インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第64話:「その作戦、乾坤一擲」

その少女には、生まれた時からすべてが視えていた。

数字で、数値で、数量で、図式で、方程式で、グラフで。

この世の総てが、少女の瞳には晒し出されていた。

 

 

そのような少女にとって、他人を区別すると言うことは意味が無かった。

 

 

どのような人間だろうと、少女にとっては結局「0と1」で構成されたプログラムに過ぎないからだ。

辛うじて、自分と共通する数式を持つ「両親」を認識できるかどうかと言うレベル。

そしてそれも、少女自身がその気になれば見分けられると言う程度のことでしか無い。

 

 

どれもこれもが、有象無象。

 

 

生まれ落ちて10年近く経っても、それは変わらなかった。

ただ、生まれてくる場所を間違えたと言う虚無感にも似た空虚さだけが少女の胸にあった。

少女は何者をも、必要としていなかった。

ただ淡々と日々を生き、目的も無いままに世界の式を掻き回すだけの毎日を歩いて・・・。

 

 

不意に、何者かが少女の服の裾を掴んだ。

 

 

歩みを邪魔された少女は、不快さに気分を悪くする。

振り向けば、何か小さなモノが自分の足にしがみついていた。

その腕の数は、4本。

それは2つ・・・2人いて、少女を。

 

 

「「おねぇちゃん」」

 

 

幼い・・・舌足らずな声、少女にとっては「0と1」でしかない雑音。

しかしそのノイズは、少女の全てを引っ繰り返す程の力を持っていた。

少女の瞳に、初めて数字以外の物が映し出される。

 

 

それは、小さな2人の女の子だった。

2歳くらいだろうか、ようやく満足に出歩けるようになったくらいの背丈。

同じ和装を着ている上に、同じ髪の色、瞳の色、肌の色・・・そして顔、双子の女の子。

こんな柔らかくて小さな存在を、少女は初めて知った。

しかもその小さな存在が今は自分のスカートを掴み、邪気の無い大きな綺麗な瞳で見上げてきているのだ。

 

 

少女の世界に、初めて色が灯った。

 

 

「0と1」で構成された灰色の世界が、鮮やかな色彩に溢れていった。

少女は、自分にしがみついている小さな存在(いもうと)達を、興味深そうに見つめた。

もはや誰も自分と関わろうとはしないのに、こんなにも無邪気に無条件にしがみついて来る者達を・・・。

 

 

「「おねぇちゃん、○○○○」」

 

 

その・・・「妹」達の言葉に、少女は目を見開く。

それは、初めて言われた言葉だった。

少女にとっては、何にも代え難い宝のような言葉だった。

 

 

だから少女は、頷いた。

妹達の言葉に、ただ頷いた。

そして、唇を開いて―――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

Side 織斑 千冬

 

「・・・・・・たった今」

 

 

光り輝くディスプレイを周囲に従わせた束が、何かのコードを打ち込んだ束が静かな声で言う。

私以外の人間は緊張しているようだが、私としては束が何をしたのかは大体想像がつくからな。

まぁ、慣れのような物だ。

 

 

「たった今、束さんが持ってる無人機を全部、外に出したよ」

「そうか、何機だ?」

「んーと・・・くーちゃん、どれくらいだっけ?」

「はい、およそ1万になります。正確には9989機です」

「「「1万!?」」」

「ふん・・・思ったよりも少ないな」

「「「少ないの!?」」」

 

 

ふん、外野(ガキ)共が少々やかましいが。

だが私は束のことだから、もう少し持っていると思ったが・・・流石に資源が尽きたか?

海底熱水鉱床のレアメタルを採取しているとは聞いていたが・・・どう考えても少ないな。

他の何かに使ったか・・・?

 

 

「お前にしては、なかなか良心的じゃないか」

「ふふん♪ 束さんはいつでも良心的だよ?」

「吐(ぬ)かせ」

「ええぇ~、ちーちゃんが言ったのに~」

 

 

唇を尖らせて不満を訴える束に、私は溜息を吐いて肩を竦める。

いつも通りの関係だ、それはこの期に及んでも変わらない。

・・・さて、周囲の人間の視線が痛くなってきた所でだ。

 

 

1万機の新型ゴーレムか、物量戦もここまで来れば壮観ですらあるな。

停止条件はただ一つ、束を倒すことだろう。

別に殺す必要は無い、気絶でもさせてプログラミングを止めれば良い。

そして、束の持つ・・・。

 

 

「うふふ、ちーちゃんが束さんを捕まえるまでに外の凡人共は全滅しちゃうよ?」

「さぁ・・・それはどうかな。束、お前は各国代表にかかっているリミッターのことは知っているな?」

「もちろん、束さんだからね」

「国家代表の乗る専用機は、それ自体が巨大な軍事機密だ・・・」

 

 

だから、ジーナやレディアのような国家代表の機体にはリミッターをかけて機体性能を何ランクか落としている。

それは要するに、国家防衛の中核兵器たるISの性能の限界点を他国に知られないようにするための措置だ。

IS学園やモンド・グロッソで見せた奴らの力は、良い所で半分程度だろう。

 

 

「束、お前は今日、人間の底力と言う物を見ることになるだようよ」

「そう、楽しみだね・・・まぁ、束さんはその上を行くけど」

 

 

全く楽しみにしていない声で応じる束に、私は苦笑する。

ああは言ったが、私にも確証があるわけじゃない。

各国政府がリミッターの解除を許すかどうかも不明だが・・・。

 

 

いずれにせよ、私のすることは変わらない。

束を行動不能に追い込み、全ての作業を停止させる。

そして<女王>を引きずり出し・・・2度と日の目を見ないように。

 

 

―――――この手で、叩き壊す。

 

 

 

 

 

Side 更識 楯無

 

敵の援軍は1万機、ここまで来るともう戦術でどうにかできるレベルは超えているわ。

幸い戦闘空域が狭いから、無人機も1万機全てが同時に攻撃を仕掛けてくるわけじゃない。

ただこれまで以上に敵の回復力を誇示して来ているわけだから、12時間以上の戦闘で心身共に疲れ果てている国連軍の将兵にとっては厳しい・・・。

 

 

「・・・作戦を説明します」

 

 

米豪中露の艦隊司令官と繋がった通信でもって、私は敵巨大艦攻略作戦を説明する。

作戦と言っても、基本コンセプトは単純よ。

と言うよりも、寄せ集めの軍では細かい作戦なんて立てるだけ無駄だもの。

 

 

『相手の多層障壁を何とかした後に海兵隊を上陸させて、敵巨大艦内部を制圧する』

 

 

これが基本、と言うよりもこれしか無い。

内部にいるだろう一夏くん達が篠ノ之博士を何とかするまで持ち堪える腹積もりだったけど、これほど戦力に差が開いてしまってはそれもできないわ。

正直、待っていられない。

 

 

「そのために、代表達のリミッターを解除して頂きたいのです」

『・・・やむを得ないだろう』

『うむ・・・』

 

 

そして、出し惜しみもしていられない。

事ここに及んでしまえば、4人の司令官達は迷わなかった。

現実的に、体面を気にしていられるレベルをとうに過ぎていたから。

 

 

『それで、作戦とは?』

 

 

豪州の司令官に促されて、私は作戦を説明する。

敵巨大艦の多層障壁は、巨大艦表面の小さな塔のような突起から発せられるエネルギー同士を連結させることで張り巡らされている。

これをどうにかしない限り、こちらの攻撃は一切が通用しない。

 

 

しかしこの塔、その先端部分は障壁の外に突き出してる。

ちょうど、トゲトゲのついたスーパーボールをイメージしてもらえるかしら?

そのトゲトゲがシールドの発生装置、その数は48。

 

 

「ただしこの48本の「塔」は、誤差2.5秒以内に同時に破壊しなければ再生してしまう造りになっています」

『48か所を同時にか・・・』

『対艦ミサイルの調整で、何とかできないだろうか?』

『いや、それでも誤差で3秒も許されないとなると・・・』

 

 

作戦は単純、48本の「塔」をほぼ同時に全て破壊し、多少障壁を突破する。

だけどそれが難しい、数的に不利なこちらが攻勢を仕掛けるのだからどうしても無理が出る。

ただ・・・。

 

 

「・・・そのことですが、私に考えがあります」

『何? 本当かね?』

「ええ・・・48の標的をほぼ同時、タイムラグ無しで狙える機体と人間に心当たりがあります。ただ、立場が難しいので・・・皆様の口添えが後ほど必要になるかもしれません」

『その程度であれば問題ない、私から大統領(プレジデント)に進言しておこう』

『こちらも、政府に伝えておく』

 

 

48か所の標的を、ほぼタイムラグ無しで破壊できるスキルを持つ人間。

467機いる国家所属のISの中でも唯一、対多数の標的を狙うマルチ・ロックオン・システムを標準装備している機体。

 

 

『打鉄弐式(うちがねにしき)』―――――操縦者の名前は。

・・・更識 簪。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

種子島上空から巨大艦まで、彼我の距離は現在40キロメートル。

この位置からじゃ、とてもじゃないけど『山嵐(やまあらし)』のミサイルは届かない・・・。

なら、私の方から射程距離内に近付かないといけない。

 

 

『更識さん、聞こえますか? こちら山田です』

「はい・・・」

『これから通信所から巨大艦までの道のりをナビゲートします、情報リンクは白川さんの『八咫烏(やたがらす)』経由です』

 

 

山田先生の言葉に合わせて、『打鉄弐式(うちがねにしき)』にデータを打ち込んでいく。

必要な情報は上空の管制機から貰えるから、飛ぶだけなら何とか・・・でも。

でも、その道中には何百何千と言う無人機が立ちはだかってる。

 

 

・・・楓に多層障壁の攻略のヒントを貰って、楯無姉さんが作戦の概要を極めた。

キーになるのは私、正直、凄く怖い・・・。

でも、48か所の地点を同時に狙うには私のマルチ・ロックオン・システムが絶対に必要。

私が・・・やるしか、無いんだ。

 

 

『無理しなくても良いのよ?』

 

 

・・・さっきの話し合いの中での楯無姉さんの言葉が甦る。

もしかしたら、楯無姉さんなら他の方法を考えつくかもしれない。

でもきっと、これがベスト・・・だから。

 

 

「・・・ステルス、解除します」

『了解です、他の部隊も配置につきました』

 

 

機体の潜伏(ステルス)モードを解除すると、私に気付いた無数のゴーレムがこちらを見た。

何十機もの無人機に見つめられて息を飲む、でも潜伏(ステルス)状態じゃ速度が出ないから。

だけど、やっぱり、これ・・・。

 

 

「む・・・無理そう・・・です・・・」

『だ、大丈夫! 先生頑張ってナビしますから!』

「そう言う問題じゃ、無い気が・・・」

 

 

視界の中に道は無い、こうなると戦いながら突っ切るしか・・・実際、無人機達が荷電粒子砲を構えるのが見えた。

私を守ろうと国連軍のIS部隊の人達も動き始める、そして私が覚悟を決めて加速に入ろうとした時。

 

 

『その護衛(エスコート)、私に任せて貰えないかしら?』

「え?」

 

 

予定に無い突然の通信、その直後、私の周囲に銀色の雨が降り注いだ。

白銀色の輝きを放っているそれは、羽根の形をしたエネルギー弾のような物だった。

私の周囲360度にそれが雨あられと注がれて、上から無防備に撃たれる形になった無人機のいくつかが煙を吐きながら墜ちていく・・・。

 

 

そして、私の前に白銀色に輝く大きな背中が現れた。

 

 

その白銀色の人・・・機体が全身装甲の各所から発生しているエネルギーの翼を振るうと、そこから無数の羽根型のエネルギーの塊が撃ち出されて正面の無人機を殴殺していく。

これ・・・知ってる、これは・・・『銀の鐘(シルバー・ベル)』!

 

 

「し・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』!?」

『そんな!? アメリカで封印処置を受けたはずじゃ・・・!』

 

 

山田先生の驚く声が聞こえる中で、目の前の機体・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』がゆっくりとこちらを振り向いた。

全身装甲で顔は見えないけど、たぶん・・・臨海学校の時と同じパイロット・・・。

 

 

『遅れてごめんなさい、この子(コア)を機体に馴染ませるのに時間がかかってしまって』

「え、あ・・・ええと・・・」

『初めまして・・・になるのかしら? アメリカ第3艦隊所属、ナターシャ・ファイルスよ。私のエスコートでは不足かしら、お嬢さん?』

「い、いえ・・・そんな・・・」

 

 

む、むしろ、もったいないくらいで・・・ひゃあっ!?

 

 

『本当はゆっくり説明したいのだけど・・・作戦を優先しましょう。内容は聞いているわ、貴女をあの巨大艦の所まで運べば良いのよね?』

「は、はい・・・っ。で、でも、何でこんな・・・?」

『スペック上、この子の速度にその機体はついて来れないから。気分を悪くしたらごめんなさいね?』

「い、いえ、そんな・・・とんでもないです!」

 

 

どうするのかと思えば、後ろから機体ごと抱き抱えられた。

どうやら、このまま運ぶみたい・・・こ、効率的、なのかな?

顔まで覆う全身装甲の中で、ナターシャさんが笑ったような気がして、恥ずかしかった。

 

 

『・・・じゃ、ナビゲート、お願いね』

『え、えーと・・・り、了解です!』

 

 

山田先生にも声をかけた後、ナターシャさんの雰囲気が固くなるのがわかった。

私を抱えてる手にも力がこもって、見るからに機体に充実したエネルギーが流れているのがわかる。

まるで・・・大好きな遊びを、久しぶりにできる子供みたいに。

 

 

『さぁ・・・行くわよ!!』

<La・・・♪>

 

 

ナターシャさんの声の後に、不思議なマシンボイスが続いた。

・・・作戦(ミッション)、開始(スタート)。

 

 

 

 

 

Side ジーナ・ワトソン(アメリカ代表)

 

<La・・・♪>

 

 

耳に届いた独特なマシンボイスに、私は笑みを深くした。

その歌を奏でられる存在は、世界広しと言えども1機しかいない。

まさか封印処置が解除できるとは・・・良い手腕だ、大統領(プレジデント)!

次の選挙は、アンタに投票してやるよ!

 

 

「お前ら、見ろ! 友軍機が敵中に突っ込んで行くぞ! クレイジーだとは思わねぇか!?」

『『『イエス、イエスマムッ』』』

「そして私達はクレイジーな奴が大好きだ・・・そうだろうお前ら!?」

『『『イエス、イエスマムッ!』』』

 

 

私の言葉に威勢良く答えるのは、私の後ろに列を成して続く3機の空戦用『アラクネ』だ。

本来地上戦用だが、空戦パッケージを急遽換装して間に合わせた。

なぁに、どいつもこいつも自分で志願して来たクレイジーな奴らさ。

 

 

「そして私達は訓練校を出て以来、姉妹の絆で結ばれている! そんな私達があんなクレイジーな奴らを見殺しにできるか? どうなんだお前ら!?」

『『『イエス、イエスマムッ!!』』』

「・・・良し(グッド)! 行くぞお前ら、なるべく死ぬなよ!!」

『『『イエス、マムッ!!』』』

 

 

直上から一気に急降下、重力も利用して友軍機・・・『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の前に出る。

荷物抱えてるからな、今じゃ『アラクネ』でも追いつける。

3機の『アラクネ』の合計24本の装甲脚から、それぞれ赤いエネルギー・ビームが放たれる。

それがそれぞれの標的を貫くのを横目に、私自身は編隊から離れてそのまま急降下する。

 

 

「おぁああああああああらああああああぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

勢い殺さず、そのまま先頭の無人機に右拳を叩き込む。

それはシールドに阻まれて拮抗するが、私がより強く拳を握り込むと状況が変わる。

私の機体、『金の福音(ゴールド・ゴスペル)』の金色の塗装部分に赤いラインが加わる。

そこから小さなエネルギーの羽が生えて、急速に回転を始める。

 

 

しゅぅおおぉ・・・と呼気のような音が響いた、次の瞬間。

 

 

収束したエネルギーが拳を介して叩き込まれて、無人機の腹が吹っ飛んで上半身と下半身が別れる。

太い木の幹がヘシ折れるみたいな音を立てて、無人機の割れた身体が回転しながら墜ちていく。

それだけじゃねぇぜ、私の機体の翼の30の砲門から金色の羽根の形をした砲弾が四方に飛び散った。

それは敵の直前でさらに7つに爆ぜて、合計210本の羽根の矢に変わって・・・また爆ぜる。

 

 

「・・・行け! ファイルス!」

『言われなくとも!』

 

 

敵集団の先頭部分に私らが開けた穴に、ファイルス達が飛び込む。

さて、一応は仕事を果たしたか。

アイツらがどこまで行けるかは、他の奴にかかってる。

 

 

全員、抜かるんじゃねぇぞ・・・!

あと、なるべく死ぬなよ。

優秀な軍人ってのは、命令が無い限り死なねぇんだからな。

 

 

 

 

 

Side ナターシャ・ファイルス

 

極秘の大統領令でこの子(コア)の封印処置が解かれて、まだ1日も経っていない。

去年の借りが返せると言う期待も無いでは無かったけど、現実はかくも厳しいと言うわけね。

作戦のキーだと言う日本の子を両腕で抱えたまま、戦場を飛翔する。

 

 

『前方、来ます・・・数、8! それと左から3!』

「・・・!」

「きゃああああっ!?」

 

 

ワトソン代表がこじ開けた穴に飛び込んだは良いけれど、周りは全て敵。

今も前と左から襲いかかって来た敵から離れるべく機動を曲げて、高速で飛翔している。

私自身はともかく、抱いてるお嬢さんには結構な負担のはずよ。

 

 

『左! 熱源13・・・小型ミサイル!』

「ぐ・・・!」

 

 

オペレーターのヤマダの声に、顔をしかめる。

無人機を避けて左に逃げたら、そちらには私を追い込むように実弾のミサイル。

網にかかった魚と言うのは、こういう気分なのかしらね。

 

 

反射的に上に逃げる、するとミサイルは自動追尾だったのか追いかけてくる。

それもかなりのスピード、振り切れそうに無い。

銀の鐘(シルバー・ベル)』の砲門は全て前方の道を開けるのに使っているから・・・。

上、下、左、右―――――と、思考が追いつく限りにおいて機動を修正して回避を続ける。

いくつかのミサイルはやり過ごし、いくつかは無人機の砲撃に被せる形で破壊する。

 

 

『し、正面!』

「・・・っ・・・」

 

 

頭部装甲の中で息を飲む、攻撃をかわすことに集中していたら回り込まれた。

でも止まれない、背後からはミサイルが迫ってる。

仕方無い、一か八か中央突破で・・・と覚悟を決めた、その時。

 

 

樹齢300年の木の幹ほどはあるんじゃないか、と思えるほど太いビームが、夜の闇を斬り裂きながら正面の敵の一部を薙ぎ払った。

 

 

一瞬、混乱する

スピードは落とさず、開いた道を突き進むけど・・・今のは、何?

不意に、背後で爆発音。

ミサイルが炸裂したのかと思えば、そうじゃない。

 

 

「あ、あれは・・・!」

 

 

腕の中のお嬢さんが驚きの声を上げる、そこにはそれだけの光景が広がっていた。

背後のミサイル群を払ってくれたのはオレンジ色の軌跡を描く実弾の雨、爆発の光と煙の中から飛び出して来たのは、独特なネイビーカラーの4枚羽を持つ機体。

 

 

3機の『ラファール・リヴァイヴ』が私達の後ろを固めて、私達に背中を見せる形でサブマシンガンを乱射、後方の無人機を牽制してくれる。

あの機体、あの錬度・・・・・・フランス軍!

 

 

『良かった、間に合って・・・!』

 

 

通信越しに聞こえたのは、幼さを残した女の子の声、3機の中央で私達を守ってる子が、私達を仰ぎ見た。

コード識別、フランス空軍『リヴァイヴ』隊第6飛行隊・・・『ラファール・リヴァイヴ・ビー』。

操縦者、ルナ・デュノア。

 

 

『ここは私達で押さえます、どうか先に!』

「・・・お願いするわ」

『了解、ご武運を!』

 

 

通信を切り、もう後ろを気にせずに前へと進む。

フランス軍が来たと言うことは、欧州軍の主力が戦場に到着したと言うこと。

なら、さっきのビームも・・・。

 

 

 

 

 

Side クラリッサ・ハルフォーフ

 

『こちらフランス『リヴァイヴ』隊、護衛対象の後方を遮断する』

『同じく英国『ティアーズ』隊、右翼に対し支援射撃を開始する』

『イタリア『テンペスタ』隊、空雷による空域封鎖作戦を実行する』

 

 

我が愛機『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の通信回線には、戦線に加わった欧州各国のIS部隊からの活発な通信が逐一入っていた。

ドイツ連邦軍IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」・・・通称「黒ウサギ隊」の副隊長として、正確な情報を指揮官に伝える必要があるからだ。

 

 

それにしても、戦闘開始から12時間経過か・・・随分と出遅れてしまったな。

ここからしばらくは、我ら欧州軍が進んで前線を支える必要があるだろう。

とはいえ、他の『イグニッション・プラン』候補機に遅れを取るつもりも無い。

 

 

「・・・・・・『ディッケ・マレーネ』、エネルギー再充填」

「了解(ヤー)、『ディッケ・マレーネ』エネルギー再充填」

「エネルギー、再充填します」

 

 

どこか深みのある厳格な声に応じたのは、私ともう1人の黒ウサギ隊員だった。

なお、もう1人の名はヘレネ・キンスキー少尉、『レーゲン』の支援型のISの操縦者だ。

そして私達に命じているのはドイツIS総監、ウルスラ・ルーデル大佐。

ブロンド・ショートの髪と緑がかった碧眼という典型的なゲルマン女性で、スレンダーなその身体には不釣り合いな程に豪胆な装備のISを纏っている。

 

 

ドイツ製第3世代型IS、『カノン・ホーゲル』。

標的を「粉微塵に吹っ飛ばす」ことを追求した機体で、両肩、両手、腰の左右にビーム砲・レールガン、MGを装備したまさに弾幕を張るために生まれたような機体だ。

そして今、その機体は私とキンスリー少尉の機体と接続されている。

先頭の大佐が照準と発射、私が中間で制御と索敵、最後尾で少尉がエネルギー供給・・・3機の持つビーム砲を連結して使用するこの巨大砲こそ、我がドイツが誇る『ディッケ・マレーネ』だ。

 

 

「エネルギー充填、30%」

「了解(ヤー)、エネルギー充填30%」

 

 

少尉の声に応じ、『ディッケ・マレーネ』のエネルギー充填率を管理する。

安定して撃つためには80%は必要だ、時間はかかるが放てば先程のように敵の群れを薙ぎ払える。

 

 

「・・・敵集団、砲撃を開始しました」

 

 

10キロ離れた海上から砲撃しているとは言え、流石に位置はバレるか。

まだ離れているとは言え、徐々に砲撃の着弾点が近付いて来ている。

念のため、AICによる防御を・・・。

 

 

「大尉、AICの盾は出すな。砲撃ができん」

「は、しかし・・・」

「え、エネルギー充填率、50%!」

 

 

AICで大佐を守ろうとした所、砲撃の邪魔だとして拒否されてしまった。

確かに一理あるが、味方の防衛線を抜けてくる無人機も多数いる。

そして充填率が60%に達した頃には、高速移動して来た無人機も大分近付いて来ていた。

その砲撃が、我々の周辺に着弾して波しぶきを立てる。

 

 

いや、むしろいくつかは掠め・・・さらには、直撃している。

正面から攻撃されている以上、最もダメージを受けるのは先頭の大佐だ。

やはりここは、AICで・・・と思った時、無人機のエネルギー砲が大佐の機体を穿ち、右の脚部装甲が丸ごと持って行かれた。

衝撃に耐えた後、叫ぶ。

 

 

「大佐!!」

「うろたえるな・・・・・・どうせ義足だ」

 

 

確かにルーデル大佐は昔の負傷が原因で、現在は右足は義足だが。

それにしても、神経の太いお方だ。

流石にラウラ隊長の上官と言った所か・・・。

 

 

「エネルギー充填率80・・・90%!」

「・・・よろしい、護衛対象前方の敵集団を排除する」

 

 

無人機の砲撃に晒される中、大佐は極めて冷静にターゲット・サイト画面を展開する。

2つの十字が画面の中心で重なり、照準確定(ロックオン)を告げる。

 

 

「エネルギー充填率・・・100%!」

「確認、エネルギー充填率100%」

「『ディッケ・マレーネ』・・・・・・発射(ファイア)」

 

 

カチンッ、と、拍子抜けする程に軽い音が響き渡る。

しかし2秒後、3機分のISコアからのエネルギー供給を受けた砲身から、凄まじいエネルギーの塊が放たれる。

極めて圧縮されたそれは一瞬、砲口から放たれた位置で収縮し・・・次の瞬間、正面に向けて放たれた。

 

 

超大型トラックよりも遥かに太いエネルギーの束が海を割りながら進み、途上で巻き込んだ無数の無人機を爆散させながら突き進む。

やがてそれは10キロ先の敵集団の中心に突き刺さり、一度に数十機の敵を屠ったのだった。

 

 

 

 

 

Side レディア・アルミス(イタリア代表)

 

・・・凄いわね、ドイツの連結砲は。

ドイツの3機が放った巨大な砲撃が敵集団の一部を抉り取ったのを見て、戦慄にも似た感情を覚える。

あんな物を隠していたなんて、同じ欧州軍と言えどもヒヤリとするわよ。

 

 

どうして私がこうして呑気にルーデル達の砲撃を見ていられるかと言うと、私が彼女らの護衛についているから。

正確には、イタリアの『テンペスタ』隊を率いて空中地雷・・・空雷を敷設して背後からの敵の迂回攻撃を防ぐため。

そして案の定というか、定石通りに敵の迂回部隊がこちらへと砲撃を開始してくる。

 

 

「まぁ、相手の兵力の方が多いのだから、当然の戦術よね」

 

 

でも、残念。

ここは、私の空よ。

センサー画面に移る「リミッター解除承認」の文字に唇を歪めて、砲撃が着弾する寸前に右手の指を鳴らす。

 

 

「『ベリルポイント』、全弾起爆」

『『『了解』』』

 

 

ビームが触れた途端、まず一つ目の空雷が起爆する。

それはビームごと飲み込んで消滅させ、さらに周辺の空雷を連鎖爆破させる。

『テンペスタ』8機分、合計80基の空雷が一斉に爆発する。

目の前の空域がオレンジ色の選考に染まり、機体のディスプレイが光量を調節しなければならない程の規模に膨らむ。

 

 

リミッターの無いそれはもはや戦術核にも等しい威力を持って、そのまま突っ込んできた無人機を巻き込んで消滅させる。

とは言え、流石は篠ノ之博士お手製・・・中には空雷原を抜けてくる無人機も存在する。

けれど、それは・・・。

 

 

『こちらスペイン空軍『リヴァイヴ』隊、支援射撃を開始します』

 

 

耳にスペイン代表、アデリタの声が届く。

その直後、空雷原を抜けて来た無人機に対し、対ISコーティングが施された特殊な貫通弾による狙撃が行われる。

画面を眺めれば、離れた位置から狙撃を行うアデリタの青いカスタム『リヴァイヴ』の姿が見える。

 

 

そしてイタリア・スペインが止めている間に、ドイツ軍による第3射が行われる。

再びやたらに太い凶悪なビームが放たれ、数十機の無人機が屠られて行く。

・・・良し、このまま押さえられると良いのだけど。

何しろ、数は相手の方が遥かに多いのだから。

 

 

『・・・レディア、こちらの視界から出てさらに迂回しようとしている集団がいます』

 

 

・・・ほらね。

アデリタからの通信に苦笑いを浮かべて、私は部隊を動かすべく行動を始めた。

こう言う時、チフユみたいな存在がいれば・・・と思うこともあるわ。

そのチフユも、今はどうなっているか・・・。

 

 

 

 

Side イーリス・コーリング

 

『イーリッ!!』

「あいさ了解っ!!」

 

 

通信で入ったナタルの声に、どうしようも無く嬉しくなっちまう。

ジーナの姐さんがこじ開けて、ドイツの連中が広げた傷口。

その最後の一枚を剥ぎ取るのは、私達『ファング』隊だ。

何と言っても―――――突破力が違うぜ!!

 

 

「フォーメーション! D-12!!」

『『『『アイ、マムッ!!』』』』

 

 

後方の部下達が密集隊形から散開、私を中心に少し左右に広がる形になる。

海面スレスレを縫うように飛ぶ私達は、上から見れば鏃みたいな形に見えたかもしれねぇな。

そしてナタルと日本の嬢ちゃんの前に出た後、海面を蹴るように一気に上昇する。

もちろん、周りは敵ばっかだ。

 

 

「はっはぁ! 良いねぇ、撃ちゃ当たる・・・訓練所の訓練に比べりゃ何てこたぁねぇよなぁ!?」

『アイ、マムッ』

「ぜってー死ぬなよ! IS乗りは、命令無しで死ねねぇんだ!」

『『『アイアイ、マムッ!』』』

「よぅし・・・行くぜお前らあああああああああぁぁっっ!!」

 

 

私を先頭に、敵の防衛ラインの最後の一枚を剥ぎ取りにかかる。

敵は数十倍、でもやらなくちゃいけねぇ・・・私らの後ろにゃ希望があんだから。

私らは死ぬかもしれねぇが、軍と言う集団は生き残る。

 

 

私を一本の軸に見立てて、私の周りを4人の部下が旋回しながら進む。

互いの死角をカバーし合いながら、速度と勢いに任せて無人機の塊ん中に狭い道を作る。

特殊合金の壁だって粉砕する『ファング』の両拳で、無人機を殴り飛ばしながら進む。

けど奥に進めば進む程に敵の密度は濃くなる、対処がキツくなって、終いには・・・。

 

 

「・・・ミーシュ!?」

『だ、大じょ・・・っ!?』

 

 

ちょうど私の左側を飛んでた部下の1人が、無人機の荷電粒子砲を避け切れずにスラスターの一つを失う。

これまで最高のパフォーマンスで避けてたんだが、ついに被弾しやがった。

助けようと手を伸ばす、でもどうしようも無かった。

何とか体勢を立て直そうとしてたが、場所が悪かった・・・3機の無人機に荷電粒子砲を叩き込まれて、爆発する。

 

 

「ミィ―――――――シュッッ!!」

 

 

―――――北極海でも一緒に戦った部下は、爆発の中から出て来なかった。

死ぬなって命令した瞬間に死んでんじゃねーよ、馬鹿か。

・・・ああ、ああそうさ、私らは軍人だ、人殺しが仕事のクソみたいな存在さ!

だから私らの最期なんて、こんなもんなんだよ・・・けどなぁ!

 

 

「フォーメーション・・・・・・E-09!!」

『『『アイ・・・マムッ!』』』

 

 

私の周囲を旋回するように進んでいた3機の『ファング』が、いきなり3方向に散る。

本当は4方向だったんだが、それは言っても仕方が無い。

鏃が開き、まるで花弁みてーに道を広げる。

さぁ、私らはそれぞれ敵中に孤立した。

 

 

「どおおおぉぉぉけえええええええぇぇぇぇっっ!!」

 

 

夜の闇の中を疾走して、握り込んだ右拳・・・肘の装甲から白い煙が出て、拳にエネルギーが充填されるのがわかる。

溶けた鉄みてーな色に輝きながら、全エネルギーを前方に集中させる。

リミッター無し、正真正銘の・・・『ファング・クエイク』最大攻撃!

 

 

「ぶぅれい・・・っ・・・っ・・・くぁああああああああああああああぁぁっっ!!」

 

 

この瞬間、私は一つの隕石だった。

赤く焼けた右拳で一直線に、直線に並んだ無人機のシールドをブレイクしながら排除していく。

1機ブチ抜き、2機ブチ抜き・・・5機目で、エネルギーが減少したせいか無人機のシールドと拮抗した。

組み合って、右拳を押さえられて、そして私も左手で相手の腕を押さえながら足を腹に叩き込む。

ギシッ・・・と、右腕の駆動部が切迫した音を立てた時。

 

 

「・・・・・・ナタルゥッッ!!」

 

 

ボギンッ、と右腕の装甲が嫌な音を立てて砕けた。

同時に私の腕も折れたかな、背中を思い切り逸らして叩き込んだ頭突きで意識が飛びかける。

だが・・・これで、なんとか・・・っ。

 

 

「いっ・・・・・・けえええええええええええぇぇぇぇぇっっ!!」

 

 

私が押しのけた無人機の間を、横を・・・白銀色の機体が駆け抜ける。

嬢ちゃんを担いでるせいでちょいと遅いが、それでも限りなく音速に近い。

ナタルは私を振り返りもしねぇ、へへ、ちょっと冷たいんじゃねぇの・・・?

 

 

『イーリ・・・ありがとう』

 

 

・・・・・・あいよ。

最後の通信に何とも言えない気分になっちまったが・・・まだ纏わりついてきやがるコイツを、何とかしねぇとな。

残った左拳を振り上げて、そのまま無人機の頭を殴りつける。

相手の頭はそれで潰せたが、代わりに左腕の装甲もイっちまいやがった。

 

 

「ぐ・・・っ」

 

 

だぁ・・・クソ、ここまでかよ。

もうちょい、粘れるかと思ったんだけどな・・・!

無人機から離れて、後は自由落下だな。

他の奴は無事か・・・? 視界を巡らせても、見えるのは今から落ちる海だけだった。

私はこれから起こるだろう惨事に溜息を吐いて、気合いを入れるために目を閉じた。

 

 

「いや、そのまま墜ちられても困りますって」

「・・・・・・あん?」

 

 

そのまま海面に叩きつけられるつもり満々だったんだが、海面スレスレの所で誰かにキャッチされた。

誰だ? こんな所に友軍機なんて・・・。

 

 

「・・・誰だ、お前ら?」

「あ、一応、代表候補生です」

「先輩先輩、後ろから団体さんが来るっスよ!」

「いっけね、ズラかるぞフォルテ!」

「うぃっス! 微妙な海域でサボってたら、いつの間にか最激戦区になってるとはっス・・・!」

 

 

代表候補生・・・?

と言うか今、サボってたって聞こえたんだが。

 

 

「ダリル・ケイシー、『ヘル・ハウンドver2.5』」

「フォルテ・サファイア、『コールド・ブラッド』」

「「上官救出を名目に、逃げる(っス)!」」

 

 

おい、今コイツら名目っつったよな。

つーか、何だこの逃げ足の速さ・・・おい、おーい!

あー・・・やべ、血が足り・・・ね・・・。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

たくさんの人に守られて、帯状に広がった無人機の防衛線を抜いた。

『打鉄弐式(うちがねにしき)』のセンサーを見ていれば、弾幕を張るフランス軍や砲撃を続けるドイツ軍の様子を読みとることができる。

 

 

全て、私のIS・・・『打鉄弐式(うちがねにしき)』の最大武装、『山嵐(やまあらし)』の射程に48の「塔」を収めるため・・・そしてそれを、破壊するため・・・!

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』―――現れた時は、本当に驚いた―――に抱えられたまま、私はアメリカの『ファング』隊がこじ開けた狭い穴を、抜ける。

現有IS最高位の機動性を持つ『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』だからこそ、出来たことで・・・私だけじゃ、とてもじゃないけど、無理・・・だった、と思う。

 

 

『さぁ、お嬢さん!』

「は、はい・・・!」

 

 

私から離れて『銀の鐘(シルバー・ベル)』を最大展開、近付いて来る無人機を牽制しながらファイルスさんが私を促す。

白銀の閃光が輝く中で、私は『打鉄弐式(うちがねにしき)』が開けるだけの全てのディスプレイを開いた。

手足の装甲は消す、「塔」の距離に差があるから・・・マニュアル制御がいる。

 

 

ぐっ、ぐっ・・・と手と足の指を解して・・・指を、キーボードに置く。

画面の中で、48か所の標的に対する多重同時照準(マルチ・ロック)が開始される。

めまぐるしく変わる数字は、山田先生とロシアの衛星のバックアップを受けて行う・・・。

 

 

『お嬢さん、焦らず急いで、確実にね』

「は、はい・・・っ」

 

 

正直、周りがどうなっているのかはわからない。

ただ、計算と計測と計算と計測、そしてやっぱり計算に必死で・・・追いつかない。

まず対象間の距離があり過ぎる、途上でミサイルが一基でも墜とされたら元の黙阿弥。

風とか爆風とか、外部要因が与えるだろう部分のことも織り込まなければならない。

それでいて48発全てのミサイルに、正確に起爆する時間をそれぞれに振らないと・・・。

 

 

『大丈夫だよ、簪ちゃん』

『そうそう、何とかなるよ~かんちゃん』

『大体ね、これはさー、単純にシステム組んでるだけじゃなくてー』

 

 

脳裏に甦るのは、IS学園の整備室・・・楓と本音と額を突き合わせて、『打鉄弐式(うちがねにしき)』のシステムを組んでいたあの夏の日・・・。

・・・忘れない、きっと、一生・・・忘れない・・・。

だって、これは・・・。

 

 

「『山嵐(やまあらし)』は・・・マルチロックオン・システムは・・・!」

 

 

楓が良く言っていた言葉を、思い出す。

あの時はどういう意味なのか、良く分かって無かったけど・・・。

今は、何だかわかるような気がする。

 

 

「・・・ロマン、の・・・!」

 

 

甲高い電子音が鳴り響いて、48か所の標的を一つずつ照準確定(ロック)していく。

ほんの数十秒の作業だと思うけど、何十分にも感じる。

時間の流れが、とても遅い。

それでも、一つ一つ確実に照準確定(ロック)していく。

 

 

そして照準確定(ロック)が行われる度に『打鉄弐式(うちがねにしき)』の機体の左右にミサイルポットが展開、それぞれに火をつけて行く・・・。

高性能誘導ミサイル、『山嵐(やまあらし)』・・・マルチロックオン・システム。

私の、楓の、本音の・・・!

 

 

「塊、なんだあああぁぁぁっっ!!」

 

 

照準確定、画面上に48の照準確定(ロックオン)マークが表示される。

オレンジ色のそれを睨みつけながら、私は一息にミサイル発射のトリガーを引く。

48発のミサイルが今、獲物に向けて放たれた・・・。

 

 

 

 

 

Side 立道 雪音(日本代表候補生)

 

『あのミサイルを守ってください! 一つでも墜とされたら全てがパーです!』

 

 

白川先輩の『八咫烏(やたがらす)』の管制に、海の上を駆ける速度を上げる。

上空から見れば、大きな戦場の中で私が位置するのは左翼。

こちら側に飛んで来ているミサイルは見えているだけで5発、その内3つは英国軍とフランス軍がそれぞれついているようです。

 

 

「特務機関員コード、E-221079・・・」

 

 

ブツブツと呟きながら、機体のハイパーセンサーが捉えている2発のミサイルを追います。

機動をズラさせるわけにはいかない、そのまま「塔」に届かせなければ。

政府からの直接攻撃命令は未だありませんが、もはや待ってはいられません。

国連軍には、命令を持っているような時間はもはや無いのですから。

 

 

私が音声入力したコードによって、いくつかのディスプレイが浮かび上がりながら入力動作を行います。

私の機体・・・日本製第3世代試験機『雷刃(ライジン)』の機体の各所から空気の抜けるような乾いた音が響き、形状も僅かですが変化します。

その時、半透明のディスプレイの向こうで、海中から顔を出した無人機を発見しました。

私を狙い撃つ構えを見せたそれに対して、私は海面を蹴るように加速を行います。

 

 

「『雷刃(ライジン)』・・・リミッター、解除!」

 

 

そして海中から顔を見せた無人機の頭部を踏み台に、一気に跳びます。

秘剣、『紫電(しでん)』。

『雷刃(ライジン)』最大武装にして切り札、脚部に限定収束したエネルギーを解放することで、長距離を一瞬で駆ける遠距離型『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。

 

 

「・・・『村正(むらまさ)』、一閃!」

 

 

日本の特務機関が開発したスーパーカーボン製の高周波ブレード、『村正』で途上にいた無人機数機を断ち切ります。

オレンジ色の閃光を背後に残しながら縦に回転、ミサイルと並走する形を取ります。

当然、無人機に囲まれますが、私は、すらぁ・・・っと、左掌を空間に滑らせます。

 

 

すると私の掌から出現したかのように―――実際は、量子化を解いて―――合計7本の刀が現れ、私の周囲を浮遊します。

その内の2本を手に振るい、2本を脚部で振るい、1本を口で・・・そして残り2本を投剣として使います。

周囲の無人機を斬り伏せ、いなし、飛翔するミサイルを守ります。

 

 

「・・・!」

 

 

ミサイルを守りながらもう一つのミサイルを見ます、そちらにも無人機の手が伸びています。

『紫電』ならばすぐに駆けつけられますが、そうすると今守っているミサイルが。

・・・しかし、私の逡巡は一瞬だけの物となりました。

 

 

洋上迷彩を施された4機の戦闘機が戦場に割り込み、20㎜機関砲の一斉射撃によってミサイル周辺の無人機の気を引いてくれたからです。

それによって稼がれた時間は、たかだか数秒。

しかし、その数秒は結果として世界を救うことになりました。

 

 

 

 

 

Side アイシャ・ブライト(オーストラリア代表)

 

―――――良くやった、日本人(ジャパニーズ)!

洋上迷彩の戦闘機が無人機に撃たれて撃墜されるのを横目に、出遅れていた私達は戦闘空域に到達した。

心の中で普段は軍事的に全くアテにできない日本軍を褒めながら、私は無防備に飛ぶミサイルに張りつくように回り込んだ。

 

 

「ソフィー! 合わせてくれ!」

「構わないわ、いつものことだもの」

「ははっ、そうだな!」

 

 

本当はチフユへのリベンジに取っておきたかったが、大サービスだ。

私の本気って奴を、見せてやるよ。

豪州最速、『スカイ・ガーディアン』の力をな・・・!

 

 

「いぃぃくぜえええええぇぇぇっ!!」

「ええ、続いてあげるわ」

 

 

第2回モンド・グロッソではチフユの速度にまるでついていけなかった、だが今は違う。

装甲を限界まで削って軽量化したこの機体は、耐久力を犠牲に機動性を高めてる。

具体的には前のに比べて装甲耐久度を50%下げて、機動性を30%高めた。

右肩に刻んだオオワシのパーソナルマークを見せつけるように両手を広げて、46mm回転式機関銃『デザート・ストーム』・・・毎分2500発のガトリングガンをぶっ放つ。

 

 

こいつには貫通性は無ぇが、目的は低威力の実弾の連射を受けて相手の足を止めることだからな。

そして足を止めた無人機は、深く透き通った蒼色レーザーに脳天を貫かれて撃墜される。

それはソフィーのIS『ヴィクトリア』の特殊特殊レーザーライフル『グレートバリアリーフ』による物で、肉眼で視認できないくらい透き通ったレーザーを撃つのが特徴だ。

強いシールド貫通力を持ったそれが、2500発の実弾の雨に紛れて無人機を撃ち落としていく。

普段はかかってるリミッターが外れてるからか、普段の3倍くらい貫通力が凄かった。

 

 

「ははっ、所詮てぇめらのレベルじゃ・・・私とソフィー、ましてやチフユには勝てねぇよ!」

「・・・相手は意思の無い無人機だけどね」

「それでもだ!」

 

 

私が武装を入れ替えている間に前に出たソフィーが、大鉄槌武装『エアーズロック』で近接戦を仕掛ける。

機体の高度が上がれば上がるほど『ヴィクトリア』の性能は上がる、人間1人丸ごと潰せるんじゃねぇかってくらいデカいハンマーで実際に無人機を丸々1機潰してやがるし。

 

 

そしてミサイルを守ってんのは、私達だけじゃねぇ。

太平洋同盟が、アジアが、欧州連合が、そしてそれ以外の国の連中が。

これだけの勢力が一致して同じ敵を攻めるなんて、ちょっと歴史上類を見無いと思うぜ。

何でここまでするのかって言うと、そりゃあ・・・。

 

 

 

『『『『ざまぁみさらせ、篠ノ之束!!!!』』』』

 

 

 

ISのオープン・チャネルから異口同音に響いた皆の声、もちろん私も入ってるぞ。

そんな私達の声の直後、48発のミサイルがそれぞれの目標に着弾した。

一瞬の静寂の後、夜の海に不気味に浮かぶ巨大艦の各所から炎が上がった。

 

 

すかさず、生き残った国連軍の艦隊がありったけの対艦ミサイルを発射する。

東西、さらには南北の国々のミサイルは、無人機の荷電粒子砲の迎撃を受けながらも進んで・・・生き残った何発かのミサイルが、それまで完璧な多層障壁でこっちの攻撃を防いでいた巨大艦の表面に・・・「突き刺さった」。

爆発、轟音・・・そして、通信ネットワーク内に響き渡る歓声。

 

 

「へっ・・・」

 

 

いったい何人の人間が私と同じような笑みを浮かべたかわからない、だけど私達はようやくスタート地点に立てた、そんな気がする。

何せ私達は、10年前の借りをようやく返して・・・天才様の向こう脛に蹴りを入れてやったんだからな!

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 束

 

外壁に直接、何かを叩き込まれたかのような振動。

いやいや、「ような」って言う表現は束さんには相応しくないよね。

うん、普通に『大綿津見神(おおわたつみ)』の一番外の外殻部分に対艦ミサイルがブチ当たった音だよね。

外殻自体固いから、ぶっちゃけここまで被害は届かないんだけどね。

 

 

「う~ん・・・ゴーレムを投入し過ぎて、かえって同志討ちを避けようとしてゴーレム達が攻撃を控えちゃった側面は否めないよね。束さんうっかり、てへぺろっ」

「た、束さまのうっかりスキルが発動してしまった・・・!」

「いや、単純に馬鹿なんだろう」

 

 

ちーちゃん、ひどっ。

ああっ、でもでも超恥ずかしいかも、「力を見せてやろう」・・・って言いながら出てきたは良いけどレベルコンプしてる勇者パーティーにワンターンキルされるRPGのラスボスくらい恥ずかしい!

 

 

「えーと・・・束さん、とりあえず諦めて降参したりしない?」

「え、なんで? いっくん」

「うわ、全然懲りてないし・・・」

 

 

懲りる? いっくんは相変わらず面白いこと言うねー。

まぁ、確かに多少障壁をブッチされたのにはちょっと驚いたけど。

だって外の連中にそんなことはできるはずないし、中から手助けした人がいるんだよねぇ?

 

 

「さぁて、「塔」のことを教えたのは誰かなぁ?」

「・・・っ」

 

 

束さんがニコニコしながらわざとそう言うと、ビクつきながら次女の背中に隠れる三女を見つけた。

うふふ、可愛いなぁ。

別にこれくらいでお姉ちゃんは怒ったりしないのに、むしろそんな風にされるとそっちの方が傷付いちゃうよ?

 

 

まぁ、それは良いんだけど・・・どうするかなぁ、『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』とか。

ぶっちゃけ電気無くても作れるし、外殻だって疑似再生できるから外のゴミは中には入って来れない。

しかもちーちゃんや箒ちゃん達だけ来れば良い物を、変なゴミ虫が4匹も紛れ込んでるし。

う――――――――ん・・・・・・めんどくさいなぁ。

 

 

「しょうがない、やるかぁ」

「何だ束、今度は何をするんだ? 核ミサイルのハッキングとかか?」

「いやだなぁ、ちーちゃん。そんな芸の無いことはしないよぅ」

 

 

10年前にやったような物だし、同じことはしないよ。

まったく、失礼しちゃうよね・・・その程度に思われてるのかなぁ?

じゃあ、そのイメージを払拭しないとね。

 

 

束さんがインドアしかできないってイメージを、拭い去ってあげないとね。

いつもくーちゃんやゴーレムに守ってもらってるから、忘れてるのかもしれないよね。

束さんは本来、究極のアウトドア派だってことをね・・・。

 

 

「くーちゃん、おいで」

「はい、束さま」

 

 

何の疑問も抱かずに、トテトテと可愛らしく寄ってくるくーちゃん。

束さんが両手を広げて迎えれば、ちょっぴり恥ずかしがりながらも飛び込んできた。

かーわーいーいーなー、もぅっ、ほっぺスリスリしちゃう。

もっちもちのほっぺを堪能してから、そのほっぺを両手で押さえる。

 

 

「束さま?」

「はい、くーちゃーん・・・? お口開けてー?」

「・・・はい」

 

 

束さんの意図がわかったのか、くーちゃんは頬を薔薇の色に染めながら顎を上げて、唇を突き出して来た。

束さんはそれに微笑んで、くーちゃんの長くて綺麗な髪の毛をナデナデしながら、屈む。

 

 

・・・ちゅう~。

 

 

そして、ちゅうをする。

唇と唇をくっつけて、何となく目を閉じたりなんかしちゃって。

くーちゃんと、キスをする。

 

 

「「「「「んなっっ!?」」」」

 

 

おおー、驚いてる驚いてる、ちーちゃんも目をまん丸くしているだろうねぇ。

まぁ、別にちゅうするのが目的じゃないんだけどね。

くーちゃんが触れ合わせた唇を薄く開くのを感じたら、すぐに舌先を差し入れた。

 

 

「んぅ・・・ん・・・」

 

 

くーちゃんが可愛らしく、えろっちく小さく呻く音を聞きながら・・・束さんは、舌先をくーちゃんのお口の中の深い所に差し込んでいく。

ぬめり気のある音が響いて、何だか妙な空気が流れ始めた頃・・・くーちゃんの舌の表面に、束さんの舌を絡める。

くーちゃんの舌先に乗った『海宮(かいぐう)』の宝石を、舌で引き抜く。

 

 

「・・・×××―×××」

 

 

そのままの体勢で、束さんはコードを紡ぐ。

抱き締めたくーちゃんの身体がビクビクと激しく震え始めるのを感じて、唇の端を吊り上げる。

うふ、うふふ・・・可愛いくーちゃん、良い子だねぇ。

 

 

さぁ、何年ぶりかな・・・10年ぶりかなぁ、コレを使うのは。

普段はロードワークとかしないからねぇ、まぁ、出しちゃうと全部が終わっちゃうもんね。

だってこの子、女王様だしねぇ。

 

 

「・・・・・・束!!」

 

 

何かに気付いたのか、ちーちゃんの声が切迫する。

でも、もう遅いの。

何もかもが遅いの、ちーちゃん。

 

 

起動する、起動する、起動する。

10年ぶりに、起動する。

この世で唯一、束さんだけが理解できる女王の・・・そう、これは。

女王の、鎧なんだよ・・・・・・さぁ、おいで。

 

 

 

 

 

―――――『黄泉津大神(イザナミ)』

 




登場キャラ:
ウルスラ・ルーデル(大佐バージョン):伸様提案。
新兵器:
村正:グニル様提案。
ありがとうございます。


束&くーちゃん:
((ちゅう~))

篠ノ之 楓:
・・・は、はわわわ・・・!

篠ノ之 箒:
(戦慄した表情になっている)。

篠ノ之 楓:
(ちらっ、ちらっ、と箒を見つめる。何だか顔が赤い)。

篠ノ之 箒:
(絶対に振り向かない、振り向かないぞ・・・!)
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