れてしまいそうで、叫び出しそうになって。

その時。

 

 

 

「ぅうううるさぁ―――いっっ!!」

 

 

 

・・・びっくり、した。

か、楓・・・?

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

私としたことが、不覚だったな。

1回戦負けと言うのは、あまり名誉なことではないが・・・まぁ、敗者復活にかけるとしよう。

幸い、機体のダメージも大したことは無かったしな。

 

 

「ラウラ、大丈夫?」

「問題ない、ダメージは全てISが打ち消してくれたからな」

「そう、良かった」

 

 

陽だまりのような笑みを浮かべるシャルロットと共に、アリーナの医務室から退出する。

ISを纏っている限りは操縦者の生命は、余程のことでも無い限り守られる。

トーナメント程度であれば、それこそ問題はあり得ない。

 

 

とは言え万が一ということもある、なのでトーナメント出場者は試合後に医務室で診断を受けることになっている。

今まさに、私やシャルロットがそれを受け終えた所だ。

結果は問題無し、なのでこれから選手の控室に戻る。

 

 

「ごめんね、フォローできなくて」

「いや、私こそ不覚だった。相手の実力を測り損ねた私のミスだ」

 

 

実際、シャルロットは組みやすい相手だった。

パートナーとして、これ以上の人材はいないだろう。

それに、確かに敗北はしたが貴重なデータを取ることもできたしな。

 

 

まず、鈴の『衝撃砲』だ。

アレが推進力代わりに使えることや、中国の第3世代型装備の拡散型『衝撃砲』のスペックも確認することができた。

我が国のレーゲン型はまだ試作段階、今後の研究開発で有用なデータとなるだろう。

私・・・私達候補生には、勝利の他にもそのような任務が課せられているのだからな。

 

 

「何より、セシリアのBTレーザー最大収束射撃を目にできたことは僥倖だった」

「うん、アレは凄かったよね」

「ああ、ティアーズ型のBTシステムを知る貴重な経験だった」

 

 

AICの射程や威力を知られたことは厳しいが、しかし私も同程度の情報は得ることができた。

いずれにせよ、選手控室に戻るとしよう・・・。

 

 

「・・・む」

「どうしたの、ラウラ?」

「ああ、いや・・・」

 

 

すでに候補生では無いシャルロットには来ていないのかもしれないが、私のISに秘匿通信で命令書が届いた。

何だ、こんなタイミングで・・・ドイツ軍と、欧州連合の連名での命令?

出所は、委員会・・・?

 

 

「・・・!」

 

 

専用チャネルで届いたそれにさっと目を通した私は、目を見張った。

大低の命令には、眉一つ動かさない自信があるが・・・これは。

この命令は、流石に・・・だが。

 

 

シャルロットが心配そうに私の顔を覗きこむ中、私は表情を引き締める。

・・・これが、本国の定めた命令であるのならば。

私はそれに、従うだけだ。

たとえ・・・相手が、誰であれな。

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

きょとん。

この場にいる楓ちゃん以外の3人の表情を表現するとするなら、まさにそれだった。

きょとん、として・・・声を上げた楓ちゃんを見つめる。

 

 

一方の楓ちゃんは、顔を真っ赤にして怒ってる最中。

何だか良く分からないのだけれど、今の私と簪ちゃんの会話に気に入らない所があったみたいで。

えーと、どうして怒ってるのかしら。

 

 

「会長さん、わかってないよ。会長さんは何でもわかってるけど、わかってない!」

「え、うん、ごめんなさい」

 

 

あまりの剣幕に、反射的に謝った。

どうして怒られているのか、わからないのだけど。

 

 

「何もしなくて良いなんて、言わないで!」

「う、うん?」

「そんなこと言われたら、妹の立つ瀬が無いでしょ!?」

 

 

い、妹に立つ瀬とかあったのかしら・・・初めて聞いたわ。

 

 

「妹だって、お姉ちゃんの役に立ちたいんだよ! そりゃあ、お姉ちゃんの方が何倍も何倍も強かったり凄かったりスタイル良かったり何でも出来たり何だったり・・・するけど!」

「そ、そうなの」

「そうだよ! だから何でもしてあげるとか、言わないで。嬉しいけど、嬉しいんだけど・・・それじゃ、私達がどうしたら良いのかわからなくなるから・・・」

 

 

私は出来る人だから、出来ない人の気持ちがわからない。

・・・いつだったかしら、誰かにそんなことを言われたような記憶があるわ。

でもそれって、私にしてみれば良くわからない議論なのよね。

私だって、生まれた時からこうだったわけじゃない。

 

 

努力して頑張って・・・そう、それこそ妹に失望されないように頑張って。

そうしてようやく、今の位置にいるのに。

だからきっと皆も努力して頑張れば、出来るはずだと信じてる。

だって、それが人間ってものでしょう?

 

 

「・・・なら、姉はどうすれば良い」

 

 

不意に、私の横に箒ちゃんがやってきた。

ゆっくりと浮遊して、私の横に並ぶ。

通信を通じて、虚ちゃんも私達の会話を聞いてる。

箒ちゃんの言う「姉」は、私達のことも含んでいるんでしょうね・・・。

 

 

『妹のために何も出来なくなったら・・・姉の立つ瀬が無いでしょう?』

 

 

虚ちゃんの言葉に、そっと頷く。

そう・・・姉と言うのは、そういう生き物。

どんなに妹が願っても祈っても、「姉ぶる」ことをやめられないの。

だって、それが姉ってものなのだから。

 

 

「・・・楯無、姉さん・・・」

 

 

簪ちゃんの声に、私は顔を上げる。

私と良く似た容貌、だけど自信の無さのせいかどこか陰のある顔立ち。

見慣れた・・・愛おしい程に見慣れた顔を、見る。

 

 

「・・・あり、がと・・・」

 

 

・・・どう、いたしまして。

意味はわからなくても良い、でも私は首を振る。

良いのよ、簪ちゃん。

だって私は、貴女のお姉ちゃんなんだから。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

楓には長い間、姉らしいことをしてやれなかった。

その反動なのかもしれない、楓のために何かしてやりたいと考えるのは。

そしてそうすることで、私は自分を保とうとしているだけなのかもしれない。

 

 

「・・・私、本当は知ってた・・・楯無姉さんが、私のためにたくさん、たくさん頑張ってくれてたって・・・」

 

 

だから、妹のために頑張りたいと思う。

妹のためにする苦労なら、どんなに辛くても苦しくても、努力し続けることができるから。

 

 

「・・・だから、私だってって・・・思う・・・」

「・・・簪ちゃん」

「私だって・・・私だって、更識の女、なんだから・・・」

 

 

ふと楓を見ると、私をじっと見つめていた。

簪と・・・想いは同じ、と言うことだろうか。

いつものように笑顔では無く、やけに静かな目で。

・・・もしかしたら、本音も同じような目と表情をしているのかもしれない。

その対象は、もちろん虚先輩で。

 

 

・・・わかった。

わかったよ、楓。

妹には妹の言い分があり、矜持がある。

それは、わかった。

・・・だが。

 

 

「・・・妹のくせに」

 

 

私の言葉に、楯無先輩がおかしそうな目で私を見る。

私もそれに、笑みを返す。

もしかしたら、虚先輩も笑っているのかもしれない。

考えることは・・・同じだと思う。

 

 

「妹のくせに、偉そうなことを言うな。仕置くぞ?」

「そうね・・・そう、簪ちゃんは妹なんだから、お姉ちゃんの言うことを聞くべきでしょう?」

『そうですね、まったくその通りです』

 

 

妹側が自分たちの言い分を並べ立てるなら、こちらも姉の言い分を並べてやろう。

心配をかけるな、無理をするな、身体に気をつけろ。

以上、異論は認めん。

 

 

「はぁ~? 何それ。こっちの話、聞いてた!?」

「・・・やっぱり、楯無姉さんなんて、嫌い・・・」

『そうだそうだ~! ちょっと年が上だからって横暴なんだよ~』

 

 

気のせいで無ければ、本音もオープン・チャネルで声を上げている。

だが、こちらには引くつもりは無い。

何故なら私達は、姉なのだから。

 

 

先程とは別の気持ちで、刀を構える。

楯無先輩もランスを持ち直し、虚先輩もオペレートを再開する。

もうこれは、ただの試合では無い。

 

 

『くっそ~、絶対ぎゃふんって言わせてやるんだから~』

『あら、そう。なら相応のお仕置きが必要よね』

 

 

布仏家と。

 

 

「絶対、認めさせる・・・」

「無理はしなくて良いのよ、今のままで十分なんだから」

 

 

更識家と。

 

 

「良いよ、もうこうなったら最初で最後の全面戦争だよ!」

「ふん、妹が姉に何かを要求できると思うなよ」

 

 

篠ノ之家の。

ただの、姉妹喧嘩だ。

そして私達は、それぞれの想いを胸に試合を再開した。

結果は・・・。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

・・・誰かの優しい、優しい歌が聞こえた気がする。

少しだけ固い感触を背中に感じながら、うっすらと目を開くと・・・。

 

 

「・・・ぉ、ねぇ・・・ちゃ・・・?」

「うん? なぁに、簪ちゃん?」

「ん・・・何で・・・?」

 

 

どうして、楯無姉さんの顔が目の前にあるんだろ・・・。

ぼんやりとした思考で、そんなことを考える。

背中とかは固い感触を感じるけど、頭の後ろは柔らかく、て・・・?

 

 

「・・・何、してるの・・・?」

「うん? ひざまくら」

「・・・え・・・」

 

 

気が付くと、私はアリーナの真ん中で楯無姉さんに膝枕されてた。

えと、その・・・何で? と言うか、は、はずかしっ・・・。

わたわたと動こうとすると、楯無姉さんがクスクスと笑った。

すると、また恥ずかしくなって・・・。

 

 

「うふ、久しぶりね。簪ちゃんに「お姉ちゃん」なんて呼ばれたの」

「あ、あぅ・・・」

 

 

ISスーツ越しに、楯無姉さんの柔らかな膝の感触。

そのままの体勢で視線を動かしてみれば、少し離れた位置で楓も同じような体勢になってる。

あっちはまだ、目を回してるけど・・・箒さんが、とても大切そうに楓の頭を撫でてるのが印象的だった。

本音もいて・・・なんだろう、虚さんに抱き潰・・・締め殺されそうになってる・・・?

 

 

「・・・ダメなお姉ちゃんで、ごめんなさいね」

「え・・・」

 

 

どこか哀しそうな笑顔で、楯無姉さんがそんなことを言った。

・・・どうして、そんなことを言うの・・・?

 

 

「・・・んな・・・そんな、こと無い・・・ダメなのは、私の方。私、ダメな妹だから・・・」

 

 

楯無姉さんに出来ることが、出来なくて。

それで勝手に落ち込んで、楯無姉さんを避けて・・・そのままに、なって。

酷い事も、言って・・・。

 

 

「そんなことは無いわ」

 

 

さら・・・と、髪を撫でられる。

楯無姉さんに頭を撫でられるのって、いつ以来だろう・・・昔はこうして、更識の実家で過ごしていた時間もあったのに・・・。

いつから・・・素直になれなく、なったんだろう・・・。

 

 

本当は・・・ただ、楯無姉さんの役に立ちたかっただけなのに。

私だって出来るんだって・・・わかってほしかった、だけなのに。

 

 

「そんなこと無い・・・貴女は私の大切な、大切な妹よ。とても弱くて小さくて・・・そしてきっと、誰よりも強い心を持った・・・私の、妹」

「・・・楯無、姉さん」

「物わかりの悪いお姉ちゃんで、ゴメンね・・・」

「そんな、こと・・・無い、そんなこと、無いよ・・・」

 

 

楯無姉さんの腰に手を回して、膝枕の体勢のまま楯無姉さんに抱きつく。

子供の頃には自然に出来たこと、でも今は・・・凄く、久しぶりにした。

甘えるように、楯無姉さんのお腹に顔を擦りつける。

 

 

「おねぇちゃん・・・おねぇちゃぁん・・・」

「・・・うん」

 

 

楯無姉さんが、大事そうに抱えてくれるのを感じながら・・・。

私は、昔そうしていたように。

お姉ちゃんに、甘えた。

 

 

ほんの、少しだけ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

身体の節々が、激しく痛いです。

自分が整備したISに追いかけ回されたり殴られたりするのって、物凄く複雑な気分だった。

『黒叡(こくえい)』のダメージレベルがCって、どんだけだよ。

 

 

うん、正直反省してる。

姉より優れた妹が地上に存在するわけ無いよね、うん。

血迷った10分前の私、馬鹿じゃないの。

 

 

「ふふん、当然だ。何せ私は姉だからな」

「今は何だか、凄く説得力があるよ箒姉さん・・・」

 

 

さっきまで私を膝枕してご機嫌な箒姉さん、くそう、腕力では勝てない・・・。

次の模擬戦に備えてISのネジを抜いておこうか・・・ダメだ、エンジニアのプライドがそれを許さない。

と言うか、模擬戦をしない。

 

 

「あー・・・負けちゃったかー」

 

 

アリーナの地表から空中投影の掲示板を見上げると、そこにはばっちり『勝者、更識 楯無・篠ノ之 箒チーム』って書いてある。

まぁ、姉妹喧嘩の結果としては順当な所だよね。

 

 

「・・・楓・・・」

「うん? 簪ちゃん?」

 

 

何となく痛む身体でぼ~っと立っていると、簪ちゃんに声をかけられた。

負けちゃって悔しいかな、とか思ってたけど簪ちゃんは笑ってる。

困ったような笑顔の向こうには、澄ました顔の会長さんがいる。

・・・本音ちゃんが虚先輩に「ぐりぐり~」されてるのは、見ないフリ。

 

 

「・・・楓、ズルい」

「へ?」

「私が言いたいこと、全部言っちゃった・・・」

「あー・・・ごめん」

 

 

妹だって云々・・・の件かなぁ。

いやー、ははは・・・うん、ホントごめん。

簪ちゃんだって、もっと言いたいことあったよねー。

 

 

「良い・・・楓」

「ほえ?」

「・・・ありがとう・・・」

 

 

・・・何が「ありがとう」なのかは、良くわからないけど。

でも簪ちゃんと会長さんの間の空気が、何だか柔らかい。

もし私が、そうなれるように何かできていたのなら、嬉しい。

 

 

「・・・ん」

 

 

だから私は、ゆっくりと伸ばされてきた簪ちゃんの手を取ろうとして・・・。

・・・できなかった。

 

 

突然、色とりどりの近接ブレードが私の周りに落ちて来た。

 

 

金属質な音が連続でして、ISスーツ姿の私を10数本の近接ブレードが取り囲む。

簪ちゃんの手を取ろうと伸ばした手、もう少し伸ばしていれば指が飛んでた。

それはまるで牢のようで、気のせいで無ければ頭のすぐ上には「何か」ある感触がする。

何か・・・って言うか、たぶんコレ、テンペスタのステルス爆弾のような気が・・・。

気のせいでなければコレ、え・・・私、もしかしなくても拘束されて、る・・・?

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

間の抜けた声を上げると、私以外の皆もようやく反応できるようになった。

それまでは、いきなりのことで思考が止まってたみたいだけど・・・。

 

 

「・・・な、何だコレは!?」

「楓・・・!」

 

 

カッと顔を紅くして叫んだのは箒姉さんで、顔を青ざめさせたのは簪ちゃん。

でも待って、私も何が何やら・・・。

 

 

「・・・サラシキが試合で動けず、そして試合後に『黒叡(こくえい)』が起動できない程のダメージを受けている・・・ここまでハマると、逆に怖いわね」

「誰だ!? ・・・って、貴女は・・・」

 

 

振り向いた箒姉さんの視線の先には、見覚えのある人がいた。

厳密には、人達・・・代表の、人達。

イタリア代表の、レディアさん。専用機のテンペスタのカスタム機を見に纏ってる。

あ、やっぱり『テンペスタ』の・・・。

 

 

そしてその隣には、『リヴァイヴ』のカスタム機を装着したアデリタさん。

スペインの人・・・あ、欧州連合?

まぁ、そこまでは良いんだけど・・・。

 

 

「どうしてお前達がそちらにいる、セシリア、ラウラ・・・!」

「・・・」

「・・・箒さん・・・」

 

 

何より2人の代表の隣に、物凄く見慣れた顔があったことの方に驚いた。

不完全な修復だけど、ちゃんとISを纏った・・・セシリアさんと、ラウラさん。

イギリスと、ドイツの代表候補生。

箒姉さんが『紅椿(あかつばき)』を再装着して、私の前に立つ。

 

 

そしてその横に、簪ちゃんも立つ。

こっちも、ダメージが深いけど『打鉄弐式(うちがねにしき)』を見に着けて。

あ、あれ? え、えー・・・?

 

 

「IS委員会と本国の命令に従い、篠ノ之楓他2名を欧州へ連れ帰ります」

「・・・」

 

 

アデリタさんの言葉に、簪さんの背中が険しい気配を放つ。

・・・って言うか、今なんだか聞き捨てならない台詞が。

え、私達を欧州へ? 何?

私が混乱している内に、状況はどんどん進んで行く。

 

 

「アジアは認めない!!」

 

 

ズシャッ・・・と私の両脇に立つように現れたのは・・・鈴さんと、立道さん。

中国と日本の候補生、簪ちゃんもだけど・・・。

2人とも、自分のISを完全装着してる。

ど、どこから出て・・・?

 

 

「アジアは・・・中国は欧州への3人の移動を認めないわ。委員会と本国の命令に従って、私達アジアが楓と箒と一夏・・・3人を保護する!」

「え、鈴さん? 何言って・・・」

 

 

いや、保護とか言われても・・・。

と言うか、何か鈴さんがマジなんだけども。

私が混乱している間に、欧州とアジア・・・鈴さん達とセシリアさん達の間に険悪な空気が生まれる。

に、睨み合い・・・何で?

委員会の命令? でも何だかお互いに言ってることが矛盾してるような。

 

 

「おいおいおいおいおい、お~い・・・何だよこりゃあ、ぐっちゃぐちゃだなオイ」

 

 

何だか、凄く楽しそうな声がした。

声のした方を向くと、そっちにも見覚えのある顔が。

具体的には、アメリカのジーナさんと豪州のソフィーさんとアイシャさん。

もちろん、それぞれISを纏ってて・・・あ、エリスさんもいる。

 

 

「ったく、コレだから欧州とアジアの連中はダメなんだよなぁ、スマートじゃねぇよ。しょうがねぇ、ここは私達がまとめてやるよ」

 

 

3竦み。

何故か、そんな言葉が浮かんだ。

欧州と、アジア。

そして・・・。

 

 

「ここは、我ら太平洋同盟が仕切らせて貰うぜ・・・!!」

 

 

アメリカとその同盟国。

うん、どうしてこうなった・・・?

 

 

「え、えーと、えーと・・・」

 

 

助けを求めるように周りを見る、でも箒姉さんも簪ちゃんもそれどころじゃない。

会長さんと虚先輩は、厳しい表情を見せるばかりで。

・・・あれ? 本音ちゃんがいない・・・。

翻って私は、何も出来ない。

ど、どうしよう・・・どうしてこんな状況に、どうしたらば。

 

 

「・・・アリーナの真ん中で、戦争を起こさないで貰えるか」

「千冬姉様!!」

 

 

そうだよ、千冬姉様がいた!

束お姉ちゃんの親友で、学園の警備担当者。

学園のイベントの秩序を守るのも、その役目の一つ。

 

 

「チフユか。そりゃ確かにお前なら生身でも私らを止められそうだが・・・」

「残念ながら、私達は委員会の命令で動いています。委員会の走狗である貴女には、私達の行動を止める権利はありません」

「・・・それでも一応、学園のイベントの妨害は困るんだがな」

 

 

ジーナさんとレディアさんの言葉に、千冬姉様は答えない。

黒いスーツ姿で腕を組んで、厳しい目で周囲に視線を巡らせるだけで。

・・・視線が武器になるなら、全員をノックアウトできそうな目つきだけど。

ち、千冬姉様でも無理って、じゃあ、もうそれって・・・。

 

 

その時、ゾワリ・・・と身体が震えた。

 

 

・・・? 何だろう。

今、何だか凄く嫌な気持ちになった。

こう、胸がザワザワする感じの・・・。

 

 

「・・・何だ・・・?」

 

 

耳に、箒姉さんの呟きが聞こえた。

箒姉さんも、感じた・・・?

キョロキョロとあたりを見渡す物だから、皆も不思議そうな顔をして。

 

 

後ろで、何かが爆発したみたいな音がした。

 

 

あまりに大きな音で、耳が痛くなる程で。

思わずその場にへたり込む、何・・・?

ヨロめきながら、後ろを振り向くと。

 

 

「な・・・何だ、コイツ!?」

 

 

誰かの声は、この場にいる全員の気持ちを代表してた。

だって、そこにいたのは・・・。

 

 

黒い・・・漆黒と言う表現も生温いくらいに黒い、全身装甲(フル・スキン)。

赤い稲妻みたいなラインが各所で明滅して、やたらに不気味。

鎧みたいな装甲の隙間からは、見覚えのある黒い何かの物質が漏れ出してる。

これ・・・。

 

 

「・・・あい・・・えす・・・?」

 

 

私の声が聞こえたのか、それとも別の理由なのか。

目・・・かな、そこが赤く光って。

そして。

 

 

―――――咆哮した。

 




篠ノ之 楓:
良し、落ち着こう、落ち着いて状況を整理するんだ・・・!

①セシリアさん達が「楓さんは私達が連れて行きますわ!」的なことを言う。

②そしたら鈴さん達が「ざけてんじゃないわよ、楓は私達のよ!」と言った。

③そんでもってエリスさん達が「揉めてるならウチが貰うぞコノヤロウ」と返す。

④三つ巴 ← 今ココ。

・・・どうして、こうなった・・・!?

更識 簪:
大丈夫、楓は私が守る・・・!

篠ノ之 楓:
ありがとう!
でも面倒なことに簪ちゃんって鈴さん陣営なんだよね一応・・・!
ど、どーしよー!?
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