インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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今回は主に、千冬さんのお話です。
オリキャラの中でもモンド・グロッソに関わるキャラクター達との馴れ初め的なお話になるかと思いますので、キャラクター情報を後書きに簡単に記載しておきますね。

では、どうぞ。


過去編③:「モンド・グロッソ」

―――――インフィニット・ストラトス、通称『IS』。

宇宙開発を目的としながら、兵器として認知された機動兵器。

従来の兵器を上回る新たな脅威に対し、日米欧を中心とする主要国は「IS運用協定」を締結。

IS及びISコア、並びにIS操縦者及び操縦者育成機関「IS学園」の国際管理体制を完成させる。

 

 

そして1年も経たない間に、協定原加盟国21ヵ国・地域によってIS運用の国際ルールが作られた。

軍事転用の制限―――表向きのこの条件を満たすために各国が取ったのは、ISをスポーツとして周知することであった。

そして21ヵ国・地域で正式に合意されたISの世界大会「モンド・グロッソ」、IS発表から3年目に行われたこの大会には、IS協定参加国のISと操縦者が参加したのである―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

(はっ、くだらねぇ―――)

 

 

記念すべき第1回世界大会(モンド・グロッソ)の舞台―――諸事情によりアメリカで開催―――で1人、胸の奥深くでそう毒吐く人間がいた。

絵に描いたような金髪碧眼、モデルのような長身と相まってはっとする程の美人であるが、不機嫌そうな表情が全てを台無しにしている。

 

 

彼女の名前は、ジーナ・ワトソン。

第1世代のアメリカ国家代表IS操縦者であり、今はアメリカ代表チームの一員として国内のスポーツ用ドームを急遽ISバトル用に改装したアリーナの中心で、格闘部門の試合の直前である。

身に纏っているのはアメリカ国産の第1世代IS、まだまだ試作段階故に癖の多い機体だ。

だが、ジーナがそれ以上に不満なのは・・・。

 

 

(何で私が、日本人(ジャパニーズ)が作った兵器なんて使わなけりゃいけねぇんだよ)

 

 

ジーナは、日本と言う国が嫌いだった。

祖父が大戦中に日本兵と戦い、その思い出話を子守唄代わりに育ってきたジーナにとって、日本は潜在的な「敵国」だった。

おまけに父は在日米軍の一員として沖縄に赴任し、その父を通じて過去ばかりでなく現在の日本も嫌いになった。

 

 

(大人しく、島に籠ってりゃ良いモノをよ)

 

 

だから、ジーナは日本人がISという兵器を開発したと聞いた時に危機感を覚えた。

またぞろ、再軍備しようとするのでは無いかと思ったからだ。

自衛隊(ぐんたい)がいるだけでも嫌なのに、祖国(アメリカ)の軍事力を上回る力を日本が持つことが嫌だった。

 

 

そして事実、アメリカを含む軍事力が敗北を喫した『白騎士事件』が起こった。

ジーナは、焦った。

だから祖国でIS操縦者の募集が始まった時、真っ先に応募したのだ。

祖父や父がそうしたように、自分の手で日本を極東に封じ込めるために。

 

 

『両選手、アリーナ中央に進んでください』

 

 

アリーナ中継室からのアナウンスに従って、ジーナは自分のISを浮遊させる。

PICと言う新技術には、まだ慣れない。

戦闘機とはまるで違う感覚だし、「身体その物が飛ぶ」と言う感覚は通常あり得ないからだ。

 

 

どことなく手探り状態なジーナに対し、相手は悠然と空中に浮いている。

それがまた、ジーナを苛立たせる。

何せ相手は「日本人」で・・・世界最初のIS操縦者なのだから。

 

 

(アレが・・・チフユ・オリムラか)

 

 

対戦相手の顔を見やって、ジーナが感想を胸の中でのみ呟く。

紅桜色の機体を纏い、1本の刀のみで戦うクレイジーな女。

人種さえ違えば好感が持てたかもしれないが、ジーナにとっては日本人だと言う一点が最重要ポイントなのである。

 

 

(日本人(ジャパニーズ)が、調子に乗ってんじゃねぇぞ―――)。

 

 

そして始まった試合で・・・ジーナは、その「日本人」に叩き潰された。

完膚無きにまでに敗北し、全ての自信を打ち砕かれた。

それはまさに大人と子供の戦いで、プライドをヘシ折られるには十分だった。

 

 

そしてその「日本人」・・・チフユ・オリムラが格闘部門で優勝し、『ヴァルキリー』の称号を得るのを見ているしかなかった。

腹立たしい想いでそれを見ていたが、それでもジーナの闘士は消えなかった。

 

 

(次だ、射撃部門で叩きのめしてやる―――)

 

 

だが、チフユ・オリムラは射撃部門には出場しなかった。

彼女の機体には、射撃武装が無かったからである。

何せ、刀一本で戦っているのだから。

 

 

その後もいくつかの出場種目が重なったが、巡り合わせが悪く対戦は無かった。

そしてチフユ・オリムラはそのまま総合優勝、世界最強の称号『ブリュンヒルデ』を最初に得た人間となった。

ジーナが受けた衝撃は―――実の所、他の国の代表もだが―――計り知れない物があった。

 

 

(畜生・・・畜生! 今に見てろ、次に会った時には・・・!)

 

 

閉会式の中でジーナはリベンジを静かに、しかし苛烈に誓った。

本国に戻り、専用の施設で血の滲むような訓練を重ねて・・・技術班の努力もあって第2世代型の開発に成功し、アメリカ代表の地位も保って。

 

 

そして、第1回大会から4年後・・・IS発表から、7年が過ぎたその日。

第2回世界大会(モンド・グロッソ)の場で、ジーナはチフユと再会したのである―――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

第2回モンド・グロッソ日本代表主将。

それが、「世界最初のIS操縦者」織斑千冬の肩書きである。

とはいえ千冬は、他の代表とは一線を画す存在であった。

 

 

第1回モンド・グロッソの格闘部門『ヴァルキリー』、総合優勝『ブリュンヒルデ』。

2つの称号を手に入れた、世界唯一の人間。

彼女と双璧を成すIS開発者の篠ノ之束博士を除けば、彼女はIS発表からの7年間で最も世界に注目されている人間だった。

特に篠ノ之博士が失踪した直後でもある昨今、彼女の注目度は嫌でも上がる。

そして今回の第2回モンド・グロッソでも、2連覇を期待されているのだから。

 

 

「つーわけで、今回は私が勝つ!!」

 

 

そしてそんな彼女は現在、選手用の控え室で絶賛絡まれている最中だった。

相手は例によって、アメリカ代表主将のジーナ・ワトソンである。

千冬と同じ「第1世代」のパイロットであり、第1回モンド・グロッソで戦った仲である。

 

 

「・・・あん? 何だ返事がねぇな・・・私の日本語、どっかおかしいのか・・・?」

 

 

年の頃は同じ20代・・・とは言っても、別に千冬の友人というわけでは無い。

強いて気になる点があるとすれば、4年前は英語で罵倒されていた記憶があるのだが、今は何故か流暢な日本語で話しかけてきている点であろうか。

しかしそれも、千冬にとってはどうでも良いことではある。

・・・ある、のだが。

 

 

「あー、うんっ、んんっ・・・今年こそ、ユーを、倒す、オーケィ?」

「知らん。と言うか、何で言い直した方が日本語の発音がおかしくなるんだ」

「マジか、これでも日本人学校の友達に教えて貰ったんだぜ?」

 

 

思わず返事をしてしまい、しまった、と思う千冬。

何故なら返事をした瞬間、ジーナが物凄く嬉しそうな顔をしたからである。

千冬は知らないことだが、ジーナは日本人と日本語で会話するのはこれが初めてであった。

 

 

「ふふん、まーアレだな。第1回の時から続けて出場すんのは私とチフユだけだからな。今年は私とお前で決まりじゃね?」

「何がだ、何が」

「つれねぇなぁ・・・へへっ、まぁ私達は永遠のライバルだからな。必要以上の馴れ合いは必要ねぇってことだな」

「永遠・・・?」

 

 

千冬は正直、ジーナの気持ちが欠片もわからなかったが・・・まぁ、良いかと放置しておくことにする。

基本的に、弟のこと以外は頓着しない性格であった。

 

 

「・・・で、お前、今年は射撃部門出るのかよ?」

「私は今年も刀一本だが」

「クレイジーすぎるだろお前」

「やかましい」

 

 

日本は第2世代型の機体を実用化しているのだが、千冬は同じ機体を使い続けていた。

日本製第1世代2号機、『暮桜(くれざくら)』・・・すでに伝説となっている機体である。

それを倒すことは、全ての国とIS操縦者の目標であり、憧れでもある。

 

 

「ま、じゃあ・・・今年も格闘部門の決勝で会おうぜ」

「・・・まだ、勝ち上がると決まったわけでは無いだろう」

「何言ってんだよ、ルーキーばっかだぜ?」

 

 

楽勝だろ―――そう言ったジーナの前に、と言うより言っていない千冬の前に・・・1人の女が立った。

千冬は興味なさそうに、ジーナは不審そうに前を見る。

そこに立っていたのは紺色のISスーツを着た、不揃いなショートカットの女だった。

 

 

「何だ、てめぇ?」

「・・・?」

 

 

ジーナの言葉に反応した、と言うより、千冬の疑問符を浮かべた視線に応える形で、その女はスタイルの良い身体を逸らすように胸を張った。

白人女性独特の張りのあるボディが、スーツの中で窮屈そうに動く。

 

 

「私はアイシャ! アイシャ・ブライト・・・オーストラリアのエース! そして、今回の世界大会で『ブリュンヒルデ』になる女だ!!」

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

年の頃は20代前半、千冬やジーナと同年代である。

ただし彼女・・・アイシャは、いわゆる「第2世代」のISパイロットであった。

各国が手探りながらも本格的なIS開発を軌道に乗せ、操縦者の選定を公募から選出へと修正していた時期に育ち始めたパイロット達の1人。

ある意味で、最初の国産操縦者だと考えることができるだろう。

 

 

「なぁっ・・・!?」

 

 

そしてその国産操縦者であるところのアイシャの最初の相手は、幸か不幸か千冬であった。

格闘部門、1回戦の話である。

千冬の方はともかく、アイシャとしてはこの上ないチャンスであった。

今年になって初めて発表された国産機と、そして何よりの自分の価値を軍上層部に売り込むチャンス。

 

 

またIS操縦者は栄達心と同様かそれ以上に、愛国心が強いという共通項がある。

そしてジーナと同じ・・・否、ジーナ以上に、アイシャもまた、己の国を愛していた。

故郷の村の皆を愛しているし、チームの仲間は気の良い奴らばかり、技術班との関係も良好。

だからこそ、アイシャは自身の勝利を信じて疑わなかったし・・・「勝たなければならなかった」。

 

 

「と・・・オイオイオイオイッ!」

 

 

高らかに宣戦布告をした10数分後、アイシャは絶体絶命の危機に陥っていた。

具体的には、試合において千冬に勝てない・・・いや、それ以前に捉えられないのである。

彼女の機体は上層部の意向で遠距離タイプではあるが、軽量性と運動性にはアイシャは自信を持っていた。

おまけに、千冬の機体は篠ノ之束製とはいえ第1世代―――――。

 

 

(加減速のタイムラグが無い・・・本当に第1世代か!?)

 

 

実弾型のライフルを構えながら、そしてアリーナの中央で射撃を続けながら。

アイシャは、アリーナ内を縦横無尽に駆ける千冬を視線だけで追っていた。

肉眼で追うのは、ISの計器類が相手の動きを追いきれないからだ。

発展途上とはいえISのハイパーセンサーを上回る動き・・・少なくとも、アイシャは本国の養成所では見たことが無い。

 

 

「お、おぉ・・・?」

 

 

撃ち放たれる弾丸を避け、相手の機体に悟られることの無い運動性。

本国で見たことが無い―――見ることができない、ISの機動。

空中戦では本国で負け無しのアイシャですら・・・見惚れてしまう程に。

アレは、アイシャの理想とする動きそのものだった―――。

 

 

「お・・・がっ!?」

 

 

左側面からの蹴り、直後に視界に映る紅桜色の奔流。

そして、斬撃。

アイシャは、千冬の動きに見惚れたままに・・・。

 

 

・・・敗北を喫した。

それ以降、彼女の心から千冬の姿が消えることはなかった。

千冬と戦ったIS操縦者は、概ねこのように魅せられるのである。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

同じ欧州の大国とはいえ、IS開発に関してイタリアとスペインは対照的な道を歩んでいる国である。

イタリアは『テンペスタ』という独自のISを開発し、スペインは独自開発の道を捨ててフランスと提携する道を選んだ。

 

 

「豪州は・・・負けたようね」

「その模様ですね」

 

 

アリーナの巨大モニターに映し出された別のアリーナの試合結果を見て、今まさに試合を行っていた2人は一旦、手を休めた。

互いに銃口を下ろし、別の試合の結果を反芻する。

すなわち、「織斑千冬」の勝利と2回戦の進出を。

 

 

1人は片目を長い前髪で覆った茶髪の女性、フランス製第1世代機の青い装甲色と長い茶色の髪が相まって、一見すると知的な雰囲気が見て取れる。

スペイン代表、アデリタ・ポルティージョ・ラザロ。

 

 

「この試合に勝った方が、チフユ・オリムラと戦える・・・」

「『ブリュンヒルデ』を倒せば、いろいろと利益があります」

 

 

今一人は、肩で切り揃えた灰色がかった白い髪と琥珀色の瞳が特徴的な女性操縦者。

レディア・アルミスというのがその名前で、イタリアの代表操縦者である。

搭乗しているのはイタリア製第2世代型『テンペスタ』、そのカスタム機だ。

 

 

とはいえ双方の操縦者、機体共に「第2世代」であり、模索の段階にあるといえる。

しかしだからこそ、彼女達は「世界最高峰」というものを知る必要があった。

そして彼女達や豪州に限らず、今回の大会の出場者の目標は良くも悪くも「織斑千冬」なのである。

たとえ射撃型のISであっても、千冬の出場する格闘部門に登録するのはそのためである。

 

 

「あら、勝てるつもりなの? あの『ブリュンヒルデ』に」

「最初から勝負に負けてかかるような人間は、IS操縦者に選ばれるはずがないと思いますが?」

「・・・違いないわね」

 

 

レディアの慇懃無礼ともとれる挑発に、アデリタは笑みを浮かべる。

基本的に・・・IS操縦者は、プライドが高く負けず嫌い。

ある心理学者が、そういう見解を発表もしていたりする。

 

 

つまるところ、個人的にも公人的にも、アデリタもレディアも負ける気はもうとう無かった。

再びお互いの武器を向け、ISによる高速戦闘に再突入する。

観客の歓声をバックに、2人の戦闘は激しさを増していった―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

別グループでの試合をそれぞれ終えた千冬とジーナも、選手控え室で他のグループの試合をモニター越しに見ていた。

いかに自信があるとはいえ、他人の力を見ずに試合に臨む程バカでも無い。

 

 

「おー、今年のイタリアはマシな機体作ってきてんじゃね? 前は逆の意味で凄かったもんな」

「それは良いが、何でお前は私の隣に座るんだ?」

「良いじゃねぇか別に、同じ1年組だしよ。それにどうせお前、友達いないだろ?」

 

 

率直に相手がカチンと来るようなことを言うのが、ジーナという人間だった。

しかし千冬は弟のこと以外は基本的にどうでも良いので、聞き流すことにした。

その沈黙を自分に都合の良いように受け取ったのか、ジーナは上機嫌で鼻歌など歌っている。

それから、思い出したように。

 

 

「1年組っていやぁよ、今年はドイツの代表は代理なんだってよ」

「そうか」

「まぁ、代理っても主将だけらしいけどな・・・それがお前、聞いて驚けよ? 抜け番はなんとあのウルスラだぜ?」

「・・・ルーデルか」

 

 

ウルスラ・ルーデル、ドイツ代表主将兼ドイツ連邦軍少佐。

スツーカ・エースを曽祖父に持つ女傑であり、20代半ばの典型的なゲルマン美女。

千冬らと同じ「第1世代」操縦者であり、前回の第1回大会では総合2位という成績を残している。

 

 

「なぁ、ビックリだろ?」

「そうだな、今年はあの弾幕に突っ込まなくて済むと思うと心が穏やかになるかもな」

「何か知らねーけど、直前に事故って怪我したんだと。あはは、笑えるよなー」

「・・・・・・そうか。私も貴官らの話の種になれて光栄だ」

「あはは、そーだろそ・・・・・・oh」

 

 

控え室のベンチに並んで座る千冬とジーナの後ろから、第3の声が響いた。

それはアイシャのような若さと勢いのある声では無かったが、どこか実直で厳粛な色を強いているかのような声だった。

その声を聞いて固まるジーナとは対照的に、千冬は何の気負いも無しに後ろを振り向いて。

 

 

「久しぶりだな、ルーデル」

「オリムラも、元気そうで何よりだ」

 

 

ブロンドのショートに緑掛かった碧眼のゲルマン美人、ドイツ女性らしい大きいがスレンダーな身体。

規律に厳しく生真面目だが、だからと言ってジョークや雑談を好まないわけでは無い。

どことなくストイックな雰囲気を持っているので、千冬にとってはジーナのような親しげな人種よりは好感が持てる相手だった。

 

 

そして振り向いた千冬だからこそ気付けたことだが、ウルスラは微かに右足を引き摺っていた。

足音からして、どうも簡易の義足らしいが・・・それについて、千冬は特に詮索はしなかった。

だからかはわからないが、ウルスラも特に説明しようとは思わなかった。

・・・だが、密かにその場から抜け出そうとしていたジーナの首根っこを掴むことはやめなかったが。

 

 

「貴官、どこへ行く?」

「いやほらお前、アレだよ、射撃部門の予選が始まるから・・・」

「そうか、では私も出番だな。すぐに行くとしよう」

「うおっ・・・コラコラコラ、引き摺るな引き摺るな!」

 

 

そのままズルズルと射撃部門の予選に向かおうとするウルスラとジーナを、千冬は特に感慨を持っていないような瞳で見つめていた。

せいぜい、ヒラヒラと手を振ってやるくらいだ。

 

 

「ちょ、おまっ・・・友達のピンチにそれは無いだろ!?」

「知らん。それに私はリングの外でルーデルに喧嘩を売りたくない、ミンチにされたくないからな」

「私だって同じだっつーの!」

 

 

凄まじい言われようだが、ウルスラは別に化物では無い。

ただ機体の特性上、標的が基本的に原型を留めずに吹っ飛ばされるだけである。

 

 

「そこが問題なんじゃねぇか!!」

「はっはっは、貴官は相変わらず面白いことを言うな」

「言ってねぇよ!」

 

 

そしてその様子を、試合を終えたばかりのスペイン代表とイタリア代表が目撃していた。

その様子が巡り巡って、数年後にあるフランスの元代表候補生に伝わるのだが・・・それはまた、別のお話。

またさらに別の話ではあるが、射撃部門決勝はドイツ代表ウルスラとスペイン代表アデリタによって行われることになる。

 

 

正確無比な射撃で目標を撃ち抜くアデリタに対し、強火力によって標的ごと全てを粉砕するウルスラの対決は白熱した物の・・・最終的に、射撃部門の2代目『ヴァルキリー』の座はアデリタの物となった。

試合自体はウルスラが制した物の、大会直前の負傷が元で気絶、ノーゲームとなる。

結果、『ヴァルキリー』の座はアデリタの物という裁定が運営側によって成された。

ウルスラの負傷に関しては、陰謀論も含めて様々な憶測が流れるが・・・それについては、歴史の闇に葬られることになった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「くっそ~、チフユのヤロ・・・奴め」

 

 

その夜、開催国側(にほん)が用意したホテルの中を歩きながら、ジーナはぼやいた。

第1回はアメリカ、第2回は日本で行われると言う流れは何年も前から定められていたことで、多分に政治的要素を含んでいる。

しかしそれは、代表選手という「末端」に過ぎないジーナにはほぼ関係の無い話ではあった。

 

 

そしてジーナとしては、ホテルの従業員の大半が日本人なのがそもそも気に入らない。

きめ細やかなサービスや豊富なアニメティなども、媚びられているようで不快だった。

それこそ小姑のように様々なことが癇に障り、イライラする。

誤解の無いように言えば、彼女は個人として千冬を認めてはいても民族として日本人を認めているわけでは無い。

こればかりは幼少時からの物なので、どうしようも無いのである。

 

 

「ウルスラの奴の相手を私1人にさせやがって・・・予選突破したから良いけどよ」

 

 

本線は明日、順当に行けば準決勝でジーナはウルスラに当たる。

ウルスラは代表一「鈍重な」機体で挑んでいるとはいえ、強火力で吹き飛ばそうとするので出来れば当たりたくない相手だった。

まぁ、ドイツの最新鋭機を見るのはジーナの仕事でもあるわけで・・・。

 

 

「・・・お?」

 

 

何とは無しにロビーにまで出ると、ロビーの待合の空間で知っている顔を見かけた。

ホテルの出入り口の近くで立ち、誰かと話している。

トレーニングウェアでも部屋着でも無く、スーツ姿で。

しかも相手は、男だった。

 

 

「彼氏・・・・・・ってわけでも、無さそうだな」

 

 

何しろ、相手は千冬よりも一回りは若そうな男・・・男の子だった。

中学生くらいだろうか、学生服らしい詰襟の服を着ている。

なかなかに整ったその顔立ちは、どことなく千冬に似ている・・・まぁ、ジーナにとっては日本人の顔立ちの差などわからないが。

 

 

何やら大きなバッグを渡しているようで、千冬はそれを男の子から受け取っている。

差し入れというには大きすぎるので、他の何かだろうか。

だが千冬はそれを受け取ると、男の子の背中を押すようにしてホテルの外へと追い出した。

何やら揉めているようだが、結局は千冬が勝ったらしい。

 

 

「ふーん・・・」

 

 

だが、ジーナははっきりと見てしまった。

男の子をホテルの外に追い出して、受け取った鞄片手に戻って来た千冬の顔を。

相手の男の子が、どんな関係なのかは知らないが・・・。

 

 

(アイツ・・・あんな顔で笑うんだな)

 

 

いつも仏頂面で、周囲の人間と馴れ合わない鉄の女。

そんなイメージを周囲に与えている千冬が、不意に見せた笑顔。

ジーナは、そこに千冬の強さの理由を見た気がした。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「まったく、千冬姉にも困ったもんだよな」

 

 

その問題の「男の子」・・・織斑一夏は、千冬の対応に不満げな顔をしてホテルから離れている所だった。

厳重な警備が敷かれているそこを代表の身内ということで通してもらい(それだけでもかなり時間がかかったが)、千冬に着替えやら何やらを詰めた鞄を持って行ったばかりである。

ホテルの門を出る途中、何人かの警備員に会釈しながら・・・一夏は、帰路についていた。

 

 

「せっかく荷物持ってったのに、『子供がこんな時間にウロウロするんじゃない』とか言ってさ」

 

 

もちろん、それが自分を心配してのことだとはわかっている。

さらに言えば、千冬は一夏にIS操縦者としての自分には関わってほしくないのである。

と言うよりも、ISそのものに。

 

 

流石に自分の姉が日本代表という所までを隠すことは不可能だが、千冬は一夏に自分の試合などを見せない。

まぁ、それに関しては一夏は千冬に黙ってネット動画などで姉の勇姿を見ているわけだが。

ある意味で、病的とも言える域で千冬は一夏をISに近づけさせないのである。

まるで、関われば何かが終わってしまうようなレベルで・・・。

 

 

「生活費とかも、全部千冬姉に頼りきりだし・・・」

 

 

千冬と一夏の生活水準は、日本人の平均よりも「やや良い」レベルである。

しかしそのための資金の9割以上は、千冬が出していた。

一夏も中学生ながらアルバイトなどをしているが、千冬の稼ぎには到底叶わない。

むしろ、「好きな女にプレゼントの一つでもしてやれ」と一夏のアルバイト代を受け取らない。

 

 

全部、たった1人の弟のために。

それが厳しくも優しい、一夏の姉の愛情だった。

だが一夏も、たった1人の姉のために何かしたいと想うのだった。

今の所は、家を空けることの多い姉の代わりに家事を行うくらいのことしかできないが・・・。

 

 

「うわ、人多いな・・・」

 

 

マスメディアやファン、あるいは反IS団体のデモまで含めて、ホテルの周囲には無数の人間がいた。

その中を突っ切って最寄りの駅まで行くのは困難なので、一夏は少し人気の少ない裏道を通ることにした。

そこは照明が少なく狭い道だが、人通りが少なく歩く分には楽である。

5分ほど歩けば、再び大きな道に出て最寄りの駅も目の前・・・。

 

 

「・・・っと、あっぶねっ」

 

 

路地から大通りに抜ける際、一夏の前を黒塗りのワンボックスカーが走り抜けた。

ひやっとするような、事故寸前の経験である。

ここまでなら、誰にでもある経験だったろうが・・・。

 

 

「・・・お?」

 

 

通り過ぎたはずのその車が、急速にバックで戻ってきたのである。

事故るぞ・・・と他人事のように一夏が考えていたのも束の間。

目前に戻って来たワンボックスカーのスライドドアが開き、中から手が―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

<勝者、織斑千冬!>

 

 

音声と同時にアリーナのモニターにその文字が表示されると、観客席からは割れんばかりの大歓声が響き渡った。

それもそのはずで、ここは千冬のホーム・グラウンドである。

ブラジルの代表を倒したこの試合は、格闘部門準決勝・・・すなわち次で、決勝戦だ。

 

 

前回覇者である千冬の2連覇への期待は高く、IS政策で米国に従属せざるを得なかった日本側の不満も、そこに上乗せされていると見るべきである。

最も、千冬自身はそんなことは全く気にしていないが。

 

 

<勝者、ジーナ・ワトソン!>

 

 

そしてモニターに別のアリーナで行われたもう1つの準決勝の結果が表示され、別の意味で歓声が上がる。

しかし千冬自身は、そこにジーナの映像が流れるよりも先に背を向けていた。

興味が無いのか、それとも結果がわかりきっていたからかはわからないが・・・。

とにかく、千冬は一足先にピットに戻ったのである。

 

 

「む・・・」

 

 

その時、千冬のIS・・・『暮桜(くれざくら)』に秘匿通信でメッセージが入った。

差出人のアドレスは「ドイツ連邦軍」、だが文面は何故か英語だ。

おまけに文面にやたらとウサギマークが出ているあたり、とても軍関係者が出す物とは思えない。

 

 

しかしその内容は、千冬にとって無視できる物ではなかった。

曰く、「織斑一夏がある組織に誘拐された」――――。

メッセージには、幽閉場所まで克明に描かれた地図まで添付されている。

 

 

「・・・S、T・・・?」

 

 

差出人を表す頭文字に、千冬は眉をしかめる。

この頭文字は、嫌が応にもある人物を連想させざるを得ない。

最近、妹と共に姿を眩ませたかつての親友を・・・。

そしてその人物が、わざわざ「ドイツ軍」のアドレスを使ってきたあたり、裏側の事情が透けて見えるような気分だった。

 

 

だがそれ以上に、この情報を信じるかどうか。

信頼性は、どれほどあるのか。

格闘部門の決勝戦は、この後にあるのである。

だが、それは。

 

 

「・・・あ、織斑代表。試合の時間ですが・・・」

 

 

その時、運営側の人間がピットの中に入ってきた。

運営スタッフは何か問題があるとも思わず、そのまま説明に入ろうとして。

 

 

 

「棄権する」

 

 

 

千冬の、その宣言に出迎えられたのである。

一瞬、何を言われたかわからず・・・スタッフの女性が、ポカンとした表情を浮かべた。

そしてその脇を千冬が通り過ぎて初めて、我に返ったのである。

 

 

「え・・・ちょ、お、織斑代表―――――ッ!?」

 

 

千冬はその声を振り切るように、駆け出した。

途中で何人かのスタッフや選手とすれ違うが、怪訝そうな顔をする彼女らに一瞥もくれずに駆ける。

そして・・・千冬は。

 

 

モンド・グロッソ2連覇という偉業を、あっさりと捨てたのである。

たった1人の、弟のために。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

ついに、この時が来たな―――――ジーナは、アリーナのピットで腕を組んでほくそ笑んでいた。

格闘部門決勝、その対戦カードは第1回大会と同じである。

すなわち、織斑千冬とジーナ・ワトソン。

 

 

思えばこの数年、ジーナはこの時のために研鑽を続けてきたのである。

千冬を破り、格闘部門の『ヴァルキリー』の称号を正式に手に入れる。

それができて初めて、ジーナは自分のプライドを取り戻すことが出来るのである。

 

 

「各部最終チェック、完了しました!」

「エネルギー循環率正常、いつでも行けます!」

「良し、行くぜ!!」

 

 

自分の周囲で機体の調整を行っていたメンバーと気合いを入れて、ジーナは自分の機体との一体感を確かめる。

思えば、このスタッフ達との付き合いも長い。

共に厳しい訓練を経験し、自分の要求にも徹夜で応えてくれる大切な仲間だ。

 

 

すでに女尊男卑の風潮が流れている世の中でも、ISの開発チームに関してはその限りでは無い。

男も女も関係なく、国内最高峰の技術者(プロフェッショナル)が集まっているのである。

ジーナにとって・・・いや、全てのIS操縦者にとって、第2の家族とも言える間柄だった。

 

 

「ジーナさん、頑張ってください!」

「俺らに『ヴァルキリー』のトロフィー、見せてくださいよ!」

「ジーナさんなら、やれます!」

「お前ら・・・」

 

 

温かく送り出してくれるメンバーに、ジーナは涙腺が緩むのを感じた。

しかしそれはまだ早い、そう自分に言い聞かせる。

そう、千冬を倒した時にこそ、皆で分かち合うべき物だと思うからだ。

 

 

そして、チームのテンションが最高潮に達した時。

大会の運営スタッフが、息せき切ってピットに駆け込んできたのである。

その口から、とんでもない宣告が・・・。

 

 

「・・・・・・あんのヤロおおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!」

 

 

そしてジーナは、別の意味で日本人が嫌いになった。

その後もジーナが千冬との交友を続けたのは、一応、後ほど聞いた千冬の棄権理由に理解を示したからであった。

・・・納得したかは、また別の話であるが。

 

 

ちなみに彼女は、千冬が現役引退を発表した際に最も衝撃を受けた1人である。

それは思わず、自分も一旦は引退してしまう程に・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

ジーナを含むモンド・グロッソ関係者が、世界の政府・軍・企業関係者が「織斑千冬、棄権」の報に驚愕している最中(さなか)、実はすでに千冬は弟を誘拐したグループを壊滅させていた。

アリーナから数キロ離れた港の倉庫街、そこが現場である。

 

 

弟が囚われている倉庫の周囲には、第1世代ながらISも存在した。

それは明らかに非正規の集団だったが、千冬は細かい点を全て無視した。

確認したことはただ一つ、「私の弟に危害を加えたかどうか」。

 

 

「『亡国機業(ファントム・タスク)』・・・か、興味は無いな」

 

 

ゴリッ・・・と、今まさに自分が倒したIS操縦者の頭を踏んで地面に擦りつけながら、千冬はそう言った。

屋根を吹き飛ばされた倉庫の中は、無数の人間と破壊された重火器が散乱している。

それは全て同一の組織の構成員であり、その存在も目的も何となく千冬は理解していた。

しかしそれも、この時点の千冬の興味を引くものではなかった。

 

 

「私の弟は、どこにいる?」

「・・・・・・」

「・・・答えないか、ならば殺したか。では復讐する、まず右腕からだ」

 

 

そこからはしばらく、聞くに堪えない女の悲鳴が響く。

1人の悲鳴が絶えれば、2人3人と別の声が続く。

それはまるで容赦が無く、紅桜色の機体が異なる朱色に染まるまで続いた。

 

 

そして千冬が弟・・・一夏の居場所を聞いた時には、無事に立っている人間は千冬のみとなっていた。

千冬はそれに対して何も思わない、身内に手を出した人間に躊躇無く制裁を加えるという点において、千冬は親友と大差が無かった。

 

 

「第7倉庫・・・か、待っていろよ一夏」

 

 

この後、千冬は無事に弟を救出することになる。

そして一夏の誘拐を知らせてきた「ドイツ軍」に対し、「借りを返す」との名目で1年の間関わることになる。

その際、ウルスラ・ルーデルらの協力で「裏の事情」―――亡国械業と国家の関係など―――を知ることになるが、それはまた別の話。

 

 

そしてそれが、3年後に始まる物語の全ての始まり(プロローグ)となる。

しかし、この時点では・・・。

まだ誰も3年後に始まる物語の悲劇的な結末を、知らなかった。

 

 

 

 

 

―――――まだ、誰も。

 




モンド・グロッソ関係のオリキャラ情報:

ジーナ・ワトソン(提案者・楽毅様)
金髪碧眼、長身の美女。国籍はアメリカ。
第1回、第2回のモンド・グロッソに参加した「第1世代」の操縦者。
強みは格闘、格闘部門で世界レベルに名を連ねている。


ウルスラ・ルーデル(提案者・伸様)・・・初登場。
ブロンドショートのゲルマン美人、鍛えているがスマートな体型。
ドイツ連邦軍所属のストイックなタイプの軍人、「第1世代」操縦者の中では最年長の部類に入る。特技は射撃(というか、砲撃?)。


アデリタ・ポルティージョ・ラザロ(提案者・FULCRUM様)
モデル並の長身と片目を覆う前髪が特徴、スタイル抜群のスペインの代表。第2回モンド・グロッソの正式『ヴァルキリー』。
何でも、婚約者がいるらしい(本編では結婚済み)。


アイシャ・ブライト(提案者・グニル様)
新進気鋭のオーストラリア代表、快活で明るい美人。
正面からの戦いを良しとし、実力と自信の伴った「第2世代」のIS操縦者。何だか憎めない性格。


レディア・アルミス(提案者・スコーピオン様)
やや灰色がかった白い髪と琥珀色の瞳が特徴的な女性、イタリア代表にして『テンペスタ』シリーズのテストパイロット。特技は爆破、少しおっちょこちょいな所もあるが仕事は出来る方。

以上が、今回登場のモンド・グロッソ関係オリキャラになります。
すでに本編に登場している方もそうでない方も、提案者の方々には改めて御礼を申し上げます。

次回からは本編に戻り、いよいよクライマックスに入ります。
束さんの目的、楓の願い、箒さんの愛情・・・いろいろな予測も感想欄で囁かれている中、ここから後半戦です。

最後までお付き合い頂けるよう、努力を続けて参ります。
では、また次回をよろしくお願いいたします。
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