インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第63話:「12時間戦争・延長戦」

アメリカ第7艦隊旗艦を護衛する4隻のミサイル巡洋艦、9隻のミサイル駆逐艦から断続的に放たれたハープーン・ミサイルを始めとする対艦ミサイルは、すでに2000発を超えようとしていた。

しかしその悉くが篠ノ之束の籠る『大綿津見神(おおわたつみ)』の超広域多層障壁(エネルギー・シールド)を抜くことが出来ず、ダメージを与える予兆すら見せていなかった。

 

 

むしろ逆に、味方の防御システムやイージス・システムによる対空ミサイル、ICM砲の対空砲火の隙間を縫われる形で無数の無人機の進撃を許し、次第にその艦数を減らしていっているのである。

つまり火力へ減る一方、指揮官にとっては神経を擦り減らすような戦闘が、10時間以上も続いているのである。

そしてそれは、アメリカ以外の艦隊にとっても同じだった。

 

 

「この12時間の戦闘で、我が艦隊は航空機42、ヘリコプター21を喪失。巡洋艦1、駆逐艦3、揚陸艦2、潜水艦2の合計9隻が大破。駆逐艦2、フリゲート2、揚陸艦1の合計5隻が小中破。死傷者は―――――」

 

 

第7艦隊旗艦、アイオワ級揚陸指揮艦『スコット・ヴァスカーク』のCICにおいて、司令官であるショーン・レイモンド・スピルアース海軍中将は眉間の皺を増やしている所だった。

傍らの部下の報告は要するに、「艦隊戦力半減してます、どうしようパパー」と言う物だったからだ。

 

 

彼が乗っている艦からしてかの『白騎士事件』で沈められた前第7艦隊旗艦に代わって開発された揚陸指揮官だが、今の所は期待通りの働きをしているとは言い難い物があった。

原子炉搭載による50ノットの推進力、イージス・システムの搭載とレールガン、IS技術を転用した戦術高エネルギーレーザー砲の搭載・・・技術の粋を固めた新鋭艦も、100倍する無人機の群れには極めて不利な状況に置かれざるを得なかった。

 

 

「くそぅ・・・」

 

 

その旗艦の様子を忌々しげに見ていたのは、空中を旋回しながら艦隊の直衛にあたっていたイーリス・コーリングだった。

周辺を「ゴーレムⅤ」に取り囲まれている状況下で、ファング隊の部下と密集し、互いの死角をカバーし合う戦術で辛うじて堪えている。

 

 

ナノマシン・フィールドから解放されたとは言っても、10倍する「ゴーレムⅤ」の軍勢はそれだけで十分に厄介な相手だ。

一騎討ちなら負けるとは思わないが、単純計算で10機の「ゴーレムⅤ」を相手にできるかと言うと唸らざるを得ない。

しかも『ファング・クエイク』はどちらかと言うと、単体戦闘に特化している機体である。

 

 

「せめて、広域殲滅用のパッケージの開発が間に合ってりゃあ・・・」

 

 

今、必要とされているのは広域殲滅能力だった。

機動力に優れた敵に数的不利、これを覆すには火力で対抗するしか無い。

それこそ、ジーナ・ワトソンが駆る『金の福音(ゴールド・ゴスペル)』のような・・・。

 

 

そしてそうした各戦場での不利は、情報を集約する超高高度の管制IS『八咫烏(やたがらす)』の操縦者、暁陽(あさひ)が最も良く把握していた。

周囲にいた他の国の早期警戒管制機はすでに失われ、今では米中ロ、そして自衛隊などの艦隊・戦闘機・ISに対する管制をたった1機で行っている状況だったためだ。

 

 

「空が・・・」

 

 

形の良い唇から紡がれるのは、戦慄くような声。

空を駆けるIS乗りにとって、今の状況は耐えがたい物がある。

太陽が沈んだ夜空を、撃墜される戦闘機や大破するISの色で染められているのだから。

 

 

「・・・ん?」

 

 

その時、『八咫烏(やたがらす)』の管制用ディスプレイの片隅に眼下の艦隊・部隊とは別の光点が生まれた。

それは遥か戦場の東側から猛スピードで迫るもので、しかもたった一つだった。

方角と数からして、援軍の欧州軍では無い。

 

 

「じゃあ、これは・・・?」

 

 

暁陽(あさひ)の言葉に対する答えは、もう少し後に判明することになる。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 織斑 マドカ

 

巨大航行艦―――――『大綿津見神(おおわたつみ)』。

篠ノ之束の居城にして、海の名を持つ神の船。

そして『海宮(かいぐう)』とは、その海の神が住まう場所のことだ。

 

 

海の宮の形は定まっていない、伝承によってその姿を変える。

それ故に、その形は千差万別。

ナノマシンによるコーティングによって、他の機体の性能をそのまま盗むことができる。

 

 

「なるほど、まさにその機体の名に相応しいと言うわけだ」

 

 

銃剣(スターブレイカー)を押し込み、壁に押さえつけている何人目かの「くーちゃん」に対して、そう告げる。

閉ざされてはいる物の、その目にはありありと憎々しげな輝きが宿っていることだろう。

だがそれは私に心地良さを与えこそすれ、戦慄も畏怖も与えることはできない。

 

 

「き、さま・・・同じ人形で、何故・・・!?」

「何故・・・? 同じ人形なのにどうして、こうまで実力に差があるのか、か?」

 

 

それは単純な理屈だ、「くーちゃん」。

お前は篠ノ之束の世話のためだけに造られた人形、しかし私は最初から戦争のために造られた。

最強を目指して、造り出された私。

たかが家政婦程度に・・・。

 

 

「助手ごときに、敗北する道理など・・・無い!!」

 

 

そのままの体勢で、背後に並べた射撃ビットによるBTレーザーの最大収束・一斉射撃を行う。

身体のすぐ傍を焼けるような熱源が通り、銃剣で押さえつけていた「くーちゃん」の身体に突き刺さる。

それは全ての物を蒸発させ、次いで爆発させる。

熱と炎が私の視界を染めた後、私の目に入ったのは・・・外だった。

 

 

すでに太陽は沈み、夜の闇の中に戦いの赤色が映えるだけの世界だ。

爆煙は夜風に吹かれて消えて、戦闘の熱で火照った身体を冷やしていく。

崩れた分厚い壁の破片を踏みしめながら、外の戦況を確認する。

どうやら『大綿津見神(おおわたつみ)』の多層障壁(エネルギー・シールド)を破れず、攻めあぐねているらしい。

 

 

「・・・無能共が」

 

 

まぁ、それも仕方が無いか・・・所詮は、雑兵だからな。

どの道、他の人間がどうこうできる事態でも無い。

 

 

「・・・認識を改めましょう、織斑マドカ」

「ふん、随分とかかった物だな」

 

 

別に驚きはしない、私はもうかれこれ11人の「くーちゃん」を殺している。

今さら新しいのが出た所で、新鮮さなど欠片も無い。

振り向けば、そこには深い海色(ディープ・ブルー)のISに身を包んだ銀髪の女がいた。

今までと同じ・・・いや、違う点があるな。

 

 

「ほぅ・・・それで? 目を開いたらどうなる? 本気モードにでもなるのか?」

「・・・認識を改めます、貴女は強い。それも、千冬さまに及ぶ程に・・・」

「状況判断が遅いな」

 

 

白い瞳、その中に金のラインが幾重にも走っている。

まるで電子回路のようにも見えるそれは、どこか無機質な輝きを放っていた。

そしてそれは、瞳だけで無く・・・白い肌にまで及び始める。

微かに金色に輝き始める肌に、同じ色のラインが走って行く。

まるで、何かの回路(サーキット)のように。

 

 

「だから私も、全力で貴女を殺すことにします」

「・・・そうか、ならば私もこう言おう」

 

 

お前は、篠ノ之束のために私を殺すと言う。

ならば私にも、こう言い放つ義務と権利があるはずだ。

ねぇさんと一夏兄ぃのために、お前を。

 

 

「―――――殺す」

 

 

ここから先は、殺し合いだ。

そう告げて、私と「くーちゃん」は再び動き始めた。

人形同士の、存在を懸けた殺し合いのために。

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

大きく息を吐いて、手元の刃の無い剣の柄を思い切り引く。

すると、水のナノマシンで繋がれた蛇腹剣(ラスティー・ネイル)の刃が唸りを上げて引き戻される。

手首の返しで微妙に変化する刃に引き裂かれた2機の無人機が、首を飛ばされて墜落を始める。

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

これで、9機目。

長時間の戦闘の中で、母艦に戻ってエネルギーを補給すること三回。

手の甲で顎に滴る汗を拭いながら、私は周囲の戦況を見つめる。

 

 

・・・正直、無能と呼ばれても仕方が無いわね。

艦船や戦闘機はもちろん、私を含めて283機いたISも40機近くの反応が無い(ロスト)

別に私が全軍の軍師ってわけじゃ無いけど、戦場をセッティングした身としては責任を感じざるを得ない。

 

 

「無人機を全滅させるのは非現実的・・・となると、本丸を落とすのがベターなんだけど」

 

 

物量で勝負する消耗戦だと、明らかにこっちが不利。

でも見ている限り、篠ノ之博士の籠る巨大艦の多層障壁(エネルギー・シールド)を抜けていない。

つまりダメージを通せていないから、落とすも何も無い。

あの多層障壁を、何とかしないと・・・。

 

 

『・・・楯無姉さん』

「簪ちゃん?」

 

 

その時、プライベート・チャネルで簪ちゃんが連絡を入れて来た。

簪ちゃんは確か、種子島宇宙センターへの電力供給を止めた後は島内の防衛に回ってたはずだけど。

本音ちゃんと山田先生達は、虚ちゃんの救出に行ってくれてるはず。

 

 

『篠ノ之博士の宇宙船の建造は・・・エネルギー供給の寸断で少しだけ止めたけど、でも完全には止まって無い・・・』

「そう・・・なら、そっちも時間の問題か・・・」

『あの、それと・・・ね・・・』

「うん?」

 

 

画面越しに首を傾げて先を促すと、簪ちゃんは物凄く言いにくそうに。

 

 

『えと・・・宇宙開発機構の人達から特務機関に抗議が来たらしくて・・・』

「・・・ええと?」

『・・・そ、その・・・そんな壊してどう責任を取るんだって・・・』

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

・・・いや、責任も何も。

戦争中なんだけど・・・そこの所、わかってくれてるのかしら?

流石にちょっと、イラっと来たわね。

 

 

『それから、あの多層障壁なんだけど・・・』

「何か新しい情報でも?」

『うん、内部構造の図面が手に入った・・・よ』

 

 

内部構造の図面。

それがあれば、確かに多層障壁の機能の弱点とか抜き所も見つけられるかもしれないけど。

もちろん、そんな物を国連軍が自力で入手できるとは思えない。

 

 

「その情報、出所は?」

 

 

そんなことは、決まっているわよね。

 

 

『・・・楓が・・・』

 

 

・・・そう。

その名前に、私はただ頷いた。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

「ちーちゃん、今の世界は楽しい?」

 

 

不意に尋ねてきた言葉に、私は迷うことなく首肯した。

今の世界が楽しいかと問われれば、私はそれに対して他の答えを持っていない。

 

 

「まぁ、それなりにな」

「ふぅん、そうなんだ」

 

 

つまらなそうに言う束は、拗ねた子供のような顔をしていた。

それはどこか納得していないような、望んだ回答を得られなかったような色を浮かべていた。

まぁ、私は昔から束の望む答えを言わなかったからな。

 

 

「わかんないなぁ、何が楽しいのか。ちーちゃんはさ、何が面白くて毎日を過ごしているの?」

「さぁ、どうかな」

「むー、ちーちゃんはいっつもそうだ、肝心な所になるとはぐらかしてさぁ」

「そう言うことは、自分で見つける物だからな」

 

 

弟の面倒を見るのも、同僚と酒を飲むのも、頭の緩い親友の悪い遊びに付き合うのも。

この世界だったからこそ、出来たことだ。

この世界と折り合い続けていたからこそ、出来ていたことだ。

 

 

人は大なり小なり、世の中の何かと折り合いをつけながら生きて行く。

不満もあるだろう、嫌なこともあるだろう、認められないこともあるだろう。

だがそれを含めての世界であり、世の中であり、人生であり・・・人間だろう。

 

 

「まぁ、私も世の中との折り合いのつけ方が上手い方じゃ無いからな。良い所、暴力教師と言った所だろう」

「折り合う必要なんて感じないし、ちーちゃんの教えで落ちこぼれる方が悪いんだよ」

「そう相手を悪い悪い言うな、お前の悪い癖だぞ。たまには自分の方に原因があると思ってみてはどうだ?」

「は? 意味わかんないし」

「・・・やれやれ」

 

 

肩を竦めて溜息を吐くと、不満そうな束の顔が目に入る。

この話題は、昔から平行線だった。

私は今の世界でも楽しみを見つけられるが、束はそうでは無い。

だから束は作るんだ、何か自分を楽しませてくれる物を。

そしてその多くが、束以外の人間には理解ができない。

 

 

「そう言うお前は、何が不満なんだ?」

「不満だらけだよ、鬱陶しいったら無いもん。皆、馬鹿ばっかりだしさぁ」

「小学生か、お前は」

 

 

そう言うのはせめて、中学生までに克服しておくべき問題だろうが。

 

 

「・・・・・・ねぇ、ちーちゃん」

「何だ?」

「生きるって、何なんだろうね?」

 

 

まぁ、人によって違うだろうな。

と言うよりも、大体の人間はそんなこと考えもせずに日々を生きていると思うが。

むしろ全人類がそんな哲学的なことを思考しながら毎日を生きていたら気持ち悪いだろう。

 

 

「束さんには、わかんないよ。どうして皆がそんないろいろなことに必死になったり、一喜一憂したりできるのかがさ。ある意味で羨ましかったりもするよ、そんなことでいちいち喜んだり悲しんだりできて」

「まぁ、お前は大体のことはできるからな」

「ちーちゃんもでしょ?」

「・・・ある程度はな」

 

 

束にとって、生きると言うことは簡単過ぎる。

多くの人間が躓く様々な過程は、束にとっては存在しない。

多くの人間が経験する困難を、束は経験したことが無い。

何故ならば、最初から完璧以上に出来てしまうからだ。

 

 

「生きるのが簡単過ぎて、生きてる感じがしないよ」

 

 

・・・それもまた、中学生までには完結しておくべき議論だな。

そう言う意味で、束の精神は幼い。

そしてその幼さこそが、篠ノ之束と言う個を定義する重要な要素でもある。

 

 

「それでも私は、今の世界が・・・人間が、それなりに好ましいと思っているよ」

「えぇ~、ちーちゃん趣味悪いよ」

「お前にだけは言われたくない」

 

 

そこだけは本気で言って、私は溜息を吐く。

何度目かわからない、そんな溜息を。

だが実際、私は今の世界をそれなりに好ましいと思っている。

何故なら、世界は、人間は・・・。

 

 

「千冬姉っっ!!」

 

 

 

その時、若い男の声が私の名前を呼んだ。

言葉を紡ぐために吸い込んだ息を、驚きのために止めて。

私は、声のした方へと視線を向けた・・・。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

機械仕掛けのリスに誘導されるままに、通路を走る。

外の状況は一切、わからない。

ただ何となく、感じるんだ。

 

 

近い、近付いて来ているって。

いや、厳密に言うと違うな。

むしろ、俺の方から近付いて行ってるんだから。

その事実に、胸の奥がザワめく。

 

 

「・・・ここはっ!?」

 

 

『白式(びゃくしき)』の最大加速で、何キロ進んだだろうか?

良く覚えていない、覚えているのはここまで一本道だったってことだ。

機関室を壊して無かったら、もっと速く来れたのかもしれない。

 

 

そこは、ちょっとしたアリーナくらいある広い空間だった。

ただ今までと違ってちゃんと装飾があるって言うか、機能性よりも見た目を優先した感じって言えば良いのかな。

俺は見たこと無いけど、「玉座の間」みたいな部屋があったらこんな感じなんだろうか。

俺がいるのは、オペラ座の2階席みたいな場所だ。

まぁ、座席とかは無いからテラスみたいな感じだけど。

 

 

「・・・千冬姉?」

 

 

その下に、見覚えのある・・・忘れるはずもない姿を見つけた。

紅桜色のISに身体を覆っているその姿は、昔、動画で見たままの姿だった。

艶やかな黒髪、そして俺が知る限り世界一の美人。

ぐっ・・・と、胸がつかえたんじゃないかってくらいに詰まる。

その衝動のままに、叫んだ。

 

 

「千冬姉っっ!!」

 

 

叫んで、飛び下りた。

『白式(びゃくしき)』で姿勢制御しながら落ちて、床に降り立つ。

驚いたような、呆れたような・・・そんな顔をする千冬姉の所に、足がもつれそうになりながらも近付いていく。

千冬姉の切れ長の黒い瞳が、俺を見てゆっくりと細まる。

 

 

「千冬姉・・・」

 

 

この時だけは、俺は他のことを忘れていたと思う。

いろいろなことを忘れて、ただ千冬姉のことだけ見てた。

千冬姉のこと以外、見えていなかった。

 

 

千冬姉はそんな俺を見て、苦笑したみたいだった。

俺、どんな顔してたんだろう。

千冬姉がそっと手を伸ばしてきて・・・人差し指で、俺の額をこずいた。

・・・ISの指先だったから、結構なアレだったけど。

 

 

「しょうの無い奴だな、こんな所まで来てしまって」

「え、いや・・・エムの奴が」

「エム・・・ああ、マドカか」

 

 

マドカか、と、千冬姉は自然な感じでそう言った。

それに、何だか俺はむず痒いような気分になる。

千冬姉はこの2カ月間、ずっとマドカと一緒だったのだろうか。

もし一緒だったとして、何を話して・・・何をしていたんだろう。

 

 

「やぁやぁ―――――」

 

 

その時、俺の視界に千冬姉以外の存在が割り込んできた。

無遠慮に、不躾に、当たり前の顔をして。

その人は、両腕を広げて大きな胸を張っていた。

満面の、笑顔で。

 

 

「やぁやぁやぁ、いっくん。よく来たねぇ! ほんとにほんとに良く来たねぇっ!」

 

 

束さんは、本当に嬉しそうにそう告げた。

その周囲では、無数のディスプレイとキーボードが輝いていた。

そしてその光が、束さんの笑顔を照らしていて・・・。

 

 

 

 

 

Side くーちゃん

 

・・・!

びりっ・・・と電流が流れるように、私の脳に直接リンクしていた反応が消失しました。

それも一つや二つでは無く、一度に何体もの「私」の反応が消えました。

 

 

しかもそれらから逆流してくる情報(イメージ)は、形は違えど結果は同じ。

殺された、こんな短時間で。

あり得ない・・・ただの人間などに、この私「達」が。

 

 

「どうした、随分と顔色が悪いようだが」

「・・・!」

 

 

箒さまの声に、私は息を飲んで顔を上げます。

箒さまの後ろには楓さまもいて、2人揃って束さまに反する構えを解いてはおりません。

私の顔色がどうなっているかは私にはわかりませんが、苦しい状況には違いありません。

今の所、奇跡的に周囲への被害は最小限に留められています。

 

 

どうしましょうか、この場にいる「私」を全て動員しましょうか?

しかし、それをやると箒さまと楓さまに引かれそうで・・・。

今後の生活を考えれば、可能な限り私に対して親しみを持って頂くことが肝要です。

でも、このままではとても困ったことに・・・!

 

 

『くーちゃーん? しーきゅーしーきゅ~』

「・・・束さま?」

『よんろくさんきゅー、上によろしこ~』

 

 

・・・束さま、テンションが普段の3倍ですね。

しかし了解しました、私は一旦、剣を収めます。

そんな私を箒さまは怪訝な表情で見つめられ、私は微笑をもって返します。

 

 

「箒さま、楓さま」

「何だ」

「・・・?」

 

 

小首を傾げて、私は手元に空間投影型のディスプレイを一枚、展開します。

そこには『大綿津見神(おおわたつみ)』の全図があり、私達3人のいる位置が赤く示されています。

そして、「ルート」も。

 

 

「束さまがお呼びです、ご案内申し上げます」

「何・・・?」

 

 

そう、束さまがお呼びです。

きっと束さまは、ご自分でお2人に言い聞かせるおつもりなのでしょう。

私がご説明するよりも、よほど効果があるやもしれません。

私はにっこりと微笑むと、手元のキーボードのエンター・キーを押しました。

カタッ、と軽い音が響き。

 

 

「・・・! くーちゃんさん、まさか・・・!」

「はい、お2人をこのまま束さまのおられる場所まで、ご案内致します」

 

 

何か大きな歯車が噛み合うような音が響き、鈍い音を立てながら床が揺れ動き始めます。

周囲のカプセルは壁際まで下がり、床がせり上がり始めます。

私は笑顔ですが、箒さまと楓さまは終始困惑し、緊張しているようでした。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

今、この巨大艦・・・『大綿津見神(おおわたつみ)』のナノマシン・フィールドの管理権限は私の手にある。

だけどその他のシステムに関しては、束お姉ちゃんがガッチリとキープしてて動かしようが無い。

たぶんだけど、わざとだと思う。

 

 

言ってしまえば、ご褒美のような物?

ううん、それもたぶん違うと思う。

ようするに、ねだられたから譲ってあげた。

私が妹で、束お姉ちゃんは姉だから。

妹の欲しがる玩具を、「しょうがないなぁ」と笑って与えただけ。

 

 

「貴様・・・どう言うつもりだ!?」

「どうと申されましても・・・私はただ、束さまのお望みを叶えるだけです」

 

 

私と、箒姉さん・・・そして、くーちゃんさん。

私達3人の足場がせり上がって、天井に開いた穴へと吸い込まれていく。

これは、内部構造を変更して私達を運んでる・・・?

 

 

たぶん、束お姉ちゃんのいる所まで。

そのことに、正直に言ってお腹が痛くなる。

我ながら、細い神経してるよね・・・怖いんだ。

今、束お姉ちゃんに会うのが。

悪戯を見つかった幼児並の神経と言えるね、我ながら。

 

 

「・・・図面の外部への送信は、完了・・・っと」

 

 

『黒叡(こくえい)』を通じて、『大綿津見神(おおわたつみ)』の外部構造―――多層障壁に関する部分だけ―――を外に出すことに成功した。

情報量が少ないけど、これで何とかしてもらう必要があるよね。

正直、それくらいは期待しても良いはず。

 

 

束お姉ちゃんに気付かれずに情報を外に出すには、『非限定情報共有(シェアリング)』で結ばれた独自のネットワークに頼るしかない。

そして今、外で活動している機体で私の『黒叡(こくえい)』とそこまで強固なネットワークで結ばれている機体は、1機しか無い。

 

 

「・・・簪ちゃん・・・」

 

 

簪ちゃんの、『打鉄弐式(うちがねにしき)』しか存在しない。

そっちに頼るしかないのが、今は物凄く歯痒いけど・・・。

 

 

―――――ガコンッ。

 

 

コンベアで運ばれた気分になるような音が聞こえると、開けた場所に出た。

床下から出た形になったのか、私達3人はどこかの広い空間の床に立ったり座ったりしてる形になってる。

 

 

「箒・・・あと、楓か!?」

「え・・・と。一夏さん?」

 

 

驚いたような声に振り向いてみれば、そこには『白式(びゃくしき)』に身を包んだ一夏さんがいた。

そしてその隣には、驚いたことに・・・千冬姉様までいる。

北極海で別れた、あの時のままの姿で。

そして、それから―――――。

 

 

「全員・・・」

 

 

それから。

 

 

「・・・揃ったね!」

 

 

それから、束お姉ちゃん。

何だか、物凄く久しぶりに見た気がする。

篠ノ之の長姉・・・全部の。

 

 

はじまり。

 

 

 

 

 

Side 織斑 千冬

 

私と、一夏。

それと篠ノ之の双子の姉妹に、くーちゃんとか言う娘。

これで、アイツが望んだ全部か。

 

 

これ以外の人間は、いらないと。

アイツ・・・束は、そう判断を下したわけだな。

ふ、ノアの方舟に乗せられた動物達も、こんな気分だったのかもしれないな。

 

 

「うっふふふ~、やぁやぁ皆! あいやあいや、皆まで言う無い! わかってるわかってるぅ!」

「・・・楓、私にはあの人の意図が全く読めないんだが」

「え、えーと・・・」

「えぇえ~? 箒ちゃんひどぅいっ、ほらほら、お姉ちゃんだよ~?」

「ええい、よるな鬱陶しい!」

「にゃははは~」

 

 

妹達の登場がよほど嬉しかったのか、束のテンションがうなぎ登りだった。

篠ノ之姉は束から逃げているし、篠ノ之妹はアワアワしている。

一夏はポカンとした表情を浮かべているし、くーちゃんとやらは微笑ましそうに見ている。

 

 

・・・これが。

これが、篠ノ之神社の軒先で繰り広げられていることなら、どれほど良かったか。

だがここはあの家では無く、幼い頃の記憶とは何もかもが違う。

だから私は、言葉を紡ぐ。

 

 

「なぁ、束。ここにいる面子で宇宙に行くのか?」

「えー? うん、そうだよちーちゃんっ。皆で行けば、きっと楽しいよね?」

「ああ、そうだろうな」

 

 

私の肯定が嬉しかったのか、束はますますニコニコしていた。

だから私も、微笑みを返す。

 

 

「お前は相変わらず、自分の望むことしか見えていないんだな」

「うん?」

「いいや、ただなぁ・・・」

 

 

視線を下に下げて、苦笑する。

少しだけ、愉快な気分だった。

耳を澄ませば、「それ」が聞こえてくる。

 

 

「見通しが甘い、そう言う話さ」

 

 

なぁ、束。

お前は世界がつまらないと言うことを良く言っているが・・・私は、そうは思わない。

確かに能力の高さ故に面白みに欠けることは確かだ、否定はしない。

けれど世界は・・・人間は、時として私を驚かせる。

愚かであるが故に、私を上回るんだ。

 

 

「人は弱い生き物だ。聖書では神の映し身とされているが、実際はそんなに良い物じゃない」

 

 

右斜め後ろ、少し高い位置の壁が爆裂して砕ける。

そこから現れたのは、紅の炎を纏った赤黒い機体だ。

小柄な身体に似合わぬ気迫を大きな瞳に込めて、その娘は束を見下ろす。

 

 

「時として残酷で、私やマドカのような存在を生み出してしまうこともあるだろう」

 

 

左側面の壁が吹き飛び、破片が何かに掴まれたかのように制止する。

空中でそれらを留めるのは、人の過ちが生んだ超常の力だ。

漆黒の鎧に金の瞳を輝かせて、超人たることを望まれた娘は束を見据える。

 

 

「だが同時に、人は自ら定めた何かに従って歩みを進めることもできる」

 

 

後方の壁が青いレーザーで繰り抜かれ、綺麗に切り取られた壁が崩れ落ちるように倒れる。

そこから姿を見せたのは、蒼穹を背負う誇り高き翼だ。

見なくてもわかる、金髪を片手でかきあげながら束を見つめる青い瞳を。

 

 

「まぁ、それはお前にとっては半歩にも満たない小さな物だ。だが、だからこそ・・・」

 

 

右側面、私がゴーレムを放り投げて崩した壁から、静かにオレンジ色の機体が入ってくる。

その手に無骨な武器を持ち、様々な理由で立場を変えた娘がそれでも歩みを止めずに進んでくる。

その歩みは、誰に憚るものでも無い。

 

 

「だからこそ、私はこの世界が面白いと思うよ」

 

 

正直、碌な目にあっていないが。

それでも私は、この世界をそこそこ気に入っているよ。

たまに、面白いことが起こるからな。

 

 

「だから束、私と一緒に信じてみようじゃないか。この世界の可能性と言うヤツを、な」

 

 

今にして思えば、私はそれが見たくて教師などと言う似合いもしない職業をやっていたのかもしれないな。

生徒と言う、いつの時代も輝かしい未来と可能性を夢見ている存在を見たくて。

年の離れた弟がいたと言うのも、ある程度は影響していたのだろうが。

だから・・・?

 

 

「・・・束?」

 

 

ふと見れば、先程まで篠ノ之姉を追いかけて喜んでいた束が立ち止まっていた。

立ち止まって俯いて、フルフルと肩を震わせている。

声をかけても、反応が無い。

訝しんで、もう一度声をかけようとした時・・・束は、顔を上げた。

そして。

 

 

「くふ―――――あはっ」

 

 

笑う。

もう堪え切れないとばかりに、腹を抱えて笑う。

笑い転げていると言っても、過言では無い程に。

 

 

「あぁっ・・・はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっっ!!!!」

 

 

笑う、息が続く限りに・・・笑い転げているように。

いや、もうすでに文字通りに笑い転げている。

床の上を髪を乱しながら転げ回り、四つん這いになったかと思えば掌でダンダンと床を叩き、息が途切れれば横隔膜をヒクつかせながら悶えて震えていた。

もうこのまま、死んでしまうのでは無いかと心配になる程に。

 

 

「く・・・くふ、ひぬ、ひんひゃうひょ・・・死んじゃうよぉ、ちーちゃん。死因は笑い死に、何と言う策士なんだちーちゃん・・・ぶふっ、もうダメ本気で死んじゃう・・・くふ、くふふふふふっ、くひっ」

「すまん束、私は今、本気で引いている」

「あ、ひどぅい・・・爆笑ネタ出したのちーちゃんの癖に・・・くふっ、ダメ、思い出しただけで死んじゃう・・・っ」

 

 

いや、私は割と本気で言ったんだが。

 

 

「ちょ、もう言わないで・・・やめてやめてホント。だってちーちゃん、そんな、世界の可能性なんて三文小説並の台詞、聞かされたら・・・・・・ぶふっ、ぶくくくく・・・っ」

 

 

・・・良し。

 

 

「殺そう」

「いや待って千冬姉、束さんのやることにいちいち反応したらダメだって」

 

 

私が割と本気で殺意を覚えていると、一夏がびしっと突っ込んで止めて来た。

弟に感謝するんだな束、お前が生きていられるのは理性的な一夏のおかげなのだからな。

私がそうして弟によって怒りを鎮めていると、束は何とか立ち上がれるまでに回復していた。

しかしそれでもそのニヤけていたので、私の殺意は留まるところを知らなかった。

 

 

「いや、もうホント、面白かったよちーちゃん」

「あのな、束・・・」

「世界の可能性」

 

 

不意に、空気が冷たくなる。

先程までのふざけた空気では無く、弛緩してもいない、無慈悲なまでに冷たい。

垂れ気味の瞳が、冷たく細まっていく。

 

 

「冗談だとすれば最高だし、本気だとすればもっと最高だよ」

「・・・ああ」

「だったら、見せてほしいな。そんな面白い物が、本当に・・・・・・」

 

 

次の瞬間、数十のディスプレイが黄金色の輝きを放ちながら展開された。

そこには尋常でない速度で激しく変動する数値が記されていて、そして私にはその意味が読める。

アレの、意味する所は。

 

 

「あるのなら、ね」

 

 

1万機の―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

その時、「海」が震えた。

そう感じたのは、上空の管制IS『八咫烏(やたがらす)』と連携して海中の管制を行っていた深海用IS『クトゥルフ』のソーニャである。

 

 

独特の機体性能で海中の事象全てを肌で把握している彼女が最初にその異変に気付いたのは、まさに必然であったと言える。

そしてこの場で何らかの異変を起こし得る存在は、目前の巨大艦『大綿津見神(おおわたつみ)』しかあり得ない。

 

 

「・・・『クトゥルフ』より海上・海中の各艦へ。目標に不穏な気配あり・・・確認求む」

 

 

そしてその報告を受けた第7艦隊旗艦のCICはただちに各艦・各機に報告を求め、衛星からの情報とも整合しつつ瞬時に回答を得ようと動いていた。

しかしそうした人々の努力を嘲笑うかのように、先に動いたのは『大綿津見神(おおわたつみ)』の方だった。

 

 

開いた。

 

 

そう言うのが正しいだろうか、その楕円形の巨大な塊の表面上に大きなスクエア状の空洞が開いたのである。

そしてその中からカタパルトのような細長い物体が次々と突き出され、各部からの報告を総合すると300近い穴が開いたと言う。

いったい、アレは何なのか? その答えは・・・。

 

 

「・・・無人機です! 無人機の新手と思われます!」

 

 

各艦のオペレーターが異口同音にそう叫び、それぞれの艦の指揮官がその数を問いかける。

しかしそれを確認しようにも、オペレーターの答えはなかなか上がって来なかった。

それもそのはずである、各艦のレーダーには無数の光点が浮かび上がっており、とてもではないが識別しきれるレベルを超えていたのである。

ただ、「膨大な数」と言うことだけがわかっていたのである。

 

 

「おいおいおい・・・何だよ、悪い夢でも見てんじゃねぇの・・・?」

 

 

太平洋の空を飛び回っていた豪州代表、アイシャも・・・流石に、目の前の事実を受け入れることはできずにいた。

彼女のISが示す敵機の数が、それ程までに膨大だったからである。

 

 

「・・・冗談じゃねぇぞ、クソヤロウ」

 

 

アメリカ艦隊のアーレイ・バーク級駆逐艦の護衛についていたエリスもまた、精彩を欠いた声で悪態をついていた。

彼女のIS『タイニー・ウィッチ』のハイパー・センサーに映し出されていた敵の新手の規模は・・・。

 

 

1万機。

 

 

1万機の「ゴーレムⅤ」が、『大綿津見神(おおわたつみ)』の中から姿を現したのである。

第7艦隊旗艦『スコット・ヴァスカーク』のスピルアース海軍中将も、この報告には流石に言葉を失った。

 

 

「1万機だと!? 馬鹿な、それ程の数の無人機、いったいどこに・・・!?」

 

 

いくらなんでも、万単位の機体を収容し整備し出撃させるなど、たった1人の人間にできるはずが無い。

いかに相手が篠ノ之束とは言え、常識外れにも程がある。

巨大艦『大綿津見神(おおわたつみ)』の容量を明らかに超えている、物質の質量をどうにかしない限りは・・・。

 

 

「・・・まさか・・・!」

 

 

中将の脳裏を懸けたのは、ISと言う発明が画期的である理由の一つだった。

量子化。

いかなる物質であろうとも、重さも大きさも関係無く収容することができるISの脅威の能力。

それを応用すれば、何万機、何十万機であろうとも・・・。

 

 

 

―――――戦闘開始から、12時間。

篠ノ之束の投入した1万機の「ゴーレムⅤ」によって、戦況は新たな局面を迎えることになった。




最近思うISの不思議。

篠ノ之 楓:
一夏さんが浮かれると左手をグーパーする癖って、結局の所最初しか出て来て無いよね。

織斑 一夏:
え、ああ、うん・・・千冬姉に直せって言われたし・・・。

篠ノ之 楓:
もしかして、浮かれる程良い事が何も無い人生だったの?

織斑 一夏:
そ、そんなわけねぇだろ! 俺だっていろいろ楽しい思い出が・・・・・・・・・・・・思い出、が・・・。

篠ノ之 楓:
・・・今日、一緒に寝る?

織斑 一夏:
箒に殺される・・・あと、女の子がそんなこと言っちゃダメだろ・・・。

篠ノ之 楓:
う、うん、ごめんなさい。寮に居た頃は簪ちゃんと本音ちゃんと寝たりしてたから・・・。

織斑 一夏:
え?

篠ノ之 楓:
ふぇ?
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