Side 織斑 一夏
あれから結局、鈴とは話せないまま、クラス対抗戦の当日を迎えることになった。
俺のISの操縦技術自体は、箒とセシリアのおかげで「まぁ、形になってきたかな」程度にはなった。
授業と放課後の訓練、夜を徹しての参考書読み・・・まぁ、やれることはやった、が。
「来たわね一夏、ぶっ潰してやるわ・・・!」
超満員の第2アリーナ、第1試合は1組代表と2組代表。
つまりは俺と鈴だ、アリーナの中央まで飛んだ俺の目の前には鈴がいる。
鈴は赤みがかった黒の機体、中国第3世代型IS『甲龍(シェンロン)』を装着している。
全体的に無骨なデザインだけど、両肩の横に浮いている非固定の棘付き装甲が特徴的だ。
・・・やたらに凶悪と言う意味で。
ちなみに、鈴はかなり激怒している雰囲気だった。
と言うのも、実は一度だけ鈴と話せたんだが・・・俺が約束をちゃんと覚えていなかった(俺的には、完璧に覚えていたつもりなのに)ことについて、謝る謝らないの口喧嘩っぽくなってだな。
その・・・非常に、言ってはならないことを口走ってしまったわけで。
「私のスタイルを馬鹿にしたこと、後悔させてやるわ・・・!!」
「いや、その件に関しては本当に悪かったと思ってる」
「その件『は』? その件『も』でしょ!?」
スタイル・・・まぁ、その、鈴は同年代の女子に比べて小柄だから。
その、胸部と言うか何と言うか、とにかくそれだ。
それについては、本当に俺が悪かったって思ってる。
「今すぐ謝るなら、痛めつけるレベルを下げてあげるけど・・・?」
「雀の涙程度だろ・・・それに真剣勝負なんだ、全力で来いよ」
「わかった、殺す」
何か似たような会話をセシリアともしたけど、こう言う物なのだろうか。
いや、剣道のようにもう少し紳士的(淑女的?)でも良いはずだ。
何もIS操縦者全員が「殺してやる」みたいな目で対戦相手を見たりはしないはずだ、そう信じたい。
「言っておくけど、ISの「絶対防御」も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、相手に直接ダメージを与えられるんだから」
「・・・」
「ああ、そうそう・・・その刀、『雪片(ゆきひら)』だっけ? 記録映像(ビデオ)でアンタの試合見たわよ・・・あの金髪の子、強かったわよね」
金髪・・・セシリアか。
「言っておくけど、あの金髪の子がアンタに一太刀喰らったのはあの子が油断してたから。それとその刀の特性を知らなかったからよ・・・そのへん、勘違いしてんじゃ無いでしょーね」
「・・・わかってるよ、それくらい」
「あ、そう・・・なら」
実際、ここ最近の訓練で嫌という程わかった。
何しろ、あの後3回模擬戦やって、3回とも負けたしな、しかもボコ負け。
俺が代表候補生並だなんて・・・思っちゃいない。
俺がそう考えた時、試合開始の鐘が鳴った。
「うらぁっ!!」
女の子らしからぬ気合いの声、同時に鈴の手には刃に持ち手のついた巨大な青竜刀。
しかも両手、鈴は縦から横から斜めから、俺にそれを叩きつけて来る。
右から左から、上から下から・・・刃と言うには生温い豪の一撃が、俺を襲う。
エネルギーと金属が打ち合う音が響き、俺のISは鈴の猛攻に耐えかねてジリジリと下がる。
圧倒的な攻撃力を誇る『雪片弐型(ゆきひら・にがた)』を、攻撃に使えない。
セシリアのような正確な攻撃じゃない、けど箒のように洗練された剣でも無い。
ただ敵を叩き潰し、ねじ伏せる・・・そんな、攻撃だった。
「・・・っ!」
ヂッ・・・裁き切れなかった一撃が、ISの胸の装甲を削る。
俺はたまらず、その勢いを逆用して下がろうと・・・。
「甘いっ!!」
鈴が叫ぶと同時に、肩のアーマーがスライドして開いた。
肩の横に浮遊しているそれは、中心が光ったと思うと・・・。
見えない「何か」が、俺を殴り飛ばした。
衝撃、『白式(びゃくしき)』が警報(アラート)を鳴らす。
その衝撃の強さに、俺は成す術も無く空中から地表に叩き付けられた―――――。
Side 篠ノ之 楓
第2アリーナの、一夏さんサイドのピット・ルーム。
そこには、私と箒姉さん、オルコットさん・・・そして、千冬姉様と山田先生がいる。
私達の前には、アリーナで繰り広げられている一夏さんの試合を映しだしているディスプレイ。
一夏さんが凰さんの猛攻に耐えかねて距離を取ろうとした瞬間、「何か」に吹き飛ばされた。
一夏さんがアリーナの地表部分に小さなクレーターを作った瞬間、箒姉さんが息を飲むのが聞こえた。
「一夏・・・!」
その呟きが無意識の物であることは、わかる。
何しろ、箒姉さんの目はディスプレイから動かない。
ディスプレイの中の一夏さんが立ち上がり、再び空に上がって・・・ようやく、息を吐いた。
もしかしたら、息を止めていたのかもしれない。
「何だ、今のは・・・映像でも見えなかったぞ」
「・・・『衝撃砲』、ですわね」
「『衝撃砲』・・・」
オルコットさんの返答を口の中で繰り返した箒姉さんは、千冬姉様の背中を見つめた後、私を見た。
その視線は何かを求めるような、そんな感情を窺わせる。
・・・あ、私、説明役?
正直、虚をつかれた感があるけど・・・箒姉さんの役に立てるなら。
私は目の前の自前の空間投影型ディスプレイを止めて、新しいディスプレイを箒姉さんに見えるように展開、その下に浮かぶキーボードを叩く。
「そんな高価なディスプレイ、どこで・・・」
オルコットさんが、半ば感心、半ば呆れたように私のディスプレイを見る。
束お姉ちゃんが作ってくれました、まる。
お値段は、ちょっとわかんない。
いくらくらいするんだろ・・・興味無いから良いや。
「えー、『衝撃砲』とは、空間自体に圧力をかけ砲身を作り衝撃を砲弾として打ち出す装備。画像から、肩と腕に装備されている模様。砲弾だけではなく砲身すら目に見えないのが特徴で、砲弾の種類にはいくつかバリエーションあり。今のは・・・貫通型の方」
ディスプレイに浮かぶのは、事前に凰さんが学園側に提出したスペックデータ。
もちろん表向きの物なので数値などは控え目に書いてあるだろうし、隠し玉があるかもしれない。
オルコットさんの『ブルー・ティアーズ』にした所で、普段の試合では3割も力を出していないと思う。
何しろISは国家機密・軍事機密が満載なので・・・基本的に外部に公開がされない。
とは言え「情報公開」がどうとか「知る権利」がどうとか言う人が多いから、建前としてそれなりのデータが公開されてるわけで。
今、箒姉さんが見ているのは、そう言うデータ。
「な、なるほど・・・ところで、楓はさっきから何をしているんだ・・・?」
「今日は質問がたくさんで嬉しい、箒姉さん」
「・・・」
あ・・・黙っちゃった。
少ししょんぼりとしながら、私は作業を再開する。
空間投影型キーボードを4枚使って、中国のISのデータを集める。
・・・束お姉ちゃんのために。
一瞬、千冬姉様がこちらを見た気がするけど・・・すぐに一夏さんの試合に意識を戻す。
画面の中では、一夏さんが刀を振り上げて敵に迫っている所だった・・・。
Side 凰 鈴音
思ったよりも、よく動くじゃない。
両肩と両腕の『衝撃砲』―――中国第3世代装備『龍砲』―――の見えない砲弾を、アリーナの空間を限界まで動かすことで紙一重でかわし続ける一夏を見ながら、私はそう思う。
この『龍砲』は砲身も砲弾も見えない、だから普通は回避なんてできない。
まぁ、私が奇襲に使わずに直線的な撃ち方をしてるってのもあるんだけど。
ついでに言えば砲身斜角は、上下左右自由自在。
たぶん、ISのハイパーセンサーで空間の歪み値と大気の流れを探らせて避けてるんでしょうね。
「やるじゃん、誰に習ったの? その大規模高速回避行動」
「・・・できないと、翌日の授業に出られなかったからな!」
「ふーん」
ドンッ・・・会話の最中にも、衝撃砲を撃つ。
一夏は私から大きく距離を開けることで、それを回避する。
もちろん私は連射するから、一夏は常に私から離れて高速での回避行動を続ける。
本当に、良くやると思う。
IS稼働時間の記録を見たけど、私の3分の1以下。
と言うか、まだ1ヵ月くらいよね、ISを動かせるようになったのって。
それでこれだけ動けるんだから、もしかしたら才能があるのかもね。
・・・でも。
「はあぁっ!」
「ぐっ・・・!」
衝撃砲で回避先を誘導、そこへ一気に加速して踏み込む。
この『甲龍(シェンロン)』はパワータイプ、それでも鈍重ってわけじゃない。
接近した後、両腕の青竜刀を一夏に叩きつける。
一夏はそれを刀で受け止める、一瞬だけの拮抗。
「・・・あはっ」
「・・・!」
『龍砲』、発射♪
私が動きを止めていたから、一夏は回避行動が取れない。
だから、私の衝撃砲をモロに受けて吹き飛ぶ・・・今ので100くらいは削れたかしら?
一夏、アンタ、きっとISの才能あるよ。
でも・・・まだ、私には勝てない。
砲撃、加速、接近、斬撃、砲撃。
これを3度繰り返す、すると段々と勝負とは呼べないような状況になっていく。
「・・・強いな、鈴」
「当然・・・だって私は」
「代表候補生?」
「そゆこと♪」
4度目の砲撃――――でも、その後の一夏の反応が違った。
吹き飛ばされると体勢を整えずに、そのまま私から離れて・・・連続で加速を始めた。
スペック上の機動力は、向こうの機体の方が上。
一夏は、アリーナ外周スレスレの所から旋回を始める。
私はそれを緩やかに追いながら、アリーナの内側でクルクル回る格好になる。
言っておくけど、IS操縦者は目を回して「ぐるぐる~」なんてことにはならないから。
一夏の描く円が徐々に小さく―――つまり、段々と近付いて来る―――なっていく。
「・・・は」
何か仕掛ける? 良いわよ、一夏。
・・・迎え撃って、あげるから!
両手の青竜刀の柄を連結、一つにして頭の上で回転させる。
一夏の姿が、一瞬だけ消える。
それは、私が青竜刀を連結させた瞬間を狙った急加速。
つまり、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』!
一瞬でトップスピードに至り、奇襲する戦法・・・だけど『甲龍(シェンロン)』が教えてくれる。
・・・・・後ろぉ!
「うおおおおおっ!!」
「・・・はああぁぁっ!」
連結青竜刀『双天牙月』を振り下ろそうと背後を見ると、そこに一夏がいた。
一瞬、視線が交差した。
両手で大太刀『雪片(ゆきひら)』を持って、下段から・・・。
その時、アリーナ全体に衝撃が走った。
私と一夏が衝突したわけじゃない、私達の横を何かが通り過ぎて、地面にぶつかったのよ。
つまり、何かが空から落ちて来た。
な、何・・・アリーナの遮断シールドはどうなってんのよ・・・!?
Side 一夏
『織斑、凰! 試合は中止だ・・・退避しろ!!』
通信機越しに響く千冬姉の声、だけど俺は何が起こったのか把握できていなかった。
アリーナの中央には、鈴の衝撃砲どころじゃない威力の何かが突き刺さったんだ。
俺が作ったやつの何倍ものでかさがあるクレーター、その中央には。
<警告、アリーナ中央に熱源。所属不明のIS、標的認証(ロック)されています>
『白式(びゃくしき)』の声、同時にアリーナから爆煙が消える。
観客席から生徒が悲鳴を上げて避難するのが見える、だけどそれよりも・・・。
―――――異形が、いた。
深い灰色の機体、手が地面につくほどに異常に長い。
その両手には大砲のようなスリットが入っていて、しかも首と肩が一体化している。
そして2メートルを越える巨体は『全身装甲(フルアーマー)』、普通はシールドエネルギーがあるから全身を覆う必要は無い。
それをあえてやっている所が、余計に異形さを際立たせていた。
「一夏!」
「おわっ!?」
鈴の声を認識した瞬間、『白式(びゃくしき)』のすぐ側を赤い閃光が走った。
目の前の侵入者が放った、極太のビームだった。
それはセシリアよりも威力がある・・・何しろISバトルでビクともしないアリーナの遮断シールドをぶち抜く程の威力があるからだ。
「一夏、試合は中止よ・・・すぐにピットに戻って!」
「り、鈴・・・お前は!?」
「先生達が来るまで、時間を稼ぐわよ・・・その間に!」
じゃきんっ、とカッコ良く俺を背に青竜刀を構えながら言う鈴。
それは本当にカッコ良いと思うが・・・俺は男だ。
女を置いて逃げるとか、無理だろ!
「馬鹿! アンタの方が弱いんだから、仕方無いでしょ!?」
したら、思いっきり遠慮無く言われた。
いや、確かにさっきの試合では俺が押されまくってたわけだけどさ。
「私だって、最後まで戦り合う気は無いわよ・・・大体こんな事態、先生達がすぐに」
『織斑君? 凰さん? ちょ、逃げてくださいよ!? 今すぐ先生達が制圧に行きます!!』
山田先生の声、制圧とは穏やかじゃないな。
だけど、先生。
「・・・ぎっ!?」
「コイツ・・・!」
敵の巨体ISが、見た目よりも俊敏な動きで飛翔、こっちに突っ込んできた。
一瞬だけ組み合った鈴が、衝撃の強さに弾き飛ばされる。
おいおい・・・どんだけパワーあるんだよコイツ!?
かく言う俺も『雪片(ゆきひら)』で敵ISの拳を受け止め・・・きれない!?
ガクンッ、と視界が揺れて吹っ飛ばされる。
敵ISが両手を振り上げると、全身の銃口からビームの雨を振らせてきた。
ごめん、千冬姉、山田先生・・・逃がして、貰えそうにない!
Side 織斑 千冬
「もしもし? 織斑君、凰さん? 聞こえてますか!?」
ISのプライベート・チャネルを開いての緊急通信・・・実は声を出す必要は無いのだが、山田先生はそれを失念する程に焦っているようだ。
無理も無い、所属不明のISが乱入して来たのだから。
一旦、冷静になる必要があるだろう。
そこでコーヒーでも淹れようとしたわけだが、何故か「塩」と書かれた容器が。
・・・何故、こんな所に塩が?
「お、織斑先生、どうしましょう・・・」
「・・・やることは決まってる。中に突入してガキ共を助ける、それだけだ」
だが、それだけのことが非常に難しい。
アリーナの遮断シールドが戦争仕様(レベル・フォー)に設定されている上、会場に通じる全ての扉がロックされている。
シールド強度が上がったために、観客席の生徒の安全は保障されるが・・・中の2人は別だ。
「あのISの仕業・・・ですか?」
「おそらくな・・・政府に支援要請はしたが、間に合うまい。シールドの解除は他の先生と3年の精鋭に任せているが、何分かかるかわからん」
「そんな・・・」
このIS学園には、訓練機を含めて30機弱のISが配備されている。
教員用の専用機も存在するし、中にさえ入れれば事態を収拾できるだろう。
問題は、いつ入れるかだが・・・。
・・・私が、出るべきか・・・?
いや、だが・・・IS学園のセキュリティを突破できる程の相手が、何故アリーナに?
狙いは『白式(びゃくしき)』か『甲龍(シェンロン)』か・・・それとも、操縦者か、コアか。
「・・・織斑先生、私も出るべきでしょうか?」
「いや、必要ない」
「そうですの、承知しましたわ」
オルコットは形式だけ助力を申し出て来たが、私はそれを断る。
イギリス代表候補生であるオルコットに万が一のことがあっては困るし、連携訓練時間の不足やビットの運用方法が確立していないと言う理由もあるが・・・。
オルコット自身もそこまで強い意思表示をしたわけでは無いから、特に問題は無い。
「織斑先生、教員の皆さんのアリーナ内外への配置、完了です。でも中に入れないので・・・」
「シールドクラックの時間次第か・・・」
親指の爪を軽く噛みながら、他の対処法が無いか考える。
シールドが破れた次の瞬間には、制圧できる。
だがそれまで、一夏と凰が持ちこたえられる確証は無い。
「あ、あら? 篠ノ之さん達はどこに行ったのかしら・・・?」
「・・・?」
オルコットの声に振り向けば、確かに篠ノ之姉妹の姿が見えない。
・・・まさか、あの馬鹿共・・・!
「お、織斑先生! 見てください!」
「・・・どうしました?」
「さ、さっきまでロックされてた会場へ続く扉の一部が、開いて・・・あ、でもまたすぐにロックされてるんですけど」
「何・・・?」
山田先生の手元のディスプレイを覗けば、そこには第2アリーナの地図が。
このピットから・・・これは、中継室までの道か?
通路の一部のロックが一時的に開き、ほぼ同時に再ロックされている。
それも3分ほどの間隔を開けて、2回ずつ。
・・・これは。
ギリッ・・・誰にも気付かれないように、奥歯を噛みしめた。
Side 凰 鈴音
「ぜああああっ!!」
裂帛の気合い、だけど一夏の斬撃は当たらない。
舌打ちしながら、一夏が敵ISから離脱する・・・私がそれを衝撃砲で援護。
敵ISが一夏を追撃する構えを見せたら、今度は私が突っ込む。
ギィンッ!
私の2本の青竜刀と敵ISの両腕が交錯する、火花を飛び散らせながら何度も斬り合う。
普通ならあり得ないくらいの運動性能・・・全身に推進機(スラスター)つけてるって、どんな変態よ。
しかもこっちの攻撃捌いた後が無茶苦茶、だって腕をブンブン振りまわして迫ってくんのよ?
「ああ、もう! 面倒くさいわねコイツッ!!」
叫んで、衝撃砲で砲撃・・・けど、敵ISの腕は見えないはずの砲弾を普通に叩き落とす。
もう7回目、コイツ、いったい何なの?
どこの国がこんな意味不明なISを、と言うか乗ってる奴って正気なわけ?
「・・・なぁ、鈴」
「何よ」
「アイツ、変じゃ無いか?」
「そうね、変ね」
「そうじゃなくて・・・何と言うか、機械じみてるって言うかさ」
ISは機械よ、言っておくけど。
まぁ、7回も同じ防御、反撃を繰り返してるアイツは、確かに機械じみてるけ・・・。
「・・・アイツ、本当に人が乗ってるのか?」
「・・・無人機、ってこと? あり得ないわ、ISは人が乗らなきゃ動かない」
「剣道やってる俺だからわかるんだけど・・・あんな緩急や乱れの無い動き、人間にできるのか?」
・・・無人機、あり得ない。
でも確かに、人間が乗ってるにしては不自然よね。
今も、私達の会話を聞いてるみたいな・・・。
「鈴、残りエネルギーは?」
「180」
「俺は60、まともな攻撃は・・・たぶん、あと一回しかできない」
一夏の太刀『雪片(ゆきひら)』は、シールドエネルギーを攻撃力に変換して使う武器。
昔、千冬さんが使っていた武器。
でも今は・・・確かに、使えるかもしれない。
私の攻撃はアイツのシールドを抜けない、『雪片』ならそれができるかもしれない。
仮に無人機だとすれば、全力で攻撃をしてもためらいは無いってわけね。
・・・まぁ、この状況ならアレが有人で操縦者を殺しても、罪にはならないと思うけど。
「・・・でも、攻撃が当たらないじゃん、アンタ」
「次は当てる」
「言いきったわね・・・良いわ、援護してあげるから突っ込みなさいな」
「おう」
とは言え・・・素人の一夏が当てられる確率は、一桁あれば良い方よね。
さて、どうやって当てさせるか。
代表候補生の、腕の見せ所よね・・・面白いじゃない。
そして、私と一夏が次の行動に移ろうとした時――――。
『一夏ぁっ!!』
心臓が、止まるかと思った。
アリーナには、学園全体に試合の映像を流すための中継室って場所があるの。
アリーナ外周南側の、少しせり上がった場所にあって・・・アリーナのスピーカーを通して、声が。
『男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくて何とする!!』
「な・・・箒!?」
「ばっ・・・!!」
馬鹿じゃないの!?
そう言いたかった、けどそんな暇は無い。
目の前の無人機(仮)が、箒って子に興味を持ったのか・・・腕、つまり砲塔を向ける。
そこに光が集まって放たれるまで、数秒も無い。
「箒―――――っ!!」
一夏の声、突撃する。
けど、間に合わない。
無人機の砲撃が、無防備な中継室を――――――直撃した。
Side 篠ノ之 箒
いてもたってもいられない、と言うのはこういう心境のことを言うのだろう。
気が付いた時、私はピットを飛び出していた。
アリーナへ続く通路は閉鎖されていると聞いたが、それでも・・・。
「ちょちょっ・・・箒姉さん、もしかしてもしかするけど! 冷静じゃ無い感じ!?」
「・・・何でついて来る!」
「いやいや、むしろ1人で行かないで・・・!」
どう言うわけか、楓までついて来ていた。
ピットから観客席へ通じる道は、避難する生徒で溢れていた。
く・・・これでは、一夏の所に行けないでは無いか!
「ね、姉さんってば・・・どっちにしろ遮断シールドが」
「わ、わかっている! だがじっとしていられないんだ!」
息を切らせて膝に手をついている楓にそう言うと、ふと気付く。
コイツは身体が弱かったはずだが、こんなに走って大丈夫なのだろうか。
まぁ、授業のランニングなどは普通について来ていたが(その代わり、速くも無い)。
・・・何だかバツが悪くなって、楓から顔を背ける。
「とにかく、お前は戻れ。良いな」
「あ、ちょ・・・箒姉さん!」
楓をその場に残して、避難する生徒達の間を掻い潜りながら駆け出す。
観客席やピットがダメなら、アリーナに繋がる設備は・・・試合の中継室しか無い。
私は苦労して避難する生徒の中を潜り抜けながら、通路の反対側の廊下へと進む。
少し進むと、鉄製の電子扉があった・・・当たり前だが。
関係者以外が入れないようになっているのは、不思議なことでは無い。
やはりここも、入れないのだろうか・・・と、思って扉の前に立つ。
「・・・っ」
シュッ・・・と音を立てて、扉が開いた。
扉の向こうには、無人の通路が続いている。
どうやら、すでに避難が済んでいるらしかった。
なのにどうして、ここだけ・・・?
・・・考えていても仕方が無い、進もう。
周囲を見渡して、誰にも気付かれていないことを確認した後・・・中に入った。
後ろで、電子扉が閉じる音が聞こえる。
その後、いくつか扉があったが・・・全部、勝手に開いた。
まるで、誘われているような気さえした。
「一夏・・・っ」
そして、到着した。
中継室、誰もいないが機材の電源は生きている。
私は実況用のマイクを手に取ると、アリーナの全体スピーカーに繋げる。
アリーナの中央では、一夏とあの中国の代表候補生が、得体の知れない侵入者と戦っているのが見える。
ぎゅっ・・・無意識に、マイクを握り締める手に力がこもった。
「い・・・一夏ぁっ!!」
叫ぶと、アリーナのスピーカーを通じて私の声が響く。
観客席から避難している途中の生徒が立ち止まる程の声量、一夏達も気付いた。
見るからに、苦戦している様子で・・・声を出さずには、いられなかった。
男なら・・・一夏なら。
そんな敵、簡単に、倒せるだろう・・・!
身勝手な願望、そんなことはわかってる。
だけど、言わずには、願わずにはいられなかった。
一夏は、私よりもずっと強いはずだと。
『箒――――――っっ!!』
中継室の集音機材から、アリーナの一夏の声が聞こえる。
そして次の瞬間、アリーナ中央の敵が手をこちらに向けて。
砲撃。
中継室に爆風が吹き荒れて、私は小さく悲鳴を上げる。
周囲の機材や壁が揺れて、天井部分が吹き飛ぶ。
・・・だが、私自身には傷一つ無い。
何故・・・と、思ったのは一刹那。
「な、な・・・?」
私の目の前に、不思議な物があった。
私の前と言うか、中継室の前方に、「それ」は浮かんでいた。
それは6つの剣のような、杭のような物体。
円環状に並んだそれは、『ブルー・ティアーズ』のビットのようにも見える。
決定的に違うのが、円状に並んだ剣型のビットの間に不可視の盾のような物を形成している所だ。
防御のためのビット・・・ISか?
だが、誰が・・・。
「大丈夫、姉さん・・・?」
声は、すぐ傍から。
首だけ回して振り向けば、そこには自分と同じ顔。
・・・楓?
「大丈夫、箒姉さんは私が守るよ」
私の隣に立っていた楓の身体を、光の粒子が包む。
ぶわっ・・・楓の短い髪が、風に揺れる。
天井を失った中継室の中で。
「だから・・・おいで、『黒叡(こくえい)』」
・・・こく、えい?
次の瞬間、楓の姿が闇色に染まった。
Side 篠ノ之 楓
身体を締め上げる感触と、コアと意識が融合するこの瞬間。
私はISと一体化するこの瞬間が、凄く好き。
自分の中に、何かが這入(はい)ってくる感触。
ぶるっ・・・と身体を小さく震わせながら、小さく息を吐く。
目の前に並ぶのは、私とお姉ちゃんが作った第3世代型IS『黒叡(こくえい)』のスペックデータ。
いくつものディスプレイに、様々な数値が並んでは消えて行く。
ガキンッ、と音を立てて、『黒叡(こくえい)』の腰部のホルダーに剣型(ソード)ビットが戻る。
6基あるそれは、特殊な盾を形成する自衛用の刃・・・名前は「黒翼(こくよく)」。
「楓、お前・・・?」
傍らの箒姉さんに、にこっ、と微笑んで見せる。
私のIS、『黒叡(こくえい)』の機体カラーは黒、肩や腰部が丸みを帯びた流線的なデザイン。
背中にしょった2基のタンクが、可愛いでしょ?
「一夏さん、あと・・・えーと、凰さん! 姉さんは大丈夫です・・・やっちゃってください!」
オープン・チャネルでISの通信回線を開いて、アリーナの2人にそう伝える。
中継室、吹っ飛んじゃったし・・・他に通信手段が無い。
まぁ、別に良いけど。
『か、楓か!? お前、その機体・・・』
「細かい話は後! やっちゃってください!」
『あ・・・ああっ!』
一夏さんが頷くのを確認すると、私は次の行動に移る。
腰部から再びソード・ビットを展開、正面からの衝撃に備える。
箒姉さんを『黒叡(こくえい)』の陰に隠すようにしながら、私は4つのディスプレイと4つのキーボードを開く。
「え、援護しないのか?」
「無理、攻撃用の武器が無いから」
「・・・は?」
いや、そんなぽかんとした表情をされても。
姉さんに返したように、このISに攻撃用の装備は無い。
ソード・ビットも防御・自衛以外には使えない。
ぶっちゃけ、このISで戦闘は無理。
模擬戦なんてしたら、10秒で負ける自信があるよ!
でも、箒姉さんが望むなら。
このISに武装は無い。
でもその代わり、束お姉ちゃん製のセンサー機器類は他のISとは比較にならない感度・精度を持つ。
元々、宇宙空間で活動する他のISを支援・補助するのが目的で設計したから・・・。
そして・・・開始する。
「じゃあ一夏さん、行きますよー?」
『何を!?』
「細工は流流、後は仕上げを御覧じろ!」
『だから何を!?』
それ以降は通信を遮断、集中しないと使えない。
ガコンッ、と音を立てて・・・背中のタンクから黒い何かが溢れ出る。
私の機体を伝って床に降りたそれは、次第に薄くなって空中に掻き消えて行く。
ナノマシン型兵装「黒叡」。
この機体の名前の由来、束お姉ちゃん製作の驚異のシステム。
コアへの干渉を可能にする、技術。
コアの開発者である束お姉ちゃんだからこそ、コアに干渉できるシステムを作れる。
・・・ただ、私が使うには手間も時間もかかり過ぎる。
「一夏っ・・・!」
私が合計8枚のディスプレイとキーボードに視線と指先を集中させている間にも、アリーナ中央では戦闘が続いている。
中継室近辺にも、流れ弾が飛んでくる。
けれどそれは、私のソード・ビットの盾で防げる。
箒姉さんはソード・ビットの盾越しに、一夏さんの戦いを見てる。
私のISのことも気になるだろうけど、一夏さんの方がもっと気になるのだと思う。
・・・了解(ログ)、箒姉さんがそれを望むなら。
「・・・行くよ、『黒叡』」
その瞬間から、私の意識から全てが消える。
視界に映るのは、必要な時間と工程表。
指先に感じるのはキーボードの感触のみ、それ以外は何も知らない。
何も、いらない。
私と『黒叡』の、2人だけの世界。
・・・と言うかさ、アレ作ったの誰?
無人機かぁ、それはそれでロマンだよね。
Side 凰 鈴音
ザアァ・・・と、耳元で鳴るはずの無い音がした。
ISのハイパーセンサーに一瞬だけ、黒い影みたいなのが映った。
でもそれらはすぐに消えて、元通りの映像状態に戻る。
「何・・・?」
こんなのは、今まで一度だって無かった。
気のせいかとも思うけど、その「気のせい」すら起こさせない高性能な機械がISよ。
当然、不調でも無い。
だけど『甲龍(シェンロン)』のハイパーセンサーには、何も映って無い。
ただ、周囲の光景がクリアに見えるだけで。
じゃあ、何・・・?
「・・・って、考えてる場合でも無いわね!」
どぱっ・・・と言う擬音が合いそうな勢いで、敵ISが光弾をバラ撒く。
全方位攻撃、でも狙点が甘い。
ISの機動力なら避けられる・・・アリーナの地表や壁の各所が爆発する。
ピピッ・・・と中継室の方を確認すれば、あのビットの盾が正面を守っているのが見える。
あの黒いIS、どこの機体?
公式発表されてる機体じゃ無いわよね、日本の機体・・・でも無いか。
「でやあああぁぁぁっ!!」
「え・・・あっ、バカ!」
一夏が、エネルギー残量も無いのに突っ込んだ。
近接ブレードしか無いのに・・・案の定、敵ISの太い右腕で受け止められる。
左腕が動く前に私も加速、その左腕に青竜刀を叩きつける。
それで一旦動きが止まる・・・けど。
「・・・!」
敵ISの腕の砲塔から閃光が走るのと同時に、私も『龍砲』を撃つ。
エネルギーがぶつかり合って爆発、3機が離れる。
「ちょ・・・一夏!? 作戦も無しに突っ込んで勝てる相手じゃ無いでしょ!?」
「良くわからないけど、楓が何かするらしいんだ!」
「はぁ?」
楓って・・・あの黒いISの子よね。
確かに凄そうな機体だけど、でもそれが何よ。
「いや、わからん」
「アンタね・・・で、賭け甲斐のある賭けなんでしょうね?」
「いや、わからん」
ぶん殴ってやろうかしらコイツ。
つまり何の根拠も無しに信じてるってわけ?
だとしたら、本当にバカだわ。
・・・ま、一夏らしいけどね。
とはいっても、私もエネルギー残り少ないし、そんなには保たない。
実はもう『龍砲』も撃てない、つまり大ピンチ。
さーて、面白くなってきやがったわねぇ・・・。
「・・・楓!」
『・・・・・・了解(ログ)』
タンッ・・・何かのキーを押す音が、どうしてか耳に響いた。
妙に機械的な返答は、もしかしなくても楓って子の声。
直後、一夏のISの様子が変わる。
近接ブレード『雪片弐型(ゆきひら・にがた)』が、強い輝きを発した。
刃が2つに割れて展開、そこから白いエネルギーの刃が飛び出す。
『甲龍(シェンロン)』のハイパーセンサーには、『白式(びゃくしき)』のエネルギー転換率が急激に上昇したことを示すデータが映ってる。
な、何・・・何で急に?
『エネルギー転換率90%オーバー! ISコア稼働率80%突破・・・一夏さん、やっちゃってください!』
「お・・・おう! コイツで斬れば良いんだな!?」
オープン・チャネルで響く楓とか言う子の声。
え・・・ってことは、一夏のアレはあの子が・・・?
・・・どうやって?
「良し! 行くぞ鈴!」
「ああ、もう! 指図(さしず)すんじゃ無いわよ!」
言いながら、すぐに行動。
敵に接近しながら段階的に加速、まず私が突撃。
ヒュゴッ・・・音を立てて、青竜刀が地面を砕く。
右隣、回避した敵。
そしてその背後に、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で一夏が肉薄する・・・!
「うおおおおおおおおおっ!!」
白いエネルギーの刃を振り下ろす、敵の右腕を斬り飛ばす。
そして返す刀で・・・って所で。
「・・・げ」
やる気満々で太刀を構えた一夏、その機体からキュウウゥゥ・・・ンって力の抜けるような音。
・・・『白式(びゃくしき)』のエネルギーが、切れた。
え、何それ、その機体ってそんなに燃費悪いの?
嘘・・・え、本気で? 馬鹿じゃないのぉっ!?
次の瞬間、残った左拳が一夏を殴り飛ばした。
「一夏!!」
最後の加速、敵ISと一夏の間に割って入る。
敵ISの砲塔がゆっくりと上がる・・・エネルギーが切れた今の一夏ならどんな衝撃でもヤバい。
反射的に、倒れた一夏を背中に庇う。
私の機体は、まだ盾になれる・・・!
「・・・鈴!」
一夏の声、大丈夫、死にゃしないわ。
・・・その後のことは、ちょっとわからないけどさ・・・!
と、私が映画のヒロイン的に覚悟を決めた瞬間・・・。
「・・・へ?」
ガンッ、ガガガガガガガ、ガガンッ!
甲高い音を立てたのは、無人機の装甲。
撃ち込まれたのは実体弾、もちろん私達は装備してない。
一夏に至っては近接ブレードオンリーだしね。
何かと思って顔を上げると、観客席に10機ほどのISが見える。
機体は第2世代型量産機の『打鉄(うちがね)』と『ラファール・リヴァイヴ』。
武者鎧のような日本製のISとネイビーカラーのフランス製ISが居並ぶ姿は、何だか壮観だった。
その中の1機・・・先頭に立っていた『ラファール・リヴァイヴ』が、手にアサルトライフルを持っていて、銃口からは煙が上がってる。
「学園の・・・」
私の声が届いたわけじゃないでしょうけど、先頭の『ラファール・リヴァイヴ』の操縦者がアサルトライフルを肩に担ぐ。
乗っているのは20代の女性、バイザー型のマスクをしているから顔はわからない。
だけどその機体には、IS学園の校章。
その女性―――たぶん先生の誰か―――が、口を開く。
『ウチの生徒が随分と世話になったみたいじゃねぇか・・・ああ?』
次の瞬間、遮断フィールドで遮られているはずの観客席から、先生達の機体がアリーナに踊りこんでくる。
あ、あれ・・・シールドは?
私が少し困惑している間に、アリーナから撤退するように千冬さんから通信が入る。
無人機は・・・何と言うか。
・・・虐殺?
Side 一夏
「・・・そんなわけで、お前達には罰を与えねばならないわけだが。どうだ、嬉しいか?」
誕生日に子供にプレゼントをあげた母親みたいな声音で、千冬姉がそう言う。
でも全然、内容は嬉しく無い。
ちなみに俺、鈴、箒、楓の4人がピットで千冬姉に正座させられて・・・あれ?
「えーと、千冬姉。ひょっとして俺達怒られてる?」
「死にたいのか?」
「生きたいデス」
いや、まぁ、かなり無茶したとは思う。
何と言っても、遮断シールドに対するあの無人機の干渉がなくならなかったら、俺達死んでたかもしれなかったらしいし。
・・・試合は当然、無効。
忙しいのに『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』や『雪片(ゆきひら)』の使い方を教えてくれた千冬姉には、本当に申し訳ない気持ちだ。
「心配かけてゴメン、千冬姉」
「織斑先生だ」
「・・・織斑先生、えーと・・・他の3人はさ、俺を助けようとしてくれただけだし・・・」
「別に心配はしていない」
何てお優しいお言葉。
「・・・が、凰はもう良いぞ、弟が世話になったな」
「い、いえ、幼馴染ですし・・・」
鈴の言葉に、隣で正座してた箒がピクッ、と反応する。
でも千冬姉の前だからか、大人しい。
千冬姉の前でこれ以上何かすると、逆に何をされるかわからん。
鈴は許され、俺は反省文10枚を言い渡されて解放。
箒と楓は、別件でさらに叱られるらしい。
・・・楓のISについて聞きたかったけど、まぁ、今度で良いか。
たぶん、束さんに貰ったんだと思うし。
「あー・・・鈴、すまん、いろいろと」
「もう良いわよ・・・私だって、ムキになってたしね」
千冬姉の説教でグロッキーだからか、鈴も何だか素直だった。
・・・あ。
「あー・・・思い出した、約束。正確には『料理上手になったら、私の酢豚を毎日食べてくれる?』だったよな」
「う、うん・・・ま、まぁ、ほら、誰かに食べて貰うと上達するでしょ? それだけよ・・・ほ、本当にそれだけだからねっ!」
「お、おう・・・まぁ、あの親父さんに習ってんなら、上手くなるだろ」
ピットから更衣室へ続く廊下を2人で歩きながら、ポツポツと話す。
そんな中で、俺は鈴がてっきり親父さんに料理を習ってんだと思ってたけど・・・鈴の両親が離婚して、親父さんとは1年以上会っていないってことを初めて聞いた。
「家族って、難しいよね」
深いため息を吐きながらそう告げた鈴の顔が、とても印象的だった。
家族・・・家族、俺にとっては、千冬姉だけだ。
家族を、箒や楓、鈴や俺に関わる人全部を守りたくて、ISの訓練も耐えてきたけど・・・。
良くはわからないけど、あのエネルギーの刃・・・『零落白夜』も出せたけど。
実際には、エネルギー切れ起こしてお荷物だ。
・・・強く、ならないとな。
今日一日で、俺は改めてそう思った。
Side 篠ノ之 箒
・・・私達が織斑先生の説教―――反省文・各方面への謝罪文その他―――などから解放されたのは、一夏達が解放されてからさらに3時間、夜10時を過ぎてからのことだった。
危険地帯に自ら飛び込んだ馬鹿、織斑先生に15回ほど連続で言われて流石に落ち込むが。
「まぁ、今回は緊急事態だ・・・本来は正式に罰則を与える所だが、今日の所はこれで勘弁してやろう」
とのことで、何とか解放された。
本来なら停学を飛ばして退学でもおかしくは無いが、諸事情でそれもできないそうだ。
織斑先生は理由を告げなかったが、私にはわかる。
私達姉妹が、「篠ノ之束」の妹だからだ。
姉さんの存在は、それだけ重い。
嫌だと思っても、消えてなくなるわけじゃない。
そしてそれが、自分を守っている。
・・・都合の良い時にそれに助けられ、また甘える自分が本当に嫌になる。
「ああ、篠ノ之・・・ああ、ややこしいですね、箒さん。寮の部屋の調整が付きましたので・・・明日中に、お引越ししてくださいね?」
「え・・・?」
「返事はどうした、篠ノ之姉」
「は、はいっ!」
去り際、山田先生に一夏とのど、同居が終わったことを知らされた。
そ、そうか・・・まぁ、普通はそうなる、よな、うん。
自分にいろいろと言い訳しながら、私はアリーナのピットから出て行った・・・。
「あはは・・・ゴメンね姉さん。私、出て来た意味、あんまり無かったよね・・・?」
一緒に解放されたわけだから、当然、寮までは楓と一緒だ。
正直、こちらもどう接したら良いのかわからない。
いや、楓自身をどう・・・とかは、思っていない。
だが・・・。
「・・・あ、このISはね、私が束お姉ちゃんと一緒に作ったんだよ。基本設計は私・・・可愛いでしょ?」
「か、可愛い・・・?」
「うんっ」
可愛い、と言うのはわからないが・・・待機状態なのだろう、左手の黒いひし形の指輪を見せて来る楓の顔は、笑顔だった。
織斑先生に叱られた直後だと言うのに、にへら、と笑みを浮かべている。
その笑みは・・・昔見た、あの人の笑みに重なって見えた。
そして、IS・・・姉さんと一緒に作ったと言う、専用機。
国籍は無い、所属は・・・「篠ノ之束の個人所有」。
正直、国際IS委員会や政府が黙っていないだろうと思うが・・・そこまでは、私にもわからない。
だけど・・・。
「あ、それとね・・・実は、束お姉ちゃんから、伝言があって・・・ずっと言わなくちゃって思ってたんだけど・・・」
「伝言?」
「・・・『箒ちゃんのも、ちゃあんと用意してあるからね』・・・だって」
私のも、用意してある・・・その言葉の意味を。
私はおそらく、正確に把握している。
「じ、じゃあ・・・おやすみなさいっ」
私はパタパタと寮の中に駆けて行く楓の後ろ姿を、見つめるしかできなかった。
・・・私は。
姉さんには、頼りたく、無いのに・・・。
あの人に、だけは。
Side 千冬
ガキ共への説教を終えた後、私と山田先生もアリーナから移動する。
学園の地下50メートルの地点にある、特殊区画。
レベル4の権限を持つ人間しか入れない、隠された空間。
例の試合に乱入してきたISが運ばれ、解析されているのもここだ。
私が一夏や篠ノ之姉妹を留めている間に、全てが進行していたわけだ。
それに、私の権限ではアイツらに叱責以上の罰は「与えられない」。
「・・・解析結果、出たようです」
「ああ、どうだった?」
「はい、アレは・・・無人機です」
世界中で様々な国が技術の粋を集めて開発しているIS、それにはまだ確立されていない技術もある。
その内の一部が、遠隔操作(リモート・コントロール)と独立稼働(スタンド・アローン)だ。
つまり、ISの無人化・・・判明した時点で、学園関係者に緘口令が敷かれた。
もしこの技術が外に漏れれば・・・。
「・・・コアは?」
「未登録・・・467の登録コア以外の、新しいコアです」
「そうか・・・」
自壊システムが組まれていたのか、解析した段階で機能中枢のデータは全てデリートされていた。
積まれていたISコアは、現時点ではただの素材の塊に過ぎない。
つまり・・・現段階では、確たることは何も言えない。
だが、ISのコアを作れるのは世界でただ一人。
もちろん、決めつけるのは危険だが・・・。
「それにしても・・・楓さんの専用機、やっぱり問題ですよね」
「・・・ああ」
今回、篠ノ之妹は姉を守るためにISを使った。
基本的なスペックデータは他の専用機持ち同様、学園に提出されている。
束の個人所有のコアと機体、と言うことで・・・委員会と政府も扱いに苦慮しているようだが、束がはっきりと「これは私のだ」と宣告している以上、手は出せないだろう。
・・・やり過ぎるなと言ったはずだぞ、束。
篠ノ之妹の専用機「黒叡」の能力は、ナノマシンによるコアの活性化だ。
それが、ISのコアに直接干渉する・・・そしてISの稼働率を高め、単一特殊技能(ワンオフ・アビリティ)に目覚めさせるだと・・・?
それは、下手を打てば世界の軍事バランスを崩しかねない程の能力。
「・・・」
今回、土壇場で無人機側からの遮断シールドへの干渉が止んだ。
それが無ければ・・・教員部隊はアリーナへ突入できなかっただろう。
どうして急にシールドのロックが解除されたのか、わからない。
・・・タイミングとしては、一夏が『零落白夜』を出した次の瞬間に干渉は止んだ。
まるで、目的は達したとでも言わんばかりに・・・。
・・・結果論、だが。
家族が死ぬのは、寝覚めが悪い。
そういう意味では、助かったと言うべきなのだろうが。
気に入らない、な・・・。
「織斑先生、何か心当たりでも・・・?」
「・・・いや、無い・・・今はまだ、な」
私の表情が気になったのか、山田先生が不思議そうに首を傾げる。
そんな私達の目の前では、例の無人機の解体・解析作業が進められていた・・・。
篠ノ之 楓:
どうもです、ようやく活躍できましたー。
いやはや、まぁ、あんまり意味無かった気もするですけど。
ちにみに、無人機の動きを止めたのは私じゃ無いですよー。
だから千冬姉様、そんな探るような目で私を見ないでくださいよー。
篠ノ之 束:
むむ? ちーちゃんが楓ちゃんばっかり?
むー、ちーちゃんを誑かしたのはこのほっぺかー!?
篠ノ之 楓:
へ? ちょ、束お姉ちゃん、出番はいつも後書き最後・・・うにゃああああっ!?
篠ノ之 束:
げっへへへー、口ではそう言いながらも身体(ほっぺ)は正直だのー。
篠ノ之 楓:
うみゃみゃみゃ、ふぉうふぃふぇふぁ~!。
*助けて、箒姉さーん!
織斑 千冬:
・・・馬鹿共が。