インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第59話:「12時間戦争・午後13時~午後15時」

Side 篠ノ之 楓

 

箒姉さんの顔を見た時、泣きそうになった。

でも私にはもう、姉さんに甘えて泣く資格も無いんだ。

そう思ったら、また泣きそうになった。

 

 

「・・・楓!」

 

 

少しの間、私とこんな所で再会―――再会、か―――するとは思っていなかったのか、呆然としていた箒姉さんが、『紅椿(あかつばき)』を解除して駆け寄って来た。

その時の表情がまた心配そうで、それが今は苦しかった。

 

 

「何でこんな所に・・・いや、それ以前にその格好は何だ? こんな寒い所で・・・」

 

 

本当に、本気で、心配してくれてる。

妹だから、当たり前だよね。

相手が、本当に妹なら。

本当に、本物の、双子の妹だったなら・・・凄く、普通のことだと思う、でも。

 

 

「・・・ぅ・・・」

「どうした? どこか具合が・・・そうだ、体調は、咳は・・・」

「違うの・・・っ!」

「楓?」

 

 

両手で顔を覆って、その手をそのまま額に押し付けて、さらに髪を掻きむしって。

肩に置かれた箒姉さんの手が、泣きたくなるくらいに温かい。

だけどそれも、「わたし」のための物じゃない。

それを受け取るべきは、もっと別の人。

それは、「わたし」じゃない。

 

 

「違う、違うの・・・私じゃ、無いぃ・・・っ」

「何がだ? 何が違う?」

「私、違うの!」

「だから、何がだ?」

 

 

要領を得ない私の言葉に、箒姉さんは辛抱強く聞き返してくれる。

でもその優しさも、「わたし」が受け取って良い物じゃない。

だってそれは、愛する妹の「篠ノ之楓」が受け取るべき物だから。

だから。

 

 

「私、箒姉さんの妹じゃ無いっ!!」

「な、何?」

 

 

何を言っているんだ? みたいな顔をする箒姉さん。

だけど私は、その時の箒姉さんの顔が・・・凄く、辛かった。

 

 

「妹じゃ無い・・・妹じゃ、無いの・・・!」

「な、何だ、誰が誰の妹じゃないんだ?」

「私が、箒姉さんの妹じゃ無い!」

 

 

私は、違う。

私は箒姉さんの妹じゃ無い、「姉さん」なんて呼ぶこと自体、おこがましい。

この身体は、赤の他人だ。

この気持ちだって、心だって借り物だ。

全部、偽物だった! 造り物の・・・ニセモノ!!

 

 

本物は、もうどこにもない・・・どこにもいない。

そう、どこにもいないんだ。

だから私は、泣きそうに・・・泣きながら、決定的な言葉を口にした。

 

 

「篠ノ之楓は・・・・・・もう、死んでるんだよっ!!」

 

 

悲鳴のような私の声に、箒姉さんは目を見開いた。

そこから先は、私はただ泣くことしかできなかった。

う、うぅ・・・ううううぅぅっ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

篠ノ之楓は、もう死んでいる。

一瞬、いや何分経とうが楓の言っている言葉の意味がわからなかった。

では今、私の目の前で泣いている楓は誰だと言うのだろう。

 

 

「お、おい・・・」

 

 

とにかく、泣いている楓を泣き止ませないといけない。

そう思って、楓の肩に置いている手に力を込めようとした時だ。

見つけた。

 

 

いや、見てしまった。

楓がもたれかかっている水槽は、大きな水晶玉を思わせる形をしている。

そしてそこに浮かんでいる物を、見てしまった。

虚ろな目が、何か言いたそうに私を見つめている―――――。

 

 

「・・・っ」

 

 

息を、飲んだ。

飲んでしまってから、後悔する。

下を見れば、涙に濡れた黒い瞳が私を見上げていた。

言葉などいらない、その瞳は雄弁に「みないで」と語っていた。

 

 

・・・動揺、するな。

動揺するな、動揺するな、動揺するな。

波打つ心を、必死で留める。

苦労するが、いや、苦労などしないが、心を鎮める。

 

 

「・・・全部、嘘だった」

 

 

そしてその間に、震える声音で楓が言う。

ガラス張りの水槽から目を逸らして・・・楓を見る。

健康な身体で、それでも弱々しく、儚い妹を。

 

 

「全部、嘘だった・・・外への憧れも、お友達への気持ちも・・・偽物、だった・・・」

 

 

水槽の中のアレが誰なのか、私が見間違えるはずが無い。

なら、私の前で泣いているコイツは誰だ?

・・・誰なんて、言うまでも無い。

 

 

「お前は・・・私の、妹だ」

「・・・優しいね、箒姉さん」

 

 

泣き笑いのような表情を浮かべて、楓が私を見る。

その微笑は、痛々しい程に歪んでいた。

 

 

「でも、私・・・違うんだよ。優しくしてもらう資格、無い」

「そんなことは・・・」

「だって・・・私、造り物なんだよ!?」

 

 

造り物の、妹。

楓は自分のことを、そう言った。

 

 

「束お姉ちゃんが死体から造った、気持ちの悪いバケモノ・・・肉の塊に、記憶だけ乗せただけの偽物っ!」

「楓、落ち着け!」

「『わたし』は『楓』じゃないっ!!」

 

 

私の手を振り解こうとする楓を、必死で抑える。

事情はわからない・・・いや、言葉の端々からわかる。

『束お姉ちゃんが、死体から造った』・・・あの人は、何を!

 

 

・・・だけど、責める気にはなれなかった。

もし、こんな形でもこうして楓が生きていてくれなかったら・・・私は。

 

 

「『篠ノ之楓』は、もういない・・・これ、『黒叡(こくえい)』に、『黒叡(こくえい)』が、これさえ、こんな物が無ければ、私・・・『わたし』はぁっ!!」

「楓・・・馬鹿、よせ、外すな!」

 

 

中指に嵌められた指輪を握って外そうとする楓の腕を掴んで、止める。

これを外せば、楓は・・・『肉の塊』になる。

楓の言葉を借りればそう言うことになるし、過去に一度、そうなっている。

本能的な恐怖から、私はそれを止めた。

耐えられない、それだけは。

 

 

「邪魔しないでっ!!」

「馬鹿・・・馬鹿者! 妹が自殺するのを、止めない姉がいるのかっ!?」

「『わたし』は妹じゃ無いっ!!」

「『おまえ』は私の妹だ! そうでなかった瞬間など、一瞬だって無かった!!」

「こんな造り物・・・偽物、『わたし』・・・『わたし』、なんて、最初から」

 

 

腕を押さえて、膝を腹の上に乗せるようにして押し倒す。

そうしてようやく、楓の行動を阻止することができるが・・・言葉は、止まらない。

止めようがない、だから。

 

 

 

「『わたし』なんて、最初から造られなければ良かったのにっ!!」

「・・・・・・ッ」

 

 

 

だから。

 

 

「・・・楓ぇっっ!!」

 

 

だから、右手の掌で・・・全力で。

楓の、妹の頬を、張った。

乾いた、大きな音が・・・響く。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

ああ、もう、IS学園に入学した頃からこっち、こんなのばっかよね!

ガリガリと激しい音を立てながら、膝で床を削りながら下がる。

別に下がりたかったわけじゃない、物凄い力で蹴られりゃ誰だって下がらざるを得ないでしょうよ。

 

 

「・・・ッ、『龍砲』ッ!」

 

 

蹴られた胸にかかった衝撃に顔を顰めながらも、私は反撃する。

両肩の上に浮かんでる2門の『衝撃砲』を正面に向けて、圧縮した衝撃を砲弾として飛ばす。

普通、空間圧兵器の攻撃は避けるのがセオリーなんだけど、今回の相手は一味違う。

 

 

何しろ私と同じように空間を圧して作った砲弾で迎撃、私の『龍砲』の見えない砲弾を消し飛ばしたんだから。

威力も制度も私より上、冗談じゃないわよ。

何しろ『衝撃砲』の遣い手としては一応、私の方が先輩になるはずなんだけどね。

 

 

「まったく、面白くない話だわ・・・!」

「ええ、それについては同感ですよ」

 

 

私の言葉に答えたのは、三つ編み銀髪の年下っぽい女の子よ。

名前は知らないけど、さっき「くーちゃん」とか言ってた子ね。

そんでもって、私達を分断させた張本人。

あの後しばらく移動させられて皆とはぐれて、1人になって・・・そしたら、この子に待ち伏せされてたわ。

 

 

「私としても、貴女のような有象無象の相手などしていられませんから」

「・・・あっそ」

 

 

だったら放っといてよ、と心の中で毒吐く。

と言うか、何で私をピンポイントで狙ってくんのよ・・・他にもラウラとかセシリアとかいるでしょ。

アレかしらね、各個撃破とかそう言う考えなのかしら。

まぁ、それよりも問題なのは相手の今の状況よね。

 

 

「その機体・・・」

「『海宮(かいぐう)』は余り戦闘向きでは無いので」

 

 

「かいぐう」ってのがあの子のISの名前なのかしら?

さっきまでは、深い海色(ディープ・ブルー)のシンプルなIS展開してた物ね。

それが今は、全く別の漆黒のISを身に着けてる。

 

 

しかも、私の『甲龍(シェンロン)』と全く同じISを。

肩部と腕部の『衝撃砲』、どことなく無骨だけど洗練された形状(フォルム)、右手に握られた連結青竜刀『双天牙月』、さらにおまけに二次移行(セカンドシフト)装備の方天戟『燭陰(ショクイン)』まで。

カラーリングが黒一色と言うことを除けば、くーちゃんとか言う子が装備しているISは『甲龍(シェンロン)』その物だった。

 

 

「・・・シャレにならないわよ、ホント」

 

 

いくらなんでも、自分と同じ専用機を身に着けた相手と戦ったことなんて無いわよ。

正直、どう言う理屈なのか検討もつかない。

思い出すのは、学園で見た「ゴーレムⅣ」のアレだけど・・・。

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

「ゴーレムⅣ」の能力は、あくまでも武装を複製(コピー)する能力だったはずだ。

だが今、私を殺しにかかって来ているこの小娘―――「くーちゃん」とか言ったか―――は、明らかに私の機体データごと盗用している。

 

 

武装だけではなく、装甲も内部構造も、素材もシステムすらも。

私の『シュヴァルツェア・レーゲン』と全く同じ形状・同じ中身。

違っているのはカラーリングと、操縦しているパイロットぐらいな物だろう。

 

 

「・・・ドイツの遺伝子強化体(アドヴァンスド)も、資料(データベース)で見たよりは大したことが無いのですね」

「・・・」

 

 

くーちゃんとか言う小娘の安い挑発に、いちいち答えはしない。

私はすでに左眼の眼帯をむしり取っており、『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』による各種の肉体機能の強化を行っている。

そうでなければ、拮抗できなかったからだ。

 

 

AIC・・・『慣性停止結界』同士の衝突において、拮抗することが出来ない。

 

 

現在、私と小娘(くーちゃん)は一定距離を保って睨み合っている状況にある。

お互いのAICの範囲にお互いを捉え、そしてお互いのAICで相手を無力化しようとしている。

PICを持つ機体であれば、このAICによって動きを封じることができる。

だが、AICを持つ者同士が戦うとなると・・・。

 

 

「・・・く」

 

 

表情を歪めるのは、私だ。

相手は無表情のまま、自分の機体が放つAICを制御している。

今日初めて触れる兵器にも関わらず、完璧に制御している。

対して私は、機体の稼働率が低い事もあって十分な出力でAICを操作できない。

その私の苦悩を感じ取ったのか、小娘(くーちゃん)は初めて唇を笑みの形に歪めた。

 

 

「・・・ここは、束さまのお城。束さまの加護を得ている私は無敵・・・」

「語るに落ちるとはこの事だな。主である篠ノ之博士に勝てない以上、それはすでに無敵では無い」

「束さまに勝つ必要など、ありませんから」

 

 

一夏を真似て減らず口を叩いてみたが、効果は無かった。

当然だな、効果的な減らず口を叩くのにもそれなりの力がいるのだから。

そう考えた時、不意に相手のAICの出力が弱まった。

 

 

何事かと思った次の瞬間、私の足元の床を砕いてワイヤーブレードが飛び出して来た。

2本あるそれは私の両肩の装甲を削り、私のAIC制御のための集中を途切れさせるには十分だった。

驚きながらも視線を向ければ、小娘(くーちゃん)の足元にワイヤーが放たれていることに気付く。

AICに集中する余り、対処が遅れるとは・・・不覚だ。

どうもIS学園に入学して以降、腑抜けているような気がするな。

 

 

「無敵か・・・」

 

 

最悪の条件下で苦戦を強いられながら、私は先程の小娘(くーちゃん)の言葉を反芻する。

私にとって無敵とは、遠い背中のあの人のことを指す。

だから、どうしようも無く苛立つのだ。

 

 

お前のような奴が、頂点を名乗るなと。

主を指し置いて最強を自負する覚悟も矜持も、持ち合わせていない癖に。

お前ごときに・・・私が、破れるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

敗北は趣味ではありませんわ、例えどのような厳しい条件下であったとしても。

言い訳などしない、貴族の娘としてプライドを曲げることだけはできない。

しかし、そうは言っても・・・っ。

 

 

「・・・終わり、ですか?」

「が、くぅ・・・っ」

 

 

ギリギリギリ・・・と首元の装甲とシールドが軋む音が耳朶を打ち、事実として私は苦悶の声を上げざるを得ません。

状況を説明すると、連れて来られたアリーナ大の空間で苦戦を強いられていると言う状況です。

どうもPICの出力が低いらしく、機動力で圧倒的に不利な状況です。

 

 

この私が、こうも易々と近距離戦に持ち込まれるとは。

しかもこのような無様を晒し、空中で首を掴まれて宙吊りにされるなど・・・!

キッ、と相手を睨み―――――その背後に、射撃ビットを展開します。

 

 

「な・・・!?」

 

 

そうして放ったBTレーザーは、別のレーザーによって弾かれて霧散します。

より高い出力のBTレーザーによって弾かれる、理論上は可能ですが実践するとなると話は別です。

それはそのまま、お互いの技量差に繋がります。

く、この・・・『インターセプター』!

 

 

右手に握り締めたショートブレードを振るい、相手の顔を狙います。

私の首をあっさりと手放した相手は、首を動かすだけであっさりとかわしてしまいます。

逆に振り切った私の腕を掴み、振りまわすようにして下に向けて投げます。

 

 

「きゃっ・・・あ、ぐ!」

 

 

悲鳴を飲み込み、床に叩きつけられる前に体勢を立て直します。

びたっ、と床を背に踏みとどまった私。

その私の腹部に、相手・・・『ブルー・ティアーズ』に酷似した漆黒の機体を纏った「くーちゃん」さんに両脚で踏み抜かれます。

 

 

「が・・・っ!?」

 

 

辛うじてエネルギー・シールドが私を守りますが、所詮は稼働率10%。

全ての衝撃を殺し切ることはできず、息が詰まり身体がのけぞります。

しかし、悲鳴は堪える。

痛みを感じながらも頭の中ではビットを操作、床と平行に並べたビットが一斉に射撃を行います。

 

 

もちろん、それも簡単にかわされてしまいますが・・・目的は私の上からどいて頂くことです。

そう、「この私(わたくし)の」上から。

私の許しも無く、私の上に土足で乗るなど・・・・・・万死に値しますわ。

 

 

「気に入りませんわね、その態度・・・」

 

 

自分のビットを遊ぶように自分の周囲に周回させながら、くーちゃんさんは私を見下すような目で見ています。

本当に気に入りませんわ、射撃仕様のティアーズ型で迷わず近距離戦を行う品の無さと言い、人を小馬鹿にしたあの態度と言い、そして何よりもわざわざ相手のISに模した機体を使うと言う真摯さの欠如。

私への侮辱、いえ、それ以上に・・・許しませんわよ。

 

 

「私の戦友(ティアーズ)を侮辱するその行為、後悔させてあげますわ!」

「・・・どうぞ、御随意に」

「・・・っ!!」

 

 

甲高い音を立てて、射撃ビットを私の周囲に並べます。

そして数瞬後、4基のティアーズが私の意思に従って疾走します。

オルコットの誇りに懸けて、叩き潰して差し上げますわ!

 

 

 

 

 

Side シャルロット・D・コルデ

 

背後から迫るミサイルの群れを飛びながら両手のアサルトライフルで撃ち落とす、加速に緩急をつけてミサイルに個々のタイムラグを生み出して落とす。

ここが大きな空間で良かった、さっきみたいな狭い通路じゃ対応できなかったよ。

 

 

<警告、前方に敵機―――>

「く・・・っ」

 

 

『リヴァイヴ』の発した警告に、僕は表情を歪める。

アサルトライフルを後背に向けて斉射している間に、回り込まれた。

慌てて視線を前に向けると、僕と同じ機体を纏った銀髪の女の子が、近接ブレードを構えて待ち構えていた。

 

 

擦れ違い様、僕は今の出力でやれる限界の動きを見せる。

僕の首が通る位置に添えられていた近接ブレードの刃を、脚部スラスターを噴かすことで回避する。

空中で足からスライディングでもするような体勢になって、胸、そして首と鼻先を掠めるような形で近接ブレードの刃をやり過ごす。

僕が高速で通過した直後、残ったミサイルが爆発した。

 

 

「・・・っ、うわっと!」

 

 

そのままグルリと回転して、空中で制止する。

急いで振り向けば、そこにはミサイルの爆煙の中から何事も無かったかのように姿を見せる「くーちゃん」の姿が。

 

 

どうでも良いけど、「くーちゃん」って呼び辛いよね。

もっとちゃんとした名前があると思うんだけど、どう考えても略称とか愛称だし。

でもさっき、自分で「くーちゃん」って言ってた気がする。

 

 

「ねぇ」

「・・・はい、何でしょうか」

 

 

声をかけると、抑揚のない声で返答が返って来た。

ちょっと意外だ、問答無用って感じだったのに。

それでも、自分と色違いの同じ機体を装着してるって言うのは慣れないけどね。

 

 

「キミ、名前は?」

「・・・・・・私、くーちゃんと申しますと言ったはずですが」

「それは、愛称だよね?」

「違います、名前です」

 

 

・・・たぶん、真面目に言ってるんだろうなぁ。

そうなると、本気で「くーちゃん」って言うのが名前なんだね。

 

 

「束さまが私をそう呼んだその時から、それは洗礼となりました。故に私はくーちゃんです」

「そ、そう・・・なら良いよ」

 

 

呼びにくいけど、仕方が無い。

まぁ、正直相手の名前とかはどうでも良いわけで・・・問題は、ここをどう切り抜けるか。

ISコアの稼働率が10%の状態だと、どうしても不利になる。

と言って、逃げられない。

 

 

「それにしても、そんな名前をつけるなんて・・・」

 

 

なら、少しでも勝率を上げる方向で頑張ろう。

状況の打開を信じて、最善を尽くそう。

例えそれが、一時的にピンチを招いたとしても。

 

 

「・・・篠ノ之博士って、やっぱりどこか変だよね」

 

 

ぴくん、とくーちゃんの頬の筋肉が動くのがわかった。

気のせいでなければ、プレッシャーも圧力を増したと思う。

それはそうだよね、「束さま」って言って慕ってる人間を馬鹿にされたら、ああ言う手合いは・・・。

 

 

「―――――万死に値しますっ! 束さまを侮辱するなどっっ!!」

 

 

ほらね、と得意になってる場合じゃない。

これまでとは比べ物にならない程の速度で瞬時加速(イグニッション・ブースト)したくーちゃんは、気が付いたら僕の顔面に蹴りを叩き込んできていた。

衝撃で、身体ごと吹き飛ばされる。

 

 

うん、動きが単調になった。

主人を盲信してるタイプの子は、乗せやすいと言えば乗せやすい。

顔周辺のシールドを軋ませながら、僕は苦笑いを浮かべる。

でもコレ、僕の機体が何とかなる前に倒せないと冗談抜きで死ぬかも・・・。

・・・皆、無事だと良いな。

 

 

 

 

 

Side 織斑 マドカ

 

ギシリ、と掴んだ腕が軋む音が響く。

それは機体を通して圧力の強さを操縦者に伝え、装甲への負荷の大きさを教えるだろう。

掴んでいるのは私で・・・掴まれているのは、相手の方だが。

 

 

「・・・ッ!」

 

 

シャキンッ、ともう片方の手の甲から銀に輝く刃を放ち、それを私に突き込んで来る。

私の顔を狙ったらしいそれを、私は首を動かすだけでかわす。

それだけに留まらず、残っている手でその手をも掴む。

私の両手を使って、相手の両手を塞ぐ。

 

 

この状態からなら、どちらが有利かなど論ずるまでも無い。

相手の動きを止めている以上、射撃ビットを展開できる私の優位は動かない。

そして実際、私は肩の上に並べたビットで射撃を行った。

 

 

「ほう」

 

 

感嘆の声を上げたのは私だ、相手・・・くーちゃんとやらはISを解除することで私の手から逃れた。

開いた隙間を上手く使って離れ、瞬時に装甲を展開し直す。

結果、一定の距離を保って私に対峙することが可能になった。

 

 

「やるじゃないか」

「貴様、ナノマシン・フィールドの影響を受けていない・・・?」

「さぁ、どうかな」

 

 

二次移行兵装『盾持つ乙女(ヘルヴォル)』によって、『サイレント・ゼフィルス』は外部からのナノマシンによる干渉をほぼ受け付けない。

だがそれをあえて説明してやる義理も無い、ましてや。

 

 

「1人では何もできない人形兵などに教えてやるには、少々惜しい」

「・・・」

 

 

私を憎々しげに睨んでくるくーちゃんとやらの左右には、全く同じ容姿、同じISを身に着けた女達がいる。

今の所は合計して3人、まぁ、他の場所にも何人かいるのだろうな。

いずれにしても、生体端末としての人形ごときに何を畏れる必要があるか。

私は片手を前に出すと、手招くように指先を曲げて見せる。

 

 

「来い、遊んでやる」

「「「・・・」」」

 

 

私の言葉に、相手は動かない。

まぁ、それはそれで構わないが。

 

 

「どうした、来いと言ってやっているんだ」

「「「・・・」」」

「仮初の身体ならば・・・・・・死をも恐れないはずだな?」

 

 

正直に言えば、私は既にこの小娘の正体を知っている。

スコールも知っていたかもしれないが、教えてくれたのはねぇさんだ。

 

 

「こんな腰抜けが尖兵とは・・・篠ノ之博士も随分と人手不足と見える。まぁ、だから代わりの効く人形兵を量産しているのだろうが・・・」

 

 

刹那、眼前に銀の刃が迫っていた。

 

 

「・・・ふ」

 

 

止まって見えるその攻撃を、私はほんの数センチ下がるだけで回避する。

かわした銀の刃は私の足元の床を陥没させる、見かけによらず随分な威力だったようだ。

しかしそれを確認した頃には、私は右足でもって刃を振り下ろした相手の顔に蹴りを叩き込んでいた。

 

 

蹴り飛ばされ、天井に衝突するくーちゃん。

その陰から飛び出して来た別のくーちゃんの懐に飛び込み、刃を掻い潜って左拳で顎を撃ち抜く。

IS越しにも脳を揺らす一撃、理屈は単純だ・・・命の危険が無いと判断したISが絶対防御を敷かないからだ。

私もこれで、ねぇさんに良いようにやられた物だが。

 

 

「この・・・っ!」

 

 

背後から振り下ろされた銀の刃を、左足で止める。

回し蹴りのような体勢で浮いた足の裏に刃の先を当て、威力を殺して止める。

刃と装甲がぶつかる音が響き、衝撃でお互いが数センチ下がる。

直後に体勢を立て直し、突き出された刃を屈みながら避ける。

避けながら近付き・・・相手の腹に、右拳を叩き込む。

 

 

「―――――ッ!?」

 

 

腹にまともに受けたくーちゃんは、衝撃を殺しきれずに壁際まで吹き飛ぶ。

そして背中を崩れた壁に押しつけながら、ズルズルと床に尻餅をついた。

時間にしてほんの数秒・・・一連の攻防に、一応の決着が着いた形になった。

 

 

「調子に・・・乗るなっ・・・!」

 

 

顎を揺らされたくーちゃんが頭を振りながら立ち上がる、私はそれを冷たく見下ろした。

そしてその私の目の前で、相手のISが黒い塵になって消える。

それは再び少女の身体を覆い・・・形になった時には、別の形状を取っている。

 

 

「『サイレント・ゼフィルス』か・・・」

 

 

私の機体と同じ形になった相手のISに、軽く眉を顰める。

他の2人も同じ形状を取り、瞬く間に3倍の数の射撃ビットに取り囲まれることになる。

 

 

「・・・やれやれ」

 

 

それを目の当たりにした私は、溜息を吐いた。

猿真似とは、また面倒なことをしてくれる。

だが、まぁ、ねぇさんと一夏兄ぃのためでもある。

 

 

せいぜい派手に、やらせて貰おうか。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

種子島中部の山の中まで、何とか来れた。

一瞬、無人機の陣形が崩れて・・・理由はわからないけれど、おかげで最小の労力で上陸できた。

何があったのかは、細かくはわからないけど・・・。

 

 

「おお~・・・ウジャウジャいるよ~」

「・・・うん」

 

 

志布志湾の石油備蓄島から種子島までは、自衛隊の潜水艦で来た。

備蓄基地で虚さんが待っててくれて、海上自衛隊の人達に話を通してくれてた。

大隅海峡の上は、中国とロシアの艦隊が無人機と戦ってたけど・・・本当に、一瞬だけ無人機の統制に乱れが生じてくれて助かった。

 

 

中部の海岸に上陸して、それから山の中を進んで・・・種子島宇宙センターの北、20キロ地点。

増田宇宙通信所・・・ここを拠点にして、センターでの篠ノ之博士の行動を阻害したい。

・・・けど、山の中から見る限り、ここもそれなりの数の無人機で占拠されてる・・・。

 

 

「あー、実戦ってのは久しぶりじゃないか?」

「そうですねぇ、日米統合演習以来じゃないでしょうか」

「にしても、IS無しってのがまた辛い・・・」

 

 

・・・私の傍でこしょこしょ話してるのは、山田先生達。

潜水艦でここに来る途中、他に2人の学園の先生が混ざって来た。

ヒルダ先生と、オニール先生・・・軽装だけど陸軍装備で、元代表候補生として従軍してるって。

それに山田先生を合わせた3人の大人の人が、私達を手伝ってくれるらしい。

こでも、楯無姉さんの方で手を回していたらしいんだけど・・・。

 

 

「では、簪お嬢様、御武運を」

「う、うん・・・虚さんも、気を付けて・・・」

「はい。・・・本音、行きますよ」

「ええぇ~」

「本音?」

「うえぇ・・・はぁ~い~」

 

 

南のセンターの方には、本音と虚さん、ヒルダ先生とオニール先生の4人が忍びこむことになってる。

上で航空支援があるって言うし、少人数の方が良いからってことで。

それに通信所の機能を奪取するなら、センターの方の電源とか落とさないと・・・破壊工作もいるし。

それなら、布仏の2人がやるのが最適。

そしてここは、私と山田先生の担当・・・。

 

 

「かんちゃん、かんちゃん」

「な、何・・・?」

「ぎゅう~」

 

 

言葉の通り、本音が私に抱き付いて来た。

ISスーツ越しの温もりが、私の中に少しだけあった不安を取り除いてくれる。

私も、本音を抱き締める。

 

 

また無事で会えるように、心を込めて。

全部が終わったら、またあの日々を過ごせるように。

心の底から、そう願った。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

実は私、ぶたれたことって無いんだよね。

まぁ、厳密には私じゃないけど・・・小さい頃から病弱で、割と甘やかされてたから。

だからパパにもママにも、束お姉ちゃんにも箒姉さんにも、ぶたれたことなんて無かった。

 

 

そして今日、生まれて初めて箒姉さんにぶたれた。

 

 

でも、仕方無い、と思う。

嫌われた、と思うと、割と堪えた。

でも仕方無い、だって本物(いもうと)じゃ無かったんだから。

今までずっと、騙してたんだから、妹面して・・・嘘を、吐いてたんだから。

 

 

「・・・痛かったか?」

 

 

私をぶった後、箒姉さんが私を打った掌を擦りながらそう言って来た。

うん、痛かったよ。

凄く、凄く痛かったよ。

 

 

箒姉さんに馬乗りになられたままの体勢で、頷いて見せた。

本当に痛かった、身体もそうだけど心が。

今までの人生で一番、心が痛かった。

だけどこの「心」も、偽物だ。

 

 

「どうして、痛かったんだ?」

「・・・それは」

「お前が、私の妹だからだ」

 

 

哀しみ。

瞳に哀しみをたたえて、箒姉さんが脱力したような声音でそう言った。

哀しそうな、今にも泣き出してしまいそうな程に頼りない声だった。

 

 

「赤の他人に、私はここまでしない」

「そんなこと無いよ、箒姉さんは・・・優しいもん」

「・・・赤の他人は、そんなことを言わない」

 

 

そ・・・と、自分で打った私の頬を撫でて、箒姉さんがそう言う。

私は、妹だって。

赤の他人のために、ここまでしないって。

 

 

嬉しい、嬉しかった。

だけど違うの、その優しさを向けるべき相手は私じゃないの。

箒姉さんは、まだよくわかってないから。

私が、偽物だって・・・本物の妹の、クローンみたいな物だってことを。

 

 

「・・・知っていたよ」

「え・・・?」

 

 

軽い音を立てて、急に私の身体に重みがかかる。

箒姉さんが、私の上に倒れてきたから。

むぎゅっ・・・て、温かくて柔らかい身体が、私を抱き締める。

 

 

それはそれでテンパるんだけど、何か今、とんでも無いことを言われたような。

何を、知っていたの?

まさか、私が偽物だってことに気付いていたわけでもないだろうし。

 

 

「・・・知っていたんだ、楓。私は・・・少し、前から」

「・・・なに、を?」

 

 

床の上、シーツを広げただけの場所で。

箒姉さんと2人、寝転がりながら。

姉さんの温もりを、素肌で感じる中で。

 

 

 

「お前が・・・お前が、普通の人間の身体をしていないことを」

 

 

 

私は、箒姉さんからとんでも無いことを告白された。

それは、本当に驚愕の事実で。

全部の前提を引っ繰り返しかねない、そんなことだった。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

そう、本当は私は知っていた、知っていて言葉にしなかっただけで。

・・・いや、違うな。言葉にしたくなかったんだ、私は。

言葉にしてしまったら、何かがどうにかなってしまいそうで。

 

 

だが、事実は変えることができない。

北極海、あの時・・・亡国機業(ファントム・タスク)のアジトで。

マドカから見せられた楓の健康診断書、そこには楓の血液中に多量のナノマシンが確認されたことが記されていた。

それは、人工的に造られた仮初(クローン)の身体に特有のことだと言うことも。

 

 

「・・・だから私は、知っていた。知っていてお前と向き合っていた、この2ヵ月間」

 

 

お前が、お前の身体が、以前の・・・3年前のお前の物とは全く別の物だと言うことを。

知っていたんだ、私は。

知っていてお前の傍にいた、病弱だったお前が病気一つしない健康な身体になった理由に得心しながら。

 

 

それでも、傍にいてほしかった。

 

 

例え身体が違ったとしても、もし万が一、心まで偽物だったとしても。

私を「箒姉さん」と呼んでくれるお前を、今さら他人だなんて思えなかったから。

だから、だから私は。

 

 

「私はお前を、これからも妹扱いする。妹以外の何者でもない、『おまえ』は私の妹で、それ以外の何でも無いんだ」

「・・・」

「これは決定事項だ、異論は認めない。反論はねじ伏せる、文句は斬り伏せる、泣き事は踏み潰す」

 

 

私は不器用な女だから、これ以上の言葉は思い付かない。

これ以上は思い付かないのだから、後は身体で・・・行動で示すしかない。

私がいかに、お前を妹扱いしているのかと言うことを。

 

 

「・・・・・・何とか言え」

「・・・」

「・・・お前は、どうなんだ、楓。私はお前を妹だと言った、お前はどうなんだ、私をもう姉だとは思えないのか」

「・・・それは」

 

 

頼む。

お願いだから、私の妹でいてくれ。

偽物だから違うなんて、言わないでくれ。

 

 

「・・・はっきりしないか、この愚妹!」

「・・・っ」

「お前は、私の妹でいたいのか! そうじゃないのか!? はっきりと・・・ハイかイエスで答えろっ!! 『おまえ』自身の感情で、心で、頭で考えろっ!!」

 

 

愛してる。

愛してる、だから。

だから。

 

 

「・・・何、それ」

「・・・」

「ハイかイエスって・・・拒否権、無いじゃない」

「・・・うるさい」

 

 

泣き笑いのような楓の声に、バツが悪くなる。

床の上、楓を抱き締める腕に力を込める。

楓が苦しそうにするが、意趣返しとして我慢してもらう。

 

 

「・・・で、どうなんだ」

 

 

私の言葉に、楓が私の背中に腕を回して来た。

もう震えもしない、泣いてもいない。

ただ、私を抱き返してくれた。

 

 

「・・・私、妹で・・・良いの?」

「当たり前だ、お前の社会的地位は生涯『篠ノ之箒の妹』だ」

「何それ・・・」

 

 

クスリと笑う楓、頬が熱くなるのを感じる。

 

 

「・・・じゃあ・・・『わたし』、箒姉さんの妹が良いな」

「・・・そうか」

「箒姉さん」

「何だ」

「ありがとう」

「・・・何のことか、わからんな」

 

 

楓から離れて、床から起き上がる。

それから楓に手を差し伸べて、言う。

 

 

「・・・それは『おまえ』の気持ちだ。『おまえ』だけの感情だ。『おまえ』以外の誰の物でも無い心だ。『おまえ』だけが抱き、『おまえ』だけが感じ、『おまえ』だけが責任を持つ、『おまえ』だけの物だ」

 

 

楓の手を引いて、立たせる。

シーツを手に立つ楓に背中を見せると、あの水槽が私の前にある。

その中に浮かぶ『おまえ』も、私を見つめるようにたゆたう。

虚ろな瞳の中に、一瞬だけ・・・光が見えたような気がした。

 

 

右手を虚空に示す、量子化収納していた刀・・・緋宵(あけよい)の柄を両手で握る。

一刀、一閃。

私のために、楓のために、そしてきっと、あの人のために。

私はあえて、この刀でもって。

 

 

「―――――斬る」

 

 

振り上げると、背中に温もりを感じる。

両手は震えている、足などは情けないほどに。

だが、背中の温もりが私に伝えてくる。

 

 

斬ってほしい、と。

 

 

間違っている物を、終わりにしてほしいと。

そう、緋宵(あけよい)・・・明けの明星、宵闇の向こう側にある光を得るために。

私達が、私達自身であるために。

私は、雄叫びと共に刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

箒と別れて上に上がり続ける道を、ひたすらに走る。

正直な所、どこまで続いているのかはわからないけど・・・何となく、こっちのような気がする。

「わかる」、「感じる」―――――。

 

 

・・・と言うのは、エムが言ってたような気がするけど。

でも確かに、何となく千冬姉はこっちにいる気がする。

昔から千冬姉の気配には割と敏感なんだよ、俺。

 

 

「お・・・?」

 

 

だだっぴろい通路を『白式(びゃくしき)』で駆け続けていると、次第に光が見えて来た。

少し距離があるかなと思ったけど、『白式(びゃくしき)』の速度ならあっという間だ。

通路を抜けて、広い所に出る。

 

 

そこは、入った瞬間にむわっとした空気を俺に感じさせた。

鼻先や頬にかかる熱風に、思わず足を止める。

ISのエネルギー・シールドは、命に別条のない熱気に関しては止めてくれないからな。

ちょっと、驚いちまった。

 

 

「ここは・・・?」

 

 

そこは、何と言うか・・・たぶん、機関室、なんだろうと思う。

俺は機械のことは詳しくない、楓でもいてくれれば断言してくれるんだろうと思う。

煌々と赤い光を放ち続けるバカでかい機械の塊がある、度々開く小窓や隙間から見る限り、物凄い高温のエネルギー体が中で渦巻いてるってのがわかる。

そしてそこから漏れる光が、ちょっとしたドームくらいあるこの部屋全体を赤く照らしてる。

 

 

あの円柱みたいなのは減速機かな、それとフィンスタビライザに発電機・・・どれも物凄い数とデカさだ、これだけ広い部屋で鉄管やケーブルの無い場所が無い。

俺がいるのは、そうした機械を見下ろすことができる空中の廊下みたいな場所だ。

ここからなら、全体は無理でも大体の部分を見ることが出来る。

 

 

「暑ぃな・・・」

 

 

ぐっ、と顎の下を腕で拭いながら呟く。

部屋の中は物凄く暑い、調べてみると何と60度近くもありやがる。

PICの範囲を少し広げて、自分の身体を覆う。

・・・ふぅ、涼しくなった。

 

 

「にしても、ここがホントに機関室なら・・・」

 

 

ここを上手くどうにか出来れば、この船―――にしては異常にデカいけど―――、止まるんじゃねぇか?

フィールドとか、シールドとか、いろいろ。

俺がそんな素人考えに没頭していると、目の前の手すりに何かが落ちて来た。

何かと思って見てみると、それは・・・。

 

 

「・・・り、リス?」

 

 

それは、ネジをコリコリと齧ってるリスだった。

不思議そうに首を傾げて俺を見ているのが可愛らしい、機械仕掛けのリスだ。

な、何でこんな所にリスが・・・?




次回も頑張ります。
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