インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第44話:「その組織、正義の仮面」

Side 篠ノ之 楓

 

じ、状況を整理しよう。

私、起きた。そしたら頭の上が氷の海だった。

・・・良し、整理しても全然わかんない。

 

 

「な、なんじゃあこりゃー・・・寒っ」

 

 

吐く息が気のせいか白い、さっきまで全然寒くなんてなかったのに。

薄いパジャマだけじゃ、風邪ひいちゃうかも・・・じゃなくてっ。

こ、ここどこぉ~・・・と、私がいよいよ混乱してきたその時。

 

 

「・・・楓っ!?」

「ひゃあっ!?」

 

 

今度は、後ろからかけられた声の大きさにびっくりした。

私が目を白黒させながら振り向くと、そこにはパジャマ姿で私が今出てきた部屋のドアに手をかけてる箒姉さんがいた。

何だか、「びっくらこいたー」みたいな顔で私を見てる。

あれ、何だろ・・・凄く久しぶりに顔を見た気がする・・・。

 

 

「か・・・楓?」

「う、うん?」

「楓・・・?」

「はい、楓です」

 

 

何か物凄く真面目に名前を呼ばれたから、畏まって返事しちゃう。

ああ、でも箒姉さんがいてくれて良かったかも、少なくとも怖くないし・・・。

 

 

「・・・はぇ?」

 

 

ぎゅっ・・・って、された。

気が付いたら、箒姉さんに抱き締められてた。

背中と後頭部に手を添えられて、まさに「ぎゅっ」な感じ。

 

 

箒姉さんの柔らかさと温もりが、とても良く伝わってくる抱かれ方で。

箒姉さんの肩に顎を乗せた体勢のまま、思わず戸惑ってしまう。

抱かれるのは嬉しいんだけど、どうして箒姉さんが震えながら・・・震える?

 

 

「・・・箒、姉さん?」

 

 

・・・箒姉さん、泣いてる・・・?

そのことに気が付いて、私も箒姉さんの身体に腕を回す。

箒姉さんの感情が伝播してきたのか、どうなのか・・・私も何だか、涙が出て来た・・・。

 

 

「姉さん、姉さん・・・」

「・・・ああ、良かった・・・良かった。起きてくれて、良かった・・・」

「箒姉さん・・・」

 

 

どう言うことなのか、まだよくわからないけど。

箒姉さんに物凄く心配をかけたってことはわかるから、何も言わないの。

何も言わずに、箒姉さんと抱き合うの。

子供の頃にしてたように、お互いの温もりを分け合うように。

 

 

・・・しばらく、そのままだった。

でもしばらく経って、箒姉さんがどこか照れたみたいに咳払いしながら私から離れた。

その時の顔が何だか可愛くて、少しだけおかしな気分になった。

 

 

「それで・・・その、楓。身体は大丈夫か?」

「え、と・・・うん、平気、大丈夫」

 

 

身体は、うん、たぶん大丈夫。

どこか痛いとかも無いし、苦しいとかも無いし・・・。

ふと手を見ると、ちゃんと『黒叡(こくえい)』の指輪もある。

それを見ると、凄く安心する自分がいて不思議だった。

 

 

「その・・・本当に、大丈夫・・・か?」

「大丈夫だよ、変な姉、さ・・・」

 

 

変な姉さん、そう言おうとした時、少しだけ止まった。

ようやく頭が動いて来たのか、記憶がこう、整合性が取れて・・・。

 

 

―――――疫病神!

 

 

記憶の中で、誰かに耳元で叫ばれた気がして・・・身体が震える。

止めれと念じても、止まらない。

 

―――――学園から出て行け!

―――――アンタ達がいなければ、去年と同じ生活ができたのに!

―――――死んで詫びなさいよ! 図々しい!!

 

 

思い出すのは、姉に抱かれながら泣いていた記憶。

身体に当たる、石の記憶。

わ、私・・・皆、なんで、あんな。

 

 

―――――死ね!

 

 

あんな、風に、なるなんて、私。

わ、わた・・・私。

皆に・・・嫌われちゃった、んだ・・・。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

・・・どんな状況でも、数日も経てば慣れる物らしい。

まぁ、子供の頃から周りの状況に流されるのには慣れてるからな、順応性の高さには若干の自信がある。

最近、流石にちょっと見直した方が良いかなと思わないでも無い・・・。

 

 

「あー・・・このベッドに慣れて来た自分が嫌だ・・・」

 

 

潜水艦のベッドに比べれば、そりゃ十分過ぎるベッドだけどさ。

何で比較できるのかって? 察してくれよ・・・はは。

でも逆に大き過ぎて、1人で寝る分には落ち着かなくなるんだよな・・・段々、慣れて来たけど。

人間1度生活水準を上げてしまうと下げるのが大変だからな、正直注意しないと・・・。

 

 

それはそれとして、箒はもう起きたかな。

今日も箒と一緒に楓の面倒を見るだろうから、早めに起きないとな。

 

 

「・・・良し、起きるか!」

 

 

そう考えて、とにかく勢いよくベッドの上で身体を起こす。

腹筋で跳ね起きた後、ベッドに手をついて外へ・・・。

 

 

・・・ふにゅっ。

 

 

ベッドにしては、やけに弾力のある物体に触れた。

弾力と言うか、張りがあると言うか、柔らかくて温かいというか。

・・・待て、待つんだ俺、これはIS学園でも経験があるぞ。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

冷静・・・そう、俺は冷静だった。

極めて冷静に置いていた手を―――「どこ」に置いていたかは言わない―――上げて、呼吸を乱すこと無く冷静に離れた。

良し、これで事なきを得た・・・流石は俺だ、過去の経験(ラウラ)は俺の中で息づいているぜ・・・!

 

 

「何だ、終わりか」

 

 

・・・が、相手はある意味でラウラ以上だった。

普通に起きていやがった! と言うか、だったら何でいるんだよ!

 

 

「な、何で俺のベッドにいるんだよ、お前!」

「兄妹(きょうだい)で同衾するのは、何かいけないのか」

「きょっ・・・」

 

 

そいつは細身の身体に黒いインナーだけを身に着けた格好で、俺のベッドに入っていた。

その意味では全裸のラウラよりはマシだが、だがコイツもほぼ裸と言う意味では同じだ。

俺の周囲にいる女は、どいつもこいつも・・・と言うか。

 

 

「お前、俺の妹じゃないだろ・・・」

 

 

俺が疲れたようにそう言うと、俺の妹とやらを自称する女の子・・・エムは、妙に大人びた挑発的な笑みを浮かべた。

その顔が、昔の千冬姉に異常に似ていて・・・黒曜石みたいな瞳に、烏の濡れ羽色の髪。

・・・何だか、苛々する。

 

 

「妹だよ、私は」

「違う」

 

 

織斑マドカ・・・だったっけか。

そんな奴、聞いたことも無い。

確かに千冬姉に異常にそっくりなのは気になるけど、千冬姉だって・・・俺達を捨てた両親を除けば、家族はいないって言ってたんだぞ。

 

 

「くふふふ・・・」

 

 

嫌な笑みを浮かべて、マドカ・・・いや、エムが俺から離れる。

そのまま何を言うでも無く、ベッドの側に脱ぎ散らかしていたらしい服を身に着け始めた。

その背中を、俺は何とも言えない気分でただ見ていた。

 

 

その背中を・・・傷だらけの身体を見て。

本当に、嫌な気分になる。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

楓が目を覚ました、本当に良かった。

ここ数日間は眠り通しだったから、本当に心配していた。

あと1日でも遅れていれば、私はエム・・・マドカ達の所に殴り込んでいただろう。

 

 

「・・・ひっ・・・ふえぇ・・・」

「泣くな、楓・・・お前は悪く無い、何も悪く無いんだ」

「でも、でも・・・皆に、嫌われ・・・」

 

 

学園での最後の記憶は、学校に行くのを楽しみにしていた楓にとっては辛すぎる物だったろう。

私は迂闊にもそれを思い出させてしまった、自分の不甲斐なさに死にたくなる。

冷たい廊下の床にしゃがみ込んで泣く楓の頭を胸に掻き抱いて、髪を撫でる。

 

 

妹の髪の質感を手に馴染ませながら、私はその温もりに同時に安堵する。

良かった・・・目覚めてくれて、良かった。

・・・私が、いる。

 

 

「何があっても、私がお前の傍にいるから・・・」

「・・・箒、姉さん・・・」

 

 

そう、たとえ世界中が私達を認めなかったとしても。

学園の奴らに、政府の奴らに、何をどう言われようとも・・・幸福に、なれなかったとしても。

私は、楓の傍にいる。楓は、私の傍にいてくれる。

それだけは、何があっても変わらない真実・・・。

 

 

・・・くぅ~。

 

 

・・・その時、妙に可愛らしい音が響いた。

気付かないフリをしようかとも思ったが、ダメだ、我慢できな・・・っ。

 

 

「・・・ぷ」

「わ、笑った!? 今、明らかに笑ったよね!?」

「いやいや、笑ってはいないさ。ただ随分と可愛らしい空腹の音だなと思っただけだ」

「それを笑ってるって言うんだよ!」

 

 

私の妹は可愛い、それが再確認できた所で・・・。

 

 

「馬鹿にされてる!?」

 

 

・・・楓から離れた。

食欲があるのなら、本当に身体については大丈夫なのだろう。

だがおそらく、学園脱出以降の事情についてはわかっていないはずだ。

まずはそれを、楓に話さないとな・・・。

 

 

「とりあえず、まずは一夏に・・・」

「お・・・おおお!? 楓、起きたのか!?」

 

 

噂をすれば何とやら、隣の部屋から一夏が出て来た。

楓を見て驚いているようだった、それが何だか嬉しく感じる。

私は「一夏、楓が元気になったんだ!」と伝えようと振り向いて・・・。

 

 

「・・・一夏、どう言うことだ!?」

 

 

全く別のことを口走った。

何故ならば、一夏が部屋の中から1人で出て来たのでは無く、女連れだったからだ。

しかもその女は千冬さんに異常に似た少女・・・エム、いやマドカだった。

な、何故そいつが一夏と同じ部屋から出てくる・・・!?

 

 

「な、何でその人がここにいるの・・・?」

「そうだ一夏! どう言うことか説明しろ!」

「ちょ、待て待て! 誤解だ! そして2人で微妙にニュアンスが違う気がする!」

 

 

泡をくって説明しようとする一夏、その腕にマドカが挑発的な笑みを浮かべて腕を絡める。

な・・・な!?

 

 

「ふふ・・・そう怒るな。篠ノ之楓が目覚めたのなら、良かったじゃないか」

「え、私?」

「これでようやく、お前達をスコールの所に連れていける」

 

 

スコール、その名前に一気に緊張する。

話には聞いていたが、そいつはこのマドカの直属の上司らしい。

私達のことだけでなく、私達の姉や一夏の姉・・・つまり、10年前のことにも詳しいと言う。

 

 

「え、と・・・?」

 

 

いかん、楓がいよいよもって混乱している。

とりあえず、私は最重要の情報を楓に教えることにした。

 

 

「楓、落ち着いて聞いてくれ」

「え、え、え・・・?」

「良いか、ここはな」

 

 

ごくり、唾を飲み込んで、告げる。

後戻りできない、その言葉を。

 

 

「ここは・・・亡国機業(ファントム・タスク)のアジトだ」

 

 

 

 

 

Side オータム

 

髪と身体をゆっくりと洗い合った後、薔薇の花弁を浮かべた浴槽に2人で浸かる。

2人で入るために設えた浴槽は十分に広いけれど、それでもいざ入るとくっつくわけだから、正直に言って広さはどうでも良いんだ。

 

 

重要なのは、そこじゃねぇ。

私にとっては、風呂ってのは広さとか清潔さとかじゃねぇんだ。

一番大事なのは、誰と入るか、だろ?

 

 

「うふふ、どうしたのオータム。今朝は随分と甘えたさんなのね?」

「そ、そんなんじゃねぇよ・・・」

「そう? てっきり私がエムとばかり話しているから、嫉妬してたのかと思ったわ」

 

 

耳元で囁くスコールの声には、明らかにからかいの色があった。

スコールは私と2人きりの時は、意外と意地が悪くなるんだ。

正直、スコールのそう言う所は苦手だ・・・けど、それも私の前だけだと思えば平気だ。

だってよ、私は・・・その、アレだ、スコールの・・・・・・こ、恋、恋人・・・だから、な、うん。

そう言うのを受け入れてやるのも、恋人の役割ってもんだろうがよ。

 

 

「うふふ・・・可愛い」

「ちょ、やめろよバカ。風呂に入ってる意味がねーだろ・・・」

「あら、良いじゃない。嫌ならやめるわよ?」

「い、嫌なわけじゃ・・・ねーけどよ」

 

 

時々耳に当たる生温かい感触に肩を竦めながら、私は風呂の中でスコールに良いようにされる。

まったく、しょうがねぇ奴だ。

まぁ、機業のIS部門のチームを纏めるのでストレスとか溜まってるだろうしな・・・今はあのガキ共も抱えてるわけだしよ。

 

 

「ちょ・・・ど、どこ触って・・・」

「うん? 何のことかしら・・・?」

「あ、ば、バカ・・・っ」

 

 

スコールの指先がいよいよヤバ・・・ちょ、そう言うのは夜だけ・・・って、オイ。

 

 

「・・・何見てんだよ、てめぇ」

「・・・・・・・・・」

「何、見てんだよって言ってんだよゴルァッ!!」

 

 

スコールの手を振り払って、ザバァッと風呂の中から立ち上がる。

私の視線の先には、広い浴室の扉の枠に背中を預けて立ってるガキがいた。

具体的には、エムの野郎だ。

やけに冷めた目でこっちを見てやがるが・・・デリカシーってもんがねぇのか、テメェは!?

 

 

「オータム、怒らないの。それとお風呂場で立ち上がらないの、はしたないわよ」

「いや、でもよ・・・!」

「はいはい、それでエム? こんな所に何の用かしら?」

 

 

・・・その自然体っぷりがイカすぜ、スコール。

 

 

「・・・・・・篠ノ之楓が目を覚ました」

「あ? やっとかよ」

「そう、ありがとうエム。私の部屋に通しておいて頂戴」

「わかった」

 

 

エムは必要なことは聞いたとばかりに、さっさと出て行きやがった。

扉くらい閉めて行けよ、マナーのなってねぇガキだな本当によ・・・。

私がブツブツとそう言ってると、スコールも浴槽の中から出て来た。

 

 

綺麗な金色の髪がライトの光でキラキラ光って、本当に綺麗だった。

私はセンスとかねぇけど、スコールは本当に綺麗だと思う。

ふと、スコールが私を見て笑ってやがった。

私は気恥ずかしくなって、スコールから目を離した。

 

 

「さぁ、身体を拭くのを手伝って頂戴、オータム」

「あ、ああ・・・」

 

 

恋人の面倒を見るのは、恋人の特権だ。

だから私は、スコールについて浴室から出るわけだ。

・・・何だよ、何か文句あんのか。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

リボンが襟元に添えられた薄桃色のミニワンピース、黒のガーターストッキング、同色のメリージェーン。

何の説明って? 今の私の服装だよ。

いや、何故か部屋のクローゼットに用意されてた服が変に偏っててさ・・・。

 

 

いやいや、服装はこの際どうでも良いんだよ。

例え、一夏さんが爽やかなレイヤード風なシャツとスラックス姿であったとしても。

例え、箒姉さんがガッツリな赤のティアードワンピース姿であったとしても。

今はそれよりも、ここが『亡国機業(ファントム・タスク)』のホームってことだよ・・・!

 

 

「ろ、ロモノソフ海嶺・・・?」

「ああ、連中はそう言っていた。ここはロモノソフ海嶺近郊・・・つまり、北極海だとな」

「ほ、北極ぅ・・・?」

「だよな、そう言う反応になるよなー」

 

 

スコールって人が来るまで、やけに豪奢な家具が並んでる部屋で待っているように言われた。

空調で温度調整がされていて外も見えないから、箒姉さん達が「ここは北極だ」って言っても俄かには信じられない。

だけど『黒叡(こくえい)』で緯度経度を調べて見ると、確かに北極点に極めて近いわけで・・・。

で、問題はどうしてこんな所に来なくちゃいけなかったか、なんだけど。

 

 

「わ、私の、せい・・・?」

「違う、楓は何も悪く無い」

 

 

震える声で言うと、箒姉さんが固い声で打ち返して来た。

二度とそんなことを言うなと、言外に伝わってくる。

でも、話を聞いた限りでは私のせい。

 

 

端的に言って、私の身体を診せられる所が無かった。

学園は無理だし、普通の病院だと日本政府に見つかるし・・・そもそも、追われてること自体がおかしいんだけど。

だから、イリーガルな場所でしか私の身体を診て貰えず・・・箒姉さん達には、選択肢が無かった。

 

 

「それに、IS関係での不調だったからな・・・」

「え?」

「いや、何でも無い」

 

 

箒姉さんが何か気になることを口走った気がするけど、姉さんは首を振って黙ってしまった。

一夏さんは一夏さんで、難しい顔で箒姉さんを見てるし。

・・・本当、私が寝てる間に何が・・・。

 

 

「・・・あら、先にお茶を飲んでくれていても良かったのに」

 

 

その時、私達の手元のカップが手つかずになっているのを見て、そう言った女性がいる。

それは金髪の綺麗な女の人で、赤いスーツなんてババーンと着てる・・・げ。

 

 

「あ、貴女は・・・!」

「あら、覚えててくれたのね、嬉しいわ」

「いや、こめかみを蹴られれば誰だって覚えると思うけど・・・」

 

 

そこにいたのは、学園祭の時に私を襲った女の人だった。

え、まさかこの人がスコール・・・?

うわ、最悪。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

・・・いや、今さらだけど俺、何でこんな所にいるんだろうな。

もちろん、楓の身体を診て貰えそうな場所が他に無かったってのが主要な理由なんだけど。

学園とか委員会とかだと、絶対に『黒叡(こくえい)』を取られたと思うしな。

それは、亡国機業(ファントム・タスク)でも同じだと思ってたけど・・・。

 

 

「・・・」

 

 

ちら、と俺達の前でお茶を嗜んじゃってる金髪の女・・・スコールの様子を伺う。

隣に座ってる箒も警戒心バリバリだし、楓に至っては怯えてるしな。

だけどコイツは、俺達のISを取り上げていない。

正直、絶対に取り上げてくると思った。

現実問題、学園では一度は奪われかけたわけだし。

 

 

でもその可能性を考慮に入れてもなお、俺と箒はコイツの所に来た。

理由は、楓だけじゃない。

俺達の・・・。

 

 

「・・・お姉さんの話が、聞きたいのかしら」

 

 

不意に、スコールが静かな声でそう言った。

図星を指されたのを認めたく無くて視線を逸らすと、クスクスと笑われた。

だけど、それが気になってるのも事実だ。

 

 

姉・・・俺の場合、千冬姉だ。

アイツ、エムは言った。千冬姉が俺のために何をしたのか知りたくは無いかって。

10年前に、千冬姉が何をしたのか知りたくは無いかって。

正直、気になる。

IS関係のことについては、千冬姉は俺がIS学園に入るまで何も教えてくれなかったから。

 

 

「本人に聞けば良い物を、何もわざわざ昔に自分を誘拐した組織の懐に飛び込んで来なくても良いでしょうに」

「・・・誘拐? 一夏、何の話だ?」

「いや、別に何でもねぇよ」

 

 

あっぶね、コレは基本的に誰にも言ってないんだった。

俺がコイツらに誘拐されたせいで、千冬姉がモンド・グロッソ2連覇を逃したって記憶は・・・まぁ、俺にとっても良い思いでじゃないしな。

 

 

「そしてそちらのお嬢さん達は、篠ノ之束博士のことを聞きたいのかしら?」

「・・・」

 

 

スコールは、今度は箒を見て・・・それから、楓を見た。

何か興味深そうな物を見るかのような視線に、楓は居心地が悪そうに姿勢を正した。

箒がたぶん気にしてるのは、「束さんが楓に何をしたか」って部分だろうけど。

でもまさか、あれだけ可愛がってる妹に悪いことは何もしてないと思うんだけど。

・・・まぁ、あの人は「悪い」の定義が人とかなり違うからなぁ。

 

 

「・・・ふむ、そうね。何でも教えてあげるわよ?」

「・・・・・・どうせ、タダじゃねーんだろ」

「もちろん、それが大人の社会と言う物でしょう? ティーンエイジャーにはわからないかもしれないけどね」

 

 

噛みついたら、普通に上手(うわて)な答えを返された。

く、何か役者が違う感じがして嫌だな・・・。

 

 

「・・・それで、私達に何を要求するつもりだ」

「そんな怖い顔しないで、老けちゃうわよ?」

「・・・・・・」

 

 

ほ、箒、箒、そんな今にも殺しそうな顔で睨むなって、しかも効いてないぞ。

楓は・・・ダメだ、蛇に睨まれた蛙状態だ。

スコールはそんな俺達を見ておかしそうに笑った後、余裕たっぷりお茶を一口。

奇妙な間が、少しの間続いた。

 

 

「そうね、ではまずこちらの要求から言いましょうか」

 

 

コトッ・・・とカップを置いて、スコールが柔和な微笑みで俺達を見た。

美人だけど、何でか俺には美人に見えない。

たぶん、俺の周りに美人が多いからかな。

はは、意味がわかんねぇな。

 

 

「私としては、貴方達に・・・」

 

 

そんな俺達に、スコールは。

 

 

「篠ノ之束と織斑千冬の2人を、殺して来てほしいの」

 

 

とんでも無いことを言いやがった。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

嫌ったこともある、疎ましく思ったこともある、怖かったこともある。

だが、殺意を抱いたことは一度も無い。

会いたくは無いが、死んでほしいわけじゃない。

 

 

「・・・座りなさいな」

 

 

その場に立ち上がった私と一夏を一瞥して、スコールは笑いながらそう言った。

その微笑みは柔らかく、とてもさっきのような言葉を吐いた本人とは思えない。

千冬さんとあの人を、殺せと・・・。

 

 

「座りなさいと、言ったのだけど?」

 

 

今度は表情を消して、そう繰り返す。

その視線は私達では無く、楓の方を向いていた。

楓は怯えたように私達とスコールを見るばかりで、明らかに状況について来れていない。

まぁ、起きたばかりだからな・・・それにコレは、言外の脅しだ。

それがわかるから、私も一夏も大人しく座るしかない。

 

 

「まぁ、いきなり姉を殺してほしいと言われて、はいそうですかと頷くはずは無いわよね」

「・・・なら、なんでそんなこと言ったんだよ」

「そうねぇ・・・それを理解して貰うには、まず私達『亡国機業(ファントム・タスク)』の目的を知って貰う必要があるのだけれど。その前に、1つ質問を良いかしら」

 

 

仕方が無いとは言え、会話は奴のペースだ。

もちろん、それがこちらの目的ではあるのだが。

あの人は、楓に何をしたのか。

何を望んで、何をしているのか・・・。

 

 

「貴方達は、ISが何だか、知っているの?」

「・・・宇宙開発用の、パワードスーツだろ」

「なるほど、何も知らないのね」

 

 

一夏の返答には私も同意見だった、が、スコールはそれを無視した。

一般的に言われている回答のはずだが、それは違うというのだろうか。

 

 

「・・・・・・第2次世界大戦末期、日本である特殊な物質が発見されたわ」

 

 

紅茶のカップを持ったまま、スコールは訥々と語り始めた。

WWⅡ末期・・・?

 

 

「その物質は、当時の戦局を変えかねない程の強大なエネルギーを持っていた。日本は当時進めていた原子爆弾の開発を放棄し、その物質の研究に国費をつぎ込んだ・・・そしてその物質こそが、現在のISコアの素となった物よ」

「ISコアの・・・素?」

「ええ、そうよ。その物質はいわゆるオーパーツでね、結局は解析できずに封印されていたんだけど・・・10年前、不可能なはずの解析を完璧に、完全に成し遂げてしまった女がいた」

 

 

スコールは、そこで楓を見つめた。

 

 

「貴女なら、見覚えがあるんじゃないかしら。その物質は黒い箱のような形をした・・・キューブらしいのだけれど」

「黒い、キューブ? ・・・・・・あ」

「あるのか?」

「え、と・・・」

 

 

私の言葉に、楓は迷いながら頷く。

自信は無いが、それらしき物を見た覚えがあるのだろう。

 

 

「私達はそれを『オリジナル・コア』・・・<女王の心臓(ハート・オブ・ザ・クィーン)>と呼んでいるわ」

 

 

オリジナル・コア。

全てのISコアの素となった物質、あの人だけが解析できたオーパーツ。

正直、にわかには信じがたい話ではあるが。

あの人ならそれくらいしてもおかしくは無いと、そう思う自分がいる。

 

 

「私達『亡国機業(ファントム・タスク)』の目的とは、その『オリジナル・コア』の回収と破壊。そして全てのISの・・・・・・抹消よ」

「なっ・・・!?」

 

 

全てのISを抹消する・・・そう言ったスコールの顔には。

やはり柔らかな微笑みが、張り付いていた。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

何年か前、束お姉ちゃんの部屋で良く悪戯をした。

束お姉ちゃんのラボで私が弄っていた黒い箱(キューブ)、アレが何なのかは今も知らない。

私には、理解できなかったから。

 

 

スコールさんの言を信じるのであれば、アレが全てのISコアの母たる物。

『オリジナル・コア』・・・<女王の心臓(ハート・オブ・ザ・クィーン)>だと言うことになる。

いや、でも・・・そんな大層なモノだとは思わなかったけど・・・それに。

 

 

「100歩譲ってお前の言うことを信じてやるとして、それが何故、あの人や千冬さんを殺さなければならないということになる? そもそも何故、私達に頼む? そして何故、お前達は・・・私達のISを取り上げない?」

「自分で考えなさいな、小さなお嬢さん」

 

 

あ、箒姉さん・・・今、カチンと来たね。

あのスコールって人、わかってやってるんだろうな・・・。

 

 

「あのぉ・・・」

 

 

恐る恐る手を挙げて、発言を求めてみたり。

 

 

「ISを無くしちゃうって言うのは・・・何でなんでしょうか・・・?」

「良い質問ね、小さな小さなお嬢さん」

 

 

「小さな」が箒姉さんより一つ多かったんだけど・・・。

あぅ、この人、何か苦手だ。

本当ならお姉ちゃんを殺すとか言われた時点で整備(バラ)す所なんだけど、何だかこの人に見つめられるとムズムズすると言うか・・・居心地が悪い。

 

 

・・・でも、物事には目的があって当たり前。

そしてさらに言えば、目的に対しては必ず理由がある。

ISの開発と一緒、ううん、何事もそれは同じ。

だからこの人達は、きっとISを無くすことで何か利益を得るんだと思うけど・・・。

 

 

「そうね、そこから説明・・・・・・ちょっと、ごめんなさいね」

 

 

その時、不意にスコールさんの視線が空中を彷徨った。

耳についてる金色のイヤリングが、小さく明滅する。

アレはたぶん、プライベート通信が入ったんだと思う。

案の定、スコールさんはすぐに申し訳なさそうな顔になって。

 

 

「ごめんなさい、急用ができたわ。この話の続きはまたにしましょう・・・オータム!」

 

 

こっちが口を挟む暇も無く、スコールさんが別の人を呼ぶ。

部屋の外からすぐに入って来たのは、黒髪の綺麗な人・・・オータムさん。

一夏さんが急に不機嫌になったから、たぶん悪い人。

 

 

「何だよ、スコール」

「この子達に何か仕事を与えておいて頂戴」

「な・・・テロでもしろってのかよ!?」

「出来もしない仕事に名乗りを上げる物では無いわ、坊や・・・働かざる者、食うべからずよ」

 

 

お嬢さん、坊や・・・うん、普通に子供扱いだね。

それは、まぁ別に良いんだけど。

うーん・・・まだ起きたばかりだからか、頭が回んないや。

 

 

「ちっ、何で私が・・・・・・てか、コイツらに出来る仕事って何だよ」

「えと、ISの整備なら」

「それはもう専門のスタッフがいんだよ、てか部外者に触らせるわけねぇだろタコ。ガキは黙ってろバーカ」

 

 

発言したら、超怒られた。

ここ、何かヤダ・・・。

その後、オータムさんはしばらくいろいろ考えて、私達を部屋から連れ出した。

豪奢な部屋と違って、無機質で寒々しい廊下を大人しくついて行く。

いや、だって外に逃げたってそれでそうするって話だし・・・。

 

 

「ここが、お前らの仕事場だ」

 

 

そう言ってオータムさんが示した無機質な大きな扉、そこに立つと自動で扉が開く。

すると、そこには・・・。

 

 

 

大きな子供部屋。

 

 

 

・・・あれ?

何でこんな所に、10歳児向けの遊具と玩具がたくさんある大部屋があるのかな。

そして何で、その遊具や玩具で楽しそうに遊んでる10歳くらいの男の子女の子がいるのかな。

あれ、私、目がおかしくなったのかな・・・。

 

 

「オイこらガキ共! 今日からこのにーちゃんねーちゃんがてめぇらの世話係だ、挨拶しろ!!」

「わー、おーたむだ!」

「おーたむー」

「だー、うるせぇうるせぇ!」

 

 

でもオータムさんは呆けてる私達を放置して、子供達を集めてそんなこと言ってる。

え、何コレ・・・何? 今日は本当にいろいろと意味がわからない。

私が頭の上に「?」マークをたくさんつけていると、何人かの男の子が私の前にワラワラと集まって来た。

その子達は何だか、特殊な外見をしてた。えっと髪の色とか瞳の色が普通じゃ・・・。

 

 

スカートをめくられました。

 

 

・・・はい?

混乱する私、でも私のミニワンピースのスカートはばっちり男の子の手で掴まれていて。

ガーターと下着まで正面から丸見・・・ひぃっ!?

 

 

「ひゃあっ!?」

 

 

悲鳴を上げて、スカートを押さえて後ずさる。

さ、流石にこれは私も恥ずかしい・・・っ。

 

 

「おおー、このおねーちゃんエロいの着けてんぞ!」

「マジだ、すげー」

「もう、男子やめなよー!」

 

 

そしてどこの小学校かと問いかけたくなるような騒ぎが、目の前で起こってる。

 

 

「お、お前達・・・って、こらよせ!」

「こっちのねーちゃんはフツーだ!」

「つまんねー」

「なっ・・・!」

 

 

私を庇うように立った箒姉さんも、即座にスカートをめくられる。

あ、あの箒姉さんが反応もできないなんて・・・しかも、逃げ足が速い!?

え、今何か男の子達がラウラさん並の脚力で遊具の上までジャンプしなかった!?

箒姉さんはそれを追うけど、追い切れずにまたスカートめくられてキレてる。

 

 

慌ててオータムさんを仰ぎ見ると・・・壁を叩いて爆笑してた。

顔真っ赤、肩なんて物凄くプルプルしてるし。

・・・あ、ダメだアレ、しばらく復活しそうに無いや。

一夏さんは、何か女の子達に囲まれて困ってる・・・相変わらずモテるなぁ。

 

 

「・・・うん?」

 

 

ふと、視線を感じた。

私はスカートを庇うようにしゃがみ込んでたんだけど、そんな私を誰かが見てた。

何となく、気になる視線・・・懐かしさすら感じる。

不思議に思って、そっちを見てみると・・・。

 

 

銀色の髪の12歳くらいの女の子が、じっと私を見てた。

髪は肩のあたりで斬り揃えられてて、肌が白くて眼を閉じてて、お人形さんみたい。

そしてその女の子を、私は見たことがある。

と言うか・・・その子は。

 

 

「くーちゃんさん!?」

 

 

そこにいたのは、私が束お姉ちゃんの所で一緒に暮らしてた女の子で。

私の声に、その子はにっこりと微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

Side スコール

 

私のISのプライベートチャネルに専用回線で繋いで来れる相手は、限られている。

そして今回かけてきた相手は、言ってしまえば私達の最大のスポンサー。

国際IS委員会の、常任委員長さま。

 

 

私達の本拠地が北極海にあるのは、委員会の居城であるアラスカに近いから。

特にここロモノソフ海嶺は、アメリカ・ロシア・デンマークなどの諸国の境界線に位置する場所。

隠れるにはもって来いの場所、しかも委員会構成国は私達のパトロン。

いくらでも隠れていられるけど・・・。

 

 

「・・・委員会が潰されたのなら、そうも言ってられないわね」

 

 

私の通信相手のアドレスは、間違いなく委員会のリーダー。

60年前、『オリジナル・コア』に接触した欧米人研究者の一員。

だけどいざ通信を繋いでみれば、すぐに切れた。

携帯電話で言う所の、ワン切りと言う奴ね。

 

 

そしてこれを受けた時、私が感じたのは「見つかった」と言う感情。

委員長がワン切りする趣味があるなら良いけれど、私相手にするとは思えない。

となれば、これは・・・。

 

 

「ここの正確な座標を、割り出すためのトラップね」

 

 

相手が誰かは考えない、程度の差こそあれ大した問題では無いわ。

唯一、ただ1人、最悪のあの女を除いては。

いずれにせよ、委員会・・・最低限、委員長は何者かにアドレスを奪われた。

イコール、委員会はもう無事とはいえない。

 

 

とは言え、なぜ今になってここの座標を割り出す必要があるのかしら。

もしあの女だとするのなら、自分の妹達が私達といることを知っていると言うこと。

ISの反応は、この拠点の中からは出ないはずだけど・・・。

 

 

「どうした、顔色が悪いぞ」

「・・・あら、エムじゃない。どうしたの?」

 

 

私が1人で部屋の中で考え込んでいると、エムがやってきた。

その手には、何枚かの紙を持っている。

 

 

「それは何かしら?」

「ただの健康診断結果さ。あの篠ノ之楓とか言う女、随分と面白い身体をしていたよ」

「そう・・・そうでしょうね」

「他人とは思えない身体の構造だ、興味が湧いてきたよ」

 

 

まぁ、好きにすれば良いと思うわ。

今の所、私はあの3人に最も重要な情報は与えていないのだから。

それにあの子達が言っていたように、あの子達自身には興味が無いもの。

 

 

「だけど、今はあの3人を確保しておくこと。そして、篠ノ之束に渡さないことが重要よ」

 

 

篠ノ之束・・・そして織斑千冬。

過去10年間の試みで、私達ではアレらを殺せないことはわかった。

限り無く近い存在であるはずのエムですら、おそらくは手も足も出ない。

だけど、あの3人ならばあるいは・・・最後の希望足り得るかもしれない。

 

 

「篠ノ之束・・・タバネ・シノノノと言う悪魔から」

 

 

そして、ISと言う名の「寄生虫」から。

世界を、人類を、守るために。

そして、<女王の心臓(ハート・オブ・ザ・クィーン)>を消滅させるために・・・。

 

 

そのためにこそ、私達は亡国の理念を持って集ったのだから。

奪ったISのコアを破壊して・・・その先に。

その先に、人類のためだけの未来があると信じて。

 




篠ノ之 楓:
きゃふー、楓です。
スカートめくりなんて初めてされた・・・でもコレは別に経験しなくて良い事だったと思うね、うん!

それにしても状況がわかんないよ、何があったらこうなるのさ。
束お姉ちゃんのこともあるし、学園のこととか・・・考えなくちゃいけないことがたくさんあって、どうしたらいいのかわかんないやい!

じゃ、またどうぞー!
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