Side
あー・・・疲れた、言い出したのは自分だから仕方無いけどね。
本当ならもう1週間早く、来たかったんだけど。
いやまさか、アイツがあんなことになるとは思わなかったからさ。
「えー・・・本校舎1階総合事務受付ってどこよ」
と言うか、広すぎんのよココ。
初めて来る人に不親切にも程があるじゃない、要塞じゃあるまいし。
・・・まぁ、いざって時は要塞になるのかもしれないけどさ。
何たってここはIS技術の最先端、「IS学園」なんだから。
とは言えそこは規則、IS使えれば楽なんだけどな。
でも無断で使うと私の中国(クニ)との外交問題になるかもだし、そこは自重よね。
何と言っても、私は代表候補生なんだから。
「・・・ふふん♪」
IS適正「A」、専用機持ちの代表候補生。
年上の大人や男がヘコヘコする、そんな環境がとても心地良い。
まぁ、男なんて興味無いけどね。
・・・1人を除いて、ね。
「元気かなぁ・・・一夏」
中学2年生の時まで、私はここ・・・日本にいた。
その後は、親の都合で中国(クニ)に帰らないといけなかったけど。
でもニュースでアイツ、一夏を見て、ここに来ようって決めた。
私は決めた後は行動あるのみ、なタイプだからその通りにした。
政府高官に頼み込んで―――向こうも、「唯一の男性操縦者」に近い私は好都合だと思ったろうし―――何とか、編入手続きをねじ込んだ。
その代わりここに来るまで強行軍で、こんな夜中に着くことになっちゃったけど。
ま、それくらいは必要税よね。
それより一夏の奴、ちゃんと私との約束を覚えて・・・。
「だから、そのイメージがわからないんだよ」
・・・不意に。
1年と少し前まで毎日のように聞いていた声が、聞こえた。
若い男の子の声。
と言うか、ここIS学園に男の子は1人しかいないって聞いてるから、この声は・・・
角を曲がると、「IS訓練用第3アリーナ」って書かれた施設から、誰かが出て来る所だった。
そこに、男の子がいた。
見間違えるはずも無い、中学生の半ばまで毎日のように一緒にいた、幼馴染の男の子。
・・・織斑、一夏。
嘘、こんなに早く会えるなんて思って・・・。
「だから、こう・・・飛ぶ時は、くいって感じだ!」
「何だよその独特な感性! そんな擬音で俺にISの何を掴めってんだよ!」
「な、情けないぞ一夏! それでもクラス代表か? クラス対抗戦まで日が無いんだぞ?」
「お前が言うな!」
思って・・・え?
「まったく・・・じ、じゃあ、明日も放課後に教えてやるからな」
「明日はもう少し理論的に頼むぞ・・・?」
「それはお前のやる気次第だな」
反射的に隠れて、やり過ごす。
・・・え、何よあの女の子、何であんなに親しそうなの?
そもそも、何で一夏を呼び捨て・・・?
「・・・クラス代表、対抗戦・・・」
・・・その後、事務所はすぐに見つかった。
そこで私は、一夏のこととか対抗戦のこととか、いろいろ聞けた。
いろいろ、ね・・・。
Side 織斑 一夏
正直に言おう、俺は今グロッキー状態だ。
何しろ、ISの訓練の後に俺の「代表就任記念パーティー」と言う催し物があったからな。
でも途中から俺そっちのけで、夜の10時過ぎまでどんちゃん騒いでただけだけどな。
ところが今、クラスの女子達はいつもと同じ様子でワイワイ騒いでる。
どうして体力が持つんだ・・・はっ、女子力ってそう言う意味なのか?
「またどうせ、くだらないことを考えているのだろう?」
「な、何を馬鹿な、し、失礼だぞ箒」
「どうだかな」
ふんっ、と鼻を鳴らして、教室まで一緒に来た箒がさっさと自分の席に行った。
箒との同居生活が始まって1週間経つが、箒はどう思ってんだろうな・・・。
俺? 着替えとかシャワーとか気が気じゃ無い。
15歳の健全な男の子ですから・・・まぁ、相手が箒で助かった。
これが知らない女子だったら、本気でどうすれば良いのかわからなかったからなぁ。
知らない女子と同居してる俺・・・想像するだに恐ろしいな。
まぁ、流石にそんなことは無いだろうけどな。
「・・・お、おはようございまーす!」
「えへへー、間に合ったねぇー」
「うお?」
その時、俺のすぐ後に教室の扉を開けた奴がいた。
扉の枠に寄りかかるようにして立っていたのは、楓とのほほんさんだ。
よほど急いで走って来たのか、楓なんかぜぇはぁ言ってる・・・身体弱いのに、大丈夫か?
「む、昔の話で、今は・・・」
「あ、そうなのか」
そう言えば、今は平気って言ってたもんな。
うん、健康なのは良いことだもんな。
と言うか、そんなに急いでどうしたんだ?
「千冬姉様のホームルームに遅刻できる人間がいたら、見てみたいですよ・・・」
「あ、あはは・・・そりゃ確かにな」
遅刻したら、確実にお仕置きが待ってるからな。
俺が苦笑していると、その脇を通り抜けて楓が箒の所まで駆けて行った。
箒は窓の外を見ているから表情は見えないけど、楓はどこか嬉しそうだ。
「ほ、箒姉さん、おはよ・・・」
「・・・ああ」
「う、うん、えへへ・・・」
いや、挨拶はちゃんと返そうぜ箒。
まぁ、それでもここ最近で大分改善してきたよな、無視はしなくなったし、一応。
仲良きことは、良いことだからな。
箒も、もっと素直になれば良いのになぁ。
「あ、そうそうおりむー」
「おりむー・・・って、ああ、俺のことか」
「うん、そうだよー」
楓に置いて行かれた形ののほほんさんは、俺の横でにへらーとっとした笑みを浮かべていた。
うーむ、全身からゆるゆるオーラを出している人だな、袖丈が明らかにダボダボだし。
とは言え、俺も随分とクラスの女子に馴染んだのではなかろうか。
・・・慣れって、怖いな。
「隣の2組にねー、中国の代表候補生が転校してきたんだってー」
「あ、それ知ってる知ってる!」
「うん、私も聞いたー!」
のほほんさんの話題に食い付いたのは、俺じゃ無くてクラスの女子だった。
おお、これが女子の噂力か。
そして、代表候補生と言えば・・・。
「ふふん、今さらながらに私の存在を危ぶんでの転入かしら?」
出ました、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんです!
・・・でも、「危ぶむ」って何をだ?
それにしても、4月のこの時期に転入って珍しいな。
「何だ、転入生が気になるのか、一夏」
「え? あ、ああ・・・まぁ、少しは」
うお、さっきまで自分の席にいたはずの箒まで来た。
その傍には、ちょこんと楓がついてきている。
やはり箒も楓も女の子、噂話が好きと言うことだろうか。
でも何故だ、何故か少し不機嫌そうだぞ。
昨日の夜、箒が寝間着に使ってる浴衣の帯が変わってることを指摘したら凄く機嫌が良くなったのに。
・・・いや、あれも何で機嫌が良くなったかわからないけど。
「ふん、今のお前に女子を気にしている暇があるのか、クラス対抗戦はすぐだぞ」
「そうですわ一夏さん、この私と『ブルー・ティアーズ』をキズモノにしたのですから、勝って頂かないと困りますわよ?」
「・・・キズモノって、お前な」
俺の言葉に、セシリアはふんっ、と腕を組んで鼻を鳴らす。
最初みたいに毛嫌いされてはいないみたいだけど、正直これもどうなんだろう。
最終的に「お前を倒すのはこの私だからな」とか言って俺のピンチに駆けつけてきたりするのだろうか、それはとても嫌だぞ。
ちなみにクラス代表戦は、読んで字の如く、各クラスの代表が戦うリーグマッチだ。
優勝すると、学食デザートの学年フリーパス(半年)が景品として与えられる。
だからクラスの女子達の俺への期待値は年初来最高値を連日更新中だ、何てこった。
「・・・まぁ、やれるだけやってみるけど」
「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝って頂きませんと!」
「男たる者、そんな弱気でどうする一夏」
「織斑君が勝つと、皆が幸せになれるよ!」
皆して勝手なことを言っているけど、でも俺まだIS動かして間も無いんだぜ?
箒との訓練でも基本動作で躓いている段階で、とてもじゃないが「任せろ」とは言えない。
・・・我ながら情けないとも思うけど、事実だしなぁ。
「でも専用機持ちはウチと4組だけだから、楽勝だよ。しかも4組の専用機持ちは・・・」
「―――――その情報、古いよ」
その時、また別の誰かが話に混ざって来た。
クラスの女子の言葉に被せるように響いたその声は、どこかで聞いたような・・・。
Side 篠ノ之 楓
今日も箒姉さんと挨拶できた・・・とか考えていると、クラス対抗戦の話の最中に、隣のクラスの人がやってきた。
小柄な体躯、ツインテールにした長い髪、日本人とは少し違う鋭角的で艶やかな瞳。
「鈴・・・お前、鈴か!?」
「そうよ、中国代表候補生、凰 鈴音! 2組も専用機持ちがクラス代表になったの・・・だから今日は、宣戦布告よ!」
腰に手を当てて、ビシィッとこちらを指差して来るファ・・・えーと、凰、さん?
どうやら一夏さんのお知り合いのようで、一夏さんはどこか戸惑った様子で頭を掻いている。
「・・・何、格好つけてんだ鈴?」
「んなっ・・・な、何てこと言うのよ、アンタ! 普通そこは空気読むでしょ、日本人なら!」
「いや、知らんけど・・・」
あーでも、中国代表候補生のISには少し興味が。
この学園の訓練用IS、『打鉄(うちがね)』(日本製・純国産・初心者用)はもうデータ取っちゃったし・・・一夏さんの『白式(びゃくしき)』は整備の時に見れるし。
オルコットさんの『ブルー・ティアーズ』は、国籍の問題で私は手を触れられない。
・・・まぁ、直接手を触れなくてもデータは取れるけど。
ちなみに私の『黒叡(こくえい)』はまだ、誰にも見せていない。
左手に待機状態の指輪をしているし、試験の時に千冬姉様と山田先生には見せたけど。
いやぁ、山田先生強かったなぁ・・・まぁ、良いや。
私、たぶんIS学園最弱だと思うし、なら最弱として振る舞うだけだし。
中国のIS、どんなのかな。
あそこは貧困層放置でISにお金かけてるから、結構良い機体が・・・。
「もうSHRの時間だ、さっさと自分のクラスに戻れ、邪魔だ」
「げ・・・ち、千冬さん・・・」
「織斑先生だ」
一夏さんと鈴さんの
鈴さんの頭を出席簿で二度もぶって黙らせる千冬姉様、クール過ぎ・・・。
と言うか、「千冬さん」と呼ぶと言うことは鈴さんも千冬姉様の知り合いらしい。
千冬姉様は、いろいろと顔が広い。
束お姉ちゃんとは正反対、だからお姉ちゃんのお気に入りなのかな?
他にもいろいろ、あるのだろうけど。
「いや、驚いた・・・鈴の奴がIS操縦者になってるんてな」
「一夏、今のは誰だ? 随分と親しそうだったが・・・どう言う関係だ?」
「そうですわね、ライバルと慣れ合うのはどうかと思いますわよ?」
「え、ええっ・・・?」
箒姉さんとオルコットさん、そしてクラスの皆から集中砲火で質問の嵐。
一夏さんが困ってる・・・けど、今それをすると。
「静かにしろ、バカ共!!」
ほら、千冬姉様の出席簿が火を噴いた。
・・・あれ? 何で私まで叩かれてるんだろう・・・?
Side セシリア・オルコット
まったく、一夏さんには1組のクラス代表としての自覚が足りませんわ。
篠ノ之さん―――ああ、ややこしいので箒さんで良いですわね―――とは、放課後に毎日訓練をしているようですけど。
でもISを使った訓練はしていないとか、確かに操縦者はそれなりの訓練が必要ですけど。
今の一夏さんに必要なのは、可能な限りISに触れること。
私に一撃を与えた―――男とは言え―――方が、簡単に負けてしまうのも気に入りませんわね。
「待ってたわよ、一夏!」
「おお、鈴・・・でもそこ、通行の邪魔だぞ。食券が出せない」
「わ、わかってるわよ・・・」
そして昼休み、私達(一夏さん+私+箒さん)がお昼休みに食堂に行くと、噂の転校生が何故か立っておりました。
どどーんと現れておきながら、一夏さんの言うことは素直に聞くと言う態度。
アレは、狙っているのかしら・・・あ、ちなみに私が一夏さんと行動を共にしているのは、単純に一夏さんに興味があるからですの。
・・・他意は無くてよ?
まぁ、私の隣に立っている箒さんはどうなのかは別でしょうけど。
それにこのメンバー、イギリスの人間として見逃せませんし。
「そう言えば丸一年ぶりくらいだよな、鈴、元気だったか?」
「元気に決まってるじゃん、アンタこそたまには怪我病気しなさいよ」
「何だよそれ・・・親父さんはどうだ、元気にしてるか?」
「え・・・あ、ああ、うん・・・元気、だと思う」
そうこうしてる内に、えー・・・鈴さんだったかしら、その子と一夏さんが楽しそうにお喋りをしておりました。
・・・おそらく、知り合いなのだと思いますけど。
でもIS初心者の一夏さんが、どうして中国の代表候補生と知り合いなのでしょうか?
「一夏、そろそろどう言う知り合いなのか説明してほしいのだが」
「いや、幼馴染だよ、ただの」
「幼馴染?」
・・・幼馴染と言うなら、箒さんが知らないのはおかしいのではなくて?
それについて一夏さんが言うには、箒さんが引っ越した後に鈴さんが引っ越してきたので、擦れ違いのような形だったそうですわ。
何でも、織斑先生がIS操縦者として活躍して・・・家を空けることが多かった時期。
その時に毎日のように食事に行っていた中華料理屋の、娘さんなのだとか。
だからかは知りませんが、鈴さんのトレイには中国の麺料理が乗っておりますわ。
「・・・ところでアンタ達、誰?」
「なっ・・・わ、私を知らない!? イギリス代表候補生であるこのセシリア・オルコットを!?」
「俺も知らなかったけど・・・」
一夏さんは黙っておいてくださいまし!
一夏さんはこの学園に来て初めてISのことを知ったのですからまだしも、中国の代表候補生ともあろう者が私を知らない!?
そ、それは・・・それは、私への侮辱ですわ!
「うん、私、他の国とか興味無いし」
「な、な・・・言っておきますけど、私、貴女のような方には負けませんわ!」
「そうなんだ、でも戦ったら私が勝つよ。私、強いもん」
ま、まあぁ・・・な、何て自信過剰な!
・・・な、何ですの一夏さん、その「お前が言うんだ・・・」みたいな目は。
「あ、あぁあ、鈴。こっちは箒・・・ほら、昔話したろ、剣道場の娘」
「ああ・・・あの。まぁ、よろしく」
「・・・こちらこそ」
箒さんと視線を交わしたのも一瞬、彼女はすぐに一夏さんの方へ視線を戻しましたわ。
そして、どこか少しだけ恥ずかしそうにしながら。
「そ、そう言えばさ、アンタIS初心者なんでしょ? 代表候補生の私が、教えてあげても良いわよ?」
な!?
「ああ、そりゃ助か「結構ですわ!」・・・ええ、またこの流れか?」
「ああ、一夏は私と放課後にISの特訓をするのだ」
「ええ、専用機持ちの私が教えて差し上げますわ!」
「「え?」」
そもそも、一夏さんもそんなすぐに頷こうとしないでくださいまし。
今回ばかりは、私も黙っていられません・・・中国の代表候補生、凰 鈴音。
お、覚えましたわよ・・・?
「大体、貴女は2組でしょう・・・敵の施しは受けませんわ!」
実際、1組のクラス代表のIS訓練を他のクラスの人間に任せるなんて、あり得ませんわ。
ええ、そう、あり得ませんとも!
こうなったら、是が非でも何が何でも、一夏さんに勝って頂きます!
「ふーん・・・あっそ」
理屈が通っている分、彼女も反論が難しい様子ですわね。
一夏さんには見えていないでしょうけれど、私達の間には確実に火花が散っておりますわ。
しかし「クラス対抗」と銘打っているだけに、この理屈は崩せないでしょう?
「じゃ、それが終わったら部屋に行くから。空けといてよね、一夏!」
「は? ・・・あ、ああ」
さっさと自分の分の昼食を食べ終えると、鈴さんは食堂から素早く出て行きました・・・って。
だから一夏さん、そう簡単に頷かないでくださいまし!
Side 篠ノ之 箒
一夏の奴め、この上まだ女子が増えるとは・・・軟弱だ!
とは言った物の、心は焦る。
何故なら私には専用機が無い、対して向こうは専用機持ち。
しかも何故かセシリアまで混ざって・・・2機になってしまった。
ISの訓練と言う名目(もくてき)で一夏の放課後の相手を務める以上、どうしてもISがいる。
でも、私には専用機が無い。
結局は、そこに行きついてしまうわけで。
これは・・・とても大きい、思ったよりもずっと。
「どうしたものか・・・」
と言いつつ私の足は、IS学園の訓練機の貸出申請を行うための総合受付に向かっている。
いろいろ考えたが、やはりこれしか手が無い。
正直、今まではここに来るのが嫌だった。
別に私で無くても、きちんと申請さえすればIS訓練機の貸出は誰でもできる。
もちろん、順番とかはあるが・・・運が良ければ、その場で借りることも可能だ。
一夏の訓練のためと思ってはいても、やはり、その・・・。
・・・私は、「篠ノ乃 束」の妹だから。
でも、せめて訓練機が無いと一夏が・・・。
「あれ? 箒姉さん」
「・・・あ」
総合受付の前でどうしようかと思っていると、反対側の通路から自分と同じ顔が歩いて来るのが見えた。
同じ顔・・・双子の妹、楓。
再会してからもう1週間以上経つが、どうしても1歩退いてしまう。
何を話せば良いのか、どう接すれば良いのか、わからない。
いや、普通に姉妹として接すれば良いと言うのは、頭ではわかっているのだが。
・・・楓は、
「わ、わー・・・箒姉さんだ、こんな所でどうしたの?」
「う、う・・・その、訓練機を・・・」
「あ、訓練機の貸出申請? 私もだよー」
ほら、と見せて来るのは申請用の紙の束・・・実はあの束を手に入れるだけでも時間がかかる。
それだけ、ISの機体は厳重に管理されているのだ。
官僚主義とまでは言わないが、面倒な手続きが必要なのは確かだ。
「私はお友達のお手伝いなんだけど、箒姉さんは?」
「いや・・・わ、私は、その」
「あ、わかった、一夏さんでしょ? 箒姉さん、昔から一夏さんのことがす」
反射的に、殴った。
「・・・い、痛いよ、姉さん・・・」
「お、お前が変なことを言うからだろうが!!」
「え、えぇー・・・」
両手が書類で埋まっているため、私に叩かれた頭を撫でることもできない楓。
正直、悪かったと思う。
一夏に対してもそうだが、すぐに手が出るのは私の悪い癖で、それでいて素直に謝罪もできない物だから・・・。
・・・いや、でも今のは楓も悪いだろう。
それにアレだ、一夏のことが・・・その、どうとか言う話は子供の頃に「内緒だぞ」と言って話したことであって、こ、こんな往来でだな。
私がそんなことを考えていると、楓が嬉しそうににへら、と笑った。
「・・・な、何だ」
「ううん、箒姉さんとお話できて嬉しいなって」
言われて、はたと気付く。
そう言えば・・・そう、だな。
「えっと、束お姉ちゃんもね、その・・・箒姉さんの機た」
「その話はするな」
先程までの柔らかな気持ちが、その「名前」を耳にした途端に冷める。
楓も空気が変わったことを感じたのか、少し表情が曇る。
ここ数日でわかったが、楓は
失踪している間、楓だけは
だが、私は違う。
重苦しい沈黙が続く中で楓はおずおずと、しかし意外と力強く、手に持っていた書類の束を私に押し付けて来た。
訓練機の貸出申請用紙、しかも優先度1位・・・って、これは?
「・・・おい!」
私の声に返事をせずに、楓はそのまま背を向けて駆け出して行った。
私は手の中に残った申請用紙の束に視線を落として・・・溜息を吐いた。
・・・友達の手伝いだったんじゃないのか、楓。
Side 織斑 一夏
き、今日はキツかったな・・・。
夜8時、ようやく寮の部屋に帰れた俺は溜息を吐いた。
まぁ、つまりは箒と一緒の部屋なわけだが・・・個室、まだかな。
「ふん、鍛えていないからそうなるのだ」
ベッドの上でぐったりとしている俺を見下しながら、箒が鼻を鳴らしていた。
何とも優しい幼馴染である、まる。
今日の訓練は、剣道じゃ無くて本格的なIS戦闘だった。
どう言うわけか、箒が訓練機を借りて来てくれて・・・初めてかもしれない本格的な訓練だった。
そして、セシリア・・・何だか知らないけど、鈴に挑発されたのが頭に来たらしい。
それはそれは、もうビシバシと俺を苛め・・・鍛えてくれた。
と言うか、途中から箒と2人がかりで俺をボコボコにしていた。
身体で覚えろって、限度があるだろ・・・3時間休憩無し、アイツらは俺をどうしたいんだ。
まぁ、とにかくシャワーでも浴びて・・・と思った矢先。
「と言うわけで、部屋かわって!」
台風・・・じゃない、鈴が部屋に来た。
しかも来ていきなり、箒に部屋を変わるよう要求。
要求であってお願いじゃない所が、鈴の鈴たる所以だ。
俺と出会ったばかりの頃は、俺ともよく喧嘩してたよなぁ・・・って、懐かしんでる場合じゃ無く。
「い、いきなり何だ!? 大体、なぜ私がそんなことをしなければならない!?」
「いや、男と一緒なんて嫌でしょ? その点私は平気だから、かわってあげようかなって」
「い、いらん!」
前半は頷いても良いが、後半の意味がわからない。
ちなみに何故に鈴に俺と箒の同居状態がバレたかと言うと、訓練の終わりに鈴が第3アリーナのピットに来たんだよ。
スポーツドリンクとか差し入れてくれて、嬉しかったわけだが・・・箒とシャワーの順番について話してたのを聞かれて、それでバレた。
・・・あれ? この流れでどうして鈴と箒が部屋をかわる話になるんだ?
それ以前に鈴の荷物、異常に少ないな。
ボストンバッグ一つで移動できるって、フットワーク軽過ぎだろ。
「ええい、くどい! さっさと出てい・・・」
「ねー、一夏。一夏も私と一緒の方が良いよね?」
「・・・無視、するな!」
「げ、馬鹿ほ・・・」
鈴の行動に堪忍袋の緒が切れた箒が、ベッド脇から竹刀を取り出した。
あ、馬鹿、防具も何も身に着けて無い相手にお前――――。
冗談抜きで危ない、そう思った次の瞬間、鈴の右手が光った。
Side 凰 鈴音
操縦者を守るISの「絶対防御」・・・これ、実は待機状態でも働いてるのよね。
IS開発者の篠ノ乃博士は言ったわ、「ISはISでしか倒せない」。
そしてその操縦者も・・・「絶対防御」を抜けるIS(及び対IS兵器)でなければ、殺せない。
もちろん、それも絶対じゃ無い。
操縦者は自分で、自分の危機を乗り越えられるようになっていなければならない。
最低限、ISコアだけは死んでも守らないといけないから。
「鈴、大丈夫か!?」
「大丈夫に決まってんじゃん・・・私、代表候補生だもん」
「な・・・」
私の右手には、実体化したISの装甲が展開されてる。
その右手の装甲に、箒とか言う子が振り下ろした竹刀がぶつかってる。
と言うか、今の・・・私じゃなかったら、本気で危ないよ?
ISは操縦者の意思で部分的に展開できるの・・・候補生なら、0.5秒以下でね。
ISを展開するのは生身の人間だもの、反射よりも速く展開はできない。
だから代表候補生は全員、無意識に反応して展開できるのが、当然。
できなければ、死ぬもの。
「絶対防御」は生命が危ないって時にしか発動しないし・・・片腕くらいとかだと、守ってくれない。
「・・・ま、それはそれとして、一夏。昼間に聞きそびれたんだけどさ」
「あ、ああ?」
「その、さ・・・約束、ちゃんと覚えてるよね?」
候補生から女の子な気持ちにチェンジ、このへんの切り替えって重要よね。
そもそも、私が日本に来た理由の1つは一夏との「約束」だもの。
本人が女の子に囲まれてるのを見て、ちょっとイラッとして後回しにしちゃったけどさ。
「約束、約束・・・ああ、もしかしてアレか!」
少し考え込んでいた一夏が、ぽんっ、と思い出したように手を打った。
お、覚えててくれた!
だよねだよね、女の子の一世一代の約束だもんね、覚えてるのが当たり前よ!
1年とちょっとしか経って無いし・・・ね。
私が、大きくなったら毎日酢豚を・・・。
「奢ってくれるって話だったよな?」
作ってあ・・・へ?
私がぽかん、としていると(箒とか言う子も似たような顔してた、どうでも良いけど)、一夏はうんうんと頷きながら。
「うん、確か鈴が料理が上手くなったら、酢豚を毎日ご馳走してくれるっつー・・・」
「・・・っ!」
それ以上は、聞きたくなかった。
違う、と叫ぶ代わりに、私は思いっきり一夏の頬を張った。
乾いた音が、部屋に響く。
「へ・・・?」
「さ・・・最っ低! 女の子との約束をちゃんと覚えて無いなんて、男の風上にも置けない奴! 犬に噛まれて・・・死ね!!」
顔を見てらんなくて、箒って子の脇を擦り抜けて部屋から飛び出す。
箒って子が何か私に声をかけようとしたみたいだけど・・・知らない。
一夏のバカ、馬に蹴られて死ねば良いのよ・・・!!
Side 篠ノ之 楓
「ほらほら楓ちん、急いで~」
「は、はーいっ」
「もう、先生に無理言って10時まで整備室使って良いってことになってたのに~」
「ご、ごめんなさい!」
本音さんに手を引かれるようにしてやって来たのは、IS学園の第2整備室。
整備室と言うか、もうドックとか格納庫とか、そんな風に呼んだ方が良いような場所。
量産型から専用機まで、2年生以上の整備科の人達がISの研究・開発を行っている場所。
束お姉ちゃんの秘密ラボほどじゃないけど、たぶん、世界最先端の技術の宝庫。
この中では、国籍も何も関係無い。
ただ、ISの整備の技術だけが物を言う世界。
「こ・・・こんな時間でも、人がたくさんいるね」
「対抗戦近いから~」
「ああ、それで・・・」
もう夜8時を過ぎていると言うのに、第2整備室にはたくさんの人がいる。
楽しそうにやっている所もあれば、怒鳴り合いながらISを弄っている場所もある。
あ、アレって専用機・・・? と言うかあの発電機、最新型・・・?
「楓ちん、こっちだよ~」
「は、はいっ」
私と本音さんの手にあるのは、訓練機『打鉄(うちがね)』の貸出申請許可証明書。
さっきまでかかってて・・・本音さんに「遅いよー」って凄く怒られた。
か、格好つけて箒姉さんに渡しちゃったから、書類集めからやらないといけなくて・・・。
うん、素直にごめんなさい。
「良いよ良いよ~・・・でも、今回きりでお願いだお~?」
「う、うん」
にへら~って笑う本音さん、可愛い。
でも、うん・・・二度としない、まさか書類の再発行があんなに面倒だなんて。
迷惑もかけちゃうし、うん、学んだ。
学校って、いろいろ大変なんだね・・・。
「え、えっと、それで・・・どこまで?」
「ちょちょ~っと向こう~、かんちゃんに紹介するから~」
「か、かんちゃんさん・・・」
「うんっ、もう、ちょうちょうちょう~可愛い子なんだよ~」
以前から名前は聞いてる、えーと・・・かんちゃんさん。
本音さんに手を引かれてやってきたのは、第2整備室の奥。
そこには『打鉄(うちがね)』にどこか雰囲気が似た、見るからに未完成のISがあった。
「かんちゃ~ん、来たよ~」
「・・・本当に・・・来た・・・の?」
「うん、私はかんちゃんのメイドさんだから~」
その機体を包んでいるのは、無数のディスプレイ。
そしてその中から、1人の女の子が降りて来る。
どうやらその子が、この機体の操縦者(マスター)にして本音さんの「かんちゃん」らしかった。
肩を過ぎたあたりまで伸びた青みがかった綺麗な髪、赤い瞳をかすかに隠す小さな眼鏡。
小柄な身体を包むのはIS学園の制服、普通のそれよりも肌の露出は控え目。
それでいて・・・私は、剥き出しの細い指に目を奪われた。
青白いディスプレイの光の海の中に浮かぶその子は、まるで魔法使いみたいで・・・。
とても、「綺麗」だった。
「楓ちん、紹介するね~、この子がぁ、かんちゃんっ!」
「その呼び方・・・と言うか、誰・・・?」
「かんちゃん・・・
・・・更識、簪。
この日、私は初めて・・・。
彼女と、目を合わせた。
篠ノ之 楓:
どうもー、楓です。
そろそろこの出だしも変わるかもしれないともっぱらの噂、まぁ良いですけど。
今日は、私の通う学校についてご説明ー。
まぁ、ある程度は本編でもすでに説明されてますけど・・・。
IS学園
国際条約に基づいて日本に設置、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。操縦者以外にもメカニックとかを育成してます。学園はどの国家・組織にも属しません。国際規約上は外部の国家・組織が学園関係者に干渉してはならないことになっています。まぁ、建前って大事ですよね。
各種アリーナ・訓練施設に学生寮、食堂、お風呂・・・どれもこれも超一流、運営資金は日本国が全部持ってます、今も昔も国際社会からカモられてます。10人ちょっとぐらい専用機持ちがいて、その倍くらいの代表候補生が所属しています。まぁ、ちょっとした国際社会の縮図みたいな物。一般教養もあるので、れっきとした学校です。
篠ノ之 楓:
では、今回はここまでですねー。
うーん、そろそろ説明することがなくなるなぁ・・・。
篠ノ之 束:
じゃあじゃあ、私達姉妹の幼少時のことでも・・・あの頃はスタイルに差も無かったんだけどねぇ。
篠ノ之 楓:
お姉ちゃん!!