インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第39話:「その学園、崩壊・前編」

Side 織斑 一夏

 

な―――――何だよ、コイツは!?

次の試合に備えて選手控室にいた俺は、いきなりな事態に混乱していた。

いや、ある意味で予想できた事態だったのかもしれない。

 

 

何せ、この学園のイベントで問題が無かったことなんてないんだから。

・・・いやいや、それはそれでどうなんだよ!

 

 

「何だ、コイツ!?」

 

 

今度は口に出して叫ぶ、その対象はいきなり天井をブチ抜いて来た闖入者だ。

前にも二度見た、黒い無骨な全身装甲(フルスキン)タイプのIS。

機械的な反応、たぶん前と同じ無人機だ。

今回で3回目だから、『ゴーレムⅢ』って所かな。

 

 

今回のは女っぽいシルエットになってて、鋼の乙女って感じだ。

右手にブレード、左手に4つの砲口のついたデカい大砲が装備されてる。

複眼だった目はバイザー型になっていて、周囲には黒い球体みたいなのがいくつも浮いてる。

アレは、何だ・・・?

いずれにしても、今回もコイツは俺を・・・俺達を襲いに来たに決まってる!

 

 

「く・・・先輩! ここは俺に任せて下が・・・って、せ、先輩?」

「・・・・・・あー、聞いてる聞いてる、頑張れ男の子」

「え・・・あ、はい・・・」

 

 

ダリル先輩は先輩だけど女の子だ、ここは男の俺が頑張らないと・・・と振り向いたら、ダリル先輩には頑張る気がまったく無かった。

IS『ヘル・ハウンドver2・5』は装着してるものの、空中に浮遊して寝転がってる。

え、え―――・・・。

 

 

「え、えーと・・・フォルテ先輩・・・?」

「あ、わかってるっスわかってるっスよ。男の子の出番を取ったりはしないっスよ」

 

 

何か知らないけど、控室に一緒にいたもう一人の先輩に声をかける。

フォルテ・サファイア先輩、専用機持ちの2年生だ。

IS『コールド・ブラッド』を身に着けたまま空中で胡坐をかいている・・・な、何だかなぁ。

 

 

「さぁ、頑張るっスよ織斑くん! 世界はキミに任せた!!」

「私らか弱い女の子だかんな、砂糖で出来てんだよ。だから一発モラっただけでイっちまうから気をつけろよ」

「は、はぁ・・・」

 

 

何だか複雑な気分になりながらも、『白式(びゃくしき)』を展開する。

すぐに身体が白い装甲に包まれて、『雪片(ゆきひら)』を両手で握り締める。

そして、目の前の黒い無骨な無人機を睨みつける。

 

 

・・・とにかく、早く片付けないと。

今は途切れてるけど、アリーナの箒達の方にも出てた。

だからコイツを早く片付けて、助けに行かないと。

待ってろよ、皆・・・!

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

何だ、コイツは。

突然現れたその黒い鎧―――おそらく、IS―――の存在に、胸の奥が震えるのを感じる。

おそらくは、以前侵入してきた機体の姉妹機なのだろうが・・・。

 

 

『ライブラリーにデータ無し、未確認(アンノウン)ISです』

 

 

私の機体『シュヴァルツェア・レーゲン』の報告に、眉を顰める。

またアンノウン・・・しかもIS、そしておそらく無人機。

何よりも、このIS。

 

 

今、どこから現れた!?

 

 

アリーナ周辺を固める教師陣から警告は無かった、アリーナのシールドを抜かれた様子も無い。

つまり、あの黒い奴は最初からこのアリーナの内側にいたことになる。

私達の試合の時も、すぐ近くで誰にも知られず悟られず。

ステルスと言うには生易し過ぎる、圧倒的なステルス性能。

明らかに、第3世代の枠を超えている。

 

 

「アレは・・・報告にあった無人機・・・?」

 

 

呟くように囁いたのは、イタリアのレディア代表。

スペインのアデリタ代表をサブとして、学園における欧州連合の代表の地位にある。

つまり、ここでの私の指揮官にあたる人間・・・。

私がレディア代表へと視線を移すと、あり得ない光景を目にすることになった。

 

 

欧州組の先頭に立つレディア代表の眼前に、漆黒の無人機が迫っていた。

『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』が生温く感じる程の加速、瞬間移動と言った方が正しい。

左眼の封印を解いている私にさえ、知覚されずに動くとは。

まるで、何かに何かを「誤魔化されて」いるかのような気分だ。

 

 

「な―――」

 

 

そしてレディア代表が反応するよりも速く、漆黒の無人機が動く。

握り締めた右拳を、迷うことなくレディア代表の機体『テンペスタⅡ・オメガ』の胸に叩きつける。

微かに漏れたのは、代表の吐息のような声だ。

金属が砕けるような音、私の左眼には見えていた。

『テンペスタ』のエネルギ-・シールドが四散し、機体の胸装甲を砕く様を。

 

 

「・・・レディア!?」

 

 

アデリタ代表が反応し、後ろを振り向く。

そう、後ろをだ。

私達が身体を反応させた時には、すでにレディア代表はアリーナの壁面に激突している。

・・・コイツ!

 

 

「停止け・・・ッ!?」

 

 

AICの停止結界を発動しようとした次の瞬間、私のISが衝撃を感知した。

その揺れの元は、複数。

それも遠く無い、このアリーナ周辺だ。

 

 

「おいおいおいおい・・・」

 

 

引き攣ったような声を上げたのは、誰だろうか。

だがそれを責める気にはなれない。

何故なら、目の前の西洋の鎧を模したような奴とはフォルムが違うが・・・。

 

 

戦乙女のような姿をした無人機が、無数に出現したからだ。

・・・アリーナの、壁の中からな。

あり得ないことに、隠れていたのでは無い。

透過してきているのだ、ISが、物理的な壁を!

こんな技術、聞いたことも無い・・・開発できる人間がいるとすれば。

 

 

「心当たりは・・・1人しかいないがな」

 

 

こんな常識破りのことをやってのける人間を、私は・・・私達は1人しか知らない。

しかしあえてその名前は言葉にせず、戦闘態勢を整える。

・・・見えているだけで、ざっと10機か・・・。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

もう、大混乱だった。

指揮官機っぽい黒いのもそうだけど、透過能力持ちの無人機もざっと10~15機いる。

前に戦った無人機も随分な強さだったから、今回のはアレより強いのよね。

欧州の国家代表が、一撃で殴り飛ばされる程には。

 

 

もう、それだけで現場は大混乱。

欧州もアジアも太平洋同盟も何もなく、突然現れた「敵」に対処しなくちゃならなくなった。

楓とか箒とか一夏とか、取り合ってる場合じゃない。

しかも、混乱に拍車をかけてるのが・・・。

 

 

「はぁ!? 本国のお偉いさんを守れって・・・マジで言ってんの!?」

 

 

観客席・・・と言うか、VIP席にいる本国の中央軍事委員のお偉いさんを守れって命令が来た。

IS担当の軍事委員だから、言ってしまえば私の物凄く上司にあたる。

まぁ、ぶっちゃけハゲでデブな政治部出身の脂ぎったオッサンなんだけど。

そりゃ、立場的に守らなきゃいけないのはわかってるけど・・・。

 

 

壁をすり抜ける所を見せられたら、怖くなるのもわかる。

一般人より安全とはいえ、VIP席を守るセキュリティが何の意味も無いってことになるんだから。

でも、他の一般の観客だっているのに・・・!

 

 

「ついでに言えば、私の機体も万全じゃないんだけどね!」

 

 

ほとんど叫ぶみたいに怒鳴って、アリーナの空を飛ぶ。

今度は試合じゃない、マジの実戦。

本国で核実験に巻き込まれる訓練をやるのと、どっちがって状況。

 

 

戦乙女の無人機2機に挟まれて、絶賛苦戦中。

なんてったって、ダメージがまだ回復して無いのよ・・・!

これで守りに来いってんだから、ウチのお偉いさんもなかなかのサドね。

 

 

「く、この・・・っ!」

 

 

広いアリーナの中で、後ろに食いついて来た2機を振り払おうと必死に飛ぶ。

思ったよりも速度が出ない上に、私の周りには似たような状況の代表やら候補生やらがたくさんいる。

そっちはそっちで飛んでるから、入り混じったり何だったりで余計に混乱することになる。

 

 

機体を制御して、水平飛行から135度バンク、斜めに下方宙返りして高度を下げる。

その代わり、法衣変化と速度上昇を同時に行うことができる。

スライスバックって技術なんだけど、コレでどうにか・・・!

 

 

「鈴さん、危ない!!」

「・・・!」

 

 

どこかから響いたセシリアの声、反応して前を向く。

するとそこには、後ろの2機に気を取られて気付かなかったけど。

・・・別の1機が、腕の巨大な近接ブレードを振り上げて私を待っていた。

 

 

・・・!

私が覚悟を決めて口の中で歯を噛み合わせた、次の瞬間。

衝撃が・・・。

 

 

「ハッ・・・ハァ―――ッ!」

 

 

横から割り込んできた黄金色のISが、操縦者の甲高い笑い声と共に前方の機体に蹴りを入れる。

よろめく無人機の横をすり抜けて、事無きを得る。

アレは、ジーナ代表・・・!

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「イヤァ―――ッハァッ!!」

 

 

口角を吊り上げ、開いた口から笑い声を発しながら・・・アメリカ代表ジーナ・ワトソンと『金の福音(ゴールド・ゴスペル)』が中国の候補生を追撃していた後続の2機を両脚で蹴り「落とす」。

敵味方の入り乱れる集団戦ゆえ、範囲殲滅武装は使えない。

 

 

純粋な格闘戦、ある意味で最もISの性能と操縦者の技量を試されるシチュエーション。

その状況を、ジーナは最大限に楽しんでいた。

もちろん、彼女もVIP席の米国高官を守れとの命令を受けているが・・・。

 

 

「守り方は任せる! か! ははっ、あのオッサンも私の使い方がわかってんじゃねーか!」

 

 

話のわかる上司を持ったことを幸いと、ジーナはめまぐるしく変化する状況への対処を行う。

左右から放たれる赤いレーザーを避け、振り下ろされるブレードを避ける。

ジーナの担当は現在3機、だが・・・。

 

 

「良し、エリス! チャフ撒けチャフ!」

「こんな密集した場所で出来るか、バカヤロウ」

「使えねぇガキだなオイ」

「・・・戦場での上官の戦死の2割は後ろから・・・」

 

 

自身も2機を相手にしているアメリカの候補生の物騒な呟きをジーナが聞き流した直後、アリーナ上空の広い範囲で連鎖爆発が起こった。

機体の分析によれば、それは『テンペスタ』のステルス機雷装備・・・。

 

 

「はん、レディアの野郎・・・てっきり初撃で沈んだかと思ってたんだが」

 

 

心にも無いことを呟いて、ジーナは大きく後退する。

アリーナの地表を削りながら着地して、後ろも見もせずに告げる。

 

 

「んでどーすんだ、警備責任者(チフユ)」

「当然、一般客の避難が最優先だ」

 

 

この惨状でも悠然と生身で腕を組みながら、黒いスーツの女は告げる。

その声音が平時とほぼ変わらないことに、ジーナは不快と安堵が入り混じった複雑な感情を覚える。

 

 

「避難には最大で20分かかる、が、アレは遠隔操作(リモート)で動いているはずだ。ならば後5分ほどで何とかする手立てはある。それまで何とかアリーナの中に奴らを封じ込めろ」

「・・・軍属でもねぇ癖に、命令してんじゃねぇ!!」

 

 

しかし千冬の言葉を胸に置き、ジーナは再び飛ぶ。

目指すのは戦乙女では無く、今なお中央で蠢く漆黒の指揮官機・・・。

 

 

「アイシャ! ソフィー! 手伝え! アレは太平洋同盟で叩く!!」

「命令すんじゃねぇぞ、ヤンキー!」

「いつものことですが、不快です」

「アレは『第4世代』だ!! 私達が貰う!!」

 

 

確証は何も無い、ただの直感だ。

だがアレは第3世代機を上回る性能を持つ機体だと、ジーナは直感する。

 

 

「本国に持ち帰って・・・山分けだ!!」

「山分けって・・・お前らいつもそう言って独り占めすんじゃねぇか」

「自分達が飽きた物を下げ渡すことを、山分けとは言いませんよ?」

「お前ら、たまには素直に言うこと聞けよ!」

 

 

アメリカとオーストラリアの国情を如実に表している会話の後、それでも太平洋同盟の3機は漆黒の無人機に向けて飛んだ。

自分達の陣営に、第4世代型・・・しかも無人機と言うサンプルを持ち帰るために。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

・・・・・・・・・何、これ。

いったい、何が起こっているの?

折れた近接ブレードの取り囲まれたその場所で、私はただへたり込んだまま。

 

 

「・・・・・・なんで」

 

 

どう言うわけか、あの無人機は私の所には来ない。

だけど、逆に言えば。

私以外の所には、行ってるってことで。

 

 

観客席を見れば、生徒とかお客さんとかが何か叫びながら逃げてるのが見える。

それを、『打鉄(うちがね)』装備の先生達が必死に誘導してて。

そして私の目の前、アリーナでは皆が無人機の群れと戦ってて。

正直、意味が、わからない。

 

 

「・・・なんで・・・」

 

 

さっきまで、普通にトーナメント、してたのに。

戦いとか嫌いだけど、皆、楽しそうにしてたのに。

何で、こんなことに。

 

 

状況の変化も、そりゃ気になるけど。

でも、それ以上に気付きたく無いことがあった。

だけど、気付かないわけが無い。

だって「それ」は、私が一番・・・良く、知ってるんだから。

 

 

「・・・どうして・・・」

 

 

あの戦乙女タイプの無人機達は、皆のISの絶対防御を無効化してる。

腕部から出てるエネルギーが、ISのエネルギー・シールドを無効化してる。

『黒叡(こくえい)』を通して見るまでも無い、「それ」を私は良く知ってるから。

 

 

そして、あの黒い鎧タイプの無人機。

あの機体の各所から浮き出してる黒い霧みたいなのが、皆のISの機能を阻害してる。

だから、レディア代表は反応できなかった。

ISを通して見ている限り、あの無人機がいくらでも姿を消せる。

ISの視覚機能にも干渉する、あの機体の特性。

『黒叡(こくえい)』に調べてもらうまでも無い、「それ」を私は良く知っているから。

 

 

「・・・うぁ・・・」

 

 

唇から、自分でもみっともないってわかる声が漏れる。

息が苦しい、身体が震える、目を閉じたいのに閉じられない。

どうして私は、エンジニアなんだろう。

気付きたくないことに気付くくらいなら、こんな知識はいらなかった。

気付きたくなんか、無かった。

 

 

 

だってアレは、『黒叡(こくえい)』のナノマシンと同じ物質なんだから。

 

 

 

それだけじゃない、一夏さんと箒姉さんの展開装甲と同じ原理が使われてる。

右手のブレードの構造は『雪片(ゆきひら)』と同じ、素材はたぶん姉さんの『空裂(からわれ)』と同じ、黒い霧は私のナノマシンと同じ構成素体で・・・。

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

気付きたくない、考えたくない、知りたくない。

そんなの、違う。

こんなことに気付くために、勉強したんじゃない。

だって、アレが作れるのは。

・・・違う、違う、違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガ

 

 

「楓!!」

「・・・ッ!?」

 

 

気が付くと、アリーナの土の塊が何かの衝撃でこっちに来てて。

そしてそれをISの刀で斬り裂いて落とした女の人の姿に、私は泣きそうになる。

泣きそうになって、呼ぶ。

 

 

「・・・箒姉さん!!」

 

 

何て言って良いか、わからない。

それくらい、私の気持ちはぐちゃぐちゃだった。

でも箒姉さんは、そんな私を見て笑ってくれた・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

あの黒い指揮官機―――今は、ジーナ代表達が囲んでいるが―――が現れた時、言いようも無い不快な感覚を感じた。

虫の知らせ、と言うか・・・何か、とても不快な感覚だった。

まるで、掴み所のない霞のような。

 

 

「楓、立てるか?」

「う、うん・・・」

 

 

あの黒いのがレディア代表に攻撃を仕掛けた際、その途上にあった楓を檻のように囲む近接ブレードを半ばからヘシ折っていた。

アリーナ周辺は大混乱だが、楓の・・・私達の周りだけはやけに静かだ。

 

 

そして今も、不快な気分は変わらない。

それどころか、段々と強まってすらいる。

何だ、この不愉快な気持ちは・・・。

 

 

「箒姉さん、あの・・・あのね」

「ああ、わかってる。とにかくお前はここから離れろ、ISのダメージが深くて起動できないのだろう」

 

 

こんなことなら、試合でもう少し手加減するのだったな。

まぁ、あの時はまさかこんなことになるとは思わなかったが。

いずれにせよ、楓の『黒叡(こくえい)』は今は使えない・・・。

 

 

「そうじゃなくて、アレ・・・アレは」

「楓・・・!」

「簪! 無事だったか!」

 

 

楓が何かを言おうとしているようだったが、ちょうどその時に簪が立道を伴ってやってきた。

無人機との戦闘が始まって、状況が変化する中で離れてしまったのだが。

 

 

「楓、とにかく逃げて・・・学園の先生が、保護してくれる・・・」

「ああ、私もそう言おうとしていた所だ」

「だ、ダメだよ!」

 

 

私と簪の言葉に、楓が叫ぶ。

 

 

「アレは、アレはたぶん、『黒叡(こくえい)』がいないと対抗できない・・・!」

「・・・どういう、こと?」

「えっとね、詳しく説明すると凄く長くなるんだけど」

「・・・そのような暇は、どうやら無いようですよ」

 

 

立道の言葉に周囲を見渡してみれば、何機の戦乙女タイプの無人機がこちらへと近付いてきているのが見えた。

先程まで無視されているようだったのに、急に反応して来た。

そして・・・。

 

 

咆哮。

 

 

最初に聞こえた、あの不快さを加速させる「叫び」だ。

それを放つのは、ジーナ代表達と斬り結んでいた例の黒い奴だ。

漆黒の鎧に紅色の傷を持ち、そして装甲の隙間から激しく黒い粒子のような物を噴き出している。

まるでそれは、楓のナノマシンにも私の『絢爛舞踏』にも似た雰囲気の・・・。

 

 

「だ・・・」

 

 

そしてその黒い粒子が、螺旋状にアリーナに広がる。

それはいつか見た光景に、とても・・・。

 

 

「ダメェ―――――――ッッ!!」

 

 

・・・そして。

妹の悲鳴と共に、地獄が始まった。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

ISを装着したまま、アリーナの廊下を駆ける。

アリーナの廊下は万が一の時のためにISでも問題無く通れるだけのスペースがある、だから移動する分には困難は無い、特に僕が今いるのは関係者以外は通れない。

 

 

「一夏・・・!」

 

 

僕が今、向かっているのはトーナメントの選手控室。

具体的には、一夏がいる所。

箒や楓のことは、楯無会長に任せておくこともできる。

けれど一夏の傍には、他国の候補生である先輩達しかいない。

 

 

先輩達を疑うわけじゃない、そう言う次元とは無関係に。

候補生と言うのは、その相手が好きだろうと嫌いだろうと関係無く。

国の命令があれば、その相手を殺さないといけない立場だから。

僕も少し前まではそうだったから、良く知ってる。

 

 

「・・・一夏!!」

 

 

辿り着いた控室の扉は派手に破壊されていて、僕の焦燥感を嫌でも煽る。

反射的に連装式ショットガンを呼び出し(コール)て、控室に踏み込む。

10人程度の人間がくつろげる広さのロッカールームは、まるで嵐が過ぎ去ったような惨状だった。

 

 

ひしゃげたロッカーやヘシ折れた木製のベンチが散乱して、いたる所の壁には何かを叩き付けたような跡や穴がいくつも出来ている。

弥が上にも僕に不吉な予感を感じさせるには、十分な材料がそこには揃っていた。

それは明らかに、ここで戦闘が行われたことを意味していて・・・!

 

 

「・・・誰!?」

 

 

廊下側から何かが崩れるような音がして、振り向く。

するとそこには・・・。

 

 

「無人機・・・!」

 

 

さっきモニターで確認した、アリーナに10数機出没していた戦乙女タイプの無人機。

無人機だと判断する理由は、過去のデータと動きが類似していることに加えて生命反応が無いから。

バイザータイプのライン・アイが赤く輝いて、僕の方を見る。

 

 

当然、僕はショットガンの銃口を向けて身構える。

正直、試合の直後だからエネルギーが心配なんだけどね。

それでも一夏の相手がコイツだとするなら、無視はできない。

 

 

「・・・え?」

 

 

突然、その無人機の胸の部分から白いエネルギーの刃が生えた。

シールド・エネルギーを完全無効化するその一撃は、強力な性能を誇る無人機のコアを正確に貫いていた。

あのエネルギー刃は・・・。

 

 

「一夏!!」

「よ、よう、シャルロット。大丈夫か・・・?」

「むしろ一夏が大丈夫じゃないよね!?」

 

 

コアからのエネルギー供給の途切れた無人機がその場に崩れ落ちると、その背後で『雪片(ゆきひら)』を構えていた一夏が現れた。

駆け寄って崩れ落ちそうになる白い機体を支える。

 

 

装甲には各所に罅が入ってて、部分によっては内部構造が露出さえしてる。

ウイング・スラスターも半分が折れてるし・・・第一、エネルギーが切れてる。

ぱっと見ただけでも、一夏が死闘を越えて来たことがわかる。

 

 

「み、皆は無事か? 助けに行かないと・・・」

「だ、大丈夫。むしろ一番大丈夫じゃないのは一夏だから」

 

 

一夏に肩を貸しながら、僕は呆れる。

『白式(びゃくしき)』のダメージは甚大なのに、一夏自身も額が切れて血を流しているのに。

こんなになっても、一夏は他の娘達のことを心配するんだね。

自分が一番弱いとか、関係無しに。

 

 

「・・・一夏は優しいね」

「そ、そうか・・・? ハハ、要領が悪いだけだと思うけどな」

 

 

へへ、と笑う一夏。

正直、アリーナの方はここよりも酷いと思うんだけど・・・ここは嘘を吐く。

一夏を、行かせるわけにはいかないから。

大丈夫、僕は嘘を吐くのが得意だから。

それよりも、早く一夏を・・・。

 

 

「おー・・・先輩先輩、ラヴいっスよ。ラヴ空間っスよ」

「やめろよフォルテ、後輩イジメなんてカッコ悪いぞ」

「先輩に言われたくは無いっス」

「・・・!」

 

 

聞こえて来た声に、僕はビクッと震える。

出来れば、このまま一夏を逃がしたかったんだけど・・・。

顔を上げれば、ブチ抜かれた壁の向こう側で空中で寝転んでる女の子が2人いた。

 

 

顔は知ってる、ISも見たことはある。

3年のダリル・ケイシー先輩と、2年のフォルテ・サファイヤ先輩。

一夏と違って、2人には傷一つ無い。

 

 

「あ、先輩方。すみません、結局援護貰っちゃって・・・」

「本当だよ畜生、あー・・・面倒だったぜ」

「仕方無いっス、これも先輩の務めっス、何より死なれると困るっスから」

 

 

一夏と2人の先輩の間には、明確な温度差がある。

一夏は特に気にしてはいないんだけど、僕にはそう感じられる。

支えてる一夏の身体に、そっと力を込めながら・・・。

 

 

「どうするっスか、先輩。外への通路は隔壁落ちてるっスけど」

「どうするもこうするも、破るわけにはいかねーだろ、面倒な。アリーナに出て空から逃げるかな・・・」

 

 

僕は、状況の最悪さを呪った。

こう言う時のために、僕が残されてるはずなのに・・・。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

失念・・・しておりましたわ。

いえ、失念と言うよりは・・・可能性を無視していたと言うべきでしょうか。

命令とは言え、目先の利益と希望的観測にのみ目をやった結果がコレです。

 

 

「ぐ・・・」

 

 

アリーナの壁面、そこに積み上がった瓦礫の中から這い出ます。

もはや申し訳程度にしか私の身体を覆っていない蒼の装甲が、与えられたダメージの大きさを物語っています。

アレから、何分が経過したのでしょうか・・・。

 

 

「・・・こふっ」

 

 

喉に何かが詰まったような感触を覚えて咳き込んでみれば、血の色の滲んだ唾が出て来ましたわ。

横腹に違和感を感じますから、もしかしたら肋骨の2、3本は折れているのかもしれません。

何せ、ISの保護機能を封じられた状態で無人機に殴られたのですから・・・。

 

 

「最悪の・・・事態ですわね」

 

 

美しさも欠片も無い掠れた声で、私は呻くように呟きます。

もはや立ち上がる気力も無く、這うように顔を上げることしかできません。

立たなければとは思います、オルコットの娘が地に伏すなどあってはならないのですから。

でも立てない、力が入らないのですわ・・・。

 

 

ドシャッ、ドシャッ。

 

 

その時、私の横に折り重なるように倒れた・・・いえ、捨てられた者がおります。

一人は黒髪、一人は銀髪の女性で・・・。

 

 

「り、鈴さん、ラウラさん・・・!」

 

 

私が密かに憧れていた、綺麗な銀髪を朱に染めたラウラさん。

仰向けに転がされたラウラさんの腹部にうつ伏せに倒れているのは、リボンが切れ、ツインテールのほどけた鈴さん。

どちらも、ピクリとも動かず・・・生きては、いるようですが。

しかし、ダメージの深さは隠しようもありません。

 

 

「お、の・・・れ・・・!」

 

 

辛うじて動く右手を地面につき、身体を支えて上体を起こします。

しかし支えきれずに、そのまま崩れ落ちます。

頬にアリーナの土の感触を感じながら、それでも顔を動かして上を見れば・・・。

 

 

そこに、戦乙女の姿をした無人機がおりました。

 

 

それも1機や2機では無く、4機か5機。

2機か3機は代表達が駆逐したようですが、それでも10機近くの無人機がアリーナの中を我が物顔で占拠しているのです。

今、鈴さんとラウラさんを投げ捨てたのも無人機。

・・・いえ、正直、この戦乙女タイプのみが敵なら、まだ何とかなりました。

 

 

「・・・ズルい、ですわね・・・」

 

 

失念、しておりました。

あの能力は、「彼女」によって作られた技術。

ならば、何も1機のみがその能力を備えていると決まっていたわけでは無いのですのに。

可能性を見誤った、我々の過失が・・・悔まれます。

 

 

『Trismegistus System』。

 

 

あの全身装甲(フル・スキン)タイプの黒い無人機が放ったのは、間違いなくあの能力。

全く同じ物かは判別が付きませんが、しかし・・・黒い螺旋上の何かがアリーナを覆った瞬間。

私達のISは、全ての能力を封じられた上に・・・。

 

 

「・・・ぁ・・・」

 

 

そこまで考えた所で、全身から力が抜けました。

力尽きる、まさにそんな表現が正しいと思えるような身体の重さと、闇に。

私は、意識を手放しました・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

気持ち、悪い。

何だろう、今までの人生で一番、気分が悪い。

吐きそうなくらい気分が悪いけど、身体が動かない。

 

 

「ぁ・・・ぁ・・・」

 

 

嫌に渇いた唇を戦慄かせて、同じ音しか出せない。

叫び出したいんだけど、声が出ない。

瞳が映す出来事に、脳の処理速度が追いつかない。

 

 

「か・・・簪ちゃん」

 

 

へたり込んだ私の膝の上に身体を乗せている親友に、声をかける。

でも気を失っている簪ちゃんは、私の声には答えてくれない。

私にも、経験がある。

 

 

血が足りなさ過ぎると、外の声が聞こえないくらいに眠りが深くなるんだよ。

それはとても深い眠りで、このまま次に目が覚めないんじゃないかってくらいに。

だから、こんなに血を流してる簪ちゃんがすぐに起きれるはずが無くて。

 

 

「ぉ・・・起きて、起きてよぅ・・・簪ちゃん」

 

 

歪む視界の中で、頬に血をこびり付かせた簪ちゃんの顔を見る。

瞳は閉じたままで、動かない。

ISスーツに包まれた身体はとても温かいけど、簪ちゃんはピクリとも動かない。

その事実が、私の胸を締め付ける。

 

 

「ひっ・・・」

 

 

息を飲んで、反射的に簪ちゃんの身体を抱き締める。

そんな私の目の前には、黒い全身装甲(フル・スキン)の無人機が立ってる。

装甲の隙間から、『黒叡(こくえい)』と同じナノマシンを放ち続けてる無人機が。

 

 

意味がわからない、どうしてこの機体が『黒叡(こくえい)』と同素体のナノマシンを放出してるの?

このナノマシンの特殊な構造は、他の人間に模倣できるはずが無いのに。

それなのに、それなのに。

どうして、『黒叡(こくえい)』のシステムまで搭載してるの・・・?

 

 

「・・・ちゃ・・・」

 

 

私を守ろうとして怪我をした簪ちゃんを抱き締めたまま、目を閉じる。

皆、どこに行っちゃったのかわからない。

どうなったのか、わからない。

わからない、何もわからないよぅ・・・・・・ちゃん。

 

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、おねぇちゃぁん・・・」

 

 

何もできずにただ泣いて、お姉ちゃんに助けを求める。

束お姉ちゃんなら、どんな状況だってへっちゃらだから。

いつだって、どんな時だって。

 

 

だから、助けて。

助けて・・・ねぇ、さ・・・。

 

 

「箒姉さん・・・っ」

 

 

・・・・・・・・・しばらく、静かだった。

簪ちゃんを抱き締めたまま、じっとしてた。

そうしたら、何も起こらなかった。

何も起こらないことが不思議で、私は少しだけ目を開く。

 

 

すると、視界の隅に4本の足が見えた。

 

 

紅色と水色、それぞれの装甲に覆われた足が。

力無く「く」の字に折れそうで、それでも不思議と折れるとは思えない程に力強くて。

慌てて、顔を上げる。

頬の水分を振り払う勢いで、顔を上げると。

 

 

「・・・わ・・・っ」

 

 

そこには、2人の女の人がいた。

紅の装甲を纏った女の人は、両手でボロボロの刀を持って黒い無人機の右腕を受け止めていて。

水色の装甲を纏った女の人は、折れたランスの柄だけで無人機の左手を止めている。

2人とも、至る所から血を流してて、ズタボロで。

 

 

「・・・わ、た・・・わたし、の、ぉ・・・!」

 

 

唇の端から血を流しながら、それでも呻くように紅の女の人が呟く。

呼吸と共に吐き出されるそれには、全ての感情が込められていた。

 

 

「わた、し・・・のっ、いもぅ・・・と、に・・・っ!」

 

 

刃こぼれした刀を引いて、黒い無人機の腕を弾き飛ばしながら。

紅のISを纏った女の人・・・箒姉さんが。

 

 

 

 

「私の妹に、手を・・・ッ・・・出すなああああああああああああああぁぁぁっっ!!」

 

 

 

 

箒姉さんの咆哮が、アリーナに響き渡った。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

「大丈夫か? 後は先生達の誘導に従って逃げるんだ」

「は、はい、ありがとうございます・・・」

「良し、行け!」

「「「は、はいっ」」」

 

 

観客席で蹲っていた女生徒達を避難経路に送り届けて―――避難誘導するヒルダ先生(化学教師)に手でサインを送った後―――私自身は別の通路を通って、他の場所へ向かう。

とは言え、至る通路で生徒達が避難しているので、なかなか骨だったがな。

 

 

「織斑先生っ!!」

「山田先生!」

 

 

生徒達が逃げる通路を守るようにバリケードを敷き、そこから五一口径のアサルトライフルで「敵」を牽制していた山田先生が、私の顔を見つけると表情を輝かせた。

私はそれを確認した後に壁を蹴り、通路を駆ける生徒達の頭上を飛び越すような形で跳躍する。

 

 

身体を捻って回し、山田先生達の傍に着地する。

背後を振り返ってみれば、顔を引き攣らせた生徒達が先生達と3年生の精鋭に誘導されて避難している。

とは言えこの通路はもうすぐ封鎖される、何故ならば・・・。

 

 

「10式戦車の120ミリ滑腔砲も止める隔壁も、あの有様か・・・」

 

 

私の視線の先には、ほんの10メートルほど先の非常用隔壁を擦り抜けて進んでくる戦乙女タイプの無人機が2機、存在していた。

アリーナ内部から侵攻してくる無人機を止めるために、避難経路を選択しつつ隔壁で隔離しようとしたのだが・・・効果が無かったようだ。

 

 

何しろ連中は、壁を擦り抜けられるんだからな。

透過能力、これはまた厄介な能力だ。

行きたい所に行けて、しかも制限が無い。

まさに、空前絶後の技術だよ・・・。

 

 

「ど、どうしますか」

「とにかく、ここの通路は封鎖する。生徒の避難経路の変更はすでにヒルダ先生に伝えた。もうすぐ生徒が途切れるから、それまではここを死守する」

「わ、わかりました」

 

 

とは言え、それは決定打にはならない。

あの無人機・・・『ゴーレム』の発展機だと思われるが。

先生達が使う第2世代型の量産機では、対抗しきれないだろう。

と、なると・・・。

 

 

「山田先生、例のシステムは?」

「え・・・あ、はい。もう組み込んでありますから、アリーナのコントロールルームから入力できますけど・・・」

「わかった。山田先生、ついてきてくれ。奴らがアリーナの外に出る前にシステムを起動させる」

 

 

アリーナの外に出られると、もうどうすることもできない。

何せ私が用意した対抗策は、アリーナをカバーするので限界だからな。

 

 

「え、えぇ、でも、ここの拠点は・・・」

「オニール先生、よろしく頼む」

「マジですか、銃は苦手なんだけどなぁ・・・」

 

 

『打鉄(うちがね)』装備のオニール先生は、山田先生からアサルトライフルを受け取るとバリケードに身を隠しながら射撃を始める。

すぐに別の先生も救援に駆け付けるから、それまで持ちこたえてくれ。

コントロールルームに入れるのは私と山田先生だけだから、仕方が無いんだ。

 

 

・・・意識してか無意識の内にか、私は右手で左胸を押さえる。

スーツに皺を作るのは困るが、自然とそうなってしまう。

 

 

「・・・まだ、まだだ・・・まだ、アイツは出せない・・・」

「え、何ですか?」

「・・・・・・いや、調べてみたが、今回の無人機は全部で15体だ」

「そんなにですか!? それにしても、流石は織斑先生ですね。こんな短時間で状況を把握するなんて」

「いや・・・」

 

 

別にそれは、大したことじゃない。

ただ、私には「わかる」というだけだからな。

 

 

「・・・それにしても、あの黒い無人機・・・」

 

 

仮に、『ゴーレムⅣ』と名付けるが・・・あの無人機が見せた、動きは。

どこかで、と言うより、いつか・・・見たことがある。

感じたことが、あるんだ。

 

 

そう、アレは確か・・・10年前だ。

10年前の、あの時と何も変わっていない。

まさか、と言うよりも・・・確実に。

 

 

 

 

―――――調子に乗るなよ、束。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ○○○ ○

 

「うふっ、うふふふふふふっ・・・あっははははははははっ!」

 

 

かぁっくいぃ―――――っ、さぁすがはちーちゃんっ、惚れちゃいそうだよっ!

ううん、もうずっと前から惚れてるけどね!

ちーちゃんになら抱かれても良いよね、むしろ抱いてちーちゃん!

 

 

でもちーちゃんは恥ずかしがり屋さんだから、きっとまた私から離れて行くんだろうけどね。

誘う時はいつも私、学校でも家でもどこでもいつでも・・・だけどたまには、ちーちゃんから誘って欲しいな~。

じゃないと、退屈で何したら良いかわからなくなっちゃうんだから。

まぁ、天才の私は「わからない」なんて感じたことは無いけどね~。

 

 

「うふふふふ、でも今はちーちゃんよりも・・・」

 

 

手元の球形のフル・カスタマイズ・モデルのキーボードにいろいろと入力しながら、360度スクリーンに映る全部のデータを片目に見つつ、鼻歌なんか歌う。

この歌、確か楓ちゃんに教えて貰ったんだよねー。

 

 

そう言えばこの「シミュレーター」も、元々は楓ちゃんに玩具としてあげたんだっけ。

まぁ、今は私が別の用途で使っちゃってるけどね~。

具体的には?

うふふ、ちょっとした遊びがしたくてね~、何しろ、最近「何も無くて」暇だったから。

 

 

「それにしても、楓ちゃんってばいけない子だなぁ、もう」

 

 

楓ちゃんったら、答えを教えようとしちゃうんだもんね。

ダメだよ~、そんな簡単に答えを教えちゃぁさ。

次に会ったら、お仕置きしなくちゃね。

うふふ、またチョコレートのお風呂にでも入れちゃおうかな。

 

 

「でぇも、今はそ・れ・よ・り・も、と」

 

 

モニターを入れ替えて、『ゴーレムⅣ』の視界を開く。

いっくんと箒ちゃんと楓ちゃんの機体性能の100%を詰め込んだこの子はね、他のと違って自動制御機能はついて無いんだ。

つまり、完全なる遠隔操縦(リモート)♪

 

 

「うふふふ、箒ちゃんと遊ぶのは久しぶりだねぇ」

 

 

画面に映る箒ちゃんの強い眼差し、う~ん、ゾクゾクしちゃう。

楓ちゃんを守る? うふ、良いよ良いよ、そう言う遊びだよね。

うふ、うふふふ、うふふふふふふ・・・っ。

 

 

「あっははははははっ、さぁ遊ぼう、箒ちゃん! あの時みたいにぃっ!!」

 

 

球形キーボードを10個並べて、菱形のスクリーンを22個展開して。

出来そこないの人形『ゴーレムⅣ』を使って、私は箒ちゃんと遊ぶ。

まぁ、そこらにどうでも良いゴミが何個かいるみたいだけどさ。

あの時、完膚無きまでに私を魅せてくれた、最強の妹と。

最弱の妹の、目の前で。

 

 

 

束さんはお姉ちゃんだからね、妹の面倒を見るのも・・・。

―――――お姉ちゃんの、仕事だからね。

 




くーちゃん:
僭越ながら、今日は私が楓さまの代わりを務めさせて頂きます。
私などに楓さまの代わりが務まるとは思えませんが、どうかご容赦くださいませ。

・・・はい?

アレから、どうしていたのか、ですか?
不思議なことをお聞きになりますね・・・アレとは、どの時のことでしょうか。
私と束さまの生活は、なんら一切の変化はありませんでしたが・・・。

・・・納得して頂けていないようですが、困りましたね。

ではお詫びに、『ゴーレムⅣ』について少しだけお話しましょう。
アレは言うなれば、束さまのお遊びのような物で・・・。
何と申しますが、「おねえちゃんのかんがえたさいきょうのあいえす」なのだそうです。

私のような矮小な存在にはわかりかねますが、皆様にはおわかりになりますでしょうか。

それでは、次回。
束さま、どうか存分にお楽しみくださいませ。
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