今話では、非常に暴力的な描写がございます。
そう言った表現が苦手な方は、ご注意ください。
また、今さらですが・・・。
「○○さんはそんなことしない!」というような原作派な方もご注意ください。
オリジナル展開になります。
では、どうぞ。
Side 篠ノ之 箒
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「・・・ぅ・・・」
軽く呻いて、少しずつ意識が覚醒する。
瞳を開きこそしないものの、どうやらどこかのベッドの上だと言うことはわかる。
ギシッ・・・微かな身じろぎで軋むそれは、いつもの寮のベッド
夢は、見なかったと思う。
不思議なくらいに深い眠りで・・・気のせいか、首の後ろや左肩が鈍く痛む。
ズキズキと痛むその感触に、私の意識は徐々に・・・・・・ッ!
「・・・楓っ!!」
痛みと共に記憶が甦り、私はその場で跳ね起きた。
そうだ、楓っ・・・楓は!
上体を起こし、あたりを見渡してみれば・・・。
・・・ここは、医務室・・・か?
備品のいくつかが他の部屋の物と同じだから、たぶん学園の敷地だと思うが。
だが、窓の無い部屋があるとは聞いたことが無い。
壁紙も調度品も質素な物で、小さな造りの部屋にはベッドと机など最低限の物しか無い。
「う・・・」
ベッドから足を下ろすと、微かに目眩を感じた。
ISスーツは流石に着替えさせられていて、白い普通のパジャマになっているが。
私は普段襦袢だから、適当に用意された物だろう。
・・・誰に着替えさせられたかは、考えないようにした方が良さそうだ。
「楓・・・」
それに今は、とにかく楓だ。
この部屋にいないのは明白だし、そもそも時計が無いから時間がわからない。
せめて窓があれば、昼か夜かくらいはわかるんだが・・・。
顔に手を当てて首を振りながら、何とか立つ。
我ながら情けない足取りで歩く、くそ・・・遅い・・・。
それでも何とか、机などを倒しつつも部屋の扉まで辿り着く・・・が。
「!・・・開かない・・・っ」
ガチャガチャとドアノブを回してみるが、ドアが開かない。
窓が無く、天井や壁に隙間も無いから・・・ここしか出入り口が無い。
力が入らないことを差し引いても、押しても引いても開かないのは不味い。
ドアに耳を当てて外の音を拾おうとするが、何も聞こえない。
状況は、極めて悪いと言うほか無かった。
正直、気分が沈みかける。
どうしようも無く不安になる、3年前に経験が無ければ泣いていたかもしれない。
だが・・・。
「・・・開けろ!!」
手を握り締めて、ドアを叩く。
閉じ込められたのが私だけなら、気持ちが折れていたかもしれない。
だが、妹が同じ目にあってるかもしれないと言う想いが私を奮い立たせる。
「開けろ、おい! 誰かいるんだろう・・・楓に、妹に会わせろ!!」
諦めない、きっと楓が助けを求めてる。
なら、姉の私が諦めるわけにはいかない。
待っていろよ、楓。
今、
Side 篠ノ之 楓
・・・眠い。
時計見れないからわかんないけど、数時間は経ってるんじゃ無いかな。
普通なら1日寝ないくらいは大丈夫なんだけど、凄く疲れて・・・。
「篠ノ之 楓さん?」
「・・・っ」
正面から声をかけられて、ビクリと震える。
ずっと俯いて下を向いてたんだけど、ちょっとだけ顔を上げる。
電気スタンドの明かりが逆光になって顔が見えないけど、黒いスーツの眼鏡のお兄さんが机に膝をついた体勢で私の正面に座ってた。
机が小さいからか、やけに近い。
場所は、学園の取り調べ室・・・イベントで事件が起こる度に来てたから、初めてってわけじゃない。
でも、その時は山田先生が相手だったし・・・4人とか5人の黒服の人に囲まれて取り調べなんてされなかった。
正面の人は、ええと・・・クロー・・・誰さんだっけ。
とにかく、何だか交代しながらずっとで、4人目くらいだったと思うんだけど。
「疲れましたか?」
「・・・いぇ、そ・・・の・・・」
「そうですか、疲れたら言ってくださいね」
「ぅ・・・」
・・・言葉は優しいけど、いざ「疲れた」って言ったら怖い目で「もう少しだから」って言われて終わることはわかってる。
そしてこの人はちょっと優しいけど、あと少ししたらたぶん怖い人に変わる。
怖い人、優しい人、怖い人・・・って、交代しながら続けるから。
でも、話の内容は同じ。
ええと、学園の情報を外部に漏洩したとか、何とか。
委員会の特権付与を援用して犯罪に利用しただろうとか、後は良く知らない用語とか並べられて、わかんないけど・・・でも、そんなの知らない。
学園の外と頻繁に連絡を取ってた形跡とか記録とか見せられて、それが海外のサーバを経由してるのが怪しいって・・・。
「だから、それはおね・・・あ、姉に近況報告のメールを出してただけで・・・」
「そうですか、ではもう一度最初から」
「・・・ぅ・・・」
何を言っても、聞いて貰えない。
何度も同じ説明をされて、同じことを言われて、同じ情報を提示されるだけ。
急に立ったりするし、気のせいで無ければジリジリ机を押し付けられたり・・・。
特に理由も無いのにスタンドの明かりを強くしたり、弱くしたり・・・。
私が何か言うと、前の説明と矛盾するとか何とか言われるし。
お腹空いた、喉渇いた・・・疲れた・・・。
段々、相手が何を言ってるかわかんなくなってきて・・・とにかく終わらせたくなってきて。
「・・・・・・・・・」
膝の上で手を重ねて、『黒叡(こくえい)』の指輪を握り締める。
・・・怖い、怖いよ・・・。
もう、ヤダよ・・・。
・・・姉さん、箒姉さん・・・。
・・・束、お姉ちゃん・・・。
Side 凰 鈴音
・・・気分が、悪いわね。
別に体調が悪いわけじゃないわ、単純に予測の最悪を極めちゃったから不機嫌なだけよ。
いずれ、委員会が一夏達に対して強行手段に出ることはわかってた。
「ふぅ・・・」
溜息を吐いて、医務室の個室のベッドの上で寝返りを打つ。
横になると、視界に入った右手のブレスレット―――『甲龍(シェンロン)』の待機状態―――を愛しむように撫でる。
今日は本当、この子にも無理させちゃったしね・・・。
着替える気分にもなれないから、制服のまま寝転ぶ。
・・・今日の騒動は、ある意味で決定的だった。
学園はグチャグチャ、物的損害は第3アリーナだけだったけど・・・。
透過能力持ちの無人機の存在が明るみに出ちゃった以上、海外の生徒の安全は保障されないことになる。
私だって、目が覚めた後で1時間ぐらい取り調べとか受けたしね。
「・・・一夏」
ポツリ、とその名前を呟く。
今頃、閉じ込められてるのか取り調べられてるのか・・・。
箒と楓も、どうなってるのか・・・。
その時、部屋の扉がノックされた。
・・・? 誰かしら、こんな時間に。
正直、今は誰とも話すつもりになれないんだけど。
「・・・鈴さん、私ですわ」
「セシリア?」
「私もいる」
「・・・ラウラも?」
ベッドから降りて、ドアの鍵を開けて2人を招き入れる。
そこにいたのは、所々に包帯とか巻いたセシリアとラウラが立ってた。
当たり前かもしれないけど、2人とも難しい顔をしてる。
「一夏と箒、そして楓は、委員会の司法部に身柄を拘束されている」
立ち話もアレだってことで招き入れたら、いきなりラウラがそんな話を始めた。
まぁ、それ以外に話すことも無いけどね。
ここでいきなり茶飲み話なんてされても、逆に困るわよ。
ちなみに国際IS委員会の司法部って言うのは、まぁ、国際警察のIS版みたいな。
IS関係者が犯罪を犯した場合、問答無用でそれを拘束する権利を持つ組織。
元々、IS委員会と各国の国防・警察部門の関係は結構微妙なんだけど、その中でも煙たがられてる奴ら。
「それにしても、良くこんなすぐに拘束できたわよねー。現場が混乱してたにしては」
「当然だろうな、奴らは我々の本国への報告を根拠に動いていたのだから」
「常にマークしていたわけですわね・・・」
「・・・まぁ、ね」
少しだけ、歯切れと言うか・・・悪くなる。
何しろ委員会が「証拠」として振りかざしてる物の多くは、私達3人の本国への報告文の中から都合が良い物を選んで固めた物だろうから。
例えば、楓が篠ノ之博士に毎日のようにメールしてるとか。
私は直接は知らないけど、ラウラが篠ノ之博士の口から「楓に教えて貰った」って言う言質を取ってる。
そして今日、あの無人機は私達の装備をナノマシンで再構築なんていうことをやったらしいし。
私で無くても、楓を疑いたくなると思う。
そして、絶好の材料だとも。
「別に気にすることは無い、私達は当然のことをしただけだ」
「・・・ありがと」
「礼などいらん」
ラウラの言うように、別に楓や箒に謝ろうとは思わない。
だって、私達は候補生としての義務を果たしただけなんだから。
だけど、友達としては・・・。
「・・・それでは、失礼しますわ」
「え、もう? まぁ、確かに夜も深いけどさ」
「ええ、翌朝には私達もおりませんから・・・」
・・・え?
セシリアの言葉が一瞬、理解できなかった。
ぽかん、とした顔でセシリアを見るけど、哀しそうな顔で笑ってた。
ラウラは、普段通りの無表情だけど。
「・・・私達、本国に戻りますの」
「欧州連合の方針が決まってな、明日付けで欧州の生徒は全員が退学届けを提出することになった」
「・・・そう、なんだ・・・」
どう言う表情をしたらいいかわからなくて、私はそう答えるしかなかった。
そして、欧州がそう言う判断をしたのなら。
中国も、アメリカも・・・同じ判断をするだろうって、思った。
・・・だから。
学園生活の、終わり。
Side 更識 簪
アレから・・・8時間以上が過ぎた。
2時間ごとに楓のことを問い合わせてみるけど、「取り調べ中につき面会はできません」の一点張り。
誰の領地でも無い、治外法権下のこの学園の外に搬送されないのは救いか、そうじゃないのか・・・。
でも、心配・・・楓・・・。
日本の特務機関は、どうしてか動きが鈍い。
まるで、上からの命令が途絶えたみたいな。
・・・いずれにしても、楓を助けるには・・・。
「・・・何・・・楯無姉さん・・・」
「やん、お姉ちゃんって呼んでよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・ごめん。謝るからそんな涙目で睨まないで、ダメージが凄いから」
何かしないといけないのに、何もできなくて・・・困って。
そうやってオタオタしてた時、楯無姉さんに呼ばれた。
夜も遅いのに、生徒会室に。
それでも行ってみると、虚さんも本音もいなくて。
正直、まだちょっと気不味いから・・・いてほしかったんだけど・・・。
とにかく、楯無姉さんと2人きり、で。
「・・・休校・・・?」
「そ、今年はいろいろあり過ぎてね、事実上の廃校に近いわ」
生徒会長の机には、書類が積み上げられてて・・・楯無姉さんは、それを興味なさそうに処理してた。
休校、この場合は一次的な廃校って言う意味合いが強い・・・。
「欧州の生徒は引き揚げ、他の国籍の生徒も追随する可能性が高いわね。それに加えて生徒の半数を占める日本人生徒は・・・地方出身者を中心に、親御さんからの苦情が殺到してる状況よ」
「・・・そう、なんだ」
「今年はイベントが全部テロで潰れちゃったし・・・轡木さんが頑張ってるから、来年には再開できると良いんだけどね」
IS学園の休校とか廃校は、基本的に国際IS委員会の決定が無いとできないはずなんだけど。
でも楯無姉さんの口ぶりからすると、もうその決定がされたのかもしれない。
各国への事前説明も無いのに・・・動きが、急過ぎる気がする・・・。
第一、この学園は各国が他国のISの情報を集めると言う意味で重要な・・・。
・・・楓。
楓の存在が、それを意味の無いモノにしてしまった・・・?
楓はすでに、各国のISの最新技術に触れて・・・。
「・・・な、何?」
「ううん、別に」
片手で「一途」って書かれた扇子をヒラヒラさせながら、楯無姉さんが私を見てニヤニヤしてた。
ニヤニヤ・・・じゃなくて、優しく笑ってた、うん・・・。
「ねぇ、簪ちゃん」
「な、何・・・?」
扇子で口元を隠した楯無姉さんが・・・って、いつの間にか柄が「提案」に変わってる・・・。
とにかく、楯無姉さんが私に。
「更識家、継いでみない?」
さらりと、無茶ぶりしてきた。
・・・間違って、無いよね・・・?
Side 山田 真耶
ああ、田舎のお父さん、お母さん、ごめんなさい。
来月から、仕送りができなくなるかもしれません。
お母さんに「真耶ちゃん、無理せんでよかよぉ」って言われても毎月ちゃんと送金してたのに・・・。
「いや、冗談抜きで私らの給料、どうなるんだ・・・?」
「ううぅ・・・」
深夜なのに仕事が終わらない職員室、私の両隣りでオニール先生とヒルダ先生が頭を抱えてる。
仕事の量はいつもと同じにしても、心にかかるストレスはいつもの3倍はある。
ちなみに私達は一応、IS条約の附属条約に基づく国際公務員って扱いになってるから、実はお給料は国際IS委員会から出てる。
立場としては、国際連合の専門職員相当の地位になるんだけど・・・。
でもそれも、IS学園が通常通りに機能していればの話。
第3アリーナの半壊、海外生徒の引き揚げ、地方出身の日本人生徒の休学・・・。
・・・今年は、本当に異常ですよぉ・・・。
「お、おい泣くな、マヤ。元気を出すんだ」
「ほ、ほら、マヤの好きなチョコ菓子だぞ、当たりもあるんだ」
「あ、ありがとうございます・・・そうですよね、クヨクヨしてても始まりませんよね!」
慰めてくれる同僚に、温かな気持ちになります。
お2人の方が、カナダとアメリカの元候補生と言う意味でいろいろと大変なのに・・・。
それに、一番大変なのは生徒の皆さんです。
それから、一夏くん達も・・・・・・。
「き、気分転換にテレビでも見よう、な?」
「そうそう、実は私、日本の深夜番組の通販にハマってて・・・」
また沈み始めた気分を察したのか、オニール先生とヒルダ先生が職員室のテレビをつけました。
深夜番組ですか、それは私も大好きで・・・。
『緊急事態です!』
「ひゃっ?」
いきなり、ニュースキャスターの絶叫みたいな声が響きました。
映ったのは深夜番組でも通販番組でも無く、ニュース映像で・・・な、何が緊急事態?
『たった今アメリカ政府が緊急声明を発し、バージニア州の造船所の火災による喪失を発表しました。また、オーバーホールのために停泊していた原子力空母1隻の喪失も同時に認めました』
ニュースキャスターの言葉は、にわかには信じられなかった。
そ、喪失? 造船所・・・原子力空母が?
と言うか、ニュースに映ってる造船所って・・・。
「Oh my God・・・」
アメリカ人のオニール先生なんか、呆然としてました。
け、怪我人とか出て無いんでしょうか、それに造船所が丸ごと火災で焼失っておかしくないですか?
でも、こんな嘘を吐く理由は無いでしょうし・・・。
『アメリカ政府の声明によると、艦は炉心交換のための原子炉を積んでおらず、原子力事故の可能性は皆無であるとのことです。なお、今回失われた原子力空母は先月のPSI実働訓練に参加した艦でもあり、2週間前にオーバーホールに入ったばかりで・・・』
・・・ああ、あの空母ですか、そう言えば映像で見たような気がします。
「・・・あれ、そう言えば・・・フランスの艦も、大西洋で沈んでたような。事故か何かで」
「ああ、あの最新鋭防空艦? PSIにも来てた・・・それにしても、あの造船所って40億ドルくらいするのに軍は何やってたんだか・・・」
「・・・」
オニール先生とヒルダ先生の会話を聞きながら、そう言えばそんなニュースもあったかなと思う。
日本のPSIに来てた船が2隻も続けて沈むなんて、変な偶然もあった物だなぁ・・・。
・・・・・・そんな偶然、ある?
ただでさえ、軍艦の管理は厳格なのに。
それなのに、1ヵ月の間に2隻も・・・。
「・・・・・・」
「あれ? 何を調べてるの、マヤ?」
「いえ、ちょっと気になって・・・」
机の端末を開いて、ここ1ヵ月前後の軍艦関係のニュースを探す。
いくつかは隠蔽されてるかもしれないけど、もしかして。
もし・・・もし、私の気のせいで無くて、考え通りなら。
その時は、とてつも無く恐ろしいことが起こってる気がする。
とてつも無く、恐ろしいことが。
Side 織斑 一夏
「・・・・・・・・・」
今の俺は、とんでもなく不機嫌な顔をしてるんだと思う。
いや、ご機嫌になる理由が無いんだって。
だってお前、医務室で治療受けたと思ったら『白式(びゃくしき)』取り上げられて取り調べだぞ?
取り調べって言うか・・・尋問だろアレ、しかも8時間ぶっ続けってどんだけだよ。
しかもあの担当者、「8時間で終わってやる、感謝しろよ」みたいな目ぇしやがって・・・。
山田先生の2時間に比べて俺の気分が殺伐とするのは、きっと時間のせいだけじゃ無いな。
「・・・・・・・・・」
「・・・」
・・・で、今は黒服の背中見ながら廊下を歩いてるわけだ。
しかも何でか、手枷的な物を付けられて・・・と言うか、コレどう見ても手枷だろ、電子ロック式の。
それに、ここがIS学園のどのあたりなのかがイマイチわからない。
どうも、地下らしいってことはわかるんだが・・・。
「・・・なぁ、どこに行くんだよ」
「・・・」
「・・・あのー、夕飯とか貰えると嬉しいんですけど」
「・・・・・・」
・・・とまぁ、さっきから無視され続けてるし。
それは良いんだけど、コレ見よがしに腰の拳銃を鳴らすのはやめてほしい。
と言うか、学園で拳銃って・・・いや、ISの荷電粒子砲に比べればささやかな装備だけど。
そう思うのって、俺も染まって来たってことなのかね。
まぁ、俺のことはとりあえず良いか、犯罪者的な扱いはともかくとして。
千冬姉に何て言おう・・・会えないけど。
それに、箒や楓はどうなったのか・・・皆は?
まさか楓とかに8時間取り調べとかしないよな、箒と違って変な所気弱だから。
・・・い、いや、別に箒の心配をしてないわけじゃなくてだな。
「・・・うっ」
箒だって女の子だから、心配はしてるぜ?
ただほら、楓ってどうしても昔の青白いイメージしか無いからさ、こう言う時は心配になるんだよな。
普段はこう、リトル束さんちっくな空気の読めなさだけど・・・。
不意に、黄色い閃光が傍を駆け抜けた。
・・・へ?
突然の出来事に口を開いて驚いていると、その黄色い閃光は俺の前を歩いてた黒服の足を払った。
な、何?
「何もぐっ」
かと思えば黒服を後ろから羽交い絞めにして、鈍い音を立てて締め落とした。
いや、今かなりヤバい音がしたんだが・・・と言うか、え、誰!?
俺が目の前の突然の出来事に混乱していると、その黄色いのが黒服をうっちゃって、立ち上がる。
そして、そいつは・・・。
『やっほー、おりむ~』
「・・・・・・いいっ!?」
そいつは、黄色い狐の着ぐるみだった。
そしてくぐもってはいるけど、微かに聞こえたその声は。
・・・な、何だこの状況。
Side 篠ノ之 箒
「・・・はぁっ、はぁ・・・っ・・・」
あれから、どれくらい時間が経っただろう。
手の甲で顎の汗を拭いながら、目の前の扉を睨む。
くそ、木製かと思ったが・・・中に鉄板でも仕込まれているのか、ビクともしない。
『紅椿(あかつばき)』があれば、問答無用で破れるだろうが・・・生憎、手元に無い。
いつもは手首に待機状態のアクセサリーとして巻いてあるんだが、取り上げられたのか・・・。
叫び疲れ、扉を殴り疲れ、流石に疲労が溜まって来た。
諦めるつもりも無いが、他に手を考えるべきかどうか。
とりあえずもう一度、扉の向こう側を探ってみよう・・・そう思い、扉に耳を押し付けて。
「まぁ、これもすでに5度目なのだが・・・・・・うん?」
過去5回、外の音を拾おうとこうしてみたが、全て不発だった。
部屋を探ってみたが、どうにも扉以外に外に出れそうな物は無いし・・・。
おかげで扉を蹴り開ける以外の選択肢が無かったのだが。
だが今回は、どうやら様子が違うようだった。
微かに・・・だが確かに、扉の向こうに人の気配を感じる。
道場で剣を握る時のように感覚を研ぎ澄ませれば、ほんのわずかだが・・・扉の向こうで誰かが蠢いているのがわかる。
「・・・」
扉からゆっくりと離れて、構える。
乱れた呼吸を整えて、目を閉じる。
深く息を吐いて・・・備える。
扉を開けるのが―――開くと仮定してだが―――誰かはわからないが、少なくとも私の友人では無いだろう。
正直、出会い頭に攻撃して良い物か迷うが。
・・・・・・目を、開く。
空気の抜けるような音を立てて、扉が上にスライド―――道理で、押しても引いても意味が無いわけだ―――
し、開く。
そして。
「ちぇあぁっ!」
「ぐふぅおぇっ!?」
初撃、顔に叩き込ん・・・・・・え?
不意に違和感を感じて、と言うか殴り慣れた感触に戸惑う。
顔を上げると、意外と狭い廊下側の壁に見た顔が転がっていた。
「・・・い、一夏?」
「いだだだだ・・・っ、な、何すんだよ箒・・・!」
「す、すまん」
顔を抑えて悶えているのは、間違いなく一夏だった。
え、あれ? どうして一夏がここに・・・?
『やっほー、モッピ~』
「も・・・え、誰? 何?」
かと思えば、何かのカードキーらしき物を持った狐の着ぐるみがいた。
しかももう片方の手には、私の『紅椿(あかつばき)』の腕飾りを・・・ど、どうしてそれを!?
と言うか、モッピーって何だ。
しかも、くぐもってはいるがこの声は・・・。
「ほ、ほんんっ!?」
『し~、着ぐるみ着てる意味が無いでしょ~』
いや、そもそも何故着ぐるみなのかがわからない。
「てて・・・箒、怪我は無いか?」
「あ、ああ・・・でも一夏、お前どうして・・・」
その時、一夏達の傍で伸びている黒服の男達を見つけた。
どうやら、私が閉じ込められた部屋の見張りだったらしいが。
ええと、どう言う状況なんだ?
『説明は後々、今はとにかく楓ちんの所に行かないと~』
「楓・・・そう、楓だ。楓はどこだ!?」
「お、落ち着けって!」
とにかく、これで楓の所に行ける。
待ってろよ、楓・・・今、姉さんが助けに行くからな!
Side 織斑 千冬
・・・おかしい。
この世界がおかしいのは、前々からのことだが。
それにしても、今回の処置はおかし過ぎる。
一夏達の拘束はもちろん、IS学園の休校の決定もだ。
いくらなんでも、学園長や私にも一切の説明も無く進められるのはおかしい。
IS学園が委員会の運営とは言え、段階や手順と言う物が存在する。
それが、いきなり特別規約の発動だと・・・?
「・・・IS学園、織斑千冬」
IS学園の最奥部、例の21のデスマスクの間へと続く通路への音声ロックを解除する。
この階層はすでに、私を含めた一部の人間しか入れない。
しかもどう言うセキュリティ思想かは知らないが、エレベーターなどは存在しない。
それ故、学園長などもめったに下りて来ない。
むしろ、私のように定期的に下りる方が珍しい。
まぁ、私はいろいろと特別な事情があるからな。
だが・・・「契約違反」となれば私もその「事情」とやらを無視せざるを得ない。
「一夏と篠ノ之姉妹には、手は出さないとの約束・・・忘れたとは言わせない」
私がIS学園と委員会の爺共を束から守ってやる代わりに、一夏と篠ノ之姉妹を私の手元に置いておくと言う「契約」を。
まぁ、篠ノ之姉妹については後で追加された物だし、委員会が積極的に束にちょっかいを出した場合は私の守護義務も失効するわけだが。
いずれにせよ、今回の処置は「契約」によって定められた枠を超えている。
何の説明も無く破棄されるとは、流石の私も思わなかった。
第一、このIS学園は奴らの権力を維持する上でも必要不可欠の物では無かったか。
「・・・IS学園、織斑千冬!」
いい加減、同じ手続きが煩わしくなってきた頃に、ようやく最奥部に辿り着く。
これまで何度も訪れた場所だが、好き好んで来たいと思ったことは無い。
欲に塗れた老害の相手など、私の趣味・・・で・・・は・・・?
「・・・何だ、これは・・・」
目の前に広がった光景に、言葉を失う。
私の記憶では、ここには21のデスマスクが・・・スクリーンがあり、委員会の連中がIS関連の利権を巡って不毛な議論を続けているはずだ。
それが、今は・・・。
「何が、あった・・・?」
それが今は、完全に崩壊していた。
空間の真ん中にまで続いていた通路は半ばから折れ、デスマスクの形をしたスクリーンは石造りの枠ごと大半が砕けている。
いくつかのスクリーンはついているが、砂嵐の状態で使い物になるとは思えない。
壁には罅が入り、天井から配線らしき物が垂れて時折電流が走っているようで、真っ暗な空間を青白く照らしている。
まるで、何かが暴れ回った後のような・・・そう、半壊した第3アリーナのような。
無人機でも暴れたかのような、破壊の跡だった。
「・・・い、委員会は・・・?」
ここに委員会の面々が直接いるわけではないが・・・これで当人達が無事だとはどうしても思えない。
だが・・・いや、ならば、いったい。
「誰が・・・いったい誰が、委員会を動かしているんだ。あの命令は・・・?」
・・・まさか。
いや、だとしても。
何のために、自分の妹達を窮地に追い込む・・・!?
Side 篠ノ之 楓
「ち・・・違います・・・」
「違わねぇでしょ? んー? こちとらちゃんと証拠に基づいてやってるんだから?」
「・・・で、でも、そんなこと・・・」
「してないの? 本当に? ほら、もっと良く思いだして?」
・・・い、いちいち語尾に「?」を付けるのは、剣道部の部長さんだけで間に合ってるよぅ。
お腹空いたし喉渇いたし、疲れたし眠い・・・だんだん、頭がぼんやりしてきて自分が何を言ってるのかも曖昧になってきた。
あれからまた取り調べの人が交代して、また怖い人の番になった。
何と言うか、凄く貧乏ゆすりしながら物凄く顔を近付けて喋ってくる・・・怖い。
しかも、何か書類の束を私の前に積み上げて「サインしろ」って・・・何の書類かもわからないのに。
「ほーらさぁ? このまま否認ばっかりしてるとさぁ? 私達もさ、上に良い報告ができないからさ? お嬢さんのためにもならないと思うんだよねぇ?」
「だ・・・だって、ホントに、知らなぃ・・・」
「知らないじゃねぇだろ!? じゃあこの通信記録はどう説明すんだよ!? ああ!?」
「・・・」
「黙ってねぇで、何とか言えよ!!」
「・・・っ・・・」
急に怒鳴られて黙ったら、それを理由にまた怒鳴られる。
机はバンバン叩くし、急に椅子を倒しながら立ち上がるし・・・直接は何もされないけど、正直・・・。
・・・もぅ・・・ヤダぁ・・・。
「泣いても何も解決しないよ? キミがサインするまで続けるからねぇ?」
・・・サイン・・・でもコレ、何の書類かわかんないし・・・。
でも、もう嫌だ、早く終わりたい・・・。
だけど、変な書類にサインしちゃダメって束お姉ちゃんにも箒姉さんにも言われて・・・。
・・・言われて、たっけ?
あれ、どうだったかな・・・?
「はぁ・・・じゃあ、もうしょうが無いねぇ?」
「・・・ぇ・・・?」
考え込んで黙ってると、急にそんなことを言われた。
えと・・・もう、終わり、とか・・・?
「こうなったら、お嬢さんのISの記録を調べないとねぇ? 嫌だって言うから提出は見送ってたけどさ?」
「え・・・」
「さぁ、お嬢さん? お嬢さんのISを提出してくれるかな?」
「・・・ぃ・・・嫌・・・」
「そんなことを言ってると、怪しく見えるよ?」
でも、そんなこと言われても・・・束お姉ちゃんが、コレは外しちゃダメだって。
だから、これは渡しちゃダメで・・・。
「コレ・・・ダメ・・・」
「ダメじゃねーだろ!? 大人を舐めるのも大概にしろよ!?」
「だ・・・だって、だって・・・っ」
指輪を胸に握り締めて、泣きながら首を振る。
そしたら黒服の人が溜息を吐いて、周りの人に何か合図した。
「提出をお願いします」
「・・・い、いや・・・」
「提出をお願いします」
「・・・嫌!」
椅子の上で丸まって拒絶、でも許してくれなかった。
ゆっくりと、でも凄い力で腕を掴まれて引っ張られる。
『黒叡(こくえい)』の指輪を嵌めている方の腕を特に強く掴まれて、思わず悲鳴を上げる。
「やだ、やだ・・・っ、やぁっ・・・!」
私の腕力の無さには定評がある、何をしたって大人の男の人に抵抗なんて出来るわけが無い。
でも、これだけは守らなくちゃ。
だってコレは、コレだけは・・・。
「やめ、おねが・・・ぁぐっ!?」
鈍い音を立てて、頬が机に押しつけられる。
片手を捻られて、思わず反射的にもう片方の手を机についてしまう。
つまり、『黒叡(こくえい)』の指輪を差し出すみたいな形になる。
暴れる、暴れる、暴れる。
でも、意味が無い。
疲れてたし、何より何人もの男の人に押さえられたらまともに動けない。
何、何で? どうしてこんな・・・こんなこと、するのぉ!?
「や、嫌・・・ひっ、やめ・・・やめてぇっ!!」
頑張って背中を逸らして顔を上げると、後頭部を押されて机に頬をぶつけるハメになる。
それを3回くらい繰り返した頃には、私はもう動けなくなった。
凄い力で押さえつけられたまま、『黒叡(こくえい)』の指輪に男の人の指先が伸びるのを見つめるしか無い。
『これを外しちゃダメだよ、いつでもどこでも・・・ね』
・・・怖い、どうしてだろう、指輪を外されることが凄く怖い。
普通なら別にそれだけのことなのに、胸のドキドキが止まらない。
呼吸が荒くなって、瞳から涙が溢れて、どうしようも無く怖い。
外しちゃダメ、取られちゃダメ、離しちゃダメぇ・・・!
「嫌、嫌、嫌ぁ! 助けて、許してぇ・・・っ、箒姉さんっ、姉さんっ! 姉さぁんっっ!!」
もう意味がわからなくなって、ぐちゃぐちゃになって、ただ箒姉さんに助けを求める。
呼んでも来ないってわかってるのに、私の中では箒姉さんはヒーローだから。
だから、呼ばずにはいられない。
「箒姉さん、箒姉さん、箒姉さん・・・」
でも、それとは関係無く『黒叡(こくえい)』の指輪に他人の手が触れる。
私の目の前で、指輪がゆっくりと引き抜かれていく。
その時、私が感じたのは。
身体の中から、何か大切なモノが引き抜かれるような、不快な恐怖だった。
「ほ・・・」
指輪が、引き抜か
―――――――――――――――。
――――――――――。
――――Forced termination。
Side 篠ノ之 箒
「く、狭いな・・・一夏、前を見るなよ!」
「無茶言うなよ!?」
『2人とも、静かに~』
本音・・・と思われる着ぐるみに先導されながら、私達はダクトの中を這い進んでいた。
どうやらここは学園の地下3階にある特別施設らしく、一般生徒はもちろんほとんどの先生も来れないような場所らしい。
そして今、部屋から部屋へ通じる・・・天井裏の通風孔のような場所を通っている。
這い進んでいるので、私の後ろを進んでいる一夏が顔を上げると・・・まぁ、いろいろあるんだ。
本当なら廊下を進みたい所だが、それではいつ見つかるかわからない。
だから天井裏を進むわけだが、ここにも機械的なセキュリティがいくつもあった。
今の所、それらは本音・・・と思わしき着ぐるみ、ああもう、本音で良いな、面倒だ。
とにかく本音が、着ぐるみの中で何かしているらしく何とか誤魔化している。
と言うか、良く着ぐるみでダクトをと通れるな・・・。
「それにしても、のほほんさん。こんなことして大丈夫なのか? 俺達・・・」
「うむ、本音。助けてくれるのは有難いが・・・」
『・・・2人って、変装の意味を全く考えてくれないよね~』
着ぐるみを変装と言い張る姿勢も、なかなかだと思うが。
だが、それにしても楓の部屋はまだか・・・本音の話によれば、尋問がそろそろ10時間目に入ると言う。
体力の無い楓には、とてもでは無いが耐えられるとは思えない。
「それで、楓の部屋は・・・?」
『待って待って、このあたりのはずなんだけど・・・』
気持ちが焦るが、焦っても仕方が無い。
だが何故だろう、先程から胸騒ぎが収まらない。
一刻も・・・そう、一秒でも早く楓の傍に行かなければならない。
何故か、そう気持ちが急いて仕方が無い。
この感情は、愛情と言うよりは恐怖に近い気がするのだが・・・。
『・・・! ・・・ぇ・・・!』
「・・・ん?」
さらにいくらか進んだ時、不意に身体の下から声が聞こえた。
不審に思い、その場で止まる。
不思議そうな声を上げる2人を制して、床・・・と言うか、天井に屈んで耳をつける。
すると・・・。
『箒姉さんっ、姉さんっ! 姉さぁんっっ!!』
「・・・ッ!!」
・・・間違いようも無い、楓の声だった。
それも、今までに聞いたことが無い程に切迫した悲鳴だ。
それを聞いた瞬間、私は後ろの一夏を押しのける形で後退し「うわっ、何だよ!?」て、一夏の後ろにあった通風孔の隙間から下の部屋を・・・。
「かぇ・・・」
顔を床に擦りつけるようにして、中を覗く。
するとそこには何人もの男に身体を机に押さえつけられ、ぐったりとしている・・・。
カ エ デ
認識した瞬間、すでに身体が動いていた。
右腕に『紅椿(あかつばき)』を部分展開し、紅色の装甲に包まれた拳を天井の板に叩きつける。
何かの金属で出来ているらしいそれは、しかし展開装甲を全開にした私の拳によって簡単に砕かれる。
飛び散った破片で頬を切ったが、そんなことは無視して下に「落ちる」。
「な・・・何だ!?」
「貴様・・・!」
部屋の床に着地した瞬間、当然だが見つかる。
だが、今の私にはそれすらもどうでも良い。
楓、楓は・・・妹は!
「・・・!」
膝をついたまま顔を上げると、机に押し付けられたままの楓と目が合う。
虚ろな目に涙をたたえた妹の顔を見た時、私は確かに自分の中で何かが切れる音を聞いた。
そして・・・。
そして、この時の私は人間では無かった。
意味のわからない叫び声を上げて飛びかかり、楓の身体に触れていた男の顔を拳で潰した。
ISを解除していたのが、せめてもの理性だと思う。
男の鼻骨を砕いた時、拳に鈍い痛みを感じた・・・拳の骨に罅でも入ったのかもしれない。
「な、何だ貴さぐぺっ・・・このこみぇっ・・・ひぎっ、やめ・・・やぺっ!?」
「ひっ、やめ・・・やめろっ、やめてぐぃやああああああああっ!?」
拳の骨など知らない、ただ身体に染み込んだ篠ノ之流の動きだけを行う。
殴り倒し、蹴り潰し、踏み折り、馬乗りになって相手の顔の形が変わるまで拳を叩き込んだ。
噴き上がる血を浴び、拳の先に骨と肉の感触が馴染んで、徐々に・・・。
徐々に、唇の両端が吊り上がって行くのを感じる。
罵声が悲鳴に、そして懇願に変わって行く様に・・・間違いなく、私は快感を感じていた。
そしてこの時は、それを極めて自然に受け入れることができた。
何故なら、そうだ、私は・・・。
「・・・きっ・・・箒っ! やめろ、箒! それ以上は死んじまう!!」
「死ねばいいんだ!!」
自分の口から飛び出た叫びは、自分の物では無いような気さえした。
明らかに、この時の私は常軌を逸していた。
自分を羽交い絞めにして止める一夏にさえ、怒りの矛先を向ける程に。
「こんな・・・こんな奴ら! こんな奴ら! こんな奴らはなあああああああぁぁぁっ!!」
「箒! 落ち着け、箒!!」
「取るに足らない、ゴミのような、こんな奴らは・・・!」
「そんな・・・そんなこと言うなよ! 臨海学校の時にも言ったろ、箒らしくないって・・・それにこんなの、楓が見たら哀しむだろ!?」
「こん、な・・・こんな・・・・・・か、ぇで?」
「かえで」、その名前で・・・現実に意識が戻る。
するとそこは、まるで暴風でも通り過ぎたかのような有様だった。
黒服に染みが出来る程に血を流した男が数人、転がっていて・・・引き摺られたのだろう、一夏によって男達から引き離された私の足元には、血を引きのばしたような跡が残っていた。
全身が脱力して、急に恐ろしくなる。
自分が、恐ろしくなる。
何の成長も無く、再び篠ノ之流を、「力」を暴力に変えた自分に、恐怖する。
あ、あ・・・あ、私、私・・・は・・・。
「あ・・・か、かぇ・・・楓。楓は・・・?」
夢遊病者のように首を振って、一夏に抱かれたまま楓のいたはずの場所へ視線を向ける。
すると、そこにはすでに本音がいて・・・狐の着ぐるみが、ぐったりとした楓を抱えていた。
一夏から離れて、這うようにして楓の傍まで行く。
手を伸ばそうとして、血に塗れた・・・黒服の顔を殴った時に歯も刺さっている、そんな手を見て、楓に触れることをためらう。
そして楓はと言うと、右の頬に痛々しい青い痣が出来ていた。
まぁ、黒服達の怪我に比べればささやかな怪我かもしれないが、それはどんな傷よりも私の心を締めつけた。
それに・・・。
「・・・楓?」
虚ろな目をしたままぐったりとして、何の反応も示さない楓。
目の前で手を振ってみるが、やはり反応は無い。
急激に、胸が締め付けられるような不安を感じる。
助けを求めるように、本音を見る。
この時の私は、とてつも無く情けない顔をしていただろうと思う。
泣きだしそうな、顔をしていたと思う。
『・・・・・・楓ちん』
そして、本音が着ぐるみ越しに呟く。
気のせいか、その声は今までで一番くぐもっていた。
そして、決定的な一言を告げる。
その言葉を聞いた時、私の中で何かが崩れるような音が響いた。
私・・・私は、それに。
『楓ちん・・・・・・息、してないよ』
悲鳴を、上げた。
凰 鈴音:
あー・・・もう、何にもやる気が起こらないわね・・・。
はぁ・・・・・・。
セシリア・オルコット:
そう、ですわね・・・しかし、落ち込んでばかりもいられませんわ。
凰 鈴音:
わかってるんだけどねー、でもやっぱね、ここでの生活も終わりかと思うと・・・やっぱね。
セシリア・オルコット:
・・・ええ。私達、どうなってしまうのでしょうね。
凰 鈴音:
・・・。
セシリア・オルコット:
・・・。
(―――――敵になる、なんて言いたくない(ですわ))