インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第61話:「12時間戦争・午後17時~午後19時」

Side 織斑 一夏

 

・・・あーててて、ちょっとやり過ぎたなコレは。

ガラガラと自分の身体の上に乗ってた諸々をどかしながら、俺はその場に身を起こした。

『白式(びゃくしき)』に守られた身体を起こして、周囲の状況を見渡す。

 

 

「おーぅ、我ながらやり過ぎたかな」

 

 

元々はとんでも無く大きな機械―――エンジンとか動力炉とか言う感じの―――がひしめいていたその空間は、今や鉄屑と塵が充満する危険地帯へと変貌していた。

壁や床には焼け焦げた跡があって、天井から振り撒かれる消火剤が白い雪みたいにそれらを覆って行く。

 

 

そして一番目立ってるのは、このフロアの中心部にででんと鎮座していたメインエンジン。

内側から破裂したみたいな形で、外側に向けて鉄骨やら金属板やらがひん曲がってる。

爆発の余波を物語るかのように、融解した鉄と異臭を放つ変質したガスのなれの果てみたいな物が露出して噴き出してる。

でもそれも、天井・・・と言うか空中でプロペラを回しながら何かの粉か薬品を振り撒いてる奇妙なメカによって沈静化されつつあるのがわかる。

 

 

「どーれ・・・っと」

 

 

脚部に乗っていた鉄の板を蹴り飛ばして、すぐ側に刺さってた『雪片(ゆきひら)』を右手で抜く。

正直な所、俺の行動がどういう影響与えたのか、あるいは与えて無いのかはわからない。

だけど俺の勘は、ここをぶっ壊せば何かがどうにかなるって言ってたからさ。

だけどこれだけ滅茶苦茶になると、これからどこに進めば良いかがわからなくなって・・・。

 

 

「・・・お?」

 

 

その時、俺の足元で「チチチッ」と何かが鳴く音が聞こえた。

見てみると、機械で出来た例のリスが俺のことを見上げていた。

その手には鉄屑を持っていて、カリカリと噛んでいる。

そしてこの一匹を皮切りに、瓦礫の隙間から何十匹、何百匹ものリスが姿を現してくる。

 

 

正直、ちょっと不気味だった。

だけどそのリス達は不意に駆け出して、少し離れた位置で立ち止まって俺の方を振り向く。

俺が首を傾げているとまた駆けて、やっぱり少し離れてから振り向く。

それを何度も繰り返して、機械仕掛けのリスの集団が俺の方を見つめる。

 

 

「・・・ついて来いって、ことか?」

 

 

リスは答えてくれないけど、何となくそう言っているような気がした。

俺は少し考え込んだ後、その後について行くことにした。

他に道しるべも無いし、だけど警戒は必要だよな。

俺は『白式(びゃくしき)』の各数値をチェックしながら、慎重に急いでその場を後にした。

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

大隅海峡を東に抜けて、ロシア・中国の連合艦隊はより広い海域に展開することができたわ。

ここまで来るのに半数近くの艦が小破・中破したけど、遠巻きに見ているだけだった海上自衛隊の第2護衛隊群の護衛艦4隻を戦闘に巻き込む形で、穴を埋めることができる。

 

 

一応、私も日本人だから複雑だけれど・・・正直、戦争見物をさせている余裕は無いのよ。

自衛隊の改あたご級ミサイル護衛艦が艦対空ミサイルであるスタンダードSM-6を発射し出すのを見ながら、私はそう思った。

私自身、ロシア艦隊の旗艦から離れて空の人になっている状況だしね。

 

 

<タイ王国海軍IS部隊『プラ・ルワン』3機、太平洋沖合より発艦を確認>

<中華民国義勇軍『天剣』2機、東シナ海沖合より発艦を確認>

 

 

『ミステリアス・レイディ』を通じて、各国のIS部隊が体勢を整えつつあることはわかってる。

『プラ・ルワン』は近接戦主体のタイの第2世代型IS、『天剣』は空中戦主体の台湾の第2世代型IS、義勇軍と名がつくのは中国への配慮ね。

実際、コア・ネットワークで確認するまでも無く、この空域に全世界のISが集結しつつあった。

 

 

それでもなお、無人機の方が物量は多い。

けれど宇宙センターへのエネルギー供給をダウンさせ、ナノマシン・フィールドも停止させた。

不利なのは変わらないけれど、勝敗の天秤を僅かに傾かせることには成功したはずよ。

 

 

「・・・ねぇ」

 

 

高速で飛翔しながら、同時にそれだけのことを考えながら。

私は『ミステリアス・レイディ』に身体を覆われる心地良さを感じながら、水を螺旋状に纏ったランス・・・『蒼流旋(そうりゅうせん)』を振るう。

私の操る「水」が飛び散って、周辺の湿度を支配する。

 

 

「今日って湿度、高くないかしら?」

 

 

パチンッ、と指を鳴らす―――――次の瞬間、私の背後を追ってきていた2機の無人機が水蒸気爆発に飲まれる。

並のISならこれで消滅するんだけど、流石に篠ノ之博士製の無人機は並じゃない。

白い爆煙の中から何事も無かったかのように出てくる無人機の姿に、らしくも無く舌打ちする。

エム・・・だったかしら? あの子、こんなのを一度に100機も墜としたって言うんだから。

正直、化物よね。

 

 

「まぁ、ここまで来たら、後はやるしか無いか・・・」

 

 

国連軍とは名ばかりの寄せ集めの軍、指揮系統もはっきりしない。

九州南部から沖縄にかけての広い範囲が戦場、被害は拡大するばかり。

相手は味方の何倍もの規模で個々の能力もこちらの何倍もある、指揮官の才能なんて比べることもできない。

頼みの欧州軍はまだ来ない、物資は有限で兵士の体力にも限りがある。

 

 

OK、ベストコンディションだわ。

これ以上ない程の絶好調、後はヒーローになって恋人の胸に飛び込むだけ。

やってやろうじゃない、皆。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

アメリカ級強襲揚陸艦『トリポリ』飛行甲板上・・・夕日と呼べるほどに赤みがかった太陽が、荒れ果てた甲板を照らし出していた。

十数分前まで激しい音と光に包まれていたそこも、今では静寂に包まれていた。

 

 

「・・・ぐ・・・っぞ・・・!」

 

 

崩れたバリケード―――破壊されたヘリの残骸―――に片手を乗せるような体勢で、朱色に塗れに塗れた軍服を纏った男はそれでも前を見据えていた。

そこには、最初とほぼ変わらない状態の無人機の群れが見える。

いや、何機かは倒しただろう。

彼と彼の同胞達のまさに血反吐を吐きながらの努力によって、一部は撃滅し得ただろう。

 

 

しかし、それ以上に敵戦力の回復力が圧倒的だった。

1機潰せば、その穴を2機の無人機が埋めるのである。

いかに四軍で最も厳しい訓練を受けた海兵隊員と言えども、人の身では限界があった。

1時間以上ゴーレムの荷電粒子砲の一斉射撃を喰らい続けていれば、どんな軍でも瓦解する。

むしろ、この程度の被害で済んだのが奇跡と言えるだろう。

 

 

「か・・・っ」

 

 

ズル・・・ッ、支えていた肘が滑り気のある液体で滑り、彼はその場に膝をついた。

バリケードの冷たい壁に背中を預けて、ズリ落ちるようにヘタリ込む。

もう精も根も弾も・・・血すらも使い果たした。

もはや何のために戦い、何を守っていたのかすらもうろ覚えだ。

 

 

掠れる視界の中には同胞達が累々と倒れている、動いているのはもはや彼だけだった。

こふっ、咳き込むと同時に口内に鉄錆の味が広がる。

・・・・・・そんな彼の視界に、奇妙な物が入った。

それは、鉄と血が飛び交う戦場には不釣り合いなカラーリングの・・・。

 

 

「・・・・・・お前、名前は」

 

 

辛うじて聞きとれた音は、自分の名前を問うていた。

そう、その・・・虎模様(タイガー・ストライプ)の鎧のような物を身に着けた女がそう問うて来た。

正直、それが何だったのかすら・・・もう、わからない。

ただ彼女の後ろで、エレベーターが動くような音が響いていた。

虎模様の「機体」の後ろに、同じ形状の物が複数、並んで行く。

 

 

「・・・け、ひ・・・」

 

 

それは、もはや習慣と言うのもおこがましい。

片手を顔の前まで上げるそれは、彼にとっては日常その物。

魂にまで染み付いた、身体の動きだった。

 

 

「け、び・・・ケビン・ウォ・・・レス・・・三等、軍そ・・・で、ありま・・・・・・」

 

 

言葉は止まる、声が止まる、身体が止まる。

時が、止まった。

それをはっきりと見届けた後、虎模様(タイガー・ストライプ)のIS・・・『ファング・クェイク』の操縦者イーリス・コーリングは・・・彼と同じく、敬礼を返した。

 

 

「ケビン・ウォレスと英霊達に、敬礼・・・!」

 

 

ザッ、とその場にいる数人の人間がほんの数秒だけ、同じ格好をした。

表情は見えない、ただ・・・瞳だけが輝いている。

爛々と、輝いている。

 

 

それから、全員で同じ方向を見る。

こちらを窺うように動きを止めている無人機達を、見る。

穴が開く程に・・・見る。

 

 

「てめぇら・・・」

 

 

見て、そして歩き始める。

先頭を歩くイーリスは、両拳を組みながら・・・ゴギンッ、と拳の骨を何度も鳴らした。

右拳、そして左拳と言うように。

 

 

「てめぇら・・・!」

 

 

バリケードを超えたあたりで、無人機の1機が荷電粒子砲を放った。

直撃すればひとたまりも無い一撃、しかしイーリスはそれを。

 

 

咆哮一閃。

 

 

雄叫びを上げて、「殴り飛ばした」。

全てのエネルギーを右拳に集中、装甲が軋むのも構わずに荷電粒子砲を殴り飛ばして霧散させた。

エネルギー・シールドは、ISコアは、もはや何の問題も無く機能していた。

 

 

「・・・てめぇらぁっ!」

 

 

ビリビリと・・・空気が震える。

右拳から煙を上げながら叫んだイーリスに、意思を持たないはずの無人機達がたじろいだように見えた。

しかしそれも一瞬、すぐに全ての無人機が砲口をイーリス達に向ける。

だがそれは、イーリス達の闘志に油を注ぐ効果しかもたらさなかった。

 

 

「てめぇら全員ぶっ壊(ころ)してやるぁあああああああああああああああああああぁぁぁっっ!!」

 

 

雄叫びを上げて、数機の『ファング・クエイク』が数十機の「ゴーレムⅤ」の群れに突っ込んで行った。

―――――反撃、開始。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

ナノマシン・フィールドが解除された所で、絶望的な状況は各所で残っていた。

例えば『アンツィオ』と呼称されるアメリカ艦、改タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦と言うクラスで分類される艦で、イージス・システムによる強力な防空能力が売りでの艦である。

 

 

その能力を買われて旗艦の護衛についていてこの巡洋艦も、今や艦の各所に損傷を受け中破状態であった。

あと一撃、周囲を取り囲む「ゴーレムⅤ」から致命的な砲撃を受ければ大破、悪ければ撃沈されるだろうことは誰の目にも明らかだった。

 

 

「艦を立て直せ! 所定のポイントから離れているぞ!」

「正面、来ます!!」

「なんだとぉ!?」

 

 

CICで唾を飛ばしながら懸命に指揮を続けていた『アンツィオ』の艦長も、艦からわずか数百mの位置にいる無数の無人機の砲塔に光が灯るのを止めることは出来なかった。

回避か、退艦か、いずれかの命令を出そうと一瞬だけ迷い・・・迷った末に、結局は何も言わなかった。

 

 

艦の甲板から放たれた一発の物理弾が鋭く回転しながら正面のゴーレムを抉り貫き、爆散させてしまったためである。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

ほとんど真下から放たれたそれは、シールドをも貫通してゴーレムの腹部装甲を貫いた。

密集していた無人機が一時散開し、その弾丸の飛来先をセンサーで探し出す。

そしてそれは、即座に見つかった・・・もとより、隠れるつもりが無かったらしい。

 

 

「ああ、ああ・・・そうさ、時間だ。クソヤロウ共が」

 

 

対IS用ライフル『Just For Killng』―――略称、『JFK』。

至近距離においては盾殺し(シールドピアース)並の威力を誇る、総合兵器開発社『アワー・アルレート社』渾身の一作である。

それを扱うのはアワー・アルレート社製第3世代IS『タイニー・ウィッチ』、そしてその付属品(パイロット)であるアメリカ代表候補生、エリス・シール―――。

 

 

腰まで伸びた薄青混じりの白髪に青灰色の瞳、小柄だが女性らしい丸みを帯びたプロポーション。

その体躯を覆うのは企業ロゴ入りの薄青色のISスーツ、そして白をベースカラーとする各種装甲。

エリスは上空で自分の様子を見る無人機達をじっとりとした視線で値踏みすると、手にしていた『JFK』を海へと投げ捨てた。

それから、どこか嗜虐的だが被虐的にも見える笑みを浮かべると。

 

 

「廃品回収の時間だぁ、クソがああぁぁっ!!」

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)、1機の無人機の少し上の位置にまで一気に加速する。

通常のそれよりも細やかで速い加速は、細長い二枚の板を平行に並べた四基の腰部特殊スラスターの超電磁推進が可能にする物だ。

そしてこのスラスターは、あるシステムの起動時にのみ使用できる・・・。

 

 

両手で掲げた巨大な幅広の刀(タイタニック)を十字に重ねて振り下ろし、無人機の顔を砕く。

元々が重量級の武器である、とは言え無人機の装甲が厚く軽くメリ込む程度である。

しかしその直後、無骨な『タイニー・ウィッチ』の片足が交差した部分を思い切り踏みつける。

何かが焦げるような匂いと音が響くと、エリスは愉快そうに身を乗り出す。

 

 

「はぁ!? 何だって? 何を言ってるのか聞こねえぇなぁ・・・ああ!?」

 

 

ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンガンガンガンガンガンガンッ!

何度も何度も何度も踏みつけ、メリ込みを深くし・・・ついには無人機の頭部を破壊してしまう。

 

 

「バチバチ、ボカンだぁ? 何だよそれはぁ、お前らの言語か? もっと踏んでください女王様ってことなのかぁ、おぉいっ!?」

 

 

両側の無人機に向けてそう凄むと、それに怯えたわけでもないだろうが―――そんな感情があるはずも無く―――ただただ合理的な判断として、無人機は腕の砲塔をエリスに向け、撃った。

それは間違いなくエリスの姿を捉え、シールドごと粉砕させて爆散させる。

 

 

・・・しかし、爆煙の中から墜落したのは『タイニー・ウィッチ』では無かった。

装甲の色と形からして、それは明らかに「ゴーレムⅤ」の物だった。

無人機の間で、情報の混乱が起こる。

 

 

「こっちだよ、○○クソ共が」

 

 

無人機の「目」には、無数の「エリス」の姿が移っていた。

無人機に人間の操縦者がいて、肉眼で見ていれば・・・あるいは、見抜けたかもしれない。

エリスの姿が、レーダー・センサー上で無数に「分裂」していることに。

無人機は合理的に判断し、圧倒的な火力でもってそれら全ての「エリス」を撃墜することにした。

圧倒的な火力が交差し、無数の光点が生まれるが・・・撃墜されたのは全て、無人機だった。

 

 

「おいおいおいおいおい、どうしたクソヤロウ共? あんよが下手にも程があんじゃねぇのかぁ?」

 

 

第3世代兵装『クラウニック・ウィッチズ』、その能力は三つある。

第一に微細な金属片を散布し、これをチャフとして敵の光学兵器の威力を減少させること。

第二に金属片にダミーデータ郡を仕込み、センサー上で『タイニー・ウィッチ』を分裂させること。

そして最も重要な、第三点。

 

 

「しゃあああらああぁぁっ!!」

 

 

ガインッ・・・と、エリスが1機の無人機の頭を掴む。

身体に纏わせた金属片が強烈な磁性を帯び、強い電磁波を発生させる。

見た目には、ほんの一瞬だけ電流が無人機の身体を流れただけのように見えただろう。

 

 

「ししし・・・しゃ―――あははははははははぁぁっ!」

 

 

遠隔操作(リモート)と自立制御(オート)のシステムが『クラウニック・ウィッチズ』の電磁波の前に電波障害を起こし、一時的に途絶える。

そこに幅広の刀(タイタニック)を召喚して叩き込み、無防備な人形となった無人機は爆散して消えた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

ナノマシン・フィールドの解除に伴い、米豪を中心とする太平洋艦隊は体勢を立て直しつつあった。

温存していたIS部隊を総動員し、戦線を押し上げ始めている。

米国のイーリスなどはその急先鋒であり、他には米国のジーナやエリス、豪州のアイシャ・ソフィなどの面々が目立った戦果を短時間で叩き出しつつあった。

 

 

散って行った同胞への復仇の念は強く、また命令もあって最初から全力である。

それまでは無人機が一方的に国連軍の航空機を墜としていた空は、日が沈みかけたこの時間になって逆転しつつあったのである。

しかし、そうした激しい戦場の中にあって・・・どこか他人事のような平穏に包まれている一団が存在する。

 

 

『・・・なぁ、おい、どうする?』

『俺に言われてもな・・・』

 

 

それは、戦場から少し離れた空域を飛ぶ4機の編隊(フライト)だった。

洋上迷彩と言うカラーリングが成された青の戦闘機、その機体には日本機を示す赤丸が刻まれている。

九州北部の航空基地から飛来した編隊であり、戦場の様子をただ伺っている様子だった。

困惑しているのは、そのパイロット達である。

政府からの出動命令は受けた物の、攻撃許可が下りていないのである。

 

 

実はここに、大きな意思疎通の齟齬が起きていた。

 

 

彼らに命令を下す上層部―――日本政府及び自衛隊―――は、すでに彼らが攻撃許可を得ていると思い込んでいたのだ。

これは有事の指揮系統が単純に見えて複雑と言う組織的な欠陥もさることながら、「きっとしかるべき誰かが許可しただろう」と言う期待、「おそらく現場から連絡が来るだろう」と言う期待、「待っていれば命令が来るだろう」と言う期待・・・果ては、「自分以外の誰かが何とかしてくれるだろう」と言う期待が絡み合った結果、考え得る限り最悪の結果に行きついてしまったのである。

 

 

『海も陸も巻き込まれてるし・・・これもう、俺らの判断で撃って良いんじゃないか?』

『馬鹿言え、勝手に発砲したら始末書じゃ済まないぞ。市民に袋叩きに合うなんて俺は嫌だからな』

『家の窓ガラス割られるだけじゃすまないもんな・・・』

『けど・・・』

 

 

彼らの見つめる先では、国連軍が極めて厳しい戦況で戦っているのが見て取れる。

しかもここは日本だ、他のどの国でも無い。

それなのに、どうして。

 

 

『・・・このままで良いのかな、俺達』

『―――――良いわけが、無いでしょうっ!!』

 

 

突如、4機の通信機に響いたのは年端もいかぬ少女の声だった。

凛として厳しく、良く通る綺麗な声にパイロット達が僅かに動揺する。

そして不意に、彼らの目前のセンサーに友軍機の識別コードが増えた。

 

 

『私達が戦場(いくさば)に出るのは何のためですか・・・それは国民を守り、同胞を助けるためです! そのためにこそ、私達は厳しい訓練を超えて来たはずではありませんか!』

 

 

潜伏(ステルス)モードと光学迷彩を解除したそれは、2つのウイングスラスターを備えた紫色の機体・・・日本製第3世代IS、『雷刃(ライジン)』とその操縦者、立道 雪音だった。

どこに潜んでいたのか、編隊を先導するように飛んでいる。

 

 

『責任は私が取ります、各編隊は国連軍の援護を』

『いや、しかし我々は・・・』

『・・・でしたら、永久にそこで燻っていらしてください』

『あ、おい!』

 

 

元より説得する気などない、雪音はほとんど独断とも言える判断でISを無人機の群れへと向けた。

すでに海上・陸上の自衛隊は事実上の戦闘状態に入っているのである、気にする必要を感じなかった。

 

 

「では、簪を真似てみるとしますか・・・どうせ特務機関も機能不全なのですから」

 

 

不遜に呟いて、雪音は推力の段階を一つ上げる。

これまで我慢して来た分を、取り戻すかのように。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side くーちゃん

 

これは・・・・・・これは、いったいどう言うことなのでしょうか?

箒さまと楓さま、反抗期とは言え少々行き過ぎのような気が致します。

他の「私」についてはともかくとして、量産型第4世代IS『海宮(かいぐう)』―――束さまの宮(みや)を守る兵士の鎧―――を纏ったこの身、お2人の敵を刺すことはできてもお2人を害することは叶いません。

 

 

「いったい、何故・・・」

 

 

箒さまの振り下ろす刀の刃を、右手首の装甲から伸びた近接ブレードで受け止めます。

何度目かの火花が目前で散り、噛み締めた奥歯がぎりりと音を立てます。

交差させた刃を挟んで、箒さまと睨み合う形になります。

 

 

束さまから箒さまは「素直じゃ無い子なんだろねぇ」と聞いておりましたが、まさかここまでツンケンしておられるとは想像の外でした。

と言うより、もはやこれはツンケンしているとかそう言うレベルでは無いような気がします。

・・・勝てない、とは思いません。

言ってしまえば「ISその物」である私が、正規の訓練を受け切っていない箒さまに敗れるとは思いません。

 

 

「・・・楓さま、までもが・・・」

 

 

私と刃を打ち合う箒さまだけでなく、その向こうには楓さまもおります。

漆黒の装甲に身を包んだ楓さま、その身体・・・『黒叡(こくえい)』からは、膨大な量のナノマシンが放出され続けています。

 

 

どう言うことでしょうか、私の知るあの機体のスペック値と少し異なるような気が致します。

操縦技術はともかくとして、『紅椿(あかつばき)』と『黒叡(こくえい)』のコンビは厄介です。

何しろ束さまのお手製で、お2人とも私の主君筋。

となれば、おのずと私が攻勢に出れるわけが無く。

 

 

「おやめください、楓さま! それ以上、ナノマシンのフィールドを広げると・・・!」

 

 

すでに『大綿津見神(おおわたつみ)』全体の広がった楓さまのナノマシン・フィールドは、それまで束さまが管理していた「停止と支配」のフィールドとは真逆の効能を範囲内に与えています。

すなわち、「活性と解放」。

 

 

「束さまが哀しまれます、だからどうか・・・!」

 

 

私の言葉に、楓さまが一瞬、表情を歪められます。

唇を引き結び、何か耐えているようなお顔をされています。

その周囲には、不思議な輝きを発する黒いナノマシンの粒子が舞っていました。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

『Trismegistus System』。

その正体は、一部の例外の機体を除く全てのISのコアに影響を与えて稼働率を極限まで低下させるナノマシン兵装。

 

 

でも、それは実はもう一つの顔を持つ。

すなわち、低下させることが可能ならば・・・その逆も、理論上は可能であると言うこと。

つまり、知覚・干渉・掌握できるISコアの稼働率を限界まで引き上げる。

全てのISコアの、「支配からの解放」。

 

 

「楓さま・・・何故、束さまの道を阻むような真似をなさるのですか!?」

 

 

黒く輝くナノマシンと半透明の無数のディスプレイに囲まれた私に、くーちゃんさんが叫ぶ。

叫びながら、問う。

何故、叛意したのかと。

 

 

それに対して、私は後ろ暗い気持ちになる。

束お姉ちゃんの邪魔は、したくない。

お姉ちゃんが望むなら、その通りにしてあげたいと思う。

今でもそう思ってる、心から。

 

 

「・・・『黒叡(こくえい)』、お願い」

<了解(ログ)、我が主(マイ・マスター)。『Trismegistus System』、最大展開>

 

 

了解(ログ)・・・そう答えた『黒叡(こくえい)』に、少しだけ目を丸くする。

それは、私が束お姉ちゃんや箒姉さんに言ってきた言葉だから。

だから、それを『黒叡(こくえい)』が言ったことに素直に驚いた・・・人間、みたいに。

 

 

そしてその『黒叡(こくえい)』の宣言通り、背部のコンデンサーから放出されるナノマシンの質量と濃度が上がる。

いつか見た・・・肉眼で視認できる程の黒い嵐に。

それは目に見えない程の微細な隙間からこの空間の外へ、巨大艦全体へ、そして外へと・・・。

 

 

「楓さま!?」

「・・・ごめんね、くーちゃんさん」

 

 

絞り出すような声で、くーちゃんさんに謝る。

くーちゃんさんは信じられないものを見る目で私を見ていて、それがまた辛い気持ちを呼ぶ。

 

 

「私、束お姉ちゃんを止めるよ」

「・・・っ・・・後悔、されますよ!?」

 

 

後悔なら、もうしているよ。

これ以上無い程に、後悔してる。

今だって、胸が張り裂けそうなくらいに痛い。

でも、そんな私を・・・。

 

 

「後悔など―――――無いっっ!!」

 

 

澄み切った、清廉な声で刀を振るうその人の姿が、斬り裂いてくれる。

それは輝かしい程に清らかで、迷いが無くて、真っ直ぐで。

・・・箒姉さん。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

「後悔など―――――無いっっ!!」

 

 

そう宣言して、『空裂(からわれ)』を振り下ろす。

刃自体は受け止められても、腕部の展開装甲から放たれた赤いレーザーがくーと足元の床を焼く。

『空裂(からわれ)』・・・その名の通り、空を裂く刀。

 

 

特殊な鋼同士が鎬を削る音が耳に届き、エネルギーの余波が空気を震わせる。

自分でも驚くほど静かな気持ちで、逆に驚きに染まった表情を浮かべるくーと見つめ合う。

そう、後悔など無い、あるはずが無い。

 

 

「後悔などしない・・・私は、あの人を止める」

 

 

別に嫌っているわけでは無い、憎んでいるわけでも無い。

逆に許したいわけでも無い、謝りたいわけでも無い。

私はただ、私の価値観に則って・・・あの人の行動を認めない。

 

 

平和な今を続けて行きたいと、自分の行く末を自分で決めたいと想う。

 

 

だから私は、あの人と共には行けない。

私の意思に関係無く連れて行こうとするのならば、その手を振り払う。

振り払った上で、その手を掴む。

そして。

 

 

「私はあの人に、この世界の素晴らしさを知ってほしいと願う」

 

 

家族に恵まれ、友を作り、多くの人々の営みによって成り立つこの世界(ちきゅう)の素晴らしさを。

少し前の私なら、そんな物を守りたいとも信じたいとも思わなかったろう。

実際、IS学園に入学したばかりの頃の私は信じていなかった。

 

 

だが一夏と、楓と、千冬さんと再会して変わった。

鈴と、シャルロットと、セシリアと、ラウラと・・・他にも多くの友人と出会った。

家族と友人に囲まれて日々を過ごすことに幸福を、この10か月近くで思い知った。

失いたくない、失ってなるものか。

そしてそれを、私達以外をいらないと言うあの人に伝えたい。

 

 

「だから迷わない、歩を進め前へと歩む・・・停滞も停止もいらない」

 

 

そして、この一歩を踏み出す力こそが。

 

 

「私の力の、原動力だ」

 

 

刀を振るうに、心はいらない。

ただ無心に、信ずる何かのためにのみ振るうべし。

篠ノ之流は、女子(おなご)の剣なれば。

 

 

「くー」

 

 

刃を弾いた後に呼びかけて、手を差し伸べる。

いつか、私があの人にそうされたように。

そして楓に、そうしたように。

 

 

「お前も、そこに囚われるな・・・自分で歩め、他人と共に」

 

 

そう、言った。

閉ざされていなければ、その目は大きく見開かれていただろう。

それでも私は、くーにそう告げた。

何故ならこの少女も、私の家族なのだから。

 

 

 

 

 

Side くーちゃん

 

一瞬、何を言われたのかわかりませんでした。

思わず、箒さまの顔をまじまじと見つめてしまいます。

この空間におけるありとあらゆる私の「眼」が、箒さまを見つめています。

 

 

私に手を差し伸べている箒さまは、とても美しい。

紅色の装甲に覆われたスラリとした肢体は、束さまには無いシャープな美しさをたたえています。

清廉なまでに真っ直ぐで、清らかにまで穢れが無い。

 

 

「私が・・・囚われている?」

「お前が、どう言う理由であの人の義娘になったかは知らない・・・・・・・だが、お前があの人を想う程に、あの人がお前を想っているとは思えない。

「・・・何を」

 

 

何を・・・言っているのでしょうか、箒さまは。

束さまは、十分に私を想ってくださっています。

私を愛し、敬ってくださっています。

 

 

10年前に私を解放してくださった時も、3年前に生体端末の肉体を与えてくださったときも、昨年にこの第4世代型ISを頂いた時も、今も昔も。

束さまは、私を娘として愛してくれている。

 

 

「それなら、どうしてお前の傍にいないんだ」

 

 

凛とした顔立ちを歪めて、箒さまが悲しそうにそう言います。

ぴくり、と、私の動きが止まる。

 

 

「私なら楓が、妹が危機にあれば何を置いても救いに行くだろう。肉親で無くとも、鈴やセシリアといった者達も友の危機に馳せ参じるだろう・・・そしてあの北極海で、千冬さんは一夏のために命を懸けて戦った。だがあの人は、そう言うことをしたことが無い。むしろ今、お前のように危険に晒して放置している」

「・・・何が言いたいのですか」

「あの人の愛は、愛じゃ無い。子供がお気に入りの玩具に対する感情と一緒で・・・失ってしまえば、「ああ、そう」で済んですまうような物なんだ」

 

 

・・・だから、何だと言うのでしょうか。

だったら、どうしたと言うのでしょうか。

もし仮に、私に対する感情が人間で言う愛情で無かったとしても。

 

 

それでも、箒さまと楓さまに対する想いは本物のはずです。

私がいくら努力をしても、その位置には立つことが叶わないのに。

それなのに、どうして。

 

 

<ナノマシン濃度、急上昇>

 

 

不意に、気がつくと・・・空間に広がっているナノマシンが、制止不可能なまでに広がっていることに気づきました。

他の「私」の眼から見ても、どうしようも無いレベル。

箒さまの後ろにいる楓さまを見れば、それがわかりました。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

『 Trismegistus System overload 』

 

 

微細な・・・本当に微細な、肉眼ではけして見えない一つ一つのナノマシン。

それが寄り集まって、全てのISコアに干渉する黒い風を生み出す。

黒くて、どこかおぞましい・・・まるで、私みたい。

他者にしがみ付いて、羨望のままに纏わりつく所が。

 

 

目の前に立つ、清廉で清らかで力強い、そんな箒姉さんとは真逆の存在が私だ。

別に卑屈になっているわけでも無くて、事実を事実として認識する。

作り物の身体に「作り置き」の記憶、偽物の「わたし」。

だから『黒叡(このこ)』は、私にぴったりの機体。

「わたし」と言う存在の半分を担う・・・半身、そのものなんだと思う。

 

 

『―――――私、箒姉さんが羨ましかった』

 

 

ナノマシンの濃度がこれまでにない程に高まった時、声が聞こえた気がした。

そしてその声は私のすぐ傍で聞こえたようにも、少し遠くから聞こえたようにも感じた。

何故か自然、私は視線を箒姉さんやくーちゃんさんの向こう側へと動かす。

そこには、私がいる。

虚ろな瞳のその奥に、不思議な光を見た気がして・・・。

 

 

 

気がつくと、私は見知らぬ場所にいた。

 

 

 

そこは木漏れ日の温かな林の中で、サワサワと揺れる木々の葉が涼やかな雰囲気を私に伝えてくる。

それまでいたはずの人工的な空間とは、真逆の存在感を放つ場所だった。

肌に感じるこの感覚は、どちらかと言えば夢の中にたゆたっているような感覚だった。

そしてそこに立つ私の目の前には、1人の女の子がいた。

 

 

「貴女は・・・」

 

 

私が言葉を発すると、その女の子は嬉しそうに・・・それでいて、儚げに微笑んだ。

外だと言うのに裸足で、それも白い襦袢だけを纏った・・・12歳くらいの、おかっぱな黒髪の女の子。

どこかで、見たことがある。

・・・この子、は。

 

 

『綺麗で真っ直ぐで・・・強く前に進んで行ける箒姉さんが、羨ましかった』

 

 

その子の言葉に、私は頷く。

そう、私は・・・私「達」は、羨ましかった。

箒姉さんが羨ましくて、妬ましくて、大好きで、大嫌いだった。

 

 

『けどね、今なら少しだけわかるの。箒姉さんの・・・「お姉ちゃん」って存在の心が』

 

 

儚げに笑う女の子は、私に向けて手を差し伸べてくる。

それはまるで、さっきの箒姉さんみたいで。

 

 

『貴女を守るよ、私が・・・私の中にある全ての叡智を、黒く汚れた叡智を使って』

 

 

にこり、今度は見ている人間を安心させるような笑顔で。

まるで、「お姉さん」みたいな顔で。

 

 

『私は、貴女のお姉ちゃんだから』

 

 

その、言葉に。

お姉さんの・・・「カエデお姉さん」の言葉に、私は。

私は涙を浮かべながら、その手を。

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

個人の技量で負け、機体の性能で負け、装備の出力で負ける。

すると必然的にどうなるかって言うと、一方的に嬲られるしか無い。

まぁ、別に初めての経験じゃ無いわよ。

 

 

本国の訓練所じゃ死ぬ思いなんて何度もしたし、IS学園に入った後は後でラウラだったり無人機だったりにやられたりしたしね。

だから、痛い思いをすること自体には文句は無いわ。

痛い思いをしたくないなら、最初から戦うことを選ばなければ良いんだから。

 

 

「・・・終わりですか?」

「・・・こふっ・・・」

 

 

そんな声に、私は言葉を返す代わりに咳き込むことしかできなかった。

巨大艦の中のアリーナ(みたいな場所)の中央で、「くーちゃん」とか言う女の子に頭を掴まれてブラ下げられた状態で。

辛うじてPICは生きてるから、文字通り宙吊りになっている状態。

『甲龍(シェンロン)』の装甲には所々罅が入っていて、各部の出力も下がってる。

 

 

「・・・・・・ん、のっ!」

 

 

それでも、気持ちだけは負けない。

震える腕で私の頭を掴んでいる相手の腕を掴み返して、そこを支点に蹴りを入れようとする。

その返礼は、強烈だった。

 

 

くーは私から手を離すと、その腕を下げて私の蹴りを止めた。

私の腕を掴んだら脚部の装甲に罅を入れる程に力を込めて、力任せに投げる。

奥歯を噛み締めて衝撃に耐える、PICで制止した所に・・・相手の衝撃砲をモロに喰らった。

腹部の装甲が完全にイって、口から嫌な色の液体を出しながら吹っ飛ばされる。

こ、の・・・っ!

 

 

「ぎっ・・・か、は、ぁ・・・っ」

 

 

背中から床に落ちて、衝撃に息を詰まらせる。

たっぷり10秒かけて身体を回して手をついて、粘つく汗を鼻先から滴らせながら顔を上げる。

するとそこに、見たことのある形の漆黒の方天戟の切っ先が突き付けられた。

 

 

「なかなかしぶといですね・・・なら、これならどうでしょうか」

 

 

淡々と告げた銀髪三つ編みの女が、戟をそのままの体勢で押す。

すると当然、それは目前にいる私の身体に吸い込まれることになる。

 

 

左肩に、刺さった。

 

 

嫌な音が身体の中で響いて、何かが裂ける音が聞こえた気がする。

ほんの少し切っ先が埋まっただけで、まるで腕ごと切断されたんじゃないかってくらい痛い。

ISの絶対防御がギリギリ働いてくれなかったら、本当に千切られてた。

自分の口からこんな大きな声、出たんだ・・・ってくらい、悲鳴を上げる。

 

 

「良い鳴き声ですね」

 

 

穏やかに笑って、刺された箇所を踏まれた時は意識が飛びかけたわよ。

ISの保護機能が傷口を押さえてくれているのに、踏まれた拍子に傷口から血が噴き出した。

赤黒い『甲龍(シェンロン)』の装甲が、別の朱色に染まる。

それを2度、3度、4度・・・と繰り返される内に、本当に意識が朦朧として来た。

5度目か6度目くらいで悲鳴も上げられなくなって、それでようやく止まった。

 

 

「・・・ふむ、力尽きましたか」

 

 

グリグリと機体の踵で私の左肩を踏み躙ってから、くーはどいた。

その頃には、私の機体と身体を中心に小さなクレーターが出来ていたわ。

それくらいの力で、踏み抜かれてたってわけね・・・。

 

 

「やれやれ、時間ばかりかけさせて・・・向こうの「私」の様子も気になりますから、失礼させて頂きます」

 

 

そう言って、くーは私から離れて歩いて行く。

それを感じて、私は「馬鹿だ」って思う。

いくら動けなくなったからって、相手の状態も調べずに立ち去るなんて。

余裕のつもりなのか知らないけど、それはいつか足元を掬われる要因になるってね。

実際、このままやり過ごせば・・・私は、先に進めるかもしれないじゃない。

 

 

だけど、私の方がもっと馬鹿だったみたい。

 

 

咳き込みながら、潰された左肩の痛みに耐えながら、起き上がる。

膝を立てて、右手をついて、何十秒もかけて震えながら、立つ。

立ち上がる。

当然、そんな無様な立ち方じゃ相手にも気付かれるわよね。

 

 

「・・・何ですか、あまり手間をかけさせてほしくは・・・」

 

 

本当に鬱陶しそうな声で、くーが立ち止まる。

そして、ゆっくりとこっちを振り向こうとした所で・・・視界の端に、見覚えのある黒い粒子みたいな何かが揺れたような気がした。

視界の端で、急激に『甲龍(シェンロン)』の各種の数値が上昇するのを感じながら・・・。

 

 

「無いので」

 

 

すが、と続きそうになった相手の言葉。

その言葉を最後まで言わせなかったのは、私の右拳。

左肩の痛みで顔が引き攣りそうだけど、無理矢理に唇の両端を吊り上げる。

フルパワー、全力全開で振り抜いた私の右拳が、くーを身体ごと吹っ飛ばしてやったわ。

 

 

鈍い音を立てて、くーの身体が床に沈む。

装甲の重みで床をヘコませながら、2回3回と転がって止まる。

『甲龍(シェンロン)』の右腕の装甲から白い湯気みたいなのが吹いて、余剰エネルギーを放出させる。

 

 

「あー・・・・・・やっと調子出て来たわ」

 

 

ぷっ、と床に唾を吐きながら私は右の拳を握り締めて、呆然とした表情で私を見るくーを見下ろす。

どうしたのよ、ほら、立ちなさいよ。

まだまだ余裕なんでしょ? 上等じゃ無いこのトーシロが。

 

 

「ぶっ・・・・・・潰してやるわっっ!!」

 

 

1発じゃ足りない、2倍、3倍・・・10倍にして、返してやるわよ。

ずぇ・・・っ・・・たいにっ、泣かす!

私と『甲龍(シェンロン)』を、中国を・・・舐めるなっっ!!




新登場IS・兵器:
『プラ・ルワン』『天剣』・改タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦。
(黒鷹商会様提案)。
ありがとうございます。
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