インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第40話:「その学園、崩壊・後半」

―――――11月末午後、東京。

 

「首相、IS特務機関より緊急の報告が・・・」

「な、何? わ、私は何も聞いていないぞ!? いったい・・・」

 

―――――同日未明(東京時間より8時間前)、ブリュッセル。

 

「いったい、何者の命令で我々の代表達は動いているのですか?」

「はぁ、それが議長。どうもIS委員会の直接命令で動いているらしく・・・」

 

―――――前日深夜(東京時間より14時間前)、ワシントン。

 

「命令だと?」

「アラスカ条約の特別規約第2項に基づく決定と言うことで・・・いわゆる、超法規的措置とか」

「・・・・・・委員会の古狸共め、我が国の代表に何をさせるつもりだ」

 

 

世界の主要都市の視線が集まる先・・・そこは日本、IS学園。

世界の、中心である―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

一緒にいたい、傍にいたい。

役に立ちたい、力になりたい、頼りにされたい。

どれだけそう想っても、結局の所。

 

 

私は、無力だ。

 

 

お布団の中で、部屋の障子の向こう側に夢見た外の世界で。

自分の足で歩けるようになって、自分の手でモノに触れるようになったのに。

今もこうして、私には見ていることしかできない。

 

 

「やぁああああああっ!」

 

 

ガギンッ、と鈍い音を立てて、箒姉さんが両手で持った刀を振るう。

黒い無人機は、どこかから展開した黒い近接ブレードの二刀流でそれを迎え撃ってる。

打ち合う度に火花が散って、重い衝撃が空気を震わせる。

すでに深いダメージを負っている箒姉さんの『紅椿(あかつばき)』には、こうして地上で近接戦を挑む以外に選択肢が無い。

 

 

「ふっ・・・!」

 

 

そして箒姉さんの一歩外を周回する形で、蛇腹剣を持った会長さんが援護する。

ランスは砕けちゃったから、でも水のナノマシンが使えない以上、ただの物理剣。

とても、相手のシールドを抜けてるとは思えない・・・。

 

 

「楓さん」

「・・・っ」

 

 

箒姉さん達の戦いを凝視していたから、気が付かなかった。

すぐ傍に、虚先輩がいた。

いつの間にそこにいたんだろう、最初からだっけ・・・?

 

 

「楓ちん、楓ちん、だいじょーぶ?」

「ほ、本音ちゃん・・・?」

 

 

頭に赤十字マークのキットを乗せた本音ちゃんが、私の顔を覗きこんでくる。

こっちも、いつの間に・・・だね。

 

 

「ここは危ないわ、とにかく離れないと。楯無お嬢様達の邪魔になる」

「かんちゃんも医務室に連れて行かないとね~」

「で、でも・・・他の無人機が」

 

 

そう言って、周りを見渡すと・・・あ、あれ?

 

 

「うん、何かね、他のは急に動かなくなったんだって~」

「動か、なく・・・?」

 

 

確かに、アリーナの至る所に戦乙女タイプの無人機が並んでるけど・・・動いていない。

動いて無くて、その顔(カメラ)をアリーナの中央へ。

箒姉さん達の方へ、向けていて。

 

 

そして私達の所に虚先輩と本音ちゃんが来てくれたように、他の人達・・・鈴さんとかを、上級生らしき人達が慎重に回収してるのが見える。

戦乙女タイプの無人機は、興味すら示した様子は無い。

確かに、逃げるなら今・・・って、感じだけど。

 

 

「で、でも、まだ箒姉さ」

 

 

ん達が、と言おうとしたその時、何だか聞き覚えのある炸裂音が聞こえた。

その炸裂音の発生源を、私は良く知っている気がした。

だって、私はそれを内部構造まで良く知ってるから・・・。

 

 

「お・・・」

 

 

私の肩に手を置いたままの体勢で、顔を上げた虚先輩が声を漏らす。

その視線の先には・・・肩のあたりに「浮遊する大砲」、鈴さんの『衝撃砲』に酷似した武装を展開した漆黒の無人機の姿があって。

 

 

その連続砲撃が、会長さんを吹き飛ばした所で。

 

 

ぎゅっ・・・と、私の肩を掴む虚先輩の手に、力がこもった。

普段の冷静な虚先輩からは想像できないような、そんな声が響く。

 

 

「お嬢様・・・ッ!!」

 

 

・・・あの、『衝撃砲』は、もしかして。

な、ナノマシンで複製した、の・・・?

ね、姉さん・・・!

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

急に黒い粒子が集まったかと思えば、鈴の『衝撃砲』のような形状になった。

しかもそれが、まさに『衝撃砲』そのままに見えない砲撃を放った。

そして不意討ちのような形で放たれた砲弾が、ナノマシンの防護を失った楯無先輩を吹き飛ばした。

 

 

「楯無先輩!!」

『だ、大じょ・・・ぇ・・・!』

「良かった、無・・・ぐうぅっ!!」

 

 

途切れがちな通信の直後、二本の漆黒の剣が振り下ろされてきた。

唯一残っている刀である『雨月(あまづき)』を横にし、受け止める。

脚部装甲が悲鳴を上げるが、それとは無関係に相手は力を込めてくる。

目の前で火花が散り、刃が削れていく様はまるで私の精神そのモノを削られているかのようだ。

 

 

「こ、のっ・・・き、さまああああああああああぁっ!!」

 

 

仲間を傷付けられた怒りのままに刀を振るい、漆黒の無人機を力任せに押しのける。

技術的なことはわからない、だが奴の放つ粒子のせいでこのアリーナでは私の機体しかまともに動けない。

他の無人機はどう言うわけか動かず、楯無先輩も戦線を離脱した今、まさに一騎打ちの状態だ。

負けるわけにはいかない、コイツの目的がわからない以上・・・ッ。

 

 

何よりも、私の妹に手を出すことだけは許さない!!

 

 

それだけは、私が「姉」である限り、絶対に!

ゴッ・・・アリーナの地面を蹴り砕いて前に飛び出す。

守っているだけでは勝てない、前に出て押し切る!

 

 

「うぅおおおおおおおおっ!!」

 

 

両手持ちの刀を上段から振り切る、受け流されるのも構わずに刃を返し、下から斬り上げる。

裂帛の気合いを込めつつ何度となく刀を振る、両手で持っている分パワーの乗った刃が、漆黒の無人機を後ずさらせる。

 

 

「でやあああああああああっ!!」

 

 

断続的に響く金属音、レーザーも展開装甲も使わない純粋な近接戦。

相手も剣だけを使っている、パワーもスピードもあるが・・・技術が、足りない!

この動き、剣術の類に関しては素人と見える。

 

 

「所詮はっ・・・無人機ッ!!」

 

 

跳躍からの斬撃、相手の剣を半ばから砕く。

漆黒の刃の破片が、視界を横切る。

着地と共に身を沈め、頭上を掠めるもう一本の剣をかわす。

風圧を感じるが、ISが守ってくれる。

反時計回りに身体を回し、遠心力に逆らうこと無く刀を振り切る。

 

 

「ちぃえぁっ!」

 

 

鈍い感触が手に伝わる、もう一本の剣も砕いた感触。

これで武装は排除した、私は刀を構えなおして突きの姿勢に・・・!

 

 

目の前に、漆黒の射撃ビットが展開されていた。

 

 

・・・ッ!?

反射的に首を捻る、直後に首を掠めて漆黒のレーザーが放たれる。

ビット!? いつの間に!? そんな武装、今まで・・・!?

 

 

「うあっ・・・!?」

 

 

とにかく距離を取ろうとした時、足に何かが絡みついた。

それは、構成物質が全て漆黒で出来た・・・ワイヤーブレードだと!?

鈴の衝撃砲だけでなく、セシリアのビットにラウラのワイヤーブレードまで・・・これは、いったい!?

 

 

「・・・っ、ぐ、がっ・・・く・・・っ」

 

 

ワイヤーに手繰り寄せられ、漆黒の拳で殴打される。

だが、倒れない、倒れてはいけない。

それだけを考え続けて、刀を手放すこと無く耐える。

 

 

妹が後ろにいる時。

姉は、けして倒れてはいけないのだから・・・!

 

 

 

 

 

Side 布仏 虚

 

アレは、何?

黒いナノマシンを使役していることはわかる、それが楓さんの機体の能力に酷似していることはこの際、どうでも良い。

問題は・・・。

 

 

「他のISの武装をコピーして、ナノマシンで再構成している・・・?」

 

 

あり得ない、内燃機関やシステムを無視してナノマシンだけで武装を再構成するなんて。

そもそも複製できる程のデータを、いつの間に収集したと言うの。

あの装備は『甲龍(シェンロン)』、『シュヴァルツェア・レーゲン』の・・・他の国の候補生の機体データをいったいどうやって、どこから。

 

 

・・・いえ、それも今は良い。

無人機の攻撃で吹き飛ばされた形になったお嬢様が姿を消している、おそらくはどこかから奇襲するつもりのはず。

けれど問題は、あの無人機のナノマシンを私達では止められないと言うこと。

止められる可能性が、あるとすれば・・・。

 

 

「か、楓ちん? だ、大丈夫~?」

 

 

本音の声に視線を落とせば、本音に肩を抱かれた楓さんがいる。

今の所、彼女―――あえて「彼女」とボカすけれど―――に対抗できる、ほとんど唯一の可能性。

私達に理解できない技術も、楓さんならわずかなりと理解できるはず。

 

 

彼女の手と頭と目が、あの技術を知っているはずだから。

 

 

でも、当の楓さんは顔を蒼くして箒さんの戦いを見てる。

いえ、さっきまでは戦いと呼べる物だったのだけど・・・今では、箒さんが一方的に殴られている。

でも援護は無い、何故なら無人機のナノマシンの影響で他のISは動くことができないから。

・・・『紅椿(あかつばき)』だけが動けると言うのも、おそらくは・・・。

 

 

「・・・よ・・・」

「楓ちん?」

「・・・?」

 

 

ついには見ていられなくなったのか、楓さんは俯いて震え始めてしまった。

お姉さんが一方的にやられているのだから、無理も無いけれど。

 

 

「・・・め・・・よ・・・」

 

 

けれど、それにしてはどうも様子が・・・。

左手の中指に嵌められたISの指輪が、気のせいかカタカタと音を立てているような。

 

 

「がっ・・・!?」

 

 

その時、鈍い音と悲鳴を堪えるような声が聞こえた。

ビシャッ・・・と、何かの液体が飛び散るような音が直後に響く。

後から思えば、それが決定打だったのかもしれない。

 

 

「・・・めろ・・・って・・・」

 

 

楓さんの身体から、少しずつ無人機が放つのとは別の種類の粒子が放たれ始める。

少しずつ、少しずつ、少しずつ・・・。

・・・そして。

 

 

 

「やめろって、言ってるだろおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

 

ダメージレベル「C」にまで進んでいたはずの『黒叡(こくえい)』が、起動した。

それでも、両手を地面に叩きつけて叫ぶ楓さんの声に応えるように。

楓さんの身体を、黒いナノマシンが覆った。

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

アリーナの外へ向かいたかったけど、隔壁が降りてて外へ出れなかった。

それに、他の無人機も何機か動いているみたいだったから・・・それを避けて動かないといけなかった。

結果として、アリーナの観客席に出る形になったんだけど・・・。

 

 

「アレは・・・箒!? くそ、今、俺が・・・」

「一夏!? ダメだよ、無理しちゃ・・・」

 

 

失敗だったかもしれない、これなら僕が戦乙女タイプの無人機を撃破して外に行くべきだったかも。

何しろ、アリーナの中央で黒い無人機らしき機体に押されてる箒を見て、一夏が戦おうとしているから。

一夏だって、僕に肩を借りなきゃ動けないのに・・・。

 

 

「うおー・・・何アイツ、マジでヤバそうだな・・・」

「マジっスね。先輩、どうぞっス!」

「何がどうぞだ、てか機体が重いんだが・・・」

 

 

ダリル先輩とフォルテ先輩も傍にいるけど、自分の機体の重さに首を傾げてる。

当然、僕の『リヴァイヴ』もまともに動かない。

原因は、空気中に散布されている極小のナノマシン・・・。

 

 

「・・・ガキ共はスっ込んでな・・・」

「・・・誰!?」

 

 

突然聞こえて来た声にあたりを見渡すと、観客席の至る所がボロボロになっていることに気付く。

ナノマシンはアリーナのシールドにまで干渉しているのか、観客席を守るシールドも機能していないみたいだけど・・・生徒は、もう避難し終えてるらしいけど。

とにかく、ガラガラと音を立てながら観客席で立ち上がったのは・・・。

 

 

「・・・ジーナ代表!?」

「あん? ああ、チフユの弟共か。邪魔だから引っ込んでな・・・おいエリス、仕込みは大丈夫なんだろうな・・・あ、瓦礫の下? 知らん」

 

 

損傷の激しい黄金色のISが、観客席に積み上がった瓦礫の下から出て来た。

通信か何かで話しながら、ジーナ代表は僕達の横を通り過ぎてアリーナと観客席の間の柵に足をかける。

すると、止まっていた何機かの戦乙女タイプの無人機が反応して・・・。

 

 

そしてジーナ代表が突撃する、入れ替わるように僕達がいるのとは反対側に何かが墜落した。

ISの望遠で見るとそれは空色のISを纏ったアイシャ代表で、直後に襲いかかって来た戦乙女タイプの無人機の膝を紙一重でかわしてる。

他の代表達も、まともに動けない中で何とか工夫して耐えてる。

でもISの性能のほとんどが使えないから、かなり苦戦してるのがわかる。

 

 

「シャルロット、頼む、俺を投げてくれるか・・・?」

「え? な、何を言ってるのさ、一夏!?」

 

 

肩を貸してる一夏が、再び『白式(びゃくしき)』を展開しながら僕に「投げて」と言ってきた。

どこに投げるのか、なんてことは聞かない。

 

 

「頼む、シャルロット。このまま何もしなかったら、俺、きっと後悔する・・・!」

「で、でも、そんなの無茶だよ」

『そーね、おねーさんとしてはその作戦に修正を加えたいわね』

 

 

この声・・・会長!?

僕が突然の通信に驚いていると、アリーナの中心でもう一つの「黒」が爆発するのが見えた・・・。

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「おんやぁ?」

 

 

アリスと白ウサギが同居したような衣装を纏った女が、360度をスクリーンに囲まれた空間で首を傾げた。

遠隔操作(リモート・コントロール)―――――遥か遠くの地の状況を映し出すスクリーンを睨みながら、女はやけに可愛らしい仕草で小首を傾げる。

 

 

「ん~、イケズな子だなぁ、楓ちゃんは。せっかくお姉ちゃんが箒ちゃんと遊んでるのにぃ~」

 

 

ぶー、と唇を尖らせて、女は不満げに言う。

その顔は、まるで楽しい遊びを邪魔された童女のようだった。

しかしそれも、すぐに笑みに変わる。

 

 

それはまるで、「しょうがないなぁ」と言うような顔で。

我儘な妹の面倒を見る、姉のような顔だった。

彼女がいる場所に似合わない、妙に庶民的な表情だった。

 

 

「まぁ、楓ちゃんも遊びたいお年頃だもんね~」

 

 

しかし言動は、極めてズレていた。

少なくとも、彼女が今やっていることとはズレている。

彼女の正面のスクリーンには、朱に塗れたポニーテールの少女が映っている。

黒い拳が振り下ろされる度に、紅の機体から朱色の液体が飛ぶ。

 

 

「ああ・・・綺麗だなぁ、箒ちゃん」

 

 

それを見て、女は恍惚とした表情を浮かべる。

画面越しにこちらを睨む妹の強い眼光に抉られたかのように、胸に手を添えて。

夢見る乙女のような表情で、妹を見つめる。

今の自分には持ちえない色を持つ、妹を。

 

 

「そうだよね、あんなの見たら、楓ちゃんも我慢できないよね。仲間はずれはダメだもんね・・・」

 

 

ブンッ・・・と新たな空中投影のキーボードを開いて、女はそこに指を走らせる。

それは、ある「ナノマシン」を操作するための専用のキーボード。

 

 

「じゃあ、とりあえず今日は指一本だね、楓ちゃん」

 

 

そう言って女は、そのキーボードに左手の小指だけを添えた。

増加した画面、そこに映るもう一人の妹を見つめながら・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

・・・一瞬で良い!

あの無人機のナノマシンが『黒叡(こくえい)』のナノマシンと同じ構造だって言うのなら、『黒叡(こくえい)』からの指令を本体からの指令と誤認させることもできるはず。

 

 

一瞬だけでも無人機のナノマシン・フィールドを無効化できさえすれば、箒姉さんを助けられる。

流石に私のナノマシン・フィールド・・・『Trismegistus System』の中に他の無人機を逆に取り込むことはできないと思う、そこまで攻勢には出れない。

だけどせめて、他の皆も同じ程度に動けたなら・・・。

 

 

「姉さん、姉さん、姉さん・・・!」

 

 

空中に投影したキーボードを叩きながら、半透明のスクリーン越しに箒姉さんの背中を見る。

防戦一方・・・と言うか、刀すら下げてサンドバック上体。

黒い無人機の腕が動く度に、シールドエネルギーが切れた紅の機体が不規則に揺れる。

その度に、朱色の液体が飛び散って・・・。

 

 

早くしないと、箒姉さんが死んじゃう。

 

 

その事実に胸が締め付けられて、泣きながらキーボードを叩く。

『黒叡(こくえい)』のナノマシン・コンデンサーからは最大速度でナノマシンが精製・放出されてる。

なのに、あの無人機のナノマシン・フォールドに介入できない。

相手のISコアに届かない、もしかしたらあの黒い鎧みたいな装甲自体が何らかのシールドの役割を果たしているのかもしれない。

 

 

「この、攻性防壁の展開と反撃のパターン・・・!」

 

 

ナノマシンを媒介に無人機のコアへアクセスしようとするけど、そっちも無効化される。

と言うか、相手のシステムに仕掛けられた防壁(ファイヤウォール)を抜けない。

何とか誤魔化して、コアとナノマシン精製機関の接続を切り離さないと・・・。

 

 

でも、電脳空間上で私の攻撃をかわすこの防壁展開のパターン。

どこかで見たことがあるし、いつものように叩き潰された覚えがある。

途端、私の中の気弱な部分が表に出てくる。

勝てるわけが無いと、本能的に理解する。

だって、きっとコレは・・・。

 

 

「・・・ぐっ・・・!」

「・・・!」

 

 

鈍い音と箒姉さんの悲鳴に、私の身体が震える。

必死で指を動かすけど、どうしても追いつけない。

何もできない、私には何も。

 

 

圧倒的な現実が、私にのしかかる。

こちらのシステム構築よりも、相手の方が何倍も速い。

何をしても対策を打たれて、ついには逆にこちらのコントロールを奪られ・・・。

 

 

「・・・あれ・・・?」

 

 

全部を諦めかけて、機体のコントロールを奪られかけた時。

そのギリギリで、私の方の処理速度が上がった。

何と言うか、現実的に手が増えたみたいな・・・。

 

 

「・・・諦めちゃ、ダメ・・・」

「・・・簪ちゃん・・・!?」

 

 

簪ちゃん、起きたの!?

気が付いたらしい簪ちゃんは、まだ片目を閉じたまま両手を伸ばして、私のキーボードの一つを叩いてる。

身体の動きは鈍いけど、指先だけは凄く速い。

 

 

「そうだよ~、私達もいるよ~」

「お嬢様の策が成るまでまだしばしかかります、頑張って」

「本音ちゃん、虚先輩・・・」

 

 

今度は両側から、合計4本の手が増える。

これで、腕が8本になった。

40の指先が、無数のキーボードを叩く。

 

 

すると少しだけ、相手の攻勢を跳ね返す。

ほんの少しだけ、余裕が出てくる。

それまで私がやっていたことの一部を皆に任せて、私は相手の防壁を抜くことに集中することができた。

でもそれは結局、相手のフィールドをわずかに狭める程度のことしかできなくて。

全体には、何の意味も無かった。

でも・・・。

 

 

『良く保たせた、小娘ども』

 

 

でも、そのほんの少しのことが。

会長さんと、通信から響く声の主、千冬姉様にとっては。

重要な、瞬間だったみたい。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

内部をウロつく無人機を避けながらの移動だったからな、時間がかかってしまった。

後でジーナ達から「遅ぇ!」とか言われそうだが・・・良いか、そこは気にしなくても。

悪いとは思うが、私は軍属では無いものでな。

 

 

「システムの調子はどうだ、山田先生」

「あ、はい。問題無く動いていますよ、まさか本当に使うことになるとは・・・」

 

 

山田先生は驚いているようだが、私は絶対に使うことになると確信していた。

山田先生が操作しているコンソール・・・アリーナのコントロールルームのメイン端末からパスワードを入力することで、通信ないし電波の妨害を行う装置を起動することができる。

 

 

具体的には、外部からアリーナ内に放たれている遠隔操作(リモート)の信号を妨害する。

 

 

先に学園に侵入した無人機の残骸から、何とか信号パターンや周波数を解析した。

半年もかかってしまったが、どうにか委員会の爺共から臨時予算をもぎ取った。

その結果が、今日、ここで活かされることになる。

 

 

「遮断良好! 凄いです、本当に外部からの電波で動いてたんだ・・・」

「だが、自動制御(オート)機能は残っている」

 

 

遠隔操作(リモート)はこれである程度は止められるはずだが、自律行動が出来ることには変化が無い。

おそらく、戦乙女タイプの「ゴーレムⅢ」に関しては自動で動くはずだ。

だが、あの「ゴーレムⅣ」に関しては・・・。

 

 

「ナノマシン・フィールド、縮小していきます!」

「そうか・・・」

 

 

とにかく「ゴーレムⅣ」のナノマシンの動きさえ妨害することができれば、勝機ができるはずだ。

「ゴーレムⅢ」に関してもアリーナの内側に封じ込めた結果、これまで通りの性能は出せまい。

 

 

「・・・と言うわけだ、ジーナ」

『遅ぇんだよ!』

「すまんな、非軍属の民間人なものでな」

『ぐっ・・・』

 

 

ナノマシンの影響が薄れたために、通信も正常化した。

その先で自分で言った「非軍属」発現を悔いているのかどうなのか、呻いているジーナの姿が容易に想像できる。

さて、後は・・・。

 

 

「え・・・?」

「どうした、山田先生」

「あ、いえ、その・・・え、何コレ・・・」

「ん・・・?」

 

 

山田先生の手元の端末を覗きこむ、そして私は目を細める。

そこに打ち込まれた・・・と言うより、送られてきたメッセージに。

・・・この手の仕掛けに関しては、アイツの方が上だとは承知していたが。

 

 

<でも、終わらなかったりして>

 

 

・・・あの、バカが。

これ以上、余計なことをするようなら・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

突然、敵の動きが鈍った。

それに合わせて、私は息を乱しながら膝をつく。

折れた刀を刺し、両手で柄を持ちながら身体を何とか支える。

 

 

だが、倒れない。

 

 

いや、そもそも何故、膝をつく。

何故、俯く。何故、腕を下ろす。

誓ったはずだ、自分の魂に。

 

 

<『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』、使用可能>

 

 

『紅椿(あかつばき)』の声を聞き、全身が黄金と漆黒の混ざった独特の粒子に覆われる。

エネルギー・ゲージが急回復し、失われた装甲の一部も復元されていく。

額が切れたのか、目に入ってくる血を手の甲で拭う。

 

 

顔を上げれば、ナノマシン・フィールドを失いながらも未だに動いている黒い無人機がいる。

動きのパターンが随分と変わったような気がするが、私と違ってダメージも少ない。

動作も俊敏だ、火力は絶大、武装を失った私よりも遥かに優位にあることは変わらない。

 

 

「箒姉さん! 今の内に下がって! もう無理だよぅ!!」

 

 

楓の・・・妹の声が聞こえる。

折れた刀を杖代わりに立ち、完全に立ち上がった状態になってからそれを投げ捨てる。

武装は無い、ダメージは甚大、今にも倒れて気を失いそうだ。

普通に考えて、明らかに格上の性能を持つ無人機に敵うなど思えないだろう。

だが、そんなことは。

 

 

「やってみなければわからない!!」

 

 

私は自分に、自分の魂に誓った。

妹を、仲間を、皆を守ると。

そのために、手に入れた「力」・・・『紅椿(あかつばき)』では無かったか!

 

 

「・・・『紅椿(あかつばき)』!!」

<戦闘経験値の一定量到達に伴い、新装備を構築します>

「私の力を全てやる・・・死んだって良い。だから、お前の全てを私に寄越せ! 妹を守れる力を、私に寄越せ!!」

<名称、『穿千(うがち)』。御武運を、我が主>

 

 

両肩のユニットがスライドし、まるでクロスボウのようね形状に変化する。

見たことが無い装備だ・・・だが、私はコレをずっと昔に「見た」ことがある。

どうしてか、そんなことを考えて自然に受け入れることができた。

 

 

PICの機能を全て使い、機体を支える。

そうでなければコレは撃てない、何故かそれが理解できる。

まるで、ずっと昔から使い慣れた物かのように。

・・・だが同時に、チャージする瞬間に無防備になるという弱点にも気付く。

 

 

「箒姉さん!!」

 

 

妹の悲鳴、こちらへと迫ってくる黒い無人機。

私は奥歯を噛み締めて、今一度攻撃をこの身に受ける覚悟を・・・。

 

 

 

「・・・ねぇ、今日って湿度、高く無いかしら?」

 

 

 

涼やかな声が響く、同時に黒い無人機の周囲に細かい水の粒子のような物が渦巻き始める。

コレは、楯無先輩のアクア・ナノマシン。

私がそれに気付いた、次の瞬間。

 

 

「『清き熱情(クリア・パッション)』」

 

 

水蒸気爆発。

それが、黒いナノマシンの足を止める。

そしてその一瞬の隙を、私は見逃さなかった。

 

 

「貫け―――――『紅椿(あかつばき)』!!」

 

 

両肩のクロスボウから、真紅の超高密度圧縮ビームが放たれる。

それはアリーナの地表を焼きながら突き進み、黒い無人機の両腕を貫いた後も直進。

射線上にいた戦乙女タイプの無人機2機の胴体を貫き、アリーナの壁面を爆散させた。

・・・威力が、大き過ぎたようだ。

 

 

<照準確定(ロック)されています>

「な・・・」

 

 

『紅椿(あかつばき)』の警告音に驚けば、両腕を失った黒の無人機はまだ立っていた。

それどころか、顔だと思われていた装甲がガパッと開き・・・口の部分に、砲口が出現する。

そこに紫色のエネルギーが収束したかと思えば、迷いも何も無く私に向けて放ってきた。

く、クロスボウの射撃後の硬直で、動けない・・・!

 

 

その時、視界の先に微かに煌めく何かを見つける。

ISのハイパーセンサーが見つけたそれは、微細な金属のようだった。

私はこれを、何度か見たことがある。

確か、名前が・・・。

 

 

「電波欺瞞金属(クラウニック・ウィッチズ)だ、クソヤロウが・・・」

 

 

聞き覚えのある声と共に、特殊金属のチャフがビームの収斂を妨害する。

威力の薄れた紫色のビームは、しかしそれでも直進して・・・。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

バチィンッ、エネルギー同士がぶつかり合う独特の音が響き、紫のビームは白い斬撃で打ち消された。

鈍い金属音が断続的に響き、私の足元にボロボロの白い機体が転がる。

それは『白式(びゃくしき)』・・・そして私を救ったのは、ダイビングのような形で放たれた一夏の『零落白夜』だった。

 

 

「一夏!? お前、どこから!?」

「は、話は後だ、箒! 今だ!!」

「お・・・おおっ!!」

 

 

再びクロスボウの射撃体勢に入る、同時に放たれる楯無先輩の水蒸気爆発。

エネルギー充填、今度は無人機の胴体を破壊する・・・!

 

 

 

―――――あーあ、負けちゃった。

 

 

 

・・・最後の一瞬、気のせいだと思うが・・・。

そんな声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

どうやら黒い「ゴーレムⅣ」が他の無人機に指令を出す形で機能していたらしく、「ゴーレムⅣ」を潰した瞬間、他の「ゴーレムⅢ」も順次停止したわ。

織斑先生に助けられた形ね、轡木さんに頼んで予算を通して貰って良かったわ。

 

 

「さて、今回の黒幕は誰かしらね・・・」

 

 

片付けの進むアリーナの瓦礫の上に座りながら、私は答えのわかりきっている疑問を口にする。

答え・・・つまり特定の個人名を出さないのは、まぁ、いろいろね。

私にもね、個人的な配慮というのも一応はあるのよ。

 

 

それにしても、今回のイベントも不成立・・・か。

正直、本当にヤバいわね。

生徒会長職は辞職しないといけないかも、後任を誰にするか。

普通に考えると、ダリル・ケイシー先輩だけど・・・3年生だしね。

2年生から選ぶなら、フォルテ・サファイアが最有力・・・。

 

 

「お嬢様、こちらでしたか」

「やん、お嬢様はやめてよ」

「失礼、つい癖で・・・簪お嬢様は医務室に搬送されました、本音がついています」

「そ・・・」

 

 

・・・怪我人も出ちゃってるし、これは本気で責任問題よねぇ。

学園長も交代かしら、まぁ、最終的な人事は委員会の決定次第だけれど。

ロシアのIS機関にも報告して、そっちはそっちで対処が必要か・・・後手後手ね、良く無いわ。

 

 

「それにしても、今回の代表達の行動が気になるわ」

「そうですね、聊か性急な印象を受けました」

「それもだけど・・・何か、違和感を感じるのよ」

 

 

欧州、アジア、そしてアメリカとその同盟国。

彼女らはそれぞれ「委員会と本国の命令」で、一夏くん達3人を連れて行くと言っていたわ。

明らかに命令が矛盾してる、論理としておかしい。

前にも、確か同じようなことがあった。

 

 

あれは確か、そう、1年生の臨海学校の時。

委員会と本国からの命令で、ラウラちゃん達が『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を迎撃した。

でも欧州諸国の担当者は、それぞれの候補生にそんな命令を出した覚えは無いと言っている。

正式な記録が残っている以上、明らかに証言は事実と矛盾しているのだけど・・・。

 

 

「おまけに、公衆の面前での楓ちゃん達を・・・か」

 

 

ここは「どこの領土でも無い土地」、だから実はここでの犯罪を裁く機関は存在しない。

唯一、国際IS委員会の司法部が存在するだけで・・・。

・・・委員会だけが、全ての事象に関与してる共通点、か。

 

 

「それが・・・お嬢様、少し気になることがあるのですが」

「何かしら、虚ちゃんが気にするなんてよっぽどのことね」

「ええ、今回の楓さんの勧誘について調べてみた所・・・どうも、勧誘では無く「逮捕」と言うことらしいのです」

「・・・詳しく、聞かせて貰えるかしら」

 

 

逮捕・・・穏やかでは無い表現に、顔を顰める。

これは、どちらかと言うと更識家の領分なのかもしれないわね。

さて、どこを立ててどこを折るか・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

「姉さん、箒姉さん・・・!」

「はは、何て顔をしてるんだ、楓・・・私は全くもって大丈夫だぞ?」

「ぜ、全然、大丈夫に見えないよぅ!」

 

 

ガラガラガラ・・・とストレッチャーで運ばれる箒姉さんについて、アリーナの廊下を走る。

黒い無人機を倒した後、箒姉さんも限界だったのか倒れちゃった。

すぐにこうして学園の救急隊が来て、これから医務室・・・と言うか、もう病院行こうよ!?

 

 

ダメージのほとんどはISが消してくれたかもしれないけど、それでも血を流し過ぎた。

簪ちゃんや一夏さんよりも怪我が酷いのに、箒姉さんは自分が最後で良いって聞かなかったんだから。

もう、こんな時くらいちゃんと辛いって言ってくれれば良いのに・・・。

 

 

「ふふ、お前だって昔は・・・」

「む、昔の話は良いの!」

 

 

と言うか、どうして箒姉さんはそんなに晴れやかな顔してるのさ。

何と言うか、「やりきった」感が溢れてるんだけど・・・。

 

 

それから、少ししてアリーナの外に出る。

キープアウトのテープが引かれてて、その周りを学園の警備の人が固めてる。

その周囲には、アリーナ外に避難してた生徒の人達とかもいて・・・今は、それよりも。

救急隊の人が救急車の中に乗って準備して、一瞬だけ箒姉さんと2人きりになる。

いや、外だけどね。

 

 

「さ、箒姉さん。救急車だよ」

「何、そんなに慌てずとも・・・」

「慌てるよ!? 何で今に限ってそんなにのんびりさんな・・・痛っ」

 

 

・・・何?

何か、足に当たったんだけど・・・。

足元を見ると、小さいけど・・・石?

 

 

コッ。

 

 

可愛らしい音とは裏腹に、今度は額に鋭い痛みが走った。

数瞬後、ズキズキと鈍い痛みが走る。

反射的に手で押さえると、ストレッチャーに寝てた箒姉さんが驚いた顔で跳ね起きた。

ちょ、ね、寝てなきゃダ・・・。

 

 

「誰だ!? 私の妹に石を投げたのは!!」

「え・・・」

 

 

一瞬、ぽかん、とする。

い、石? 投げる? 何の話・・・?

箒姉さんが睨む先に視線を動かすと、テープの向こう側だけど、比較的近い場所で。

遠巻きにしてた生徒達の輪から、一歩だけ前に出た見たこともない女生徒が何かを投げたみたいな体勢で立ってた。

 

 

「何のつもりだ、貴さ「いい加減にしてよ!!」ま・・・何?」

「アンタ達のせいなんでしょ!? こんなことになってんのは・・・もう、勘弁してよっ!!」

「な、う・・・?」

 

 

相手の声量の大きさと剣幕に押さえれてか、箒姉さんが目を白黒させてる。

私は私で、もっと混乱してる。

な、何が、私達のせいなの・・・?

 

 

「気付きなさいよ! アンタ達が来てから学園がおかしくなってるって! 皆そう思ってるんだから!!」

「そ、そん・・・」

「アンタ達のせいで私の人生、滅茶苦茶よ! 疫病神・・・疫病神! ひぐっ、う、うわああああああああああああぁ・・・っ!」

 

 

疫病神呼ばわりした上に、今度はその女生徒が泣き始めた。

タイの色とかからして、3年生っぽいんだけど・・・何があったんだろ。

と、言うより・・・。

 

 

・・・なんで皆、私達・・・私を、そんな目で見るの・・・?

 

 

凄く、怖い。

気のせいで無ければ、箒姉さんも怯んでる。

救急車の中から救急隊の人達も困惑した顔で見てて、姉さんを乗せて良いのかどうか困ってる。

・・・後で思えば、さっさと乗っておくべきだったと思う。

私達が戸惑って、迷っている間に・・・その3年生の感情が、全体に広がったから。

 

 

「・・・疫病神」

 

 

誰かの呟きが聞こえて、ビクッ、と震える。

そしてそれが、最後の導火線。

そこから先は、歯止めが効かなかった。

 

 

「疫病神!!」

「学園から出て行け!」「アンタ達がいなければ、去年と同じ生活ができたのに!」「開発者の身内だからって特別扱いされて、調子に乗ってんじゃないわよ!!」「出てけ――ッ!!」「いや、もうむしろ死んでよ、生きてるだけで邪魔なのよ!」「そうよ、死んで詫びなさいよ! 図々しい!!」「疫病神! 私達が困ってるのを見て喜んでたんでしょ!?」「死ね!」

「「「しーね!」」」「「「しーね!」」」「「「しーね!!」」」

 

 

石とか、空き缶とか、いろいろ飛んできた。

 

 

「ちょ・・・やめなさい! 落ち着いて!」

「解散しなさい! 寮に戻って!」

 

 

先生達が止めようとするけど、生徒の方がずっと数が多い。

とてもじゃないけど止めきれなくて、私はあまりの事態に動くこともできなくて。

 

 

「やめろ・・・やめろっ!!」

 

 

ストレッチャーから飛び下りた箒姉さんに抱き締められて、座り込んで箒姉さんの胸に顔を埋めるばかりで。

私を庇う箒姉さんの背中に手を回して、しがみついて震えることしかできない。

箒姉さんの細い身体で庇い切れるはずもないから、石とかは私の身体に容赦無く当たる。

 

 

凄く、痛い。

 

 

身体もだけど、心が痛い。

な、何で? どうして、こんなことに・・・。

私は、私はただ、学校に来たかっただけなのに。

普通に、学校で皆とお友達になりたかっただけなのに・・・。

 

 

『いつかわかるよ、楓ちゃんも。それから、箒ちゃんもさ』

 

 

脳裏に、束お姉ちゃんの声が甦る。

あれは確か、学園に来る直前・・・「学校でお友達、できるかな?」ってお姉ちゃんに聞いた時。

束お姉ちゃんは、やけに興味なさそうな顔で答えてくれた。

 

 

『他人なんてものが、取るに足らないゴミだってことにね』

 

 

・・・お姉ちゃん。

束お姉ちゃん、束お姉ちゃん・・・。

私、私・・・学校に。

 

 

「やめんか!!」

 

 

・・・聞き覚えのある声、直後、叫びと物を投げるのがプツリと途切れる。

箒姉さんの陰から覗くと、そこには・・・束お姉ちゃんの、親友がいた。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

・・・別に好き好んで、この学園に入学したわけじゃない。

実の姉がISの開発者だからと言う理由で、無理矢理に放りこまれただけだ。

他に受け入れ先が無かった、他の学校は入学願書すら受け取って貰えなかったんだ。

 

 

なるほど、私達はお前達への理解や気配りが足りなかったのかもしれない。

だが翻って、お前達は私達のことを考えてくれたことがあったのか。

IS開発者の身内と言う立場が、どんなに辛いか考えたことが一度でもあるのか―――――。

 

 

「静かにしろ、小娘共。ピーピー喚くな」

 

 

静かに場を威圧するのは、千冬さんだ。

黒いスーツ姿で腕を組み、鋭い視線で周囲を睨む。

すると、まるでモーゼが海を割るように生徒が左右に引いて道を作る。

 

 

楓を抱いたまま、顔を上げると・・・私達に対して向けられた物では無いとはわかっていても、全身から発せられる殺気にも似た威圧感に圧倒されてしまう。

先程まで私達に石を投げていた生徒達も、怯えたように静まり返っている。

 

 

「ち・・・千冬さ」

「お、織斑先生!」

 

 

雰囲気に耐えかねて声をかけようとした時、今度は山田先生がやって来た。

千冬さんが作った道を、何度も転びそうになりながら駆けている。

そして、その後ろに・・・10名前後の黒服の男達を連れている。

・・・アレは、まさか。

 

 

「織斑先生、大変ですっ。その・・・」

「織斑千冬様ですね? 私共は国際IS委員会の者です」

「・・・何?」

 

 

千冬さんが片眉を上げて振り向くと、その眼前に一枚の書類が示される。

それに目を通した後の千冬さんの表情は、私の位置からはわからない。

 

 

「篠ノ之箒様と、篠ノ之楓様ですね? 私共は、国際IS委員会の者です」

「え、えと・・・何ですか?」

「学園内のIS情報の外部漏洩の件について、ご同行願います」

「・・・断る!」

 

 

反射的に楓を抱く手を強めるが、相手は私の反応を予想していたらしい。

何より私も怪我人で、しかも試合と戦闘で消耗している。

丁寧に、しかし強い力で無理矢理に私と楓を引き離す。

私はそれでも楓に手を伸ばすが、それは届かない。

 

 

「ほ、箒姉さん・・・」

「楓!!」

 

 

・・・・・・不意に、数年前のことを思い出した。

アレは確か、中学に入ったか入っていないかくらいだったか。

政府の保護プログラムの一環で、家族と・・・妹と、楓と引き離された記憶だ。

熱を出して具合が悪い楓を、政府だか委員会だかの連中が連れて行く記憶だ。

 

 

「は・・・離せえええええええええええええっ!!」

 

 

次の瞬間、体力とか怪我とか関係無く、暴れた。

黒服の男達が慌てて私を押さえ込みにかかるが、関係が無い。

楓が、妹が不安そうな顔で助けを求めているんだ。

今度こそ・・・今度こそ! 私が!

 

 

コキュッ。

 

 

・・・ッ!

一瞬、筋肉が引き攣った。

肩が外れると言うのは、事のほか痛みを伴う物だった・・・偶然だが。

だがそのおかげで、驚いた黒服達の拘束が緩んだ。

肩の痛みを無理矢理に無視して、跳ぶ。

 

 

「返せ・・・ッ」

 

 

動く方の腕の肘で左隣の黒服の首の後ろを打ち、昏倒させる。

着地と同時に屈んで回転、右隣の黒服を転ばせて背後の黒服にぶつける。

怯んだ2人の顔にそれぞれ蹴りと膝を叩き込み、倒す。

激しく動く度に外れた肩が痛むが、それに顔を顰めるようなことはしない。

 

 

考えるのは、ひたすらに妹のことだ。

楓を取り戻す、ただそれだけ。

そうだ、そのために手に入れた・・・「力」だ!

 

 

「妹を、返せええええええええええええっ!!」

 

 

身を低くして、黒服に連れて行かれようとしている楓の下に駆ける。

楓も抵抗しているようだが、あの子は私と違って力が弱い。

とてもではないが、大人の男を振り払えない。

だから私が行く、助けてみせる、今度こそ。

 

 

「箒姉さん!」

「楓!」

 

 

私に伸ばされる白い手を掴もうと、腕を伸ばす。

3年前は届かなかった手、今度こそっ・・・。

私が。

 

 

トンッ・・・。

 

 

不意に、全身から力が抜けた。

首の後ろに軽い衝撃を感じた瞬間、急激に身体から力が失われていった。

視界がぐにゃりと回り、酷い耳鳴りがする。

足が絡み、もんどりうって地面に倒れて頬を打つ。

 

 

「・・・頭を冷やせ、馬鹿者が」

 

 

千、冬・・・さ・・・何・・・で・・・。

 

 

「・・・! ・・・!」

 

 

・・・歪む視界の中で、それでも必死に腕を伸ばす。

その先には、何よりも大切な存在が私を見て何かを叫んでいた。

泣き、叫んでいた。

 

 

・・・行かないと。

あそこに、行かない・・・と・・・。

かぇ・・・ぇ・・・。

 

 

・・・・・・・・・。

・・・・・・。

・・・。

 

 

 

 

 

Side ???

 

はぁん・・・ちょいと離れた位置から状況を見させて貰ってたが、なかなかどうして面倒くせぇ状況になってんじゃねーか。

しかし委員会の連中、わけわかんねーな、私らに拉致させる手はずだったんじゃねーのかよ・・・?

 

 

「しっかし、やるねぇあの小娘。学園祭の時はそこまででも無かったけどよ」

 

 

・・・ま、委員会の爺共なんざどうでも良いさ。

私は私で恋人・・・恋人、うん、恋人だ・・・の頼みで動くんだからな。

あのガキを見返すって意味でも、悪くねぇ。

来る時は一緒だったってのにあのガキ、どこほっつき歩いてんだか・・・ま、手柄を独り占めできると思えば怒りも収まるってもんだがなぁ。

 

 

「・・・でも、マジでどうすっかな。学園の中には私、入れねぇんだよなぁ」

 

 

まぁ、入れないなら入れないで、罠を張ってのんびり待つとしようか。

どうせ、放っておいても何か起こるんだろうしよ。

罠を張って、後はただ・・・。

 

 

 

 

―――――私と『アラクネ』の蜘蛛の糸が、得物を捕らえるのを待ちゃぁ良いんだからな。

 

 

ククククク・・・。

 




更識 楯無:
やっほー、楯無おねーさんだよ~。
いやぁ、もう状況が意味不明だよねー、おねーさん困っちゃう。
と言うか、矛盾点が多過ぎて混乱に拍車がかかってるんだよねー・・・。

まぁ、元凶はたぶん同じだろうけど。

さて、どうやって3人を助けるかな・・・。
いや、そもそも助けがいるのかどうか。
と言うか、私が助けてほしいんだけど。

布仏 虚:
大丈夫です、お嬢様ならできます。

更識 楯無:
ありがとう虚ちゃん、虚ちゃんのその言葉があれば私、頑張れるわ。
簪ちゃんのためにも、最終的には全部をどうにか・・・どうにか・・・。
・・・できる、かなぁ?

布仏 虚:
お嬢様なら、できます。
私もできる限りお手伝いします、だからどうか、諦めないで。

更識 楯無:
虚ちゃん・・・そう、そうよね、私が諦めたら全部が終わりだものね。
と言うわけで、これからも楯無おねーさんをよろしく!
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