Side くーちゃん
イギリス第3世代型BT兵器実装試験機、『ブルー・ティアーズ』。
それが、この機体の名前でしたか?
青い雫とは良く言った物で、青い射撃ビットから雨のように放つBTレーザーを示しているのでしょう。
「まぁ、私の場合、『海宮(かいぐう)』を介しているのでレーザーの色は黒いのですが」
すぐ傍に浮遊している漆黒の射撃ビットを子犬でも扱うかのように指先で撫でながら、私は眼下の相手を見つめます。
セシリア・オルコットと名乗っていたような気がしますが、私にとってはどうでも良いことです。
どうせ、すぐにお別れすることになるのですから。
「しかしそれでも、貴女の雫(ビット)よりは性能が良いようですが」
「・・・・・・聞き捨て、なりませんわね」
膝をついて床に座っていたセシリアが、私の言葉に反応しながら立ち上がります。
脇腹を押さえながら震えつつ立ち、中空に浮遊する私を見上げて来ます。
額から顎先へと流れる赤い血が、まるで涙のようにも見えます。
しかしその眼からは光は消えておらず、開戦前と何も変化がありません。
機体のスカート部はスラスターごと半分近くが破壊され、他にも直撃こそ避け続けていた物の私のビットの全方位射撃に晒され続けていたために、機体の各所に深刻なダメージが伺えます。
それでも手にしていたレーザー・ライフルを支えに立ち、私を睨み絵が得るその精神的タフさは称賛に値するのかもしれませんが。
「泣きながら謝罪の一つもしてくだされば、命ぐらいは助けて差し上げても良いのですが」
「笑止ですわ、私はオルコットの娘・・・誇りを持たない相手に心から屈することはありませんわ」
「そうですか・・・それは残念です」
それほど残念には思うこともなく、つい、と空中に指先を走らせます。
私と言う奏者の指示に従い、4基のビットが私の傍で並びます。
私自身は悠然と構え、もはや碌な反撃をしてこないであろう相手を見下します。
「・・・決着をつける前に、一つだけ聞いておきたいことがありますわ」
「何でしょうか、私で答えられることだと良いのですが」
まぁ、せめても情け・・・質問の一つくらいは聞いて差し上げましょう。
セシリアは戦闘が弱いと言うことを除けば極めて淑女でしたから、それくらいは許して差し上げます。
さぁ、何でしょうか?
「メネセス・・・」
「はい?」
「アルトゥール・カスティーヤ・メネセスと言う方のことを、ご存知ですか?」
・・・あるとぅー・・・?
記憶を・・・記録を探ってみますが、そのような名称には心当たりがありませんね。
眉を潜めて首を傾げて見せると、セシリアは理解したとでも言いたげに微笑みました。
「・・・安心しましたわ」
「・・・? 何をですか?」
「いえ、大したことではございませんのよ。ただ・・・」
微笑んで、セシリアはそれまでの弱々しい雰囲気が嘘だったかのように背筋を伸ばして立ちます。
それから腕を振るい、私と同じように4基の射撃ビットを自分の周囲に展開します。
「貴女のような外道の徒ならば、貴族として討滅するに一切の躊躇は不要。そう判断しただけですわ、お気になさらずに」
その直後、青と黒の射撃ビットが宙を舞いました。
それぞれ、黒と青の雫を吐き出しながら。
Side セシリア・オルコット
アルトさんのことを覚えておいでで無い、そのこと自体には特に感慨はありませんわ。
戦いの中で倒した相手を全員覚えているかなどと、ナンセンスですもの。
単純に、私の感情の話ですから。
―――――セシリア、コイツらはダメだ。
私は覚えておりますわ、アルトさんが私だけに送ってくださったあのミッション・データを。
その時、今、私の目の前にいる方がアルトさんをいたぶっていたのを。
この方が、他の人間を極めて見下しているような方だと。
「まったく、嫌になりますわね・・・っ」
単純に言って半減しているスラスターの推力で小さな間隔で高速移動を繰り返しながら、私は毒吐きます。
本当、嫌になりますわ。
と言うのも、私と射撃ビットによる全方位射撃戦を繰り広げている黒いBTレーザーなのですが。
これがもう、当然のように
どうしてこう、マドカさんと言うこの方と言い、私があまり好いていない方ばかりがあっさりと偏向射撃(フレキシブル)をやってのけるのでしょうか?
我が主は、それほどまでに私に試練を与えたいのでしょうか?
―――――アンタはビームなんて曲げれなくたって、十分に強いわよ。
・・・ええ、わかっておりますわ、鈴さん。
私はセシリア・オルコット、誇り高きイギリスの代表候補生。
私の
ましてや。
「誇りも持たぬ者に、BTレーザーの真髄などわからないでしょうからね」
「その様で良くそのようなことが言えますね」
首筋を掠めそうにBTレーザーを身を翻してかわすと、別方向からの射撃で左手首の装甲が削り取られます。
無論、同時に私も自分のビットを操作しようとしますが・・・私のビットには致命的な弱点があります。
その他の行動と、同時行動が取れないことです。
故に私が回避行動を取っている間は、射撃ビットは動きを止めるのです。
完全に止まるわけではありませんが、射撃できなくなるのを確かですわ。
結果として、私が一方的にビットで撃たれ続けるハメになります。
一夏さんや鈴さんは、模擬戦で良くこんなビームの雨を避けておりましたわね、本気で尊敬致しますわ。
しかもビームが
「わかりませんね、そこまでボロボロになって。いったい、何がしたいのですか?」
「貴女のような方には、一生かかってもわからないでしょうね」
今までで最大の危機、しかし不敵に優雅に微笑んで。
私は、私が撃ち貫くべき相手を見つめます。
無表情に不思議そうに首を傾げて見せる、銀髪の少女に。
友人の仇討ち、そしてここに共に来た友人達への助力のため。
祖国のため、軍のため、IS関連の知人達のため。
そして、何よりも。
「我ら英国貴族、弱き民の盾にして剣なり!」
英国貴族として、地球人類に大きな影響を与える篠ノ之博士の行動を是認するわけにはまいりません。
それが、お母様の教え。
貴族とは常に強く在り、か弱き民草を守らねばならないのだと。
私は英国貴族、オルコット家の長女にして後継者。
祖国の、そして世界に住まう力無き者達のために力を振るうことこそ本懐ですわ。
貴女方のような人間には、生涯理解できない感情でしょう。
Side チェルシー・ブランケット
この期に及んでは、私がお嬢様のために出来ることは何もありません。
お嬢様の無事をただ祈り、そして同時にお嬢様の帰るべき場所を守る。
それだけが、私に課された責務。
先代のオルコット様より託された、私の生きる意味。
子供の頃から傍にいる、私の主人(しんゆう)を守ることが私の全てです。
それこそが、オルコットの従者に必要な素質。
「お引き取りくださいませ」
「いや、しかしだねキミ」
「お引き取りくださいませ」
オルコット邸の広い玄関にて、私は丁寧な態度で頭を下げています。
私の前にはモーニング姿の中年の男性と、役人のような印象を受ける丸眼鏡をかけた男性がおります。
初対面では無く、これまで幾度かお顔を拝見したことがございます。
具体的に申し上げれば、お嬢様の父方の叔父上に当たられる方とその代理弁護人の方ですね。
前者は少し太り気味で、後者はどこか蟷螂を思わせる風貌をしていらっしゃいます。
現在、お嬢様はオルコット家の当主ですが・・・他に親類がいないわけではありません。
むしろ、普通の家庭と比べても多過ぎるくらいにいらっしゃいます。
建前を抜きに申し上げれば、オルコット家の資産を欲しがるハイエナは何匹もいるのです。
お嬢様はそうした方々から、お母君の遺した物を守ろうと必死に努力なさっています。
それは私だけでなく、このオルコット邸にいる人間ならば皆が知っている事実です。
「御来訪の目的はお伺いしましたが、主人の居ぬ間には応じかねるお話かと存じます」
「その主人が戻ってくるとは限らないじゃ無いかね、何しろ今回の相手はあの篠ノ之博士と言うじゃないか。ねぇ、先生」
「・・・あまり大きな声では言えませんが、親族間ですでに相続の話をする方が出ておりまして」
貴方はその「親族」とやらから、いったい財産の内いくらを貰うことになっているのでしょうか?
表面上は笑顔を崩さず、しかしオルコット邸の中にはいれず、私は丁寧な応対を続けます。
自分の身とISのみを駆って戦場に出ているお嬢様は、当主として持つ印章や権利書、証券や不動産などの証書を多数オルコット邸に保管しています。
もちろん、その所在と取り出し方を知っているのはお嬢様を除けば私だけですが。
「一従者に過ぎない身には、身に余るお話です。どうか主人が戻り次第、再訪して頂けるようお願い申し上げます」
「まぁまぁ、そう意固地にならず・・・悪いようにはしない」
「お客様」
馴れ馴れしく肩を抱こうとしたお客様を固い声で制し、笑顔を消して正面から見つめます。
私の剣呑な雰囲気にたじろいだのか、私から慌てて離れるお客様にもう一度笑顔を見せます。
「我ら従者一堂、お嬢様の無事なご帰還を心より祈っております」
視線を動かしながらそう言うと、お客様方も自然と私の視線を追って周囲を見渡します。
鋭利な刈り込み鋏で庭木をジャキンッ、とわざわざお客様の見ている前で切って見せる庭師。
裏手からは普段は絶対に聞こえない、厨房の使用人が鶏を絞める音。
閉ざされた扉の向こう側から聞こえる「あら、いけないデリンジャーが」と何かを落とす、メイドの声。
頭上のバルコニーからは、大きな花瓶を抱えて整理しているらしいメイド達の足音。
さらに建物の陰から背中だけが見える、黒猫を抱えた黒い執事・・・。
「お客様におかれましても、我々と同じ気持ちであると信じております」
「・・・も、もちろんだとも、私は姪の無事を信じている、信じているとも・・・はは」
「で、では、私共は今日の所はこれで・・・」
「・・・またの御来訪を、お待ち申しあげております」
最後にもう一度頭を下げ、お客様をお見送り致します。
正門前の車に乗り込み、お客様方が去るのを待って・・・大きく、溜息を吐きます。
ふぅ、疲れました。
「大丈夫かい、チェルシーちゃん」
「まったく、品の無い方々でしたね」
「まったくだよ、よほどお嬢様に死んでほしいんだねぇ。おまけにチェルシーちゃんにまで色目使ってまぁ!」
「いえ、大丈夫です。皆さんもありがとうございます」
お客様がいなくなると、庭師や執事やメイドの方々が心配そうに近寄ってきてくれました。
執事の抱える黒猫を撫でながら、私はそれに大丈夫だと告げます。
皆さん、私よりも年配の方々で・・・私やセシリアを子供の頃から知っている方ばかりです。
先代が亡くなってからと言うもの、父のように母のように、兄のように姉のように私やセシリアを支えてくれている方々です。
家族も同然なそんな方々と一緒に、何となく空を見上げます。
想いを馳せるのは、はるか極東。
お嬢様の無事の帰還を、同じ空の下で皆で祈りました。
誰よりも誇り高くて優しい、私の大切な親友を・・・。
Side くーちゃん
貴族の誇り、私にとっては無価値に等しいですね。
しかし、何かに殉じようと言う感情は理解できなくも無いですよ。
私もまた、束さまのために殉じる覚悟はすでに出来ているのですから。
「しかしそれもまた、力が無ければただの言葉に過ぎません」
もはや飛ぶこともできず、床の上に立って棒立ち状態のセシリアに対してそう告げます。
あれから数分か数十分か、いずれにせよ良く持った方かと思います。
しかしそれも限界でしょう、後は私が並べた射撃ビットの放つBTレーザーをただ受けるのみです。
放ちなさい、そう思考するだけで空中を疾走する射撃ビットから黒いBTレーザーが無数に放たれます。
それら全てを回避することもできず、セシリアの身体に叩き込まれます。
小さく無い悲鳴を上げて、BTレーザーに身体を焼かれ、装甲の欠片と血を撒き散らすことになります。
「いっ・・・つぅ・・・!」
「おや、意外とタフですね・・・では、もう一度」
足をふらつかせながらも立ち続けるセシリアに、少し感心します。
しかしやせ我慢など、いつまでも続かないでしょう。
片手を上げて下げ、すると空中から黒いBTレーザーが・・・。
青いBTレーザーが、私の身体を貫きました。
が・・・な、どこから?
私の放ったレーザーも間違いなくセシリアを貫いていますが、同時に私も撃たれています。
見れば、先程まで停止したも同然だった青い射撃ビットが私の包囲していました。
ちょうど、私のビットがセシリアを包囲しているように・・・。
「・・・まさか」
「ご明察、ですわ・・・・・・私、射撃と同時にライフルは撃てませんので」
「・・・!」
少しだけ、驚きに目を見開きます。
つまりセシリアは、ビットの操作に集中するために防御を捨てていると言うことですか。
たとえ自分が撃たれようとも、同時に私も撃つ。
肉を斬らせて骨を断つ、嫌いではありませんが・・・一つ、欠陥がありますよ。
「残念ながら、機体の耐久力は私の方が上ですよ」
積み重ねたダメージも、そして元々の機体の耐久力も私の『海宮(かいぐう)』の方が有利です。
今さら相討ちを狙った所で、どう考えても遅いでしょう。
それをやるなら、もっと早くにするべきだった。
「そう・・・ですわ、ねっ!」
不意にスカート部を翻し、放ってくるのはミサイル型の射撃ビット。
しかしこの距離から放たれた所で、私はビットの射撃でそれを落とすことができます。
そう思い、4基のビットを使ってミサイルを撃ち落とすべくBTレーザーを放ちます。
そしてそのBTレーザーが、別種のBTレーザーによって撃墜、もしくは狙いを逸らされてしまうのを見ました。
レーザーで、レーザーを弾いた!?
それに驚きながらも弾かれたビームを再収束させ、
さらにビットからも続けて射撃を行い、ミサイルを狙います。
青い射撃ビットはビームこそ曲がらない物の、それを補うように小刻みに連射を繰り返してミサイルを守ります。
2発のミサイルビットの内、1つは落としました。
しかし直線的な1発目に比して不規則な機動を描いていた2発目のミサイルは・・・。
「・・・っ!」
―――――直撃しました。
Side セシリア・オルコット
ミサイルビットの直撃は確認しましたが、次は通用しないでしょうね。
これまでミサイルビットを使うのを我慢して来たのは、とにかく当てるためですから。
問題は当てた後にどうするかと言うことですが・・・。
「・・・駆けなさい!」
ティアーズを走らせながらライフルを連射し、ミサイル直撃で起こった白煙に向けて放ちます。
また射撃ビットもその周囲を旋回させるように展開し、間断なく射撃を加えます。
青いBTレーザーが限定的ですが空間を埋め尽くし、雨のように白煙の中の敵を撃ちます。
残りのエネルギーを全て使っても構いません、このチャンスを逃しませんわ。
アルトさんの遺したミッションデータ、そしてこれまでの言動から察するに・・・あの方は私達を見下しております。
その余裕は油断となり、隙を生みます。
だからそこを突く、正々堂々と正面から突いて差し上げますわ。
高圧的な人間がどれほど隙を突かれやすいか、私ほど知っている人間はいないでしょうから。
「BTレーザー、収束・・・!」
最後にビットによる一斉射撃を行った後、私はレーザー・ライフルを構えてBTエネルギーを急速収束させます。
収束射撃用の特殊なウインドゥが開かれ、いくつもの数値や外部状況のデータが視界のセンサー類に映ります。
空気の抜けるような音と共に足を床に固定する特殊な杭が打たれて、衝撃への支えとします。
収束時間は10秒、これ以上はかけられません・・・頼れる前衛がいないのですから。
「・・・
それだけの行動を数秒で済ませ、頭上の白煙に向けて引き金を引きます。
細く引き絞られた高密度のBTレーザーが放たれ、銃口から離れた瞬間に太さを増して突き進みます。
超高速で進みそれが青い軌跡を描き、そして白煙の中心を撃ち抜こうとした所で。
ほぼ同時に白煙の中から放たれた黒いBTレーザーによって、逆に貫かれて霧散してしまいました。
なっ・・・と、驚く間も無く、ISの警告音に従って回避行動を取ります。
スラスターがほぼ死んでいるので、現実的には数歩下がるくらいのことしかできませんでしたが。
そのおかげで直撃こそ避けたものの、ライフルを撃ち抜かれて破壊されてしまいました。
ライフルの爆発から身体を守りながら下がり、頭上を見上げます。
「・・・攻撃手段は悪くありませんでしたが、軽さが命取りになりましたね」
「そんな・・・!」
確かに、私の攻撃は弾速の割に威力が低いと言う特徴がありますわ。
ですが、だからと言って100発以上のBTレーザーを浴びて目立ったダメージが無いと言うのは。
しかも私の最大収束のBTレーザーを同じBTレーザーで弾かれたと言うことは、相手の方が収束率が高いと言うことを意味します。
「このまま、遠距離から嬲るのも良いですが・・・時間がかかりますね」
そう呟くと、くーさんの両手の甲から長い実体剣が乾いた音を立てて飛び出しました。
ライフルを投げ捨てて、近接戦闘に入るつもりのようです。
アレは確か元々の機体の装備・・・アルトさんのミッションデータによればシールドを無視してくるはずです。
これはまた、厄介な・・・と私が眉を潜めたのも束の間、次の瞬間には目前にまで急速移動してきています。
「く・・・っ」
呻きながらも何とか身体を捻り、初撃の突きをかわします。
首筋を掠めたそれはシールドを確かに切り裂いて、私の薄皮一枚を削いで来ました。
危険と判断し、下がろうとすると。
背中に熱を感じて、小さく悲鳴を上げます。
いちいち確認などしません、どうせ後ろからビットで撃たれたのですわ。
それよりも、正面からの近接での斬撃をかわすのに手一杯で・・・。
「・・・ああっ!?」
2撃目も回避しましたが、3撃目はかわせませんでした。
シールドを無視されているため、斬られた左の太腿から赤い鮮血が迸ります。
「インターセプター」は序盤の戦闘で破壊されてしまったので、近接に対応できる物がありません。
近接で回避に専念している以上、ビットでの射撃にも限界があります。
ライフルも失われ、ほとんど素手での対応を迫られています。
<ダメージ深刻、エネルギー残量72>
く・・・せめて。
せめて、近接での戦闘に対応できる装備があれば!
『ブルー・ティアーズ』は試験機です、BTレーザーのサンプリングに関係の無い装備は積んでいない。
だから学園での模擬戦などでは不満はあっても文句は言いませんでしたが、実戦となると。
身体を切り刻まれながらも致命傷を避けつつ、しかしISの防御力の限界も頭の片隅で計算しています。
これ以上は持ちません、何とか・・・何か、打開策を立てなくては。
諦めるなどあり得ない、私の
「私は・・・私と、『ブルー・ティアーズ』は・・・!」
こんな所で、敗れるわけにはいかないのです!
模擬戦で負けるのは悔しいですが、得る物もあります。
しかし実戦、しかもここ一番の戦闘で敗北を喫すれば全てを失います。
私が、私達が全てを失えばそれすなわち、私達の隣や後ろにいる者達に敵の刃を届かせることになります。
それだけは我慢できません、何と引き換えにしたとしてもそれだけは。
例えこの身が、どうなろうとも。
守るべき仲間と民、それだけは残して見せる。
<・・・戦闘経験値、一定水準に到達>
私は・・・オルコットの娘なのだから。
斬撃に胸を斬られて後退し、腕を下げた時、何かが両手の指先に触れました。
跳躍し、2本の実体剣を振り下ろしてくるくーさんを見つめながら。
――――私は迷うことなく、「それ」を手に取りました。
<装備リスト追加、『エインセル』>
Side くーちゃん
甲高い音が響いたかと思えば、私の両手の剣が受け止められていました。
それに対して、僅かなりと動揺を覚えます。
まさか素手で私の剣を掴んだわけでもないでしょうが、しかし武装は無くしたはずです。
「これは・・・?」
私の剣をセシリアに届かせまいと防いでいるのは、どうやら盾の類では無いようです。
剣とそれの間でエネルギーの摩擦が生じ、オレンジ色の火花が私とセシリアを照らしています。
むしろ直前に量子化が解かれたのか、どことなく淡い粒子を放って輝いています。
セシリアはそれを頭上で交差させて私の剣を防いでいます、つまり両手装備です。
形状は黒みがかった青、L字型の形をしているそれらは2丁の自動式拳銃(ハンドガン)。
しかもただの銃では無く、近接戦用の特殊なコーティングが施されているのでしょう、私の剣が与えるシールド無視の衝撃を受けて折れも砕けもしません。
このタイミングで見せると言うことは隠し玉か、あるいはISが今まさに製造したのか・・・。
「・・・む」
私がじっくりとその装備を観察していると、セシリアが自分から体勢を崩して後ろへ身体を倒しました。
自然、私が剣を押し込む形になります。
前のめりになった私に対して、セシリアは機体のスカート部を翻して・・・!
「ちっ・・・」
舌打ちしながら剣を弾き、手に力を込めて跳躍しつつ後退します。
空中でスラスターを噴かせて身体を回転させて剣を振るい、射出されたミサイルビットを2つとも斬り払って迎撃します。
「・・・今のが、レーザーでしたら」
ミサイルの爆発から逃れるように跳び、床に着地します。
そして顔を上げた所で、新たに得た2丁拳銃を手にセシリアが悠然と微笑んでいるのを目にしました。
「もう、終わっていますわよ?」
「・・・調子に、乗らないでください!」
新たな装備に気を良くしたのはわかりますが、所詮、貴女の攻撃は「軽い」。
十分な時間さえ与えなければ、先程の収束型のBTレーザーとて恐るるに足りません。
床に膝をついたままの体勢で、4基の射撃ビットを操作してセシリアの周囲を取り囲みます。
そこから一斉に射撃、4本のBTレーザーを
それに対してセシリアは一方のレーザーの方に跳び、あえてその身をレーザーに貫かせました。
その結果、他の3つのレーザーから身をかわすことに成功しています。
あの一瞬で、最小のダメージで済む方向へ迷わず跳ぶとは・・・。
「・・・はぁっ!」
気合い一閃、セシリアが両手を広げて拳銃を左右に向けて迷わず2発ずつ射撃しました。
それは実弾では無くBTレーザー、2つの射撃ビットを撃ち抜いて破壊する。
驚きつつも残った2基のビットを移動させ、遠距離からの射撃に切り替えます。
直後、セシリアのビットによって残りの2基が貫かれ、爆発しました。
「・・・馬鹿な」
あれほど小さく高速で移動する物を、あれほど正確に撃ち落とすとは。
いったいどこに、あれだけの力が残っていたと言うのか。
「・・・ナノマシン・フィールドが・・・?」
その時、気が付きます。
先程まで私の身を覆っていた束さまの加護が、徐々にその効果を弱めていることに。
これの意味する所は、つまり。
Side セシリア・オルコット
身体が、軽いですわ!
先程まで鉄の鎧のように重かった身体が、徐々に軽くなっているのを感じます。
おかげで不意を突き、相手のビットを墜とすことにも成功しました。
<ダメージ深刻、エネルギー残量43>
・・・とは言え、あと何発も受けていられませんわね。
私はもちろん、機体が持ちませんから。
となれば、前衛も援護もありませんが・・・覚悟を決める他、ございませんわね。
「・・・『エインセル』連結、ライフル・モード」
<肯定。『エインセル』連結、BTエネルギー最大収束開始>
初めて使う武装ですが、以前から使っていたかのように手に馴染みますわ。
白兵戦可能なハンドガン、そして1丁の拳銃の銃口をもう1つの後部に押し当てると、自動で形状を変えて合体、1丁のライフルへと変化します。
連結レーザー・ライフル、『ノーサンブリア』。
そして、再びBTレーザーの収束を始めます。
大きく後退しくーさんから床に膝をついてライフルを構え、正面に向けます。
銃口に再び青い輝きを灯しながら、徐々にですが私の意識から外部の情報が消えて行きます。
時間は45秒、正直に言って永遠にも等しい時間ですわね。
ヒュイィィ・・・とエネルギーが充足していくのと同時に、ISコアの稼働率も上昇して行きます。
「・・・私が、そのような間を与えるとでも?」
でしょうね、期待はしていませんわ。
要するに、私があとどのくらい耐えられるかと言うことで・・・憂鬱ですけど。
・・・お願い、『ブルー・ティアーズ』。
<肯定。射撃ビット、オート・モード>
ビットのオート?
聞き慣れない単語に眉を顰めると、目の錯覚でしょうか・・・私の前に、誰かが立っていたような気がするんですの。
戦闘中にまさかとは思いますけど、嫌にリアルで記憶に残る錯覚でしたわ。
長い金髪に、空の滴のような色の瞳の・・・どこか私に似た、いえ、母に似た・・・女性が。
私の前に立っていたその女性の錯覚が消えると、そこには自動で動いているらしい射撃ビットが浮かんでおりましたわ。
光の屈折でしょうか、あんな・・・母に似た幻を見るなんて。
しかし不思議と身体が、『ブルー・ティアーズ』に覆われた肌が温かくなったような気がしました。
「茶番は、終わりです!」
「・・・!」
くーさんが突撃を敢行、好都合ですわ。
私自身はBTレーザー収束に集中しつつ、「その時」を待ちます。
「・・・ビット!?」
最初の10秒、私がライフルを操作しているにも関わらずビットが操作されていることに驚きつつも、すぐにくーさんは立て直しました。
曲がりもしないレーザーをあっさりと回避し、右手の剣でビットを切断して撃墜します。
次の10秒、背後から放たれたレーザーを身体を捻って回避。
くーさんはそのままステップを踏むようにして左右に跳び、最終的に後ろに大きく跳躍。
着地と同時にビットを斬り落とし、次の瞬間には爆発の中から飛び出してきました。
さらに10秒、左から連射されたレーザーをダンスでも舞うかのように左右の実体剣で切り裂いて散らせ、撃って来たビットを放置して右へ跳躍。
配置されかかっていたもう1つのビットと擦れ違い、その際に一撃。
3つ目のビットが破壊され、残りは先ほど見逃された1つのみです。
そして10秒、今度は先ほど見逃したビットを破壊します。
ビットは当然、逃れようとしましたが・・・くーさんの反応が異常に速く、無理でしたわ。
ビットの爆発と同時に、くーさんが剣を構えてこちらへと瞬時加速(イグニッション・ブースト)をかけてきます。
・・・・・・それを!
「『エインセル』、連結解除!!」
それを―――――待っていましたわ!
「な!?」
くーさんの驚く声を耳にした時には、すでにくーさんは私の目前に迫っていますわ。
しかし同時にその時には、私の連結ライフルは元のハンドガンの状態に戻っています。
・・・45秒分の収束BTレーザーを、内包したまま―――――刃のように!
ギィンッ!
甲高い音を立てて、銀色に輝く何かが2本、飛んで行きました。
それはくーさんの実体剣、両手を上げた体勢で驚きに染まるくーさんの顔を見て、笑みを浮かべます。
胸に広がるのは、温かな昂揚感。
「瞬時加速(イグニッション・ブースト)の欠点は、機動が直線的になること・・・」
良く学園で模擬戦に付き合っていたある殿方のことを思い出しながら、呟くように言います。
くーさんの実体剣を、BTレーザーの刃を込めたハンドガンで斬り飛ばした直後の行動です。
振り上げ、実体剣を斬り飛ばした右のハンドガンからは溜め込んだBTエネルギーが霧散するのを感じます。
しかし―――――まだ、もう一つあります!
振り上げた勢いのまま床についた膝を支点に身体を回転させ、左手の『エインセル』を腰だめに構えて。
そして・・・。
「・・・はあああああああああぁぁぁっっ!!」
ガツンッ、と大きな音を立てて、両腕を跳ね上げられたままのくーさんのお腹に、突き立てました。
エネルギー・シールドを突き破り、装甲を削って身体にBTエネルギーの刃が届く手応えを、確かに感じました。
「かはっ・・・!?」
びしゃっ、と頬にくーさんの口から漏れた赤い液体が飛び散ります。
震えながら私の腕を押さえたくーさん、その力は私の手首を握り潰さんばかりの物でした。
『ブルー・ティアーズ』の装甲が軋み、砕ける音が響く中で。
私は迷うことなく、突き立てた『エインセル』の引き金を・・・。
―――――引きました。
◆ ◆ ◆
空間全体を震わせるような轟音と爆発の後、小さなアリーナ程もあるその空間を黒煙が覆い尽くした。
しばらく瓦礫の崩れる音が続いていたが、徐々に別の音が響き始める。
それは、コッ、コッ・・・と、まるでヒールで石畳の上を歩くような音だった。
空間の出口から煙をかき分けるように出た後、煌めく金色の髪から煤を払うように横髪を右手で払う。
戦いの汚れに塗れていても、その仕草はどこか高貴さを感じさせる物だった。
空から落ちた雫のような青い瞳に疲れの色一つ見せず、傷付いた機体を労わりつつ歩を進める。
「次はもう少し、スマートに行きたい物ですわ」
―――――セシリア・オルコット、搭乗IS『ブルー・ティアーズ』。
ISコア瞬間最大稼働率、96.8%。
セシリア・オルコット:
勝ったのは良いのですけど・・・結局、偏向射撃はマスターできずじまいですわね(ふぅ)。
篠ノ之 楓:
私が弄ってみても良いけど?
セシリア・オルコット:
・・・申し出は有難いのですけど、遠慮致しますわ。
あの技能は、私が自力でマスターしてこそ意味があると思えますの。
私が私のプライドにかけて、いつか自力で・・・。
篠ノ之 楓:
・・・そっかー、セシリアさんは凄いね。
セシリア・オルコット:
ふふ・・・ようやく、私の魅力に気付きまして?