アメリカ合衆国首都ワシントンの時計は、午後9時を指した所だった。
誰もが仕事終わりの一杯を家族の待つ家で飲んでいるような時間、しかしワシントンのある一室では世界で最も重要な電話が行われていた。
「・・・ああ、うん。わかっている、技術供与については・・・」
ペンシルバニア通り1600番地、アメリカで最も有名な場所に立つ白亜の建物。
俗にホワイトハウスの名称で親しまれるその建物の大統領執務室(オーバルオフィス)で、その男は遥か遠方の人間と電話を行っている。
その電話は見かけは古い型だが、中身は技術の粋を集めて造られた最新型の電話だった。
何故ならばその電話はホットラインと呼ばれる専用回線と繋がる電話であり、時として第3次世界大戦を防いできた実績を持っているのだから。
そしてアメリカ大統領の執務室と直通専用回線を持つ国は、限られている。
「では、事件後の東アジアサミットでお会いできることを楽しみにしているよ、ロシア連邦大統領閣下」
今回の相手は、遥か彼方・・・モスクワにいる相手だった。
篠ノ之束に対するロシア軍の協力を得るため、アメリカ大統領である彼自身が望んだ電話会談だった。
そして今、どうにか協力を取り付けた所だった。
軽い音を立てて受話器を置くと、世界最高の権力者は革の・・・「大統領の椅子」に深々と座って溜息を吐いた。
「お疲れ様です、大統領」
「まったくだ。これだから雪山の俗物の相手は疲れる」
「雪山に籠ると、頭の回転も鈍くなりますからな」
「はは、違いない」
電話が終わるのを見計らって執務室に入って来た首席補佐官に、大統領は明るい笑顔を返す。
閣僚と異なり大統領補佐官には大統領の個人的友人が就くことが多い、彼も例外ではなく、大学時代からの親友をブレーンとして補佐官に任命していた。
「議会の方はどうだ? タバネ・シノノノに対する軍事行動を認めそうか?」
「下院は問題ないでしょう。しかし上院は野党が多いので・・・」
「難しそうか?」
「おそらく」
「そうか・・・まぁ、次の朝までには日本での戦闘は終わっているだろう。事件後の議会での答弁書は用意しておけよ」
アメリカ大統領は軍を指揮する権限を有しているが、軍を動かすには議会の承認がいる。
緊急事態に対応するため、議会の承認は後回しにできる慣例があるだけだ。
なので事件の前後と最中、議会工作が必要になってくる。
実際、在日・在豪の米軍を動かし始めてから工作は続けられている。
そして次の朝までに終わる、と言う大統領の言葉は真実を突いている。
篠ノ之束の宣告した時間には終わるのだが、真実も何もないわけだが。
目をマッサージするように瞼を指先で揉みながら、大統領が訪ねる。
「スピルアースは、勝てそうか」
スピルアースと言うのは、今まさに日本で戦っている第7艦隊の指揮官の名である。
欧州からの援軍の手配もし、ロシア及び中国などの援護も取り付けた。
日本の動きに不安が残るが、基本的には法的環境も整えた。
大統領として出来ることは全てした上で、彼は現場の指揮官に全てを委ねているのである。
「勝てると、信じたい所ですな」
「・・・そうだな、そうでなければ『サラシキ』のお嬢さんに加担した意味が無い」
国際IS委員会の不祥事で傷付いた政府の威信を取り戻すためにも、彼らは勝利を必要としていた。
それもただの勝利ではなく、北極海での尻拭いのような勝利でもなく、将来にまで語り継がれる勝利を。
そうでなければ明日を生きることも、1年後の大統領選挙で再選されることもできないのだから。
◆ ◆ ◆
Side 篠ノ之 箒
織斑マドカ、国際的テロリストグループ亡国機業(ファントムタスク)の一員。
一夏のことを「兄」と呼び、千冬さんのことを「姉」と呼ぶ少女。
イギリス製第3世代型IS『サイレント・ゼフィルス』の非公認パイロットであり、かつて私達をIS学園から連れ出した女。
北極海の事件において、千冬さんと共に消息を絶った人間。
それ以来、どうなったのかわからなかった。
いや、むしろ死んだものと思ってさえいた。
「ふふ、どうした? 死人でも見たような顔をして」
しかしその死んだとばかり持っていた女が、前と変わらぬ皮肉そうな笑みを浮かべて私達を見下ろしている。
蒼色の装甲のISを身に纏い、愉快そうに身ぶり手ぶりまで加えて。
ウイングスラスターから放出される深い空色の粒子が、陽光に煌めいてマドカを包んでいる。
アレは前に見た時は、無かったはずだが・・・。
「てめぇ・・・何でここに!?」
「さっき言ったろう、一夏兄(いちかに)ぃ。ただいま、と」
「ふざけんな! 気持ち悪い呼び方すんじゃねぇよ!!」
確かに、「一夏兄ぃ」などと言う呼称をするような人間には見えない。
そしてそれ以上に、一夏の反発心が強い。
かく言う私も、最後に千冬さんと別れた時のことを思えば友好的にはできない。
「私だって呼びたくは無い。だがねぇさんがそうしろって言うから・・・」
「・・・千冬姉?」
だが、その固有名詞が一夏の様子を変える。
そして思い至る、千冬さんとマドカが同じ場所にいたことを。
マドカが生きているのであれば、同じ場所にいた千冬さんが無事でも不思議では無い。
「信じられんな」
「そーね、テロリストだしね」
そう言って私と一夏を守るように前に出たのは、ラウラと鈴だ。
ある意味で、最もブレの無い2人と言える。
だがそんな2人を見て、マドカが浮かべた表情は「嘲笑」だった。
「そんな稼働率で、私の前に良く立っていられるな」
「・・・条件は、お前も同じはずだが」
「違うな、ドイツの遺伝子強化体(アドヴァンスド)」
そして見せつけるように、ウイングスラスターから放出される空色の光を手で弾いてみせる。
ぱっ、と広がったそれは、空から落ちた滴のようだった。
確かにマドカの機体は、ラウラ達のそれに比べて動きが遥かにスムーズなように見える。
このナノマシン・フィールドの中でまともに動けるのは、私や一夏、楓くらいだと思っていたが。
「千冬姉は・・・無事、なのか?」
マドカとラウラが睨み合う中、聞こえて来た一夏の声はどこか掠れて聞こえた。
対するマドカは、そんな一夏の言葉に唇を笑みの形に歪める。
それはいつものシニカルな物では無く、どこか温かさをたたえた物だった。
Side 織斑 一夏
千冬姉が、無事かもしれない、生きてるかもしれない。
それは俺が自分で思っているよりも、大きな衝撃を俺に与えて来た。
もちろん千冬姉は生きてるって信じてたし、「わかってた」気もする。
だけどこうして千冬姉と一緒に消えたマドカが・・・エムが現れて。
ゆっくりと、その指先を種子島に・・・さらにその向こうの海に向けて。
はっきりと、指差した。
「あそこで、待ってるよ」
妙に幼さを感じさせる声で、エムはそう言った。
待ってる、その言葉の意味を飲み込む。
千冬姉が、俺を、待ってる。
正直な所、エムの言うことが真実だなんて保障はどこにもない。
むしろ信用なんて出来たもんじゃないと思う、コイツはテロリストだ。
たくさんの人を傷つけて、千冬姉を道連れにもした。
恨んでるし、憎んでる、大嫌いだ。
だけど・・・。
「・・・一夏」
そっと、シャルロットが握り締めた俺の拳に手を添えてくる。
ISの装甲越しに、シャルロットの温もりが伝わってくる気がする。
シャルロットの手はいつも、優しさと温かさに包まれている気がする。
「僕達は、一夏の決断を信じるよ。そのためにいるんだから」
そう言って笑うシャルロットを、俺はじっと見つめる。
それから、エムの登場に面白く無さそうな顔をしているセシリアを。
相変わらずの無表情で何かを考えてる、ラウラを。
そして・・・・・・何でか俺を物凄い目で睨んでる、鈴と箒を。
皆、俺の大切な仲間だ。
頼りにしてるし、頼りにされたいと思う。
その皆が、この場では俺の決断を信じてくれる。
立場はそれぞれ違うけど、それでもそれぞれの立場から俺の決めたことを手伝ってくれる。
それがとても、有難かった。
「・・・俺は、お前のことなんか信頼してない、エム」
「そうか、私も別にお前の信頼など必要としていない」
「・・・・・・だけど、信用はしてる」
信じて頼ることはできないけど、信じて用いることはできる。
その力を・・・そして。
千冬姉への、想いの強さを。
「だから、お前の口車に乗ってやるよ・・・エム、俺達を千冬姉の所まで連れて行ってくれ」
「正直、一夏兄ぃ以外は来なくても良いのだが・・・・・・まぁ、良いか」
ふん、と鼻で笑って、エムは俺達を眺めながらそう言った。
それはどこかつまらなそうな顔だったけれど。
「良いだろう、お前をねぇさんの所まで連れて行ってやる」
昔の千冬姉に、そっくりだった。
俺に何かされた時の―――忘れ物の着替えをホテルに届けに行った時とか―――千冬姉の。
照れたような、そんな顔だった。
◆ ◆ ◆
高度1万メートル以上・・・遥かな空の上から、日本の代表候補生である白川(しらかわ)暁陽(あさひ)は戦場管制官としての役割を果たしていた。
司令部と現場の人間に情報を届け、余裕があれば個々の航空機に警告を発する。
そんな彼女の周辺には、彼女の機体である『八咫烏(やたがらす)』以外にも各国の早期警戒管制機が飛んでいる。
最初はアメリカ軍の「E-10」や自衛隊の「E-767」だけだったが、時間が経つに連れてロシアの「An-71」や中国の「KJ-2000」など、今や各国の名だたる管制機が戦場の空を飛んでいる。
普段であればスクランブル対象だが、今日に限っては黙認されている。
「・・・『カウペンス』、『シャイロー』、巨大潜航艦がSSMの射程内に入ります」
空を飛びたいと言う願いでISに乗ったと言うのに、何故自分はこんな所で戦争などしているのだろうか?
不思議で仕方が無いが、今は黙々と任務をこなす暁陽だった。
今は在日米軍第7艦隊の戦闘部隊に、求められた情報を提供するだけだ。
幸い、相手はほぼ無人機に限定されている。
そして眼下で、暁陽と米軍管制機の管制に従って米豪の8隻のミサイル巡洋艦・駆逐艦がミサイル攻撃を仕掛ける所だった。
その周辺では無人機に性能で劣る米豪の戦闘機が、必死で艦隊の攻撃を援護している。
そして放たれるのは対IS用に改良されたハープーンSSM、日本では「螺旋塊弾」の呼称で知られる対艦誘導弾である。
内部機構にドリル108個・フック3本を持ち、ドリルの先端に付けられた極小のダイヤモンドが瞬間冷却剤と共に回転してエネルギーシールドを抉り、最終的にミサイルが起爆する仕組みだが・・・。
『「八咫烏(やたがらす)」、そちらからSSMの効果がわかるか?』
「・・・・・・皆無です」
『何だと? もう1度言ってくれ』
「皆無です! ハープーン・ミサイルの効果は皆無! 巨大潜航艦に損害はありません!」
『なん・・・だと・・・!』
眼下の巡洋艦の通信手の絶句する様子が、暁陽には容易に想像できた。
何故ならば米豪の艦隊が放った100発以上の対艦ミサイルは、その悉くが巨大潜航艦『大綿津見神(おおわたつみ)』に命中すらしなかった。
防がれたのだ、その直前で・・・。
「・・・エネルギー・シールドです! 目標は艦体全体を覆う数十キロ規模のエネルギー・シールドを多重に展開した模様! ステルス機能を持っているようで、ミサイルが命中するまで存在そのものを確認できませんでした・・・!」
『数十キロ四方のエネルギー・シールドだと!? そんな規模、聞いたことが無いぞ!』
聞いたことが無くとも、今まさに目の前で展開されたのである。
これを何とかしない限り、篠ノ之束がいると思われる巨大潜航艦に損害を与えることは不可能だった。
少なくとも、通常兵器ではとても・・・。
次の瞬間、『八咫烏(やたがらす)』のすぐ傍で航空機が1機、爆発した。
高度1万メートル―――ナノマシン・フィールドは8000メートル程度まで効果を持つ―――そこに、雲を裂くような紅色の閃光が走り、中国の管制機「KJ-2000」の翼に穴を開けたのである。
翼から火を噴きながら、中国の管制機が墜ちて行く。
下手をすれば死ぬ・・・そしてそれを追いかけて行けば、高度8000メートルを超えてこちらへと向かってくる数機の無人機が見えた。
「そんな・・・!」
管制機である『八咫烏(やたがらす)』には、武装が存在しない。
それは他の管制機も同じであり、慌てて移動しようとするが・・・1機、また1機と機体に損傷を受けて離脱・・・早い話が、墜落して行く。
「く・・・!」
暁陽は歯噛みする、現代の戦争において早期警戒管制機は不可欠の存在である。
戦場全体の情報を全て衛星に頼ることは難しい、警戒機の役割を果たす存在が全滅するのは即敗北を意味する。
とはいえ『八咫烏(やたがらす)』には武装が無い、無人機にはとても対抗できない。
離脱するにも、敵の方が何倍も速度がある・・・そしてその無人機が、片腕の砲身を自分に向けてくる。
数も多く、回避は不可能。
暁陽はキツく目を瞑り、東京にいる両親のことを想った。
・・・・・・しかしいつまで経っても、レーザーは襲って来ない。
<敵機、離脱を確認>
「え・・・?」
ISがもたらす情報に目を開けてみれば、先程まで迫ってきていた無人機が全ていなくなっていた。
厳密に言えば、急速に高度を下げて元の空域に戻ろうとしていた。
まるで、何かを防ごうとするかのように・・・。
◆ ◆ ◆
Side 織斑 マドカ
ふん、数は揃えたようだな・・・だが、数ばかりいた所で何の意味も無い。
私と『サイレント・ゼフィルス・ヘルヴォル』を前には、数的優位など問題にならない。
何故ならば私は、一騎当千の力を授かって生まれて来たのだから。
屋久島から飛び立ち、ナノマシン・フィールドの効果でそこまでの速力が出せない奴らにも合わせて飛んでやる。
私がねぇさんから頼まれたのは一夏兄(いちかに)ぃ(この呼称、本気で何とかならない物だろうか)のことだけであって、正直に言って他の奴らなど知ったことでは無いのだが。
まぁ、一夏兄ぃのついでとでも思っておけば良いだろう。
「私が道を開ける。お前達はゆっくりとついてくるが良い」
「あ、ちょ・・・おい!」
森の中から浮遊した6機の「連れ」に向けてそう告げると、私は空気を蹴るように加速して上昇する。
機体を通じて伝わる急加速の振動が、そのまま私の胸の奥から感じる脈動とシンクロする。
これは「興奮」・・・そう、「興奮」しているのだ、私は!
何故か? 理由などおどらくは聞くまでも無いだろう。
後方を見れば、10%程度の稼働率で動く遺伝子強化体(アドヴァンスド)達と速度を合わせて飛翔する篠ノ之箒と織斑一夏・・・一夏兄ぃ(本当に何とかしたい、ねぇさんの「罰」は意外と厳しいな)。
あれほどに憎んでいたはずの私を、それでもどこか心配そうな色を浮かべて見つめる顔。
それを見ていると、不思議と胸の奥が疼く・・・「興奮」で。
「危ない!」
不意に、一夏兄ぃが叫び・・・それとほぼ同時に、私は自分の前に立ち塞がった無人機の胴体をビーム上の刃を備えた銃剣で切り裂いた。
爆発し、小さな破片となって散る無人機・・・すると、他の無人機も私に気付く。
眼下の艦艇からは絶え間無くICM砲の火線が飛び、上空では無人機の撃墜された戦闘機が炎の華を咲かす。
蟻の這い出る隙も無い、濃密な「死」をもたらす現象で満ちた戦場。
その中で、過去に見たどの無人機よりも性能が高いだろう無人機の群れが一斉に私を見る。
捕食動物のように私を包囲し、レーザーを放って逃げ場を奪い、光り輝くブレードで近接戦闘を仕掛けてくる。
そんな危機的状況の中、私は。
「・・・ザコ共が!!」
両手を広げ、射撃ビット6基を放つ。
それらは私の脳波に従い、鋭角的な機動を繰り返しながら射撃を開始する。
当然、BTレーザーは回避されるが・・・・・・
かわされたビームが反転し、回避したはずの無人機にビームが突き刺さる。
しかもそれだけに留まらない、まるで空気中で乱反射でもするかのように何度も曲がる。
最初は6本、次に12本、さらに18本・・・と、一発放つ度にビームは6本ずつ増えて行く。
際限無く、エネルギーが続く限り、私の脳が制御できる限界に達するまで。
これぞ偏向射撃(フレキシブル)の究極系、終わらない狙撃の完成系だ。
最終的に、私が操るBTレーザーの本数は48本にまで膨らんだ。
「うふふ―――――」
目の前に立ち塞がる無人機を撃墜し、後ろの連中に迫っていた無人機を貫き、上空から降下して来ていた無人機を破壊し、横で戦闘機を追いかけていた無人機を落とし、眼下で艦艇に射撃を加えていた無人機を撃って、瞬く間に100機近くの無人機を粉砕する。
「ふふふ、ははははは・・・っ」
しかし戦略の基本は「数を揃える」こと、流石に敵の数が多く道が狭いな。
まさか私の「兄」の進む道が狭くて良い訳が無い、ごっそりと抜けてもらう必要がある。
ちょうど無人機は、ナノマシン・フィールドの影響を受けていない私を最重要の脅威と認めたらしい。
巨大潜航艦へと向かう私の前に、自動で動く無人機達が集まって来た。
私はそれに、唇を舌先で舐めることで応じる。
対ナノマシン兵装・『
ナノマシン兵装によってねぇさんに手も足も出なかった私が、最後に『ゼフィルス』に願った武装。
すなわち、ウイングスラスターより漏れるこの輝きこそが・・・「ナノマシンを弾くナノマシン」!
「消えろ、ザコ共ぉっっ!!」
48本のビームを全て私の下に集め、目前で束ねる。
太い光の矢となったそこに銃剣『スターブレイカー』の銃口を向ける・・・最大収束、BTレーザー。
銃口に膨れ上がった輝きは、一旦収縮して消え・・・引き金を引くと共に、拡大して放たれる。
それは束ねられたBTレーザーの塊を撃ち抜き、光の束が無数の光の矢となって突き進む。
絡み合いながら離れ、分離を繰り返しながら私の目前の無人機共を蹂躙して行く。
光の矢の後に連なるように咲くオレンジ色の光の華に、私は唇を歪める。
そうさ、私がただの人形ごときに遅れを取るはずが無い。
自分の周囲に射撃ビットを周回させ、360度あらゆる方向にBTレーザーを放つ。
もちろん国連軍には被害を与えず、無人機のみを標的として。
簡単だ、こんなことは・・・何故なら、私は。
「くっくくく・・・く、あははっ、あーっはっははははははははははっ!!」
何故ならば私は、世界最強(おりむらちふゆ)の妹なのだから!
待っていて、ねぇさん。
今すぐに、一夏兄ぃをそこへ連れて行く!!
ああ、愉快だ、「興奮」する。
ねぇさんのために、一夏兄ぃのために。
「家族」のために戦えると言うのは、こんなにも心地良い物だったのだな。
ねぇさんの強さの秘密が、ようやくわかったような気がする。
Side セシリア・オルコット
味方になると何と頼もしい・・・いえ、あの機体は元々イギリスの物なのですけれど。
しかしそれを差し引いても・・・マドカさんでしたかしら? マドカさんの戦いぶりは、まさに俗に言う所の「敵で無くて良かった」と言うレベルの物でしたわ。
私の『ブルー・ティアーズ』を含めて、代表候補生組の機体の稼働率は低いままです。
とは言え音速に達することはできずとも、それなりに高速で飛ぶことはできます。
もちろん、無人機からすると止まっているも同然の的に過ぎないはずですが。
その無人機の全てを、マドカさんが凄まじい勢いで排除していってくださいます。
「すげぇ・・・」
高速で飛ぶ風切り音の中でも、『ブルー・ティアーズ』は周囲の音を拾ってくれます。
例えば今、感嘆の声を漏らした一夏さんの声も。
一夏さんは私と同様、と言うよりもここにいる全員がマドカさんには良い感情を持っておりません。
しかし今、その私達を守って道を切り開いているのはその憎い対象であるはずのマドカさんです。
<警告、敵機接近>
「・・・ッ」
「セシリア!」
殿(しんがり)を務めるのは私、最後尾の私が一番、攻撃を受ける可能性が高い。
稼働率が高い箒さんがフォローに来てくれようとしますが、それは間に合いそうもありません。
後方を見れば、何機かの無人機が私達に追いすがろうとしている所でした。
ここで皆さんの足を止めるわけにはいきません、ここは多少無茶でも私が残って・・・。
3方向から放たれた紅のBTレーザーが、後方の無人機を撃ち貫きました。
爆発の光華に消える無人機を残して、私達は無事に進むことができました。
誰が撃墜したかなど、聞くまでもありません。
前を見ると、私達の前や横に群がる無人機を一騎当千の無双ぶりで排除している黒髪の少女がおりましたわ。
「・・・エネルギー・シールドを無視し得る程の高収束率を、これだけの長時間維持できるなんて・・・」
普通、例え貫通力に優れるBTレーザーと言えど、ISのシールドを無条件で抜けるわけではありませんわ。
私が鈴さんと組んでラウラさんとシャルロットさんに挑んだ時のように、長時間かけてBTエネルギーを圧縮・収束しない限りは・・・それを、マドカさんを一瞬でやっているとでも言うのでしょうか。
だとすれば、本当に敵として現れなくて良かった・・・。
『そこの編隊! 所属と目的・・・いえっ、それよりそれ以上の直進は危険です! 目標には多層障壁(エネルギー・シールド)が・・・!』
どこからともなくオープンで響いた通信、おそらくは上空の管制機による物でしょう。
エネルギー・シールド? そう言えば先程、対艦ミサイルを弾き返していたような。
すでに種子島を越え、目前にまで目標の物体・・・巨大なドームのような巨大潜航艦が迫っています。
彼我の距離、1キロ。
見たことがありますわ、この形・・・MIA扱いになっている、私の友人が送ってくれた映像の中で。
間違い無く、篠ノ之博士の作った物でしょう。
しかしその警告も、マドカさんには意味を成さなかったようですわ。
『・・・チェンジ、ソード・ビット・モード』
通信越しに聞こえるマドカさんの声、するとマドカさんの周囲に浮いていた射撃ビットが形を変えました。
砲口だった部分から桃色の刃が飛び出し、高速で振動しながら巨大潜航艦の外壁目指して突進したのです。
数秒後、半透明の幾重にも重ねられた巨大なエネルギー・シールドが現れます。
『・・・喰い破れッ!!』
突進した射撃ビット・・・いえ、ソード・ビットはシールドに触れると数秒間停止しました。
一瞬だけ、鬩ぎ合い。
そして、勝利したのは―――――。
ソード・ビット。
シールドを無効化する力でも付与されていたのか、ピンク色の刃がシールドを突き抜けました。
そして最後の層まで突き抜けた後、改めてマドカさんが銃剣(ライフル)によるBTレーザーの射撃を行います。
そして放たれたBTレーザーは、小さな穴が開いた紙を繰り抜くかのように・・・。
シールドに、穴を開けましたわ。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
正直な所、手詰まりだったのは確かだ。
一夏達をどうやって篠ノ之博士のいる巨大潜航艦に連れて行くか、妙案は無かった。
ISの稼働率(パフォーマンス)の低い私では、護衛しながら無人機の中を突っ切るのは難しい。
と言って、ISを思う存分に動かせる一夏や箒は正規の訓練を受けたパイロットでは無い。
だから、2人だけで行かせると言う選択肢も無い。
何しろ2人には事件後、欧州に来てもらう必要もある・・・死なれては困る。
「えーと、皆、無事か?」
「・・・ああ」
一夏の問いかけに、言葉少なに答える。
上を見れば、そこには青い空が見える。
それは次第に歪んで・・・修復されたエネルギー・シールドの膜によって遮られてしまう。
一拍遅れて、国連軍の対艦ミサイル群がシールドに叩き付けられたが・・・効果は無い。
シールドを波打たせて、それで終わりだ。
そう、私達はシールドの内側にいる。
足元には、巨大潜航艦の外壁の破片が散らばっている。
大きく開いた風穴は、与えられた衝撃のダメージの大きさを物語っている。
「さぁ、ぐずぐずしている暇は無い。行くぞ」
「おい、待てよ! 本当にここに千冬姉がいるのか!?」
「当然だ、感じるだろう? ねぇさんの気配を」
「いや、そんなエスパーなことを言われてもな・・・」
先へ進もうとするマドカを、一夏が止める。
その間に、私は周辺を見渡す・・・機体は、相変わらず低調なままだが。
それでも動くセンサー類を使って、分析に務める。
熱源はあるか、破壊された壁の材質は何か、何かデータにヒットする建築様式か、これに類似する建造物は無いか・・・。
「シャルロット、鈴、セシリア。そちらはどうだ?」
「そうだね・・・外から見ただけじゃわからなかったけど、空気中の湿度から考えて、地下があるね。つまりは海の中の部分」
「それも含めると、ここってかなりデカいんじゃないの?」
「確かに。しかしここまで巨大な艦など、見たことも聞いたこともありませんわ」
「流石は篠ノ之博士の居城、と言うことか。・・・ん?」
ふと、箒が私達から離れていることに気付いた。
ほんの少しだけ先に進んで、キョロキョロとあたりを見渡している。
何をしているのかはわからないが、何かあるかわからん、私は箒の傍に近付いた。
「どうした、箒」
「ああ、いや・・・何だろうな、何か・・・妙な感じがするんだ」
「妙な、とは?」
「いや・・・何と言うか、言葉にするのが難しいな・・・」
何か説明したいのに、言葉にできない。
そんな顔をする箒だが、そんな抽象的な話をされてもな。
私は普通の人間とは感じ方が違うから、具体的に言って貰わないとわから・・・・・・。
「・・・・・・誰だっ!?」
咄嗟に箒を後ろに庇い、前に出る。
『シュヴァルツェア・レーゲン』のセンサーが、微かな音を拾った。
崩れた壁から漏れる外の光の届かない暗闇、そこから高い靴音が響き、何者かが姿を現す。
「・・・いけない方々ですね、箒さま、一夏さま」
静かに闇の中から現れたのは、長い銀髪を三つ編みにした女だった。
どこか不思議な雰囲気を持つ女だったが、年の頃は12歳ほどだろう。
何だ、コイツは・・・?
「・・・くーちゃん?」
「何だ、知り合いか?」
「ああ・・・いや、正確には私では無く、楓の知り合いだが」
「覚えておいででしたか、箒さま。この『くーちゃん』、嬉しく思います」
にこり、と箒を見て首を傾げながら、くーちゃんとやらは微笑む。
その微笑みは、どこか造り物めいていた。
箒と楓の知り合いだか何だか知らないが、油断はできない。
何故ならその女は、身体のラインを見せる程のぴっちりとしたスーツ・・・つまりISスーツを纏っていたのだから。
「嬉しいのですが・・・いけない御方ですね、箒さま」
本当に困ったような顔で、私達に近付いて来る。
こつ、こつ・・・と、足音を立てながら。
そして、笑顔を消して。
「・・・束さまがお許しになっていない方達まで、お連れするだなんて」
能面のような顔で、忌々しそうに。
私達を見て、舌打ちをした。
Side くーちゃん
箒さまと、一夏さま。
それ以外の方を通す必要は、私は感じておりません。
むしろ、排除すべき害虫に過ぎません。
「『海宮(かいぐう)』、『大綿津見神(おおわたつみ)』内装変更」
舌先に乗っている蒼い真珠(コア)が口内で輝きを放ち、束さまの移動ラボ・・・多目的航行艦『大綿津見神(おおわたつみ)』が動きます。
パラパラと天井から細かな砂のような物が落ちて来て、床が割れます。
「な・・・なんだぁ!?」
「模様替えです、一夏さま」
『大綿津見神(おおわたつみ)』は巨大な球体のような姿をしています、中心部にはもちろん束さまのおられる大広間(ラボ)があり、最深部には楓さまのおられる培養室があります。
そして今、私が動かしたのはそれ以外の部分です。
外縁部の通路、部屋、ダクトから無人機の配置に至るまで、全てを変更することができます。
現に、一夏さまと箒さま以外の立っている床は上昇したり穴が開いたり、あるいは横滑りして壁の中へと消えたりしていますでしょう?
もちろん、崩れた壁も壁その物の移動によって塞がれていきます。
何しろ、害虫は集まると本当に鬱陶しいですから・・・。
「皆!」
下階へと沈んで行くツインテールの少女に手を伸ばした一夏さまですが、その指先に壁が落ちて来て塞がれてしまいます。
少し心が痛みますが、これも一夏さまのためなのです。
害虫に触れると、病気になってしまわれますから。
「・・・貴様、何のつもりだ!?」
「何のつもり、ですか・・・? 私はただ、余計な物を排除しただけなのですが・・・」
箒さまがお怒りのようなのですが、理由がわかりません。
私としては、束さまの許しを得ていない者を束さまに会わせるわけには参りませんし。
と言うよりも、箒さまは束さまや楓さまとは違った意味で気性の激しい方なのですね。
初対面なので、少し戸惑ってしまいます。
「お前、皆をどこにやったんだよ!」
「まぁまぁ、そのような些事はどうでも良いではありませんか」
「些事って、お前・・・」
「それよりも一夏さま、箒さま、どうぞこちらへ。束さまがお待ちです・・・さぞお喜びになるでしょう、しかし宇宙への出発にはもうしばらく時間がかかりますので、ご了承くださいませ」
そう言って、私は私の後ろに築いた通路を示します。
これからは、私がお世話する人間が単純に倍になりますね。
しかし束さまがお望みならば、私の仕事が増えることは問題ではありません・・・お食事については、その、もう少しお時間を頂戴するとしてですが・・・。
「・・・・・・一夏さま? 箒さま?」
どうされたのでしょうか、立ち止まられて。
私が不思議に思っていると、お2人は厳しいお顔をされていて・・・。
「・・・私達は、宇宙には行かない」
「・・・は?」
「私達は、あの人を止めに来た・・・今日、ここで!」
ナノマシンの影響を受けない2機のISがエネルギーを放出、お2人が刀を抜かれます。
それはもちろん、私を斬り殺したいならお好きにして頂いて構わないのですが・・・。
「束さまを止める・・・宇宙には、行かない?」
「ああ」
「・・・本気、ですか?」
「ああ」
「え、えっとぉ・・・その、ほ、ホントに?」
「ああ!」
・・・え、えーと、ちょ、ちょっと待ってください、待ってくださいませね。
え、どう言うことでしょうか・・・? どうして一夏さまと箒さまが束さまを止めるなどと?
どう言う趣旨の発言かがわかりかねますが、ただそれは困りますと言うか。
だって私、一夏さまや箒さまには実力を行使できないので・・・。
ど、どうしましょうどうしましょう、こんなことは想定外です。
これはもしや、物の本にて読んだ「反抗期」と言う物なのでしょうか、楓さまには無かったのに。
あ、あわわ・・・た、束さまに何と申し上げれば、えーとえーと。
おかしいです、おかしいですよ・・・これからは束さまと皆さまとのラブラブな新生活が始まるはずで・・・って、ちょ、ちょっと待ってくださいまし。
「い、一夏さま、箒さま、どうかお考え直しを・・・」
「そこをどいて貰おうか、くーちゃんとやら」
「え、えぇ・・・」
「俺達は行くぜ、皆も探さなくちゃだし・・・千冬姉が、待ってるんだ」
「う、うぅ・・・」
と、とにかく、この状態で行かせるわけには。
私は『海宮(かいぐう)』の装甲を身に着けて、私の横をあっさりと擦り抜けたお2人を追おうと。
しかし私は、ISによって加速されたお2人を止めることはできませんでした。
何故ならば、私の眼前に深い空色の射撃ビットが浮かんでいたからです。
その銃口が私の方を向いて、お2人の背中を守っていたからです。
この射撃ビットは・・・!
「・・・貴様、何故!?」
「当然だろう、私は他の奴とは生物としての造りが違うのだから」
振り向くと、そこにいた。
濃い青色の装甲に身を包み、ウイングスラスターから同色のナノマシンを放出しながら。
その人形は、不敵な笑みで私を見ていました。
何故、彼女もまた移動させたはずなのに。
「邪魔をしますか、人形風情が・・・!」
「人形? 違うな・・・私はただの亡霊だよ、国が亡くとも機械の心で生きる者達のな」
がしゃっ・・・と私の前に立ち、腕を組みながら。
「一夏兄ぃの邪魔は、させんよ」
織斑マドカと言う名の「人形」は、私の前に立ち塞がりました。
Side 篠ノ之 束
どうやら、くーちゃんが『大綿津見神(おおわたつみ)』の構造を動かしたみたいだねぇ。
まぁ、束さんのいる場所には何の影響も無いし・・・『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』が完成するまでの仮宿みたいな物だしね。
5階建てが7階建てに変わるような物だから、それほど気にしなくても良いしねー。
「・・・何だ、どうかしたのか」
「んー? 別にぃ、何にも無いよ」
ぶんぶんと首を振って否定すると、ちーちゃんは呆れたような顔で私を見た。
とんっ、とんっ・・・と、「玉座」の階段を降りて、真ん中あたりで止まる。
紅桜色のIS、『暮桜(くれざくら)』を身に着けたちーちゃんに。
本来、全てのISのコアは束さんのコントロール下に置くことが出来る。
でも一定以上自己進化を繰り返したISコアは、<女王(マザー)>のネットワークから外れて独自のネットワークを築き始める。
その内の一つが、ちーちゃんの『暮桜(くれざくら)』だね。
「・・・篠ノ之妹は、お前が?」
束さんの後ろの「玉座」に座る楓ちゃんの「抜け柄」を見ながら、ちーちゃんがそう言う。
表情は無表情、特に感慨も何も感じては無いみたい。
ちーちゃんだからね、感情の死に方が束さん以上だから。
だから私は、ちーちゃんの分まで笑って答える。
「うん、束さんが助けてあげたんだよ。お姉ちゃんだからね、いろいろと手間だったけど」
「姉・・・か」
「うん、くーちゃんと言うサンプルもあったからね」
くーちゃん用の身体・・・まぁ、生体端末みたいな物だけど。
人間の身体を造ること自体は、束さんでなくてもドイツとかで実用化されてたからね。
束さんは意思も魂も心も無い肉の身体を造って、それに「篠ノ之楓」と言うデータを乗せたんだよ。
もちろんただのデータじゃ無く、経験も記憶も蓄積されていく「生きているデータ」。
情報を蓄積し続ける『黒叡(こくえい)』と言うコアを得て、楓ちゃんは人間として生き続けることが出来るんだよ。
健康な身体で、健全な精神で、いつまでも。
箒ちゃんみたいに、元気になりたいって・・・言ってたからね。
「・・・狂ってるな」
「ひどぅい、ちーちゃんだって似たような物でしょー?」
「一緒にするな、馬鹿者」
一緒だよー、ちーちゃんのいっくんへの気持ちと何も変わらない。
下の弟妹のお願いを叶えることに全力を尽くす。
そっくりだよ、私達。
「ところでさ、いっくん来たみたいだよ?」
「何? アイツ・・・・・・しょうの無い奴だな」
Side シャルロット・D・コルデ
地鳴りみたいな音が響いて、床が移動して行く。
しゃがみ込んで身構えていると、いつの間にか皆と離されてしまっていた。
通信も通じない、完全に分断させられた。
正直、不味いと思う。
去年の太平洋上の戦いのデータを見る限り、篠ノ之博士の居城の中で孤立するのは不味い。
だからこそ、無理をしてでも一夏達についてきた。
一夏達の盾になって、2人を篠ノ之博士の所に辿りつかせるために。
「・・・ここは・・・」
感覚としては、随分と下がったような気がする。
数えていた限りは、14回・・・左右と下に動いたかな。
途中で壁がせり上がって押し潰されたりするかと思ったけど、そう言うこともなかったみたい。
まぁ、ちょっと複雑なエレベーターかリフトだと思えば良いのかな。
そして僕が辿り着いた・・・と言うか、送られた場所は、狭い通路だった。
ISで通れるだけのスペースはあるけれど、天井や床、壁には無数の太いケーブルの束みたいなのが走ってる。
重く鈍い音が響いて僕を降ろすために開いていた天井が閉じると、一瞬、真っ暗になる。
「・・・暗視装置」
光の無い場所でも見えるようにISを設定して、視界を確保する。
するとどうだろう、ケーブルの隙間から赤い小さな目みたいな物が見えた。
それに、どこかで何か小さな物が走っている音・・・床下に、何かが這いまわってるような音。
正直、不気味だった。
立ち止まっていても仕方が無いから、進むしかないね。
「皆と合流できれば良いんだけど・・・そう上手くは行かないよね」
簡単に合流してしまえば、分断した意味が無いからね。
なら、ここからしばらくは1人で進むしかない。
最終目的地は一緒だから、皆とはそこで出会えると信じるしかない。
「・・・広いな」
少し進むと、広い空間に出た。
ちょっとしたアリーナくらいはあるかなってくらいの大きさ、ドーム状の空間だ。
まぁ、壁とか床が同色の暗灰色だから・・・長居はしたくないね。
すると、不意に明かりがついた。
照明みたいに壁に突然ついたそれは、広い空間の全てを照らした。
そして広い空間の中央に、誰かが立ってる。
「・・・キミは・・・!」
そこに立っている人間を見て、僕は驚きの声を上げた。
その人間は立っているだけじゃ無くて、鎧のような何かを身に着けていた。
鎧、ISだ。
しかもそのISは、僕が良く知っている機体と全く同じ形状をしていた。
Side 篠ノ之 箒
不思議なことに、くーちゃんは私達を追っては来なかった。
その代わりに後方から轟音と震動が伝わって来たが、あれは何だったのか。
まぁ、それは置くとしても皆のことが気にかかる。
「たぶん大丈夫だって、皆、俺らより強いしな!」
「・・・それは逆に、私達が危ないと言うことではないのか?」
「こ、細かいことは気にすんなよ」
一夏が私を励まそうとしたようだが、私の言葉に逆に冷や汗をかいてそっぽを向いた。
まったく、こんな時でも変わらないのだからな。
私など、雪子叔母さんに託された刀の重さに気が滅入りそうになっていると言うのに。
篠ノ之流の代表として、私はここに来ている。
篠ノ之の長女であるあの人の前に立ち、何を言い、何をするのか。
実の所、まだ明快な答えを得ているわけでは無い。
断じたいのか、許したいのか、それとも他の何かなのか。
「・・・む」
そうこう悩んでいる内に、次の場面にやってきた。
一夏と2人、加速と飛翔をやめて立ち止まる。
私達の前で、道が大きく2つに別れていたのだ。
どちらの道も先が長そうだが・・・左の道は狭く、しかも緩やかに下に下がっているような気がする。
対して右の道は、比較的に幅が広く、緩やかに上に向かっているようだ。
さて、どちらに行くか。
・・・ふと一夏を見ると、頷いて来た。
どうやら、考えていることは一緒らしい。
「別れよう、時間も無いんだ」
「わかった。俺は・・・右に行く、何となく千冬姉は上にいる気がする」
「そうか、なら私は左だ。きっとあの人のことだから奥に引き籠っている!」
「すげぇ偏見! でも何だかわかる気がする! 俺も千冬姉は高い所にいる気がするんだよ、何となく」
冗談なども交えて、それぞれの道の前に立つ。
右と左、どちらかがあの人のいる所に辿り着ければ良い。
判断は、それぞれに任せよう。
「じゃあ、また後でな」
「ああ」
短い応答、それだけ済ませて『紅椿(あかつばき)』を加速させる。
ISの自動制御機能に任せれば、狭い道でもぶつかる心配は無い。
壁の向こうに消えた一夏の顔を瞼の裏に焼き付けつつ、私は一気に進んだ。
途中、不思議な程に邪魔は入らなかった。
下がり方が急にキツくなった時も、壁のケーブルが増え、気温が下がった時も。
何も起こらず、まるで迎え入れられているかのような錯覚すら覚えた。
そして、辿り着く。
「何だ、ここは・・・」
どうやら最下層らしいそこは、フロア全体が一つの部屋を成しているようだった。
何と言うか、上下は低いが・・・前後左右に広い。
気温も低く、何となく湿気も高い。
海の中、と言う感覚が強い場所だ。
だがそれ以上に奇異なのは、その様相だ。
まるでどこかの生物研究所のように、ガラス張りのカプセルがいくつも置かれている。
数は100や1000ではきかないだろう、それ程の数だ。
何より・・・。
「・・・くー?」
そこに、人間が入っているのだから。
しかも髪の色や容姿が、「くーちゃん」そっくりなのだ。
それがいくつも、何十何百と存在している。
コポ、コポ・・・と空気の泡が舞う水の中で、銀髪の美しい少女が標本のように浮かんでいる。
「・・・・・・」
何だ、ここは。
何キロ下がって来たのか知らないが、少なくとも普通の施設では無い。
あの人はいったい、ここで何を・・・。
奥へ進むと、空の容器(カプセル)も混在していることに気付く。
しかし大多数のカプセルにはくーが入っているので、不気味だ。
居心地が悪い・・・しかし、しばらく歩くと円形のフロアの中心に辿り着いた。
そこは、他の物に比べて大きな水槽があって・・・。
「・・・楓?」
その水槽の側に、誰かが蹲っているのを見つけた。
私が名を呼ぶと、びくりと身体を震わせて顔を上げる。
どことなく憔悴しているその顔は、間違いなく私の双子の妹の物だった。
私の妹、楓は、何故か素肌にシーツだけと言う寒々しい格好で。
私の顔を見ると、どこか泣きそうな顔で笑った。
その笑顔は、何故か私の胸をザワつかせた・・・。
登場新兵器:
曲流様提案「螺旋塊弾・ハープーンSSM」
ありがとうございます。