戦争権限法、そう言う名の法律が存在する。
アメリカ合衆国大統領が議会の承認を得ずに軍事行動を起こした場合、48時間以内に議会への報告の義務を負うと言う法律である。
そしてワシントン時間で午前7時、大統領たる彼はまさにそのための必要書類に徹夜で目を通していた所だった。
「・・・そうか、本国(ここ)に来るか」
「はい、第7艦隊のスピルアース中将からの緊急通信です」
そんな彼の下に届いた報告は、極めて景気の悪い物だった。
篠ノ之束の逆襲により第7艦隊を含む国連軍は半壊、しかも5000機の無人機が世界各国の主要都市を目指して侵攻中だと言う。
しかも大統領がそれこそ徹夜で苦心して手を回し、さらなる援軍として呼び寄せた韓国海軍第7機動戦団やASEAN艦隊、湾岸協力会議諸国艦隊などがその報告を聞き、本国へと撤退を始めたのだと言う。
この場合、撤退する側の心理は2種類ある。
1つは単純に、篠ノ之束に対する恐怖心である。
そしてもう1つはより根源的な問題で、自分達の本国・・・すなわち故郷を、同胞を、家族を無人機から守らなければと言う心理に基づく撤退である。
それは人間として非常に理解しやすく、また共感しやすい話ではあった。
「アメリカ合衆国市民を代表する大統領として、陸・海・空・海兵及び宇宙の5軍に命令する」
そして彼は決断する、決断するために国民に選ばれたと言う自負が彼を支えていた。
彼を支える補佐官―――大学時代からの親友―――もまた、大統領の言葉に頷く。
軍の報告によれば、アメリカ本土に向けて侵攻中の無人機の目標はワシントン、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス・・・。
「国際テロリスト「タバネ・シノノノ」の侵略行為に対し、我が国は断固として抵抗する。降伏はしない、各州兵は所定の計画に基づいて市民を対ISシェルターに避難させろ。また同盟国に駐留している軍はただちに同盟国・友好国防衛のために出動することを、アメリカ合衆国大統領として命令する!」
「わかりました、議員達には私が伝えて参ります」
「任せる、私はペンタゴンに行って指揮を取る・・・・・・ああ、それと」
執務室から出て行きかけた補佐官を呼びとめて、大統領は厳しい表情で続ける。
「ホワイトハウスの予備のフットボールを、キミの側に置いておく。私に万が一のことがあった場合は、副大統領と協議してキミの判断で使え」
「・・・・・・日本政府への通達は?」
「する必要があるのか?」
緊張の度合いを増した補佐官にそう言葉を叩き付けた後、彼は机の引き出しを開けた。
そこにあった妻と娘の写真を数秒だけ眺めた後、彼は護衛の将校を呼んだ。
◆ ◆ ◆
Side 篠ノ之 楓
パパとママがもういない、ママのべっこう飴を舐めることがもうできない。
それだけでもショックなのに、目の前ではもっと酷いことが起こってる。
眼下の海は、夜で暗いはずなのに・・・煌々と明るい。
火の海だ、ううん、海だけじゃない。
私の『黒叡(こくえい)』には、今や世界中の情報が集約されつつある。
そこには、いろいろなことが移ってる。
無人機の派遣と言うハード面での脅威だけじゃなく、ハッキングとクラッキングによるライフラインの停止を始めとする社会機能の麻痺と言うソフト面の脅威が世界中を襲ってる・・・。
「何で・・・束お姉ちゃん、何で?」
そしてそれをやっているのが、大好きな束お姉ちゃんだって言う事実を認めたくなかった。
でも、それは確かな事実でしか無くて。
こんな現実を否定したくて、馬鹿みたいに震えながら聞く。
考えることを放棄すると言う、技術者(エンジニア)として致命的な行為を黙認する。
そして返って来た答えは、最悪を極めていた。
「ん? こうした方が面白いかなって思って」
面白そうだから。
こうした方が面白そうだからやるんだと、束お姉ちゃんは言った。
正直、意味がわからなかった。
「この世界は本当につまらない所だと産まれた時から思ってたけど・・・アレだね、壊す時くらいは面白いかなぁと思ったんだけど、でもやっぱりつまんないね、何も感じないや」
何も、感じない?
これだけのことを、しておいて?
束お姉ちゃんが私や箒姉さん、一夏さん以外の人に冷酷なまでに冷たいのは知ってた。
でも、これじゃ・・・これじゃ、冷たいとか、それ以前に。
「束・・・お前は、狂っている」
「ふん? そうかもしれないねぇ、だけど国際IS委員会みたいなゴミを生み出すような世界が狂っていないとも、束さんは思わないけどね」
千冬姉様の絞り出すような声に、束お姉ちゃんは苦笑しながら応じる。
「大体、お姉ちゃんだって別に壊すつもりはなかったんだよ? でも束さんにちょっかいをかけて来たなら、お仕置きしてあげなくちゃいけないじゃない・・・その結果、死んじゃうなら、それはもうその人間の無能さを恨んでもらうしかないねぇ」
束お姉ちゃんは、優しい人。
こんなことをする人じゃ無い、違うはず、なのに。
どうして、こんな。
その時、不意に私の傍を物凄い勢いで赤い何かが駆けて行った。
それは赤黒い装甲に紅蓮の炎を纏ったISで、その両手に赤い戟を持っていた。
数瞬後、鈴さんが猛然と束お姉ちゃんに攻撃を加える姿がそこにあった。
Side 凰 鈴音
判断は一瞬、でも私だけの判断じゃ無い。
篠ノ之博士が無人機を「私達の」国に派遣した段階で、私達は篠ノ之博士を攻撃することを決めていた。
ここで言う私達って言うのは、もちろん私と『甲龍(シェンロン)』と言う意味も含まれてるわ。
もう一つの意味は、文字通りの意味よ。
私、ラウラ、セシリア、そしてシャルロットの4人。
さっき、ワトソン代表が一瞬でやられたのは見た。
勝率なんてコンマ数%も無い、だけどそんな可能性の話を議論してる場合じゃない。
北京、ベルリン、ロンドン、パリ・・・私達の故郷を、やらせるわけにはいかない!
「いぃやああああああああああぁぁぁっっ!!」
相手が楓と箒のお姉さんだなんて考えない、全ての条件を頭の中から消して行動する。
瞬間的になら、私にもそれが出来る。
両手に構えた方天戟(ほうてんげき)・『燭陰(ショクイン)』を突き出して―――くーとの戦いで壊れたから、実は強度はそこまでじゃない―――、篠ノ之博士に突貫する。
戟の刃先にナノマシンの生み出す炎を纏わせて、攻撃する。
パンッ。
・・・ッ!?
何が起こったのか、一瞬、わからなかった。
ただ現実に起こっていることを告げるなら、戟が篠ノ之博士に届きかけた次の瞬間にあっけなく砕け散ったってことだけ。
戟の破片が視界を散る中、篠ノ之博士が初めて私のことを見た。
「・・・っ」
息を飲む、そこには何も映って無かった。
私も『甲龍(シェンロン)』もその瞳には映って無くて、ただ・・・何かを見下されているのはわかった。
その雰囲気に飲まれて、私は・・・。
「鈴!!」
シャルロットの言葉に、はっとする。
次の一瞬には画面に「使用許諾(アンロック)」の文字があって、目の前にフランス製軽機関散弾銃『Gloutonnerie』が展開されていたのを掴んだ。
軽機関銃ベースの特殊な散弾銃で、私はその引き金を迷わずに引いた。
すると、私の目前まで迫っていた「何か」を弾き飛ばすような音が響いた。
さらに次の瞬間には、見覚えのあるワイヤーブレードが私の身体に巻き付いて後ろに引っ張ってくれた。
何かから逃れるように引っ張られて、ラウラの位置にまで下がる。
シュルッ、と残り少ないワイヤーブレードを巻き戻しながら、ラウラが私を軽く睨む。
「迂闊だぞ、安易に突っ込むな」
「ごめん、助かった・・・シャルロットもありがと」
「ううん、良いよ」
「それにしても、今、何か・・・・・・何よ、アレ」
ラウラとシャルロットにお礼を言った後・・・顔を上げて絶句した。
そこには篠ノ之博士がいるわけなんだけど、さっきまで無かった、ううん、「見えてなかった」何かが蠢いているのが見えた。
アレは・・・「腕」?
Side セシリア・オルコット
実の所、ティアーズを満足に展開できない程に『ブルー・ティアーズ』は消耗しております。
しかしだからと言って、故郷がやられるのをのうのうと見ているわけには参りませんわ。
だからこそ2丁のハンドガン『エインセル』を連結してライフル・モードとし、遠距離から鈴さん達を支援する予定だったのですが・・・。
「アレは・・・何ですの?」
スコープ状態の画面を見つめていると、それが目に入りました。
それは篠ノ之博士の周囲に浮かんでいる物で、それは無数の「腕」の生えた亀のような形をした・・・何と言えば良いのか、私にはわかりかねますが。
ただ強いて言えば、あの「腕」はアメリカの『アラクネ』の多脚装甲のような印象を受けますわね。
全長で50メートル前後でしょうか、高低差は20m程度、溶接の跡など見えない滑らかな表面が眼下の炎の明かりを反射して鈍く輝いています。
「腕」の数は12本、本体部分の前後と真ん中にそれぞれ配置されていて、それぞれに独立したPICの範囲を持っているようです。
今の今まで見えませんでしたが、ずっと潜伏(ステルス)状態だったのかそれとも量子化を解いたのか・・・いずれにしても、アレがおそらくはワトソン代表を撃墜した原因だと思いますわ。
「・・・な!?」
不意に、背中の部分に降り立った篠ノ之博士の姿が消えましたわ。
いきなり消えたと言うわけでは無く、まるで溶けるように、水の中に沈むかのように中に消えたのです。
ゆ、融合・・・いえ、一体化?
「あ、アレは何ですの? 何かのパッケージでしょうか?」
しかし、あのような巨大なパッケージなど見たことがありませんわ。
と言うよりも、そもそもアレは装備などと言う範疇に入れても良いのでしょうか?
そんな風に目先のことに動揺していたのが、不味かったのかもしれません。
「腕」の2本が蛇のように鎌首をもたげたかと思うと、その先が巨大な砲口に変化しました。
「「「セシリア!!」」」
鈴さん達から注意が飛んだ時にはすでに遅く、漆黒のエネルギー砲が放たれます。
それは真っ直ぐに私を狙って飛び、私は防御することもできずに飲み込まれ・・・!
「おおっとぉ!!」
・・・飲み込まれそうになった時、どこか『ティアーズ』に似た、しかし明らかに異なる形状のISが私の前に割り込んでまいりました。
その機体は7つのビットを複雑に組み合わせたエネルギー・シールドを展開させると、それで篠ノ之博士の攻撃を防ごうとします。
それは功を奏して・・・完全では無いにしても砲撃を留め、私を抱えて射線から出ることに成功しましたわ。
その次の瞬間には、7つのビットは粉々に破壊されて消えてしまいましたが・・・。
「ちっ、試作だったから強度がイマイチ・・・おう、イギリスの嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「あ、貴女は・・・豪州の」
私を小脇に抱えるようにして、ニカッと太陽のような笑みを浮かべていたのは。
豪州代表、アイシャ・ブライト空軍中佐でした。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
篠ノ之博士の―――物と思われる―――砲撃からセシリアを守ったのは、豪州代表だった。
おそらくは切り札だろう武装を破壊されたようだが、それでも飄々とした雰囲気は変わらない。
勝算でもあるのか、それとも動揺を表に見せていないのか・・・。
「下がっていなさい、欧州の代表候補生」
「・・・!」
「あ、貴女は・・・アーノルド代表!」
シャルロットの呼んだ通り、私達の前にはもう1人の豪州代表がいる。
ソフィー・アーノルド豪州代表、モンド・グロッソ出場経験こそない物のアジア太平洋で最強のIS操縦者の1人だろう。
詳細(スペック)は不明だが、搭乗している『ヴィクトリア』は航空戦に強い機体と聞く。
「いよーうチフユ、助けに来たぜ!」
「いらん、帰れ」
「・・・・・・ソフィ~」
「私に泣き付かれても・・・」
教官ににべも無く拒絶されたからか、アイシャ代表は半泣き状態でソフィー代表に助けを求めていた。
しかしどうやら帰るつもりは無いようで、アイシャ代表はセシリアを離して前に出た。
ゴキゴキと拳を鳴らしながら、教官の前にまで進む。
「んで、アレをヤるにはどうすれば良いんだ?」
「正直に言ってわからん、私も初めて見る。と言うよりアイシャ、本当に帰れ、邪魔だ」
「嫌だね、何で軍人の私が民間人の言うことを聞かなくちゃいけないんだ?」
「・・・」
「・・・ありがとよ、心配してくれてよ。でもなチフユ、仲間(ジーナ)ぁヤられて何の行動も起こせないような奴は、私のダチには・・・」
じゃきんっ、と古来のランスを思わせる突撃槍を手に持って、アイシャ代表が叫ぶ。
「いねぇん・・・だ、よぉっ!!」
刹那、篠ノ之博士の真下から極太の砲撃が放たれた。
それは的確に篠ノ之博士の籠った謎の物体の腹の部分に直撃―――これは、我がドイツの誇る『ディッケ・マレーネ』―――したが、やはり防がれる。
何らかのシールドを張られて、極太のレーザーのエネルギーが完全に霧散して消えてしまう。
しかしそれは織り込み済みだったようで、今度は上空から機銃の雨が振って来た。
複数の機銃から放たれたそれは、2手に別れて篠ノ之博士に上空から攻撃を加えるフランスの『リヴァイヴ』隊だった。
上から下へ、右から左へ・・・というように、連携して無数の実弾を放ち続ける。
「・・・ルナ!?」
どうやら『リヴァイヴ』隊の中に、シャルロットの知人がいたらしい。
良く見れば確かに、『リヴァイヴ』隊の最後尾に見覚えのある顔がいる。
確かルナ・デュノア・・・シャルロットの腹違いの姉妹だったか。
篠ノ之博士の「腕」のいくつかが、その『リヴァイヴ』隊の方へ向かう。
しかし下からのレーザーはシールドで防がれたが、上からの実弾射撃はダメージを通せなかったとは言え装甲表面を打って見せた。
そしてアイシャ代表とソフィー代表は、それを見逃さなかった―――――。
「突撃槍・・・『ユニコール』ッ!!」
「大鉄槌、『エアーズロック』!」
アイシャ代表が大きな突撃槍で、そしてソフィー代表が巨大なハンマーでそれぞれ篠ノ之博士の機体に近接攻撃を仕掛ける。
おそらくは最大の一撃、それが篠ノ之博士の機体の無防備な上体部に直撃する。
そして・・・。
Side 篠ノ之 箒
全ては、一瞬の変化だった。
あの人がこもったそれは、まず全体を覆う巨大な円形のシールドを張った。
アイシャ代表とソフィー代表はその防御を抜けずに弾き飛ばされ、次いで継ぎ目一つ無かった機体表面の装甲が開かれ、無数のミサイルポッドが出現した。
そこから放たれたミサイルは200発以上、しかも自分で張っているフィールドを解くこと無く擦り抜けるかのように外へと放たれていく。
防御を解除すること無く、攻撃に転じたのだ。
そのミサイルの群れは上空に『リヴァイヴ』隊に襲いかかり、さらに12本の「腕」は再び砲塔の形になって真下へと一斉に極太のレーザー(しかもBTレーザー)を撃ち放った。
それは、再び下から放たれた極太のレーザーを霧散させて海面を撃ち、爆ぜさせた。
「な・・・何なんだ、アレは!?」
ジーナ代表とは異なり、はっきりと目に見えているからだろう。
下の人達はわからないが、アイシャ代表達は何とか反撃を回避したし、『リヴァイヴ』隊は互いの死角を補い合うような形でミサイルを落とした。
だがそれでも、12本の「腕」から断続的に放たれ続ける極太のBTレーザーが周囲を薙ぎ払い続ける。
私・・・厳密には、私と一夏、千冬さんと楓の方には来ない。
だが代表達や鈴達の方には、怒涛の如く攻撃が行われている。
『あっはははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!』
拡声器越しのあの人の笑い声が、周囲に響き渡る。
それが嫌に勘に触る、あの人は遊びのつもりなのかもしれないが。
・・・止める、何が何でも止める、そして殴る、じゃないと気が済まない!
「楓! アレは何だ!?」
「あ、えと、あ、ISアーマー・・・的な物だと思う! パッケージの超ゴツい奴って言うか・・・IS専用の巨大な補助兵装って方が良いのかな・・・」
「補助兵装?」
私の言葉に再起動、楓がディスプレイを広げながらそう分析してくれる。
攻撃を受けていないから、それだけ余裕があると言うことだろう。
「ええと、ISがISコアで動いているように、アレはたぶんISその物をコアとして動くんだと思う。本当にISを強化するためのアーマーって感じ。ぱっと調べた感じの装備は大口径BTレーザー砲12門、12連装ミサイルポッド24門・・・と言うか、コレ」
「何だ?」
「反応からして・・・ISコアが、12個ついてる気が」
『ふふふふふ~、よくぞ見破ったぁ~』
突如響いた声に、楓がびくりと肩を震わせた。
『たぁしかに! この『黄泉津大神(イザナミ)』専用ISアーマー『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』には固有のISコアが11個、<女王(くーちゃん)>を含めて12個のコアが装備されていまーす! つまり出力は普通のISに比べて単純計算でどどどどんっ、12倍!!』
口調はふざけているが、やっていることはとんでも無い。
私と楓が・・・と言うか、その場にいる人間が表情を引き攣らせていると、不意にあの人の機体の表面には24個の炎が灯った。
おそらくはナノマシンの炎なのだろうが、それぞれに色が違う。
『それでは、ゲームのルールを説明します』
「ゲーム、だと?」
『このナノマシンの炎は1分で1つ消えます。つまり全部消えるまでに何分かかるのかな、いっくん?』
「え、俺? えーと、24個で1分ずつなんだから、24分?」
ピンポーンっと言う軽やかな音を立てて12本のBTレーザーが「腕」から放たれた。
正直、それで死にかけている人間がいるので全く軽やかでは無い。
『24分以内に『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』を無力化できなかったら、さっき派遣した5000機の無人機で無差別に各都市のライフラインを寸断させまーす』
「「「「「なっ!?」」」」」
「な、何で・・・そんなことするの、束お姉ちゃん!?」
『へぅ? だってその方が緊張感あって楓ちゃん達が楽しめるかと思って』
緊張感があって、楽しめるかと思って。
何だそれは、冗談にしては最悪だし、本気だとすればもっと最悪だ。
「ちぃっ・・・おいチフユ、何か無いか? 私は軍人だから民間人の希望を聞いといてやるぞ!」
「さっきと主張がまるで違うな・・・・・・方法は無いでもないが、そのためには束に隙を作る必要がある」
「マジか、他の奴は無人機の対応で手一杯だからなぁ・・・」
そう言って、千冬さんは私と一夏をそれぞれ見た。
いや、より正確には私の緋宵(あけよい)と一夏の『雪片(ゆきひら)』を。
だが、あの人に隙などあるのか?
油断ならいくらでもあるが、それでも隙にならないのがあの人だ。
『別に隙を作るのは構いませんけど・・・倒してしまっても、良いわよね?』
次の瞬間、上空から白銀色に輝く羽根と48発の高性能ミサイルが『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』に降り注いだ。
Side 更識 楯無
ファイルス代表と簪ちゃんを引き攣れて、颯爽と登場。
正直に言って、他の無人機を無視してでも戦力を集中する価値がここにはある。
まぁ、そもそも無人機の軍勢に対抗できる程の戦力が国連軍にはもう無いんだけどね・・・!
「お久しぶりです、織斑先生。良いお店をご存知でしたね」
「飲酒は成年してからにしておけよ、更識姉」
「あら、これでも一族の長なんですけど?」
「それでもだ」
織斑先生と再会の言葉を交わして、戦場に降り立つ。
先生の生存・・・あと、エムと言う『亡国機業(ファントムタスク)』の生き残りの生存を、私はずっと以前から知っていた。
十蔵さん経由で、あるバーのマスターを介して。
それでもやはり、こうして紅桜色のISを纏う織斑先生を見ていると壮観ね。
そこにいるだけで、存在感が半端無いもの。
「楓!」
「簪ちゃん・・・っ」
私が織斑先生と再会の言葉を交わしていると、簪ちゃんは楓ちゃんの方に行っちゃったわ。
お姉ちゃん的には、ちょっと残念。
でも可愛い子2人が手を合わせているのは、見ていてとても微笑ましい。
『あら、貴方達は確か・・・去年の夏に会ったわね』
「うお、『
「お、お久しぶりです」
そして一方では一夏くん達が、ファイルス代表と複雑な表情で再会を祝していたわ。
「まぁ・・・それでは」
「そうだね」
頷き合って、篠ノ之博士の操るISアーマー『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』とやらを見つめる。
普通のISの攻撃では、ほとんど効果は無いと思う。
と言うか、何て第2形態よねアレ。
だけど例外が、少なくとも2つある。
「全員、良く聞け!!」
織斑先生が、この場の全員に聞こえるように声を張り上げた。
「あの状態の束には、通常の攻撃は一切、効果が無い! 私が太鼓判を押してやる!」
『いやぁ、照れるなぁ~』
「死ね! ・・・しかしだ、束に唯二、ダメージを通し得る武装がこちらにはある!」
そう、唯一では無く唯二。
私と織斑先生は、それを良く知っているわ。
更識と、織斑と・・・篠ノ之。
「一夏! お前は『雪片(ゆきひら)』で束のエネルギー・シールドを切り開け! そして篠ノ之妹、緋宵(あけよい)は持ってきているな!?」
「お、俺!?」
「は、はいっ!」
「良し! ではその刀で一夏の開けた穴から攻撃しろ! 心配しなくてもあの馬鹿は刺したぐらいでは死なん、思いっきり殺れ!!」
『ちーちゃん酷くない!?』
どうでも良いけど、博士の反応が場のシリアス感を凄まじく阻害するんだけど。
「他の奴は、エネルギーの限りひたすらに大技を叩き込め・・・一夏と篠ノ之姉が飛び込む隙は、更識姉が作る!!」
それでも指名されれば、水のナノマシンが渦巻くランスを構えて気を引き締める。
正直、あの技は使う私も物凄く痛いから使いたくないんだけど・・・仕方無いわね。
だけど小型気化爆弾四個分なんて威力の攻撃は、単体では私しか放てない。
・・・痛いのは、嫌だけれど。
それだけの価値はあると信じて、やるしかないか。
簪ちゃんの見ている前で、無様な姿は見せられないものね。
「全員・・・かかれ!」
織斑先生の声と共に、全員が動く。
自然、『ブリュンヒルデ』が指揮を執る形になる。
まず『
白銀の羽根は『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』の装甲に当たる直前で爆発し、白煙で覆い尽くす。
そこへ、無数のオレンジ色の実弾が叩き込まれる。
それは高高度からの『リヴァイヴ』隊の急降下射撃と、アイシャ代表の毎分2500発の46mm回転式機関銃『デザート・ストーム』、及びシャルロットちゃんの5連装e.h.オチキス社製『オチキス57mm回転砲』による斉射。
金属が弾き飛ばされるような音が数千発分聞こえる所を見ると、シールドは突破できていないようね。
それからラウラちゃんのカノン砲、鈴ちゃんの『衝撃砲』、セシリアちゃんとソフィー代表のそれぞれの狙撃、これだけのISの一斉攻撃は流石に見応えがあるわね・・・。
「・・・『ミステリアス・レイディ』、アクア・クリスタル解放」
代表と代表候補生が篠ノ之博士を集中攻撃している間に、私も準備をする。
この『ミステリアス・レイディ』最大最強の一撃、それも一発限り。
だけどその威力は、小型気化爆弾四個分にも相当する。
水のランスを構えて、全てのアクア・ナノマシンをその槍先に集中する。
防御力が失われて、全てのエネルギーを攻撃力へと変換する。
攻性精製されたナノマシンは、一点に圧縮されながらも静かにそこに存在している。
・・・篠ノ之博士は、不気味なまでに何もしてこない。
代表達の攻撃にただ耐えて・・・今、48発の簪ちゃんのミサイルが機体の上下左右のあらゆる箇所に直撃した所で。
「―――――攻性ナノマシン、全開放!」
皆が篠ノ之博士から距離を取る、爆煙に巻かれた篠ノ之博士から距離を取る。
それに不信を感じながらも、私は力を蓄え渦を巻き始めたナノマシンのエネルギーを正面へと向けた。
そして―――――。
―――――『ミストルティンの槍』、発動―――――!!
直後、技の反動で機体防御力の全てを失ってしまう私。
この技は、私も自身を守れない程に強力で危険な技。
眩い閃光があたりを包み、凄まじい爆発が周辺を吹き飛ばす。
・・・・・・はず、だった。
「・・・え?」
我ながら間抜けな声を上げる、それもそのはずで・・・攻性ナノマシンによる爆発が、起こらなかったから。
ナノマシンは放たれたし、閃光も起こった。
だけど、爆発はしなかった。
一瞬、意味がわからなかった。
皆も、何が起こったのかわかっていない顔をしていた。
『何をするかと思えば・・・そんなことか』
響くのは天才の声、私の切り札を「そんなこと」と切り捨てられる。
そして、不発とは言え攻撃に全てのナノマシンを使ってしまった私は。
「・・・っ」
息を飲んだ次の瞬間、回避も防御も出来ずに。
誰も、反応することすらできずに。
―――――無数の見えない剣に、貫かれた。
Side 更識 簪
楯無姉さんは、私には無い物をたくさん持っていて。
綺麗で優しくて、おふざけが過ぎる時があるけど私達の中心で。
そんな楯無姉さんが、私は自慢だった。
でもその楯無姉さんは、見えない剣で貫かれてる。
その剣は迷彩でもかかっているのか、見えないけれど・・・ソードビットのようにも見えた。
楯無姉さんの背中から突き出した部分が、真紅の色に染まっていたから。
保護機能が働いたのか、ズル・・・と引き抜かれた傷口が急激に閉じる。
それに比例して装甲が消えて、姉さんは。
「ひ・・・うぁああああああああああああああああああああああっ!?」
『山嵐(やまあらし)』の照準作業を捨てて、飛び出す。
一気に音速を超えて、空気を切る音が耳をつんざくように響く。
自分の持ち場と役目を全部捨てて、更識らしくも無く取り乱す。
敵も味方もわけがわからなくなって、私は夢中で楯無姉さんの身体を抱き抱えた。
「お姉ちゃん・・・お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!」
耳元で叫ぶと、楯無姉さんはうっすらとだけど目を開けた。
額を切られたのか、頬に血を滴らせながら・・・それでも、私を見て微笑んでくれた。
今までに見たことが無いくらい、弱々しい微笑みだった。
「お姉ちゃん、しっかりして!」
「・・・じょぶ、よ・・・『ミステリアス・・・守っ・・・」
掠れるような声に、私はまた泣きそうになる。
傷口はISが塞いでくれてるかもしれない、でもそれでも重傷には違いなかった。
ぬるりとした手の感触が、私の心を嫌でも波打たせる。
「・・・ちゃ・・・戦・・・」
「お姉ちゃん? お姉ちゃん! ダメ、目、閉じちゃだめえええええええええぇっ!!」
「避・・・・・・」
ISの保護機能、操縦者の生命を守るために意識を刈り取る。
でもそれが最悪のイメージに繋がってしまって、私は泣き叫ぶ。
ここが、戦場だってことを忘れて。
<警告、飛翔体多数接近>
だから、お姉ちゃんを貫いたソード・ビットが今度は私に迫ってることに気付けなかった。
腕の中の楯無姉さんばかり見ていた私は、『打鉄弐式(うちがねにしき)』の警告にも反応できなくて。
だから。
「・・・っ!?」
私の前で両腕を広げて庇ってくれた小さな背中に、楓の小さな背中にも直前まで気付けなかった。
楓が、私を庇ってくれて。
私はまた、悲鳴を上げそうになった。
Side 篠ノ之 束
およよ? 楓ちゃんの様子が・・・BボタンBボタンっと。
束さんは腕を組んで仁王立ちして、『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』の360度スクリーンをじーっと見てる。
実は基本的に<女王(くーちゃん)>が操作してるから、束さん自身は暇だったりするんだよね、割と。
「あっぶねー、楓ちゃんに当たる所だったよ、くーちゃん」
<申し訳ありません、途中で割り込まれてまして・・・>
まぁ、今は楓ちゃんだよね、遊びが過ぎて怪我させちゃう所だったよ。
『黄泉津大神(イザナミ)』の固有兵装(ソード・ビット)『黄泉醜女(よもつしこめ)』の群れが、両腕を広げてる楓ちゃんの直前で停止していた。
まったく、危ないなぁ楓ちゃんは、急に飛び出しちゃダメだよ?
これは後でお説教が必要だよね、漢字の書き取りだけじゃなく算数ドリルも追加だよ。
『やめてよ・・・』
「お?」
不意に楓ちゃんの声が聞こえて、首を傾げる。
やめる? 何を?
『束お姉ちゃん、こんなの・・・おかしいよ、絶対、おかしいよぉ・・・』
楓ちゃんが、泣いてる。
可愛い顔を涙でグシャグシャにして、楓ちゃんが泣いてる。
そのことに、束さんはとても悲しくなる、悔しくなる、面白くなくなる。
だって、楓ちゃんが喜んでくれていないから。
泣いてるから。
誰? 束さんの可愛い妹を泣かせたのは・・・そんなこと、許さないんだから。
束さんの妹は、いつも楽しそうに笑ってるのに。
『こんなの嫌だよ、もうやめてよ・・・』
「楓ちゃん・・・」
そっか・・・・・・嫌、なんだ。
楓ちゃんは、こういうの嫌なんだ、そっか・・・。
しょぼん、と落ち込んじゃう、これじゃお姉ちゃん失格だよね。
妹を楽しませれないなんて、お姉ちゃんとしてダメだよね。
そっか、それじゃあ仕方が無いよね。
じゃあ・・・。
「もっと、楽しくしてあげるね♪」
『え・・・?』
ヴン・・・っとディスプレイを広げて、ニコニコと笑う。
そっか、楽しく無いかぁ・・・じゃあ、楽しくしてあげれば良いんだよ。
人生に必要なのはポジティブシンキング、大丈夫、束お姉ちゃんに任せて任せて!
束お姉ちゃんが楽しくしてあげる、楓ちゃんの人生に彩りを加えてあげる。
「うふふ、何と言っても束お姉ちゃんはね、まだ第3形態を残しるんだからっ。そっちはきっと面白いから、とりあえず楓ちゃんそこどいてくれる? そのゴミが掃除できな」
『ふざけるなっ!!』
「おおっ、この声は!?」
束さんがノリノリで顔を上げると、2本の刀が楓ちゃんの前に停止していた『黄泉醜女(よもつしこめ)』を斬り裂いた。
上から振り下ろされたそれは『雨月(あまづき)』と『空裂(からわれ)』、つまり。
「箒ちゃんだ~~~♪」
テンションが上がる束さん、でも箒姉ちゃんは相変わらずのクールだった。
と言うよりも、いつも通り怒ってるみたいだった。
むぅ、相変わらず怒りんぼさんだなぁ。
『どうして・・・』
「ん?」
『どうしてわからないんだ、楓がなぜ泣いているのか』
・・・どうして?
首を傾げた束さんが見えたわけじゃないだろうけど、箒ちゃんは刀を私に向けた。
その姿は凛々しくて、束さんのお腹の奥がきゅんとした。
『その性根・・・私が』
箒ちゃんは、カッコ良く宣言した。
『私が、叩き直してやるっ!!』
昔から変わらないその真っ直ぐな瞳に、束さんは笑顔になる。
大好きだよ、箒ちゃん、楓ちゃん。
今、お姉ちゃんが○○○○あげるからね―――――。
シャルロットのガンコレクション案:
軽機関散弾銃『Gloutonnerie』:辺鋭一様提案。
オチキス57mm回転砲:伸様提案。
ありがとうございます。
篠ノ之 束:
はーいっ、皆のアイドル、束さんだよぉー?
今日は皆に、束さんのISについて説明しちゃうよ!
一回で覚えてね、じゃないとキミの家のパソコンにウイルス流しちゃうぞ♪
『黄泉津大神(イザナミ)』:
束さんのISだよ、詳細はまだ未出だね、でも<女王>付きの束さん専用機だから、もう、凄いよ?
まだ第3形態を隠してあるんだよ! 楽しみにしててね。
・『黄泉醜女(よもつしこめ)』
イザナミの固有兵装、光学迷彩付与のソード・ビットだね。
ISのセンサーにも映らない優れ物、だから避けられる人はたぶんいないよねー、ちーちゃんは避けそうだけど。
・『市杵嶋姫命(イツキシマヒメ)』
イザナミ専用のISアーマーだよ、コアの数は12、普通のISの十数倍の出力が出せる優れ物、えげつない武装をこれでもかと積み込んで見たよ。
他にも一杯あるけど、今はまだ内緒だよっ。
ちなみに『大綿津見神(おおわたつみ)』は束さんの移動型ラボで、『大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)』は宇宙用の移動型ラボだよ。
それじゃあ今日はここまで、覚えられたかな? 束さんは優秀な子が大好きです。
次回も、束さんが最高のくぅーるをお見せしちゃうよっ、ちぇきらっ♪