インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第55話:「その港、占拠」

Side 五反田 蘭

 

・・・何だか、最近ヤな雰囲気。

具体的なことは何も変わらないけど、でも何かが決定的にいつもと違う気がする。

今日は2月14日、本当なら一夏さんにチョコレート渡したかったのに・・・。

 

 

「外に出ちゃダメって、どう言うことー?」

「学校から言われてんだから、しょーがねーだろ」

「うっさい、バカ兄ッ」

 

 

バカ兄貴のバカなバカに、バカにすんなと答える。

生徒会長の私が学校の決定事項を守らないで、誰が守るのよ。

う~・・・でも、でもでも、一夏さーん!

IS学園休校からこっち、一夏さんはおろか箒さんや鈴さんとも連絡が取れない。

 

 

かと言って家にいても、テレビはお正月の篠ノ之博士の電波ジャックの件ばっかりだし。

特に今日が篠ノ之博士の宣告した日だから、テレビのどのチャンネルをつけても同じ話ばっかりしてる。

例えば、ニュースなんてつけても・・・。

 

 

『未明から種子島との連絡が途絶えていると言うことですが・・・対応はどうなっているのですか。これは篠ノ之博士による占拠なのでは無いですか、政府の見解を教えて頂きたい』

『・・・あー、そのぉですね。政府と致しましては情報収集に努めている所でして、明確なコメントは差し控えさせて頂きます』

『政府はIS関係の事件を「秘密保護法」に基づく特別機密として指定していますが、これは憲法における報道・・・つまり国民の知る権利を著しく害していると言わざるを得ません。首相個人の意見としてはどうでしょうか、国民はこの一件について事実を知りたがっていますよ』

『んー・・・んん、うん。えー、国民の皆様には大変な不安を与えてしまい、申し訳なく思っておりますが・・・。まぁしかし、全体的に見て情報公開の時期を検討したいと・・・』

 

 

・・・とか何とか、国会だかで延々と議論してる映像ばっかでつまんない。

しかも、結局なに言ってるかほぼわかんないし。

政治家のオッサン達って、何でもっとバシッと物を言わないのかなぁ。

 

 

携帯端末で見える投稿動画とかだと、何か海岸線の人達が撮ったって船とかがたくさん出てるけど。

大多数は軍隊の船、後、あと成田空港で全部の飛行機止まったとかSNSで見れる。

最近はこう言う媒体の方が、ニュース見るより面白いんだよね、手軽だし。

でも、これは流石にナイよねー。

 

 

「ねぇ、お兄、何か日本、世界中の国の艦隊に包囲されてるらしいよ?」

「はぁ、それ何てミリタリーゲーム?」

「だよねぇ、あり得ないよねぇ~」

「馬鹿言ってねぇで、早く皿洗いしちまおうぜ」

「だね」

 

 

カチャカチャとお皿を洗いながら、私とお兄は笑った。

あー、何か知らないけど、いつもと何も変わんない。

うーん、何とか一夏さんにチョコ渡せないかなぁ・・・。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

しかし、一般的な日本人の大多数が自覚しないままに事態は悪化の一途を辿っている。

そう思いながら日本の代表候補生、白川(しらかわ)暁陽(あさひ)は苦虫を噛み潰したような表情で、自分が今まさに哨戒活動を行っている眼下の様子を伺っていた。

 

 

セミショートの黒髪を風に流しながら、超高高度偵察機『八咫烏(やたがらす)』を用いて九州沖・種子島周辺の様子を自機で観測し、所属する航空自衛隊・新田原基地や海上自衛隊・鹿屋基地へと情報を送り続けている。

機体の両側に大きくせり出した観測機器が光を反射し、まるで翼のようにも見える。

 

 

「馬毛島の滑走路は・・・使えそうにありませんね」

 

 

種子島の西隣には、馬毛島と言う小さな島がある。

日本で二番目に大きな無人島と称された頃もあり、10年前に周辺自治体の反対を押し切って在日米軍・自衛隊共同使用の航空基地が建設された島である。

ただその島に配属されていた航空機8機は、滑走路ごと破壊されてしまっている。

濛々と煙を上げる基地施設には数機の無人機が確認でき、海岸線には一時退避する自衛隊員の姿も見える。

 

 

「屋久島は自然保護指定地なので軍事利用ができず・・・となると、鹿児島から指揮を・・・しかし、それでは遠すぎる」

 

 

ぶつぶつと呟きながら、暁陽は自分の任務で情報収集を続ける。

彼女の索敵範囲には、日米の早期警戒管制機や国際海峡である大隅海峡を通過する中露の哨戒艦艇などが確認できている。

しかし、種子島は今の所、動き気配が無い・・・。

 

 

「・・・本部報告、種子島南部は完全に占拠された模様・・・」

 

 

リアルタイムで通信を入れる暁陽の感知する映像の中には、当然、種子島宇宙センターも入っている。

暁陽のIS『八咫烏(やたがらす)』の超高感度センサー・レーダーは、遥か下方の宇宙港の現在の様子を正確に操縦者に伝えてくれる。

 

 

「犯人は、篠ノ之博士・・・いえ、篠ノ之束の模様・・・!」

 

 

確証は無いが、それ以外に候補がいない。

個人的に尊敬する相手だけに、暁陽の胸中は複雑だった。

しかし仕事は仕事、任務は任務、暁陽は哨戒活動を続ける。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

人の目が及ぶ上空・海上では、日本所属以外の艦艇・航空機・ISなどの行動は極めて制限される。

しかし海中においては、その限りでは無い。

米露中3国を筆頭に、原子力潜水艦を種子島周辺海域に派遣している。

 

 

普段であれば米軍以外は海上自衛隊・海上保安庁によって領海外に追われるが、今日に限っては日本政府の黙認の下に各国は日本の領海に艦艇を派遣しているのである。

それはもちろん、ISも含む。

 

 

「『クトゥルフ』、周辺環境掌握完了」

 

 

本来は東太平洋を管轄するアメリカ第3艦隊所属のソーニャ・ヴィーシニャ・リトヴィクも、種子島周辺の綺麗な海の中で自らのIS『クトゥルフ』を使用した哨戒活動を行っていた。

海洋調査用のフルスキン型のISは30基の水中用ビットを周辺海域に張り巡らせることで、ソーニャ自身を基点として円周上の状況を操縦者に伝える。

 

 

白い髪を装甲の隙間から海中にたゆたわせながら、ソーニャはバイザーの中で青い目を細める。

海中に響く独特の反響音を音楽として、彼女の目には立体的に全体の状況がわかる。

海中に潜む潜水艦の数、海上を進む各国の艦船がどれだけの規模でどれだけの距離にいるか、直上の空には何機の航空機やISが雲の中に潜んでいるか・・・。

 

 

「・・・掌握、種子島宇宙センターの交信途絶を衛星経由で確認しました。大崎射場及び総合司令塔を占拠された模様。さらに・・・」

 

 

そして何よりもソーニャの気を引いたのは、種子島から少し離れた位置・・・太平洋沖に出現した巨大な物体である。

もはや隠れる気配すらないそれは、10キロ四方はあるのでは無いかと思える程の巨大な楕円形のドームのような物体だった。

 

 

ISのそれとよく似た潜伏(ステルス)機能を持っているらしいそれは、海上に出している半身を周囲の環境に溶け込ましていた。

だが海中の下半分はそのままであり、溶接の継ぎ目すら見えない奇妙な壁面を晒している。

しかしどうも、わざと晒しているようにも見える。

 

 

「相手は、あの篠ノ之束・・・」

 

 

この時点でもはや、確証も無いのに相手が「完璧」な篠ノ之束だと疑う者はいなかった。

昨年、太平洋沖での敗退の記憶も新しい。

やはりソーニャも、引き続き哨戒と監視に集中することにした。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 山田 真耶

 

拝啓、田舎のお父さん、お母さん。

公務員って辛いです、公務員天国とか言われてた時代が懐かしいです。

元日本代表候補生って言う片書きが、今は物凄く面倒くさいです。

でも学園が休校中でお給料が激減しちゃった今、こう言うお仕事でも受けないと仕送りが出来ないんです。

 

 

―――真耶ちゃん、無理せんでよかよぉ~―――

―――父ちゃんが面倒みたるき、荒事せんと帰ってきんしゃい!―――

 

 

ああ、お父さんとお母さんの声が聞こえる気がします。

でもお父さんは腰痛だし、お母さんはリュウマチだから私が面倒みてあげないと。

だからどうしても、安定的なお給金が欲しいんです。

 

 

「まぁ、前線勤務じゃないし・・・良いかな」

 

 

私がいる場所は鹿児島、海上自衛隊の鹿屋基地です。

哨戒機とかヘリコプターとかの基地で、今もここから哨戒機が何機か出てる。

私の仕事は・・・と言うか、IS学園の日本人教師の仕事は各地の自衛隊拠点の防衛です。

 

 

IS学園の先生は基本的に候補生経験者、実力は折り紙つきです。

いや、私は大したこと無いんですけど。

自衛隊のIS部隊は実戦経験者が少ないので、土壇場では私達の方が強いと踏んだみたいです。

おかげで、私は学園に配備されてた『リヴァイヴ』を装備して配属されちゃった。

一応国際公務員扱いだから、形式的には日本政府が国連と委員会に申請して移動させた形だけど。

 

 

「皆、忙しそうですねー」

 

 

私の仕事は地上でほぼ立ってるだけ、「敵」・・・つまり無人機が来たら地上で迎撃するのが役目。

本格的な防衛出動は、日本代表の人達がやると思うしね。

でも日本って、防衛にISを使うためにはややこしい手続きがいるんですよねー、憲法解釈的に。

 

 

そしてそんな私の周りでは、海上自衛隊の基地要員とか航空隊員の方とかが物々しそうにしてます。

司令室の方は、もっと忙しいんだろうけど。

実際、私が身に着けてるISの通信回線は、凄い事になってる。

 

 

『種子島宇宙センターとの連絡、以前途絶。増田宇宙通信所、広田光学観測所などの周辺施設よりの信号は健在、現在、確認作業を―――』

『哨戒部隊が海上に未確認の巨大建造物または巨大潜航艦を確認、現在、米軍と情報共有作業を進めて―――』

『第72航空隊の離陸準備完了、種子島住民の避難作戦を用意。宮崎の新田原基地より第301飛行隊が到着しだい―――』

 

 

とか言う会話が、秘匿回線でバンバン流れてる。

もちろん、周波数は自衛隊専用の物だけど。

 

 

「あ・・・山田先生」

「おお~、マヤマヤだ~」

 

 

その時、見たことのある顔に会いました。

滑走路周辺の地上の警備をしていた―――つまり、ほぼ突っ立ってた―――私に、声をかけてくれたんだす。

1人は、IS学園の私のクラスの生徒です。

 

 

「わぁ、布仏さんに・・・更識さんですね? 元気そう・・・ですけど、こんな場所で再会は先生として喜べません」

「えー、何で~?」

「・・・」

 

 

私の言葉に布仏さんは首を傾げて、一方で更識・・・妹さんの方ですね、こちらはペコリと頭を下げてます。

IS学園が士官学校的な側面を持っている以上、こうなるのはある意味で必然なんですけどね。

実際、オペレーターとか整備員とかには学園の卒業生もいます。

 

 

戦場に、自分の生徒がいるんです。

これで複雑にならない先生は、たぶんいないと思います。

でも、更識さんと布仏さんはお家の事情って言うのもあるんでしょうけど・・・。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

屋久島・・・って、知ってるか?

うん、世界遺産のアレだ、屋久島杉で有名なあそこ。

いや、今俺達がいる場所。

 

 

「壮観だな・・・」

「・・・ああ」

 

 

楯無会長や簪さん、のほほんさんや虚さんと別れた俺と箒は、種子島の隣に位置する屋久島に身を潜めてる所だ。

俺達だけだと思うと不安に思うだろうけど、そこは頼りになるシャルロットが傍にいてくれてる。

さっきから時間を気にしながら、周囲をキョロキョロと見回してる。

 

 

もちろん、俺達3人は自分のISを身に着けてる。

俺は『白式(びゃくしき)』を装着するのは1ヵ月ぶりだけど、不思議と以前よりも身体に合う感覚がある。

何と言うか、一体感がより強くなったと言うか。

 

 

「でも、綺麗な場所だよね。今度は観光で来たいな・・・」

「あー、そう言えば俺も来るの初めてだ、屋久島」

 

 

シャルロットの言葉に、俺もしみじみと頷く。

初屋久島がこれって、擁護しようが無いくらいにアレだもんな。

ちなみに俺達がいるのは屋久島の東側、愛子岳って山の側の深い森の中だ。

ISのハイパーセンサーのおかげで、この距離でも向こう側の状況はわかる。

 

 

「あの人は・・・本当に、やったのか・・・?」

 

 

横で、箒が唸るように呟くのが聞こえた。

普段だったら聞こえなかったろうけど、ISが音を拾ってくれた。

・・・俺も、独り言には気を付けよう。

 

 

でも実際、物凄い騒ぎになってるな。

『白式(びゃくしき)』が拾うデータの中には、束さんが種子島宇宙センターの敷地のほとんどを占拠したらしいって物もある。

まぁ、この間の電波ジャックの宣言通りに宇宙港(正確には、射場?)が占拠されれば、そりゃあ束さんだってことになるよな。

 

 

と言うか、他にこんな大掛かりなことができそうな人がいないんだから。

これで束さんじゃ無かったら、世界中が大騒ぎだよな。

まぁ、たぶん束さんだろうけど。

 

 

「えーと・・・それで、これからどうなるんだ?」

「そうだね・・・現状では、表立って動けるのは自衛隊と米軍くらいだと思う。だから最初は、攻撃されるのを待つ・・・んだと、思うよ」

「攻撃されるのを待つって言うのも、変な話だな」

「まぁ、島の警察レベルじゃどうしようも無いと思うよ」

 

 

これで束さんが普通に警察に逮捕されたら、別の意味でびっくりするけどな。

 

 

「でも、僕達は他の国の軍隊とかとは完全別行動だから。むしろ何も起こらない方が有難いよ」

「なるほど・・・」

 

 

シャルロットの言葉に頷きながらも、俺は海の方へと視線を向けた。

ハイパーセンサーですぐ近くにも見えるそこには、たくさんの船と人がウヨウヨしていた。

ここらへんに展開してるのは、まだ自衛隊の船だけだって話だけど。

 

 

でも海の下とか雲の上とかは、凄い事になってる。

飛行機や潜水艦、もちろんIS反応の数も凄い。

こんな狭い範囲にこんなにISが集中してるだなんて・・・。

・・・これ、俺達が入れる隙間とかあんのかな?

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

証拠は何も無い、だが確証がある。

ここに、あの人がいる、と。

胸の奥がザワめいて、耳元で警鐘が鳴らされているかのような不快感を与えてくる。

 

 

あの人を前にした時の、胸がザワザワする感覚。

間違えるはずが無い、まるで今にも目の前に現れるんじゃないかと言う焦燥感。

離れたい、傍にいたくない、怖い。

そんな声が、心の中から湧き上がってくる。

 

 

「・・・」

 

 

『紅椿(あかつばき)』を通して、何キロも離れた種子島の様子を見る。

宇宙空間でも問題無く活動できるISの望遠機能だ、偵察用の機体ほどでは無いが細部まで良く見える。

いくつか塔のようにも見える射場らしき場所が見えるが、その周辺からは煙が上がっている。

それに、IS反応もポツポツとある。

これはおそらく、無人機か何かだろうか。

 

 

いずれにしても、あの無人機が存在している以上・・・そして、どうも島の一部を実際に占拠しているらしいと言う段階で。

すでに、確定だろう。

なら、楓もあそこにいるのだろうか・・・?

海の方にも何かあるらしい、そちらは何だろうか。

 

 

「・・・」

「・・・箒?」

 

 

・・・わからない、私などにはあの人の考えは読めない。

いや、少し違うかもしれない。

読みたくないんだ、私は。

あの人と思考が重なる所を、見たくないから・・・。

 

 

「おーい箒、箒ってば」

「・・・あ、ああ! 何だ?」

「いや、何か難しそうな顔してたからさ」

「そ、そうか」

 

 

いかんいかん、顔に出ていたか。

一度深呼吸でもして、気持ちを鎮めよう。

 

 

「まぁ、確かにいろいろ大変だけどさ・・・えーと、アレだ」

「何だ・・・」

「・・・何とか、なるって!」

 

 

ぐっ・・・と握り拳まで作って、一夏が私にそう言った。

その時の一夏の顔がおかしくて、私は何だか緊張していたのが馬鹿らしくなった。

何と言うか、こう言う所は本当に昔と変わらないな。

 

 

見た目は、多少男らしくなったが。

心根は変わらない、子供の頃から。

真っ直ぐで、無意識に私の心を掬い上げてくれる所が。

 

 

 

「・・・随分と、仲良さそうにしてるわねぇ」

 

 

 

その時、私でもシャルロットでも一夏でも無い声が響いた。

もちろん、楯無先輩達とも違う。

と言って、初めて聞く声でも無い。

 

 

かれこれ数ヵ月ぶりに聞く声に、私は心が揺れるのを感じた。

一夏と共に、声のした方が振り向く。

すると、そこには・・・。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

「ずぅおおおおりゃああああああああああああああっっ!!」

「おー、す・・・ずぇあっ!?」

 

 

出会い頭、一夏の顔面に渾身の一撃を叩き込んでやったわ!

それはもう、腰の捻りと言い拳の鋭角さと言い文句のつけようも無い完璧な一撃。

私の人生でも、最高の一撃だったと思うわ。

 

 

お互いISを身に着けてるわけだから、条件は一緒だし。

でも一夏は私の動きに全然ついてこれなくて、顔面にモロに入る。

もちろんエネルギーシールドで実ダメージ自体はゼロだけど、気持ちの問題。

それに勢いは殺せないから、無防備に殴られた一夏は数メートル転がった。

 

 

「・・・良し!」

「良し! じゃねーよ! 何すんだよいきなり!」

 

 

ダメージが無いから回復も早い、一夏はすぐに起き上がって文句を言ってきた。

でもおかげで屋久島の自然を破壊せずにすんだわ、ありがとう一夏。

だけどね。

 

 

「・・・ばか!!」

「お、おぅ?」

 

 

腕を組んで仁王立ち、涙目になんかなってないんだから。

 

 

「死ね! 心配した!!」

「あー・・・その、すまん」

「ふんっ!!」

 

 

頭の後ろを掻きながら謝る一夏から、ぷいっと目を逸らす。

顔なんて見てらんないわよ、バカバカしい。

それに別にアレよ、一夏なんて言うほど心配なんてしてなかったんだから。

だから、別に謝るとか、本当はいらないんだから。

 

 

「あ、あー・・・鈴、さん? その、泣かないでくれると有難いんですが・・・」

「泣いて無い」

「いや、でもお前・・・ああ、ごめんって、すみませんでした!!」

「泣いて無いって言ってんでしょ!?」

 

 

無事で良かった、会えて嬉しい、死ぬほど嬉しい。

本当に良かった、もう会えなかったらどうしようかと思った。

毎晩、あの時のことを思い出して怖かった胸に穴が開きそうだった。

 

 

もう離れたくない、強く抱き締めてほしい。

一夏が傍にいるって、もっと感じていたい。

一夏、一夏、いちかぁ・・・。

 

 

「あら・・・鈴さんに全部持って行かれてしまいましたわね」

「ふ・・・教官が見れば何と言うかな」

 

 

その時、私の後ろの林の中から残りの2人が出て来た。

そうだった、他にもいたんだった。

危うく、一夏に抱きつきそうになった。

目元を拭いながら、振り向く。

 

 

「うっさいわね、良いでしょちょっとくらい」

 

 

ちょっと照れも入って、そんなことを言う。

そしたらセシリアは微笑んで、ラウラは仏頂面のまま唇だけを歪めた。

私の横で、一夏が驚いた声を上げる。

 

 

「セシリア!? ラウラ!? な・・・何でここに!?」

「何故って・・・聞いて無いんですの?」

「我々は本作戦に欧州軍として参加している。そして私達の任務は、表向きは先行調査だ。しかし本当の任務は・・・」

「・・・私達を、中にまで連れて行くと言うことか」

 

 

箒が出て来て、私達の任務を推測する。

ふ、ふん・・・アンタも無事で良かったわよ。

抜け駆けとか、してないでしょうね?

それから・・・。

 

 

「・・・やぁ、鈴」

「ふん、声かけてくんのが遅いのよ」

「あはは、ごめんね」

 

 

シャルロットと、話す。

くっそ~、あの時はよくもやってくれたわね?

後で四川料理たらふく食べさせてやるんだから、覚悟しなさいよ。

 

 

「それで一応、確認だけど。私達は更識会長の指示の下で動いてるわ、それは本国も承認済み」

 

 

何しろ、篠ノ之博士を何とかできるのは一夏と箒しかいないって、更識会長が言いふらし回ったからね。

本陣の戦力を出来るだけ減らさずに、一夏と箒を篠ノ之博士の所まで連れてく戦力として私達が選ばれた。

経歴的に、順当な所だと思うけど。

 

 

「できれば、楓ともここで合流したかったんだけど」

「・・・」

 

 

私の言葉に、箒が暗い顔をする・・・それだけで、何となく事情はわかる。

それに事前の確認だと、楓って篠ノ之博士に連れてかれちゃってんのよね?

となると、やることが増えて面倒なんだけど。

 

 

「さて、じゃあ、とりあえず―――」

 

 

話をまとめようとした、その時。

私達の、ううん、たぶんここにいる全ての人間に聞こえるように。

全ての通信機能に、同じ声が響き渡った。

 

 

―――お集まりのお客様(ギャラリー)の皆様に、お知らせ申し上げます―――

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

『お集まりのお客様(ギャラリー)の皆様に、お知らせ申し上げます』

 

 

海上自衛隊の鹿屋航空基地にいる私達・・・ううん、たぶんこの近辺にいる全ての人間に聞こえるように、再び電波ジャックが行われた。

ISはもちろん、航空機や船舶から基地まで。

自衛隊の秘匿回線に、周波数を数秒で合わせて・・・。

 

 

『打鉄弐式(うちがねにしき)』のディスプレイには、たぶん他の人が見ているのと同じ映像が映ってる。

目を閉じて、長い銀髪を三つ編みにした女の子の顔が。

人形みたいな静かな美しさ、でもその言葉には不思議と温かみを感じる。

 

 

『本日、午前7時を持ちまして、私共は種子島宇宙センターを完全に占拠致しました。職員の方々には丁重にお休み頂いておりますので、どうかご安心ください』

「・・・安心?」

 

 

安心の意味が良く分からない・・・命は取らないってことかな。

傍の本音と山田先生に視線を向けると、2人とも自分のISの画面に見入ってて・・・。

 

 

『私共は大崎射場、総合司令塔を含む全域を掌握。これより、『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』の建造に取りかかりまして・・・午後7時をもちまして、この星を後にする予定です』

 

 

大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)・・・?

それが何かはわからないけど、画面に出たセンターのマップ・・・大崎射場の射点の一つに印が入った。

ここで建造するということ・・・。

となると、止めるには北部の射場と、南部の総合司令塔と、海上の未確認物体の三拠点を制圧する必要が・・・?

 

 

『お見送り頂く分には、私共は関知致しません・・・それでは皆様、私共の旅立ちに幸あることをお祈りください。では、失礼致します』

 

 

画面の中の女の子は、静かな口調でそう言葉を締めた。

それから、こちらの返答を一切待たずに接続が切れる。

・・・この状況からわかることは、いくつかある。

 

 

種子島宇宙センターは、たぶん死人ゼロで占拠されてること。

向こうは、こちらの動きを掴んでて・・・しかもこうして、ISに干渉できること。

それから、最後に・・・「邪魔をすれば、制裁を加える」と言外に告げてきたこと。

 

 

「・・・本音、特務機関は何か言ってる・・・?」

「ん~、上の防衛出動要請を待ってるままだね~」

「そう・・・」

「まぁ、こういう事態は想定して無かったと思いますから」

 

 

山田先生の言葉に、溜息を吐く。

日本に所属する私達は、政府が決断してくれない限り自分の判断で動けない。

専守防衛、先制攻撃はいかなる場合も認めない。

事務手続き、まだ終わらないのかな・・・それとも、政治の判断・・・?

 

 

どちらにしても、あと11時間と少ししかない。

それまでに篠ノ之博士を止めないと・・・何が起こるか、わからない。

・・・楯無姉さん。

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

悪いんだけど、篠ノ之博士を宇宙(ソラ)に上げさせるわけにはいかないのよ。

種子島の太平洋沖に現れた未確認の巨大潜航艦は、浮上と同時に近隣の施設や船舶の電子機器を一時的にダウンさせたわ。

 

 

電子的な攻撃をした痕跡は無く、暁陽(あさひ)ちゃんの『八咫烏(やたがらす)』の超高感度センサーは潜航艦の装甲自体から微弱な電磁波が放たれているのを確認したそうよ。

つまり、あの船自体が周囲に何らかの影響を与えている可能性がある。

篠ノ之博士が12時間で作ると言う『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』とやらが何かはわからないけれど、宇宙に行くと言っている以上は宇宙船のような何かでしょう。

 

 

「『八咫烏(やたがらす)』を始めとする警戒機のセンサーは、すでに建造中のその船体から・・・海上の物よりも強い電磁波のような何かを確認しています。私見ですが、打ち上げの際にかなりの広範囲に渡って電子的な影響を与える物と考えられます」

 

 

範囲はわからない、でも打ち上げの際にはたぶん地球を周回する。

衛星軌道上の各国の衛星は、たぶん助からない。

地上にも影響を与える、被害は予想ができない。

 

 

『オリジナル・コア』のことだけでも放っておけないけど、こうして具体的な脅威について説明しないと各国の政府が納得しないでしょうしね。

それは、私の目の前にいる人間も承知してくれている。

 

 

「なるほど、それは我がロシア国民にとっても脅威であるな・・・」

「人類全体の脅威ですわ、司令官閣下」

「うむ・・・」

 

 

重厚な響きを豊かな白い口髭の中から響かせながら、傷を負って一部禿げ落ちている片眉を微妙に動かして、その男性は戦闘指揮所をぐるりと見渡した。

ロシア太平洋艦隊旗艦、キーロフ級ミサイル巡洋艦「スヴェルドロフ」のCICには、軍服を着た白人の殿方達が無表情に淡々と戦術情報処理や戦術データ・リンクの作業を行っている。

 

 

その様子を満足気に見ているのは、アレクサンダル・フレザーノフ海軍大将。

ロシア太平洋艦隊の総指揮官、今は太平洋艦隊の何割かを率いて国際海峡である大隅海峡を通過しようとしている所よ。

10年前の『白騎士事件』の時には、沿海州の小艦隊を率いて織斑先生と戦った。

眉の傷は、その時に受けた戦傷らしいわ。

 

 

「しかし相手が日本の領土内にいる以上、我々が先に手を出すことはできないな・・・前回はあくまでも、攻撃に対する自衛行動であったからな」

「ええ、存じております。近く状況は動きます、必ず」

 

 

とは言っても、私は内心で凄く焦っていた。

私自身は日本では無く、今はロシア代表の権限で動いてるからフリーハンドを得れてる。

でも種子島近海に派遣されてる護衛艦隊―――第2護衛隊、第6護衛隊―――には、まったく動きが無い。

領内の施設を占拠した相手が警察力で対応できない場合、自衛隊が動かざるを得ない。

だと言うのに、未だ国会審議中・・・日本政府側の反応が無い。

 

 

うん、おねーさんドキドキ。

せっかくいろいろ手間暇かけて米州・アジアの戦力をかき集めたのに・・・使えないかもしれない。

十蔵さん、急いでくれると嬉しいです。

 

 

「日本軍(自衛隊)が攻撃を受けた時、アメリカ軍が条約に基づいて動くことができる」

 

 

日本への攻撃は、アメリカへの攻撃だとみなされる。

そしてアメリカへの攻撃は、NATOへの攻撃だとみなされる。

さらに豪州、NZ、欧州連合、ロシア、中国、東南アジアへと同盟や安保共同宣言が連鎖していく。

そうすることで、全世界の軍事力をここに投入させる。

 

 

10年前の『白騎士事件』とは、比べ物にならない戦力を揃えて。

全ては、たった1人の天才の暴挙を止めるために。

そのために更識家の総力をかけて、かき集めた―――。

 

 

―――――国連軍よ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 束

 

在日米軍第7艦隊の内、第5空母打撃群と水上戦部隊、潜水艦部隊、それと第7遠征打撃軍。

総旗艦も含めて含めて24隻、空海軍の航空機は全部ひっくるめて120機くらいかな。

それと沖縄とダーウィンの2個海兵隊遠征隊、合計4200人くらい。

 

 

空軍を出してきてるのは、アメリカ以外では日本だけ、後は船だけか。

他にもロシア太平洋艦隊、中国の東海艦隊、んー、PSIに参加してる国は大体海軍出してるね。

ヨーロッパは遠いからかな、ほとんど艦艇が見えないね。

東南アジアとか南米のもいくつか見えるけど、外洋での補給支援しかしないみたいだね。

 

 

『その他、航空・海上自衛隊が米軍の後方支援体制を整えている模様です』

「ふーん」

『海域が狭いために密集せず、それぞれ航空戦力を中心に運用する模様。こちらへ向かいつつある欧州連合の太平洋方面艦隊を含めて、合計戦力は船舶71隻、航空機520機、総兵力は10万人に達するかと思われます』

「へーぇ」

 

 

と言うような話を、くーちゃんが教えてくれた。

ただ束さんは、正直今さら軍艦がーとか、戦闘機がーとか、興味無いんだよね。

束さんは今、『大綿津見神(おおわたつみ)』の中から外の『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』の建造指示を出すのに忙しいんだよね。

 

 

ノアの方舟よろしく、壊れゆくこの惑星(ほし)から脱出するのだー、なんてね。

皆が来るまでに完成させないといけないから、束さんでも大変なんだよ。

だから外のことは、くーちゃんにお任せしとくよ。

 

 

「ISはー?」

『・・・「海宮(かいぐう)」のコア・ネットワークによりますと、アジア及び米州のISコアは、ほぼ領域内に集まっているようです。おそらく欧州機の大多数が到着していないようで・・・現在、おおよそ280機前後かと』

「280かー・・・まぁ、全部集めても420ちょっとだからねー」

 

 

ISは、ISでしか倒せない。

束さんが無人機を持ってるのはもう流石にどんなお馬鹿さんでも知ってるだろうけど、とにかく数を揃えようってことなのかな。

まぁ、ISは女の人が乗らないと力を出せないからね。

平均的な有人ISがゴーレムⅢ2機分だと仮定すると、280ってことは大体560機分ってことかな。

 

 

見てるだけならそれでも良いけど、きっと前みたいに邪魔してくるよね。

だから、『白騎士事件』の時の3倍以上の戦力を揃えたんだろうから。

でも、正直に言って。

 

 

「無駄なのにね、これだから凡人は物わかりが悪くて困るよ」

 

 

興味ないけど、束さんはそう言って手を止めた。

データ入力は終わったから、後は自動で組み上がるのを待つだけで良い。

宇宙へ上がるための、宇宙で生きるための、束さんの完璧な・・・終の棲家が。

うふふ、いっくん達だけは特別に招待したげる。

きっと、おっどろっくぞ~♪。

 

 

「さて、それじゃあ、後12時間」

 

 

ゴーレムⅢ2機で、有人IS1機に相当する性能を持つ。

となると、うん、束さんがどうするかわかるかな?

決まってるよねー、凡人の変なミスで失敗なんて、完璧な束さんがするわけにはいかないんだから。

私に憧れてくれてる可愛い妹とかもいるんだから、苦労するよ。

 

 

「くーちゃん、遊んで来て良いよ。でも、晩御飯までには帰ってきてね」

『・・・畏まりました。束さま方の旅路に、余計な雑音が入らないよう・・・』

 

 

束さんが振り向くと、巨大潜航艦の真ん中、大広間がある。

ちょっとしたドームくらいの広さがあるそこには、びっしりと同じ物が並んでる。

むふふー、と笑う束さんの目の前には。

 

 

『不肖、この「くーちゃん」めがお掃除をさせて頂きます』

 

 

銀色に輝く装甲、右手にBTレーザー砲、左手にシールド無視の展開装甲装備の近接刀。

一ツ目モノクルじゃなくて、ちゃんと光る目が2つある西洋鎧のような全身装甲。

戦乙女を超えた、戦女神(ヴァルキュリー)型(タイプ)の新型ゴーレム。

 

 

合計、3333機。

3333機の『ゴーレムⅤ』が、整然とそこに並んでる。

それを見て、束さんは・・・・・・うふふ、うふふふふふっ。

あっはははははははは!!

 

 

「さぁ・・・・・・宇宙に行こう!!」




本日のNGシーン:(Side 凰 鈴音)

「ずぅおおおおりゃああああああああああああああっっ!!」
「おー、す・・・ずぇあっ!?」

出会い頭、一夏の顔面に渾身の一撃を叩き込んでやったわ!
それはもう、腰の捻りと言い拳の鋭角さと言い文句のつけようも無い完璧な一撃。私の人生でも、最高の一撃だったと思う。

まぁISもあるし、大したダメージも無いだろうけど・・・って、あれ?

「お、おい一夏・・・一夏!?」
「え・・・嘘? あれ・・・あれぇ!?」
「い、良いパンチ・・・だったぜ・・・」

箒に抱えられたまま伸びちゃった一夏、ぐっと親指を立てて・・・。
・・・ぱたりと、気絶した。
え、ちょ、これからなのに!?

「「い、一夏ぁ―――――っ!!」」
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