インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第52話:「その時間、限りアリ」

Side 更識 簪

 

・・・お正月の篠ノ之博士の電波ジャックから、1週間が過ぎた。

あっけない程に、そして当たり前のように過ぎた時間。

だけどその時間の中で、世界は大混乱に陥った。

 

 

世界中の軍事基地やIS企業の製造工場が、多数の無人機に襲撃され始めた。

決まった場所に立地した工場や基地から、航行中の船舶や移動中の物資まで無差別に。

襲われた中国の工場の人が、テレビのインタビューで「蝗害よりタチが悪い」って証言する程に。

何よりデータを破壊(クラック)されたIS企業は復旧に四苦八苦してる、この1週間で世界中のIS関連企業46社が破産申請をそれぞれの政府に出した。

 

 

「どりゃあああああっ!」

「ほいほ~い、脇が甘~いよ~」

「はべっ!?」

 

 

各国の軍部や情報(インテリジェンス)機関は、襲撃してくる無人機の拠点を血眼になって探してる。

だけど見つからない、いつどこから襲ってくるかわからない無人機に怯えるしかない。

昨日は、ポルトガル領アゾレス諸島に駐留してるアメリカ航空部隊が被害を受けたって聞く。

 

 

しかもその無人機は、下手な代表や専用機よりも強い・・・。

脳裏に甦るのは、IS学園で何度か見た無人機の姿。

死人が出て無いのが奇跡、たぶんワザとやってるんだと思う。

 

 

「まぁだまだあああああああああぁっ!」

「はらよ~い~」

「ぷべらっ!?」

 

 

・・・ちなみに今、私は楓達を匿ってる屋敷の道場にいる。

道着を着て、冷たい井戸水で濡らした濡れタオルで顔を拭いながら・・・本音にポンポン投げられてる織斑くんを見つめてる。

何で、織斑くんが更識の道場で本音に組み手・・・組み手? をして貰ってるかと言うと。

 

 

『お願いします! 俺を強くしてください!!』

 

 

・・・って、6日前、つまりあの電波ジャックの翌日に織斑くんが楯無姉さんに「鍛えてくれ」って頼み込んだから。

姉さんは忙しいから毎日は無理だけど・・・その代わり、本音が面倒を見ることになった。

織斑くんはISを取り上げられてるから、生身での訓練が中心になるけど。

報酬は、虚さんの特製ケーキ5ホール。

 

 

報酬は、どうかと思うけど・・・でも、本音は布仏流古武術の免許皆伝。

普通に戦ったら、実は私より強くて・・・意外と、肉体派。

・・・・・・だから、あんなスタイル良いのかな。

 

 

「・・・簪?」

 

 

急に声をかけられて、びくってする。

慌てて振り向くと、そこには私と同じように道着を着て濡れタオルを持った箒さんがいた。

不思議そうな顔で、私を見てて・・・は、恥ずかしい・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

こうして道場で剣を振っていると、子供の頃を思い出すな。

昔は父に稽古をつけて貰って、母に濡れタオルで顔を拭いて貰って・・・そんな生活が当たり前だった。

だが、父は・・・篠ノ之 柳韻の名が、機業のデータベースに載っていた。

 

 

会いたい、父に・・・そして母に。

だが日本政府の重要人物保護プログラムで別れて3年、連絡も取れない状況が続いている。

楯無先輩達にも、どうなっているのかわからないとなると・・・お手上げだ。

返す返すも日本政府が憎くて仕方が無い、事無かれ主義の腰抜け共め。

 

 

「それにしても凄いな、簪は」

「・・・そ、そうですか・・・?」

「ああ、これでも全国優勝経験者なんだが・・・」

 

 

つい先程まで、一夏が本音に投げられている横で簪と打ち合っていた。

簪は基礎が出来ているし、何より純粋に強かった。

流石は候補生、訓練で剣道でもやっていたのだろうか?

 

 

「立道が・・・剣道、やってるから。訓練生時代に少し・・・」

「ああ・・・そう言えばそうだったか」

 

 

幽霊部員状態だったからな、私は・・・立道はそう言えば剣道部でもあった。

しかし、立道か。

・・・どこかで、聞いたような気もするな。

もしかしたら、子供の頃に試合をしたことがあったのかもしれない。

 

 

「・・・でも、何で急に剣道を・・・?」

「ん・・・いや、ここの所、鍛錬が途絶えていたから勘を取り戻したくてな。悪かったな、付き合わせてしまって」

「い、いえ・・・大丈夫です・・・」

 

 

・・・まぁ、剣道に打ち込むことで少し考えをまとめたかったのかもしれない。

この1週間・・・と言うより、1ヵ月、いろいろあり過ぎたからな。

両親のこと、ISのこと、楓のこと、機業のこと、そして・・・・・・あの人のこと。

 

 

「おりむーはさ~、真っ直ぐ過ぎるんだよ~」

「う、うおぉ・・・っと見せかけて、うらああああぁっ!!」

「―――布仏流古武術・双掌螺旋撃―――」

 

 

・・・何か、本音が物凄くえげつなそうな技を一夏にかけているのだが。

一夏が顎を上に上げて吹っ飛んだ後、道場の床にドシャッと落ちているのだが。

アレは、大丈夫なんだろうか・・・?

 

 

「大丈夫・・・本音、握力弱いから・・・」

「いや、それはこの際関係あるのか?」

 

 

いや、だが気分転換にはなった。

ここの所、どうも慣れないことばかりで気が滅入っていたからな。

こう言う道場での鍛錬の空気は、私にとっては非常に肌に馴染む。

これで道場の入り口から楓が覗き込んでいたら、完璧に篠ノ之神社の・・・。

 

 

「・・・・・・楓?」

 

 

そんな風に考えて道場の入り口を見てみれば、本当に楓が立っていた。

何と言うか、道場の引き戸の陰に隠れて顔だけ覗かせている妹がいた。

何だ、いるのなら入ってくれば良いのに・・・。

 

 

と、声をかけようとしたら、私の視線に気付いて慌てて顔を引っ込めた。

・・・何だ?

何となく気になって、私は簪に声をかけてから楓を追いかけた。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

・・・何かもう、嫌だ。

何が嫌って、成長の無い自分が嫌だ。

だって、せっかくこうして身体が丈夫になったのに・・・子供の頃と変化が無いんだもん。

 

 

道場で練習する人達を、こっそりと眺めることしかできない。

昔に比べれば、ずっと動けるようになったのに。

箒姉さんみたいになりたいって、思っていたはずなのに。

 

 

「楓?」

 

 

道場の戸の所でウロウロしてたら、中から箒姉さんが出て来た。

不思議な物を見るような目で、私のことを見てる。

道着姿が、何だか子供の頃の箒姉さんにカブって見えた。

 

 

「どうした? 元気が・・・無いのは、まぁ、仕方無いが」

「う、うん・・・」

 

 

そして束お姉ちゃんの電波ジャックの一件以降、私と箒姉さんはこんな感じ。

何と言うか、微妙。

別に喧嘩とかじゃなくて、こう、お互いに肩身が狭いと言うか。

まぁ、流石に気にするわけで・・・。

 

 

「えと、コレ・・・『紅椿(あかつばき)』」

「ああ、ありがとう」

 

 

それでも、お互いにできることをしようってことになって。

私は、『紅椿(あかつばき)』の整備とか。

箒姉さんは、やっぱり剣道とか鍛錬の人。

真っ直ぐで、ブレない人・・・私の、憧れ。

箒姉さんに待機状態の『紅椿(あかつばき)』を渡しながら、改めてそう思う。

 

 

「・・・楓」

「な、何?」

「お前が、お前が・・・あの人のことを尊敬していることは、知ってる。理解もするつもりだ」

「・・・・・・」

 

 

・・・うん、やっぱり私、束お姉ちゃんが好きだよ。

だって、あんなに優しくて凄い人なんだもん。

あんな人が私のお姉ちゃんで、本当に良かったと思ってる。

 

 

「だが、今あの人が混乱の元凶になっているのなら・・・私達が、私達で止めなくてはならない。それも、わかるな?」

「・・・・・・うん」

「・・・良い子だ」

 

 

箒姉さんに優しく頭を撫でて貰えて、少しだけ嬉しくなる。

でも、何だろう・・・それとは別の感情が、私の胸の内に広がってくる。

そしてそれが、また私を苛立たせる。

それは・・・。

 

 

―――――こんな汚ない世界のために、束お姉ちゃんの夢を奪うの?

 

 

そう考えると、束お姉ちゃんを止めるために頑張ってる会長さんとか・・・一夏さんや、箒姉さんにまで苛立ってくる自分がいる。

でも、どうしても北極海での光景が忘れられない・・・ISで人を殺した人達のことが、忘れられない。

束お姉ちゃんが今やってることは、たしかに悪い事なのかもしれない。

だけどそれを否定して、今の世界を保つ意味がどこにあるのかわからない。

 

 

「・・・くしゅっ」

「む・・・風邪か?」

「う、ううん。大丈夫・・・」

 

 

急にクシャミが出て、箒姉さんが心配そうな顔をする。

でも束お姉ちゃんの所に行ってから、病気なんてほとんどしたことなかったし。

私、元気になったんだよ。

 

 

だけど、元気になったのに。

身体が元気になっても、私にできることは本当に少なくて。

ああ、進歩が無いな・・・私は。

 

 

 

 

 

Side 布仏 虚

 

楯無お嬢様の意思に従って、更識本家と更識家に縁のある多くの家々や組織が動いている。

それは世界規模のネットワーク、だからどこで何が起こっても即座に情報を得ることができる。

だけど、それは言ってしまえば後手に回っていることの証左でもあるわ。

 

 

「最悪ね・・・」

 

 

世界各国の諜報機関―――CIAや豪州保安情報機構、ロシア対外情報庁やMI6など―――の縁者・協力者から寄せられる情報を統合し、現在の状況をリアルタイムで観察することが出来る。

屋敷の地下に設けられた更識家の情報統括スペースには、床の低い位置に大きく浮かび上がる立体映像の世界地図が映しだされている。

 

 

そこには公式・非公式に得た情報、各国軍の状況や経済的な物資輸送状況などがそれぞれの色のラインで表示されているのだけど。

今、重要視されているのは赤色のライン。つまり、「無人機に襲撃されたポイント」。

最悪と言ったのは、今回襲われた中国のある施設。

 

 

「レアアースの精錬施設・・・」

「場所は江西省南部、中国政府はジスプロシウムなどの生産活動を一時停止すると発表しました」

「・・・せざるを得ないでしょうね」

 

 

オペレーターの言葉に、溜息を吐く。

・・・ジスプロシウムと言うのは、簡単に言うと貴重な鉱石。

世界的に産出量が稀少で、中国の限られた地域でしか採掘されない。

ハイテク製品の添加剤として使用されていて、その中にはISも含まれる。

つまりここのレアアースの供給が止まると、ISの開発はもちろん世界経済に大きな打撃が・・・。

 

 

「・・・酷いわね」

 

 

中国の全地球測位システム「北斗」から送られてきた現地の映像(非公式)を見て、頭を抱える。

日米の準天頂衛星網からも、同時に同じような映像が送られてくる。

これで、ほぼ確定。

 

 

そこには切り立った山々を削って築いた100以上の企業の採掘施設が崩壊し、近隣の精錬工場までもが破壊されている映像が出ていたわ。

壊れた重機と崩れた鉱山が、そのまま野ざらしになっている。

幸い死者はいないらしいけれど、これでは採掘・精錬の再開までどれだけかかるか・・・。

 

 

「次の情報、入りました」

 

 

別のオペレーターの言葉と共に、床上の世界地図に新しい赤い光が灯る。

これで34件目、今度は・・・インド洋?

 

 

「セーシェルの中国海軍拠点です。ヘリポート及びⅡ-76MD輸送機2機が完全破壊、死者0」

 

 

アフリカ東部ソマリアの海賊対策は、もう10年単位で続いている国際社会の課題。

その取り締まりのために、日欧米は近隣のジブチなどに海外拠点を置いた。

それに対抗して、中国もインド洋に浮かぶセーシェルに自国の拠点を置いたのが数年前。

だけどそれは今日、失われた・・・。

 

 

「・・・規模は?」

「無人機「ゴーレムⅢ」4機の模様、現地の駐留部隊の映像にそれらしき物が映っていました」

 

 

やはり、無人機。

無人機はどこから来るのかわからない、衛星で追おうとしても衛星のデータが改竄されてどうにもならない。

各国がIS部隊を向かわせても、後手に回るからどうしても対処が遅い。

勝てない、この勝負は明らかに勝てない戦い。

 

 

だけど、どうしようも無い。

これはあの天才による「制裁」なのだから、相手が飽きるかこちらが反省の意を示すまで続くでしょう。

元凶を、絶たない限りは・・・楯無お嬢様が、それを見出してくれるまでは。

 

 

「・・・次の情報、入りました!」

 

 

それまでは、ひたすらに耐え続けるしかない。

だけど、いつまで耐えられるか・・・いつ、耐えかねるのか。

歯を食い縛りながら、私は胸の内から沸き起こる恐怖に耐えた。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

・・・欧州各地で猛威を振るう無人機の脅威に対処するための欧州連合臨時首脳会議は、深夜1時を過ぎても未だ続いておりますわ。

新年7日目、未だかつてここまで緊迫した新年を迎えた経験はありません。

 

 

ベルギー・ブリュッセルの冬・・・幼い頃、母に連れられて財界のパーティーに来たことがあります。

あの頃は、まだ私は何の力も持っていませんでした。

しかし今は、オルコット家の当主であると同時に英国代表候補生です。

それだけの力を得てもなお、それ以上の力には抗うことが出来ないと言うのは・・・。

 

 

「・・・屈辱、ですわね」

「何がだ?」

「ひゃ・・・っと、ラウラさん? ラウラさんではありませんこと?」

「ああ、久しぶりだな」

 

 

ブリュッセルのウロップ地区に存在する複合ビル、そこで今も行われている欧州連合首脳会議―――私が低空の位置で警備任務を行っておりますと、偶然にも見知った顔に出会いましたわ。

赤いラインの入った黒の機体、『シュヴァルツェア・レーゲン』。

すなわちドイツの代表候補生、ラウラさんですわ。

今が任務中で無ければ、再会を喜び合う所なのですけれど。

 

 

「申告する。欧州理事会議長並びに欧州連合外務・安全保障政策上級代表の連名での要請に基づき、欧州連合戦闘群イギリス戦闘群は、警備範囲をレオポルド公園上空に変更する」

「確かに、受領致しましたわ。ここの警備はどうなりますの?」

「我々ドイツ軍とルーマニア軍で引き継ぐ。公園には反戦・反IS団体200人が抗議の座り込みを続けていると言う情報がある、治安部隊との衝突も想定して動いて貰いたい」

「了解、ただちに現地に向かいますわ」

 

 

・・・本来なら通信で済む連絡を口頭で行うのは、通信の確度に不安があるからですわね。

こうなると、非常に原始的に成らざるを得ないのですわね。

ISのハイパー・センサーを頼りに周囲を見渡せば、確かに私以外のティアーズ型の2機が移動を開始しておりましたわ。

私も、すぐに移動しなくてはなりませんわね。

 

 

「・・・それでは」

「ああ、気を付けてな」

「お互いに・・・」

 

 

本当はもう少し会話したいのですが、そうもいきません。

私とラウラさんは視線を交わして互いの息災を祈り、別れます。

聞く所によれば、ドイツも英国と同じように無人機の被害を受けているとか・・・。

 

 

「・・・どう言うつもりなのでしょうね、本当に」

 

 

イギリス・レイクンヒース空軍基地、フランス・第105エヴルー=フォヴィル空軍基地、ドイツ・ランツベルク=レヒ空軍基地、イタリア・アウグスタ海軍基地、スペイン・ロタ海軍基地・・・全て、この1週間で無人機の襲撃を受けた軍施設です。

この他にも、域内外を問わず欧州連合諸国のIS関連企業の工場や鉱山を無差別に。

それはもはや、欧州経済が傾きかける程の勢いで・・・。

 

 

そしてその全てが、壊滅的なまでのダメージを与えられています。

正直、何の意味があるのかわかりませんわ。

こんなことをして、いったい何の・・・。

 

 

「・・・楓さんや箒さんなら、少しはわかるのでしょうか」

 

 

チェルシーを通じて、オルコットのツテで入ってくる情報によれば、あの2人と一夏さんは今・・・。

・・・しかし、今はどうにもできませんわね。

祈ることだけ、ですわ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

束お姉ちゃんのやってることは、私が思ってる通りなら「仕返し」とか「お仕置き」の部類に入るんだと思う。

ただ私が考えているよりは優しい方、だって無人機で施設を壊してるだけだし・・・。

束お姉ちゃんが本気になったら、もっと凄いことになると思う。

 

 

例えばロンドンの金融市場に介入して、データ上で滅茶苦茶な投機をしたりとか。

東京の鉄道運行システムに介入して、交通網を麻痺させたりとか。

とにかく、「殺さない」と言う条件下で相手を完膚無きにまでに叩き潰そうとするはず。

・・・核ミサイルって、今ネットワークから切り離されてるのかな。

 

 

「・・・くしゅっ」

「・・・楓、大丈夫・・・?」

「風邪~?」

「う、うん、へーきへーき・・・」

 

 

午後、お屋敷の離れにあるIS整備用の工房で、簪ちゃんと本音ちゃんと一緒に『打鉄弐式(うちがねにしき)』の調整をしてる。

何だか、この機体に触るのが凄く久しぶりな気がする。

IS学園にいた頃は、毎日のように触ってたんだけどね。

毎日、楽しかった。

 

 

「・・・」

 

 

・・・だけど、今はあまり楽しく無い。

だって、ISコアが人体に悪影響を与えるかもしれないって知った後じゃ・・・。

何と言うか、惰性でやってる感じ。

こんなんじゃ、良い整備なんてできやしないってわかってるのに。

 

 

「・・・大丈夫」

「え・・・?」

 

 

簪ちゃんの声に、どきっとする。

見ると、簪ちゃんは・・・・・・どんな顔をしたら良いのかわからない、みたいな顔をしてた。

あえて言うなら、気遣わしげと言うか。

 

 

「え、と・・・二次以降(セカンド・シフト)しなければ、大丈夫・・・コアが一定程度の経験値を得ない限りは、たぶん・・・」

 

 

・・・スコールさんも、そんなようなことを言ってたような気がする。

三次移行(サード・シフト)までが、ギリギリのラインだって。

でも、そんなの実際にどうかはわからない。

調べようにも、コアにはブラックボックスが多過ぎて・・・それに。

 

 

「・・・じゃあ、もう二次移行(セカンド・シフト)してる一夏さんは、危ないの?」

「う、えと・・・」

「大丈夫だよ、お嬢様がIS取り上げてるから~」

 

 

距離を離せば、ある程度は緩和できるってことなのかな・・・?

良く、わからない。

ISのことについて、私も知らないことが多過ぎるよ。

『黒叡(こくえい)』のことだって、私が知らないデータやシステムが・・・。

 

 

―――――こほっ。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

お昼ご飯の頃から、気になってはいたんだけど・・・。

・・・やっぱり楓、風邪でも引いたんじゃ・・・無い、かな。

くしゃみが、咳に変わり始めたから。

 

 

「だ、大丈夫・・・?」

「う、うん・・・へーき、だいじょぶ」

 

 

楓は私達に心配させないように笑うけど、どことなく顔色が悪い。

具合、悪いのかな。

そう言えば、子供の頃は凄く身体が弱かったって言ってた。

ずっと、寝たきりだったって・・・。

 

 

・・・それに、体調が悪くならない理由が、無い。

お姉さんのこととかもそうだし、ISのこと、学園のこと。

機業のこと、他にもいろいろ・・・楓にとって、負担が大き過ぎることが、たくさんあったから。

私だったら、とっくに卒倒してるし、それに・・・。

 

 

「楓・・・ちゃんと、寝てる・・・?」

「・・・うん、寝れてるよ」

 

 

にこっと笑って、楓が答える。

・・・嘘だ。

今の、私でも嘘だってわかる。

そう・・・そうだよね、そんな、のんびり寝れるわけ無いよね。

 

 

私、気付かなかった・・・お友達なのに。

ちゃんと、見てないといけないのに。

せっかく、一緒にいるんだから。

 

 

「ほんとに、大丈夫だから・・・うん、何だか久しぶりだよこの感じ」

「・・・それって、やっぱり具合悪いってことなんじゃ」

「だいじょぶだいじょぶ、昔より大したことないし」

「うぅ・・・」

 

 

ダメだよね、やっぱり・・・ちゃんと寝ないと、具合って悪くなる一方だから。

でも、どう言えば・・・寝てなさい? 寝やがれ? 寝てましょうね?

えーと、んーと・・・。

 

 

「・・・ありがと、心配してくれて」

「う、うん・・・でも、あの」

「でもね・・・・・・その、皆に気を遣われるの、ちょっと辛いから・・・」

 

 

・・・昔から、身体が弱くて・・・皆に、気を遣われて育った楓。

ちょっと・・・ほんのちょっとだけ、わかる気がする。

更識の家で、次女として・・・スペアとして、育った私だから。

だから・・・。

 

 

「か、かぇ「あいたっ!?」・・・ふぇ?」

 

 

私がモジモジしてると、本音が楓の後頭部にチョップしてた。

楓が頭を押さえて、フルフルと悶えてる。

 

 

「そう言うことは、体調良くしてから言おうね~」

 

 

そうして、本音はテキパキと工具を片付けると『打鉄弐式(うちがねにしき)』まで待機状態に戻して。

戸惑う楓を、ひょいっと背負って・・・とたとたフラフラ、歩き始めた。

 

 

「え・・・あれ? えええっ?」

「うふふふ~、1名さま、ごあんな~い~」

 

 

・・・あれ、私、置いて行かれてる?

でも、こう言う時・・・本音のことが、羨ましくなる。

迷いが無くて、自分に素直な本音が・・・。

 

 

楓、大丈夫かな。

急に体調を崩すから・・・心配。

難しい事に、ならないと良いけど~。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 束

 

「ふんふんふふーん、ふんふんふふーん♪」

 

 

同じ物を作るのって、束さんあんまり好きじゃないんだよね。

だってほら、束さん1回作ったらだいたい飽きるしさー。

楓ちゃんは良い子だから、「職人気質なんだねっ」とか言ってくれるけどー。

束さん的には、やっぱり単純に飽きてるだけだと思うんだけどね。

 

 

それでもほら、束さんでも同じものを造らないといけない時もあるからさ。

まぁ、大体データとか設計とか忘れちゃうんだけど、くーちゃんが覚えててくれるしね。

くーちゃんも、束さんの言うことを良く聞く良い子だからね。

束さんは、良い子が大好きです。

 

 

「ほんほんほほーん、ほんほんほほーん♪」

 

 

可愛い可愛い妹のためだと思えば、こう言う労苦もなんのそのってね。

うーん、束さんって良いお姉ちゃんだよねぇ。

箒ちゃん、お姉ちゃんを見直してくれてると良いなー、にゃっははは~。

 

 

「・・・束さま」

「んー?」

 

 

いくつかキーボード叩きながら、生返事。

でも束さんは天才だからね、複数のことを同時にやるなんて造作も無いよ。

と言うわけで、どうしたの、くーちゃん?

ママにおねだり? 欲しい物でもあるのかな。

 

 

「あの、「ゴーレムⅢ」の回収が終了致しました」

「え? ゴーレムちゃんって動かしてたっけ?」

「え・・・・・・あ、はい、束さまのお申しつけで、今日はインド洋と中国大陸に・・・」

「・・・ふーん?」

 

 

・・・言ったっけ、そんなこと。

束さんは他にもっと重要なことをしなくちゃいけないから、そんな細かいことはいちいち気にしないんだよね。

ほら、箒ちゃんと楓ちゃんをお迎えする準備とかさ。

 

 

「明日は、どこにしましょうか」

「んー、そーだねー。じゃあ適当に南米あたり? 明日の束さんのパワースポットがアマゾンだったような気がする」

「畏まりました」

 

 

くーちゃんは真面目だよね、束さんの言う事ちゃんと聞いてさ。

素直で可愛い娘さんで、ママは嬉しいよ。

 

 

「ところで、それは・・・?」

「ああ、これ? 楓ちゃんが帰って来た時にさ、いるでしょ?」

 

 

楓ちゃんがここを出て、そろそろ1年近いからね。

でもどうするかなぁ、くーちゃん忙しそうだしねぇ。

おねーちゃんが迎えに行ったげたら、箒ちゃんと楓ちゃん喜んでくれるかな。

 

 

「束さまは、妹想いでいらっしゃいますね」

「え、そう? そう思う?」

「はい」

「うふふふー、そりゃあね、そうだよね。だってさ、アレさー」

 

 

コンコン、と目の前の硝子の培養槽を叩いて、笑う。

いつまでたっても、妹の手が離れなくて大変だよ。

今度、ちーちゃんに愚痴聞いて貰わなくちゃ。

 

 

「だって、1年くらいしか保たないから」

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

あー・・・本当に進歩が無いや。

結局の所、私にはこれが分相応だって言われた気分。

寝室のお布団の中で、限られた空間の中で、光に憧れていることが。

・・・何か、頭が痛くなってきたし。

 

 

「・・・こほっ」

 

 

・・・まぁ、そんな後ろ向きなことを考えても仕方無いよね。

と言っても、私のモチベーションを上げられる要素が全滅してるんだけど。

・・・何で、こんなことになっちゃうんだろうね。

 

 

私はただ、学校に行って・・・姉さん達と毎日、楽しく過ごせればそれで良かったのに。

それだけのために、頑張ってたのにね。

気が付いたら、他の皆に私は嫌われてた。

・・・束お姉ちゃんも、同じ気持ちになったことがあるのかな。

 

 

「・・・こほっ」

 

 

だけど、大丈夫。

それだけ・・・それだけじゃないって、今はまだ思えるから。

簪ちゃんや、皆のおかげでそう思えるから。

 

 

だから今は、別のことを考える。

ISのこと、スコールさん達が北極海で言ってたこと、千冬姉様のこと、束お姉ちゃんがテレビで言ってたこと。

いろいろなことを、考える。

考えて、何をするか決めないといけない。

 

 

「・・・こほっ、こほっ」

 

 

一番良いのは、束お姉ちゃんに会いに行くことだって気持ちは変わらないよ。

それが一番、手っ取り早いし・・・どんな結果が、返って来るにしても。

聞かないといけないことが、たくさんあるから。

 

 

ISコアの秘密、そもそもの束お姉ちゃんの目的・・・宇宙進出に、ついて。

震える程に怖いけど、もし・・・もし、これが私にしかできないのなら。

箒姉さんと一夏さんが、束お姉ちゃんを止める側に立つのなら。

私だけが、束お姉ちゃんにちゃんとお話を聞けるはずだから。

これはきっと、私にしかできないことだよ。

 

 

「・・・こほっ、こほっ」

 

 

・・・それでも、口の中に広がる苦い味は消えない。

どうしても、私が束お姉ちゃんを止めなくちゃいけない理由が弱い。

箒姉さんや一夏さんとは、たぶん一致しない。

私の理由は、せいぜいがお友達のためとか・・・そう言うの。

 

 

でもそれ以上に、私は束お姉ちゃんが好きだから。

 

 

どうしても、優しい束お姉ちゃんの顔がチラついて消えないから。

どうしても、ISで人を殺した人達のことを忘れられないから。

だから、確固たる意思にならなくて―――。

 

 

 

―――――カフッ―――――

 

 

 

―――・・・あれ?

一瞬、咳が強くなった。

今までの咳とは、明らかに異質な・・・胸の奥から、痛みその物が込み上げてくるような。

 

 

・・・口の中、苦い。

側に置いてある水桶にかけてあった布を取って、ちょっと抵抗あるけど口の中の物を出す。

それは、大した量は無かったけれど。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

唇の濡れる感触に、言葉を失う。

お布団に身体を半分沈めたまま、身体の動きを止める。

そして私は、そのまましばらく布を染めた体液の色を見つめ続けた―――――。




篠ノ之 楓:
・・・・・・どうしよ。
いや、これ・・・いや、ヤバい・・・よね?
普通に考えてコレ、ヤバいよね。

・・・ね、寝たら治る、かな。
うん、昔から大体、寝たら治ったし・・・。
・・・うん、だいじょぶ、だいじょぶ・・・。

・・・だから、誰にも言わない。
言わなかったら、現実にはならないから。
だから、皆も内緒にしておいてください。
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