Side イーリス・コーリング
私らが動けねぇってなった後は、私らごとISを隠せって命令が上から飛んできた。
当然、私は抵抗したさ。
私らは祖国の最前線に立つべきIS乗りだ、それが他の兵士の背中に隠れてコソコソしてられるか!
・・・ったら、まるっきり無視されて飛行甲板から運搬されるハメになりやがった。
何せ装甲が重くて俊敏には動けない、だから甲板の兵士が航空機用の運搬機で私らを格納庫行きの後部エレベーターに乗せて行く。
ただ、IS用のスペースは無い・・・待機状態にできるんだから、収容スペースなんて考えなくても良い。
けど今は、私らを押し込むスペースを確保するために代わりに何機ものF-35Bが出撃して行く。
垂直発射のフレアが風を生んで、エレベーターに押し込められる私の頬を掠める。
「・・・っきゃろ! お前ら残して行けっかよ!」
「イーリスさん! 本当お願いしますって!」
「そうですよマム! 今はとにかく中に・・・中ならまだ安全ですから!」
「今はそうだろうよ、だがその後は!? まさかボート乗って逃げろってんじゃ―――――」
私の部下達は私より先に下に行かせた、あいつらは私が鍛えた大事な
・・・だが、私は残るぞ。
この私が逃げなんて、打つわけにはいかねぇ。
国家代表として、そんな屈辱は無い。
不意に、横薙ぎに爆発が起こった。
私と私をエレベーターに押し込めようとしていた下士官が身を竦める、見ればさっき出撃したF-35Bが発艦と同時に無人機に撃たれて海面に墜落した所だった。
上手い具合に撃たれたのか、機体自体は無事に海面に浮かんで、パイロットが脱出した後に無人機に留めを刺されて爆発するのが見えた。
「くっそ・・・やっぱ戦闘機じゃ無理だ! 私らが何とかすっからお前らこそ下がって・・・」
「ここで貴女(あいえす)を失うわけにはいかないんです!!」
「だーくそっ! てめ・・・だ!?」
最終的に、エレベーターの上に蹴り込まれた。
・・・って、蹴りだと!?
「女は、下がってろ!!」
「んだとコラッ・・・!?」
男の分際で―――――そう言おうとした時、言葉に詰まった。
コンベアが動く駆動音と共に下がって・・・上がって行く視界の中で、私を蹴り落とした下士官と、その周りで銃を担いでる下っ端の兵士連中を見て、言葉に詰まる。
「てめぇら・・・!」
「後は頼んます、姐さん」
「なぁに、大丈夫だよマム。俺たちゃアンタに鍛えられたんだぜ?」
「おうよ、あんな連中、マムが手ぇ下すまでもねっすよ」
てめぇら、男の分際で・・・私に。
私に、戦友を置いて今は逃げろってのか。
隠れて、待てってのか。
勝てねぇって、わかってんだろうが!!
「どうですかね、意外と俺達でヤっちまうかもしれませんよ?」
「そうそう、だからマムは休んでてくださいよ」
男は・・・私らの支援だけやってりゃ良いって、いつも言ってんだろが。
前に出たら死ぬんだよ、わかってんのか馬鹿野郎。
これだから、男なんてしょーもねーんだよ。
変な所でカッコつけやがって・・・。
「・・・し、信じるからな!」
エレベーターの天井が閉まるまでに、私は上の光に向けて叫んだ。
それに対しての返事は、もう無い。
「てめぇらが勝つって・・・私は、信じるからな!!」
そんな、私の言葉に。
返事の代わりに、鈍い爆発音が響いた。
Side 篠ノ之 楓
がぼっ・・・と唇から気泡を漏らして、私は目の前のガラスに手をついた。
叫んでも音にはならない、叩いても私の腕力じゃどうにもできない。
ガラスの向こうには誰もいない、私の胸には急速に昏い何かが広がって行く。
コリッ。
その時、何かがガラスに引っかかる音がした。
何かと思えば・・・それは黒く輝く、菱形の指輪だった。
その指輪は私の中指にぴったりと嵌められていて、強く握り込むとガラスに引っかかって音を立てた。
指輪の形態をとっているそれは、私のIS。
私は迷わず、ガラス張りの円柱状の水槽の中で念じる。
「(セットアップ・・・!)」
ごぽっ・・・と気泡にしかならない言葉、でも私の意思はちゃんと伝わる。
この状態で完全装着するとどうなるかわからないから、片腕だけの限定装着。
私はその腕を水の中で振り上げると、ガラス面に叩きつける。
・・・少しの間、何も起こらなかった。
けど、次第に小さな音を立てて殴りつけた場所に罅が入って・・・最後に、中からの圧力に耐えかねたみたいに破裂した。
割れたんじゃなくて、破裂した。
水が凄い勢いで溢れ出て、支えきれずに私の身体も一緒に流れ出る。
「あっ・・・・・・えほっ、げほっ」
水と一緒に床に叩き付けられて、それからむせる。
大きな咳が収まると、今度は急に寒くなる。
何も着てないから、当たり前だけど・・・濡れてるし。
私の身体に付着してた水分も、空気に触れると急にぬめり気を帯びてきて気持ち悪い・・・。
「う・・・何、コレ・・・」
指先を擦ると、ぬちょぬちょする。
時間が経てば乾燥するかもしれないけど、今は我慢するしかない。
タオルとかも、無いみたいだし・・・。
「・・・ここ、どこ・・・」
何となく両手で身体を隠しながら、ぺたりと座りこんだ体勢で起き上がる。
ポタポタと滴が垂れる前髪を気にしながら、私が周囲を見渡すと・・・まず目に入るのは、最初に私が入っていた培養槽。
ガラスが砕け散っていて、もう培養槽とは言えないけど。
でもまだ少し水が残ってて、上の蓋らしき所には何本も太いチューブが天井に繋がってる。
「シグナル・ロスト・・・?」
培養槽の側のディスプレイが赤く明滅してて、そんな文字を浮かべてる。
『黒叡(こくえい)』のコードを繋げて調べようと立ってみる―――ふらついてるけど―――と、周りの光景が目に入る。
暗い部屋、とても広い・・・天井や床に這う太い木の幹みたいなケーブルの束には、何だか見覚えがある気がする。
そして・・・カプセル。
私が入っていたのと同じようなタイプのカプセルが、いくつも並んでる。
それだけなら、まだ良かったんだけど。
「・・・くーちゃん・・・さん・・・?」
部屋中にびっしり、何十個も並べられたそれには・・・私が今までそうだったように、1個につき1人、女の子が入ってた。
まるで自分の身体を抱き締めるように身体を丸めて、呼吸器みたいな機械をつけて眠るように目を閉じている。
波打つ銀髪の髪が白くて細い体躯を覆うようにたゆたっていて、どこか神秘的ですらあった。
問題は、それが何十個もあると言うこと。
普通、人間って1人しかいない物だと思うんだけど・・・。
そのまま歩いて、奥・・・かどうかはわからないけど、あても無く歩く。
くーちゃんさん・・・そっくりの女の子が入った水槽は、本当にいくつもあった。
コンコン、と叩いてみたけど・・・反応は無かった。
「・・・ここ、何・・・?」
ひたひたと裸足のまま歩いて行くと、ちょっと広い所に出た。
どうも、ここは部屋の中心見たい。
円形に並んだくーちゃんさんそっくりの女の子たちの水槽に取り囲まれるようにして、大きな水晶玉みたいな水槽がある。
こっちは、人が5人くらい入れそう。
そこには、くーちゃんさんとはまったく別の何かが入ってた。
何かって言うか・・・人、みたいだった。
大きな水槽の真ん中で、たゆたうように浮かんでる。
私よりも小さい、くーちゃんさんと同じくらい・・・?
「・・・だれ・・・?」
水槽に手をついて、そっと覗いてみる。
水が半透明になってて、見えにくいけど・・・あ、服は着てる。
小さな、12歳くらいの・・・女の子、かな。
黒髪の・・・顔は・・・顔・・・か。
片頬の肉が、削ぎ落ちていた。
身体のラインが崩れていて、何故かと思えばいくつかの部位の色が変色して歪んでた。
髪は綺麗に見えるけど、どこかくすんで傷んでた。
瞳は虚ろで、半開きの唇の奥は深い闇のように暗かった、気泡一つ漏らさない。
力なくゆれる手足はあまりにも細くて、骨と皮しか無いような不自然さだった。
つまり、そこに浮かんでいたのは有り体に言って。
半分・・・いや、ほぼ完全に、腐った死体だった。
「・・・え、ふっ」
それを認識した瞬間、胸の奥からこみ上げて来る何かに抗えなかった。
その場に膝をついて、喉を鳴らしながら胃の中の物を吐きだす。
ただ吐き出す物が何もなかったのか、唇から溢れるのは透明な液体だけだった。
嫌な音を立てて唇から垂れる体液を吐き出しきった後、それでも胸のつかえは一向に取れない。
えふっ、えふっ、と止まることなく起こる咳に、喉と胸の奥をひっかき回されるようで苦しかった。
呼吸が荒い、汗が止まらない、身体の奥から熱を感じる、心臓が。
心臓が、悲鳴みたいな鼓動を発してる。
「だ・・・誰、の・・・」
震える唇で、誰の死た・・・身体なのかと、問いかける。
でも、私は見てしまった。
見た、正面から。
見覚えのある病院服、そこにはある政府系病院のロゴが入ってた。
くすんでいたけどあの黒髪、あの瞳、そして痩せこけてたのだろう細い手足。
年の頃は12、13・・・何よりも、あの顔。
震える両手を、見つめる・・・カタカタと震えが止まらない両手を、見つめる。
あの、顔は・・・子供の頃、何度も鏡の向こう側に見た―――――。
「・・・いけない人です・・・」
不意に、視界に別の2本の手が入った。
その手は白いシーツを持っていて、後ろから包み込むようにして私を抱き締める。
びくっ、と怯えて震える私の身体を、ただ優しく・・・。
Side くーちゃん
いけないお方ですね、楓さまは。
そう言えば以前から悪戯がお好きでしたね、お可愛らしい所は何も変わっていないようです。
だからこそ、私もお会いできて嬉しいと感じるのでしょう。
「く・・・くーちゃ・・・ん、さん?」
「はい、楓さま。お帰りなさいませ・・・そのままでは、お風邪を召してしまわれますよ」
それでなくとも、培養槽から出たばかりのお身体は無防備なのですから。
そう言いながら、私は楓さまのお身体に白いシーツを巻いて差し上げます。
別室に衣服をご用意しておりますので、それまではこれで我慢してくださいませね。
ああ、冷えるのでしょうか・・・こんなにも震えて。
「く、くーちゃん、さん」
「はい、楓さま・・・ああ、これをご覧になられたのですね」
私の言葉に、楓さまはカタカタと震えながら頷きます。
私の目の前には、この培養室の中心・・・一番最初に造られた水槽が、ありました。
その中に浮かぶモノを見て、驚かれたのでしょう。
私は努めて柔らかな声で、楓さまを安心させるように努力します。
「お気になさることはありません、これは材料です」
「ざ、材料・・・?」
「ええ、楓さまのお身体を「造る」のに、どうしても必要な材料なのです」
「つ、造る?」
あら・・・どうしたことでしょうか。
楓さまのお身体の震えが、増したように思われます。
困りましたね、これでは束さまに叱られてしまいます。
「『黒叡(こくえい)』の指輪を外されたことは、ございますか?」
「え、と・・・うん、一回だけ。特務機関の人に・・・」
「まぁ・・・何と酷い」
日本のIS特務機関は、跡型も無く消し飛ばす必要がありますね。
「その時、何かございませんでしたか? 意識が途絶えたり、身体が動かなくなったり・・・」
「う、うん。私は覚えてないけど、箒姉さんが大変だったって」
「そうでしょうね・・・その指輪、『黒叡(こくえい)』には、楓さまの全ての情報(データ)が収められていますから。それを外してしまうと・・・」
死んでしまいますよ。
「・・・え?」
「ご存知無かったのですか? 『黒叡(こくえい)』には楓さまの全てが入力(インプット)されているのです。生まれてからの12年間の全ての記憶、身体情報、代謝パターン、物の考え方から食べ物の好き嫌いまで、全てが」
記憶も、精神も、突き詰めれば脳と言う媒体に蓄積された情報でしかありません。
それを再現し、収めることで外部に保存する。
さらに、そこから新たに人間と同じように記憶と経験を蓄積させて行くことが出来たなら。
それは、まさに「生きている」のと同じ状態。
神の如き所業(みわざ)、それこそが束さまの真髄。
「そして、そこからの3年間・・・つまり今までですね。その中で得た記憶も経験も知識も、気持ちや想い、夢ですらも、『黒叡(こくえい)』の中に蓄積されていくのです」
「な・・・何、言ってるの?」
「楓さまのお話です、楓さまのためにしかお話など致しません。・・・ああ、どこまでお話ししましたか・・・そう、記憶と経験の永遠なる蓄積、疑似的な、いえ本物の「生」。ですから、それら全てを司る『黒叡(こくえい)』を身から離すと言うことは、通常の人間にとっては脳を失うに等しいのです」
ですから束さまは、『黒叡(こくえい)』をけして離さないように申されたのです。
それを外してしまえば、後に残るのは肉の身体だけ。
人形のような、容れ物だけが残る。
『黒叡(こくえい)』と言う、情報の塊を失ってしまえば。
「何・・・言ってるの? 何の話を」
「ですから、楓さまのお話です」
「私の話・・・って、意味がわからない!」
楓さまは私の腕を振り払って、『黒叡(こくえい)』の指輪を嵌めた手を私に示して。
「これが、何!?」
「楓さまの全てです。全ての情報・・・記憶が、経験が、感情が、そこに収められています」
「これを外したら、どうなるの!?」
「容れ物だけが残ります。身体機能は全て停止し、ただの肉の塊に過ぎません。『黒叡(こくえい)』と言うコアに刻まれた『篠ノ之楓』と言う情報が無ければ、人形です」
私の言葉を噛み砕いて自分の中で理解する度に、楓さまのお顔が青ざめて行きます。
具合が悪そうですが、大丈夫でしょうか。
もしかして、「新しい」身体に不具合でも・・・自力で無理に出られたようですし。
そう冷静に観察する私に、楓さまは叫ばれます。
「じゃあ・・・あの人は、誰!?」
「楓さまです」
あっさりと。
あっさりと答えた私に、楓さまは呆けたような表情を浮かべられました。
・・・ああ、いけませんね、誤解の無いように訂正しなければ。
「より正確に言えば、3年ほど前の楓さまですね。死因は衰弱死と聞いております」
「え・・・」
「何でも、政府系病院からラボへと連れて来た時には手遅れだったそうです。そこで束さまは私と言う経験を基に新たな楓さまの肉体を造り、そこに『黒叡(こくえい)』を媒体とした記憶を乗せることで『篠ノ之楓』と言う存在を再現・・・蘇生処置を、施したと」
「・・・・・・・・・あ」
楓さまのお顔を、様々な感情が駆け抜けるのを私は目にしました。
理解、拒絶、納得、不信、反発、恐怖、そして・・・。
「あああああ・・・」
絶望。
「ああああああああ」
カタカタと震える細い両手が、頬に爪を立てて肌を裂きます。
ああ、いけません楓さま・・・出来たての容れ物は脆いのですから。
「大切に、しませんと」
「あ、あああ、あああああ、いっ・・・」
「まぁ・・・壊れても、また新しく造れば良いのですが」
大丈夫ですよ、楓さま。
「いっ・・・ぃ、や、ぁ・・・ああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
肉体など、ただの情報の容れ物に過ぎないのですから。
Side 更識 簪
基地から抜け出して山を抜けた後、無人機に見つからないように裏道を通って陸上自衛隊のヘリまで辿り着いた。
この頃には私は自分のISを待機状態にしていたけど・・・山田先生と本音は、まだしまうこともできない。
どうして、私のだけ稼働率が少し残ってるんだろう・・・他のISは、全機がダメになってるのに。
気になるけど・・・考えてる時間は、無い。
楯無姉さんの策を完成させるためには、私がどれだけ時間をかけずに任務を達成できるかにかかってるから。
「海岸線の方に出れば良いんだな!?」
「あ、はい・・・お願いします」
「良いよ、何でか上からは嬢ちゃん達の要請は最優先って話聞いてるからな。急いだ方が良いのかい?」
「はい!」
CH-47・・・輸送ヘリが3機、私達を乗せて飛ぶ。
護衛が無いから、無人機に見つからないように低空で・・・戦場を迂回して・・・進む。
1機につき2人か3人、このヘリには身軽な私とISをつけっぱなしの本音と山田先生・・・。
「・・・大丈夫?」
「い、いっつおーらい~」
「せ、先生のことは気にしないでください・・・っ」
流石にヘリの中だと、ISをつけたまま乗せるのは難しくて。
2人は身体の半分くらいが外に出てて、何と言うかもう、ぶら下がってるような状態だった。
・・・他の2機のヘリコプターも、似たような物だけど。
「それで、かんちゃん・・・ここからどうするの~」
「まずは、種子島に向かう・・・」
「ええっ、でも空からは無理ですよ?」
「大丈夫、志布志湾の海上石油備蓄基地で、虚さんが待ってる・・・」
「え、お姉ちゃん~?」
・・・楯無姉さんが、言うには・・・とにかく、篠ノ之博士の作業を妨害することと、ナノマシン・フィールドの解除が最優先。
そうでないと、国連軍は反撃できないままに負ける。
そのためには今占拠されてる種子島宇宙センターの総合司令棟を奪還・・・は無理でも、電源を落として使用不能にして、代わりに宇宙センターの北18キロにある増田宇宙通信所にセンターの機能を集約する。
それから、大型射場で建造中の宇宙船・・・そのための物資の搬入を止める。
海岸線の橋頭保を破壊して、建造を遅らせる・・・破壊、工作。
後は、フィールドさえ止められれば・・・でも、たぶんアレは私達には無理だと思う。
「・・・畜生、見つかった!」
「3機でバラバラに飛ぶ、とにかく嬢ちゃん達を湾まで運ばねぇと!」
ヘリの背後から擦過する赤色のレーザー、ヘリは激しく機体を揺らしながら回避する。
本音と山田先生が悲鳴を上げる中で、私はヘリにしがみ付きながら唇を噛んだ。
後方の無人機を、睨みつけながら・・・。
・・・私じゃ、あのフィールドの制御システムはどうにもできない。
けど、ずっとナノマシンに触れていた・・・楓、なら。
楓がいてくれたら、きっと・・・!
「・・・?」
・・・何、だろう。
楓のことを考えた途端、胸が・・・きゅうっ、て痛くなった。
漠然とした不安が、胸をザワつかせる。
・・・楓・・・。
・・・忘れないで、大丈夫だって。
私は、大丈夫って・・・信じてる、から。
だから・・・また、一緒に。
Side 篠ノ之 楓
叫ぶ。
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ・・・喉が潰れるくらいに、叫ぶ。
何のために?
否定するために。
そんなはずは無いって、それは違うって、そんなのは嘘だって。
嘘なんて吐いたことも無いくーちゃんさんが、今に限って嘘を吐いたんだって。
思い込ませるために、自分自身に。
「落ち着いてください、楓さま」
叫び続ける私を、くーちゃんさんがぎゅうっと抱き締めてくれる。
その声音は本当に優しくて、心から私を労わってくれてるんだってわかる。
労わる? 誰を? 私を? ・・・「わたし」を?
もう、死んでるのに?
私・・・「篠ノ之楓」は、私の目の前で半分くらいミイラみたくなってるのに?
そしてこの身体は、「篠ノ之楓」・・・その死体から切り取った細胞を増殖させて再構成した、ただの肉の塊なのに?
そして私が「わたし」だと思ってるこの意識は、『黒叡(こくえい)』の中に蓄積されたただの記憶・・・ううん、「記録」でしか無いのに?
「私は・・・誰なのおぉっっ!!??」
「楓さまです。篠ノ之楓、束さまの愛する妹君。そして願わくば私の家族(ファミリー)」
「違う!!」
違う、違うんだよ!
もし、くーちゃんさんの言ってることが全部、本当なら。
私は「篠ノ之楓」じゃない、それに極めて酷似したナニカでしか無い。
たとえ身体の構造が細胞・DNAレベルで同じでも、記憶や経験、感情まで同じだとしても。
同じじゃ、無い。
同じであり得るはずが無い、生物学的にも遺伝子工学的にも心理学的にも。
機械だって、同じ機械で量産しても全く全部が同じ物ができるわけじゃない。
なら「わたし」は、「篠ノ之楓」と同じであるわけがない。
偽物だ、いや、贋作・・・!?
「楓さま、どうか落ち着いて・・・大丈夫です、肉体の乗せ替えなど、私も良くやっています」
ご覧ください、とくーちゃんが示した先には何十も並ぶ半透明の培養槽。
そこには、くーちゃんそっくりの女の子達が丸くなっていた。
まるで、眠っているみたいに。
「肉体など、ただの容れ物です。湯呑みに入れようとグラスに注ごうと、中身の飲み物は変わらないでしょう? それと同じです、言ってしまえば服のような物ですよ」
「違う・・・!」
「違いません。現に私はこうしているじゃありませんか、北極で殺された私もここにいる私も全く同じ「くーちゃん」と言う個性を得ています。楓さまの全てが『黒叡(こくえい)』にあるように、私の情報も別の場所にあるのですから」
「くーちゃんさんの、情報?」
「ええ・・・楓さまだけに、お教え致します。束さましか知らない秘密なので、誰にも教えないでくださいね?」
まるで子供でもあやすように唇に指を当てて・・・くーちゃんさんが嗤う。
「と言っても、楓さまは一度、すでに触れられていますよ」
「え・・・」
「・・・束さまのお部屋で、良く悪戯をされていたではありませんか」
束お姉ちゃんの、部屋で・・・悪戯を。
悪戯、悪戯・・・?
・・・って、まさか・・・そんな、こと。
「私の名前のくーちゃん・・・『く』は、頭文字です。ではこの『く』を最初に戴く単語で、私の名前になりそうなのは何でしょうか・・・?」
「・・・く・・・Crohn?」
「Heart of the Queen」
流暢な発音で、くーちゃんさんが私の答えを否定する。
どこか妖艶さを称えた笑みを浮かべて・・・くーちゃんさんがずっと閉ざしてた瞳が、ゆっくりと開かれて・・・。
「Heart of the Queen・・・<
くーちゃんさんの白い瞼が、震える。
いつの間にかくーちゃんさんの白い手が私の両頬を挟んでて、瞳を合わせるように覗きこんで。
そして。
「さぁ、楓さま・・・どうかもう落ち着いて、そして全てが終わった後には」
瞳が、光ってる。
くーちゃんさんの瞳は、ほとんど真っ白で・・・だけど、瞳の中に幾筋もの金のラインが走ってる、不思議な瞳だった。
それが、微かな輝きを放ってて・・・まるで、電子回路みたいな。
「宇宙に行ったら、束さまのために、また一緒にチョコレートを作りましょう」
そんな・・・そんな、おぞましいことを言うくーちゃんさんに。
私は、「わたし」は。
狂ったように、悲鳴を上げた。
Side 篠ノ之 箒
ズクンッ、と。
胸の奥が、締めつけられたように感じた。
思わず、胸を押さえてしまう程に。
「・・・?」
何か、大切な何かが変質してしまうかのような。
そんな、胸騒ぎのような物を感じた。
胸騒ぎは、胸の鼓動は、次第に焦燥感へと変わって行く。
だがその正体がわからない、この焦燥感は何だ?
いったい、何に対して嫌な予感を感じている・・・?
だが、心が・・・魂が騒ぐ。
早く。
速く、行かないと。
子供の頃から、何度も感じたことのある焦燥感。
自分の半身が、大きな・・・変化に、直面する感覚。
「・・・箒? 箒、どうしたんだよ、おい」
「・・・あ?」
気が付けば、私はその場に膝をついていた。
両膝を地面につけて、胸を抱くように蹲っていた。
心配そうに声をかけてくる一夏に、曖昧な笑みを向ける。
「あ、ああ・・・すまない、何でも無いんだ」
「いや、でも・・・」
「箒、大丈夫?」
「ああ、ありがとう、シャルロット」
紳士的に(同性だが)手を貸してくれるシャルロットに礼を言って、立ち上がる。
一夏は心配そうな表情を崩さないが、それに「大丈夫だと」もう一度告げて顔を上げる。
心配は嬉しいが、今はそれどころでは無いだろう。
もう、この屋久島にまで戦線が広げられている。
ハイパーセンサーで見る必要も無い、ほぼ肉眼で見てとることができる程に近い。
空には戦闘機が、海には艦船が、そしておそらくは陸地でも人々が。
『紅椿(あかつばき)』によれば2000機以上の無人機が、そうした者達に群がっている。
そこかしこで爆発が起き、戦闘機は墜落し、艦船は沈むのが見える。
大多数は脱出しているようだが、戦死者が出ていないとはとても思えない。
「・・・IS部隊がいないのは、ナノマシン・フィールドのせいだろうな」
「ええ、通信によれば・・・稼働率が0になっているとか」
稼働率が0、そんなセシリアの言葉に首を傾げる。
「0だと?」
「ええ、でも私達のISは10%前後で稼働しておりますし・・・この差は、何なのでしょうか?」
「何って言われてもねぇ・・・私らにはわかんないわよ」
「『非限定情報共有(シェアリング)』だ」
「「「は?」」」
私達の疑問に答えたのは、意外にもラウラだった。
『非限定情報共有(シェアリング)』とは、ISコア同士で情報のやり取りを行い、自己進化するための物だったはずだが・・・。
「私達の機体は、おそらくは『黒叡(こくえい)』との間にネットワークを築いている。それがナノマシンへの耐性能力を付与しているのだろう。前々からどこと繋がっているのか不思議だったが・・・『黒叡(こくえい)』だったとはな。おそらく、楓の整備を受けていた機体はある程度のナノマシン耐性を持っているはずだ」
「そうか・・・」
その仮説に、皆がしんみりと自分の機体を見下ろす。
私や一夏の機体は、元々ナノマシンには耐性がある。
だがラウラや鈴達の機体にある程度の耐性があるのは、楓との繋がりの象徴だ。
それは、何だか・・・。
「・・・おい、あの戦闘機・・・」
「え?」
一夏の声に振り向くと、確かに空に戦闘機が見えた。
種類はわからないが、とにかく戦闘機らしいと言うのはわかったが・・・後部のエンジンから黒煙を吐いちるのが見える。
無人機にやられたのだろうか、コクピットから何かが飛び出して・・・パイロットの脱出を確認する。
だが戦闘機自体は、ぼっ・・・と燃えながらこちらにっ・・・!
「こ、こっちに落ちてくるわよ!?」
「幸い、パイロットは脱出している様ですし・・・撃ち落としましょう」
「待て、それでは敵にこちらの位置が知れる!」
撃ち落とそうと提案するセイリアに対し、ラウラは退避を優先すべきだと言う。
しかし戦闘機は思いの外、速く落ちて来ていて・・・墜落音が、普通に聞こえるほどに。
仕方無いか、と刀を抜こうとした、刹那。
戦場に、雷鳴が轟いた。
◆ ◆ ◆
IS登場以降の戦闘機開発は、ISへの開発投資が増加するのと比例して減額されていった。
それは他の兵器についても言えるが、特に航空戦力としての戦闘機の開発の必要性が下がったためである。
戦闘機でISに勝てるはずもない―――それが、国家上層部の考えであった。
そのため、アメリカを含む各国空軍・海軍が保有する航空戦力はいわゆる第5世代型戦闘機と呼ばれる物が最上級の物となる。
特に菱形翼の後方に主翼と似た平面形の全遊動式水平尾翼を持つアメリカ海軍のその機体は、最大推力において他国の戦闘機とは比べ物にならない、まさに世界最強の看板を背負う統合打撃戦闘機である。
・・・が、それもあくまで「戦闘機の中では」と言う条件がつく。
『デルタ2、デルタ1の後方に敵機3、援護を要請します』
(・・・んなことは、わかってんだよ!)
超高高度の管制IS『八咫烏(やたがらす)』から入る戦術報告に、デルタ2―――戦闘機編成におけるウイングマン―――のパイロットは、言葉を発することも無く頭の中だけで毒吐いた。
ヘッドマウントディスレイ・・・フルフェイスのヘルメットに覆われた顔は、苦悶に歪んでいる。
訓練された戦闘機乗りでも、音速戦闘下での急速旋回を繰り返せば意識が飛ぶ。
いわゆるブラックアウトと呼ばれる現象だが、今まさに、彼はその危険性に直面していた。
相棒のF-35が後背に敵機(むじんき)に喰いつかれて危機に陥っているのはわかるが、その後背を守るべく配置された彼の機体は、パイロットの身体に絶え間ないGを与えている。
アフターバーナーを使用し推力を増してなお、無人機の機動性には対応できない。
(や、やぁべえええぇぇぇぇえぇっっ!?)
普通、ウイングマンには編隊のリーダーよりも腕前の劣る人間がつく。
彼もまたしかりで、言ってしまえば彼は自分よりも腕の立つ戦闘機乗りが全力で逃げているのを必死に追いかけている状況なのである。
もちろん、リーダー・・・デルタ1のパイロットは、戦闘機以上に3次元的に飛翔する無人機3機から逃れようと必死な状況なので、責めることはできない。
機体を横滑りさせ、あるいは急速な角度で旋回し、急上昇した後に方向を変えたり。
しかしその必死な機動にも、無人機はこともなげについてくる。
戦闘機とIS、どちらが優れた兵器であるかは論ずるまでも無かった。
そうこうする内に、デルタ1の機体の後部エンジンが燃え上がった。
無人機がレーザーを掠めさせて、爆発させたのである。
音速から急速に失速し、風を切る音を立てながら墜落するF-35。
(マック!!)
僚友の安否を気遣う暇は、彼には無かった。
僚機を撃墜した無人機が振り向き、今度は彼にレーザーを放ってきたからである。
そしてそれを回避することもできず、彼の機体もまた翼を掠めたレーザーによりバランスを失う。
傾き、横滑りするように滑空を始める。
「ずぁ・・っ、クソッ、○○○○!」
少し汚ない言葉を吐きながら、彼は頃合いを見計い機体を捨てて脱出した。
そのための訓練を受けていたし、何よりも無人機の狙いが半端だったのか・・・それに追撃も無かったので、味方の砲撃などに気を付けてさえいれば、脱出は簡単だった。
ぱんっ・・・と空気の抜けるような音と共に、彼の身体が座席ごと空に放り出される。
残された彼の機体は火を噴きながら、近隣の海か島に墜落を・・・。
「・・・な、何だ?」
墜ちて行く自分の機体を見ていた彼は、別の物に目を奪われた。
それは、空だ。
先程まで自分が飛んでいた空には、各国の航空機とそれ以上の数の無人機が飛翔している。
それ以外は、艦艇からの対空砲火だけ。
しかしそこに、別の物が現れる。
戦闘海域から見て東側、太平洋・・・ハワイ、そしてアメリカの方角。
そこから、肉眼で捉えるのがギリギリな程の速度で何かが飛来した。
しかもそれは、1つでは無いようだった。
2つ・・・そう、2つの光が、線となって飛来する。
それはまるで、雷のようにも見えた。
「な・・・何だぁ?」
無人機も、火線も、何もかもを擦り抜けて。
それはちょうど、彼の目の前で2つに別れた。
◆ ◆ ◆
Side 織斑 一夏
屋久島・・・もっと言えば俺達のいる場所に落ちて来た戦闘機が、いきなり爆発した。
誰も乗って無いみたいだったから、爆発の余波を避けるために身構えるだけで済んだ。
一陣の風と熱が通り過ぎた後には、パラパラと落ちてくる暗灰色の戦闘機の破片だけが降ってくる。
「・・・なぁ、今の」
「え、ええ・・・」
でもそれ以上に気になって、俺は爆発の後の煙の中から降ってくる破片を気にしながらも、セシリアの方を見た。
『ブルー・ティアーズ』を身に着けたセシリアは、その顔を驚きの色に染めている。
それは、そうだろうと思う。
何故なら、戦闘機を落としたのは・・・赤いレーザーだった。
もっと言えば、赤い「BT」レーザーだった、『白式(びゃくしき)』に映った数値はそう言ってる。
レーザーとBTレーザーは違うから、ISが間違えるはずもない。
しかも戦闘機を撃ち抜いたレーザーは、虚空からいきなり放たれたように思う。
それはつまり、セシリアの射撃ビットみたいな兵装。
「・・・私は、ビットを展開しておりませんわ」
「このあたりに、イギリス軍は?」
「いるはずもありません。私とラウラさんだけがガルシア島から先行したんですのよ、つまり」
きっ・・・と、セシリアが空中を睨む。
俺も同じように視線を上げる、そこには爆発の煙が晴れて・・・透き通った空が、戦場の赤に染まる空が見える。
だけど、それだけじゃ無かった。
「ふん・・・揃いも揃って、ガン首を並べてコソコソと・・・」
そいつは・・・晴れていく煙の中から出て来たそいつは、不遜そうな態度でそう言った。
腰に手を当てて、星を砕くと言う意味の名前の銃剣を片手に下げて。
肩のあたりに、装甲と同色のビットを浮遊させながら。
深い・・・深い紺に近い空の色のISが、そこにいた。
広がった青いウイングスラスターが、まるで翼のように見える。
スラスターから放たれる深い青色の粒子が、まるで操縦者を天使か何かのように彩る。
だけどそいつは、間違っても天使じゃない。
「お前・・・!」
「ああ、皆まで言うな。言わずとも言いたいことはわかっている、だから私はあえてこう言おう」
肩のあたりまで伸びた黒髪、瞳はバイザータイプのセンサーを顔につけていて見えない。
15歳くらいの細い体躯、蒼の装甲と同色のスーツの間から白い肌が見える。
その肌には、所々に傷跡が見えた。
形の良い唇をぺろりと真っ赤な舌先で舐めて・・・妖艶に、俺達に、俺に手を差し伸べてくる。
「ただいま、一夏兄(いちかに)ぃ」
エム・・・織斑マドカ。
織斑マドカが、やたらに馴れ馴れしい呼称で。
俺の事を、呼んだ。
Side 篠ノ之 束
「・・・うん?」
何だかちょっと気になって、束さんは珍しいことに手を止めた。
束さんが気にするなんて、なかなか無いことだよ。
まぁ、そうは言ってもやることも無かったんだけどね。
『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』は放っておいてもできるし、外で何か頑張っちゃってる凡人共のドンパチも興味無いし、使い捨ての楓ちゃんの身体をデコレーションするのも飽きたしね。
あんまりにも暇だったから、『大綿津見神(おおわたつみ)』の大広間のネジの数とか数えてたよ束さん(まぁ、何本使ってるか最初から知ってるんだけど)。
「おんやぁ・・・?」
・・・今度は気のせいでなく、はっきりと聞こえたよ。
微かに、でも確かに、ビリビリと床を通じて靴の裏に響くように。
まるで、遠くでドラが鳴ってるかのような音が何度も響く。
ズン・・・ズズン・・・ズンッ、て、断続的に床に振動を与えながら、だんだんと近付いて来るのがわかる。
それに束さんは、嬉しくなる。
中学の時から変わらない、思わずワーグナーでもかけたくなるこの雰囲気。
そして、靴の裏に伝わってくる振動が、すぐ近くにまでなった時。
「・・・・・・?」
全部が、止まった。
音も、振動も、何もかもが止まった。
それに束さんが不思議に思って、首を傾げていると・・・。
出入り口の無い大広間の壁を、何かが突き破って来た。
何かと思えばそれは、戦女神(ヴァルキュリー)型(タイプ)の無人機、「ゴーレムⅤ」だった。
胴体が何かに殴られたようにヘシ折られていて、上半身と下半身がほとんど別れてるような状態。
床の上に壁の残骸と一緒に投げ出されたそれは、バチバチとスパークを走らせる。
「うふふ・・・相変わらず乱暴だなぁ」
ブチ破られた壁は、まだ罅割れが続いていて・・・パラパラと破片を落としてる。
そしてその破片を払うように腕を振って、誰かが入ってくるよ。
片手に、もう1機の「ゴーレムⅤ」の頭を持って引き摺りながら。
「・・・・・・乱暴?」
大広間に入って、息を漏らすように鼻で笑う。
それと同時に、掴んでいた「ゴーレムⅤ」を事も無げにぶん投げる。
まるで壊れた玩具みたいに、3メートルはある巨体が床に触れることなく100メートル先の壁に激突して、また穴を開ける。
別に束さんは良いけど、何もそこまで壊さなくても良いのに。
「こんな人形を作って悦に浸るような奴に、言われたくは無いな」
「あ、ひっどぅ~いっ。束さん渾身の力作なのにぃ!」
「嘘吐け」
「うん、嘘だよ」
長い黒髪、綺麗な黒曜石の瞳。
束さんと同い年で、同じくらいのスタイルで、同じくらいの天才で。
生まれた時に、同じことを考えた大の親友。
それを見て、束さんはえへへと笑う。
そんな束さんを見て、物凄く迷惑そうな顔をする彼女。
それが、いつも通りの私達。
「待ってたよ、ちーちゃん」
「ああ、待たせたな、束」
紅桜色のISで全身を覆ったちーちゃん・・・織斑千冬が、シニカルな笑みを浮かべて束さんを見上げる。
うーん、クールビューティー♪
「さぁ、お仕置きの時間だ」
えぇ―――・・・。
束さんが超がっかりな顔をすると、ちーちゃんは物凄く嫌そうな顔をした。
戦場の華、空に紛れて歌い踊る。
積極的に介入する者、不承不承に介入する者、静観を望む者。
あるいは、全ての否定する者。
千の冬を超えて来る者は、戦場を一手に束ねる者に問う。
そなたは、何を望んで行うのかと。
問いには答えが返る。
望んでなどいない。
自分はただ、望みを叶えるだけだと―――――。