Side 織斑 千冬
―――――アラスカ・12月7日・午前4時
早朝のエルメンドルフ空軍基地は、身を裂くような冷たい風が吹き荒れていた。
ブリザードと言うわけではないが、これでアラスカの中では温暖だと言うのだから驚きだ。
初めての人間なら、降り立った瞬間に家に帰りたいと思うだろうな。
「ようこそ、第11空軍司令部は貴女を歓迎致します、ブリュンヒルデ」
「・・・キミは?」
「失礼致しました! 私は当基地第611航空作戦センター所属、ダニエル・マッキンソー大尉であります! 当基地滞在の間、ブリュンヒルデの身辺警護を担当させて頂きます!」
「・・・そうか。では大尉、基地の司令官にはいつ会えるか教えてくれるか」
身辺警護(おめつけやく)の士官と今後のスケジュールについて話ながら、私は寒風吹き荒ぶ空軍基地の滑走路を見渡した。
私の後ろにはハワイから乗って来たC-17輸送機が巨体を晒していた、私一人を運ぶために随分と大がかりな機体を用意してくれた物だ。
国際IS委員会の事務局は、アンカレッジには無い。
アンカレッジは最大都市ではあっても州都では無いからな、出来れば南に作りたかったろうが・・・そうもいかない事情があったのだろう。
・・・まぁ、どこに作ろうと結局は同じなわけだが。
「それではご案内致します、ブリュンヒルデ」
「ああ・・・しかしそのブリュンヒルデと言うのはやめて貰えないか」
「了解いたしました、ミス・オリムラ」
ここの基地の司令官に顔を見せた後は、ジュノー、そしてワシントンとニューヨークへ行く。
アメリカの大統領府、それから国際連合の事務局だ。
それだけ回れば、委員会の大体の状況はわかる。
わかると言うか、確認作業に終わると思うがな。
それならそれで、アメリカの知人の耳に入れておいた方が良いだろう。
・・・不意に立ち止まり、分厚い雪雲に覆われた薄暗い空を見上げる。
すると、何か大切なモノの傍を離れている寂しい感覚を覚える。
まぁ、可愛い子には旅をさせろと言うし・・・結局はアイツの人生ではあるが。
それでも、私のモノだという自覚が足りないのでは無いか?
「・・・次に会ったら、仕置きが必要だな」
「は?」
「いや、何でも無い」
さて、どうすれば守ってやれるかな。
特に焦りはしないが、と言って安心できるわけでは無い。
それに、どうしようも無い胸騒ぎが私を苛む。
・・・まったく。
いつまでも、手のかかる弟妹達だよ。
Side セシリア・オルコット
―――――イギリス・12月7日・正午
久しぶりの本邸、つまりは我が家ですわ。
午前中に国防省の候補生管理官、ティアーズ社の専用スタッフなどへの顔合わせを済ませ、ようやく戻ってこれた所ですわ。
怪我の療養も兼ねて、少しまとまった休暇を頂きましたし・・・。
IS学園が長期休校となれば、私を含む候補生が日本にいる必要性も意味もありませんので。
ラウラさんはドイツへ戻りましたし、鈴さんも今頃は中国に戻っているでしょう。
いずれにせよ、私達の学園生活は終わってしまったのです。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」
執事が開いた門を潜れば、数十人のメイドが恭しく傅いて私を迎えます。
絨毯に沿うように並ぶメイド達の中にあって、1人のメイドが前に進み出て私の荷物を専属の運転手から受け取ります。
そのメイドの名前はチェルシー、チェルシー・ブランケット。
クラシックなメイド服に、革ベルトを細身の腰に巻いた18歳の女性です。
私の専属メイドであり幼馴染、そして本邸においては護衛でもあります。
私にとっては姉のような人であり、何でも話せる親友のような人でもあります。
この本邸に関しては、実質的にこのチェルシーが取り仕切っているんですのよ。
「日本はいかがでしたか、お嬢様」
「そうですわね、なかなか良い土地でしたわ」
取りとめも無い話を続けながら、一度部屋に向かいます。
着替えも済ませたいですし、久しぶりに本国のお茶も頂きたいですしね。
広い邸宅をゆっくりと進み、10分程で私専用の衣装部屋に到着します。
チェルシー以外のメイドを下がらせて、2人きりで部屋に入った後は・・・。
「ただいまですわ、チェルシー」
「おかえりなさい、セシリア。少し痩せたのでは無いですか?」
ぎゅっ・・・とチェルシーと抱き合って、改めて再会を喜びます。
数ヵ月前に会ったとはいえ、やはり幼い頃からの友人。
それも、対等に限り無く近い友人と言えばチェルシーがほとんど唯一でしたから。
今は、IS学園で出会った友人もおりますけど・・・やはり、チェルシーは特別ですわ。
「日本はどうでしたか?」
「そう、ですわね・・・」
先程は「良かった」と答えましたけれど、やはり未練は多くあります。
途中で終わってしまったこともそうですが、一夏さん達のこともありますし・・・。
それに、アルトゥールさんや篠ノ之博士のことも。
「・・・セシリア?」
「・・・チェルシー、相談がありますの。他言は絶対に無用で、可能な限り極秘で調べて欲しいことがあるのですが」
「それは構いませんが・・・他言無用の絶対極秘とは、どの程度ですか?」
「出来れば、政府関係者などにも気付かれずに・・・」
私の言葉にチェルシーは特に驚いた風も無く、それでいて不思議そうな表情を浮かべましたわ。
しかしすぐにそれを微笑みに変えて、私から離れて床に膝をついて頭を垂れます。
幼い頃、2人で交わした約束のままに。
「
胸に手を当てて誓うチェルシーに、私は静かに頷きます。
さぁ・・・競争ですわね、皆さん。
私は私、オルコットのやり方でやらせて頂きますわ。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
―――――ドイツ・12月7日・午後1時
ドイツに戻った直後、直属の上官から昼食に誘われた。
それは裏を返せば「非公式に報告をしろ」と言われているのと同義なので、その通りにした。
・・・殺されるかと思った。
「まさか、大佐も隊長をいきなり銃殺するようなことはしないでしょう」
「いいや大尉、お前はあの場にいなかったからそんなことを言えるんだ。アレはまさに『サシで撃ち殺す』と言う目だった、殺気が尋常で無かったから間違いない」
私の上官は―――名前を告げると現れそうなので言わないが―――典型的なゲルマン系の美人で、ドイツ連邦軍のIS総監とモンド・グロッソのドイツチームの監督を兼任している。
本人もIS操縦者であり、訓練の相手を務めると3日は欠勤を覚悟しなければならない。
そしてそれを理由に、また殺されるわけだが。
今日の報告の総括としては、「何をやっていたんだお前は」と言うことだろうが。
まぁ、イベントでも負け越し、結果として一夏も篠ノ之姉妹も確保できなかったので仕方が無いが。
何より、教官をお連れできなかった・・・。
「教官・・・」
はぁ・・・思わず溜息を吐く、今も教官は一夏のために動いておられるのだろうか。
叶うことならお傍に行き、手となり足となり働きたい物だ・・・。
「ああ、隊長。おいたわしい・・・そして可愛い・・・」
「やっぱり隊長って、織斑教官のことが好きなんですかね・・・」
「私はむしろ、副隊長のあの反応の方が気になるんだけど・・・」
ちなみにここは、ドイツ国内の連邦軍施設・・・我がIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』―――――通称「黒ウサギ隊」の本拠地だ。
ドイツ国内のISの3分の1を持ち、部隊員は全員私と同じ眼球へのIS用補佐ナノマシンの移植者である。
左眼の黒い眼帯は部隊の証であり、姉妹の証であり、絆の証明だ。
部隊の最高齢は副隊長クラリッサ・ハルフォーフ大尉の22歳、大半は私と同じ10代のメンバーで構成されている。
心技体が全て揃ったメンバーであり、まさに生まれ落ちた瞬間から兵士として育てられた奴らだ。
錬度も経験も、国内外のどの部隊にも引けを取らないと自負している。
「さて貴様ら、そんな私達に極秘の命令だ」
「はっ」
「「「はっ!」」」
華やいだ雰囲気から一変、ドイツのIS関連の特殊任務を請け負う部隊としての鋭さを見せる。
「これは非常に難しい、そして危険な任務だが・・・我らが上官は我らを信ずると言っている。我らはまた国家への奉仕と言う形でそれに応えなければならない」
「「「はっ!」」」
「さて・・・では、状況を開始する」
「「「了解(ヤー)ッ!!」」」
他の奴らには悪いが、先んじるのは我々だ。
黒ウサギ流を、見せてやる。
Side 更識 楯無
―――――ロシア・12月7日・午後4時
12月のモスクワは、太陽が昇っていてもなお寒い。
平均気温はマイナス5度、最近は温暖化の影響で妙に暑い日があったりもするけどね。
どちらにせよ、基本的にコート着用だけど。
「欧州3位の大都市、か。流石の規模ではあるけれど」
経済規模は欧州3位、人口は1000万人。
ロシアの政治・軍事・経済のまさに中心、IS開発機関も実はここモスクワ近郊にある。
だからここは、私の『ミステリアス・レイディ』の故郷でもあるわけね。
そんな私は今何をしているのかと言うと、ルビャンスカヤ広場近くのレストランで早めの夕食中。
日本を離れてまだ1週間も経っていないけれど、日本食がだんだん恋しくなってきたわね。
それにしても、シャルロットちゃんまだかしら・・・。
「あ・・・こんな所にいた! 探しましたよ、会長!」
「・・・」
「・・・何ですか?」
「いえ、モスクワで日本語を聞くと物凄く違和感があるなぁって」
「そこは今別に気にしなくて良い所ですよ・・・」
疲れたように言って、シャルロットちゃんが私と同じテーブルにつく。
オープンテラスだから、いつか見つけてくれると思ったけど。
そんなわけで、私とシャルロットちゃんは2人でロシアにいる。
私はロシア代表だし、シャルロットちゃんはロシアの国籍も持っているしね。
・・・あの後、一夏くん達を委員会(偽)の拘束から逃がした後、ちょっと想定外のことが起こってね。
表向きは未だ委員会は健在だけど・・・そっちは織斑先生の仕事の結果待ち。
より問題なのは、鈴ちゃんとかにばっちりシャルロットちゃんの顔を見られちゃったことよねぇ。
まぁ、そっちはそっちでアレだけど・・・何より。
逃がしたはずの一夏くん達が、行方不明なのよね。
「でもまさか、僕までモスクワに・・・欧州に来ることになるとは思いませんでした」
「まぁ、見つけてほしいからね」
「え?」
「何でも無いわ、このスープ、美味しいわねぇ」
行方不明といっても、行き先はわかってるのよね。
何せ、行方不明になってくれることを見越して逃がしたんだし。
あの3人にとっては、たぶん必要なことだと思うから。
まぁ、そっちも何とかなると思う。
更識の家は簪ちゃんと虚ちゃんが支えてくれてるし・・・もしもの時は家を捨てれば良いのよ。
でもとりあえずは支えてくれてるとして、私はここでやっておかないといけないことがある。
10年前に定められた盟約の時が近付いていることを、知らせて回らないと。
「・・・さぁ、来たわね」
「え、何がですか?」
「ううん、このピロシキ美味しいわねぇ」
「コレ、晩御飯に出る食べ物でしたっけ・・・?」
私達のテーブルの周囲に、どう考えても一般人じゃ無い気配を漂わせてる人達がいる。
黒いトレンチコートって、今でも現役なのねぇ。
ロシア連邦保安庁・・・フェリックスおじ様ったら、過保護なんだから。
だけど、我慢してあげる。
今後のためには、ロシアの・・・ひいてはユーラシア同盟の力がどうしても必要だから。
さて、何を差し出せば頭を撫でてくれるのかしらね・・・。
Side 凰 鈴音
―――――中国・12月7日・午後8時
「まずは、良くやったと言っておきましょう」
「はぁ・・・」
中国の代表候補生管理官、楊(ヤン)麗々(レイレイ)は相変わらず神経質そうに眼鏡の端を弄りながら私を褒めてくれた。
眼鏡にスーツのデキる女、って感じの人なんだけど、神経が細いのが難点。
何か党の政治局委員の娘って話だけど・・・ストレス、多いのかしら。
「第4世代の機体を手にするに至らなかったことは確かに残念ですが、他の陣営もそれは同じ。なればこそ、学園所属の候補生の中で唯一
「はぁ・・・どうも」
「これは、我が国がIS開発を初めて以来の快挙でもあります。良くやりました、凰 鈴音代表候補生」
単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)は発現しなかったけど、その代わりに『燭陰(ショクイン)』って言う新装備が出た。
今は、技術部が『甲龍(シェンロン)』の修理と同時進行で解析を進めてる。
「そこで党は、成人年齢になりしだい貴女を人民解放軍空軍所属の少校に迎えることを決定しました」
「少校・・・」
ラウラと同じ階級、つまり少佐の地位。
私は元々少尉相当の軍属だったから、一気に階級が上がったことを意味する。
それだけ、
・・・となると、当面は党のプロパガンダに利用されるってことかしらね。
国営放送のCMに出たり、人民日報のインタビューを受けたり。
まさか、党の機関紙に何か書けとか言わないわよね。
「しばらくは少校扱いの軍属になりますが・・・どうしました、浮かない顔をして」
「え・・・あ、いえ、ちょっと戸惑っちゃって・・・」
「そうでしょうね、まだ実感は湧かないでしょう。とりあえず今日の所は宿舎に戻って休みなさい、明日からのスケジュールに関しては後ほど知らせます」
「・・・はい」
候補生管理官に礼をして、部屋から出る。
軍施設の廊下から見える空は、すっかり暗い。
あの日も、こんな夜だった・・・。
「・・・浮かない顔、か」
そりゃあ、素直に喜べるわけが無い。
別に私は、出世がしたくて一夏達を・・・シャルロットと戦ったわけじゃない。
もちろん、シャルロットのことも上には報告してあるけど・・・その話は、どうしてか出なかったわね。
一夏・・・アンタ達、今どこにいんのよ。
アンタ達がいないと、
バカ・・・バカ、バカ、バカ!
「絶対、捕まえてやるんだから・・・!」
セシリアにもラウラにも、シャルロットにだって負けない。
アイツらは私が見つけて―――――ぶん殴ってやるんだから!
待ってなさいよ、一夏・・・!
Side 布仏 虚
―――――日本・12月7日・午後9時
日本のどこかにある、更識家の屋敷。
久しぶりに戻ったそこには今、日本中の暗部・・・裏稼業の主達が集められているわ。
更識家は対暗部の家系、当然、その稼業には多くの協力者が存在する。
その数は百とも千とも言われ、末端まで含めれば万の位に上る大組織。
更識家の当主は、つまるところ日の本のそうした者達を束ねる存在。
大昔には、天皇家と交わったとも言われている由緒ある家系。
まぁ、だからこそ、いろいろと汚泥のような歴史もいくつかあるのだけれど・・・。
「・・・盟約の時、か」
「なるほど、確かに状況はそうかもしれませんな」
「10年前、先代楯無様と交わした契約の重要性は理解しているつもりですが・・・」
薄暗い和式の広い部屋の中で、顔も知らない人達が十年来の同志のように語り合う。
それだけ、更識家の召集には強制力がある。
契約と血縁で結ばれた存在同士、顔は知らずとも盟約は識(し)っている。
「しかしそれだけの大事ならば何故、17代目楯無はこの場におらんのどすかな」
「そうじゃなぁ、代理の者ではのぅ・・・楯無様を出して貰わんことには皆が納得できんじゃろうて」
「第一、ワシらはまだIS学園での一部始終を把握しておるわけでは無いのじゃがのぅ」
そうした言葉を一身に受けるのは、残念ながら私では無いわ。
私はあくまでも布仏、更識の影として床下に潜む者。
楯無お嬢様に代わり、日本の暗部を纏める役を背負わされたのは。
「・・・姉は今、世界中の暗部の主達を説得して回っている所です」
簪お嬢様。
怪我がある程度回復したとは言え、まだ万全とは言い難い体調。
それを押して、こうして暗部の世界に踏み込んだのは・・・楓さんのことがあるから。
だから本音も、珍しく自主的に動いている。
2人とも、楓さんを守れなかったことを酷く悔いていたから。
だから楯無お嬢様と織斑先生のプランに乗って、楓さん達を探しているのね。
そして私に課された役目は、楯無お嬢様に代わってそんな簪お嬢様をお守りすること。
「現在は、私が・・・更識家当主の代行を仰せつかっています。そして私の役目は・・・・・・姉に成り代わり、皆様にお力添えを頂くこと。この日の本を、私達の国を、友を、次代を・・・あの悪魔から守るために」
楯無お嬢様のような覇気とカリスマは、簪お嬢様には無い。
しかしその代わり、簪お嬢様には静かな存在感がある。
楯無お嬢様が切り開き、簪お嬢様が維持する。
それが、先代楯無様が望んだことでもある・・・。
「・・・立道は構いませんよ、元より10年前の盟約で我々は血による結束を約しているのですから」
皺がれた老人の声では無く、若い少女の声が聞こえる。
その声は、学園にもいた・・・日本の代表候補生の立道雪音さん。
確か彼女は、徳島出身の華族の家系。
そうした家々を束ねるのが、更識家の当主に求められる素養。
簪お嬢様には厳しいかもしれませんが、不肖この私、楯無お嬢様に代わってお助け致します。
私にとっても、簪お嬢様は妹のような存在ですから・・・。
Side 山田 真耶
―――――日本・12月7日・午後9時
・・・やっぱり、そうだ。
手元の端末の横に置いていたチョコ菓子を食べていた手を止めて、私は胸の中で独りごちた。
すっかり静かになってしまった学園の教員寮の自室で、私は心に薄ら寒い何かを感じていました。
きっかけは、先週に見たアメリカの原子力空母の喪失事故のニュース。
それだけでもあり得ない事故なのに、その時に同僚から聞いたもう一件の事故。
フランス海軍の最新鋭防空駆逐艦『リグリア』が、大西洋で沈没した事件。
どちらも明確な原因は不明、そして死傷者はゼロ・・・。
普通に考えておかしい、だからちょっと調べてみたんですけど・・・。
「・・・全部、沈んでる・・・?」
事故で沈んだり喪失した2隻の軍艦は、直前に日本で行われてたPSIの実働訓練に参加していました。
あの時、大体30隻からの軍艦があの合同演習に参加していました。
参加国はアメリカとかフランスでバラけてるけど・・・とにかくその30隻の内、最終日の夜間演習に参加していた20数隻が、全部事故で沈んでいることがわかりました。
いくつかは秘匿されていて確定情報が見つかりませんでしたけど、最低でも15隻が原因不明の事故で沈没、ないし沈没寸前の事故で使用不能の状態になってます。
演習に参加していた日本のヘリコプター搭載型護衛艦も、エンジンの不調とかで・・・でも、こんなタイミングでそんなことがあり得るの・・・?
「だ、誰かが意図的に、演習に参加してた軍艦を沈めてる、とか・・・・・・あ、あはは、まさか、そんな・・・そんなね、うん」
自分の笑い声がここまで渇くなんて、知らなかった。
そして、やっぱり調べなきゃ良かったと思いました。
だって、こんなこと勘付いちゃったら、死亡フラグじゃないですかー・・・なんて、なんてね! うん!
ポン。
・・・・・・聞きました? 今、「ポン」って音がしましたよ?
ここは私の1人部屋なのに、誰も来ていないのに、誰かに肩を叩かれましたよ?
え、えーと・・・ぎ、ぎぎぎ、と音が出そうなぐらいギクシャクと首だけで後ろを振り向くと。
「みぃ~たぁ~なぁ~」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっっ!?」
「うふふ~、びっくりした~まやま「ぎゃあああああああああああっ、ぎゃああああああああああああっ!!」や・・・や~!?」
・・・その後、極めて短い時間で冷静さを取り戻した私は、コホンと咳払いをしました。
ふぅ、私も元候補生ですからね、冷静さを取り戻すのに20分もかかりません。
大人ですから。
絶対、泣きながら謝ったりとか世界の半分をあげましょうとか言って取り乱さないのです。
先生ですから。
「み、耳がキーンってする~」
そう言って頭をユラユラさせているのは、布仏本音さんです。
一夏くん達の騒動以降、姿を見せなかったはずの彼女が何故ここに?
私が首を傾げながら見ていると、本音さんはニヘラ、と可愛らしい笑顔を浮かべて・・・。
Side 篠ノ之 束
―――――???
『白騎士(しろきし)』をベースに世代間進化を果たした、いっくんの『白式(びゃくしき)』。
『暮桜(くれざくら)』の稼働データを参考に再構成した、箒ちゃんの『紅椿(あかつばき)』。
そして、私のお古を改良して「核」としての機能を持たせた、楓ちゃんの『黒叡(こくえい)』。
他の467機とは違う、ハイエンドにしてオーバースペックの3機。
言ってしまえば、他の467機はこの3機の完成のための習作だったと言っても良いね。
さらに言えば、この3機は今も相互に『非限定情報共有(シェアリング)』で進化を続けてる。
最終的にどんな形になるかは、この束さんをもってしてもわからない。
「うふふ・・・やっぱり、箒ちゃん達と遊ぶのは楽しいなぁ」
束さんからすると成長スピード・・・あ、違うか。
うん、私からすると「思い出す」のが遅すぎる気もするけどね。
元々が自分の身体みたいな物なんだから、もっとトントン行けば良いのに。
その意味では、ちーちゃんは本当に特別だったんだよね。
・・・まぁ、いっくん達にちーちゃんレベルのことを期待するのも酷いかなぁ。
世代が違うから、いろいろと条件も違うだろうしね。
「・・・・・・束さま」
「うん? 何かな、くーちゃん?」
後ろから聞こえて来た声に、束さんは答える。
束さんはくーちゃんのママだからね、ちゃんと構ってあげないとグレちゃうから。
「・・・機業にいる「私」が、楓さまと箒さま、一夏さまを発見しました」
「機業・・・・・・?」
・・・なんだっけ、それ。
「世界中からISを集めている、テロリスト集団です」
「へー、箒ちゃんと楓ちゃん、そんな所にいるんだ。じょーそーきょーいくに良く無いよねー」
「はぁ」
「ふーん、じゃあくーちゃん、適当に潰しといてよ」
「わかりました」
やれやれ、年頃の妹を持つと大変だよね。
でも束さんはお姉ちゃんだからね、箒ちゃんや楓ちゃんがどんなに不良になっても見捨てたりはしないんだよ。
ちーちゃんがいっくんのことを愛しちゃってるのと同じくらい、束さんも2人が大好きだからね。
「あ、もちろんくーちゃんもラヴ、しちゃってるからねー」
「ありがとうございます・・・だからと言うわけではありませんが、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
「んー、どんどん聞いて~」
束さんの膝の上に頭を乗せて甘えてくるくーちゃんの頭を撫でてあげながら、後ろから声をかけてくるくーちゃんにもちゃんと答えてあげる。
くーちゃんは可愛らしく小首を傾げながら、不思議そうに聞いて来た。
「何故、箒さまや楓さまをIS学園に入学させたのですか? 今では学園は事実上崩壊し、箒さま達は行くアテも無い状況ですが・・・」
「えー、だって」
あはは、くーちゃんは変なこと聞くね。
前に言ったじゃない、宇宙に行くには邪魔なモノがあるんだよ。
それこそ、2人が心の底からそう思ってくれないといけないからね。
「他で生きていけなくなれば、お姉ちゃんの所に来るしかないでしょ?」
わかる? そこの所が大事なんだよ。
ちーちゃんも良く言うでしょ、弟は姉のモノだって。
だから、箒ちゃんも楓ちゃんも束お姉ちゃんのモノなんだよ。
他人に期待を持っているようじゃ、世界に希望を持っているようじゃ、この惑星(ほし)に未練が残っちゃうでしょう?
だから束さんが、2人に教えてあげてるんだよ。
この世界には、次のステージに持って行くべきモノは何も無いんだって。
「それはそれとして、くーちゃん。もう一つお願いがあるんだけど」
「はい、何なりと」
「かったいなー。わかったよママーとかで良いのに」
ひょっとして、箒ちゃんと仲良くなれたりして。
それは大事だよね、もうすぐ一緒に住むんだから。
「ちーちゃんの所に、届けてほしい物があるんだよね」
「千冬さまの・・・畏まりました。何を届けるのですか?」
「んーとね・・・」
くーちゃんの声に、私はさっきまで作ってたモノを掲げる。
明かりに透かすようにして、それを見つめる。
「・・・・・・IS抑制剤」
Side 篠ノ之 楓
―――――???
・・・・・・あったかい。
とてもあったかい何かに包まれてる気がして、凄く安心する。
ポカポカしてて、フワフワしてて・・・。
ずっと、こうしていたい・・・そんな、気持ちになる。
ぎゅっ・・・顔を擦りつけると、もっと柔らか。
気が付くと、包まれてると言うよりしがみ付いてるみたいになってて・・・。
「ぬ・・・むぅ・・・」
「・・・・・・」
「・・・く・・・ぅ・・・」
「・・・はにゅ・・・?」
パチリ、と目を開ける。
気のせいか、凄く久しぶりに目を開けた気がする。
何だか、身体の節々がビシビシ言うし・・・軽く、頭が痛いし・・・。
・・・というか、何だろう。
私、何、してたんだっけ・・・?
そうして目を開けて、最初に見たものは・・・。
「・・・ねぇ、さん・・・?」
「・・・む・・・」
最初は抱き締めてくれてたのかもしれないけど、今は寝返りの結果、胸の上に私が頭を乗せてる形になってた。
どうりで、やけに柔らかくて温かいと思った・・・。
私が少し動いてどくと、箒姉さんの呼吸も楽になった。
・・・襦袢じゃ、無い・・・?
ぼんやりとした意識のまま、身体を起こして周りを見る。
そこはとても広い寝室で、私は箒姉さんと一緒に大きなベッドで寝てたみたい。
見覚えの無いパジャマ、見覚えの無い部屋・・・やけに、豪華な調度品が多い気がする・・・。
「え、と・・・?」
良く、分からない。
何と言うか前後の記憶がはっきりしないけど・・・学校の寮じゃないことはわかる。
・・・修学旅行、的な? 違うかな・・・。
とりあえず、箒姉さんを起こさないようにベッドから降りる。
本当、やけに質の良いベッド・・・床の絨毯もフワフワだし。
何コレ、箒姉さんがサイドビジネスで大富豪になったとか?
なんてことを考えつつ、広い部屋を電気もつけずにオドオドと彷徨い、どうにかドアを見つける。
「わっ・・・寒い?」
ドアを開くと、外は一変して無機質な造りだった。
灰色の・・・何て言うのかな、潜水艦の中みたいな?
窓があるんだけど、それがまた水族館みたい、で・・・。
「・・・な」
その窓の外は、真っ暗だった。
夜かと思ったけど、違う・・・深緑色の光がチラチラと見える、コレ透明度の高い水だ。
窓に張り付くと、外の様子がはっきりとわかる。
私がいるのは巨大なドームみたいな建造物で、どうやら水中にいるみたい。
水中・・・と言うか、海中?
ドームから放たれるサーチライトみたいな明かりがあたりを照らして、上を見れば海面らしき場所に白い氷みたいなのがプカプカ浮かんで、て・・・え、え、ええ?
「なんじゃ、こりゃあああああああああああああっっ!?」
あまりの事態に、私は自分が女の子だと言うことも忘れて叫ぶ。
わ・・・私が寝てる間に、いったい何が起こったの!?
うう・・・もう帰りたいよぅ。
・・・・・・束お姉ちゃん。
篠ノ之 楓:
どーも、どーもどーも!
お久しぶりです、楓だよ!
いやぁ、何だか知らないけど・・・まず一つ。
ここ、どこさ!?
え、何コレ何コレ、何で氷の下にいるの!?
私が眠ってる間に、何が起こったの!?
と言うわけで次回、箒姉さんに聞いてみようと思います!